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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/885 20180101AFI20221207BHJP
   B60N 2/879 20180101ALI20221207BHJP
   B60N 2/75 20180101ALI20221207BHJP
【FI】
B60N2/885
B60N2/879
B60N2/75
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018190786
(22)【出願日】2018-10-09
(65)【公開番号】P2020059349
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】迫田 將裕
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 生佳
(72)【発明者】
【氏名】木幡 耕平
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-183015(JP,A)
【文献】特開2018-144758(JP,A)
【文献】特開2008-049837(JP,A)
【文献】特開2016-049853(JP,A)
【文献】特開平10-229930(JP,A)
【文献】特開2016-203789(JP,A)
【文献】実開昭64-033439(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/885
B60N 2/879
B60N 2/75
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される乗物用シートであって、
シートクッションと、
前記シートクッションの後部に設けられたシートバックと、
前記シートバックの上端に接続され、且つ乗員の頭部の後面を支持する主部、前記主部の左縁に上下を軸線とする回転可能に接続された左側部、前記主部の右縁に上下を軸線とする回転可能に接続された右側部、前記左側部を前記主部に対して前方に回転させる左駆動装置、及び前記右側部を前記主部に対して前方に回転させる右駆動装置を備えたヘッドレストと、
左右方向に加わる加速度を取得する加速度取得装置と、を有し、
前記右側部は前方に回転されたときに前記乗員の前記頭部に対向する右当接面を備え、
前記左側部は前方に回転されたときに前記乗員の前記頭部に対向する左当接面を備え、
前記右当接面及び前記左当接面それぞれに発光装置が設けられ、
前記発光装置はそれぞれ、水平に配列された複数の発光素子を含み、
前記加速度取得装置によって右方向の加速度が取得されたときに、前記右側部に設けられた前記発光装置が前記車両の右側のサイドウィンドウのオプティカルフローに対応するように発光し、
前記加速度取得装置によって左方向の加速度が取得されたときに、前記左側部に設けられた前記発光装置が前記車両の左側のサイドウィンドウのオプティカルフローに対応するように発光することを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
車両に搭載される乗物用シートであって、
シートクッションと、
前記シートクッションの後部に設けられたシートバックと、
前記シートバックの上端に接続され、且つ乗員の頭部の後面を支持する主部、前記主部の左縁に上下を軸線とする回転可能に接続された左側部、前記主部の右縁に上下を軸線とする回転可能に接続された右側部、前記左側部を前記主部に対して前方に回転させる左駆動装置、及び前記右側部を前記主部に対して前方に回転させる右駆動装置を備えたヘッドレストと、
左右方向に加わる加速度を取得する加速度取得装置と、を有し、
前記右側部は前方に回転されたときに前記乗員の前記頭部に対向する右当接面を備え、
前記左側部は前方に回転されたときに前記乗員の前記頭部に対向する左当接面を備え、
前記右当接面及び前記左当接面それぞれにディスプレイが設けられ、
前記加速度取得装置によって右方向の加速度が取得されたときに、前記車両のサイドウィンドウのオプティカルフローが前記右側部の前記ディスプレイに表示され、
前記加速度取得装置によって左方向の加速度が取得されたときに、前記車両のサイドウィンドウのオプティカルフローが前記左側部の前記ディスプレイに表示されることを特徴とする乗物用シート。
【請求項3】
前記加速度取得装置は前記シートクッション、前記シートバック、及び前記ヘッドレストのいずれか1つに支持された加速度センサであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の乗物用シート。
【請求項4】
前記加速度取得装置は前記車両に搭載され、地図情報、及び前記車両の位置を取得可能なカーナビゲーションシステムから前記地図情報、及び前記車両の位置を受信し、左右方向に加わる加速度を算出することを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1つの項に記載の乗物用シート。
【請求項5】
前記シートバックは、骨格を形成するフレームと、前記フレームを外囲する袋状の表皮材と、前記表皮材の内部に収容されたビーズ材とによって構成され、前記乗員が着座したときに、前記乗員からの荷重によって後方に凹み、且つ、前記乗員の上半身に対応する凹部が形成され、所定時間に渡って前記凹部の形状が保持されることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1つの項に記載の乗物用シート。
【請求項6】
前記シートバックの左側面及び右側面に結合し、前方に延出する左右一対のアームレストを有し、
前記アームレストはそれぞれ互いに対向する向きに膨出可能な膨出部を備え、
前記 加速度取得装置によって左右方向の加速度が取得されたときに、前記膨出部がそれぞれ膨出し、前記乗員の上半身を挟持することを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか1つの項に記載の乗物用シート。
【請求項7】
前記シートバックの左側面及び右側面のすくなくとも一方に結合し、前方に延出するアームレストを有し、
前記アームレストの少なくとも一方には前端部において上方に突出する把持部が設けられていることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか1つの項に記載の乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員の乗物酔いを防止するための乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
