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  • 特許-ゴム押出し装置及びゴム押出し方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】ゴム押出し装置及びゴム押出し方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/30 20190101AFI20221207BHJP
   B29C 48/18 20190101ALI20221207BHJP
   B29C 48/76 20190101ALI20221207BHJP
   B29D 30/52 20060101ALN20221207BHJP
【FI】
B29C48/30
B29C48/18
B29C48/76
B29D30/52
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017021479
(22)【出願日】2017-02-08
(65)【公開番号】P2018126934
(43)【公開日】2018-08-16
【審査請求日】2019-12-20
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】本田 慎一郎
【合議体】
【審判長】大島 祥吾
【審判官】三上 晶子
【審判官】加藤 友也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-349597(JP,A)
【文献】特開平09-239807(JP,A)
【文献】特開2002-225110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のゴム押出し機から押し出されるゴムにより、断面が複数のゴム領域に区分されるゴム成形体を押出し成形するゴム押出し装置であって、
前記複数のゴム押出し機と、前記複数のゴム押出し機の前端部が取り付く押出しヘッドと、前記押出しヘッドに接続される減圧手段とを具え、
前記押出しヘッドは、各前記ゴム押出し機からのゴムを合流させて予成形する一つのプリフォーマを有し、
かつ前記プリフォーマは、
各前記ゴム押出し機からのゴムが個別に通る個別流路部を含む複数のゴム流路部と、
前記ゴム流路部同士が交わって合流する複数の合流位置と、
前記複数の合流位置のそれぞれに一端部が通じかつ他端側が前記減圧手段に接続される複数のベント流路とを具え
前記複数のベント流路のそれぞれの前記一端部は、前記一つのプリフォーマの内部に配されているゴム押出し装置。
【請求項2】
前記ベント流路は、流路壁面間の幅が0.03mm以下のスリット状をなす請求項1記載のゴム押出し装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のゴム押出し装置を用いて、断面が複数のゴム領域に区分されるゴム成形体を押出し成形するゴム押出し方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム領域間に気泡が生じるのを抑制しながらゴム成形体を押出し成形するゴム押出し装置及びゴム押出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばトレッドゴムなどのタイヤのゴム部材は、通常、タイヤ性能を向上させるために、断面が複数のゴム領域に区分されたゴム成形体によって形成されている。図7(A)には、トレッドゴムが、例えば耐摩耗性に優れるゴムGaからなる半径方向外側のゴム領域Ya(所謂キャップゴム層)と、例えば高弾性のゴムGbからなる半径方向内側のゴム領域Yb(所謂ベースゴム層)とからなるゴム成形体K1によって形成される場合が示される。また図7(B)には、タイヤ軸方向両外側に、例えば接着強度に優れるゴムGcからなるゴム領域Yc、Yd(所謂ウィングゴム部)がさらに配されたゴム成形体K2によって形成される場合が示される。
【0003】
このようなゴム成形体K1、K2の成形には、複数のゴム押出し機を押出しヘッドに取り付けたゴム押出し装置が用いられる(例えば特許文献1、2参照。)。
【0004】
