(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】レーザ加工機およびその電源装置
(51)【国際特許分類】
H01S 3/00 20060101AFI20221207BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20221207BHJP
H01S 3/097 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
H01S3/00 G
B23K26/00 N
H01S3/097 A
H01S3/00 B
(21)【出願番号】P 2018081677
(22)【出願日】2018-04-20
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】山口 英正
(72)【発明者】
【氏名】原 章文
(72)【発明者】
【氏名】塚原 大地
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-236846(JP,A)
【文献】特開2013-239572(JP,A)
【文献】特開2018-041938(JP,A)
【文献】特開2008-066321(JP,A)
【文献】特開2005-191264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00-3/30
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状のタイミング信号を発生する加工機制御装置と、
レーザ発振器と、
前記レーザ発振器にバースト状の高周波電圧を供給する電源装置と、
前記レーザ発振器から出力されるパルスレーザを検出し、パルス状の第1検出信号を生成する光検出素子と、
前記タイミング信号に応じて、前記電源装置に励振信号を与えて前記高周波電圧を発生させるとともに、前記第1検出信号を平滑化して第2検出信号を生成し、前記第2検出信号にもとづいて前記電源装置の状態を調節する制御装置と、
を備え、
前記タイミング信号のデューティ比は可変であり、
前記制御装置は、前記パルスレーザの発光時間と繰り返し周期の割合であるデューティ比を検出するデューティ比検出器をさらに備え、前記デューティ比に応じて、前記第2検出信号またはその目標値をスケーリングし、
前記デューティ比検出器は、
前記第1検出信号を二値化して第3検出信号を生成し、前記第3検出信号を平滑化して前記デューティ比を示す第4検出信号を生成することを特徴とするレーザ加工機。
【請求項2】
前記制御装置は、前記高周波電圧の振幅を調節することを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工機。
【請求項3】
前記制御装置は、前記高周波電圧の発生時間を調節することを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工機。
【請求項4】
パルス状のタイミング信号にもとづきレーザ発振器を駆動する電源装置であって、
直流電圧を生成する直流電源と、
前記直流電圧を高周波電圧に変換し、前記タイミング信号に応じてバースト状の前記高周波電圧を前記レーザ発振器に供給する高周波電源と、
前記レーザ発振器から出力されるパルスレーザを検出し、パルス状の第1検出信号を生成する光検出素子と、
前記第1検出信号を平滑化して第2検出信号を生成し、前記第2検出信号にもとづいて前記直流電源の前記直流電圧、および前記高周波電源の動作時間の少なくとも一方を調節するレーザ制御装置と、
を備え、
前記タイミング信号のパルス幅および/または周波数は可変であり、
前記レーザ制御装置は、前記パルスレーザの発光時間と繰り返し周期の割合であるデューティ比を検出するデューティ比検出器をさらに備え、前記デューティ比に応じて、前記第2検出信号またはその目標値をスケーリングし、
前記デューティ比検出器は、前記第1検出信号を二値化して第3検出信号を生成し、前記第3検出信号を平滑化して前記デューティ比を示す第4検出信号を生成することを特徴とする電源装置。
【請求項5】
パルス状のタイミング信号を発生する加工機制御装置と、
レーザ発振器と、
前記レーザ発振器にバースト状の高周波電圧を供給する電源装置と、
前記レーザ発振器から出力されるパルスレーザを検出し、パルス状の第1検出信号を生成する光検出素子と、
