(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】非侵襲的ヒト優位半球の大脳運動性言語野判定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/246 20210101AFI20221207BHJP
【FI】
A61B5/246
(21)【出願番号】P 2018137499
(22)【出願日】2018-07-23
【審査請求日】2021-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤木 稔
【審査官】外山 未琴
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-511242(JP,A)
【文献】特開2005-095591(JP,A)
【文献】特表2014-522274(JP,A)
【文献】下地広泰ら,渦電流収束効果を用いた連続経頭蓋磁気刺激用コイルの開発,第23回「電磁力関連のダイナミクス」シンポジウム 講演論文集,2011年06月03日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単相極性で磁気刺激を与えるコイルを脳の標的部位の直上に設置し、磁気によって生じる脳内渦電流の方向を脳の後方から前方の一方向とすることを特徴とする、非侵襲的に脳の言語機能マッピングを行うためのシステムであって、
経頭蓋磁気刺激(TMS)コイルデバイスと、
前記TMSコイルデバイスに接続され、該TMSコイルデバイスに磁場を生成させ、制御することが可能な刺激制御部であって、該刺激制御部は
、複数個の連結した磁気刺激装置で構成される刺激制御部と、
1つ以上のプロセッサを有する少なくとも1つの端末であって、該プロセッサは、
磁気刺激による被検者の脳エリアの反応を決定、記録及び/又は入力するステップと、
刺激された脳エリアが優位半球の大脳運動性言語野における認知機能に関与しているか否かを判断するステップと、
を実行するように構成される、少なくとも1つの端末と、
を備える、言語機能マッピングを行うためのシステム。
【請求項2】
磁気刺激が、以下のパターン:
(i)連続して周期1~20msecで刺激する;
(ii)一定の間隔を空ける;及び
(iii)上記(i)及び(ii)を繰り返す
であることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
刺激制御部が8個の磁気刺激装置で構成され、磁気刺激が連続して2.5msecで刺激するものである、請求項2に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳の優位半球の大脳運動性言語野を非侵襲的にマッピングするための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳の活動は電流の発生を伴うことがよく知られている。脳の活動電流を外部から制御することを目的に、脳に電極を差し込むことによって脳機能の診断・治療が行われている。しかしながら、脳に電極を差し込む手術はきわめて危険であるとともに、信号電流の供給も電極に接続したコードを介する必要がある。
【0003】
他方、経頭蓋磁気刺激(TMS:Transcranial Magnetic Stimulation)は電磁誘導の法則を利用して、神経にパルス磁場又は交流磁場を与えることによって脳に電流を誘起し、電気刺激類似の診断・治療を行うことに利用されている。しかしながら、現在の経頭蓋磁気刺激に関する技術としては、O型(円形)コイル、あるいは8の字型コイルが専ら用いられているが、医療現場の電力制限に起因して、磁気刺激が可能な深さは、脳表面から1~2cm程度の浅い部分に限られている(特許文献1及び特許文献2)。したがって、脳深部の効果的な診断・治療に使用できる設備があるとは言えない状況にある。
【0004】
そこで、本発明者らは、上記のような、励磁電源の容量を大きくすることができないという事情に鑑み、脳深部まで刺激することができる渦電流収束効果を用いたコイルを開発してきた(非特許文献1)。しかしながら、こうしたコイルを利用して、非侵襲的にヒト優位半球の大脳運動性言語野を判定(マッピング)する技術は開発されていない。
【0005】
