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7189622リポペプチド(LP)化合物を含む非ウイルス遺伝子送達剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】リポペプチド(LP)化合物を含む非ウイルス遺伝子送達剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/89 20060101AFI20221207BHJP
   C07K 7/00 20060101ALI20221207BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20221207BHJP
   A61K 9/54 20060101ALI20221207BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20221207BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20221207BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20221207BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20221207BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20221207BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20221207BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20221207BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221207BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
C12N15/89 Z
C07K7/00 ZNA
A61K9/14
A61K9/54
A61K31/7088
A61K31/7105
A61K31/713
A61K47/32
A61K47/34
A61K47/42
A61K47/54
A61K48/00
A61P43/00 111
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2019567579
(86)(22)【出願日】2018-06-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 AU2018000093
(87)【国際公開番号】W WO2018227231
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-06-04
(31)【優先権主張番号】2017902238
(32)【優先日】2017-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】501249191
【氏名又は名称】モナッシュ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【弁理士】
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】パウトン コリン ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ホ カ トゥ ジョアン
(72)【発明者】
【氏名】ホワイト ポール ジェームス
(72)【発明者】
【氏名】ブイ キャサリン トア
(72)【発明者】
【氏名】アクタール ナビラ
(72)【発明者】
【氏名】アル-ワシティ ハレス アリ
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-501742(JP,A)
【文献】特表2013-541506(JP,A)
【文献】特表2014-505007(JP,A)
【文献】特開2005-068120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ウイルス核酸送達剤であって、
(i)細胞に送達するための核酸カーゴ、
(ii)1つまたは複数のカチオン性リポペプチド化合物、ならびに
(iii)ポリアミノ酸ポリマー、ポリエチレングリコール(PEG)とポリアミノ酸ポリマーのコポリマー、及びポリ(アクリル酸)のコポリマーからなる群から選択される1つまたは複数の高分子電荷中和剤、
の複合体を含み、前記複合体が、実質的に中性または負の表面電荷を有する粒子の形態であり、前記複合体の前記形成が、水相中で行われる、前記非ウイルス核酸送達剤。
【請求項2】
前記核酸カーゴが、タンパク質(複数可)、オリゴペプチド(複数可)またはペプチド(複数可)をコードするDNA分子である、請求項1に記載の送達剤。
【請求項3】
前記核酸カーゴが、タンパク質(複数可)、オリゴペプチド(複数可)またはペプチド(複数可)をコードするmRNA分子である、請求項1に記載の送達剤。
【請求項4】
前記核酸カーゴが、modRNAである、請求項1に記載の送達剤。
【請求項5】
前記リポペプチド化合物が、一般式I:
(I)R-L-ペプチド
のものであり、
式中、Rは、直鎖または分岐鎖アルキルであり、
Lは、リンカー基であり、
前記ペプチドが、2~15個のアミノ酸を含む任意のアミノ酸配列のものであるが、ただし、前記アミノ酸の少なくとも2個が、強塩基性/正荷電性を有するものから独立して選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の送達剤。
【請求項6】
前記リポペプチド化合物が、一般式II:
(II)R-CO-ペプチド
のものであり、
式中、Rが、CH-(CH-であり、nが、11~21の範囲の整数であり、前記ペプチドが、2~15個のアミノ酸を含む任意のアミノ酸配列のものであるが、ただし、前記アミノ酸の少なくとも2個が、強塩基性/正荷電性を有するものから独立して選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の送達剤。
【請求項7】
nが、13~18の範囲の整数である、請求項6に記載の送達剤。
【請求項8】
前記ペプチドが、5~10個のアミノ酸を含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の送達剤。
【請求項9】
前記アミノ酸配列の前記アミノ酸の少なくとも2個が、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)及びヒスチジン(His)から独立して選択される、請求項5~8のいずれか一項に記載の送達剤。
【請求項10】
前記リポペプチド化合物が、一般式:ステアロイル-Cys-X-X-Lys-Lys-Lys(配列番号2)のものであり、式中、X及びXが、任意のアミノ酸であり、同じであっても異なってもよい、請求項6に記載の送達剤。
【請求項11】
前記リポペプチド化合物が、一般式:ステアロイル-X-X-X-Lys-Lys-Lys(配列番号)のものであり、式中、Xが、存在しないまたはCys以外の任意のアミノ酸であり、X及びXが、Cys以外の任意のアミノ酸であり、同じであっても異なってもよい、請求項6に記載の送達剤。
【請求項12】
が、SerまたはThrである、請求項11に記載の送達剤。
【請求項13】
及びXが、Ala、Arg及びHisから独立して選択される、請求項10~12のいずれか一項に記載の送達剤。
【請求項14】
及びXが、Hisである、請求項10~12のいずれか一項に記載の送達剤。
【請求項15】
前記高分子電荷中和剤(複数可)が、ポリ(L-グルタミン酸塩)-PEGコポリマー(PLGA-PEG)から選択される、請求項1~14のいずれか一項に記載の送達剤。
【請求項16】
前記高分子電荷中和剤(複数可)が、ポリ(アクリル酸)のコポリマーから選択される、請求項1~14のいずれか一項に記載の送達剤。
【請求項17】
前記高分子電荷中和剤(複数可)が、ポリ(アクリル酸)及びポリ(ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)(ポリHPMA)のブロックコポリマー、ならびにポリ(アクリル酸)及びポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリルアミド)(ポリHEMA)のブロックコポリマーから選択される、請求項16に記載の送達剤。
【請求項18】
前記粒子が、-2~2mVの範囲のゼータ電位(ZP)表面電荷を示す、請求項1~17のいずれか一項に記載の送達剤。
【請求項19】
前記粒子が、-40~-5mVの範囲のゼータ電位(ZP)表面電荷を示す、請求項1~17のいずれか一項に記載の送達剤。
【請求項20】
核酸分子を対象の細胞に送達するための医薬組成物の製造における、請求項1~19のいずれか一項に記載の非ウイルス核酸送達剤の使用
【請求項21】
前記非ウイルス核酸送達剤が、前記対象に非経口的に(parentally)送達される、請求項20に記載の使用
【請求項22】
請求項1~19のいずれか一項に記載の非ウイルス送達核酸剤を薬学的に許容され得るキャリアまたは賦形剤と組み合わせて含む、医薬組成物。
【請求項23】
請求項1~19のいずれか一項に記載の非ウイルス送達核酸剤を生成する方法であって、
(i)細胞に送達するための核酸カーゴ、
(ii)1つまたは複数のカチオン性リポペプチド化合物、ならびに
(iii)ポリアミノ酸ポリマー、ポリエチレングリコール(PEG)とポリアミノ酸ポリマーのコポリマー、及びポリ(アクリル酸)のコポリマーからなる群から選択される1つまたは複数の高分子電荷中和剤を、水相中で、複合化した粒子の形成に好適な条件下で、組み合わせることを含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、疾患及び医学的障害に対する治療(遺伝子治療及び核酸ワクチン接種を含む)などの用途のための、標的細胞への核酸分子の送達または移入のための薬剤及び方法に関する。
【0002】
優先権書類
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2017年6月13日に出願された、「新規遺伝子送達システム2」という名称の、オーストラリア仮特許出願第2017902238号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
