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特許7189609飲料抽出用シート材および飲料抽出用バッグ
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  • 特許-飲料抽出用シート材および飲料抽出用バッグ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】飲料抽出用シート材および飲料抽出用バッグ
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/53 20060101AFI20221207BHJP
   A47J 31/06 20060101ALI20221207BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20221207BHJP
   D06M 13/256 20060101ALI20221207BHJP
   D06M 13/262 20060101ALI20221207BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20221207BHJP
   D06M 101/34 20060101ALN20221207BHJP
【FI】
D06M15/53
A47J31/06 130
D06M13/17
D06M13/256
D06M13/262
D06M101:32
D06M101:34
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019011764
(22)【出願日】2019-01-27
(65)【公開番号】P2020117841
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】396015057
【氏名又は名称】大紀商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144509
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋三
(74)【代理人】
【識別番号】100076244
【弁理士】
【氏名又は名称】藤野 清規
(72)【発明者】
【氏名】石原 良一
(72)【発明者】
【氏名】村岡 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】山口 南生子
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特許第2940263(JP,B2)
【文献】特許第3939326(JP,B2)
【文献】特開2013-087365(JP,A)
【文献】特開2004-176226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 31/00 - 31/60
B65D 67/00 - 79/02
B65D 81/18 - 81/30
B65D 81/38
B65D 85/88
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のA成分と、下記のB成分とC成分のいずれか一方または両方を合わせたものとを、70:30~95:5の割合で含有してなる処理剤を、ポリエステル系繊維またはポリアミド系繊維により形成された長繊維不織布、織物または編物に、0.001~1.00%となるように付着させてあり、表面抵抗値が2.00×1013Ω以下であることを特徴とする飲料抽出用シート材。
A成分:下記の化学式1で示される、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル。
化学式1・・・R1-O-(CH2-CH2-O)n-H
(化学式1において、R1は炭素数8~18のアシル基、nは1~30の整数。)
B成分:下記の化学式2で示される、直鎖アルキルスルホン酸塩。
化学式2・・・R2-SO3 X1
(化学式2において、R2は炭素数10~18の直鎖脂肪族炭化水素基、X1はナトリウムまたはカリウム。)
C成分:下記の化学式3で示される、脂肪族炭化水素硫酸エステル塩。
化学式3・・・R3-SO3 X2
(化学式3において、R3は炭素数10~18の動植物油脂由来のアルコキシ基、X2はナトリウムまたはカリウム。)
【請求項2】
