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特許7189654不動産の商用価値を推定するプログラム、装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】不動産の商用価値を推定するプログラム、装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 30/02 20120101AFI20221207BHJP
【FI】
G06Q30/02 300
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020000405
(22)【出願日】2020-01-06
(65)【公開番号】P2021110976
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【弁理士】
【氏名又は名称】早原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】金子 拓也
(72)【発明者】
【氏名】木村 塁
【審査官】岡北 有平
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-226390(JP,A)
【文献】特開2018-088087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不動産の商用価値を推定する推定装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
所定時間毎に、当該不動産から得られる顕在的収益指数を記録した顕在的収益指数記録手段と、
所定時間毎に、当該不動産の所定範囲に位置する人数に応じて、ハフモデル又はアドバンストハフモデルに基づく潜在的収益指数を算出する潜在的収益指数算出手段と、
時系列の潜在的収益指数を記録した潜在的収益指数記録手段と、
時系列の潜在的収益指数に対する時系列の顕在的収益指数の相関係数を判定する相関性判定手段と、
相関係数を、不動産の商用価値として決定する商用価値決定手段と
してコンピュータを機能させ
潜在的収益指数算出手段は、
所定範囲に含まれる不動産及びユーザの組合せ毎に、当該不動産の面積又は魅力度を、当該ユーザの位置と当該不動産との間の距離で除算した個別吸引指数を算出し、
ユーザ毎に、当該ユーザが当該不動産に吸引される確率として、当該不動産の個別吸引指数を、所定範囲に含まれる全ての不動産の個別吸引指数の総和で除算したユーザ吸引指数を算出し、
不動産毎に、所定範囲に含まれる全てのユーザのユーザ吸引指数の総和を、当該不動産における潜在的収益指数とする
ようにコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項2】
所定範囲は、複数の不動産を含む同一の商圏であり、
商用価値決定手段は、相関係数を、所定範囲における当該不動産の商用価値として決定する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
潜在的収益指数算出手段は、ユーザ吸引指数に、当該ユーザの固有情報に基づく潜在購買力指数を乗算する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1又は2に記載のプログラム。
【請求項4】
固有情報は、当該ユーザについて、プロファイル情報、又は、所定期間における移動距離、購買履歴、若しくは、当該ユーザが所定範囲に位置する時間長である
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項5】
潜在的収益指数算出手段は、時間経過に伴って、当該ユーザの位置と当該不動産との間の距離が離れていく場合、当該不動産に基づく当該ユーザのユーザ吸引指数を0とする
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項6】
第1の不動産と第2の不動産との種別が所定条件で類似する場合、
潜在的収益指数算出手段は、当該ユーザの位置が第1の不動産の位置で所定時間以上滞在と判定された場合、第2の不動産に基づく当該ユーザのユーザ吸引指数を0とする
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項7】
商用価値決定手段は、
相関係数(-1~+1)が第1の所定閾値以上となる正の相関、
相関係数が第2の所定閾値(≦第1の所定閾値)以下となる負の相関、又は、
相関係数の絶対値(0~+1)が第3の所定閾値以下となる無相関
のいずれかを、不動産の商用価値として決定する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項8】
商用価値決定手段は、
無相関の場合に、不動産の商用価値が低いと決定するか、又は、
負の相関及び無相関の場合に、不動産の商用価値が低いと決定する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項に記載のプログラム。
【請求項9】
不動産は、店舗であり、
顕在的収益指数は、当該店舗の入店人数、売上高、利益、仕入商品数、又は、販売商品数である
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項10】
不動産は、ビルであり、
顕在的収益指数は、当該ビルに滞在する人数、又は、当該ビルの全ての店舗の売上高若しくは利益である
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項11】
不動産の商用価値を推定する推定装置であって、
