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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】中性原子量子情報プロセッサー
(51)【国際特許分類】
   B82Y 10/00 20110101AFI20221207BHJP
   G06F 7/38 20060101ALI20221207BHJP
   G06F 7/48 20060101ALI20221207BHJP
   G02F 1/33 20060101ALI20221207BHJP
   G02F 3/00 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
B82Y10/00
G06F7/38 510
G06F7/48 Z
G02F1/33
G02F3/00 501
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020501558
(86)(22)【出願日】2018-07-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 US2018042080
(87)【国際公開番号】W WO2019014589
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-06-09
(31)【優先権主張番号】62/531,993
(32)【優先日】2017-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/589,716
(32)【優先日】2017-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507044516
【氏名又は名称】プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ
(73)【特許権者】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】598128421
【氏名又は名称】カリフォルニア インスティテュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】キースリング コントレラス,アレキサンダー
(72)【発明者】
【氏名】バーニアン,ハネス
(72)【発明者】
【氏名】シュワルツ,シルヴァン
(72)【発明者】
【氏名】レビン,ハリー,ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】オムラン,アーメド
(72)【発明者】
【氏名】ルーキン,ミハイル,ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ヴュレティック,ヴラダン
(72)【発明者】
【氏名】エンドレス,マニュエル
(72)【発明者】
【氏名】グライナー,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ピヒラー,ハネス
(72)【発明者】
【氏名】チョウ,レオ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,シェンタオ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,スーンウォン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ドンギュ
(72)【発明者】
【氏名】ジブロフ,アレクサンダー エス.
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-134450(JP,A)
【文献】特開2008-158325(JP,A)
【文献】特開2017-078832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/29
G02F 1/33
G02B 21/00
G02B 26/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)第1のアレイ状態の原子アレイを形成すること、ここで前記形成することが、
(a)保持トラップアレイに複数の原子をトラップすること、ここで前記保持
トラップアレイが少なくとも3つの閉込め領域を有し、任意に、前記保持
トラップアレイが、少なくとも1つの保持音響光学偏向器(AOD)、空
間光変調器(SLM)、又は光格子の少なくとも1つにより生成される、
(b)第1の複数及び第2の複数の離散アジャスタブル音響トーン周波数のそ
れぞれで第1の制御音響光学偏向器(AOD)及び第2の制御AODを励
起すること、
(c)前記第1の制御音響光学偏向器(AOD)及び第2の制御AODにレー
ザーを通すこと、
(d)前記トラップされた原子を含む前記閉込め領域と前記離散アジャスタブ
ル音響トーン周波数を相関付けること、並びに
(e)少なくとも1つの相関付けられた音響トーンの少なくとも1つの周波数
をスイープすることにより、前記保持トラップアレイの行の複数の原子の
位置を調整すること、
を含
(2)前記トラップされた原子の少なくともいくつかを光子エネルギーに供して前記トラップされた原子の少なくともいくつかを励起状態に遷移させることにより、前記第1のアレイ状態の複数の原子を第2のアレイ状態の複数の原子に発展させること、及び
(3)前記第2のアレイ状態の複数の原子を観測すること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記複数の原子を発展させることが、前記原子の少なくともいくつかを光子エネルギーにする前に、前記第1のアレイ状態の原子の少なくともいくつかをその基底状態のゼーマン副準位に調製することを含任意に、前記第1のアレイ状態の少なくともいくつかの原子をその基底状態のゼーマン副準位に調製することが、磁界における光ポンピングを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記原子の少なくともいくつかを光子エネルギーにすることが、2つの異なる波長を有する光を適用することを含み、前記2つの異なる波長が約420nm及び約1013nmであり、前記原子の少なくともいくつかを励起状態に遷移させることが、2光子遷移を含む方であって、前記方法は、任意に、第3の波長で位相ゲートを適用することをさらに含み、前記第3の波長が約809nmである、請求項1に記載の方法
【請求項4】
前記原子の少なくともいくつかを光子エネルギーにすることが、2つのπ/2パルスを適用することを含任意に、前記原子の少なくともいくつかを光子エネルギーに供することが、前記2つのπ/2パルス間にπパルスを適用することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
原子アレイをエンコードして量子計算問題を実行すること、
記量子計算問題の解を生成すること及び
記量子計算問題の解を読み取ることをさらに
原子アレイをエンコードして量子計算問題を実行することが、少なくとも1つの相関付けられた音響トーンの少なくとも1つの周波数をスイープすることにより、前記保持トラップアレイの行の複数の原子の位置を調整することを含み、
前記量子計算問題の解を生成することが、前記第1のアレイ状態の複数の原子を第2のアレイ状態の複数の原子に発展させることを含み、
前記量子計算問題の解を読み取ることが、前記第2のアレイ状態の複数の原子を観測することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記量子計算問題が、イジング問題及び最大独立集合(MIS)最適化問題の少なくとも1つを含む、請求項に記載の方法。
【請求項7】
保持トラップアレイに第1のアレイ状態の原子を配置するための閉込めシステム、ここで前記閉込めシステムが
少なくとも3つの閉込め領域を有する保持トラップアレイ、ここで任意に、前記保持トラップアレイが、少なくとも1つの保持音響光学偏向器(AOD)、空間光変調器(SLM)、又は光格子の少なくとも1つにより生成される、
交差関係にある第1の制御音響光学偏向器(AOD)及び第2の制御AOD、
複数の離散アジャスタブル音響トーン周波数を前記第1及び第2のAODに選択的に印加するように構成されかつ少なくとも1つの音響トーンの少なくとも1つの周波数をスイープすることにより、前記保持トラップアレイの行の複数の原子の位置を調整するように構成されたアジャスタブル音響トーン周波数印加源、ここで前記離散アジャスタブル音響トーン周波数が前記原子を含む前記閉込め領域と相関付けられる、並びに
前記第1及び第2のAODに光を通ように配置されたレーザー光源、
を含
原子雲源、ここで前記原子雲が、前記複数の閉込め領域に少なくとも部分的にオーバーラップするように原子雲を位置決めするように構成される
前記第1のアレイ状態の前記トラップアレイ中の複数の原子の少なくともいくつかを第2のアレイ状態の複数の原子に発展させるための励起源、ここで前記励起源が少なくとも1つの光子エネルギー源を含む、
前記第2のアレイ状態の複数の原子を観測するための観測システム、
を含むシステム。
【請求項8】
前記励起源が、前記第1のアレイ状態の複数の原子の少なくともいくつかをリュードベリ状態に励起するように構成される、請求項1に記載の方法又は請求項に記載のシステム。
【請求項9】
前記励起源が、前記原子の少なくともいくつかを光子エネルギーにする前に、前記第1のアレイ状態の複数の原子の少なくともいくつかをその基底状態のゼーマン副準位に励起するように構成され、任意に、前記励起源が、光ポンピングシステムと磁界発生器とをさらに含む、請求項に記載のシステム。
【請求項10】
前記少なくとも1つの光子エネルギー源が、前記第1のアレイ状態の複数の原子の少なくともいくつかの2光子遷移を生成するために、第1の波長及び第2の波長を有する光源を含前記第1の波長が約420nmであり、前記第2の波長が約1013nmであり、任意に、前記少なくとも1つの光子エネルギー源が、位相ゲートを適用するための第3の波長を有する光源を含み、前記第3の波長が約809nmである、請求項に記載のシステム。
【請求項11】
システムが、2つのπ/2パルスを適用するように構成され、任意に、励起システムが、前記2つのπ/2パルス間にπパルスを適用するように構成される、請求項10に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年7月13日出願の「PROBING MANY-BODY DYNAMICS ON A PROGRAMABLE 51-ATOM QUANTUM SIMULATOR」という名称の米国仮特許出願第62/531,993号(その開示はその全体が本出願をもって参照により組み込まれる)に基づく優先権の利益を主張する。本出願はまた、2017年11月22日出願の「RYDBERG QUANTUM OPTIMIZER FOR MAXIMUM INDEPENDENT SET」という名称の米国仮特許出願第62/589,716号(その開示はその全体が本出願をもって参照により組み込まれる)に基づく優先権の利益を主張する。
【0002】
著作権表示
本特許開示は、著作権保護の対象となる資料を含みうる。本著作権所有者は、米国特許商標庁(U.S.Patent and Trademark Office)の特許ファイル又は記録に記される通り誰が本特許文書又は本特許開示の完全な複写を行っても異議はないが、それ以外はあらゆる著作権の権利を留保する。
【0003】
本特許は、量子計算、より特定的には原子アレイの作製及び発展に関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載のシステム及び方法は、原子を1D及び/又は2Dアレイに配置することと、たとえば本明細書に記載のレーザー操作技術及び高忠実度レーザーシステムを用いて、原子をリュードベリ状態に励起して原子アレイを発展させることと、得られた最終状態を観測することと、に関する。そのほか、本明細書に記載のシステム及び方法に対するリファインメント、たとえば、アセンブルされた原子アレイの高忠実度・コヒーレント制御の提供を行うことが可能である。本明細書に記載のシステム及び方法を用いて解決可能な模範的問題を考察する。
【0005】
1つ以上の実施形態では、方法は、第1のアレイ状態の原子アレイを形成することであって、前記形成することが、複数の離散アジャスタブル音響トーン周波数で結晶を励起することと、結晶にレーザーを通して複数の閉込め領域を作成することであって、各音響トーン周波数が単一原子の個別閉込め領域に対応する、作成することと、少なくとも2つの原子を前記複数の閉込め領域の少なくとも2つにトラップすることと、トラップされた原子を含有する閉込め領域を同定するように離散アジャスタブル音響トーン周波数を相関付けることと、少なくとも1つの相関付けられたアジャスタブル音響トーン周波数をスイープすることにより、トラップされた原子の少なくとも2つの間の間隔を調整することと、を含む、形成することと、トラップされた原子の少なくともいくつかを光子エネルギーに暴露してトラップされた原子の少なくともいくつかを励起状態に遷移させることにより、第1のアレイ状態の複数の原子を第2のアレイ状態の複数の原子に発展させることと、第2のアレイ状態の複数の原子を観測することと、を含む。
【0006】
1つ以上の実施形態では、励起状態はリュードベリ状態である。
【0007】
1つ以上の実施形態では、第1のアレイ状態の複数の原子は7~51原子を含む。
【0008】
1つ以上の実施形態では、複数の原子を発展させることは、原子の少なくともいくつかを光子エネルギーに暴露する前に、第1のアレイ状態の原子の少なくともいくつかを基底状態のゼーマン副準位で準備することを含む。
【0009】
1つ以上の実施形態では、第1のアレイ状態の原子を基底状態のゼーマン副準位で準備することは、磁界における光ポンピングを含む。
【0010】
1つ以上の実施形態では、原子の少なくともいくつかを光子エネルギーに暴露することは、2つの異なる波長を有する光を適用することを含み、且つ原子の少なくともいくつかを励起状態に遷移させることは2光子遷移を含む。
【0011】
1つ以上の実施形態では、2つの異なる波長は約420nm及び約1013nmである。
【0012】
1つ以上の実施形態では、本方法は、第3の波長で位相ゲートを適用することをさらに含む。
【0013】
1つ以上の実施形態では、第3の波長は約809nmである。
【0014】
1つ以上の実施形態では、原子の少なくともいくつかを光子エネルギーに暴露することは、2つのπ/2パルスを適用することを含む。
【0015】
1つ以上の実施形態では、原子の少なくともいくつかを光子エネルギーに暴露することは、2つのπ/2パルス間にπパルスを適用することをさらに含む。
【0016】
1つ以上の実施形態では、少なくとも2つの原子をトラップすることは、少なくとも2つの原子を原子雲からトラップすることと、前記複数の閉込め領域の1つにトラップされない原子を原子雲から分散させることと、を含む。
【0017】
1つ以上の実施形態では、結晶及びレーザーは、第1の制御音響光学偏向器(AOD)を含み、且つ少なくとも2つの原子をトラップすることは、2次元に離間した少なくとも3つのトラップを有する保持トラップアレイから原子をトラップすることを含む。
【0018】
1つ以上の実施形態では、保持トラップアレイは、少なくとも1つの保持AOD、空間光変調器(SLM)、及び光格子の少なくとも1つにより発生される。
【0019】
1つ以上の実施形態では、本方法は、第1の制御AODと交差関係で構成された第2の制御AODをさらに含み、且つトラップされた原子を含有する閉込め領域を同定するように離散アジャスタブル音響トーン周波数を相関付けることは、第1の制御AOD及び第2の制御AODの離散アジャスタブル音響トーン周波数に相関付けることを含み、且つトラップされた原子の少なくとも2つの間の間隔を調整することは、第1の制御AOD又は第2の制御AODの少なくとも1つの相関付けられたアジャスタブル音響トーン周波数をスイープすることを含む。
【0020】
1つ以上の実施形態では、トラップされた原子の少なくとも2つの間の間隔を調整することは、行の複数の原子の位置を調整することをさらに含む。
【0021】
1つ以上の実施形態では、本方法は、第1の原子アレイに隣接して第3のアレイ状態の第2の原子アレイを形成することをさらに含み、前記形成することは、複数の第2の離散アジャスタブル音響トーン周波数で第2の結晶を励起することと、第2の結晶に第2のレーザーを通して複数の第2の閉込め領域を作成することであって、各第2の音響トーン周波数が単一原子の個別の第2の閉込め領域に対応する、作成することと、少なくとも2つの第2の原子を前記複数の第2の閉込め領域の少なくとも2つにトラップすることと、トラップされた原子を含有する第2の閉込め領域を同定するように第2の離散アジャスタブル音響トーン周波数を相関付けることと、少なくとも1つの第2の相関付けられたアジャスタブル音響トーン周波数をスイープすることにより、トラップされた第2の原子の少なくとも2つの間の間隔を調整することと、を含み、トラップされた原子の少なくともいくつかを光子エネルギーに暴露してトラップされた原子の少なくともいくつかを励起状態に遷移させることにより、第1のアレイ状態の複数の原子を第2のアレイ状態の複数の原子に発展させることは、第2のトラップされた原子の少なくともいくつかを光子エネルギーに暴露して第2のトラップされた原子の少なくともいくつかを励起状態に遷移させることにより、第3のアレイ状態の複数の第2の原子を第4のアレイ状態の複数の第2の原子に発展させることをさらに含み、且つ第2のアレイ状態の複数の原子を観測することは、第4のアレイ状態の複数の第2の原子を観測することをさらに含む。
【0022】
1つ以上の実施形態では、少なくとも1つの相関付けられたアジャスタブル音響トーン周波数をスイープすることにより、トラップされた原子の少なくとも2つの間の間隔を調整することは、量子計算問題をエンコードすることを含み、第1のアレイ状態の複数の原子を第2のアレイ状態の複数の原子に発展させることは、量子計算問題の解を生成し、且つ第2のアレイ状態の複数の原子を観測することは、量子計算問題の解を読み取ることを含む。
【0023】
1つ以上の実施形態では、量子計算問題は、イジング問題及び最大独立集合(MIS)最適化問題の少なくとも1つを含む。
【0024】
1つ以上の実施形態では、システムは、第1のアレイ状態の原子アレイを配置するための閉込めシステムであって、閉込めシステムが、結晶と、複数の離散アジャスタブル音響トーン周波数を結晶に選択的に印加するように構成されたアジャスタブル音響トーン周波数印加源と、結晶に光を通して複数の閉込め領域を作成するように配置されたレーザー源と、を含み、各音響トーン周波数が個別閉込め領域に対応する、閉込めシステムと、原子雲源であって、原子雲が、複数の閉込め領域に少なくとも部分的にオーバーラップするように位置決め可能である、原子雲源と、第1のアレイ状態の複数の原子の少なくともいくつかを第2のアレイ状態の複数の原子に発展させるための励起源であって、励起源が少なくとも1つの光子エネルギー源を含む、励起源と、第2のアレイ状態の複数の原子を観測するための観測システムと、を含む。
