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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】車両の走行制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/12 20120101AFI20221207BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20221207BHJP
   B60W 30/10 20060101ALI20221207BHJP
   B60W 30/16 20200101ALI20221207BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20221207BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20221207BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20221207BHJP
   B62D 103/00 20060101ALN20221207BHJP
   B62D 111/00 20060101ALN20221207BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20221207BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20221207BHJP
   B62D 137/00 20060101ALN20221207BHJP
【FI】
B60W50/12
B60T7/12 F
B60W30/10
B60W30/16
B62D6/00
G08G1/16 C ZYW
B62D101:00
B62D103:00
B62D111:00
B62D113:00
B62D119:00
B62D137:00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019060687
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020157985
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝彦
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-151287(JP,A)
【文献】特開2017-162248(JP,A)
【文献】特開2003-151090(JP,A)
【文献】特開2018-083539(JP,A)
【文献】特開2017-159723(JP,A)
【文献】特開2018-030425(JP,A)
【文献】特開2017-218020(JP,A)
【文献】特開2018-158684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00~60/00
B60T 7/12
B62D 6/00
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車線と隣接車線および前記各車線上の他車を認識する周囲認識機能と自車運動状態を取得する機能を含む環境状態推定部と、
前記環境状態推定部に取得される情報に基づいて目標経路を生成する経路生成部と、
前記目標経路に自車を追従させるべく速度制御および操舵制御を行う車両制御部と、
を備えた車両の走行制御装置であって、
前記環境状態推定部は、料金所近傍における自車位置を取得する手段を含み、
前車を目標にして走行する前車追従機能を有するものにおいて、
自車位置が料金所手前の車線区分線のない区間近傍の所定地点に到達した時に、前記前車追従機能および経路追従機能を停止させる操作介入の判定基準となるオーバーライド閾値を、車線区分線のある一般区間走行時よりも大きい値に変更する機能を有することを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記大きい値に変更されたオーバーライド閾値は、料金所手前の車線区分線のない区間から、料金所ゲート前後の車線区分線のある区間を除きまたは含め、料金所通過後の車線区分線のない区間を経て車線区分線のある一般区間に到達するまで維持されることを特徴とする請求項1記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記料金所通過後の車線区分線のない区間で、前記前車追従機能による走行中、または、前方の車線区分線のある一般区間の走行車線を目標にした経路追従走行中に、前記周囲認識機能により自車の所定領域内に他車の進入を検知した場合は、前車追従機能または経路追従機能の停止と操作引継を運転者に通知し、前記各機能の縮退制御を行うように構成されていることを特徴とする請求項2記載の車両の走行制御装置。
【請求項4】
自車位置が車線区分線のある一般区間にあり、隣接車線の所定範囲に他車がいない場合に隣接車線に自動車線変更を行う機能と、
前記自動車線変更を行う機能による車線変更中に、前記周囲認識機能により自車の所定領域内に他車の進入を検知した場合に、車線変更を中止して元車線に復帰する機能と、
をさらに有し、
前記周囲認識機能により自車の所定領域内に他車の進入を検知した時に、自車位置が料金所手前の車線区分線のない区間である場合は、前記前車追従機能による走行、または、料金所ゲートを目標にした経路追従走行に移行するように構成されていることを特徴とする請求項1~3の何れか一項記載の車両の走行制御装置。
【請求項5】
前記料金所近傍における自車位置を取得する手段は、測位手段による自車位置情報と地図情報とのマッチング、または、料金所案内表示、距離標などの表示物に対する画像認識を含むことを特徴とする請求項1~4の何れか一項記載の車両の走行制御装置。
【請求項6】
自車線に先行他車がいない場合は目標車速に従って定速走行を行い、先行他車がいる場合は所定車間距離を維持して追従走行を行うACC機能、および、前記目標経路への追従制御により自車線内の走行を維持するLKA機能をさらに有し、
前記オーバーライド閾値は、前記ACC機能、および/または、前記LKA機能を停止させる操作介入の判定基準となるオーバーライド閾値を兼ねることを特徴とする請求項1~5の何れか一項記載の車両の走行制御装置。
【請求項7】
前記オーバーライド閾値は、ブレーキ操作介入の判定基準となるブレーキオーバーライド閾値、および/または、操舵操作介入の判定基準となる操舵オーバーライド閾値を含むことを特徴とする請求項1~6の何れか一項記載の車両の走行制御装置。
【請求項8】
自車線と隣接車線および前記各車線上の他車を認識する周囲認識機能と自車運動状態を取得する機能を含む環境状態推定部と、
前記環境状態推定部に取得される情報に基づいて目標経路を生成する経路生成部と、
