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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】コイルおよびリアクトル
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/28 20060101AFI20221207BHJP
   H01F 5/00 20060101ALI20221207BHJP
   H01F 37/00 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
H01F27/28 123
H01F27/28 S
H01F5/00 F
H01F37/00 C
H01F37/00 M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2016181507
(22)【出願日】2016-09-16
(65)【公開番号】P2018046232
(43)【公開日】2018-03-22
【審査請求日】2019-08-28
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】中津 良
(72)【発明者】
【氏名】前野 謙介
(72)【発明者】
【氏名】山田 将司
【合議体】
【審判長】酒井 朋広
【審判官】畑中 博幸
【審判官】山田 正文
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-178199(JP,A)
【文献】特開2009-134891(JP,A)
【文献】特開2016-86077(JP,A)
【文献】特開平6-84661(JP,A)
【文献】特開2015-122484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 5/00,27/28,37/00
H02K 3/00-3/52
H01B 7/00-7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が八角形の電線で構成されたコイルであって、
前記電線は、
線材の表面に設けられた絶縁被覆層と、
前記絶縁被覆層の表面に設けられた自己融着層と、
前記電線の断面の長辺方向に延びるストレート部と、
前記ストレート部の端に設けられ、前記ストレート部より肉厚の薄い肉薄部と、
を有し、
前記肉薄部の厚みは、前記ストレート部の厚みの70%~96%であり、
隣接する前記電線は、前記自己融着層を介して前記ストレート部で接着され、前記肉薄部間には隙間が形成されていること、
を特徴とするコイル。
【請求項2】
前記肉薄部は、前記ストレート部の両端かつ前記ストレート部の延び方向と平行な前記ストレート部の中心軸に対して対称に設けられていること、
を特徴とする請求項1に記載のコイル。
【請求項3】
前記コイルは、1本の前記電線から構成された一対のコイルからなり、
一方のコイルと他方のコイルが前記電線の巻回方向が逆であり、
各コイルにおいて、隣接する前記電線は、前記ストレート部で接着されていること、
を特徴する請求項2に記載のコイル。
【請求項4】
前記ストレート部は、前記コイルの巻軸方向の周りに、隣接する前記電線の前記ストレート部と周回して接着されていること、
を特徴とする請求項1~3の何れかに記載のコイル。
【請求項5】
前記肉薄部の幅は、前記電線の幅の30%~40%であること、
を特徴とする請求項1~4の何れかに記載のコイル。
【請求項6】
環状コアと、
前記環状コアの一部に装着された請求項1~5の何れかに記載のコイルと、
を備えたことを特徴とするリアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル及びこのコイルを備えるリアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
リアクトルは、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動システム等をはじめ、種々の用途で使用されている。例えば、車載用の昇圧回路に用いられるリアクトルとして、コアの周囲に配置した樹脂製のボビンに一対のコイルを巻回したものが多く用いられる。
