(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】フロントエンド回路、テストボード、テストシステム、コンピュータおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 17/00 20150101AFI20221207BHJP
H03D 7/00 20060101ALI20221207BHJP
H04L 27/26 20060101ALI20221207BHJP
H04B 1/26 20060101ALN20221207BHJP
【FI】
H04B17/00 Z
H03D7/00 Z
H04L27/26 100
H04B1/26 B
(21)【出願番号】P 2018101241
(22)【出願日】2018-05-28
【審査請求日】2021-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390005175
【氏名又は名称】株式会社アドバンテスト
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】浅見 幸司
(72)【発明者】
【氏名】工藤 隆洋
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04896102(US,A)
【文献】特開2008-76112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/00
H03D 7/00
H04L 27/26
H04B 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験デバイスからのRF信号の試験に使用されるフロントエンド回路であって、
前記RF信号は、キャリア周波数f
Cを有するキャリア信号を広帯域ベースバンド信号により変調して生成されるものであり、
前記フロントエンド回路は、
可変のローカル周波数f
LO1を有するローカル信号を生成する周波数可変オシレータと、
前記ローカル信号と前記RF信号を周波数ミキシングし、周波数f
C-f
LO1を有する中間周波数信号を生成する第1周波数ミキサと、
前記中間周波数信号を濾過するバンドパス型の第1フィルタと、
を備え、
前記中間周波数信号にもとづくベースバンド信号を、デジタイザに供給可能に構成され、
前記ローカル周波数f
LO1は、前記第1フィルタのバンド幅BWと等しいか、またはそれより狭い周波数間隔Δfを有する複数の周波数f
0,f
1,…から選択可能で
あり、
前記周波数間隔Δfは、前記第1フィルタのバンド幅BWより狭く、
前記広帯域ベースバンド信号は複数のサブキャリアを含み、
前記ローカル周波数f
LO1
がf
k
(k=0,1,2,…)のときの前記第1フィルタの出力と、f
LO1
がf
k+1
のときの前記第1フィルタの出力には、前記複数のサブキャリアのうち少なくともひとつが共通して含まれることを特徴とするフロントエンド回路。
【請求項2】
前記第1フィルタを通過した前記中間周波数信号をダウンコンバージョンする第2周波数ミキサと、
前記第2周波数ミキサの出力を濾過する第2フィルタと、
をさらに備え、
前記ベースバンド信号は前記第2フィルタの出力に応じていることを特徴とする請求項
1に記載のフロントエンド回路。
【請求項3】
請求項
1または2に記載のフロントエンド回路と、
前記フロントエンド回路の出力を、デジタルの波形データに変換するデジタイザと、
前記波形データを処理するコンピュータと、
を備えことを特徴とするテストシステム。
【請求項4】
前記コンピュータは、
前記ローカル周波数f
LO1の複数の周波数f
0,f
1,…ごとに前記デジタイザが生成する波形データDW
1,DW
2…を、周波数領域のスペクトルデータDF
1,DF
2…に変換し、
前記スペクトルデータDF
1,DF
2…を周波数軸上でシフトし、合成することを特徴とする請求項
3に記載のテストシステム。
【請求項5】
前記ローカル周波数f
LO1の間隔Δfは、前記第1フィルタのバンド幅BWより狭く、
前記広帯域ベースバンド信号は複数のサブキャリアを含み、
前記コンピュータは、
k番目(k=0,1,2,…)のスペクトルデータDF
kと、k+1番目のスペクトルデータDF
k+1に含まれる共通のサブキャリアのデータにもとづいて、各スペクトルデータDFを補正することを特徴とする請求項
4に記載のテストシステム。
【請求項6】
被試験デバイスからのRF信号を試験するテストシステムであって、
フロントエンド回路と、
前記フロントエンド回路の出力を、デジタルの波形データに変換するデジタイザと、
前記波形データを処理するコンピュータと、
を備え、
前記RF信号は、キャリア周波数f
C
を有するキャリア信号を広帯域ベースバンド信号により変調して生成されるものであり、
前記フロントエンド回路は、
可変のローカル周波数f
LO1
を有するローカル信号を生成する周波数可変オシレータと、
前記ローカル信号と前記RF信号を周波数ミキシングし、周波数f
C
-f
LO1
を有する中間周波数信号を生成する第1周波数ミキサと、
前記中間周波数信号を濾過するバンドパス型の第1フィルタと、
を備え、
前記中間周波数信号にもとづくベースバンド信号を、デジタイザに供給可能に構成され、
前記ローカル周波数f
LO1
は、前記第1フィルタのバンド幅BWより狭い周波数間隔Δfを有する複数の周波数f
0
,f
1
,…から選択可能であり、
前記広帯域ベースバンド信号は複数のサブキャリアを含み、
