(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】擬麻糸の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06B 21/02 20060101AFI20221207BHJP
【FI】
D06B21/02
(21)【出願番号】P 2018150980
(22)【出願日】2018-08-10
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】518286703
【氏名又は名称】甚野 祐宏
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】甚野 祐宏
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-211373(JP,A)
【文献】特開2005-105435(JP,A)
【文献】特開2008-138338(JP,A)
【文献】特公昭47-006591(JP,B1)
【文献】特開昭49-030696(JP,A)
【文献】特開平06-235174(JP,A)
【文献】特公昭44-022233(JP,B1)
【文献】特公昭45-028034(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06B 1/00 - 23/30
D06C 3/00 - 29/00
D06G 1/00 - 5/00
D06H 1/00 - 7/24
D06J 1/00 - 1/12
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
擬麻糸の製造方法であって、
容器内に染液を充填し、原糸の糸束を
前記染液入りの前記容器の中に浸漬し、前記糸束を染色する染色工程と、
前記容器内に洗浄液を充填し、染色後の前記糸束を前記洗浄液入りの容器の中で洗浄する洗浄工程と、
前記容器内に糊を充填し、前記糸束を前記糊入りの
前記容器の中に浸漬し、前記糸束に糊付けを行う糊付け工程と、
糊付け後の前記糸束を脱水機で脱水する脱水工程と、
脱水後の前記糸束を乾燥機で乾燥させる乾燥工程と
を含む、擬麻糸の製造方法。
【請求項2】
前記脱水工程は、前記糸束を常圧下で脱水する工程である、
請求項1に記載の擬麻糸の製造方法。
【請求項3】
前記脱水工程は、前記糸束を常温下で脱水する工程である、
請求項1又は2に記載の擬麻糸の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥機は、温風乾燥機である、
請求項1から3のいずれかに記載の擬麻糸の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥工程は、前記糸束を常圧下で乾燥させる工程である、
請求項1から4のいずれかに記載の擬麻糸の製造方法。
【請求項6】
前記糊付け工程は、前記糊に加え、前記糊以外の機能剤を入れた前記容器内で前記糸束を浸漬する工程である、
請求項1から5のいずれかに記載の擬麻糸の製造方法。
【請求項7】
前記機能剤には、紫外線カット剤及び清涼剤の少なくとも一方が含まれる、
請求項6に記載の擬麻糸の製造方法。
【請求項8】
前記染色工程及び前記洗浄工程は、前記糊付け工程の前に実施される、
請求項
1から7のいずれかに記載の擬麻糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擬麻糸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、擬麻加工という糸の加工法が知られている。擬麻加工とは、典型的には綿やレーヨン等のセルロース系繊維からなる原糸に、麻のような感触及び光沢を与える加工法である。このような加工法としては、例えば、原糸をロールに巻き付けて引っ張りながら圧熱するカレンダー製法や、硫酸で原糸の表面を溶解させて硬くする方法が知られている。また、その他にも、原糸の表面に糊をコーティングする方法もある。この方法では、従来、最終的に製造される擬麻糸の品質を保持するために、糊の付着ムラが生じないよう、原糸の1本1本に糊がコーティングされる。特許文献1では、原糸が糸巻から繰り出され、ガイドに案内されながら糊入りの容器内を搬送されることにより、その表面への糊付けが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、以上のように、原糸の1本1本に糊付けを行う方法では、加工の手間が非常に大きい。このことは、擬麻糸の量産を妨げ、コストダウンを阻み得る。
