(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】制振制御装置及び制振制御方法
(51)【国際特許分類】
B60G 17/00 20060101AFI20221207BHJP
【FI】
B60G17/00
(21)【出願番号】P 2020096043
(22)【出願日】2020-06-02
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 浩貴
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-36013(JP,A)
【文献】実開平1-144206(JP,U)
【文献】特開平7-089321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪及び後輪を備える車両用の制振制御装置であって、
前記車両のばね上を制振するための上下方向の制振制御力を、前記後輪の少なくとも一つと当該後輪の位置に対応する車体部位との間に発生するように構成された制御力発生装置と、
前記後輪が現時刻から所定時間が経過した時点にて通過すると予測される通過予測位置での路面の上下方向の変位に関連する第1情報を取得する第1情報取得部であって、前記第1情報は、前記通過予測位置の路面の上下方向の変位を表す路面変位と、前記通過予測位置の前記路面変位の時間微分値を表す路面変位速度と、前記通過予測位置での前記車両のばね下の上下方向の変位を表すばね下変位と、前記通過予測位置の前記ばね下変位の時間微分値を表すばね下速度との少なくとも1つを含む、第1情報取得部と、
前記車両の車体の上下方向の変位に関連する第2情報を取得する第2情報取得部であって、前記第2情報は、前記ばね上の上下方向の変位を表すばね上変位と、前記ばね上変位の時間微分値を表すばね上速度と、前記ばね上変位の二階時間微分値を表すばね上加速度と、前記ばね下変位と、前記ばね下速度との少なくとも1つを含む、第2情報取得部と、
前記制御力発生装置を制御して前記制振制御力を変更するように構成された制御ユニットと、
を備え、
前記制御ユニットは、
前記後輪が前記通過予測位置を通過する際の前記ばね上を制振するためのフィードフォワード制御の第1制御力を、前記第1情報に基いて演算し、
前記ばね上を制振するためのフィードバック制御の第2制御力を、前記第2情報に基いて演算し、
前記制振制御力の目標値として、前記第1制御力と前記第2制御力との重み付き和を演算する
ように構成され、
更に、前記制御ユニットは、
前記前輪の進路に対する前記後輪の進路の偏差の度合いを演算し、
前記偏差の前記度合いが所定の第1の度合いより大きいと判定した場合、前記重み付き和において、前記第2制御力に対する重みを前記第1制御力に対する重みよりも大きくなるように設定する
ように構成された、
制振制御装置。
【請求項2】
請求項1の制振制御装置において、
前記制御ユニットは、前記前輪の旋回半径と前記後輪の旋回半径との間の差分の大きさと前記車両のタイヤの接地幅との関係を用いて、前記第1制御力に対する重み及び前記第2制御力に対する重みを変更するように構成された、
制振制御装置。
【請求項3】
請求項1の制振制御装置において、
前記制御ユニットは、前記偏差の前記度合いが大きくなるほど、前記第1制御力に対する重みが小さくなり、かつ、前記第2制御力に対する重みが大きくなるように、前記第1制御力に対する重み及び前記第2制御力に対する重みを変更するように構成された、
制振制御装置。
【請求項4】
請求項1の制振制御装置において、
前記制御ユニットは、
前記偏差の前記度合いが、前記第1の度合いより大きい第2の度合いよりも大きいと判定した場合、
前記第1制御力に対する重みをゼロに設定する
ように構成された、
制振制御装置。
【請求項5】
前輪及び後輪と、ばね上を制振するための上下方向の制振制御力を、前記後輪の少なくとも一つと当該後輪の位置に対応する車体部位との間に発生するように構成された制御力発生装置と、を備える車両用の制振制御方法であって、
前記後輪が現時刻から所定時間が経過した時点にて通過すると予測される通過予測位置での路面の上下方向の変位に関連する第1情報を取得する第1情報取得ステップであって、前記第1情報は、前記通過予測位置の路面の上下方向の変位を表す路面変位と、前記通過予測位置の前記路面変位の時間微分値を表す路面変位速度と、前記通過予測位置での前記車両のばね下の上下方向の変位を表すばね下変位と、前記通過予測位置の前記ばね下変位の時間微分値を表すばね下速度との少なくとも1つを含む、第1情報取得ステップと、
前記車両の車体の上下方向の変位に関連する第2情報を取得する第2情報取得ステップであって、前記第2情報は、前記ばね上の上下方向の変位を表すばね上変位と、前記ばね上変位の時間微分値を表すばね上速度と、前記ばね上変位の二階時間微分値を表すばね上加速度と、前記ばね下変位と、前記ばね下速度との少なくとも1つを含む、第2情報取得ステップと、
前記制御力発生装置を制御して前記制振制御力を変更する制御ステップと、
を含み、
前記制御ステップは、
前記後輪が前記通過予測位置を通過する際の前記ばね上を制振するためのフィードフォワード制御の第1制御力を、前記第1情報に基いて演算することと、
前記ばね上を制振するためのフィードバック制御の第2制御力を、前記第2情報に基いて演算することと、
前記制振制御力の目標値として、前記第1制御力と前記第2制御力との重み付き和を演算することと、
を含み、
前記重み付き和を演算することは、
前記前輪の進路に対する前記後輪の進路の偏差の度合いを演算することと、
前記偏差の度合いが所定の第1の度合いより大きいと判定した場合、前記重み付き和において、前記第2制御力に対する重みを前記第1制御力に対する重みよりも大きくなるように設定することと、
を含む、
制振制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制振制御装置及び制振制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の車輪が通過すると予測される路面の上下方向の変位に関する情報を使用して、車両のばね上の制振制御を行う装置(以下、「従来装置」と称呼される。)が提案されている(例えば、特許文献1)。このような制御は、「プレビュー制振制御」とも称呼される。
【0003】
ところで、車両の旋回時に、後輪が、前輪が通った路面とは異なる路面を通る場合がある。この場合、後輪が通る路面の変位(上下方向の変位)が、前輪が通る路面の変位と異なる可能性がある。このような状況において、前輪に対して用いた路面の変位に関する情報に基いて後輪に対してプレビュー制振制御が実行されると、後輪の位置に対応する車体部位の振動を抑制することができない。更に、車体部位の振動が大きくなる可能性もある。これを考慮して、従来装置は、車両の旋回時において、前輪が通る路面と後輪が通る路面との重なり具合を予測する。従来装置は、重なり具合が小さい場合、後輪に対するプレビュー制振制御のゲインを小さくする(又は、後輪に対するプレビュー制振制御を実行しない)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
従来装置は、車両の旋回時に後輪に対するプレビュー制振制御のゲインを小さくする(又は、後輪に対するプレビュー制振制御を実行しない)。従って、車両の旋回時において、後輪の位置に対応する車体部位の振動が抑制されない可能性がある。
【0006】
本開示は、車両の旋回時においても、後輪の位置に対応する車体部位の振動を抑制することができる技術を提供する。
【0007】
一以上の実施形態において、前輪(11F)及び後輪(11R)を備える車両(10)用の制振制御装置が提供される。当該制振制御装置は、
前記車両のばね上を制振するための上下方向の制振制御力を、前記後輪の少なくとも一つと当該後輪の位置に対応する車体部位との間に発生するように構成された制御力発生装置(17)と、
前記後輪が現時刻から所定時間が経過した時点にて通過すると予測される通過予測位置での路面の上下方向の変位に関連する第1情報(45)を取得する第1情報取得部(30、32)であって、前記第1情報は、前記通過予測位置の路面の上下方向の変位を表す路面変位(z0)と、前記通過予測位置の前記路面変位の時間微分値を表す路面変位速度(dz0)と、前記通過予測位置での前記車両のばね下の上下方向の変位を表すばね下変位(z1)と、前記通過予測位置の前記ばね下変位の時間微分値を表すばね下速度(dz1)との少なくとも1つを含む、第1情報取得部と、
