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特許7189364ガス判定装置、ガス判定方法及びガス判定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ガス判定装置、ガス判定方法及びガス判定システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/00 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
G01N27/00 J
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021543100
(86)(22)【出願日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 JP2020032957
(87)【国際公開番号】W WO2021040050
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2019157961
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】ムルガナタン マノハラン
(72)【発明者】
【氏名】アグボンラホール ガブリエル
(72)【発明者】
【氏名】水田 博
(72)【発明者】
【氏名】下舞 賢一
(72)【発明者】
【氏名】服部 将志
(72)【発明者】
【氏名】恩田 陽介
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/021693(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/002854(WO,A1)
【文献】特開2011-185818(JP,A)
【文献】特開2009-250633(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0180573(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0260547(US,A1)
【文献】INABA et al.,Ammonia gas sensing using a graphene field-effect transistor gated by ionic liquid,Sensors and Actuators B: Chemical,2014年05月,Vol.195,PP.15-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - G01N 27/49
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、
前記第1の電極上に形成された絶縁膜と、
前記絶縁膜上に形成された第2の電極及び第3の電極と、
前記絶縁膜上に形成され前記第2の電極と前記第3の電極との間を電気的に接続するグラフェン層と
を有するセンサ
前記第1の電極に印加する電圧を制御する制御部と、
第1の電圧が印加された前記第1の電極に、所定の範囲で電圧が変化する掃引電圧を印加したときの前記第2の電極と前記第3の電極の間における第1の電流の変化を取得し、前記第1の電圧とは異なる第2の電圧が印加された前記第1の電極に、所定の範囲で電圧が変化する掃引電圧を印加したときの前記第2の電極と前記第3の電極の間における第2の電流の変化を取得する取得部と、
前記掃引電圧に対する前記第1の電流の変化の測定結果と、前記掃引電圧に対する前記第2の電流の変化の測定結果に基づいて、前記グラフェン層に吸着されたガスの種類又は濃度を判定する判定部と
を具備するガス判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のガス判定装置であって、
前記判定部は、
前記第1の電流の変化において電流値が最小となるときの前記第1の電極に印加された電圧値である第1の印加電圧を決定し、
前記第2の電流の変化において電流値が最小となるときの前記第1の電極に印加された電圧値である第2の印加電圧を決定し、
前記第1の印加電圧及び前記第2の印加電圧に基づいて、前記ガスを判定する
ガス判定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のガス判定装置であって、
前記制御部は、前記第1の電圧及び前記第2の電圧として、それぞれ、所定時間において一定の電圧を前記第1の電極に印加する
ガス判定装置。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1つに記載のガス判定装置であって、
前記制御部は、前記第1の電圧として負の電圧を前記第1の電極に印加し、前記第2の電圧として正の電圧を前記第1の電極に印加する
ガス判定装置。
【請求項5】
請求項4に記載のガス判定装置であって、
前記制御部は、前記第1の電圧及び前記第2の電圧として、絶対値が等しい電圧を前記第1の電極に印加する
ガス判定装置。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のガス判定装置であって、
前記取得部で取得された電流変化情報および前記判定部で判定されたガスの種類又は濃度に関する情報を表示装置へ出力する出力部をさらに具備する
ガス判定装置。
【請求項7】
第1の電極と、前記第1の電極上に形成された絶縁膜と、前記絶縁膜上に形成された第2の電極及び第3の電極と、前記絶縁膜上に形成され前記第2の電極と前記第3の電極との間を電気的に接続するグラフェン層とを有するセンサを用いたガス判定方法であって、