前記目標経路に自車を追従させるべく速度制御および操舵制御を行う車両制御部と、
を備えた車両の走行制御装置であって、
前車を目標にして走行する前車追従機能を有するものにおいて、
自車位置が料金所ゲートまたはその前後の車線区分線のある区間の通過時に、前記前車追従機能および経路追従機能を停止させる操作介入の判定基準となるオーバーライド閾値を、車線区分線のある一般区間走行時よりも大きい値に変更する機能を有することを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項9】
前記大きい値に変更されたオーバーライド閾値は、料金所通過後の車線区分線のない区間を経て車線区分線のある一般区間に到達するまで維持されることを特徴とする請求項8記載の車両の走行制御装置。
【請求項10】
前記料金所通過後の車線区分線のない区間で、前記前車追従機能による走行中、または、前方の車線区分線のある一般区間の走行車線を目標にした経路追従走行中に、前記周囲認識機能により自車の所定領域内に他車の進入を検知した場合は、前車追従機能または経路追従機能の停止と操作引継を運転者に通知し、前記各機能の縮退制御を行うように構成されていることを特徴とする請求項9記載の車両の走行制御装置。
【請求項11】
自車線と隣接車線および前記各車線上の他車を認識する周囲認識機能と自車運動状態を取得する機能を含む環境状態推定部と、
前記環境状態推定部に取得される情報に基づいて目標経路を生成する経路生成部と、
前記目標経路に自車を追従させるべく速度制御および操舵制御を行う車両制御部と、
を備えた車両の走行制御装置であって、
前車を目標にして走行する前車追従機能と、
料金所通過後の車線区分線のない区間を走行中に前記周囲認識機能により自車の所定領域内に他車の進入を検知した場合に、前車追従機能または経路追従機能の停止と操作引継を運転者に通知し、前記各機能の縮退制御を行う機能と、
を有するものにおいて、
前記機能停止と操作引継の運転者への通知時に、前記各機能を停止させる前記操作介入の判定基準となるオーバーライド閾値を、車線区分線のある一般区間走行時よりも大きい値に変更する機能を有することを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項12】
前記大きい値に変更されたオーバーライド閾値は、料金所通過後の車線区分線のない区間を経て車線区分線のある一般区間に到達するまで維持されることを特徴とする請求項11記載の車両の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行制御装置に関し、さらに詳しくは、部分的自動車線変更システムにおけるオーバーライド機能に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の負担軽減、安全運転支援を目的とした種々の技術、例えば、車間距離制御システム(Adaptive Cruise Control System:ACCS)、車線維持支援システム(Lane Keeping Assistance System:LKAS)などが実用化されている。さらに、これらをベースにした「車線内部分的自動走行システム(Partially Automated in-lane Driving System:PADS)」や「部分的自動車線変更システム(Partially Automated Lane Change System:PALS)」の実用化や国際規格化が進められている。
【0003】
このような走行制御システムは、あくまでも運転支援を目的としたものであり、完全な自動運転とは異なる。運転者はハンドルに手を添えて何時でも手動運転できるように、運転状況を把握することが求められ、状況に応じて運転者の対応が必要であり、システム作動中であっても、運転者の操作介入によって手動運転に切替わるオーバーライド機能を備えている。特許文献1には、運転者により入力される操舵操作量の変化速度に応じて手動運転に移行する縮退制御量の変化速度(縮退速度)を決定するようにした車両の横方向運動制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-96569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、操舵操作量の変化速度が大きい場合は、運転者が意図した操舵介入と見做して短時間で手動運転に移行し、操舵操作量の変化速度が小さい場合は比較的時間をかけて縮退制御され手動運転に移行する。しかしながら、操舵操作量の変化速度が大きい場合が、必ずしも運転者が意図した操舵介入であるとは限らないし、操舵操作量の変化速度に応じた縮退制御が車両の運動状態に適した制御であるとも限らない。
【0006】
例えば、PALSによる自動車線変更中に、割込みなどにより他車両が目標車線の所定領域に進入した場合、自動車線変更中止が通知され、元車線の所定領域内に他車両がない場合には自動車線復帰機能により元車線に復帰するが、他車両がいる場合は運転者への権限委譲が通知される。また、料金所手前の車線区分線がない区間では、前車追従走行または料金所ゲートを目標にした経路追従走行に移行する。
【0007】
ところが、自動車線変更中止や権限委譲・操作引継要求が運転者に通知された際に、通知に慌てた運転者の過剰な操舵介入によるオーバーライドや、過度のブレーキ操作によるオーバーライドで他車両との接近や車両の挙動が不安定になることも想定される。
【0008】
また、料金所通過後の合流区間では前車追従走行または前方の走行車線を目標にした経路追従走行に移行するが、他車両の割込みなどで前車追従走行や経路追従走行を継続不可能となり、権限委譲・操作引継要求が運転者に通知された際に、通知に慌てた運転者の過剰な操舵介入やブレーキ操作介入によるオーバーライドで他車両との接近や車両の挙動が不安定になることも想定される。
【0009】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、料金所区間における前車追従走行や経路追従走行への移行または操作引継時における過度の操作介入による他車両との接近や挙動不安定を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、
自車線と隣接車線および前記各車線上の他車を認識する周囲認識機能と自車運動状態を取得する機能を含む環境状態推定部と、
前記環境状態推定部に取得される情報に基づいて目標経路を生成する経路生成部と、
前記目標経路に自車を追従させるべく速度制御および操舵制御を行う車両制御部と、
を備えた車両の走行制御装置であって、
前記環境状態推定部は、料金所近傍における自車位置を取得する手段を含み、
前車を目標にして走行する前車追従機能を有するものにおいて、