前記タイミング信号に応じて、前記電源装置に励振信号を与えて前記高周波電圧を発生させるとともに、前記第1検出信号を平滑化して第2検出信号を生成し、前記第2検出信号にもとづいて前記電源装置の状態を調節する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記第1検出信号を入力として前記第2検出信号を出力する、アナログ回路で構成された平滑化回路を含み、前記平滑化回路の時定数は、前記第1検出信号の
周期の5倍~50倍であることを特徴とするレーザ加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用の加工ツールとして、レーザ加工機が広く普及している。
図1は、レーザ加工機1rのブロック図である。レーザ加工機1rは、CO
2レーザなどのレーザ発振器2と、レーザ発振器2に交流電力を供給し、励振させるレーザ駆動装置4rを備える。レーザ駆動装置4rは、直流電源6および高周波電源8を備える。直流電源6は直流電圧V
DCを生成する。高周波電源8は、直流電圧V
DCを受け、それを高周波電圧V
RFに変換して、負荷であるレーザ発振器2に供給する。
【0003】
ドリル用のレーザ加工機1rにおいて、レーザ発振器2は不連続運転する。すなわち、比較的短い数マイクロ~10マイクロ秒程度の発光期間と、それと同程度、あるいは長い(あるいは短い)休止期間とが交互に繰り返され、したがってレーザ発振器2からは、パルスレーザLpが出射される。
【0004】
パルスレーザLpの強度は、高周波電圧VRFの振幅に応じて制御可能であるが、現実的には、環境温度やレーザガスの劣化等の影響を受けて変動する。つまり同じ振幅の高周波電圧VRFを与えたとしても、得られるパルスレーザLpの強度は、時々刻々と変化する。パルスレーザの強度の変動は、加工精度の低下をもたらす。そこでパルスレーザLpの強度を安定化させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-59932号公報
【文献】特開2015-223591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図2は、パルスレーザLpの強度の波形の一例を示す図である。パルスレーザLpの波形は、発光期間Teの間、必ずしも均一ではなく、典型的には発光直後に急激に上昇し、発光停止時には緩やかに減衰する。本明細書において、パルスレーザLpの発光期間Te中における平均強度(パルス幅内平均出力)を、実効強度I
effと称する。実効強度I
effは、パルスあたりのエネルギーを発光時間Teで除した値と把握してもよい。
【0007】
特許文献2には、パルスレーザLpの強度を検出し、その検出値の積分値と出力目標値の積分値との偏差が小さくなるように、パルスレーザの強度の指令値をフィードバック制御する技術が開示される。
【0008】
特許文献2の技術では、複数のパルスレーザを包含するある程度長い積分期間(たとえば1秒)において、レーザのエネルギーの総和を目標値に近づけることができる。言い換えれば、個々のパルスレーザの実効強度Ieffが目標値に保たれていることを保証するものではない。
【0009】
本発明は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、レーザパルスビームの強度あるいはエネルギーをより正確に制御可能なレーザ加工機およびその電源装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある態様は、レーザ加工機に関する。レーザ加工機は、パルス状のタイミング信号を発生する加工機制御装置と、レーザ発振器と、レーザ発振器にバースト状の高周波電圧を供給する電源装置と、レーザ発振器から出力されるパルスレーザを検出し、パルス状の第1検出信号を生成する光検出素子と、タイミング信号に応じて、電源装置に励振信号を与えて高周波電圧を発生させるとともに、第1検出信号を平滑化して第2検出信号を生成し、第2検出信号にもとづいて電源装置の状態を調節するレーザ制御装置と、を備える。
【0011】
この態様によれば、パルスレーザの1ショットごとの実効強度あるいはエネルギーを正確に制御できる。
【0012】
レーザ制御装置は、高周波電圧の振幅を調節してもよい。これにより、パルスレーザの強度を調節できる。
【0013】
