(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】ストレッチ性布帛の製造方法
(51)【国際特許分類】
D04B 1/20 20060101AFI20221207BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20221207BHJP
D04B 21/18 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
D04B1/20
D01F8/14 B
D04B21/18
(21)【出願番号】P 2018049942
(22)【出願日】2018-03-16
【審査請求日】2020-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松永 雅宏
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2007-0056259(KR,A)
【文献】特開2016-191171(JP,A)
【文献】特開2007-191805(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190202(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F8/00-8/18
D03D1/00-27/18
D04B1/00-1/28
21/00-21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収縮性の異なる2種のポリエステル系樹脂がサイドバイサイド型に貼り合されている立体捲縮糸を
用いてなる、伸長率が3~60%および引張強度が150N以上であるストレッチ性布帛
の製造方法において、下記(a)、(b)、(c)の値を同時に満足する複合繊維を80重量%以下の混率で用いて編物を製編した後、熱処理することにより、前記複合繊維を熱収縮させて前記立体捲縮糸とする工程を含むことを特徴とするストレッチ性布帛
の製造方法。
(a) 3.0(%)≦A1≦20.0(%)
(b) 100(mg/dtex)≦A2≦200(mg/dtex)
(c) 2.8(cN/dtex)≦原糸強度≦4.2(cN/dtex)
(1)潜在捲縮率(A1)は、下式(I)により計算した値である。
A1=A3-A4-A5 ・・・(I)
(2)熱応力(A2)
(3)荷重下収縮率(A3)
500mmの糸を往復させてカセ巻を作成し、荷重1(デシテックス×0.9×0.1g)を吊り下げて試料長を測定した(L0)。同様に500mmの糸を往復させてカセ巻を作成し、荷重2(デシテックス×0.9×1.2mg)を吊り下げて15分間、98℃の熱水中に浸漬させ、風乾させた後の試料長(L1)を測定し、荷重下収縮率(A3)=(L0-L1)×100/L0を算出した。
(4)顕在捲縮率(A4)
500mmの糸を往復させてカセ巻を作成し、荷重1を吊り下げて試料長を測定した(L0)。同様に500mmの糸を往復させてカセ巻を作成し、荷重2を吊り下げたまま30分後の試料長(L2)を測定した。これらL0とL1の値から顕在捲縮率(A4)=(L0 -L2)×100/L0を算出した。
(5)直線収縮率(A5)
荷重下収縮率(A3)の測定に用いたサンプルに荷重3(デシテックス×0.9×0.35g)の荷重を追加し30秒後の試料長(L3)を測定し、直線収縮率(A5)=(L0-L3)×100/L0を算出した。
【請求項2】
前記立体捲縮糸の収縮性の大なるポリエステル系樹脂が、2,2ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン及び/又はイソフタル酸を第三成分とする共重合ポリエステル系樹脂であり、収縮性の小なるポリエステル系樹脂がポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1記載のストレッチ性布帛
の製造方法。
【請求項3】
前記ストレッチ性布帛
の編組織がトリコット、ラッセル、天竺またはダブルジャージからなることを特徴とする請求項1又は2記載のストレッチ性布帛
の製造方法。
【請求項4】
車両用内装材用の請求項1~3記載いずれか1項に記載