所定時間毎に、当該不動産から得られる顕在的収益指数を記録した顕在的収益指数記録手段と、
所定時間毎に、当該不動産の所定範囲に位置する人数に応じて、ハフモデル又はアドバンストハフモデルに基づく潜在的収益指数を算出する潜在的収益指数算出手段と、
時系列の潜在的収益指数を記録した潜在的収益指数記録手段と、
時系列の潜在的収益指数に対する時系列の顕在的収益指数の相関係数を判定する相関性判定手段と、
相関係数を、不動産の商用価値として決定する商用価値決定手段と
を有し、
潜在的収益指数算出手段は、
所定範囲に含まれる不動産及びユーザの組合せ毎に、当該不動産の面積又は魅力度を、当該ユーザの位置と当該不動産との間の距離で除算した個別吸引指数を算出し、
ユーザ毎に、当該ユーザが当該不動産に吸引される確率として、当該不動産の個別吸引指数を、所定範囲に含まれる全ての不動産の個別吸引指数の総和で除算したユーザ吸引指数を算出し、
不動産毎に、所定範囲に含まれる全てのユーザのユーザ吸引指数の総和を、当該不動産における潜在的収益指数とする
ことを特徴とする推定装置。
【請求項12】
不動産の商用価値を推定する装置の推定方法であって、
装置は、
所定時間毎に、当該不動産から得られる顕在的収益指数を記録した顕在的収益指数記録部と、
所定時間毎に、当該不動産の所定範囲に位置する人数に応じて算出された、ハフモデル又はアドバンストハフモデルに基づく時系列の潜在的収益指数を記録した潜在的収益指数記録部と
を有し、
時系列の潜在的収益指数に対する時系列の顕在的収益指数の相関係数を判定する第1のステップと、
相関係数を、不動産の商用価値として決定する第2のステップと
実行し、
潜在的収益指数記録部に記憶された潜在的収益指数について、
所定範囲に含まれる不動産及びユーザの組合せ毎に、当該不動産の面積又は魅力度を、当該ユーザの位置と当該不動産との間の距離で除算した個別吸引指数を算出し、
ユーザ毎に、当該ユーザが当該不動産に吸引される確率として、当該不動産の個別吸引指数を、所定範囲に含まれる全ての不動産の個別吸引指数の総和で除算したユーザ吸引指数を算出し、
不動産毎に、所定範囲に含まれる全てのユーザのユーザ吸引指数の総和を、当該不動産における潜在的収益指数とする
ように実行することを特徴とする装置の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、企業が保有する複数の不動産を経営的に分析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SDGs(Sustainable Development Goals)やESG(Environment Social Governance)と並んで、「座礁資産」が注目されている(例えば非特許文献1参照)。座礁資産とは、周辺環境が急激に変化し、当初想定されていた稼働率を大幅に下回り、その価値が大きく低下している資産を意味する。
これに対し、過去に設置された店舗や施設のような様々な不動産についても、商用価値が低いもの又は改善が見込めないものを、企業金融版の「座礁資産」とも称される。
【0003】
企業が保有する店舗(不動産)の価値を、立地条件の観点から、その店舗がユーザを吸引する確率として算出する「ハフモデル」がある(例えば非特許文献2~4参照)。
具体的には、ユーザの自宅らの距離が等しい2店舗が存在する場合、そのユーザは、売り場面積が広い店舗に吸引されると考える。また、売り場面積が等しい2店舗が存在する場合、そのユーザは、自宅からの距離が近い店舗に吸引されると考える。
但し、ハフモデルは、起点が自宅(居住地)で、平均的(期待的)な吸引率を算出するものであって、リアルタイムに変化する状況を反映したものではない。
【0004】
一般的に、店舗への入店人数は、その店舗周辺(商圏)を移動する人数の影響を受けるものと考えられる。そのために、企業は、店舗の立地戦略として「ドミナント戦略」を採用する場合がある。これは、人口流動が多い商圏に集中的に店舗を展開し、他社の参入をブロックしようとする経営戦略の1つである。特に、同一のチェーン店となるコンビニエンスストアやドラッグストアによって採用される場合がある。
【0005】
他の従来技術として、例えばユーザが所持する携帯端末の位置を収集することによって、その地域の滞在人数をカウントする技術がある(例えば特許文献1参照)。一般的に、全ての通信事業者に対する特定の通信事業者の加入者割合を用いて、比較的広い地域について、特定の通信事業者の通信事業設備に接続した人数に、加入者割合を乗算することによって、大凡の滞在人数(例えば数万人単位)を推定することができる。これは、一般に「拡大推計方法」と称される。例えば災害時における数万人規模の人口移動を推計する場合、1%のユーザの位置移動が捕捉できれば、数百人の位置移動を推定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2012/036222
【非特許文献】
【0007】
【文献】「座礁資産」、[online]、[令和1年12月21日検索]、インターネット<URL:https://sustainablejapan.jp/2016/05/22/strandedasset/18377>
【文献】「ハフモデル」、[online]、[令和1年12月21日検索]、インターネット<URL:https://www.pasco.co.jp/recommend/word/word036/#anchor01>
【文献】「ハフモデル」、[online]、[令和1年12月21日検索]、インターネット<URL: https://business-map.esrij.com/glossary/2021/>
【文献】「商圏分析導入ガイド」、[online]、[令和1年12月21日検索]、インターネット<URL:https://biz.kkc.co.jp/software/am/ef/ef_guide/article18/>