前記車両の車体の上下方向の変位に関連する第2情報を取得する第2情報取得部(33、34)であって、前記第2情報は、前記ばね上の上下方向の変位を表すばね上変位(z2)と、前記ばね上変位の時間微分値を表すばね上速度(dz2)と、前記ばね上変位の二階時間微分値を表すばね上加速度(ddz2)と、前記ばね下変位(z1)と、前記ばね下速度(dz1)との少なくとも1つを含む、第2情報取得部と、
前記制御力発生装置を制御して前記制振制御力を変更するように構成された制御ユニット(30)と、
を備える。
前記制御ユニットは、
前記後輪が前記通過予測位置を通過する際の前記ばね上を制振するためのフィードフォワード制御の第1制御力(Fff_r)を、前記第1情報に基いて演算し、
前記ばね上を制振するためのフィードバック制御の第2制御力(Ffb_r)を、前記第2情報に基いて演算し、
前記制振制御力の目標値として、前記第1制御力と前記第2制御力との重み付き和を演算する
ように構成されている。
更に、前記制御ユニットは、
前記前輪の進路に対する前記後輪の進路の偏差の度合いを演算し、
前記偏差の前記度合いが所定の第1の度合いより大きいと判定した場合、前記重み付き和において、前記第2制御力に対する重み(b)を前記第1制御力に対する重み(a)よりも大きくなるように設定する
ように構成されている。
【0008】
上記のように、制振制御装置は、フィードフォワード制御の成分(第1制御力)とフィードバック制御の成分(第2制御力)とを含む制振制御力を演算する。制振制御装置は、上記偏差の度合いが第1の度合いより大きい場合(例えば、車両が旋回中である場合)、第2制御力に対する重みを第1制御力に対する重みよりも大きくなるように設定する。従って、車両の旋回時において、制振制御装置は、フィードフォワード制御の成分がばね上の振動に対して悪影響を及ぼす可能性を低減しつつ、フィードバック制御の成分によりばね上の振動を徐々に抑制することができる。
【0009】
一以上の実施形態において、前記制御ユニットは、前記前輪の旋回半径と前記後輪の旋回半径との間の差分の大きさ(ΔRd)と前記車両のタイヤの接地幅(Dw)との関係を用いて、前記第1制御力に対する重み(a)及び前記第2制御力に対する重み(b)を変更するように構成されている。
【0010】
上記の構成によれば、制御ユニットは、上記の関係に基いて、前輪が通る路面と後輪が通る路面との重なり具合に応じて、第1制御力に対する重み及び第2制御力に対する重みを変更できる。
【0011】
一以上の実施形態において、前記制御ユニットは、前記偏差の前記度合いが大きくなるほど、前記第1制御力に対する重み(a)が小さくなり、かつ、前記第2制御力に対する重み(b)が大きくなるように、前記第1制御力に対する重み(a)及び前記第2制御力に対する重み(b)を変更するように構成されている。
【0012】
上記の構成によれば、制御ユニットは、上記偏差の度合いが大きくなるほど、フィードフォワード制御の成分が小さくなり、かつ、フィードバック制御の成分が大きくなるように、制振制御力を演算する。従って、制振制御装置は、偏差の度合いに応じて、フィードフォワード制御の成分による悪影響をより小さくし、かつ、フィードバック制御の成分による振動の抑制効果をより高めることができる。
【0013】
一以上の実施形態において、前記制御ユニットは、
前記偏差の前記度合いが、前記第1の度合い(R1、Lap1)より大きい第2の度合い(R2、Lap2)よりも大きいと判定した場合、
前記第1制御力に対する重み(a)をゼロに設定するように構成されている。
【0014】
上記の構成によれば、上記偏差の度合いが第2の度合いよりも大きい場合、制振制御力においてフィードフォワード制御の成分がゼロになる。従って、制振制御装置は、フィードフォワード制御の成分による悪影響を回避(排除)しながら、フィードバック制御の成分によりばね上の振動を徐々に抑制することができる。
【0015】
一以上の実施形態において、前輪(11F)及び後輪(11R)と、ばね上を制振するための上下方向の制振制御力を、前記後輪の少なくとも一つと当該後輪の位置に対応する車体部位との間に発生するように構成された制御力発生装置(17)と、を備える車両(10)用の制振制御方法が提供される。当該制振制御方法は、
前記後輪が現時刻から所定時間が経過した時点にて通過すると予測される通過予測位置での路面の上下方向の変位に関連する第1情報(45)を取得する第1情報取得ステップであって、前記第1情報は、前記通過予測位置の路面の上下方向の変位を表す路面変位(z0)と、前記通過予測位置の前記路面変位の時間微分値を表す路面変位速度(dz0)と、前記通過予測位置での前記車両のばね下の上下方向の変位を表すばね下変位(z1)と、前記通過予測位置の前記ばね下変位の時間微分値を表すばね下速度(dz1)との少なくとも1つを含む、第1情報取得ステップと、
前記車両の車体の上下方向の変位に関連する第2情報を取得する第2情報取得ステップであって、前記第2情報は、前記ばね上の上下方向の変位を表すばね上変位(z2)と、前記ばね上変位の時間微分値を表すばね上速度(dz2)と、前記ばね上変位の二階時間微分値を表すばね上加速度(ddz2)と、前記ばね下変位(z1)と、前記ばね下速度(dz1)との少なくとも1つを含む、第2情報取得ステップと、
前記制御力発生装置を制御して前記制振制御力を変更する制御ステップと、
を含む。
前記制御ステップは、
前記後輪が前記通過予測位置を通過する際の前記ばね上を制振するためのフィードフォワード制御の第1制御力(Fff_r)を、前記第1情報に基いて演算することと、
前記ばね上を制振するためのフィードバック制御の第2制御力(Ffb_r)を、前記第2情報に基いて演算することと、
前記制振制御力の目標値として、前記第1制御力と前記第2制御力との重み付き和を演算することと、
を含む。
前記重み付き和を演算することは、
前記前輪の進路に対する前記後輪の進路の偏差の度合いを演算することと、
前記偏差の度合いが所定の第1の度合いより大きいと判定した場合、前記重み付き和において、前記第2制御力に対する重み(b)を前記第1制御力に対する重み(a)よりも大きくなるように設定することと、
を含む。
【0016】
一以上の実施形態において、上記の制御ユニットは、本明細書に記述される1以上の機能を実行するためにプログラムされたマイクロプロセッサにより実施されてもよい。一以上の実施形態において、上記の制御ユニットは、1以上のアプリケーションに特化された集積回路、即ち、ASIC等により構成されたハードウェアによって、全体的に或いは部分的に実施されてもよい。
【0017】
上記説明においては、後述する一以上の実施形態に対応する構成要素に対し、実施形態で用いた名称及び/又は符号を括弧書きで添えている。しかしながら、各構成要素は、前記名称及び/又は符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。本開示の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される一以上の実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一以上の実施形態に係る制振制御装置が適用される車両の概略構成図である。
【
図2】一以上の実施形態に係る制振制御装置の概略構成図である。
【
図4】プレビュー制振制御を説明するための図である。
【
図5】プレビュー制振制御を説明するための図である。
【
図6】プレビュー制振制御を説明するための図である。
【
図7】車両が旋回する際の内輪差及び外輪差を説明するための図である。
【
図8】偏差関連値ΔRdと第1目標制御力Fff_rに対する重みaとの関係を表すマップMP1の一例である。
【
図9】一以上の実施形態に係る電子制御装置のCPUが実行するルーチンを表すフローチャートである。
【
図10】
図9のルーチンのステップ905において電子制御装置のCPUが実行するルーチンを表すフローチャートである。
【
図11】偏差関連値ΔRdと第2目標制御力Ffb_rに対する重みbとの関係を表すマップMP2の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<構成>
一以上の実施形態に係る制振制御装置は、
図1に示した車両10に適用される。
図2に示したように、この制振制御装置は、以下、「制振制御装置20」とも称呼される。
【0020】