前記グラフェン層にガスを供給し、
前記第1の電極に第1の電圧を所定時間印加し、
前記第1の電極に、所定の範囲で電圧が変化する掃引電圧を印加したときの前記第2の電極と前記第3の電極の間における第1の電流の変化を測定し、
前記第1の電極に前記第1の電圧とは異なる第2の電圧を所定時間印加し、
前記第1の電極に所定の範囲で電圧が変化する掃引電圧を印加したときの前記第2の電極と前記第3の電極の間における第2の電流の変化を測定し、
前記掃引電圧に対する前記第1の電流の変化の測定結果と、前記掃引電圧に対する前記第2の電流の変化の測定結果に基づいて、前記ガスの種類又は濃度を判定する
ガス判定方法。
【請求項8】
請求項7に記載のガス判定方法であって、
前記ガスの種類又は濃度を判定する判定ステップでは、
前記第1の電流の変化において電流値が最小となるときの前記第1の電極に印加された電圧値である第1の印加電圧を決定し、
前記第2の電流の変化において電流値が最小となるときの前記第1の電極に印加された電圧値である第2の印加電圧を決定し、
前記第1の印加電圧及び前記第2の印加電圧に基づいて、前記ガスを判定する
ガス判定方法。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載のガス判定方法であって、
前記第1の電圧及び前記第2の電圧は、それぞれ、所定時間において一定の電圧である
ガス判定方法。
【請求項10】
請求項7~請求項9のいずれか1項に記載のガス判定方法であって、
前記第1の電圧は負の電圧であり、前記第2の電圧は正の電圧である
ガス判定方法。
【請求項11】
請求項10に記載のガス判定方法であって、
前記第1の電圧及び前記第2の電圧は、絶対値が等しい電圧である
ガス判定方法。
【請求項12】
請求項7~請求項11のいずれか1項に記載のガス判定方法であって、
前記グラフェン層に前記ガスを供給した後であって、前記第1の電圧の印加前に、前記グラフェン層に紫外線を一定時間照射することを更に有する
ガス判定方法。
【請求項13】
請求項7~請求項12のいずれか1項に記載のガス判定方法であって、
前記センサを加熱した状態で前記第1の電極への電圧印加を行う
ガス判定方法。
【請求項14】
第1の電極と、前記第1の電極上に形成された絶縁膜と、前記絶縁膜上に形成された第2の電極及び第3の電極と、前記絶縁膜上に形成され前記第2の電極と前記第3の電極との間を電気的に接続するグラフェン層とを有するセンサと、
前記センサの電極に印加する電圧を制御する制御部と、前記第2の電極と前記第3の電極との間における電流の測定結果に基づいて前記グラフェン層に吸着するガスを判定する判定部と、を備える情報処理装置と
を具備するガス判定システムであって、
前記判定部は、前記グラフェン層にガスを供給した前記センサの前記第1の電極に第1の電圧を所定時間印加した後、前記第1の電極に、所定の範囲で電圧が変化する掃引電圧を印加したときの前記第2の電極と前記第3の電極の間における第1の電流の変化の測定結果と、前記第1の電極に前記第1の電圧とは異なる第2の電圧を所定時間印加した後、前記第1の電極に所定の範囲で電圧が変化する掃引電圧を印加したときの前記第2の電極と前記第3の電極の間における第2の電流の変化の測定結果に基づいて、前記ガスの種類又は濃度を判定する
ガス判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス判定装置、ガス判定方法及びガス判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されるセンサは、ゲート電極と、ゲート電極上に設けられた絶縁膜と、絶縁膜上に設けられたグラフェン膜と、第1の電極と、第2の電極とを有する、FET構造を有する。特許文献1に記載されるセンサでは、検出対象の測定前に、第1電極と第2電極間に一定電圧を印加し、ゲート電極のゲート電圧を増減し、電流値Idを測定する。その後、判定対象の測定中に同様の操作を行う。そして、測定前後における、電流値Idが最小となるゲート電圧Vgの変化ΔVgを判定対象の判定評価に用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-163146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガスセンサにおいて、精度高くガスの種類を判定することが望まれている。
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、ガスの種類を判定することができるガス判定装置、ガス判定方法及びガス判定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一形態に係るガス判定装置は、ゲート電極と、上記ゲート電極上に形成された絶縁膜と、上記絶縁膜上に形成されたソース電極及びドレイン電極と、上記絶縁膜上に形成され上記ソース電極と上記ドレイン電極との間を接続するグラフェン層と、を有する電界効果トランジスタ構造を備えるセンサを用いたガス判定装置であって、制御部と、取得部と、判定部とを具備する。
上記制御部は、上記ゲート電極に印加する電圧を制御する。
上記取得部は、第1の電圧が印加された上記ゲート電極に、上記第1の電圧と上記第1の電圧とは異なる第2の電圧との範囲で電圧が変化する掃引電圧を印加したときの上記ソース電極と上記ドレイン電極の間に流れる第1の電流の変化を取得し、上記第2の電圧が印加された上記ゲート電極に、上記第1の電圧と上記第2の電圧との範囲で電圧が変化する掃引電圧を印加したときの上記ソース電極と上記ドレイン電極の間に流れる第2の電流の変化を取得する。