それに代えて、あるいはそれに加えて、レーザ制御装置は、高周波電圧の発生時間を調節してもよい。これにより、1ショットあたりのパルスレーザのエネルギーを調節できる。
【0014】
タイミング信号のパルス幅および/または周波数は可変であり、第1検出信号を二値化して第3検出信号を生成し、第3検出信号を平滑化して第4検出信号を検出し、第2検出信号を第4検出信号で除して得られる第5検出信号にもとづいて、電源装置の状態を調節してもよい。これにより、タイミング信号のパルス幅や周波数が変動する場合においても、個々のパルスレーザの強度を正確に制御できる。
【0015】
本発明の別の態様は、パルス状のタイミング信号にもとづきレーザ発振器を駆動する電源装置に関する。電源装置は、直流電圧を生成する直流電源と、直流電圧を高周波電圧に変換し、高周波電圧をタイミング信号に応じて間欠的にレーザ発振器に供給する高周波電源と、レーザ発振器から出力されるパルスレーザを検出し、パルス状の第1検出信号を生成する光検出素子と、第1検出信号を平滑化して第2検出信号を生成し、第2検出信号にもとづいて直流電源の直流電圧、および高周波電源の動作時間の少なくとも一方を調節するレーザ制御装置と、を備える。
【0016】
タイミング信号のパルス幅および/または周波数は可変であってもよい。レーザ制御装置は、第1検出信号を二値化して第3検出信号を生成し、第3検出信号を平滑化して第4検出信号を検出し、第2検出信号を第4検出信号で除して得られる第5検出信号が、目標値に近づくようにフィードバック制御を行ってもよい。
【0017】
レーザ制御装置は、タイミング信号の1パルスごとに、すなわちレーザの1ショットごとに直流電源および/または高周波電源の動作パラメータを更新してもよい。
【0018】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のある態様によれば、レーザパルスビームの強度あるいはエネルギーをより正確に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】パルスレーザLpの強度の波形の一例を示す図である。
【
図3】レーザ加工機の構成を示すブロック図である。
【
図4】第1の実施の形態に係るレーザ装置のブロック図である。
【
図7】第1実施例に係るレーザ制御装置のブロック図である。
【
図9】第2実施例に係るレーザ制御装置のブロック図である。
【
図10】第3実施例に係るレーザ制御装置のブロック図である。
【
図11】第4実施例に係るレーザ制御装置のブロック図である。
【
図12】第2の実施の形態に係るレーザ制御装置のブロック図である。
【
図13】変形例に係るレーザ装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0022】
図3は、レーザ加工機の構成を示すブロック図である。レーザ加工機900は、対象物902にレーザパルスビーム904を照射し、対象物902を加工する。対象物902の種類は特に限定されず、また加工の種類も、穴空け(ドリル)、切断などが例示されるが、その限りではない。
【0023】
レーザ加工機900は、レーザ装置100、光学系910、加工機制御装置920、ステージ930を備える。対象物902はステージ930上に載置され、必要に応じて固定される。
【0024】
加工機制御装置920は、レーザ加工機900を統括的に制御する。具体的には加工機制御装置920は、レーザ装置100に対してタイミング信号S1およびレーザパルスビームの強度を指定する強度指令S2を出力する。また加工機制御装置920は、加工処理を記述するデータ(レシピ)にしたがってステージ930を制御するための位置制御信号S3を生成する。
【0025】
ステージ930は、加工機制御装置920からの位置制御信号S3に応じて、対象物902を位置決めし、対象物902とレーザパルスビーム904の照射位置を相対的にスキャンする。ステージ930は、1軸、2軸(XY)あるいは3軸(XYZ)であり得る。
【0026】
レーザ装置100は、加工機制御装置920からのタイミング信号S1をトリガとして発振し、レーザパルスビーム906を発生する。タイミング信号S1は、ハイ、ロー2値をとるパルス信号であり、例えばハイの区間が発光区間に、ローの区間が停止区間となる。レーザパルスビーム906の発光区間中の強度は、強度指令S2にもとづいて設定される。光学系910は、レーザパルスビーム906を対象物902に照射する。光学系910の構成は特に限定されず、ビームを対象物902に導くためのミラー群、ビーム整形のためのレンズやアパーチャなどを含みうる。