のストレッチ性布帛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレッチ性を有する布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルは、優れた機械的特性と化学的特性を有しており、様々な分野において使用されている。特にストレッチ機能を有する織編物を得るためには仮撚加工糸が性能および品質面で優れているため、幅広く様々な分野で使用されている。
【0003】
また、仮撚加工糸を用いるには、仮撚加工工程及びそのコストが必要であることからストレッチ織編物を得るための別の手法としては、熱収縮特性の異なる2種類のポリエステルがサイドバイサイド型に接合された潜在捲縮性を有する繊維を用い、この複合繊維で構成された生地に染色加工などで熱量を付与することにより、この複合繊維に捲縮性を発現させることがよく知られている(特許文献1、2参照)。
【0004】
このような、潜在捲縮性を有する複合繊維は、布帛化後の熱処理により捲縮が発現して嵩高になり膨らみ感やソフトな風合いの生地が得られる。この潜在捲縮性を有する複合繊維は、単独で使用することもできるが他の様々な繊維とともに用いることで、組み合わせる繊維の特性を活かしつつストレッチ性を付与することが可能となるため、広く使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4357198号公報
【文献】特許第4699072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような潜在捲縮性を有する複合繊維を織編物にして染色加工を行ったとき、仮撚加工糸を使用した場合と比較して熱量を与えたときに発生する生地の収縮性が大きいため、生地の幅が著しく狭くなり、この生地を目標とする生地幅まで伸ばすことが容易にできなくなり、また無理に引き伸ばすと捲縮が伸びてしまい、ストレッチ性が悪くなるという問題があった。
【0007】
このような問題を解決する方法として織編物を作る段階で生地の幅を広く設計することが考えられる。しかしながら生地の幅を広くできるような織機または編機は特殊であるため、専用の機械が必要となり、新たな設備を購入しなければならない。また、これに対応する設備を新規に設置したとしても汎用性がないため実際にこのような機械を導入するのは難しい。また、生地が期待する以上に収縮するという懸念もある。
【0008】
また別の方法として、生地の収縮性を抑える目的で染色する前にあらかじめ織編物をヒートセットする方法もあるが、この場合、サイドバイサイド型ポリエステル立体捲縮糸の捲縮性が発現しにくくなり、仮撚加工糸のような嵩高で柔らかく、ストレッチ性のある生地を得ることができない。
【0009】
本発明の目的は、上記のような問題点を解決し、高いストレッチ性および優れた捲縮性と膨らみ感と強度を有するストレッチ性布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、収縮性の異なる2種のポリエステル系樹脂がサイドバイサイド型に貼り合されている立体捲縮糸を用いてなる、伸長率が3~60%および引張強度が150N以上であるストレッチ性布帛の製造方法において、下記(a)、(b)、(c)の値を同時に満足する複合繊維を80重量%以下の混率で用いて編物を製編した後、熱処理することにより、前記複合繊維を熱収縮させて前記立体捲縮糸とする工程を含むことを特徴とするストレッチ性布帛の製造方法。によって達成される。
(a) 3.0(%)≦A1≦20.0(%)
(b) 100(mg/dtex)≦A2≦200(mg/dtex)
(c) 2.8(cN/dtex)≦原糸強度≦4.2(cN/dtex)
(1)潜在捲縮率(A1)は、下式(I)により計算した値である。
A1=A3-A4-A5 ・・・(I)
(2)熱応力(A2)
(3)荷重下収縮率(A3)
500mmの糸を往復させてカセ巻を作成し、荷重1(デシテックス×0.9×0.1g)を吊り下げて試料長を測定した(L0)。同様に500mmの糸を往復させてカセ巻を作成し、荷重2(デシテックス×0.9×1.2mg)を吊り下げて15分間、98℃の熱水中に浸漬させ、風乾させた後の試料長(L1)を測定し、荷重下収縮率(A3)=(L0-L1)×100/L0を算出した。