【文献】「セブン「1000店撤退、移転」はドミナント戦略の限界か」、[onine]、[令和1年12月21日検索]、インターネット<URL:https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1910/16/news032.html>
【文献】「相関係数」、[onine]、[令和1年12月21日検索]、インターネット<URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%B8%E9%96%A2%E4%BF%82%E6%95%B0>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
企業は、店舗毎に、入店人数をリアルタイムに計測することができる。これは、店舗自ら計測で、店舗自ら主観的に見た顕在的な収益指数(以下「顕在的収益指数」という)である。入店人数は、POS(Point Of Sales)データや、店内カメラによる撮影画像、ユーザ所持のスマートフォンとの無線通信によって、カウントすることができる。店舗の入店人数の大小は、その店舗の売上高や収益の大小につながる。
一方で、携帯通信事業者は、店舗毎に、その店舗周辺に位置する人数をリアルタイムに計測することができる。これは、店舗自ら計測できないが、店舗を客観的に見た潜在的な収益指数(以下「潜在的収益指数」という)である。携帯通信事業者は、ユーザが所持する携帯端末と常に通信することによって、各ユーザの位置を取得可能となる。
【0009】
一般的に、各店舗の入店人数(顕在的収益指数)の変化は、各店舗周辺を流動する人数(潜在的収益指数)の影響を、潜在的に受けている。
企業としては、複数の店舗を展開している場合、単に、入店人数が多い店舗のみを維持し、入店人数が少ない店舗を撤退すればよいとは限らない。
その店舗周辺を流動する人数の増減に応じて、入店人数も増減する店舗は、その店舗周辺の人数の影響を受けているといえる。ここで、その店舗周辺を流動する人数が減少したにも拘わらず、入店人数が減少しない店舗は、実は、その店舗独自の集客力を有しているといえる。一方で、その店舗周辺を流動する人数が増加したにも拘わらず、入店人数が増加しない店舗は、実は、座礁資産としての店舗になっている恐れがある。
【0010】
従来、「ドミナント戦略」によって、商圏を占領するべく複数の店舗を展開したものの、その商圏の変化に気付かず、その商圏から全ての店舗を撤退するという事例があった(例えば非特許文献5参照)。この事例によれば、以前は人口流動が多い魅力的な商圏であったが、その商圏の変化をモニタリングしておらず、大幅な戦略の変更に迫られた。これは、商圏を占領すればするほど、その商圏自体を変化させ、人口流動の変化に気が付きにくくなってしまう。逆に、占領した商圏としての魅力度が落ちることになってしまった。これは、ドミナント戦略自体に問題があるのでなく、店舗周辺を流動する人数に基づく潜在的収益指数を把握していなかったことにある。
そのために、ドミナント戦略を採用する企業の経営者は、店舗を展開している商圏の人口流動の変化を常に把握しておく必要がある。
しかしながら、企業の経営者は、商圏の人口流動の変化を把握したとしても、いずれの店舗を維持し、いずれの店舗を撤退させるかを、経営的に判断することは難しい。
【0011】
これに対し、本願の発明者らは、入店人数(顕在的収益指数)と店舗周辺人数(潜在的収益指数)とが相関性を持つ店舗もあれば、相関性を持たない店舗もあるのではないか、と考えた。
具体的には、店舗入店人数と店舗周辺人数とが、正の相関を持つ収益の店舗もあれば、負の相関を持つ収益の店舗もあるし、無相関の店舗もある。企業の経営者から見て、各店舗を、売上高のみではなく、店舗周辺人数に対する相関性に応じて判断することができれば、店舗の運用における適切な判断材料となるのではないか、と考えた。
【0012】
店舗入店人数(顕在的収益指数)と店舗周辺人数(潜在的収益指数)との関係とは、単に、正の相関を持てばよいわけではない。確かに、正の相関を持つ店舗の場合、店舗周辺の人口流動に応じて、その店舗の入店人数も変化するが、店舗独自に集客力を持つものではないのかもしれない。一方で、負の相関を持つ店舗の場合、店舗周辺の人口流動とは逆となる、店舗独自の集客力を持っている可能性もある。また、無相関の店舗の場合、店舗周辺の人口流動と関係なく店舗独自の集客力を持っているか、又は、ある意味「座礁資産」である可能性もある。
このように、潜在的収益指数に対する顕在的収益指数との相関性を考慮して、店舗の立地のポートフォリオをバランスよく運用することは、企業の経営者にとっては重要なこととなる。
【0013】
そこで、本発明は、不動産の商用価値を、その不動産から顕在的に得られる顕在的収益指数のみならず、その不動産周辺に潜在的に存在する潜在的収益指数との相関性に応じて分析するプログラム、装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、不動産の商用価値を推定する推定装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
所定時間毎に、当該不動産から得られる顕在的収益指数を記録した顕在的収益指数記録手段と、
所定時間毎に、当該不動産の所定範囲に位置する人数に応じて、ハフモデル又はアドバンストハフモデルに基づく潜在的収益指数を算出する潜在的収益指数算出手段と、
時系列の潜在的収益指数を記録した潜在的収益指数記録手段と、
時系列の潜在的収益指数に対する時系列の顕在的収益指数の相関係数を判定する相関性判定手段と、
相関係数を、不動産の商用価値として決定する商用価値決定手段と