【0003】
コイルを形成する電線としては、導電性を有する線材とその周囲に設けられた絶縁被覆とから構成される丸線や平角線などを用いることができる。丸線は、断面が円状で対称性を有するのでどの方向にも曲げることができ、簡単にコイルを製造することができるメリットがある。しかし、電線間の隙間が生じ得るため、コイルが大型化し又は損失の大きくなりやすいデメリットがある。
【0004】
一方、平角線は、断面が長方形の電線であり、丸線と比較して高密度に巻回することができるので、小型化及び低損失化を図ったコイルが得られるメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-94924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
断面が長方形の電線からなるコイルは、長方形の短辺部分の一方を内側にして電線を曲げて構成される。この種のコイルがリアクトルに用いられる場合、リアクトルが使用される振動等の環境条件を考慮して、隣接した電線同士を絶縁被膜を介して接着させ、コイルをバルク化、すなわち一体化することがある。
【0007】
しかし、図10に示すように、電線150を曲げてコイル105が形成される際、コイル105の内側部分に応力が集中するため、コイル105の内側部分における電線150程、その肉厚が厚くなる。
【0008】
そのため、当該内側部分のみが点接触でしか接着できず、それ以外の箇所、特にコイル105の外側部分ほど電線150間に隙間が生じ接着されない。従って、コイル105が長時間の振動を受けたり、大きな振動を受けたりすると、その接着が剥がれる場合がある。接着が剥がれると、振動により電線150同士に摩擦が発生し、電線150の線材表面に設けられた絶縁被膜が傷つき絶縁が確保できなくなる虞がある。特に、電線150間に金属塵などの異物が入ると絶縁被膜が傷つきやすく、絶縁破壊しやすくなるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、全体を強固にバルク化することのできるコイル及び当該コイルを備えたリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のコイルは、断面が八角形の電線で構成されたコイルであって、次の構成を有す
ることを特徴とする。
(1)前記電線は、線材の表面に設けられた絶縁被覆層と、前記絶縁被覆層の表面に設けられた自己融着層と、前記電線の断面の長辺方向に延びるストレート部と、前記ストレート部の端に設けられ、前記ストレート部より肉厚の薄い肉薄部と、を有する。
(2)前記肉薄部の厚みは、前記ストレート部の厚みの70%~96%である。
(3)隣接する前記電線は、前記自己融着層を介して前記ストレート部で接着され、前記肉薄部間には隙間が形成されている。
【0011】
本発明のコイルは、次の構成を有していても良い。
(4)前記肉薄部は、前記ストレート部の両端かつ前記ストレート部の延び方向と平行な前記ストレート部の中心軸に対して対称に設けられている。
(5)前記コイルは、1本の前記電線から構成された一対のコイルからなり、一方のコイルと他方のコイルが前記電線の巻回方向が逆であり、各コイルにおいて、隣接する前記電線は、前記ストレート部で接着されている。
(6)前記ストレート部は、前記コイルの巻軸方向の周りに、隣接する前記電線の前記ストレート部と周回して接着されている
(7)前記肉薄部の幅は、前記電線の幅の30%~40%である。
【0013】
本発明のリアクトルは、環状コアと、前記環状コアの一部に装着された上記の何れかのコイルを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、全体を強固にバルク化することのできるコイル及び当該コイルを備えたリアクトルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1の実施形態に係るリアクトルの全体構成を示す正面側の斜視図である。
図2】第1の実施形態に係るリアクトルの全体構成を示す背面側の斜視図である。
図3】第1の実施形態に係るリアクトルの全体構成を示す分解斜視図である。
図4】コイルを除いた第1の実施形態に係るリアクトルの平面図である。
図5】第1の実施形態のコイルを構成する電線の断面図である。