他方、ゴム押出し装置によってゴム成形体を形成する場合、ゴム内に空気などの気体成分が残留して気泡が発生する可能性がある。
【0005】
なお、下記の特許文献3には、シリンダに、脱気手段を接続したゴム押出し機が提案されている。この提案のゴム押出し機を、前記ゴム押出し装置に採用した場合、各ゴム押出し機が、ゴム中の空気やガスを予め除去する。そのため、ゴム成形体におけるゴム領域内での気泡の発生を抑制することは可能である。
【0006】
しかし、押出しヘッドのプリフォーマでは、各ゴム押出し機からのゴムが合流する界面において、空気を巻き込む傾向がある。そのため、上記提案のゴム押出し機を用いたとしても、ゴム領域間の界面において、気泡の発生を抑制することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-86540号公報
【文献】特開2005-349597号公報
【文献】特許第4863392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、断面が複数のゴム領域に区分されるゴム成形体を押出し成形する際、ゴム領域間に気泡が発生するのを抑制しうるゴム押出し装置及びゴム押出し方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願第1の発明は、複数のゴム押出し機から押し出されるゴムにより、断面が複数のゴム領域に区分されるゴム成形体を押出し成形するゴム押出し装置であって、
前記複数のゴム押出し機と、前記複数のゴム押出し機の前端部が取り付く押出しヘッドと、前記押出しヘッドに接続される減圧手段とを具え、
前記押出しヘッドは、各前記ゴム押出し機からのゴムを合流させて予成形するプリフォーマを有し、
かつ前記プリフォーマは、
各前記ゴム押出し機からのゴムが個別に通る個別流路部を含む複数のゴム流路部と、
前記ゴム流路部同士が交わって合流する少なくとも1つの合流位置と、
少なくとも1つの前記合流位置に一端部が通じかつ他端側が前記減圧手段に接続される少なくとも1つのベン卜流路とを具える。
【0010】
本発明に係る前記ゴム押出し装置では、前記ベント流路は、流路壁面間の幅が0.03mm以下のスリット状をなすことが好ましい。
【0011】
本願第2の発明は、第1の発明のゴム押出し装置を用いて、断面が複数のゴム領域に区分されるゴム成形体を押出し成形する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は叙上の如く、プリフォーマに、ゴム流路部同士が交わって合流する少なくとも1つの合流位置に一端部が通じ、かつ他端側が減圧手段に接続されるベント流路を設けている。従って、ゴム押出し機からのゴムが合流する位置で、空気を排気でき、空気の巻き込みを抑えて、ゴム領域間での気泡の発生を抑制しうる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のゴム押出し装置の一実施例を示す部分断面図である。
図2】押出しヘッドを示す断面図である。
図3図2のゴム流路部のみを概念的に示す斜視図である。
図4】プリフォーマの一部を示す斜視図である。
図5】プリフォーマのゴム流路部の他の例を示す部分断面図である。
図6図5のゴム流路部のみを概念的に示す斜視図である。
図7】(A)、(B)は、ゴム成形体を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態のゴム押出し装置1は、複数のゴム押出し機2と、各ゴム押出し機2の前端部が取り付く押出しヘッド3と、押出しヘッド3に接続される減圧手段4とを具える。
【0015】
ゴム押出し装置1は、各ゴム押出し機2から押し出されるゴムGにより、断面が複数のゴム領域Yに区分されるゴム成形体Kを押出し成形する。本例では、ゴム押出し装置1により、図7(A)に示すトレッドゴム用のゴム成形体K1が押出し成形される場合が示される。このゴム成形体K1は、ゴムGaからなる半径方向外側のゴム領域Ya(所謂キャップゴム層)と、ゴムGbからなる半径方向内側のゴム領域Yb(所謂ベースゴム層)とから構成される。即ち本例では、2つのゴム押出し機2(区別する場合はゴム押出し機2a、2bという。)からそれぞれ押し出されるゴムGa、Gbにより、断面が2つのゴム領域Ya、Ybに区分されるゴム成形体K1が形成される。
