(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ヘマタイト顔料を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
C01G 49/06 20060101AFI20221206BHJP
C09C 1/24 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C01G49/06 A
C09C1/24
(21)【出願番号】P 2021541640
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(86)【国際出願番号】 EP2020050844
(87)【国際公開番号】W WO2020148302
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2021-07-19
(32)【優先日】2019-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505422707
【氏名又は名称】ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ラリッサ・シャウフラー
(72)【発明者】
【氏名】アンナ・ヴェーバー-チャプリック
(72)【発明者】
【氏名】カルステン・ローゼンハーン
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーネ・カトライン
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-256022(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102976413(CN,A)
【文献】特表2014-527951(JP,A)
【文献】特表2016-539071(JP,A)
【文献】特表2017-533290(JP,A)
【文献】特表2019-509247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/06
C09C 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料のシードの存在下で硫酸鉄を酸素と反応させることによる、DIN EN ISO 787-25:2007に従ってアルキド樹脂中で原色として測定して、20CIELAB単位より
大のa
*値を有するヘマタイト顔料を製造するためのプロセスであって、
a)以下:
i)FeOOH及びFe
2O
3からなる群より選択される少なくとも1種の顔料シード、及び
ii)硫酸鉄
を含む水で、初期仕込み物を形成させること、
b)少なくとも1種のアルカリ土類金属炭酸
塩又はそれらの混合物、及び
c)酸素含有ガス
を前記初期仕込み物に添加すること、並びに
前記プロセスで使用される硫酸鉄の全量の少なくとも95重量%が、成分b)及びc)を添加する前の、前記初期仕込み物a)中に存在すること
を特徴とする、プロセス。
【請求項2】
前記成分b)を添加する前の、前記初期仕込み物中の前記硫酸鉄の含量が、20~200g/Lであることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記成分b)を添加する前の、前記初期仕込み物中のFeOOH及び/又はFe
2O
3シードの含量が、1~20g/Lであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
成分b)を、前記初期仕込み物に、75~100℃の温度で添加することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
成分b)を、前記初期仕込み物に、水性懸濁液の形
態で添加することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記初期仕込み物中の前記顔料のシードが
、それぞれDIN 66131に従って測定して、130~200m
2/gのBET表面積を有す
るFeOOH、又は40~200m
2/gのBET表面積を有するFe
2O
3であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記顔料のシードの粒子サイズが、100nm以下であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
得られるヘマタイト顔料が、ヘマタイト顔料を基準にして、95重量%より
大の酸化鉄含量(Fe
2O
