(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】グラウンドアンカー
(51)【国際特許分類】
E02D 5/80 20060101AFI20221207BHJP
【FI】
E02D5/80 A
(21)【出願番号】P 2019109345
(22)【出願日】2019-06-12
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000431
【氏名又は名称】弁理士法人高橋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三上 登
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-021887(JP,A)
【文献】特開2005-351028(JP,A)
【文献】特開2006-225887(JP,A)
【文献】特開平11-293671(JP,A)
【文献】特開昭49-023402(JP,A)
【文献】特開昭55-142824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部マンションの中空部に地中側が拡径する下部マンションテーパー部が形成されており,
引張材の半径方向内側には中空部が形成され,当該中空部には把持部用軸が配置されており,
把持部用軸の地中側先端には地上側に向かって縮径する把持部側テーパー部を設けた把持部が形成されており,
把持部のテーパー部が引張材の中空部に係合して引張材の地中側端部が拡径しており,当該拡径した引張材の地中側端部が下部マンションの中空部における下部マンションテーパー部と係合していることを特徴とするグラウンドアンカー。
【請求項2】
下部マンションの中空部に地中側が拡径する下部マンションテーパー部が形成されており,
引張材の半径方向内側には中空部が形成され,当該中空部には把持部用軸が配置されており,
把持部用軸の地中側先端には地上側に向かって縮径する把持部側テーパー部を設けた把持部が形成されており,
把持部用軸が地上側に引っ張られると把持部のテーパー部が引張材の中空部に係合して引張材の地中側端部が拡径し,当該拡径した引張材の地中側端部が下部マンションの中空部における下部マンションテーパー部と係合するグラウンドアンカーにおける引張材を除去するに際して,
把持部用軸を地中側に押圧して,引張材の中空部に対して把持部のテーパー部を係合解除せしめる工程と,
把持部のテーパー部が引張材の中空部に対して係合解除した状態で,把持部用軸と引張材を同時に地上側に引っ張る工程を備えていることを特徴とするグラウンドアンカー工法。
【請求項3】
下部マンションの中空部に地中側が拡径する下部マンションテーパー部が形成されており,
引張材の半径方向内側には中空部が形成され,当該中空部には把持部用軸が配置されており,
把持部用軸の地中側先端には地上側に向かって縮径する把持部側テーパー部を設けた把持部が形成されており,
把持部用軸が地上側に引っ張られると把持部のテーパー部が引張材の中空部に係合して引張材の地中側端部が拡径し,当該拡径した引張材の地中側端部が下部マンションの中空部における下部マンションテーパー部と係合するグラウンドアンカーにおける引張材を再配置するに際して,
把持部用軸を引張材中央に配置し且つ把持部のテーパー部が引張材の中空部に対して係合していない状態で,把持部用軸と引張材をシース材の内部に挿入する工程と,
引張材先端が下部マンションテーパー部に到達し且つ把持部が下部マンションテーパー部よりも地中側に位置したならば把持部用軸を地上側に引張り,把持部のテーパー部を引張材の中空部に係合させて引張材の地中側端部を拡径し,当該拡径した引張材の地中側端部が下部マンションの中空部における下部マンションテーパー部と係合することを特徴とするグラウンドアンカー工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,引張材を地盤に定着し,緊張力を与えることにより斜面の安定,基礎の補強等を図るグラウンドアンカーに関する。
【背景技術】
【0002】
グラウンドアンカー100では,
図11で示す様に,地上側から延在している引張材101の地中側端部側をセメントグラウトCにより不動地盤GAに定着させ,引張力を付与する。そして地上側の端部(アンカーヘッド側の端部:
図11では左端部)は,アンカープレート103を介してナット102で固定している。
図11において,符号104は上部マンション,符号105は下部マンション,符号106はキャップ(ケーシング)を示している。
図11において,グランドアンカー100は,不動地盤GA中に延在するアンカー体長部100A,移動土塊GBから地表近傍の法面工GCに亘って延在する自由長部100Bを有している。
【0003】
ここで引張材101が錆等により劣化してしまうと,グラウンドアンカー100により斜面の安定,基礎の補強等を図ることは困難である。そのため,劣化した或いは劣化する恐れがある引張材を新しい引張材に交換することが望ましい。
しかし,従来技術では,引張材よりも早期に劣化する頭部のみを検査して,頭部を交換するのが一般的であった。
引張材を除去可能な除去式アンカー(例えば,特許文献1参照)も存在するが,従来の除去式アンカーでは,古くて劣化した(或いは劣化の恐れがある)引張材に代えて,新しい引張材を配置,施工すること(再配置すること)は出来ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり,劣化した或いは劣化の恐れがある引張材に代えて,新しい引張材を再配置することが出来るグラウンドアンカーの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のグラウンドアンカー(10)は,
下部マンション(3)の中空部(3A)に地中側が拡径する下部マンションテーパー部(3B)が形成されており,
引張材(1)の半径方向内側には中空部(1A)が形成され,当該中空部(1A)には把持部用軸(2)が配置されており,
把持部用軸(2)の地中側先端には地上側に向かって縮径する把持部側テーパー部(2B)を設けた把持部(2A)が形成されており,
(把持部用軸2が地上側に引っ張られると)把持部(2A)のテーパー部(2B)が引張材(1)の中空部(1A)に係合して引張材(1)の地中側端部(1B)が拡径しており,当該拡径した引張材(1)の地中側端部(1B)が下部マンション(3)の中空部(3A)における下部マンションテーパー部(3B)と係合していることを特徴としている。
【0007】
本発明のグラウンドアンカー(10)の実施に際して,引張材(1)としては,例えばPC鋼線,鋼棒が好ましく,錆びて劣化する恐れのある引張材に適用されるのが好ましい。ただし,例えばカーボン繊維の様に劣化せず(錆びることがなく),交換の必要性に乏しい引張材であっても,本発明を適用することは可能である。
また,本発明の引張材(1)は,モノストランドタイプの引張材(ナット定着或いはくさび・ナット併用定着する引張材)に適用されるのが好ましい。ただし,マルチストランドタイプの引張材に適用することも考えられる。
さらに本発明の実施に際して,前記把持部用軸(2)は,その一端に作用した押圧力が他端に確実に伝達される程度の剛性を有しているのが好ましい。
【0008】
本発明のグラウンドアンカー工法では,
下部マンション(3)の中空部(3A)に地中側が拡径する下部マンションテーパー部(3B)が形成されており,
引張材(1)の半径方向内側には中空部(1A)が形成され,当該中空部(1A)には把持部用軸(2)が配置されており,
把持部用軸(2)の地中側先端には地上側に向かって縮径する把持部側テーパー部(2B)を設けた把持部(2A)が形成されており,
把持部用軸(2)が地上側に引っ張られると把持部(2A)のテーパー部(2B)が引張材(1)の中空部(1A)に係合して引張材(1)の地中側端部(1B)が拡径し,当該拡径した引張材(1)の地中側端部(1B)が下部マンション(3)の中空部(3A)における下部マンションテーパー部(3B)と係合するグラウンドアンカー(10)における引張材(1)を除去するに際して,
把持部用軸(2)を地中側に押圧して,引張材(1)の中空部(1A)に対して把持部(2A)のテーパー部(2B)を係合解除せしめる工程と,
把持部(2A)のテーパー部(2B)が引張材(1)の中空部(1A)に対して係合解除した状態で,把持部用軸(2)と引張材(1)を同時に地上側に引っ張る工程を備えている。
ここで,把持部(2A)と係合解除した状態の引張材(1)と把持部用軸(2)は,シース材(4)の内側を介して地上側まで移動するのが好ましい。