図6】第1の実施形態のコイルの断面図である。
図7】第1の実施形態のコイルの部分拡大断面図である。
図8】第2の実施形態のコイル断面の一部拡大図である。
図9】(a)~(e)は、他の実施形態のコイルを構成する電線の断面図である。
図10】従来の電線及びこの電線を用いたコイルを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態のコイル、及び当該コイルを備えたリアクトルについて説明する。
【0017】
[1.第1の実施形態]
[1-1.概略構成]
図1は、本実施形態に係るリアクトルの全体構成を示す正面側の斜視図であり、図2は、本実施形態に係るリアクトルの全体構成を示す背面側の斜視図である。図3は、本リアクトルの分解斜視図である。
【0018】
リアクトルは、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品であり、電圧の昇降圧等に使用される。本実施形態のリアクトルは、例えばハイブリッド自動車や電気自動車の駆動システム等で使用される大容量のリアクトルである。リアクトルは、これら自動車に搭載される昇圧回路の主要部品である。
【0019】
リアクトルは、磁性体を含み構成される環状コア10と、環状コア10の周囲を覆う樹脂部材20と、環状コア10の一部を覆うように樹脂部材20の外周に装着されたコイル5とを備える。
【0020】
また、このリアクトルには、その内部温度を検出する温度センサ9が設けられている。すなわち、樹脂部材20とコイル5との間には隙間が設けられており、当該隙間に温度センサ9が挿入されている。温度センサ9は、柱状の温度検出部9aと、温度検出部9aに接続されたリード線9bとからなり、温度検出部9aがコイル5の巻軸方向に沿って配置され、温度検出部9aの後端がコイル5の外部に露出している。
【0021】
樹脂部材20には、3つの固定部31が設けられており、リアクトルは、固定部31を介してネジ締結により、ベースに取り付けられ、固定される。このベースとしては、PCUケース、ミッションケース、電圧制御ユニットのケース又はヒートシンクなどが挙げられるが、リアクトルが取り付けられる対象であればこれらに限定されない。
【0022】
[1-2.詳細構成]
本実施形態のリアクトルの各部の詳細構成について、図1図7を用いて説明する。なお、本明細書において、各部材の構成を説明するのに、図1に示すz軸方向を「上」側、その逆方向を「下」側とし、或いは「下」を「底」とも称する場合がある。z軸方向は、リアクトルの上下方向であり、リアクトルの高さ方向である。
【0023】
(環状コア)
環状コア10は、図3に示すように、外形が矩形形状の環状形状である。図1図3に示すように、環状コア10のうち、コイル5が巻回された直線部分は、磁束が発生する脚部である。コイル5が巻回されていない直線部分の連結部分は、脚部で発生した磁束が通過するヨーク部である。すなわち、ヨーク部は、一対の直線部分を繋ぐ。環状コア10内には、脚部で発生した磁束がヨーク部を通過することで、環状の閉じた磁気回路が形成される。
【0024】
環状コア10は、図3に示すように、複数のコア部材11~13と、複数のスペーサ14とを有し、コア部材13間にスペーサ14を配置して接着剤によって環状になるように接続されている。
【0025】
コア部材11~13は、圧粉磁心、フェライトコア、又は積層鋼板などの磁性体からなる。ここでは、コア部材11~13は圧粉磁心である。本実施形態のコア部材は、左右の脚部を構成する複数のI字型コア13と、ヨーク部を構成する2つのブロック状コア11、12である。コア部材11~13は何れも概略直方体形状であるが、幅すなわちy軸方向の長さが異なっており、ブロック状コア11、12の方がI字型コア13より長い。
【0026】
スペーサ14は、板状のギャップスペーサである。このスペーサ14は、コア部材13間に配置されており、接着剤によってスペーサ14の両側のコア部材13の接続面と接着固定される。
【0027】
スペーサ14は、コア部材13間に所定幅の磁気的なギャップを与え、リアクトルのインダクタンス低下を防止する。スペーサ14の材料としては、非磁性体、セラミック、非金属、樹脂、炭素繊維、若しくはこれら二種以上の合成材又はギャップ紙を用いることができる。なお、スペーサ14は必ずしも設けなくても良い。
