(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】洗浄剤組成物及び洗浄用エアゾール、汚染部の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
C11D 7/30 20060101AFI20221207BHJP
C09K 3/30 20060101ALI20221207BHJP
C11D 7/50 20060101ALI20221207BHJP
C23G 5/028 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
C11D7/30
C09K3/30 D
C11D7/50
C23G5/028
(21)【出願番号】P 2019535624
(86)(22)【出願日】2018-08-03
(86)【国際出願番号】 JP2018029276
(87)【国際公開番号】W WO2019031416
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2017153781
(32)【優先日】2017-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】伊東 寛明
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-204007(JP,A)
【文献】特表2011-510119(JP,A)
【文献】特許第6087465(JP,B1)
【文献】特開2010-248443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00-19/00
C09K 3/30
C23G 5/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄剤組成物
をエアゾール容器に充填してなる洗浄用エアゾールであって、
前記洗浄剤組成物は、(A)成分;洗浄剤であるシス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zdZ)と、(B)成分;噴射剤である二酸化炭素と、のみからなり、
前記(B)成分は、前記(A)成分100質量部に対して1.6~10質量部
で含有され、
前記洗浄剤組成物
は、前記エアゾール容器の内圧が0.4~0.7MPaとなるよう前記エアゾール容器に充填されてなる、洗浄用エアゾール。
【請求項2】
請求項
1に記載の洗浄用エアゾールを、汚染部に付着している汚染物に噴射することを含む、汚染部の洗浄方法。
【請求項3】
前記汚染部が自動車部品である、請求項
2に記載の汚染部の洗浄方法。
【請求項4】
前記自動車部品がブレーキ部品である、請求項
3に記載の汚染部の洗浄方法。
【請求項5】
前記汚染物が、ブレーキパッドまたはブレーキシューの削粉を含むものである、請求項
2に記載の汚染部の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は洗浄剤に関し、機械部品、電気電子機器部品、光学機器部品、建築材料の洗浄に適したものであり、特に自動車や電車車両等の輸送機器における、金属や樹脂からなる表面の油脂等による汚染の洗浄に適した洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械や輸送機、電気電子機器、建材等の表面には、加工時に使用された切削、離型、潤滑等を目的とした油脂が付着している。また自動車、電車、トラクター、船舶、航空機、フォークリフト等の輸送機は、駆動部や摺動部の各所に潤滑、冷却等のための油脂が付着しており、駆動によりこれらが飛散したり、あるいは駆動時に周辺環境に存在している汚染物が付着する等して、その表面の汚染が進んでいく。特に自動車等のブレーキ廻りは、ブレーキの際ブレーキパッドやブレーキシューが摩擦により摩耗し、その削粉が付着することで著しく汚染される。
【0003】
このような汚染は除去する必要があり、利便性に優れた洗浄剤として、特開平10-25496号公報に記載されているような炭化水素系化合物及びケトン化合物からなる洗浄用エアゾールや、特開平11-335697号公報に記載されているような炭化水素系化合物及び脂肪族アルコール等からなる洗浄用エアゾールが知られている。しかしながら、これらの技術では、組成物は高い可燃性を有するため、その取扱いに注意を有するものであり、また臭気や環境負荷等の問題を有するものであった。