非ウイルスベクター及び薬剤を使用する標的細胞への有用な核酸(例えば、オリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチド)の送達または移入は、いくつかの理由のために非常に望ましく、それには、安全性の改善の可能性(すなわち、自然ゲノム活性に干渉することなく治療遺伝子を安全に発現するために必要な制御機構を欠く可能性があるウイルスベクター、例えばレトロウイルスベクターと対比して[1])、「バルク」医薬品としての生産に関する安定性及び適合性が含まれる。非ウイルス核酸の移入に関して試みられた戦略の中には、大量のプラスミドDNA溶液の全身投与(これは、血管内の高圧及びプラスミドの血管外漏出を引き起こすと見いだされている)、プラスミドと宿主ゲノムDNAの安定した融合をもたらすことができるプラスミド(例えば、大きな人工染色体)の細胞内への直接的なマイクロインジェクション、及びin vitro研究用に細胞をトランスフェクトするための一般的及び有用な方法であり、in vivo動物モデル用にも操作されているエレクトロポレーションの非常に単純な技術がある。しかしながら、これらは全て、ヒトの治験において使用するには実用性が制限されている。
【0004】
リポフェクション、つまり脂質ナノ粒子(LNP)として知られるカチオン性粒子を形成するための核酸とカチオン性脂質の複合体化は、別の非ウイルス遺伝子移入ツールの基盤として機能する。しかしながら、上記の戦略と同様に、その有用性は、主に細胞培養及びいくつかの単純な動物モデルに制限されており、これは主に効率が低く、有効高用量の結果生じる毒性のためである[2]。それにもかかわらず、脂質-核酸ナノ粒子複合体を使用するいくつかの臨床試験が承認されており、様々な研究が複合体の特性を変えて毒性を低減し、組織特異性をより高めることを試みている、例えば、複合体の外側を静電吸着されたポリ(グルタミン酸)ベースのペプチドコーティングを用いてコーティングすることで、in vivoで裸のDNA複合体と比較して、毒性を低減させた[3]。他の変更例では、ポリエチレングリコール(PEG)を使用して、負に荷電した血清タンパク質との電子結合、それに伴う続くオプソニン化及び粒子のクリアランスを促進するカチオン性粒子の正電荷を「遮蔽」または中和している[4]。例えば、いくつかの場合では、LNPは、生体内分布及び効率を改善するために、核酸とカチオン性脂質ならびに「PEG化」脂質、例えばホスファチジルエタノールアミン-PEG(PE-PEG)[5]の複合体化によって生成されている。しかしながら、潜在的な治療用途のためのLNPの開発における著しい進展にもかかわらず、使用されるカチオン性脂質(通常は、リン脂質誘導体である)が、自然免疫活性化[6]、低分解性及び/またはクリアランスに起因して、特に長期間にわたって(例えば、LNPベースの治療剤の長期または慢性使用)、体内で十分に耐用性を示さない可能性があるという懸念を含む多くの疑念が残っている。
【0005】
従って、標的細胞に有用な核酸分子(例えば、治療用核酸)を送達または移入するための改善された及び/または代替の薬剤及び方法を、同定及び開発する必要性が存在している。この目的のために、本出願人は、カチオン性脂質の代わりにカチオン性リポペプチド(LP)を使用する代替戦略に注目した。
【0006】
名前が示すように、リポペプチドは、疎水性部分(例えば、脂質)にコンジュゲートしたペプチドを含む。凝縮剤として使用するために、LPはカチオン性であり、そのため、典型的には、ペプチド構成要素には、アミノ酸、例えばリジン及びアルギニンが含まれることになり、これはそれらの強塩基性/正荷電性のために、生理学的pHにて核酸分子、例えばプラスミドDNAの凝縮を可能にする[7]。加えて、ペプチドは、ヒスチジン残基を含んでよく、これもまた、核酸のエンドソーム脱出を促進することによりトランスフェクション効率を増加させると考えられている[8]、及び/またはシステイン残基を含んでよく、これは、ペプチド分子間のジスルフィド結合の形成を可能とし、それによって溶液中での核酸及びリポペプチドの解離を防ぐことにより、リポペプチド-核酸複合体の安定性を向上させることができる[9]。リポペプチドの疎水性部分も、核酸-リポペプチド複合体の安定化を助けると考えられている。典型的な部分には、親油性鎖(例えば、ステアロイル及びコレステリル)または非極性残基の繰り返し(例えば、バリン)が含まれる[10、11]。
【0007】
以降、本出願人は、自己架橋カチオン性LP、ステアロイル-Cys-His-His-Lys-Lys-Lys(本明細書では以降、ステアロイル-CH LP、配列番号1とも称する)などの、核酸送達剤において使用するためのLPのさらなる開発を開示する。このようなLPは、水溶液中で、核酸分子、例えばプラスミドDNAと容易に自己組織化でき、有機系溶媒の調製に対する必要性を回避する(すなわち、LNPの調製には必要とされる)ため、製造が容易であるという点で利点を提供し得、それによって、望ましくない溶媒の持ち越し汚染の可能性を限定する。さらには、LP、例えばステアロイル-Cys-His-His-Lys-Lys-Lysは、生体適合性部分から構成されるため、LPを組み込む核酸送達剤は、代替の核酸送達剤、例えばLNPより低いまたは少なくとも許容可能な毒性を示し得ることが予期される。
【発明の概要】
【0008】
第一の態様に従って、本開示は、非ウイルス核酸送達剤であって、
(i)細胞に送達するための核酸カーゴ、
(ii)1つまたは複数のカチオン性リポペプチド化合物、ならびに
(iii)ポリアミノ酸ポリマー、ポリエチレングリコール(PEG)とポリアミノ酸ポリマーのコポリマー、及びポリ(アクリル酸)のコポリマーからなる群から選択される1つまたは複数の高分子電荷中和剤、
の複合体を含み、前記複合体が、実質的に中性または負の表面電荷を有する粒子の形態であり、前記複合体の前記形成が、水相中で行われる、前記非ウイルス核酸送達剤を提供する。
【0009】
一特定の実施形態では、本開示の非ウイルス核酸送達剤は、DNAまたはRNAワクチンとしてみなされ得る。
【0010】
第二の態様では、本開示は、核酸分子を対象の細胞に送達する方法であって、
第一の態様に従う非ウイルス核酸送達剤を提供するステップ、及び
前記非ウイルス核酸送達剤を、対象の前記細胞に送達するステップを含む、前記方法を提供する。
【0011】
非ウイルス核酸送達剤は、細胞に、(例えば、筋肉内(im)投与などの非経口投与のために)単純な針注射を使用して送達され得る。
【0012】
第三の態様では、本開示は、第一の態様に従う非ウイルス送達核酸剤を薬学的に許容され得るキャリアまたは賦形剤と組み合わせて含む、医薬組成物を提供する。
【0013】
第四の態様では、本開示は、第一の態様に従う非ウイルス送達核酸剤を生成する方法であって、
核酸カーゴ、1つまたは複数のリポペプチド化合物、及び1つまたは複数の高分子電荷中和剤を、複合化した粒子の形成に好適な条件下で、組み合わせることを含む、前記方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(LP/DNA複合体の例を使用して)LNPの特性評価試験の結果を提供する。A)ステアロイル-CHを用いて調製したLP/DNA複合体の色素排除プロフィール。全てのデータポイントは、溶液中のプラスミドDNAの蛍光強度の割合(%)として計算した。DNA単独と比較したときの蛍光強度における有意差に関してp<0.05及び****p<0.0001(一元配置分散分析、ダネットの事後検定)。電荷比の範囲にわたるステアロイル-CH/DNA複合体のB)ゼータ電位ならびにC)平均粒子サイズ及び多分散指数。DNAに対するLPの(+/-)電荷比が増加するにつれて、ゼータ電位は増加し、一方でZ平均は低いままであったが(概して10~100nm間)、1に近い電荷比で形成された複合体は除く。全てのデータは、n=3の個別の実験の平均±SEMとして表示する。D)1.5:1及びE)2.5:1の電荷比で調製されたLP/DNA複合体のCryo-TEM画像は、それぞれ、凝集複合体及びより小さな約30nm粒子を図示する。スケールバーは、左下隅にある(D=100nm、E=50nm)。
図2】本開示に従うDSPE-PEG2000/LP/DNA複合体の特性評価試験の結果を提供する。PEG化LP/DNA複合体を、様々な電荷比にて調製し、結果得られたA)ゼータ電位ならびにB)粒子サイズ及び多分散指数を示す。ゼータ電位の低下は、負に荷電したDSPE-PEG2000のLP/DNA複合体への添加に伴って観察された。データは、平均±SEM、n=3として表示する。
図3】NaClの添加時の粒子安定性及び筋肉内注射後の筋肉における相対的遺伝子発現を示すグラフ結果を提供する。A)0.15M NaClの添加を伴う及び伴わない、2.5:1の電荷比にて調製されたLP/DNA及び0.75:2:1の電荷比にて調製されたDSPE-PEG2000/LP/DNAの平均粒子サイズ及び多分散指数。は、未処置対照と比較したZ平均における増加に関して、p<0.05(対応のあるスチューデントのt検定)。データは、平均±SEMとして表示した。n=3。B)DNA複合体または裸DNAの注射後1、30、90日での腓腹筋肉における相対的発光量(RLU)として決定した相対的遺伝子発現。データは、n=3~6マウスの平均±SEMとして表示する。指定した処置間での有意な発現レベルに関して、**p<0.01及び****p<0.0001(二元配置分散分析、テューキーの事後検定)。生理食塩水処置対照において決定したバックグラウンドRLUは、1未満であった。
図4】in vivoでのDNA複合体の局所分布を示すグラフ結果を提供する。A)裸DNA、LP/DNAまたはDSPE-PEG2000/LP/DNAの注射30分後に注射された腓腹筋肉においてqPCRにより検出された合計標的プラスミド。データは、n=4~5マウスの平均±SEMとして表示する。B)それぞれの領域:筋内膜(En)、筋周膜(Pe)及び筋上膜(Ep)への各製剤の注射後の筋肉におけるDNA-AF594の局在化の程度の半定量分析。データは、n=3マウスの平均±SEMとして表示し、各マウスから合計12の筋肉切片を収集した。ピクセル数における有意差に関してp<0.05及び***p<0.001(一元または二元配置分散分析とテューキーの事後検定)。
図5】DNA複合体の免疫原性を調査する実験の結果を示す。A)DNA複合体または対照製剤の投与後の(陽性指数と対比した)マウスの血清中のオボアルブミン特異的抗体活性レベル。記号は、個別のデータ点を表し、一方で線は、平均を表す。点線は、1の陽性指数を示す。1を超える値は、抗OVA活性に関して陽性である、1未満の値は、抗OVA活性に関して陰性である。B)OVAコーティング脾臓細胞(陽性対照)、生理食塩水(陰性対照)、LP/DNA、DSPE-PEG2000/LP/DNAまたは裸DNAのいずれかを用いて免疫化したマウスにおいて除去された標的エピトープ特異的細胞の割合(%)。データは、平均±SEMとして表示した。生理食塩水処置マウスと比較して有意な活性レベルに関して**p<0.01及び****p<0.0001(一元配置分散分析とダネットの事後検定)。生理食塩水(C)、LP/DNA(D)またはDSPE-PEG2000/LP/DNA(E)製剤を用いて免疫化したマウスにおいて検出された脾臓細胞の別個のOVA257-264パルス(高CFSE濃度)及びパルスされていない(低CFSE濃度)集団を示す代表的なヒストグラム。