一方で、市販のコイルを用いて、ヒトの大脳言語機能マッピングを試みた例はあるが(非特許文献2及び非特許文献3)、いずれも有効周波数5Hz刺激を用いているため、言語領域マッピングの精度が著しく悪く、再現性を欠くという短所を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-187149号公報
【文献】特開2012-000341号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】下地広泰他、「渦電流収束効果を用いた連続経頭蓋磁気刺激用コイルの開発」、電磁力関連のダイナミックスシンポジウム講演論文集、2011年、23rd、401-406頁
【文献】Lioumis,P.,et al.,J.Neurosci.Methods,204,349-54(2012)
【文献】Krieg,S.M.,et al.,Neuroimage.,100,219-36(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、開頭手術や脳表電気刺激又は麻酔薬の動脈注射によってのみ判定可能なヒト優位半球の大脳運動性言語野を非侵襲的に頭蓋外からマッピングし、その機能状態を客観的に数値化するための装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ヒト優位半球の大脳運動性言語野の機能状態を特異的に判定できる刺激プログラムを開発し、これを実行可能な装置を設計、試作機を経て、より汎用性をもたせるための改良を重ねた。開発した刺激強度・極性・周波数パターンは既存法の約50%の刺激強度で特異的部位計測及び機能判定をすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]非侵襲的に脳の言語機能マッピングを行うためのシステムであって、
経頭蓋磁気刺激(TMS)コイルデバイスと、
前記TMSコイルデバイスに接続され、該TMSコイルデバイスに磁場を生成させることが可能な刺激制御部と、
1つ以上のプロセッサを有する少なくとも1つの端末であって、該プロセッサは、
磁気刺激による被検者の脳エリアの反応を決定、記録及び/又は入力するステップと、
刺激された脳エリアが優位半球の大脳運動性言語野における認知機能に関与しているか否かを判断するステップと、
を実行するように構成される、少なくとも1つの端末と、
を備える、言語機能マッピングを行うためのシステム。
[2]磁気刺激が、以下のパターン:
(i)連続して周期1~20msecで刺激する;
(ii)一定の間隔を空ける;及び
(iii)上記(i)及び(ii)を繰り返す
であることを特徴とする、上記[1]に記載のシステム。
[3]磁気刺激を与えるコイルを脳の標的部位の直上に設置し、磁気によって生じる脳内渦電流の方向を脳の後方から前方の一方向とすることを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載のシステム。
[4]上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のシステムを用いて非侵襲的に脳の言語機能をマッピングする方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシステム及び方法を用いることにより、既存法の約50%の刺激強度で、侵襲的に脳の言語機能マッピングを再現よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1Aは、脳の言語機能をマッピングする際に用いることができるシステムの全体像を示す。
図1Bは、TMSコイルデバイス(104)を除く、システム全体の画像である。
【
図2】TMSコイルデバイスとして使用可能な典型的なコイルを示す。(A)O型コイル(又は円形コイル)、(B)8の字型コイル。
【
図3】
図3は、渦電流収束技術の動作原理を示す説明図である。
【
図4】磁気刺激に使用される周波数パターンの一例を示す図である。「Trig」は、磁場刺激のタイミングを規定する入力を指し、「STIM OUT」は、磁場刺激装置からの磁気刺激出力を指す。
【
図5】磁気刺激に使用される周波数パターンの一例を示す図である。
【
図6】磁気刺激に使用される周波数パターンの一例を示す図である。
【
