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特許7189371プラズマ処理装置用部材およびこれを備えるプラズマ処理装置
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  • 特許-プラズマ処理装置用部材およびこれを備えるプラズマ処理装置 図1A
  • 特許-プラズマ処理装置用部材およびこれを備えるプラズマ処理装置 図1B
  • 特許-プラズマ処理装置用部材およびこれを備えるプラズマ処理装置 図1C
  • 特許-プラズマ処理装置用部材およびこれを備えるプラズマ処理装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置用部材およびこれを備えるプラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20221206BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20221206BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
C23C14/06 A
C23C14/08 J
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021551315
(86)(22)【出願日】2020-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2020036936
(87)【国際公開番号】W WO2021065919
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2019179677
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】石川 和洋
(72)【発明者】
【氏名】日野 高志
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 秀一
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-108588(JP,A)
【文献】特開2003-63860(JP,A)
【文献】国際公開第2019/160121(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103287010(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/302
H01L 21/3065
H01L 21/461
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上の少なくとも一部に、希土類元素の酸化物、弗化物、酸弗化物または窒化物の膜とを備え、該膜のプラズマに曝される表面内で生じる圧縮応力σ11と、前記表面内で前記圧縮応力σ11に垂直な方向に生じる圧縮応力σ22との比σ22/σ11が5以下である、プラズマ処理装置用部材。
【請求項2】
前記圧縮応力σ11および前記圧縮応力σ22の相加平均が200MPa以上1000MPa以下である、請求項1に記載のプラズマ処理装置用部材。
【請求項3】
前記圧縮応力σ11および前記圧縮応力σ22の変動係数が0.5以下である、請求項1または請求項2に記載のプラズマ処理装置用部材。
【請求項4】
前記膜は、プラズマに曝される表面の算術平均粗さRaが0.01μm以上0.1μm以下であって、複数の気孔を前記表面に有し、隣り合う前記気孔同士の重心間距離の平均値から前記気孔の円相当径の平均値を差し引いた値が28μm以上48μm以下である、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のプラズマ処理装置用部材。
【請求項5】
複数の前記気孔の面積占有率が、1.5面積%以上6面積%以下である、請求項4に記載のプラズマ処理装置用部材。
【請求項6】
複数の前記気孔の球状化率の平均値は、60%以上である、請求項4または請求項5に記載のプラズマ処理装置用部材。
【請求項7】
複数の前記気孔の円相当径の尖度Kuは、0.5以上2以下である、請求項4乃至請求項6のいずれに記載のプラズマ処理装置用部材。
【請求項8】
複数の前記気孔の円相当径の歪度Skは、3以上5.6以下である、請求項4乃至請求項7のいずれに記載のプラズマ処理装置用部材。
【請求項9】