前記コンピュータは、
k番目(k=0,1,2,…)のスペクトルデータDF
k
と、k+1番目のスペクトルデータDF
k+1
に含まれる共通のサブキャリアのデータにもとづいて、各スペクトルデータDFを補正することを特徴とするテストシステム。
【請求項7】
請求項
1または2に記載のフロントエンド回路を備えることを特徴とするテストボード。
【請求項8】
被試験デバイスからのRF信号を試験するテストシステムに使用されるコンピュータであって、
前記RF信号は、キャリア周波数f
Cを有するキャリア信号を広帯域ベースバンド信号で変調して生成されるものであり、
前記テストシステムは、
可変のローカル周波数f
LO1を有するローカル信号を生成する周波数可変オシレータと、
前記ローカル信号と前記RF信号を周波数ミキシングし、周波数f
C-f
LO1を有する中間周波数信号を生成する第1周波数ミキサと、
前記中間周波数信号を濾過するバンドパス型の第1フィルタと、
前記第1フィルタを通過した前記中間周波数信号にもとづくベースバンド信号を、デジタルの波形データに変換するA/Dコンバータと、
を備え、
前記コンピュータは、
前記ローカル周波数f
LO1を、前記第1フィルタのバンド幅BWと等しいか、またはそれより狭い周波数間隔Δfを有する複数の周波数f
0,f
1,…で離散的に切り替え、
前記複数の周波数f
0,f
1,…ごとに得られる波形データDW
0,DW
1…を、周波数領域のスペクトルデータDF
0,DF
1…に変換し、
前記スペクトルデータDF
0,DF
1…を周波数軸上でシフトし、シフト後のスペクトルデータDFs
0,DFs
1…を合成
し、
前記周波数間隔Δfは、前記第1フィルタのバンド幅BWより狭く、
前記広帯域ベースバンド信号は複数のサブキャリアを含み、
前記コンピュータは、
k番目(k=0,1,2,…)のスペクトルデータDF
k
と、k+1番目のスペクトルデータDF
k+1
に含まれる共通のサブキャリアのデータにもとづいて、スペクトルデータDFを補正することを特徴とするコンピュータ。
【請求項9】
被試験デバイスからのRF信号を試験するテストシステムに使用されるコンピュータにおいて実行されるプログラムであって、
前記RF信号は、キャリア周波数f
Cを有するキャリア信号を広帯域ベースバンド信号で変調して生成されるものであり、
前記テストシステムは、
可変のローカル周波数f
LO1を有するローカル信号を生成する周波数可変オシレータと、
前記ローカル信号と前記RF信号を周波数ミキシングし、周波数f
C-f
LO1を有する中間周波数信号を生成する第1周波数ミキサと、
前記中間周波数信号を濾過するバンドパス型の第1フィルタと、
前記第1フィルタを通過した前記中間周波数信号にもとづくベースバンド信号をデジタルの波形データに変換するA/Dコンバータと、
を備え、
前記プログラムは、前記コンピュータに、
前記ローカル周波数f
LO1を、前記第1フィルタのバンド幅BWと等しいか、またはそれより狭い周波数間隔Δfを有する複数の周波数f
0,f
1,…にて離散的に切り替える処理、
前記複数の周波数f
0,f
1,…ごとに得られる波形データDW
0,DW
1…を、周波数領域のスペクトルデータDF
0,DF
1…に変換する処理、
前記スペクトルデータDF
0,DF
1…を周波数軸上でシフトし、合成する処理
を実行させ
、
前記周波数間隔Δfは、前記第1フィルタのバンド幅BWより狭く、
前記広帯域ベースバンド信号は複数のサブキャリアを含み、
前記プログラムは、前記コンピュータに、
k番目(k=0,1,2,…)のスペクトルデータDF
k
と、k+1番目のスペクトルデータDF
k+1
に含まれる共通のサブキャリアのデータにもとづいて、各スペクトルデータDFを補正する処理をさらに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RF(高周波)デバイスの解析、評価に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信の大容量化にともない、ベースバンド信号およびRF信号の広帯域化が進んでいる。第5世代移動通信システムや、次世代の無線LANでは、ミリ波帯域のキャリア信号を利用して、数百MHz~数GHzに及ぶ広帯域のベースバンド信号が搬送される。
【0003】
このような高速通信には、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)が用いられる場合が多い。OFDMは、データをサブキャリアと呼ばれる複数の搬送波に分割し、周波数方向に並列に送信するマルチキャリア変調方式の一種である。
【0004】
OFDMでは、サブキャリアの周波数が、直交性(Orthogonal、すなわち内積が零)を満たすように選択される。これにより、隣接するサブキャリア同士が周波数領域で重なっていても、それらを分離することが可能となるため、ガードバンドが不要であり、周波数利用効率が高いという利点を有する。
【0005】
図1(a)、(b)は、OFDMの変調器(送信機)および復調器(受信機)のブロック図である。
図1(a)を参照し、変調器10について説明する。ここでは、N個のサブキャリアf
0~f
N-1を用いるものとする。
【0006】