【0027】
以上がレーザ加工機900の構成である。以下、加工機制御装置920からのタイミング信号S1および強度指令S2にもとづいて動作するレーザ装置100について説明する。
【0028】
<第1の実施の形態>
図4は、第1の実施の形態に係るレーザ装置100のブロック図である。レーザ装置100は、レーザ発振器110、電源装置120、レーザ制御装置140、光検出器180、を備える。
【0029】
レーザ発振器110は、一対の放電電極、レーザ共振器を形成する一対のミラーなどを備える。
【0030】
電源装置120は、高周波電圧VRFを生成し、レーザ発振器110の一対の放電電極に印加する。高周波電圧VRFの周波数(同期周波数という)は、レーザ発振器110の一対の放電電極の静電容量と、それに付随するインダクタの共振周波数に応じて規定される。
【0031】
電源装置120は、直流電源200および高周波電源300を備える。直流電源200は直流電圧VDCを生成する。たとえば直流電源200には、直流電圧VDCの目標レベルを指示する電圧指令S5が入力される。電圧指令S5は、直流電圧VDCの目標値を示すアナログの基準電圧VREFであってもよいし、基準電圧VREFを示すデジタル値であってもよい。直流電源200は、直流電圧VDCの電圧レベルを基準電圧VREFに安定化する。
【0032】
高周波電源300は直流電圧VDCを受け、それを交流の高周波電圧VRFに変換する。高周波電源300は、直流電圧VDCを交流電圧に変換するインバータと、インバータの出力を昇圧するトランスを含んでもよい。高周波電圧VRFの振幅は直流電圧VDCに比例するから、パルスレーザLpの実効強度は電圧指令S5(基準電圧VREF)にもとづいて制御可能である。
【0033】
レーザ制御装置140には、タイミング信号S1および強度指令S2が入力される。レーザ制御装置140は、タイミング信号S1がハイの間、電源装置120のインバータに、同期周波数の励振信号S4を供給する。これにより電源装置120からレーザ発振器110に、バースト状の高周波電圧VRFが供給され、レーザ発振器110は、タイミング信号S1に応じて、発振と停止を交互に繰り返す。典型的には、タイミング信号S1の繰り返し周波数は1kHz~10kHz程度であり、パルス幅(つまりレーザの励振時間)は数十μsのオーダーである。
【0034】
レーザ制御装置140は、強度指令S2に応じて、基準電圧VREFを生成する。これにより高周波電圧VRFの振幅、ひいてはパルスレーザLpの強度が、強度指令S2に応じて制御される。
【0035】
以上がレーザ装置100の基本構成である。続いてその動作を説明する。続いてレーザ装置100の基本的な動作を説明する。
図5は、
図4のレーザ装置100の動作波形図である。
図5には上から順に、タイミング信号S1、励振信号S4、高周波電圧V
RF、レーザ発振器110の放電電極に流れる放電電流I
DIS、パルスレーザLpの強度が示される。なお本明細書において参照する波形図やタイムチャートの縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化され、あるいは誇張もしくは強調されている。
【0036】
時刻t0にタイミング信号S1がハイとなると、同期周波数を有する励振信号S4が生成される。励振信号S4に応じて高周波電源300がスイッチングすることにより、高周波電圧VRFがレーザ発振器110に供給される。レーザ発振器110の放電電極に高周波電圧VRFが印加されると放電が生じ、放電電流IDISが流れはじめる。励振信号S4は、タイミング信号S1がハイとなるオン時間(励振時間)Tonの間、持続する。
【0037】
放電開始後、ある遅延時間の経過後の時刻t1において、パルスレーザLpの強度が増加する。レーザパルスの波形は、レーザ発振器の特性に依存する。この例では、立ち上がりの直後において大きなピークが現れ、その後、平坦な部分が継続する。
【0038】
時刻t2にタイミング信号S1がローとなると、励振信号S4が停止し、高周波電圧VRFも停止する。そうすると放電が徐々に弱まり、やがて消滅する。パルスレーザLpの強度も時刻t2以降、減衰していく。
【0039】