【0025】
1つ以上の実施形態では、励起源は、第1のアレイ状態の複数の原子の少なくともいくつかをリュードベリ状態に励起するように構成される。
【0026】
1つ以上の実施形態では、第1のアレイ状態の複数の原子は5~51原子を含む。
【0027】
1つ以上の実施形態では、励起源は、原子の少なくともいくつかを光子エネルギーに暴露する前に、第1のアレイ状態の複数の原子の少なくともいくつかを基底状態のゼーマン副準位に励起するように構成される。
【0028】
1つ以上の実施形態(請求項0)では、励起源は、光ポンピングシステムと磁界発生器とをさらに含む。
【0029】
1つ以上の実施形態では、少なくとも1つの光子エネルギー源は、第1のアレイ状態の複数の原子の少なくともいくつかの2光子遷移を生成するための第1の波長及び第2の波長を有する光源を含む。
【0030】
1つ以上の実施形態では、2つの異なる波長は約420nm及び約1013nmである。
【0031】
1つ以上の実施形態では、少なくとも1つの光子エネルギー源は、位相ゲートを適用するための第3の波長を有する光源を含む。
【0032】
1つ以上の実施形態では、第3の波長は約809nmである。
【0033】
1つ以上の実施形態では、励起源は、2つのπ/2パルスを適用するように構成される。
【0034】
1つ以上の実施形態では、励起源は、2つのπ/2パルス間にπパルスを適用するように構成される。
【0035】
1つ以上の実施形態では、閉込めシステムは、第1の制御音響光学偏向器(AOD)であり、且つシステムは、2次元に離間した少なくとも3つのトラップを有する保持トラップアレイをさらに含み、保持トラップアレイは、保持トラップ源により発生される。
【0036】
1つ以上の実施形態では、保持トラップ源は、少なくとも1つの保持AOD、空間光変調器(SLM)、及び光格子の少なくとも1つを含む。
【0037】
1つ以上の実施形態では、システムは、第1の制御AODと交差関係の第2の制御AODをさらに含み、第1の制御AODは、光ビームの偏向を第1の方向に制御し、且つ第2の制御AODは、第1のAODからの光ビームの偏向を第1の方向とは異なる第2の方向に制御する。
【0038】
1つ以上の実施形態では、閉込めシステムは第1の制御音響光学偏向器(AOD)であり、且つシステムは、第1の制御AODとスタック関係の第2の制御AODをさらに含み、第1の制御AODは、第1の方向を有する第1のアレイの複数の閉込め領域を生成するように構成され、且つ第2の制御AODは、第1の方向に実質的に平行な第2のアレイの複数の閉込め領域を生成するように構成される。
【0039】
1つ以上の実施形態では、トラップされた原子のアレイを制御するためのシステムは、レーザー出力を生成するためのレーザー源と、レーザー源を制御するレーザー源コントローラーと、レーザー出力の少なくともいくらかを受け取ってレーザー出力を安定化させるためにレーザー源コントローラーにフィードバック信号を提供するレーザー源に光結合されたパウンド・ドレバー・ホール(PDH)ロックと、レーザー源に光結合された参照光学キャビティーであって、参照光学キャビティーが、レーザー出力の少なくともいくらかを受け取って参照光学キャビティー出力を透過するように構成され、参照光学キャビティー出力が、参照光学キャビティー透過ウィンドウの範囲内のレーザー出力の少なくともいくらかの一部に対応する、参照光学キャビティーと、参照光学キャビティーに光結合された光アイソレーターであって、光アイソレーターが、参照光学キャビティー出力をスプリットしてスプリットされた参照光学キャビティー出力の少なくとも一部をファブリー・ペローレーザーダイオードに提供して参照光学キャビティー出力にインジェクションロックするように構成され、光アイソレーターが、インジェクションロックされた光をトラップされた原子の少なくともいくつかに提供する、光アイソレーターと、を含む。
【0040】
1つ以上の実施形態では、PDHは、レーザー出力の少なくともいくらかを受け取ってレーザーコントローラーに光検出器信号を出力する光検出器をさらに含む。
【0041】
1つ以上の実施形態では、システムは、第1のレーザー出力とは異なる波長の第2のレーザー出力を提供するための第2のレーザー源をさらに含む。
【0042】
1つ以上の実施形態では、システムは、第2のレーザー源を制御する第2のレーザー源コントローラーと、第2のレーザー出力の少なくともいくらかを受け取って第2のレーザー出力を安定化させるために第2のレーザー源コントローラーに第2のフィードバック信号を提供する第2のレーザー源に光結合された第2のパウンド・ドレバー・ホール(PDH)ロックと、第2のレーザー源に光結合された第2の参照光学キャビティーであって、第2の参照光学キャビティーが、第2のレーザー出力の少なくともいくらかを受け取って第2の参照光学キャビティー出力を透過するように構成され、第2の参照光学キャビティー出力が、第2の参照光学キャビティー透過ウィンドウの範囲内の第2のレーザー出力の少なくともいくらかの一部に対応する、第2の参照光学キャビティーと、第2の参照光学キャビティーに光結合された第2の光アイソレーターであって、第2の光アイソレーターが、第2の参照光学キャビティー出力をスプリットしてスプリットされた第2の参照光学キャビティー出力の少なくとも一部を第2のファブリー・ペローレーザーダイオードに提供して第2の参照光学キャビティー出力にインジェクションロックするように構成され、第2の光アイソレーターが、第2のインジェクションロックされた光をトラップされた原子の少なくともいくつかに提供する、第2の光アイソレーターと、をさらに含む
【0043】
1つ以上の実施形態では、第2のレーザー源は約1013nmの光を生成する。
【0044】
1つ以上の実施形態では、第2の参照光学キャビティー及び第1の参照光学キャビティーは同一要素である。
【0045】
1つ以上の実施形態では、第1のインジェクションロックされた光及び第2のインジェクションロックされた光は、トラップされた原子の少なくともいくつかに対向伝搬構成で提供される。
【0046】
1つ以上の実施形態では、第1のレーザー源は約420nmの光を生成する。
【0047】
1つ以上の実施形態では、システムは、インジェクションロックされた光をトラップされた原子の少なくともいくつかにフォーカスさせるように構成された、光アイソレーターとトラップされた原子のアレイとの間に光学的に位置決めされた光学素子をさらに含む。
【0048】
1つ以上の実施形態では、システムは、インジェクションロックされた光をアライメントするために、インジェクションロックされた光の少なくとも一部をピックオフするように構成された空間分解イメージングデバイスをさらに含む。
【0049】
開示された主題のこれらの及び他の能力は、以下の図面、詳細な説明、及び特許請求の範囲を精査した後、より十分に理解されよう。本明細書で利用される表現及び用語は、説明を目的としたものであると理解すべきであり、限定するものとみなすべきではない。
【0050】
開示された主題の各種目的、特徴、及び利点は、同様の参照数字により同様の要素が特定される以下の図面と組み合わせて考えれば、開示された主題の以下の詳細な説明を参照することにより、より十分に認識可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1図1A~Fは、いくつかの実施形態にかかる原子アレイを作製するためのシステム及び方法の態様を示す。
図2図2A~Bは、いくつかの実施形態にかかる相図及び結晶相のビルドアップを示す。
図3図3A~Cは、いくつかの実施形態にかかるシミュレーションによる本開示に記載の方法の比較を示す。
図4図4A~Bは、いくつかの実施形態にかかるスケーリング挙動を示す。
図5図5A~Dは、いくつかの実施形態にかかる断熱発展前後の原子アレイ及びそれらの特性を示す。
図6図6A~Dは、いくつかの実施形態にかかる多体動力学の振動のグラフ図を示す。
図7図7A~7Dは、いくつかの実施形態にかかる単一原子配置及び操作のためのシステム及びその制御を特徴付けるグラフを示す。
図8図8A~8Cは、いくつかの実施形態にかかる単一原子コヒーレンス及び位相制御を特徴付けるグラフを示す。
図9図9A~9Cは、2原子によるエンタングルメント発生を特徴付けるグラフを示す。
図10図10は、ある実施形態にかかる動的デカップリングを介するエンタングル状態寿命の延長を表すグラフを示す。
図11図11A~11Bは、いくつかの実施形態にかかる独立集合の例を最大独立集合を含めて示す。
図12図12は、ある実施形態にかかるユニットディスクグラフの例を示す。
図13図13A~Bは、いくつかの実施形態にかかる最大独立集合を表すユニットディスクグラフの例、独立集合を見いだす確率分布を示す。
図14図14は、ある実施形態にかかる原子の2次元秩序化のためのシステムを示す。
図15図15A~15Hは、いくつかの実施形態にかかる原子の2次元秩序化のための方法を示す。
図16図16は、ある実施形態にかかる原子の2次元秩序化のためのシステムを示す。
図17図17A~17Eは、いくつかの実施形態にかかる原子の2次元秩序化のための方法を示す。
図18図18A~18Hは、いくつかの実施形態にかかる原子の2次元秩序化のための方法を示す。
図19図19A~19Bは、ある実施形態にかかる原子の2次元秩序化のためのシステムを示す。
図20図20A~20Cは、いくつかの実施形態にかかる原子の2次元秩序化のための方法を示す。
図21図21A~21Bは、いくつかの実施形態にかかる原子の2次元秩序化のための方法を示す。
図22図22A~22Pは、いくつかの実施形態にかかる原子の2次元秩序化のためのシステムを示す。
図23図23は、ある実施形態にかかる原子の2次元秩序化のためのシステムを示す。
図24図24A~24Eは、いくつかの実施形態にかかる原子の2次元秩序化のための方法を示す。
図25図25A~25Hは、いくつかの実施形態にかかる原子の2次元秩序化のための方法を示す。
図26図26は、ある実施形態にかかるSLMにより発生されたトラップアレイの画像を示す。
図27図27は、ある実施形態にかかる空間位相パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
量子シミュレーターとして、十分に制御されたコヒーレント多体量子システムは、強相関量子システム及び量子エンタングルメントの役割に関するユニークな知見を提供可能であるとともに、平衡から外れていても新しい物質状態の実現及び研究を可能にする。こうしたシステムはまた、量子情報プロセッサーの実現の根底をなす。かかるプロセッサーの基本ビルディングブロックは少数の結合キュービットのシステムで実証されているが、現代の古典的マシンの範囲を超えた課題を実施するためにコヒーレント結合キュービットの数を増加させることは、厄介な問題である。そのうえさらに、現在のシステムは、量子動力学を十分に達成するためのコヒーレンス及び/又は量子非線形性が欠如している。
【0053】
中性原子は、大規模量子システムのビルディングブロックとしての役割を果たすことが可能である。それは環境から十分に孤立させることが可能であり、長寿命量子メモリーを可能にする。その内部状態及び運動状態の初期化、制御、及び読取りは、過去40年にわたり開発された共鳴法により達成される。多数の同一原子のアレイは、単一原子光学制御を維持しつつ迅速にアセンブル可能である。こうしたボトムアップアプローチは、蒸発冷却を介して作製された超冷原子がロードされた光格子に含む方法に相補的であり、一般的には数マイクロメートルの原子分離をもたらす。こうしたアレイを量子シミュレーション及び量子情報処理に利用するために、制御可能な原子間相互作用を導入可能である。これは強い長距離相互作用を呈する高励起リュードベリ状態へのコヒーレント結合により達成可能である。このアプローチは、高速マルチキュービット量子ゲート、250スピンまでのイジング型スピンモデルの量子シミュレーション、及びメゾスコピックアンサンブルの集団挙動の研究をはじめとする多くの用途で強力なプラットフォームを提供する。かかるリュードベリ励起に関連する短いコヒーレンス時間及び比較的低いゲート忠実度は、厄介な問題である。この不完全なコヒーレンスは、量子シミュレーションの質を制限する可能性があり、中性原子量子情報処理の見通しを悪くする可能性がある。制限されたコヒーレンスは、単一孤立原子キュービットのレベルでさえも顕在化する。
【0054】
本開示は、量子計算に関する実施形態を記述する。いくつかの実施形態によれば、量子計算のための方法及びシステムは、最初に個別原子をトラップすることと、たとえば開示された音響光学偏向器システム及び技術を用いてそれを複数の原子の特定の幾何学構成で配置することと、を含む。個別原子の精密な配置を可能にするシステム及び方法は、量子計算問題のエンコードを支援する。次いで、配置された原子の1つ以上をリュードベリ状態に励起しうる。これにより以下に記載のようにアレイ中の特定の原子間相互作用が生成される。次いで、システムを発展させうる。最後に、エンコードされた問題の解を観測するために原子状態を読み取りうる。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載のシステム及び方法は、(1)原子を1D及び/又は2Dアレイに配置することと(セクション1を参照されたい)、(2)たとえば本明細書に記載のレーザー操作技術及び高忠実度レーザーシステムを用いて、原子をリュードベリ状態に励起して原子アレイを発展させることと(セクション2を参照されたい)、(3)得られた最終状態を観測することと(セクション3を参照されたい)、に関する。そのほか、本明細書に記載のシステム及び方法に対する追加のリファインメント、たとえば、アセンブルされた原子アレイの高忠実度・コヒーレント制御の提供は、セクション4に記載されている。さらに、セクション5では、本明細書に記載のシステム及び方法を用いて解決可能な模範的問題が考察される。
【0055】
セクション1:原子を1D及び/又は2Dアレイに配置する
いくつかの実施形態によれば、中性原子の状態及び位置は、原子をアレイに配置して量子計算により解決可能な問題をエンコードするために、真空中でフォーカスレーザーを用いて厳密に制御しうる。本開示に記載のそのシステム及び方法は、既報のものよりも多数の原子の制御を提供し、かかる量子システムにより解決可能な問題のセットを大幅に拡張する。こうした原子は、たとえば音響励起結晶及びレーザーを用いて1D又は2Dアレイで準備しうる。本開示に記載のシステム及び方法は、こうした1D又は2Dアレイの個別原子の位置の微細制御を可能にする。
【0056】
初期原子状態は、本開示に記載の技術に従って準備可能であり、次いで、システムは、断熱発展により解を生成可能である。したがって、所与の初期パラメーターに対して最小エネルギー状態でシステムを準備しうるとともに、次いで、それをその最終値まで十分にゆっくり発展させてシステムを即時的最小エネルギー状態で残留させる。そのうえさらに、図7~10との関連で記載されるようないくつかの実施形態によれば、1D又は2Dアレイに配置した後、特定のレーザー制御技術により個別原子の高忠実度・コヒーレント制御が可能である。かかる技術は、量子力学システムに対するより強力な制御を可能にするので、エンコードされた問題に対するより正確な解を生成する。
【0057】
セクション1.A:原子を1Dアレイに配置するための音響光学偏向器
ある実施形態によれば、位置決めシステム及び方法は、初期問題をエンコードするために多数の原子たとえば51原子以上の準備を行う。レーザーは、適用されたトーン周波数に対応するレーザー経路の離散偏向を行うように1つ以上の離散音響トーン(結晶を振動させるトーン周波数)で制御しうる結晶に通しうる。偏向数は、結晶に提供されるトーン周波数の数により制御しうる。トーン周波数は、たとえば75MHz~125MHzの間で選択されるVHFバンドの電子高周波信号である。トーン周波数は、周波数の狭い音響波を含みうる。複数のトーン周波数をオーバーレイして複数のトーンを含む信号を生成しうる。次いで、こうしたトーン周波数を結晶に適用して結晶の圧縮又は振動を引き起こしうる。いくつかの実施形態によれば、こうしたトーン周波数は、たとえば結晶に結合しうる1つ以上の圧電トランスデューサーを用いて結晶に提供しうる。いくつかの実施形態によれば、トーン周波数は、結晶の音響的及び/又は他の性質に基づいて選択しうる。そのうえさらに、各個別トーン周波数を調整することにより各離散偏向に対して偏向量を調整しうるとともに、それにより各偏向光ビーム間に制御可能な間隔を作成しうる。トーン周波数は、たとえばコンピューターコントローラーにより生成されたディジタル波形からソフトウェア定義無線(SDR)によりアナログ信号に変換しうるか、又はすべての所望のトーン周波数の重畳を時間ドメイン内に合成する任意の波形発生器を実現しうる。周波数は、コンピューターコントローラーにより出力されたディジタル波形を更新することにより調整しうる。
【0058】
使用されるトーン周波数は、いくつかの因子、たとえば、限定されるものではないが所望の偏向数、使用される特定の結晶、結晶に適用される光の波長、及び閉込め領域/トラップの所望の間隔に依存する。結晶に適用される音響波の周波数範囲は、結晶材料中の音のスピードに基づく限界を有しうるが、たとえば、50~500MHzでありうる。いくつかの実施形態によれば、約75~125MHZの範囲内の離散周波数のセットを使用しうる。いくつかの実施形態によれば、個別トーン周波数を約0.5MHz離間させることにより100トラップを発生しうる。いくつかの実施形態によれば、個別トーン周波数をトラップ間隔に調整する場合、適用される音響周波数の関数としての角度は、約.1~10mrad/MHz程度でありうる。1つの模範的値は約1.2mrad/MHzでありうる。しかしながら、この値は単に模範的なものであり、使用される特定の結晶及び光学素子に基づいて劇的に変化する。
【0059】