請求項1において、上記処理剤を、上記の長繊維不織布、織物または編物に、0.001~0.25%となるように付着させてあることを特徴とする飲料抽出用シート材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の飲料抽出用シート材によって形成されていることを特徴とする飲料抽出用バッグ。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶葉、ハーブまたは粉末コーヒーなどの抽出材料から飲料を抽出することができる飲料抽出用シート材と、その飲料抽出用シート材に対して裁断・溶着などの加工を施して製造された飲料抽出用バッグに関し、特に、水や湯を短時間で透過可能とする瞬時透水性に優れ、静電気を帯び難い制電性に優れた飲料抽出用シート材と、その飲料抽出用シート材を用いて製造される飲料抽出用バッグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紅茶、緑茶、ハーブ、コーヒー、スープなどの飲料の抽出に用いる飲料抽出用バッグの材料である飲料抽出用シート材には、加工の自由度やコスト低減などの観点から、PETやポリ乳酸等の合成樹脂製の長繊維不織布や織物が多く採用されている。
しかし、PETやポリ乳酸等の合成樹脂は、その多くが疎水性であることから、このような合成樹脂製の不織布や織物で飲料抽出用シート材を作成した場合には、水や湯を、シート材の表面で弾いてしまい透過させ難く、飲料を短時間で抽出することが困難であるという問題があった。
【0003】
そこで、飲料抽出用シート材の透水性を高めるために、飲料抽出用シート材に界面活性機能を有する処理剤を付着させる透水化処理が広く行われている。
例えば、下記の特許文献1(特許第3939326号公報)には、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維やポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維の不織布からなる飲料抽出用シート材に、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、またはショ糖脂肪酸エステル等を含む処理剤の水溶液を付着させることで、飲料抽出用シート材の透水性を高めることができる旨が記載されている。
【0004】
しかし、これらの処理剤の水溶液は、処理剤の水への分散性が不十分であり、そのような不十分な分散状態の水溶液を飲料抽出用シート材に付着させる場合には、処理剤をシート材の表面に均一に付着させることが難しく、付着ムラが生じ易いという問題があった。処理剤の付着ムラがあると、例えば、飲料抽出用シート材を製袋・充填加工して形成したティーバッグにおいて、その使用時に最初に湯面に接触する部分に処理剤が付着していないことで、ティーバッグがスムーズに湯中に沈まず、適切な状態で飲料の抽出を行うことができない場合があった。
【0005】
そこで、飲料抽出用シート材への処理剤の付着ムラを防ぐために、処理剤の付着量を増やすことが考えられる。しかし、その場合には、例えば、飲料抽出用シート材を製袋加工してティーバッグ等を製造する工程等において、超音波シールやヒートシールを行う場合、飲料抽出用シート材に付着させた処理剤がシールの妨げになり、シール箇所のシール強度が低下するという問題があった。さらに、飲料抽出用シート材への処理剤の付着量が多いと、抽出した飲料に処理剤が溶出して飲料の風味を低下させるおそれがある。
【0006】
また、合成樹脂製の飲料抽出用シート材は、それを製袋して抽出材料(茶葉等)を充填することでティーバッグ等を製造する際に、製袋・充填装置との摩擦によって静電気を帯びる場合がある。飲料抽出用シート材が静電気を帯びた状態であると、静電気の誘引作用によって、飲料抽出用シート材に茶葉等の抽出材料や異物が付着してシール箇所に挟み込まれ、シール強度が低下するという問題があった。さらに、飲料抽出用シート材を製袋・充填加工してティーバッグ等を製造する際に、製袋・充填装置の各部位に抽出用シート材が貼り付いてスムーズに移送できない場合があるという問題があった。
【0007】
下記の特許文献2(特許第5005150号公報)には、界面活性剤を含有させたバインダ混合物を不織布ウェブ材に付着させることで、不織布ウェブ材に制電性を付与して静電気を帯び難くする技術が記載されている。
しかし、特許文献2には、バインダを含まない界面活性剤や静電気防止剤を、不織布ウェブに対して付着ムラなく均一に付着させる技術については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3939326号公報
