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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】溶接部欠陥の補修方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/34 20140101AFI20221207BHJP
   B23K 26/348 20140101ALI20221207BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20221207BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20221207BHJP
【FI】
B23K26/34
B23K26/348
B23K31/00 D
B23K26/21 W
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021120266
(22)【出願日】2021-07-21
(62)【分割の表示】P 2017132761の分割
【原出願日】2017-07-06
(65)【公開番号】P2021167026
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】松本 直幸
(72)【発明者】
【氏名】置田 大記
(72)【発明者】
【氏名】猪瀬 幸太郎
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-246440(JP,A)
【文献】特開2016-059936(JP,A)
【文献】特開2017-202509(JP,A)
【文献】特開2012-011465(JP,A)
【文献】特開2005-246434(JP,A)
【文献】特開2001-096385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/34
B23K 26/348
B23K 31/00
B23K 26/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接された被溶接部材の溶接部に存在する欠陥を補修する溶接部欠陥の補修方法であって、
前記欠陥は前記溶接部の内部に存在する欠陥であり、
レーザビームを前記溶接部に照射し、前記溶接部のうち前記欠陥周りの部分を溶融して補修溶接を行い、
アーク溶接とレーザ溶接とを合わせて被溶接部材同士の溶接接合を行うレーザアークハイブリッド溶接を採用し、アーク放電によって前記溶接部を溶融させた状態でレーザビームを前記欠陥に向けて集光して照射するとともに前記溶接部の幅方向で揺動させて前記補修溶接を行う、溶接部欠陥の補修方法。
【請求項2】
前記レーザビームを前記溶接部により形成された溶接線上で移動させながら前記溶接部に照射し、前記補修溶接を行う、請求項1に記載の溶接部欠陥の補修方法。
【請求項3】
前記レーザビームを前記溶接部により形成された溶接線上で移動させながら前記溶接部に照射して前記補修溶接を行い、
揺動速度と移動速度を合成した走査速度が2.5m/min以下であり、揺動周期での移動距離が2.8mm以下である、請求項1または2に記載の溶接部欠陥の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接部欠陥の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材からなる被溶接部材同士の溶接部には、溶接条件が適正でなかった場合等において、ポロシティ、融合不良、スラグ巻き込み、溶込不良、割れ等の欠陥が生じることがある。このような欠陥の存在は溶接強度の低下に繋がり好ましいことではない。
【0003】
そこで、従来、このような欠陥が溶接部に発見された場合には、溶接部の欠陥を含む部分を削り取り、削り取った部分にアーク溶接等によりさらに溶接を施工するようにして、溶接部の補修が行われてきた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-240059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の溶接部の補修方法では、溶接部の欠陥を含む部分を削り取った後、さらに溶接を行わなければならず、補修作業に手間と多大な時間を要するという問題がある。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、補修作業の大幅な時間短縮を実現可能な溶接部欠陥の補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様の溶接部欠陥の補修方法は、溶接された被溶接部材の溶接部に存在する欠陥を補修する溶接部欠陥の補修方法であって、前記欠陥は前記溶接部の内部に存在する欠陥であり、レーザビームを前記溶接部に照射し、前記溶接部のうち前記欠陥周りの部分を溶融して補修溶接を行い、アーク溶接とレーザ溶接とを合わせて被溶接部材同士の溶接接合を行うレーザアークハイブリッド溶接を採用し、アーク放電によって前記溶接部を溶融させた状態でレーザビームを前記欠陥に向けて集光して照射するとともに前記溶接部の幅方向で揺動させて前記補修溶接を行うことを特徴とする。