上記判定部は、上記掃引電圧に対する上記第1の電流の変化の測定結果と、上記掃引電圧に対する上記第2の電流の変化の測定結果に基づいて、上記グラフェン層に吸着されたガスの種類又は濃度を判定する。
【0006】
本発明の一形態に係るガス判定方法は、ゲート電極と、上記ゲート電極上に形成された絶縁膜と、上記絶縁膜上に形成されたソース電極及びドレイン電極と、上記絶縁膜上に形成され上記ソース電極と上記ドレイン電極との間を接続するグラフェン層と、を有する電界効果トランジスタ構造を備えるセンサを用いたガス判定方法であって、
上記グラフェン層にガスを供給し、
上記ゲート電極に第1の電圧を所定時間印加し、
上記ゲート電極に、上記第1の電圧と、上記第1の電圧とは異なる第2の電圧との範囲で電圧が変化する掃引電圧を印加したときの上記ソース電極と上記ドレイン電極の間に流れる第1の電流の変化を測定し、
上記ゲート電極に前記第2の電圧を所定時間印加し、
上記ゲート電極に上記掃引電圧を印加したときの上記ソース電極と上記ドレイン電極の間に流れる第2の電流の変化を測定し、
上記掃引電圧に対する上記第1の電流の変化の測定結果と、上記掃引電圧に対する上記第2の電流の変化の測定結果に基づいて、上記ガスの種類又は濃度を判定する。
【0007】
本発明のこのような構成によれば、第1の電圧又は第2の電圧をゲート電極に印加することによってグラフェン層が価電子帯又は伝導帯を有するようになり、グラフェン層にガスを引き付けることができる。そして、このようにグラフェン層にガスを引き付けた状態で、ゲート電極に掃引電圧を印加し、掃引電圧に対する、掃引電圧を印加したときに得られるソース電極とドレイン電極との間に流れる電流の変化の特性を、ガスの種類毎に固有のものとすることができる。従って、電流の変化の測定結果から精度良くガスの種類を判定することが可能となる。
【0008】
上記ガスの種類又は濃度を判定する判定ステップでは、上記第1の電流の変化において電流値が最小となるときの上記ゲート電極に印加された電圧値である第1のゲート電圧を決定し、上記第2の電流の変化において電流値が最小となるときの上記ゲート電極に印加された電圧値である第2のゲート電圧を決定し、上記第1のゲート電圧及び上記第2のゲート電圧に基づいて、上記ガスを判定してもよい。
【0009】
上記第1の電圧及び上記第2の電圧は、それぞれ、所定時間において一定の電圧であってもよい。
上記第1の電圧は負の電圧であり、上記第2の電圧は正の電圧であってもよい。
上記第1の電圧及び上記第2の電圧は、絶対値が等しい電圧であってもよい。
【0010】
上記グラフェン層に上記ガスを供給した後であって、上記第1の電圧の印加前に、上記グラフェン層に紫外線を一定時間照射することを更に有してもよい。
上記センサを加熱した状態で上記ゲート電極への電圧印加を行ってもよい。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るガス判定システムは、センサと、情報処理装置と、を具備する。
上記センサは、ゲート電極と、上記ゲート電極上に形成された絶縁膜と、上記絶縁膜上に形成されたソース電極及びドレイン電極と、上記絶縁膜上に形成され上記ソース電極と上記ドレイン電極との間を接続するグラフェン層と、を有する電界効果トランジスタ構造を備える。
上記情報処理装置は、上記センサの電極に印加する電圧を制御する制御部と、上記ソース電極と上記ドレイン電極との間に流れる電流の測定結果に基づいて上記グラフェン層に吸着するガスを判定する判定部と、を備える。
上記判定部は、上記グラフェン層にガスを供給した上記センサの上記ゲート電極に第1の電圧を所定時間印加した後、上記ゲート電極に、上記第1の電圧と、上記第1の電圧とは異なる第2の電圧との範囲で電圧が変化する掃引電圧を印加したときの上記ソース電極と上記ドレイン電極の間に流れる第1の電流の変化の測定結果と、上記ゲート電極に上記第2の電圧を所定時間印加した後、上記ゲート電極に上記掃引電圧を印加したときの上記ソース電極と上記ドレイン電極の間に流れる第2の電流の変化の測定結果に基づいて、上記ガスの種類又は濃度を判定する。
【発明の効果】
【0012】
以上述べたように、本発明によれば、精度良くガスの種類又は濃度を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係るガス判定システムの構成を示す模式図である。
図2】上記ガス判定システムの一部を構成するガスセンサの構成を示す概略図である。
図3】ゲート電極に第1の電圧及び第2の電圧を印加した場合のグラフェン層及びCOの状態を説明するグラフェン層15付近の部分拡大模式図である。
図4】ガスとしてCOを用いた場合の、グラフェン層の電荷状態を示す。
図5】上記ガス判定システムにおける第1の電圧印加後及び第2の電圧印加後にゲート電極に掃引電圧を印加したときのソース電極とドレイン電極との間に流れる電流の変化を示すグラフである。
図6】ガスとしてCO、C、CO、NH、Oそれぞれを用いた時のCNPDの範囲におけるグラフェン層とガス分子間の電荷移動量を示す。
図7】上記ガス判定システムを用いてガス濃度を振って、ガスとしてのアセトン及びアンモニアのCNPDの範囲を測定した結果を示すグラフである。
図8】上記ガス判定システムにおけるガス判定のための概略手順を説明するフロー図である。
図9】ガス判定方法を説明するフロー図である。
図10】上記ガス判定システムのガスセンサにおける第1の電圧、第2の電圧、掃引電圧の信号波形を示す図である。
図11】上記ガスセンサの実験結果を示す図である。
