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特許7189453ヘキサフルオロイソプロパノール基を含む珪素化合物、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】ヘキサフルオロイソプロパノール基を含む珪素化合物、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/12 20060101AFI20221207BHJP
   C07F 7/18 20060101ALI20221207BHJP
   B01J 27/125 20060101ALI20221207BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221207BHJP
【FI】
C07F7/12 G CSP
C07F7/18 F
B01J27/125 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020503443
(86)(22)【出願日】2019-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2019006429
(87)【国際公開番号】W WO2019167770
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2021-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2018035470
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中辻 惇也
(72)【発明者】
【氏名】片村 友大
(72)【発明者】
【氏名】杉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】山中 一広
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-156461(JP,A)
【文献】特開2015-129908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(2)で表される珪素化合物。
【化50】
(式中、R1は、それぞれ独立に、炭素数1~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは環状のアルキル基、または炭素数2~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは環状のアルケニル基であり、これらアルキル基またはアルケニル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていても良い。Xはハロゲン原子であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数、cは1~3の整数であり、a+b+c=4である。nは1~5の整数である。)
【請求項2】
式(2)中の下記基(2HFIP)が次の式(2A)~式(2D)で表される基の何れかである、請求項1に記載の珪素化合物。
【化51】
【化52】
(式中、波線は交差する線分が結合手であることを示す。)
【請求項3】
前記Xが塩素原子である、請求項1または請求項2に記載の珪素化合物。
【請求項4】
前記bが0または1である、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の珪素化合物。
【請求項5】
前記R1がメチル基である、請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の珪素化合物。
【請求項6】
次の第1工程を含む、式(2)で表される珪素化合物の製造方法。
第1工程:式(1)で表される含芳香族珪素化合物と、ヘキサフルオロアセトンとを、ルイス酸触媒の存在下で反応させて、式(2)で表される珪素化合物を得る工程。
【化53】
【化54】
(式中、Phは無置換フェニル基を表す。R1はそれぞれ独立に、炭素数1~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルキル基、炭素数2~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルケニル基であり、アルキル基またはアルケニル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。Xはハロゲン原子であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数、cは1~3の整数であり、a+b+c=4である。nは1~5の整数である。)
【請求項7】
次の第1工程および第2工程を含む、式(4)で表される珪素化合物の製造方法。
第1工程:式(1)で表される含芳香族珪素化合物と、およびヘキサフルオロアセトンとを、ルイス酸触媒の存在下で反応させて、式(2)で表される珪素化合物を得る工程。
第2工程:前記第1工程で得られた式(2)で表される珪素化合物を式(3)で表されるアルコールと反応させて、式(4)で表される珪素化合物を得る工程。
【化55】
【化56】
【化57】
【化58】
(式中、Phは無置換フェニル基を表す。R1はそれぞれ独立に、炭素数1~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルキル基、炭素数2~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルケニル基であり、アルキル基またはアルケニル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。Xはハロゲン原子であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数、cは1~3の整数であり、a+b+c=4である。nは1~5の整数である。R2はそれぞれ独立に、炭素数1~4の直鎖状または、炭素数3~4の分岐状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。)
【請求項8】
前記式(2)および前記式(4)中の下記基(2HFIP)が、次の式(2A)~式(2D)で表わされる基の何れかである、請求項7に記載の製造方法。
【化59】
【化60】
(式中、波線は交差する線分が結合手であることを示す。)
【請求項9】
前記Xが塩素原子である、請求項7または請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記R2がメチル基またはエチル基である、請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記bが0または1である、請求項7乃至請求項10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記R1がメチル基である、請求項7乃至請求項11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記第1工程で使用するルイス酸触媒が塩化アルミニウム、塩化鉄(III)および三フッ化ホウ素からなる群より選択される、請求項7乃至請求項12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記Xが塩素原子であり、R2がメチル基またはエチル基であり、bが0または1であり、かつ、第1工程で使用するルイス酸触媒が塩化アルミニウム、塩化鉄(III)および三フッ化ホウ素からなる群より選択される、請求項7乃至13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記第2工程において、さらにハロゲン化水素捕捉剤を添加し反応させる、請求項7乃至14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記ハロゲン化水素捕捉剤が、オルトエステルまたはナトリウムアルコキシドからなる群より選択されるハロゲン化水素捕捉剤である、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
次の第2工程を含む、式(4)で表される珪素化合物の製造方法。
第2工程:次の式(2)で表される珪素化合物を式(3)で表されるアルコールと反応させて、式(4)で表される珪素化合物を得る工程。
【化61】
【化62】
【化63】
(式中、R1はそれぞれ独立に、炭素数1~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルキル基、炭素数2~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルケニル基であり、アルキル基またはアルケニル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。Xはハロゲン原子であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数、cは1~3の整数であり、a+b+c=4である。nは1~5の整数である。R2はそれぞれ独立に、炭素数1~4の直鎖状または、炭素数3~4の分岐状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。)
【請求項18】
前記第2工程において、さらにハロゲン化水素捕捉剤を添加し反応させる、請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
前記ハロゲン化水素捕捉剤が、オルトエステルまたはナトリウムアルコキシドからなる群より選択されるハロゲン化水素捕捉剤である、請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
請求項7に記載の製造方法により式(4)で表される珪素化合物を得た後、さらに次の第3工程を行う、式(5)で表される繰り返し単位を有するポリシロキサン高分子化合物(A)を製造する方法。
第3工程:該式(4)で表される珪素化合物を加水分解重縮合することで、前記ポリシロキサン高分子化合物(A)を得る工程。
【化64】
【化65】
(式中、R1はそれぞれ独立に、炭素数1~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルキル基、炭素数2~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルケニル基であり、アルキル基またはアルケニル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。aは1~3の整数、bは0~2の整数、cは1~3の整数であり、a+b+c=4である。nは1~5の整数である。R2はそれぞれ独立に、炭素数1~4の直鎖状または、炭素数3~4の分岐状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。)
【請求項21】
次の第4工程を含む、式(5)で表される繰り返し単位を有するポリシロキサン高分子化合物(A)を製造する方法。
第4工程:次の式(2)で表される珪素化合物を加水分解重縮合することで、前記ポリシロキサン高分子化合物(A)を得る工程。
【化66】
【化67】
(式中、R1はそれぞれ独立に、炭素数1~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルキル基、炭素数2~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルケニル基であり、アルキル基またはアルケニル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。Xはハロゲン原子であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数、cは1~3の整数であり、a+b+c=4である。nは1~5の整数である。R2はそれぞれ独立に、炭素数1~4の直鎖状または、炭素数3~4の分岐状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘキサフルオロイソプロパノール基を含む珪素化合物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シロキサン結合を含む高分子化合物(以下、ポリシロキサン高分子化合物と呼ぶことがある)は、その高い耐熱性および透明性等を活かし、コーティング材料および封止材として、半導体分野で使用されている。また、高い酸素プラズマ耐性を有することからレジスト層の材料としても用いられている。
【0003】
ポリシロキサン高分子化合物をレジストとして用いるためにはアルカリ現像液等のアルカリに可溶であることが要求される。アルカリ現像液に可溶とする手段としては、ポリシロキサン高分子化合物に酸性基を導入することが挙げられる。このような酸性基としては、フェノール基、カルボキシル基、フルオロカルビノール基等が挙げられる。
【0004】
例えば、ポリシロキサン高分子化合物にフェノール基を導入したポリシロキサン高分子化合物が特許文献1に、ポリシロキサン高分子化合物にカルボキシル基を導入したポリシロキサン高分子化合物が特許文献2に開示されている。これらのポリシロキサン高分子化合物はアルカリ可溶性樹脂であり、キノンジアジド基等を有する感光性化合物と組み合わせることでポジ型レジスト組成物として使用される。一方、フェノール基またはカルボキシル基を含むポリシロキサン高分子化合物は、高温下で使用すると透明性劣化および着色等を生じたり、耐熱性に劣ったりする場合があることが知られている。
【0005】
ポリシロキサン高分子化合物に、酸性基であるフルオロカルビノール基、例えば、ヘキサフルオロイソプロパノール基{2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-フルオロイソプロピル基[-C(CF32OH]、以下、HFIP基と呼ぶことがある}を導入したポリシロキサン高分子化合物が特許文献3と特許文献4に開示されている。