結晶からの出力レーザーアレイビームは冷却原子雲中にフォーカスしうる。原子は、追加の対向伝搬レーザービームの放射圧により冷却しうる。この場合、磁気四重極場により空間依存放射圧を誘起して全方向の原子運動に対抗するとともに四重極場の中心への復元力を生成する。出力レーザーアレイは、各レーザーアレイビームが単一原子のみをトラップしうるようにフォーカスしうる。次いで、雲を分散させてトラップされた原子のみを残すようにしうる。次いで、たとえば原子による光散乱に基づいて、トラップされた原子の画像を撮影しうる。次いで、測定・フィードバック手順では、たとえば、トラップにロードされた原子の多くの画像を1回平均することにより、トラップされた原子と、結晶に提供されたトーン周波数のそれぞれと、を相関付けうる。確定された位置を記録して個別トーン周波数に割り当てうる。トラップへの原子のローディングに続き、画像を撮影して原子蛍光が不在のトラップ位置を位置決めした後、次いで、関連するトラップされた原子を有していないトーン周波数をオフにしうる。次いで、残りのトラップされた原子を位置決めするために、各トーン周波数を調整することにより残りのトーン周波数の各々(たとえば、オフにならなかったもの)をスイープしうる。そのため、いくつかの実施形態によれば、各閉込め領域が原子をトラップしなかったとしても、閉込め領域を再位置決めして所望のアレイ間隔を形成するようにシステムを調整しうる。かかる技術及びシステムは、アレイに確実にトラップしうる原子数をたとえば51原子以上に有意に向上させうるとともに、離間原子の正確な制御を可能にする。原子をアレイに配置した後、以下でより詳細に考察されるようにシステムの励起及び発展を行って得られた変化を観測し、エンコードされた問題の解を読み取りうる。
【0060】
図1C~1Eは、ある実施形態にかかる原子アレイの配置及び発展のための実験プロトコル及び構成を示す。図1Eは、いくつかの実施形態にかかる原子アレイの配置及び制御のためのシステムの模式図を示す。図1Eに示されるように、システムは、結晶102と、ピンセットレーザー源106と、音響トーン発生器104と、操作レーザー源108A、108Bと、を含みうる。音響トーン発生器は、結晶102に適用される1つ以上(n)のトーン周波数を生成する。ピンセットレーザー源106は結晶102に光を供給し、次いで、この光はn個の個別ピンセットビームに偏向され、各々1つ以上のトーン周波数の1つに関連付けられてピンセットアレイ107を形成する。各個別トーン周波数の周波数は、それぞれのピンセットビームの偏向を決定する。ピンセットビームは、原子190をトラップするために使用しうる。個別トーン周波数は、原子190の間隔を調整するために周波数調整しうる。次いで、システムを発展させるために、操作レーザー源108A及び108Bにより原子190を操作しうる。
【0061】
最初に、図1Dに示されるように、工程110では、たとえば結晶102と音響トーン発生器104とを含む音響光学偏向器(AOD)により作成されたピンセットアレイ107に磁気光学トラップ(図示せず)から原子をロードする。たとえば、以上で考察したように、磁気光学トラップなどに原子雲を準備しうる。AODは、音響トーン発生器104により複数のトーン周波数を結晶102に提供して1Dピンセットアレイ107を作成しうる。各レーザーピンセットは、結晶に適用される1つの離散トーン周波数に関連付けられる。次いで、結晶102に適用されるトーン周波数に関連付けられたピンセットで個別原子190をトラップするために、原子をピンセットアレイ107に運びうる(又は逆)。図1Cに示されるように、ロードされた原子の間隔は、少なくとも2つの理由で任意でありうる。第1に、雲から原子をトラップするようにすべてのトーン周波数が保証されるとは限らない。そのため、ある特定のトーン周波数は原子に関連付けられないこともありうる。第2に、トーン周波数は、原子をトラップするために特定的に秩序化された状態で準備する必要はない。そのため、原子190は、ローディングのプロセス前及びプロセス時に任意の周波数(ひいては任意の相対間隔)で離間されうる。AODピンセットで原子をトラップした後、原子雲を分散させうる。以上で考察された測定・フィードバック手順は、確率的トラップローディングに伴うエントロピーを排除するために使用しうるとともに、50超のレーザー冷却原子を有する欠陥フリーのアレイの迅速生成をもたらす。
【0062】
次いで、工程120では、トラップされた原子190は、あらかじめプログラムされた空間配置で明確な内部基底状態gで準備しうる。以上で考察したように、アレイ190の各原子は、結晶102に適用されたトーン周波数の1つに関連付けうるが、得られたトラップのすべてをトラップされた原子により占有しうるとは限らない。トラップされた原子のイメージングを行いうるとともに、原子の位置をトーン周波数に関連付けうる。占有トーン周波数は、記録して維持しうるのに対して、非占有トーン周波数は、結晶102に適用された音響トーン発生器104からの音響信号からカットしうる。次いで、たとえば、図1Cに配置された行に示されるパターンで原子190を再構成するように、占有トーン周波数を調整しうる。ピンセットアレイ107(ひいては各ピンセット)中の各偏向レーザービームの相対間隔は、その偏向を引き起こす特定のトーンに依存するので、ピンセットアレイ107中のピンセットの相対間隔は、音響トーン発生器104により供給される個別トーン周波数を調整することにより調整しうる。そのため、各トラップされた原子190は、その関連するトーン周波数を調整することにより1Dで再位置決めしうる。図1Cに示されるように、ロード位置で任意間隔の原子は、この技術を用いて等間隔の7原子群などの特定のパターンで配置可能である。
【0063】
次いで、工程114では、たとえばピンセットレーザー源106を遮断することにより光学トラップ又はピンセットをオフにして、ユニタリー発展U(t)に及ぼすトラップ能の有害作用を回避しつつ原子運動を無視するのに十分な程度に短い時間でユニタリー時間発展U(Ω、Δ、t)下でシステムを発展させうる。発展U(t)は、図1A及び工程116に示されるように、アレイ軸に沿ったレーザー光を用いて原子をリュードベリ状態|r> =|70S1/2>にカップリングさせることにより実現しうる。図1Eに示されるように、1つ以上の操作レーザー108A、108Bからのレーザー光を発展時に原子アレイ190に適用しうる。これは関数U(t)の適用として図1Cに示される。各種制御技術は、たとえば以下の図7~10を参照して本開示全体を通じて考察される。個別原子の最終状態は、トラップを元に戻して、アンチトラップリュードベリ原子を排出しつつ、カメラを用いて原子蛍光を介してリキャプチャーされた基底状態原子のイメージングを行うことにより、工程118で検出される。これは図1Cの検出ラインに示される。ここで、点は、存在する基底状態原子に関連付けられた原子蛍光を表し、円は、リュードベリ励起に基づいて原子が失われたサイトを印す。
【0064】
セクション1.B:より複雑な問題をエンコードするための原子の2次元秩序化
いくつかの実施形態によれば、本開示に記載の技術は、2Dジオメトリーで配置された数百の個別原子のアレイを準備するために適用及び適合化が可能である。原子の2Dアレイを用いれば、1Dアレイよりも広範にわたる問題を解決可能である。本開示に記載の技術及びシステムのいくつかは1Dアレイを参照するが、それらは以下に記載の2Dアレイシステム及び方法を用いて2Dアレイに応用可能である。リュードベリ状態及び以下に記載の他の量子状態への原子の制御及び操作のためのレーザー制御システム及び方法と組み合わせれば、実世界の問題、たとえば、限定されるものではないが本開示に記載の最大独立集合最適化問題を解決するために量子最適化アルゴリズムを実現可能である。
【0065】
いくつかの実施形態によれば、本開示に記載のシステム及び方法は、2Dで多数のトラップの作成を行う。これらのトラップに原子をロードした場合、それらは約0.5の有限確率で各トラップにロードされる。次いで、それらの位置を特定した後、1Dで実施される手順により原子をソート可能である。いくつかのそのほかの実施形態によれば、このソーティング(又は「再構成」)手順は、2Dトラップアレイに応用可能である。
【0066】
交差AOD:いくつかの実施形態によれば、音響光学偏向器(AOD)を用いて一方向のシングルビームの複数のコピーを作成して1Dパターンを発生しうる(AODの操作の説明については以上を参照されたい)。次いで、第2のAODを用いて異なる(たとえば垂直)方向の1次元システムのコピーを作成して2Dパターンを発生可能である。他の配向が企図される。次いで、このパターンに原子をロードして、最大数の空トラップを含有する行又は列に対応するAODのどれかの周波数を逐次的にオフになることにより欠陥を除去しうる。次いで、両方のAODの周波数を変更して、十分にロードされたパターンをターゲット2Dアレイに再造形しうる。
【0067】
図14に示されるように、いくつかの実施形態によれば、2つのAOD1410及び1420を互いに近くに配置して使用することにより2Dトラップセットを発生しうる。各AOD1410及び1420は、適用された特定のトーン周波数に従って入射光1440をスプリットするために、それぞれRF信号1450A及び1450Bにより駆動される音響ドライバーを有しうる。AOD1410からの1D光アレイ出力はAOD1420に入射することになるので、AOD1420は、1Dアレイの各ビームを他の方向の追加のビームにさらにスプリットしうる。図14に示されるように、AOD1410及び1420は、互いにたとえば90度の相対角度で保持しうる。2つのAOD1410及び1420の相対角度は、2Dトラップパターンの「行」及び「列」の相対配向を決定する。たとえば、互いに垂直な2つのAOD1410及び1420は、正方形パターン1430を作成可能である。60度の相対角度を有する2つのAODは、三角形パターンを作成可能である(図示せず)。かかる手順は、すべての「行」が互いに同一である且つすべての「列」が互いに同一であるいずれかのジオメトリーを作成可能である。この技術を用いて発生されたトラップセットに原子をロードしうる。残りのトラップが所望のパターンで原子を含有することを保証するために、個別の「行」(AOD1)及び「列」(AOD2)に関連付けられる周波数をオフにしうる。AODの各々の周波数のセットは、「列」間及び「行」間の任意の距離の最終構成に原子を移動させるように変更可能である。
【0068】
図15A~15Dは、いくつかの実施形態にかかる図14に示されるシステムを用いて2Dアレイで複数の原子をトラップするための手順を示す。特定的には、図15A~15Dは、原子がすべて充填された3×3トラップアレイを作成する手順を示す。類似の技術を用いてどこかのいくつかのスペースが空のまま残る場合などの他の構成を作成しうることを認識すべきである。図15Aは、6行6列を有する正方形トラップ構成1510aを生成する直角のAOD1410及び1420の出力を示す。トラップの位置は、正方形パターン1510の直線1520の交差により表され、且つ原子は、黒丸1530により表される。図15Bは、3つのトラップされた原子を各々有する残りの行及び列を残しつつ除去しうる「X」で印された行及び列1540を有するアレイ1510Bを示す。図15Cは、AOD1410及び1420の1つに適用される関連するトーン周波数を取り除くことにより本明細書に記載されるように取り除きうる行及び列1540を含まないアレイ1510Cを示す。残りの行及び列の周波数は、方向1550に運動を引き起こして図15Dに示される等間隔の3×3原子アレイ1510Dを作成するように調整しうる。大きなアレイにスケールアップしうること及びライン(すなわちトラップ)のすべての交差が充填されるとは限らない構成を作成するためにこれら技術を使用しうることを認識すべきである。いくつかの実施形態によれば、交点の厳密に1つの原子の位置を制御するように行及び列をペアにする。原子は、関連する行/列の周波数を調整することにより所望のパターンで配置しうる。
【0069】
図15Eは、ランダムにロードされた8×8アレイの例を示す。原子蛍光は、存在する原子の位置から推測可能な下側のパターンでダークスポットとして示される。図15F~15Hは、トラップされた原子の蛍光がダーク領域により示されるランダムにロードされた2×40アレイを示す。図15Gの×印は、オフになったすべての「列」を表す。図15Hの最終蛍光画像は、2×18で十分にロードされたアレイに再構成した後のその新たな位置でダーク領域として原子を示す。
【0070】
2つの交差AODペアによる行単位の再構成:いくつかの実施形態によれば、以上に記載の2つのAODペアセットは、2Dアレイにロードする2次元ピンセットアレイを発生するために使用可能である。図16に示されるように、2つのAODペア1600A及び1600Bを使用可能である。AODペア1600Aは、2Dトラップセット1630Aの発生に使用される互いに近いAOD1610A及び1620Aを含みうる。2つのAOD1610A及び1620Aの相対角度は、以上で考察したように2Dトラップパターン1630の「行」及び「列」の相対配向を決定する。原子は、AOD1410及び1420を参照して以上で考察したように、このようにして発生されたトラップセットにロードしうる。他のAODペア1600B(ペア2)は、AOD1610B、1620Bを用いて異なるトラップセット1630Bの発生に使用される。これらのトラップは、ペア1により発生されたトラップとオーバーラップ可能である。これは、たとえば、限定されるものではないが半反射表面(たとえば非偏光ビームスプリッター)、一光偏光を透過する且つ垂直光偏光を反射する表面(たとえば偏光ビームスプリッター)、いくつかの波長の光を透過する且つ他の波長を反射する光学エレメント(たとえばダイクロイック)などの光学エレメント1660を用いることにより、又は両方のトラップセットを異なる方向から入射させてそれらの焦点で交わるようにすることにより、達成可能である。再構成に使用されるトラップセット(ペア2)は、たとえば、より多くの光パワー/ビームを有することにより、原子共鳴により近い波長を有することにより、又はより小さな焦点を有することにより(広範なリストではないが、これらの組合せ効果を使用可能である)、ローディングに使用されるトラップセット(ペア1)よりも強い閉込めを作成するように調整可能である。図17Aは、AODペア1600Aにより形成されたトラップアレイを示す。ここで、トラップはライン交差であり、且つ点はトラップされた原子を意味する。AODペア1600Aにより発生されたトラップの「行」又は「列」の上にAODペア1600Bにより発生された一連のトラップをオーバーラップさせることにより(図17Bの円)、その「行」又は「列」内のすべての原子をAODペア1600Bにより発生されたトラップにより主に制御できるようにしうる。そのほか、いくつかの実施形態によれば、AODペア1600Bのトラップを「行」又は「列」でオーバーラップさせた後、AODペア1600Aのその特定の「行」又は「列」をオフにすることが可能である。この時点で、1Dの場合に記載した手順を用いて、AODペア1600Bにより発生されたトラップを再構成可能である(図17C参照)。再構成後、オフになっているAODペア1600Aの特定の「行」又は「列」であれば、AODペア1600Aの行1を元に戻すことが可能である。この時点で、AODペア1600Bにより発生されたトラップをオフにすることにより、AODペア1600Aにより発生された基礎トラップにより原子をその新たな位置に保持可能になる(図17D参照)。この時点で、AODペア1600BのAODに関連付けられた周波数を変化させることにより、AODペア1600Aにより発生されたトラップの異なる「行」又は「列」に対してこの手順を繰り返すことが可能であり、それにより、新たなトラップセットをAODペア1600Bにより発生可能であり、AODペア1600Bにより発生されたトラップの新たなターゲットの「行」又は「列」にオーバーラップされる。図17Eは、この手順を用いてすべての行を左側にシフトした後のアレイを示す。AODペア1600Bによる操作が1Dでのみ必要とされる場合、AODペア1600Bを単一AODにより置き換えうることを認識すべきである。このAOD(又はAODペア)は、「制御AOD」ということがあり、一方、トラップを維持するために使用されるAODペア1600Aは、「保持AOD」ということがある。ある実施形態によれば、保持AODは、保持AODに基づく分解能でいずれかの所望のパターンを作成するために、制御AODの制御により充填されるピクセルセットとして処理しうる。いくつかの実施形態によれば、トラップされた原子は、すべての行又は列に対応するとは限らない制御AODの他の構成に基づいて移動される(たとえば、各エッジに原子を有する正方形)。
【0071】
図18A~18Hに関連して類似の手順が示されるが、ただし、制御AODにより単一原子の移動を行う。図18Aに示されるように、保持AODは、それにトラップされた初期原子セットを有する。図18Bに示されるように、制御AODにより個別原子が選択される(円で示される)。図18Cは、個別原子を制御AODにより移動させてから図18Dで制御AODをオフにすることにより解放することを示す。図18Eでは、他の原子を選択し、図18Fで移動させ、次いで、図18Gで解放する。図18Hは、配置後の保持AODにトラップされたアレイを示す。得られた原子アレイは、より高い収率を有しうる。
【0072】
いくつかの実施形態によれば、保持AODの行又は列をオフにすることなく、以上に記載の方法を行いうる。その代わりに、保持AODよりも深い(強い)トラップを有する制御AODを形成しうる。そのため、保持AODトラップにオーバーラップする制御AODトラップを移動させるとき、原子は、あたかもそれが保持AODによりトラップされないかのように制御AODのより深いトラップに従うであろう。しかしながら、他の保持AODトラップに移動させた後に制御AODトラップをシャットダウンすれば、原子は保持AODによりトラップされた状態で残るであろう。
【0073】
スタックAOD:いくつかの実施形態によれば、複数(N)のAODを互いに重ねてスタックしうる。複数のAODを平行に使用して、原子のトラップ及び再構成を行う非依存1Dトラップセットを発生可能である。図19A及び19Bは、異なる1Dトラップセットを2Dパターンで組み合わせる模範的システムを示す。図19Aに示されるように、頂角から見た5AODセット1910は、多面反射表面1920に光アレイを送るようにアライメントされる。次いで、光は、多面反射表面1920で反射されてレンズ1930に至り、光ビームがフォーカスされる。図19Bは、側面図で同一エレメントを示す。多面反射表面1920は、たとえば、研磨反射基材、いくつかの反射表面の組合せ、反射材料内に被覆された非反射基材を有する前二者、デフォーマブルミラー、又はミラーアレイでありうる(リストは広範ではない)。AOD1910からの各1Dトラップセットは、多面反射表面1920により再方向付け可能である。制御可能な屈折率を有する透過多面表面、たとえば、可変の密度若しくは幅の誘電体、又は孔を有する若しくは識別可能な屈折率の交互セクションを有するパターン化誘電体、又は他の好適な表面も使用しうる。かかる構造を用いて、明確に規定された体積内でオーバーラップするマルチビームの波面に等価な波面を作成可能である。レンズ1930を用いてすべてのビームを所望の平面上にフォーカスしうる。各々非依存1Dトラップパターンを作成するN個の非依存AOD1910を用いて、かかるトラップに原子をロードし、所望の方法で各非依存1Dトラップセットを再構成して所望のパターンで原子を位置決めすることが可能である。すべての1Dトラップセットの再構成を同時に又はいずれかの所望の順序で行うことが可能である。