図12】上記ガスセンサの他の構成例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
[ガス判定システムの概要]
図1はガス判定システムの構成を示す模式図である。図2は、ガス判定システムの一部を構成するセンサ10の構成を示す模式図である。
【0015】
図1に示すように、ガス判定システム1は、センサ装置2と、情報処理装置4と、表示装置5と、記憶部6と、を備える。
センサ装置2は、収容室20と、センサ10と、UV(紫外線)光源23と、加熱部26と、を備える。
【0016】
収容室20は、センサ10と、UV光源23と、加熱部26と、を収容する。収容室20は、外部からガスを吸気する吸気口21と、収容室20内に導入されたガスを収容室20から外部に排気する排気口22とを有する。吸気口21には収容室20内へのガスの流入を調節するバルブ24が設けられ、排気口22には収容室20内のガスの外部への流出を調節するバルブ25が設けられている。
【0017】
UV光源23は、センサ10に対して照射する紫外線(UV)を発する。後述するセンサ10のグラフェン層にUVを照射することにより、グラフェン層のクリーニングが行われる。
加熱部26は、例えばヒータであり、センサ10を加熱する。
【0018】
図2に示すように、センサ10は、ゲート電極13と、絶縁膜14と、ソース電極11と、ドレイン電極12と、グラフェン層15と、を有する。
ゲート電極13は、高ドープの導電性シリコンからなる。ゲート電極13は、例えば表面がシリコン酸化膜で絶縁処理されたSi基板(図示略)の表面全域を被覆するように形成される。
絶縁膜14は、ゲート電極13上に形成される。絶縁膜14は、例えばSiOから構成される。
グラフェン層15は、絶縁膜14上に、例えば平面視で矩形にパターン形成され、絶縁膜14を介してゲート電極13と対向配置される。グラフェン層15は、ゲート電極13の表面の領域内に、絶縁膜14を挟んでゲート電極13と重なるように配置される。グラフェン層15は、図2において左右方向に長手の矩形状に形成される。本実施形態では、グラフェン層は単層で構成される。グラフェン層15は、ソース電極11とドレイン電極12との間を接続し、ソース電極11及びドレイン電極12に挟まれた領域で、ガスを吸着する。
ソース電極11及びドレイン電極12は、グラフェン層15と電気的に接続される。ソース電極11及びドレイン電極12は、絶縁膜14上に、グラフェン層15の長手方向の両端部を被覆するように積層される。ソース電極11及びドレイン電極12は例えばCr膜とAu膜の積層構造で構成される。ソース電極11及びドレイン電極12は、グラフェン層15を介して図2において左右方向に対向配置される。
なお、ゲート電極13と接続されるゲート取り出し電極は、前記絶縁膜14に形成されたコンタクト孔を介して、絶縁膜14の上に形成される。ゲート電極13自体を金属板にすれば、シリコン基板およびその上の絶縁膜は、省略でき、ゲート電極をその裏面より引き出すことができる。
【0019】
情報処理装置4は、ガス判定装置として構成され、取得部41と、判定部42と、出力部43と、制御部44と、を備える。
図2に示すように、取得部41は、ソース電極とドレイン電極との間に流れる電流の変化情報を取得する。以下、ソース電極とドレイン電極との間を流れる電流をドレイン電流と称する場合がある。
図1に戻って、判定部42は、取得部41で取得される電流変化情報を用いて、ガスの種類を判定する。具体的には、情報処理装置4は、予め異なる種類の複数のガス毎の電流変化情報を取得し、記憶部6に記憶しておく。判定部42は記憶部6に記憶されている電流変化情報を参照して、センサ10で検知したガスの種類を識別し判定する。また、判定部42により、ガス濃度を判定することもできる。詳細については、後述する。
出力部43は、取得部41で取得される電流変化情報、判定部42により判定されたガスの種類や濃度といった判定結果を表示装置5へ出力する。
図2に示すように、制御部44は、センサ10のゲート電極13に印加する電圧を制御する。
【0020】
表示装置5は表示部を有し、情報処理装置4から出力されたガスの種類や濃度等を表示部に表示する。ユーザは、表示部を確認することによりガス判定結果を把握することができる。
記憶部6は、ガス判定システム1で検出された異なる種類の複数の既知のガス毎の電流変化情報を予め取得し、参照データとして記憶する。記憶部6は、情報処理装置4が通信可能なクラウドサーバ上にあってもよいし、情報処理装置4が備えていてもよい。
【0021】
(センサの詳細)
センサ10はグラフェン層15をチャネルとした電界効果トランジスタである。
図3(A)、(B)は、ゲート電極13に印加する電圧によって状態変化するグラフェン層15及びグラフェン層15に吸着するガスの一例としてのCOの電荷状態を説明するグラフェン層15付近の部分拡大模式図である。
【0022】
図3(A)は、ゲート電極13に第1の電圧としての第1のチューニング電圧VT1を所定時間印加したときを示す。本実施形態では、第1のチューニング電圧VT1は、所定時間において一定の電圧であり、-40Vである。第1のチューニング電圧VT1の値は-40Vに限定されることはなく、第1のチューニング電圧VT1を印加することによって、グラフェン層15に負電荷が供給され、グラフェン層15が価電子帯を有するような電圧値であればよい。
図3(B)は、ゲート電極13に第2の電圧としての第2のチューニング電圧VT2を所定時間印加したときを示す。本実施形態では、第2のチューニング電圧は所定時間において一定の電圧であり、40Vである。第2のチューニング電圧VT2の値は40Vに限定されることはなく、第2のチューニング電圧VT2を印加することによって、グラフェン層15に正電荷が供給され、グラフェン層15が伝導帯を有するような電圧値であればよい。