【0005】
本発明は、加工の手間の少なく、品質の良好な擬麻糸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点に係る擬麻糸の製造方法は、原糸の糸束を糊入りの容器の中に浸漬し、前記糸束に糊付けを行う糊付け工程と、糊付け後の前記糸束を脱水機で脱水する脱水工程と、脱水後の前記糸束を乾燥機で乾燥させる乾燥工程とを含む。
【0007】
本発明の第2観点に係る擬麻糸の製造方法は、第1観点に係る擬麻糸の製造方法であって、前記脱水工程は、前記糸束を常圧下で脱水する工程である。
【0008】
本発明の第3観点に係る擬麻糸の製造方法は、第1観点又は第2観点に係る擬麻糸の製造方法であって、前記脱水工程は、前記糸束を常温下で脱水する工程である。
【0009】
本発明の第4観点に係る擬麻糸の製造方法は、第1観点から第3観点のいずれかに係る擬麻糸の製造方法であって、前記乾燥機は、温風乾燥機である。
【0010】
本発明の第5観点に係る擬麻糸の製造方法は、第1観点から第4観点のいずれかに係る擬麻糸の製造方法であって、前記乾燥工程は、前記糸束を常圧下で乾燥させる工程である。
【0011】
本発明の第6観点に係る擬麻糸の製造方法は、第1観点から第5観点のいずれかに係る擬麻糸の製造方法であって、前記糊付け工程は、前記糊に加え、前記糊以外の機能剤を入れた前記容器内で前記糸束を浸漬する工程である。
【0012】
本発明の第7観点に係る擬麻糸の製造方法は、第6観点に係る擬麻糸の製造方法であって、前記機能剤には、紫外線カット剤及び清涼剤の少なくとも一方が含まれる。
【0013】
本発明の第8観点に係る擬麻糸の製造方法は、第1観点から第7観点のいずれかに係る擬麻糸の製造方法であって、前記糸束を染液の中に浸漬し、前記糸束を染色する染色工程と、染色後の前記糸束を洗浄する洗浄工程とをさらに含む。
【0014】
本発明の第9観点に係る擬麻糸の製造方法は、第8観点に係る擬麻糸の製造方法であって、前記染色工程及び前記洗浄工程は、前記糊付け工程の前に実施される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、原糸の糸束を糊入りの容器の中に浸漬した後、糸束を脱水機で脱水し、乾燥機で乾燥させることにより、擬麻糸が製造される。このように、糸束ごと糊入りの容器の中に浸漬することにより糊付けを行うため、加工の手間が少なくなる。また、糊への浸漬後、糸束を乾燥させる前に脱水することで、原糸に対する糊の付着ムラが抑制され、品質の良好な擬麻糸を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る擬麻糸の製造工程を説明するフロー図。
【
図2】
図1の製造工程で使用される一連の装置群を説明する図。
【
図6】製造工程で使用される乾燥機の概略側方断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る擬麻糸の製造方法について説明する。
【0018】
<1.擬麻糸の製造方法>
図1は、本実施形態に係る擬麻糸の製造工程S1~S6を説明するフロー図である。ここでの擬麻糸は、原糸52の表面全体にムラなく糊をコーティングすることにより製造され、原糸52の表面に形成される糊の層により、麻のような感触及び光沢が与えられる。原糸52の種類は、特に限定されず、典型的には、綿やレーヨン等のセルロース系繊維からなる糸であるが、擬麻加工される原糸52は、麻であってもよい。
【0019】
図2は、
図1の製造工程S1~S6で使用される一連の装置群1~3を説明する図である。同図に示すように、製造工程S1~S6では、原糸52が巻き取られたチーズ5が、染色機1、脱水機2及び乾燥機3に順次送られ、処理される。
図3は、チーズ5の縦断面図である。チーズ5とは、筒状のボビン51の外周面に原糸52を巻き付けた糸束である。なお、原糸52は、ボビン51に巻き取られたロールの形態のまま、擬麻糸へと加工されるが、加工後の擬麻糸のロールも、加工前の原糸52のロールと区別せずに、チーズ5と表すことがある。染色機1は、原糸52の染色工程S1、並びにこれに続く中和工程S2及び洗浄工程S3だけでなく、原糸52への糊付け工程S4にも使用される。以下、