【0006】
特許文献3にはHFIP基を有する有機珪素化合物(R3Si-CH2-CH2-CH2-C(CF32OH)の製造方法が開示されている(前記R3は炭素数1~3のアルコキシ基を意味する)。当該有機珪素化合物はCH2=CH-CH2-C(CF32OHで表わされるHFIP基を有する化合物と、炭素数1~3のアルコキシ基を含むトリアルコキシシランをヒドロシリル化することによって得られる。
【0007】
特許文献4には、シロキサンのみからなる主鎖に、炭素数1~20の直鎖状、分岐状、環状もしくは有橋環状の2価の炭化水素基を介して、フルオロカルビノール基が結合した高分子化合物が開示されている。
【0008】
特許文献3に記載の有機珪素化合物は、HFIP基と珪素原子Siの間にプロピレン結合(-CH2-CH2-CH2-)を含み、特許文献4に記載の高分子化合物は、HFIP基とシロキサン主鎖の珪素原子間に脂肪族炭化水素基を介している。
【0009】
一方、特許文献5および特許文献6には、HFIP基とシロキサン主鎖の珪素原子の間に芳香環が介した下記繰り返し単位を有するHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)が開示され、当該ポリシロキサン高分子化合物が、前記特許文献2,3に記載の高分子化合物に比べ一段と高い耐熱性を示すことが示されている。
【化1】
(R1は炭化水素基であって水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい、aaは1~5、abは1~3、pは0~2およびqは1~3の整数であり、ab+p+q=4である。)
当該HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物は、透明性とアルカリ可溶性も併せ持つことも、開示されている。
【0010】
また、特許文献5には、以下に示すHFIP基含有芳香族ハロゲン化合物(B)と、ヒドロシリル(Si-H)基を含む化合物(C)とを原料化合物とし、これらをビス(アセトニトリル)(1,5-シクロオキタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボレート触媒の存在下で反応させることで、HFIP基含有珪素化合物(D)を合成する方法が記載されている。
【化2】
(R1、aa、ab、p、qの意味は前記と同じである。Xはハロゲン原子である。R2はアルキル基である。)
得られたHFIP基含有珪素化合物(D)を、加水分解し重縮合すれば、上述のHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)を得ることができる。
【0011】
また、特許文献6には、当該、式(A)で表されるHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物と、光酸発生剤もしくはキノンジアジド化合物と、溶剤とを含む、ポジ型感光性樹脂組成物が記載されている。
【0012】
また、非特許文献1には、シリル基を直接芳香環に結合させて芳香族珪素化合物を得る手段として、特許文献5に記載の芳香族ハロゲン化合物とヒドロシリル基を含む化合物の他に、芳香族ハロゲン化合物と金属ケイ素を直接反応させる方法、およびグリニャール反応を用いる方法が記載されている。これらのうち、芳香族ハロゲン化合物と金属ケイ素を直接反応させる方法、およびグリニャール反応を用いる方法は、一般の芳香族珪素化合物の合成手段としては有用であるが、HFIP基のような反応中に副反応を起こし易い置換基を含有した芳香族珪素化合物の製造には適用しにくい。
【0013】
非特許文献2には芳香族化合物に直接HFIP基を導入する方法として、ルイス酸を用いたヘキサフルオロアセトン(以下、HFAと呼ぶことがある)ガスによる芳香族求電子置換反応を利用する方法が開示されている。一方、Ph-Si結合(フェニル基とSi原子の直接結合を意味する。以下同じ)が塩化アルミニウムや酸(塩酸、硫酸等)の存在下で容易に切断されることが知られている(非特許文献3、非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平4-130324号公報
【文献】特開2009-286980号公報
【文献】特開2004-256503号公報
【文献】特開2002-55456号公報
【文献】特開2014-156461号公報
【文献】特開2015-129908号公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】有機合成化学協会誌,2009,Vol.67,No.8,p.778-786
【文献】“The Journal of Organic Chemistry”,1965,30,p.998-1001
【文献】伊藤邦夫著,“シリコーン ハンドブック”,日刊工業新聞社,1998年8月31日,p.104
【文献】“Jounal of American Chemical Society”,2002,124,p.1574-1575
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述の通り、HFIP基含有珪素化合物(D)ならびに、その誘導体であるHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)を製造するためには、特許文献5の前記方法は特に有用である。すなわち特許文献5に記載の方法によれば、HFIP基含有芳香族ハロゲン化合物(B)とヒドロシリル化合物(C)を原料化合物とし、HFIP基含有珪素化合物(D)が穏和な条件下、一段階の反応で合成できる。その点で特許文献5の合成方法は優れた方法と言える。
【0017】
しかし、当該合成方法においては、目的物(D)とヒドロシリル化合物(C)のさらなる反応や、非特許文献1に記載されている芳香族ハロゲン化合物の還元反応等の副反応が反応中に起こりやすく、目的物(D)の収率が上がりにくいことが、本発明者らの検討で判ってきた(本明細書の比較例3を参照)。この点で、特許文献5に開示される製造方法には、なお改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、次の第1工程と第2工程を含む、HFIP基含有珪素化合物(D)(本明細書では以下、「式(4)で表される珪素化合物」または「HFIP基含有芳香族アルコキシシラン」とも呼ぶ)の製造方法を見出した。
第1工程:式(1)で表される含芳香族珪素化合物(本明細書では以下、「芳香族ハロシラン」とも呼ぶ)と、HFAとを、塩化アルミニウム等のルイス酸触媒の存在下で反応させて、式(2)で表される珪素化合物(本明細書では以下、「HFIP基含有芳香族ハロシラン」とも呼ぶ)を得る工程。
第2工程:前記第1工程で得られた式(2)で表される珪素化合物を式(3)で表されるアルコールと反応させて、式(4)で表される珪素化合物を得る工程。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
上記第1工程、第2工程の式(1)~(4)中の各記号の意味を説明する。式(1)~(4)中、Phは無置換フェニル基を表す。R1はそれぞれ独立に、炭素数1~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルキル基、炭素数2~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルケニル基であり、アルキル基またはアルケニル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。Xはハロゲン原子であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数、cは1~3の整数であり、a+b+c=4である。nは1~5の整数である。R2はそれぞれ独立に、炭素数1~4の直鎖状または、炭素数3~4の分岐状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。
【0019】
前述した通り、非特許文献3には、Ph-Si結合は、塩化アルミニウムや強酸(塩酸、硫酸等)の存在下で「きわめて分解しやすい」と述べられており、非特許文献4では実際にPh-Si結合の開裂反応を用いたラダー型シロキサン化合物の合成例が記載されている。このため、発明者らは当初、前記第1工程において、芳香族ハロシラン(1)を塩化アルミニウム等のルイス酸触媒に接触させると、Ph-Si結合の解裂が優先的に生じてしまうと予想していた。
【0020】
ところが、本発明者らが、芳香族ハロシラン(1)を塩化アルミニウム等のルイス酸触媒の存在下、HFAと接触させたところ、予想に反し上述の第1工程の反応が円滑に進行し、HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)が高い収率で得られることが判明した。後述の実施例1~3にも示す通り、この第1工程の反応は意外にも反応変換率、選択率ともに高く、効率の高い反応であることが分かった(本明細書の実施例1~3参照)。
【0021】
なお、こうして得られたHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)は、新規化合物である。
【0022】
発明者らは、次いでこのように得たHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)を、前記第2工程の反応に付したところ、これも効率的に反応が進み、HFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)が、高い収率で得られることを見出した(本明細書の実施例4~7を参照)。
【0023】
本発明者に係るHFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)の製造方法は、第1工程と第2工程の2工程を必要とするものの、2工程を通じての総合収率(本明細書の実施例1~7参照)は、特許文献5の方法による製造方法(単一反応工程)(本明細書の比較例3参照)に比べると有意に高く、HFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)の、極めて優れた製造方法であることが判った。
【0024】
付け加えるに、比較例3における出発原料(B)は、工業的な入手は可能であるものの比較的高価な化合物である。それに対し、本発明の第1工程の出発原料である、芳香族ハロシラン(1)とHFAは、比較的安価に入手することが可能な物質であり、価格面でも本発明の優位性は高い。同様に安価に入手可能なシラン化合物としてアルコキシシランが挙げられるが、アルコキシシシランとHFAの反応についてはアルコキシシリル基側と容易に反応してしまい、以下の図に示す様に、HFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)は得られない(“Inorganic Chemistry”,1966,5,p.1831-1832、および、本明細書の比較例1、2参照)。
【化7】
(R1、R2、a、b、c、nの意味は前記と同じである。)
【0025】
前記第2工程で得られたHFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)は、その後、加水分解重縮合することで、従来(特許文献5)の合成法と同様にHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)に誘導できる(第3工程)。ここで、本発明の第1工程および第2工程によってHFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)を製造した場合には、HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)が高収率で製造できる分、続いて第3工程を組み合わせて、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)を製造する際の総合収率も、高いものとなる。つまり、本発明によって、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)を、格段に有利に製造できることとなった。
【0026】
本発明者はまた、本発明の過程で見出された新規物質である、HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)それ自体もまた、加水分解重合を起こす性質を有し、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)を直接(すなわち、HFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)を経由せずに)合成できることを見出した(第4工程)。すなわち前記第1工程によって式(2)で表されるHFIP基含有芳香族ハロシランを合成した後、それをそのまま第4工程に付すことによって、2つの反応工程でHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)を製造できる。HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)を製造する方法として、前記第1、第2および第3工程の3工程によって製造する方法と、第1および第4工程の2工程によって製造する方法の何れを選択するかは、当業者が決定すればよい。
【0027】
このように本発明者らは、特徴ある「第1工程の反応」とその生成物である「HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)(新規化合物)」を見出し、その知見を中心として各発明を見出した。
【0028】
本発明に関係する化合物の名称、工程の名称を念のため、次にまとめる。
【化8】