送信すべきシリアルデータs[0]は、S/P変換器12によりパラレルデータに変換され、サブキャリアごとのシンボルデータsym0~symN-1に分割される。複数の変調器MOD0~MODN-1のそれぞれは、入力されたシンボルデータsymを、QAM(Quadrature Amplitude Modulation)やPSK(Phase Shif Keying)を用いて、複素平面上にマッピングする。マッピングにより得られた複素データX0~XN-1は、逆離散フーリエ変換器14に入力され、時間軸上の波形データに変換される。IFFT(逆高速フーリエ変換)によって得られるデジタルの波形データの実部Re、虚部Imはそれぞれ、D/Aコンバータ16,18によってアナログの同相信号I(t)および直交信号Q(t)に変換される。アナログの直交変調器19は、D/Aコンバータ16,18の出力I(t),Q(t)を変調信号として、キャリア周波数fCを有するキャリア信号を変調し、それらを合成してRF送信信号s(t)を生成する。なお、この説明において、ガードインターバルの挿入や除去などは省略している。
【0007】
図1(b)を参照し、復調器20について説明する。受信したキャリア周波数f
Cの受信信号r(t)は、アナログの直交復調器22によって同相信号I(t)および直交信号Q(t)にダウンコンバージョンされる。A/Dコンバータ28,30は、アンチエイリアシングフィルタ24,26を経た信号I(t),Q(t)をデジタルの波形データDi(t),Dq(t)に変換する。
【0008】
離散フーリエ変換器32は、波形データDi(t)、Dq(t)の1シンボル分の長さのデータを、FFT(高速フーリエ変換)によって周波数領域の複素データ(スペクトルデータ)Y
0~Y
N-1に変換する。複素データY
#は、
図1(a)の変調器10における周波数f
#のサブキャリアの複素データX
#に対応する。複数の復調器DEMOD
0~DEMOD
N-1は、対応するサブキャリアの複素データY
0~Y
N-1を、シンボルデータsym
0~sym
N-1に逆マッピングする。パラレルシリアル変換器34は、複数のシンボルデータsym
0~sym
N-1をシリアルデータs[n]に変換する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-32446号公報
【文献】特開2012-175172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図1(a)の変調器10を含むRFデバイスを試験するために、RF信号解析器が使用される。RF信号解析器は、RFデバイスが生成するRF信号を評価するものであり、VSA(Vector Signal Analyzer)とも称される。
【0011】
たとえば次世代(5G)の移動通信システムでは、キャリア周波数28GHz、ベースバンド帯域幅800MHzの採用が予定されており、次世代の無線LAN(IEEE802.11ad(WiGig))では、キャリア周波数60GHz、ベースバンド帯域幅2GHzの採用が予定されている。
【0012】
RF信号解析器を、
図1(b)の復調器20のアーキテクチャにもとづいて設計する場合、A/Dコンバータ28,30に、数百MHz~数GHzの帯域が要求されることとなるが、広帯域のA/Dコンバータは一般に分解能が低い。
【0013】
RFデバイスに搭載される復調器20の場合、A/Dコンバータ28,30は、受信した信号を復調できるだけの、つまりシンボルを正しく判定できるだけの分解能があれば足りる。RF信号解析器においても、シンボルを判定し、ビットエラーレートを測定する程度であれば、RFデバイスと同程度の精度で足りる。ところが、RF信号解析器によってEVM(Error Vector Magnitude)などを測定する場合、A/Dコンバータには十分に高い精度が要求される。広帯域かつ高精度なA/Dコンバータは、選択肢が少ない上に非常に高価であることから、テストコストが高くなるという問題がある。なおこのような問題は、OFDM方式に限らず、その他の通信方式に準拠したRFデバイスの試験においても生じうる。
【0014】
本発明はかかる状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、広帯域RF信号を測定可能なテストシステムの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のある態様は、被試験デバイスからのRF信号の試験に使用されるフロントエンド回路に関する。RF信号は、キャリア周波数fCを有するキャリア信号を広帯域ベースバンド信号で変調して生成される。フロントエンド回路は、可変のローカル周波数fLO1を有するローカル信号を生成する周波数可変オシレータと、ローカル信号とRF信号を周波数ミキシングし、周波数fC-fLO1を有する中間周波数信号を生成する第1周波数ミキサと、中間周波数信号を濾過するバンドパス型の第1フィルタと、を備える。フロントエンド回路は、第1フィルタを通過した中間周波数信号にもとづくベースバンド信号をデジタイザに供給可能に構成される。ローカル周波数fLO1は、第1フィルタのバンド幅BWと等しいか、またはそれより狭い周波数間隔Δfを有する複数の周波数f0,f1,f2,…から選択可能である。
【0016】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置などの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のある態様によれば、広帯域RF信号の測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1(a)、(b)は、OFDMの変調器および復調器のブロック図である。
【
図2】実施の形態に係るテストシステムの基本アーキテクチャを示すブロック図である。