図1に示したように、車両10は、左前輪11FL、右前輪11FR、左後輪11RL及び右後輪11RRを備える。左前輪11FLは、車輪支持部材12FLにより回転可能に車体10aに支持されている。右前輪11FRは、車輪支持部材12FRにより回転可能に車体10aに支持されている。左後輪11RLは、車輪支持部材12RLにより回転可能に車体10aに支持されている。右後輪11RRは、車輪支持部材12RRにより回転可能に車体10aに支持されている。
【0021】
なお、左前輪11FL、右前輪11FR、左後輪11RL及び右後輪11RRは、これらを区別する必要がない場合、「車輪11」と称呼される。同様に、左前輪11FL及び右前輪11FRは、「前輪11F」と称呼される。同様に、左後輪11RL及び右後輪11RRは、「後輪11R」と称呼される。車輪支持部材12FL乃至12RRは、「車輪支持部材12」と称呼される。
【0022】
車両10は、更に、左前輪サスペンション13FL、右前輪サスペンション13FR、左後輪サスペンション13RL及び右後輪サスペンション13RRを備える。これらのサスペンション13FL乃至13RRの詳細を以下に説明する。これらのサスペンション13FL乃至13RRは、独立懸架式のサスペンションであるが、他の形式のサスペンションであってもよい。
【0023】
左前輪サスペンション13FLは、左前輪11FLを車体10aから懸架しており、サスペンションアーム14FL、ショックアブソーバ15FL及びサスペンションスプリング16FLを含む。右前輪サスペンション13FRは、右前輪11FRを車体10aから懸架しており、サスペンションアーム14FR、ショックアブソーバ15FR及びサスペンションスプリング16FRを含む。
【0024】
左後輪サスペンション13RLは、左後輪11RLを車体10aから懸架しており、サスペンションアーム14RL、ショックアブソーバ15RL及びサスペンションスプリング16RLを含む。右後輪サスペンション13RRは、右後輪11RRを車体10aから懸架しており、サスペンションアーム14RR、ショックアブソーバ15RR及びサスペンションスプリング16RRを含む。
【0025】
なお、左前輪サスペンション13FL、右前輪サスペンション13FR、左後輪サスペンション13RL及び右後輪サスペンション13RRは、これらを区別する必要がない場合、「サスペンション13」と称呼される。同様に、サスペンションアーム14FL乃至14RRは、「サスペンションアーム14」と称呼される。同様に、ショックアブソーバ15FL乃至15RRは、「ショックアブソーバ15」と称呼される。同様に、サスペンションスプリング16FL乃至16RRは、「サスペンションスプリング16」と称呼される。
【0026】
サスペンションアーム14は、車輪支持部材12を車体10aに連結している。
図1において、一つのサスペンションアーム14が、一つのサスペンション13に対して設けられている。別の例において、複数のサスペンションアーム14が、一つのサスペンション13に対して設けられていてよい。
【0027】
ショックアブソーバ15は、車体10aとサスペンションアーム14との間に設けられている。ショックアブソーバ15の上端は、車体10aに連結され、ショックアブソーバ15の下端は、サスペンションアーム14に連結されている。サスペンションスプリング16は、ショックアブソーバ15を介して車体10aとサスペンションアーム14との間に設けられている。即ち、サスペンションスプリング16の上端が車体10aに連結され、その下端がショックアブソーバ15のシリンダに連結されている。なお、このようなサスペンションスプリング16の構成において、ショックアブソーバ15は、車体10aと車輪支持部材12との間に設けられてもよい。
【0028】
本例において、ショックアブソーバ15は、減衰力非可変式のショックアブソーバである。別の例において、ショックアブソーバ15は、減衰力可変式のショックアブソーバであってもよい。更に、サスペンションスプリング16は、ショックアブソーバ15を介さずに車体10aとサスペンションアーム14との間に設けられてもよい。即ち、サスペンションスプリング16の上端が車体10aに連結され、その下端がサスペンションアーム14に連結されていてもよい。なお、このようなサスペンションスプリング16の構成において、ショックアブソーバ15及びサスペンションスプリング16は、車体10aと車輪支持部材12との間に設けられてもよい。
【0029】
車両10の車輪11及びショックアブソーバ15等の部材のうちサスペンションスプリング16より車輪11側の部分を「ばね下50又はばね下部材50(
図3を参照。)」と称呼する。これに対し、車両10の車体10a及びショックアブソーバ15等の部材のうちサスペンションスプリング16よりも車体10a側の部分を「ばね上51又はばね上部材51(
図3を参照。)」と称呼する。
【0030】
更に、車体10aとサスペンションアーム14FL乃至14RRのそれぞれとの間には、左前輪アクティブアクチュエータ17FL、右前輪アクティブアクチュエータ17FR、左後輪アクティブアクチュエータ17RL及び右後輪アクティブアクチュエータ17RRが設けられている。これらのアクティブアクチュエータ17FL乃至17RRは、それぞれ、ショックアブソーバ15FL乃至15RR及びサスペンションスプリング16FL乃至16RRに対して並列に設けられている。
【0031】
なお、左前輪アクティブアクチュエータ17FL、右前輪アクティブアクチュエータ17FR、左後輪アクティブアクチュエータ17RL及び右後輪アクティブアクチュエータ17RRは、これらを区別する必要がない場合、「アクティブアクチュエータ17」と称呼される。同様に、左前輪アクティブアクチュエータ17FL及び右前輪アクティブアクチュエータ17FRは、「前輪アクティブアクチュエータ17F」と称呼される。同様に、左後輪アクティブアクチュエータ17RL及び右後輪アクティブアクチュエータ17RRは、「後輪アクティブアクチュエータ17R」と称呼される。
【0032】
アクティブアクチュエータ17は、
図2に示した電子制御装置30からの制御指令に基いて制御力Fcを発生する。制御力Fcは、ばね上51を制振するために車体10aと車輪11との間に(即ち、ばね上51とばね下50との間に)作用する上下方向の力である。従って、制御力Fcは、「制振制御力」とも称呼される場合がある。なお、電子制御装置30は、ECU30と称呼され、「制御ユニット又はコントローラ」と称呼される場合もある。更に、アクティブアクチュエータ17は、「制御力発生装置」と称呼される場合もある。アクティブアクチュエータ17は、電磁式のアクティブサスペンション装置である。アクティブアクチュエータ17は、ショックアブソーバ15及びサスペンションスプリング16等と共働して、アクティブサスペンションを構成している。
【0033】
図2に示したように、制振制御装置20は、前述したECU30、記憶装置30a、位置情報取得装置31、無線通信装置32、上下加速度センサ33RL及び33RR、並びに、ストロークセンサ34RL及び34RRを含む。更に、制振制御装置20は、上述のアクティブアクチュエータ17FL乃至17RRを含む。
【0034】
ECU30は、マイクロコンピュータを含む。マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM及びインターフェース(I/F)等を含む。CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現する。
【0035】
ECU30は、情報の読み書きが可能な不揮発性の記憶装置30aと接続されている。本例において、記憶装置30aは、ハードディスクドライブである。ECU30は、情報を記憶装置30aに記憶し、記憶装置30aに記憶された情報を読み出すことができる。なお、記憶装置30aは、ハードディスクドライブに限定されず、情報の読み書きが可能な周知の記憶装置又は記憶媒体であればよい。
【0036】
ECU30は、位置情報取得装置31及び無線通信装置32に接続されている。
【0037】
位置情報取得装置31は、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機及び地図データベースを備えている。GNSS受信機は、車両10の現時刻での位置(現在位置)を検出するための「人工衛星からの信号(例えば、GNSS信号)」を受信する。地図データベースには、道路地図情報等が記憶されている。位置情報取得装置31は、GNSS信号に基いて車両10の現在位置(例えば、緯度及び経度)を取得する装置であり、例えば、ナビゲーション装置である。
【0038】