図6】PLGA-PEG/LP/DNA複合体ならびにポリリジン(PLL)及びポリエチレンイミン(PEI)を使用して調製した比較可能な粒子で得られたグラフ結果を提供する。(A)様々な複合化した粒子の粒子サイズを示す、(B)形成された粒子のゼータ電位(ZP)を示す。
図7】30または400μg/mlのいずれかのDNAを用いて調製したPLGA-PEG/LP/DNA複合体及び他の比較可能な粒子で得られたグラフ結果を提供する。(A)様々な複合化した粒子の粒子サイズを示す、(B)形成された粒子のゼータ電位(ZP)を示す。
図8】C57マウスへの筋肉内注射後に、PLGA-PEG/LP/DNA複合体(ナノルシフェラーゼ遺伝子をコードするpNLL1.1.CMV)で得られたグラフ結果を提供する。グラフは、組織の単位質量当たりの相対的ナノルシフェラーゼ活性を示す:A)48時間後及びB)7日後(N.DNA=等張緩衝液中の裸DNA)。
図9】c57マウスへのPLGA-PEG/LP/mRNA粒子の筋肉内注射後の筋肉、流入領域リンパ節、肝臓及び脾臓におけるナノルシフェラーゼの発現の相対レベルを示すグラフ結果を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
第一の態様では、本開示は、非ウイルス核酸送達剤であって、
(i)細胞に送達するための核酸カーゴ、
(ii)1つまたは複数のカチオン性リポペプチド化合物、ならびに
(iii)ポリアミノ酸ポリマー、ポリエチレングリコール(PEG)とポリアミノ酸ポリマーのコポリマー、及びポリ(アクリル酸)のコポリマーからなる群から選択される1つまたは複数の高分子電荷中和剤、
の複合体を含み、前記複合体が、実質的に中性または負の表面電荷を有する粒子の形態であり、前記複合体の前記形成が、水相中で行われる、前記非ウイルス核酸送達剤を提供する。
【0016】
本明細書で用いる場合、「非ウイルス核酸送達剤」という用語は、非ウイルス遺伝子送達方法、例えば周知の物理学的手法(例えば針注射、遺伝子銃、エレクトロポレーション、超音波またはハイドロダイナミック送達)及び/または化学的手法(例えば合成または天然に生じる化合物の、細胞に核酸を送達するためのキャリアとしての使用)において使用され得る薬剤を指すとして理解されたい。そのため、該用語は、ウイルスをベースとする遺伝子送達剤、例えばウイルスベクターを指さない。本開示に従う非ウイルス核酸送達剤は、粒子の形態にて、好ましくは、50nm~300nmの範囲、より好ましくは50nm~150nm、及び最も好ましくは、50nm~125nmの範囲内の平均粒径サイズを有する微小粒子またはナノ粒子として提供される。
【0017】
非ウイルス核酸送達剤は、例えば、疾患及び医学的障害に対する核酸ワクチン接種及び遺伝子治療を含む、実験室(例えば、研究)または医学/獣医学用途のための、遺伝子送達または移入に関して有用であり得る。
【0018】
核酸カーゴは、核酸分子を含み得る。「核酸分子」という用語は、本明細書で用いる場合、任意の一本鎖または二本鎖ポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチド(polydeoxribonucleotide)を含む。そのため、該用語には、一本鎖及び二本鎖DNA(例えば、cDNA及びゲノムDNA、ならびに直鎖形態または非線状(すなわち、環状化)形態のDNA(例えば、DNAプラスミド))、一本鎖及び二本鎖領域の混合であるDNA、一本鎖及び二本鎖RNA(例えば、メッセンジャーRNA(mRNA))、ならびに一本鎖及び二本鎖領域の混合であるRNA、ならびに、一本鎖もしくはより典型的には二本鎖、または一本鎖及び二本鎖領域の混合であり得るDNA及びRNAを含むハイブリッド分子が含まれる。加えて、「核酸分子」という用語は、1つまたは複数の修飾塩基を含有するDNA及びRNA、ならびに安定性または他の理由のために修飾された骨格を有するDNA及びRNAも含む。「修飾された」塩基には、例えば、トリチル化塩基、珍しい塩基、例えばイノシン、及びメチル化塩基、例えば5-メチルシトシン及びN1-メチルシュードウラシルが含まれ、このように化学的に修飾されているmRNAは、「修飾されたmRNA」または「modRNA」と称される場合がある。「核酸分子」という用語は、比較的短いポリヌクレオチドも包含し、しばしばオリゴヌクレオチドと称される。
【0019】
核酸カーゴは、機能性遺伝子をコードする核酸遺伝子を含み得る、あるいはそうでなければ、例えば、非機能性遺伝子またはその一部をコードする核酸分子、あるいは、細胞の機能における変化(例えば、タンパク質の産生における増加または低減)に作用することができる別の実体、例えば、例として干渉RNA(iRNA)をコードするもしくは阻害性RNA分子それ自体を構成する、またはシス作用遺伝子制御エレメントを提供する核酸分子を含み得る。核酸カーゴが、機能性遺伝子(すなわち、導入遺伝子または関心対象の遺伝子)を提供する核酸分子を含む場合、遺伝子は、遺伝子治療剤の基盤を提供するために、関心対象のタンパク質(複数可)、オリゴペプチド(複数可)もしくはペプチド(複数可)、例えば、例として、ワクチンに重要である抗原もしくはエピトープ(複数可)、または疾患もしくは医学的障害において欠けているもしくは欠損している可能性がある酵素、受容体もしくはホルモンをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結された好適なプロモーター配列(例えば、構成性または誘導性プロモーター)を含む発現カセットにて構成され得る。例えば、核酸ワクチン接種の状況では、核酸カーゴは、HBVに対するワクチンを提供するために、B型肝炎ウイルス(HBV)表面、エンベロープ及びコア抗原(一般的にそれぞれHBsAg、HbeAg及びHbcAgと示される)のうちの1つまたは複数をコードするDNA分子を含み得る。別の例では、疾患または医学的状態の処置の状況では、核酸カーゴは、レッシュ-ナイハン症状群の処置のために、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)タンパク質をコードするDNA分子を含み得る。同様に、核酸カーゴは、特定の疾患または医学的状態に対する治療の基盤を提供するために、関心対象のタンパク質(複数可)、オリゴペプチド(複数可)もしくはペプチド(複数可)、例えば、例として、ワクチンに重要であり得る抗原もしくはエピトープ(複数可)、または疾患もしくは医学的障害において欠いているもしくは欠損している可能性がある酵素、受容体もしくはホルモンをコードするメッセンジャーRNAであり得る。当業者によって容易に理解され得るように、このようなmRNAは、mRNAが細胞の細胞質内で効率的に翻訳されることを可能にするために必要な配列エレメントを伴って提供される。好ましくは、このようなmRNAは、修飾塩基、例えば5-メチルシトシン及びN1-メチルシュードウラシルも含み得、それはこれらが安定性、免疫刺激活性の低下、翻訳効率の向上などの多くの利点をもたらし得るためである[12]。他の実施形態では、核酸カーゴは、関心対象のタンパク質(複数可)、オリゴペプチド(複数可)もしくはペプチド(複数可)、例えば、例として抗原もしくはエピトープ(複数可)、または酵素、受容体もしくはホルモンへの翻訳のために導入遺伝子からmRNAを、細胞の細胞質内で生成する導入遺伝子を含む自己増殖性レプリコンRNA(例えばアルファウイルス、(+)ssRNAウイルスのグループに由来するもの[17])であり得る。
【0020】
核酸カーゴを含む核酸分子のサイズは、5塩基~50キロ塩基長であり得る。例えば、核酸分子が、オリゴヌクレオチド分子(ペプチド核酸及びホスホチオエート修飾核酸を含む)である場合、核酸分子は、5~50塩基長であり得、ポリヌクレオチド分子である核酸分子に関しては、核酸分子は、50塩基~50キロ塩基長、より好ましくは、1~10キロ塩基長であり得る。
【0021】
非ウイルス核酸送達剤は、1つまたは複数のリポペプチド化合物を含む。好適なリポペプチドは、核酸カーゴ及び高分子電荷中和剤と複合体化して、実質的に中性または負の表面電荷を有する粒子を形成し得ることが見いだされている。このようなリポペプチドは、核酸凝縮剤として作用し得、LNPにおいて見られるカチオン性脂質の代わりに使用することができる。従って、いくつかの好ましい実施形態では、非ウイルス核酸送達剤には、カチオン性脂質が存在しない。また、非ウイルス核酸送達剤は、ポリカチオン性リガンド、例えばポリ-L-リジン(PLL)及びポリエチレンイミン(PEI)を含まないことが好ましい。
【0022】
好適なリポペプチドは、一般式I:
(I)R-L-ペプチド
のものを含み、
式中、Rは、直鎖または分岐鎖アルキル(例えば、C12-35、しかしより好ましくはC12-25)、例えばCH-(CH-であり、
nは、11~21(好ましくは13~18)の範囲の整数であり、
Lは、リンカー基(例えば、任意の好適な連結基、例えば、例として、ポリエチレングリコール(PEG)ベースのリンカー及びジスルフィド(-S-S-)リンカーを含む化学リンカー)であり、
ペプチドは、2~15個のアミノ酸、好ましくは5~10個のアミノ酸を含む任意のアミノ酸配列のものであるが、ただしアミノ酸の少なくとも2個が、強塩基性/正荷電性を有するもの(例えば、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)及びヒスチジン(His)、ならびに他の非標準(「非正準」)アミノ酸、例えばアザ-ロイシン及びN-メチルアルギニン)から独立して選択される。
【0023】
好ましいリポペプチドは、典型的には、一般式II:
(II)R-CO-ペプチド
のものであり得、
式中、Rは、CH-(CH-であり、nは、11~21、好ましくは13~18の範囲の整数であり、ペプチドは、2~15個のアミノ酸、好ましくは5~10個のアミノ酸を含む任意のアミノ酸配列のものであるが、ただし、アミノ酸の少なくとも2個は、強塩基性/正荷電性を有するもの(例えば、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)及びヒスチジン(His)、ならびに他の非標準(「非正準」)アミノ酸、例えばアザ-ロイシン及びN-メチルアルギニン)から独立して選択される。
【0024】
一般式(I)のリポペプチドは、例えば、Rのカルボン酸誘導体をペプチドのN末端と反応させることによって生成され得る、従って、表記R-CO-ペプチドであり得る。
【0025】