レーザ装置100は、この動作を繰り返すことにより、パルスレーザLpを生成する。
【0040】
上述のように、所定の振幅の高周波電圧V
RFを与えた場合であっても、パルスレーザLpの強度は、温度やガスの劣化に応じて変化する。そこでレーザ制御装置140は、パルスレーザLpの強度を一定に保つために電源装置120の状態を補正する。
図4に戻り、パルスレーザLpの強度(あるいはエネルギー)の補正を説明する。
【0041】
光検出器180には、レーザ発振器110から出力されるパルスレーザLpの一部がビームスプリッタなどによって分岐入力される。光検出器180は、パルスレーザLpの強度を検出し、第1検出信号Vs1をレーザ制御装置140に供給する。光検出器180は、個々のパルスの強度を検出できる程度の高速応答性を有する必要があり、したがって熱型検出素子ではなく、量子型検出素子を用いることが好ましい。光検出器180の出力(第1検出信号)Vs1は、パルスレーザLpの波形に応じたパルス状の信号となる。
【0042】
レーザ制御装置140は、第1検出信号Vs1にもとづいて、パルスレーザLpの強度(およびエネルギー)を安定化し、温度やガスの劣化などの影響を低減する。より具体的にはレーザ制御装置140は、パルス状の第1検出信号Vs1を平滑化する平滑化回路142を含み、平滑化された第2検出信号Vs2にもとづいて、電源装置120の状態(動作パラメタ)を調節する。平滑化回路142は、アナログあるいはデジタルのローパスフィルタで構成することができる。ローパスフィルタの時定数(すなわちカットオフ周波数)は、想定されるタイミング信号S1の繰り返し周波数にもとづいて定めればよく、たとえばローパスフィルタの時定数は、1~20ms程度に設定される。たとえばタイミング信号S1の周波数が、1kHz~10kHzである場合に、ローパスフィルタの時定数を5msとした場合、時定数は、タイミング信号S1の周期の5~50倍となる。平滑化回路142が生成する第2検出信号Vs2は、第1検出信号Vs1の連続するいくつかのパルスの実効強度の平均を表すものと把握できる。
【0043】
Tpをタイミング信号S1の繰り返し周期、Teをレーザの発光時間(パルス幅)としたとき、それらの比をデューティ比DRという。
DR=Te/Tp
第2検出信号Vs2は、パルスレーザの実効強度Ieffにタイミング信号S1のデューティ比DRを乗じた量に比例する。言い換えれば、実効強度Ieffの検出値は、以下の式で表される。
Ieff∝Vs2/DR
デューティ比DRが一定と仮定すると、第2検出信号Vs2は実効強度Ieffを表す。
【0044】
レーザ制御装置140は、第2検出信号Vs2にもとづいて得られるレーザの実効強度の検出値が、その目標値と一致するように、フィードバック制御によって電源装置120の動作パラメータを補正する補正部144を含む。実効強度の目標値は、強度指令S2に応じて生成される。本実施の形態では、補正対象の動作パラメータは、高周波電圧VRFの振幅であり、すなわちレーザ制御装置140は、直流電圧VDCを補正する。
【0045】
このレーザ装置100によれば、平滑化回路142により平滑化された第2検出信号Vs2を参照することにより、パルスレーザの1ショットごとの実効強度あるいはエネルギーを正確に制御できる。この利点は、特許文献2の技術との対比によって明確となる。
【0046】
特許文献2では、パルスレーザのエネルギーをショット毎に積算していく。ワンショットのエネルギを正規化して1とすると、ショット毎に目標値は、1,2,3…と増加していく。たとえば100ショット目の1パルスのエネルギー(強度)が1.1である場合、フィードバックされる積算値は1000.1であり、そのときの目標値は1000となる。したがって、1ショットとして10%の誤差があっても、積算値でみると、0.01%の誤差となる。したがって相対的に弱いフィードバックによって、長い時間スケールでパルスレーザの強度が調節されることになる。
【0047】
これに対して、本実施の形態では、第2検出信号Vs2は、第1検出信号Vs1の連続するいくつかのパルスの実効強度の平均を表す。たとえば5個のパルスの平均値であるとする。連続する5つのパルスのうち、4個の検出値が1、残りが1.1であるとすると、それらの平均は1.02となり、目標値(1)との誤差は2%となる。したがって、特許文献2よりも相対的に誤差が大きくなり、強いフィードバックでパルスレーザの強度が補正される。したがって本実施の形態によれば、特許文献2よりも、光強度を正確かつ高速に制御することが可能である。