【0028】
(樹脂部材)
樹脂部材20は、環状コア10の外周を樹脂により被覆している部材である。従って、樹脂部材20は、環状コア10の形状に倣って環状に形成されている。すなわち、一対の直線部分とこれら直線部分を繋ぐ連結部分とを有している。
【0029】
樹脂部材20を構成する樹脂の種類としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、BMC(Bulk Molding Compound)、PPS(Polyphenylene Sulfide)、PBT(Polybutylene Terephthalate)等が挙げられる。
【0030】
本実施形態では、樹脂部材20は、二分割されて構成されており、樹脂体21と樹脂体22とを有する。すなわち、樹脂部材20は、略C字形状の樹脂体21と、略U字形状の樹脂体22とを別々に成形しておき、互いの端部を向かい合わせることで構成される。樹脂体21と樹脂体22とを別々に成形するのは、互いの端部を向かい合わせる前に環状コア10の脚部を構成するI字型コア13を樹脂体21、22内部に収容するため、及び、コイル5を直線部分にはめ込んで樹脂部材20にコイル5を装着するためである。
【0031】
樹脂体21は、一対の直線部21a、21bとこれら直線部21a、21bを繋ぐ連結部21cと、を有する。樹脂体22は、一対の直線部22a、21bとこれら直線部22a、22bを繋ぐ連結部22cと、を有する。直線部21a、21bと直線部22a、22bを突き合わせて一対の直線部分を形成し、当該直線部分はコイル5が装着される部分であり、ボビンとも称される。ここでは、直線部22a、22bが直線部21a、21bより長いが、一対の直線部分が形成されれば、これに限定されない。
【0032】
連結部21c、22cの内部には、ブロック状コア11、12がモールド成形法によって埋め込まれている。換言すれば、連結部21c、22cは、ブロック状コア11、12の被覆部であり、連結部21c、22cに覆われたブロック状コア11、12の外周部分が、連結部21c、22cの内周と密着している。但し、ブロック状コア11、12のI字型コア13と接続される接続部は露出している。
【0033】
直線部22a、22bの内部には、環状コア10の直線方向に沿って、I字型コア13、スペーサ14が交互に積層して配置されている。直線部21a、21b及び直線部22a、22bの先端には開口部がそれぞれ設けられており、直線部22a、22bの開口部からI字型コア13、スペーサ14が挿入され、直線部22a、22bからはみ出したI字型コア13が直線部21a、21bで覆われる。
【0034】
図4は、コイル5を除いた本実施形態に係るリアクトルの平面図である。図4に示すように、樹脂部材20には、温度センサ9を配置する凹部40と、温度検出部9aと同軸上であって温度検出部9aの後端側に配置され、樹脂部材20の表面から突出した係止部23と、コイル5との距離を規定するスペーサ24とが設けられている。なお、ここでは、温度検出部9aは扁平な角柱形状である。
【0035】
スペーサ24は、直線部21a、21b、22a、22bの表面に隆起した部分であり、コイル5の内周面が当接し、コイル5の内周面とこれらの直線部21a、21b、22a、22bとの距離を保つ。ここでは、スペーサ24は、直線部21a、21b、22a、22bの上面にx軸方向に2本設けられている。
【0036】
凹部40は、樹脂体22においてその周囲より一段下がった凹み部分であり、内周面と底面とを有し、直線部22b及び連結部22cの上面に設けられている。ここでは、凹部40は、樹脂体22の上面であってスペーサ24が設けられた箇所に設けられている。
【0037】
図4に示すように、凹部40は全体として台形形状であり、係止部23側より隙間の奥側が窄んだ形状を有している。ここにいう「奥」とは、係止部23側より、温度検出部9a先端の配置位置側をいう。凹部40の底面とコイル5の内周面との間の隙間は、奥側が、温度センサ9の温度検出部9aの厚みより若干狭い。その狭さは、温度検出部9aが当該隙間に圧入できる程度である。
【0038】