(4)顕在捲縮率(A4)
500mmの糸を往復させてカセ巻を作成し、荷重1を吊り下げて試料長を測定した(L0)。同様に500mmの糸を往復させてカセ巻を作成し、荷重2を吊り下げたまま30分後の試料長(L2)を測定した。これらL0とL1の値から顕在捲縮率(A4)=(L0 -L2)×100/L0を算出した。
(5)直線収縮率(A5)
荷重下収縮率(A3)の測定に用いたサンプルに荷重3(デシテックス×0.9×0.35g)の荷重を追加し30秒後の試料長(L3)を測定し、直線収縮率(A5)=(L0-L3)×100/L0を算出した。
【0011】
また、前記立体捲縮糸は、収縮性の大なるポリエステル系樹脂が、2,2ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン及び/又はイソフタル酸を第三成分とする共重合ポリエステル系樹脂であり、収縮性の小なるポリエステル系樹脂がポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
【0012】
また、前記ストレッチ性布帛の編組織が、トリコット、ラッセル、天竺またはダブルジャージからなることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のストレッチ性布帛は、収縮性の異なる2種類のポリエステル系樹脂がサイドバイサイド型に貼り合されている立体捲縮糸を一定の混率で含有するものであり、優れたストレッチ性と膨らみと強度のあるストレッチ性布帛である。
また、本発明により規定した収縮性の異なる2種類のポリエステル系樹脂がサイドバイサイド型に貼り合されている複合繊維を配することにより、熱処理後、ポリエステル系立体捲縮糸を配する生地となり、その熱処理後の生地は、ヒートセット加工性が良好で、よって、ヒートセット加工した後、優れたストレッチ性と膨らみと強度のあるストレッチ性布帛を得ることができる。
また、本発明により、仮撚加工糸の使用量を減らすことができるので、工程削除、コスト削減が可能となる。また、上記熱処理は、生地製造における通常工程である染色工程等であり、よって、本発明は、新たな工程を追加することなく、ストレッチ性布帛を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、「布帛」は、熱処理前の生地を、「ストレッチ性布帛」は、熱処理後ヒートセットしたストレッチ性のある生地をいう。
【0016】
本発明のストレッチ性布帛は、収縮性の異なる2種類のポリエステル系成分がサイドバイサイド型に貼り合されている立体捲縮糸を含有するストレッチ性布帛であって、この立体捲縮糸の混率が80重量%以下であり、伸長率が3~60%および引張強度が150N以上であるものである。
【0017】
本発明においては、収縮性の異なる2種類のポリエステル系成分がサイドバイサイド型に貼り合されている複合繊維(以下、サイドバイサイド型複合繊維と記す)であって、下記(a)、(b)および、(c)の値を同時に満足するサイドバイサイド型複合繊維を使用することが必要である。
(a) 3.0(%)≦A1≦20.0(%)
(b) 100(mg/dtex)≦A2≦200(mg/dtex)
(c) 2.8(cN/dtex)≦原糸強度≦4.2(cN/dtex)
(1)潜在捲縮率(A1)は、下式(I)により計算した値である。
A1=A3-A4-A5 ・・・(I)
(2)熱応力(A2)
(3)荷重下収縮率(A3)
500mmの糸を往復させてカセ巻を作成し、荷重1(デシテックス×0.9×0.1g)を吊り下げて試料長を測定した(L0)。同様に500mmの糸を往復させてカセ巻を作成し、荷重2(デシテックス×0.9×1.2mg)を吊り下げて15分間、98℃の熱水中に浸漬させ、風乾させた後の試料長(L1)を測定し、荷重下収縮率(A3)=(L0-L1)×100/L0を算出した。
(4)顕在捲縮率(A4)
500mmの糸を往復させてカセ巻を作成し、荷重1を吊り下げて試料長を測定した(L0)。同様に500mmの糸を往復させてカセ巻を作成し、荷重2を吊り下げたまま30分後の試料長(L2)を測定した。これらL0とL1の値から顕在捲縮率(A4)=(L0 -L2)×100/L0を算出した。