いくつかの実施形態では、ペプチドは、少なくとも1個のシステイン(Cys)及び強塩基性/正荷電性を有するアミノ酸から選択される少なくとも3個の残基を含む。好ましくは、ペプチドは、少なくとも3個のLysまたはArgアミノ酸を含む。例えば、ペプチドは、アミノ酸配列:Cys-X-X-Lys-Lys-Lys(配列番号2)を含む6-mer(すなわち、ヘキサペプチド)であり得、式中、X及びXは、任意のアミノ酸であり、同じであっても異なってもよいが、X及びXは、好ましくは、Arg及びHisから選択される。従って、いくつかの実施形態では、リポペプチドは、ステアロイル-Cys-X-X-Lys-Lys-Lys(すなわち、ここでnは、17である)(配列番号2)であり得る。ペプチド構成要素のC末端は、好ましくは、遊離COOHまたはアミドのいずれかである。Cys残基(複数可)は、リポペプチド分子間のジスルフィド架橋を可能にして、形成される複合体の安定性を向上させ得る、及び非ウイルス核酸送達剤のin vitro適用において有益であり得る、高密度の粒子の形成を助け得る。好ましくは、かかる実施形態のペプチドは、好ましくは1位に位置する、しかしながらペプチド内の他の位置も好適であり得る、単一のCys残基を含むだろう。
【0026】
いくつかの他の実施形態では、ペプチドは、システイン(Cys)残基を含まない場合がある。Cysを欠くリポペプチドは、調製を単純化する(すなわち、ジスルフィド架橋を形成するために使用する前にリポペプチドが還元されているか確認する必要がない)ことにより、非ウイルス核酸送達剤の特にin vivo適用において有利であり得、リポペプチドのジスルフィド架橋を伴わなければ、一度細胞に送達された粒子複合体のin vivo「アンカップリング」はより効率的であり得る。前の段落において記載したリポペプチドと同様に、リポペプチドがCysを欠く実施形態のペプチドは、強塩基性/正荷電性を有するアミノ酸から選択される少なくとも3個の残基を含むことになる。好ましくは、ペプチドは、少なくとも3個のLysまたはArgアミノ酸を含む。例えば、ペプチドは、アミノ酸配列:X-X-X-Lys-Lys-Lys(配列番号3)を含む6-merであり得、式中、Xは存在しないまたはCys以外の任意のアミノ酸(及び好ましくは、SerまたはThr)であり、X及びXは、任意のアミノ酸(Cys以外)であり、同じであっても異なってもよいが、X及びXは、好ましくはAla、Arg及びHisから選択される。従って、いくつかの実施形態では、リポペプチドは、ステアロイル-Ser-X-X-Lys-Lys-Lys(すなわち、式中、nは17である)(配列番号4)であり得る。ペプチド構成要素のC末端は、好ましくは遊離COOHまたはアミドのいずれかである。
【0027】
特に好ましい実施形態では、非ウイルス核酸送達剤は、ステアリル-Cys-His-His-Lys-Lys-Lys(下記に示すステアロイル-CH、配列番号1)、ステアロイル-Cys-Ala-Ala-Lys-Lys-Lys(ステアロイル-CA、配列番号5)及びN-ラウリル-Cys-His-His-Arg-Arg-Arg(ラウロイル-CH、配列番号6)から選択されるリポペプチド化合物を含む。リポペプチドは、下記に示すように遊離COOHをC末端にて有し得る、またはアミド(CONH)をC末端にて備え得る。
ステアロイル-Cys-His-His-Lys-Lys-Lys
【0028】
他の特に好ましい実施形態では、非ウイルス核酸送達剤は、ステアロイル-Ser-His-His-Lys-Lys-Lys(下記に示すステアロイル-SH、配列番号7)、ステアロイル-Ser-Ala-Ala-Lys-Lys-Lys(ステアロイル-SA、配列番号8)及びN-ラウリル-Ser-His-His-Arg-Arg-Arg(ラウロイル-SH、配列番号9)から選択されるリポペプチド化合物を含む。リポペプチドは、下記に示すように、遊離COOHをC末端にて有し得る、またはアミド(CONH)をC末端にて備え得る。
【0029】
有利なことに、リポペプチドは水溶性であり、それにより、溶媒(LNPの調製に必要とされる場合を比較されたい)または(例えば、溶媒を取り除くための)余計な精製ステップを必要とせずに完全に水性培地にて非ウイルス核酸送達剤の潜在的な生産を可能にする。
【0030】
非ウイルス核酸送達剤は、1つまたは複数の高分子電荷中和剤を含む。高分子電荷中和剤は、(すなわち、カチオン性リポペプチドによって提供され得る)正電荷を遮蔽または中和するように機能すると考えられ、そのため非ウイルス核酸送達剤の粒子は、実質的に中性または負の粒子表面電荷を特徴とする。
【0031】
好適な高分子電荷中和剤(複数可)には、ポリアミノ酸ポリマー、例えばポリアスパラギン酸(PAA)またはポリグルタミン酸(PGA)、ポリエチレングリコール(PEG)とポリアミノ酸ポリマーのコポリマー、他のアニオン性ポリマー、例えばポリ(アクリル酸)ポリマーのコポリマー、及び負に荷電したブロック及び中性、親水性ブロックを含むある特定のブロックコポリマー(例えば、ポリ(アクリル酸)とポリ(ヒドロキシプロピルメタクリルアミドのブロックコポリマー)(ポリHPMA)、及びポリ(アクリル酸)とポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリルアミドのブロックコポリマー)(ポリHEMA))が含まれる。
【0032】
高分子電荷中和剤(複数可)は、好ましくは、対象の体内で少なくとも許容可能なレベルの生体適合性及び/または生分解性を示す。ポリアミノ酸ポリマー及び、特にPGAは、少なくとも許容可能なレベルの生体適合性及び生分解性を両方とも示す。ゆえに、いくつかの好ましい実施形態では、高分子電荷中和剤(複数可)は、ポリ(グルタミン酸塩)-PEGコポリマー(ポリGlu-PEG)から選択される。特定の例としては、ポリ(グルタミン酸塩)及びポリ(エチレングリコール)のブロックポリマーが挙げられ、ポリ(エチレングリコール)は、ポリ(エチレンオキシド)またはPEGとしても知られる。このようなポリGlu-PEGコポリマーは、(例えば、Alamanda Polymers,Huntsville,AL,United States of Americaから)市販されている。いくつかの特定の実施形態では、高分子電荷中和剤(複数可)は、例えば、22、113または454PEGユニット(それぞれ、分子量1000Da、5000Da及び20000Da)を、10、50、100または200グルタミン酸塩ユニット(それぞれ、分子量1500Da、7500Da、15000Da及び30000Da)と組み合わせて含むブロックコポリマー含む。一特定の実施形態では、高分子電荷中和剤(複数可)は、113PEGユニット(分子量約5000Da)及び100グルタミン酸塩ユニット(分子量約15000Da)を含むメトキシ-PEG-ポリグルタミン酸ブロックポリマー(PLGA-PEG)を含む。別の特定の実施形態では、高分子電荷中和剤(複数可)は、20グルタミン酸塩ユニット(分子量約3000Da)、113PEGユニット(分子量約5000Da)そしてさらに20グルタミン酸塩ユニット(分子量約3000Da)を含む、ポリグルタミン酸-PEG-ポリグルタミン酸トリブロックポリマーを含む。このようなブロックコポリマーは、高分子生成物の分子量の制御を可能とする、例えば、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合により、生成することができる。
【0033】
いくつかの実施形態では、高分子電荷中和剤(複数可)は、DSPE-PEGコポリマーを除外し得る、または、より具体的には、DSPE-PEG2000を除外し得る。つまり、ポリマー電荷中和剤は、DSPE-PEGコポリマーまたはDSPE-PEG2000以外のPEG誘導体であり得る。
【0034】
ポリマー電荷中和剤(複数可)は、本開示の非ウイルス核酸送達剤へと、例えば、核酸カーゴ及びリポペプチド化合物(複数可)間での複合体形成中にポリマー電荷中和剤(複数可)を着実に加えることにより容易に組み込まれ得る。実際、驚くべきことに、核酸カーゴ、リポペプチド化合物(複数可)、例えばカチオン性リポペプチド、ならびに生体適合性及び/または生分解性高分子電荷中和剤(複数可)、例えばポリ(グルタミン酸塩)-PEGコポリマーの新しい組み合わせが、単一の生成ステップにおいて高濃度で複合化した粒子の形成を可能とし得ることが見いだされている。ポリ(グルタミン酸塩)-PEGを使用すると、ナノ粒子寸法のより微細な粒子(すなわち、平均粒径が50~100nmの粒子)を生成できることも見いだされた。
【0035】
上述のように、非ウイルス核酸送達剤の粒子は、実質的に中性または負の粒子表面電荷を特徴とする。当業者は、実質的に中性の表面電荷を有する粒子が、当業者に周知の標準的なゼータ電位測定技術により(しかし、好ましくは、以降の実施例1に記載するように動的光散乱法(DLS)と組み合わせた電気泳動技術を使用することにより)測定して、-5~5mVの範囲のゼータ電位(ZP)を示すとみなされ得ることを理解するだろう。負の表面電荷を特徴とする粒子は、-40~-5mVの範囲のゼータ電位(ZP)を示し得る。
【0036】
実質的に中性または負の表面電荷を有することにより、本開示に従う非ウイルス核酸送達剤の粒子は、細胞外タンパク質、例えば負に荷電した血清タンパク質と電子的に結合する可能性が低くなり、従来のLNPをベースとする薬剤に比べて、生体内分布及び効率の改善を示し得る。好ましくは、中性粒子は、-2~2mVの範囲、より好ましくは0~1mV範囲のゼータ電位表面電荷を示すだろう。負の粒子が好まれる際は、これらは、-40~-10mVの範囲のゼータ電位表面電荷を示すだろう。
【0037】
非ウイルス核酸送達剤は、好ましくは、リポペプチド化合物(複数可)及び核酸カーゴを、1:1(リポペプチド:核酸)~4:1の範囲内、より好ましくは、約1.5:1~約3.5:1の範囲内のモル電荷比で含み得る。いくつかの特定の実施形態では、リポペプチド化合物(複数可)及び核酸カーゴは、約2:1(リポペプチド:核酸)のモル電荷比で存在し得る。
【0038】
非ウイルス核酸送達剤は、好ましくは、高分子電荷中和剤(複数可)及びリポペプチド化合物(複数可)を、1:4(ポリマー:リポペプチド)~1:1の範囲内、より好ましくは、約1:3~約1:2の範囲内のモル電荷比で含み得る。いくつかの特定の実施形態では、高分子電荷中和剤(複数可)及びリポペプチド化合物(複数可)は、約0.75:2または約1:2(ポリマー:リポペプチド)のモル電荷比で存在し得る。
【0039】
いくつかの実施形態では、高分子電荷中和剤(複数可)、リポペプチド化合物(複数可)及び核酸カーゴは、非ウイルス核酸送達剤内に、約0.75:2:1または約1:2:1(ポリマー:リポペプチド:核酸)のモル電荷比で存在し得る。
【0040】