凹部40の概略的構成としては、台形の上辺及び下辺は何れもコイル5の巻軸方向(x軸方向)と直交し、上辺の長さは下辺の長さよりも短い。そして、台形の上辺が直線部22b上面の中央部分に位置し、台形の下辺が連結部22cの上面に位置する。一方、台形のもう一対の辺のうち、一方の辺はx軸方向に延び、他方の辺は当該方向に対して斜めに傾斜している。
【0039】
係止部23は、凹部40と隣接して連結部22cの上面に突出して設けられた突出部であり、温度検出部9aと同軸上に配置されている。係止部23は、全体としてC字形状を有するフックであり、当該フックには、温度検出部9aを凹部40に挿入する挿入口とは反対側に切欠きが設けられている。凹部40に温度検出部9aを挿入した後、この切欠きにリード線9bが引っかけられることで、温度センサ9が係止される。
【0040】
樹脂部材20は、リアクトルをその設置箇所となるベースに固定するための固定部31を有している。固定部31には、金属製の円筒形状のカラー32が埋め込まれており、このカラー32の孔にネジやリベットを挿入して、リアクトルがベースに固定される。
【0041】
固定部31の数は特に限定されないが、ここでは、固定部31は、3つであり、直角三角形の各頂点に位置するように、樹脂体21の連結部21cの側部に1つ設けられ、樹脂体22の連結部22cの側部に2つ設けられている。
【0042】
連結部21c側の固定部31は、連結部22c側の固定部31に対して相対的に可動である。リアクトルの線膨張差を吸収するためである。すなわち、本実施形態では、x軸方向において、環状コア10に設けられたスペーサ14や接着剤、樹脂部材20など異なる部材が存在し、互いに線膨張係数が異なることから、x軸方向が最も線膨張差が生じやすくなる。
【0043】
そこで、連結部22c側の固定部31を不動側固定部とし、他方の連結部21c側の固定部31を可動側固定部としている。具体的には、連結部22c側の2つの固定部31は、連結部22cの樹脂と一体成形されており、連結部22c側部の中程にそれぞれy軸方向に突出して設けられている。
【0044】
一方、連結部21c側の固定部31は、連結部21cの側部から2本の支持アーム33によって支持されている。すなわち、支持アーム33は、連結部21cの側部から三角形を形成するようにその先端が連結されており、この先端部分に可動側固定部が設けられている。そのため、連結部21cの側壁と2本の支持アーム33との間には空間部が形成されている。この空間部により支持アーム33はx軸方向に撓み、可動側固定部がx軸方向に移動し、線膨張差が吸収される。
【0045】
なお、支持アーム33は、それぞれ間隔を保って配置された2枚の板状部材で構成されている。本実施形態では、可動側固定部がリアクトルの高さの中央部分に位置しており、2枚の板状部材は、連結部21側部側から可動側固定部側にかけて窄む三角形状であり、可動側固定部をz軸方向に固定する。
【0046】
連結部21cの上部には、端子61を被覆する端子被覆部211が設けられている。端子61は、長尺の板状形状からなる導体であり、図1に示すように、コア部材11の上方に配置されている。端子61は、中央部分が端子被覆部211により被覆され、両端部は露出している。端子61の一端部61aは屈曲して上方に延び、コイル51aの端部52aと溶接等により電気的に接続され、他端部61bは、中央にネジ穴が設けられた円盤状に形成され、外部機器又は外部配線とネジ締結により電気的に接続される。
【0047】
連結部22cに設けられた一方の固定部31には、端子62を被覆する端子被覆部221が、コイル51bの側部を回り込むように延設されている。端子62は、板状体からなる導体であり、中央部分が端子被覆部221により被覆され、両端部は露出している。端子62の一端部62aは、屈曲して上方に延び、コイル51bの端部52bと溶接等により接続され、他端部62bは、中央にネジ穴が設けられた円盤状に形成され、外部機器又は外部配線とネジ締結により電気的に接続される。
【0048】
樹脂体21、22は、樹脂により一体成形された部材である。すなわち、樹脂体21を構成する直線部21a、21b、連結部21c、支持アーム33、固定部31及び端子被覆部211は継ぎ目なく一続きに構成されている。樹脂体22を構成する直線部22a、22b、連結部22c、係止部23、固定部31、端子被覆部221も同様に、継ぎ目なく一続きに構成されている。
【0049】
(コイル)