【文献】特許第5005150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、ポリエステル系繊維またはポリアミド系繊維により形成された長繊維不織布、織物または編物を主材とし、瞬時透水性に優れ適切な状態で飲料の抽出を行うことができ、また、制電性が高く製袋・充填加工等の際に静電気を帯び難く、さらに、飲料の風味を損なわない飲料抽出用シート材を提供することを課題とする。
また、本発明は、上記の飲料抽出用シート材によって形成される、シール箇所のシール強度が高い飲料抽出用バッグを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の手段により解決された。
【0011】
〔1〕下記のA成分と、下記のB成分とC成分のいずれか一方または両方を合わせたものとを、70:30~95:5の割合で含有してなる処理剤を、ポリエステル系繊維またはポリアミド系繊維により形成された長繊維不織布、織物または編物に、0.001~1.00%となるように付着させてあり、表面抵抗値が2.00×1013Ω以下であることを特徴とする飲料抽出用シート材。
A成分:下記の化学式1で示される、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル。
化学式1・・・R1-O-(CH2-CH2-O)n-H
(化学式1において、R1は炭素数8~18のアシル基、nは1~30の整数。)
B成分:下記の化学式2で示される、直鎖アルキルスルホン酸塩。
化学式2・・・R2-SO3 X1
(化学式2において、R2は炭素数10~18の直鎖脂肪族炭化水素基、X1はナトリウムまたはカリウム。)
C成分:下記の化学式3で示される、脂肪族炭化水素硫酸エステル塩。
化学式3・・・R3-SO3 X2
(化学式3において、R3は炭素数10~18の動植物油脂由来のアルコキシ基、X2はナトリウムまたはカリウム。)
【0012】
〔2〕上記〔1〕において、上記処理剤を、上記の長繊維不織布、織物または編物に、0.001~0.25%となるように付着させてあることを特徴とする飲料抽出用シート材。
【0013】
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載の飲料抽出用シート材によって形成されていることを特徴とする飲料抽出用バッグ。
【発明の効果】
【0014】
(a)上記〔1〕の発明にかかる飲料抽出用シート材によれば、次のような効果が得られる。
【0015】
(a-1)本発明の飲料抽出用シート材は、非イオン界面活性剤である特定のポリオキシエチレン脂肪酸エステル(A成分)と、アニオン界面活性剤である特定の直鎖アルキルスルホン酸塩(B成分)と特定の脂肪族炭化水素硫酸エステル塩(C成分)のいずれか一方または両方を合わせたものとを、70:30~95:5の割合で含有してなる処理剤を、0.001~1.00%となるように付着させてあり、表面抵抗値が2.00×1013Ω以下である。
本発明の飲料抽出用シート材は、上記処理剤の付着量が0.001~1.00%と少量であるにもかかわらず、表面の電気抵抗値(表面抵抗値)が2.00×1013Ω以下であって、通電し易く制電性の高いものである。これは、飲料抽出用シート材の表面に界面活性機能を有する上記処理剤がほぼ均一に付着し、上記処理剤の連続的に繋がった薄層が形成されていることによると推察される。
このように、本発明の飲料抽出用シート材は、上記処理剤がほぼ均一に付着しているため、瞬時透水性に優れ適切な状態で飲料の抽出を行うことができるという効果を奏する。
【0016】
(a-2)本発明の飲料抽出用シート材は、表面抵抗値が2.00×1013Ω以下であって制電性の高いものであり、飲料抽出用シート材から飲料抽出用バッグを製造する際に静電気を帯び難いため、静電気の誘引作用による飲料抽出用シート材への抽出材料や異物の付着や、製袋・充填装置の各部位に飲料抽出用シートが貼り付いてしまうといった問題を未然に防ぐことができる。
【0017】
(a-3)本発明の飲料抽出用シート材は、処理剤の付着量が0.001~1.00%と少量であるため、抽出した飲料に溶出する処理剤の量を減らすことができ、飲料の風味を損なわないものである。したがって、抽出する飲料が緑茶のように繊細な風味を有するものであっても、良好に使用することができる。
【0018】
(b)上記〔2〕の発明にかかる飲料抽出用シート材によれば、上記(a)に記載の効果に加えて、次のような特有の効果が得られる。