【0008】
第2の態様の溶接部欠陥の補修方法は、前記レーザビームを前記溶接部により形成された溶接線上で移動させながら前記溶接部に照射し、前記補修溶接を行うことを特徴とする。
【0009】
第3の態様の溶接部欠陥の補修方法は、前記レーザビームを前記溶接部の幅方向で揺動させるとともに前記レーザビームを前記溶接部により形成された溶接線上で移動させながら前記溶接部に照射して前記補修溶接を行い、揺動速度と移動速度を合成した走査速度が2.5m/min以下であり、揺動周期での移動距離が2.8mm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の溶接部欠陥の補修方法によれば、溶接部の内部に欠陥が存在する場合において、アーク溶接とレーザ溶接とを合わせて被溶接部材同士の溶接接合を行うレーザアークハイブリッド溶接を採用し、アーク放電によって溶接部を溶融させた状態でレーザビームを欠陥に向けて集光して照射するとともに溶接部の幅方向で揺動させて補修溶接を行うようにしたので、欠陥周りの部分が溶けて再び溶融池が形成され、欠陥が溶融池に取り込まれて消滅する。
これにより、アーク放電によって溶接部を溶融させた状態で欠陥周りの部分にレーザビーム溶接部の幅方向で揺動させながら照射するという簡単な構成で溶接部欠陥の補修を行うようにでき、補修作業の時間を大幅に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】レーザアークハイブリッド溶接装置を示す図である。
図2】溶接部の内部の欠陥を示す図である。
図3】補修溶接を行った溶接部を示す写真である。
図4】溶接部の内部の欠陥の補修可能な領域を実験結果として示す図である。
図5】レーザビームに関し溶接線に沿う距離と揺動幅との関係を模式的に示す図である。
図6】レーザビームの揺動幅と揺動周波数とを種々変化させレーザ走査速度を可変して溶接部の補修を行った場合の実験結果を示す図である。
図7】内部に溶込不良からなる欠陥を有する隅肉溶接の溶接部を示す図である。
図8】補修溶接を行った隅肉溶接の溶接部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る溶接部欠陥の補修方法について図面を参照しながら説明する。
本発明に係る溶接部欠陥の補修方法では、例えば、アーク溶接とレーザ溶接とを合わせて施工することで金属部材である被溶接部材同士の溶接接合を行うレーザアークハイブリッド溶接の技術が適用される。
【0013】
図1を参照すると、レーザアークハイブリッド溶接を行うレーザアークハイブリッド溶接装置が突き合わせ溶接された被溶接部材S、Sの溶接部Wの補修作業を行っている状態で示されており、以下レーザアークハイブリッド溶接装置の概要について説明する。
【0014】
レーザアークハイブリッド溶接装置1は、アーク溶接装置10とレーザ溶接装置20からなり、被溶接部材S、Sの溶接方向、即ち溶接部Wの連続する溶接線に沿う方向(図中に矢印で示す)に移動可能に構成されている。
【0015】
アーク溶接装置10は、被溶接部材S、Sの溶接部Wに対し例えば溶接トーチ12の先端から消耗電極としての溶接ワイヤ14が斜めに送り出されるように構成されている。なお、アーク溶接装置10は、溶接トーチ12の先端に消耗しない電極棒を取り付けるようにしてもよく、これによりアーク放電のみ行うことも可能である。
【0016】
一方レーザ溶接装置20は、レーザ発生装置(図示せず)から供給されるレーザビームLBをレーザ照射ヘッド22で集光して被溶接部材S、Sの溶接部Wに照射させるよう構成されている。また、レーザ溶接装置20は、レーザ照射ヘッド22を経て集光したレーザビームLBを被溶接部材S、Sの溶接線に対し垂直方向、即ち溶接部Wの幅方向(図中に矢印で示す)に揺動可能にも構成されている。レーザの種類としてはYAGレーザ、COレーザ、ファイバーレーザ、ディスクレーザ等が採用される。
【0017】
このように構成されたレーザアークハイブリッド溶接装置1では、溶接線が溶接ワイヤ14の先端とレーザビームLBの集光点とを結ぶ線に一致するように被溶接部材S、Sがセットされ、溶接線に沿う方向(図中の矢印方向)に送られてアーク溶接、レーザ溶接の順に溶接作業が行われる。
【0018】