コイル5は、左右の一対のコイル51a、51bを有し、1本の電線によって構成されている。本実施形態では、コイル51a、51bは、断面が矩形のエッジワイズコイルであるが、電線の巻き方はエッジワイズ巻きに限定されない。
【0050】
コイル5は、コイル51a、51bの空芯部に環状コア10の脚部の周囲を囲うように、樹脂部材20の一対の直線部21a、21b、22a、22bの外周に装着されており、コイル51a、51bの巻軸方向が互いに平行である。
【0051】
コイル5は、断面が略矩形の1本の電線で構成され、その端部52a、52bと逆側の背面側でコイル51a、51bが繋がっており、コイル51aとコイル51bの巻回方向が逆である。換言すれば、コイル51aでは電線の断面の一方の短辺がコイル51aの内側に位置する一方、その短辺がコイル51bでは外側に位置する。逆に、電線の断面の他方の短辺がコイル51bの内側に位置する。
【0052】
コイル51aの端部52aは、樹脂体21の連結部21cの上方に引き出され、端子61の一端部61aと溶接等により電気的に接続されている。また、コイル51bの端部52bは、樹脂体21の側方に引き出され、端子62の一端部62aと溶接等により電気的に接続されている。コイル51a、51bが端子61、62を介して外部電源と接続され、外部電源から電力供給されると、コイル51a、51bに電流が流れてコイル51a、51bを突き抜ける磁束が発生し、環状コア10内に環状の閉じた磁気回路が形成される。
【0053】
コイル5及びコイル5を構成する電線について、詳細に説明する。図5は、コイル5を構成する電線の断面図である。図6は、コイル5の断面図であり、図7は、その部分拡大断面図である。
【0054】
図5に示すように、コイル5を構成する電線は、断面が略矩形の略平角線であり、金属製の線材50aと、この線材50aの周囲に形成された自己融着層50bとを備える。より詳細には、電線は、線材50aと、線材50aの表面に設けられた絶縁被覆層と、絶縁被覆層の表面に設けられた自己融着層50bとを備える。線材50aは、導電性を有する素材からなり、例えば銅やアルミニウムで構成できるが、これらに限定されない。絶縁被覆層は、図5では図示を省略している。絶縁被覆層は、例えばエナメル被覆である。自己融着層50bは、樹脂からなり、樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂などを使用することができる。自己融着層50bの厚みは、例えば20μm~50μmであり、線材50aの周囲で均一である。
【0055】
自己融着層50bは、電線が巻き回されて隣接する線材50aを一体化する。具体的には、自己融着層50bは、半硬化状態の熱硬化性樹脂が加熱されて溶融し、隣接する線材50aが、自己融着層50bにより接着されており、コイル51a、51bがそれぞれ一体化している。従って、図6に示すように、コイル5の空芯部を構成するコイル51a、51bの内周面はほぼ平面になっており、扁平な温度検出部9aとの接触面積を大きくなるようにし、より確実に温度検出部9aと接触できるようにしている。
【0056】
図5に示すように、電線の断面は略矩形である。電線の略矩形断面の長辺の延び方向を幅方向とし、当該断面において幅方向と直交する方向を厚み方向とする。図5及び図7に示すように、電線は、その断面の長辺方向に延びるストレート部53と、当該断面の隅部分にストレート部53より肉厚の薄い肉薄部54とが設けられている。なお、電線の断面が略矩形とは、ストレート部53を有していれば良く、肉薄部54の形状が後述する図9(a)~(d)に示す形状であっても略矩形に含まれる。
【0057】
ストレート部53は、略矩形断面の長辺を含む電線の幅方向の中央の板状部位であり、その肉厚は長辺方向に一定である。ストレート部53は、コイル51a、51bの巻軸方向の周りに、隣接する電線のストレート部53と周回して接着されている。肉薄部54は、電線が巻き回されてコイル5を形成する場合に巻き太る部分に設けられており、ストレート部53の少なくとも一端部に設けられる。本実施形態では、肉薄部54は、ストレート部53の両端かつストレート部53の延び方向と平行なストレート部53の中心軸Cに対して対称に設けられている。肉薄部54は、ここでは、幅方向において端に行く程厚みが薄くなる形状となっており、図5及び図7に示すように、直線的に傾斜する形状である。コイル51a、51bにおいて、図7の点線部分で示すように、隣接する電線は、ストレート部53の自己融着層50bを介して面で接触し、コイル51a、51b全体がバルク化する。