すなわち、飲料抽出用シート材に対する処理剤の付着量が0.001~0.25%と極めて少ないので、飲料抽出用シート材から飲料抽出用バッグを長時間にわたって連続的に製造する場合であっても、製袋・充填装置のヒートシールバー、または超音波ホーンやアンビル等に、処理剤が飲料抽出用シート材から徐々に移って汚れとして付着し蓄積することを防ぐことができる。そのため、飲料抽出用バッグへの汚れ移りや、シール不良を防止することができる。
【0019】
(c)上記〔3〕の発明にかかる飲料抽出用バッグによれば、次のような効果が得られる。
すなわち、この発明にかかる飲料抽出用バッグは、上記〔1〕または〔2〕の発明にかかる飲料抽出用シート材によって形成されているので、上記(a)または(b)に記載された飲料抽出用シート材の効果と同一の効果を奏する。
また、かかる飲料抽出用バッグは、その袋体の表面に処理剤が均一に付着しているので、使用時に袋体を湯面に下した際には、袋体のどの部分が湯面に接触しても瞬時に湯が浸透するため、袋体を湯中にスムーズに沈降させて、適切な状態で飲料の抽出を行うことができる。
【0020】
さらに、かかる飲料抽出用バッグへの上記処理剤の付着量を少なくできるため、飲料抽出用バッグが、製造工程において超音波シール加工またはヒートシール加工されるものであれば、シール箇所のシール強度を高いものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の飲料抽出用バッグの一実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
また、本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
さらに、本発明において、「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0023】
本実施形態の飲料抽出用シート材は、ティーバッグのように、抽出材料を封入した袋体であって、湯や水などに浸漬して使用する飲料抽出用バッグの材料として好適である。
ここで、抽出材料としては、湯、水またはアルコールなどに含有成分を抽出する飲料の材料であり、例えば、緑茶・紅茶・ほうじ茶・烏龍茶・杜仲茶などの茶葉、麦茶、花茶、コーヒー粉、鰹節・鯖節などの削り節、だし昆布、煮干、漢方薬等を挙げることができる。
【0024】
本実施形態の飲料抽出用シート材は、ポリエステル系樹脂またはポリアミド系樹脂の繊維により形成された長繊維不織布、織物または編物からなるものである。
【0025】
ポリエステル系樹脂としては、直鎖状ポリエステルや共重合ポリエステル等の、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、または、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンイソフタレート共重合物の酸成分のテレフタル酸/イソフタル酸の重合比を適度な範囲に調整したものを好適に用いることができる。また、テレフタル酸を主成分とし、イソフタル酸以外の5-ナトリウムスルホイソフタル酸、4-ヒドロキシ安息香酸、アジピン酸、ナフタレンジカルボン酸、フタル酸、ナフタリンカルボン酸、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ペンタエリスリトール等を適当な比率で重合させたものを用いることができる。さらに、ポリトリメチレンテレフタレートまたはポリ乳酸を用いることができる。
【0026】
ポリアミド系樹脂としては、例えば、ε‐カプロラクタムの開環重合によるポリアミド6、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の縮重合によるポリアミド66、11-アミノウンデカン酸の縮重合によるポリアミド11、ω-ラウロラクタムの開環重合または12-アミノドデカン酸の縮重合によるポリアミド12、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸とをそれぞれ縮重合した、ポリアミド610、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ヘキサメチレンジアミンと芳香族ジカルボン酸の縮重合によるポリアミド、植物由来のジアミンとカルボン酸の縮重合によるポリアミド等を用いることができる。また、上記の各種ポリアミド系樹脂を、適宜に共重合させたものを用いることができる。
【0027】
