IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スズキ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-燃料電池装置 図1
  • 特許-燃料電池装置 図2
  • 特許-燃料電池装置 図3
  • 特許-燃料電池装置 図4
  • 特許-燃料電池装置 図5
  • 特許-燃料電池装置 図6
  • 特許-燃料電池装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】燃料電池装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/026 20160101AFI20221207BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20221207BHJP
【FI】
H01M8/026
H01M8/10 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019027447
(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公開番号】P2020136054
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼井 善文
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-115413(JP,A)
【文献】特開2005-203288(JP,A)
【文献】特開2012-190599(JP,A)
【文献】特開2004-179074(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の各側に電極層を有する膜電極接合体、および、
前記膜電極接合体の各側にガス拡散層を介して積層された一対のセパレータを備え、
前記一対のセパレータは、それぞれ、前記ガス拡散層との接触面側に、多数の溝と前記各溝の間に延在する凸部とが形成されており、
前記一対のセパレータの一方が前記溝を水素流路とする水素極側セパレータであり、前記一対のセパレータの他方が前記溝を空気流路とする空気極側セパレータである、
単位セル構造を有する燃料電池装置において、
前記空気極側セパレータの前記各溝は、同じ幅を有して等間隔に配置されており、
前記水素極側セパレータの前記各溝は、前記空気極側セパレータの前記各溝と同じ幅を有し、かつ、前記空気極側セパレータの前記各溝のうちの対応する溝と幅方向の同位置に設けられているが、幅方向の少なくとも一部の領域では、前記空気極側セパレータの前記各溝の1ないしは数本おきに設けられていることを特徴とする燃料電池装置。
【請求項2】
前記少なくとも一部の領域は、幅方向の中央領域を除く両側領域、または幅方向の中央領域と両端領域を除く両側領域であり、前記両側領域以外の領域では、前記空気極側セパレータの前記各溝と同位置に、前記水素極側セパレータの前記各溝が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池装置。
【請求項3】
前記空気極側セパレータの前記各溝、および、前記水素極側セパレータの前記各溝は、前記空気極側セパレータおよび前記水素極側セパレータの長手方向に平行かつ直線状に形成されている請求項1または2に記載の燃料電池装置。
【請求項4】
前記空気極側セパレータの前記各溝、および、前記水素極側セパレータの前記各溝は、前記空気極側セパレータおよび前記水素極側セパレータの長手方向に延在しかつ幅方向に振幅を有する同一の波形に形成されている請求項1または2に記載の燃料電池装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池装置に関し、さらに詳しくは、燃料電池スタックを構成する単位セル構造に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池、例えば、固体高分子型燃料電池は、電解質膜の各側に電極層を有する膜電極接合体の各側に、ガス拡散層を介してセパレータを重ねて単位セルを構成し、このような単位セルを、冷却層を介して多数積層した燃料電池スタックを備え、一方の水素極側のセパレータに形成された流路に高圧の水素燃料を供給することで、他方の空気極側のセパレータの流路に供給される酸素との電気化学反応によって水素燃料の化学エネルギーから電力を取り出す発電装置である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-203288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空気極側のセパレータの流路は、反応によって生成された水の排水路としての機能も有している。特許文献1では、低負荷時の生成水排出性を向上させるために、中央部の空気極側の流路溝幅を大きくし、水素極側の流路溝幅を小さくすることを開示している。