【
図3】
図2のテストシステムのフロントエンド回路およびデジタイザの動作を説明する図である。
【
図4】プロセッサの動作を示すフローチャートである。
【
図5】周波数領域における複数のスペクトルデータの合成を説明する図である。
【
図6】第2実施例における帯域補正処理を説明する図である。
【
図7】スペクトルデータDFsの帯域補正を説明する図である。
【
図8】プロセッサの第2実施例の処理を説明するフローチャートである。
【
図9】テストシステムの一態様を示すブロック図である。
【
図10】第1変形例に係るテストシステムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施の形態の概要)
本明細書に開示される一実施の形態は、被試験デバイスからのRF信号の試験に使用されるフロントエンド回路に関する。RF信号は、キャリア周波数fCを有するキャリア信号を広帯域ベースバンド信号で変調して生成される。その限りでないがRF信号はOFDM信号でありえる。フロントエンド回路は、可変のローカル周波数fLO1を有するローカル信号を生成する周波数可変オシレータと、ローカル信号とRF信号を周波数ミキシングし、周波数fC-fLO1を有する中間周波数信号を生成する第1周波数ミキサと、中間周波数信号を濾過するバンドパス型の第1フィルタを備える。フロントエンド回路は、第1フィルタを通過した中間周波数信号にもとづくベースバンド信号をデジタイザに供給可能に構成される。ローカル周波数fLO1は、第1フィルタのバンド幅BWと等しいか、またはそれより狭い周波数間隔Δfを有する複数の周波数f0,f1,f2,…から選択可能である。
【0020】
ローカル周波数fLO1を複数の周波数f0,f1,f2…と時分割で変化させると、中間周波数信号の中心周波数fIFは、fC-f0,fC-f1,fC-f2…と変化する。この中間周波数信号を、所定のバンド幅BWを有するバンドパスフィルタを通過させると、もとの広帯域ベースバンド信号を、バンド幅BWを単位とする周波数チャンネル(サブバンド)ごとに切り出すことができる。したがってデジタイザに入力される信号の周波数帯域を狭めることができ、狭帯域で高精度なデジタイザを用いることが可能となる。
【0021】
ローカル周波数fLO1のスキャン間隔Δfは、第1フィルタのバンド幅BWより狭くてもよい。広帯域ベースバンド信号は複数のサブキャリアを含んでもよい。fLO1=fk(k=0,1,2,…)のときの第1フィルタの出力と、fLO1=fk+1のときの第1フィルタの出力には、複数のサブキャリアのうち少なくともひとつが共通して含まれてもよい。これにより同じサブキャリアについて得られた情報にもとづいて、帯域補正が可能となる。
【0022】
フロントエンド回路は、中間周波数信号をダウンコンバージョンする第2周波数ミキサと、第2周波数ミキサの出力を濾過する第2フィルタと、をさらに備えてもよい。ベースバンド信号は第2フィルタの出力に応じていてもよい。
【0023】
フロントエンド回路は、デジタイザおよびコンピュータとともにテストシステムを提供してもよい。デジタイザは、フロントエンド回路の出力を、デジタルの波形データに変換する。コンピュータは、デジタイザにより得られる波形データを処理する。
【0024】
コンピュータは、以下の処理を行ってもよい。
・ローカル周波数fLO1の複数の周波数f0,f1,f2…ごとにデジタイザが生成する波形データDW0,DW1,DW2…を、周波数領域のスペクトルデータDF0,DF1,DF2…に変換する。
・スペクトルデータDF0,DF1,DF2…を周波数軸上でシフトし、合成する。
【0025】
コンピュータは、k番目(k=0,1,2,…)のスペクトルデータDFkと、k+1番目のスペクトルデータDFk+1に含まれる共通のサブキャリアのデータにもとづいて、スペクトルデータDFを補正してもよい。これにより、周波数ミキサ、フィルタ、伝送路などの周波数特性を補正することができる。
【0026】
上述のフロントエンド回路は、テストボードに実装することができる。このテストボードを、既存の低速かつ高精度なデジタイザと組み合わせて使用することで、広帯域RF信号を安価かつ高精度に試験できる。
【0027】
(実施の形態)
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0028】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0029】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0030】
図2は、実施の形態に係るテストシステム100の基本アーキテクチャを示すブロック図である。テストシステム100は、被試験デバイスであるRFデバイス102が生成する高周波(RF)信号を評価、解析する。RF信号は、キャリア周波数f
Cを有するキャリア信号を広帯域ベースバンド信号Sb(t)で変調して生成される。その限りでないがベースバンド信号の帯域が1GHzを超えるような通信方式において本発明は特に有用である。またその限りでないが、キャリア周波数f
Cが数十GHzであるミリ波帯域において本発明は特に有用である。
【0031】
このテストシステム100では、RF信号は周波数領域でみたときに、複数N個のサブバンドFCH0~FCHN-1に分割される。そして複数のサブバンドFCH0~FCHN-1を個別に時分割で取り込む。
【0032】
テストシステム100は、デジタイザ110、デジタルモジュール120、プロセッサ130およびフロントエンド回路200を備える。