なお、本出願においては、1つの化合物を別称で呼ぶこともあるため、それらの相関表を念のため表1に纏める。
【表1】
【0029】
すなわち、本発明は、以下の発明1~21を含む。
【0030】
[発明1]
式(2)で表される珪素化合物。
【化9】
(式中、R1は、それぞれ独立に、炭素数1~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは環状のアルキル基、または炭素数2~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは環状のアルケニル基であり、これらアルキル基またはアルケニル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていても良い。Xはハロゲン原子であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数、cは1~3の整数であり、a+b+c=4である。nは1~5の整数である。)
【0031】
[発明2]
式(2)中の下記基(2HFIP)が次の式(2A)~式(2D)で表される基の何れかである、発明1に記載の珪素化合物。
【化10】
【化11】
(式中、波線は交差する線分が結合手であることを示す。)
【0032】
[発明3]
前記Xが塩素原子である、発明1または発明2に記載の珪素化合物。
【0033】
[発明4]
前記bが0または1である、発明1~3に記載の珪素化合物。
【0034】
[発明5]
前記R1がメチル基である、発明1~4に記載の珪素化合物。
【0035】
[発明6]
次の第1工程を含む、式(2)で表される珪素化合物の製造方法。
第1工程:式(1)で表される含芳香族珪素化合物と、ヘキサフルオロアセトンとを、ルイス酸触媒の存在下で反応させて、式(2)で表される珪素化合物を得る工程。
【化12】
【化13】
(式中、Phは無置換フェニル基を表す。R1はそれぞれ独立に、炭素数1~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルキル基、炭素数2~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルケニル基であり、アルキル基またはアルケニル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。Xはハロゲン原子であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数、cは1~3の整数であり、a+b+c=4である。nは1~5の整数である。)
【0036】
[発明7]
次の第1工程および第2工程を含む、式(4)で表される珪素化合物の製造方法。
第1工程:式(1)で表される含芳香族珪素化合物と、およびヘキサフルオロアセトンとを、ルイス酸触媒の存在下で反応させて、式(2)で表される珪素化合物を得る工程。
第2工程:前記第1工程で得られた式(2)で表される珪素化合物を、式(3)で表されるアルコールと反応させて、式(4)で表される珪素化合物を得る工程。
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
(式中、Phは無置換フェニル基を表す。R1はそれぞれ独立に、炭素数1~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルキル基、炭素数2~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルケニル基であり、アルキル基またはアルケニル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。Xはハロゲン原子であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数、cは1~3の整数であり、a+b+c=4である。nは1~5の整数である。R2はそれぞれ独立に、炭素数1~4の直鎖状または、炭素数3~4の分岐状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。)
【0037】
[発明8]
前記式(2)および前記式(4)中の下記基(2HFIP)が、次の式(2A)~式(2D)で表わされる基の何れかである、発明7に記載の製造方法。
【化18】
【化19】
(式中、波線は交差する線分が結合手であることを示す。)
【0038】
[発明9]
前記Xが塩素原子である、発明7または発明8に記載の製造方法。
【0039】
[発明10]
前記R2がメチル基またはエチル基である、発明7~9に記載の製造方法。
【0040】
[発明11]
前記bが0または1である、発明7~10に記載の製造方法。
【0041】
[発明12]
前記R1がメチル基である、発明7~11に記載の製造方法。
【0042】
[発明13]
前記第1工程で使用するルイス酸触媒が塩化アルミニウム、塩化鉄(III)および三フッ化ホウ素からなる群より選択される、発明7~12に記載の製造方法。
【0043】
[発明14]
前記Xが塩素原子であり、R2がメチル基またはエチル基であり、bが0または1であり、かつ、第1工程で使用するルイス酸触媒が塩化アルミニウム、塩化鉄(III)および三フッ化ホウ素からなる群より選択される、発明7~13に記載の珪素化合物の製造方法。
【0044】
[発明15]
前記第2工程において、さらにハロゲン化水素捕捉剤を添加し反応させる、発明7~14に記載の製造方法。
【0045】
[発明16]
前記ハロゲン化水素捕捉剤が、オルトエステルまたはナトリウムアルコキシドからなる群より選択されるハロゲン化水素捕捉剤である、発明15に記載の製造方法。
【0046】
[発明17]
次の第2工程を含む、式(4)で表される珪素化合物の製造方法。
第2工程:次の式(2)で表される珪素化合物を式(3)で表されるアルコールと反応させて、式(4)で表される珪素化合物を得る工程。
【化20】
【化21】
【化22】
(式中、R1はそれぞれ独立に、炭素数1~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルキル基、炭素数2~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルケニル基であり、アルキル基またはアルケニル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。Xはハロゲン原子であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数、cは1~3の整数であり、a+b+c=4である。nは1~5の整数である。R2はそれぞれ独立に、炭素数1~4の直鎖状または、炭素数3~4の分岐状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。)
【0047】
[発明18]
前記第2工程において、さらにハロゲン化水素捕捉剤を添加し反応させる、発明17に記載の製造方法。
【0048】
[発明19]
前記ハロゲン化水素捕捉剤が、オルトエステルまたはナトリウムアルコキシドからなる群より選択されるハロゲン化水素捕捉剤である、発明18に記載の製造方法。
【0049】
[発明20]
発明7に記載の製造方法により式(4)で表される珪素化合物を得た後、さらに次の第3工程を行う、式(5)で表される繰り返し単位を有するポリシロキサン高分子化合物(A)を製造する方法。
第3工程:該式(4)で表される珪素化合物を加水分解重縮合することで、前記ポリシロキサン高分子化合物(A)を得る工程。
【化23】
【化24】
(式中、R1はそれぞれ独立に、炭素数1~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルキル基、炭素数2~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルケニル基であり、アルキル基またはアルケニル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。aは1~3の整数、bは0~2の整数、cは1~3の整数であり、a+b+c=4である。nは1~5の整数である。R2はそれぞれ独立に、炭素数1~4の直鎖状または、炭素数3~4の分岐状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。)
【0050】
[発明21]
次の第4工程を含む、式(5)で表される繰り返し単位を有するポリシロキサン高分子化合物(A)を製造する方法。
第4工程:次の式(2)で表される珪素化合物を加水分解重縮合することで、前記ポリシロキサン高分子化合物(A)を得る工程。
【化25】
【化26】
(式中、R1はそれぞれ独立に、炭素数1~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルキル基、炭素数2~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルケニル基であり、アルキル基またはアルケニル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。Xはハロゲン原子であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数、cは1~3の整数であり、a+b+c=4である。nは1~5の整数である。R2はそれぞれ独立に、炭素数1~4の直鎖状または、炭素数3~4の分岐状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。)
【発明の効果】
【0051】
本発明の一の態様によれば、新規化合物であるHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)が提供されるという効果を奏する。
【0052】
本発明の別の態様によれば、芳香族ハロシラン(1)(比較的安価な原料)を出発物質として、意外にも高い反応変換率と選択率で、HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)が製造できる(第1工程)という効果を奏する。
【0053】
本発明の別の態様によれば、芳香族ハロシラン(1)を出発物質として、高い反応変換率と選択率で、HFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)が製造できる(第1工程、第2工程)という効果を奏する。
【0054】
本発明の別の態様によれば、HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)を出発物質として、HFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)が製造できる(第2工程)という効果を奏する。
【0055】
本発明の別の態様によれば、芳香族ハロシラン(1)を出発物質として、第1~第3工程を経て、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)が、総合的に見て高い収率で製造できるという効果を奏する。
【0056】
本発明の別の態様によれば、芳香族ハロシラン(2)を出発物質として、第4工程を経て、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)が、総合的に見て高い収率で製造できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0057】
1.反応工程の概要
HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)を製造する方法として、本明細書では、以下に示す、HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)(新規化合物)を経由する2つの反応経路を提供している(すなわち、「第1工程+第2工程+第3工程」「第1工程+第4工程」である。)両者ともに第1工程が高収率な反応であるというメリットがあるため、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)を製造する手段としては、優れたものである。単純に工程数で見たときには、前者は3反応工程であるのに対し、後者は2反応工程であるから、後者の方が有利であると言える。しかし、後者の場合、第2工程で得られるHFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)が保存安定性に優れており取り扱いが容易なことから、「第1工程+第2工程+第3工程」の3工程の方法の方が有利なこともある。どちらを採用するかは、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)の製法・用途に応じて、当業者が適宜選択すればよい。
該両経路(「第1工程+第2工程+第3工程」と「第1工程+第4工程」の両方の経路)を採用すること、具体的には、HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)とHFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)を任意の割合で混合し、加水分解重縮合することで、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)を製造することも、経済性や用途に応じて当業者が適宜選択すればよい。
【化27】
【0058】
以下、本発明のHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)および第1工程~第4工程について順を追って説明する。
【0059】
2.HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)(新規化合物)
本発明のHFIP基含有芳香族ハロシランは一般式(2)で表され、HFIP基および珪素原子が芳香環に直接結合した構造を有する。
【化28】