【0058】
肉薄部54の厚みは、ストレート部53の厚みの70%~96%である。肉薄部54の厚みがこの範囲より厚いと、肉薄部54のストレート部53より薄くなっている分よりも巻き太り量が大きくなるため、隣接する電線同士を面で接触させることが困難となる。一方、当該範囲より薄いと、電線の巻き回しの力に耐えられず電線が変形してしまうため、エッジワイズ巻きが困難となる。なお、ここにいう、肉薄部54の厚みとは、肉薄部54の最も薄い部分の厚みをいう。肉薄部54の幅は、電線の幅の30%~40%である。
【0059】
本実施形態の電線は、厚み1.9mm、幅8.0mmの電線であり、電線の断面形状は八角形である。ここでは、ストレート部53の厚みが1.9mmであり、その幅は、2.4mmである。肉薄部54の厚みは、1.74mmであり、その幅は、2.8mmである。換言すれば、電線は、断面が1.9mm×8.0mmの長方形から、幅2.8mm×厚み0.08mmの面積分削減されている。
【0060】
コイル5の製造方法は、従来と同様の方法を採用することができる。すなわち、ローラーで電線を円柱状の巻芯まで送り、当該巻芯に電線を押し当て、当該電線に応力を加えて電線を曲げる方法を採用できる。但し、その際、断面が略矩形の短辺部分、すなわち肉薄部54を巻芯に押し当てる。
【0061】
(温度センサ)
温度センサ9は、リアクトル内部の温度を検出する。温度センサ9としては、例えば、温度変化に対して電気抵抗が変化するサーミスタを用いることができるが、これに限定されない。
【0062】
温度センサ9は、温度検出部9aと、温度検出部9aに接続されたリード線9bとからなる。温度検出部9aは、例えば、その先端部分に温度検出素子が埋め込まれており、先端部分でリアクトル内部の温度を検出する。
【0063】
リード線9bは、温度検出部9aが検出した温度情報をリアクトル外部に伝達する。具体的には、リード線9bは、切欠きからリアクトル外部に引き出され、外部の機器や回路に接続される。この外部機器又は回路の例としては、コイル51a、51bに流れる電流をオンオフする制御回路が挙げられる。
【0064】
[1-3.作用・効果]
(1)本実施形態のコイルは、断面が略矩形の電線で構成されたコイルであって、電線の断面の長辺方向に延びるストレート部53と、ストレート部53の端に設けられ、ストレート部53より肉厚の薄い肉薄部54とを有し、隣接する前記電線は、前記ストレート部で接着されるようにした。これにより、電線を曲げてコイル5を形成する際に、コイル5の内側部分において巻き太りが生じても、ストレート部53よりも太ることを防止できる。そのため、隣接する電線のストレート部53で面接着することが可能となり、接着面積が大きくなるのでコイル5を強固にバルク化することができる。その結果、振動を受けても電線同士の摩擦及びこれに伴う絶縁破壊を防止することができる。特に、電線間に異物が入ることによる絶縁破壊を防止することができる。
【0065】
(2)肉薄部54は、ストレート部53の両端かつストレート部53の延び方向と平行なストレート部53の中心軸に対して対称に設けるようにした。これにより、1本の電線で巻回方向の異なる一対のコイル51a、51bを形成する場合でも、電線の向きを気にせずコイル5を製造することができるので、コイル5の生産性を向上させることができる。
【0066】
(3)電線の断面は八角形とした。電線の断面形状がシンプルであるので、製造が容易にできる利点がある。また、隣接する電線において、肉薄部54間に隙間が発生する。そのため、コイルが、油やリアクトルに設けられる充填材を媒介として冷却される場合に、油などの冷媒や充填材が当該隙間に入り込めるので、冷媒や充填材との接着面積が増え、放熱性を向上させることができる。
【0067】
(4)肉薄部54の厚みは、ストレート部53の厚みの70%~96%とした。これにより、コイル5を形成する際に電線に巻き太りが生じても、肉薄部54がストレート部53より出っ張ることが防止することができ、ストレート部53における面接着をより的確に確保することができ、耐振動性を向上させることができる。また、このように巻き太りは肉薄部54が設けられていることにより吸収できるので、電線に加える応力や電線を送る速度など生産条件に工夫をして巻き太りを防止する対策をする必要がない。すなわち、従来のコイルの製造方法で本実施形態のコイルを製造することができ、生産条件を変える必要がない。そのため、生産条件の変更するための試行錯誤が不要になり、生産性を向上させることができる。