【0033】
デジタルモジュール120は、RFデバイス102と接続され、RFデバイス102が生成するRF信号を制御する。
【0034】
デジタイザ110は、アナログの入力信号をデジタル信号に変換する。デジタイザ110は、たとえばアンプ112とA/Dコンバータ114を含む。フロントエンド回路200は、デジタイザ110とRFデバイス102の間に設けられ、テストシステム100におけるRFデバイス102とのインタフェースの役割を果たす。
【0035】
プロセッサ130は、コンピュータの一部であり、ソフトウェアプログラムを実行することにより、デジタイザ110が生成するデジタルの波形データを処理する。なおプロセッサ130の処理の一部は、ソフトウェアでなくハードウェア処理で行ってもよい。
【0036】
フロントエンド回路200は、周波数可変オシレータ202、第1周波数ミキサ204、第1フィルタ206、周波数変換部210を備える。
【0037】
周波数可変オシレータ202は、可変のローカル周波数fLO1(<fC)を有する第1のローカル(LO1)信号を生成する。第1周波数ミキサ204は、LO1信号とRF信号を周波数ミキシングし、周波数fC-fLO1を有する中間周波数(IF)信号を生成する。
【0038】
第1フィルタ206はIF信号を受け、IF信号に含まれる所定の周波数範囲の成分を通過させるバンドパスフィルタである。第1フィルタ206のバンド幅BWは、サブバンドFCHの帯域幅を規定する。第1フィルタ206の中心周波数をfBPとするとき、第1フィルタ206の出力IF’はその入力IFのうち、周波数範囲fBP-BW/2~fBP+BW/2の成分を含む。また後述するように、第1フィルタ206のバンド幅BWは、デジタイザ110に入力される信号のバンド幅を規定するから、バンド幅BWは、デジタイザ110の帯域(すなわちA/Dコンバータ114のサンプリングレートfs)にもとづいて設計される。より具体的にはサンプリング定理よりBW×2<fsが成り立たなければならず、したがってBW<fs/2となるように設計すればよい。たとえば、500MspsのA/Dコンバータ114を採用する場合、バンド幅BWは250MHzより狭くすればよく、たとえば200MHzとしてもよい。
【0039】
周波数変換部210は、第1フィルタ206を通過したIF’信号を受け、後段のデジタイザ110が処理するのに最適な周波数を有する狭帯域のベースバンド信号Sb^に変換する。狭帯域ベースバンド信号Sb^は、RF信号の生成に使用されたベースバンド信号Sb(t)の中のひとつのサブバンドの周波数成分を含む。
【0040】
周波数変換部210は、オシレータ212、第2周波数ミキサ214、第2フィルタ216を含む。第2周波数ミキサ214は、第1フィルタ206を通過したIF’信号を、オシレータ212が生成する第2のローカル(LO2)信号と周波数ミキシングし、さらに低い周波数領域にダウンコンバージョンする。ローカル信号LO2の周波数fLO2は、第2周波数ミキサ214の出力Sb^が、負の周波数成分を含まないように定められる。より具体的には、fBP-BW/2-fLO2>0の関係が成り立てばよく、fBP-BW/2>fLO2を満たす。
【0041】
第2フィルタ216は、アンチエイリアシングフィルタであり、第2周波数ミキサ214の出力であるベースバンド信号Sb^の高周波成分を除去し、デジタイザ110に提供する。第2フィルタ216は、ローパスフィルタとして設計してもよいし、バンドパスフィルタとして設計してもよい。
【0042】
周波数可変オシレータ202において、ローカル周波数fLO1は、複数の周波数f0,f1,…から選択可能である。複数の周波数f0,f1,…の間隔Δfは、第1フィルタ206のバンド幅BWと等しいか、またはそれより狭く規定される。
【0043】
以上がテストシステム100の構成である。続いてその動作について、いくつかの実施例をもとに説明する。
【0044】
(第1実施例)
図3は、
図2のテストシステム100のフロントエンド回路200およびデジタイザ110の動作を説明する図である。縦軸は周波数を、横軸は時間を表す。RFデバイス102は、テストサイクルk(k=0,1…N-1)ごとに、RF信号を繰り返し発生する。各RF信号は、同じシリアル信号にもとづく同じ信号であることが望ましいが、その限りでなく、異なるシリアル信号を用いてもよい。この例において、キャリア周波数f
C=60GHz、ベースバンド信号のバンド幅Δf
BBは2GHzとする。また第1フィルタ206の通過帯域のセンター周波数f
BPは特に限定されないが、フィルタの入手のしやすさを考慮すると、2GHz帯あるいは5GHz帯のフィルタを採用するとよい。たとえば、f
BP=2.14GHz、通過バンド幅BW=200MHzのフィルタを用いることができる。この場合、RF信号は、2GHz/200MHz=10個のサブバンドFCH
0~FCH
9に分割される。
【0045】
周波数可変オシレータ202はテストサイクル毎にΔfの間隔で、ローカル信号LO1の周波数fLO1をシフトしていく。具体的には、k番目(k=0,1,2,…8,9)のテストサイクルにおけるローカル周波数fkは、k番目のサブバンドFCHkが第1フィルタ206を通過するように定められる。この実施例においてシフト量Δfは、バンド幅BWと等しく200MHzである。
【0046】
オシレータ212が生成するLO2信号の周波数は、第1フィルタ206の通過周波数fBPと等しくてもよい。これにより第2周波数ミキサ214は、第1フィルタ206の出力IF’を、DC近傍の周波数領域のベースバンド信号Sb^にダウンコンバートする。k番目のテストサイクルにおいて得られるベースバンド信号Sbk^は、k番目のサブバンドFCHkに対応する。