非ウイルス核酸送達剤は、任意選択で、受容体媒介核酸移入リガンド、抗体または標的とする送達のために操作された抗体の断片を、組み込み得る。受容体媒介核酸移入リガンドの使用は、細胞表面受容体を標的とするリガンドを使用することにより、核酸カーゴの細胞または細胞特異的送達を達成することを目的とする。リガンドは、核酸分子、リポペプチド化合物(複数可)及び/または高分子電荷中和剤(複数可)にコンジュゲートし得る。受容体媒介遺伝子移入のためのリガンドの例としては、それぞれトランスフェリン受容体、ニューロテンシン受容体及びマンノース受容体を標的とする、トランスフェリン、ニューロテンシン及びマンナンが挙げられる。トランスフェリン受容体は、ほとんどの細胞上で見いだされ、ニューロテンシン受容体は、ニューロン、例えば脳内のグルタミン酸作動性ニューロン上で見いだされ、マンノース受容体は、細胞、例えばマクロファージ、樹状細胞及びいくつかの内皮細胞上で見いだされる。
【0041】
一特定の実施形態では、本開示の非ウイルス核酸送達剤は、ワクチンに重要なDNAまたはRNA分子(例えば、抗原またはエピトープをコードするヌクレオチド配列を含むDNAまたはmRNA分子)の細胞への送達のためのDNAまたはRNAワクチンとみなされ得る。
【0042】
別の特定の実施形態では、本開示の非ウイルス核酸送達剤は、細胞への自己増殖性レプリコンRNAの送達のための薬剤である。
【0043】
なおも別の特定の実施形態では、本開示の非ウイルス核酸送達剤は、細胞へのmodRNAの送達のための薬剤である。
【0044】
第二の態様では、本開示は、核酸分子を対象の細胞に送達する方法であって、
第一の態様に従う非ウイルス核酸送達剤を提供するステップ、及び
非ウイルス核酸送達剤を、対象の前記細胞に送達するステップを含む、前記方法を提供する。
【0045】
非ウイルス核酸送達剤は、細胞に、(例えば、筋肉内(im)投与などの非経口投与のために)単純な針注射、遺伝子銃、エレクトロポレーション、超音波またはハイドロダイナミック送達方法を使用して送達され得る。
【0046】
非ウイルス送達核酸剤は、1つまたは複数の好適なキャリアまたは賦形剤と組み合わせて送達され得る。
【0047】
ゆえに、第三の態様では、本開示は、第一の態様に従う非ウイルス送達核酸剤を薬学的に許容され得るキャリアまたは賦形剤と組み合わせて含む、医薬組成物を提供する。
【0048】
非ウイルス核酸送達剤が送達される細胞は、急速に分化する細胞型、例えばがん細胞であり得る。しかしながら、そうでない場合、細胞は、急速に分化しているとみなされない型(例えば、筋肉の細胞型、腎臓及び肝臓の細胞型、免疫系の細胞型ならびに肺の細胞型を含む)のものであり得る。
【0049】
第四の態様では、本開示は、第一の態様に従う非ウイルス送達核酸剤を生成する方法であって、
核酸カーゴ、1つまたは複数のリポペプチド化合物(複数可)、及び1つまたは複数の高分子電荷中和剤を、複合化した粒子の形成に好適な条件下で、組み合わせることを含む、前記方法を提供する。
【0050】
リポペプチド化合物(複数可)及び核酸カーゴは、1:1(リポペプチド:核酸)~4:1の範囲内、より好ましくは、約1.5:1~約3.5:1の範囲内のモル電荷比で組み合わされ得る。いくつかの特定の実施形態では、リポペプチド化合物(複数可)及び核酸カーゴは、約2:1(リポペプチド:核酸)のモル電荷比で組み合わされ得る。
【0051】
高分子電荷中和剤(複数可)及びリポペプチド化合物(複数可)は、1:4(ポリマー:リポペプチド)~1:1の範囲内、より好ましくは、約1:3~約1:2の範囲内のモル電荷比で組み合わされ得る。いくつかの特定の実施形態では、高分子電荷中和剤(複数可)及びリポペプチド化合物(複数可)は、約0.75:2または約1:2(ポリマー:リポペプチド)のモル電荷比で組み合わされ得る。
【0052】
いくつかの実施形態では、高分子電荷中和剤(複数可)、リポペプチド化合物(複数可)及び核酸カーゴは、約0.75:2:1または約1:2:1(ポリマー:リポペプチド:核酸)のモル電荷比にて組み合わされ得る。
【0053】
好ましくは、核酸カーゴ、1つまたは複数のリポペプチド化合物、及び1つまたは複数の高分子電荷中和剤を組み合わせるステップ(及び後続の複合化した粒子の形成)は、水相中で実行される。
【0054】
本開示の非ウイルス核酸送達剤を、以下の非限定例及び添付の図面に関して、以降にさらに記載する。
【実施例
【0055】
実施例1
2つのDNA複合体、すなわちカチオン性LP/DNA複合体及び中和したPEG化LP/DNA複合体を開発し、in vivoにて評価した。PEG化LP/DNA複合体を、自己組織化中に、ジステアロイル-ホスホエタノールアミン-(ポリエチレングリコール)(DSPE-PEG2000)を、LP/DNA複合体に加えることにより開発した。
DSPE-PEG2000
【0056】
DNAワクチン送達における複合体のカチオン性表面電荷を遮蔽する効果の理解を助けるために、2つのDNA複合体の分布、トランスフェクション及び免疫原性間の関係を調査し、溶液中の裸のDNAの注射と比較した。
【0057】
方法及び材料
材料
ステアロイル-CH LPを、G.L.Biochem(Shanghai,China)によりカスタム製造し、一方でDSPE-PEG2000は、Avanti Polar Lipids(Alabaster,AL,United States of America)から得た。全ての材料を、使用のために、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)-グルコース緩衝液(HGB)(15mM HEPES及び5%w/vグルコース、pH=7.4)に溶解した。蛍光分布試験において使用したプラスミドDNAは、サイトメガロウイルスプロモーターにより制御されるベータ-ガラクトシダーゼ発現カセットを含有するpcDNA3.1HygrolacZ(Thermo Fisher Scientific,Carlsbad,CA,United States of America)とした。組織キャリブレーション済みqPCR試験に関して、pCMV-luc(pGL2ベーシック(Promega,Fitchburg,WI,United States of America)からのホタルルシフェラーゼcDNAをpcDNA3(Thermo Fisher Scientific)のマルチプルクローニングサイトにライゲートすることにより構築、を使用した。In vivo遺伝子発現試験は、pNL1.1.CMV(Promega)、サイトメガロウイルスプロモーター(pCMV)の制御下でナノルシフェラーゼ遺伝子を含有する3861塩基対のDNAプラスミドを使用した。免疫原性試験のために使用されたプラスミドは、分泌型のオボアルブミン[13]を発現するpCMV-OVAとした。これらの試験で使用されたオボアルブミンタンパク質及びOVA257-264合成ペプチド(SIINFEKL、配列番号10)は、Sigma-Aldrich(St.Louis,MO,United States of America)から購入した。オボアルブミン陽性対照と共注射された免疫刺激補助剤として使用されたリポ多糖類(LPS)[14]も、Sigma-Aldrichから購入した。カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)色素は、Thermo Fisher Scientificから得た。
【0058】
マウス
動物は、8~12週齢のC57BL/6J雄マウスを使用した。別段の指定がない限り、筋肉内注射を左腓腹筋肉に行い、50μg用量の裸プラスミドDNAまたはDNA複合体を50μL容量にて使用した。全てのマウスは、筋肉内注射の前に、1~4%滴定イソフルランガスを用いて麻酔した。
【0059】
モル電荷比の計算
LP/DNA複合体の文脈では、電荷比は、カチオン性トランスフェクション剤により提供される正に荷電したアミン基(NH )/DNAの負に荷電したリン酸基(PO )(この場合、1リン酸基=1ヌクレオチド)の数を指す。例えば、ステアロイル-CH(1045.45g/mol、3NH /分子)を使用して1:1(LP:DNA)の理論的な電荷比を得るためには、1μgのプラスミドDNA(3nmol)を、1.06μgのステアロイル-CH(1nmol)と混合する。DNAのヌクレオチド当たりの330g/molの平均質量を計算に使用した。DSPE-PEG2000/LP/DNA複合体の文脈では、電荷比は、それぞれ、DSPE-PEG2000により提供される負に荷電したリン酸基/LPの正に荷電したアミン/DNAのリン酸基の数を指す。例えば、DSPE-PEG2000(2805.54g/mol、PO /分子)及びステアロイル-CHを用いて、1:1:1(DSPE-PEG2000:LP:DNA)の理論的な電荷比を得るためには、1μgのプラスミドDNA(3nmol)を、1.06μgのステアロイル-CH(1nmol)及び8.5μgのDSPE-PEG2000(3nmol)と混合する。
【0060】
DNA複合体の調製
LP/DNA複合体は、LP及びDNAを、0.5:1~5:1(LP:DNA)の(+/-)電荷比の範囲にわたって、一緒に混合することにより調製した。DSPE-PEG2000/LP/DNA複合体は、DSPE-PEG2000、LP及びDNAを、0.5:2.5:1~5:2.5:1(DSPE-PEG2000:LP:DNA)の電荷比の範囲にわたって、一緒に混合することにより調製した。DNA複合体混合物を、次いで、使用前に、室温で30分間インキュベートした。in vivo注射用にDNA複合体を濃縮するため、限外ろ過(5,000g、4℃にて約5.5時間)をAmicon Ultra-15遠心式ユニット(Merck Millipore,Billerica,MA,United States of America)を、3kDaの公称分画分子量(NMWL)で用いて行った。
【0061】
粒子特性評価
色素排除アッセイ
LPがDNAを効果的に凝縮する電荷比を決定するために、色素排除アッセイを行った。96ウェルの黒底プレートにて、プラスミドDNA(20μg/mL)を、12mM Tris-HCl(pH7.4)緩衝液中で調製した。DNAを含有する各ウェルに、0.05μLのインターカレーティングSYBR(登録商標)Gold(Thermo Fisher Scientific)の10,000倍濃縮ストックを加え、プレートを室温で15分間インキュベートした。LPを、次いで、0.5:1から5:1の一連の電荷比にてウェルに加えた。20μg/mLの裸DNA及びSYBR(登録商標)Goldを含有するウェルを、100%蛍光強度標準(すなわち、LPが添加されていない)として使用した。SYBR(登録商標)Goldのみを緩衝液中に含有するブランクウェルを使用して、各試料の蛍光読み取り値から差し引いた。プレートを、室温にて30分間インキュベートして、粒子を形成させた。各試料の蛍光(励起492nm、発光540nm)を、Wallac Envision 2102マルチラベルリーダー(Perkin Elmer,Waltham,MA,United States of America)を使用して測定した。
【0062】
粒子サイズ分類及びゼータ電位