自車位置が料金所手前の車線区分線のない区間近傍の所定地点に到達した時に、前記前車追従機能および経路追従機能を停止させる操作介入の判定基準となるオーバーライド閾値を、車線区分線のある一般区間走行時よりも大きい値に変更する機能を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る車両の走行制御装置によれば、自車位置が料金所手前の車線区分線のない区間近傍の所定地点に到達した時に、前車追従機能および経路追従機能を停止させる操作介入の判定基準となるオーバーライド閾値が、車線区分線のある一般区間走行時よりも大きい値に変更されるので、料金所区間における前車追従走行や経路追従走行への移行または操作引継時における過度の操作介入による他車両との接近や挙動不安定を防止するうえで有利である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】車両の走行制御システムを示す概略図である。
図2】車両の外界センサ群を示す概略的な平面図である。
図3】車両の走行制御システムを示すブロック図である。
図4】料金所区間における走行モードとオーバーライド閾値の関係を示すタイミングチャートである。
図5】料金所区間における走行モードとオーバーライド閾値の制御を示すフローチャートである。
図6】料金所近傍での自動車線変更/走行制御を示すフローチャートである。
図7】料金所通過後の過度の操作介入によるオーバーライド防止制御を示すフローチャートである。
図8】(a)料金所手前での自動車線変更中止時の自動車線復帰、(b)自動車線復帰中止、(c)前車追従走行への移行時のオーバーライド防止制御を例示する概略平面図である。
図9】(a)料金所通過後の前車追従走行、(b)前車追従走行の中断、(c)前車追従走行中断時のオーバーライド防止制御を例示する概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1において、本発明に係る走行制御システムを備えた車両1は、エンジンや車体など一般的な自動車の構成要素に加え、従来運転者が行っていた認知・判断・操作を車両側で行うために、車両周囲環境を検知する外界センサ21、車両情報を検知する内界センサ22、速度制御および操舵制御のためのコントローラ/アクチュエータ群、車間距離制御のためのACCコントローラ14、車線維持支援制御のためのLKAコントローラ15、および、それらを統括して経路追従制御を行い、車線内部分的自動走行(PADS)や自動車線変更(PALS)を実施するための自動運転コントローラ10を備えている。
【0014】
速度制御および操舵制御のためのコントローラ/アクチュエータ群は、操舵制御のためのEPS(電動パワーステアリング)コントローラ31、加減速度制御のためのエンジンコントローラ32、ESP/ABSコントローラ33を含む。ESP(登録商標;エレクトロニックスタビリティプログラム)はABS(アンチロックブレーキシステム)を包括してスタビリティコントロールシステム(車両挙動安定化制御システム)を構成する。
【0015】
外界センサ21は、自車線および隣接車線を画定する道路上の区分線、自車周辺にある他車両や障害物、人物などの存在と相対距離を画像データや点群データとして自動運転コントローラ10に入力するための複数の検知手段からなる。
【0016】
例えば、図2に示すように、車両1は、前方検知手段211,212としてミリ波レーダ(211)およびカメラ(212)、前側方検知手段213および後側方検知手段214としてLIDAR(レーザ画像検出/測距)、後方検知手段215としてカメラ(バックカメラ)を備え、自車両周囲360度をカバーし、それぞれ自車前後左右方向所定距離内の車両や障害物等の位置と距離、区分線位置を検知できるようにしている。
【0017】
内界センサ22は、車速センサ、ヨーレートセンサ、加速度センサなど、車両の運動状態を表す物理量を計測する複数の検知手段からなり、図3に示すように、それぞれの測定値は、自動運転コントローラ10、ACCコントローラ14、LKAコントローラ15、および、EPSコントローラ31に入力される。
【0018】
自動運転コントローラ10は、環境状態推定部11、経路生成部12、および、車両制御部13を含み、以下に記載されるような機能を実施するためのコンピュータ、すなわち、プログラム及びデータを記憶したROM、演算処理を行うCPU、前記プログラム及びデータを読出し、動的データや演算処理結果を記憶するRAM、および、入出力インターフェースなどで構成されている。
【0019】
環境状態推定部11は、GPS等の測位手段24による自車位置情報と地図情報23とのマッチングにより自車の絶対位置を取得し、外界センサ21に取得される画像データや点群データなどの外界データに基づいて自車線および隣接車線の区分線位置、他車位置および速度を推定する。また、内界センサ22に計測される内界データより自車の運動状態を取得する。
【0020】
経路生成部12は、環境状態推定部11で推定された自車位置から到達目標までの目標経路を生成する。また、地図情報23を参照し、環境状態推定部11で推定された隣接車線の区分線位置、他車位置および速度、自車の運動状態に基づいて、車線変更における自車位置から到達目標地点までの目標経路を生成する。
【0021】
車両制御部13は、経路生成部12で生成された目標経路に基づいて目標車速および目標舵角を算出し、定速走行または車間距離維持・追従走行のための速度指令をACCコントローラ14に送信し、経路追従のための操舵角指令をLKAコントローラ15経由でEPSコントローラ31に送信する。
【0022】
なお、車速は、EPSコントローラ31およびACCコントローラ14にも入力される。車速により操舵トルクが変わるため、EPSコントローラ31は、車速毎の操舵角-操舵トルクマップを参照して操舵機構41にトルク指令を送信する。エンジンコントローラ32、ESP/ABSコントローラ33、EPSコントローラ31により、エンジン42、ブレーキ43、操舵機構41を制御することで、車両1の縦方向および横方向の運動が制御される。
【0023】
(車線内部分的自動走行システムおよび部分的自動車線変更システムの概要)
次に、高速道路での走行を想定して、車線内部分的自動走行システム(PADS)および部分的自動車線変更システム(PALS)の概要を説明する。
【0024】
車線内部分的自動走行(PADS走行)および部分的自動車線変更(PALS)は、自動運転コントローラ10とともにACCSを構成するACCコントローラ14およびLKASを構成するLKAコントローラ15が共に作動している状態で実行可能となる。
【0025】
車線内部分的自動走行システム作動と同時に、自動運転コントローラ10(経路生成部12)は、外界センサ21を通じて環境状態推定部11に取得される外界情報(車線、自車位置、自車走行車線および隣接車線を走行中の他車位置、速度)、および、内界センサ22に取得される内界情報(車速、ヨーレート、加速度)に基づいて、単一車線内目標経路および目標車速を生成する。
【0026】