以下、本発明に係る溶接部欠陥の補修方法について詳細に説明する。
溶接構造物を構成する被溶接部材S、Sの溶接部Wについて非破壊検査等が実施され、溶接部Wの内部に、図2に示すようなポロシティ、融合不良、スラグ巻き込み、溶込不良、割れ等の欠陥が発見されると、当該欠陥部分にアーク放電とレーザ照射を行うべく、上記レーザアークハイブリッド溶接装置1を溶接部Wの溶接線が溶接ワイヤ14の先端とレーザビームLBの集光点とを結ぶ線に一致するようにセットする。
【0019】
以下、欠陥の状態に応じた補修方法を実施例1~実施例3として説明する。
[実施例1]
実施例1では、突き合わせ溶接された被溶接部材S、Sの溶接部Wの内部に欠陥が1箇所だけ存在している場合を例に説明する。
この場合、1箇所の欠陥だけを補修すればよいので、アーク溶接装置10とレーザ溶接装置20とを大きく移動させることなく補修作業を行う。
【0020】
先ず、アーク溶接装置10を作動させ、欠陥に向けて溶接ワイヤ14からアーク放電を行う。これにより、溶接部Wの欠陥の周辺部分が溶融する。この際、アーク放電で溶接部Wを完全に溶融させる必要はなく、溶接部Wをある程度溶融するようにアーク電流は適宜調整される。
【0021】
そして、溶接部Wの欠陥の周辺部分がある程度溶融した状態になると、レーザ溶接装置20を作動させ、欠陥に向けてレーザ照射を行う。具体的には、レーザ照射ヘッド22で集光したレーザビームLBの照射位置が欠陥に対応した位置となるよう、アーク溶接装置10とレーザ溶接装置20とを共に移動させ、通常のレーザ溶接におけるレーザパワーでレーザ照射を行う。
【0022】
さらに、レーザ照射ヘッド22で集光され照射されるレーザビームLBを溶接線に対し垂直方向、即ち溶接部Wの幅方向に揺動させる。ここでは、例えば一定の周期でレーザ照射ヘッド22を往復動させるようにしてレーザビームLBを搖動させる。
【0023】
このように、欠陥の周辺部分がアーク放電によってある程度溶融した状態でレーザビームLBを欠陥に向けて集光して照射すると、レーザビームLBはアーク放電よりも深い部分まで届くので、アーク放電によってある程度溶融した溶接部Wの欠陥の周辺部分はほぼ完全に溶融した状態とされ、再び溶融池が形成される。
【0024】
これにより、溶接部Wの内部に存在していた欠陥は、溶接部Wの深い位置に存在しているような場合であっても、アーク放電とレーザビームLBとによって新たに形成される溶融池に取り込まれ、消滅する。
【0025】
特に、レーザビームLBを溶接部Wの幅方向に揺動させることにより、溶接部Wの部分のみならず、溶接部Wの周辺の被溶接部材S、Sも一部溶融され、溶融池の範囲が元の溶接部Wの範囲よりも広がる。これにより、欠陥が溶融池に取り込まれ易くなり、欠陥が比較的大きい場合であっても、良好に消滅する。
【0026】
例えば、欠陥がポロシティである場合には、ポロシティが溶融池の溶接金属によって埋められ、或いは、溶融池がレーザビームLBの揺動により攪拌されることでポロシティ内の気体が溶融池から大気中に放散されて、消滅する。
【0027】
さらには、レーザビームLBを揺動させることで、新たに欠陥が生じることが防止される。例えば、欠陥が溶接部Wの比較的深い位置に存在しているような場合、通常はレーザビームLBの出力を高くする必要があり、このようにレーザビームLBの出力が高いと新たに割れ等の欠陥が発生する可能性があるが、レーザビームLBを揺動させることにより、溶融池の範囲が広がるとともに溶融池が攪拌され、新たな欠陥が生じた側から溶融池に取り込まれ、新たな欠陥の生成が未然に防止される。
【0028】
図3を参照すると、溶接部Wの内部の欠陥に対しアーク放電を行うとともにレーザビームLBを揺動させながら照射して補修溶接を行った補修結果が新たな溶接部W’として写真で示されているが、同写真に示すように、欠陥は良好に消滅する。
【0029】
なお、ここでは、レーザビームLBを揺動させるようにしているが、欠陥が溶接部Wの比較的浅い位置に存在している場合には、レーザビームLBを揺動させなくてもよい。レーザビームLBを揺動させないと、溶込み先端部幅が狭く溶融池の範囲も狭くなるのであるが、欠陥が溶接部Wの比較的浅い位置であれば欠陥を溶融池に取り込み、消滅させることが可能である。
【0030】
図4を参照すると、溶接部Wの内部の欠陥の補修可能な領域が、レーザビームLBを揺動させない場合(◆印)と所定揺動幅(例えば、幅6mm)で揺動させた場合(●印)とのそれぞれについて実験結果として示されている。同図に示すように、レーザビームLBを揺動させない場合には、レーザビームLBの溶込み先端部幅が狭いため、溶接部Wの深い位置にある欠陥については補修が難しいものの、溶接部Wの比較的浅い位置にある欠陥については補修可能である。一方、レーザビームLBを揺動させるようにすれば、溶接部Wの比較的浅い位置のみならず、溶接部Wの比較的深い位置(例えば、深さ20mm)及び溶接部Wの幅方向外縁付近にある欠陥についても十分に補修可能である。