してコンピュータを機能させ
潜在的収益指数算出手段は、
所定範囲に含まれる不動産及びユーザの組合せ毎に、当該不動産の面積又は魅力度を、当該ユーザの位置と当該不動産との間の距離で除算した個別吸引指数を算出し、
ユーザ毎に、当該ユーザが当該不動産に吸引される確率として、当該不動産の個別吸引指数を、所定範囲に含まれる全ての不動産の個別吸引指数の総和で除算したユーザ吸引指数を算出し、
不動産毎に、所定範囲に含まれる全てのユーザのユーザ吸引指数の総和を、当該不動産における潜在的収益指数とする
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0015】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
所定範囲は、複数の不動産を含む同一の商圏であり、
商用価値決定手段は、相関係数を、所定範囲における当該不動産の商用価値として決定する
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0017】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
潜在的収益指数算出手段は、ユーザ吸引指数に、当該ユーザの固有情報に基づく潜在購買力指数を乗算する
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0018】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
固有情報は、当該ユーザについて、プロファイル情報、又は、所定期間における移動距離、購買履歴、若しくは、当該ユーザが所定範囲に位置する時間長である
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0019】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
潜在的収益指数算出手段は、時間経過に伴って、当該ユーザの位置と当該不動産との間の距離が離れていく場合、当該不動産に基づく当該ユーザのユーザ吸引指数を0とする
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0020】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
第1の不動産と第2の不動産との種別が所定条件で類似する場合、
潜在的収益指数算出手段は、当該ユーザの位置が第1の不動産の位置で所定時間以上滞在と判定された場合、第2の不動産に基づく当該ユーザのユーザ吸引指数を0とする
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0021】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
商用価値決定手段は、
相関係数(-1~+1)が第1の所定閾値以上となる正の相関、
相関係数が第2の所定閾値(≦第1の所定閾値)以下となる負の相関、又は、
相関係数の絶対値(0~+1)が第3の所定閾値以下となる無相関
のいずれかを、不動産の商用価値として決定する
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0022】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
商用価値決定手段は、
無相関の場合に、不動産の商用価値が低いと決定するか、又は、
負の相関及び無相関の場合に、不動産の商用価値が低いと決定する
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0023】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
不動産は、店舗であり、
顕在的収益指数は、当該店舗の入店人数、売上高、利益、仕入商品数、又は、販売商品数である
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0024】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
不動産は、ビルであり、
顕在的収益指数は、当該ビルに滞在する人数、又は、当該ビルの全ての店舗の売上高若しくは利益である
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0025】
本発明によれば、不動産の商用価値を推定する推定装置であって、
所定時間毎に、当該不動産から得られる顕在的収益指数を記録した顕在的収益指数記録手段と、
所定時間毎に、当該不動産の所定範囲に位置する人数に応じて、ハフモデル又はアドバンストハフモデルに基づく潜在的収益指数を算出する潜在的収益指数算出手段と、
時系列の潜在的収益指数を記録した潜在的収益指数記録手段と、
時系列の潜在的収益指数に対する時系列の顕在的収益指数の相関係数を判定する相関性判定手段と、
相関係数を、不動産の商用価値として決定する商用価値決定手段と
を有し、
潜在的収益指数算出手段は、
所定範囲に含まれる不動産及びユーザの組合せ毎に、当該不動産の面積又は魅力度を、当該ユーザの位置と当該不動産との間の距離で除算した個別吸引指数を算出し、
ユーザ毎に、当該ユーザが当該不動産に吸引される確率として、当該不動産の個別吸引指数を、所定範囲に含まれる全ての不動産の個別吸引指数の総和で除算したユーザ吸引指数を算出し、
不動産毎に、所定範囲に含まれる全てのユーザのユーザ吸引指数の総和を、当該不動産における潜在的収益指数とする
ことを特徴とする。
【0026】
本発明によれば、不動産の商用価値を推定する装置の推定方法であって、