図2の各装置1~3の構成について説明した後、擬麻糸の製造工程S1~S6の流れについて説明する。
【0020】
<2.装置の構成>
<2-1.染色機>
図4は、染色機1の概略斜視図である。染色機1は、製造工程S1~S4で使用される。染色機1は、一般にチーズ染色機とも呼ばれ、チーズ5を染液に浸漬しながら、チーズ5のボビン51に巻き取られた原糸52を染色するための機械である。ただし、本実施形態では、染色機1は、原糸52の染色のみならず、糊付けにも使用される。
【0021】
図4に示すように、染色機1は、染色槽10と、染色槽10の上部開口を開閉可能な蓋11とを有する。蓋11は、染色槽10内の空間を密閉することができる。染色槽10は、有底の円筒状の容器であり、染色槽10内には、多数のチーズ5を装填可能なキャリア15が収容される。キャリア15は、円板状のステージ16と、ステージ16上の中央において起立するシャフト17と、同じくステージ16上でシャフト17の周囲において互いに間隔をあけて起立する複数本のスピンドル18とを有する。チーズ5は、ボビン51の中心において上下方向に延びる貫通口をスピンドル18に挿入することにより、キャリア15に保持される。このとき、各スピンドル18に対し、複数個のチーズ5が積み重ねられるように支持される。
【0022】
染色槽10には、染液や、洗浄液、糊液等の処理液を染色槽10内で循環させるためのポンプ12が取り付けられている。また、染色槽10には、処理液を染色槽10内に導入し、そこから排出するための図示されない各種配管も連結されている。ポンプ12を介して染色槽10に送られる処理液の流量、ひいては染色槽10内の圧力は、制御装置13により制御される。本実施形態の染色機1は、高温・高圧式である。染色槽10内の温度及び圧力の制御も、制御装置13により制御される。
【0023】
シャフト17の上端には、吊り輪17aが取り付けられており、この吊り輪17aにロープ等を通してこれを上げ下げすることにより、キャリア15が昇降される。これにより、チーズ5が装填されたキャリア15を、染色槽10内に容易に収容し、またそこから容易に取り出すことができる。
【0024】
<2-2.脱水機>
図5は、脱水機2の外観斜視図である。脱水機2は、製造工程S5で使用される。脱水機2は、一般にチーズ脱水機とも呼ばれ、チーズ5を脱水するための機械である。
【0025】
脱水機2は、本実施形態では、遠心式である。
図5に示すように、脱水機2は、脱水槽20と、脱水槽20の上部開口を開閉可能な蓋21とを有する。蓋21は、脱水槽20内の空間を密閉することができる。脱水槽20は、有底の円筒状の容器であり、脱水槽20内には、多数のチーズ5を装填可能なキャリア25が収容される。キャリア25は、円板状のステージ26と、ステージ26上で概ねステージ26の外周に沿って互いに間隔をあけて起立する複数本のスピンドル28とを有する。チーズ5は、ボビン51の中心において上下方向に延びる貫通口をスピンドル28に挿入することにより、キャリア25に保持される。
【0026】
ステージ26の下部中央には、モーター22が取り付けられている。モーター22は、ステージ26をターンテーブルの如くその中心軸周りで高速回転させる。これにより、ステージ26の外周に沿って配列されるチーズ5が高速回転し、遠心力によりチーズ5が脱水される。モーター22の回転速度は、制御装置23により制御される。
【0027】
<2-3.乾燥機>
図6は、乾燥機3の概略側方断面図である。乾燥機3は、製造工程S6で使用される。乾燥機3は、チーズ5を乾燥させるための機械である。
【0028】
乾燥機3は、本実施形態では、送風式である。
図6に示すように、乾燥機3は、乾燥室30と、乾燥室30内に気流を発生させる送風機31とを有する。また、本実施形態の乾燥機3は、温風式であり、加熱装置32をさらに有する。加熱装置32は、送風機31を介して乾燥室30内に送風される空気を加熱し、乾燥室30内に収容されたチーズ5に温風を当て、これを乾燥させる。送風機31及び加熱装置32により発生する気流の温度及び速度は、制御装置33により制御される。