前記膜は、前記基材の前記膜との対向面に位置する凹部から厚み方向に伸びる空隙部を備え、前記空隙部の先端は、前記膜内で閉塞されている、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のプラズマ処理装置用部材。
【請求項10】
前記膜の厚み方向に沿って断面視した前記空隙部の幅は、前記基材の凹部側よりも前記膜の表面側の方が狭い、請求項9に記載のプラズマ処理装置用部材。
【請求項11】
前記基材は、石英または透光性セラミックスからなり、前記基材および前記膜を透過する可視光線の透過率は、75%以上92%以下である、請求項1乃至請求項10のいずれかに記載のプラズマ処理装置用部材。
【請求項12】
前記基材および前記膜を透過する近赤外線の透過率は、80%以上92%以下である、請求項11に記載のプラズマ処理装置用部材。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれかに記載のプラズマ処理装置用部材を備える、プラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラズマ処理装置用部材およびこれを備えるプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術のプラズマ処理装置用部材は、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-217351号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示のプラズマ処理装置用部材は、基材と、該基材上の少なくとも一部に、希土類元素の酸化物、弗化物、酸弗化物または窒化物の膜とを備える。該膜は、プラズマに曝される表面内で生じる圧縮応力σ11と、前記表面内で前記圧縮応力σ11に垂直な方向に生じる圧縮応力σ22との比σ22/σ11が5以下の構成とする。
【0005】
本開示のプラズマ処理装置は、上記のプラズマ処理装置用部材を備える。
【発明の効果】
【0006】
本開示のプラズマ処理装置用部材は、基材に対して高い密着強度を長期間に亘って維持することができる。
【0007】
本開示のプラズマ処理装置は、信頼性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本開示の目的、特色、および利点は、下記の詳細な説明と図面とからより明確になるであろう。
【0009】
図1A】本開示の実施形態のプラズマ処理装置用部材の膜のプラズマに曝される表面を光学顕微鏡で撮影した写真である。
図1B】基材の一つの上面を膜で被覆している例を示す断面図である。
図1C】膜が、基材上に位置する第1層(下層)と、第1層(下層)上に位置する第2層(上層)とを備えている例を示す断面図である。
図2】本開示の実施形態のプラズマ処理装置用部材を得るためのスパッタ装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本開示の実施形態のプラズマ処理装置用部材が基礎とする構成について述べる。従来から、高い耐プラズマ性が求められる部材として、基材と、この基材上に酸化イットリウムからなる膜とを備えたプラズマ処理装置用部材が用いられている。
【0011】
このようなプラズマ処理装置用部材として、例えば、前述の特許文献1では、基材の表面が、純度が95質量%以上のY溶射皮膜によって被覆されているプラズマ処理容器内部材が提案されている。
【0012】
しかしながら、Y溶射皮膜は、高純度であっても、単位面積当たりに存在する気孔が多いことから、昇温、降温を繰り返す環境で用いられるても、基材に対して高い密着強度を長期間に亘って維持することが求められている。
【0013】
以下、図面を参照して、本開示のプラズマ処理装置用部材の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本開示のプラズマ処理装置用部材10は、図1A図1Cに示すように、基材5と、基材5の少なくとも一部に希土類元素の酸化物、弗化物、酸弗化物または窒化物の膜3とを備える。そして、図1Bは、基材5の一つの上面5aを膜3で被覆している例を示している。図1Cは、膜3が、基材2上に位置する第1層(下層)1と、第1層(下層)1上に位置する第2層(上層)2とを備えている例を示している。第1層1の厚みt1と、第2層2の厚みt2との比t1:t2は、例えば、4~6:6~4である。
【0015】
プラズマ処理装置用部材1は、膜3のプラズマに曝される表面内で生じる圧縮応力σ11と、表面内で圧縮応力σ11に垂直な方向に生じる圧縮応力σ22との比σ22/σ11が5以下である。