【0074】
図20A~20Cは、いくつかの実施形態にかかる図19A~19Bのシステムの操作方法を示す。図19Aに示されるように、6×6トラップアレイが生成される。N行は、1DのAOD2010A~2010N(この場合6)に対応する。AOD2010A~2010Nの非依存1Dトラップセットは、直線により接続された小さな白丸により表され、原子は黒丸により表される。図19Bに示されるように、正方形6×6トラップアレイはランダムにロードされる。図19Cに示されるように、トラップは、すべての原子を各1Dトラップセットの左側に集めるように再構成される。再構成は、AOD2010A~2010Nの各々のトラップに関連付けられたトーン周波数を調整することにより行いうる。これらの個別AODアレイを以上に記載したように制御及び/又は保持AODとして実現しうることを認識すべきである。
【0075】
SLMによるトラップ発生及び交差AODによる再構成:いくつかの実施形態によれば、空間光変調器(SLM)を用いて2Dトラップアレイを発生しうる。保持トラップアレイとして以上に記載の保持AODの代わりに使用しうる光強度の任意の空間パターンを発生するように、SLMを用いて光ビームの波面を調整可能である。透過光又は反射光の場のローカル強度(例:ディジタルマイクロミラーデバイスDMD)、位相(液晶オンシリコンLCOS)、又はその両方に作用してプログラマブルにその波面を変化させるさまざまなタイプのSLMが存在する。かかるデバイスを用いて、任意のジオメトリーを有する2Dトラップパターンは発生可能であり、且つこのようにして発生されたトラップセットに以上で考察した1つ又は複数の制御AODを介して原子をロード可能である。図21Aは、反射SLM2110Aを保持SLMとして使用する且つアレイ2130A中の原子位置を操作するためにAODペア2120Aを使用する実施形態を示す。図22Bは、透過SLM2110Bを保持SLMとして使用する且つアレイ2130B中の原子の位置を操作するためにAODペア2120Bを使用する実施形態を示す。いくつかの実施形態によれば、AODペア2120A又は2120Bを用いて、原子がロードされるさまざまなトラップセットを発生可能である。図22A及び22Bに示されるトラップ2130A又は2130Bは、SLMにより発生されたトラップとオーバーラップ可能である。これは、たとえば、半反射表面(例:非偏光ビームスプリッター)、一光偏光を透過する且つ垂直光偏光を反射する表面(例:偏光ビームスプリッター)、いくつかの波長の光を透過する且つ他の波長を反射する光学エレメント(例:ダイクロイック)などの光学エレメント2140により、又は両方のトラップセットを異なる方向から入射させてそれらの焦点で交わるようにすることにより、達成可能である。AOD2120A又は2120Bにより発生された再構成に使用されるトラップセットは、たとえば、より多くの光パワー/ビームを有することにより、原子共鳴により近い波長を有することにより、及び/又はより小さな焦点を有することにより(広範なリストではないが、これらの組合せ効果を使用可能である)、ローディングに使用されるSLM2110A又は2110Bにより発生されるものよりも強い閉込めを作成するように調整可能である。AODペア2120A又は2120Bにより発生された一連のトラップをSLM2110A又は2110Bにより発生されたトラップのサブセットの上にオーバーラップさせることにより、そのサブセット内のすべての原子をAODペアにより発生されたトラップにより主に制御できるようにしうる。そのため、AODペア2120A又は2120Bにより発生されたトラップを2Dトラップ平面内で再構成して、SLM2110A又は2110Bにより発生された他のトラップに同時に又は逐次的にオーバーラップ可能である。SLM2110A又は2110Bにより発生された他のトラップにオーバーラップさせつつAODペア2120A又は2120Bにより発生された特定のトラップをオフにすることにより、SLM2110A又は2110Bにより発生された基礎トラップによりその新たな位置に原子を保持できるようにしうる。図17A~18D又は18A~18Hに示されるものをミミックするこの手順は、SLM2110A又は2110Bのトラップ間隔が規則的であれば、AODペアに関連付けられた周波数を変化させることにより、SLM2110A又は2110Bにより発生されたトラップの異なるサブセットに対して繰り返すことが可能であり、それにより、新たなトラップセットをAODペア2120A又は2120Bにより発生可能であり、SLM2110A又は2110Bにより発生されたトラップの新たなターゲットサブセットにオーバーラップされる。
【0076】
いくつかの実施形態によれば、SLM2110A又は2110Bのトラップ位置は、個別の任意の及び規則的な位置を含む。図22Aは、SLM2110A又は2110Bの任意の部分により発生されたパターンを示す。これはトップの近くの小さな白丸により表される。そのうえさらに、SLM2110A又は2110Bの規則的部分にトラップされた原子アレイが下に示される(2つの間の距離は原寸通りのこともあればそうでないこともある)。規則的アレイのトラップ位置は直線の交差により表され、且つ原子は黒丸により表される。いくつかの実施形態によれば、制御AODは、図22A~22Dに示されるように任意のアレイの原子を再位置決めするために及び図22E~22Pに示されるように規則的アレイの原子を選んでそれを任意のアレイに移動させ再位置決めに供するために使用しうる(大きな白丸として示される)。図22E~22F及び22L~22Mに示されるように、不規則部分の配置のために規則的部分から複数の原子を同時に移動させうることに留意されたい。図22F及び22M~Nに示されるように、不規則部分に移動させた後、最初に制御原子間の水平間隔を調整しうる。図26は、反射LCOS-SLMにより発生された30×50規則的トラップアレイの模範的例を示す。対応する位相パターンは、LCOS-SLMにより反射光ビームの波面にインプリントされる。図27は、単一入力ビームを30×50トラップアレイに変換するためにレーザー光の場に加えられた対応する空間位相パターンを示す。
【0077】
光格子を発生させてその範囲内で原子を再構成するためにトラップを使用する:いくつかの実施形態によれば、大きな格子間隔の光格子を用いることにより2Dトラップアレイを代替的に発生しうる。2つの光源の干渉により光強度のパターンを作成して冷中性原子をトラップ可能であり、これは光格子と呼ばれる。こうしたトラップは、保持AODの代わりに保持トラップアレイとして機能しうる。そのため、光格子は、トラップされた原子を保持するために、及び以上で考察した制御AODなどと組み合わせてたとえば、図17A~17E(同様に図24A~24Eに示される)及び18A~18H(同様に図25A~25Hに示される)に関連して記載された方法及びシステムを用いて、光格子内で原子を再構成するために、使用可能である。図23に示されるように、光源2320は、保持トラップアレイを形成する干渉形態2330を作成しうる。AOD2310A、2310Bは、干渉形態2330にトラップされた原子を操作するために使用しうる。AODペアは、トラップセットを発生するために使用される。こうしたトラップは、光格子のトラップ領域にオーバーラップ可能である。これは、たとえば、半反射表面(例:非偏光ビームスプリッター)、一光偏光を透過する且つ垂直光偏光を反射する表面(例:偏光ビームスプリッター)、いくつかの波長の光を透過する且つ他の波長を反射する光学エレメント(例:ダイクロイック)を用いることにより、又は両方のトラップセットを異なる方向から入射させてそれらの焦点で交わるようにすることにより、達成可能である。再構成に使用されるトラップセットは、たとえば、より多くの光パワー/ビームを有することにより、原子共鳴により近い波長を有することにより、又はより小さな焦点を有することにより(広範なリストではないが、これらの組合せ効果を使用可能である)、ローディングに使用される光格子により提供されるものよりも強い閉込めを作成するように調整可能である。光格子の「行」又は「列」の上にAODペアにより発生された一連のトラップをオーバーラップさせることにより、その「行」又は「列」内のすべての原子をAODペアにより発生されたトラップにより主に制御できるようにしうる。1Dの場合に記載した手順を用いて、AODペアにより発生されたトラップを再構成可能である。AODペアにより発生されたトラップをオフにすることにより、その新たな位置に基礎光格子により原子を保持できるようにしうる。AODに関連付けられた周波数を変化させることにより、光格子の異なる「行」又は「列」に対してこの手順を繰り返すことが可能であり、それにより、新たなトラップセットをAODペアにより発生可能であり、光格子の新たなターゲットの「行」又は「列」にオーバーラップされる。
【0078】
セクション2.励起及び発展
ある実施形態によれば、次いで、配置された原子アレイの励起及び発展を行って、エンコードされた問題の解を計算しうる。原子の最外側電子の遷移エネルギーにほぼ等しい光子エネルギーを有するレーザーを用いて原子の最外側電子を励起させ、原子を励起状態に遷移させうる。特定のレーザー制御及び適用の技術について、本開示でより詳細に説明する。原子間相互作用は非常に強い可能性があるので、原子のいくつか、特定的には、特定の領域の原子のいくつかが励起状態に遷移しうる。たとえば、他の励起原子に近接すると近くの非励起原子の励起エネルギーが増加する可能性があるので、近くの原子の遷移は起こりにくくなる。原子遷移の可能性は、初期に個別原子間の距離により制御しうる。ある実施形態によれば、励起原子をトラップから拡散させうるとともに、残りの原子のイメージングを行ってどの原子が励起状態にならなかったかを決定しうる。この最終結果は、エンコードされた問題の解を生成可能である。
【0079】
ある実施形態によれば、原子ごとのアセンブリーを用いて、個別にトラップされた冷中性87Rb原子のアレイを光ピンセットで決定論的に準備しうる。図1Aに示されるように、原子190間のコヒーレント相互作用の制御は、それをリュードベリ状態にカップリングさせることによりに導入しうる。この結果、距離Rijでリュードベリ原子ペア間の反発ファンデルワールス相互作用(Vi=C/R6、C>0)を生じる。このシステムの量子動力学は、以下のハミルトニアン式(1):
【数1】
により記述される。式中、Ωiは、個別原子に関連付けられたラビ周波数であり、Δiは、リュードベリ状態からの駆動レーザーのデチューニングであり(図1B参照)、σi=|gi><ri|+|ri><gi|は、位置iにおける原子の基底状態|g>とリュードベリ状態|r>との間のカップリングを記述し、且つni=|ri><ri|である。一般的には、このプラットフォーム内では、レーザー強度及びデチューニングを経時的に変化させることにより制御パラメーターΩi、Δiをプログラムしうる。ある実施形態によれば、均一コヒーレントカップリングを使用しうる(|Ωi|=Ω、Δi=Δ)。相互作用強度Vijは、原子間距離を変化させるかたは所望のリュードベリ状態を注意深く選択するかのどちらかによりチューニングしうる。
【0080】
基底状態|g>及びリュードベリ状態|r>は、量子情報をエンコードするためにキュービット状態として使用可能である。これらの状態間のコヒーレントカップリングは、レーザー光により提供され、且つキュービットの操作を可能にする。そのうえさらに、複数の原子のリュードベリ状態は互いに強く相互作用し、工学操作されたコヒーレント相互作用を可能にする。こうした強いリュードベリ原子間のコヒーレント相互作用は、リュードベリ状態への近くの原子の同時励起を防止する効果的拘束を提供可能である。図1Fはかかる効果を示しており、これはときにはリュードベリブロッケードとも呼ばれる。リュードベリ-リュードベリ相互作用Vijが有効ラビ周波数Ωを超える程度に2原子が十分に近づくと、複数のリュードベリ励起は抑制される可能性がある。これはVij=Ωに対するリュードベリブロッケード半径Rbを提供する(本明細書では|r>=|70S>及びΩ=2π×2MHzに対してRb=9μmが用いられる)。a=24μmの距離だけ離れた原子の共鳴駆動の場合には、図1Fの上側の曲線に示される非相互作用原子に関連付けられるラビ振動が観測される。しかしながら、複数の原子を互いに近づけると(a=2.95μm<Rb)、ダイナミクスは有意に変化する。この場合には、基底状態と厳密1励起≒ΣiΩi|g1…ri…gN>を有する集団W状態との間のラビ振動は、特徴的N1/2スケーリングの集団ラビ周波数で観測可能である。こうした観測は、システムのコヒーレンス性の定量を可能にする。特定的には、図1Fのラビ振動のコントラストは、主に状態検出忠実度(rでは93%及びgでは98%)により制限される。個別ラビ周波数及びデチューニングは、アレイ全体にわたり3%よりも良好に制御されるが、コヒーレンス時間は、レーザーパルス時の状態|e>からの自然発光の確率により究極的に制限される(散乱率0.022/μs)。
【0081】
図1Aに示されるように、個別87Rb原子は光ピンセットを用いてトラップされ、欠陥フリーアレイに配置される。原子間のコヒーレント相互作用Vijは、強度Ω及びデチューニングΔを用いてそれらをリュードベリ状態に励起することにより可能になる。
【0082】
図1Bは、円偏光420nm及び1013nmレーザー(典型的には、δ≒2π×560MHz>>ΩB、ΩR≒2π×60、36MHz)を用いて2光子プロセスにより中間状態|e>=|6P3/2、F=3、mF=-3>を介して基底状態|g>=|5S1/2、F=2、mF=-2>をリュードベリ状態|r>=|71S1/2、J=1/2、mJ=-1/2>にカップリング可能であることを示す。
【0083】
図1Cに示されるように、実験プロトコルは、ピンセットアレイに原子をロードすることと(1)、あらかじめプログラムされた構成でそれらを再構成することと(2)、を含みうる。この後、システムは、チューナブルパラメーターΔ(t)、Ω(t)、Vijを含むU(t)下で発展させうる。これは、いくつかの非相互作用サブシステムで並行して実現可能である(3)。最終状態は、好適な技術により、たとえば、蛍光イメージングを用いて、検出可能である(4)。
【0084】
図1Fに示されるように、共鳴駆動(Δ=0)では、孤立原子(頂点)は、|g>と|r>との間のラビ振動を呈する。十分にブロッケードされたクラスターN=2原子(中間プロットに示される)及びN=3原子(下側プロットに示される)に原子を配置すると、その結果、クラスター中の原子間で1励起のみが共有されるが、ラビ周波数はN1/2で増強される。複数回励起(中間及び下側)は強く抑制される。エラーバーは、68%の信頼区間(CI)を表し、マーカーサイズ未満である。
【0085】
セクション2.A:1D原子アレイの模範的な制御及び発展
大きな量子システムの工学操作及び制御を行う方法を見いだすことは、量子計算の主要な課題である。以下で考察される制御及び発展の例は、キュービットとして機能可能な51原子以上までのアレイを可能にするとともに、それらの間の制御性及び工学操作コヒーレント相互作用は非常に大きい。そのうえさらに、本開示で考察されるように、このシステムは、それ自体、より多くの原子数まで良好にスケールアップされるとともに、単一原子レベルで制御される。本開示に記載の技術及び実験は、かかる大きな量子システムの工学操作及び制御が可能であることを示す。かかる制御は、量子シミュレーションの実施に必要とされる。かかる量子シミュレーションは、他の実世界の問題の解決、たとえば、新しい材料の探索(有名な例は高温超電導である)、複雑な分子構造の理解、及び新物質の設計に使用可能である。他の用途としては、以下でより詳細に考察される最大独立集合問題などの最適化問題が挙げられる。こうした最適化問題は、実世界の問題に直接つながる。
【0086】
いくつかの実施形態によれば、以下でより詳細に考察されるようにリュードベリ結晶又はリュードベリ原子の制御アレイを作成可能である。こうしたリュードベリ結晶は、本明細書で考察される方法及びシステムを用いて生成される大きな量子システムに対する良好なテストベッドを提供する。一般的には、システムサイズの増加に伴って複雑性が指数関数的に増加するので、大きな量子システムを特徴付けることは非常に難しい。リュードベリ結晶の秩序状態に対する解は知られているので、リュードベリ結晶の作成及び特徴付けは、リュードベリ結晶の作成及び操作に使用されるシステム及び技術のベンチマークを提供する。以下で考察されるように、こうしたシステム及び方法は、コヒーレント制御を実証するとともに、大きな量子システム(リュードベリ結晶)が高度のコヒーレンスを示すことを実証する。そのほか、それは、本明細書に記載のシステム及び方法を用いて作成及び制御されたリュードベリ結晶が、平衡から外れたときに驚くほどロバストな動力学を示す特別な量子状態を有することを実証する。このユニークな性質については、以下でより詳細に考察する。
【0087】
いくつかの実施形態によれば、配置された1D原子アレイは、量子計算問題の解を生成するために励起及び発展させうるとともに、量子シミュレーターとして使用しうる。以下に記載されるのは、1D原子アレイの励起及び制御さらには原子間相互作用の特徴付けのための技術である。均一コヒーレントカップリングの場合には、ハミルトニアン式(1)は、可変相互作用範囲を有する有効スピン1/2粒子に対するパラダイムイジングモデルに非常によく類似している。その基底状態は、図2Aに示されるように、識別可能空間対称性を破壊する多種多様な多体相を呈する。たとえば、Δ/Ωが大きな負の値のとき、その基底状態は、すべての原子が状態gであることに対応し、常磁性体又は無秩序相に対応する。Δ/Ωが大きな正の値に向かって増加すると、r状態の原子数は増加し、それらの間の相互作用は有意になる。これにより、リュードベリ原子がアレイ全体にわたり規則的に配置された空間秩序相が増加し、図2Aに示される異なる空間対称性を有する「リュードベリ結晶」をもたらす。これらの相関状態の起源は、最初に、Vi,i+1≫Δ≫Ω≫Vi,i+2の状況、すなわち、近接原子はブロッケードされるが次近接体間の相互作用は無視しうる状況を考慮すれば、理解可能である。この場合には、リュードベリブロッケードにより最近接励起は低減されるが、長距離相互作用は無視しうるので、磁気システムが反強磁性秩序に類似したリュードベリ結晶破壊Z2並進対称をもたらす。さらに、Vi,i+1、Vi,i+2≫Δ≫Ω≫Vi,i+3及びVi,i+1、Vi,i+2、Vi,i+3≫Δ≫Ω≫Vi,i+4になるようにパラメーターをチューニングすることにより、それぞれ、図2Aに示されるように、破壊Z3及びZ4対称性を有するアレイが得られうる。図2Aの枠で囲まれた領域220は、潜在的インコメンシュレート相を表す。
【0088】