3)を有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘマタイト顔料を製造するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘマタイト顔料の製造は、すでに十分に公知である。たとえば、(特許文献1)に記載されている改良型ペンニマンプロセスは、細かく粉砕されたヘマタイトのシード、鉄、及び鉄の塩、好ましくは硝酸鉄から出発している。
【0003】
シードの合成は、たとえば(特許文献2)(=(特許文献3))に見出すことができ、硫酸鉄と、沈殿剤としてのNaOHとから出発している。
【0004】
より好適な出発物質、たとえば硫酸鉄は、特には、たとえば酸化チタンの製造において得られる。したがって、硫酸鉄を使用する酸化鉄については、すでに記述されたものが存在する。たとえば、(特許文献4)及び(特許文献5)には、それぞれ、慣用されているFeOOHシードから出発し、それに対して硫酸鉄及びCaCO3を同時添加することにより進行するプロセスが開示されている。しかし、この手順の欠点は、それを用いても、限定された濃度でしか、良好な赤色顔料が製造できないところにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/045608号パンフレット
【文献】独国特許第4235944号明細書
【文献】米国特許第5421878号明細書
【文献】中国特許第102976413号明細書
【文献】中国特許第101844815号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明が取り組んだ課題は、酸化鉄顔料、特には、改良された赤の色合いを有する酸化鉄顔料を製造するための、改良されたプロセスを提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明は、顔料のシードの存在下で硫酸鉄を酸素と反応させることによる、DIN EN ISO 787-25:2007に従ってアルキド樹脂中で原色として測定して、20CIELAB単位より大、特には25CIELAB単位より大のa*値を有するヘマタイト顔料を製造するためのプロセスに関し、
a)以下:
i)FeOOH及びFe2O3からなる群より選択される少なくとも1種の顔料シード、及び
ii)硫酸鉄
を含む水で、初期仕込み物を形成させること、並びに
b)少なくとも1種のアルカリ土類金属炭酸塩、特にCaCO3、MgCO3、CaMg(CO3)2、又はそれらの混合物、及び
c)酸素含有ガス
をその初期仕込み物に添加すること、
ここで、このプロセスで使用される硫酸鉄の全量の少なくとも95重量%が、成分b)及びc)を添加する前の、初期仕込み物a)の中に存在すること
を特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ヘマタイト顔料
CIELAB色座標
赤色酸化鉄顔料(iron oxide red pigments)の色特性を測定するためには、定評のある試験方法が存在し、その方法では、赤色酸化鉄顔料を用いて着色された媒体、たとえばプラスチックの試験片又はペイント系の色を測定する。
【0009】
赤色酸化鉄顔料の色を測定するために確立された標準パラメーターは、CIELAB色空間と呼ばれているパラメーターである。知覚可能なすべての色が、この三次元色空間の中で、L*(明度)、a*(赤-緑値)、及びb*(黄-青値)の座標を有する色座標で規定される。a*値の値が大きいほど、赤色の強度が大きく、b*値の値が大きいほど、黄色の強度が大きい。対照的に、b*値が小さいほど、青色の強度が大きい。これらのパラメーターに加えて、彩度(colour saturation)のCab*(「chroma」、「chromaticity」、又は「colourfulness」とも呼ばれる)が報告されることも多い。この値は、a*及びb*の値から直接導かれ、a*及びb*の二乗和の平方根である。a*、b*、L*、及びCab*の値は無次元数であり、典型的には、「CIELAB単位」と呼ばれている。
【0010】
赤色酸化鉄顔料の測色においては、(DIN EN ISO 11664-4:2011-07及びDIN EN ISO 787-25:2007による)長油のアルキド樹脂中での試験が、ペイント系のために、確立されている。使用することが可能なアルキド樹脂は、以前は、Alkydal L64(Bayer製)であった。現在では、他の類似のアルキド樹脂たとえば、Worlee Chemie GmbH製のWorleekyd P151が使用されている。
【0011】
熱可塑性樹脂の中での相当する測色は、たとえばポリエチレン(高密度ポリエチレン、HDPE)中で、1重量%の顔料濃度で実施される。
【0012】
本発明におけるプロセスで製造されるヘマタイト顔料が、DIN EN ISO 787-25:2007に従い、アルキド樹脂中で測定して、原色として25.5~30CIELAB単位のa*値を有していることが好ましい。