(式中、R1は、それぞれ独立に、炭素数1~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは環状のアルキル基、または炭素数2~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは環状のアルケニル基であり、これらアルキル基またはアルケニル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていても良い。Xはハロゲン原子であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数、cは1~3の整数であり、a+b+c=4である。nは1~5の整数である。)
【0060】
これらのうち、式(2)中の下記基(2HFIP)が前記式(2A)~式(2D)で表される基の何れかであるものが好ましい。
【化29】
(式中、波線は交差する線分が結合手であることを示す。本明細書において同じ。)
【0061】
またXが塩素原子である式(2)で表される珪素化合物は、好ましい例である。また、bが0または1である、式(2)で表される珪素化合物も好ましい例である。R1としては、炭素数1~6のアルキル基は、原料化合物の入手の容易性等から好ましく、特にメチル基は好ましい例である。
【0062】
aについては、1のものが最も一般的に合成しやすく、好ましい。nについても、1のものが特に合成しやすく、好ましい。
【0063】
3.第1工程
次に第1工程について説明する。第1工程は、式(1)で表される芳香族ハロシラン、およびHFAを、ルイス酸触媒の存在下で反応させて、式(2)で表されるHFIP基含有芳香族ハロシランを得る工程である。
【化30】
【化31】
(式中、Phは無置換フェニル基を表す。R1はそれぞれ独立に、炭素数1~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルキル基、炭素数2~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルケニル基であり、アルキル基またはアルケニル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。Xはハロゲン原子であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数、cは1~3の整数であり、a+b+c=4である。nは1~5の整数である。)
各記号についての好ましい例については、前述の「2.HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)」の項で述べたものを、再び挙げることができる。
【0064】
本工程において、以下の反応式に示すように、HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)は、芳香族ハロシラン(1)と、HFAを、ルイス酸触媒下に加熱し、芳香族求電子付加反応させることで得られる。
【化32】
具体的には、反応容器内に芳香族ハロシラン(1)およびルイス酸触媒を採取、混合し、HFAを導入して反応を行い、反応物を蒸留精製することでHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)を得ることができる。
【0065】
第1工程の反応および原料化合物、反応生成物、触媒、および反応条件等について、以下に説明する。
【0066】
[芳香族ハロシラン(1)]
原料として用いられる芳香族ハロシラン(1)は一般式(1)で表され、ヘキサフルオロアセロンと反応するフェニル基、およびハロゲン原子が珪素原子に直接結合した構造を有する。
【0067】
芳香族ハロシラン(1)は珪素原子に直接結合した置換機R1を有していてもよく、置換基R1としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ネオペンチル基、オクチル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基、1,1,1-トリフルオロプロピル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基等が挙げられる。その中でも、入手のしやすさから、置換基R1としてはメチル基が好ましい。また、第1工程を実施する上で、b=0または1であると収率が特に高いので、好ましい。中でもb=0の場合に第1工程の収率は特に高くなる(本明細書の実施例1を参照)ので、特に好ましい。
【0068】
芳香族ハロシラン(1)中のハロゲン原子Xとしてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が上げられるが、入手のし易さおよび化合物の安定性から、(1)中のXは塩素原子であることが好ましい。
【0069】
[ルイス酸触媒]
本反応に用いるルイス酸触媒は特に限定はなく、例えば塩化アルミニウム、塩化鉄(III)、塩化亜鉛、塩化スズ(II)、四塩化チタン、臭化アルミニウム、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、フッ化アンチモン、ゼオライト類、複合酸化物等が挙げられる。その中でも塩化アルミニウム、塩化鉄(III)、三フッ化ホウ素が好ましく、さらに本反応での反応性が高いことから、塩化アルミニウムがもっとも好ましい。ルイス酸触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、芳香族ハロシラン(1)1モルに対して、0.01モル以上、1.0モル以下が好ましい。
【0070】
[有機溶剤]
本反応では原料の芳香族ハロシラン(1)が液体の場合は、特に有機溶媒を使用せずに反応を行うことができるが、原料の芳香族ハロシラン(1)が固体の場合や芳香族ハロシラン(1)の反応性が高い場合は、有機溶媒を用いても良い。有機溶剤としては、芳香族ハロシラン(1)が溶解し、ルイス酸触媒、HFAと反応しない溶媒であれば特に制限はなく、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、アセトニトリル、ニトロメタン、クロロベンゼン類、ニトロベンゼン等を用いることができる。これらの溶媒を単独で、または混合して用いてもよい。
【0071】
[ヘキサフルオロアセトン(HFA)]
第1工程は元来、無水反応であって、用いるHFAも無水のHFA(常温で気体)が好ましい。ゆえに各種試薬につき、当業者が通常入手できる無水品を用いることが好ましい。含水量に制限があるわけではないが、仮に水が系内に含まれている場合には、その分、塩化アルミニウム等の触媒が水と反応して失活するので、触媒の消費量が多くなる。ゆえに水の量に上限はないものの、各種試薬の液体量を100gとしたとき、水の量は1g以下であることが通常であり、0.1g以下が特に好ましい。使用するHFAの量は、芳香環に導入するHFIP基の数にもよるが、原料の芳香族ハロシラン(1)中に含まれるフェニル基1モルに対して、1モル当量以上、6モル当量以下が好ましい。また、フェニル基中にHFIP基を3個以上導入しようとする場合、過剰のHFAや多量の触媒、長い反応時間を必要とするため、使用するHFAの量は原料の芳香族ハロシラン(1)中に含まれるフェニル基1モルに対して、2.5モル当量以下にし、フェニル基へのHFIP基導入数を2個以下に抑えることがより好ましく、原料の芳香族ハロシラン(1)中に含まれるフェニル基1モルに対して、1.5モル当量以下にし、フェニル基へのHFIP基導入数を1個に抑えることがさらに好ましい。
【0072】
[反応条件]
本発明のHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)を合成する際は、HFAの沸点が-28℃であるので、HFAを反応系内に留めるために、冷却装置または密封反応器を使用することが好ましく、特に密封反応器を使用することが好ましい。密封反応器(オートクレーブ)を使用して反応を行う場合は、最初に芳香族ハロシランとルイス酸触媒を反応器内に入れ、次いで、反応器内の圧力が0.5MPaを越えないようにHFAガスを導入することが好ましい。
【0073】
本反応における最適な反応温度は、使用する原料の芳香族ハロシラン(1)の種類によって大きく異なるが、-20℃以上、120℃以下の範囲で行なうことが好ましい。また、芳香環上の電子密度が大きく、求電子性が高い原料ほど、より低温で反応を行なうことが好ましい。可能な限り低温で反応を行なうことで反応時のPh-Si結合の開裂を抑制することができ、HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)の収率が向上する。具体的には、-20以上、50℃以下の温度範囲で反応行うことがより好ましい。
【0074】
反応の反応時間に特別な制限はないが、HFIP基の導入量、温度または用いる触媒の量等により適宜選択される。具体的には、反応を十分進行させる点で、HFIP基導入後、1時間以上、24時間以下が好ましい。
【0075】
ガスクロマトグラフィー等、汎用の分析手段により、原料が十分消費されたことを確認した後、反応を終了することが好ましい。反応終了後、ろ過、抽出、蒸留等の手段により、ルイス酸触媒を除去することで、HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)を得ることができる。
【0076】
第1工程によって合成されるHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)はHFIP基の置換数や置換位置が異なる異性体を複数有する混合物として得られる。nは1~5であるが、第1工程の反応を通常の条件で行う場合には、n=1となるのが通常であり、特に上記(2A)(2B)(2C)の部分構造式に対応する1-2、1-3、1-4体が混合物として得られることが多い。中でも1-3体が最もメジャーな生成物になるのが通常である。
【0077】
第1工程で生成するHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)の例えば1-2、1-3、1-4体はそれぞれが有用な化合物であり、続く第2工程の反応、第3工程の反応においてもそん色なく反応し、最終的なHFIP基含有ポリシロキサン高分子(A)としても、各種異性体ともに有用性が高い。第1工程で得られたこれら異性体は、その中の1種のみを沸点差等を利用して単離して以後の工程に用いることもできる。一方、敢えて分離することなく(例えば1-2、1-3、1-4体の混合物の形で)、後続の第2工程、第3工程、或いは第4工程に供することもできる(その場合は、例えば第3工程、第4工程の最終生成物は、異性体由来の生成物の混合体となる)。何れの方法を採用するかは、当業者が、最終製品の用途に応じて選択することができ、特段の制限はない。
【0078】
4.第2工程
次に第2工程について説明する。第2工程は、前記第1工程で得られたHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)を式(3)で表されるアルコールと反応させて、式(4)で表されるHFIP基含有芳香族アルコキシシランを得る工程である。
【化33】
(R2は、炭素数1~4の直鎖状または炭素数3、4の分岐状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。)
【化34】
(式中、Phは無置換フェニル基を表す。R1はそれぞれ独立に、炭素数1~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルキル基、炭素数2~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルケニル基であり、アルキル基またはアルケニル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。Xはハロゲン原子であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数、cは1~3の整数であり、a+b+c=4である。nは1~5の整数である。R2はそれぞれ独立に、炭素数1~4の直鎖状または、炭素数3~4の分岐状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。)
【0079】
本工程において、以下の反応式に示すようにHFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)は、HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)と、一般式(3)で表されるアルコールを反応させることで得られる。
【化35】
【0080】
第2工程の反応および原料化合物、反応生成物、および反応条件等について、以下に説明する。
【0081】
[HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)]
原料として用いられるHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)は第1工程で得られたものを使用するのが好ましい。HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)は、精密蒸留等を行ない分離した各種異性体のほか、第1工程で得られた異性体を分離することなく、そのまま用いることもできる。
【0082】
[アルコール]