【0009】
また本発明のグラウンドアンカー工法では,
下部マンション(3)の中空部(3A)に地中側が拡径する下部マンションテーパー部(3B)が形成されており,
引張材(1)の半径方向内側には中空部(1A)が形成され,当該中空部(1A)には把持部用軸(2)が配置されており,
把持部用軸(2)の地中側先端には地上側に向かって縮径する把持部側テーパー部(2B)を設けた把持部(2A)が形成されており,
把持部用軸(2)が地上側に引っ張られると把持部(2A)のテーパー部(2B)が引張材(1)の中空部(1A)に係合して引張材(1)の地中側端部(1B)が拡径し,当該拡径した引張材(1)の地中側端部(1B)が下部マンション(3)の中空部(3A)における下部マンションテーパー部(3B)と係合するグラウンドアンカー(10)における引張材(1)を再配置するに際して,
把持部用軸(2)を引張材(1)中央に配置し且つ把持部(2A)のテーパー部(2B)が引張材(1)の中空部(1A)に対して係合していない状態で,把持部用軸(2)と引張材(1)をシース材(4)の内部に挿入する工程と,
引張材(1)先端が下部マンションテーパー部(3B)に到達し且つ把持部(2A)が下部マンションテーパー部(3B)よりも地中側に位置したならば把持部用軸(2)を地上側に引張り,把持部(2A)のテーパー部(2B)を引張材(1)の中空部(1A)に係合させて引張材(1)の地中側端部(1B)を拡径し,当該拡径した引張材(1)の地中側端部(1B)が下部マンション(3)の中空部(3A)における下部マンションテーパー部(3B)と係合することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
上述の構成を具備する本発明によれば,下部マンション(3)の中空部(3A)に地中側が拡径する下部マンションテーパー部(3B)が形成されており,把持部用軸(2)が地上側に引っ張られると把持部(2A)のテーパー部(2B)が引張材(1)の中空部(1A)に係合して引張材(1)の地中側端部(1B)が拡径され,当該拡径した引張材(1)の地中側端部(1B)が下部マンション(3)の中空部(3A)における下部マンションテーパー部(3B)と係合するため,把持部(2A)のテーパー部(2B)のくさび作用により引張材(1)の地中側先端(1B)が拡径して下部マンション(3)のテーパー部(3B)と強固に係合する(いわゆる「グリップ」した状態になる)。
そのため,引張材(1)に緊張力を付加しても,下部マンション(3)から引張材(1)が外れることは防止される。
【0011】
引張材(1)の地中側端部(1B)が下部マンション(3)の中空部(3A)における下部マンションテーパー部(3B)と係合した状態において,引張部材(1)に作用する緊張力を解除した後,把持部用軸(2)を地中側に押圧すれば,把持部用軸(2)の剛性により当該押し込み力が地中側先端まで伝達され,把持部(2A)のテーパー部(2B)が引張材(1)の地中側先端(1B)における中空部分(1A)から外れ,引張材(1)の弾性反撥力により引張材(1)の地中側端部(1B)は拡径されていない状態に復帰し,把持部(2A)と係合解除した状態の引張材(1)と把持部用軸(2)の径寸法はシース材(4)の内径寸法よりも小さくなる。その状態で把持部用軸(2)と引張材(1)を同時に地上側に引っ張れば,シース材(4)の内側を介して地上側まで移動することが出来る。
【0012】
ここで,引張材(1)を地上側に引き抜いた際に,引張材(1)のシース材(4)は地中に残存している。
新しい引張材(1)の中央に把持部用軸(2)を配置して,把持部(2A)のテーパー部(2B)が引張材(1)の中空部(1A)に対して係合していない状態であれば,引張材(1)と把持部用軸(2)の径寸法はシース材(4)の内径寸法よりも小さいため,把持部用軸(2)と引張材(1)をシース材(4)の内部に挿入することが出来る。
把持部用軸(2)と引張材(1)をシース材(4)の内部に挿入し,引張材先端(地中側端部1B)が下部マンションテーパー部(3B)に到達し且つ把持部(2A)が下部マンションテーパー部(3B)よりも地中側に位置した際に,把持部用軸(2)を地上側に引っ張れば,把持部(2A)のテーパー部(2B)が引張材(1)の中空部(1A)に係合して引張材(1)の地中側端部(1B)を拡径する。当該拡径した引張材(1)の地中側端部(1B)は下部マンション(3)の中空部(3A)における下部マンションテーパー部(3B)と係合し,把持部(2A)のテーパー部(2B)のくさび作用により引張材(1)の地中側端部(1B)が拡径して,下部マンション(3)のテーパー部(3B)と強固に係合する(いわゆる「グリップ」した状態になる)。