自動運転コントローラ10(車両制御部13)は、自車位置と自車の運動特性、すなわち、車速Vで走行中に操舵機構41に操舵トルクTが与えられた時に生じる前輪舵角δによって、車両運動により生じるヨーレートγと横加速度(dy/dt)の関係から、Δt秒後の車両の速度・姿勢・横変位を推定し、Δt秒後に横変位がytとなるような操舵角指令をLKAコントローラ15経由でEPSコントローラ31に与え、Δt秒後に速度Vtとなるような速度指令をACCコントローラ14に与える。
【0027】
ACCコントローラ14、LKAコントローラ15、EPSコントローラ31、エンジンコントローラ32、および、ESP/ABSコントローラ33は、自動操舵とは無関係に独立して作動するが、車線内部分的自動走行機能(PADS)および部分的自動車線変更システム(PALS)の作動中は、自動運転コントローラ10からの指令入力でも作動可能になっている。
【0028】
ACCコントローラ14からの減速指令を受けたESP/ABSコントローラ33は、アクチュエータに油圧指令を出し、ブレーキ43の制動力を制御することで車速を制御する。また、ACCコントローラ14からの加減速指令を受けたエンジンコントローラ32は、アクチュエータ出力(スロットル開度)を制御することで、エンジン42にトルク指令を与え、駆動力を制御することで車速を制御する。
【0029】
ACC機能(ACCS)は、外界センサ21を構成する前方検知手段211としてのミリ波レーダ、ACCコントローラ14、エンジンコントローラ32、ESP/ABSコントローラ33等のハードウエアとソフトウエアの組合せで機能する。
【0030】
すなわち、先行車がいない場合は、クルーズコントロールセット速度を目標車速として定速走行し、先行車に追いついた場合(先行車速度がクルーズコントロールセット速度以下の場合)には、先行車速度に合わせて、設定されたタイムギャップ(車間時間=車間距離/自車速)に応じた車間距離を維持しながら先行車に追従走行する。
【0031】
LKA機能(LKAS)は、外界センサ21(カメラ212,215)に取得される画像データに基づき、自動運転コントローラ10の環境状態推定部11で車線区分線と自車位置を検知し、車線中央を走行できるように、LKAコントローラ15およびEPSコントローラ31により操舵制御を行う。
【0032】
すなわち、LKAコントローラ15からの操舵角指令を受けたEPSコントローラ31は、車速-操舵角-操舵トルクのマップを参照して、アクチュエータ(EPSモータ)にトルク指令を出し、操舵機構41が目標とする前輪舵角を与える。
【0033】
車線内部分的自動走行機能(PADS)は、以上述べたようなACCコントローラ14による縦方向制御(速度制御、車間距離制御)とLKAコントローラ15による横方向制御(操舵制御、車線維持走行制御)を組み合わせることにより実施される。
【0034】
部分的自動車線変更システム(PALS)は、運転者の指示または承認によって、システムが自動的に車線変更(レーンチェンジ)を行うものであり、部分的自動走行(PADS走行)と同様に、ACCコントローラ14による縦方向制御(速度制御、車間距離制御)とLKAコントローラ15による横方向制御(自動操舵による目標経路追従制御)を組み合わせることにより実施される。
【0035】
部分的自動車線変更システム作動と同時に、自動運転コントローラ10(経路生成部12)は、外界センサ21を通じて環境状態推定部11に取得される外界情報(自車線および隣接車線の車線区分線、自車線および隣接車線を走行中の他車位置、速度)、および、内界センサ22に取得される内界情報(車速、ヨーレート、加速度)に基づいて、現在走行中の車線から隣接車線に車線変更するための目標経路を常時生成している。
【0036】
この自動車線変更目標経路は、現在走行中の車線から車線変更して隣接車線中央を走行する状態に至る経路であり、隣接車線を走行する他車両については、それぞれの未来位置および速度の予測がなされ、自車速度に応じて設定される隣接車線の前方領域、後方領域、および、側方領域内に、他車両が存在しないと判断された状況下で、(i)運転者がウインカ操作などにより車線変更を指示した場合、または、(ii)システム判断(HMI表示)を運転者が承認(LKAオフ操作など)した場合に、車線維持(LKA)機能を停止して自動操舵による隣接車線への自動車線変更を実行する。
【0037】
自動車線変更の実行中においても、自動運転コントローラ10(環境状態推定部11)は、外界センサ21を通じて取得される外界情報により、目標経路を含む隣接車線の前方領域,後方領域,側方領域を監視しており、これらの領域への他車両の侵入や割込みが検出された場合、車線変更中の自車位置に基づき、車線変更中止判定を行う。
【0038】
車線変更を中止する場合には、車線変更前に走行していた車線(元車線)の中心線に追従目標を変更し、目標経路および目標車速を再生成する。そして、再生成した目標経路に追従すべく、操舵角指令をLKAコントローラ15からEPSコントローラ31に与え、速度指令をACCコントローラ14に与え、元車線に復帰する(自動車線復帰機能)。
【0039】
自車両が殆ど隣接車線に移動しているような場合、例えば4つの車輪のうち、3つ以上が隣接車線に入っている場合には、車線変更は中止せず、車線変更を継続する。一方、車線変更の継続が困難と判断された場合には、自動車線変更を中止して運転者に権限委譲する。なお、運転車が引継できない場合は、ミニマルリスクマニューバ(MRM)が作動し路側帯などに安全停止する。
【0040】
(無車線区間における経路追従走行および前車追従走行)
PADS走行および自動車線変更(PALS)は、自車線および隣接車線の区分線に基づいて目標経路を生成し、経路追従制御による自動操舵を行うものであるため、図4に示す高速道路の料金所手前の無車線区間60および料金所通過後の無車線区間62では実施できない。そこで、このような車線区分線のない無車線区間60,62では、経路追従走行または前車追従走行を行う。
【0041】
料金所手前の無車線区間60では、先ず、自車前方に位置した料金所ゲート(6e、6m)を検出し、その中から通過すべき目標ゲートを選定して目標進入経路を生成し、経路追従走行を行う。目標ゲート(6e、6m)に向かう経路追従走行中に先行車(前車)を認識した場合は、先行車を目標にした前車追従走行に移行する。
【0042】
料金所通過後の無車線区間62では、先ず、自車前方の走行車線位置を検出し、その中から目標とすべき車線を選定して目標経路を生成し、経路追従走行を行う。目標車線に向かう経路追従走行中に先行車(前車)を認識した場合は、先行車を目標にした前車追従走行に移行する。
【0043】
上記のような無車線区間60,62における目標ゲートまたは目標車線に向かう経路追従走行中においても、目標進入経路を含む前方領域,後方領域,側方領域を外界センサ21により監視しており、他車の進路変更などにより、これらの領域に他車両が進入した場合には、運転者に権限移譲通知がなされ、縮退制御を経て手動運転に移行する。この点については後述する。