【0004】
そこで、このような課題を克服するものとして、特開2008-120917号公報に記載されているような、水及びアルコール系化合物、炭化水素系化合物からなる洗浄剤組成物や、特開2014-118441号公報に記載されているような、水及びアルコール系化合物、シクロアルカン化合物からなる洗浄剤組成物が提案されている。しかしながら、これらの技術では、洗浄力は十分なものとはならず、また炭化水素系化合物やアルコールなどを含むことから、可燃性、臭気、環境負荷等の課題も少なからず残されていた。
【0005】
前記課題を解決する目的で、国際公開第2009/140231号(米国特許出願公開第2011/041529号明細書に相当)には1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1,1,1-トリフルオロ-3-クロロプロペン、HCFO-1233zdとも表示される)のトランス立体異性体(HCFO-1233zdE、E-HCFO-1233zd等とも表示される)からなる洗浄剤組成物が提案されている。また特表2013-504658号公報、特表2013-506731号公報および特表2011-510119号公報並びにこれらの関連出願には、トランスまたはシス-HCFO-1233zd(シス体はHCFO-1233zdZ、Z-HCFO-1233zd等とも表示される)を含む、発泡剤、熱伝達媒体、溶媒、エアゾール等の用途に用いられる組成物が開示されている。他方で、特開2010-248443号公報、特許第6087465号公報には、シス-HCFO-1233zdを含む洗浄用の組成物が例示されている。さらに特開2016-29174号公報、特開2017-110225号公報には、本剤としてシス-HCFO-1233zdと、噴射剤として二酸化炭素を含む系のエアゾール組成物が開示されている。これらの公報に記載のトランス/シス-HCFO-1233zdは、優れた化学的安定性、低毒性、熱伝導性、低燃焼性、無引火点という特徴を備えている。それだけでなく、トランス/シス-HCFO-1233zdは、CFC-11(トリクロロフルオロメタン、CCl3F)を1.0とした場合の相対値で表されるオゾン層破壊係数(ODP)が無視しうる程度に小さく、地球温暖化係数(GWP)が、基準となる二酸化炭素の値未満である(GWP<1)という特徴をも有するものである。かように、トランス/シス-HCFO-1233zdは、環境負荷が極めて小さいことから、環境に放出する利用方法である冷媒、発泡剤、洗浄剤、熱伝導媒体等の用途で注目されている物質である。
【発明の開示】
【0006】
しかしながら国際公開第2009/140231号(米国特許出願公開第2011/041529号明細書に相当)に記載のHCFO-1233zdEは、沸点が約19℃と常温では液体として扱うことが難しく、エアゾールとして使用した場合には被塗布部に到達する前に気化してしまい、実用上問題があった。
【0007】
他方で、特表2013-504658号公報、特表2013-506731号公報および特表2011-510119号公報に記載の技術は、HCFO-1233zdE、及び常温での取扱いに適した、沸点が約39℃のHCFO-1233zdZを含む構成の技術である。しかしながら、これらの公報に記載の技術において、実質的に考慮されているのはHCFO-1233zdEのみか、HCFO-1233zdE及びZの混合物からなる構成であって、HCFO-1233zdZの特性のみに着目した技術ではない。また、これらの公報に記載の技術は、エアゾールとして用いた際に組み合わされる噴射剤との関係についても十分に考慮されたものではなかった。
【0008】
また、特開2010-248443号公報、特許第6087465号公報に記載の技術は、シス異性体に特定したHCFO-1233zdを用いた洗浄剤を含む構成の技術である。しかしながら、これらの公報に記載の技術は、洗浄用エアゾールとして用いられる場合の特性、具体的には噴射剤成分との組合せについては十分に考慮されたものでは無かった。
【0009】
さらに、特開2016-29174号公報、特開2017-110225号公報に記載の技術は、シス-HCFO-1233zdと二酸化炭素などを含むエアゾール組成物に関する技術である。しかしながら、これらの公報に記載の技術は、当該組合せのエアゾールは実質的に洗浄剤としての使用を想定されたものでは無く、当該用途として用いた場合の構成については十分に考慮されたものでは無かった。