乗員の上半身の横揺れを抑えることのできる乗物用シートが公知である(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の乗物用シートでは、シートバックの上部が下部に比べて、乗員の上半身の左右方向への移動に対して高い支持抵抗を有するように構成されている。このように構成することで、乗物が旋回するときに乗員の上半身上部に加わる遠心力に対して、シートバックの上部から乗員の上半身に十分大きな反力を加えることができる。これにより、乗員の上半身の横揺れが防止されて、乗員が乗物酔いにかかり難くなる。
【0003】
また、乗物が旋回するときに、頭部を旋回方向内側に傾けることによって、乗物酔いが防止できることが知られている。例えば、特許文献2に記載の乗物用シートはシートクッションの左側部及び右側部を独立に隆起させる隆起部と、隆起部を制御するエアセル制御部とを備え、エアセル制御部は乗物の旋回が検知された場合に左側部および右側部のうちの旋回方向の内側に対応する方を隆起させる。このように構成することで、乗物が旋回するときに、乗物用シートに着座する乗員の骨盤のうち旋回方向内側が上方に押し上げられる。これにより、乗員に骨盤の移動と逆に上半身を移動させる姿勢、つまり頭部を旋回方向内側に傾ける姿勢を取らせることができるため、乗員の乗物酔いを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/160990号
【文献】特開2017-132364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
乗員は自分の体に加わる加速度や角速度を耳の内部にある前庭によって検知する。よって、乗物酔いを低減するためには乗員の頭部の姿勢を制御すればよい。一方、特許文献1及び特許文献2の乗物用シートでは乗員の上半身の移動や傾きが制御されるため、機構が大がかりになるという問題がある。
【0006】
本発明は、以上の背景を鑑み、乗物用シートにおいて、より簡素な構成によって、乗員の頭部の姿勢を制御し、乗員の乗物酔いを低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、車両(S)に搭載される乗物用シート(1、41、51、61、71、81)であって、シートクッション(8)と、前記シートクッションの後部に設けられたシートバック(9、62)と、前記シートバックの上端に接続され、且つ乗員の頭部の後面を支持する主部(15)と、前記主部の左縁に上下を軸線とする回転可能に接続された左側部(16L)と、前記主部の右縁に上下を軸線とする回転可能に接続された右側部(16R)と、前記左側部を前記主部に対して前方に回転させる左駆動装置(20L)と、前記右側部を前記主部に対して前方に回転させる右駆動装置(20R)とを備えたヘッドレスト(10)と、左右方向に加わる加速度を取得する加速度取得装置(22、54)と、前記加速度取得装置によって右方向の加速度が取得されたときに、前記右駆動装置に前記右側部が前記乗員の前記頭部の右側に位置するまで前方に回転させ、前記加速度取得装置によって左方向の加速度が取得されたときに、前記左駆動装置に前記左側部が前記乗員の前記頭部の左側に位置するまで前方に回転させる制御装置(23)とを有することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、乗員に右方向に加速度が加わったときに、右側部が乗員の頭部の右方に位置するまで回転する。これにより、右側部によって乗員の頭部の遠心力による右方への移動が規制される。乗員に左方向に加速度が加わったときに、左側部が乗員の頭部の左方に位置するまで回転する。これにより、左側部によって乗員の頭部の遠心力による左方への移動が規制される。このように、乗員の頭部の移動が規制されて、乗員の頭部の姿勢が制御される。これにより、乗員の頭部の姿勢が安定し、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【0009】
また、上記の態様において、前記右側部は前方に回転されたときに前記乗員の前記頭部に対向する右当接面(19R)を備え、前記左側部は前方に回転されたときに前記乗員の前記頭部に対向する左当接面(19L)を備え、前記制御装置は、前記加速度取得装置によって右方向の加速度が取得されたときに、前記右当接面が前記頭部の右側面に当接するまで前記右側部を回転させ、前記加速度取得装置によって左方向の加速度が取得されたときに、前記左当接面が前記頭部の左側面に当接するまで前記左側部を回転させるとよい。
【0010】
この構成によれば、乗員に右方向に加速度が加わったときに、右側部が右当接面において頭部の右側面に当接し、乗員の頭部を右側から支持する。同様に、乗員に左方向に加速度が加わったときに、左側部が左当接面において頭部の左側面に当接し、乗員の頭部を左側から支持する。このように、乗員に左右方向に加速度が加わったときに、右側部及び左側部がそれぞれ当接面において乗員の頭部を支持するため、乗員の頭部の姿勢がより安定する。
【0011】
また、上記の態様において、前記右当接面及び前記左当接面にはそれぞれ発光装置(43L、43R)が設けられ、前記発光装置はそれぞれ、略水平に配列された複数の発光素子(44L、44R)を含み、前記右側部が前記頭部の右側に配置されたときに、前記車両の右側のサイドウィンドウ(5)のオプティカルフローに対応するように前記右側部に設けられた前記発光装置(43R)が発光し、前記左側部が前記頭部の左側に配置されたときに、前記車両の左側のサイドウィンドウのオプティカルフローに対応するように前記左側部に設けられた前記発光装置(44L)が発光するとよい。
【0012】
この構成によれば、乗員に左右方向に加速度が加わったときに、乗員の側方にサイドウィンドウのオプティカルフローに対応するように発光する発光装置が配置される。これにより、乗員が視覚を介して車両の加速度に関する情報を取得することができる。よって、耳の内部にある前庭によって検知する加速度と視覚によって取得される加速度との差異が小さくなるため、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【0013】
また、上記の態様において、前記右当接面及び前記左当接面にはそれぞれディスプレイ(21L、21R)が設けられ、前記右側部が前記頭部の右側に配置されたときに、車両のサイドウィンドウのオプティカルフローが前記右側部の前記ディスプレイ(21R)に表示され、前記左側部が前記頭部の左側に配置されたときに、車両のサイドウィンドウのオプティカルフローが前記左側部の前記ディスプレイ(21L)に表示されるとよい。
【0014】