アルコール(3)は目的とするHFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)によって、選択される。具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-フルオロエタノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、3-フルオロプロパノール、3,3-ジフルオロプロパノール、3,3,3-トリフルオロプロパノール、2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール等が使用でき、特にメタノールまたはエタノールが好ましい。アルコール(3)を反応させる際に、水分が混入していると、HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)の加水分解反応や縮合反応が進行してしまい、目的のHFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)の収率が低下することから、含有する水分量の少ないアルコールを用いることが好ましい。具体的には5wt%以下が好ましく、1wt%以下がさらに好ましい。
【0083】
[反応条件]
本発明のHFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)を合成する際の反応方法は、特に限定されることはないが、典型的な例としてはHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)にアルコール(3)を滴下して反応させる方法、またはアルコール(3)にHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)を滴下して反応させる方法がある。
【0084】
使用するアルコール(3)の量は特に制限はないが、反応が効率よく進行する点で、HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)に含まれるSi-X結合に対し1モル当量以上、10モル当量以下が好ましく、1モル当量以上、3モル当量以下がさらに好ましい。
【0085】
アルコール(3)またはHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)の添加時間には特に制限はないが、10分以上、24時間以下が好ましく、30分以上、6時間以下がさらに好ましい。また、滴下中の反応温度については、反応条件によって最適な温度が異なるが、具体的には0℃以上、70℃以下が好ましい。
【0086】
滴下終了後に撹拌を継続しながら熟成を行うことで、反応を完結させることができる。熟成時間には特に制限はなく、望みの反応を十分進行させる点で、30分以上、6時間以下が好ましい。また熟成時の反応温度は、滴下時と同じか、滴下時よりも高いことが好ましい。具体的には10℃以上、80℃以下が好ましい。
【0087】
アルコール(3)とHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)の反応性は高く、速やかにハロゲノシリル基がアルコキシシリル基に変換されるが、反応の促進や副反応の抑制のために、反応時に発生するハロゲン化水素の除去を行うことが好ましい。ハロゲン化水素の除去方法としてはアミン化合物、オルトエステル、ナトリウムアルコキシド、エポキシ化合物、オレフィン類等、公知のハロゲン化水素捕捉剤の添加のほか、加熱、または乾燥窒素のバブリングによって生成したハロゲン化水素ガスを系外に除去する方法がある。これらの方法は単独で行なってもよく、あるいは複数組み合わせて行なってもよい。
【0088】
ハロゲン化水素捕捉剤としては、オルトエステルまたはナトリウムアルコキシドを挙げることができる。オルトエステルとしては、オルトギ酸トリメチル、オルトギ酸トリエチル、オルトギ酸トリプロピル、オルトギ酸トリイソプロピル、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、オルトプロピオン酸トリメチル、またはオルト安息香酸トリメチルを例示することができる。入手が容易であることから、好ましくは、オルトギ酸トリメチルまたはオルトギ酸トリエチルである。ナトリウムアルコキシドとしては、ナトリウムメトキシドまたはナトリウムエトキシドを例示することができる。
【0089】
アルコール(3)とHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)の反応は、溶媒で希釈してもよい。用いる溶媒は、用いるアルコール(3)およびHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)と反応しないものなら特に制限はなく、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、または1,4-ジオキサン等を用いることができる。これらの溶媒を単独で、または混合して用いてもよい。
【0090】
ガスクロマトグラフィー等、汎用の分析手段により、原料が十分消費されたことを確認した後、反応を終了することが好ましい。反応終了後、ろ過、抽出、蒸留等の手段により、精製を行なうことで、HFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)を得ることができる。
【0091】
第1工程で得られたHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)の各種異性体を分離することなく、そのまま用い第2工程に用いた場合、得られるHFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)は原料の異性体組成比と同じ組成比を有する異性体混合物として得られる。第2工程で得られたこれら異性体は、その中の1種のみを沸点差等を利用して単離して以後の工程に用いることもできる。一方、敢えて分離することなく(例えば1-2、1-3、1-4体の混合物の形で)、後続の第3工程に供することもできる(その場合は、例えば第3工程の最終生成物は、異性体由来の生成物の混合体となる)。何れの方法を採用するかは、当業者が、最終製品の用途に応じて選択することができ、特段の制限はない。
【0092】
第1工程と第2工程を組み合わせて実施するにあたり、Xが塩素原子であり、R2がメチル基またはエチル基であり、bが0または1であり、かつ、第1工程で使用するルイス酸触媒が塩化アルミニウム、塩化鉄(III)および三フッ化ホウ素からなる群より選択される、という構成を採用すると、特に総合収率が高くなり、好ましい。
【0093】
5.第3工程
次に第3工程について説明する。第3工程は前記第2工程で得られたHFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)を加水分解重縮合することで、式(5)で表される繰り返し単位を有する、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)を得る工程である。
【化36】
【化37】
(式中、R1はそれぞれ独立に、炭素数1~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルキル基、炭素数2~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルケニル基であり、アルキル基またはアルケニル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。aは1~3の整数、bは0~2の整数、cは1~3の整数であり、a+b+c=4である。nは1~5の整数である。R2はそれぞれ独立に、炭素数1~4の直鎖状または、炭素数3~4の分岐状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。)
【0094】
HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)の製造において、HFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)に加えて、クロロシランまたはアルコキシシランまたはシリケートオリゴマー等の他の加水分解性シランと共重合してもよい。
【0095】
[クロロシラン]
前記クロロシランとしては、具体的には、ジメチルジクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、ジプロピルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビス(3,3,3-トリフルオロプロピル)ジクロロシラン、メチル(3,3,3-トリフルオロプロピル)ジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、イソプロピルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、トリフルオロメチルトリクロロシラン、ペンタフルオロエチルトリクロロシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリクロロシラン、テトラクロロシラン、前記第1工程で得られたHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)を例示することができる。
【0096】
[アルコキシシラン]
前記アルコキシシランとしては、具体的には、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジフェノキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、ジエチルジフェノキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジフェノキシシラン、ビス(3,3,3-トリフルオロプロピル)ジメトキシシラン、メチル(3,3,3-トリフルオロプロピル)ジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、イソプロピルトリプロポキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、イソプロピルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、ペンタフルオロエチルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシランを例示することができる。
【0097】
[シリケートオリゴマー]
本明細書において、シリケートオリゴマーとは、テトラアルコキシシランを加水分解重縮合させることで得られるオリゴマーである。市販品としては、シリケート40(平均5量体、多摩化学工業株式会社製)、エチルシリケート40(平均5量体、コルコート株式会社製)、シリケート45(平均7量体、多摩化学工業株式会社製)、Mシリケート51(平均4量体、多摩化学工業株式会社製)、メチルシリケート51(平均4量体、コルコート株式会社製)、メチルシリケート53A(平均7量体、コルコート株式会社製)、エチルシリケート48(平均10量体、コルコート株式会社)、EMS-485(エチルシリケートとメチルシリケートの混合品、コルコート株式会社製)等を挙げることができる。
【0098】
前記クロロシランまたはアルコキシシランまたはシリケートオリゴマーは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0099】
前記共重合で用いるHFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)の使用量としては、HFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)、前記クロロシランおよび前記アルコキシシランの合計の使用量を100モル%としたとき、10モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましい。
【0100】
[反応条件]
本加水分解重縮合反応は、アルコキシシランの加水分解および縮合反応における一般的な方法で行うことができる。具体例を挙げると、まず、HFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)を室温(特に加熱または冷却しない雰囲気温度を言い、通常、約15℃以上約30℃以下である。以下同じ。)にて反応容器内に所定量採取した後、HFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)を加水分解するための水と、重縮合反応を進行させるための触媒、所望により反応溶媒を反応器内に加えて反応溶液とする。このときの反応資材の投入順序はこれに限定されず、任意の順序で投入して反応溶液とすることができる。また、他の加水分解性シランを併用する場合には、HFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)と同様に反応器内に加えればよい。次いで、この反応溶液を撹拌しながら、所定時間、所定温度で加水分解および縮合反応を進行させることで、本発明のHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)を得ることができる。加水分解縮合に必要な時間は、触媒の種類にもよるが通常、3時間以上24時間以下、反応温度は室温以上180℃以下である。加熱を行なう場合は、反応系中の未反応原料、水、反応溶媒および/または触媒が、反応系外へ留去されることを防ぐため、反応容器を閉鎖系にするか、コンデンサー等の還流装置を取り付けて反応系を還流させることが好ましい。反応後は、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)のハンドリングの観点から、反応系内に残存する水、生成するアルコール、および触媒を除去するのが好ましい。前記水、アルコール、触媒の除去は、抽出作業で行ってもよいし、トルエン等の反応に悪影響を与えない溶媒を反応系内に加え、ディーンスターク管で共沸除去してもよい。
【0101】
前記加水分解および縮合反応において使用する水の量は、特に限定されない。反応効率の観点から、原料であるアルコキシシランおよびクロロシランに含有される加水分解性基(アルコキシ基および塩素原子基)の全モル数に対して、0.5倍以上5倍以下であることが好ましい。
【0102】