係る状態であれば,引張材(1)に緊張力を付加しても下部マンション(3)から引張材(1)が外れることは防止される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るグラウンドアンカーのアンカー体長部を示す拡大断面図である。
【
図2】実施形態における引張材と把持部用ロッドの配置を示す断面斜視図である。
【
図3】実施形態に係るグラウンドアンカーの頭部近傍を示す拡大断面図である。
【
図4】引張材を地上側に抜き取る工程を示す工程図である。
【
図8】再配置するべき引張材を下部マンションに係合させる一工程を示す工程図である。
【
図9】引張材を地上側に抜き取る手順を示すフローチャートである。
【
図10】新しい引張材を下部マンションに係合させる手順を示すフローチャートである。
【
図11】グラウンドアンカーの概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下,添付図面を参照して,本発明の実施形態について説明する。
図1において,図示の実施形態に係るグラウンドアンカー10は,シース材4の内側空間を地上側(
図1で右側)から地中側(
図1で左側)に延在する引張材1と,引張材1の半径方向内側に形成された中空部1A内に配置される把持部用軸2(把持部用ロッド)と,アンカー体長部10A(拘束長さ部)の地中側端部に配置される下部マンション3を有しており,図示しない固化材(セメントグラウト等)により不動地盤GA(
図11参照:
図1では図示せず)に定着されている。引張材1は,シース材4に内包されており,且つ,防錆剤(グリース)が塗布されている。
下部マンション3には中空部3Aが形成されており,中空部3Aには引張材1及び把持部用ロッド2(把持部用軸)の地中側端部(
図1では左端部)が収容されている。さらに中空部3Aには,地中側が拡径する下部マンションテーパー部3Bが形成されている。
【0015】
把持部用ロッド2の地中側先端には把持部2Aが形成されており,把持部2Aには地上側に向かって縮径する(或いは,地中側に向かって拡径する)把持部側テーパー部2Bが形成されている。
図1で示す様に,引張材1の地中側端部1Bが下部マンションテーパー部3Bの位置にある状態で,把持部用ロッド2が地上側(矢印Z方向)に引っ張られると,把持部2Aのテーパー部2Bが引張材1の中空部1Aに係合して引張材1の地中側端部1Bをテーパー2Bと同様なテーパー状に拡径する。そして,当該テーパー状に拡径した引張材1の地中側端部1Bは,下部マンション3の中空部3Aにおける下部マンションテーパー部3Bと係合する。
テーパー状に拡径した引張材1の地中側端部1Bが下部マンションテーパー部3Bと係合した状態では,くさび作用により,テーパー状に拡径した地中側先端1Bが下部マンション3のテーパー部3Bと強固に係合して,いわゆる「グリップ」した状態になる。係る「グリップ」した状態において,引張材1に地上側方向Zへの引張力を付加しても,下部マンション3から引張材1が外れることは防止される。
【0016】
図1におけるグラウンドアンカー10の引張材1と把持部用ロッド2は,例えば
図2で示す様に,引張材1を一般的なPC鋼より線1-1とした場合に(複数のPC鋼より線:
図2では中央を除く6本がPC鋼より線1-1),捻られず且つ螺旋形に撚られることなく,直線的に配置される中央の1本を,従来のPC鋼線に代えて,剛性の高い把持部材用ロッド2に置換して構成されている。すなわち,図示の実施形態における引張材1と把持部用ロッド2では,
図2において,通常の7本のPC鋼より線1-1における中央の1本(中空部1AにおけるPC鋼線)を,把持部用ロッド2に置換している。係る引張材1及び把持部用ロッド2は,シース材4により包囲されている。
ここで,図示の実施形態における引張材1は,例えばPC鋼線,鋼棒の様に,錆びて劣化する恐れのある引張材で構成されている。しかし,例えばカーボン繊維の様に劣化せず(錆びることがなく),交換する必要性に乏しい引張材であっても本発明を適用することは可能である。