なお、ECU30は、位置情報取得装置31から現時刻における「車両10の車速V1及び車両10の進行方向Td」を取得する。
【0039】
無線通信装置32は、ネットワークを介してクラウド40と情報を通信するための無線通信端末である。クラウド40は、ネットワークに接続された「管理サーバ42及び少なくとも1つの記憶装置44」を備える。
【0040】
管理サーバ42は、CPU、ROM、RAM及びインターフェース(I/F)等を備えている。管理サーバ42は、記憶装置44に記憶されたデータの検索及び読み出しを行うとともに、データを記憶装置44に書き込む。
【0041】
記憶装置44には、プレビュー参照データ45が記憶されている。プレビュー参照データ45には、「路面変位関連情報及び位置情報」が紐付けて(互いに関連つけられて)登録されている。
【0042】
路面変位関連情報は、道路の路面の起伏を示す路面の上下方向の変位に関連する情報であり、「第1情報」とも称呼される場合がある。具体的に述べると、路面変位関連情報は、路面の上下方向の変位を表す路面変位z0、路面変位z0の時間微分値を表す路面変位速度dz0、ばね下50の上下方向の変位を表すばね下変位z1、及び、ばね下変位z1の時間微分値を表すばね下速度dz1の少なくとも一つを含む。本例において、路面変位関連情報は、ばね下変位z1である。ばね下50は、車両10が路面を走行したときに当該路面の変位を受けて上下方向に変位する。ばね下変位z1は、車両10の各車輪11の位置に対応するばね下50の上下方向の変位である。
【0043】
位置情報は、その路面変位関連情報に対応する路面の位置(例えば、緯度及び経度)を表す情報である。
図2には、プレビュー参照データ45として登録される「ばね下変位z
1及び位置情報」の一例として、ばね下変位z
1「Z
1a」及び位置情報「Xa、Ya」が示されている。
【0044】
更に、ECU30は、上下加速度センサ33RL及び33RR及びストロークセンサ34RL及び34RRに接続され、それらのセンサが出力する信号を受信する。
【0045】
上下加速度センサ33RL及び33RRは、それぞれ、左後輪11RL及び右後輪11RRの位置に対する車体10a(ばね上51)に設けられている。加速度センサ33RL及び33RRは、これらを区別する必要がない場合、「上下加速度センサ33」と称呼する。上下加速度センサ33RL及び33RRは、それぞれ、左後輪11RL及び右後輪11RRの位置に対するばね上51の上下方向の加速度(ddz2RL及びddz2RR)を検出し、その加速度を表す信号を出力する。なお、ddz2RL及びddz2RRは、これらを区別する必要がない場合、「ばね上加速度ddz2」と称呼される。ばね上加速度ddz2は、車体10aの上下方向の変位に関連する情報であり、「車体変位関連情報」又は「第2情報」とも称呼される場合がある。
【0046】
ストロークセンサ34RL及び34RRは、それぞれ、左後輪サスペンション13RL及び右後輪サスペンション13RRに対して設けられている。ストロークセンサ34RL及び34RRは、それぞれ、サスペンション13RL及び13RRの上下方向のストローク(Hrl及びHrr)を検出し、その上下ストロークを表す信号を出力する。ストロークHrl及びHrrは、
図1に示した各後輪11Rの位置に対応する車体10a(ばね上51)と車輪支持部材12RL及び12RRのそれぞれとの間の上下ストロークである。なお、ストロークセンサ34RL及び34RRは、これらを区別する必要がない場合、「ストロークセンサ34」と称呼する。同様に、ストロークHrl及びHrrは、「ストロークH」と称呼する。
【0047】
更に、ECU30は、左前輪アクティブアクチュエータ17FL、右前輪アクティブアクチュエータ17FR、左後輪アクティブアクチュエータ17RL及び右後輪アクティブアクチュエータ17RRのそれぞれに駆動回路(不図示)を介して接続されている。
【0048】
ECU30は、各車輪11のばね上51を制振するための目標制御力Fctを演算し、各車輪11が通過予測位置を通過するときにアクティブアクチュエータ17が目標制御力Fctに対応する(一致する)制御力を発生するようにアクティブアクチュエータ17を制御する。
【0049】
<基本的なプレビュー制振制御の概要>
以下、制振制御装置20が実行する基本的なプレビュー制振制御の概要について説明する。
図3は、路面55上の車両10の単輪モデルを示す。
【0050】
スプリング52は、サスペンションスプリング16に相当し、ダンパ53は、ショックアブソーバ15に相当し、アクチュエータ54は、アクティブアクチュエータ17に相当する。
【0051】
図3では、ばね上51の質量は、ばね上質量m
2と表記される。ばね上51の上下方向の変位は、ばね上変位z
2と表される。ばね上変位z
2は、各車輪11の位置に対応するばね上51の上下方向の変位である。スプリング52のばね定数(等価ばね定数)は、ばね定数Kと表記される。ダンパ53の減衰係数(等価減衰係数)は、減衰係数Cと表記される。アクチュエータ54が発生する力は、制御力Fcと表記される。z
1は、上述と同様に、ばね下50の上下方向の変位(ばね下変位)を表す。
【0052】
更に、z1及びz2の時間微分値は、それぞれdz1及びdz2と表記され、z1及びz2の二階時間微分値は、それぞれddz1及びddz2と表記される。以下において、z1及びz2については上方への変位が正であり、スプリング52、ダンパ53及びアクチュエータ54等が発生する力については上向きが正であると規定されている。
【0053】
図3に示した車両10の単輪モデルにおいて、ばね上51の上下方向の運動についての運動方程式は、式(1)で表すことができる。
【0054】
m2ddz2=C(dz1-dz2)+K(z1-z2)-Fc・・・(1)
【0055】
式(1)における減衰係数Cは一定であると仮定する。しかし、実際の減衰係数はサスペンション13のストローク速度に応じて変化するので、例えば、減衰係数CはストロークHの時間微分値に応じて変化する値に設定されてもよい。
【0056】
更に、制御力Fcによってばね上51の振動が完全に打ち消された場合(即ち、ばね上加速度ddz2、ばね上速度dz2及びばね上変位z2がそれぞれゼロになる場合)、制御力Fcは、式(2)で表される。
【0057】
Fc=Cdz1+Kz1・・・(2)
【0058】
仮に、制御力Fcを次の式(3)で表したときのばね上変位z2の振動について検討する。なお、式(3)中のαは、0より大きく且つ1以下の任意の定数である。
【0059】
Fc=α(Cdz1+Kz1)・・・(3)
【0060】
式(3)を式(1)に適用すると式(1)は次の式(4)で表すことができる。
【0061】
m2ddz2=C(dz1-dz2)+K(z1-z2)-α(Cdz1+Kz1)・・・(4)
【0062】
この式(4)をラプラス変換して整理すると、次の式(5)が得られる。即ち、ばね下変位z1からばね上変位z2への伝達関数が式(5)で表される。なお、式(5)中の「s」はラプラス演算子である。
【0063】
【0064】
式(5)によれば、αに応じて伝達関数は変化する。αが0より大きく且つ1以下の任意の値であれば、伝達関数の大きさが「1」よりも確実に小さくなること(即ち、ばね上51の振動を低減できること)が確認される。更に、αが1である場合、伝達関数の大きさが「0」となるため、ばね上51の振動が完全に打ち消されることが確認される。式(3)に基いて、目標制御力Fffは以下の式(6)で表すことができる。なお、式(6)におけるゲインβ1はαCに相当し、ゲインβ2はαKに相当する。
Fff=β1×dz1+β2×z1・・・(6)
【0065】
よって、ECU30は、車輪11が将来的に通過する位置(通過予測位置)におけるばね下変位z1を予め取得し(先読みし)、取得したばね下変位z1を式(6)に適用することによって目標制御力Fffを演算する。目標制御力Fffは、車輪11が通過予測位置を通過する際の振動を抑制するための目標制御力であることから、「フィードフォワード制御用の目標制御力」と言うこともできる。
【0066】
ECU30は、車輪11が通過予測位置を通過するタイミングで(即ち、式(6)に適用されたばね下変位z1が生じるタイミングで)、目標制御力Fffに対応する制御力Fcをアクチュエータ54に発生させる。このようにすれば、車輪11が通過予測位置を通過したとき(即ち、式(6)に適用されたばね下変位z1が生じたとき)、ばね上51の振動を低減できる。
【0067】