装置は、
所定時間毎に、当該不動産から得られる顕在的収益指数を記録した顕在的収益指数記録部と、
所定時間毎に、当該不動産の所定範囲に位置する人数に応じて算出された、ハフモデル又はアドバンストハフモデルに基づく時系列の潜在的収益指数を記録した潜在的収益指数記録部と
を有し、
時系列の潜在的収益指数に対する時系列の顕在的収益指数の相関係数を判定する第1のステップと、
相関係数を、不動産の商用価値として決定する第2のステップと
実行し、
潜在的収益指数記録部に記憶された潜在的収益指数について、
所定範囲に含まれる不動産及びユーザの組合せ毎に、当該不動産の面積又は魅力度を、当該ユーザの位置と当該不動産との間の距離で除算した個別吸引指数を算出し、
ユーザ毎に、当該ユーザが当該不動産に吸引される確率として、当該不動産の個別吸引指数を、所定範囲に含まれる全ての不動産の個別吸引指数の総和で除算したユーザ吸引指数を算出し、
不動産毎に、所定範囲に含まれる全てのユーザのユーザ吸引指数の総和を、当該不動産における潜在的収益指数とする
ように実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明のプログラム、装置及び方法によれば、不動産の商用価値を、その不動産から顕在的に得られる顕在的収益指数のみならず、その不動産周辺に潜在的に存在する潜在的収益指数との相関性に応じて分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明におけるシステム構成図である。
図2】本発明における推定装置の機能構成図である。
図3】潜在的収益指数に対して顕在的収益指数が時系列に正の相関を表すグラフである。
図4】潜在的収益指数に対して顕在的収益指数が時系列に負の相関を表すグラフである。
図5】潜在的収益指数に対して顕在的収益指数が時系列に無相関を表すグラフである。
図6】潜在的収益指数の算出に用いるテーブルである。
図7】本発明における多様な実施形態の潜在的収益指数を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0030】
商用資産としての不動産は、例えば以下のようなものがある。
(1)不動産は、当該企業が保有する複数の「店舗」であってもよい。
当該店舗における所定時間毎の収益指数は、入店人数を想定するが、売上高や利益、仕入商品数、又は、販売商品数であってもよい。例えば、企業がフランチャイズチェーンである場合における店舗を想定する。
(2)不動産は、当該企業が保有する「ビル」であってもよい。
当該ビルにおける所定時間毎の収益指数は、入店人数を想定するが、売上高や利益であってもよい。例えば、不動産投資ファンドとして運用される商用ビルやホテルを想定する
尚、以下では、不動産は、「店舗」として説明する。
【0031】
図1は、本発明におけるシステム構成図である。
【0032】
図1によれば、推定装置1は、ネットワークを介して、各店舗a~cから、顕在的に得られた様々なデータをリアルタイムに受信する。このようなデータは、例えば店舗入店人数やPOSデータ(売上高や利益)、仕入商品数、販売商品数などであって、「顕在的収益指数」と称す。
顕在的収益指数とは、店舗を内側から見て、店舗自ら主観的に得られる指数を意味する。
【0033】
一方で、店舗a~c毎に、その店舗周辺の所定範囲に、不特定多数の人(ユーザ)がリアルタイムに流動している。店舗周辺の所定範囲は、店舗中心として所定半径内であってもよいし、住所の県市町村単位であってもよい。また、所定範囲は、複数の店舗(不動産)を含む商圏であってもよい。更に、所定範囲は、そのビルや施設の階数のように、3次元空間に区分されたものであってもよい。
ここで、重要な点として、各店舗にとって、当該店舗周辺を流動しているユーザが、当該店舗に吸引されるか否かである。
このような店舗周辺を流動する人数は、各店舗a~cに入店する可能性を有し、「潜在的収益指数」と称す。
潜在的収益指数とは、店舗を外側から見て、店舗周辺人数が増加するほど当該店舗への入店人数も増加し、結果的に顕在的収益指数も増加するであろうと、店舗自ら得られない客観的な指数を意味する。
【0034】
図1によれば、ユーザはそれぞれ、携帯端末2を所持しており、携帯通信事業者設備と常に通信している。そのために、携帯通信事業者は、携帯端末2を所持したユーザのID(例えば加入者ID)毎に、時刻及び位置を対応付けて蓄積している。
【0035】
ユーザの位置とは、例えば以下のようなものである。
(1)ユーザに所持された携帯端末2によって測位された端末測位位置
携帯端末2が自ら、GPS(Global Positioning System)によって測位した緯度経度情報である。
(2)通信事業者の基地局やアクセスポイントに接続した携帯端末の基地局測位位置
携帯端末2を配下とする基地局やアクセスポイントの位置情報から、携帯端末2の位置を推定したものであってもよい。但し、この位置情報は、空間的粒度が粗いものとなる。
これら位置情報は、緯度経度又は地図座標によって表記されるものであってもよいし、住所名や地図メッシュ番号に変換されたものであってもよい。
【0036】
図1(a)よれば、携帯端末通信事業者は、店舗a~c毎に、店舗周辺の所定範囲に位置する人数を導出することもできる。
図1(b)によれば、ドミナント戦略の場合、複数の店舗a~cによって構成される「商圏」に位置する人数を導出することもできる。
【0037】
ここで、重要な点として、店舗周辺を流動する人数は、特定の通信事業者の通信事業設備による捕捉ユーザであって、現実のユーザ全てではない。即ち、特定の通信事業者による捕捉人数は、その地域における実際の滞在人数よりも、極めて少数しかカウントできない。即ち、全ての通信事業者から、全てのユーザの位置情報を収集できるわけでもない。