尚、本実施形態では、第1及び第2のチューニング電圧を一定電圧とし、図10に示すように矩形波状に電圧が変化する例をあげたが、これに限定されない。例えば、電圧の立ち上がりや立下りがなまる、電圧値が若干勾配して変化するなど、所定時間内で電圧値が若干変動してもよく、印加によりグラフェン層15が価電子帯又は伝導帯を有するような電圧値であればよい。
【0023】
第1のチューニング電圧印加時のグラフェン層15と第2のチューニング電圧印加時のグラフェン層15は、いずれもガスを引き付ける。図3に示すように、第1のチューニング電圧印加時と第2のチューニング電圧印加時とでは、グラフェン層15に吸着するガス分子、ここではCO分子は、グラフェン層15との距離や結合角といった結合状態が異なっている。これにより、第1のチューニング電圧VT1印加時ではCOはドナーとして機能する。第2のチューニング電圧VT2印加時ではCOはアクセプタとして機能する。
【0024】
グラフェン層にガスを供給した場合、ゲート電極に電圧を印加していない状態では、グラフェン層には自然に吸着したガス分子が存在するものの、その数は非常に少ないと考えられる。
これに対して、本実施形態では、第1のチューニング電圧、第2のチューニング電圧をゲート電極に印加することで、グラフェン層の近傍に来たガス分子は、図3上、矢印で示された電界によってグラフェン層表面に導かれ、ガス吸着が加速される。
更に、本実施形態では、図3に示すように、第1のチューニング電圧及び第2のチューニング電圧をそれぞれ印加することにより、グラフェン層表面近傍の電界の向きを異ならせ、グラフェン層へのガス分子の結合状態を変化させることができる。
【0025】
好ましい第1のチューニング電圧VT1及び第2のチューニング電圧VT2の値は、絶縁膜14の厚みによって適宜設定することができる。本実施形態では285nmの厚みの絶縁膜14を用いており、この場合、グラフェン層15が価電子帯(伝導帯)を有するようにするために-40V(40V)程度の電圧が必要である。
また、グラフェン層15が価電子帯と伝導帯の間を切り替わるのを確認するために、第1のチューニング電圧VT1及び第2のチューニング電圧VT2は、負側、正側の両側で電圧を振ることが好ましい。更に、負側、正側の電圧の絶対値が同じとなるように電圧を振ることがより好ましい。
また、第1のチューニング電圧VT1及び第2のチューニング電圧VT2それぞれの印加時間は数秒~数分である。
【0026】
図4は、ガスとしてCOを用いたときの、ソース電極11とゲート電極13との間の電界の変化によるグラフェン層15の電荷状態の変化を示すグラフである。CO分子とグラフェン間には電荷移動が生じ、ゲート電極13に印加する電圧を第1のチューニング電圧VT1とするか第2のチューニング電圧VT2とするかで、COがドナーとなるかアクセプタとなるかが決まる。
【0027】
図5は、ガス判定システム1において、第1のチューニング電圧VT1を所定時間印加後にゲート電極13に掃引電圧を印加したとき、及び、第2のチューニング電圧VT2を所定時間印加後にゲート電極13に掃引電圧を印加したときのソース電極11とドレイン電極12との間に流れる電流の変化を示すグラフである。
ゲート電極13に印加される電圧は、制御部44によって制御される。
掃引電圧は、第1のチューニング電圧と、第1のチューニング電圧とは異なる第2のチューニング電圧との範囲で電圧が増減して変化する。本実施形態では、1分程度で-40Vから40Vにリニアに電圧が変化する掃引電圧を用いており、掃引電圧は正負両側に変化する電圧となっている。
【0028】
本実施形態では、ガスが供給されたセンサ10のゲート電極13に第1のチューニング電圧VT1を所定時間印加した後、ゲート電極13に掃引電圧を印加しながらドレイン電流I(第1の電流Id1と称する。)を測定する。
図5に示す実線の曲線51は、第1の電流Id1の変化特性を示す。得られる曲線51において、第1の電流Id1が最小値となるときの点を第1の電荷中性点31と称する。第1の電流Id1が最小値となるときのゲート電圧値を第1のゲート電圧と称する。
上述したように、第1のチューニング電圧VT1をゲート電極13に印加することにより、グラフェン層15は価電子帯を有する。これにより、ガスはグラフェン層15に十分引き付けられ、ガスはドナーとなる。
【0029】
更に、本実施形態では、ガスが供給されたセンサ10のゲート電極13に第2のチューニング電圧VT2を所定時間印加した後、ゲート電極13に掃引電圧を印加しながらドレイン電流I(第2の電流Id2と称する。)を測定する。
図5に示す線長が長い破線の曲線52は、第2の電流Id2の変化特性を示す。得られる曲線52において、第2の電流Id2が最小値となるときの点を第2の電荷中性点32と称する。第2の電流Id2が最小値となるときのゲート電圧値を第2のゲート電圧と称する。
【0030】
図5において、線長が短い破線の曲線50は、曲線51と曲線52との横軸方向における中心に位置する曲線である。曲線50における電流Iが最小値となるときの点を中心点30とする。
【0031】
図5に示すように、掃引電圧(ゲート電圧Vg)に対する第2の電流Id2の特性を示す曲線52は、掃引電圧(ゲート電圧Vg)に対する第1の電流Id1の特性を示す曲線51を横軸方向に移動させた形状にほぼ一致する。
図5において、VCNPは電荷中性点(Charge neutrality point)をとるときのゲート電圧値を示し、ΔVCNPは第1のゲート電圧と第2のゲート電圧との差分を示す。