【0010】
そこで本発明者は上記課題を鑑み、エアゾールとして利用する洗浄剤組成物に最適な組合せを検討した結果、以下の構成とすることによりこれを解決するに至った。すなわち本発明の第一の実施態様は、次の通りである。
【0011】
(A)成分;洗浄剤であるシス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zdZ)と、
(B)成分;噴射剤である二酸化炭素と、
を含み、
前記(B)成分は、前記(A)成分100質量部に対して1.6~10質量部を含んでなる、洗浄剤組成物。
【0012】
また本発明は以下の実施態様も含む。
【0013】
第二の実施態様は、前記洗浄剤組成物をエアゾール容器に充填してなる、洗浄用エアゾールである。
【0014】
第三の実施態様は、前記エアゾール容器の内圧が0.4~0.7MPaとなるよう充填されてなる、前記洗浄用エアゾールである。
【0015】
第四の実施態様は、実質的に二酸化炭素以外の噴射剤を含まない、前記洗浄用エアゾールである。
【0016】
第五の実施態様は、前記洗浄用エアゾールを汚染部に付着している汚染物に噴射することを含む、汚染部の洗浄方法である。
【0017】
第六の実施態様は、前記汚染部が自動車部品である、汚染部の洗浄方法である。
【0018】
第七の実施態様は、前記自動車部品がブレーキ部品である、汚染部の洗浄方法である。
【0019】
第八の実施態様は、前記汚染物がブレーキパッドまたはブレーキシューの削粉を含むものである、汚染部の洗浄方法である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の洗浄剤組成物は、(A)成分;洗浄剤であるシス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zdZ)と、(B)成分;噴射剤である二酸化炭素とを含み、前記(B)成分は、前記(A)成分100質量部に対して1.6~10質量部を含んでなるものである。また本発明の洗浄用エアゾールは、前記洗浄剤組成物をエアゾール容器に充填してなるものである。更に本発明の汚染部の洗浄方法は、前記洗浄用エアゾールを汚染部に付着している汚染物に噴射することを含むものである。本発明の洗浄剤組成物、洗浄用エアゾール、並びに汚染部の洗浄方法を用いることにより、簡易、安全、高効率かつ環境負荷を最小限として、汚染部の洗浄を行うことができる。
【0021】
以下より本発明の詳細について説明する。
【0022】
本発明の洗浄剤組成物に含まれる(A)成分は、洗浄剤としてのシス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zdZ)であり、本発明の洗浄剤組成物における洗浄作用を発揮する主要な成分である。当該化合物は前出の通り、オゾン層破壊係数(ODP)が無視しうる程度に小さく、地球温暖化係数(GWP)が基準となる二酸化炭素の値未満である(GWP<1)ため、揮発性の高い洗浄剤であっても環境負荷が限りなく小さい。それだけに留まらず、当該化合物は、カウリブタノール(KB)値で表される油脂溶解力が34と、トランス異性体(HCFO-1233zdE)のKB値25~27より大きく、一般的な石油系洗浄剤(炭化水素混合物のKB値=25~35程度)と較べても良好な水準にあるため、優れた洗浄性能を奏するものである。そのため、油脂等からなる汚染を落とすことを目的とした洗浄用エアゾールとして、洗浄性能と低環境負荷性能という二つの性能を両立する上で必要な成分である。なお本発明においては、当該化合物は公知の市販品を用いても良い。当該市販品としては、例えばセントラル硝子株式会社製品のSOLVIA等が公知である。
【0023】
また当該化合物(HCFO-1233zdZ)は、HCFO-1233zdEの沸点約19℃に対し39℃と相違しており、洗浄用エアゾールとしてエアゾール容器に充填した場合においても安全に取り扱うことができる。また当該化合物は、噴射後も直ちに揮散してしまうことが無く、汚れを洗い流した後に被洗浄箇所から揮散するものである。従って当該化合物は洗浄用エアゾールの洗浄成分として用いる上で、洗浄性及び取扱性の観点から、従来公知の物質と較べ格段に優れたものである。
【0024】