【0068】
(5)肉薄部54の幅は、電線の幅の30%~40%とした。これにより、ストレート部53における面接着をより的確に確保することができ、耐振動性を向上させることができる。
【0069】
(6)電線は、表面に自己融着層50bを備えるようにした。これにより、コイル5を形成した際に隣接する電線間に、接着剤を別途塗布する必要がなく、工数を削減することができる。
【0070】
[2.第2の実施形態]
第2の実施形態について、図8を用いて説明する。第2の実施形態は、第1の実施形態と基本構成は同じである。よって、第1の実施形態と異なる点のみを説明し、第1の実施形態と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0071】
第2の実施形態は、コイル5の構成が異なる。第2の実施形態のコイル5は、線材の断面が矩形の電線からなり、当該電線が巻き回されて構成されている。図8は、第2の実施形態のコイル断面の一部拡大図である。図8に示すように、コイル5は、内側に巻き太りが生じており、線材50aの断面が台形形状となっている。
【0072】
第1の実施形態では、自己融着層50bは線材50aの周囲に厚みが均一に形成されていたが、本実施形態では、コイル5の内周部分より外周部分において厚くなっている。すなわち、コイル5は、巻き回されて隣接する電線が接着部となる自己融着層50bを介して接着されており、巻き太るコイル5の内周部分で自己融着層50bが薄く、巻き細るコイル5の外周部分で自己融着層50bが厚く形成されている。そのため、隣接する電線は、巻き太るコイル5の内周部分で点で接着されるということはなく、コイル5の内周部分から外周部分にかけて、面で接着させることができる。
【0073】
[3.他の実施形態]
本発明は、第1の実施形態に限定されるものではなく、下記に示す他の実施形態も包含する。また、本発明は、第1の実施形態及び下記の他の実施形態を全て又はいずれかを組み合わせた形態も包含する。さらに、これらの実施形態を発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができ、その変形も本発明に含まれる。
【0074】
(1)第1の実施形態では、電線の形状は八角形としたが、これに限定されない。例えば、図9(a)に示すように、平角線の端部を矩形状に削減するようにして肉厚一定の肉薄部54を構成しても良いし、図9(b)、(c)に示すように、曲線的に肉薄部54を構成しても良い。さらに、図9(d)に示すように、コイル5の内周側となる部分にのみ、肉薄部54を設けるようにしても良い。また、図9(e)に示すように、電線の一方の面を削減するなどして肉薄部54を設けるようにしても良い。
【0075】
(2)第1及び第2の実施形態では、自己融着層50bを電線同士の接着部としたが、電線を線材とその周囲に設けられたエナメル等の絶縁被覆とから構成し、電線同士を接着剤によって接着して接着部を構成しても良い。その場合、第2の実施形態としては、コイル5の外側程、接着材を塗布する。接着剤としては、常温硬化型、湿気硬化型、紫外線硬化型など種々の接着剤を用いることができる。また、接着材は、1液であっても2液混合型であっても良い。
【符号の説明】
【0076】
10 環状コア
11、12 ブロック状コア
13 I字型コア
14 スペーサ
20 樹脂部材
21 樹脂体
21a、21b 直線部
21c 連結部
211 端子被覆部
22 樹脂体
22a、22b 直線部
22c 連結部
221 端子被覆部
23 係止部
24 スペーサ
31 固定部
32 カラー
33 支持アーム
40 凹部
5 コイル
50a 線材
50b 自己融着層
51a、51b コイル
51c 連結線
52a、52b 端部
53 ストレート部
54 肉薄部
9 温度センサ
9a 温度検出部
9b リード線
C 中心線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10