この構成によれば、乗員が視覚によって車両の加速度に関する情報を取得することができる。これにより、前庭によって検知される加速度と視覚によって取得される加速度との差異が小さくなるため、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【0015】
また、上記の態様において、前記加速度取得装置は前記シートクッション、前記シートバック、及び前記ヘッドレストのいずれか1つに支持された加速度センサであるとよい。
【0016】
この構成によれば、乗員の身体に加わる加速度をより正確に且つ簡素に取得することができる。
【0017】
また、上記の態様において、前記加速度取得装置(54)は、前記車両(53)に搭載され、地図情報、及び前記車両の位置を取得可能なカーナビゲーションシステム(52)から前記地図情報、及び前記車両の位置を受信し、前記加速度を算出するとよい。
【0018】
この構成によれば、乗員に加わる加速度を地図情報、及び車両の位置に基づいて予測することができ、予測された加速度に基づいて左側部及び右側部を変位させることができる。これにより、遠心力が加わる瞬間に合わせて左側部及び右側部を変位させ、乗員の頭部の移動をより確実に規制することができるため、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【0019】
また、上記の態様において、前記シートバックは、骨格を形成するフレーム(63)と、前記フレームを外囲する袋状の表皮材(54)と、前記表皮材の内部に収容されたビーズ材(65)とによって構成され、前記乗員が着座したときに、前記乗員からの荷重によって後方に凹み、且つ、前記乗員の上半身に対応する凹部(66)が形成され、所定時間に渡って前記凹部の形状が保持されるとよい。
【0020】
この構成によれば、乗員が着座したときに、シートバックに乗員の上半身に対応する形状の凹部が形成されて、その形状が保持される。よって、乗員が着座すると、その上半身は凹部に収容されて、乗員の上半身の左右方向への移動が規制される。これにより、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【0021】
また、上記の態様において、前記シートバックの左側面及び右側面に結合し、前方に延出する左右一対のアームレスト(72L、72R)を有し、前記アームレストはそれぞれ互いに対向する向きに膨出可能な膨出部(73L、73R)を備え、前記制御装置は前記加速度取得装置によって左右方向の前記加速度が取得されたときに、前記膨出部をそれぞれ膨出させて前記乗員の上半身を挟持させるとよい。
【0022】
この構成によれば、乗員に左右方向の加速度が加わったときに、膨出部が膨出して乗員の上半身の左右方向への移動が規制される。これにより、乗員の姿勢が安定し、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【0023】
また、上記の態様において、前記シートバックの左側面及び右側面のすくなくとも一方に結合し、前方に延出するアームレスト(82L)を有し、前記アームレストの少なくとも一方には前端部において上方に突出する把持部(83)が設けられているとよい。
【0024】
この構成によれば、アームレストの前端部には上方に突出する把持部が設けられる。これにより、乗員は左右方向に加速度が加わったときに、把持部を把持して自らの姿勢を安定させることができるため、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の一態様によれば、車両に搭載される乗物用シートであって、シートクッションと、シートクッションの後部に設けられたシートバックと、シートバックの上端に接続され、且つ乗員の頭部の後面を支持する主部と、主部の左縁に上下を軸線とする回転可能に接続された左側部と、主部の右縁に上下を軸線とする回転可能に接続された右側部と、左側部を主部に対して前方に回転させる左駆動装置と、右側部を主部に対して前方に回転させる右駆動装置とを備えたヘッドレストと、左右方向に加わる加速度を取得する加速度取得装置と、加速度取得装置によって右方向の加速度が取得されたときに、右駆動装置に右側部が乗員の頭部の右側に位置するまで前方に回転させ、加速度取得装置によって左方向の加速度が取得されたときに、左駆動装置に左側部が乗員の頭部の左側に位置するまで前方に回転させる制御装置とを有する構成によれば、乗員に右方向に加速度が加わったときに、右側部が乗員の頭部の右方に位置するまで回転する。これにより、右側部によって乗員の頭部の遠心力による右方への移動が規制される。乗員に左方向に加速度が加わったときに、左側部が乗員の頭部の左方に位置するまで回転する。これにより、左側部によって乗員の頭部の遠心力による左方への移動が規制される。このように、乗員の頭部の移動が規制されて、乗員の頭部の姿勢が制御される。これにより、乗員の頭部の姿勢が安定し、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【0026】
また、上記の態様において、右側部は前方に回転されたときに乗員の頭部に対向する右当接面を備え、左側部は前方に回転されたときに乗員の頭部に対向する左当接面を備え、制御装置は、加速度取得装置によって右方向の加速度が取得されたときに、右当接面が頭部の右側面に当接するまで右側部を回転させ、加速度取得装置によって左方向の加速度が取得されたときに、左当接面が頭部の左側面に当接するまで左側部を回転させる構成によれば、乗員に右方向に加速度が加わったときに、右側部が右当接面において頭部の右側面に当接し、乗員の頭部を右側から支持する。同様に、乗員に左方向に加速度が加わったときに、左側部が左当接面において頭部の左側面に当接し、乗員の頭部を左側から支持する。このように、乗員に左右方向に加速度が加わったときに、右側部及び左側部がそれぞれ当接面において乗員の頭部を支持するため、乗員の頭部の姿勢がより安定する。
【0027】
また、上記の態様において、前記右当接面及び前記左当接面にはそれぞれ発光装置が設けられ、前記発光装置はそれぞれ、略水平に配列された複数の発光素子を含み、右側部が頭部の右側に配置されたときに、車両の右側のサイドウィンドウのオプティカルフローに対応するように右側部に設けられた発光装置が発光し、左側部が頭部の左側に配置されたときに、車両の左側のサイドウィンドウのオプティカルフローに対応するように左側部に設けられた発光装置が発光する構成によれば、左右方向に加速度が加わったときに、乗員の側方にサイドウィンドウのオプティカルフローに対応するように発光する発光装置が配置される。これにより、乗員が視覚を介して車両の加速度に関する情報を取得することができる。よって、耳の内部にある前庭によって検知する加速度と視覚によって取得される加速度との差異が小さくなるため、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【0028】