【0005】
しかしながら、流路幅を変えると、残余の凸部の接触面積比が低くなることに加えて、水素極側と空気極側の凸部嵌合率の低下により電気抵抗が増加する問題があった。
【0006】
本発明は従来技術の上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、発電性能と生成水排出性を両立するのに有利な単位セル構造を有する燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者が鋭意検討したところ、水素は酸素に比べてガス拡散層内で拡散し易いので、水素流路密度を減らして凸部分を広くしても反応に必要な水素が不足することはないという知見を得て本発明に想到した。
【0008】
すなわち本発明は、
電解質膜の各側に電極層を有する膜電極接合体、および、
前記膜電極接合体の各側にガス拡散層を介して積層された一対のセパレータを備え、
前記一対のセパレータは、それぞれ、前記ガス拡散層との接触面側に、多数の溝と前記各溝の間に延在する凸部とが形成されており、
前記一対のセパレータの一方が前記溝を水素流路とする水素極側セパレータであり、前記一対のセパレータの他方が前記溝を空気流路とする空気極側セパレータである、
単位セル構造を有する燃料電池装置において、
前記空気極側セパレータの前記各溝は、同じ幅を有して等間隔に配置されており、
前記水素極側セパレータの前記各溝は、前記空気極側セパレータの前記各溝と同じ幅を有し、かつ、前記空気極側セパレータの前記各溝のうちの対応する溝と幅方向の同位置に設けられているが、幅方向の少なくとも一部の領域では、前記空気極側セパレータの前記各溝の1ないしは数本おきに設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る燃料電池は、上記のように、空気極側セパレータの各溝が、同じ幅を有して等間隔に配置され、水素極側セパレータの各溝が、空気極側セパレータの各溝と同じ幅を有し、かつ、空気極側セパレータの対応する溝と幅方向の同位置に設けられている構成により、水素極側および空気極側の各溝間の凸部が面当たりし、水素極側と空気極側の凸部嵌合率が増加することにより、貫通抵抗および接触抵抗を低減でき、さらに、水素極側セパレータの各溝が、幅方向の少なくとも一部の領域で、空気極側セパレータの各溝の1ないしは数本おきに設けられている(水素極側セパレータの凸部が空気極側セパレータの凸部の2ないしは数本に亘って設けられている)構成により、接触面積比が高くなり、水素極側セパレータにおける集電効率を向上することができ、しかも、空気極側セパレータおよび水素極側セパレータの溝の数は最大限に確保されるので、排水性も良好である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明実施形態の燃料電池の単位セル構成を示す分解斜視図である。
図2】単位セルを積層した燃料電池スタックを示す図1のY方向断面図である。
図3】本発明実施形態の水素極側セパレータを示す要部底面図である。
図4】本発明実施形態の空気極側セパレータを示す要部平面図である
図5】本発明実施形態の単位セルを示す図2の要部拡大断面図である。
図6】本発明実施形態の単位セルを示す図5に対応する分解断面図である。
図7】単位セル内での電子の移動を示す図5の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1図6において、燃料電池装置の主要部分をなす燃料電池スタックは、膜電極接合体3の各側にガス拡散層32,34を介して水素側セパレータ2、空気側セパレータ4が積層された単位セル5を、冷却プレート1を介して多数積層することにより構成される。
【0012】
冷却プレート1は、図1に示されるように、単位セル5の幅方向Yに平行な冷却用空気流路1aを画成する多数の溝10を有する波板形状をなしており、導電性や熱伝導性が良好な金属材料や炭素材料などから製造される。
【0013】