【0016】
比σ22/σ11が上記範囲であると、昇温、降温を繰り返す環境で用いられても、表面内での収縮および膨張が異方性を示さないため、長期間に亘って用いることができる。
【0017】
特に、比σ22/σ11は、0.1以上1.5以下、さらに、1.1以上1.4以下であるとよい。
【0018】
また、圧縮応力σ11および圧縮応力σ22の相加平均が200MPa以上1000MPa以下であってもよい。上記相加平均が200MPa以上であると、硬度が維持されるので、プラズマ処理装置内を浮遊するパーティクルの衝撃を受けても膜3から脱離した粒子がパーティクルとなってプラズマ処理装置内を汚染するおそれが低減する。一方、上記相加平均が1000MPa以下であると、上記環境で膜3の内部に生じる引張応力に耐えることができ、膜が破損するおそれを抑制することができる。
【0019】
また、圧縮応力σ11および圧縮応力σ22の変動係数が0.5以下であってもよい。上記変動係数が0.5以下であると、上記環境で用いられても局部的なひずみが生じにくくなるので、基材2から膜3が剥離しにくくなる。
【0020】
特に、上記変動係数は、0.3以下であるとよい。
【0021】
圧縮応力σ11および圧縮応力σ22のそれぞれの値は、X線回折装置を用いて、2D法により求め、比σ22/σ11、相加平均および変動係数は、求めた値から算出すればよい。
【0022】
プラズマに曝される膜3の表面(図1B図1Cにおける上面、以下単に表面と記載する場合がある。)は、算術平均粗さRaが0.01μm以上0.1μm以下である。また、表面には、気孔4を複数有する。
【0023】
図1Aは、気孔4a、4b、・・・を複数有している例を示している。なお、プラズマに曝される膜3の表面には、プラズマに曝され、膜の厚みが減少して新たに露出する面を含む。また、膜3の内部には、閉塞された気孔(閉気孔)6を複数有している例を示している。
【0024】
算術平均粗さRaは、JIS B 0601-2013に準拠して測定すればよい。具体的には、(株)小坂研究所製、表面粗さ測定機(サーフコーダ)SE500を用い、触針の半径を5μm、測定長さを2.5mm、カットオフ値を0.8mmとすればよい。
【0025】
なお、図1B図1Cは、膜3の存在を明確にすべく記載しているものであり、基材5および膜3の厚みの相関を忠実に表したものではない。
【0026】
そして、膜3は、希土類元素の酸化物、弗化物、酸弗化物または窒化物(以下、酸化物、弗化物、酸弗化物および窒化物を総称して化合物という。)であり、希土類元素としては、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)およびイッテルビウム(Yb)等が挙げられる。ここで、希土類元素がイットリウムであるときには、耐食性に優れていながら、他の希土類元素よりも安価なため、費用対効果が高い。
【0027】
イットリウムの化合物の組成式は、例えば、Y3-x(0≦x≦1)、YF、YOF、Y、Y、Y、Y、Y171423またはYNが挙げられる。膜3を構成する成分の同定は、薄膜X線回折装置を用いて行えばよい。
【0028】
なお、膜3は、希土類元素の化合物以外を含まないというものではなく、膜3の形成時に用いるターゲットの純度および装置構成などにより、希土類元素以外に、フッ素(F)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ストロンチウム(Sr)などが含まれる場合がある。
【0029】
基材5は、例えば、石英、透光性セラミックス、純度が99.999%(5N)以上のアルミニウム、アルミニウム6061合金等のアルミニウム合金、窒化アルミニウム質セラミックス、酸化アルミニウム質セラミックス等が挙げられる。窒化アルミニウム質セラミックスや酸化アルミニウム質セラミックスとは、例えば、酸化アルミニウム質セラミックスであれば、基材5を構成する成分の合計100質量%のうち、AlをAlに換算した値である酸化アルミニウムの含有量が90質量%以上のセラミックスのことである。
【0030】
なお、酸化アルミニウム質セラミックスは、酸化アルミニウム以外に、酸化マグネシウム、酸化カルシウムおよび酸化珪素等を含む場合がある。基材5が石英または透光性セラミックスからなる場合、リチウム(Li)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)の各含有量は、0.01質量ppm以下である。透光性セラミックスは、主成分が、例えば、酸化アルミニウムあるいはイットリルムアルミニウム複合酸化物である。