【0031】
また、ここでは、欠陥に向けてアーク溶接装置10によりアーク放電を行った後にレーザ溶接装置20によりレーザ照射を行うようにしているが、アーク溶接装置10によりアーク放電を行うことなくレーザ溶接装置20によりレーザ照射だけを行うようにしてもよい。この場合であっても、例えば欠陥が比較的小さいような場合には、溶接部Wの欠陥周りの部分を十分に溶融し、溶融池を形成することは可能である。
【0032】
また、アーク溶接装置10において、消耗電極として溶接ワイヤ14を用いている場合、溶接ワイヤ14が溶加材として溶出して新たな溶接金属を形成することになるが、溶接ワイヤ14に代えて消耗しない電極棒を用いた場合には、アーク放電だけが行われることになり、溶接ワイヤ14の消費が抑えられる。
【0033】
[実施例2]
実施例2では、突き合わせ溶接された被溶接部材S、Sの溶接部Wの内部に欠陥が溶接線に沿い連続して複数存在している場合を例に説明する。
この場合には、欠陥が存在する溶接部Wの範囲において、アーク溶接装置10を作動させて溶接ワイヤ14からアーク放電を開始した後、アーク溶接装置10とレーザ溶接装置20とを溶接線に沿って移動させながら、レーザ溶接装置20をも作動させて溶接部Wに向けてレーザ照射を連続的に実施する。
【0034】
この際、アーク溶接装置10とレーザ溶接装置20とを溶接線に沿って移動させながら、レーザ照射ヘッド22で集光され照射されるレーザビームLBを溶接線に対し垂直方向、即ち溶接部Wの幅方向に揺動させる。
【0035】
即ち、図5に溶接線に沿う距離と揺動幅との関係を模式的に示すように、レーザビームLBを溶接線に沿って移動させながら同時に溶接部Wの幅方向に揺動させ、走査させる。
このようにレーザビームLBを移動させつつ揺動を繰り返して走査させる場合、上記実施例1の場合のような移動せずに揺動させただけの状況とは異なり、レーザビームLBの中心は同一軌跡上を再び通らない。故に、溶接部Wを十分に溶融させて溶融池を形成するためには、レーザビームLBの揺動速度と移動速度、即ちこれらを合成したレーザ走査速度、及び、レーザビームLBの重なり度合いと相関のあるレーザビームLBの揺動周期での移動距離(以下、ピッチという)が重要な要素となる。
【0036】
ここでは、具体的には、レーザ走査速度が2.5m/min以下、ピッチが図5に示すように2.8mm以下となるようにレーザ走査速度とピッチを設定し、レーザビームLBを走査させる。
【0037】
図6を参照すると、揺動幅と揺動周波数とを種々変化させレーザ走査速度を可変して溶接部Wの補修を行った場合の実験結果が示されている。同図において、横軸がレーザ走査速度を示し、縦軸は溶込み深さ/溶込み先端部幅(溶込み深さを溶込み先端部幅で除した値)を示している。ここでは、溶接条件として、アーク電流は100A、125A、150Aの何れかとし、レーザパワーは10kW、15kWの何れかとし、シールドガスとしてCO(流量20L/min)を用いた。
【0038】
レーザビームLBの移動速度を常用される所定の移動速度として、例えば揺動周波数が小さい場合には、レーザ走査速度は小さくなるもののピッチが大きくなり、溶込み深さ/溶込み先端部幅は大きくなる傾向にある。
【0039】
図6において、○印はレーザ走査速度が2.5m/minを超えている場合、或いは、ピッチが2.8mmを超えている場合に該当しており、例えば、○印のうち、レーザ走査速度が1.2m/min近傍で溶込み深さ/溶込み先端部幅が値3以上の3点では、ピッチがそれぞれ2.9mm、3.6mm、4.9mmと2.8mmを超えており、レーザ走査速度が2.7m/min近傍で溶込み深さ/溶込み先端部幅が値1近傍の1点では、レーザ走査速度が2.5m/minを超え且つピッチも4.4mmと2.8mmを超えている。これらの場合には、それぞれ対応する写真(a)及び写真(c)に示すように、欠陥が消滅していないか或いは新たな欠陥が生じ、補修溶接としては不適切である。
一方、図6において、●印はレーザ走査速度が2.5m/min以下且つピッチが2.8mm以下となる場合に該当しており、この場合には、対応する写真(b)に示すように、欠陥が消滅しているか或いは新たな欠陥も生じておらず、補修溶接は適切である。
【0040】
このように、レーザ走査速度が2.5m/min以下且つピッチが2.8mm以下となるようにレーザ走査速度とピッチとを設定することで、レーザビームLBを適正に走査させながら欠陥の補修を行うようにでき、欠陥が溶接部Wの内部に溶接線に沿い連続して複数存在している場合であっても、高品質の補修溶接を実現することができる。
【0041】