【0048】
図6は、電源装置120の構成例を示すブロック図である。直流電源200は、バンクコンデンサ202、充電回路210、充電コントローラ230を備える。直流電源200と高周波電源300の間は、DCリンク204で接続される。DCリンク204には、バンクコンデンサ202が接続される。
【0049】
レーザのショットの終了後、バンクコンデンサ202は放電され、直流電圧VDCは低下する。充電回路210は、次のショットまでに、バンクコンデンサ202に充電電流ICHGを供給し、直流電圧VDCを回復させる。充電コントローラ230は、DCリンク204の直流電圧VDCが、電圧指令S5に応じた目標電圧VREFに近づくように、充電回路210による充電動作を制御する。たとえば充電コントローラ230は、電圧指令S5にもとづいて、充電回路210の充電時間および/または充電回数を制御してもよい。
【0050】
充電回路210はスイッチングコンバータ(たとえば降圧DC/DCコンバータ)で構成することができる。充電コントローラ230は、先行するメイン充電と、それに続くサブ充電によって、バンクコンデンサ202を充電してもよい。
【0051】
メイン充電では、電圧指令S5に応じたパルス幅を有するワンショットパルスを生成し、充電回路210を1回、スイッチングし、粗い精度で充電を行う。これにより、バンクコンデンサ202に、大きな充電電流が供給され、直流電圧VDCがおおよそ基準電圧VREFに近い電圧レベルまで回復する。続いてサブ充電に移行し、直流電圧VDCが基準電圧VREFと一致するように、DC/DCコンバータを数回、スイッチングさせる。
【0052】
高周波電源300は、昇圧トランス302およびインバータ310を備える。昇圧トランス302の2次巻線W2は、レーザ発振器110の放電電極と接続される。インバータ310は、たとえばフルブリッジ回路などを含む。インバータ310の電源端子には、直流電圧VDCが供給される。インバータ310は励振信号S4に応じてスイッチング動作し、昇圧トランス302の1次巻線W1に交流電圧VACを印加し、2次巻線W2に高周波電圧VRFを発生させる。なおインバータ310や昇圧トランス302の構成、トポロジーは特に限定されない。
【0053】
<第1実施例>
図7は、第1実施例に係るレーザ制御装置140Aのブロック図である。レーザ制御装置140Aの主要部は、PLC(Programmable Logic Controller)のようなデジタル回路で構成される。簡単のため、タイミング信号S1の繰り返し周波数およびパルス幅、言い換えればデューティ比は一定であるとする。
【0054】
補正部144Aは、タイミング信号S1の1周期すなわちパルスレーザLpの1ショットごとに動作し、電圧指令S5(基準電圧VREF)を補正する。図中、(n)はnサイクル目の信号を、(n-1)は1つ前の(n-1)サイクル目の信号を表す。
【0055】
補正部144Aは、A/Dコンバータ150、減算器152、フィードバックコントローラ154、加算器156、メモリ158、D/Aコンバータ160を含む。なお補正部144AをPLCで構成する場合、減算器152、フィードバックコントローラ154、加算器156、メモリ158は、ソフトウェアプログラムを実行するプロセッサが有する機能を表す。A/Dコンバータ150は、タイミング信号S1の1サイクル毎、すなわちレーザのワンショット毎に、アナログの第2検出信号Vs2をデジタル信号DVs2に変換する。
【0056】
n番目のサイクルの電圧指令S5を生成する際には、直前のサイクル(n-1)サイクルのA/Dコンバータ150の出力DVs2(n-1)が参照される。A/Dコンバータ150の動作タイミングは、レーザのショット完了直後であってもよい。
【0057】
減算器152は、デジタルの第2検出信号DVs2(n-1)と目標値DREFの差分ΔI(n)を生成する。フィードバックコントローラ154は、差分ΔIがゼロに近づくように、補正量ΔDVを生成する。本実施の形態においてフィードバックコントローラ154はP(比例)コントローラであり、差分ΔIをゲイン倍し、補正量DCMP(n)を生成する。なおフィードバックコントローラ154として、PI(比例積分)コントローラやPID(比例積分微分)コントローラなどを用いてもよい。
【0058】