飲料抽出用シート材に用いるポリエステル系樹脂とポリアミド系樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で他の慣用成分を添加することができる。例えば、各種エラストマー類などの衝撃性改良剤、結晶核剤、着色防止剤、艶消し剤、酸化防止剤、耐熱剤、可塑剤、滑剤、耐候剤、着色剤または顔料などを適宜に添加することができる。
【0028】
長繊維不織布としては、スパンボンド法やメルトブロー法等により製造した長繊維不織布、またはそれらを複数層に積層したものを好適に用いることができるが、形態や製造方法が限定されるものではない。また。連続長繊維を使用した織物や編物についても、それらの形態や製造方法が限定されるものではない。
【0029】
飲料抽出用シート材を構成する長繊維不織布、織物または編物の繊維の形態としては、モノフィラメント、マルチフィラメント、または2種類の樹脂を組み合わせた芯鞘構造の複合繊維などを使用することができる。さらに、これらの繊維の断面形状は、必ずしも丸形である必要はなく、楕丸形、三角形その他多角形などの異形状や、さらに中空状であってもよい。
【0030】
飲料抽出用シート材を構成する長繊維不織布、織物または編物には、飲料抽出用シート材に良好な透水性と制電性を付与するために、界面活性機能を有する処理剤が付着させてある。
処理剤に含まれる界面活性剤としては、下記のA成分を含むことが必須であり、下記のB成分とC成分は、少なくともいずれか一方を含む必要がある。
【0031】
A成分は、非イオン界面活性剤であり、下記の化学式1で示されるポリオキシエチレン脂肪酸エステルである。
化学式1・・・R1-O-(CH2-CH2-O)n-H
この化学式1において、R1は炭素数8~18のアシル基であり、例えば、直鎖のアシル基(オクタノイル基、ノナイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ペンタデカノイル基、ヘキサデカノイル基、ヘプタデカノイル基、オクタデカノイル基等)、あるいは、これらのアシル基の構造の一部に分岐または二重結合を含んだものであってもよい。また、R1は単一構造のアシル基に限らず、例えば、動植物油脂から得られるアシル基のように、複数種類のアシル基が混在しているものを用いても差し支えない。
また、化学式1において、nは1~30の整数である。
かかるA成分のポリオキシエチレン脂肪酸エステルは、公知の方法により製造することができる。
【0032】
B成分は、アニオン界面活性剤であり、下記の化学式2で示される直鎖アルキルスルホン酸塩である。
化学式2・・・R2-SO3 X1
この化学式2において、R2は炭素数10~18の直鎖脂肪族炭化水素基であり、例えば、直鎖のアルキル基(デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基またはオクタデシル基等)、または、直鎖のアルケニル基(デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基等)等である。
また、化学式2において、X1はナトリウムまたはカリウムである。
かかるB成分の直鎖アルキルスルホン酸塩は、公知の方法により製造することができる。
【0033】
C成分は、アニオン界面活性剤であり、下記の化学式3で示される脂肪族炭化水素硫酸エステル塩である。
化学式3・・・R3-SO3 X2
この化学式3において、R3は炭素数10~18の動植物油脂由来のアルコキシ基であり、複数種類のアルコキシ基が混在しているものである。例えば、直鎖のアルコキシ基(デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、トリデシルオキシ基、テトラデシルオキシ基、ペンタデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、ヘプタデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基等)、あるいは、これらのアルコキシ基の構造の一部に分岐または二重結合を含んだものなどが、混在した状態のものである。
また、化学式3において、X2はナトリウムまたはカリウムである
かかるC成分の脂肪族炭化水素硫酸エステル塩は、公知の方法により製造することができる。
【0034】
本発明の飲料抽出用シート材に用いる処理剤は、上記A成分と、上記B成分とC成分のいずれか一方または両方を合わせたものとを、70:30~95:5の割合になるように混合することにより製造することができる。