【0044】
(オーバーライド機能)
車線内部分的自動走行システム(PADS)の作動中や、部分的自動車線変更システム(PALS)による自動車線変更中、さらには、無車線区間における経路追従走行中や前車追従走行中において、縦方向制御システム(ACCS)、横方向制御システム(LKAS)の何れも運転者によるオーバーライドが可能になっている。
【0045】
縦方向制御システム(ACCS)は、運転者のアクセルペダル操作によるエンジントルク要求、または、ブレーキペダル操作による減速度要求が、それぞれのオーバーライド閾値以上の場合にオーバーライドされる。これらのオーバーライド閾値は、運転者が意図をもって加減速操作を行ったと判断されるアクセル操作量(エンジントルク指令値)またはブレーキ操作量(ESP油圧指令値)に設定され、かつ、何れも車両の加減速特性および走行状態に応じて設定される。
【0046】
すなわち、ACCオーバーライドは、制御車速に対して運転者が加速または減速の意図をもってアクセルペダル操作またはブレーキペダル操作を行ったと判断される操作量または操作速度がアクセルペダルまたはブレーキペダルに与えられた場合に、ACC制御を中止し、運転者のアクセルおよびブレーキ操作による走行に移行するものである。
【0047】
車線維持支援や自動車線変更、無車線区間における経路追従走行や前車追従走行のための自動操舵を行う横方向制御システム(LKAS)は、運転者の手動操舵34による操舵トルクがオーバーライド閾値以上の場合にオーバーライドされる。この操舵介入によるオーバーライド閾値は、車両の操舵特性、走行状態に応じて設定される。
【0048】
すなわち、操舵オーバーライドは、制御操舵トルクに対して運転者が順操舵または逆操舵の意図をもって操舵したと判断される操作量または操作速度がステアリングシステムに与えられた場合に、自動操舵およびLKA制御を中止し、運転者の手動操舵による走行に移行するものである。
【0049】
ところで、自動車線変更(PALS)は、図4に示す高速道路の料金所6の無車線区間60、62では実施できず、これらの区間では、経路追従走行または前車追従走行を行うことは既に述べたが、例えば、料金所6の手前の本線区間5において開始された自動車線変更中に、自車周囲の所定領域内への他車進入により自動車線復帰機能が作動した場合や、車線変更継続不可能となった場合に、車両挙動や権限委譲通知に慌てた運転者の過度の操舵オーバーライドや、過度のブレーキオーバーライドにより他車両との接近や挙動不安定を生じる虞がある。
【0050】
また、料金所6を通過後の無車線区間62では前車追従走行または前方の走行車線を目標にした経路追従走行を行うが、他車両の割込みなどで前車追従走行や経路追従走行を継続不可能となった場合に、権限委譲通知に慌てた運転者の過度の操舵オーバーライドや、過度のブレーキオーバーライドにより他車両との接近や挙動不安定を生じる虞があることは既に述べた通りである。
【0051】
(料金所近傍の無車線区間における過操作防止機能)
そこで、本発明に係る自動運転コントローラ10は、GPS等の測位手段24による自車位置情報と地図情報23とのマッチング、または、外界センサ21に検知される料金所案内表示や距離標などの表示物に対する画像認識により、料金所6に対する自車位置を検出し、自車置が料金所6近傍の所定地点Sに到達した時に、前車追従機能および経路追従機能を停止させる操作介入の判定基準となるオーバーライド閾値を、車線区分線5sのある本線区間5などの一般区間走行時よりも大きい値に変更する過操作防止機能を備えている。
【0052】
図5は、高速道路の料金所近傍無車線区間における走行制御および過操作防止フローを示しており、図示のように、高速道路本線区間5などの一般区間においてPADS走行(PALS可能)する場合(ステップ001)には、一般区間用のオーバーライド閾値(Pd,T1d,T2d)が設定され(ステップ002)、それに基づいてオーバーライド判定が行われる。
【0053】
PADS走行(PALS走行)中は、料金所6に対する自車位置を常に検出しており(ステップ003)、自車が料金所6近傍の所定地点Sに到達したことが検出された場合に、オーバーライド閾値が、料金所近傍区間用のオーバーライド閾値(Po,T1o,T2o)に変更される(ステップ004)。所定地点Sは、料金所手前の無車線区間60の開始地点から所定距離(例えば300m)手前の地点であり、この所定距離は、固定値でもよいし、ACC設定速度に応じて設定されてもよい。
【0054】
所定地点S通過後も自車位置の検出は継続されており、料金所手前の無車線区間60に到達した時点でPADS走行(PALS走行)は、前車追従走行または経路追従走行に切替わる(ステップ006)。以後、料金所通過後の無車線区間62が終了するまで、前車追従走行または経路追従走行が継続され、料金所近傍区間用のオーバーライド閾値(Po,T1o,T2o)が維持される。
【0055】
以上のように、料金所6近傍の所定地点Sに到達した時に操舵オーバーライド閾値およびブレーキオーバーライド閾値が大きい値に変更されることにより、自動車線変更中止や操作引継要求に慌てた運転者の過度の操舵オーバーライドやブレーキオーバーライドが抑制され、無車線区間60においては前車追従走行や経路追従走行に移行でき、過度の操舵オーバーライドや過度のブレーキオーバーライドによる他車両との接近や挙動不安定などを回避できる。
【0056】
また、料金所6近傍の所定地点S到達時に変更された操舵オーバーライド閾値およびブレーキオーバーライド閾値が料金ゲート通過後の無車線区間62まで維持されることにより、他車両の割込みなどで前車追従走行や経路追従走行を継続不可能となった場合に、権限委譲通知に慌てた運転者の過度の操舵オーバーライドや、過度のブレーキオーバーライドによる他車両との接近や挙動不安定などを回避できる。
【0057】
オーバーライド閾値は、例えば以下のように設定される。
【0058】
(1)一般区間走行時のブレーキオーバーライド閾値
ACC設定速度(クルーズセット速度または先行車追従速度)またはACC設定加速度に対して減速となるESP油圧指令が運転者のブレーキ踏込によって与えられた場合、ブレーキオーバーライドとなり、運転者のブレーキ操作が優先される。ACC設定速度に対して、例えば速度2km/h相当の減速となるESP油圧指令値またはACC設定加速度に対して0.2m/s相当の減速度となるESP油圧指令値を閾値Pdとする。
【0059】
(2)料金所近傍無車線区間走行時のブレーキオーバーライド閾値
一般区間走行時のブレーキオーバーライド閾値より大きな値、好適には、一般区間走行時のブレーキオーバーライド閾値の120%~250%、さらに好適には150%~220%の範囲から選定される。例えば、自車現在速度(または先行車追従速度)に対して速度4km/h相当の減速となるESP油圧指令値、または、ACC設定加速度に対して0.4m/s相当の減速度となるESP油圧指令値を閾値Poとする。