(5)直線収縮率(A5)
荷重下収縮率(A3)の測定に用いたサンプルに荷重3(デシテックス×0.9×0.35g)の荷重を追加し30秒後の試料長(L3)を測定し、直線収縮率(A5)=(L0-L3)×100/L0を算出した。
【0018】
本発明において、上記潜在捲縮率(A1)は、3.0≦A1≦20.0(%)であることが好適であり、中でも4.0≦A1≦6.0(%)であることがより好ましい。
潜在捲縮率が20.0%を超えるサイドバイサイド型複合繊維を使用した布帛は収縮性が強すぎるため、熱処理した後の生地の幅が著しく狭くなる傾向にあり、また、潜在捲縮率が3.0%未満のサイドバイサイド型複合繊維を使用した布帛はほとんどストレッチ性がないものになる傾向にある。
【0019】
本発明における上記熱応力は100≦熱応力(A2)≦200(mg/dtex)の範囲にあることが好適であり、中でも100≦熱応力≦150(mg/dtex)であることがより望ましい。
熱応力が200mg/dtexを超えるとサイドバイサイド型複合繊維を使用した布帛を染色加工するときに幅が入りすぎるため、シボ立ち欠点や糸切れが発生する傾向にあり、100mg/dtex未満になるとストレッチ性に乏しいものとなる傾向にある。
【0020】
本発明において、上記原糸強度は、2.8(cN/dtex)≦原糸強度≦4.2(cN/dtex)であることが好適である。より好ましくは原糸強度が3.2(cN/dtex)≦原糸強度≦3.8(cN/dtex)である。原糸強度が4.2cN/dtexを超えると原糸の潜在捲縮率が低下してストレッチ性が悪くなる傾向にある。また、原糸強度が2.8cN/dtex未満であると生地強度が低下する傾向にある。
【0021】
本発明に係るサイドバイサイド型複合繊維は、熱収縮特性の小さなポリエステル系樹脂(p)と熱収縮特性の大きなポリエステル系樹脂(q)とをサイドバイサイド型に接合したもので、ポリエステル系樹脂(p)としてフィラメントの沸収値が10%未満(好ましくは5%以下)のものを使用し、ポリエステル系樹脂(q)として、フィラメントの沸収値が10%以上(好ましくは15%以上)のものを使用することが好ましい。
【0022】
熱収縮特性の異なる樹脂の組み合わせとしては、ポリエチレンテレフタレートと高収縮共重合ポリエステルとの組み合わせまたは粘度の異なるポリエチレンテレフタレートの組み合わせ等が挙げられる。
中でも、ポリエチレンテレフタレートと高収縮共重合ポリエステルの組み合わせが好ましい。
【0023】
高収縮共重合ポリエステルとするために共重合する第3成分としては、例えば、ジエチレングリコール、2,2ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、1,4-ブタンジオール等のジオール化合物、アジピン酸、アゼライン酸、イソフタル酸等のカルボン酸化合物等が挙げられる。
中でも、2,2ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン及び/又はイソフタル酸を共重合したポリエステルを用いることが好ましい。この場合、両成分の共重合比率は、2,2ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンはアルコール成分中に2~6mol%、イソフタル酸は酸成分中に4~8mol%とすることが好ましい。
【0024】
すなわち、熱収縮率及び収縮力を十分発揮させる点からは、2,2ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンの含有量は2mol%以上が好ましく、また、ポリマーの耐光性による変色を避ける点では6mol%以下が好ましい。また、イソフタル酸の含有量は、収縮率を十分に満足させる点では4mol%以上が好ましく、ポリマーの融点及び耐熱性を保ちやすいという点では8mol%以下が好ましい。
また、高収縮共重合ポリエステルの主成分はテレフタル酸とエチレングリコールよりなるポリエステルが好ましく、更に、その他の成分として染色性改善のモノマーや耐熱性改良の化合物等を含有していてもよい。
【0025】