【0047】
各テストサイクルkにおいて、第2フィルタ216を通過した狭帯域ベースバンド信号Sbk^は、デジタルの波形データDWに変換される。10回のテストサイクルが完了すると、すべてのサブバンドFCH0~FCH9に対応する波形データDW0~DW9がデジタイザ110により取得される。
【0048】
以上がフロントエンド回路200およびデジタイザ110の動作である。このフロントエンド回路200によれば、広帯域ベースバンド信号により変調されたRF信号を、複数のサブバンドに分割し、サブバンドごとにデジタイザ110によって取り込むこととした。これによりA/Dコンバータ114に必要な帯域を狭めることができ、安価で高精度なA/Dコンバータを採用することが可能となる。
【0049】
またこのフロントエンド回路200では、第1周波数ミキサ204のみ、2GHzの帯域幅で動作するように設計すればよく、それより後段の回路ブロック(第1フィルタ206、第2周波数ミキサ214、第2フィルタ216)が扱う帯域幅は狭くてよいため、設計が容易である。
【0050】
加えて、周波数変換部210が扱う信号は帯域幅が狭いことに加えて、センター周波数が一定(fBP)である。したがって周波数変換部210の設計はその点においても容易であり、大きなメリットである。
【0051】
続いてテストシステム100のプロセッサ130の動作を説明する。
【0052】
図4は、プロセッサ130の動作を示すフローチャートである。プロセッサ130は、ローカル周波数f
LO1の複数の周波数f
0,f
1,f
2,…ごとにデジタイザ110が生成する波形データDW
0,DW
1,DW
2…を、周波数領域のスペクトルデータDF
0,DF
1,DF
2…に変換する(S100)。この変換には、FFT(高速フーリエ変換)のアルゴリズムを用いることができる。
【0053】
そしてプロセッサ130は、スペクトルデータDF0,DF1,DF2…を周波数軸上でシフトし、シフト後のスペクトルデータDFs0,DFs1,DFs2…を周波数領域で合成し、もとの広帯域ベースバンド信号のスペクトル(周波数情報)を再構成する(S102)。ここでの合成は、配列の結合と把握される。
【0054】
図5は、周波数領域におけるスペクトルデータの合成を説明する図である。i番目(i=0,1,2…)のスペクトルデータDF
iの周波数軸上のシフト量は、
Δf×i+const
で表される。constは、もとのベースバンド信号Sb(t)のスペクトルのセンター周波数が、0Hzとなるように決めてもよい。
【0055】
この処理によれば、もとのベースバンド信号Sb(t)のスペクトルを取得することができる。また、ベースバンド信号のスペクトルを逆離散フーリエ変換(IDFT)すれば、ベースバンド信号の波形を再生できる。
【0056】
(第2実施例)
第1実施例では、ローカル周波数fLO1の間隔Δfを、第1フィルタ206のバンド幅BWと等しいものとした。これに対して第2実施例では、ローカル周波数fLO1のスキャンの間隔Δfは、第1フィルタ206のバンド幅BWより狭い。すなわち、k番目のテストサイクルとk+1番目のテストサイクルにおいて、もとのベースバンド信号のスペクトルの一部が重複して取り込まれる。本明細書において、この重複する帯域(オーバーラップ帯域OBという)は、チャンネル間キャリブレーションに使用される。
【0057】
広帯域ベースバンド信号は複数のサブキャリアScを含んでおり、各サブバンドFCHにも複数(X本)のサブキャリアScが含まれる。fLO1=fk(k=0,1,2,…)のときの第1フィルタ206の出力IFk’と、fLO1=fk+1のときの第1フィルタ206の出力IFk+1’には、X本のサブキャリアScのうち少なくともひとつが共通して含まれ、したがってスペクトルデータDFk、DFk+1(あるいはDFsk、DFsk+1)にも、共通のサブキャリアScの情報が含まれる。
【0058】
同じサブキャリアScについて測定されたスペクトルデータは、本来一致すべきである。そこでプロセッサ130は、隣接する2つのスペクトルデータDFsk,DFsk+1(k=0,1,2…)それぞれのオーバーラップ帯域に含まれる共通のサブキャリアの値を用いて、スペクトルデータDFsk,DFsk+1の少なくとも一方を補正する(帯域補正処理という)。
【0059】
図6は、第2実施例における帯域補正処理を説明する図である。
図6には、周波数領域で隣接する3つのスペクトルデータDFs
k-1,DFs
k,DFs
k+1が示される。
【0060】
スペクトルデータDFs#に、X本のサブキャリアSc0~ScX-1が含まれるとき、スペクトルデータはサブキャリアScの番号をインデックスとする配列データとなり、DF#’[0:X-1]と表すことができる。
【0061】
k番目のスペクトルデータDFs
kが帯域補正の対象である。DFs’
k-1は、すでに帯域補正済みのスペクトルデータを表す。DFs’
k-1のうち、右端のY個の要素DFs
k-1[X-Y:X-1]を、CAL_DATA
k-1[0:Y-1]とする。Yは、オーバーラップ帯域に含まれるサブキャリアの本数であり、
図6ではY=4である。またDFs
kのうち、左端のY個の要素DFs
k[0:Y-1]を、COMP_DATA
k[0:Y-1]とする。
【0062】