【0013】
同様に、本発明におけるプロセスで製造されるヘマタイト顔料が、DIN EN ISO 787-25:2007に従い、アルキド樹脂中で測定して、原色として30CIELAB単位未満、好ましくは6~29CIELAB単位のb*値を有していることが好ましい。
【0014】
本発明におけるプロセスによって得られるヘマタイト顔料が、その顔料を基準にして、95重量%より大、特には99重量%より大の酸化鉄(Fe2O3)含量を有していることが好ましい。
【0015】
粒子サイズ
本発明におけるプロセスによって得られるヘマタイト顔料が、好ましくは0.05~0.5μm、より好ましくは0.1~0.3μmの平均サイズを有する一次粒子から形成されていることが好ましい。粒子サイズは、たとえば透過型電子顕微鏡(一次粒子)又は走査型電子顕微鏡(固形物)を手段として、確認することができる。
【0016】
組成物
本発明におけるプロセスによって得られるヘマタイト顔料が、同様に本発明により形成されるセッコウ(CaSO4・2H2O)を含む組成物中に存在していることが好ましい。この組成物には、組成物を基準にして、最高で70重量%までのセッコウ(CaSO4・2H2O)、特には1重量%~70重量%のセッコウを含んでいることが好ましい。しかし、後のステップで顔料からセッコウを除去しなければならないので、セッコウ含量を下げることが好ましい。したがって、好ましいのは、その組成物を基準にして、0重量%~50重量%、好ましくは1重量%~30重量%、特には10重量%~30重量%のセッコウ含量を有するヘマタイト顔料含有組成物を得ることである。その組成物が、その組成物を基準にして、5重量%未満、特には1重量%未満の量でしかセッコウを含有しないことが、同様に好ましい。
【0017】
したがって、本発明は、上述のプロセスによって得られる、そのような好ましくは固体の組成物にも関する。その水分は、その組成物を基準にして、2重量%未満であることが好ましい。
【0018】
ステップa)
初期仕込み物は、顔料のシードと硫酸鉄とを単に混合することによって得ることができる。
【0019】
成分i)
使用する好ましい顔料のシードは、FeOOH、特にα-FeOOH(ゲータイトとも呼ばれる)、又はFe2O3(ヘマタイトとも呼ばれる)、又はこれら2つの組合せである。
【0020】
好ましいのは、DIN 66131に従って測定して、40~200m2/gのBET表面積を有する顔料のシードである。FeOOH、特にα-FeOOHの場合、特に好ましいのは、100~200m2/gのBET表面積である。Fe2O3の顔料のシードの場合には、好ましいのは、40~200m2/g、特には40~150m2/gのBET表面積である。
【0021】
従って、本発明におけるプロセスは、初期仕込み物の中の顔料のシードが、FeOOH、特に、それぞれの場合においてDIN 66131に従って測定して、100~200m2/gのBET表面積を有するα-FeOOH又は40~200m2/gのBET表面積を有するFe2O3であることが好ましい。
【0022】
Fe2O3を顔料のシードとして使用することが特に好ましい。これらは、たとえば国際公開第2013/045608号パンフレットの記載に従って製造することができる。100nm以下の粒子サイズと、DIN 66131に従って測定して、特には40m2/g~200m2/g、好ましくは40~150m2/gのBET比表面積とを有する、微粉化されたヘマタイトシードの好適な製造法には、少なくとも以下のステップが含まれる:
a)60~120℃の温度で、金属鉄と水との混合物を備えるステップ、
b)ステップa)からの混合物に対して希硝酸を添加するステップ、
c)微粉化されたヘマタイトの水性懸濁液を、未転化の金属鉄から分離するステップ、
d)場合によっては、抜き出した水性懸濁液から、微粉化されたヘマタイトを単離するステップ。
【0023】
その粒子状物質の90%が、好ましくは100nm以下、より好ましくは30nm~90nmの粒子サイズを有していれば、粒子サイズの基準が満たされていると考えられる。
【0024】
成分b)の添加前、特には、成分b)及びc)の添加前、特に炭酸カルシウムの添加前の、初期仕込み物中の顔料のシードの含量は、(Fe2O3として計算して)好ましくは1~20g/L、特に2~15g/Lである。
【0025】
成分ii)
好ましい硫酸鉄は、硫酸鉄(II)の七水和物、FeSO4・7H2Oである。しかし、本出願の文脈において記述される量は、特に断らない限り、無水のFeSO4に関する量である。
【0026】
成分b)の添加前、特には炭酸カルシウムの添加前の、初期仕込み物の中の硫酸鉄含量は、好ましくは20~200g/L、特には40~150g/Lである。
【0027】