図7】磁気刺激に使用される周波数パターンの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明によれば、経頭蓋磁気刺激(TMS)コイルデバイスを備えた、非侵襲的に脳の言語機能マッピングを行うためのシステムが提供される。本発明は、該コイルデバイスによる磁気刺激が特定のパターンを有することを特徴とする。また、本発明によれば、上記システムを用いて、非侵襲的に脳の言語機能マッピングを行うための方法が提供される。以下、本発明をより具体的に説明する。
【0014】
(1)非侵襲的に脳の言語機能マッピングを行うためのシステム
図1は、脳の言語機能をマッピングする際に用いることができるシステム100の一例を示している。システム100は、端末101によって制御される。端末101は、複数個の磁気刺激装置102、各磁気刺激装置から発生される磁気刺激を統合し、経頭蓋磁気刺激(TMS)コイル104の駆動を制御するモジュール103、及び該TMSコイルデバイスを備える。
【0015】
(2)磁気刺激装置
「磁気刺激装置」とは、モジュールを介してTMSコイルに接続され、該TMSコイルデバイスに磁場を生成させ、制御するための装置部を指す。磁気刺激装置は、通常、刺激デバイス及び刺激制御ソフトウェアにパルスを送信するデバイスを備える。刺激制御デバイスは、経頭蓋磁気刺激装置とすることができる。TMSが自己完結型の動作及び刺激制御プログラムを含むこともできるし、刺激制御部をシステムの別の部分において、例えば自身の端末又は共有端末において管理することもできる。
【0016】
磁気刺激用の経頭蓋磁気刺激(TMS)コイルを用いて、対象の脳に磁気刺激を行うには、TMSコイルが発生するパルス的な磁場がコイル表面で1T以上必要とするため、TMSコイルを駆動する電源はコンデンサに数kVの電圧で充電し、充電したエネルギーを数ターンの刺激コイルに供給することで得られる。このときのコイルに流れる電流は数kAに達する。磁気刺激装置は、TMSコイルとコイルを駆動する電源装置および刺激の強さと間隔を調整する制御装置から構成されている。
【0017】
刺激制御ソフトウェアは、タイミング、強度、パルスモード、パルス数、パルス周波数等のパラメータを制御する。パラメータのうちの任意のもの又は全てをシステムによって自動的に制御することができるか、オペレータによって個々に制御することができるか、又はそれらの組合せとすることができる。刺激制御部はいくつかの入力を有することができ、例えば、2つ以上のコントローラによって部分的に制御することができる。
【0018】
本発明によれば、本システムにおいて磁気刺激装置を2つ以上使用することを特徴とする。例えば、
図1に示されるように、独立した単発の磁気刺激装置を8つ使用してもよい。具体的には、磁気刺激装置は、各々、Magstim社製の単相性(
monophasic)単発刺激装置マグスティム200スクエアを用いることができる。
【0019】
上記の各磁気刺激装置から発生された磁気刺激をモジュール103においてまとめ、該モジュールによりTMSコイル104の駆動が制御され、所定のパターンを有するパルスで磁気刺激を行うことができる。
【0020】
(3)経頭蓋磁気刺激法
本発明の非侵襲的な脳の言語機能マッピングは、経頭蓋磁気刺激法を利用する。経頭蓋磁気刺激法は、急激な磁場の変化によって弱い電流を組織内に誘起させることにより、脳内のニューロンを興奮させる非侵襲的な方法である。より具体的には、この磁気刺激は、ファラデーによって発見された磁気誘導の法則に基づくものであり、コイルに電流が流れた場合、同時に垂直に磁場が発生するが、その磁場によって脳に二次電流が発生する。この微量の電流を利用して脳細胞に刺激を与えるものである。一般に磁気刺激と言っているが、実際には微弱な電気刺激である(本明細書においては、「磁気刺激」と記載する)。例えば、脳の運動野がこの磁気刺激を受けると、前記二次電流が運動野の細胞を刺激して足や手指を動かすことができるのがその具体例である。
【0021】
(4)経頭蓋磁気刺激(TMS)コイルデバイス