【0031】
そして、膜3は、複数の気孔4を有し、隣り合う気孔4同士の重心間距離の平均値から気孔4の円相当径の平均値を差し引いた値Aが、28μm以上48μm以下である。
【0032】
値Aが28μm以上48μm以下であるとは、気孔4の数が少なく、気孔4が小さく、気孔4が分散して存在しているということである。そのため、上記構成を満たすプラズマ処理装置用部材10は、気孔4の内部から発生するパーティクルの個数が少ない。また、気孔4を起点とするマイクロクラックが発生しても、マイクロクラックの伸展が近傍の気孔4によって遮ることができる程度に分散して存在しているため、マイクロクラックの伸展に伴って生じるパーティクルの個数が少ない。
【0033】
また、本開示の実施形態のプラズマ処理装置用部材10では、膜3における複数の気孔4の面積占有率が、1.5面積%以上6面積%以下であってもよい。気孔4の面積占有率が、1.5面積%以上6面積%以下であるときには、プラズマに曝される表面(プラズマに曝され、膜の厚みが減少して新たに露出する面を含む)においてマイクロクラックが発生しても、マイクロクラックの伸展を気孔4によって遮ることができるため、マイクロクラックに伴うパーティクルの個数が少ない。また、プラズマに曝される表面における気孔4の面積占有率が低いため、気孔4の内部から発生するパーティクルの個数がさらに少ない。
【0034】
また、本開示の実施形態のプラズマ処理装置用部材10では、膜3における気孔4の球状化率の平均値が60%以上であってもよい。気孔4の球状化率がこの範囲であるときには、気孔4の周辺部に残留応力が蓄積しににくくなっているため、プラズマに曝された際に気孔4の周辺部からパーティクルが発生しにくくなる。
【0035】
ここで、気孔4の球状化率とは、黒鉛面積法で規定される比率を転用したものであり、以下の数式(1)で規定されるものである。
【0036】
気孔の球状化率(%)=
{(気孔の実面積)/(気孔の最少外接円の面積)}×100 …(1)
【0037】
特に、気孔4の球状化率の平均値は62%以上であるとよい。
【0038】
また、気孔4同士の重心間距離の平均値、気孔4の円相当径の平均値、面積占有率および球状化率は、以下の方法で求めることができる。
【0039】
まず、デジタルマイクロスコープを用いて膜3の表面を100倍の倍率で観察し、例えば、面積が7.68mm(横方向の長さが3.2mm、縦方向の長さが2.4mm)となる範囲をCCDカメラで撮影した観察像を対象として、画像解析ソフト「A像くん(ver2.52)」(登録商標、旭化成エンジニアリング(株)製、なお、以降に画像解析ソフト「A像くん」と記した場合、旭化成エンジニアリング(株)製の画像解析ソフトを示すものとする。)を用いて分散度計測の重心間距離法という手法により気孔4の重心間距離の平均値を求めることができる。
【0040】
また、上述した観察像と同じ観察像を用いて、画像解析ソフト「A像くん」による粒子解析という手法で解析することによって、気孔4の円相当径の平均値、面積占有率および球状化率を求めることができる。
【0041】
重心間距離法および粒子解析の設定条件としては、例えば、画像の明暗を示す指標であるしきい値を140、明度を暗、小図形除去面積を1μm、雑音除去フィルタを有とすればよい。なお、上述の測定に際し、しきい値は140としたが、観察像の明るさに応じて、しきい値を調整すればよく、明度を暗、2値化の方法を手動とし、小図形除去面積を1μmおよび雑音除去フィルタを有とした上で、観察像において、しきい値によって大きさが変化するマーカーが気孔4の形状と一致するように、しきい値を調整すればよい。
【0042】
また、本開示のプラズマ処理装置用部材10では、膜3における複数の気孔4の円相当径の尖度Kuが、0.5以上2以下であってもよい。気孔4の円相当径の尖度Kuがこの範囲であるときには、気孔4の円相当径の分布が狭く、しかも、異常に大きな円相当径の気孔4が少ないため、マイクロクラックの伸展抑制効果を有しつつ、気孔4の内部から発生するパーティクルの個数が少なく、耐プラズマ性に優れる。また、成膜後において研磨を行う場合において、上記構成を満たす膜3は、偏摩耗が少ないため、最小の研磨量で所望の表面性状を形成することができる。特に、尖度Kuは1.3以上1.9以下であるとよい。
【0043】