【0060】
(3)一般区間走行時の操舵オーバーライド閾値
一般区間走行時の順操舵オーバーライド閾値は、t秒後に仮想横位置に到達するための仮想横変位y′tがyt+α(但し、αは車速に基づいて決定される定数)となるような操舵角に相当する操舵トルク(車速-操舵角-操舵トルクマップから算出した操舵トルク)が順操舵オーバーライド閾値T1dとして設定される。
【0061】
逆操舵の場合は、t秒後に仮想横位置に到達するための仮想横変位ytがyt十α(但し、αは車速に基づいて決定される定数)となるような操舵角を操舵トルクに換算した値(操舵トルク目標値)に対して、操舵トルクを減少させる方向に印加される、微小でないと判断(操舵角、操舵角速度などで判断)できる値が逆操舵オーバーライド閾値T2dとして設定される。
【0062】
(4)料金所近傍無車線区間走行時の操舵オーバーライド閾値
順操舵オーバーライド閾値は、一般区間走行時の仮想横変位ytに対して、料金所近傍無車線区間走行時の仮想横変位y″t(=yt十β、但しβ>α)と車両の運動特性から算出される操舵角を操舵トルクに換算した値が順操舵オーバーライド閾値T1oとして設定される。
【0063】
逆操舵オーバーライド閾値は、一般区間走行時の仮想横変位ytに対して、料金所近傍無車線区間走行時の仮想横変位y″t(=yt-γ、但しγは操舵トルクX′Nmに相当する横変位より大きい)と車両の運動特性から算出される操舵角を操舵トルクに換算した値が逆操舵オーバーライド閾値T2oとして設定される。
【0064】
(料金所手前側近傍における自動車線変更フロー)
次に、高速道路の料金所手前側近傍本線区間5ないし料金所手前側無車線区間60における自動車線変更フローについて、図6を参照しながら説明する。
【0065】
(1)PADS走行中における車線変更可否判定
車線内部分的自動走行システムによるPADS(ACCS・LKAS)走行中(ステップ100)に、部分的自動車線変更システム(PALS)が作動している場合は、環境状態推定部11(外界センサ21)により、隣接車線の所定領域(前方領域ZF、後方領域ZR、および、側方領域ZL)内に他車両が存在するか否かが監視されている(ステップ101)。
【0066】
上記において、前方領域ZFは、縦方向:前方所定距離×横方向:走行中の車線幅+左右隣接車線幅の領域、後方領域ZRは、縦方向:後方所定距離×横方向:走行中の車線幅+左右隣接車線幅の領域、側方領域ZLは、縦方向:車両長×横方向:左右隣接車線幅の領域である。なお、前方所定距離は、最小車間距離(S0)、車頭時間(TH)、自車速(Vego)から求め、後方所定距離は、車頭時間(TH)、後方車速(Vrear)から求める。左右隣接車線幅(相当幅)は例えば3.5mとする。
【0067】
(2)自動車線変更システム判断
隣接車線の所定領域内に他車両が存在しない場合は車線変更可能と判定され、車線変更可能フラグが立てられる(ステップ102)。この状況で、自車線前方にACC設定速度以下で走行する先行車が現れるなどにより、システムが車線変更すべきと判断すると、ヘッドアップディスプレイやメーターパネル内の情報表示部にシステム判断(自動車線変更実行)が表示される(ステップ103)。音声などによる通知でもよい。
【0068】
(3)自動車線変更開始
運転者がLKAオフ操作などによりシステム判断を承認すると、車線変更方向のウインカが3秒間点滅した後(ステップ104)、車線維持(LKA)機能が停止し、隣接車線中央を目標位置として自動車線変更が開始される(ステップ105)。
【0069】
(4)車線変更継続可否判定
自動車線変更実施中も、環境状態推定部11(外界センサ21)による所定領域の監視は継続されており(ステップ106)、目標車線の所定領域内に他車両が存在しない場合には車線変更が継続され、車線変更が終了したか否かが判定される(ステップ107)。車線変更の終了は、車線変更の目標横位置(例えば車線中央)からの自車偏差が所定値(例えば車線中央±0.5m)内となったことをもって判定する。
【0070】
(5)自動車線変更中止(オーバーライド閾値変更)
先行車の急な車線変更や急制動などにより、目標車線の所定領域内に他車両が進入した場合は車線変更が中止され、情報表示部に車線変更中止が表示されるか、または音声などによる通知され、同時にウインカが消灯し、この時、自車位置が未だ料金所6近傍の所定地点Sに到達していなくても、オーバーライド閾値は料金所近傍区間用のオーバーライド閾値(Po,T1o,T2o)に変更される(ステップ111)。
【0071】
(6)元車線復帰可否判定~元車線復帰
同時に、自動車線復帰機能による元車線復帰が可能か否か(元車線の所定領域に他車が存在するか否か)が判定され(ステップ112)、元車線復帰が可能な場合は車線変更可能フラグが立てられ(ステップ113)、情報表示部に元車線復帰実行が表示され、元車線方向のウインカが点滅し(ステップ114)、元車線復帰が開始され(ステップ115)、次いで、元車線復帰が終了したか否かが判定される(ステップ116)。元車線復帰の終了は、元車線の目標横位置(例えば元車線中央)からの自車偏差が所定値(例えば元車線中央±0.5m)内となったことをもって判定する。
【0072】
(7)元車線復帰不可能~前車追従/経路追従走行
一方、他車両の存在などにより元車線復帰が不可能な場合には、自車位置が料金所区間(無車線区間60)にあるか否かが判定され(ステップ117)、料金所区間(無車線区間60)にあれば、前車追従走行または経路追従走行に移行する(ステップ110)。
【0073】
(8)元車線復帰不可能~権限委譲・引継要求通知
元車線復帰が不可能で自車位置が本線区間5にある場合は、情報表示部に運転者への権限委譲・引継要求が表示され(ステップ118)、運転者が操舵を引継いだ場合はPALS機能(自動車線復帰機能)の縮退制御に移行し、PALS機能が停止され手動運転に移行する(ステップ120)。なお、運転者の操舵引継は、ステアリングセンサによるハンズオン検出をもって判定する(ステップ119)。
【0074】
(9)引継不可・MRM作動
所定時間(例えば4秒)経過しても運転者による操舵引継がなされなかった場合、または、ドライバーモニターなどにより引継不可能と判定された場合は、ミニマルリスクマニューバ(MRM)が作動し、自動操舵により路側帯などに退避して自動停車する(ステップ121)。
【0075】
(10)料金所区間判定
自動車線変更の終了時(ステップ107)、および、自動車線復帰の終了時(ステップ116)には、自車位置が料金所区間(無車線区間60)であるか否かが判定され、自車位置が本線区間5にある場合は、LKAがオンになりPADS走行に移行する(ステップ109)。一方、自車位置が料金所区間(無車線区間60)にある場合は、前車追従走行または経路追従走行に移行する(ステップ110)。
【0076】
(11)オーバーライド判定