TMSコイルデバイスとは、上記の経頭蓋磁気刺激法に使用されるコイルデバイスを指す。磁界の強さは電界と同様に距離の二乗で減衰する。したがって、コイルが発生する磁界によって脳深部を磁気刺激する場合に、最も問題となるのは脳の深部よりも表面が強い磁界にさらされることである。電界と同様に磁界も別の磁界によって打ち消すことができるが、コイル表面近傍の磁界を打ち消すと、脳深部に達する磁界も消滅する。このような理由により脳深部の磁気刺激は試みられていない。本発明によれば、脳深部を局所的に磁気刺激することができる経頭蓋磁気刺激用の収束磁界発生コイルの使用を特徴とする。これは、現在市場に流通しているいかなる磁気刺激装置の10~20数倍の局所限局性と刺激強度を有する。実際に使用され得るコイルとしては、磁気刺激の強さや刺激部位の違いよって、数種類の大きさの円形コイルや8の字型コイルを使い分けることができる(
図2参照)。例えば、8の字型コイルとしては、Magstim社製の「70mmダブルコイル(型式9925-00)」が例示される。この8の字型コイルは、コイルのそれぞれのループに逆向きに電流を流すと交点部分が局所的に磁場が高くなるという特徴を有し、また、刺激の方向性を有する。さらに、各磁場刺激の間隔を運動性言語領域マッピングに最適な条件(例えば、400Hz、弱刺激強度)に調整することができる。なお、本発明によれば、上記コイルを用いて言語機能マッピングを行う場合、所望の結果が得られれば、特に周波数を限定する必要はないが、周波数は50Hz以上であればよい。
【0022】
本発明によれば、磁気刺激コイルとして渦電流収束技術を使用してもよい。この渦電流収束技術は中心部に一部導通しているスリットを設け、外周に続く溝を備えた銅などでできた導電板とその外周に渦電流励起用のコイル巻線で構成され得る。
図3に渦電流収束技術の動作原理を示す。励磁コイルより発生された磁場に対して、妨げる方向に渦電流が流れる。この渦電流の流路を制御するため、中心に十字にスリットを備える。ただし、中心下部に導通部分を設けることにより渦電流をこれに集中させることが可能である。外周を流れる渦電流はAA断面のスリットによって上部から下部に流れ、最下部の導通部分を通って上部に戻る。渦電流収束コイルでは、励磁コイルよりも、渦電流の集中する領域の直下で大きな磁束密度を発生させることができ、また、磁束密度を中心付近に集中させることができる。
【0023】
(5)脳の言語機能マッピング測定
本発明は、上記システムを用いて、ヒト優位半球の大脳運動性言語野機能判定を行うことができる。本発明によれば、該システムにおいて、独立した単発の磁気刺激装置を複数個連結して使用することを特徴とするが、本マッピング測定は、後述するように、磁気刺激の周波数及び刺激パターンによってさらに特徴付けられる。また、本発明に使用される上記コイルデバイスは、脳の標的部位の直上に設置され、磁気によって生じる脳内渦電流の方向を脳の後方から前方の一方向とさせることを特徴とする。
【0024】
「優位半球」とは、左右の大脳半球のうち、ある特定の機能に密接に関係している大脳半球を指し、一方、ある特定の機能に関係していない大脳半球を劣位半球と呼ぶ。左大脳半球が言語機能に密接に関係している場合、左大脳半球が言語優位半球である。またこのように大脳半球間で、ある機能に果たす役割が異なっており、一方の大脳半球で優れていることを半球優位性と呼ぶ。
【0025】
半球優位性が最も明確に確認されている機能は言語で、一側性皮質損傷後の失語症の出現率やWada testの結果から、右利き成人の95%程度は左半球優位であり、左利き成人では60~70%程度が左半球優位であるとされることが多い。この左半球優位性の説明として、左半球のブローカ野が右半球の相同領域よりも大きいとする結果が報告されている一方で、差がないとする結果も報告されており現段階でコンセンサスが得られているとは言い難い。最近では、右利きにおける左半球への言語機能の側性化の頻度が、家族に左利きがいるかどうかや右手をどれくらい頻繁に使用するかに影響されることが報告されている。本発明によって行われるマッピングでは、特に運動性言語野(ブローカ野)を対象とする。
【0026】
複数個の磁気刺激装置により生成及び制御されるパルス磁場は、特定の周波数パターンによって生じたものであり得る。磁気刺激として、限定されないが、以下のパターン:
(i)連続して周期1~20msec(50Hz以上)で刺激する;
(ii)一定の間隔を空ける;及び
(iii)上記(i)及び(ii)を繰り返す
であることが例示される。
【0027】
例えば、磁気刺激装置を8つ連結した場合では、連続して8つの刺激パルスを発生させ、任意の期間でパルス刺激しないというパターンを設けることができる。この場合、8つの刺激パルスの各刺激パルスは、限定されないが、例えば、2.5ms(400Hz)とすることができる。