[触媒]
重縮合反応を進行させるための触媒に特に制限はないが、酸触媒、塩基触媒が好ましく用いられる。酸触媒の具体例としては塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、カンファースルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トシル酸、ギ酸、多価カルボン酸あるいはその無水物等が挙げられる。塩基触媒の具体例としては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。触媒の使用量としては、原料であるアルコキシシランおよびクロロシランに含有される加水分解性基(アルコキシ基および塩素原子基)の全モル数に対して、1.0×10-5倍以上1.0×10-1倍以下であることが好ましい。
【0103】
[反応溶媒]
前記加水分解および縮合反応では、必ずしも反応溶媒を用いる必要はなく、原料化合物、水、触媒を混合し、加水分解縮合することができる。一方、反応溶媒を用いる場合、その種類は特に限定されるものではない。中でも、原料化合物、水、触媒に対する溶解性の観点から、極性溶媒が好ましく、さらに好ましくはアルコール系溶媒である。具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等が挙げられる。前記反応溶媒を用いる場合の使用量としては、前記加水分解縮合反応が均一系で進行させるに必要な任意量を使用することができる。
【0104】
6.第4工程
次に第4工程について説明する。第4工程は前記第1工程によって得られたHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)を加水分解重縮合することで、式(5)で表される繰り返し単位を有するHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)を得る工程である。
【化38】
【化39】
(式中、R1はそれぞれ独立に、炭素数1~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルキル基、炭素数2~10の直鎖状、炭素数3~10の分岐状もしくは炭素数3~10の環状のアルケニル基であり、アルキル基またはアルケニル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。Xはハロゲン原子であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数、cは1~3の整数であり、a+b+c=4である。nは1~5の整数である。R2はそれぞれ独立に、炭素数1~4の直鎖状または、炭素数3~4の分岐状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。)
【0105】
HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)の製造において、HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)に加えて、クロロシランまたはアルコキシシランまたはシリケートオリゴマー等の他の加水分解性シランと共重合してもよい。
【0106】
[クロロシラン]
前記クロロシランとしては、具体的には、ジメチルジクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、ジプロピルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビス(3,3,3-トリフルオロプロピル)ジクロロシラン、メチル(3,3,3-トリフルオロプロピル)ジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、イソプロピルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、トリフルオロメチルトリクロロシラン、ペンタフルオロエチルトリクロロシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリクロロシラン、テトラクロロシランを例示することができる。
【0107】
[アルコキシシラン]
前記アルコキシシランとしては、具体的には、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジフェノキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、ジエチルジフェノキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジフェノキシシラン、ビス(3,3,3-トリフルオロプロピル)ジメトキシシラン、メチル(3,3,3-トリフルオロプロピル)ジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、イソプロピルトリプロポキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、イソプロピルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、ペンタフルオロエチルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、前記第2工程で得られたHFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)を例示することができる。
【0108】
[シリケートオリゴマー]
シリケートオリゴマーとしては、前述の市販品を挙げることができる。
【0109】
前記クロロシランまたはアルコキシシランまたはシリケートオリゴマーは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0110】
前記共重合で用いるHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)の使用量としては、HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)、前記クロロシランおよび前記アルコキシシランの合計の使用量を100モル%としたとき、10モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましい。
【0111】
[反応条件]
本加水分解重縮合反応は、クロロシランの加水分解および縮合反応における一般的な方法で行うことができる。具体例を挙げると、まず、HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)を室温(特に加熱または冷却しない雰囲気温度を言い、通常、約15℃以上約30℃以下である。以下同じ。)にて反応容器内に所定量採取した後、所望により重縮合反応を進行させるための触媒、反応溶媒を反応器内に加えたのち、HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)を加水分解するための水を加えて反応溶液とする。このときの反応資材の投入順序はこれに限定されず、任意の順序で投入して反応溶液とすることができる。また、他の加水分解性シランを併用する場合には、HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)と同様に反応器内に加えればよい。次いで、この反応溶液を撹拌しながら、所定時間、所定温度で加水分解および縮合反応を進行させることで、本発明のHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)を得ることができる。加水分解縮合に必要な時間は、触媒の種類にもよるが通常、3時間以上24時間以下、反応温度は室温以上180℃以下である。加熱を行なう場合は、反応系中の未反応原料、水、反応溶媒および/または触媒が、反応系外へ留去されることを防ぐため、反応容器を閉鎖系にするか、コンデンサー等の還流装置を取り付けて反応系を還流させることが好ましい。反応後は、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(A)のハンドリングの観点から、反応系内に残存する水および触媒を除去するのが好ましい。前記水、触媒の除去は、抽出作業で行ってもよいし、トルエン等の反応に悪影響を与えない溶媒を反応系内に加え、ディーンスターク管で共沸除去してもよい。
【0112】
前記加水分解および縮合反応において使用する水の量は、特に限定されない。反応効率の観点から、原料化合物に含有される加水分解性基(ハロゲン原子基およびアルコキシ基)の全モル数に対して、0.5倍以上5倍以下であることが好ましい。
【0113】
通常、加水分解で発生するハロゲン化水素が触媒として作用するため、触媒を新たに加える必要はないが、場合によっては触媒を追加しても良い。その場合は酸触媒が好ましく用いられる。酸触媒の具体例としては塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、カンファースルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トシル酸、ギ酸、多価カルボン酸あるいはその無水物等が挙げられる。触媒の使用量としては、原料化合物の加水分解性基(ハロゲン原子基およびアルコキシ基)の全モル数に対して、1.0×10-5倍以上、1.0×10-1倍以下であることが好ましい。
【0114】
前記加水分解および縮合反応では、必ずしも反応溶媒を用いる必要はなく、原料化合物、水を混合し、加水分解縮合することができる。一方、反応溶媒を用いる場合、その種類は特に限定されるものではない。中でも、原料化合物、水、触媒に対する溶解性の観点から、極性溶媒が好ましく、さらに好ましくはアルコール系溶媒である。具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等が挙げられる。前記反応溶媒を用いる場合の使用量としては、前記加水分解縮合反応が均一系で進行させるに必要な任意量を使用することができる。
【実施例
【0115】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0116】
本実施例で得られた珪素化合物の同定は、以下に示す方法でおこなった。
【0117】
〔NMR(核磁気共鳴)測定〕
共鳴周波数400MHzの核磁気共鳴装置(日本電子株式会社製、JNM-ECA400)を使用し、1H-NMR、19F-NMRの測定を行った。
【0118】
〔GC測定〕
GC測定は島津製作所(株)製、商品名Shimadzu GC-2010を用い、カラムはキャピラリーカラム DB1(60mm×0.25mmφ×1μm)を用いて測定を行なった。
【0119】
〔分子量測定〕
重合物の分子量はゲル浸透クロマトグラフ(東ソー株式会社製、HLC-8320GPC)を使用してGPCを測定し、ポリスチレン換算により、重量平均分子量(Mw)を算出した。
【0120】
実施例1(第1工程:フェニルトリクロロシランとHFAの反応)
【化40】
300mLの撹拌機付きオートクレーブに、フェニルトリクロロシラン126.92g(600mmol)、塩化アルミニウム8.00g(60.0mmol)を加えた。次いで、窒素置換を実施したのち、内温を40℃まで昇温し、HFA119.81g(722mmol)を2時間かけて加え、その後3時間攪拌を継続した。反応終了後、加圧ろ過にて固形分を除去し、得られた粗体を減圧蒸留することで、無色液体215.54gを得た(収率95%)。得られた混合物を1H-NMR、19F-NMR、およびGCにて分析したところ、3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリクロロシリルベンゼンと4-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリクロロシリルベンゼンの混合物(GCarea%:1-3置換体と1-4置換体の合計=97.37%(1-3置換体=93.29%、1-4置換体=4.08%))であった。また、この混合物を精密蒸留することで、無色液体として3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリクロロシリルベンゼン(GC純度98%)を得た。
得られた3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリクロロシリルベンゼンの1H-NMRおよび19F-NMRの測定結果を以下に示す。
1H-NMR(溶媒CDCl3,TMS):δ 8.17(s,1H),7.96-7.89(m,2H),7.64-7.60(dd,J=7.8Hz,1H),3.42(s,1H)
19F-NMR(溶媒CDCl3,CCl3F):δ -75.44(s,12F)
【0121】
実施例2(第1工程:ジクロロメチルフェニルシランとHFAの反応)
【化41】
300mLの撹拌機付きオートクレーブに、ジクロロメチルフェニルシラン114.68g(600mmol)、塩化アルミニウム8.00g(60.0mmol)、を加えた。次いで、窒素置換を実施したのち、内温を5℃まで冷却し、HFA99.61g(600mmol)を3時間かけて加え、その後2.5時間攪拌を継続した。反応終了後、加圧ろ過にて固形分を除去し、得られた粗体を減圧蒸留することで、無色液体178.60gを得た(収率83%)。得られた混合物を1H-NMR、19F-NMR、およびGCにて分析したところ、2-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ジクロロメチルシリルベンゼン、3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ジクロロメチルシリルベンゼン、および4-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ジクロロメチルシリルベンゼンの混合物(GCarea%:1-2置換体と1-3置換体と1-4置換体の合計=86.34%(1-2置換体=0.57%、1-3置換体=79.33%、1-4置換体=6.44%))であった。