成分b)の添加前、特には成分b)及びc)の添加前の、初期仕込み物a)には、顔料のシード及び硫酸鉄が、好ましくは(0.3:1.6)、特には(0.5:1.1)の(顔料のシード対硫酸鉄)の重量比で含まれる。
【0028】
初期仕込み物a)の中で、製造のために使用する硫酸鉄の全量を、成分b)の添加前、特に成分b)及びc)の添加前に使用することが好ましい。
【0029】
使用する硫酸鉄(好ましくはTiO2の製造由来の硫酸鉄)が、他の成分を、2重量%未満の含量でしか含んでいないことが好ましい。
【0030】
成分b)の添加前、特には成分b)及びc)の添加前に、初期仕込み物を加熱して、75~100℃の温度としておくことが好ましい。
【0031】
ステップb)
使用するアルカリ土類金属炭酸塩は、特には、CaCO3、MgCO3、CaMg(CO3)2、又はそれらの混合物である。より好ましくは、アルカリ土類金属炭酸塩は、炭酸カルシウムの形態で使用するが、一般的には、Mgも含む炭酸カルシウム、たとえばCaMg(CO3)2、特に石灰石又はドロマイト(CaMg(CO3)2)を意味することが理解される。好ましい炭酸カルシウムは、CaCO3である。好ましいアルカリ土類金属炭酸塩、特に炭酸カルシウムは、35~150μmの粒子サイズを有している。アルカリ土類金属炭酸塩、特に炭酸カルシウムは、ステップb)において、好ましくは、初期仕込み物に対して固形物の形態で添加することも可能であるが、水性懸濁液の形態で添加することが好ましい。そのような懸濁液には、炭酸カルシウムが、好ましくは100~400g/L、特には150~300g/Lの量で含まれる。
【0032】
アルカリ土類金属炭酸塩、特に炭酸カルシウムの添加は、特に水性懸濁液への添加は、典型的には、1~30時間の時間をかけて実施される。
【0033】
ステップc)
加えて、酸素含有ガスを、初期仕込み物a)に、好ましくは初期仕込み物中への導入によって添加する。使用する酸素含有ガスは、好ましくは空気である。
【0034】
酸素含有ガスは、初期仕込み物中に、好ましくは成分b)のアルカリ土類金属炭酸塩を添加している間に添加、好ましくは導入するが、その添加を、前もって開始してもよい。
【0035】
溶液中への空気の流量(単位:L/h/mol-Fe)が、5~100L/h/mol-Feであることが好ましい。
【0036】
成分c)の添加が完了したら、その反応混合物を、好ましくは、所定の温度でさらに数時間保持することが好ましい。c)の添加の完了後、さらに0~8時間添加することが好ましい。
【0037】
その他の事項
本プロセスにおいては、元素状の鉄を全く使用しないことが好ましい。硫酸鉄以外の任意の鉄塩を、硫酸鉄を基準にして5重量%未満、特には3重量%未満の量(FeSO4として計算)で、使用することも同様に好ましい。
【0038】
仕上げ作業
反応時間の終了後、好ましくは懸濁液を冷却して室温とし、沈降物を、特に、洗浄水の電気伝導率が好ましくは2200μS未満となるまで洗浄する。次いで、その固形物を一般的には濾別し、オーブン中140℃で乾燥させる。
【0039】
セッコウを除去したいのなら、そのためには、その懸濁液を、好ましくは微細な篩、たとえばメッシュサイズ71μmを有する篩に通して篩別することができる。その後で、そ生成物をさらに、脱イオン水を用いて、特に電気伝導率が2mS/cm未満となるまで、洗浄することもできる。篩の目詰まりを回避する目的で、篩の上の懸濁液を、注意深く、好ましくは柔らかなブラシを用いて動かす。
【実施例】
【0040】
試験方法
原色での色値の試験
原色における色値を、以下で述べる試験用ペーストを使用し、DIN EN ISO 787-25:2007に従って確認した。
【0041】
5gのチキソトロープ化長油アルキド樹脂(WorleeKyd P151)を、240mmのプレート直径を有するプレート型ペイント分散機の下部に適用し、試験用ペーストを用いてそれぞれの赤色酸化鉄顔料を加工して、10%の顔料体積濃度(PVC)を有する着色ペーストを得た。
【0042】
試験用ペーストには、95重量%のアルキド樹脂(Worleekyd P151、Worlee-Chemie GmbH(独国)製)、及びチキソトロープ化剤としての、5重量%のLuvotix HAT(Lehmann&Voss&Co.KG(独国)製)が含まれる。これは、70~75℃に予熱しておいたアルキド樹脂の中にLuvotixを混ぜ込み、それを95℃で、溶解するまで混合することにより実施される。次いで、ペーストを冷却してから、3本ロールでロール掛けして、気泡を追い出す。
【0043】
赤色顔料は、次式に従って計量した:
【数1】
m
P=赤色酸化鉄顔料の質量
PVC=顔料の体積濃度
m
b=バインダーの質量
ρ
p=顔料の密度
ρ
b=バインダーの密度
【0044】