上述した部分的自動車線変更システム(PALS)による自動車線変更中、および、無車線区間60における経路追従走行または前車追従走行中も、ブレーキ操作および操舵操作によるオーバーライド判定が行われており、運転者のブレーキペダル操作によるESP油圧指令、操舵操作による操舵トルクの何れかが、オーバーライド閾値を超えた場合はオーバーライドされ、手動運転に移行する。
【0077】
しかし、先述した通り、本発明に係る自動運転コントローラ10では、主に本線区間5に適用される一般区間のオーバーライド閾値(Pd,T1d,T2d)に対して、料金所近傍区間用のオーバーライド閾値(Po,T1o,T2o)が大きい値に設定されており、料金所近傍区間(所定位置S到達後)には料金所近傍区間用のオーバーライド閾値(Po,T1o,T2o)が適用され、かつ、所定位置Sに到達していなくても、自動車線変更中に継続不可能と判定された場合には、車線変更中止が通知されるのと同時に、料金所近傍区間用のオーバーライド閾値(Po,T1o,T2o)が適用されるので、以下のような局面で過度の操舵介入やブレーキ操作介入によるオーバーライドが抑制され、それに起因する他車両との接近や挙動不安定などを回避できる。
【0078】
(i)上記ステップ106で車線変更継続不可能と判定され、上記ステップ111で情報表示部に車線変更中止が通知された場合に、自動車線変更中止に慌てた運転者が過度の操舵介入やブレーキ操作介入を行った場合にもオーバーライドが抑制され、自動運転コントローラ10による元車線復帰に移行できるので、過度の操舵オーバーライドやブレーキオーバーライドによる他車両との接近や挙動不安定などを回避できる。
【0079】
(ii)上記ステップ115で元車線復帰を開始した際に、車両の挙動変化に慌てた運転者が過度の操舵介入やブレーキ操作介入を行った場合にもオーバーライドが抑制され、元車線復帰を継続できるので、過度の操舵やブレーキ操作による他車両との接近や挙動不安定などを回避できる。
【0080】
(iii)上記ステップ108または上記ステップ117で自車位置が料金所区間(無車線区間60)にあると判定され、前車追従走行または経路追従走行に移行する際に、車両の挙動変化に慌てた運転者が過度の操舵介入やブレーキ操作介入を行った場合にもオーバーライドが抑制され、前車追従走行または経路追従走行に移行できるので、過度の操舵やブレーキ操作による他車両との接近や挙動不安定などを回避できる。
【0081】
(iv)上記ステップ118で運転者への権限委譲・引継要求が通知された際に、通知に慌てた運転者が過度の操舵介入やブレーキ操作介入を行った場合にもオーバーライドが抑制され、縮退制御を経て手動運転に移行できるので、過度の操舵オーバーライドやブレーキオーバーライドによる他車両との接近や挙動不安定などを回避できる。
【0082】
(料金所通過後の無車線区間における過操作防止フロー)
次に、高速道路の料金所ゲート通過後の無車線区間62における自動車線変更フローについて、図7を参照しながら説明する。
【0083】
(1)前車追従/経路追従走行
先述の通り、料金所手前の無車線区間60に到達した時点でPADS走行(PALS走行)から前車追従走行または経路追従走行に移行しており、料金所ゲート通過後の無車線区間62でも、前車追従走行または経路追従走行が継続されており(ステップ200)、環境状態推定部11(外界センサ21)により、所定領域(前方領域ZFおよび側方領域ZL)内に他車両が存在するか否かが監視されている(ステップ201)。
【0084】
(2)追従走行中止・操作引継通知(オーバーライド閾値設定)
環境状態推定部11(外界センサ21)で所定領域(前方領域ZFおよび側方領域ZL)内に他車両が存在すると判定された場合、追従走行不可フラグが立てられ、ヘッドアップディスプレイやメーターパネル内の情報表示部に、前車追従/経路追従走行中止・操作引継が表示される(ステップ202)。音声などによる通知でもよい。これと同時に、追従走行縮退制御に移行するまでの待機時間(例えば2秒)のカウントが開始される。
【0085】
この際、先述した料金所手前の所定地点S通過時に、料金所近傍区間用のオーバーライド閾値(Po,T1o,T2o)に変更されている場合はその値が維持され、料金ゲート(6e,6m)通過時などにリセットされている場合は、料金所近傍区間用のオーバーライド閾値(Po,T1o,T2o)に再設定される。
【0086】
(3)ブレーキ操作および手動操舵の有無判定
この時点ではまだ追従制御(車間制御・自動操舵)が作動中であり、運転者によるブレーキ操作の有無がブレーキペダルのポジションセンサにより判定されると同時に、EPSコントローラ31付帯のトルクセンサにより手動操舵34の有無が判定される(ステップ203)。
【0087】
(4)ブレーキオーバーライド判定
ステップ203において運転者によるブレーキ操作が検出された場合には、運転者のブレーキ踏込によるESP油圧指令値がオーバーライド閾値Poと比較される(ステップ204)。
i)ESP油圧指令値P>Poの場合には、ブレーキオーバーライドと判定され、即時オーバーライドして手動走行に移行する。
ii)ESP油圧指令値P≦Poの場合には、オーバーライドせず、車間制御・自動操舵が継続される。
【0088】
(5)操舵方向判定
一方、ステップ203において、EPSコントローラ31付帯のトルクセンサの検出値から、手動操舵ありと判断された場合、手動操舵34の操舵方向が判定される(ステップ205)。運転者操舵が加わる前の自動操舵における操舵トルク値に対して、操舵トルクを増加させる方向に印加された場合は順操舵と判定され、操舵トルクを減少させる方向に印加された場合は逆操舵と判定される。
【0089】
(6)順操舵オーバーライド判定
操舵方向判定で順操舵と判定された場合は、操舵トルクが順操舵オーバーライド閾値T1oと比較される(ステップ206)。
i)操舵トルク>順操舵オーバーライド閾値T1oであれば、オーバーライドと判定され、即時オーバーライドして手動走行となる。
ii)操舵トルク≦順操舵オーバーライド閾値T1oであれば、オーバーライドせず、車間制御・自動操舵が継続される。
【0090】
(7)逆操舵オーバーライド判定
操舵方向判定で逆操舵と判定された場合は、操舵トルクが逆操舵オーバーライド閾値T2oと比較される(ステップ207)。
i)操舵トルク>逆操舵オーバーライド閾値T2oであれば、オーバーライドと判定され、即時オーバーライドして手動走行となる。
ii)操舵トルク≦逆操舵オーバーライド閾値T2oであれば、オーバーライドせず、車間制御・自動操舵が継続される。
【0091】
(8)引継経過時間の判定~追従走行縮退制御縮退制御開始
これらのオーバーライド判定(ステップ204~207)を経て、追従走行(車間制御・自動操舵)が継続されている場合、上記ステップ202で前車追従/経路追従走行中止(車間制御・自動操舵機能停止)と操作引継を通知してからの経過時間のカウントが継続され(ステップ208)、待機時間(2秒)が経過した時点で追従走行(車間制御・自動操舵)縮退制御が開始される(ステップ209)。