【0122】
実施例3(第1工程:クロロジメチルフェニルシランとHFAの反応)
【化42】
100mLのオートクレーブに、クロロジメチルフェニルシラン17.1g(100mmol)、塩化アルミニウム1.33g(10.0mmol)を加えた。次いで、窒素置換を実施したのち、内温を5℃まで冷却し、HFA16.6g(100mmol)を40分かけて加え、その後2時間攪拌を継続した。反応終了後、加圧ろ過にて固形分を除去し、得られた粗体を減圧蒸留することで、無色液体16.91gを得た。(収率50%)得られた混合物を1H-NMR、19F-NMR、およびGCにて分析したところ、2-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-クロロジメチルシリルベンゼン、3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-クロロジメチルシリルベンゼン、および4-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-クロロジメチルシリルベンゼンの混合物(GCarea%:1-2置換体と1-3置換体と1-4置換体の合計=62.34%(1-2置換体=6.86%、1-3置換体=47.68%、1-4置換体=7.80%))であった。
【0123】
実施例4(第2工程:HFIP基含有芳香族トリクロロシランとメタノールの反応)
【化43】
温度計、メカニカルスターラー、ジムロート還流管を備え付け、乾燥窒素雰囲気下に置換した容量200mLの4つ口フラスコに、実施例1に示す手法に従って合成した3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリクロロシリルベンゼンと4-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリクロロシリルベンゼンの混合物(GCarea比 1-3置換体:1-4置換体=96:4)113.27gを仕込み、フラスコ内容物を攪拌しながら60℃に加熱した。その後窒素バブリングさせながら、滴下ポンプを用いて無水メタノール37.46g(1170mmol)を0.5mL/minの速さで滴下し、塩化水素除去を行いながらアルコキシ化反応を行った。全量滴下後30分攪拌した後、減圧ポンプを用いて過剰量のメタノールを留去し、単蒸留を行なうことで、3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリメトキシシリルベンゼンと4-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリメトキシシリルベンゼンの混合物87.29g(GCarea%:1-3置換体と1-4置換体の合計=96.83%(1-3置換体=92.9%、1-4置換体=3.93%))を得た。フェニルトリクロロシランを基準とした収率(実施例1と実施例4の通算収率)は74%であった。また、得られた粗体を精密蒸留することで、白色固体として3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリメトキシシリルベンゼン(GC純度98%)を得た。
得られた3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリメトキシシリルベンゼンの1H-NMR、19F-NMR測定結果を以下に示す。
1H-NMR(溶媒CDCl3,TMS):δ7.98(s,1H), 7.82-7.71(m,2H),7.52-7.45(dd,J=7.8Hz,1H),3.61(s,9H)
19F-NMR(溶媒CDCl3,CCl3F):δ-75.33(s,12F)
【0124】
実施例5(第2工程:HFIP基含有芳香族トリクロロシランとエタノールの反応)
【化44】
温度計、メカニカルスターラー、ジムロート還流管を備え付け、乾燥窒素雰囲気下に置換した容量1Lの4つ口フラスコに、無水エタノール47.70g(1035mmol)、トリエチルアミン81.00g(801mmol)、トルエン300gを加え、フラスコ内容物を攪拌しながら0℃に冷却した。つぎに、実施例1に示す手法に従って合成した3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリクロロシリルベンゼンと4-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリクロロシリルベンゼンの混合物(GCarea比 1-3置換体:1-4置換体=96:4)100.00gを1時間かけて滴下した。その際液温が15℃以下に収まるように氷浴で冷却しながら滴下した。滴下終了後、30℃まで昇温した後30分攪拌し、反応を完結させた。続いて反応液吸引ろ過して塩を除去した後、分液ロートで300gの水を3回用いて有機層を水洗し、ロータリーエバポレータでトルエンを留去することで、3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリエトキシシリルベンゼンと4-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリエトキシシリルベンゼンの混合物92.24g(GCarea%:1-3置換体と1-4置換体の合計=91.96%(1-3置換体=88.26%、1-4置換体=3.70%))を得た。フェニルトリクロロシランを基準とした収率(実施例1と実施例5の通算収率)は82%であった。また、得られた粗体を精密蒸留することで、無色透明液体として3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリエトキシシリルベンゼン(GC純度97%)を得た。得られた3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリエトキシシリルベンゼンの1H-NMR、19F-NMR測定結果を以下に示す。
1H-NMR(溶媒CDCl3,TMS):δ8.00(s,1H), 7.79-7.76(m,2H),7.47(t,J=7.8Hz,1H),3.87(q,J=6.9Hz,6H),3.61(s,1H),1.23(t,J=7.2Hz,9H)
19F-NMR(溶媒CDCl3,CCl3F):δ-75.99(s,6F)
【0125】
実施例6(第2工程:HFIP基含有芳香族トリクロロシランとエタノール、および「ハロゲン化水素捕捉剤」ナトリウムエトキシドエタノール溶液を用いた反応)
温度計、メカニカルスターラー、ジムロート還流管を備え付け、乾燥窒素雰囲気下に置換した容量300mLの4つ口フラスコに、実施例1に示す手法に従って合成した3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリクロロシリルベンゼンと4-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリクロロシリルベンゼンの混合物(GCarea比 1-3置換体:1-4置換体=96:4)188.80gを仕込み、フラスコ内容物を攪拌しながら60℃に加熱した。その後窒素バブリングさせながら、滴下ポンプを用いて無水エタノール、89.80g(1950mmol)を1mL/minの速さで滴下し、塩化水素除去を行いながらアルコキシ化反応を行った。全量滴下後30分攪拌した後、減圧ポンプを用いて過剰量のエタノールを留去した。この反応物のガスクロマトグラフィー測定を行うことにより、未反応のクロロシラン化合物の量を算出した。続いて、先の反応物に対して、未反応のクロロシランのクロロ基のmol数に対して、1.2当量の20質量%ナトリウムエトキシドエタノール溶液3.39g(10.0mmol)を添加し、30分反応させた。減圧ポンプを用いて過剰なエタノールを留去したのち、単蒸留を行なうことで、3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリエトキシシリルベンゼンと4-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリエトキシシリルベンゼンの混合物159.58g(GCarea%:1-3置換体と1-4置換体の合計=95.26%(1-3置換体=91.58%、1-4置換体=3.68%))を得た。フェニルトリクロロシランを基準とした収率(実施例1と実施例6の通算収率)は75%であった。また、得られた粗体を精密蒸留することで、無色透明液体として3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリエトキシシリルベンゼン(GC純度98%)を得た。
【0126】
実施例7(第2工程:HFIP基含有芳香族トリクロロシランとエタノール、および「ハロゲン化水素捕捉剤」オルトギ酸トリエチルを用いた反応)
温度計、メカニカルスターラー、ジムロート還流管を備え付け、乾燥窒素雰囲気下に置換した容量300mLの4つ口フラスコに、実施例1に示す手法に従って合成した3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリクロロシリルベンゼンと4-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリクロロシリルベンゼンの混合物(GCarea比 1-3置換体:1-4置換体=96:4)188.80gを仕込み、フラスコ内容物を攪拌しながら60℃に加熱した。その後窒素バブリングさせながら、滴下ポンプを用いて無水エタノール、89.80g(1950mmol)を1mL/minの速さで滴下し、塩化水素除去を行いながらアルコキシ化反応を行った。全量滴下後30分攪拌した後、減圧ポンプを用いて過剰量のエタノールを留去した。この反応物のガスクロマトグラフィー測定を行うことにより、未反応のクロロシラン化合物の量を算出した。続いて、先の反応物に対して、未反応のクロロシランのクロロ基のmol数に対して、ハロゲン化水素捕捉剤として1.2当量のオルトギ酸トリエチル1.48g(10.0mmol)を添加し、30分反応させた。減圧ポンプを用いて過剰なエタノール、オルトギ酸トリエチル、およびオルトギ酸トリエチルを用いた反応による生成物を留去したのち、単蒸留を行なうことで、3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリエトキシシリルベンゼンと4-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリエトキシシリルベンゼンの混合物159.98g(GCarea%:1-3置換体と1-4置換体の合計=95.50%(1-3置換体=92.93%、1-4置換体=3.99%))を得た。フェニルトリクロロシランを基準とした収率(実施例1と実施例6の通算収率)は83%であった。また、得られた粗体を精密蒸留することで、無色透明液体として3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリエトキシシリルベンゼン(GC純度98%)を得た。
【0127】
実施例8(第2工程:HFIP基含有芳香族ジクロロメチルシランとエタノール、および「ハロゲン化水素捕捉剤」ナトリウムエトキシドエタノール溶液を用いた反応)
【化45】
温度計、メカニカルスターラー、ジムロート還流管を備え付け、乾燥窒素雰囲気下に置換した容量300mLの4つ口フラスコに、実施例2に示す手法に従って合成した2-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ジクロロメチルシリルベンゼン、3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ジクロロメチルシリルベンゼン、および4-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ジクロロメチルシリルベンゼンの混合物(GCarea比 1-2置換体:1-3置換体:1-4置換体=1:92:7)178.60gを仕込み、フラスコ内容物を攪拌しながら40℃に加熱した。その後窒素バブリングさせながら、滴下ポンプを用いて無水エタノール、81.80g(1400mmol)を1mL/minの速さで滴下し、塩化水素除去を行いながらアルコキシ化反応を行った。全量滴下後30分攪拌した後、減圧ポンプを用いて過剰量のエタノールを留去した。この反応物のガスクロマトグラフィー測定を行うことにより、未反応のクロロシラン化合物の量を算出した。続いて、先の反応物に対して、未反応のクロロシランのクロロ基のmol数に対して、ハロゲン化水素捕捉剤として1.2当量の20質量%ナトリウムエトキシドエタノール溶液、5.95g(17.5mmol)を添加し、30分反応させた。減圧ポンプを用いて過剰なエタノールを留去したのち、単蒸留を行なうことで、2-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ジエトキシメチルシリルベンゼン、3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ジエトキシメチルシリルベンゼン、および4-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ジエトキシメチルシリルベンゼンの混合物155.90g(GCarea%:1-2置換体と1-3置換体と1-4置換体の合計=88.41%(1-2置換体=0.60%、1-3置換体=83.50%、1-4置換体=4.31%))を得た。ジクロロメチルフェニルシランを基準とした収率(実施例2と実施例7の通算収率)は69%であった。また、得られた粗体を精密蒸留することで、無色透明液体として3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ジエトキシメチルシリルベンゼンGC純度98%)を得た。
得られた3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ジエトキシメチルシリルベンゼンの1H-NMR、19F-NMR測定結果を以下に示す。