これらの相のシステムを準備するために、駆動レーザーのデチューニングΔ(t)を動的に制御して、ハミルトニアンの基底状態をすべての原子がg状態の積状態から結晶リュードベリ状態に断熱的に変換しうる。最初に、光ポンピングによりですべての原子を|g=5S1/2、F=2、mF=2>状態で準備しうる。次いで、レーザー場をスイッチオンして、図3Aに示される関数形を用いて負の値から正の値まで2光子デチューニングをスイープした。
【0089】
図2Bに示されるように、デチューニングΔを変化させると、3つの異なる相互作用強度で13原子群の単一原子トラジェクトリーが得られる。これらの例の各々では、初期状態|g1、…、g13>から異なる対称性のリュードベリ結晶への明瞭な遷移を観測可能である。原子間距離は、所与の最終デチューニングで異なる結晶秩序もたらす相互作用の強度を決定する。たとえば、Z2秩序を達成するために、5.9μmの間隔で原子を配置すると、Vi,i+1=2π×24MHz≫Ω=2π×2MHzの最近接相互作用がもたらされるが、次近接相互作用は小さい(2π×0.38MHz)。この結果として、1つおきにトラップサイトがリュードベリ原子(Z2秩序)により占領された反強磁性結晶のビルドアップが得られる。原子間隔を3.67μm及び2.95μmに低減すると、それぞれ、図2Bに示されるようにZ3及びZ4秩序が観測される。
【0090】
より具体的には、図2Bは、赤色矢印により示されるレーザーパラメーターをゆっくりと変化させることにより、13原子アレイのリュードベリ結晶のビルドアップが観測されることを示す(図3Aも参照されたい)。下側パネルは、原子がa=5.9μm離れた構成を示し、この結果、Vi,i+1=2π×24MHzの最近接相互作用を生じて、1つおきに原子がリュードベリ状態|r>に励起されたZ2秩序をもたらす。右側のバープロットは、最終の位置依存リュードベリ確率を表す(エラーバーは68%CIを表す)。中間パネルの構成(a=3.67μm、Vi,i+1=2π×414.3MHz)は、Z3秩序をもたらし、上側パネル(a=2.95μm、Vi,i+1=2π×1536MHz)は、Z4秩序相をもたらす。各構成に対して、パルス前(左側)及びパルス後(右側)のシングルショット蛍光画像が示される。白丸は、リュードベリ励起に帰属される失われた原子を強調する。
【0091】
量子シミュレーターの性能は、測定されたZ2秩序ビルドアップに対してN=7原子システムで厳密な数値シミュレーションを介して得られる理論予測と比較しうる。図3A~3Cは、十分にコヒーレントなシミュレーションとの比較を示す。図3A~3Cに示されるように、自由パラメーターを用いないこの十分にコヒーレントなシミュレーションは、有限検出忠実度を考慮した場合、観測データとの優れた一致を生じる。図3Aに示されるように、レーザー駆動は、負の値から正の値までチャープされるデチューニングΔ(t)を伴う矩形パルスΩ(t)からなる。図3Bは、N=7原子クラスター中の各原子(着色ポイント)のリュードベリ励起確率の時間発展を示す。これはレーザー励起パルスΩ(t)の持続時間を変化させることにより得られうる。対応する曲線は、この例に関連して考察したように使用される関数形のΔ(t)及びΩ(t)並びに有限検出忠実度を用いた(1)の量子動力学の厳密なシミュレーションにより得られる理論的単一原子トラジェクトリーである。図3Cは、7つの最確多体状態の発展を示す。図3Cの多体状態の発展は、54(4)%の確率で完全反強磁性ターゲット状態を測定しうることを示す。既知の検出不忠実度を補正した場合、所望の多体状態は、p=77(6)%の確率で達成される。エラーバーは68%CIを表す。
【0092】
準備忠実度は、各種サイズのアレイに対する断熱スイープにより図4に示されるように、システムサイズに依存する。図4Aは、クラスターサイズの関数として結晶基底状態の準備忠実度を示す。白点は測定値であり、黒点は有限検出忠実度が補正されたものある。エラーバーは68%CIを表す。図4Bは、18439回の実験実施に対する51原子クラスターでの観測出現数当たりの検出エラー補正を含まないマイクロ状態数のヒストグラムを示す。最も多く生じるマイクロ状態は、多体ハミルトニアンの基底状態である。スイープの終了時に多体基底状態のシステムを見いだす確率は、システムサイズの減少に伴って増加する。しかしながら、51原子程度又はそれ以上の大きなシステムサイズでさえも、完全秩序結晶多体状態は、p=0.11(2)%(検出忠実度補正時はp=0.9(2)%)で得られる。これは、システムの指数関数的に大きな251次元ヒルベルト空間を考慮すれば注目すべきことである。そのうえさらに、図4Bに示されるように、完全Z2秩序を有するこの状態は、群を抜いて最も多く準備された状態である。
【0093】
セクション3:得られた最終状態の観測
量子計算後、原子状態は、蛍光イメージングにより検出可能である。これは、状態依存原子損失及び後続のイメージングを行って残留原子を明らかにすることにより行いうる。本明細書に記載の実施例では、ピンセット能はレーザーパルス後に復元されうる。基底状態にある原子は、ピンセットによりリキャプチャーされるが、リュードベリ状態で残留するものは、ピンセットビームにより押し出される。後続の蛍光検出により各原子の状態を明らかにしうる。この検出の拡張として、最初にリュードベリ状態を第2の超微細状態にマップしうるとともに、その後、状態選択的蛍光を利用して各状態の原子群のイメージングを行いうる。これは計算終了時に原子が失われないという追加の利点を提供する。
【0094】
セクション4.原子アレイを操作するためのレーザー制御システム
リュードベリ状態に励起された個別中性原子は、量子シミュレーション及び量子情報処理の有望なプラットフォームである。しかしながら、これまでの実験の進歩は、かかるリュードベリ励起に関連付けられる短いコヒーレンス時間及び比較的低いゲート忠実度により制限されてきた。そのため、量子計算のために以上に記載の方法を用いて大きな原子アレイをアセンブルする場合でさえも、配置された原子アレイを発展させて特定の問題を解決するために、アセンブルされた原子アレイの高忠実度及びコヒーレント制御を開発することが依然として必要である。こうして、ある実施形態によれば、たとえば図7A~7Dに関連して記載されたシステム及び方法並びに/又は以上に記載の方法を用いて、リュードベリ原子キュービットの高忠実度(低誤差、たとえば、0%に近い誤差)量子制御を実現可能である。レーザー位相ノイズの低減と相まって、このアプローチは、個別キュービットのコヒーレンス性の有意な改善をもたらす。この高忠実度制御は、0.97(3)を超える忠実度(すなわち、わずか3/100の誤り率)で2原子エンタングル状態を準備することにより、及び2原子動的デカップリングプロトコルによりその寿命を延長することにより、多粒子の場合に拡張される。こうした進歩は、秩序アレイで原子をより正確に且つ一貫性を有して操作可能な中性原子を用いたスケーラブル量子シミュレーション及び量子計算を提供する。
【0095】
いくつかの実施形態によれば、リュードベリ原子キュービットの高忠実度量子制御は、レーザー位相ノイズを低減させて個別キュービットのコヒーレンス性の有意な改善をもたらすことにより達成可能である。この高忠実度制御が多粒子の場合に拡張されることは、0.97(3)を超える忠実度で2原子エンタングル状態を準備する実験結果により確認される。いくつかの実施形態によれば、準備されたベル状態の寿命もまた、新規な2原子動的デカップリングプロトコルを用いて拡張可能である。
【0096】
図7A~7Dは、ある実施形態にかかる一次元のプログラマブル位置における光ピンセットによる個別冷ルビジウム87原子の単一原子ラビ振動の制御システムを示し特徴付ける。図7Aに示されるように、外部キャビティーダイオードレーザー(ECDL)710Aなどのレーザーは、参照光学キャビティー(REF)720に光を提供可能である。ECDL710Aからの光は、たとえば、パウンド・ドレバー・ホール技術を用いてREF720にロック可能である。このため、ECDLの光を位相変調しうるとともに、キャビティー720の反射をフォトダイオードPD770で検出可能である。この信号は、レーザーをロックするために使用されるエラー信号を作成するために復調される。このタイプのロックは、非常に狭いライン幅を作成可能である。しかしながら、それはロックのバンド幅で高周波位相ノイズも生成しうる。このノイズを軽減するために、狭い透過ウィンドウ(挿入図中のシェード領域)により高周波位相ノイズを抑制するキャビティー参照720をフィルターキャビティーとして使用可能である。REF720の出力パワーを増強するために、透過光を用いてファブリー・ペロー(FP)レーザーダイオード740をインジェクションロックすることが可能である。これは、光アイソレーター(ISO)730を介してREF720からFP740に光を提供することにより達成可能である。この技術を用いれば、FP740からの光は、より高いパワーであるとはいえ、REF720からの光の分光特性を引き継ぐであろう。FP740からの光は、ISO730及びフォーカス光学素子750Aを介して原子アレイ790に提供可能である。第2のレーザー源710Bは、光学素子750Bを介して原子アレイ790にフォーカス可能な異なる周波数のレーザー光を提供可能である。ある特定の実施形態では、光学素子750A及び750Bからの光は、遷移のドップラー感度を最小限に抑えるために対向伝搬構成で提供可能である。いくつかの実施形態によれば、原子アレイ790に対する励起ビームの良好なアライメントを確保することが望ましい。これを達成するために、入射ビームのアライメントを制御するアクティブフィードバックスキームを利用しうる。アライメントのために、光学素子750Aからの少量の光をピックオフしてCCD760などの空間分解イメージングデバイスに提供可能である。レーザー710A及び710Bに対するこの狭い且つ正確な制御システムは、原子内部状態|g>及び|r>の制御を可能にする。そのほかのコンポーネント、たとえば、冷却レーザー及び界磁コイルなどの磁界発生構造体を追加しうる。
【0097】
いくつかの実施形態によれば、原子790は、1.5Gの磁界中で光ポンピングを介して基底状態のゼーマン副準位|g>=|S1/2、F=2、mF=-2>に初期化される。その場合、ピンセット能をスイッチオフし、710A及び710Bの両方のレーザーからのレーザー場を印加して原子790をリュードベリ状態|r>=|70S、J=1/2、mJ=-1/2>にカップリングする。たとえば3~8μsの持続時間のレーザーパルス後、ピンセット能は復元される。基底状態の原子790は、ピンセットによりリキャプチャーされるが、リュードベリ状態で残留するものは、ピンセットビームにより押し出される。いくつかの実験実施形態によれば、この検出方法は、トラップオフ時間に依存して、リュードベリ状態検出忠実度fr=0.96(1)及び0.955(5)~0.990(2)の範囲内の基底状態検出忠実度fgを有する。
【0098】
いくつかの実施形態によれば、リュードベリ状態は2光子遷移を介して励起される。ECDL710Aは、|g>から|e>=|6P(3/2)、F=3、mF=-3>への遷移の周波数を超えるΔによりデチューニングされる420nmレーザーである。第2のレーザー源710Bは、たとえば、|e>を|r>にカップリングさせる1013nmのレーザー場を提供する。2つのレーザー710A及び710Bは、単一中間副準位及びリュードベリ状態のみがカップリングされてほかの準位の集団及び関連するディフェージングを回避できるように、それぞれ、σ-遷移及びσ+遷移を駆動するように偏光される。これらの遷移は図7Bに示される。
【0099】
2つのレーザー710A、710Bは、MOG Laboratories Pty Ltd.により販売されている外部キャビティーダイオードレーザーなどのいずれかの公知のレーザーでありうる。レーザー710Aは、Stable Laser Systemsにより提供されるPDHなどのパウンド・ドレバー・ホール(PDH)770で超低膨張参照キャビティーにロックすることにより周波数安定化しうる。レーザー710Bもまた、類似のPDH(図示せず)により安定化しうる。PDH770ロックは、ロックの有効バンド幅未満の周波数のレーザーノイズを強く抑制して、インループノイズから推定されるように<1kHzの狭いライン幅をもたらす。しかしながら、ロックバンド幅を超えるノイズは、抑制できずに高ロック利得で増幅されるおそれがある。この結果として、約2π×1MHz近傍の位相ノイズのブロードピークを生じる(図7Aの挿入図を参照されたい)。この高周波位相ノイズは、リュードベリ実験及びトラップイオン実験でコヒーレンス限界を提示する。この位相ノイズを抑制するために、分光フィルターとして参照キャビティー730を使用しうる。特定的には、キャビティーの透過関数は、Γ≒2π×500kHz(F≒3000のフィネスに対応する)の半値全幅を有するローレンツ関数でありうる。異なる関数を有するキャビティーに対しては他の関数を使用しうる。ライン幅が小さいほど、フィルターは良好になる。レーザーをロックした場合、その狭いライン幅の搬送波成分はキャビティーを透過するが、2π×1MHzの高周波ノイズは1/4倍以下に抑制される。図7AにはECDL710Aに対してのみ示されているが、この光を420nm及び1013nmの両方で増幅するために、2つの色にスプリットして各ビームを個別レーザーダイオードのインジェクションロックに使用しうる。これにより同一の分光特性が引き継がれる。こうすると分光的に純粋な透過光が5mWの420nm光及び50mWの1013nm光に増幅される。この420nmパワーは青色遷移を直接駆動するのに十分であるが、いくつかの実施形態では、テーパー増幅器(図示せず)により1013nmをさらに増幅しうる。
【0100】
レーザー710A、710Bは、有限原子温度によりドップラーシフトを最小限に抑えるように対向伝搬構成で原子アレイ790上に提供しうる。レーザー710A、710Bは、それぞれ、20μm又は30μmのウエストにフォーカスしうる。実験実施形態によれば、
【数2】
の単一光子ラビ周波数を達成可能である。
【数3】
の中間デチューニングでは、これは
【数4】
の2光子ラビ周波数をもたらす。各ビームは、高速(約20ns)スイッチングにも使用される音響光学変調器により<1%までパワー安定化される。ポインティング変動に対する感度を最小限に抑えるために、参照カメラ760及び自動ビームアライメント手順を用いて、原子の中心への良好なアライメントを確保することが可能である。この場合、ビーム位置は、ピエゾアクチュエーターを備えた1つのステアリングミラーマウントを用いて参照カメラ上の定位置に安定化される。最適位置は、カメラ上の異なるビーム位置で原子のラビ周波数を測定してリュードベリ状態へのカップリングを最大化する位置を選択することにより確定しうる。
【0101】
図7Dは、いくつかの実施形態にかかるレーザー710Bのさらなる制御が追加された7Aに類似のシステムを示す。図7Dは、420nmの710A及び1013nmの710Bの2つのレーザーを示す。各レーザー710A、710Bは、たとえば、外部キャビティーダイオードレーザーでありうる。レーザー710A、710Bは、原子790をリュードベリ状態にコヒーレントに励起するために使用される。両方のレーザーは、参照光学キャビティー720に合わせてパウンド・ドレバー・ホール(PDH)ロックにより安定化される。REF720のミラーコーティングは、キャビティーが複数の波長に適合化されて710A及び710Bの両方で使用しうるように選択しうる。この目的のために、レーザーは、各レーザー源と参照キャビティーとの間に配置された電気光学変調器(EOM)を用いて各々位相変調され(図示せず)、光学キャビティーから反射される光は、それぞれ、光検出器(PD)770A、770Bで測定され、レーザーダイオードを流れる電流をチューニングすることによりレーザーへのフィードバックに使用される。これにより、PDHロックのエラー信号のノイズから測定されるように、各レーザーは<1kHzの狭いライン幅まで安定化させる。しかしながら、レーザーダイオードの高周波ノイズは抑制できず、その代わりに、PDHロックによりその有限バンド幅に基づいて増幅される可能性がある。これにより、中心の狭い搬送波ライン幅に対して約±1MHzにノイズのブロードピークを生じる(パワースペクトルの挿入図に示される)。
【0102】
レーザー710A、710Bは参照キャビティーにロックされるが、光は大部分がキャビティー720を透過する。しかしながら、キャビティー720は、約500kHzのバンド幅を有するローパスフィルターとして作用するので、その透過は、この「透過ウィンドウ」外のノイズを抑制する(パワースペクトルの挿入図中に破線の枠で囲まれた領域として模式的に示される)。したがって、キャビティーを通った透過光は、狭いライン幅を有するだけでなく高周波ノイズが抑制される。
【0103】
ハイパワーは原子790の制御に有益であるので、各レーザー710A、710Bの透過光はスプリットされ、それぞれ光アイソレーター(ISO)730A、730Bを介してそれぞれ非依存ファブリー・ペロー(FP)レーザーダイオード740A、740Bをインジェクションロックする。これらのレーザーダイオード740A、740Bは、それらにシードするために使用される光と同一の高品質分光特性を引き継ぎ、このシード光は、約5mWの420nm光及び約50mWの1013nm光に効果的に増幅される。1013nmパワーは、レーザーダイオード740Bの後に位置決めされたテーパー増幅器(図示せず)により追加的に増幅しうる。次いで、2つのレーザー710A、710Bは、遷移のドップラー感度を最小限に抑えるために対向伝搬構成でレンズ750A、750Bにより原子アレイ790上にフォーカスしうる。
【0104】
このレーザー安定化・フィルタースキームは、これまでのリュードベリ原子キュービットの高忠実度コヒーレント制御を可能にする。このスキームは、より高い反射率のミラーから生じるより狭いライン幅を有する、したがって、高いノイズ抑制率を有する市販の高フィネス光学キャビティーを用いることによりさらに改善しうる。いくつかの実施形態によれば、チタンサファイアレーザーや色素レーザーなどの本質的に低ノイズのレーザー源を用いて、高周波レーザー位相ノイズを分光フィルターすることなく、この遷移を駆動可能である。
【0105】
セクション4.A:改善されたレーザー制御の実験結果
いくつかの実施形態によれば、本明細書に開示される各種制御方法及びシステムは、コヒーレンス時間を延長するために及び原子に対する制御を改善するために実現しうる。以上に記載のシステム及び方法を実現する実験実施形態、たとえば、図7A~7Dに示される制御システムによれば、これまでの実験の典型的な
【数5】