各複合体の平均粒子サイズ(Z平均)及びゼータ電位を、DLSを介して、Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments,Malvern,United Kingdom)を使用して測定した。粒子サイズ分類に関しては、測定は25℃にて実行し、各測定は10回の実行から構成され、それぞれの持続時間は10秒とした。試料のサイズの多分散指数(PDI)を、各測定に関して記録した。機器がキャリブレーションされていることを確認するために、60nm±2.7nmサイズ標準(Malvern Instruments)を実験前に使用した。ゼータ電位測定に関しては、機器がキャリブレーションされていることを確認するために、-68mV±6.8mVゼータ電位標準(Malvern Instruments)を、実験前に分析した。全ての測定は、25℃にて実行した。
【0063】
Cryo-TEM
低温透過型電子顕微鏡法(Cryo-TEM)を実行して、DNA複合体を撮像した。複合体を、上述のように調製し、5μLの各試料を穴の開いたカーボンコーティング銅300メッシュグリッドに載せた。グリッドを、次いで、液体窒素で冷却した液体エタン浴中で急速凍結させた。各試料の温度を、撮像の時までクライオホルダーにて維持した。
【0064】
塩安定性アッセイ
塩誘導凝集に対するDNA複合体の安定性を検査するために、NaClの添加前後の粒子の粒子サイズ分類を実行した。簡潔には、DNA複合体を、HGBにて調製し、DLSを使用して、粒子サイズを測定した。NaCl溶液を、次いで、粒子に加えて、0.15Mの最終濃度とした。粒子を30分間インキュベートしてから、DLS測定を再度実行した。
【0065】
導入遺伝子発現
ルシフェラーゼアッセイを実行して、レポーターナノルシフェラーゼタンパク質をアッセイした。注射後1、30及び90日の時点で、各マウスの腓腹筋肉を解剖し、液体窒素中で急速凍結した。筋肉を、次いで、緩衝液(50mMリン酸カリウム、1mM DTT、1mMエチレンジアミン四酢酸、10%グリセロール)中で、ローター/ステーター式組織ホモジナイザー(TissueTearor,Biospec Products,Bartlesville,OK,United States of America)を使用してホモジナイズした。ナノルシフェラーゼレポータータンパク質の定量化を、市販のNano-Glo(登録商標)ルシフェラーゼアッセイシステムをGlo Lysis緩衝液(両方ともPromega製)と、製造業者の指示に従って使用して、実行した。発光は、LUMIStar Omega機器(BMG Labtech,Ortenberg,Germany)を使用して測定した。試料間の比較を可能とするために、Bradfordアッセイを採用して、発現レベルの標準化のために組織溶解物中の総タンパク質を決定した。このアッセイは、Quick Start(商標)Bradfordアッセイ(Bio-Rad,Hercules,CA,United States of America)を製造業者の指示に従って使用して実行し、ウシ血清アルブミンをタンパク質標準として使用した。結果得られた吸光度を、EnVision(登録商標)マルチラベルリーダー(Perkin Elmer)を595nmの波長にて使用して測定した。
【0066】
組織キャリブレーション済みqPCR
組織キャリブレーション済みqPCRを、Ho et al.[15]により概説された手順に従って行った。簡潔には、マウスに、裸プラスミドDNAまたはDNA複合体を、pCMV-lucを使用して、筋肉内注注射した。注射30分後、組織を採取し、DNAzol試薬(Thermo Fisher Scientific)中で、ハンドヘルドTissueTearorホモジナイザー(Biospec Products)を使用して、またはPellet Pestlesモーターグラインダー(Sigma-Aldrich)を用いて、ホモジナイズし、プロテイナーゼK(Qiagen,Venlo,Netherlands)(100μg/ml)と室温で一晩インキュベートした。組織抽出物を、次いで、10分間10,000gで4℃にて遠心分離し、総DNAを、Wizard DNAプレップスピンカラム(Promega)を、製造業者の指示に従って使用して、上清から抽出した。リアルタイム定量PCRを、CFX96(商標)リアルタイムPCR検出システム(Bio-Rad)を用いて行った。フォワード(5’CCTCATAAAGGCCAAGAAGG3’、配列番号11)及びリバース(5’ACACCGGCCTTATTCCAAG3’、配列番号12)プライマーを使用して、pCMVlucの114bp断片を増幅した。各PCR反応は、5μLのiQ SYBR Green Supermix(Bio-Rad,Hercules,CA)、200nmol/lの各プライマー、1ngの鋳型DNA及び水からなり、総反応容量は、10μLであった。反応は、95℃にて3分間初期インキュベーションを行い、その後40サイクルの変性を95℃にて10秒間、アニーリングを47℃にて30秒間、そして伸長を72℃にて30秒間行った。全ての反応は、3重に行い、鋳型DNAの代わりに水を含有する「鋳型無し」対照を、全てのPCR実行に含めた。組織内に存在するプラスミドの絶対定量を、アッセイされた各組織に関して構築された標準曲線を使用して行った。標準曲線は、段階希釈したプラスミド標準を、事前に秤量して、切除した関心対象の各組織のホモジネートに加えることにより、作成した。
【0067】
組織内のDNA複合体の局在化の追跡
投与後のDNA複合体を追跡するために、pcDNA3.1HygrolacZを、蛍光ヌクレオチドChromaTide(登録商標)Alexa Flour(登録商標)594-5-dUTP(Thermo Fisher Scientific)を用いて共有結合標識した。簡潔には、プラスミドDNAを、BglII制限酵素(New England Biolabs,Ipswich,MA,United States of America)(2ユニット/1μgのDNA)を用いて消化し、一晩37℃にてインキュベートして、5’GATCオーバーハングを伴う直鎖プラスミドを得た。このプラスミドを、フェノール-クロロホルム抽出、その後のエタノール沈殿を介して精製した。クレノウ断片(New England Biolabs)を、次いで、60nmの各dNTP(dUTPを蛍光Alexa Flour(登録商標)594-5-dUTPに置き換える)に加えて、線形化したプラスミドに加え、混合物を室温で4時間インキュベートした。反応を、エチレンジアミン四酢酸を加えることにより終了させて、10mMの最終濃度とした。フェノール-クロロホルム抽出及びエタノール沈殿を行って、結果得られた標識プラスミド(DNA-AF594)を精製した。溶液中の組み込まれていない遊離ヌクレオチドの存在を最小限に抑えるため、DNAペレットを70%エタノールで3回洗浄してから、DNA再懸濁を行った。マウスに、裸DNA-AF594またはDNA-AF594複合体を、50μL中50μgの用量にて筋肉内注射した。これらのマウスを、次いで注射30分後に安楽死させた。筋肉を解剖し、4%PFAにて固定し、Tissue-Tek(登録商標)OCT(商標)コンパウンド(Sakura Finetek USA Inc,Torrance,CA,United States of America)中ドライアイスを用いて凍結した。凍結切片化を、-20℃にて行った。10μm切片を、組織の800μm毎に収集した。組織切片を、Vectashield(Vector Laboratories,Burlingame,CA,United States of America)にマウントし、Nikon A1R共焦点顕微鏡(Nikon,Minato,Japan)を使用して撮像した。DNA-AF549の合計ピクセル計数を、Image Jソフトウェア(NIH)を使用して、各画像に関して行い、設定しきい値レベルは、ビヒクル処置筋肉の撮像により決定して60とした。加えて、画像のそれぞれにおける蛍光DNAの局在化の程度は、筋上膜、筋周膜または筋内膜のいずれかと関連して分類した。分類は、以下の通りとした:+++は、高度の関連性を示し、++は、中程度の関連性を示し、+は、低程度の関連性を示し、-は、この領域と関連する検出可能レベルの標識DNAがなかったことを示した)。値を、次いで、+++を3、++を2、+を1、-を0として、各カテゴリーに割り当てた。各細胞外領域に関するこれらの数の合計(すなわち、加重ピクセル数)を、各筋肉について決定し、平均をグラフにプロットした。
【0068】
In Vivo細胞傷害性Tリンパ球除去アッセイ
DNA複合体を注射したマウスにおいて誘発された全体的な細胞応答を評価するために、in vivo細胞傷害性Tリンパ球(CTL)活性アッセイを、White et alに概説された手順に従って行った。[16]。
【0069】
マウス注射及びin vivoアッセイ計画
1日目に、マウスをDNA複合体または対照製剤でプライムした。LP/DNA及びDSPE-PEG2000/LP/DNA複合体を、pCMV-OVAプラスミドを使用して前述のように調製した。この実験において使用した陽性対照製剤は、2×10個のオボアルブミンコーティング脾臓細胞と1μgのLPSの注射とした。オボアルブミンコーティング脾臓細胞は、(ナイーブC57BL/6Jマウスからの)単離された脾臓細胞の単細胞懸濁液を、オボアルブミンとインキュベートすることによって調製した。脾臓細胞を、赤血球溶解緩衝液に懸濁し、37℃にて2分間インキュベートし、洗浄し、70μmセルストレーナーに通して、細胞デブリをいずれも濾去した。細胞を、次いで、オボアルブミン(10mg/mL)と、37℃にて10分間インキュベートし、洗浄し、次いで、PBSに再懸濁した。免疫化6日後に、マウスに、標的脾臓細胞(調製は下記に概説する)を静脈内注射した。翌日、脾臓細胞をマウスから採取し、フローサイトメトリーを介して分析した(調製は下記に概説する)。除去された標的オボアルブミン-パルス脾臓細胞の割合(%)を次いで、各マウスに関して計算した。
【0070】
標的脾臓細胞の調製
標的脾臓細胞を、赤血球の単離された脾臓細胞の単細胞懸濁液を枯渇させ、細胞の集団を均等に2本の管へと分割することにより調製した。一方の管に、OVA257-264ペプチドを加えて、1μg/mLの濃度とした。両方の管を、次いで、37℃にて1時間インキュベートし、洗浄し、10個の細胞/mLでPBS及び1%FBS中に再懸濁した。脾臓細胞のOVA257-264ペプチドパルス管に、0.5μLの10mM CFSEを細胞の1mL当たりで加えた(すなわち、高CFSE濃度)。脾臓細胞のパルスされていない集団に、0.5μLの1mM CFSEを細胞1mL当たりで加えた(すなわち、低CFSE濃度)。この2本の管を、次いで、37℃にて10分間インキュベートし、洗浄し、次いで、PBS中に再懸濁した。細胞の2つの集団を、次いで、1:1の比率(高CFSE:低CFSE集団)にて1つに混合し、各マウスに、200μLのPBS中の2×10個の混合細胞を静脈内注射した。
【0071】