【0017】
図3で示す図示の実施形態に係るグラウンドアンカー10の頭部では,上部マンション5の外側部に雄ネジ部5Aが形成されている。そして雄ネジ部5Aは,グランドアンカー10の地上側(
図3で右側)端部において,図示しないアンカーヘッド(例えば
図11で示すナット102)の雌ネジ部と螺合し,以て,上部マンション5はグラウンドアンカー10の地上側頭部に固定される。そしてアンカーヘッドを締め付けることにより,上部マンション5及び上部マンション5等に固定される把持部用ロッド2を地上側に引っ張り,引張材1に緊張力を付与している。
上部マンション5の半径方向内側に中空部5Bが形成され,中空部5Bよりも地上側(
図3で右側)の領域には雌ネジ部5Cが形成されている。
【0018】
上部マンション5より地中側(
図3で左側)の領域には引張材1が接続しており,ここで引張材1はシース材4に包囲されている。
図1で示す様に,引張材1の地中側端部は下部マンション3(
図1)に接続されている。そして
図1で示す様に,引張材1の半径方向内側には中空部1Aが形成されており,中空部1A内を把持部用ロッド2が延在している。
図3で示す様に把持部用ロッド2の地上側端部には雄ネジ部2Bが形成されており,雄ネジ部2Bが上部マンション5の雌ネジ部5Cと螺合することにより,把持部用ロッド2の地上側端部は上部マンション5に一体的に固定される。把持部用ロッド2は,上部マンション5の中空部5B及び引張材1の中空部1Aの内部に延在している。把持部用ロッド2の地中側端部は,
図1で示す状態では下部マンション3(
図1参照)に固定されている。
なお,把持部用ロッド2の地上側端部が上部マンション5の雌ネジ部5Cに螺合することに代えて,把持部用ロッド2の地上側端部を,グラウンドアンカー10における上部マンション5以外の地上側の部材(例えばアンカーヘッド等)に一体的に固定することも可能である。
図示の実施形態では,モノストランドタイプの引張材が対象であり,ナットによりアンカー頭部に定着されるタイプ,或いは,くさびとナットを併用してアンカー頭部に定着される引張材が対象となる。ただし,くさびによりアンカー頭部に定着されるマルチストランドタイプの引張材であっても,図示の実施形態或いは本発明を適用することも考えられる。
【0019】
次に,
図4~
図7及び
図9を参照して,図示の実施形態において,グランドアンカー10から劣化した或いは劣化の恐れのある引張材1を除去する態様を説明する。
図4~
図7に示す工程を実行するに際して,グランドアンカー10は,
図1で示す様に,把持部用ロッド2が地上側(
図1の矢印Z方向)に引っ張られ,把持部2Aのテーパー部2Bが引張材1の中空部1Aに係合して引張材1の地中側端部1Bがテーパー状に拡径し,テーパー状に拡径した引張材1の地中側端部1Bが中空部3Aにおける下部マンションテーパー部3Bと強固に係合して,いわゆる「グリップ」した状態になっており,引張材1に地上側方向の緊張力が付加されている。
【0020】
引張材1を地上側に抜き取るに際して,
図4で示す工程では,引張部材1に作用する緊張力は解除されている。そして実線の矢印Aで示す様に,把持部用ロッド2を地中側(
図4で左側)に押圧している。
把持部用ロッド2は高い剛性を有しているので,前記地中側に押圧される力は把持部用ロッド2の地中側先端まで伝達され,把持部用ロッド2は
図4で示す状態よりも地中側(
図4では左側)に移動する。すなわち,中空部3Aにおける下部マンションテーパー部3Bに対して把持部2Aのテーパー部2Bが地中側に移動し,引張材1の地中側先端1Bと把持部2Aのテーパー部2Bの係合が解除される。
【0021】
引張材1の地中側先端1Bから把持部2Aの係合が解除される際に,
図4で示す状態ではテーパー状に拡径していた引張材1の地中側端部1Bは,
図5の実線の矢印Bで示す様に,引張材1の弾性反撥力により拡径されていない状態に復帰する。そして,引張材1の地中側端部1Bがテーパー状に拡径していない状態に復帰すれば,地中側端部1Bと下部マンションテーパー部3Bとの係合も解除される。
地中側端部1Bと下部マンションテーパー部3Bとの係合が解除されて引張材1の地中側端部1Bが拡径されていない状態に復帰すると,
図6で示す様に,引張材1と把持部用ロッド2(把持部2Aを含む)の径寸法は,