ここで、本発明によれば、店舗周辺を流動する絶対的な人数を特定する必要はない。後述する本発明によれば、あくまで、店舗周辺を流動する人数(潜在的収益指数)に対する入店人数(顕在的収益指数)の相関性を判断できればよい。
【0038】
図2は、本発明における推定装置の機能構成図である。
【0039】
推定装置1は、不動産の商用価値を推定するものである。
図2によれば、推定装置1は、顕在的収益指数記録部101と、潜在的収益指数記録部102と、潜在的収益指数算出部11と、相関性判定部12と、商用価値決定部13とを有する。これら機能構成部は、装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムとして実現される。また、これら機能構成部の処理の流れは、不動産の商用価値の推定方法としても理解できる。
【0040】
[顕在的収益指数記録部101]
顕在的収益指数記録部101は、所定時間毎に、当該不動産(店舗)から顕在的に得られた「顕在的収益指数」を記録したものである。顕在的収益指数は、例えば、各店舗から受信した「入店人数」である。
【0041】
[潜在的収益指数算出部11]
潜在的収益指数算出部11は、所定時間毎に、当該不動産(店舗)に基づく所定範囲に位置する人数に応じた「潜在的収益指数」を算出する。潜在的収益指数は、例えば、「店舗周辺を流動する人数」である。
【0042】
顕在的収益指数記録部101及び潜在的収益指数記録部102は、所定時間を短くする(例えば1分間)ことによって「ダイナミック」に記録する。
本発明によれば、ユーザの位置を、静的な住所やスナップショット位置ではなく、時々刻々と変化するダイナミックなユーザの位置を用いている。これによって、店舗周辺の人口流動に対して、各店舗の吸引力も時々刻々と変化する。
尚、潜在的収益指数における具体的な算出例については、後述する。
【0043】
[潜在的収益指数記録部102]
潜在的収益指数記録部102は、所定時間毎に、当該不動産の所定範囲に位置する人数に応じた潜在的収益指数を記録したものである。
【0044】
[相関性判定部12]
相関性判定部12は、時系列の潜在的収益指数に対する時系列の顕在的収益指数の相関係数を判定する。
【0045】
「相関係数」とは、2つの確率変数の間にある線形な関係の強弱を測る指標をいう(例えば非特許文献6参照)。相関係数は、-1~+1の実数値をとる。相関係数が正の(相関係数が第1の所定閾値以上となる)ときは、2つの確率変数は正比例となることが多く、相関係数が負の(相関係数が第2の所定閾値以下となる)ときは、2つの確率変数は反比例となることが多い。また、相関係数が無相関(相関係数の絶対値が第3の閾値以下となる)ときは、2つの確率変数は独立(無関係)となる。相関係数は、2つの確率変数が線形な関係にある場合は+1又は-1となる。
【0046】
<正の相関を有する店舗>
図3は、潜在的収益指数に対して顕在的収益指数が時系列に正の相関を表すグラフである。
図3によれば、左縦軸は、店舗の入店人数(顕在的収益指数)を表し、右縦軸は、店舗周辺を流動する人数(潜在的収益指数)を表し、横軸は、時間経過を表す。図3からも明らかなとおり、顕在的収益指数は、潜在的収益指数に対して、時間経過に応じて同じような変化をしている。
【0047】
<負の相関を有する店舗>
図4は、潜在的収益指数に対して顕在的収益指数が時系列に負の相関を表すグラフである。
図4も、図3と同じ軸であるが、顕在的収益指数は、潜在的収益指数に対して、時間経過に応じて逆に変化をしている。
【0048】
<無相関となる店舗>
図5は、潜在的収益指数に対して顕在的収益指数が時系列に無相関を表すグラフである。
図5も、図3及び図4と同じ軸であるが、顕在的収益指数は、潜在的収益指数に対して、時間経過に応じて全く関係の無い変化をしている。
【0049】
[商用価値決定部13]
商用価値決定部13は、不動産毎に、相関係数を、所定範囲における当該不動産の商用価値として決定する。所定範囲は、不動産(店舗)を中心とした所定半径、不動産が位置する地域、又は、複数の不動産からなる商圏となる。
また、商用価値決定部13は、具体的に以下のいずれかとして、不動産の商用価値を決定するものであってもよい。
(1)相関係数が第1の所定閾値以上となる場合に、正の相関とする。
(2)相関係数が第2の所定閾値(≦第1の所定閾値)以下となる場合に、負の相関とする。
(3)相関係数の絶対値(0~+1)が第3の所定閾値以下となる場合に、無相関とする。
【0050】
商用価値としては、ドミナント戦略に基づく1つの商圏について、何れの店舗を維持し、何れの店舗を撤退するかを判定するものであってもよい。例えば、以下のような決定方法があるが、経営判断によってはこれに限られない。
(決定方法1)
例えば、無相関の場合に、不動産の商用価値が低いと決定する。
正の相関及び負の相関の店舗-> 維持対象
無相関となる店舗 -> 撤退対象
(決定方法2)
負の相関及び無相関の場合に、不動産の商用価値が低いと決定する
正の相関の店舗 -> 維持対象
負の相関及び無相関となる店舗-> 撤退対象
【0051】
前述した図3の場合、その店舗は、店舗周辺を流動する人数に応じて、店舗の入店人数が変化している「正の相関」と決定される。
前述した図4の場合、その店舗は、店舗周辺を流動する人数と逆に、店舗の入店人数が変化している「負の相関」と決定される。その店舗は、潜在的収益指数とは全く異なる顧客吸引力を有することが想定されるか、又は、ドミナント戦略の店舗の場合には撤退すべきことが想定される。
前述した図5の場合、その店舗は、店舗周辺を流動する人数と関係無く、店舗の入店人数が変化している「無相関」と決定される。その店舗は、潜在的収益指数とは全く異なる顧客吸引力を有することが想定されるか、又は、ドミナント戦略の店舗の場合には撤退すべきことが想定される。特に、ドミナント戦略に基づく複数の店舗の中で、「無相関」と決定された店舗は、その店舗周辺の人群に対して、企業金融に基づく潜在的な「座礁資産」といえる。