本発明の洗浄剤組成物に含まれる(B)成分は、噴射剤成分としての二酸化炭素であり、本発明の洗浄剤組成物をエアゾール容器に充填して噴射を行う時に、内容物に噴射圧を与える為の成分である。二酸化炭素は、前記(A)成分との相溶性が適切な範囲にあるため、エアゾール容器内では所定の体積が気体として存在し、液体として存在する(A)成分に対して噴射に必要な圧力を加え続けることとなる。他方で(A)成分と相溶した部分はエアゾール噴射時に、前記(A)成分を微細な霧状に散布することができ、洗浄用エアゾールとして汚染部への噴射に際し良好な物理的特性を発現できるのである。本発明の洗浄用エアゾールにおいては、二酸化炭素以外の物質を噴射剤として含ませることにより、前記の好ましい噴射特性が損なわれる虞があるため、噴射剤成分は、実質的に二酸化炭素以外の物質を含まないことが特に好ましい。
【0025】
本発明の汚染部の洗浄方法は、本発明の洗浄剤組成物をエアゾール容器に充填してなる洗浄用エアゾールを、汚染部に付着している汚染物に噴射することを含むものである。ここで本発明での洗浄の対象として好適な汚染部は自動車部品であり、具体的には自動車の駆動系部品、動弁系部品、制動系部品、内燃系部品、電装系部品等の汚れの付着した部品全般が望ましい。すなわち、本発明の汚染部の洗浄方法は、例えば、エンジンブロック、シリンダーヘッド、クランクケース、ミッションケース、インジェクター、マニフォールド、ホイール、サスペンション、プロペラシャフト及びこれらに付属する部品等の汚染部に付着している汚染物に広く適用することができる。本発明の汚染部の洗浄方法において、特に好適な洗浄の対象となる汚染物が付着した汚染部は、ブレーキ部品であって、具体的にはブレーキキャリパーやブレーキドラム、またこれらに付随する各種部品等である。当該ブレーキ部品に付着した汚染物として好適には、ブレーキパッドまたはブレーキシューの削粉を含むものである。前記ブレーキ部品の周辺には、細かく飛散した前記削粉と併せて自動車の摺動部由来、あるいは路面等の周辺環境由来の油脂が付着しているため、エアゾールの噴射圧に起因する物理的な洗浄効果と洗浄剤の溶解性に起因した洗浄効果の双方が求められる。従って、ブレーキ部品周辺を洗浄用エアゾールで清浄化するには、ある程度広い範囲に一定の勢いを以てエアゾールの噴霧を行う必要があるため、本発明の洗浄用エアゾールに所望の噴射特性を与える上では、当該(B)成分は特に重要な要素である。
【0026】
当該(B)成分の含有量は、前記(A)成分100質量部に対して1.6~10質量部の範囲にあるものであり、より好適には1.7~8.0質量部、さらに好適には1.7~7.5質量部、特に好ましくは1.7~6.0質量部の範囲である。前記(A)成分に対する前記(B)成分の含有量が当該範囲にあることで、本発明の洗浄用エアゾールは、エアゾール容器内で前記(B)成分が前記(A)成分と適度な範囲で相溶し、噴射時に適切な噴射圧で吐出することができる。
【0027】
ここで、本発明の洗浄剤組成物は、前述の通りエアゾール容器に充填し、洗浄用エアゾールとして用いることを想定したものである。すなわち、本発明の洗浄用エアゾールは、前記洗浄剤組成物をエアゾール容器に充填してなるものである。ここで当該洗浄用エアゾールの特性としては、前記(A)および(B)成分を含む洗浄剤組成物を充填した際の前記エアゾール容器の内圧が0.4~0.7MPaの範囲となることが好ましく、特に好適には0.45~0.65MPaの範囲である。前記エアゾール容器の内圧が当該範囲にあることで、本発明の洗浄用エアゾールは適切な噴射圧で噴射することができ、その結果前記の汚染部に対する物理的な洗浄効果を発揮することができる。前記範囲未満であると、本発明の洗浄用エアゾールは物理的な洗浄効果が不十分となる虞があり、前記範囲を超過すると時間当たりの噴射量が多くなりすぎることから消耗が早まるという弊害を及ぼす虞がある。ここで前記範囲のエアゾール容器の内圧を実現する上での目安を示すと、例えば、180cm3のエアゾール容器に前記(A)成分及び(B)成分をそれぞれ97g及び3g充填した場合には0.48MPaとなり、95.3g及び4.7g充填した場合には0.55MPaとなり、94.5g及び5.5g充填した場合には0.6MPaとなる。このことから、前記エアゾール容器の内圧は、前記(A)、(B)成分の充填量を調整することにより設定できる。当該調整時の留意点として、エアゾール容器の容量に対する前記(A)成分の充填量が少ない場合には、前記(B)成分の充填比率を高めることにより、望ましい噴射圧を確保することができる。なおエアゾール容器への充填方法は従来公知の方法を採用することができる。例えば、予めブリキやアルミニウム製の耐圧容器に前記(A)成分を充填しておき、バルブ(弁)の付いた蓋により密封してから当該弁を介して圧縮した二酸化炭素(前記(B)成分)ガスを注入する、等の方法によりエアゾール容器への充填を行うことができる。