出来上がったペーストをペーストプレートに移し、Datacolor 600色彩計を使用し、d/8°測定方式、D65/10°照明、鏡面反射(DIN 5033 Part7に従ったCIELAB色空間)で、比色定量により分析した。
【0045】
比較実験1(中国特許第102976413号明細書、実施態様1に準拠)
最初に、260gの、105m2/gのBET表面積を有するα-FeOOHシード(比較例1)を、1580gの水と共に反応器に仕込む(中国特許第102976413号明細書には詳細な記載がないため、慣用されている方法で得られる、約100m2/gのオーダーのBET表面積を有するα-FeOOHシードとした)。H2SO4を用いてPhを4.0に調節し、その混合物を加熱して、70~73℃とする。こうして得られた初期仕込み物に、500gのFeSO4(無水硫酸鉄として計算)、11,333gの水、及びさらに90gのシードを添加する。T=75℃の温度に達したら、空気の供給を開始する(50L/h、pH=2.0~2.5)。次いで、合計して2400gの固形物のFeSO4(無水硫酸鉄として計算)及び1573gの固形物のCaCO3を、20時間かけて、均等に添加した。その目的のために、30分ごとに、60gの硫酸鉄(無水硫酸鉄として計算)と39.3gのCaCO3を添加する。空気は、添加の最初の20分間は、約50L/hで供給し、残りの時間では、75L/hで導入した。20時間後に、空気をさらに10分間導入してから、温度を調節して66℃とした。pHを2.8~3.5に維持しながら、766gのFeSO4(上記参照)及び756gのCaCO3(上記参照)を、10時間かけて、均等に添加した。空気は、60L/hの速度で添加した。
【0046】
次いで、その反応混合物を冷却し、得られた固形物を濾別し、その沈降物を脱イオン水を用いて3回洗浄し、140℃で乾燥させる。形成されたセッコウは除去しなかった。得られた顔料の分析値を、表1に示す。
【0047】
本発明実施例
例1
1a)100m2/gのBETを有する黄色のシードの製造
Intermig撹拌機、PT100熱電対の手段による温度測定器、EMF、及びpH測定器、Julabo SLサーモスタットの手段による加熱器、並びにSiemens PCS7プロセス制御システムによる制御系を備えた、ジャケット付き30リットルのガラス製実験室用反応器に、最初に、16,643cm3のFeSO4溶液(c=100g/L)を仕込み、N2を用いて300L/hでスパージし、n=800min-1で撹拌しながら、50分以内に50℃まで加熱した。目標温度に到達したら、窒素スパージを終了し、空気を用い500L/hでスパージし、5.0の目標pHで、温度を一定に維持しながら、2500cm3のNaOH(c=320g/L)の計量添加を開始した。402分の計量添加時間の後、500L/hでの空気下でのさらなる酸化時間を続けた。その後、実験の最後に、FeSO4溶液を使用して目標pHをリセットした。
【0048】
データを解析するために、仕上がったシード懸濁液の1Lを、吸引漏斗(MN 218)上で脱イオン水により、200μS/cm未満となるまで洗浄し、空気循環乾燥キャビネット内で90℃にて一夜かけて乾燥させ、微粉砕してから、2mmの篩を通過させて、分析した。
【0049】
1b)顔料の製造
30リットルの反応器の中で、脱イオン水、硫酸鉄溶液、及び98m2/gのBET表面積を有する、実施例1a)において製造したα-FeOOHシードを組み合わせた。そのようにして得られた懸濁液(17L)は、59.8g/LのFeSO4濃度及び3g/Lのα-FeOOHシード濃度(Fe2O3として計算)を有している。
【0050】
この懸濁液を加熱して、85℃とする。その温度に達したら直ちに、スパージャーコイルを介しての空気の供給を、65L/hの空気速度で開始し、そして3.554LのCaCO3懸濁液(濃度=200g/L)を、6.5時間かけて添加する。
【0051】
6.5時間後に、反応を終了させる。反応の転化率としての目安のFe2+含量を、セリウム滴定を手段としてチェックする。得られたヘマタイト沈降物を、3回洗浄し、濾別し、オーブン内で140℃にて乾燥させる。副生物として生成するCaSO4の分離除去はしない。顔料の分析値を、表1に示す。
【0052】
【0053】
中国特許第102976413号明細書から公知のプロセスと比較すると、本発明におけるプロセスでは、色彩的に明らかに改良された赤色(より高いa*値)が得られる。
【0054】
実施例2a
国際公開第2013045608号パンフレットの実施例2に準拠したヘマタイトシードの製造
国際公開第2013045608号パンフレットの実施例2に従って、硝酸の全量を、反応混合物中の計算上の出発濃度が4.5重量%ではなく7重量%となるように選択して、ヘマタイトシードを製造した。98m2/gのBET表面積を有するシードが得られた。
【0055】
実施例2b