図6の右端におけるシース材4の内径寸法(下部マンション3よりも地上側の領域におけるシース材4の内径寸法)よりも小さくなる。引張材1の地中側端部1Bが拡径されていない状態に復帰した状態(
図6参照)で把持部用ロッド2と引張材1を同時に地上側に引っ張れば(実線矢印C),シース材4の内側を介して地上側まで移動することが出来る様になる。
【0022】
図6の工程では,把持部2Aのテーパー部2Bが引張材1の中空部1A(の地中側端部1B)に対して係合解除した状態で,把持部用ロッド2と引張材1を同時に地上側に引っ張っている。
引張材1と把持部用ロッド2を同時に地上側に引っ張ることで,引張材1と把持部用ロッド2の相対位置を一定にして,引張材1と把持部用ロッド2と把持部2Aの径寸法がシース材4の内径寸法よりも小さい状態を維持して,地上側への移動を妨げることが防止される。
【0023】
図7は,把持部用ロッド2と引張材1を同時に,地上側(実線矢印C方向)に引っ張る工程を示しており,把持部用ロッド2と引張材1がシース材4の内側を移動している態様を示している。
図示はされていないが,交換するべき引張材1は把持部用ロッド2と共に地上側に引き出され,その際にシース材4を地中に残存させたままである。地上側に引き出された引張材は新しい引張材1と交換される。その際に,把持部用ロッド2も交換することが出来る。或いは,再利用することも可能である。
【0024】
図4~
図7を参照して説明した引張材1の除去について,主として
図9のフローチャートを参照して説明する。
図9において,ステップS1は
図4,
図5で説明した工程に対応しており,引張部材1の緊張力を解除した後,把持部用ロッド2を地中側に押圧する(
図4の実線矢印A)。
把持部用ロッド2を地中側に押圧すれば,把持部2Aが引張材1の地中側先端1Bにおける中空部分1Aから外れ,把持部2Aのテーパー部2Bと引張材1の中空部1Aのテーパー状に拡径した領域との係合が解除され,引張材1の地中側端部1Bはテーパー状に拡径されていない状態に復帰する。
引張材1の地中側端部1Bが拡径されていない状態に復帰すると,(
図5の実線矢印Bで示す様に)引張材1はシース材4の内部を移動出来る程度まで縮径する。そのため,ステップS2では,把持部用ロッド2と引張材1を同時に地上側に引っ張り,下部マンション3の中空部3A,シース材4の内側を介して,地上側まで移動する。
【0025】
ステップS1において,引張材1の地中側端部1Bが拡径されていない状態に完全に復帰できていなくても,ステップS2で把持部用ロッド2と引張材1を地上側に引き込む際に,引張材1の地中側端部1Bは下部マンションテーパー部3Bと当接することにより縮径し,シース材4の内側を移動可能になる。
次のステップS3では,
図6,
図7に示す様に,把持部用ロッド2と引張材1はシース材4の内側(内部空間)を通過して地上側に移動する。そしてステップS4では,把持部用ロッド2及び引張材1は地上側に引き出され,劣化した引張材1或いは劣化の恐れのある引張材1を除去することが出来る。ここで,把持部用ロッド2について劣化或いは劣化の恐れがあれば,引張材1と共に除去する。
【0026】
次に,劣化或いは劣化の恐れのある引張材1を(劣化或いは劣化の恐れがある把持部用ロッド2も同様に)グランドアンカー10から除去した後,新しい引張材1を(把持部用ロッド2も除去した場合は新しい把持用ロッド2と共に)再配置して,下部マンションに係合する必要がある。係る係合する態様について,
図10のフローチャートを主として参照し,
図7,
図6,
図8,
図4をも参照して説明する。
図10のステップS11では,把持部用ロッド2を引張材1の中空部1Aに配置する。そして,把持部2Aのテーパー部2Bが引張材1の中空部1Aに係合していない状態,すなわち把持部2Aの分だけ把持部用ロッド2を引張材1よりも地中側に先行させた状態で,把持部用ロッド2と引張材1をシース材4の内部に挿入し,地中側に移動させる(
図7,
図6の破線矢印D参照)。
【0027】
把持部用ロッド2と引張材1をシース材4の内部を地中側に移動する工程は,
図8で示す様に,引張材1の地中側端部1Bが下部マンション3のテーパー部3Bに到達し,把持部用ロッド2の把持部2Aが下部マンションテーパー部3Bよりも地中側に位置するまで行われる。
図10のステップS12では,引張材1の地中側端部1B及び把持部2Aが