ここで、尖度Kuとは、分布のピークと裾が正規分布からどれだけ異なっているかを示す指標(統計量)であり、尖度Ku>0である場合、鋭いピークと長く太い裾を有する分布となり、尖度Ku=0である場合、正規分布となり、尖度Ku<0である場合、分布は丸みがかったピークと短く細い尾を有する分布となる。なお、気孔4の円相当径の尖度Kuは、Excel(登録商標、Microsoft Corporation)に備えられている関数Kurtを用いて求めればよい。
【0044】
また、本開示の実施形態のプラズマ処理装置用部材10では、膜3における複数の気孔4の円相当径の歪度Skが、3以上5.6以下であってもよい。気孔4の円相当径の歪度Skがこの範囲であるときには、気孔4の円相当径の平均値が小さく、しかも、異常に大きな円相当径の気孔4が少ないため、マイクロクラックの伸展抑制効果を有しつつ、気孔4の内部から発生するパーティクルの個数が少なく、耐プラズマ性に優れる。また、成膜後において研磨を行う場合において、上記構成を満たす膜3は、偏摩耗が少ないため、最小の研磨量で所望の表面性状を形成することができる。特に、歪度Skは3.2以上5.3以下であるとよい。
【0045】
ここで、歪度Skとは、分布が正規分布からどれだけ歪んでいるか、即ち、分布の左右対称性を示す指標(統計量)であり、歪度Sk>0である場合、分布の裾は右側に向かい、歪度Sk=0である場合、分布は左右対称となり、歪度Sk<0である場合、分布の裾は左側に向かう。なお、気孔の円相当径の歪度Skは、Excel(登録商標、Microsoft Corporation)に備えられている関数SKEWを用いて求めればよい。
【0046】
また、膜の相対密度は、98%以上であってもよく、特に、99%以上であるとよい。相対密度がこの範囲であるときには、膜3は緻密質であることから、プラズマに曝され、膜3の厚みが減少しても、パーティクルの発生を抑制することができる。膜3の相対密度は、まず、薄膜X線回折装置を用いて、X線反射率測定法(XRR)で実測密度を求め、理論密度に対する実測密度の比率を求めればよい。
【0047】
また、膜3は、基材5の膜3との対向面に位置する凹部7から厚み方向に伸びる空隙部8を備え、空隙部8の先端は、膜3内で閉塞されていてもよい。ここで、凹部7とは、基材5の膜3との対向面における気孔や空隙をいい、膜3が形成される前においては、基材5の表面である。
【0048】
膜3が空隙部8を備えるときには、昇温および降温を繰り返しても残留応力の蓄積を抑制することができるとともに、空隙部8が外部に連通していないため、空隙部8内にあるパーティクルが膜3の外に排出されることがない。
【0049】
また、膜3の厚み方向に沿って断面視した空隙部8の幅は、基材5の凹部7側よりも膜3の表面側の方が狭くてもよい。このような構成であるときには、膜3がプラズマに曝され、膜厚が減少して、空隙部8の先端が開口しても、基材5の凹部7側よりも膜3の表面側の方の幅が広いときよりも、空隙部8内にあるパーティクルが膜3の外に排出しにくい。
【0050】
基材5は、石英または透光性セラミックスからなり、基材5および膜3を透過する可視光線の透過率は、75%以上92%以下であってもよい。
【0051】
プラズマ処理装置用部材が処理室に装着される窓部材である場合、可視光線の透過率が75%以上であると、処理室内の視認性が向上するので、処理室内の状況を観察することができる。異常事態が処理室内で発生したとしても、即座に対応することができる。可視光線の透過率が92%以下であると、可視光線の透過率に比例すると考えられる光沢度が低減するため、高い防眩性を得ることができる。
【0052】
本開示の実施形態における可視光線の波長は、380nm~780nmである。
【0053】
本開示の実施形態における基材5および膜3を透過する近赤外線の透過率は、80%以上92%以下であってもよい。
【0054】
プラズマ処理装置用部材が上記窓部材である場合、近赤外線の透過率が80%以上であると、例えば、赤外線レーザーを処理室内のターゲット(成膜源)に窓部材を介して照射することにより半導体ウェハー等の基板に薄膜を形成する場合、製造効率を向上させることができる。一方、近赤外線の透過率が92%以下であると、処理室内に設置された、赤外線の影響を受けやすい部材の誤作動を防ぐことができる。
【0055】
本開示の実施形態における近赤外線の波長は、780nm~2500nmである。
【0056】
基材5および膜3を透過する可視光線および近赤外線の各透過率は、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)(例えば、(株)島津製作所製、IRPrestige-21)を用いて測定すればよい。
【0057】
測定条件は、以下の通りである。
・分解能:4cm-1
・積算 :50回