【0016】
ゴム押出し機2は、本例ではベン卜式のゴム押出し機であって、シリンダー10にベント孔11を設け、例えば真空ポンプである減圧手段12によって、ゴムGから気体成分(空気を含む)を脱気する。
【0017】
具体的には、前記ゴム押出し機2は、押出し方向の後端側にホッパ10Aを設けたシリンダー10と、シリンダー10内に同心に収納されるスクリュー軸13と、スクリュー軸13を回転駆動する駆動部14と、前記減圧手段12とを具える。前記スクリュー軸13は、前記ホッパ10Aよりも押出し方向の前方側(下流側)に、堰13Aを具える。
【0018】
シリンダー10には、前記堰13Aよりも押出し方向の前方側(下流側)に、ベント孔11が設けられ、これによりスクリュー軸13とシリンダー10との間に、ベント孔11に通じるベント領域Rが形成される。なおベント孔11には、前記減圧手段12が接続される。シリンダー10内で混錬されるゴムGは、堰13Aを乗り越えるときに薄肉化し、かつ堰13Aの通過直後に減圧されることで、ゴム中に混在する気体成分が脱気される。本例では、脱気効果をより高めるために、堰13Aの外周面に、堰13Aを乗り越えるゴムの表面積を増やすための複数の条溝が軸心方向に形成される。
【0019】
押出しヘッド3は、各ゴム押出し機2の先端部が取り付く一つのヘッド本体5と、ヘッド本体5に取り付くプリフォーマ6と、プリフォーマ6に取り付くダイプレート7とを具える。
【0020】
図2に示すように、ヘッド本体5には、ゴム押出し機2aからのゴムGaをプリフォーマ6まで案内するヘッド流路15と、ゴム押出し機2bからのゴムGbをプリフォーマ6まで案内するヘッド流路16とが形成される。本例のヘッド本体5は、下開放の凹部8を具え、この凹部8内にプリフォーマ6が取り付く。なお前記ヘッド流路15、16は、本例では、凹部8の両側面で開口している。
【0021】
プリフォーマ6は、前記凹部8内に取り付く例えばブロック状をなし、ゴムGa、Gbを合流させて予成形する。
【0022】
具体的には、図2、3に示すように、プリフォーマ6は、複数のゴム流路部20と、少なくとも1つの合流位置Pと、少なくとも1つの合流位置Pに通じる少なくとも1つのベント流路21とを具える。
【0023】
前記ゴム流路部20は、各ゴム押出し機2からのゴムGが個別に通る個別流路部22と、全てのゴムGが一つに合流して通る最終の合流流路部23とを少なくとも含む。なお後述するように、ゴム押出し機2の設置台数に応じて、例えば図5に示すように、個別流路部22と最終の合流流路部23との間に、中間の合流流路部24を配することができる。
【0024】
本例の場合、図2、3に示すように、ゴム流路部20は、ゴム押出し機2a、2b2からのゴムGa、Gbが個別に通る個別流路部22a、22bと、前記ゴムGa、Gbが一つに合流して通る最終の合流流路部23とから構成される。
【0025】
又合流位置Pは、ゴム流路部20同士が交わって合流する位置である。本例の場合、プリフォーマ6は、個別流路部22a(ゴム流路部20)と個別流路部22b(ゴム流路部20)とが交わる1つの合流位置Pを具える。なおプリフォーマ6は、ゴム押出し機2の設置台数に応じて、例えば図5に示すように、複数(例えば3つ)の合流位置Pを具えることができる。
【0026】
又ベント流路21は、少なくとも1つ(本例では一つ)の合流位置Pに一端部が通じ、かつ他端側が減圧手段4に接続される。図5に示すように、複数(例えば3つ)の合流位置Pを具える場合、それぞれの合流位置Pに一端部が通じる複数のベント流路21を形成することができる。
【0027】
図3に示すように、ベント流路21は、ゴム流路部20同士が交わる交差縁Eに沿ってのびるスリット状をなすのが好ましい。このようなスリット状のベント流路21は、合流位置Pで空気を排出し、ゴムGが合流するときの空気の巻き込みを、略全長に亘って抑制しうる。そのために、スリット長さLは、交差縁Eの長さL0の60%以上、さらには80%以上が好ましい。
【0028】