【0052】
ドミナント戦略の場合、潜在的収益指数は、店舗周辺を流動する人数に基づくものである。店舗周辺を流動する人群は、時々刻々とダイナミックに変化している。各店舗は、その人群を引き寄せるべく立地されている。本発明によれば、各店舗が、その店舗周辺の人群に対して、どの程度の吸引力を備えているかという店舗(不動産)の商用価値を、潜在的収益指数に対する顕在的収益指数の相関性として決定することができる。
【0053】
<<潜在的収益指数における具体的な算出例>>
【0054】
図6は、潜在的収益指数の算出に用いるテーブルである。
【0055】
図6によれば、店舗毎に、潜在的収益指数の算出に用いる数値が記録されている。
面積/魅力度: 当該店舗に帰属するハフモデルに用いる指数
ユーザID: 当該店舗周辺の所定範囲に位置する携帯端末を所持するユーザ
距離: 当該店舗と各ユーザとの間の地図上の直線距離又は道程距離
ユーザ固有情報:各ユーザに帰属する固有情報
時間経過の遠近:当該店舗と各ユーザとの距離が、時間経過に応じて
遠くなっているか又は近くなっているか
滞在履歴 :所定期間前に同種の不動産に滞在していたか否か
ユーザ吸引指数:各ユーザが当該店舗に吸引される確率q
潜在的収益指数:当該店舗周辺に流動するユーザが当該店舗に吸引される
であろう指数
【0056】
図7は、本発明における多様な実施形態の潜在的収益指数を表す説明図である。
【0057】
潜在的収益指数算出部11は、潜在的収益指数における具体的な算出例として、以下のようなものがある。
<ハフモデルに基づく基本的な潜在的収益指数>
<アドバンストハフモデルに基づく基本的な潜在的収益指数>
<ユーザのディレクションに基づく潜在的収益指数>
<ユーザの滞在履歴に基づく潜在的収益指数>
<ユーザの固有情報に基づく潜在的収益指数>
【0058】
<ハフモデルに基づく基本的な潜在的収益指数>(図7(a)参照)
マーケティングで用いられるハフモデルを拡張して、店舗周辺を流動するユーザの位置に基づく「ダイナミックハフモデル」を採用する。
「ダイナミックハフモデル」に基づく潜在的収益指数は、以下のように算出する(例えば非特許文献2参照)。
(S1)所定範囲に含まれる不動産及びユーザの組合せ毎に、当該不動産の「面積」を、当該ユーザの位置と当該不動産との間の「距離」で除算した個別吸引指数を算出する。
個別吸引指数:(店舗iの面積)/(ユーザjの位置と当該店舗iとの距離)
(S2)ユーザ毎に、当該ユーザが当該不動産に吸引される確率として、当該不動産の個別吸引指数を、所定範囲に含まれる全ての不動産の個別吸引指数の総和で除算したユーザ吸引指数p(t,i,j) (ユーザjが店舗iに吸引される確率)を算出する。
店舗iのユーザ吸引指数=
(店舗1の面積)/(ユーザ1の位置と店舗1との距離)
/{(店舗1の面積)/(ユーザ1の位置と店舗1との距離)+
(店舗2の面積)/(ユーザ1の位置と店舗2との距離)+
(店舗3の面積)/(ユーザ1の位置と店舗3との距離)+・・・}
(S3)不動産毎に、所定範囲に含まれる全てのユーザのユーザ吸引指数の総和を、当該不動産における潜在的収益指数q(i,t)(時刻tの店舗iの吸引力)とする。
q(i,t)=Σj=1 Np(t,i,j)
潜在的収益指数は、ダイナミックに変化する不動産周辺を流動する人数から、当該不動産に入店するであろう潜在的な吸引力を推定した指数である。
尚、潜在的収益指数は、ユーザ吸引指数を単に足し合わせて指数化しており、確率でないことに注目する。
【0059】
尚、企業が、商圏に複数の店舗を保有する場合、商圏全体の潜在的収益指数は、各店舗の潜在的収益指数の総和によって算出される。
Q(t)=Σi=1 Mq(i,t)
【0060】
<アドバンストハフモデルに基づく基本的な潜在的収益指数>(図7(b)参照)
マーケティングで用いられるアドバンストハフモデルを拡張して、店舗周辺を流動するユーザの位置に基づく「ダイナミックアドバンストハフモデル」を採用する。
前述したハフモデルについては、潜在的収益指数の算出に売場面積を用いるのに対し、ダイナミック「アドバンストハフモデル」については、「魅力度」を用いる(例えば非特許文献3参照)。また、ユーザの位置と店舗との距離は、地図上の直線距離ではなく、「道程距離」を用いている。
【0061】
(S1)所定範囲に含まれる不動産及びユーザの組合せ毎に、当該不動産の「魅力度」を、当該ユーザの位置と当該不動産との間の「道程距離」で除算した個別吸引指数を算出する。
個別吸引指数:(店舗iの魅力度)/(ユーザjの位置と当該店舗iとの道程距離)
(S2)ユーザ毎に、当該ユーザが当該不動産に吸引される確率として、当該不動産の個別吸引指数を、所定範囲に含まれる全ての不動産の個別吸引指数の総和で除算した「ユーザ吸引指数」p(t,i,j)(ユーザjが店舗iに吸引される確率)を算出する。
店舗iのユーザ吸引指数=
(店舗1の魅力度)/(ユーザ1の位置と店舗1との道程距離)
/{(店舗1の魅力度)/(ユーザ1の位置と店舗1との道程距離)+
(店舗2の魅力度)/(ユーザ1の位置と店舗2との道程距離)+
(店舗3の魅力度)/(ユーザ1の位置と店舗3との道程距離)+
・・・}
(S3)不動産毎に、所定範囲に含まれる全てのユーザのユーザ吸引指数の総和を、当該不動産における潜在的収益指数q(i,t)(時刻tの店舗iの吸引力)とする。
q(i,t)=Σj=1 Np(t,i,j)
【0062】
<ユーザのディレクションに基づく潜在的収益指数>(図7(c)参照)