【0032】
発明者らは、第1の電荷中性点31における第1のゲート電圧と第2の電荷中性点32における第2のゲート電圧がグラフェン層15に吸着するガスの種類毎に固有となり、第1のゲート電圧から第2のゲート電圧までの範囲を示すバンドが、ガスの種類毎に異なることを見出した。これは、グラフェン層に引き寄せられてアクセプタ又はドナーとして機能するガスとグラフェン層との結合状態がガスの種類毎に異なるためと考えられる。
【0033】
図6は、ガスの種類によって第1のゲート電圧から第2のゲート電圧までの範囲を示すバンドが異なることを示す図である。図6では、CO(二酸化炭素)、C(ベンゼン)、CO(一酸化炭素)、NH(アンモニア)、O(酸素)の計5種類のガスそれぞれにおけるバンドが示されている。図6では、CNPD(Charge Neutrality Point Disparity:図5における|ΔVCNP|である)の範囲におけるグラフェン層の電荷状態を示す。CNPDは第1の電荷中性点31と第2の電荷中性点32の差を示し、バンドに対応する。
【0034】
図6において、縦方向に延びる帯状体は、第1のゲート電圧から第2のゲート電圧までの範囲を示すバンドを示す。帯状体の上部が第2の電荷中性点32における第2のゲート電圧に対応し、下部が第1の電荷中性点31における第1のゲート電圧に対応する。中心点30は縦方向に延びるバンドの中心に位置する。各バンドにおいて、中心点30より上半分はガスがアクセプタとなる範囲を示し、下半分はガスがドナーとなる範囲を示す。
【0035】
図6に示すように、ガスの種類によって、第1のゲート電圧と第2のゲート電圧は異なり、バンド幅及びバンドの範囲が異なっている。従って、このバンドデータを用いることによってガスの種類を判定することができる。
例えば、本実施形態では、複数の既知のガスのバンドデータを予め取得して記憶部6に格納しておく。そして、記憶部6に格納されているデータを参照することにより、未知のガスで求めたバンドデータからガスの種類を判定することができる。
このように、-40V及び40Vの2値のチューニング電圧印加後の掃引電圧に対応するドレイン電流の変化特性をデータとして取得することにより、ガスの種類の判定が可能となる。
【0036】
更に、発明者らは、ガスの濃度の変化に応じて第1のゲート電圧から第2のゲート電圧の範囲を示すバンドがほぼリニアに変化することを見出した。
図7は、ガスの濃度を振って、第1のチューニング電圧印加後に掃引電圧を印加して得られる第1の電荷中性点31における第1のゲート電圧と、第2のチューニング電圧印加後に掃引電圧を印加して得られる第2の電荷中性点32における第2のゲート電圧を測定した結果を示す図である。図中、棒グラフは中心点30におけるゲート電圧値を示す。縦方向に延びる直線は、第1のゲート電圧から第2のゲート電圧までのバンドを示す。
図7(A)はガスとしてアセトンを用いた場合、図7(B)はアンモニアを用いた場合を示し、1~200ppmの範囲で濃度を振った結果を示す。
【0037】
図7に示すように、判定対象のガスの濃度に応じて第1のゲート電圧から第2のゲート電圧までの範囲を示すバンドはほぼリニアに変化しており、バンドを用いたガス濃度の判定が可能となる。
例えば、本実施形態では、濃度の異なる既知のガスのバンドのデータを予め取得し記憶部6に格納しておく。そして、記憶部6のデータを参照することにより、未知のガスで求めたバンドのデータからガスの濃度を判定することができる。
【0038】
[ガス判定方法]
図8図10を用いて、ガス判定システム1におけるガス判定方法について説明する。
図8は、ガス判定システム1におけるガス判定のための概略手順を説明するフロー図である。
図9は、情報処理装置44におけるガス判定方法を説明するフロー図である。
図10は、ゲート電極に印加する第1のチューニング電圧VT1、第2のチューニング電圧VT2、掃引電圧の信号波形を示す図である。図10に示すように、第1のチューニング電圧VT1及び第2のチューニング電圧VT2は、時間に対してステップ関数となっている。
【0039】
まず、図8に示すように、収容室20内にガスが供給される(S1)。収容室20内は常圧となっている。収容室20内の雰囲気ガスは、大気(空気)でもよいし、アンモニアガスでもよい。
【0040】
なお、収容室20内は常圧に限られず、減圧雰囲気であってもよい。この場合、収容室20を排気口22から排気し、収容室20内が所定の圧力(数mTorr)に達した後、ガスが供給される。
収容室20内を減圧雰囲気にすることで、吸着ガスが脱離するため、大気圧雰囲気と比較して、ガス供給前におけるセンサ10の電荷中性点(CNP)が0付近に近づく。電荷中性点が0にならない場合、加熱部26によりセンサ10を加熱して脱ガス処理を行ってもよい。
【0041】
次に、UV光源23からUVがセンサ10及び収容室20内に向かって1分間照射される(S2)。
UV照射を行うことによりガスが効率よくグラフェン層に吸着される。これは、UV照射することにより、グラフェン層の表面からO、HO等が除去される(クリーニング効果)とともに、グラフェン層の表面上でのガス分子の吸着と光励起脱着との間の動的平衡が導かれてグラフェン層のガスの有効利用な吸着サイトが増加するため、及び、吸着分子の状態変化(イオン化など)により吸着が加速されるため、と考えられる。
【0042】
次に、加熱部26によりセンサ10が加熱される(S3)。加熱温度は、好ましくは95℃以上である。本実施形態では、センサ10は110℃の加熱温度に加熱される。