【0028】
また、上記(i)及び(ii)は、所望の結果が得られるまで繰り返すことができ、限定されないが、少なくとも1回であればよく、例えば、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回、12回、13回、14回、15回、20回、30回、40回、50回、60回、70回、80回、90回、100回、110回、120回、130回、140回、150回、160回、170回、180回、190回、200回、250回、300回、400回、500回、またはそれらを超える回数が挙げられる。ここで、例示的であるが、
図4~6において、磁気刺激のための周波数パターンが示される。
図4は、各磁気刺激装置(「No.1」など)から1つのパルスを発生させ、3つのパルスによる磁気刺激後に一定の間隔を空けたパターンを示す。
図5は、各磁気刺激装置では、パルス発生後に一定の間隔を空けるが、対象への磁気刺激は連続的となるパターンを示す。
図6は、8つの磁気刺激装置を用いた周波数パターンを示す。各磁気刺激装置から発生されるパルス間隔は、シンボル間干渉(Inter Symbol Interference;ISI)として示され、ここで、ISI=2.5ms(400Hz)として例示される。また、8つの刺激パルス(バースト(burst))を発生後、所定の間隔を空けて、さらに8つの刺激パルスを発生させ、磁気刺激を行うパターンである。
図7では、バースト間干渉(Inter Burst Interference;IBI)は、10sとして例示される。
図7は、いくつかの例示的な磁気刺激の周波数パターンを例示している。5Hz周波数は、刺激パルス同士の間隔は200msであり、50Hz周波数は20msである。開頭術中に用いる電気刺激50Hz、すなわち脳に20ms間隔の刺激が一定の強度以上で、数秒以上連続して刺激が入った場合のみ言語停止が起こり、運動性言語領域同定が可能である。術中でもこのモードは全身性けいれんを誘発し危険を伴うことから、できれば覚醒した人の脳刺激では使用しないことが好ましい。市販磁気刺激装置は50Hzモードで著しく刺激強度を減じるため、実際けいれんの頻度が高いとの報告がない。本発明者らは、50Hzよりも高い周波数である400Hzであっても8パルス程度の非常に短い持続時間であれば、さらに25%程度の弱い刺激強度でけいれんを誘発することがなく言語停止を誘発することが可能であることを見出している。したがって、本発明によれば、開頭術中でない、覚醒した人の脳を皮膚の上から磁気刺激し、開頭術中と同様に、手術前に言語領域を判断することができる。
【0029】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
本発明のシステムを用いて、脳の言語領域マッピングの精度を検証した。市販されている磁気刺激装置が有効強度を持って刺激可能な周波数は5Hzであるが、既報(Lioumis,P.,et al.,J.Neurosci.Methods,204,349-54(2012);及びKrieg,S.M.,et al.,Neuroimage.,100,219-36(2014))では再現性が悪かった。また、術中の電気刺激で用いる50Hzの周波数では刺激強度が等比級数的に減衰し、有効な刺激にならなかった。これと比較して、本発明のシステムを用いることにより、ほぼ95%の症例において、運動性言語領域マッピングが再現性良く行うことができた(
図7)。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のシステム及び方法を用いることにより、既存法の約50%の刺激強度で特異的部位計測及び機能判定をすることができる。
【0032】
本明細書に引用する全ての刊行物及び特許文献は、参照により全体として本明細書中に援用される。なお、例示を目的として、本発明の特定の実施形態を本明細書において説明したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の改変が行われる場合があることは、当業者に容易に理解されるであろう。
【符号の説明】
【0033】
100 システム
101 端末
102 磁気刺激装置
103 モジュール
104 TMSコイル