加算器156は、補正量DCMP(n)を、前のサイクルの目標値DVREF(n-1)に加算し、次のサイクルの目標値DVREF(n)とする。D/Aコンバータ160は、目標値DVREF(n)をアナログの基準電圧VREF(n)に変換する。目標値DVREF(n)はメモリ158に格納され次のサイクルにおいて加算器156に入力される。
【0059】
なお加算器156は、補正量DCMP(n)を、基準電圧VREFの標準値と加算してもよい。
【0060】
続いてレーザ装置100の補正動作を説明する。
図8は、補正動作の一例を示す波形図である。レーザ発振器110の発光期間の直前、直流電圧V
DCは目標電圧V
REFに安定化される。タイミング信号S1に応じて、レーザ発振器110が発振し、パルスレーザLpの強度を示す第1検出信号Vs1が生成される。
【0061】
第1検出信号Vs1はレーザ制御装置140において平滑化され、第2検出信号Vs2が生成される。第2検出信号Vs2は、サイクル毎にデジタル値DVs2に変換される。この例では、発光直後にA/Dコンバータによるサンプリングが行われる。デジタル検出値DVs2が取得されると、デジタル検出値DVs2とその目標値DREFの誤差ΔIにもとづいて補正量DCMPが生成され、デジタル値DVREFが更新される。
【0062】
たとえば(n-1)サイクル目のショットの結果、デジタル検出値DVs2(n-1)は目標値DREFより低い。したがって正の補正量DCMP(n)が発生し、次のnサイクル目の基準電圧VREF(n)が増加する。直流電源200は、次のショットまでに、直流電圧VDCを新しい基準電圧VREF(n)に充電する。
【0063】
これによりnサイクル目の高周波電圧VRFの振幅は、前の(n-1)サイクル目の振幅より大きくなり、nサイクル目のパルスレーザLpの強度は増加する。その結果、第2検出信号Vs2も増加する。この例では、DVs2(n)はその目標値DREFより高くなっているため、次のサイクルでは、基準電圧VREFが小さくなるようにフィードバックされる。この動作が繰り返されて、温度変動やガスの劣化等にかかわらず、パルスレーザLpの強度を安定化することができる。
【0064】
<第2実施例>
タイミング信号S1のデューティ比DRが変化する場合、すなわちタイミング信号S1のパルス幅(励振時間)と、繰り返し周波数の少なくとも一方が変化する状況を考える。上述のように、第2検出信号Vs2(DVs2)は、パルスレーザの実効強度Ieffにデューティ比DRを乗じた量を表す。したがって、デューティ比DRが可変するシステムにおいては、デューティ比DRに応じて、第2検出信号DVs2もしくはその目標値DREFをスケーリングすればよい。
【0065】
図9は、第2実施例に係るレーザ制御装置140Bのブロック図である。補正部144Bは、第2検出信号DVs2をデューティ比DRで除算した値DVs5(=DVs2/DR)が目標値D
REFに近づくように、補正量D
CMPを調整する。
【0066】
レーザ制御装置140Bは、
図7のレーザ制御装置140Aに加えて、デューティ比検出器170を備える。デューティ比検出器170は、デューティ比DRを検出する。たとえばデューティ比検出器170は、パルスレーザLpの強度を示す第1検出信号Vs1にもとづいてデューティ比DRを検出できる。二値化回路172はコンパレータであり、第1検出信号Vs1を所定のしきい値と比較し、ハイ、ロー(1/0)の二値化する。平滑化回路174は、平滑化回路142と同じ特性を有するローパスフィルタであり、二値化された第3検出信号Vs3を平滑化し、第4検出信号Vs4を生成する。第4検出信号Vs4は、上述のデューティ比DRを表す。
【0067】
補正部144Bは、
図7の補正部144Aに加えて、A/Dコンバータ162、除算器164を備える。A/Dコンバータ162は第4検出信号Vs4をデジタル値DVs4に変換する。除算器164は、DVs2をDVs4で除算し、スケーリングされたDVs5を生成する。Dvs5は、パルスレーザLpの実効強度I
effを表す。
【0068】
図9のレーザ制御装置140Bによれば、デューティ比DRが変化するシステムにおいて、レーザパルスの実効強度I
effを安定化できる。
【0069】
なお、デューティ比検出器170の構成は特に限定されない。タイミング信号S1のデューティ比が、発光期間のデューティ比に近似できる場合、平滑化回路174にタイミング信号S1を入力してもよい。
【0070】
<第3実施例>