上記ポリエステルの製造時あるいは成形加工時に、顔料、艶消し剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制電剤及び有機アミン、有機カルボン酸アミド等のエーテル結合抑制剤等、必要に応じて種々使用しても良い。
【0026】
前記複合繊維のサイドバイサイド型の接合形態は、本発明において求められる捲縮性能が発現するものであればよく、丸断面、繭断面、三角断面、Y断面、U断面、扁平断面等の公知の形状が挙げられる。中でも、ほぼ丸断面形状2つが接合した繭断面が好適である。
また、本発明において、サイドバイサイド型には、その変形接合形態として、偏心芯鞘型を含むものである。
【0027】
前記複合繊維のサイドバイサイド型の各々の成分の比率は、良好な性能を得るためには質量比(高収縮ポリエステル/低収縮ポリエステル)で40/60~60/40の範囲が良く、50/50が最適である。
【0028】
上記のようなサイドバイサイド型複合繊維は、常法により、すなわち、複合紡糸型溶融紡糸機により製造する方法等が挙げられる。その方法は、例えば、2種類のポリエステル系チップをそれぞれ別々のエクストルーダーにて溶融し、紡糸口金にてサイドバイサイド型になるように合流させ、同一紡糸孔から吐出して紡糸するものである。そのとき、紡糸温度はポリエステル系成分の粘度によって適宜、調整するが、通常は280~300℃の範囲が望ましい。紡出された繊維は冷却固化後に紡糸油剤を付与して、1000~4000m/minの速度で巻取り、一旦巻き取った後、別工程で延伸機により延伸するか、あるいはそのまま連続で熱延伸することにより、サイドバイサイド型複合繊維を得ることができる。
【0029】
次に、本発明に係るサイドバイサイド型複合繊維の顕在捲縮率について説明する。顕在捲縮率とは繊維がサイドバイサイド型で収縮率の異なる組み合わせで配していることにより、糸に一定のテンションをかけた場合、収縮のひずみが発生し、3次元のらせん状の捲縮が生まれる。この現象は原糸に一定の熱量を付与する前でも発現する。
【0030】
また、本発明に係るサイドバイサイド型複合繊維は、上記顕在捲縮と潜在捲縮が発現されることにより優れたストレッチバック性を有する布帛を得ることができる。なお、ストレッチバック性とは布帛に一定応力を付与して伸長させて、その応力を解除したときに元にもどる回復力が強いことを言う。
【0031】
また、本発明に係るサイドバイサイド型複合繊維の総繊度は、33~260dtexであることが好ましく、フィラメント数は12~96本であることが好ましい。
その中で、単糸繊度は0.5~4.0dtexであることが好ましく、中でも0.8~3.0dtexとすることがより好ましい。単糸繊度が0.5dtex未満であると、捲縮性能が発現しにくく、十分なストレッチ性能を得ることができない。一方、単糸繊度が4.0dtexを超えると、糸が縮みすぎてソフトな風合いが出にくくなる。
【0032】
次に、本発明に係る布帛の構成は特に限定するものではなく、編組織がトリコット、ラッセル、天竺、またはダブルジャージ等のいずれか、またはそれらの応用組織から様々なものを選ぶことができる。
【0033】
本発明に係るサイドバイサイド型複合繊維の混率はストレッチ性および風合いを考慮して適宜設定すればよいが、布帛の収縮性、強度や風合いの点から80%質量%以下の範囲とすることが必要である。
【0034】
また、サイドバイサイド型複合繊維と組み合わせて使用する糸としては、ポリエステルマルチフィラメントの仮撚加工糸が好適であるが、ポリエステルマルチフィラメントの生糸を用いても良い。
【0035】
本発明に係る布帛は、サイドバイサイド型複合繊維を用い、常法により織編物とすることにより得られる。
この布帛を、常法により、染色加工等の熱処理を行うことで、サイドバイサイド型複合繊維からなる潜在捲縮糸(マルチフィラメント)が熱処理により収縮し、コイル状の形態を有するポリエステル立体捲縮糸となる。
【0036】
本発明に係る布帛の収縮率は3~35%であることが好適である。
収縮率が3%未満であるとストレッチ性が乏しい生地になり、また収縮率が35%を超えるとヒートセット加工時に幅出しが出来にくくなる。
【0037】
上記熱処理後の生地を、常法によりヒートセット加工することにより、本発明のストレッチ性布帛を得ることができる。