30リットルの反応器内で、脱イオン水、硫酸鉄溶液、及び実施例2a)からのシードを組み合わせて、108g/LのFeSO4濃度及び8g/Lのヘマタイトシード濃度(Fe2O3として計算)を有する17Lの懸濁液を得る。
【0056】
その懸濁液を、85℃にまで加熱する。その温度に達したら直ちに、スパージャーコイルを介しての空気の供給を、250L/hの空気速度で開始し、6.669LのCaCO3懸濁液(濃度、200g/L)を、7.5時間かけて添加する。
【0057】
7.5時間後に、反応を終了させる。セリウム滴定を手段として、Fe2+含量をチェックする。得られたヘマタイト沈降物を、3回洗浄し、濾別し、オーブン内で140℃にて乾燥させる。副生物として生成したCaSO4(約25重量%)の分離除去はしない。空時収量(STY)=5.4g/L/h。その顔料の分析値を、表2に示す。
【0058】
【0059】
実施例3
30リットルの反応器内で、脱イオン水、硫酸鉄溶液、及び実施例2a)からのシードを組み合わせて、108g/LのFeSO4濃度及び8g/Lのシード濃度(Fe2O3として計算)を有する17Lの懸濁液を得る。
【0060】
その懸濁液を加熱して、85℃とする。その温度に達したら直ちに、スパージャーコイルを介しての空気の供給を、125L/hの空気速度で開始し、そして6.669LのCaCO3懸濁液(濃度=200g/L)を、7.6時間かけて添加する。
【0061】
セリウム滴定を手段として、そのFe2+含量をチェックする。得られたヘマタイト沈降物を、3回洗浄し、濾別し、オーブン内で140℃にて乾燥させる。副生物として生成したCaSO4(約15重量%)の分離除去はしない。STY=5.4g/L/h(Fe2O3)。その顔料の分析値を、表3に示す。
【0062】
【0063】
実施例4
実施例4a)
国際公開第2013045608号パンフレットの実施例2に準拠したヘマタイトシードの製造
国際公開第2013045608号パンフレットの実施例2に従い、硝酸の全量を、反応混合物の中での計算上の出発濃度が4.5重量%ではなく8重量%となるように選択して、ヘマタイトシードを製造した。120m2/gのBET表面積を有するシードが得られた。
【0064】
実施例4b)
30リットルの反応器内で、脱イオン水、硫酸鉄溶液、及び実施例4a)からのシードを組み合わせて、59.5g/LのFeSO4濃度及び5g/Lのシード濃度(Fe2O3として計算)を有する17Lの懸濁液を得た。
【0065】
その懸濁液を加熱して、85℃とする。その温度に達したら直ちに、スパージャーコイルを介しての空気の供給を、66L/hの空気速度で開始し、そして3.295LのCaCO3懸濁液(濃度=200g/L)を、7.5時間かけて添加する。
【0066】
7.5時間後に、反応を終了させる。セリウム滴定を手段として、Fe2+含量をチェックする。得られたヘマタイト沈降物を、3回洗浄し、濾別し、オーブン内で140℃にて乾燥させる。副生物として生成したCaSO4(約45重量%)の分離除去はしない。STY=3.4gFe2O3/L/h。
【0067】
顔料の分析値を表4に示す。
【0068】
【0069】
実施例5
スチーム加熱、撹拌機、及びポンプ式循環装置を備えた1.5m3の反応器内で、429kgの水、201kgの硫酸鉄溶液(無水形態で計算して、38kgの硫酸鉄に相当する)、及び37kgのヘマタイトシード懸濁液(3.7kgの実施例4aからのシードに相当する)を組合せ、加熱して85℃とする。
【0070】
その温度に達したら直ちに、スパージャーコイルを介しての空気の供給を、2550L/hの空気速度で開始し、125LのCaCO3懸濁液(濃度=200g/L)を、7.5時間かけて添加する。
【0071】
7.5時間後に反応を終了させ、その懸濁液を冷却する。セリウム滴定を手段として、Fe2+含量をチェックする。得られたヘマタイト沈降物を、3回洗浄し、濾別し、オーブン内で140℃にて乾燥させる。少量の場合には、反応の際に生成したCaSO4を、篩(71μmメッシュ)にかけて篩別して、1重量%未満のセッコウ含量を有する酸化鉄を得た。顔料の分析値を、表5に示す(STY=3.5g/L/h)。
【0072】
【0073】
比較例(シード)
独国特許第4235944号明細書(=米国特許第5421878号明細書)の実施例1からのシード合成を再現し、得られたシードのa*値を、他の例(上記参照)と同様にして求めた。この場合の実施例1は、以下の通りであった:
a)NaOHを用いて、記載通りに再現した、及び
b)NaOHではなく、沈殿剤のMgCO3を同等の量(200.2g/1124.8gの水)で使用した。
【0074】
色値(L*、a*、及びb*)を、アルキド樹脂におけるに原色について先に述べたのと同じ方法で求めると、次のような結果が得られた。
【0075】
【0076】
17.4及び11.9のa*値は、本発明の場合の20を越えるa*値よりかなり低い。