図10は、第3実施例に係るレーザ制御装置140Cのブロック図である。補正部144Cは、第2検出信号DVs2が、目標値D
REFにデューティ比DRを乗じた値D
REF’(=D
REF×DR)に近づくように、補正量D
CMPを調整する。補正部144Cは、
図9の補正部144Bの除算器164に代えて乗算器166を備える。
【0071】
<第4実施例>
図11は、第4実施例に係るレーザ制御装置140Dのブロック図である。補正部144Dは、発光時間Teと繰り返し周期Tpそれぞれを個別に検出してもよい。発光周期Teは、タイミング信号S1のパルス幅を用いてもよい。
【0072】
補正部144Dは、DVs2にTpを乗じた値EFBが、DREFにTeを乗じた目標値EREFに近づくように補正量DCMPを調整してもよい。乗算器169a,169bは乗算を行う。EREF=DREF×Teは、パルス当たりのエネルギーを表しており、同様にDVs2にTpを乗じた値EFBも、パルス当たりのエネルギーを表す。つまり補正部144Dは、エネルギーの誤差ΔE(n)がゼロに近づくように、言い換えればパルス当たりのエネルギーがその目標値に近づくように、基準電圧VREFを調節する。
【0073】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態では、パルスレーザLpの実効強度を目標値に安定化したが、本発明の適用はその限りでない。レーザの用途、加工の種類によっては、パルス当たりのエネルギーが加工精度に影響を及ぼす場合がある。この場合、パルス当たりのエネルギーを目標値に安定化してもよい。
【0074】
第2の実施の形態では、励振信号S4をレーザ制御装置140に供給する励振時間Ton’が調節される。
図12は、第2の実施の形態に係るレーザ制御装置140Eのブロック図である。補正部144Eの基本構成は
図10の補正部14励振信号発生器1464Dと同様であるが、補正対象が、励振時間Ton’である。励振時間Ton’の指令値は、タイミング信号S1のパルス幅Tonに、補正量D
CMP(n)を加算した値とすることができる。
【0075】
励振信号発生器146は、励振時間Ton’の間、レーザ発振器110に励振信号S4を供給する。
【0076】
第2の実施の形態によれば、パルス当たりのエネルギーを安定化できる。
【0077】
以上、本発明について、いくつかの実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0078】
第1の実施の形態と第2の実施の形態は組み合わせてもよい。すなわち、励振時間Tonと、直流電圧VDCの両方を制御してもよい。
【0079】
さらに言えば、レーザ制御装置140による補正対象は、直流電圧VDC、励振時間Tonに限定されない。
【0080】
図13は、変形例に係るレーザ装置100Fのブロック図である。レーザ装置100Fは、レーザ発振器110を冷却し、あるいは温度を安定化するためのチラー102、ブロア104をさらに備える。レーザ制御装置140は、チラー102の流量を補正してもよいし、チラー102の冷却水の設定温度を補正してもよい。あるいはレーザ制御装置140は、ブロアの回転数を補正してもよい。これらの補正は、単独で、あるいは直流電圧V
DC、励振時間Tonの補正と組み合わせてもよい。
【0081】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0082】
100 レーザ装置
110 レーザ発振器
120 電源装置
140 レーザ制御装置
142 平滑化回路
144 補正部
146 励振信号発生器
150 A/Dコンバータ
152 減算器
154 フィードバックコントローラ
156 加算器
158 メモリ
160 D/Aコンバータ
162 A/Dコンバータ
164 除算器
166 乗算器
170 デューティ比検出器
172 二値化回路
174 平滑化回路
180 光検出器
200 直流電源
202 バンクコンデンサ
204 DCリンク
210 充電回路
230 充電コントローラ
300 高周波電源
302 昇圧トランス
310 インバータ
S1 タイミング信号
S2 強度指令
S3 位置制御信号
900 レーザ加工機
910 光学系
920 加工機制御装置
930 ステージ
Lp パルスレーザ
S1 タイミング信号
S2 強度指令
S3 位置制御信号
S4 励振信号
S5 電圧指令