なお、B成分とC成分は、いずれもアニオン界面活性剤であって性質が近似しているため、いずれか一方のみを用いることも可能であるが、併用することで処理剤の水への分散性をより向上させることができる。
【0035】
かかる処理剤には、本発明の効果を損なわない範囲で他の慣用成分を添加することができる。例えば、上記以外の界面活性剤、親水性付与剤、潤滑剤、潤滑補助剤、酸化防止剤、耐熱向上剤、油膜強化剤、防腐剤、消泡剤、湿潤剤等を適宜に添加することができる。
【0036】
上記処理剤については、飲料抽出用シート材を構成する長繊維不織布、織物または編物に、0.001~1.00%となるように付着させる。
上記処理剤を長繊維不織布、織物または編物に付着させるには、例えば、処理剤を水で希釈することで、濃度1~10%の水溶液(分散液または乳化液)にして、長繊維不織布等に対して噴霧するか、ローラ等によって塗布し、その後乾燥させればよい。その際の付着量の調節は、処理剤の水溶液濃度と、噴霧量または塗布量を適宜に変更することにより行うことができる。また、必要に応じて、上記長繊維不織布等の表裏で付着量に差をつけたり、表裏の一方のみに付着させたりすることもできる。
【0037】
上記処理剤の上記長繊維不織布等への付着量を、より少なく0.001~0.25%にした場合には、飲料抽出用バッグを長時間にわたって連続的に製造する場合であっても、製袋・充填装置のヒートシールバー、または超音波ホーンやアンビル等に、処理剤が飲料抽出用シート材から徐々に移って汚れとして付着し蓄積することを防ぐことができる。そのため、飲料抽出用バッグへの汚れ移りや、シール不良を防止することができる。
【0038】
次に、本発明の飲料抽出用シート材を用いて製造する飲料抽出用バッグの実施形態を、図1に基づき説明する。
飲料抽出用バッグ1は、一般にティーバッグと呼ばれる製品であり、上記飲料抽出用シート材を用いて、テトラ形(四面体形)に形成された袋体2と、飲料抽出用バッグ1を使用する際に、指先で摘まみ上げるためのタグ5と、一端が袋体2の上部に接着され、他端がタグ5に接着された吊糸4とからなる。袋体2は、超音波シールにより各辺の縁部に線溶着部3を形成することで袋状にされており、その内部には、抽出材料(図示せず)として緑茶用の乾燥茶葉等の抽出材料が封入されている。
かかる飲料抽出用バック1を使用する場合は、例えば、指先でタグ5を持ち、湯の入ったカップに袋体2を数秒から数分間浸漬し、袋体2内の抽出材料を湯戻しして飲料成分を溶出させればよい。
【0039】
袋体2の形成方法は、例えば、連続した長尺状の上記飲料抽出用シート材を原反とし、公知の製袋・充填装置を用いて裁断および超音波シールして袋体2を形成しつつ抽出材料を充填密封すればよい。なお、他の溶着方法としては、ヒートシールや抽出用シートの切断と溶着を同時に行う溶断シールなどを採用することができる。
【0040】
また、袋体2の形状は、図1に示すテトラ形に限らず、ピロー形、ピラミッド形、円盤型またはスティック形など任意の形状にすることができ、また、その大きさや容量、使用方法についても特に制限はない。さらに、袋体2の表面に吊糸4やタグ5を、使用時に容易に剥がせる程度の強さで仮接着しておくことも可能である。
【0041】
製造後の飲料抽出用バッグ1は、袋体2内の抽出材料の風味を保ち、また汚損防止のために、1個ずつ、あるいは複数個ずつをまとめて、図示しない樹脂フィルムや紙などからなる外装袋や外装容器に包装しておくことが好ましい。
【実施例
【0042】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
まず、本発明における各指標の測定または試験方法を説明する。
【0043】
(1)付着量(単位:%)
飲料抽出用シート材への処理剤の付着量の測定は、ソックスレー抽出器を使用し、JIS L 1095 9.28に規定する測定方法において使用される測定溶剤のジエチルエーテルに代えて、石油エーテルを使用した以外は、同測定方法に準じて行った。
【0044】
(2)表面抵抗値(単位:Ω)
飲料抽出用シート材の表面抵抗値の測定は、高抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック製,Hiresta-UP MCP-HT450)を使用し、JIS K 6911 5.13に準拠して測定した。プローブは、d1(中心電極の直径)=0.59cm,d2(リング電極の内直径)=1.1cm,d3(リング電極の外直径)=1.8cmのURSプローブを使用した。測定時は気温20℃、相対湿度(RH)40%であった。