本発明に係る熱処理後の生地は、ヒートセット加工が良好で、よって、優れたストレッチ性、ストレッチバック性と、膨らみ、強度があるストレッチ性布帛を得ることができる。
【0038】
得られる本発明のストレッチ性布帛において立体捲縮糸の混率は、80%質量%以下の範囲となっている。
【0039】
本発明のストレッチ性布帛の伸長率は3~60%であることが必要である。
伸長率が3%未満であると一定荷重がかかったときに生地の伸び(ストレッチ性)が悪くなり、伸長率が60%を超えると生地に適度なハリ感がなくなる。
【0040】
本発明のストレッチ性布帛の引張強度は、150N以上あることが必要である。
引張強度が150N未満であると、生地が破れやすくなり使用できない。
【0041】
本発明のストレッチ性布帛の伸長回復率は70~95%であることが好適である。
伸長回復率が70%未満であると一定荷重がかかったときに生地の戻りが悪くなり(ストレッチバック性)、膨らみ感やソフトな風合いが損なわれる傾向にある。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
なお、評価項目に使用した特性値は下記の測定方法による。
【0043】
・「原糸強度」の測定法
JIS L1013に準じて測定した。
【0044】
・「潜在捲縮率」の測定法
潜在捲縮率は、下式により計算した値である。
潜在捲縮率(%)=荷重下収縮率(%)-顕在捲縮率(%)-直線収縮率(%)
【0045】
・「熱応力の測定法」
熱応力測定機(カネボウエンジニアリング(株)製)を用いて熱を付与したときの最大収縮応力(g/デシテックス)を測定した。
【0046】
・「布帛の収縮率」の測定法
JIS L1096 8.39 B法(沸騰水浸漬法)に準じて測定した。
【0047】
・「熱処理後の生地のヒートセット加工性」
生地をヒートセッターに通したときに規程幅で加工できたかどうかを評価した。
〇:生地幅(セット幅)が1200mmで加工できるもの
×:生地幅(セット幅)が1200mmで加工できないもの
【0048】
・「ストレッチ性布帛伸長率(伸び率)」の測定法
JIS L1096 8.16.1 D法(編物の定荷重法)に準じて測定した。
※Ep=(L1-L)/L ×100
※Ep=定荷重時の伸び率(%)、L=元の印間の長さ(mm)、L1=一定荷重を加え1min後の印間の長さ(mm)
・「ストレッチ性布帛伸長回復率(伸長弾性率)」の測定法
※JIS L1096 8.16.2 D法(繰返し伸長法)に準じて測定した。
※Ee=(Ln-Ln´)/Ln ×100
※Ee=定伸長時伸長弾性率(%)、Ln=一定伸び(mm)、Ln´=残留伸び(mm)
【0049】
・「ストレッチ性布帛の引張強度」
JIS L1096 8.14 A法(ストリップ法)に準じて測定した。
○:タテ方向およびヨコ方法の引張強度が150N以上
×:タテ方向およびヨコ方法の引張強度が150Nに満たない
【0050】
・「ストレッチ性布帛の膨らみ感」
JIS L1096 8.16 B-1法(定荷重法)にて初荷重を加えたときの生地厚み(S)と定荷重を加えたときの生地厚み(T)を測定して評価した。
○:生地厚みが1.00mm以上
×:生地厚みが1.00mmに未満
【0051】
[実施例1]
熱収縮性の大きなポリエステル系樹脂(q)として、テレフタル酸を主成分として酸成分に対しイソフタル酸を5モル%、エチレングリコールを主成分としてグリコール成分に対し2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンを5モル%共重合したポリエステル(粘度:0.686)を、熱収縮特性の小さなポリエステル系樹脂を(p)として、ポリエチレンテレフタレート(粘度:0.64)を、50:50の質量比率で複合紡糸装置を用いて、44dtex/12fのサイドバイサイド型複合マルチフィラメント(繭断面)を紡出した。
得られたサイドバイサイド型複合マルチフィラメントと220dtex/72fのポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸(セミダル:チタン分0.4重量%)とを20ゲージの丸編機を用いて編立を行い、布帛(丸編物生地)を得た。なお、丸編組織はモックロディ(ダブルジャージ)であり、表糸およびつなぎ糸には220dtex/72fのポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸(セミダル:チタン分0.4重量%)、裏糸には44dtex/12fのサイドバイサイド型複合マルチフィラメントを用いた。