膜電極接合体3(Membrane Electrode Assembly:MEA)は、水素イオンを選択的に透過させる電解質膜(高分子電解質膜、PEM)の各側に電極層を接合してなり、電極層(触媒層)は、燃料極(アノード)、空気極(カソード)からなり、カーボンブラック担体上に白金触媒を担持させたものなどで構成される。
【0014】
水素側セパレータ2は、図中下面側となるガス拡散層32との接触面側に、長手方向Xに平行に延在する水素流路2aを画成する多数の溝20が形成されており、各溝20の間に凸部21が形成されている。各溝20は同一の幅の矩形断面を有しており、各凸部21は平坦な頂面を有している。
【0015】
なお、各凸部21は、図3に示されるように、水素側セパレータ2の端部の手前で終端しており、水素側セパレータ2の端部に、分流/合流のための統合水素流路2a′が画成されている。各図では省略されているが、各単位セル5の統合水素流路2a′は、各単位セル5の端部を厚さ方向Zに貫通する水素供給路/排出路に連通しており、それらを通じて水素ガスを供給/排出できるようになっている。
【0016】
空気側セパレータ4は、図中上面側となるガス拡散層34との接触面側に、長手方向Xに平行に延在する空気流路4aを画成する多数の溝40が形成されており、各溝40の間に凸部41が形成されている。各溝40は同一の幅の矩形断面を有して等間隔に配置されており、各凸部41は、平坦な頂面を有し、ガスケット42に隣接した両側端部を除き同一の幅を有している。
【0017】
水素側セパレータ2の各溝20は、空気側セパレータ4の溝40と同一の幅を有し、かつ、各溝40のうちの対応する溝40と幅方向の同位置に対向して設けられているが、幅方向の中央領域2c(図示例では中央領域2cと幅方向両端領域)を除く両側領域2bでは、各溝40の2本おきに設けられ、各凸部21は、空気極側セパレータ4の3本の凸部41に亘って設けられている。したがって、各凸部21は、3つの凸部41の幅と2つの溝40の幅を合計した広い幅を有している。
【0018】
なお、ガスケット22,42に隣接した両側端部の凸部21,41は、他の凸部41よりやや広い幅を有している。また、図4に示されるように、各凸部41は、空気側セパレータ4の端部の手前で終端しており、空気側セパレータ4の端部にも、分流/合流のための統合空気流路4a′が画成されている。各図では省略されているが、水素側と同様に、各単位セル5の統合空気流路4a′は、各単位セル5の端部を厚さ方向(積層方向)Zに貫通する空気供給路/排出路に連通しており、それらを通じて空気を供給/排出できるようになっている。
【0019】
また、図5,6に示されるように、水素側セパレータ2は、空気側セパレータ4よりも薄く、水素側セパレータ2の各溝20は、生成水の排出路を兼ねる空気側セパレータ4の各溝40よりも浅い。水素側セパレータ2および空気側セパレータ4は、集電電極/給電電極を兼ねており、導電性や熱伝導性が良好な金属材料や炭素材料などから製造される。
【0020】
ガス拡散層32,34(Gas Diffusion Layer:GDL)は、水素流路2aを通じて供給される水素、および、空気流路4aを通じて供給される空気中の酸素を面方向に拡散して膜電極接合体3の電極層に均一に行き渡らせる機能、燃料側電極での化学反応により生じた電子を集電し、空気側電極で生じた精製水を排出する機能を有しており、ガス透過性および導電性の良好なカーボンペーパーやカーボンクロスなどで構成される。
【0021】
上記のような構成を有するガス拡散層32,34は、単位セル5の他の構成部品よりも柔軟であるため、図6に示すような積層前の状態では、厚さが一様なシート状の形態を有しているが、図5に示すように、膜電極接合体3の各側にガス拡散層32,34を介して水素側セパレータ2,空気側セパレータ4を積層し単位セル5を構成した状態では、水素側セパレータ2および空気側セパレータ4の凸部21,41でガス拡散層32,34が挟まれて圧縮され、各凸部21,41がガス拡散層32,34に食い込み、逆に各溝部20,40では、ガス拡散層32,34が各溝部20,40内に食い込むような嵌合構造が形成される。
【0022】
このようなガス拡散層32,34と水素側セパレータ2および空気側セパレータ4の嵌合構造における、各凸部21,41、各溝部20,40によるガス拡散層32,34の圧縮変形の程度は、冷却プレート1を介して多数の単位セル5を積層して燃料電池スタックを構成した状態で、全体の厚さを寸法管理することにより適正に調整される。
【0023】