フローサイトメトリー
フローサイトメトリーを、BD FACSCanto(商標)II(BD Biosciences,San Jose,CA,United States of America)を使用して行って、脾臓細胞のOVAパルス(高CFSE標識)集団の、パルスされていない(低CFSE標識)脾臓細胞に対する比率を同定した。各試料に関して、2百万の事象が記録された。次いで、各マウスにおけるOVA特異的T細胞活性化から除去された細胞の割合(%)を、以下の式:
1-(陰性対照マウスにおけるパルス:パルスされていない脾臓細胞の比率)/(実験マウスにおけるパルス:パルスされていない脾臓細胞の比率)×100
を使用して計算した。
【0072】
抗体応答アッセイ
マウスに、裸プラスミド(対照)、LP/DNAもしくはDSPE-PEG2000/LP/DNA複合体(試験製剤)、オボアルブミンタンパク質(陽性対照)または生理食塩水(陰性対照)いずれかの初回投与(プライム)を、1日目に施し、オボアルブミン発現pCMV-OVAをプラスミドDNAとして使用した。ブースター注射を、次いで、4週間後に投与した。裸DNA、DNA複合体及び生理食塩水は全て、50μL中50μgの用量を使用して、マウスの腓腹筋肉へと筋肉内投与した。オボアルブミン陽性対照(50μgオボアルブミンタンパク質+1μg LPS)は、50μL注射容量にて筋肉内投与した。血液(約100μL)を、1日目(プライム注射の前)、4週間(ブースト注射の前)、次いで、初回プライムの9、11、及び13週後に、5mmランセットを使用してマウスの顎下出血を介してマウスから収集した。血液試料を、次いで、37℃にて90分間インキュベートし、4℃にて約18時間保管し、これはWhite et al.(2008)[16]に概説される手順に従った。血清を、次いで、遠心分離(10,000gで4℃にて15分間)により収集し、-20℃でさらなる使用まで保管した。血清中の抗オボアルブミン免疫グロブリン(IgG、IgM及びIgAクラス抗体)の定量化のために、マウス抗オボアルブミンIg ELISAキット(Alpha Diagnostic,San Antonio,TX,United States of America)を使用した。アッセイは、製造業者の指示に従って行った。450nmでの吸光度を、Envison Wallacプレートリーダー(PerkinElmer)を用いて測定した。データは、陽性指数の値に対する関連において表した(すなわち、対照の事前免疫化マウスの吸光度値の平均+2SD)。抗OVA活性レベルの定量は、以下の式
(試料吸光度)/(陽性指数)
により計算し、1.0という値は、マウスでの陽性抗体活性を示し、1.0を下回る値は、抗体活性に関して陰性であることを示す。
【0073】
統計分析
複合体のin vitro特性評価に関して、グラフのデータは、別段の指定がない限り、平均±平均の標準誤差(SEM)として表され、各データポイントはn=3試料を表す。全てのin vivo実験に関して、グラフのデータは、別段の指定がない限り、平均±SEMとして表され、各データポイントは、n=6~8試料を表す。対応のあるスチューデントのt検定を使用して、NaClの添加後のDNA複合体のZ平均またはPDIにおける有意差を決定した。二元配置分散分析とダネットの事後検定を使用して、経時的なナノルシフェラーゼアッセイにおけるDNA複合体の導入遺伝子発現レベルの統計学的有意性を評価した。二元配置分散分析とテューキーの事後検定を使用して、製剤間の蛍光プラスミドの加重合計ピクセル数及び筋肉の細胞外領域でのそれらの局在化の程度における差異の統計学的有意性を評価した。クラスカル-ウォリス検定をダンの事後検定と共に使用して、各群間の抗OVA陽性マウスの数における有意差を比較した。一元配置分散分析とダネットの事後検定を使用して、生理食塩水と比較して、マウスのエピトープ特異的Tリンパ球活性における統計学的有意性を評価した。一元配置分散分析とテューキーの事後検定を使用して、マウスにおける群間でのエピトープ特異的Tリンパ球活性、及び色素排除アッセイにおける蛍光強度の差異の統計学的有意性を評価した。全ての検定に関して、0.05未満のp値は、統計学的に有意であるといみなした。
【0074】
結果
自己組織化LP/DNA複合体の形成及び特性評価
LP/DNA複合体の色素排除アッセイにより、1:1~2.5:1の(+/-)電荷比間でLPのDNAへの添加が増加するにつれて、蛍光が急激に低下することが明らかとなった。蛍光は、2.5:1を超える比率にて最小に達し、このことは、DNAのさらなる凝縮がこの段階を超えて生じなかったことを示す(図1A)。ステアロイル-CHのシステインを、同様の極性の残基であるセリンと置換すると、2:1以降の電荷比からより高い蛍光強度が観察された(n=3、p<0.05)(データは示さず)。同様に、より非極性のアラニンとの置換も、これらの後の電荷比にてより高い蛍光をもたらした(n=3、p<0.05)。低い電荷比にわたる蛍光の急激な低下は、ステアロイル-CHで観察され、これらの2つの置換LPでは観察されなかった。代わりに、蛍光のより緩やかな低減が観察された。このことは、システイン残基が、プラスミドDNAの凝縮を助ける役割を果たすことを示した。DNA複合体形成前に、還元剤ジチオトレイトール(DTT)をステアロイル-CHLPに加えることにより、2.5:1の電荷比にてLP/DNA粒子に関して観察された蛍光の程度は有意に増加した(n=3、p<0.05)(データは示さず)。このことは、LP/DNA複合体におけるDNAの凝縮を助けたのが、LPの対間ジスルフィド結合の形成であることを示す。
【0075】
DLS及びゼータ電位測定により、電荷が中性に近いときに、見かけの直径が>1μmで形成された粒子の大きな、負に荷電した及び/または中性の集団の全体的に多分散の(PDI>0.25)集団が明らかとなった。(図1B、C)。1.5:1の電荷比にて形成された複合体のCryo-TEMイメージングは、非球状の、不規則な形状の粒子の溶液中での形成を示し、これは主に小さな粒子の大きな凝集体を含んだ(図1D、E)。興味深いことに、凝集体は、直径おおよそ30nmの粒子を含むように見えた。より高い電荷比(>2:1)では、小さい、正に荷電したDNA複合体のより狭い分散が形成され、ゼータ電位は≧+30mVであり、粒径は、おおよそ100nmであった(PDI≦0.25)。2.5:1の電荷比にて形成されたLP/DNA複合体のCryo-TEMイメージングは、大部分が直径約30nmの小粒子であり、時折おおよそ60~90nmサイズのクラスターを含有するより均一な集団を明らかにした。これらの凝集体は、いくつかの約30nmの一次粒子から構成されるようにも見えた。比較的小さいサイズ及び高カチオン性表面電荷のため、2.5:1の電荷比(+/-)にて形成されたLP/DNA複合体は、in vivo評価のために選択された。これらの複合体は、112.5±13.9nmの直径及び+34.2±1.2mVのゼータ電位を有した。
【0076】
PEG化LP/DNA複合体の形成及び特性評価
負に荷電したDSPE-PEG2000のLP/DNA粒子への添加が増加すると、それらの正のゼータ電位を低下させるため、結果得られる粒子は、0.75:2:1及び1:2:1の比率にて約0mVに近いゼータ電位に達した(図2A)。0.75:2:1の電荷比にて形成されたDSPE-PEG2000/LP/DNA複合体を、塩誘導凝集に対するその安定性を検査するために選択し、続けてin vivo試験において使用した。これらの複合体は、198.6±49.5nmの直径及び+0.76±0.2mVのゼータ電位を有した(図2B)。LP/DNA複合体にPEG化コーティングを加えることで、わずかに大きい流体力学的直径を有する粒子がもたらされたが、それらの直径は、スチューデントのt検定に従い、カチオン性LP/DNA粒子に対して統計学的に差はなかった。
【0077】
PEG化は、塩誘導凝集に対して安定性を付与する
等張緩衝液中でのLP/DNA複合体のインキュベーションは、複合体の凝集を誘発した。DLS分析により、見かけの粒径が、15倍有意に増加したことが示された(p<0.01)(図3A)。LP/DNA複合体のPEG化は、DNA複合体に塩安定性を付与した。DLSによる粒子サイズは、NaClの添加後に有意差はなかった。
【0078】
PEG化は、in vivoでLP/DNA複合体の導入遺伝子発現を増加させる
ナノルシフェラーゼ発現のアッセイにより、裸DNA、LP/DNA及びPEG化LP/DNA複合体の投与が、3ヶ月の試験期間中の全てのアッセイ時点で、腓腹筋肉内で有意な遺伝子発現をもたらすことが明らかとなった(図3B)。PEG化LP/DNA複合体は、全ての時点にてLP/DNA複合体よりも筋肉内で高い遺伝子発現レベルを呈し、最大発現は注射1ヶ月後に観察された(n=3~6、p<0.0001)。この時点で、PEG化複合体の注射によりもたらされる遺伝子発現は、その非PEG化対応物の遺伝子発現よりも200倍以上高かった。しかしながら、裸DNA注射は、全体で腓腹筋肉において最も高い程度の遺伝子発現を呈した。30日で、裸DNAは、それぞれ、LP/DNA(n=3~6、p<0.0001)及びPEG化LP/DNA複合体(n=3~6、p<0.0001)と比較して、ナノルシフェラーゼ発現において1,200及び60倍の増加を産生した。遺伝子発現は、90日でも依然として明らかであった。裸DNAからの発現レベルは、依然として最も高かったが、30から90日の間に低下するように見え、一方で粒子製剤により誘導されたレベルは、30から90日の間、遺伝子発現を維持した。
【0079】
組織におけるDNA複合体の分布
DNA複合体または裸DNAの注射30分後の、筋肉内のプラスミドDNA濃度に関するqPCRアッセイにより、同様の濃度のプラスミドが存在し、注射された製剤間で有意な差が観察されなかったことが明らかとなった(図4A)。3つの製剤のそれぞれの注射後に筋肉全体において検出されたプラスミドの質量は、投与された用量の約1~約5%の範囲であった。理論により束縛されることを望まないが、PEG化複合体のトランスフェクション効率が、それらの非PEG化対応物と比較してより高いのは、PEG化複合体が筋肉組織全体にわたって広範に分布しているためである可能性があり、一方で、カチオン性複合体の分布は、粒子及び細胞外マトリックス間の電荷-電荷相互作用により制限されている可能性があると考えられる。これを検査するために、イメージング試験を、注射30分後の蛍光標識プラスミドと複合体の分散を追跡する目的で行った。組織切片を、定性的に評価し、さらに定量的評価を、ピクセル計数技術を使用して行った。組織切片の検査により、両方の複合体の投与が、標識されたDNAの大部分の局在化を筋内膜よりもむしろ筋上膜領域においてもたらしたことが示された。加重ピクセル計数法を使用して、これを、LP/DNA及びDSPE-PEG2000/LP/DNA複合体について検証した(図4B、それぞれ、n=3、p<0.001、p<0.05)。対照的に、裸DNAの筋肉への注射は、筋肉内の3つの領域のいずれにもプラスミドの優先的な局在化をもたらさなかった。