図8で示す状態となっている。
【0028】
図8で示す状態となった後,ステップS13で,把持部用ロッド2を地上側に引っ張る(
図8の破線矢印E)。そして,把持部2Aのテーパー部2Bを引張材1の中空部1Aに係合させて引張材1の地中側端部1Bをテーパー状に拡径させ,テーパー状に拡径した地中側端部1Bを下部マンション3の下部マンションテーパー部3Bと係合せしめる。
把持部用ロッド2を地上側に引っ張って地中側端部1Bをテーパー状に拡径し,下部マンションテーパー部3Bと係合させた状態は,
図4に示されている。
図4で示す状態において,
図10のステップS14で,引張材1(及び把持部用ロッド2)に緊張力を付加する。
これにより,グランドアンカー10における引張力1(及び把持部用ロッド2)の再配置が終了する。
【0029】
図示の実施形態によれば,下部マンション3の中空部3Aに地中側が拡径する下部マンションテーパー部3Bが形成されており,把持部用ロッド2が地上側に引っ張られると把持部2Aのテーパー部2Bが引張材1の中空部1Aに係合し,地中側端部1Bがテーパー状に拡径され,テーパー状に拡径した地中側端部1Bが下部マンションテーパー部3Bと係合する(いわゆる「グリップ」した状態になる)。
把持部2Aのテーパー部2Bのくさび作用により拡径した引張材1の地中側先端1Bが下部マンションテーパー部3Bと強固に係合するので,引張材1に緊張力を付加しても,下部マンション3から引張材1が外れることは防止される。
【0030】
劣化或いは劣化の恐れのある引張材1を地上に抜き取って除去する際は,いわゆる「グリップ」した状態において,引張部材1に作用する緊張力を解除した後,把持部用ロッド2を地中側に押圧する。把持部用ロッド2の剛性により,当該押し込み力は地中側先端まで伝達され,把持部2Aのテーパー部2Bが引張材1の地中側先端1Bにおける中空部分1Aから外れる。テーパー部2Bが中空部分1Aから外れると,引張材1の弾性反撥力により引張材1の地中側端部1Bは拡径されていない状態に復帰し,把持部2Aと係合解除した状態の引張材1と把持部用ロッド2の径寸法は,下部マンション3の中空部3Aの地上側端部近傍の内径寸法及びシース材4の内径寸法よりも小さくなる。
引張材1と把持部用ロッド2の径寸法が縮径した状態で把持部用ロッド2と引張材1を同時に地上側に引っ張れば,シース材4の内側を介して地上側まで移動し,地中側の領域から除去する(抜き取る)ことが出来る。
【0031】
新しい引張材1を再配置する際は,新しい引張材1の中央に把持部用ロッド2(把持部用軸)を配置する。この状態では,把持部2Aのテーパー部2Bは引張材1の中空部1Aに対して係合しておらず,引張材1の端部をテーパー状に拡径してはいないため,引張材1と把持部用ロッド2の径寸法はシース材4の内径寸法よりも小さく,シース材4の内部に挿入することが出来る。
把持部用ロッド2と引張材1をシース材4の内部に挿入し,引張材先端(地中側端部1B)が下部マンションテーパー部3Bに到達し且つ把持部2Aが下部マンションテーパー部3Bよりも地中側に位置したならば,把持部用ロッド2を地上側に引っ張ることにより,把持部2Aのテーパー部2Bが引張材1の中空部1Aに係合して引張材1の地中側端部1Bをテーパー状に拡径させることが出来る。当該拡径した地中側端部1Bは下部マンション3の中空部3Aにおける下部マンションテーパー部3Bと係合し,いわゆる「グリップ」した状態になる。そのため,引張材1の地中側端部1Bと下部マンション3のテーパー部3Bとは強固に係合する。
係る状態であれば,引張材1に緊張力を付加しても下部マンション3から引張材1が外れることは防止される。
【0032】
図示の実施形態はあくまでも例示であり,本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
例えば,引張材としては,PC鋼より線に限定されず,他のPC鋼線,鋼棒を使用することもP可能である。
【符号の説明】
【0033】
1・・・引張材
1A・・・引張材の中空部
1B・・・引張材の地中側端部
2・・・把持部用ロッド(把持部用軸)
2A・・・把持部
2B・・・把持部のテーパー部
3・・・下部マンション
3A・・・下部マンションの中空部
3B・・・下部マンションテーパー部
4・・・シース材
10・・・グラウンドアンカー