以上のように構成された燃料電池装置は、各単位セル5において、空気側セパレータ4の凸部41は、必ず、水素側セパレータ2の凸部21が存在する位置で面当たりするように構成されているので、貫通抵抗および接触抵抗を低減でき、発電性能を向上する上で有利な構成となっている。
【0024】
また、水素極側セパレータ2の各溝20が、幅方向の両側領域2bで、空気極側セパレータ4の各溝40の2本おきに設けられ、水素極側セパレータ2の凸部21が空気極側セパレータ4の3本の凸部41に亘って設けられている構成により、水素極側セパレータ2の凸部21とガス拡散層32を介した膜電極接合体3の接触面積比が高くなり、発電性能を向上でき、かつ、拡幅された凸部21における集電効率を向上することができる。
【0025】
しかも、生成水の排水路となる空気極側セパレータ4の溝40の数は最大限に確保されており、さらに、水の溜まり易い中央領域2cでは水素極側セパレータ2の溝20の数も最大限に確保されており、排水性も良好である。
【0026】
以下、上記のような作用効果について図7を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
図7は、単位セル5内での電気化学反応および電子(e)の移動を示している。この図において、水素極側セパレータ2の溝20を通じて供給される水素(H)は、ガス拡散層32によって、膜電極接合体3の上面側の燃料極(触媒層)に沿って面方向に拡散される。一方、空気極側セパレータ4の溝40を通じて供給される空気中の酸素(O)は、ガス拡散層34によって、膜電極接合体3の下面側の空気極(触媒層)に沿って拡散される。
【0028】
この際、水素(H)は、酸素(O)に比べて拡散性が良いので、溝20の設置間隔が広くても、膜電極接合体3の上面全体に均一に拡散される。一方、酸素(O)は拡散性に劣るものの、溝40の設置間隔が狭いので、膜電極接合体3の下面全体に均一に拡散され、反応に必要な量が確保される。
【0029】
膜電極接合体3の上面全体に均一に拡散された水素(H)は、燃料極(触媒層)での触媒の作用により水素イオン(H)と電子(e)に分解され、電子(e)はガス拡散層32および凸部21を通じて集電される。水素イオン(H)は膜電極接合体3を透過し、空気極(触媒層)にて酸素(O)と結合して水を生成する。生成された水は溝40を通じて排出される。
【0030】
燃料電池スタックは、導電性の冷却プレート1を介した単位セル5の直列接続で構成されており、水素極側セパレータ2に集電された電子(e)は、冷却プレート1を介して隣接する空気極側セパレータ4に供給され、空気極(触媒層)での反応に使用され、このようにして、単位セル5の直列接続の両端に電位を生じ、発電装置として機能する。
【0031】
また、膜電極接合体3の空気極(触媒層)で生成された水分の一部は、濃度拡散により燃料極側に移動し、水素極側セパレータ2の溝20を通じて排出される。
【0032】
なお、上記実施形態では、単位セル5における水素極側セパレータ2の各溝20が、幅方向の両側領域2bで、空気極側セパレータ4の各溝40の2本おきに設けられる場合を示したが、水素極側セパレータ2の各溝20が、幅方向の他の領域あるいは幅方向の全領域で、空気極側セパレータ4の各溝40の2本おきに設けられていてもよいし、また、水素極側セパレータ2の各溝20が、空気極側セパレータ4の各溝40の1本おき、あるいは、3ないしは5本おきに設けられていてもよい。
【0033】
さらに、上記実施形態では、水素極側セパレータ2および空気極側セパレータ4の各溝20,40が、単位セル5の長手方向に直線状に設けられる場合を示したが、各溝20,40は、単位セル5の長手方向に延在しかつ幅方向に振幅を有する同一の波形に形成されていてもよい。このような構成は、ガスの拡散性を向上するうえで有利である。
【0034】
以上、本発明のいくつかの実施形態について述べたが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能であることを付言する。
【符号の説明】
【0035】
1 冷却プレート
1a 冷却用空気流路
2 水素側セパレータ
2a 水素流路
2b 両側領域
2c 中央領域
3 膜電極接合体(MEA)
3a 空気流路
4 空気側セパレータ
5 単位セル
10 溝(冷却用空気流路)
20 溝(水素流路)
21,41 凸部
22,42 ガスケット
32,34 ガス拡散層
40 溝(空気流路)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7