また、上記の態様において、右当接面及び左当接面にはそれぞれディスプレイが設けられ、右側部が頭部の右側に配置されたときに、車両のサイドウィンドウのオプティカルフローが右側部のディスプレイに表示され、左側部が頭部の左側に配置されたときに、車両のサイドウィンドウのオプティカルフローが左側部のディスプレイに表示される構成によれば、乗員が視覚によって車両の加速度に関する情報を取得することができる。これにより、前庭によって検知される加速度と視覚によって取得される加速度との差異が小さくなるため、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【0029】
また、上記の態様において、加速度取得装置はシートクッション、シートバック、及びヘッドレストのいずれか1つに支持された加速度センサである構成によれば、乗員の身体に加わる加速度をより正確に且つ簡素に取得することができる。
【0030】
また、上記の態様において、加速度取得装置は車両に搭載され、地図情報、及び前記車両の位置を取得可能なカーナビゲーションシステムから地図情報、及び車両の位置を受信し、加速度を算出する構成によれば、乗員に加わる加速度を地図情報、及び車両の位置に基づいて予測することができ、予測された加速度に基づいて左側部及び右側部を変位させることができる。これにより、遠心力が加わる瞬間に合わせて左側部及び右側部を変位させ、乗員の頭部の移動をより確実に規制することができるため、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【0031】
また、上記の態様において、シートバックは、骨格を形成するフレームと、フレームを外囲する袋状の表皮材と、表皮材の内部に収容されたビーズ材とによって構成され、乗員が着座したときに、乗員からの荷重によって後方に凹み、且つ、乗員の上半身に対応する凹部が形成され、所定時間に渡って凹部の形状が保持される構成によれば、乗員が着座したときに、シートバックに乗員の上半身に対応する形状の凹部が形成されて、その形状が保持される。よって、乗員が着座すると、その上半身は凹部に収容されて、乗員の上半身の左右方向への移動が規制される。これにより、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【0032】
また、上記の態様において、シートバックの左側面及び右側面に結合し、前方に延出する左右一対のアームレストを有し、アームレストはそれぞれ互いに対向する向きに膨出可能な膨出部を備え、制御装置は加速度取得装置によって左右方向の加速度が取得されたときに、膨出部をそれぞれ膨出させて乗員の上半身を挟持させる構成によれば、乗員に左右方向の加速度が加わったときに、膨出部が膨出して乗員の上半身の左右方向への移動が規制される。これにより、乗員の姿勢が安定し、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【0033】
また、上記の態様において、シートバックの左側面及び右側面のすくなくとも一方に結合し、前方に延出するアームレストを有し、アームレストの少なくとも一方には前端部において上方に突出する把持部が設けられている構成によれば、アームレストの前端部には上方に突出する把持部が設けられる。これにより、乗員は左右方向に加速度が加わったときに、把持部を把持して自らの姿勢を安定させることができるため、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】第1実施形態に係る乗物用シートの斜視図
図2】第1実施形態に係る乗物用シートのヘッドレストの平面図
図3】第1実施形態に係る乗物用シートのヘッドレストの正面図
図4】第1実施形態に係る乗物用シートの右側部が支持位置にあるときのヘッドレストの側面図
図5】車酔い防止処理のフローチャート
図6】第2実施形態に係る乗物用シートのヘッドレストの正面図
図7】第2実施形態に係る乗物用シートの右側部が支持位置にあるときのヘッドレストの側面図
図8】第3実施形態に係る乗物用シートが搭載された車両の側面図
図9】第4実施形態に係る乗物用シートのシートバックの水平断面図
図10】第5実施形態に係る(A)乗物用シートの正面図、及び(B)アームレストに設けられたエアセルが膨張したときの乗物用シートの正面図
図11】第6実施形態に係る乗物用シートの斜視図
図12】第1実施形態に係る乗物用シートをリアシートに適用した場合の斜視図
図13】第1実施形態に係る乗物用シートの変形例の上面図
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して、本発明に係る乗物用シートを自動車等の車両のシートに配置した実施形態を説明する。
【0036】
<<第1実施形態>>
図1に示すように、乗物用シート1は自動車等の車両Sに搭載される。乗物用シート1は車室2の底部を画定するフロア3上において、運転席の側方に配置されて助手席(アシスタントシート)を構成している。運転席及び助手席の車外側には、乗員が車両Sに乗り降りをするためのドア4が設けられている。ドアにはそれぞれ乗員が車両Sの左右側方を視認するためのサイドウィンドウ5と、サイドウィンドウ5を介して車両Sの左右外方の画像を所定時間毎に連続して取得するカメラ6とが設けられている。以下では、車両Sの前後方向を基準として、前後、左右、及び上下の方向を記載する。また、車両Sの左側のドア4に設けられたカメラを左カメラ6Lと記載し、車両Sの右側のドア4に設けられたカメラを右カメラと記載する。
【0037】
乗物用シート1は着座者の臀部を支持するシートクッション8と、シートクッション8の後部に設けられ、背凭れとして機能するシートバック9と、各シートバック9の上部に設けられたヘッドレスト10とを備えている。
【0038】
シートクッション8は略上下方向を向く面を有する略直方体状をなしている。シートクッション8の上面は乗員1人分の着座面11を構成している。着座面11は左右方向略中央において下方に凹み、前後方向において後方に向かってやや下方に傾斜している。これにより、着座面11は乗員の臀部及び大腿部に対応する形状をなしている。乗員が着座するときには、着座面11には乗員の臀部及び大腿部が配置される。
【0039】
シートバック9は上下に延び、略前後方向を向く面を有する略直方体状をなしている。シートバック9の前面はそれぞれ乗員の背中を支持する支持面12を構成している。支持面12は左右方向略中央において後方に凹み、上方に向かってやや後方に傾斜している。これにより、支持面12は乗員の背中に対応する形状をなし、支持面12に乗員の背中が支持される。