なお、ECU30は、式(6)から微分項(β1×dz1)が省略された以下の式(7)に基いて、目標制御力Fffを演算してもよい。この場合においても、ECU30は、ばね上51の振動を低減する制御力Fc(=β2×z1)をアクチュエータ54に発生させることができる。従って、制御力Fcが発生されない場合に比べて、ばね上51の振動を低減できる。
【0068】
Fff=β2×z1・・・(7)
【0069】
以上がばね上51の制振制御であり、このようなばね上51の制振制御は「プレビュー制振制御」と称呼される。
【0070】
なお、上述の単輪モデルにおいては、ばね下50の質量及びタイヤの弾性変形が無視され、路面55の上下方向の変位を表す路面変位z0及びばね下変位z1が同一である仮定されている。別の例において、ばね下変位z1に代えて又は加えて、路面変位z0及び/又は路面変位速度dz0を用いて、同様のプレビュー制振制御が実行されてもよい。
【0071】
<前輪及び後輪の制振制御>
次に、
図4乃至
図6を参照して、前輪及び後輪の制振制御について説明する。以降において、「目標制御力Fct」及び「制御力Fc」に関して、添え字「_f」は前輪11F用の制御力であることを表し、添え字「_r」は後輪11R用の制御力であることを表す。
【0072】
図4は、現時刻tpにて、矢印A1に示す方向に車速V1で走行している車両10を示している。なお、以下の説明において、前輪11F及び後輪11Rは、左右何れかの側の車輪であり、前輪11F及び後輪11Rの移動速度は、車速V1と同じであると見做す。
【0073】
図4において、線Ltは仮想の時間軸tである。現在、過去及び未来の時刻tにおける前輪11Fの移動進路上のばね下変位z
1は、時間tの関数z
1(t)で表される。よって、前輪11Fの現時刻tpの位置(接地点)pf0のばね下変位z
1は、z
1(tp)と表される。更に、後輪11Rの現時刻tpの位置pr0のばね下変位z
1は、現時刻tpよりも「前輪11Fがホイールベース長Lを移動するのにかかった時間(L/V1)」だけ前の時刻「tp-L/V1」における前輪11Fのばね下変位z
1である。よって、現時刻tpにおける後輪11Rのばね下変位z
1は、z
1(tp-L/V1)と表される。
【0074】
(前輪11Fの制振制御)
ECU30は、現時刻tpより前輪先読み時間tpfだけ後(未来)の前輪11Fの通過予測位置pf1を特定する。なお、前輪先読み時間tpfは、ECU30が通過予測位置pf1を特定してから前輪アクティブアクチュエータ17Fが目標制御力Fct_fに対応する制御力Fc_fを出力するまでに要する時間に予め設定されている。
【0075】
前輪11Fの通過予測位置pf1は、前輪11Fの予測進路に沿って現時刻tpの位置pf0から前輪先読み距離Lpf(=V1×tpf)だけ離れた位置である。前輪11Fの予測進路とは、前輪11Fが移動すると予測される進路を意味する。位置pf0は、後に詳述するように、位置情報取得装置31が取得した車両10の現在位置に基いて算出される。
【0076】
ECU30は、クラウド40から車両10の現在位置の近傍領域(後述する準備区間)におけるプレビュー参照データ45の一部を予め取得している。ECU30は、特定した通過予測位置pf1と、予め取得しておいたプレビュー参照データ45の一部と、に基いてばね下変位z1(tp+tpf)を取得する。
【0077】
ECU30は、以下の式(8)のばね下変位z1にばね下変位z1(tp+tpf)を適用することにより、前輪11Fのフィードフォワード制御用の目標制御力Fff_f(=βf×z1(tp+tpf))を演算する。以下の式(9)ように、ECU30は、目標制御力Fff_fを前輪11Fの最終的な目標制御力Fct_fとして決定する。
Fff_f = βf×z1・・・(8)
Fct_f = Fff_f・・・(9)
【0078】
ECU30は、前輪アクティブアクチュエータ17Fが目標制御力Fct_fに対応(一致)する制御力Fc_fを発生するように、目標制御力Fct_fを含む制御指令を前輪アクティブアクチュエータ17Fに送信する。
【0079】
図5に示すように、前輪アクティブアクチュエータ17Fは、現時刻tpから前輪先読み時間tpfだけ後の「時刻tp+tpf」(即ち、前輪11Fが通過予測位置pf1を実際に通過するタイミング)において、目標制御力Fct_fに対応する制御力Fc_fを発生する。よって、前輪アクティブアクチュエータ17Fは、前輪11Fの通過予測位置pf1のばね下変位z
1に起因して生じるばね上51の振動を抑制する制御力Fc_fを適切なタイミングで発生できる。このように、ECU30は、前輪11Fに対してフィードフォワード制御(プレビュー制振制御)を実行する。
【0080】
(後輪11Rの制振制御)
図4に示すように、ECU30は、現時刻tpより後輪先読み時間tprだけ後(未来)の後輪11Rの通過予測位置pr1を特定する。後輪先読み時間tprは、ECU30が通過予測位置pr1を特定してから後輪アクティブアクチュエータ17Rが目標制御力Fct_rに対応する制御力Fc_rを出力するまでに要する時間に予め設定されている。
なお、前輪アクティブアクチュエータ17Fと後輪アクティブアクチュエータ17Rとが異なる応答性能である場合、前輪先読み時間tpf及び後輪先読み時間tprは異なる値に予め設定されている。前輪アクティブアクチュエータ17Fと後輪アクティブアクチュエータ17Rとが同じ応答性能である場合、前輪先読み時間tpf及び後輪先読み時間tprは同じ値に予め設定されている。
【0081】
ECU30は、後輪11Rが前輪11Fと同じ進路を辿ると仮定した場合の後輪11Rの予測進路に沿って現時刻tpの位置pr0から後輪先読み距離Lpr(=V1×tpr)だけ離れた位置を通過予測位置pr1として特定する。位置pr0は、位置情報取得装置31が取得した車両10の現在位置に基いて算出される。
この通過予測位置pr1のばね下変位z1は、「前輪11Fが後輪11Rの現時刻における位置pr0に位置していた時刻(tp-L/V1)」から後輪先読み時間tprだけ後のばね下変位z1であるので、z1(tp-L/V1+tpr)と表すことができる。
ECU30は、特定した通過予測位置pr1と、予め取得しておいたプレビュー参照データ45の一部と、に基いてばね下変位z1(tp-L/V1+tpr)を取得する。
【0082】
更に、ECU30は、以下の式(10)のばね下変位z1にばね下変位z1(tp-L/V1+tpr)を適用することにより、後輪11Rのフィードフォワード制御用の目標制御力Fff_r(=βr×z1(tp-L/V1+tpr))を演算する。なお、式(8)におけるゲインβf及び式(10)におけるゲインβrは互いに異なる値に設定されている。これは左前輪サスペンション13FL及び右前輪サスペンション13FRのばね定数Kfと左後輪サスペンション13RL及び右後輪サスペンション13RRのばね定数Krとが異なるからである。
Fff_r = βr×z1・・・(10)
【0083】
上述したように、車両10が旋回している場合、後輪11Rが、前輪11Fと同じ進路を辿らない場合がある。これを考慮して、本実施形態において、ECU30は、フィードフォワード制御用の目標制御力Fff_rに加えて、後輪11Rのフィードバック制御用の目標制御力Ffb_rを演算する。以降において、後輪11Rのフィードフォワード制御用の目標制御力Fff_rを「第1目標制御力Fff_r」と称呼し、後輪11Rのフィードバック制御用の目標制御力Ffb_rを「第2目標制御力Ffb_r」と称呼する。
【0084】
そして、ECU30は、第1目標制御力Fff_rと第2目標制御力Ffb_rとの重み付き和を演算し、当該重み付き和を後輪11Rの最終的な目標制御力Fct_rとして決定する。なお、ECU30は、前輪11Fの進路と後輪11Rの進路との間の車両10の横方向における偏差の度合いを演算/推定し、当該偏差の度合いに基いて、第1目標制御力Fff_rに対する重みaと第2目標制御力Ffb_rに対する重みbを設定する。
【0085】
具体的には、ECU30は、上下加速度センサ33からばね上加速度ddz2を取得し、ばね上加速度ddz2を積分してdz2を求める。以降において、dz2は「ばね上速度」と称呼される場合がある。ECU30は、以下の式(11)に従って第2目標制御力Ffb_rを演算する。第2目標制御力Ffb_rは、dz2をゼロにするように求められる。式(11)において、γ0はゲインである。
Ffb_r = γ0×dz2・・・(11)
【0086】