2つの配列CAL_DATAk-1[0:Y-1]、COMP_DATAk[0:Y-1]を用いて、補正係数配列COEFF[0:Y-1]が生成される。補正係数配列COEFF[0:Y-1]の要素COEFF[j]は式(1)で表される。
COEFF[j]=CAL_DATA[j]/COMP_DATA[j] …(1)
【0063】
スペクトルデータDFskは、この補正係数配列にもとづいて補正される。補正後のスペクトルデータをDFsk’と表記する。DFsk’の右端のY個の要素DFsk[X-Y:X-1]は、CAL_DATAk[0:Y-1]となり、さらに次のスペクトルデータDFsk+1の帯域補正に利用される。
【0064】
図7は、スペクトルデータDFs
kの帯域補正を説明する図である。離散フーリエ変換で得られるスペクトルデータDFs
kは複素数であり、振幅情報と位相情報(あるいは実部と虚部)を含む。|DF
k’|はDF
k’の振幅を、∠DF
k’はDF
k’の位相を表す。振幅の補正量ΔAは、重複するサブキャリアの振幅の差分から算出することができ、具体的には補正係数配列の絶対値|COEFF[j]|から計算できる。
【0065】
たとえば、Y本のサブキャリアについて|COEFF[j]|の平均値を算出し、補正係数Gとする。この補正係数Gを|DFs|に乗算すれば、|DFs’|を得ることができる。
【0066】
同様に、位相の補正量Δφは、重複するサブキャリアの位相の差分から算出することができ、具体的には補正係数配列の偏角∠COEFF[j]から計算できる。位相についても同様に、Y本のサブキャリアについて∠COEFF[j]の平均値を算出し、補正量Δφとする。
∠DFs’=∠DFs+Δφ …(2)
とすることができる。
【0067】
なお位相については、X本のサブキャリアすべてに同じ補正量Δφを適用すると、正しい補正ができない場合がある。この場合には、∠COEFF[0:Y-1]を外挿補間し、Δφ[0:X-1]を計算してもよい。この補間には、最小自乗法(LSM:Least Square Method)などを用いることができる。
∠DFs[j]’=∠DFs[j]+Δφ[j] …(2’)
【0068】
帯域補正は、式(3)で行うことができる。
DFs’=G・exp{i×Δφ[j]}×DFs …(3)
【0069】
図8は、プロセッサ130の第2実施例の処理を説明するフローチャートである。ここでは、N個のサブバンドに分割する場合を説明する。
【0070】
テストサイクルkが初期化される(k=0、S200)。そしてローカル周波数fLO1がf0にセットされ(S202)、RFデバイス102が所定のベースバンド信号にもとづきRF信号を再生する(S204)。その結果、0番目のサブバンドFCH0のスペクトルデータDFs0が取得される。(S206)。このサブバンドFCH0については帯域補正は省略される。またスペクトルデータDFs0のうち高周波側の要素がCAL_DATA0として取得される(S208)。
【0071】
続いてテストサイクルkが1にセットされる(S210)。そして、k<Nを満たす間(S212のY)、kをインクリメントしながら(S228)、以下の処理を繰り返す。
【0072】
そしてローカル周波数fLO1がfkにセットされ(S214)、RFデバイス102が所定のベースバンド信号にもとづきRF信号を再生する(S216)。その結果、k番目のサブバンドFCHkのスペクトルデータDFskが取得される(S218)。またスペクトルデータDFskの低周波数側の要素が、COMP_DATAkとして取得される(S220)。
【0073】
前のテストサイクルk-1で得られたCAL_DATAk-1と、現在のテストサイクルkで得られたCOMP_DATAkにもとづいて、DFskを帯域補正し(S222)、補正後のDFsk’を保存する(S224)。またDFsk’のうち、高周波側の要素が新たなCAL_DATAkとして保存される(S226)。
【0074】
k=Nとなると(S212のN)、終了する。この処理により、すべての周波数帯域を補正することができる。
【0075】
(第3実施例)
図2のテストシステム100において、フィルタ206,216はもちろんのこと、第1周波数ミキサ204や第2周波数ミキサ214、あるいは伝送線路も周波数特性を有する。そこで、測定に先立ち、予めテストシステム100のサブバンドFCH
0~FCH
N-1ごとの伝達関数H
0(f)~H
N-1(f)を取得しておくとよい。伝達関数H
0(f)~H
N-1(f)は、ネットワークアナライザによって、フロントエンド回路200の入力端から出力端までのSパラメータ(S
21)を測定して得ることができる。あるいはシミュレーションによって伝達関数を見積もってもよい。
【0076】
そしてスペクトルデータDFk(もしくはDFsk)を、対応する伝達関数Hk(f)を用いて補正する。たとえば、スペクトルデータDFkにHk(f)の逆数1/Hk(f)を乗算することで、適切に補正することができる。
【0077】
これにより、テストシステム100のサブバンドごとの伝送特性の違いをキャンセルすることができる。
【0078】
続いて、テストシステム100の具体的な態様を説明する。
図9は、テストシステム100の一態様(100A)を示すブロック図である。測定器170は、ユーザがもともと所有する既存のハードウェア資源であり、デジタイザ110および任意波形発生器150を含む。
【0079】
この測定器170に、ミリ波BOST(build-off self-test)ユニット160を追加することで、デジタイザ110の帯域を超える広帯域RF信号の評価が可能となる。ミリ波BOSTユニット160は、RFデバイス102が装着されるテストボード140に実装される。ミリ波BOSTユニット160は、上述した受信側のフロントエンド回路200に加えて、送信側のフロントエンド回路250を備える。フロントエンド回路250は、任意波形発生器150が生成するベースバンド信号を用いて高周波キャリアを変調し、送信RF信号を生成する。