【0040】
シートバック9はその下端において、公知のリクライニング機構を介して、シートクッション8の後端に回動可能に枢支されている。すなわち、シートバック9はそれぞれ下端において、シートクッション8の後端に前倒可能且つ後倒可能に結合されている。
【0041】
ヘッドレスト10はいわゆるバタフライ式のものであり、シートバック9の上端に2つのピラー13を介して接続された主部15と、主部15の左側に設けられた左側部16Lと、主部の右側に設けられた右側部16Rとを有している。主部15は略前方を向き、略方形をなす面を備えている。主部15はその面(以下、主当接面17)において着座した乗員の頭部の後面に当接し、乗員の頭部の後面を後方から支持する。
【0042】
右側部16Rは略直方体状をなしている。図2に示すように、右側部16Rは1つの稜線において、主当接面17の右縁にヒンジ18Rを介して接続され、主部15に対して上下方向を軸線として回転可能に接続されている。これにより、右側部16Rは1つの壁面(以下、右当接面19R)が略前方を向き、主当接面17に連続する使用位置(二点鎖線)と、右当接面19Rが左方を向き、乗員の頭部の右側に位置する支持位置(実線)との間で変位可能となっている。右側部16Rが支持位置にあるとき、右当接面19Rと主当接面17とのなす角度は85度以上105度以下であることが好ましく、本実施形態では約95度となっている。ヒンジ18Rには右側部16Rを使用位置に向かって付勢するコイルばね(図示せず)が設けられている。
【0043】
左側部16Lは略直方体状をなしている。左側部16Lは1つの稜線において主当接面17の左縁にヒンジ18Lを介して接続され、主部15に対して上下方向を軸線として回転可能に接続されている。これにより、左側部16Lは1つの壁面(以下、左当接面19L)が略前方を向き、主当接面17に連続する使用位置と、左当接面19Lが右方を向き、乗員の頭部の左方に位置する支持位置との間で変位可能となっている。左側部16Lが支持位置にあるとき、左当接面と主当接面とのなす角度は85度以上105度以下であることが好ましく、本実施形態では約95度となっている。ヒンジ18Lには左側部16Lを使用位置に向かって付勢するコイルばね(図示せず)が設けられている。
【0044】
主部15と左側部16Lとの間には、左側部16Lを主部15に対して回転させるアクチュエータ(以下、左駆動装置20L)が設けられ、主部15と右側部16Rとの間には、右側部16Rを主部15に対して回転させるアクチュエータ(以下、右駆動装置20R)が設けられている。本実施形態では、図2に示すように、左駆動装置20L、及び右駆動装置20Rはそれぞれ対応する主部15の左側部分及び右側部分にそれぞれ上下方向を軸線とする回動可能に支持されている。左駆動装置20L、及び右駆動装置20Rはそれぞれ伸縮自在であり、図2に示すように、左駆動装置20Lの伸縮によって、左側部16Lはヒンジ18Lの軸線を中心として回転し、使用位置(二点鎖線)と支持位置(実線)との間で変位する。右駆動装置20Rの伸縮によっても同様に、右側部16Rは使用位置と支持位置との間で変位する。
【0045】
図3に示すように、左側部16Lの左当接面19Lと、右側部16Rの右当接面19Rとにはそれぞれディスプレイ21L、21Rが設けられている。ディスプレイ21L、21Rはそれぞれ薄膜状のいわゆる有機ELディスプレイであり、左当接面19L及び右当接面19Rにそれぞれ接着されている。以下では、左側部16Lに設けられたディスプレイを左ディスプレイ21Lと記載し、右側部16Rに設けられたディスプレイを右ディスプレイ21Rと記載する。
【0046】
主部15の下面には主部15に加わる左右方向の加速度を取得する加速度センサ22(加速度取得装置)が設けられている。加速度センサ22は本実施形態ではいわゆる半導体式のものあり、静電容量型やピエゾ抵抗型のいずれのセンサであってもよい。加速度センサ22は主部15の右方に向く加速度が取得されたときには加速度を正の値として出力し、主部15の左方に向く加速度が取得されたときには加速度を負の値として出力する。このように、加速度センサ22を主部15に設けることで、加速度センサ22をより乗員の頭部に近接した位置に配置することができる。これにより、乗員の頭部に加わる加速度をより正確に取得することができる。
【0047】
図2に示すように、主部15の背面には制御装置23が設けられている。制御装置23は中央演算処理装置(CPU)や記憶装置(メモリ)等を備えたマイクロコンピュータであり、左カメラ6L、右カメラ、加速度センサ22、左駆動装置20L、右駆動装置20R、左ディスプレイ21L、及び右ディスプレイ21Rに接続されている。より具体的には、制御装置23は加速度センサ22、左カメラ6L及び右カメラからの信号が入力される入力部と、左駆動装置20L、右駆動装置20R、左ディスプレイ21L及び右ディスプレイ21Rのそれぞれに信号を出力する出力部と、左カメラ6L及び右カメラにおいて所定時間毎に取得した複数枚の画像からそれぞれオプティカルフローを算出するオプティカルフロー算出部とを備えている。オプティカルフローとは所定時間毎に取得された複数枚の画像から画像上の複数の特徴点を抽出しそれぞれの特徴点の位置とその時間的な変化とを、各位置を基点とするベクトルを用いてベクトル場として表現したものである。オプティカルフロー算出部は制御装置23のメモリに保存され、CPUによって実行される公知のソフトウエアによって構成されているとよい。
【0048】
制御装置23は車両Sが走行しているときに乗物酔い防止処理を所定の時間毎に(より詳細には約0.05秒毎に)実行する。以下では、図5を参照して、乗物酔い防止処理の詳細を説明する。但し、車両Sが走行を開始したときには、左側部16L及び右側部16Rはそれぞれ使用位置にあるものとする。
【0049】
図5に示すように、乗物酔い防止処理の最初のステップST1において、制御装置23は加速度センサ22から加速度aを取得する。次に、制御装置23は加速度aが正の値(a>0)であるか(すなわち、加速度センサ22によって右方向の加速度が取得されたか)を判定する。加速度aが正の値であるときには、ステップST3を実行し、それ以外のときはステップST2を実行する。
【0050】
ステップST2において、制御装置23は加速度aが負の値(a<0)であるか(すなわち、加速度センサ22によって左方向の加速度が取得されたか)を判定する。加速度aが負の値であるときには、ステップST4を実行し、それ以外(すなわち、加速度が0)であるときにはステップST5を実行する。
【0051】
ステップST3において、制御装置23は右側部16Rが支持位置にあり、且つ、左側部16Lが使用位置にあるかを判定する。右側部16Rが支持位置にあり、且つ、左側部16Lが使用位置にある場合には、制御装置23はステップST7を実行し、それ以外のときにはステップST6を実行する。