本例において、ECU30は、前輪11Fの進路に対する後輪11Rの進路の偏差の度合いに関連する偏差関連値を演算する。以降において、「前輪11Fの進路に対する後輪11Rの進路の偏差」を単に「進路偏差」と称呼する。本例において、偏差関連値は、前輪11Fの旋回半径Rtfと後輪11Rの旋回半径Rtrとの差分の大きさ(絶対値)である(ΔRd=|Rtf-Rtr|)。旋回半径Rtf及び旋回半径Rtrを演算する方法は周知である(特開2008-141875号公報及び国際公開第2014/006759号明細書等を参照)。なお、本明細書で言及される全ての特許文献は、それらの全体として参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0087】
図7に示すように、車両10が左に旋回する場合、左前輪11FLの旋回半径Rtflと左後輪11RLの旋回半径Rtrlとの間の偏差関連値ΔRd(=|Rtfl-Rtrl|)は、所謂「内輪差」に相当する。右前輪11FRの旋回半径Rtfrと右後輪11RRの旋回半径Rtrrとの間の偏差関連値ΔRd(=|Rtfr-Rtrr|)は、所謂「外輪差」に相当する。
【0088】
一方、車両10が右に旋回する場合、左前輪11FLの旋回半径Rtflと左後輪11RLの旋回半径Rtrlとの間の偏差関連値ΔRdは、「外輪差」に相当する。右前輪11FRの旋回半径Rtfrと右後輪11RRの旋回半径Rtrrとの間の偏差関連値ΔRdは、「内輪差」に相当する。
【0089】
本例において、偏差関連値ΔRdが大きくなるほど、進路偏差の度合いが大きくなる。ECU30は、偏差関連値ΔRdを
図8に示すマップMP1(ΔRd)に適用して、第1目標制御力Fff_rに対する重みaを求める。更に、ECU30は、以下の式(12)に従って第2目標制御力Ffb_rに対する重みbを演算する。
b = 1-a・・・(12)
【0090】
更に、ECU30は、以下の式(13)に従って最終的な目標制御力Fct_rを演算する。
Fct_r = a×Fff_r + b×Ffb_r・・・(13)
【0091】
ECU30は、後輪アクティブアクチュエータ17Rが目標制御力Fct_rに対応(一致)する制御力Fc_rを発生するように、目標制御力Fct_rを含む制御指令を後輪アクティブアクチュエータ17Rに送信する。
【0092】
図6に示すように、後輪アクティブアクチュエータ17Rは、現時刻tpより後輪先読み時間tprだけ後の「時刻tp+tpr」(即ち、後輪11Rが通過予測位置pr1を実際に通過するタイミング)において、目標制御力Fct_rに対応する制御力Fc_rを発生する。よって、後輪アクティブアクチュエータ17Rは、後輪11Rの通過予測位置pr1のばね下変位z
1に起因して生じるばね上51の振動を適切に抑制する制御力Fc_rを発生できる。
【0093】
マップMP1によれば、偏差関連値ΔRdが大きくなるほど(即ち、進路偏差の度合いが大きいほど)、第1目標制御力Fff_rに対する重みaが小さくなる。以降において、タイヤの接地幅を「Dw」とする。マップMP1において、第1目標制御力Fff_rに対する重みaが、偏差関連値(ΔRd)と車両のタイヤの接地幅Dw(
図7を参照。)との関係に基いて定義されている。
【0094】
マップMP1において、例えば、R0=Dw/5である。ΔRdがR0以下であるとき、重みaは「1」になり、重みbは「0」になる。偏差関連値ΔRdが小さい場合(即ち、進路偏差の度合いが小さい場合)、最終的な目標制御力Fct_rは、フィードフォワード制御用の成分(Fff_r)のみを含む。前輪11Fの進路と後輪11Rの進路との重なり具合が大きいので、ECU30は、前輪11Fに用いた路面変位関連情報(z1)を用いてフィードフォワード制御(プレビュー制振制御)を実行することにより、ばね上51の振動を抑制することができる。
【0095】
マップMP1において、例えば、R1=Dw/2である。ΔRdがR1であるとき、重みaは「0.5」になり、重みbは「0.5」になる。この場合、最終的な目標制御力Fct_rにおいて、フィードフォワード制御用の成分(Fff_r)とフィードバック制御用の成分(Ffb_r)とが同じ重みになる。
【0096】
ΔRdがR1より大きくなると(進路偏差の度合いが第1の度合いよりも大きくなると)、第2目標制御力Ffb_rに対する重みbが、第1目標制御力Fff_rに対する重みaよりも大きくなる。このように、前輪11Fの進路と後輪11Rの進路との重なり具合が小さい場合、目標制御力Fct_rにおいて、フィードバック制御用の成分(Ffb_r)が、フィードフォワード制御用の成分(Fff_r)よりも大きくなり得る。これにより、フィードフォワード制御用の成分(Fff_r)がばね上51の振動に対して悪影響を及ぼす可能性を低減しつつ、フィードバック制御用の成分(Ffb_r)の成分により後輪11R側の車体部位の振動を徐々に抑制できる。
【0097】
ΔRdがR0より大きくかつR2以下の範囲(R0<ΔRd≦R2)において、ΔRdが大きくなるほど(進路偏差の度合いが大きくなるほど)、第1目標制御力Fff_rに対する重みaが徐々に小さくなり、かつ、第2目標制御力Ffb_rに対する重みbが徐々に大きくなる。進路偏差の度合いに応じて、フィードフォワード制御の成分(Fff_r)による悪影響をより小さくし、かつ、フィードバック制御の成分(Ffb_r)による振動の抑制効果をより高めることができる。
【0098】
マップMP1において、R2=Dwである。従って、ΔRdがR2より大きい場合(進路偏差の度合いが第2の度合いよりも大きい場合)、前輪11Fの進路と後輪11Rの進路とが重ならない。この場合、重みaは「0」になり、重みbは「1」になる。最終的な目標制御力Fct_rは、フィードバック制御用の成分(Ffb_r)のみを含む。従って、フィードフォワード制御の成分による悪影響を回避(排除)しながら、フィードバック制御の成分によりばね上51の振動を徐々に抑制することができる。
【0099】
前輪11Fの進路と後輪11Rの進路との重なり具合が小さいと、後輪11Rが通る路面におけるばね下変位z1が、前輪11Fが通る路面におけるばね下変位z1とが異なる可能性が高い。このような状況において、前輪11Fにおけるばね下変位z1のみを用いて後輪11Rに対してプレビュー制振制御が実行されると、後輪11Rの位置に対応する車体部位の振動が大きくなる可能性がある。
【0100】
これに対し、本実施形態によれば、前輪11Fの進路と後輪11Rの進路との重なり具合が小さいほど、最終的な目標制御力Fct_rにおいて第1目標制御力Fff_rに対する重みaが小さくなり、かつ、第2目標制御力Ffb_rに対する重みbが大きくなる。偏差関連値ΔRdがある閾値(本例において、R1)より大きい場合、重み付き和において、第2目標制御力Ffb_rに対する重みbが、第1目標制御力Fff_rに対する重みaよりも大きくなる。従って、フィードフォワード制御用の成分(Fff_r)が後輪11R側の車体部位(ばね上51)の振動に対して悪影響を及ぼす可能性を低減しつつ、フィードバック制御用の成分(Ffb_r)により後輪11R側のばね上51の振動を徐々に抑制することができる。このように、車両10が旋回して前輪11Fの進路と後輪11Rの進路との重なり具合が小さくなっても、後輪11R側のばね上51の振動を抑制することができる。更に、ECU30は、偏差関連値ΔRdとタイヤの接地幅Dwとの関係(MP1)を用いて、第1目標制御力Fff_rに対する重みa及び第2目標制御力Ffb_rに対する重みbを変更する。この構成によれば、ECU30は、上記の関係に基いて、前輪11Fが通る路面と後輪11Rが通る路面との重なり具合に応じて、第1目標制御力Fff_rに対する重みa及び第2目標制御力Ffb_rに対する重みbを変更できる。
【0101】
<制振制御ルーチン>
ECU30のCPU(以下、「CPU」と表記した場合、特に断りがない限り、ECU30のCPUを指す。)は、
図9にフローチャートにより示した制振制御ルーチンを所定時間が経過する毎に実行する。CPUは、左側の車輪(11FL及び11RL)及び右側の車輪(11FR及び11RR)のそれぞれについて、制振制御ルーチンを実行する。
【0102】
なお、CPUは、図示しないルーチンを所定時間が経過する毎に実行することにより、
クラウド40から準備区間におけるプレビュー参照データ45を予め取得し、一時的にプレビュー参照データ45をRAMに格納している。準備区間は、車両10が準備区間の終点に到達したときの前輪通過予測位置pf1を始点とし、この前輪通過予測位置pf1から車両10の進行方向Tdに沿って所定の準備距離だけ離れた位置を終点とする区間である。更に、準備距離は、上記前輪先読み距離Lpfに比べて十分に大きな値に予め定められている。
【0103】
所定のタイミングになると、CPUは、