特に、上記実施例1において図4で示したように、溶接部Wの内部の欠陥を補修可能な領域内に欠陥が有り、レーザビームLBの揺動をこれに対応する所定揺動幅(例えば、幅6mm)の範囲で実施する場合には、1パスの補修溶接で高品質の補修溶接を実現することができる。なお、欠陥が当該補修可能な領域を超えて広範囲に存在している場合であっても、補修溶接をマルチパスで行うことにより、同様に高品質の補修溶接を実現することができる。
【0042】
なお、アーク溶接装置10によりアーク放電を行うことなくレーザ溶接装置20によりレーザ照射だけを行うようにしてもよい点、溶接ワイヤ14に代えて消耗しない電極棒を用いてもよい点は実施例1の場合と同様である。
【0043】
[実施例3]
実施例3では、隅肉溶接された被溶接部材S、Sの一対の溶接部Wの内部に溶込不良からなる欠陥が存在している場合を例に説明する。なお、溶接部Wの内部には本来溶接されるべき部分をも含んでいる。
【0044】
隅肉溶接では、図7に示すように、特に溶接部Wの内部で被溶接部材S、S同士が溶接されていないまま残っているような溶込不良からなる欠陥が有り、このような欠陥であっても、レーザアークハイブリッド溶接装置1を用いて補修することが可能である。
【0045】
即ち、一対の溶接部Wの一方或いは双方において、実施例1及び実施例2で述べたと同様にして、アーク溶接装置10を作動させてアーク放電を行い、レーザ溶接装置20により溶接部Wに向けてレーザ照射を実施する。
【0046】
これにより、図8に示すように、被溶接部材S、S同士の溶込不良となっていた部分において新たに溶融池が形成され、被溶接部材S、S同士が更なる欠陥の発生なく良好に溶接されて溶込不良が解消され、新たな溶接部W’が形成される。
【0047】
以上説明したように、本発明に係る溶接部欠陥の補修方法によれば、溶接部Wの内部にポロシティ、融合不良、スラグ巻き込み、溶込不良、割れ等の欠陥が発見された場合において、欠陥周りの部分に少なくともレーザビームLBを集光して照射することにより、欠陥周りの部分を溶融させて再び溶融池を形成でき、当該溶融池に欠陥を取り込みながら欠陥を良好に消滅させることができる。これにより、欠陥周りの部分にレーザビームLBを照射するという簡単な構成にして溶接部Wの内部に存在する欠陥の補修を良好に行うようにでき、溶接部Wの補修作業の時間を大幅に短縮することができる。
【0048】
この場合において、レーザアークハイブリッド溶接の技術を適用し、アーク放電を行いつつレーザビームLBを集光して溶接部Wに照射することにより、溶接部Wをアーク放電により欠陥の周辺部分を含めてある程度まで溶融させた状態でレーザビームLBを照射でき、欠陥の周辺部分をほぼ完全に溶融させて溶融池を形成し、十分に補修溶接を行うことができる。
【0049】
また、集光したレーザビームLBを溶接部Wの幅方向で揺動させるようにすることで、溶融池の範囲を元の溶接部Wの範囲よりも広げ、欠陥を溶融池に取り込み易くでき、欠陥が比較的大きい場合であっても良好に消滅させることができるとともに、溶融池が攪拌されることで新たな欠陥の発生を未然に防止できる。
【0050】
また、レーザビームLBを溶接部Wの幅方向で揺動させるとともに溶接部Wにより形成された溶接線上で移動させながら溶接部Wに照射するようにし、このときの走査速度を2.5m/min以下とし、ピッチを2.8mm以下とすることにより、溶接部Wに溶接線に沿って複数の欠陥が連続して存在しているような場合において、新たな欠陥の発生を未然に防止しながら、高品質の補修溶接を実現することができる。
【0051】
以上で本発明に係る実施形態の説明を終えるが、実施形態は上記に限られるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
例えば、上記実施形態では、レーザアークハイブリッド溶接の技術を適用し、レーザアークハイブリッド溶接装置1を用いて溶接部Wの補修溶接を行うようにしたが、アーク放電を行わずレーザ照射だけで補修溶接を行う場合には、レーザアークハイブリッド溶接装置1に代えてレーザ溶接装置を用いるようにしてもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、被溶接部材S、Sの突き合わせ溶接における溶接部W、或いは隅肉溶接における溶接部Wの内部に存在する欠陥の補修を例に説明したが、溶接部Wの内部に欠陥が存在していれば、本発明に係る溶接部欠陥の補修方法を適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 レーザアークハイブリッド溶接装置
10 アーク溶接装置
12 溶接トーチ
14 溶接ワイヤ
20 レーザ溶接装置
22 レーザ照射ヘッド
LB レーザビーム
S 被溶接部材
W、W’ 溶接部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8