・モード:透過法
・検出器:DLATGS検出器
・バックグラウンド:Air
【0058】
次に、本開示の実施形態のプラズマ処理装置用部材の製造方法について説明する。
【0059】
まず、基材の製造方法について説明する。
【0060】
平均粒径が0.4~0.6μmの酸化アルミニウム(Al)A粉末および平均粒径が1.2~1.8μm程度の酸化アルミニウムB粉末を準備する。また、Si源として酸化珪素(SiO)粉末、Ca源として炭酸カルシウム(CaCO)粉末を準備する。なお、酸化珪素粉末は、平均粒径が0.5μm以下の微粉のものを準備する。また、Mgを含むアルミナ質セラミックスを得るには、水酸化マグネシウム粉末を用いる。なお、以下の記載において、酸化アルミニウムA粉末および酸化アルミニウムB粉末以外の粉末を総称して、第1の副成分粉末と称す。
【0061】
そして、第1の副成分粉末をそれぞれ所定量秤量する。次に、酸化アルミニウムA粉末と、酸化アルミニウムB粉末とを質量比率が40:60~60:40となるように、また、得られるアルミナ質セラミックスを構成する成分100質量%のうち、AlをAl換算した含有量が99.4質量%以上となるように秤量し、酸化アルミニウム調合粉末とする。また、第1の副成分粉末について好適には、酸化アルミニウム調合粉末におけるNa量をまず把握し、アルミナ質セラミックスとした場合におけるNa量からNaOに換算し、この換算値と、第1の副成分粉末を構成する成分(この例においては、SiやCa等)を酸化物に換算した値との比が1.1以下となるように秤量する。
【0062】
そして、アルミナ調合粉末と、第1の副成分粉末と、アルミナ調合粉末および第1の副成分粉末との合計100質量部に対し、1~1.5質量部のPVA(ポリビニールアルコール)などのバインダと、100質量部の溶媒と、0.1~0.55質量部の分散剤とを攪拌装置に入れて混合・攪拌してスラリーを得る。
【0063】
その後、スラリーを噴霧造粒して顆粒を得た後、この顆粒を粉末プレス成形装置、静水圧プレス成形装置等により所定形状に成形し、必要に応じて切削加工を施して基板状の成形体を得る。
【0064】
次に、焼成温度を1500℃以上1700℃以下、保持時間を4時間以上6時間以下として焼成した後、膜を形成する側の表面を平均粒径が1μm以上5μm以下であるダイヤモンド砥粒と、錫からなる研磨盤とを用いて、研磨することにより基材を得ることができる。
【0065】
次に、膜の形成方法について、図2を用いて説明する。図2は、スパッタ装置20を示す模式図であり、スパッタ装置20は、チャンバ15と、チャンバ15内に繋がるガス供給源13と、チャンバ15内に位置する陽極14および陰極12と、さらに、陰極12側に接続されるターゲット11とを備える。
【0066】
膜の形成方法としては、上述した方法で得られた基材5をチャンバ15内の陽極14側に設置する。また、チャンバ15内の反対側に希土類元素、ここでは金属イットリウムを主成分とするターゲット11を陰極12側に設置する。この状態で、排気ポンプによりチャンバ15内を減圧状態にして、ガス供給源13からガスGとしてアルゴンおよび酸素を供給する。ここで、供給するアルゴンガスの圧力は、0.1Pa以上2Pa以下とし、酸素ガスの圧力は1Pa以上5Pa以下とする。
【0067】
ここで、圧縮応力σ11および圧縮応力σ22の相加平均が200MPa以上1000MPa以下であるプラズマ処理装置用部材を得るには、供給するアルゴンガスの圧力は、0.1Pa以上1Pa以下とし、酸素ガスの圧力は1Pa以上5Pa以下とすればよい。
【0068】
また、圧縮応力σ11および圧縮応力σ22の変動係数が0.5以下であるプラズマ処理装置用部材を得るには、供給するアルゴンガスの圧力は、0.1Pa以上0.5Pa以下とし、酸素ガスの圧力は1Pa以上5Pa以下とすればよい。
【0069】
そして、電源により陽極14と陰極12との間に電界を印加し、プラズマPを発生させてスパッタリングすることにより、基材5の表面に金属イットリウム膜を形成する。なお、1回の形成における厚みはサブnmである。次に、金属イットリウム膜の酸化工程を行う。そして、膜の厚みの合計が10μm以上200μm以下となるように、金属イットリウム膜の形成と、酸化工程とを交互に行って積層することにより、イットリウムの酸化物の膜を備えた本開示の実施形態のプラズマ処理装置用部材を得ることができる。
【0070】
また、複数の気孔の面積占有率が、1.5面積%以上6面積%以下であるプラズマ処理装置用部材を得るには、膜に対向する基材の表面における気孔の面積占有率を1面積%以上5面積%以下にしておけばよい。