図9のステップ900から処理を開始してステップ901乃至ステップ906をこの順に実行し、その後、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0104】
ステップ901:CPUは、各車輪11の現在位置を特定する。
【0105】
より詳細には、CPUは、位置情報取得装置31から、車両10の現在位置、車速V1及び車両10の進行方向Tdを特定(取得)する。ECU30のROMには、車両10におけるGNSS受信機の搭載位置と各車輪11の位置との関係を表す位置関係データが予め記憶されている。位置情報取得装置31から取得した車両10の現在位置はGNSS受信機の搭載位置に相当するため、CPUは、車両10の現在位置、車両10の進行方向Td及び上記位置関係データを参照することにより、各車輪11の現在位置を特定する。
【0106】
ステップ902:CPUは、各車輪11の通過予測位置を以下に述べるように特定する。
【0107】
CPUは、前輪11Fの予測進路及び後輪11Rの予測進路を特定する。前述のように、前輪11Fの予測進路は前輪11Fがこれから移動すると予測される進路であり、後輪11Rの予測進路は後輪11Rがこれから移動すると予測される進路である。一例として、CPUは、各車輪11の現在位置、車両10の進行方向Td及び上記位置関係データに基いて、前輪11Fの予測進路を特定する。一例として、CPUは、後輪11Rが前輪11Fと同じ進路を辿ると仮定して後輪11Rの予測進路を特定する。
【0108】
CPUは、上述したように、車速V1に前輪先読み時間tpfを乗じることにより前輪先読み距離Lpfを演算する。更に、CPUは、前輪11Fがその現在位置から前輪11Fの予測進路に沿って前輪先読み距離Lpfだけ進んだ位置を前輪通過予測位置pf1として特定する。
【0109】
CPUは、車速V1に後輪先読み時間tprを乗じることにより後輪先読み距離Lprを演算する。更に、CPUは、後輪11Rがその現在位置から後輪11Rの予測進路に沿って後輪先読み距離Lprだけ進んだ位置を後輪通過予測位置pr1として特定する。
【0110】
ステップ903:CPUは、RAMから、前輪通過予測位置pf1の路面変位関連情報(z1)及び後輪通過予測位置pr1の路面変位関連情報(z1)を取得する。
【0111】
ステップ904:CPUは、前輪通過予測位置pf1の路面変位関連情報(z1)を用いて、上記式(8)及び式(9)に従って、前輪11Fに対する目標制御力Fct_fを演算する。
【0112】
ステップ905:CPUは、後述する
図10に示したルーチンを実行することにより、後輪11Rに対する目標制御力Fct_rを演算する。
【0113】
ステップ906:CPUは、目標制御力Fct_fを含む制御指令をアクティブアクチュエータ17Fに送信する。CPUは、目標制御力Fct_rを含む制御指令をアクティブアクチュエータ17Rに送信する。
【0114】
CPUは、ステップ905に進んだ場合、
図10に示したルーチンの処理をステップ1000から開始してステップ1001乃至ステップ1006をこの順に実行し、その後、ステップ1095に進んで本ルーチンを一旦終了する。その後、CPUは、
図9のルーチンのステップ906に進む。
【0115】
ステップ1001:CPUは、後輪通過予測位置pr1の路面変位関連情報(z1)を上記式(10)に適用することにより、第1目標制御力Fff_rを演算する。
【0116】
ステップ1002:CPUは、上下加速度センサ33から車体変位関連情報(ばね上加速度ddz2)を取得する。CPUは、ばね上加速度ddz2を積分してばね上速度dz2を求める。
【0117】
ステップ1003:CPUは、上記式(11)に従って第2目標制御力Ffb_rを演算する。
【0118】
ステップ1004:CPUは、前述したように、偏差関連値ΔRdを演算する。
【0119】
ステップ1005:CPUは、偏差関連値ΔRdをマップMP1(ΔRd)に適用して、第1目標制御力Fff_rに対する重みaを求める。更に、CPUは、上記式(12)に従って第2目標制御力Ffb_rに対する重みbを求める。
【0120】
ステップ1006:CPUは、上記式(13)に従って、後輪11Rに対する目標制御力Fct_rを演算する。
【0121】
以上から理解されるように、制振制御装置20は、車両10が旋回して前輪11Fの進路と後輪11Rの進路との重なり具合が小さくなると推定される状況において、フィードフォワード制御用の成分(Fff_r)が後輪11R側のばね上51の振動に対して悪影響を及ぼす可能性を低減しつつ、フィードバック制御用の成分(Ffb_r)の成分により後輪11R側のばね上51の振動を徐々に抑制することができる。
【0122】
本開示は上記実施形態に限定されることなく、本開示の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【0123】
(変形例1)
第2目標制御力Ffb_rの演算方法は、上記式(11)に限定されない。例えば、第2目標制御力Ffb_rを演算する式は、ばね上変位z2の項と、ばね上速度dz2の項と、ばね上加速度ddz2の項と、ばね下変位z1の項と、ばね下速度dz1の項との少なくとも1つを含む式であってよい。一例として、ECU30は、以下の式(14)に従って、第2目標制御力Ffb_rを演算してもよい。ここで、γ1、γ2、γ3、γ4及びγ5は、それぞれ、ゲインである。
Ffb_r = γ1×ddz2+γ2×dz2+γ3×z2+γ4×dz1+γ5×z1・・・(14)
【0124】
上記の構成において、ECU30は、ばね上加速度ddz2を2階積分することにより、ばね上変位z2を演算することができる。更に、ECU30は、ばね上加速度ddz2及びストロークHに基いて、ばね下変位z1を演算してもよい。例えば、ECU30は、ばね上加速度ddz2を2階積分することにより、ばね上変位z2を演算する。ECU30は、ストロークセンサ34からストロークHを取得する。ECU30は、ばね上変位z2からストロークHを減ずることにより、ばね下変位z1を演算する。更に、ECU30は、ばね下変位z1に対して微分処理を実行して、ばね下速度dz1を演算してもよい。
【0125】
車両10は、左後輪11RL及び右後輪11RRのそれぞれのばね下50に対応して上下加速度センサを備えてもよい。この場合、ECU30は、ばね上加速度ddz2RL及びddz2RR、ばね下加速度ddz1RL及びddz1RR、及び、ストロークHrl及びHrrの1つ以上に基いて、オブザーバ(不図示)を用いてばね下変位z1を推定してもよい。
【0126】
(変形例2)
第1目標制御力Fff_rに対する重みa及び第2目標制御力Ffb_rに対する重みbの設定方法は、上述の例に限定されない。第1の例において、偏差関連値ΔRdが大きくなるほど、第1目標制御力Fff_rに対する重みaが非線形に小さくなり、かつ、第2目標制御力Ffb_rに対する重みbが非線形に大きくなってもよい。偏差関連値ΔRdが所定の閾値Tha1より大きくなると、ECU30は、第2目標制御力Ffb_rに対する重みbが第1目標制御力Fff_rに対する重みaよりも大きくなるように、重みa及び重みbを設定する。
【0127】
第2の例において、偏差関連値ΔRdが所定の閾値Thb1以下の場合、ECU30は、重みaを「1」に設定し、重みbを「1」に設定する。偏差関連値ΔRdが閾値Thb1より大きくなったとき、ECU30は、重みaを「0」に設定し、重みbを「1」に設定する。
【0128】
第3の例において、ECU30は、偏差関連値ΔRdを
図11に示すマップMP2(ΔRd)に適用して、第2目標制御力Ffb_rに対する重みbを求める。そして、ECU30は、第1目標制御力Fff_rに対する重みaを常に「1」に設定する。マップMP2によれば、偏差関連値ΔRdが大きくなるほど(即ち、進路偏差の度合いが大きくなるほど)、第2目標制御力Ffb_rに対する重みbが大きくなる。偏差関連値ΔRdが所定の第1閾値Raより大きくなると、重みbは「1」より大きくなる。例えば、Raの値は、上述と同様に、偏差関連値ΔRdとタイヤの接地幅Dwとの関係から設定される。従って、第2目標制御力Ffb_rに対する重みbが、第1目標制御力Fff_rに対する重みaよりも大きくなる。ΔRdが所定の第2閾値Rb以上になると、重みbは所定の最大値bmaxになる。
【0129】
(変形例3)