UV照射及び加熱を行うことにより、第1のチューニング電圧VT1印加後に掃引電圧を印加して得られる、掃引電圧に対する第1の電流Id1の変化を示す曲線51と、第2のチューニング電圧VT2印加後に掃引電圧を印加して得られる、掃引電圧に対する第2の電流Id2の変化を示す曲線52とがより明確に識別可能となる。詳細については後述する。
【0043】
次に、ガス判定が行われる(S4)。ガス判定の詳細について図9及び図10を用いて以下説明する。
【0044】
ソース電極11とドレイン電極12との間に5~10mVの電圧が印加された状態からガス判定が開始される。各電極に印加される電圧値は制御部44からの制御信号に基づいて制御される。
ソース電極11とドレイン電極12との間に印加する電圧は、出力の線形領域を用いる。ソース電極11とドレイン電極12との間に印加する電圧は高すぎても低すぎてもノイズが発生するため、ノイズの発生が抑制される5~10mVとすることが好ましい。
【0045】
図9及び図10に示すように、ガス判定が開始されると、ゲート電極13に第1のチューニング電圧VT1が所定時間印加される(S41)。本実施形態では、-40Vの第1のチューニング電圧VT1が数秒~数分印加される。
これにより、グラフェン層15は価電子帯を有し、ガスはグラフェン層15に十分に引き付けられ、ガスはドナーとして機能する。
第1のチューニング電圧VT1の印加時間は、絶縁膜14の厚み等によって適宜設定される。本実施形態においては、好ましくは5s(秒)以上、更に好ましくは30s以上、そして、好ましくは120s以下、更に好ましくは60s以下であり、グラフェン層15が価電子帯を有するのに十分な時間であればよい。また、印加時間は、センサ10の加熱温度等によって適宜好ましい値を設定することができる。
【0046】
次に、第1のチューニング電圧VT1が印加されたゲート電極13に掃引電圧が印加され、掃引電圧印加中のソース電極11とドレイン電極12との間に流れる第1の電流Id1が測定される(S42)。本実施形態では、分解能50mV~100mV、レンジ80V、掃引時間1分で電圧の掃引を行う。図10に示すように、-40Vから40Vというように負から正へ徐々にゲート電圧を変化させている。尚、40Vから-40Vというように徐々に正から負へとゲート電圧を変化させてもよい。
掃引電圧に対する第1の電流Id1の測定結果は取得部41により取得される。
【0047】
次に、取得部41により取得された測定結果に基づき、判定部42により、第1の電流Id1が最小値となるときのゲート電圧値である第1のゲート電圧が決定される(S43)。
【0048】
次に、ゲート電極13に第2のチューニング電圧VT2が所定時間印加される(S44)。本実施形態では、+40Vの第2のチューニング電圧VT2が数秒~数分印加される。
これにより、グラフェン層15は伝導帯を有し、ガスはグラフェン層15に十分に引き付けられ、ガスはアクセプタとして機能する。第2のチューニング電圧印加後のグラフェン層15とガスとの結合状態は、第1のチューニング電圧印加後のグラフェン層15とガスとの結合状態と異なっている。
第2のチューニング電圧VT2の印加時間は、絶縁膜14の厚み等によって適宜設定される。本実施形態においては、好ましくは5s(秒)以上、更に好ましくは30s以上、そして、好ましくは120s以下、更に好ましくは60s以下であり、グラフェン層15が伝導帯を有するのに十分な時間であればよい。また、印加時間は、センサ10の加熱温度等によって適宜好ましい値を設定することができる。
【0049】
次に、第2のチューニング電圧VT2が印加されたゲート電極13に掃引電圧が印加され、掃引電圧印加中のソース電極11とドレイン電極12との間に流れる第2の電流Id2が測定される(S45)。本実施形態では、分解能50mV~100mV、レンジ80V、掃引時間1分で電圧の掃引を行った。図10に示すように、-40Vから40Vというように負から正へ徐々にゲート電圧を変化させている。尚、40Vから-40Vというように徐々に正から負へゲート電圧を変化させてもよい。
掃引電圧に対する第2の電流Id2の測定結果は取得部41により取得される。
【0050】
次に、取得部41により取得された測定結果に基づき、判定部42により、第2の電流Id2が最小値となるときのゲート電圧値である第2のゲート電圧が決定される(S46)。
【0051】
次に、判定部42により、S43及びS46で決定された第1のゲート電圧及び第2のゲート電圧に基づいて、記憶部6に記憶されているデータを参照して、ガスの種類及び濃度が判定される(S47)。尚、ここでは、ガスの種類と濃度の双方を判定する例をあげたが、いずれか一方であってもよい。
【0052】
S43、S46、S47が、第1の電流Id1と第2の電流Id2の測定結果に基づいてガスを判定するガス判定ステップに相当する。
本実施形態では、S42の第1の電流Id1の測定後に、第1の電流Id1が最小値となる第1のゲート電圧Vg1を決定するステップを設けているが、このステップを、S46の第2の電流Id2が最小値となる第2のゲート電圧Vg2を決定するステップのときに行ってもよい。
【0053】
本実施形態では、UV照射及び加熱を行うことにより、掃引電圧に対する第1の電流Id1の変化を示す曲線群510と、掃引電圧に対する第2の電流Id2の変化を示す曲線群520とがより明確に識別可能なデータが得られる。これにより、より精度の高いガス判定が可能となる。
【0054】
図11は、第1のチューニング電圧印加、掃引電圧を印加しながら第1の電流Id1を測定、第2のチューニング電圧印加、掃引電圧を印加しながら第2の電流Id2を測定、という一連の工程を5回繰り返したときの、掃引電圧に対する第1の電流Id1の変化と、掃引電圧に対する第2の電流Id2の変化を測定した結果を示す。