【0092】
車間制御(ACC機能)縮退制御:エンジンコントローラ32に入力する加減速指令値(車速指令)を所定の傾きで0km/h/sまで徐々に低下させるとともに、ESPコントローラ33に入力する減速指令値を所定の傾きで0m/sまで低下させる。
自動操舵縮退制御:EPSコントローラに入力する操舵トルク指令値を所定の傾きをもって0Nmまで徐々に低下させる。
【0093】
(9)縮退制御終了~前車追従/経路追従機能停止・操作引継
経路追従縮退制御が終了すると、前車追従/経路追従機能が停止され、運転者への操作引継が行われ(ステップ210)、運転者のアクセル/ブレーキ操作と操舵による手動走行に移行する(ステップ211)。
【0094】
以上のようなオーバーライド閾値の変更によって、追従走行中止・操作引継通知時の過操舵によるオーバーライドは基本的に防止できるが、上述したオーバーライド判定(ステップ206,207)において、手動操舵がオーバーライド閾値以上であれば、ACC・自動操舵機能が手動操舵でオーバーライドされることになる。
【0095】
そこで、オーバーライド閾値設定時(ステップ202)に、EPSコントローラ31において車速に応じて設定される(車速に逆比例する/車速上昇に伴い降下する)操舵トルクまたは操舵角の上限値を一般区間走行時よりも低い値にするか、または、EPSコントローラ31において手動操舵の操舵ゲインを小さい値に変更することで、手動操舵によってオーバーライドされた場合における過操舵を防止できる。
【0096】
なお、上記オーバーライド閾値は、操作引継通知から縮退制御の終了まで維持されることが好ましい。このようにすることで、自動操舵機能による操舵制御とACC機能による車間制御が部分的に作用している状態で徐々に操作引継でき、円滑な操作引継を行える。
【0097】
(作用と効果)
以上詳述したように、本発明に係る車両の走行制御装置は、自車位置が料金所6手前の所定地点Sに到達した時に、前車追従機能および経路追従機能を停止させる操作介入の判定基準となるオーバーライド閾値を、車線区分線5sのある本線区間5などの一般区間走行時よりも大きい値に変更し、このオーバーライド閾値が料金所ゲート前後の無車線区間60,62で維持されるので、以下に例示するような各場合における過操作防止効果が期待できる。
【0098】
(例1:料金所近傍における車線変更中止~無車線区間における追従走行)
例えば、図8(a)に示すように、片側3車線(51,52,53)の高速道路本線区間5の中央車線52を走行していた車両1が、料金所6の手前で隣接車線51に自動車線変更(LC)を実施中に、右側の隣接車線51を走行していた先行他車2が、無車線区間60に入り急制動し、車両1の前方領域ZFに侵入して自動車線変更を継続不可能となった場合、元車線復帰(LB)に移行する。
【0099】
この際、車線変更中止表示や車両挙動に慌てた運転者が過度の操舵介入を行った場合でも、操舵介入の判定基準となる操舵オーバーライド閾値が、一般区間走行時よりも大きい値に変更されていることでオーバーライドが回避され、元車線復帰(LB)への移行を継続できる。
【0100】
さらに、図8(b)に示すように、車両1の後方領域ZRに後続他車3,4が浸入して元車線復帰(LB)が不可能と判定された場合に、車両1が無車線区間60に到達していなければ、権限移譲・操作引継要求が通知される。この際、通知に慌てた運転者が過度の操舵介入やブレーキ操作介入を行っても、操舵介入および操作介入の判定基準となるオーバーライド閾値が、一般区間走行時よりも大きい値に変更されていることでオーバーライドが回避され、車間制御・自動操舵機能が継続された状態で縮退制御に移行できる。
【0101】
また、車両1が無車線区間60に到達していれば、図8(c)に示すように、先行他車7を目標にした前車追従走行(TR)に移行でき、仮に、挙動変化に慌てた運転者が過度の操舵介入やブレーキ操作介入を行っても、操舵介入および操作介入の判定基準となるオーバーライド閾値が、一般区間走行時よりも大きい値に変更されていることでオーバーライドが回避され、過度の操舵オーバーライド(OR)による先行他車2との接近や、過度のブレーキ操作オーバーライド(OB)による後続他車3、4との接近を防止できる。
【0102】
(例2:料金所ゲート通過後の無車線区間における追従走行)
次に、図9(a)に示すように、料金所ゲートを通過した車両1が、無車線区間62で先行他車2を目標にして前車追従走行(TR)していたところ、車両1の左前方領域ZFLを走行していた他車3が(先行他車7を避けて)、図9(b)に示すように、車両1の前方に割り込んできた時に、他車3の挙動に慌てた運転者が過度の操舵介入やブレーキ操作介入を行っても、操舵介入および操作介入の判定基準となるオーバーライド閾値が、一般区間走行時よりも大きい値に変更されていることでオーバーライドが回避され、過度の操舵オーバーライド(OR)による右前方領域ZFRの他車4との接近が防止される。
【0103】
また、過度のブレーキ操作オーバーライド(OB)が回避されることで、図9(c)に示すように、後続他車8との接近が防止され、車間制御および自動操舵が継続されるので、先行他車3を目標にした前車追従走行に移行でき、無車線区間62を通過して本線区間5′に侵入し、外界センサ21による車線認識が再開された時点で、PADS走行(PALS走行)に移行できる。
【0104】
なお、上記実施形態では、ブレーキオーバーライド閾値が運転者のブレーキペダル操作による減速度要求に基づいて設定される場合について述べたが、運転者のブレーキペダル踏込量すなわちブレーキペダルポジションに基づいて設定されるように構成することもできる。
【0105】
また、上記実施形態では、操舵オーバーライド閾値が操舵トルクに基づいて設定される場合を示したが、操舵角(ステアリング角)や操舵角速度などに基づいて設定されるように構成することもできる。
【0106】
以上、本発明のいくつかの実施形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内においてさらに各種の変形および変更が可能であることを付言する。
【符号の説明】
【0107】
1 車両(自車)
2,3,4,7,8 他車
5 本線区間(料金所手前、一般区間)
5′ 本線区間(料金所通過後、一般区間)
5s,6s 車線区分線
6 料金所
6e,6m 料金所ゲート
10 自動運転コントローラ
11 環境状態推定部
12 経路生成部
13 車両制御部
14 ACCコントローラ
15 LKAコントローラ
21 外界センサ
22 内界センサ
31 EPSコントローラ
32 エンジンコントローラ
33 ESP/ABSコントローラ
34 手動操舵(ハンドル)
41 操舵機構
42 エンジン
43 ブレーキ
60 無車線区間(料金所手前、料金ゲート前)
62 無車線区間(料金所通過後、料金ゲート後)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9