【0052】
ステップST6において、制御装置23は右駆動装置20Rを駆動させて、右側部16Rを使用位置から支持位置に変位させる。これにより、右側部16Rは乗員の頭部の右側に位置するまで前方に回転する。また、制御装置23は、左駆動装置20Lを駆動させて左側部16Lを支持位置から使用位置に変位させる。その後、制御装置23はステップST7を実行する。
【0053】
ステップST7において、制御装置23は右カメラによって所定時間毎に取得された複数枚の画像からオプティカルフローを算出し、右ディスプレイ21Rに表示する。右ディスプレイ21Rには、車両Sの右側のサイドウィンドウ5を介して乗員が視認することのできる風景の流れを示す矢印が複数表示される。例えば、図4に示すように、車両Sが前方に走行しているときには風景は後方に流れるため、右ディスプレイ21Rには後方に向く矢印が複数表示される。右ディスプレイ21Rの表示が完了すると、制御装置23は車酔い防止処理を完了する。
【0054】
ステップST4において、制御装置23は右側部16Rが使用位置にあり、且つ、左側部16Lが支持位置にあるかを判定する。右側部16Rが使用位置にあり、且つ、左側部16Lが支持位置にある場合には、制御装置23はステップST10を実行し、それ以外のときにはステップST9を実行する。
【0055】
ステップST9において、制御装置23は左駆動装置20Lを駆動させて、左側部16Lを使用位置から支持位置に変位させる。これにより、左側部16Lは乗員の頭部の右側に位置するまで前方に回転する。また、制御装置23は、右駆動装置20Rを駆動させて右側部16Rを支持位置から使用位置に変位させる。その後、制御装置23はステップST10を実行する。
【0056】
ステップST10において、制御装置23は左カメラ6Lによって所定時間毎に取得された複数枚の画像からオプティカルフローを算出し、左ディスプレイ21Lに表示する。左ディスプレイ21Lには車両Sの左側のサイドウィンドウ5を介して乗員が視認することのできる風景の流れを示す矢印が複数表示される。表示が完了すると、制御装置23は車酔い防止処理を完了する。
【0057】
ステップST5において、制御装置23は右側部16Rが使用位置にあり、且つ、左側部16Lが使用位置にあるかを判定する。右側部16Rが使用位置にあり、且つ、左側部16Lが使用位置にある場合には制御装置23は乗物酔い防止処理を完了し、それ以外の場合には、ステップST8を実行する。
【0058】
ステップST8において、制御装置23は右駆動装置20Rを駆動させて右側部16Rを使用位置に移動させ、左駆動装置20Lを駆動させて左側部16Lを使用位置に変位させる。その後、左ディスプレイ21L及び右ディスプレイ21Rを消灯し、制御装置23は乗物酔い防止処理を完了する。
【0059】
次にこのように構成した乗物用シート1の効果について説明する。加速度センサ22によって右方向に向く加速度が検知されると、制御装置23はステップST3及びステップST6を順に実行し、右側部16Rを支持位置に移動させる。これにより、右側部16Rが乗員の頭部の右方に位置するまで回転し、乗員の頭部の遠心力による右方への移動が規制される。本実施形態では、更に、右側部16Rの右当接面19Rが頭部の右側面に当接する位置まで回転するため、頭部の右側面と右当接面19Rとが接触し、頭部の右方への移動がより確実に規制される。
【0060】
加速度センサ22によって左方向に向く加速度が検知されると、制御装置23はステップST4及びステップST9を順に実行し、左側部16Lを支持位置に移動させる。これにより、左側部16Lの左当接面19Lが乗員の頭部の左方に位置するまで回転し、乗員の頭部の遠心力による左方への移動が規制される。本実施形態では、更に、左側部16Lの左当接面19Lが頭部の左側面に当接する位置まで回転するため、頭部の左側面と左当接面19Lとが接触し、頭部の左方への移動がより確実に規制される。このように、右側部16R及び左側部16Lの移動によって、乗員の頭部の遠心力による移動が防止されるため、乗員の頭部の姿勢が安定する。これにより、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【0061】
右側部16Rが頭部の右側に配置されたときには、車両Sの右側のサイドウィンドウ5を介して右カメラが取得した画像に対応するオプティカルフローが右ディスプレイ21Rに表示される。車両Sの速度や加速度に合わせて右カメラが取得する画像は変化するため、右ディスプレイ21Rの表示は概ね車両の前後方向の速度や加速度に対応する。同様に、左側部16Lが頭部の左側に配置されたときには、左ディスプレイ21Lには車両Sの左側のサイドウィンドウ5を介して左カメラ6Lが取得した画像に対応するオプティカルフローが表示され、その表示は概ね車両Sの前後方向の速度や加速度に対応する。よって、乗員は、右ディスプレイ21Rや左ディスプレイ21Lを介して、視覚を通じて車両Sの前後方向の速度や加速度に関する情報を取得できる。これにより、例えば、乗員が車室2の内部の様子のみを視覚を通じて取得している場合に比べて、耳の内部にある前庭によって検知する加速度と視覚によって取得される加速度との差異が小さくなるため、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【0062】
<<第2実施形態>>
第2実施形態に係る乗物用シート41は、図6及び図7に示すように、第1実施形態に比べて、左ディスプレイ21Lの代わりに左発光装置43Lが設けられ、右ディスプレイ21Rの代わりに右発光装置43Rが設けられている点と、乗物酔い防止処理のステップST5、ステップST6、ステップST8及びステップST9のみが異なり、他の構成については第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0063】
右発光装置43Rは右当接面19Rに沿って略水平に配列された複数のLED素子44L(発光素子)を含む。左発光装置43Lは左当接面19Lに沿って車幅方向に配列された複数のLED素子44R(発光素子)を含む。右発光装置43R及び左発光装置43Lはそれぞれ制御装置23に接続されている。制御装置23は右発光装置43R及び左発光装置43Lに含まれるLED素子44L、44Rそれぞれの発光、及びそのタイミングを制御することができる。
【0064】
制御装置23はステップST5において、右側部16Rを支持位置に移動させ、左側部16Lを使用位置に移動させる。その後、右発光装置43Rの中で、最も前方に位置するLED素子を発光させる。
【0065】