【0055】
図11において、実線は、第1のチューニング電圧印加後にゲート電極に掃引電圧を印加した際に得られるドレイン電流(第1の電流)とゲート電圧との特性を示す曲線群510である。破線は、第2のチューニング電圧印加後にゲート電極に掃引電圧を印加した際に得られるドレイン電流(第2の電流)とゲート電圧との特性を示す曲線群520である。
【0056】
図11(A)はUV光未照射、加熱なしでガス判定を行った場合の掃引電圧に対するソース電極とドレイン電極との間に流れる電流の変化特性を示す実験結果である。
図11(B)はUV光照射、加熱なしでガス判定を行った場合の掃引電圧に対するソース電極とドレイン電極との間に流れる電流の変化特性を示す実験結果である。
図11(C)はUV光照射、加熱ありでガス判定を行った場合の掃引電圧に対するソース電極とドレイン電極との間に流れる電流の変化特性を示す実験結果である。
【0057】
図11(A)に示すように、破線で示される曲線群520は、実線で示される曲線群510が図面上は横軸方向に沿って右側に移動した形にほぼなっている。それぞれの曲線におけるドレイン電流Iが最小値となるときの第1のゲート電圧と第2のゲート電圧との差分をとることができる。
【0058】
図11(B)に示すように、破線で示される曲線群520は、実線で示される曲線群510が図面上は横軸方向に沿って右側に移動する。それぞれの曲線におけるドレイン電流Iが最小値となるときの第1のゲート電圧と第2のゲート電圧との差分をとることができる。
【0059】
図11(C)に示すように、破線で示される曲線群520は、実線で示される曲線群510が図面上は横軸方向に沿って右側に移動するとともに、縦軸方向に沿って下方向に移動する形になっており、曲線群510と曲線群520とは明確に識別が可能となっている。
【0060】
このように、図11(A)~(C)のいずれの図面においても、第1のチューニング電圧印加後にゲート電極に掃引電圧を印加した際に得られるドレイン電流とゲート電圧との特性を示す曲線群510と第2のチューニング電圧印加後にゲート電極に掃引電圧を印加した際に得られるドレイン電流とゲート電圧との特性を示す曲線群520とは横軸方向にずれた形状となっており、第1のゲート電圧及び第2のゲート電圧によってガスの種類の判定が可能となる。
そして、図11(C)に示すように、UV照射及び加熱をすることにより、更に第1のゲート電圧と第2のゲート電圧の横軸方向における差分を大きくとることができ、第1のゲート電圧から第2のゲート電圧までの範囲を示すバンドをより明瞭なものとすることができる。これにより、ガスの種類の判定精度をより向上させることができる。
【0061】
以上のように、本発明のガス判定方法では、グラフェンをチャネルとした電界効果トランジスタ構造を有するガスセンサを用いて精度高くガスの種類又は濃度を判定することができる。また、小型のガスセンサとすることができるので、センサ装置2を小型化することができる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0063】
例えば、上述の実施形態においては、第1及び第2のチューニング電圧と掃引電圧が印加されるゲート電極は共通のゲート電極であったが、これに限定されない。第1及び第2のチューニング電圧を印加するゲート電極とは別に掃引電圧が印加されるゲート電極が設けられてもよく、双方のゲート電極が、絶縁膜を介してグラフェン層に対向して配置されていればよい。
【0064】
また、上述の実施形態においては、チューニング電圧(固定電圧)を第1のチューニング電圧と第2のチューニング電圧の2値としたが、少なくとも2値あればよく、3値以上であってもよい。3値以上とすることにより、ガスの情報が増加し、より精度の高いガス判定が可能となる。
【0065】
また、上述の実施形態においては、負(上述の実施形態では-40V)の第1のチューニング電圧、掃引電圧、正(上述の実施形態では40V)の第2のチューニング電圧、掃引電圧の順にゲート電極に電圧が印加される例をあげたが、正の第2のチューニング電圧、掃引電圧、負の第1のチューニング電圧、掃引電圧の順にゲート電極に電圧が印加されてもよい。
【0066】
さらに、センサ10は、例えば図12に示すように構成されてもよい。図12に示すセンサ10は、ソース電極11およびドレイン電極12がグラフェン層15の端部を被覆する第1の領域111,121と、第1の領域111,121よりも厚みの大きい第2の領域112,122とをそれぞれ有する。
グラフェン層15の両端部は、ゲート電極13上の絶縁膜14とソース電極11の第1の領域111との間、および、絶縁膜14とドレイン電極12の第1の領域121との間にそれぞれ埋め込まれるように配置される。ソース電極11の第1の領域111とドレイン電極12の第1の領域121との間の対向距離Lは、例えば、200nmである。この場合、厚みの小さい第1の領域111,121でグラフェン層15の両端部を被覆するようにソース電極11およびドレイン電極12をそれぞれ形成することによって、ソース電極11とドレイン電極12との間の寸法管理が容易となり、これにより両電極11,12間に位置するグラフェン層15の寸法精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0067】
1…ガス判定システム
4…情報処理装置(ガス判定装置)
10…センサ
11…ソース電極
12…ドレイン電極
13…ゲート電極
14…絶縁膜
15…グラフェン層
42…判定部
44…制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12