【0045】
[実施例1:飲料抽出用シート材]
〈1:不織布シート材〉
加熱して溶融させたポリエチレンテレフタレートを紡糸ノズルから押出して繊維状とし、その繊維状の樹脂を、エジェクターを用いて紡糸速度5000m/分で延伸しつつ冷却して長繊維を形成し、その長繊維を一定速度で移動するベルトコンベア上に集積していきスパンボンド不織布(第1層)を形成した。
次いで、加熱して溶融させたポリエステル(酸成分のテレフタル酸/イソフタル酸の重合比が86/14)を紡糸ノズルから押出して繊維状とし、その繊維状の樹脂に対して370℃に加熱した空気流を当てて飛散させ、一定速度で移動する上記スパンボンド不織布の上面に吹き付け集積固化させていくことで、メルトブロー不織布(第2層)を形成するとともに、上記両不織布を接着し、その後フラットロール間を通して厚さを70μmに調整して、120mm幅の長尺状の不織布シート材を製造した。
【0046】
得られた不織布シート材は、その第1層を形成するスパンボンド不織布の平均繊維径が21μmであり、目付が12g/mであった。また、第2層を形成するメルトブロー不織布の平均繊維径が18μmであり、目付が6g/mであった。
なお、かかる不織布シート材において、第1層は表面側に該当し、第2層は裏面側に該当する。
【0047】
〈2:処理剤〉
下記のA1成分とB1成分とC1成分とを、80:10:10の割合で混合して処理剤を調製した。
A1成分:次式で表されるポリオキシエチレン脂肪酸エステル。
R1-O-(CH2-CH2-O)n-H
ここで、R1=ヤシ油脂由来のアシル基、n=15。
B1成分:次式で表される直鎖アルキルスルホン酸塩。
R2-SO3 X1
ここで、R2=ドデシル基、X1=カリウム。
C1成分:次式で表される脂肪族炭化水素硫酸エステル塩。
R3-SO3 X2
ここで、R3=ヤシ油脂由来のアルコキシ基、X2=カリウム。
【0048】
〈3.飲料抽出用シート材〉
上記〈2:処理剤〉で得られた処理剤を水で希釈して、濃度4.5%の水溶液(分散液)を調製した。次いで、上記〈1:不織布シート材〉で得られた不織布シート材の裏面側(第2層側)に、噴霧装置によって上記水溶液を噴霧した後に乾燥させて、120mm幅の長尺状の飲料抽出用シート材を製造した。
【0049】
得られた飲料抽出用シート材への処理剤の付着量は0.05%であった。また、飲料抽出用シート材の表面側(第1層側)の表面抵抗値は5.07×1011Ωであった。
このように、得られた飲料抽出用シート材は、処理剤の付着量が少量であるにもかかわらず表面抵抗値が低いものであることから、かかる飲料抽出用シート材の表面には、処理剤がほぼ均一に付着し、処理剤の連続的に繋がった薄層が形成されているものと推察される。
【0050】
[実施例2:飲料抽出用バッグ]
上記の実施例1の飲料抽出用シート材を、製袋・充填装置(椿本興業株式会社製TWINKLE,充填能力200袋/分)にセットし、飲料抽出用シート材の表面側が外側に、裏面側が内側になるようにして、所定箇所を超音波シールにより線溶着してテトラ形(一辺50mm)の袋体2を形成しつつ緑茶の乾燥茶葉(1.8g)を封入することで、図1に示す飲料抽出用バッグ(緑茶ティーバッグ)1を製造した。
飲料抽出用バッグ1の製造中に、静電気の誘引作用によって飲料抽出用シート材に乾燥茶葉が付着したり、製袋・充填装置の各部位に飲料抽出用シートが貼り付いたりすることはなく、不良品は発生しなかった。
また、製袋・充填装置の超音波シール工程部位(ホーンおよびアンビル)に汚れは認められなかった。
【0051】
次に、得られた飲料抽出用バッグ1について、そのタグ5を持って袋体2を、カップに入った200mlの約95℃の熱湯の湯面にゆっくり下したところ、湯が速やかに袋体2の中の乾燥茶葉まで浸透し、袋体2は湯中にスムーズに沈降した。
その後、袋体2を湯中に1分間浸漬させた後、ゆっくりと上下に5回往復振とうさせて緑茶を抽出したところ、良好な濃さの緑茶を抽出することができた。抽出した緑茶を試飲したところ、風味が良好であり、処理剤の風味への影響は感じられなかった。
【0052】
[試験例]
《1:飲料抽出用シート材のサンプルの作成》
上記[実施例1]の〈2:処理剤〉に記載のA1成分、B1成分およびC1成分を、下記表1の飲料抽出用シート材サンプルS1~S7の「混合割合」欄に記載のように、7通りの混合割合で混合して、7種類の処理剤を調製した。
得られた7種類の処理剤を、上記[実施例1]の〈1:不織布シート材〉に記載の不織布シート材に対して、〈3:飲料抽出用シート材〉に記載の方法に準じて付着させて、下記表1に記載の飲料抽出用シート材のサンプルS1~S7を作成した。なお、サンプルS3は、上記[実施例1]の飲料抽出用シート材と同じものである。