偏差関連値は、上述の例(ΔRd)に限定されない。偏差関連値は、前輪11Fの進路に対する後輪11Rの進路の偏差の度合いに関連する値である限り、ΔRd以外の値であってもよい。例えば、偏差関連値は、特許文献1のように、DwとΔRdとの差分をDwで割った値である重なり率Lapであってもよい(Lap=(Dw-ΔRd)/Dw)。この構成において、ΔRdがゼロのとき、重なり率Lapが「1」になる。これは、前輪11Fの進路と後輪11Rの進路とが完全に重なることを意味する。この場合、ECU30は、第1目標制御力Fff_rに対する重みaを「1」に設定し、第2目標制御力Ffb_rに対する重みbを「0」に設定してもよい。進路偏差の度合いが大きいほど、重なり率Lapが小さくなる。重なり率Lapが第1の重なり率Lap1より小さくなった場合(即ち、進路偏差の度合いが第1の度合いよりも大きくなった場合)、ECU30は、第2目標制御力Ffb_rに対する重みbを、第1目標制御力Fff_rに対する重みaよりも大きくなるように設定してもよい。重なり率Lapが第2の重なり率Lap2より小さくなった場合(即ち、進路偏差の度合いが第2の度合いよりも大きくなった場合)、ECU30は、第1目標制御力Fff_rに対する重みaをゼロに設定してもよい。第2の重なり率Lap2は、第1の重なり率Lap1より小さい値であり、例えば、ゼロであってもよい。
【0130】
別の例において、偏差関連値は、車両10の旋回状態に関連する車両状態量であってもよい。例えば、偏差関連値は、速度、舵角、横加速度、及び、ヨーレート等の車両状態量のうちの1つ以上の組み合わせであってもよい。例えば、ECU30は、車両状態量を所定のマップに適用することにより、進路偏差の度合いを判定してもよい。ECU30は、その偏差の度合に応じて、第1目標制御力Fff_rに対する重みa及び第2目標制御力Ffb_rに対する重みbを変更してもよい。
【0131】
(変形例4)
ECU30は、ばね下変位z1(tp+tpf)を以下のように取得してもよい。先ず、ECU30は、通過予測位置pf1をクラウド40に送信する。クラウド40は、その通過予測位置pf1とプレビュー参照データ45とに基いて、通過予測位置pf1を表す位置情報に紐付けられているばね下変位z1(tp+tpf)を取得する。クラウド40は、このばね下変位z1(tp+tpf)をECU30に送信する。
【0132】
(変形例5)
プレビュー参照データ45は、クラウド40の記憶装置44に記憶されている必要はなく、記憶装置30aに記憶されていてもよい。
【0133】
(変形例6)
路面変位関連情報は、車両10に設置されたプレビューセンサによって取得されてもよい。ECU30は、プレビューセンサに接続されており、プレビューセンサから路面変位関連情報を取得する。プレビューセンサは、例えば車両10のフロントガラスの車幅方向中央の上端部の内面に取り付けられ、前輪11Fに対し所定のプレビュー距離Lpreだけ前方の位置の路面変位z0を検出する。プレビューセンサは、例えばカメラセンサ、LIDAR及びレーダのように、路面変位z0を取得することができる限り、当技術分野において公知のプレビューセンサであってよい。ECU30は、プレビューセンサによって取得された路面変位z0から通過予測位置の路面変位z0を取得してもよい。
【0134】
(変形例7)
前輪11Fに設けられた各種センサにより検出された路面変位関連情報を用いて、後輪11Rのフィードフォワード制御(プレビュー制振制御)用の目標制御力Fff_rが演算されてもよい。例えば、上下加速度センサは、左前輪11FL及び右前輪11FRの位置に対する車体10a(ばね上51)に設けられてもよい。更に、ストロークセンサは、左前輪サスペンション13FL及び右前輪サスペンション13FRに対して設けられてもよい。以降において、前輪11Fに設けられた上下加速度センサにより検出されたばね上加速度を「ddz2_f」と表記し、前輪11Fに設けられたストロークセンサにより検出されたストロークを「H_f」と表記する。
【0135】
ECU30は、前述と同様に、ばね上加速度ddz2_fからばね上変位z2_fを求め、当該ばね上変位z2_fからストロークH_fを減ずることにより、ばね下変位z1_fを演算する。ECU30は、ばね下変位z1_fをばね上加速度ddz2_fが検出された時の前輪11Fの位置の情報に紐づけて、後輪11Rの前方のばね下変位z1_fとしてRAMに保存する。ECU30は、RAMに保存されている後輪の前方のばね下変位z1_fのうち、後輪通過予測位置pr1のばね下変位z1_fを取得して、第1目標制御力Fff_rを演算してもよい。このように、前輪11Fに設けられた上下加速度センサ及びストロークセンサは、左右後輪11RL及び11RRの前方の路面変位関連情報を取得する装置として機能させてもよい。
【0136】
(変形例8)
サスペンション13FL乃至13RRは、それぞれ車輪11FL乃至11RR及び車体10aが互いに他に対し上下方向に変位することを許容すれば、どのようなタイプのサスペンションであってもよい。更に、サスペンションスプリング16FL乃至16RRは、圧縮コイルスプリング、エアスプリング等の任意のスプリングであってよい。
【0137】
(変形例9)
上記実施形態では、各車輪11に対応してアクティブアクチュエータ17FL乃至17RRが設けられたが、少なくとも一つの後輪11Rに対してアクティブアクチュエータ17が設けられていればよい。例えば、車両10は、左後輪アクティブアクチュエータ17RL及び右後輪アクティブアクチュエータ17RRのうち一方又は両方のみを備えていてもよい。
【0138】
(変形例10)
上記実施形態では、制御力発生装置としてアクティブアクチュエータ17が使用されていたが、これに限定されない。即ち、制御力発生装置は、ばね上51を制振するための上下方向の制御力を目標制御力を含む制御指令に基いて調整可能に発生できるアクチュエータであればよい。
【0139】
更に、制御力発生装置は、アクティブスタビライザ装置(不図示)であってもよい。アクティブスタビライザ装置は前輪アクティブスタビライザ及び後輪アクティブスタビライザを含む。前輪アクティブスタビライザは、左前輪11FLに対応するばね上51とばね下50との間で上下方向の制御力(左前輪制御力)を発生すると、右前輪11FRに対応するばね上51とばね下50との間で左前輪制御力と逆方向の制御力(右前輪制御力)を発生する。同様に、後輪アクティブスタビライザは、左後輪11RLに対応するばね上51とばね下50との間で上下方向の制御力(左後輪制御力)を発生すると、右後輪11RRに対応するばね上51とばね下50との間で左後輪制御力と逆方向の制御力(右後輪制御力)を発生する。上記アクティブスタビライザ装置の構成は周知であり、特開2009-96366号公報を参照することにより本願明細書に組み込まれる。なお、アクティブスタビライザ装置は、前輪アクティブスタビライザ及び後輪アクティブスタビライザの少なくとも一方を含めばよい。
【0140】
制御力発生装置は、車両10の各車輪11に制駆動力を増減することにより、サスペンション13FL乃至13RRのジオメトリを利用して上下方向の制御力Fcを発生する装置であってもよい。このような装置の構成は周知であり、特開2016-107778号公報等を参照することにより本願明細書に組み込まれる。ECU30は、周知の手法により、目標制御力Fctに対応する制御力Fcを発生する制駆動力を演算する。更に、このような装置は、各車輪11に駆動力を付与する駆動装置(例えば、インホイールモータ)と、各車輪11に制動力を付与する制動装置(ブレーキ装置)と、を含む。なお、駆動装置は前輪及び後輪の何れか一方又は四輪に駆動力を付与するモータ又はエンジン等であってもよい。更に、上記制御力発生装置は、駆動装置及び制動装置の少なくとも一方を含めばよい。
【0141】
更に、制御力発生装置は、減衰力可変式のショックアブソーバ15FL乃至15RRであってもよい。この場合、ECU30は、目標制御力Fctに対応する値だけショックアブソーバ15FL乃至15RRの減衰力が変化するように、ショックアブソーバ15FL乃至15RRの減衰係数Cを制御する。
【符号の説明】
【0142】
10…車両、11FL…左前輪、11FR…右前輪、11RL…左後輪、11RR…右後輪、12FL~12RR…車輪支持部材、13FL…左前輪サスペンション、13FR…右前輪サスペンション、13RL…左後輪サスペンション、13RR…右後輪サスペンション、14FL~14RR…サスペンションアーム、15FL~15RR…ショックアブソーバ、16FL~16RR…サスペンションスプリング、17FL…左前輪アクティブアクチュエータ、17FR…右前輪アクティブアクチュエータ、17RL…左後輪アクティブアクチュエータ、17RR…右後輪アクティブアクチュエータ、20…制振制御装置。