【0029】
<3.製造工程の流れ>
次に、
図1を参照しつつ、擬麻糸の製造工程S1~S6について説明する。まず、工程S1として、原糸52が巻かれたチーズ5を多数用意し、これらを染色機1のキャリア15の各スピンドル18に積み重ねるようにしてセットする。チーズ5の1つ当たりの原糸52の量は、後の糊付けの工程S4における糊の付着ムラを防止する観点からは、800g以下とすることが好ましく、700g以下とすることがより好ましく、600g以下とすることがさらに好ましく、約500gとすることがより好ましい。そして、多数のチーズ5が装填されたキャリア15を染色槽10内に収容し、染色槽10内に染液を充填する。こうして、チーズ5を染液の中に浸漬し、チーズ5に巻かれた原糸52を染色する。このとき、色ムラのない染色を実現するために、ポンプ12を駆動し、染色槽10内の染液を循環させることが好ましい。原糸52及び染液の種類や、要求される染めの程度等にもよるが、チーズ5の染液への浸漬時間は、典型的には、2~3時間程度である。工程S1では、染色槽10内を高温高圧に維持し、染色の効果を促進することもでき、このとき、例えば、染色槽10内の圧力を0.3MPa程度、染液を130℃程度とすることができる。
【0030】
工程S1の染色が終了すると、工程S2に移る。工程S2では、染色槽10内の染液を排出し、新たに染色槽10内に中和液を充填する。典型的には、染液はアルカリ性であるため、中和液としては、酸性の液が使用される。そして、チーズ5を中和液の中に浸漬し、チーズ5に巻かれた原糸52を中和する。このとき、ムラなく中和するために、ポンプ12を駆動し、染色槽10内の中和液を循環させることが好ましい。原糸52、染液及び中和液の種類等にもよるが、チーズ5の中和液への浸漬時間は、典型的には、0.5時間程度である。工程S2では、染色槽10内をやや高圧に維持し、中和の効果を促進することもでき、このとき、例えば、染色槽10内を0.2MPa程度、中和液を70℃程度とすることができる。
【0031】
工程S2の中和が終了すると、工程S3に移る。工程S3では、染色槽10内の中和液を排出し、新たに染色槽10内に洗浄液を充填する。工程S3は、ソーピングとも呼ばれ、洗浄液としては、典型的には、石鹸水が使用される。工程S3では、チーズ5を洗浄液の中に浸漬し、チーズ5に巻かれた原糸52を洗浄する。このとき、ムラのなく洗浄するために、ポンプ12を駆動し、染色槽10内の洗浄液を循環させることが好ましい。原糸52、染液、中和液及び洗浄液の種類等にもよるが、チーズ5の洗浄液への浸漬時間は、典型的には、0.5時間程度である。工程S3では、染色槽10内を高圧に維持し、洗浄の効果を促進することもでき、このとき、例えば、染色槽10内の圧力を0.3MPa程度、洗浄液を80℃程度とすることができる。
【0032】
工程S3の洗浄が終了すると、工程S4に移る。工程S4では、染色槽10内の洗浄液を排出し、新たに染色槽10内に糊液を充填する。工程S4は、原糸52の表面に糊を付着させ、原糸52を擬麻糸へと加工する工程であり、糊液としては、擬麻加工に適した調合の糊液が使用される。工程S4では、チーズ5を糊液の中に浸漬し、チーズ5に巻かれた原糸52の表面に糊付けを行う。このとき、ムラなく糊付けするために、ポンプ12を駆動し、染色槽10内の糊液を循環させることが好ましい。原糸52の種類等にもよるが、チーズ5の糊液への浸漬時間は、典型的には、1時間程度である。工程S4では、染色槽10内を高温高圧に維持し、糊付けの効果を促進することもでき、このとき、例えば、染色槽10内を0.3MPa程度、糊液を110℃程度とすることができる。
【0033】
工程S4では、糊液に、糊に加え、糊以外の各種機能剤を混合することもできる。機能剤とは、例えば、紫外線カット剤や、キシリトール等の清涼剤である。これにより、最終的に製造される擬麻糸に各種機能を付与することができる。なお、機能剤は、工程S1で染液に混ぜることもできる。しかしながら、染液の中和工程S2や洗浄工程S3等で機能剤が一部流れてしまう可能性があるため、チーズ5を機能剤入りの液に浸漬する工程は、中和工程S2及び洗浄工程S3の後に行うことが好ましい。また、工程S1~S4とは別の工程において、チーズ5を機能剤入りの液に浸漬することもできる。この場合、工程を簡略化する観点からは、糊付け工程S4において、チーズ5を糊とともに機能剤に浸漬することが好ましい。
