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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】油圧供給装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/00 20060101AFI20221207BHJP
【FI】
F16H61/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018161487
(22)【出願日】2018-08-30
(65)【公開番号】P2020034094
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅野 薫
(72)【発明者】
【氏名】堀江 信也
(72)【発明者】
【氏名】迫田 久恵
(72)【発明者】
【氏名】木立 大介
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-217805(JP,A)
【文献】特開2018-112240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/12
F16H 61/16-61/24
F16H 61/66-61/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧供給源からオイルが供給される元圧路と、
前進クラッチに接続された前進供給路と、
後進ブレーキに接続された後進供給路と、
前記オイルが排出される排出路と、
前記元圧路、前記前進供給路、前記後進供給路および前記排出路が接続され、第1状態において前記元圧路と前記前進供給路とを連通させるとともに前記後進供給路を前記排出路に接続させ、第2状態において前記元圧路と前記後進供給路とを連通させるとともに前記前進供給路を前記排出路に接続させ、前記第1状態と前記第2状態との間の中間状態において、前記前進供給路と前記後進供給路とを接続させるとともに、前記前進供給路および前記後進供給路を前記排出路に接続させず、前記前進供給路および前記後進供給路の油圧を一定に保持するバルブ装置と、
を備える油圧供給装置。
【請求項2】
前記第1状態は、シフト装置が前進用のDレンジにシフトされた状態であり、
前記第2状態は、前記シフト装置が後進用のRレンジにシフトされた状態であり、
前記中間状態は、前記シフト装置がニュートラル用のNレンジにシフトされた状態である請求項1に記載の油圧供給装置。
【請求項3】
前記シフト装置は、前記Rレンジと前記Nレンジとの間でシフト可能であるとともに、前記Nレンジと前記Dレンジとの間でシフト可能であり、前記Rレンジと前記Dレンジとの間では直接シフトすることができない請求項2に記載の油圧供給装置。
【請求項4】
前記バルブ装置は、
ハウジング、および、前記ハウジング内に移動可能に挿通されたバルブスプールを備え、
前記ハウジングは、
前記元圧路に接続される元圧ポートと、
前記前進供給路に接続される第1前進ポートおよび第2前進ポートと、
前記後進供給路に接続される第1後進ポートおよび第2後進ポートと、
を備え、
前記バルブスプールは、第1ランド、第2ランドおよび第3ランドを備え、
前記第1状態において、前記元圧ポートおよび前記第2前進ポートが前記第1ランドおよび前記第2ランドの間で開放され、前記第1前進ポートが前記第2ランドおよび前記第3ランドの間で開放され、
前記第2状態において、前記元圧ポートおよび前記第2後進ポートが前記第1ランドおよび前記第2ランドの間で開放され、前記第1後進ポートが前記第2ランドおよび前記第3ランドの間で開放され、
前記中間状態において、前記元圧ポートが前記第1ランドおよび前記第2ランドの間で開放され、前記第1前進ポートおよび前記第1後進ポートが前記第2ランドおよび前記第3ランドの間で開放され、前記第2前進ポートが前記第2ランドで塞がれ、前記第2後進ポートが前記第1ランドで塞がれる請求項1から3のいずれか1項に記載の油圧供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、前後進を切り換えるための前後進切換機構、および、前後進切換機構にオイルを供給する油圧供給装置を備えたものがある。前後進切換機構は、前進クラッチと、後進ブレーキとを備える。油圧供給装置は、前進クラッチおよび後進ブレーキに供給するオイルの流路を切り換えるためのバルブ装置を備える(例えば、特許文献1)。
【0003】
油圧供給装置では、シフトレバーがDレンジにシフトされると、バルブ装置が前進クラッチにオイルを供給する。これにより、前進クラッチが接続状態となり、自動車が前進可能となる。また、油圧供給装置では、シフトレバーがRレンジにシフトされると、バルブ装置が後進ブレーキにオイルを供給する。これにより、後進ブレーキが接続状態となり、自動車が後進可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-162931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シフトレバーには、DレンジとRレンジとの間にニュートラル状態にするNレンジが設けられている。そして、シフトレバーがDレンジからNレンジにシフトされると、前進クラッチに供給されていたオイルが排出される。また、シフトレバーがRレンジからNレンジにシフトされると、後進ブレーキに供給されていたオイルが排出される。
【0006】
そうすると、シフトレバーがDレンジからNレンジを介してRレンジにシフトされる場合、Nレンジにおいて前進クラッチに供給されていたオイルが排出された後、Rレンジにおいて後進ブレーキにオイルがあらためて供給されることになる。したがって、Rレンジにシフトされた際に、後進ブレーキが接続状態になるまでに時間がかかってしまうことになる。また、シフトレバーがRレンジからNレンジを介してDレンジにシフトされる場合も同様に、前進クラッチが接続状態になるまでに時間がかかってしまうことになる。