潜在的収益指数算出部11は、前述したダイナミックハフモデル又はダイナミックアドバンストハフモデルによって潜在的収益指数を算出した上で、時間経過に伴って、当該ユーザの位置と当該不動産との間の距離が離れていく場合、当該不動産に基づく当該ユーザのユーザ吸引指数を0とする。
【0063】
図7(c)によれば、ユーザ1の進行方向は、店舗Bへ向かっている。このとき、少なくともユーザ1は、店舗Aから遠ざかっているために、店舗Aに入店する確率はほとんどないと考えるべきである。それにも拘わらず、店舗Aも含めて吸引力を計算した場合、合理的なユーザ吸引指数を算出できない。
具体的には、一定時間毎(例えば1分間)に、当該ユーザの位置から当該店舗までの距離が遠ざかっている場合、当該店舗のユーザ吸引指数に、当該ユーザを含めないようにする。
時刻tにおけるユーザiの位置と店舗Aとの距離
d(t,i,A)=|p(i,t)-p(A)|
指示関数を用いて、近づいているユーザに限定して、店舗へのユーザ吸引指数を算出する。
p(t,i,j)×1{d(t,i,A)-d(t-Δt,i,A)<0}
これによって、各店舗に近づくユーザに限定して、ユーザ吸引指数の総和を算出する。
q(i,t)=Σp(t,i,j)×1{d(t,i,A)-d(t-Δt,i,A)<0}
このように、ユーザの進行方向も考慮することで、実態に即した店舗のユーザ吸引指数を算出することができる。
【0064】
<ユーザの滞在履歴に基づく潜在的収益指数>(図7(d)参照)
第1の不動産と第2の不動産との種別が所定条件で類似する場合、潜在的収益指数算出部11は、当該ユーザの位置が第1の不動産の位置で所定時間以上滞在と判定された場合、第2の不動産に基づく当該ユーザのユーザ吸引指数を0とする。
【0065】
例えば第1の店舗及び第2の店舗の両方とも「飲食店」であったとする。ここで、ユーザが、第1の店舗に滞在した後、第2の店舗へ入店する確率は極めて低い。なぜなら、ユーザは、第1の店舗での滞在で既に飲食している可能性が高く、第2の店舗の近くに位置したとしても、第2の店舗へ入店する可能性は低い。そのような場合、第1の店舗に滞在したユーザが、第2の店舗の近くに位置する場合であっても、ハフモデルで算出する際に、第2の店舗にそのユーザが吸引される確率は0とすべきである。
【0066】
同様に、例えば第1のガソリンスタンドで給油を済ませた自動車のユーザ(ドライバー)は、進行方向に第2のガソリンスタンドがあったとしても、第2のガソリンスタンドへの吸引力は0とすべきである。既にガソリンを満タンに給油した自動車が、他の給油所の近くに来たからといって、その給油所へ入店する確率は極めて低い。
【0067】
このように、ユーザの位置のみならず、そのユーザの滞在履歴を考慮して、潜在的収益指数を算出する。
現在時刻tから一定期間遡った時間間隔T(t)=(t-T,t]に、ユーザjが滞在した店舗の種類の集合を出力する関数を、以下のように表す。また、この関数syに店舗を入力すると、その店舗の種類が出力されるとする。
sy(T(t),j)
例えば店舗Aが飲食店であるとき、sy(A)="飲食店"と出力される。
T(t)の間にユーザjが店舗Aと同種の店舗に訪問した場合、1となる指示関数は、以下のようになる。
[1-1{sy(A)∈sy(T(t),j)}]
これによって、一定期間内で同種の店舗をユーザjが滞在すると0、それ以外は1が出力される。
そして、店舗Aのユーザ吸引指数は、以下のように算出される。
q(i,t)=Σp(t,i,j)×1{d(t,i,A)-d(t-Δt,i,A)<0}
×[1-1{sy(A)∈sy(T(t),j)}]
【0068】
<ユーザの固有情報に基づく潜在的収益指数>(図7(d)参照)
潜在的収益指数算出部11は、ユーザ吸引指数に、当該ユーザの「固有情報」に基づく潜在購買力指数を乗算することも好ましい。
ユーザjの過去期間dにおける潜在購買力指数を、以下のように定義する。
pbp(j,d)
潜在購買力指数は、固有情報に基づいて決定されており、固有情報は、当該ユーザについて、プロファイル情報、又は、所定期間における移動距離、購買履歴、若しくは、当該ユーザが所定範囲に位置する時間長であってもよい。
【0069】
例えば、休日間の移動距離が長いユーザほど、生活余資及び活性度が高く、潜在購買力指数が高いと考えられる。逆に、休日間の移動距離が短いユーザほど、生活余資及び活性度が低く、潜在購買力指数も低いと考えられる。勿論、クレジットカードなどの利用履歴や、銀行口座の預金残高によっても、ユーザの潜在購買力指数が決定されるものであってもよい。また、高級住宅街や高級ホテルなどの地域に滞在する時間が長いユーザほど、ユーザの潜在購買力指数が高いとしてもよい。
q(i,t)=Σj=1 Np(t,i,j)×pbp(j,d)
【0070】
以上、詳細に説明したように、本発明のプログラム、装置及び方法によれば、不動産の商用価値を、その不動産から顕在的に得られる顕在的収益指数のみならず、その不動産周辺に潜在的に存在する潜在的収益指数との相関性に応じて分析することができる。
【0071】
本発明によれば、不動産周辺で時々刻々と変化する潜在的収益指数に対して、当該不動産から得られる顕在的な顕在的収益指数の相関性を、常にモニタリングすることができる。企業の経営者にとって、例えばドミナント戦略に基づく商圏に含まれる各店舗について、何れの店舗を維持し、何れの店舗を撤退するかについて、経営的な判断材料が提供される。
【0072】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0073】
1 推定装置
101 顕在的収益指数記録部
102 潜在的収益指数記録部
11 潜在的収益指数算出部
12 相関性判定部
13 商用価値決定部
2 携帯端末
3 店舗
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7