【0034】
工程S4の糊付けが終了すると、工程S5に移る。工程S5では、キャリア15を染色槽10から取り出し、キャリア15からチーズ5を取り外し、チーズ5を新たに脱水機2のキャリア25の各スピンドル28にセットする。そして、脱水機2のモーター22を駆動してステージ26を高速回転させる。これにより、ステージ26上のスピンドル28に固定されたチーズ5も高速回転し、チーズ5に巻かれた擬麻糸に含まれる水分が遠心力により飛び、擬麻糸が脱水される。原糸52の種類や量、脱水機2の回転数等にもよるが、脱水時間は、典型的には、5分程度である。なお、このとき、擬麻糸の含水率が、20%以下になるまで脱水することが好ましく、10%~15%になるまで脱水することがより好ましい。
【0035】
工程S5の脱水中は、チーズ5を常圧下におくことが好ましい。工程S4の糊付け後、擬麻糸の含水率が高い状態でチーズ5を高圧環境下におくと、原糸52の表面に付着した糊が圧力で移動し、最終的に製造される擬麻糸において糊の付着ムラが生じることがあるからである。また、工程S5の脱水中は、チーズ5に対して送風しないことが好ましい。工程S4の糊付け後、擬麻糸の含水率が高い状態でチーズ5に送風すると、原糸52の表面に付着した糊が風で移動し、最終的に製造される擬麻糸において糊の付着ムラが生じることがあるからである。また、さらに付着ムラを抑制する観点からは、工程S5の脱水中は、チーズ5を常温下におくことが好ましい。
【0036】
工程S5の脱水が終了すると、工程S6に移る。工程S6では、脱水槽20からチーズ5を取り出し、チーズ5を新たに乾燥機3の乾燥室30内に収容する。そして、乾燥機3の送風機31及び加熱装置32を駆動し、チーズ5を温風環境に晒す。工程S6は、チーズ5に巻かれた脱水後の擬麻糸を乾燥させる工程である。原糸52及び糊の種類等にもよるが、乾燥時間は、典型的には、4時間程度である。また、温風の温度は、好ましくは、70℃程度とすることができる。
【0037】
工程S6の乾燥中は、チーズ5を常圧下におくことが好ましい。工程S5の脱水後、擬麻糸の含水率が依然として高い状態でチーズ5を高圧環境下におくと、擬麻糸の風合いが変化することがあるからである。なお、温風環境下の方が、疑麻糸の乾燥が促進されるが、工程S6では、チーズ5に常温の空気を送風することもできる。
【0038】
<4.特徴>
上記実施形態では、原糸52の糸束であるチーズ5を糊液入りの染色槽10の中に浸漬した後、チーズ5を脱水機2で脱水し、さらにその後、乾燥機3で乾燥させることにより、擬麻糸が製造される。このように、糸束ごと糊液中に浸漬することにより糊付けを行うため、糊付けの手間が大幅に簡略化される。また、糊液への浸漬後、糸束を乾燥させる前に脱水することで、原糸52に対する糊の付着ムラが抑制される。なお、仮に脱水工程S5を省略し、糊付け工程S4の後、直ちに乾燥工程S6を実施すると、擬麻糸に多分に含まれる水分により、糊が擬麻糸の表面を移動してしまい、糊の付着ムラが生じ得る。しかしながら、上記実施形態では、乾燥工程S6の前に脱水工程S5を経ることにより、糊の付着ムラのない、品質の良好な擬麻糸を製造することができる。また、脱水工程S5を実施せずに、含水率が高いまま乾燥工程S6を実施すると、乾燥時間が長時間に及んでしまう。本発明者の実験によると、脱水工程S5を経ていない含水率が30%以上の糸束を、上記と同様の乾燥機で乾燥させたところ、5時間以上の時間を要した(上記のとおり脱水した後に、上記と同様の乾燥機で乾燥させた場合には、4時間で済んだ)。
【0039】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0040】
<5-1>
上記実施形態では、糊液中にチーズ5を浸漬する糊付け工程S4において、チーズ染色機1の染色槽10が使用されたが、これに限られず、チーズを浸漬する容器としては、これに適した任意の容器を使用することができる。
【0041】
<5-2>
乾燥工程S6の後に、高温高圧乾燥機を使用して、チーズ5を高圧下で温風環境に晒してもよい。この場合、最終的に製造される擬麻糸にハリやコシを出すことができる。
【符号の説明】
【0042】
1 染色機
10 染色槽(容器)
2 脱水機
3 乾燥機
5 チーズ
52 原糸