【0071】
また、複数の気孔の球状化率の平均値が、60%以上であるプラズマ処理装置用部材を得るには、膜に対向する基材の表面における気孔の球状化率の平均値を62%以上にしておけばよい。
【0072】
また、複数の気孔の円相当径の尖度Kuが、0.5以上2以下であるプラズマ処理装置用部材を得るには、膜に対向する基材の表面における気孔の円相当径の尖度Kuを0.6以上1.8以下にしておけばよい。
【0073】
また、複数の気孔の円相当径の歪度Skは、3以上5.6以下であるプラズマ処理装置用部材を得るには、膜に対向する基材の表面における気孔の円相当径の歪度Skを3.1以上5.4以下にしておけばよい。
【0074】
空隙部の先端が、膜内で閉塞されているプラズマ処理装置用部材を得るには、まず、上述した製造方法で得られたイットリウムの酸化物の膜を第1層とし、第1層が形成された基材をチャンバから取り出し、第1層の成膜面を平滑化処理する。ここで、平滑化処理とは、例えば、研磨であり、平均粒径が1μm以上5μm以下であるダイヤモンド砥粒と、錫からなる研磨盤とを用いて、第1層の成膜面を研磨して処理面(研磨面)とすればよい。
【0075】
なお、基材の膜との対向面に位置する凹部から厚み方向に伸びる空隙部を備え、空隙部の先端は、膜内で閉塞されているプラズマ処理装置用部材を得るには、膜との対向面における気孔の平均径が1μm以上8μm以下の基材を用意し、第1層21の成膜面を気孔の平均径が0.1μm以上5μm以下になるように研磨すればよい。
【0076】
また、膜との対向面における気孔の平均径が1μm以上8μm以下である基材を用いて、スパッタ装置20で膜を形成すれば、膜の厚み方向に沿って断面視した空隙部の幅が、基材の凹部側よりも膜の表面側の方が狭くなり、第1層の成膜面を気孔の平均径が0.1μm以上5μm以下になるように研磨して、後述する第2層を形成すれば、空隙部は膜内で閉塞される。
【0077】
そして、第1層を得た方法と同じ方法により、第1層の処理面上に酸化イットリウムを主成分とする第2層を形成することにより、プラズマ処理装置用部材を得ることができる。
【0078】
基材および膜を透過する可視光線の透過率が75%以上92%以下であるプラズマ処理装置用部材を得るには、可視光線の透過率が87%以上99%以下の基材を用いればよい。
【0079】
基材および膜を透過する赤外線の透過率が80%以上92%以下であるプラズマ処理装置用部材を得るには、赤外線の透過率が83%以上95%以下の基材を用いればよい。
【0080】
また、イットリウムの弗化物の膜を形成するには、酸化工程を弗化工程に代えればよい。
【0081】
また、イットリウムの酸弗化物の膜を形成するには、金属イットリウム膜の形成、酸化工程および弗化工程をこの順序で交互に行って積層すればよい。
【0082】
また、イットリウムの窒化物の膜を形成するには、酸化工程を窒化工程に代えればよい。
【0083】
なお、電源から投入する電力は、高周波電力および直流電力のいずれでもよい。
【0084】
上述した製造方法で得られる本開示のプラズマ処理装置用部材は、気孔の内部から発生するパーティクルおよびマイクロクラックの伸展に伴って生じるパーティクルの個数をいずれも少なくすることができることから、例えば、プラズマを発生させるための高周波を透過させる高周波透過用窓部材、プラズマ生成用ガスを分配するためのシャワープレート、半導体ウエハーを載置するためのサセプター等であってもよい。
【0085】
本開示のプラズマ処理装置用部材は、基材に対して高い密着強度を長期間に亘って維持することができるという効果を奏する。
【0086】
本開示のプラズマ処理装置は、信頼性に優れるという効果を奏する。
【0087】
本開示は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形態で実施できる。したがって、前述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、本開示の範囲は請求の範囲に示すものであって、明細書本文には何ら拘束されない。さらに、請求の範囲に属する変形や変更は全て本開示の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0088】
1 :第1層
2 :第2層
3 :膜
4 :気孔
5 :基材
6 :気孔(閉気孔)
7 :凹部
8 :空隙部
10:プラズマ処理装置用部材
11:ターゲット
12:陰極
13:ガス供給源
14:陽極
15:チャンバ
20:スパッタ装置
図1A
図1B
図1C
図2