【0028】
本発明においては、その特性を毀損しない範囲で、適宜前記(A)、(B)成分以外の任意成分を加えることができる。当該成分としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル化合物やポリオキシエチレン化合物などの界面活性剤、ベンゾフェノン化合物やベンゾトリアゾール化合物、ヒンダードアミン化合物などの紫外線吸収剤、フェノール化合物やアミン化合物などの酸化防止剤、エチレンジアミン四酢酸化合物などのキレート剤、アルキルアミン化合物などの防錆剤等が挙げられ、前記(A)成分に均等に溶解、分散するものであれば適宜選択することができる。なお前述の通り、噴射剤成分は前記(A)成分との相溶性により噴射特性に影響を生じる虞があるため、本発明においては実質的に前記(B)成分以外の物質は含まないこととする。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明の効果を詳説するが、これら実施例は本発明の態様の限定を意図するものでは無い。
【0030】
本発明の洗浄剤組成物に用いる洗浄剤成分(以下、単に「洗浄剤」ともいう)、および洗浄剤組成物をエアゾール容器に充填してなる洗浄用エアゾールの特性は、以下の方法による実施例、比較例及び参考例にてその特性評価を行った。また実施例、比較例、参考例にて評価した各洗浄用エアゾールは、25℃環境下において表2に示す原料を同表中に記載の質量(g)でそれぞれ容量が180cm3の試験用エアゾール容器に圧入充填し、密封の上軽く容器を振って攪拌し、噴射ボタンを取り付けることにより作製した。
【0031】
[油脂洗浄性評価]
表1中に示した各油脂0.5gをバイアル瓶に密封し、ここに各洗浄剤を50cm3注ぎ、ガラス棒で掻き混ぜ30秒静置した。その後、液中の各油脂の溶解性を目視で観察することにより評価した。結果を表1に示す。
【0032】
〈油脂洗浄性の評価基準〉
・油脂が完全に洗浄剤と相溶し、分離や沈降が生じていないものを優良と判断し、◎と表記した
・油脂が完全には相溶していないが、分離や沈降は生じず液が懸濁または乳化しているものは優良には達しないが合格と判断し、○と表記した
・油脂が分離又は沈降しているものは不合格と判断し、×と表記した。
【0033】
なお当該評価で用いた各油脂は以下の通りである。
【0034】
・エンジンオイル:BPジャパン株式会社製 カストロール(登録商標)エンジンオイル 0W-20 SNグレード
・ギアオイル:BPジャパン株式会社製 カストロール(登録商標)ギアオイル 75W-90
・ブレーキフルード:BPジャパン株式会社製 カストロール(登録商標)ブレーキフルード。
【0035】
[ブレーキ洗浄性評価]
市販のブレーキシュー(日清紡株式会社製NBK ブレーキシュー リア用 品番T0042-30)ライニング部を中目ヤスリで削り、削粉を作製した。当該削粉0.5gに対し、グリース(日本グリース株式会社製 ニグルーブRM)1gを滴下し、十分に練り合わせて油分が付着した削粉の試料を作製した。当該試料1gを平滑なステンレス製の板10cm2の範囲上に薄く引き伸ばし、試験片とした。他方、25℃環境下において180cm3の試験用エアゾール容器中に表1に記載の各洗浄剤100gと二酸化炭素を充填し、エアゾール容器内圧を圧力計で調整して0.55MPaとなるよう、当該二酸化炭素の充填量を調整して試験用エアゾールを作製した。前記試験片を鉛直方向に設置し、前記試験用エアゾールを30cmの距離から当該試験片の試料付着部に対して垂直方向から万遍なく10秒間噴射を行った後の、試料付着状況を目視で観察することにより評価した。結果を表1に示す。
【0036】
〈ブレーキ洗浄性の評価基準〉
・目視で試料の残存が認められないものを合格と判断し、○と表記した
・試料の残存が認められるものは不合格と判断し、×と表記した。
【0037】
[噴射圧の確認]