【0080】
このテストシステム100Aによれば、デジタイザ110、デジタルモジュール120、プロセッサ130を含む既存のテストシステムに、テストボード140を追加することで、広帯域RF信号の評価が可能となる。
【0081】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0082】
(第1変形例)
図10は、第1変形例に係るテストシステム100Bのブロック図である。フロントエンド回路200Bは、90°移相器220を含み、ローカル信号LO1を90°シフトする。第1周波数ミキサ204Qは、RF信号と移相器220の出力をミキシングし、RF信号のQ成分を抽出する。第1フィルタ206#(#=I,Q)には、対応する第1周波数ミキサ204#の出力が入力される。周波数変換部210#は、対応する第1フィルタ206#の出力を受け、その出力S
#^をデジタイザ110#に供給する。
【0083】
これにより、複素数の形式でベースバンド信号SI^,SQ^を処理することが可能となる。複素数で信号処理することの利点のひとつは、負の周波数を取り扱うことが可能となることであり、ローカル信号LO2の周波数fLO2は、第2周波数ミキサ214の出力SI^,SQ^が、負の周波数成分を含むように決めることができる。たとえばfBP=fLO2とした場合、ベースバンド信号SI^,SQ^は、0Hz(DC)を中心としたスペクトルを有する。A/Dコンバータ114のサンプリングレートが500Mspsである場合、1つのサブバンドの帯域幅を250MHzまで広げることができる。
【0084】
(第2変形例)
周波数変換部210を省略し、ローカル信号LO1の周波数fLO1を高めることで、第1周波数ミキサ204により直接、DC付近の周波数領域のベースバンド信号Sb^を生成してもよい。
【0085】
(第3変形例)
実施の形態では、ローカル信号LO1の周波数fLO1をテストサイクルごとに増大させたがその限りでなく、ローカル信号LO1の周波数をテストサイクルごとに減少させてもよいし、ランダムな順序で変化させてもよい。
【0086】
(第4変形例)
実施の形態では、複数のサブバンドを周波数領域で合成し、ベースバンド信号Sb(t)のスペクトルを測定する例を説明したがその限りでない。たとえばテストシステム100によれば、RF信号に含まれるシンボルの復調や、EVMの測定も可能である。
【0087】
RF信号がOFDM信号である場合を考える。
図2のテストシステム100においては、プロセッサ130によってサブバンドごとの波形データDWそれぞれを、時間軸上でシンボルごとに切り出す。そして周波数領域のスペクトルデータDFに変換し、
図5に示すように周波数領域で合成する。ただし、合成後の広帯域ベースバンド信号のセンター周波数は、DCではなく、IF周波数f
IFとする。
【0088】
デジタル信号処理により、合成後の広帯域ベースバンド信号に対して、cos(2πfIF)、-sin(2πfIF)それぞれを乗算し、直交復調を施す。この演算は、周波数領域で行ってもよいし、時間領域で行ってもよい。そして得られた2つの信号を実部、虚部として離散フーリエ変換することにより、もとのOFDMシンボルを復調できる。
また、離散フーリエ変換で得られた信号情報(すなわち振幅、位相)と、それらの期待値にもとづいてEVMを計算できる。
【0089】
図10の構成ではアナログ信号処理によって直交復調が行われるため、プロセッサ130は、デジタイザ110I,110Qにより得られる波形データをシンボルごとに区切り、得られた波形データを実部、虚部として離散フーリエ変換することにより、もとのOFDMシンボルを復調できる。また、離散フーリエ変換で得られた信号情報(振幅、位相)と、それらの期待値にもとづいてEVMを計算できる。
【0090】
なおOFDMでは、サブキャリアごとにシンボルが割り当てられるが、復調には遅延補正のためのPILOTサブキャリアが必要であり、PILOTサブキャリアは他のサブバンドに含まれる場合があるため、すべてのサブバンドを周波数領域で合成した上で、復調することが好ましい。ただし、LSIテストにおいて、シンボルごとの遅延ゆらぎが無視できる場合には、PILOTサブキャリアは不要であるから、周波数領域でのスペクトルデータDFの合成を行わずに、サブバンドごとに独立して、復調を行うことも可能である。
【0091】
本発明は、OFDMには限定されず、広帯域のRF信号の試験に広く適用できる。
【0092】
実施の形態にもとづき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を離脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能である。
【符号の説明】
【0093】
100 テストシステム
102 RFデバイス
110 デジタイザ
112 アンプ
114 A/Dコンバータ
120 デジタルモジュール
130 プロセッサ
140 テストボード
150 任意波形発生器
160 ミリ波BOSTユニット
170 測定器
200 フロントエンド回路
202 周波数可変オシレータ
204 第1周波数ミキサ
206 第1フィルタ
210 周波数変換部
212 オシレータ
214 第2周波数ミキサ
216 第2フィルタ