寿命とは対照的なτ=27(4)μsの1/e寿命を有する長寿命ラビ振動が測定された。これは図7Cに示されており、この図は共鳴2光子カップリングが|g>=と|r>との間のラビ振動を誘起することを示す。各プロットは、マイクロ秒単位の時間の関数としてリュードベリ確率を示す。上側プロットは、当技術分野で用いられる構成による測定である。下側プロットは、27(4)μsの当てはめコヒーレンス時間を有する以上に記載の構成による典型的な結果を示す。各データ点は、相互作用しないように23μm分離された2つの等しくカップリングされた原子に対して50~100回の繰返し測定を平均して計算された。エラーバーは68%の信頼区間である。実線は実験データへの当てはめであり、一方、点線は、数値モデルから予想されたコントラストを表す。図7Dに示されるように、こうした新しい測定と図7Dに点線により表された単一原子システムの単純数値モデルとの間に優れた一致が存在する。実現された数値モデルは、自由パラメーターを有しておらず、有限原子温度におけるランダムドップラーシフトの影響、中間状態|e>からの非共鳴散乱、及びリュードベリ状態|r>の有限寿命のみを考慮する。数値モデルからの結果は、検出忠実度を考慮して追加的にスケーリングされている。
【0106】
他の一実験実施形態によれば、単一原子のコヒーレンス及び単一キュービットの制御の特徴付けが可能である。初めに、量子制御を実施しうる時間スケールを実証及び決定するために、図8Aに示されるように、リュードベリ状態の寿命を測定する。図8Aに示されるように、|r>の寿命は、πパルスを用いて|g>から|r>に励起してから可変遅延後に脱励起することにより特徴付け可能である。|g>で終了する確率(Pgで表される)は、T1=51(6)μsの抽出寿命で減衰する。測定されたT1=Trg=51(6)μsは、|e>からの1013nmレーザーの非共鳴散乱の約80μs時間スケールと組み合わせたときの146μsリュードベリ状態寿命と一致する。ラムゼー実験は、熱ドップラーシフトにより十分に説明されるガウス崩壊810を示す(図8B参照)。図8Bに示されるように、ライン810としてプロットされたラムゼー実験は、熱ドップラーシフトにより制限された
【数6】
の1/e寿命のガウス減衰を示す。π/2パルス832、834間に追加のπパルス830を挿入するとドップラーシフトの影響がキャンセルされてT2=32(6)μsの実質的により長いコヒーレンス寿命をもたらす(0.5までの指数関数的減衰に当てはめた)。10μKでは、実験の各ショットにおけるランダム原子速度は、幅2π×43.5kHzのガウス分布からのランダムデチューニングδDとして現れ、
【数7】
としてディフェージングをもたらす。しかしながら、ランダムドップラーシフトは各パルスシーケンスの持続時間にわたり一定であるので、その影響はスピンエコーシーケンスを介して排除可能である(図8Bのプロット820を参照されたい)。スピンエコー測定は、わずかながら数値シミュレーション(点線)からの逸脱を呈するので、追加のディフェージングチャネルの存在を示唆する。指数関数的減衰を仮定すると、当てはめT2=32(6)μs及び純粋ディフェージング時間TΦ=(1/T2-1/(2Trg))-1=47(13)μs。このディフェージングは、残留レーザー位相ノイズから生じうる。それらの状態|g>と|r>との間で原子の共鳴操作を行う以外に、これらの状態間で位相を操作できることが望ましく、これは位相ゲートといいうる。図8Cは、非依存809nmレーザー840の適用により実現されたかかる単一原子位相ゲートを示す。いくつかの実施形態によれば、原子遷移から遠く離れた、ただし、リュードベリ状態のものとは異なる基底状態での光のシフトを誘起するのに十分な程度に近い、他の波長を使用しうる。これは、時間tに対して基底状態に光のシフトδ=2π×5MHzを誘起し、累積動的位相Φ=δtをもたらす。ゲートは、ドップラーシフトをキャンセルするためにスピンエコーシーケンスに埋め込みうる。ここに示される各測定では、1013nmレーザーは全パルスシーケンスにわたりオンの状態を続けるが、420nmレーザーは各プロットの上に示されるシーケンスに従ってパルスされる。各データ点は、単一原子に対して200~500回の繰返し測定から計算され、エラーバーは、68%信頼区間を表す。図8B及び8Cでは、実線は実験データへの当てはめである。点線は、有限検出忠実度を含めて数値モデルから予想されるコントラストを示す。かかる長いコヒーレンス時間及び単一キュービット制御ゲートは、量子計算に役立つ。
【0107】
いくつかの実施形態によれば、単一原子位相ゲートは、基底状態|g>のエネルギーを5MHzシフトする非依存フォーカスレーザーを適用することにより実現可能である。適用されるレーザーパルスの持続時間を制御することにより、制御動的位相は、|r>と対比して|g>に付与可能である。得られた位相ゲート(スピンエコーシーケンスに埋め込まれる)のコントラストは、検出及びスピンエコーの忠実度により課された限界に近い。
【0108】
いくつかの実施形態によれば、2原子を制御しうる。かかる技術及びシステムを2原子超に適用可能であることを認識すべきである。この目的では、2原子は、リュードベリ-リュードベリ相互作用がU/(h/2π)=2π×30MHz≫Ω=2π×2MHzである5.7μmの分離で位置決めしうる。リュードベリブロッケードレジームと呼びうるこのレジームでは、レーザー場は、
【数8】
の増強ラビ周波数で両方の原子を|gg>から対称状態
【数9】
にグローバルにカップリングさせる(図9A参照)。図9Aは、相互作用エネルギーU≫(h/2π)Ωだけシフトされるダブル励起状態|rr>を特徴付ける2つの近い原子の準位構造を示す。このリュードベリブロッケードレジームでは、レーザー場は|gg>を|W>にのみカップリングさせる。対称及び反対称の状態
【数10】
は、1つの原子に対するローカル位相ゲートによりカップリング可能である(矢印910で表される)。
【0109】
状態|gg>、|gr>、|rg>、及び|rr>(それぞれ、Pgg、Pgr、Prg、及びPrrにより表される)の確率は測定可能であり、図9Bのトップに見られるようにダブル励起状態に入る集団はないことを示す(Prr<0.02、単に検出エラーに一致するにすぎない)。その代わりに、図9Bのボトムのゼロ励起のマニホールドと図9Bのセンターの1励起のマニホールドとの間の
【数11】
の当てはめ周波数の振動が存在する(図9B参照)。可変時間で両方の原子を共鳴状態に駆動した後、得られた2原子状態の確率を測定可能である。集団は、増強ラビ周波数
【数12】
で|gg>から|W>に振動する。このことから高忠実度2キュービット制御が実証される。
【0110】
こうした集団ラビ振動を用いれば、増強ラビ周波数のπパルス(
【数13】
により表される)を適用することにより最大エンタングルベル状態|W>を直接準備することが可能である。この実験的に準備されたエンタングル状態の忠実度を決定するために、F=<W|ρ|W>により与えて、それを以下のように密度演算子ρの対角及び非対角行列要素により表しうる。
【数14】
式中、α、β、γ、δ∈{g,r}に対してραβ,γδ=<αβ|ρ|γδ>。対角要素は、πパルスを適用してから集団を測定することにより直接測定可能である。結果は、状態検出エラーを考慮した後の完全|W>状態のものにほぼ一致し、0.95(1)の最大可能値に対してρgr,gr+ρrg,rg=0.94(1)である。
【0111】
図9Cで実証されるように、密度行列の非対角要素を測定するために、1原子に可変位相を導入する単一原子位相ゲート
【数15】
を使用しうる。たとえば、ローカルビームにより光のシフトδを|gr>には付与するが|rg>には付与しないようにすると、
【数16】
となる。この位相累積は、
|W>→cos(δt/2)|W>+i sin(δt/2)|D> (4)
に従って|W>を直交ダーク状態
【数17】
に回転する。|D>はレーザー場によりアンカップリングされるので、後続のπパルスは|W>の集団のみを|gg>に戻すようにマップする。したがって、|gg>で終了するシステムの確率は、Pgg(t)=Acos2(δt/2)として位相累積時間に依存する。この場合、振動の振幅Aは、正確に非対角行列要素(ρgr,rg=ρrg,gr)の尺度となる。ランダムドップラーシフトに対する感度を軽減するために、この全シーケンスをスピンエコープロトコルに埋め込みうる(図9C参照)。図9Cは、ブロッケードレジームで共鳴πパルス後の2原子のエンタングルメント忠実度の測定を示す。ローカル位相ゲート
【数18】
は|W>を|D>に回転する。これは後続のπパルスにより検出される。当てはめコントラスト0.88(2)は非対角密度行列要素の尺度となる。位相ゲートは、<2%のクロストークで1原子上にフォーカスされる非共鳴レーザーにより実現される。この測定は、熱ドップラーシフトによるディフェージングをキャンセルするためにスピンエコーシーケンスに埋め込まれる。以上に記載したように、位相ゲートは量子計算に有用な単一キュービットゲートである。この場合、2原子間のエンタングルメントを特徴付けできるように使用しうる。ここで使用されるエコーシーケンスは、ドップラーシフトによるノイズをキャンセルしてシステムのコヒーレンスを増加させるのに役立つ。
【0112】
得られたコントラストは、A=0.88(2)=2ρgr,rg=2ρrg,grであった。こうした値を対角行列要素と組み合わせて、F=0.91(2)のエンタングルメント忠実度が測定された。実験状態検出誤り率を考慮すると最大測定可能忠実度は0.94(2)になるであろうから、不完全検出の補正後、エンタングルベル状態は、F=0.97(3)の忠実度で作成されたことが分かった。この忠実度は、初期πパルス後のパルス時に導入されるエラーを含むので、真の忠実度の下限となる。
【0113】
エンタングルメントは量子計算の有用資源である。しかしながら、エンタングル状態は非常に脆弱でありうるとともに、高速ディフェージングの影響を受けやすい。本明細書で考察した方法は、ある特定のノイズ源からエンタングル状態を保護するために使用しうる。いくつかの実施形態によれば、|W>の励起によるエンタングル状態の寿命は、πパルス及び続く可変遅延後の脱励起を用いて探究しうる(図10参照)。図10は、動的デカップリングによるエンタングル状態寿命の延長を示す。|W>の寿命は、プロット810に示されるように|gg>から|W>への励起及び次いで可変時間後の脱励起による測定可能である。寿命は、ランダムドップラーシフトに基づくディフェージングにより制限される。ブロッケードレジームで追加の2πパルス1030を挿入すると|gr>及び|rg>の集団のスワップが起こってランダム位相累積がリフォーカスされ、プロット1020(指数関数的減衰に当てはめて実線で示される)に示されるように約36μsまで寿命が延長される。各曲線1010、1020の初期オフセットは、所与のトラップオフ時間に関連付けられる基底状態検出忠実度により設定される。データ点はすべて、9つの独立した等しくカップリングされた原子ペアに対して30~100回の繰返し測定を平均して計算され、エラーバーは、68%信頼区間を表す。プロットの近くの点線及び当てはめラインは、検出エラーを含めた数値モデルからの予測を示す。コントラストの減衰は、ランダムドップラーシフトに関連付けられる数値予測とよく一致する。特定的には、|W>状態の2つの成分|gr>及び|rg>は、
【数19】
としてディフェージングされる。式中、
【数20】
は、原子iの2光子ドップラーシフトである。
【0114】
いくつかの実施形態によれば、2原子エンタングル状態の寿命は、複数のキュービットに作用するエコーシーケンスを用いて延長可能である。これはより長い時間の制御を可能にする。|W>状態を時間Tにわたり発展させた後、2πパルスを2原子システムに適用可能である。リュードベリブロッケードレジームでは、かかるパルスは、|gr>及び|rg>の集団をスワップする。再度、時間Tにわたり発展させた後、全累積ドップラーシフトは、2原子波動関数の各部分で同一であるので、最終|W>状態忠実度に影響を及ぼさない。図10は、その寿命がドップラー限界減衰をはるかに超えて
【数21】
に延長されることを示す。単一原子の場合と同様に、純粋ディフェージング時間スケール
【数22】
が抽出される。
【0115】
2原子のベル状態ディフェージング時間
【数23】
は、単一原子ディフェージング時間TΦ=47(13)μsよりも有意に長い。これは、状態|gr>及び|rg>が、両方の原子に等しくカップリングするレーザー位相・強度変動などのグローバル摂動に鈍感なデコヒーレンスフリーサブ空間を形成することに注目すれば理解可能である。これとは対照的に、重畳状態
【数24】
の単一原子は、レーザー位相及びレーザー強度の両方に敏感である。かかるデコヒーレンスフリーサブ空間は、ある特定のノイズ源から量子情報を保護するために使用しうる。こうした測定は、レーザーノイズがこうした実験で有意に低減されるとしても、依然として我々の実験でそれが完全に排除されるわけではないというさらなる示唆を提供する。より多くのレーザーノイズをフィルター除去してさらに長いコヒーレンス時間を可能にするために、より高いフィネスのキャビティーREF720を使用しうる。そのほか、それにもかかわらず、基底状態とリュードベリ状態との間のこうしたコヒーレント操作技術は、既報のものよりも有意に良好にある。
【0116】
こうした測定は、高忠実度量子シミュレーション及び計算のプラットフォームとしてリュードベリ原子キュービットを確定する。本開示で実証された技術は、中性原子アレイを制御する方法を示す。こうした技術により実証された忠実度は、レーザー強度を増加させて中間状態からのより大きなデチューニングで操作し、非共鳴散乱の有害作用を低減するすることにより、又は直接単一光子遷移を用いることにより、さらに改善可能である。そのほか、ピンセットにおける原子のサイドバンド冷却は、ドップラーシフトの大きさを劇的に減少可能であるが、より高いフィネスのキャビティーによりフィルターされるチタンサファイアレーザーやダイオードレーザーなどの低ノイズレーザー源は、位相ノイズにより引き起こされるエラーをさらに排除可能である。レーザーパルス造形などの先端的制御技術もまた、より高い忠実度を達成するために利用可能である。最後に、本研究における主要な不完全源である状態検出忠実度は、リュードベリ原子の電界イオン化により又はリュードベリ状態を個別基底状態準位にマップすることにより改善可能である。
【0117】
セクション5.A:例-相転移を横切る量子動力学
本明細書に記載のシステム及び方法は、以下で考察されるようにイジング問題の解の同定を提供する。本明細書で適用される技術はまた、以下に記載の最大独立集合問題などの他のモデルに移転しうる。
【0118】
51原子程度以上の1Dアレイのように大きなアレイに原子を配置した後、リュードベリ状態と基底状態との間で原子が入れ替わるものとして相転移を観測可能である。こうした転移について以下でより詳細に考察する。図5A~Dは、ある実施形態にかかる51原子のアレイにおけるZ2相への転移の特性を示す。原子状態がリュードベリ状態と基底状態との間で入れ替わる長秩序鎖が現れうる。図5Aに示されるように、こうした秩序ドメインは、同一電子状態の2近接原子からなるドメイン壁により分離可能である。
【0119】
図5Aは、模範的実施形態にかかる断熱パルスの適用前(上端行501、すなわち、図1Dに関連して考察した発展ステップ116)及びパルス後(下側3行502、503、504は、3つの個別例、すなわち、図1Dの検出工程118に対応する)の51原子アレイのシングルショット蛍光画像を示す。小円505は、リュードベリ励起に帰属しうる失われた原子を印す。ドメイン壁は、完全秩序リュードベリ結晶の欠陥である。ドメイン壁は、断熱スイープ終了時にシステムがどの程度良好に基底状態に達するかの特徴付けを可能にする。同様に、こうしたドメイン壁の観測自体も有用である。たとえば、システムは、スイープスピードがどのようにドメイン壁数に影響を及ぼすか又はドメイン壁間に相関が存在するかにより、より良好に特徴付け可能である。ドメイン壁506(丸で囲まれた点)は、同一状態の2近接原子又はアレイのエッジの基底状態原子のどちらかとして同定され、楕円で表される。ドメイン壁間に長Z2秩序鎖を観測可能である。
【0120】
図5Bは、模範的実施形態にかかる周波数スイープ時のデチューニングの関数としてドメイン壁密度を示す。曲線560上の点は、スイープ時のデチューニングの関数としてのドメイン壁密度の平均である。エラーバーは平均値の標準誤差であり、マーカーサイズ未満である。曲線570上の点は対応する変動であり、シェード領域はジャックナイフエラー推定値を示す。相転移の発生は、ドメイン壁密度の減少及び変動のピークにより証明される。各点は1000回の実施から得られる。実線の曲線560は、測定忠実度を考慮した自由パラメーターを含まない十分にコヒーレントなMPSシミュレーション(ボンド次元D=256)である。
【0121】
ドメイン壁密度は、デチューニングΔの関数として無秩序相から秩序Z2相への転移を定量するために使用可能であり、秩序パラメーターとして機能する。システムがZ2相に入ると秩序ドメインはサイズが成長し、ドメイン壁密度の実質的低減をもたらす(図5Bの曲線560上の点)。イジング型2次量子相転移への期待に応えて、2相間の転移点の近くに変動長ドメインを観測可能であり、ドメイン壁密度の変動の明白なピークとなって現れる。このピークは、有限サイズスケーリング分析からの予測に一致してΔ≒0.5Ωの正の値に向かってシフトする。観測ドメイン壁密度は、51原子行列積状態に基づく量子動力学の十分にコヒーレントなシミュレーションとの優れた一致を示すが(ライン560)、こうしたシミュレーションは相転移における変動を過小評価する。
【0122】
スイープの終了時、Z2相のディープ部では(Δ/Ω>>1)、Ωを無視できるのでハミルトニアン(1)は本質的に古典的になる。このレジームでは、相転移を通過するときに作成された励起の統計量を測定ドメイン壁数分布から直接推測可能である。図5Cは、51原子アレイの18439回の個別実験実施時に現われたドメイン壁の正規化数のヒストグラムを示す。分布は、平均9.01(2)のドメイン壁数で描かれる。この分布は、より多くのドメイン壁をもたらす状態|g>及び状態|r>の検出忠実度の影響を受ける。言い換えると、完全検出忠実度のシステムは、不完全検出忠実度により追加のドメイン壁が導入されるシステムを利用したときとは異なるドメイン壁分布を生成するであろう。そのため、ドメイン壁の真の数を決定するために、ドメイン壁分布に及ぼす検出忠実度の影響をモデリングして、より低い検出忠実度の影響を受けずに作成されたドメイン壁数を決定可能である。これにより、検出忠実度が補正された分布を有する最尤推定を得ることが可能であり、平均5.4のドメイン壁数を有する状態に対応する。これらの残りのドメイン壁(より低い検出忠実度が原因とならなかったもの)は、相転移を通過するときに基底状態から非断熱転移に基づいて作成される可能性が最も高く、このときエネルギーギャップが最小となる。そのほか、準備忠実度は、レーザーパルス時の自然発光によっても制限される(全アレイに対して1μs当たり平均数1.1の光子が散乱される)。
【0123】