制御装置23はステップST6において、右カメラで取得した画像の中から特徴点の移動を示すベクトルの大きさを求め、全てのベクトルの大きさの平均を算出することにより、車両Sの速度を算出する。次に、制御装置23は、ステップST6を実行するときに右発光装置43Rの中で点灯しているLED素子の位置から、算出された車両Sの速度に基づいて、発光すべきLED素子を選択する。制御装置23は車両Sの速度が増加すると、点灯しているLED素子の位置から、より後方に位置するLED素子を発光すべきLED素子として選択するように構成してもよく、国際公開第2017/176920号に基づいて定めてもよい。制御装置23は、ステップST6を実行する前に点灯していたLED素子を消灯させて、選択された発光すべきLED素子を発光させる。これにより、車両Sの速度に応じて、右発光装置43Rの発光位置が後方に流れるように移動することになる(図7参照)。
【0066】
制御装置23はステップST8において、左側部16Lを支持位置に移動させ、右側部16Rを使用位置に移動させる。その後、左発光装置43Lの中で、最も前方に位置するLED素子を発光させる。
【0067】
制御装置23はステップST9において、左カメラ6Lで取得した画像の中から特徴点の移動を示すベクトルの大きさを求め、全てのベクトルの大きさの平均を算出することにより、車両Sの速度を算出する。次に、制御装置23は、ステップST8を実行するときに点灯しているLED素子の位置から、算出された車両Sの速度に基づいて、発光すべきLED素子を選択する。更に、制御装置23は、ステップST8を実行する前に点灯していたLED素子を消灯させて、選択された発光すべきLED素子を発光させる。これにより、車両Sの速度に応じて、左発光装置43Lの発光位置が後方に流れるように移動することになる。
【0068】
このように構成した乗物用シート41の効果について説明する。乗員に右側(左側)に向く加速度が加わったときには、右側部16R(左側部16L)が頭部の右側(左側)に配置される。更に、右側部16R(左側部16L)に設けられた右発光装置43R(左発光装置43L)の発光位置が車両Sの後方に流れるように移動する。これにより、乗員は視覚を通じて車両Sの速度や加速度に関する情報を取得できるため、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【0069】
<<第3実施形態>>
第4実施形態に係る乗物用シート51は図8に示すようにカーナビゲーションシステム52を備えた車両53に設けられる。カーナビゲーションシステム52はGPSやインターネットを介して地図情報、及び車両53の位置を取得可能に構成されている。また、第4実施形態に係る乗物用シート51は加速度センサ22を備えておらず、代わりに制御装置23にカーナビゲーションシステム52から地図情報、及び車両53の位置を受信して、車両53に加わる左右方向の加速度を算出する加速度取得装置54が設けられている。それ以外の構成については、第4実施形態に係る乗物用シート51は第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0070】
加速度取得装置54は制御装置23のメモリに保存され、CPUによって実行されるソフトウエアとして構成されている。加速度取得装置54は、カーナビゲーションシステム52から地図情報及び車両53の位置を受信して、受信した地図情報及び車両53の位置に基づいて、所定時間後に乗員に加わると予測される左右方向の加速度を算出する。制御装置23は加速度取得装置54によって算出された加速度に基づいて、左側部16L及び右側部16Rを変位させる。
【0071】
このように構成した乗物用シート51の効果について説明する。加速度取得装置54によって算出された加速度、すなわち、乗員に加わると予測される加速度に基づいて、制御装置23は左側部16L及び右側部16Rを変位させることができる。これにより、乗員の頭部に遠心力が加わる瞬間に合わせて、左側部16L及び右側部16Rを移動させることができるため、乗員の頭部の遠心力による移動をより確実に防止できる。これにより、乗員の頭部の姿勢がより安定し、乗員の乗物酔いをより確実に低減することができる。
【0072】
<<第4実施形態>>
第4実施形態に係る乗物用シート61はシートバック62の構成のみが異なり、他は第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。図9には乗物用シート61のシートバック62の水平断面が示されている。図9に示すように、シートバック62は、骨格を形成するフレーム63と、フレーム63を外囲する袋状の表皮材64と、表皮材の内部に収容されたビーズ材65とによって構成されている。乗員が着座すると、乗員からの荷重によってシートバック62の前面は後方に凹み、且つ、乗員の上半身に対応する凹部66が形成される。凹部66の形状は乗員が退座した後、所定時間に渡って保持される。
【0073】
このように構成した乗物用シート61の効果について説明する。乗員が一旦着座すると、シートバック62には乗員の上半身の形状に対応する凹部66が形成される。乗員が退座した後も所定時間に渡って、その凹部66の形状が保持される。次に乗員が着座したときには、その上半身は凹部66の壁面に密着するため、乗員の左右方向への移動がより確実に規制され、乗員の姿勢が安定する。これにより、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【0074】
<<第5実施形態>>
第5実施形態に係る乗物用シート71は、図10(A)に示すように、シートバック9の左右側面から前方に延出するアームレスト72L、72Rを備え、制御装置23が乗物酔い防止処理のステップST6、ステップST8及びステップST9において実行する処理が第1実施形態と異なるが、それ以外の構成については第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0075】
左右のアームレスト72L、72Rはそれぞれ、シートバック9の左右側面に結合され、前方に延出する角柱状をなしている。左右のアームレスト72L、72Rはそれぞれ互いに対向する面に設けられた袋体であるエアセル73L、73R(膨出部)と、アームレスト72L、72Rの内部に収容され、エアセル73L、73Rの内部に圧縮空気を注入・排出するエアセル制御部74L、74Rとを備えている。エアセル73L、73Rはそれぞれ圧縮空気が封入されることで互いに対向する方向に膨出し、乗員の上半身を挟持する。エアセル73L、73Rは圧縮空気が排出されることで収縮する。制御装置23はエアセル制御部74L、74Rのそれぞれに接続され、エアセル73L、73Rの膨張・収縮を制御することができる。
【0076】