ここで、減圧手段4によりベント流路21から空気を吸引する場合、吸引圧によりゴム流路部20側からゴムGが吸い上がり、ベント流路21が目詰まりを起こし易くなる。そのため、ベント流路21の流路壁面間の幅(スリット幅)Wは0.03mm以下であるのが好ましい。幅(スリット幅)Wが0.05mmを超えると、吸引圧により、ベント流路21内にゴムGが浸入し易くなる。
【0029】
減圧手段4として、例えば真空ポンプを挙げることができる。減圧手段4による吸引圧p1(ゲージ圧)としては、-20kPa以下、さらには-40kPa以下が好ましい。又ゴム流路部20内の内圧p2(ゲージ圧)としては、特に+20kPa以上、さらには+40kPa以上が好ましい。
【0030】
図4に示すように、プリフォーマ6は、例えば前記交差縁Eに沿って2分割された分割片6A、6Bによって形成するのが好ましい。これにより、分割面Sに、スリット状のベント流路21を、容易にかつ精度良く形成することができる。
【0031】
次に、図5、6にプリフォーマ6の他の実施例を示す。この例では、押出しヘッド3に4つのゴム押出し機2が取り付き、各ゴム押出し機2から押し出されるゴムGa~Gcにより、前記図7(B)に示すゴム成形体K2が形成される。
【0032】
この例では、ゴム流路部20は、ゴムGaが個別に通る個別流路部22a、ゴムGbが個別に通る個別流路部22b、前記個別流路部22a、22bが合流する第1の中間の合流流路24A、この第1の中間の合流流路24AとゴムGcが個別に通る個別流路部22cとが合流する第2の中間の合流流路24B、及び第2の中間の合流流路24BとゴムGcが個別に通る個別流路部22cとが合流する最終の合流流路部23から構成される。
【0033】
これにより、個別流路部22aと個別流路部22bとの合流位置P、第1の中間の合流流路24Aと個別流路部22cとの合流位置P、及び第2の中間の合流流路24Bと個別流路部22cとの合流位置Pとが形成される。そして本例では、それぞれの合流位置Pに一端部が通じる3つのベント流路21が形成される。本例では、例えば3つのベント流路21の他端側に、それぞれ別の減圧手段4が接続され場合が示される。しかし3つのベント流路21の他端側に、共通の一つの減圧手段4を接続させることもできる。
【0034】
本例では、押出しヘッド3の両側にゴム押出し機2を対向させた対向型のゴム押出し装置1を例に説明した。しかし本願の技術的範囲には、対向型のゴム押出し装置だけでなく、ピッカーバッグ型など、他のタイプのゴム押出し装置も含まれる。
【0035】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例
【0036】
本発明の効果を確認するため、図1~4に示す構造を有するゴム押出し装置を用い、図7(A)に示すトレッドゴム用のゴム成形体を押出し成形した。実施例では、減圧手段による吸引圧p1(ゲージ圧)は、-20kPaである。比較例では、減圧しておらず、吸引圧p1(ゲージ圧)は0kPaである。そして、ゴム領域Ya、Yb間の界面における気泡の発生状況を検査した。又ゴム成形体K1を用いた空気入りタイヤを形成し、トレッドゴムの耐久性をテストした。
【0037】
(1)気泡の発生状況:
ゴム成形体を厚さ方向に切断し、切断面におけるゴム領域Ya、Yb間の界面部を走査型電子顕微鏡で観察(1000倍から3000倍の観察視野)した。界面を含む位置に発生した気泡(空隙)のうちで、体積4.19μm以上の大きさの気泡(空隙)の数をカウントした。
【0038】
(2)耐久性:
空気入りタイヤを、6kNの荷重条件下で、速度230km/hにてドラム走行させた。そして、トレッドゴムに損傷が生じるまでの走行時間を測定した。
【0039】
【表1】
【0040】
表に示されるように、実施例では、ゴム領域間の界面において気泡(空隙)の発生が抑制され、トレッドゴムの耐久性が向上されたのが確認できる。
【符号の説明】
【0041】
1 ゴム押出し装置
2 ゴム押出し機
3 押出しヘッド
4 減圧手段
6 プリフォーマ
20 ゴム流路部
21 ベン卜流路
22 個別流路部
G ゴム
K ゴム成形体
P 合流位置
Y ゴム領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7