1H-NMR(溶媒CDCl3,TMS):δ7.96(s,1H), 7.76-7.73(m,2H),7.47(t,J=7.8Hz,1H),3.86-3.75(m,6H),3.49(s,1H),1.23(t,J=7.2Hz,6H),0.37(s,3H)
19F-NMR(溶媒CDCl3,CCl3F):δ-75.96(s, 6F)
【0128】
実施例9(第2工程:HFIP基含有芳香族ジクロロメチルシランとエタノール、および「ハロゲン化水素捕捉剤」オルトギ酸トリエチルを用いた反応)
温度計、メカニカルスターラー、ジムロート還流管を備え付け、乾燥窒素雰囲気下に置換した容量300mLの4つ口フラスコに、実施例2に示す手法に従って合成した2-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ジクロロメチルシリルベンゼン、3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ジクロロメチルシリルベンゼン、および4-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ジクロロメチルシリルベンゼンの混合物(GCarea比 1-2置換体:1-3置換体:1-4置換体=1:92:7)301.25gを仕込み、フラスコ内容物を攪拌しながら40℃に加熱した。その後窒素バブリングさせながら、滴下ポンプを用いて無水エタノール、100.60g(2180mmol)を1.5mL/minの速さで滴下し、塩化水素除去を行いながらアルコキシ化反応を行った。全量滴下後30分攪拌した後、減圧ポンプを用いて過剰量のエタノールを留去した。この反応物のガスクロマトグラフィー測定を行うことにより、未反応のクロロシラン化合物の量を算出した。続いて、先の反応物に対して、未反応のクロロシランのクロロ基のmol数に対して、ハロゲン化水素捕捉剤として、1.2当量のオルトギ酸トリエチル、6.30g(42.5mmol)を添加し、30分反応させた。減圧ポンプを用いて過剰なエタノールを留去したのち、単蒸留を行なうことで、2-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ジエトキシメチルシリルベンゼン、3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ジエトキシメチルシリルベンゼン、および4-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ジエトキシメチルシリルベンゼンの混合物314.44g(GCarea%:1-2置換体と1-3置換体と1-4置換体の合計=84.60%(1-2置換体=0.20%、1-3置換体=78.17%、1-4置換体=6.23%))を得た。ジクロロメチルフェニルシランを基準とした収率(実施例2と実施例7の通算収率)は84%であった。また、得られた粗体を精密蒸留することで、無色透明液体として3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ジエトキシメチルシリルベンゼンGC純度98%)を得た。
【0129】
比較例1
100mLのオートクレーブに、トリメトキシフェニルシラン5.95g(30.0mmol)、塩化アルミニウム0.40g(3.0mmol)を加えた。次いで、窒素置換を実施したのち、室温にてHFA4.98g(30mmol)加え、その後3時間攪拌を継続した。しかしながらケイ素-アルコキシ結合部位にHFAが挿入した化合物が主として生成し、目的のアルコキシシランはまったく生成しなかった。
【0130】
比較例2
100mLのオートクレーブに、トリエトキシフェニルシラン7.21g(30.0mmol)、塩化アルミニウム0.40g(3.0mmol)を加えた。次いで、窒素置換を実施したのち、室温にてHFA4.98g(30mmol)加え、その後3時間攪拌を継続した。しかしながらケイ素-アルコキシ結合部位にHFAが挿入した化合物が主として生成し、目的のアルコキシシランはまったく生成しなかった。
【0131】
比較例3
【化46】
特開2014-156461に記載の方法にて、3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリエトキシシリルベンゼンの合成を行なった。具体的には、還流管を取り付けた300mL三口フラスコ内に、予め乾燥させておいた、3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ブロモベンゼン6.46g(20.0mmol)、テトラブチルアンモニウムヨージド、7.38g(40.0mmol)、およびビス(アセトニトリル)(1,5-シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボラート、0.228g(0.60mmol)を仕込み、アルゴン雰囲気下で、脱水処理したN,N-ジメチルホルムアミド120mL、脱水処理したトリエチルアミン11.1mL(80.0mmol)、およびトリエトキシシラン7.40mL(40.0mmol)を加え、温度80℃に昇温し4時間攪拌した。反応系を室温まで自然冷却した後、溶媒であるN,N-ジメチルホルムアミドを留去し、次いでジイソプロピルエーテル200mLを加えた。生じた沈殿に、セライトを接触させて濾過した後、濾液を100mLの水で3回洗浄し、Na2SO4を加えて脱水をおこなった。その後、溶媒を留去することで3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリエトキシシリルベンゼンを含む褐色液体4.75g(GCarea%=46.89%)を得た。3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ブロモベンゼンを基準とした収率58%であった。副反応として、エトキシシランとヒドロシランの縮合反応(Si-OEt+Si-H→Si-O-Si+EtOH)、ブロモ基の還元反応(ブロモ基→水素基)、水洗浄の際の加水分解等が起こったと推定され、低い反応効率(以下の表2を参照)となったものと考えている。
【0132】
実施例4~7および比較例1~3の式(4)で表される珪素化合物(本明細書ではHFIP基含有芳香族アルコキシシランと呼ぶことがある)の製造結果を表2に示す。
【表2】
【0133】
表中、「収率」としたものは、第2工程の反応が終了した反応混合物から溶媒等を留去して得られた回収物、もしくは溶媒等を留去したのち蒸留して得られた回収物の純度を100%に見立てた場合の「見かけ上の収率」である(実施例4については、「実施例1,4の通算収率」として記載する。同様に、実施例5については「実施例1,5の通算収率」、実施例6については「実施例1,6の通算収率」、実施例5については「実施例1,5の通算収率」、実施例6については「実施例1,6の通算収率」、実施例7については「実施例1、7の通算収率」、実施例8については「実施例2、8の通算収率」、実施例9については「実施例2、9の通算収率」として記載する)。また、この「収率」に当該残渣の純度を掛けたものを「反応効率」として表示している。
【0134】
表2に示すように、HFIP基含有芳香族ハロゲン化合物(B)である3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ブロモベンゼンから合成した比較例3に比べて、本発明の製造方法にて実施した実施例1~7では有意に高い反応効率で目的とする式(4)で表される珪素化合物が得られ、本発明の有利な効果が実証された。一方で、アルコキシシランを原料として用いた比較例1および2では、ケイ素-アルコキシ結合部位にHFAが挿入した化合物が主として生成し、目的とする式(4)で表される珪素化合物を得ることが出来なかった。
【0135】
実施例10(第3工程:HFIP基含有芳香族アルコキシシランを原料とするHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物の合成)
50mLのフラスコに、実施例4で合成した3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリメトキシシリルベンゼンの精密蒸留品7.29g(20mmol)、水、1.08g(60mmol)、酢酸、0.06g(1mmol)を加え、100℃で24時間攪拌させた。反応終了後、この反応物にトルエンを加え、ディーンスタークを用いて還流(バス温度150℃)させることにより、水、生成するエタノール、酢酸を留去した。続いてロータリーエバポレータ、ポンプを用いてトルエンを留去することにより、(12)の繰り返し単位を有するHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物5.96gを白色固体として得た。GPCを測定した結果、Mw=1970であった。
【化47】
(式中、rは任意の整数を表す。)
【0136】
実施例11(第3工程)
50mLのフラスコに、実施例6で合成した3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリエトキシシリルベンゼンの精密蒸留品8.1g(20mmol)、水、1.08g(60mmol)、酢酸、0.06g(1mmol)を加え、100℃で24時間攪拌させた。反応終了後、この反応物にトルエンを加え、ディーンスタークを用いて還流(バス温度150℃)させることにより、水、生成するエタノール、酢酸を留去した。続いてロータリーエバポレータ、ポンプを用いてトルエンを留去することにより、(12)の繰り返し単位を有するHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物6.15gを白色固体として得た。GPCを測定した結果、Mw=1650であった。
【0137】
実施例12(第3工程)
50mLのフラスコに、実施例6で合成した3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリエトキシシリルベンゼンの精密蒸留品4.06g(10mmol)、フェニルトリエトキシシラン2.40g(10mmol)水、1.08g(60mmol)、酢酸、0.06g(1mmol)を加え、100℃で24時間攪拌させた。反応終了後、この反応物にトルエンを加え、ディーンスタークを用いて還流(バス温度150℃)させることにより、水、生成するエタノール、酢酸を留去した。続いてロータリーエバポレータ、ポンプを用いてトルエンを留去することにより、(13)の繰り返し単位を有するHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物3.92gを白色固体として得た。GPCを測定した結果、Mw=2100であった。
【化48】
(式中、sおよびtはモル比を表わし、s/t=50/50である。)
【0138】
実施例13(第3工程)
50mLのフラスコに、実施例7で合成した3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-ジエトキシメチルシリルベンゼンの精密蒸留品7.5g(20mmol)、水0.72g(40mmol)、酢酸0.06g(1mmol)を加え、100℃で24時間攪拌させた。反応終了後、この反応物にトルエンを加え、ディーンスタークを用いて還流(バス温度150℃)させることにより、水、生成するエタノール、酢酸を留去した。続いてロータリーエバポレータ、ポンプを用いてトルエンを留去することにより、(14)の繰り返し単位を有するHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物5.94gを無色透明液体として得た。GPCを測定した結果、Mw=1323であった。
【化49】
(式中、uは任意の整数を表す。)
【0139】
実施例14(第4工程:HFIP基含有芳香族クロロシランを原料とするHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物の合成)
50mLのフラスコに、実施例1で合成した3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリクロロシリルベンゼンの精密蒸留品7.6g(20mmol)、に対し、氷浴しながら水、1.08g(60mmol)、を滴下した後、室温で1時間攪拌させた。反応終了後、ポンプを用いて残存する水、塩化水素を留去することにより、(12)の繰り返し単位を有するHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物5.13gを白色固体として得た。GPCを測定した結果、Mw=5151であった。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明によって得られるHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)およびHFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)は、ポリマー樹脂の合成原料のほか、ポリマーの改質剤、無機化合物の表面処理剤、各種材料カップリング剤、有機合成の中間原料として有用である。また、HFIP基含有ポリシロキサン高分子(A)およびそれより得られる膜は、アルカリ現像液に可溶でパターニング性能を具備し、且つ耐熱性と透明性に優れることから、半導体用保護膜、有機ELや液晶ディスプレイ用保護膜、イメージセンサー用のコーティング材、平坦化材料およびマイクロレンズ材料、タッチパネル用の絶縁性保護膜材料、液晶ディスプレイTFT平坦化材料、光導波路のコアやクラッドの形成材料、多層レジスト用の中間膜、下層膜、反射防止膜等に用いることができる。前記の用途の内、ディスプレイやイメージセンサー等の光学系部材に用いる場合は、シリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の無機微粒子を、屈折率調整の目的で任意の割合で混合して用いることができる。