制御装置23はステップST6において右側部16Rを支持位置に、左側部16Lを使用位置にそれぞれ移動させるとともに、エアセル制御部74L、74Rを制御して、エアセル73L、73Rにそれぞれ圧縮空気を注入させて、エアセル73L、73Rを膨張させる。これにより、図10(B)に示すように、乗員の上半身はエアセル73L、73Rによって挟持されて、その状態で維持される。制御装置はステップST8において、右側部16R及び左側部16Lをそれぞれ使用位置に移動させるとともに、エアセル制御部74L、74Rにエアセル73L、73Rの内部の圧縮空気を排出させ、エアセル73L、73Rを収縮させる。制御装置はステップST9において、右側部16Rを使用位置に、左側部16Lを支持位置にそれぞれ移動させるとともに、エアセル制御部74L、74Rを制御して、エアセル73L、73Rにそれぞれ圧縮空気を注入させて、エアセル73L、73Rを膨張させる。これにより、乗員の上半身はエアセル73L、73Rによって挟持されて、その状態で維持される。
【0077】
このように構成した乗物用シート71の効果について説明する。乗員に左右方向に加速度が加わるとエアセル73L、73Rが膨張し、乗員の上半身がエアセル73L、73Rによって挟持され、その状態で維持される。これにより、乗員の姿勢が安定するため、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【0078】
<<第6実施形態>>
第6実施形態に係る乗物用シート81は、図11に示すように、シートバック9の左側面及び右側面それぞれに前方に延出するアームレスト82L、82Rが設けられ、アームレスト82L、82Rの少なくとも一方に把持部83が設けられている点のみが異なり、他の構成については第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。アームレスト82L、82Rはシートバック9の左側面又は右側面にそれぞれ連結されている。本実施形態では、把持部83はシートバック9の左側面に結合されたアームレスト82Lの前端、より詳細には乗員の左手のひらに対応する位置に設けられている。把持部83はアームレスト82Lの前端上面から上方に突出した基部83Aと、基部83Aの突端に設けられた球状の本体部83Bとを有する。着座した乗員は左右方向に遠心力が加わると、把持部83の本体部83Bを把持し、その遠心力に対抗して姿勢を安定させることができる。これにより、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【0079】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。上記実施形態では、乗物用シート1、51、61、71、81がそれぞれアシスタントシートに適用された例を記載したがその態様には限定されない。例えば、図12に示すように、乗物用シート101は2列目以降の後部座席に適用されてもよい。第6実施形態において、把持部83は左側のアームレスト82Lの前端部に設けられていたが、把持部83は左右のアームレスト82L、82Rの前端にそれぞれ設けられていてもよい。把持部83はドア4の車内側の側面に結合されたドアトリム102(図1参照)に設けられてもよい。このとき、把持部は車内側に突出する棒状をなすとよい。また、加速度センサ22はシートバック9又はシートクッション8に設けられてもよい。
【0080】
上記第1実施形態では、右側部16Rが支持位置にあるとき、右当接面19Rと主当接面17とのなす角度は概ね90度となるように構成されていたが、この態様には限定されない。例えば、右当接面19Rと主当接面17とのなす角度は60度以上80度以下の所定の値となるように構成され、右駆動装置20RがステップST3において右側部16Rを支持位置に移動させると、乗員の頭部は左方に押圧されて左側に傾くように構成されていてもよい。同様に、左側部16Lが支持位置にあるとき、左当接面19Lと主当接面17とのなす角度は60度以上80度以下の所定の値となるように構成され、左駆動装置20LがステップST3において、左側部16Lを支持位置に移動させると、乗員の頭部は右方に押圧されて右側に傾くように構成されていてもよい。これにより、乗員の頭部が旋回方向に傾けられるため、乗員の乗物酔いを低減することができる。
【0081】
上記実施形態では、右当接面19Rと左当接面19Lとはともに使用位置にあるとき、前方に向くように配置されていたが、この態様には限定されない。例えば、図13に示すように、右側部16R及び左側部16Lとは共に使用位置において、乗員の頭部から離れた位置に設けられ、右方向に加速度が加わったときに右側部16Rが乗員の頭部の右側面に当接する支持位置に回転し、左方向に加速度が加わったときに左側部16Lが乗員の頭部の左側面に当接する支持位置に回転するように構成してもよい。このとき、左ディスプレイ21L及び右ディスプレイ21Rには常に、左カメラ6L及び右カメラによって取得された画像から算出されたオプティカルフローが表示されてもよい。また、加速度センサ22によって取得された加速度が大きくなると、右側部16R及び左側部16Lの回転角度が大きくなるように構成してもよい。但し、図2に示すように、乗員に加わる加速度が零であるときに、右当接面19R及び左当接面19Lが共に前方に向くように構成されることで、乗員に加わる加速度が零であるときに乗員の頭部が右側部16R及び左側部16Lによって挟まれない。これにより、乗員に解放感を与えることができるとともに、乗員の緊張感が和らげられて、乗物酔いを防止する効果が得られる。
【符号の説明】
【0082】
1 :第1実施形態に係る乗物用シート
5 :サイドウィンドウ
8 :シートクッション
9 :シートバック
10 :ヘッドレスト
15 :主部
16L :左側部
16R :右側部
19L :左当接面
19R :右当接面
20L :左駆動装置
20R :右駆動装置
21L :左ディスプレイ
21R :右ディスプレイ
22 :加速度センサ(加速度取得装置)
23 :制御装置
41 :第2実施形態に係る乗物用シート
43L :左発光装置
43R :右発光装置
44L :LED素子
44R :LED素子
51 :第3実施形態に係る乗物用シート
52 :カーナビゲーションシステム
53 :車両
54 :加速度取得装置
61 :第4実施形態に係る乗物用シート
62 :シートバック
63 :フレーム
63L :左発光装置
64 :表皮材
65 :ビーズ材
66 :凹部
71 :第5実施形態に係る乗物用シート
72L :アームレスト
72R :アームレスト
73L :エアセル
73R :エアセル
81 :第6実施形態に係る乗物用シート
82L :アームレスト
83 :把持部
S :車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13