図5Cは、模範的実施形態にかかる18439回の実験実施から得られるΔ=14MHzに対するドメイン壁数分布を示す(上側プロット)。エラーバーは68%CIを表す。境界条件に起因して、偶数のドメイン壁のみが現われうる。下側プロット中の各結合ペアの右側バーは、最尤法を用いて有限検出忠実度を補正することにより得られた分布を示し、平均数5.4のドメイン壁をもたらす。各結合ペアの左側バーは、同一平均ドメイン壁密度を有する熱的状態の分布を示す。図5Dは、Z2相で測定された相関関数を示す。
【0124】
作成されたZ2秩序状態をさらに特徴付けるために、相関関数を評価可能である。
【数25】
式中、平均<...>は実験の繰返しにより得られる。我々は、相関がξ=3.03(6)サイトの減衰長で距離とともに指数関数的に減衰することを見いだしている(図5d及びSIを参照されたい)。
【0125】
図6は、本開示内に記載のアプローチが平衡から外れた多体システムのコヒーレント動力学の研究も可能にすることを実証するグラフを示す。図6Aは、断熱的準備及び次いで単一原子共鳴への突然のクエンチを含む模式的シーケンスを示す(トップにΔ(t)を示す)。ヒートマップは、9原子クラスターの単一原子トラジェクトリーを示す。初期(左側挿入図)結晶は、クエンチ後にすべての奇数のトラップサイトで崩壊してリュードベリ励起状態で観測され、すべての偶数のサイトで励起状態の結晶がビルドアップする(中間挿入図)。より後の時点では初期結晶が復活する(右側挿入図)。エラーバーは68%CIを表す。図6Bは、クエンチ後のドメイン壁の密度を示す。ダイナミクスは、0.88μsの時間スケールでゆっくりと減衰する。シェード領域は平均値の標準誤差を表す。トップペインの実線は、測定忠実度を考慮したボンド次元D=256を有する十分にコヒーレントなMPSシミュレーションである。図6Cは、非相互作用ダイマーのトイモデルを示す。図6Dは、厳密な対角化から得られた理想25原子結晶から出発してクエンチ後のダイナミクスの数値計算を示す。時間の関数としてのドメイン壁密度610及びハーフチェイン(13原子)のエンタングルメントエントロピーの成長620。破線は、最近接体ブロッケード拘束のみを考慮に入れる。実線は、十分な1/r6相互作用ポテンシャルに対応する。
【0126】
図6Aに示されるように、初期にZ2秩序相のディープ状態で準備されたリュードベリ結晶のクエンチ動力学に焦点を当てて、デチューニングΔ(t)を急激に単一原子共鳴Δ=0に変化させる。かかるクエンチ後、各内部原子状態が反転されて初期結晶と相補的結晶との間で多体状態の振動が現れる。これらの振動は顕著にロバストであり、大きなアレイではシステムサイズに大きく依存しない周波数でいくつかの周期にわたり持続する。これは、9原子(黒丸)及び51原子(白丸)のアレイについて図6Bに示される結晶状態の出現及び消失をシグナリングするドメイン壁密度のダイナミクスを測定することにより確認される。初期結晶は、非依存非相互作用原子のラビ振動時間と比較して1/1.4に減速した時間で繰返し復活する。
【0127】
ある実施形態によれば、本開示に記載の技術からいくつかの重要な特徴を生じる。第1に、Z2秩序状態は、単純な熱アンサンブルにより特徴付けできない。より具体的には、測定ドメイン壁密度に基づいて有効温度を推定した場合、対応する熱アンサンブルは、測定値ξ=3.03(6)よりも有意に長い相関長ξth=4.48(3)を予測する。かかる不一致は、ドメイン壁数の識別可能確率分布にも現われる(図5C参照)。こうした観測から、システムは、Z2状態準備の時間スケール内で熱化しないことが示唆される。
【0128】
第2は、量子クエンチ後の結晶秩序のコヒーレントな持続振動である。クエンチされたハミルトニアン(Δ=0)に関して、Z2秩序状態のエネルギー密度は、リュードベリブロッケードにより拘束されたマニホールド内で無限温度アンサンブルのものに対応する。また、ハミルトニアンは、全エネルギー以外のいかなる明示的保存量も有していない。それにもかかわらず、振動は、ローカル緩和の自然時間スケール≒1/Ωさらには最速時間スケール1/Vii+1を超えて十分に持続する。
【0129】
こうした観測を理解するために、長距離相互作用の影響を無視し、最近傍相互作用をリュードベリ状態の近接励起のハード拘束で置き換える単純化モデルを考える。この制約では、クエンチされた動力学の定性的挙動は、ダイマースピンにより理解可能であり(図6Cに示される)、拘束に基づいて、各ダイマーは、3つの状態|r,g>、|gg>、及び|gr>で有効スピン1のシステムを形成し、共鳴駆動は、実験的に観測されたものに近い周期2(2π/Ω)にわたり3つの状態を「回転」させる。この定性的描像は、近接ダイマー間の強い相互作用(拘束)を考慮に入れないが、それはすべてのリュードベリブロッケード拘束を考慮した行列積状態(MPS)に基づく多体波動関数の最小変分理論を考えることにより、拡張可能である。時間依存変分原理を用いて、運動の解析式を誘導しうるとともに、それによると実験観測の10%以内の周波数Ω/1.51を有する結晶秩序振動が得られうる。これらの要件は、各種数値シミュレーションにより支持されうる。たとえば、大きなボンド次元を有するMPSシミュレーションは、単純化モデルが長時間にわたり結晶振動を呈することを予測し、一方、エンタングルメントエントロピーは、Ωよりもかなり低い速度で成長することから、振動が多くのサイクルにわたり持続することが示唆される(図6D)。しかしながら、長距離相互作用は、実験観測に一致する1/Vi,i+2により決定される時間スケールで振動のより速い減衰をもたらし、一方、エンタングルメントエントロピーもまた、この時間スケールで成長する。
【0130】
この場合、結晶振動の減衰は、弱い次最近接相互作用の影響により制限される。この低速熱化はやや予想外である。なぜなら、長距離補正を用いた又は用いない我々のハミルトニアンは、いずれの既知の積分可能システムからも離れており、強い無秩序も明示的保存量もどちらも特徴付けないからである。その代わりに、観測は、リュードベリブロッケードに基づく拘束動力学に関連付けうるとともに、時間スケールの大きな分離Vi,i+1≫ΩVi,i+2をもたらす。これらは、黄金比(1+5)N/2N及び非自明動力学により決定されるヒルベルト空間次元を有するいわゆる拘束ダイマーモデルをもたらす。
【0131】
ある実施形態によれば、量子力学により支配される問題などの問題をエンコードするために、アレイにトラップされた原子間の初期間隔を使用しうる。次いで、システムの断熱発展後、原子を観測して問題の解を決定しうる。発展後の原子状態は、問題の解の指標でありうる。
【0132】
セクション5.B:例-量子コンピューターを用いた最大独立集合最適化問題の解法
個別にトラップされた中性原子の配置及び制御並びにそれらのリュードベリ相互作用に関連して以上に記載した方法及びシステムは、多種多様なタイプの問題を解決するために使用しうる。たとえば、以下に記載のように、いくつかの実施形態によれば、以上に記載のシステム及び方法は、量子断熱原理に基づいて最大独立集合(MIS)最適化問題を解決するために使用可能である。MIS最適化問題は、数値技術のみを用いて解決するには厄介な問題であるが、量子計算技術を用いればより容易に解決可能である。そのため、量子計算のための以上に記載のシステム及び方法は、以下に記載のMIS最適化問題の解を見いだすのに好適である。
【0133】
断熱量子計算は、組合せ最適化問題を解決する新たな一般的アプローチである。それはキュービットのセットを構築することと、時間依存ハミルトニアンH(t)を工学操作することと、からなり、その出発点H(0)は、容易に準備可能な基底状態を有し、且つ最終点H(T)は、その固有状態が最適化問題の解をエンコードする形態を有する。「断熱」という名称は、H(t)が十分にゆっくりと変化し、次いで、システムが主にすべての時間tで即時ハミルトニアンH(t)の基底状態で存在し、結果として、最終時間t=Tで、システムがH(T)の基底状態で見いだされ、最適化問題の解を見いだしうるという事実に由来する。いくつかの実施形態によれば、ハミルトニアンが十分な断熱発展を行うのに十分な程度にゆっくりと変化しない場合、時間依存ハミルトニアンにより誘導されるダイナミクスによりシステムに有限エネルギーを注入しうる。最適化問題のコスト関数が最終ハミルトニアンで適正にエンコードされる限り、且つ発展が注入エネルギーを少なくするのに十分な程度に低速である限り、システムの最終状態を測定することにより最適化問題の良好な近似解が得られる。この量子断熱最適化(又は近似)の作動原理は、最適化問題の解を見いだす(又は近似する)既知の古典的アルゴリズムとは基本的には異なるので、量子スピードアップをもたらしうる(すなわち、量子コンピューターを用いてより速く計算が行われる)。
【0134】
最大独立集合問題(以下でより詳細に考察される)は、グラフ理論の古典的組合せ最適化問題である。課題は、グラフから頂点のサブセットを、たとえば、それらがまったく隣接しないように選択することである。いくつかの実施形態では、課題は、最大数の頂点を有するサブセットを見いだすことである。それは複雑性理論でよく研究された問題であり、近似がNP困難であることが知られている。決定問題として定式化する場合、それはNP完全である(すなわち、NP(非決定性多項式時間)問題及びNP困難(少なくともNP問題と同程度に困難な問題)問題の両方に属する)。
【0135】
いくつかの実施形態によれば、最大独立集合問題にはさまざまなバリアントが存在する。本明細書で考察される実施形態は、最大独立集合問題の最適化が望まれる、グラフのクラスをディスクグラフに制限可能な問題に焦点を当てる。ユニットディスクグラフは、幾何交差グラフ(すなわち、セットのファミリーの交差のパターンを表すグラフ)の特別な場合であり、ある特定の距離内に位置する頂点のみを隣接すると考える。かかる交差グラフの最適化問題は、さまざまな用途で、たとえば、限定されるものではないが、放送ネットワーク設計で生じる問題、マップラベリング、及び施設の最適位置の決定などで重要な役割を果たす。ユニットディスクグラフでの最大独立集合問題はNP完全である。多項式時間近似アルゴリズムが存在するが、良好な近似比を達成する速いアルゴリズムは、いまだに達成されていない。
【0136】
以下でより詳細に考察されるように、個別にトラップされた原子を含む構成は、ユニットディスクグラフで最大独立集合問題を解決する量子アルゴリズムを実現するために使用可能である。
【0137】
本明細書に記載されるように、最大独立集合問題は、頂点V及び辺Eの集合を有する無向グラフG=(V,E)を含みうる。独立集合とは、Sのいずれの2つの頂点も辺により接続されない頂点のサブ集合S⊆Vである。独立集合の例については、図11A~11Bを参照されたい。図11Aは、白丸と黒丸との組合せとして印された異なる独立集合を有するグラフの2つの例を示す。最大独立集合はいずれの場合も右側に描かれる。言い換えると、最大独立集合は、最も大きな独立集合、すなわち、最大数の頂点を有する独立集合である。注:また、独立でないようにしない限りいずれの他の頂点も追加できない独立集合という最大独立集合の概念も存在する。最大独立集合は、最大限の独立した集合のうち最も大きなものである。
【0138】
最大独立集合問題の一般化は、最大加重独立集合問題である。いくつかの実施形態によれば、無向加重グラフG=(V,W,E)は、関連する加重W及び辺Eを有する頂点Vの集合とみなしうる。最大加重独立集合は、最大重量を有する独立集合である。最大独立集合問題は、決定問題:「グラフGが与えられたとき、サイズkの独立集合が存在するか?」として定式化可能である。この決定問題はNP完全である。また、それは最適化問題:「グラフGが与えられたとき、独立集合の最大サイズkを見いだす」として定式化可能である。近似最適化でさえもNP困難である(定数係数内でのkの近似)。最大独立集合を見いだすことは最小頂点カバーを見いだすことと等価であり、これらは双対問題である。これらの原理は最大加重独立集合問題に拡張される。
【0139】
ユークリッド空間のユニット距離R内の頂点のみが辺により接続されるならば、グラフをユニットディスクグラフと呼びうる。図12は、ユニットディスクグラフの例を示す。図2に示されるように、距離Rよりも近いすべての一対の頂点1210は、辺1220により接続される。これは、各頂点の周りに半径R/2のディスク1230を描いて2つのディスクがオーバーラップするならばそれらを接続することと等価である。ユニットディスクグラフの最大独立集合を見いだすことは依然としてNP完全であることに留意されたい。
【0140】
いくつかの実施形態によれば、ユニットディスクグラフにより提示されるような問題を解決するために原子アレイを配置しうる。いくつかの実施形態によれば、リュードベリ実現Rがブロッケード半径の役割を果たすリュードベリ原子を使用しうる。それはディスク1230に対応する。かかる実現は以下でより詳細に考察される。
【0141】
グラフが与えられたとき、最大独立集合は、古典的ハミルトニアンの基底状態から見いだしうる。この目的では、古典的イジング変数を各頂点にnv∈{0,1}と帰属しうる。ハミルトニアンは以下に示される。
【数26】
ただし、Uu,w>Δ>0。Hを最小化する構成{nv}は、最大独立集合をエンコードし、基底状態でnv=1を有するすべての頂点は、最大独立集合を形成する。Un,mの値は、Δよりも大きい限り重要ではないことに留意されたい。
【0142】
さらに、(Un,m≫Δに対して)最低レベルエネルギー状態がさまざまな独立集合をエンコードすることに留意されたい。また、対応するエネルギーがE=-kΔとして独立集合のサイズkに直接関連することにさらに留意されたい。
【0143】
MISに対する量子断熱アルゴリズムを設計するために、異なるイジングスピン構成をカップリングする項の追加を含む演算子レベルにハミルトニアンを進展させることが可能である。たとえば、ハミルトニアンは以下のように書き表しうる。
【数27】
古典的イジングスピンの代わりに、ここでは、
【数28】
、(x∈{0,1})、及びσx=|0><1|+|1><0|であるような状態|0>及び|1>を有するキュービットが存在する。そのため、断熱アルゴリズムは、すべてのキュービットを時間t=0で|0>に初期化し、次いで、Δ(0)<0、Δ(T)>0、Ω(0)=Ω(T)=0、及びΩ(0<t<T)>0であるように選択されたパラメーターを用いて時間Tに対する時間依存ハミルトニアンH(t)の下でシステムを発展させることにより、得ることが可能である。具体例として、
【数29】

【数30】
を用いて
【数31】
を考える。各頂点に対してパラメーターΔ(t)を異なるようにして最大加重独立集合問題にただちに一般化されることに留意されたい。
【0144】
いくつかの実施形態によれば、以上でより詳細に記載した個別原子を配置及び操作するシステム及び方法は、かかる問題をエンコード及び発展させるために使用しうる。たとえば、以上でより詳細に考察した個別に位置決めされた光ピンセットのセットを用いて、基底状態|0>及びリュードベリ状態|1>の単一原子を各々トラップするために使用しうる。ラビ周波数Ω(t)を用いて原子をコヒーレントに駆動して基底状態をリュードベリ状態にカップリングさせることが可能である。駆動場の周波数を時間依存的に変更させて時間依存デチューニングΔ(t)を引き起こすことが可能である。この駆動はグローバルでありうるか、又はその代わりに特定の時間に特定の場を用いて各原子を個別に駆動可能であるかのどちらかである。2原子u及びvがリュードベリ状態にある場合、それらは相互作用して、2つのトラップ位置間の幾何距離
【数32】
に依存する量Wu,v、たとえば、
【数33】
だけこの構成のエネルギーをシフトする。そのため、トラップされた原子に対するこのアレイのダイナミクスを記述するハミルトニアンは、以下の通りである。
【数34】
ごく近接してトラップされた2原子では、同時にリュードベリ状態を占めるには、きわめてエネルギーコストがかかる。
【0145】
ユニットディスクグラフは幾何学的解釈を有するので。トラップは、ユニットディスクグラフの頂点の配置に従って配置しうる。長さのユニットは、リュードベリブロッケード半径がグラフのユニット距離に対応するように選択される。すなわち、
u,v<Rのとき、Wu,v>Δ(T) (8)
u,v>Rのとき、Wu,v<Δ(T) (9)
量子最適化アルゴリズムは、パラメーターΩ(t)及びΔ(t)を徐々に変化させて、最終的にどの原子がリュードベリ状態にあるかを測定することにより、実験的に実現可能である。発展が十分に低速であれば、これは最大独立集合であろう。発展が完全には断熱的でないが注入エネルギーが少なれば、最終状態は、一般に、「独立集合状態」の重畳であろう。ブロッケード半径内になければ、リュードベリ状態の原子を有する構成である。時間tが長くなるほど、プロトコルにより達成可能な近似比はより良好になる。
【0146】
MIS問題をエンコードする以上に記載の方法は、ブロッケード相互作用よりも小さな相互作用を無視する。長距離相互作用が含まれる場合、トラップの幾何学的配置は、すべてのトラップvが0<Δ+δv<Wv,w∀w|(v,w)∈Eにより規定されるように選択しうる。ただし、
【数35】
は、ブロッケード半径外の相互作用に起因して頂点vのリュードベリ状態の原子で生じうる最大可能エネルギーシフトである。そのため、δvが小さい限り(すなわち、ブロッケード半径外の原子間相互作用を無視できる)、量子アルゴリズムは、最大独立集合問題の解を与える(又は近似する)。
【0147】
図13Aは、ユニットディスクグラフの例を示し、最大独立集合を表す。図13Aに示されるように、ユニットディスクグラフは25頂点(小円1310)及び2.7の頂点密度を有する。より大きな円1330の中心の頂点1320は、最大独立集合からなる(そこで1超である)。より大きな円1330はブロッケード半径を表す。図13Bは、量子アルゴリズムを時間Tにわたり実行したときのサイズkの独立集合を見いだす確率分布を示す。時間Tが長くなるほど、アルゴリズムが大きな(さらには最大の)独立集合を明らかにする確率が高くなる。独立集合のサイズの確率分布は、時間Tを用いたハミルトニアン2の下での発展後の断熱アルゴリズムにより見いだされた。ここで、ユニットは
【数36】
及び
【数37】
となるものである。時間T≒5ですでに、グローバル最適値を見いだす確率は実質的なものである。
【0148】
本開示に記載の技術はまた、いくつかの変形形態又は適用形態を含みうる。たとえば、原子のコヒーレンス性は、中間状態デチューニングを増加させて自然発光をさらに抑制することにより、及びラマンサイドバンドで原子運動を基底状態に冷却して残留ドップラーシフトを排除することにより、改善可能である。z軸の周りの個別キュービット回転は、トラップ光に関連する光のシフトを用いて実現可能であるが、他の方向の周りのコヒーレント回転の個別制御のために第2のAODを使用可能である。コヒーレンス及び制御性のさらなる改善は、キュービットを電子基底状態の超微細サブレベルにエンコードすることにより、及び状態選択的リュードベリ励起を用いて、得られうる。何千ものトラップを作製するために、2次元(2d)の実現を行いうる。かかる2d構成は、2dAODを直接使用することにより、又はトラップの静止2d格子を作成して独立したAODを用いて原子をソートすることにより実現しうる。