(サイドバイサイド型複合マルチフィラメントの混率=9重量%)
得られた丸編物生地を用い、常法に従って染色加工を行い、次に、ヒートセット加工を行い、本発明のストレッチ性布帛を得た。
【0052】
[実施例2]
丸編組織の表糸には330dtex/96fのポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸(セミダル:チタン分0.4重量%)、つなぎ糸には84dtex/24fのサイドバイサイド型複合マルチフィラメント、裏糸には44dtex/12fのサイドバイサイド型複合マルチフィラメントを用いた以外は実施例1と同様にした。
(サイドバイサイド型複合マルチフィラメントの混率=28重量%)
【0053】
[実施例3]
丸編組織の表糸には167dtex/48fのポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸(セミダル:チタン分0.4重量%)、つなぎ糸には220dtex/48fのサイドバイサイド型複合マルチフィラメント、裏糸には130dtex/24fのサイドバイサイド型複合マルチフィラメントを用いた以外は実施例1と同様にした。
(サイドバイサイド型複合マルチフィラメントの混率=68重量%)
【0054】
[比較例1]
丸編組織の表糸には84dtex/36f仮撚加工糸(セミダル:チタン分0.4重量%)、つなぎ糸および裏糸には220dtex/48fのサイドバイサイド型複合マルチフィラメントを用いた以外は実施例1と同様にした。
(サイドバイサイド型複合マルチフィラメントの混率=84重量%)
【0055】
[比較例2]
熱収縮特性の小さなポリエステル系樹脂(p)を、低粘度ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)(粘度:0.47)へ変更した以外は実施例3と同様にした。
【0056】
[比較例3]
熱収縮特性の大きなポリエステル系樹脂(q)を、高粘度ポリエステル(粘度:0.700)に変更した以外は比較例2と同様にした。
【0057】
得られたサイドバイサイド型複合マルチフィラメントの潜在捲縮率、熱応力、原糸強度、また、布帛およびストレッチ性布帛の評価結果を表1に併せて示す。
【0058】
【0059】
<結果>
[実施例1~3]
実施例1の丸編物生地は、共重合ポリエステルと低収縮ポリエステルとのポリマー構成のサイドバイサイド型複合マルチフィラメントの潜在捲縮率=6%、熱応力=110cN/dtex、原糸強度=4.0cN/dtexで、前記サイドバイサイド複合マルチフィラメントの丸編物生地中の混率が9質量%であり、染色加工時の生地収縮率が制限されて、その後工程のセット加工性および生地膨らみ感が良好であり、ストレッチ性とストレッチバック性に優れたストレッチ性布帛であった。
実施例2と実施例3の丸編物生地も同様に、染色時の生地収縮率が制限されてその後の工程のセット加工性および生地膨らみ感が良好であり、ストレッチ性とストレッチバック性に優れたストレッチ性布帛であった。
【0060】
[比較例1]
サイドバイサイド型複合マルチフィラメントの布帛中の混率が84質量%のとき染色加工時の生地収縮率が大きくなり、その後工程のセット加工時に幅出しが出来にくく、無理して引っ張ればセット加工できたもののセット後の生地は膨らみ感がなく、またストレッチ性に乏しいものとなった。
【0061】
[比較例2]
セット後の生地は、ストレッチ性、膨らみはあったが、目標とする生地強度にならなかった。
【0062】
[比較例3]
染色加工時の生地収縮率が大きく、その後工程のセット加工時に幅出しが出来にくくなり、無理して引っ張ればセット加工できたものの、セット後の生地は、目標とする生地強度にならなかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のストレッチ性布帛は、インテリアおよび車両用内装材や医療向けの支持体として好適である。