【0080】
pCMV-OVAの注射に対する体液性免疫応答
選択されたプライム-ブーストレジメンを使用したLP/DNA複合体の形での50μg DNAを用いた免疫化は、有意なオボアルブミン特異的免疫グロブリンレベルをマウスにおいて引き出さなかった。全てのマウスは、陽性指数を下回る活性を呈した(図5A)。クラスカル-ウォリス検定に従うと統計学的に有意ではないが、裸DNA及びDSPE-PEG2000/LP/DNA複合体の注射は、両方とも陽性マウス(4匹中2匹のマウス)をもたらし、全体的に、DSPE-PEG2000/LP/DNA複合体に対する応答は、裸DNAよりも成功しているように見受けられ、第11及び13週にて、4匹のうち2匹が強く応答した。LPSと共投与したオボアルブミンコーティング脾臓細胞の陽性対照は、全てのマウス(3匹中3匹のマウス)において強い応答を誘導した。
【0081】
pCMV-OVAの注射に対する細胞媒介免疫応答
フローサイトメトリーにより、その裸または複合体形態でのpCMV-OVAプラスミドの注射が、生理食塩水対照との比較により、脾臓細胞の標的オボアルブミンパルス集団の高度に有意なエピトープ特異的T細胞除去を誘導したことが示された(図5B~E)。結果は、DSPE-PEG2000/LP/DNA複合体及び裸DNA複合体の両方を用いた免疫化が両方とも、マウスの細胞の、同様の割合(%)のオボアルブミン特異的除去を誘導したことを示し、それぞれ(26.7±2.2%(n=8、p<0.0001)及び22.5±2.3%(n=8、p<0.0001))の標的細胞が除去された。LP/DNA複合体を用いた免疫化は、より低い応答を誘導し、14.3±1.6%の細胞が除去された。この応答は、生理食塩水対照よりも有意に高かった(n=8、p<0.01)が、DSPE-PEG2000/LP/DNAのそれよりも有意に低かった(n=8、p<0.05)。予想通り、OVAコーティング脾臓細胞及びLPSの陽性対照注射は、最も強い応答を誘導し、細胞の57.2±5%が除去された(n=8、p<0.0001)。
【0082】
考察
この実施例の結果は、LP及び高分子電荷中和剤、例えばDSPE-PEG2000を新しい核酸送達剤の開発の基盤として使用することが、かなりの見込みがあることを示す。DSPE-PEG2000を適切な比率にて含めることは、広範な凝集を伴わない小粒子(すなわち、約200nmの粒径)の生成を有利に可能とし、LP/DNA複合体の強カチオン性表面電荷の有効な中和を示した。PEG層が、塩誘導凝集に対する安定性を付与することも観察され、これは、PEG化LP/DNA複合体が、in vivoでの投与後に生体液との接触の際に凝集する可能性が低いだろうことを示す。さらには、PEG化LP/DNA複合体は、試験したLP/DNA複合体よりも筋肉内でより高い導入遺伝子発現レベルを誘導することができ、in vivo CTLアッセイでは、LP/DNA複合体より高い細胞応答を引き出した。
【0083】
実施例2
代替のDNA複合体を、LP及びポリ(グルタミン酸塩)-PEG(具体的には、メトキシ-PEG-ポリ(L-グルタミン酸塩)ブロックポリマー、これはAlmanda Polymersにより提供され、PLGA-PEGと称される)を、ジステアロイル-ホスホエタノールアミン-(ポリエチレングリコール)(DSPE-PEG2000)の代わりに使用して開発した。
【0084】
材料及び方法
核酸カーゴ(具体的には、ナノルシフェラーゼ遺伝子をコードするプラスミドDNA分子pNL1.1.CMV(Promega))、ステアロイル-Cys-His-His-Lys-Lys-Lys(図6及び7においてCH2K3と指名、配列番号1)、ステアロイル-Cys-Ala-Ala-Lys-Lys-Lys(CA2K3と指名、配列番号5)及びステアロイル-Cys-Lys-Lys-Lys-Lys-Lys(CK5と指名、配列番号13)から選択されるカチオン性リポペプチド、ならびにPLGA-PEGを含む粒子複合体を、実施例1にて実質的に上に記載の通りに(すなわち、DSPE-PEG2000をPLGA-PEGに置き換えて)生成した。簡潔には、DNA分子及びポリ(L-グルタミン酸塩-PEG)を、HEPES緩衝液中に一緒に溶解し、HEPES緩衝液中に溶解した等量のカチオン性リポペプチドに加えて、15μg/mlの最終DNA濃度を生成した。比較のために、ポリリジン(PLL)及びポリエチレンイミン(PEI)を用いたDNA分子の調製物も、DNA分子と上記リポペプチド単独のそれぞれとの複合体に加えて生成した。
【0085】
さらなる実験では、様々な粒子複合体を、変動量のDNA分子(具体的には、30または400μg/mlのDNA分子)を使用して生成した。それぞれのDNA溶液を、カチオン性リポペプチド、ステアロイル-Cys-Lys-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号13)、またはポリカチオン性リガンドPLLもしくはpEIの一方のいずれかの(等量の)溶液、及びPLGA-PEGに加えた。これにより、15μg/mlまたは200μg/mlの最終DNA濃度を有する粒子がもたらされた。
【0086】
様々な複合体を、粒子サイズ及びゼータ電位に関して、実施例1にて上に記載の方法を使用して評価した。
【0087】
結果
複合化した粒子は全て、60~100nmの範囲のサイズ(平均粒径サイズ)のものであった(図6A及び7B)。PLGA-PEGを含めると、試験したリポペプチドの全てに関する平均粒径サイズは、同様であった(粒子が15μg/mlの最終DNA濃度を有した場合、約70nm)が、調製中により高い濃度のDNA分子が使用された場合は、サイズは大きくなった。PLGA-PEGを含む粒子は全て、負に荷電していた(図6B及び7B)または中性に近かった。中性から負の電荷は、必要に応じて調整できる。
【0088】
実施例3
材料及び方法
pNL1.1.CMV(Promega)、ステアロイル-Cys-His-His-Lys-Lys-Lys(図8においてS-CH2K3と指名、配列番号1)、ステアロイル-Cys-Ala-Ala-Lys-Lys-Lys(図8においてS-CA2K3と指名、配列番号5)、ステアロイル-Ser-His-His-Lys-Lys-Lys(図8においてS-SH2K3と指名、配列番号7)及びステアロイル-Cys-His-His-Arg-Arg-Arg(図8においてS-CH2R3と指名、配列番号6)から選択されるカチオン性リポペプチド、ならびにPLGA-PEG(分子量PLGA=15kDa、分子量PEG=5kDaを有するブロックポリマー)を含むさらなるDNA複合体粒子を、実施例2にて実質的に上に記載の通りに生成した。簡潔には、複合体は、0.01M HEPES(pH7.4)中の2つの水溶液、一方は、プラスミドDNA及びPLGA-PEGを含有し、他方は、適切なリポペプチド(LP)を含有する、を混合することにより筋肉内(im)投与に好適な形態に調製した。
【0089】
各製剤を、C57マウスの腓腹筋の筋肉へと、10μg/注射の用量にて1回筋肉内注射した。48時間または7日いずれかの後、動物を安楽死させ、腓腹筋の筋肉、流入領域リンパ節、脾臓及び肝臓を切除して、ホモジナイズした(gentleMACS Cチューブを使用、Miltenyi Biotec,Bergisg Gladbach,Germany)。その後、上清を、ナノルシフェラーゼ発現に関して、Nano-Glo Luceferaseアッセイシステム(Promega)を使用してアッセイした。
【0090】
結果
結果を、図8A及びBに示し、組織1mg当たりの相対発光強度として表した。複合体粒子(概して、<100nmで、ゼータ電位は-5mv~-20mvである)は、48時間及び7日間後で明らかであった筋肉内で高レベルの遺伝子発現をもたらし、複合体変異体は、全て活性を示した。ステアロイル-SH製剤は、ジスルフィド結合能を欠き、ジスルフィド結合能を有した(すなわち、Cys残基を含んだ)LPを用いて調製した製剤よりも低いレベルの活性を7日後にもたらすように見えた。流入領域リンパ節では、活性レベルは検出されたが、腓腹筋の筋肉組織において観察されたレベルよりも100~1000倍低かった。
【0091】
実施例4
なおもさらなるDNA複合体粒子を調製し、今回は、メッセンジャーRNA(mRNA)を核酸カーゴとして用いた。具体的には、ポリAを3’末端に有するmRNAを、標準in vitro転写により、pNL1.1.CMV(Promega)からのCMV-ナノルシフェラーゼ発現カセットをコードするcDNAを含むプラスミドから調製した。mRNAを、5’末端でキャップして、次いで、PLGA-PEG及びステアロイル-CHリポペプチドを用いて製剤化して、実施例3に記載したものと同様の、負に荷電した粒子を生成した。
【0092】
10μg mRNA当量の用量を、C57マウスの腓腹筋の筋肉に注射した。マウスを、24時間後に安楽死させて、組織を、ナノルシフェラーゼ発現に関して、実施例3にて上に記載のようにアッセイした。
【0093】
結果
結果を図9に示し、組織1mg当たりの相対発光強度として表した。ルシフェラーゼ発現が、筋肉、流入領域リンパ節、肝臓及び脾臓にて検出されたが、筋肉における発現のレベルは、他の組織において観察されたものよりもおおよそ100倍高かった。結果により、本開示に従う薬剤が、mRNAを凝縮させて細胞に送達するために使用することができることが確認された。
【0094】
本明細書及び以下の特許請求の範囲を通して、文脈がそうでないことを必要としない限り、「含む(comprise)」及び「含む(include)」という単語ならびにその変形、例えば「含む(comprising)」及び「含む(including)」は、記載の整数または整数の群を含むが、任意の他の整数または整数の群を除外しないことを示すと理解されるだろう。
【0095】
本明細書における先行技術への言及はいずれも、かかる先行技術が共通の一般知識の一部を形成するという示唆のいかなる形態の承認ではない、及びそのように解釈されるべきではない。
【0096】
本開示の薬剤及び方法は、その使用が記載された特定の用途に限定されないことを当業者は理解するだろう。本薬剤及び方法はいずれも、本明細書に記載または図示されている特定の要素及び/または特徴に関するその好ましい実施形態に限定されない。本薬剤及び方法が、開示された1つまたは複数の実施形態に限定されず、本開示の範囲から逸脱することなく多くの再編成、修正、及び置換が可能であることが理解されるだろう。
【0097】
参考文献
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図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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