【0149】
開示された主題は、その適用が以下の説明に示される又は図面に例示されるコンポーネントの構成及び配置の詳細に限定されるものではないことを理解すべきである。開示された主題は、他の実施形態が可能であるとともに各種方法による実践又は実施が可能である。また、本明細書で利用される表現及び用語は、説明を目的としたものであり、限定するものとみなされるべきでないことを理解すべきである。
【0150】
このため、本開示が依拠する概念は、開示された主題のいくつかの目的を実施するための他の構造、方法、及びシステムの設計の基礎として容易に利用しうることは、当業者であれば分かるであろう。したがって、開示された主題の趣旨及び範囲から逸脱しない限り、請求項は、かかる等価な構築を含むものとみなすことが重要である。
【0151】
以上の模範的実施形態では開示された主題を説明及び例示してきたが、本開示は、単なる例として行われたにすぎず、開示された主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、以下の特許請求の範囲によってのみ限定される開示された主題の実現の詳細に多くの変更を行いうるものと理解される。
【0152】
本明細書に開示される技術及びシステム、たとえば、特定のAOD又はレーザーシステムは、たとえば、ネットワーク、コンピューターシステム、又はコンピューター電子デバイスに使用されるコンピュータープログラム製品を用いることにより、制御しうる。かかる実現は、タンジブル媒体、たとえば、コンピューター可読媒体(たとえば、ディスケット、CD-ROM、ROM、フラッシュメモリー、若しくは他のメモリー、又は固定ディスク)に固定されているか、或いはモデム又は他のインターフェースデバイス、たとえば、媒体によりネットワークに接続された通信アダプターを介して、ネットワーク、コンピューターシステム、又はデバイスに伝達可能であるか、のどれかの一連のコンピューター命令又はロジックを含みうる。
【0153】
媒体は、タンジブル媒体(たとえば、光学ライン又はアナログ通信ライン)又は無線技術(たとえば、Wi-Fi、セルラー、マイクロ波、赤外線、他の伝送技術)を用いて実現された媒体のどちらかでありうる。一連のコンピューター命令は、システムに関連して本明細書に記載された機能の少なくとも一部を具現化する。そのかかるコンピューター命令は、多くのコンピューターアーキテクチャー又はオペレーティングシステムで使用するために、いくつかのプログラミング言語で書くことが可能であることは、当業者であれば分かるはずである。
【0154】
そのうえさらに、かかる命令は、いずれかのタンジブルメモリーデバイス、たとえば、半導体、磁気、光学、又は他のメモリーデバイスに記憶しうるともに、いずれかの通信技術、たとえば、光学、赤外線、マイクロ波、又は他の伝送技術を用いて伝送しうる。
【0155】
かかるコンピュータープログラム製品は、印刷若しくは電子ドキュメントが添付されたリムーバブル媒体として配布しうるか(たとえば、シュリンクラップソフトウェア)、コンピューターシステムにプレロードしうるか(たとえば、システムROM若しくは固定ディスク上)、又はネットワーク(たとえば、インターネット若しくはワールドワイドウェブ)を介してサーバー若しくは電子ブレティンボードから配布しうることが予想される。当然ながら、本発明のいくつかの実施形態は、ソフトウェア(たとえば、コンピュータープログラム製品)及びハードウェアの両方の組合せとして実現しうる。本発明のさらに他の実施形態は、完全ハードウェア又は完全ソフトウェア(たとえば、コンピュータープログラム製品)として実現される。
【0156】
以上の説明では、ある特定の工程又はプロセスは、特定のサーバー上で又は特定のエンジンの一部として実施可能である。限定されるものではないがサーバーシステム及び/又はモバイルデバイスをはじめとする各種ハードウェアデバイス上で特定の工程を実施可能であるので、これらの説明は単に例示的なものにすぎない。代替的又は追加的に、物理サーバー自体上で実行される仮想機械上で本明細書に記載の工程のいずれか又はすべてを実施可能である。同様に、特定の工程が実施される分割はさまざまでありうるとともに、分割なし又は異なる分割は、本発明の範囲内であることを理解されたい。さらに、「モジュール」の使用及び/又はコンピューターシステム処理を記述するために用いられる他の用語は同義的あり、且つ機能を実行できるロジック又は回路を表すことが意図される。
本発明の態様として以下のものが挙げられる。
項1
第1のアレイ状態の原子アレイを形成することであって、前記形成することが、
複数の離散アジャスタブル音響トーン周波数で結晶を励起することと、
前記結晶にレーザーを通して複数の閉込め領域を作成することであって、各音響トーン周波数が単一原子の個別閉込め領域に対応する、作成することと、
少なくとも2つの原子を前記複数の閉込め領域の少なくとも2つにトラップすることと、
前記トラップされた原子を含有する前記閉込め領域を同定するように前記離散アジャスタブル音響トーン周波数を相関付けることと、
少なくとも1つの相関付けられたアジャスタブル音響トーン周波数をスイープすることにより、前記トラップされた原子の少なくとも2つの間の間隔を調整することと、
を含む、形成することと、
前記トラップされた原子の少なくともいくつかを光子エネルギーに暴露して前記トラップされた原子の少なくともいくつかを励起状態に遷移させることにより、前記第1のアレイ状態の複数の原子を第2のアレイ状態の複数の原子に発展させることと、
前記第2のアレイ状態の複数の原子を観測することと、
を含む、方法。
項2
前記励起状態がリュードベリ状態である、項1に記載の方法。
項3
前記第1のアレイ状態の複数の原子が7~51原子を含む、項1に記載の方法。
項4
前記複数の原子を発展させることが、前記原子の少なくともいくつかを光子エネルギーに暴露する前に、前記第1のアレイ状態の原子の少なくともいくつかを基底状態のゼーマン副準位で準備することを含む、項1に記載の方法。
項5
前記第1のアレイ状態の原子を基底状態のゼーマン副準位で準備することが、磁界における光ポンピングを含む、項4に記載の方法。
項6
前記原子の少なくともいくつかを光子エネルギーに暴露することが、2つの異なる波長を有する光を適用することを含み、前記原子の少なくともいくつかを励起状態に遷移させることが、2光子遷移を含む、項1に記載の方法。
項7
前記2つの異なる波長が約420nm及び約1013nmである、項6に記載の方法。
項8
第3の波長で位相ゲートを適用することをさらに含む、項6に記載の方法。
項9
前記第3の波長が約809nmである、項8に記載の方法。
項10
前記原子の少なくともいくつかを光子エネルギーに暴露することが、2つのπ/2パルスを適用することを含む、項1に記載の方法。
項11
前記原子の少なくともいくつかを光子エネルギーに暴露することが、前記2つのπ/2パルス間にπパルスを適用することをさらに含む、項10に記載の方法。
項12
前記少なくとも2つの原子をトラップすることが、前記少なくとも2つの原子を原子雲からトラップすることと、前記複数の閉込め領域の1つにトラップされない原子を前記原子雲から分散させることを含む、項1に記載の方法。
項13
前記結晶及びレーザーが、第1の制御音響光学偏向器(AOD)を含み、且つ前記少なくとも2つの原子をトラップすることが、2次元に離間した少なくとも3つのトラップを有する保持トラップアレイから原子をトラップすることを含む、項1に記載の方法。
項14
前記保持トラップアレイが、少なくとも1つの保持AOD、空間光変調器(SLM)、及び光格子の少なくとも1つにより発生される、項13に記載の方法。
項15
前記第1の制御AODと交差関係で構成された第2の制御AODをさらに含み、且つ前記トラップされた原子を含有する閉込め領域を同定するように前記離散アジャスタブル音響トーン周波数を相関付けることが、前記第1の制御AOD及び前記第2の制御AODの離散アジャスタブル音響トーン周波数に相関付けることを含み、且つ前記トラップされた原子の少なくとも2つの間の間隔を調整することが、前記第1の制御AOD又は前記第2の制御AODの少なくとも1つの相関付けられたアジャスタブル音響トーン周波数をスイープすることを含む、項13に記載の方法。
項16
前記トラップされた原子の少なくとも2つの間の間隔を調整することが、列の複数の原子の位置を調整することをさらに含む、項15に記載の方法。
項17
前記第1の原子アレイに隣接して第3のアレイ状態の第2の原子アレイを形成することをさらに含み、前記形成することが、
複数の第2の離散アジャスタブル音響トーン周波数で第2の結晶を励起することと、
前記第2の結晶に第2のレーザーを通して複数の第2の閉込め領域を作成することであって、各第2の音響トーン周波数が単一原子の個別の第2の閉込め領域に対応する、作成することと、
少なくとも2つの第2の原子を前記複数の第2の閉込め領域の少なくとも2つにトラップすることと、
前記トラップされた原子を含有する前記第2の閉込め領域を同定するように前記第2の離散アジャスタブル音響トーン周波数を相関付けることと、
少なくとも1つの第2の相関付けられたアジャスタブル音響トーン周波数をスイープすることにより、前記トラップされた第2の原子の少なくとも2つの間の間隔を調整することと、
を含み、
前記トラップされた原子の少なくともいくつかを光子エネルギーに暴露して前記トラップされた原子の少なくともいくつかを励起状態に遷移させることにより、前記第1のアレイ状態の複数の原子を第2のアレイ状態の複数の原子に発展させることが、前記第2のトラップされた原子の少なくともいくつかを光子エネルギーに暴露して前記第2のトラップされた原子の少なくともいくつかを励起状態に遷移させることにより、前記第3のアレイ状態の複数の第2の原子を第4のアレイ状態の複数の第2の原子に発展させることをさらに含み、且つ
前記第2のアレイ状態の複数の原子を観測することが、前記第4のアレイ状態の複数の第2の原子を観測することをさらに含む、項1に記載の方法。
項18
少なくとも1つの相関付けられたアジャスタブル音響トーン周波数をスイープすることにより、前記トラップされた原子の少なくとも2つの間の間隔を調整することが、量子計算問題をエンコードすることを含み、
前記第1のアレイ状態の複数の原子を前記第2のアレイ状態の複数の原子に発展させることが、前記量子計算問題の解を生成し、且つ
前記第2のアレイ状態の複数の原子を観測することが、前記量子計算問題の解を読み取ることを含む、項1に記載の方法。
項19
前記量子計算問題が、イジング問題及び最大独立集合(MIS)最適化問題の少なくとも1つを含む、項18に記載の方法。
項20
第1のアレイ状態の原子アレイを配置するための閉込めシステムであって、前記閉込めシステムが、結晶と、複数の離散アジャスタブル音響トーン周波数を前記結晶に選択的に印加するように構成されたアジャスタブル音響トーン周波数印加源と、前記結晶に光を通して複数の閉込め領域を作成するように配置されたレーザー源と、を含み、各音響トーン周波数が個別閉込め領域に対応する、閉込めシステムと、
原子雲源であって、前記原子雲が、前記複数の閉込め領域に少なくとも部分的にオーバーラップするように位置決め可能である、原子雲源と、
前記第1のアレイ状態の複数の原子の少なくともいくつかを第2のアレイ状態の複数の原子に発展させるための励起源であって、前記励起源が少なくとも1つの光子エネルギー源を含む、励起源と、
前記第2のアレイ状態の複数の原子を観測するための観測システムと、
を含むシステム。
項21
前記励起源が、前記第1のアレイ状態の複数の原子の少なくともいくつかをリュードベリ状態に励起するように構成される、項20に記載のシステム。
項22
前記第1のアレイ状態の複数の原子が5~51原子を含む、項20に記載のシステム。
項23
前記励起源が、前記原子の少なくともいくつかを光子エネルギーに暴露する前に、前記第1のアレイ状態の複数の原子の少なくともいくつかを基底状態のゼーマン副準位に励起するように構成される、項20に記載のシステム。
項24
前記励起源が、光ポンピングシステムと磁界発生器とをさらに含む、項23に記載のシステム。
項25
前記少なくとも1つの光子エネルギー源が、前記第1のアレイ状態の複数の原子の少なくともいくつかの2光子遷移を生成するために、第1の波長及び第2の波長を有する光源を含む、項20に記載のシステム。
項26
前記2つの異なる波長が約420nm及び約1013nmである、項25に記載のシステム。
項27
前記少なくとも1つの光子エネルギー源が、位相ゲートを適用するための第3の波長を有する光源を含む、項25に記載のシステム。
項28
前記第3の波長が約809nmである、項27に記載のシステム。
項29
前記励起源が、2つのπ/2パルスを適用するように構成される、項28に記載のシステム。
項30
前記励起源が、前記2つのπ/2パルス間にπパルスを適用するように構成される、項29に記載のシステム。
項31
前記閉込めシステムが第1の制御音響光学偏向器(AOD)であり、且つ前記システムが、2次元に離間した少なくとも3つのトラップを有する保持トラップアレイをさらに含み、前記保持トラップアレイが、保持トラップ源により発生される、項20に記載のシステム。
項32
前記保持トラップ源が、少なくとも1つの保持AOD、空間光変調器(SLM)、及び光格子の少なくとも1つを含む、項31に記載のシステム。
項33
前記第1の制御AODと交差関係の第2の制御AODをさらに含み、前記第1の制御AODが、光ビームの偏向を第1の方向に制御し、且つ前記第2の制御AODが、前記第1のAODからの光ビームの偏向を前記第1の方向とは異なる第2の方向に制御する、項31に記載の方法。
項34
前記閉込めシステムが第1の制御音響光学偏向器(AOD)であり、且つ前記システムが、前記第1の制御AODとスタック関係の第2の制御AODをさらに含み、前記第1の制御AODが、第1の方向を有する第1のアレイの複数の閉込め領域を生成するように構成され、且つ前記第2の制御AODが、前記第1の方向に実質的に平行な第2のアレイの複数の閉込め領域を生成するように構成される、項20に記載の方法。
項35
レーザー出力を生成するためのレーザー源と、
前記レーザー源を制御するレーザー源コントローラーと、
前記レーザー出力の少なくともいくらかを受け取って前記レーザー出力を安定化させるために前記レーザー源コントローラーにフィードバック信号を提供する前記レーザー源に光結合されたパウンド・ドレバー・ホール(PDH)ロックと、
前記レーザー源に光結合された参照光学キャビティーであって、前記参照光学キャビティーが、前記レーザー出力の少なくともいくらかを受け取って参照光学キャビティー出力を透過するように構成され、前記参照光学キャビティー出力が、参照光学キャビティー透過ウィンドウの範囲内のレーザー出力の少なくともいくらかの一部に対応する、参照光学キャビティーと、
前記参照光学キャビティーに光結合された光アイソレーターであって、前記光アイソレーターが、前記参照光学キャビティー出力をスプリットしてスプリットされた参照光学キャビティー出力の少なくとも一部をファブリー・ペローレーザーダイオードに提供して前記参照光学キャビティー出力にインジェクションロックするように構成され、前記光アイソレーターが、インジェクションロックされた光を前記トラップされた原子の少なくともいくつかに提供する、光アイソレーターと、
を含む、トラップされた原子のアレイを制御するためのシステム。
項36
前記PDHが、前記レーザー出力の少なくともいくらかを受け取って前記レーザーコントローラーに光検出器信号を出力する光検出器をさらに含む、項35に記載のシステム。
項37
前記第1のレーザー出力とは異なる波長の第2のレーザー出力を提供するための第2のレーザー源をさらに含む、項35に記載のシステム。
項38
前記第2のレーザー源を制御する第2のレーザー源コントローラーと、
前記第2のレーザー出力の少なくともいくらかを受け取って前記第2のレーザー出力を安定化させるために前記第2のレーザー源コントローラーに第2のフィードバック信号を提供する前記第2のレーザー源に光結合された第2のパウンド・ドレバー・ホール(PDH)ロックと、
前記第2のレーザー源に光結合された第2の参照光学キャビティーであって、前記第2の参照光学キャビティーが、前記第2のレーザー出力の少なくともいくらかを受け取って第2の参照光学キャビティー出力を透過するように構成され、前記第2の参照光学キャビティー出力が、第2の参照光学キャビティー透過ウィンドウの範囲内の前記第2のレーザー出力の少なくともいくらかの一部に対応する、第2の参照光学キャビティーと、
前記第2の参照光学キャビティーに光結合された第2の光アイソレーターであって、前記第2の光アイソレーターが、前記第2の参照光学キャビティー出力をスプリットして前記スプリットされた第2の参照光学キャビティー出力の少なくとも一部を第2のファブリー・ペローレーザーダイオードに提供して前記第2の参照光学キャビティー出力にインジェクションロックするように構成され、前記第2の光アイソレーターが、第2のインジェクションロックされた光を前記トラップされた原子の少なくともいくつかに提供する、第2の光アイソレーターと、
をさらに含む、項37に記載のシステム。
項39
前記第2のレーザー源が約1013nmの光を生成する、項38に記載のシステム。
項40
前記第2の参照光学キャビティー及び前記第1の参照光学キャビティーが同一エレメントである、項38に記載のシステム。
項41
前記第1のインジェクションロックされた光及び前記第2のインジェクションロックされた光が、前記トラップされた原子の少なくともいくつかに対向伝搬構成で提供される、項38に記載のシステム。
項42
前記第1のレーザー源が約420nmの光を生成する、項35に記載のシステム。
項43
前記インジェクションロックされた光を前記トラップされた原子の少なくともいくつかにフォーカスさせるように構成された、前記光アイソレーターと前記トラップされた原子のアレイとの間に光学的に位置決めされた光学素子をさらに含む、項35に記載のシステム。
項44
前記インジェクションロックされた光をアライメントするために、前記インジェクションロックされた光の少なくとも一部をピックオフするように構成された空間分解イメージングデバイスをさらに含む、項35に記載のシステム。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2
図3
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図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
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図7B
図7C
図7D
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