表2に記載の洗浄剤(A)(SOLVIA)と噴射剤を所定の質量ずつ充填してなる試験用エアゾールのアクチュエーター部分に圧力計(株式会社荏原計器製作所製、品番AU100)を挿入し、初期状態にあるエアゾール容器内の圧力、即ち噴射圧を測定した。各エアゾールは洗浄剤と噴射剤の総量が100gとなるよう調整しており、比較例1、2、4は、洗浄剤(A)と噴射剤の質量比が2:1になる組成で充填した。比較例3は噴射剤が洗浄剤(A)と全く相溶せず少量の充填で内圧が高まったため、適切な噴射圧となる質量のみ当該噴射剤を充填した。参考例1~4は、噴射剤として所定量の二酸化炭素に加え、洗浄剤(A)との相溶性が高い噴射剤を更に追加して当該成分の質量比をそれぞれ振り充填した。比較例5、実施例1~3は、洗浄剤(A)と噴射剤である二酸化炭素の質量比をそれぞれ振り充填した。測定結果は圧力値(MPa)で記録し、その結果を表2に噴射圧(MPa)として示す。
【0038】
〈噴射圧の評価基準〉
洗浄用エアゾールにおいて、適切な物理的洗浄効果を発揮する上での噴射圧の目安としては、0.4MPa以上の値である。よって、表2に示す噴射圧が0.4MPa以上は合格と判断し、0.4MPa未満は不合格と判断した。
【0039】
[噴射パターン評価]
噴射ボタンを取り付けた状態の、表2に記載の洗浄剤(SOLVIA(登録商標))と噴射剤を所定の質量ずつ充填してなる試験用エアゾールを30cmの距離で平板に向けて噴射し、その際の噴射パターンを目視で観察した。結果を表2に示す。
【0040】
〈噴射パターンの評価基準〉
・噴霧が広く拡散して平板に噴き付けられるものを合格と判断し、「A」と表記した。
【0041】
・噴霧が拡散せず、直線状に吐出されるものを不合格と判断し、「B」と表記した。
【0042】
[評価用洗浄剤原料]
(A)成分及びその比較成分(表1に示す評価用洗浄剤及び表2に示す(A)成分)
・((A)成分)SOLVIA(登録商標):シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、株式会社ソルベックス製
・(比較)ソルブ55(登録商標):1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタンとジメチルカーボネートとイソオクタンの混合物、株式会社ソルベックス製
・(比較)SOLVEC-3D:ハイドロフルオロエーテルとトランス-1,2ジクロロエチレンの混合物、株式会社ソルベックス製
・(比較)ゼオローラ(登録商標)H:1,1,2,2,3,3,4-ペンタフルオロシクロペンタン、日本ゼオン株式会社製
・(比較)アサヒクリン(登録商標)AK-225:3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンと1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパンの混合物、旭硝子株式会社製
・(比較)アサヒクリン(登録商標)AE-3000:1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、旭硝子株式会社製
・(比較)Novec7100:メチルノナフルオロブチルエーテルとメチルノナフルオロイソブチルエーテルの混合物、スリーエムジャパン株式会社製
・(比較)Novec7200:エチルノナフルオロブチルエーテルとエチルノナフルオロイソブチルエーテルの混合物、スリーエムジャパン株式会社製
・(比較)Vertrel(登録商標)-XF:1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン(HFC-43-10mee)、三井・デュポン フロロケミカル株式会社製。
【0043】
なお、表1中に記載の「GWP(地球温暖化係数)」、「ODP(オゾン層破壊係数)」、「引火点」、「燃焼性」、「KB(カウリブタノール)値」、「沸点(℃)」は、いずれも各物質または混合物が有する特性値であり、本発明の評価結果ではない。
【0044】
[噴射剤原料]
(B)成分及びその比較成分(表2に示す(B)成分及びその比較の(B’)成分)
・((B)成分)二酸化炭素:東京高圧山崎株式会社製
・(比較)液化石油ガス(LPG):三愛オブリガス東日本株式会社製
・(比較)ジメチルエーテル(DME):小池化学株式会社製
・(比較)窒素ガス:東京高圧山崎株式会社製