【0053】
次に、上記[実施例1]の〈2:処理剤〉に記載の処理剤を水で希釈して、濃度4.5%の水溶液(分散液)を調製し、かかる水溶液を、上記[実施例1]の〈1:不織布シート材〉に記載の不織布シートの表面側に、噴霧装置によって噴霧量を7通りに変更して噴霧し、乾燥させて、下記表1に記載の、処理剤の付着量の異なる飲料抽出用シート材のサンプルS8~S14を作成した。
【0054】
《2:飲料抽出用バッグのサンプルの作成》
飲料抽出用シート材のサンプルS1~S14を用いて、上記[実施例2]に記載の方法に準じて、下記表1に示す飲料抽出用バッグ(緑茶ティーバッグ)のサンプルT1~T14を作成した。
【0055】
《3-1:飲料抽出用バッグの湯中沈降性試験》
飲料抽出用バッグのサンプルT1~T14を各10個ずつ用意し、これらの各サンプルについて、それらのタグ5を持って袋体2を、カップに入った200mlの約95℃の熱湯の湯面にゆっくり下し、各サンプルの袋体2の湯中への沈降状態を観察した。
本試験の評価は、下記基準に拠った。
a:10個の全てのサンプルについて、袋体2を最初に湯面に下した際に、湯中にスムーズに沈降した。
b:10個のサンプル中に、袋体2を最初に湯面に下した際に湯中にスムーズに沈降せず、数秒間湯面上に浮いた状態になり、その後ゆっくりと湯中に沈降したサンプルが1個以上存在した。
本試験の結果は下記表1の「評価:湯中沈降性」欄に示すとおりである。
【0056】
《3-2:抽出した緑茶の風味試験》
飲料抽出用バッグのサンプルT1~T14について、それらのタグ5を持って袋体2を、カップに入った200mlの約95℃の熱湯中に1分間浸漬させ、その間にゆっくりと上下に5回往復振とうさせて各サンプルから緑茶を抽出した。抽出した各緑茶について、5人の評価者によって風味の評価を行った。
本試験の評価は、下記基準に拠った。
a:5人の評価者の全員が異味または異臭を感じなかった。
b:5人の評価者の中に、異味または異臭を感じた者が一人以上存在した。
本試験の結果は下記表1の「評価:風味」欄に示すとおりである。
【0057】
《3-3:製袋・充填装置の汚れの観察試験》
飲料抽出用シート材のサンプルS1~S14を用いて、上記[実施例2]に記載の方法に準じて、下記表1に示す飲料抽出用バッグ(緑茶ティーバッグ)のサンプルT1~T14を多数作成した。その際の装置の稼働時間は、S1~S14のサンプル毎に60分間とし、サンプル毎の稼働時間が終了する都度、製袋・充填装置の超音波シール工程部位(ホーンおよびアンビル)の汚れ具合を目視観察した。
本試験の評価は、下記基準に拠った。
a:汚れは認められなかった。
b:飲料抽出用シート材から移った処理剤による汚れが少し認められた。
c:飲料抽出用シート材から移った処理剤による汚れが蓄積して、清掃が必要な状態であった。
本試験の結果は下記表1の「評価:汚れ」欄に示すとおりである。
【0058】
【表1】
【0059】
表1から、A1成分と、B1成分とC1成分のいずれか一方または両方を合わせたものとを、70:30~95:5の割合で混合して調製した処理剤を、不織布シート材に対して付着量が0.001~1.00%になるように付着させて作成した飲料抽出用シート材(S2~S6,S9~S13)の表面抵抗値は、2×1013Ω以下であることが理解できる。
【0060】
また、かかる飲料抽出用シート材(S2~S6,S9~S13)から作成した飲料抽出用バッグ(T2~T6,T9~T13)は、湯中にスムーズに沈降して、抽出した緑茶の風味が良好であることが理解できる。
【0061】
さらに、処理剤の付着量を0.001~0.25%にした飲料抽出用シート材(S2~S6,S11~S13)では、飲料抽出用バッグを60分間にわたって連続的に製造する場合であっても、製袋・充填装置の超音波シール工程部位(ホーンおよびアンビル)に、処理剤が飲料抽出用シート材から移って汚れとして蓄積し難いことが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明にかかる飲料抽出用シート材および飲料抽出用バッグは、紅茶、緑茶、コーヒー、スープなどの飲料の抽出に用いる飲料抽出用シート材および飲料抽出用バッグの分野に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0063】
1 飲料抽出用バッグ
2 袋体
3 線溶着部
4 吊糸
5 タグ

図1