・(比較)1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze):商品名ソルスティス(登録商標)、ハネウェルジャパン株式会社製。
【0045】
【0046】
表1に示すように、(A)成分であるSOLVIA(登録商標):シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン自体の特性として、その比較成分と比してGWPが極めて低く、同時に燃焼性も無いことが分かる。また当該特性を備えていながら、沸点は高すぎない値となっているあるため、洗浄用エアゾールとして汚染部に噴き付けた後、液剤が当該箇所に長時間留まること無く、速やかに揮発するものである。さらに油脂溶解力の指標であるKB値も比較的良好な値であるため、油脂汚れを落とす上で好適な特性を有している。
【0047】
また本発明の(A)成分は、エンジンオイル、ギアオイル、ブレーキフルード全てに対して十分に溶解させることができ、優れた油脂洗浄性を有することが確認できた。またブレーキ洗浄性においても十分な性能であることが確認できた。(A)成分以外ではSOLVEC-3Dのみが油脂洗浄性及びブレーキ洗浄性において(A)成分と同等の性能を示したが、当該原料はGWPが(A)成分のSOLVIA(登録商標)より大きく、また燃焼性も有しているため洗浄用エアゾールには適切では無い。
【0048】
【0049】
表2に示すように、(A)成分のSOLVIA(登録商標)(シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン)と組み合わせる噴射剤としては、(B)成分の二酸化炭素を本発明で特定した範囲の質量比で用いる必要があることが確認できた。他方、比較例1では噴射パターンは良好なものであったが、噴射剤のLPGが可燃性のガスであり、本発明の目的である非燃焼性という課題を解決できないため、洗浄用エアゾールとして不適当である。比較例2も噴射パターンは良好であるが、当該噴射剤のDMEも可燃性であり、なおかつ(A)成分との相溶性が低いためエアゾール噴射を続けると徐々に噴射圧が下がって物理的洗浄効果が低下する傾向があることが確認でき、洗浄用エアゾールとして不適当である。噴射剤に窒素ガスを用いた比較例3では、噴射パターンが不良となるため洗浄用エアゾールとして不適当である。比較例4では、噴射パターンは良好なものであったが、当該噴射剤のHFO-1234zeが(A)成分との相溶性が高すぎるためにエアゾール噴射時における噴射圧が高まらず、十分な物理的洗浄効果を発現することができないため、洗浄用エアゾールとして不適当である。参考例1~3では、噴射パターンは良好なものとなり、噴射圧も良好であったが、噴射された箇所が過冷却され、結露を生じたり、凍結する場合が生じていることが確認された。これは2種類の噴射剤の中に二酸化炭素を含むことにより、エアゾールを噴射した際に噴霧の粒子が微細化され、常圧では極めて気化しやすい低沸点(-19℃)噴射剤であるHFO-1234zeの揮発が促進され、周囲から気化熱を奪うためであると考えられる。そのため当該参考例の組成では、結露や凍結により基材によっては錆が生じたり、また洗浄を妨げる等の弊害が生じる可能性が示唆される。参考例4では、結露や凍結は生じておらず、噴射圧も良好であったが、噴霧の粒子が微細化されすぎており、物理的洗浄効果を発揮するには汚染部のごく近くから噴射を行う必要が有るため、作業性にやや難がある。比較例5では、噴射圧、噴射パターンがともに不良であり、洗浄用エアゾールとして不適当である。比較例6は、噴射圧が高すぎるため、洗浄用エアゾールとして不適当である。噴射圧が高すぎると、部材へ当たる洗浄液の圧が強すぎるため部材を傷めたり、缶の破裂の危険性がある。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の洗浄剤組成物、洗浄用エアゾール並びに汚染部の洗浄方法は、産業機械部品、輸送機部品、電気・電子部品、土木・建築・構造材料等の汚染部、特に自動車のブレーキ廻り等における、油脂分と固形物が付着した汚染部位に対して、簡易、安全、高効率かつ最小限の環境負荷で、洗浄することができる、有用なものである。
【0051】
本出願は、2017年8月9日に出願された日本国特許出願第2017-153781号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。