【0007】
そこで、本発明は、シフト切換時の応答性を向上することが可能な油圧供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の油圧供給装置は、油圧供給源からオイルが供給される元圧路と、前進クラッチに接続された前進供給路と、後進ブレーキに接続された後進供給路と、前記オイルが排出される排出路と、前記元圧路、前記前進供給路、前記後進供給路および前記排出路が接続され、第1状態において前記元圧路と前記前進供給路とを連通させるとともに前記後進供給路を前記排出路に接続させ、第2状態において前記元圧路と前記後進供給路とを連通させるとともに前記前進供給路を前記排出路に接続させ、前記第1状態と前記第2状態との間の中間状態において、前記前進供給路と前記後進供給路とを接続させるとともに、前記前進供給路および前記後進供給路を前記排出路に接続させず、前記前進供給路および前記後進供給路の油圧を一定に保持する
【0009】
前記第1状態は、シフト装置が前進用のDレンジにシフトされた状態であり、前記第2状態は、前記シフト装置が後進用のRレンジにシフトされた状態であり、前記中間状態は、前記シフト装置がニュートラル用のNレンジにシフトされた状態であるとよい。
【0010】
前記シフト装置は、前記Rレンジと前記Nレンジとの間でシフト可能であるとともに、前記Nレンジと前記Dレンジとの間でシフト可能であり、前記Rレンジと前記Dレンジとの間では直接シフトすることができないとよい。
【0011】
前記バルブ装置は、ハウジング、および、前記ハウジング内に移動可能に挿通されたバルブスプールを備え、前記ハウジングは、前記元圧路に接続される元圧ポートと、前記前進供給路に接続される第1前進ポートおよび第2前進ポートと、前記後進供給路に接続される第1後進ポートおよび第2後進ポートと、を備え、前記バルブスプールは、第1ランド、第2ランドおよび第3ランドを備え、前記第1状態において、前記元圧ポートおよび前記第2前進ポートが前記第1ランドおよび前記第2ランドの間で開放され、前記第1前進ポートが前記第2ランドおよび前記第3ランドの間で開放され、前記第2状態において、前記元圧ポートおよび前記第2後進ポートが前記第1ランドおよび前記第2ランドの間で開放され、前記第1後進ポートが前記第2ランドおよび前記第3ランドの間で開放され、前記中間状態において、前記元圧ポートが前記第1ランドおよび前記第2ランドの間で開放され、前記第1前進ポートおよび前記第1後進ポートが前記第2ランドおよび前記第3ランドの間で開放され、前記第2前進ポートが前記第2ランドで塞がれ、前記第2後進ポートが前記第1ランドで塞がれるとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シフト切換時の応答性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】自動車の駆動系の構成を示す図である。
図2】前後進切換機構の断面図である。
図3】油圧供給装置の構成を示す図である。
図4】Rレンジにおける油圧供給装置を説明する図である。
図5】Nレンジにおける油圧供給装置を説明する図である。
図6】Dレンジにおける油圧供給装置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、自動車1の駆動系の構成を示す図である。図1に示すように、自動車1は、駆動源としてエンジン2を備える。エンジン2は、クランクシャフト2aを有し、燃焼室において燃料を燃焼させることによりピストンを往復動させてクランクシャフト2aを回転させる。
【0016】
クランクシャフト2aには、トルクコンバータ3が接続される。トルクコンバータ3は、フロントカバー3a、ポンプインペラ3b、タービンランナ3c、タービンシャフト3dおよびステータ3eを備える。フロントカバー3aは、クランクシャフト2aに接続され、内部に作動流体が封入される。ポンプインペラ3bは、フロントカバー3aに固定される。タービンランナ3cは、フロントカバー3a内において、ポンプインペラ3bに対向配置される。タービンランナ3cは、タービンシャフト3dが接続される。ステータ3eは、ポンプインペラ3bおよびタービンランナ3cの間の内周側に配置され、ケーシング27(図2参照)に固定される。
【0017】
ポンプインペラ3bおよびタービンランナ3cは、多数のブレードが設けられており、ポンプインペラ3bが回転することで作動流体が外周側に送出され、作動流体をタービンランナ3cに送ることでタービンランナ3cを回転させる。これにより、クランクシャフト2aからタービンランナ3cに動力が伝達される。つまり、エンジン2の動力がタービンシャフト3dに伝達される。
【0018】
ステータ3eは、タービンランナ3cから送り出された作動流体の流動方向を変化させてポンプインペラ3bに還流させ、ポンプインペラ3bの回転を促進させる。そのため、トルクコンバータ3は、伝達動力を増幅させることができる。
【0019】
タービンシャフト3dには、前後進切換機構4が接続される。前後進切換機構4は、ダブルピニオン式の遊星歯車20、前進クラッチ40および後進ブレーキ50を備える。前後進切換機構4は、前進クラッチ40および後進ブレーキ50の接続状態および切断状態が切り換えられることにより、エンジン2の動力の伝達径路を切り換えてプライマリ軸5の回転方向を切り換える。なお、前後進切換機構4について、詳しくは後述する。
【0020】
プライマリ軸5には、無段変速機6が接続される。無段変速機6は、プライマリプーリ7、セカンダリプーリ8、ベルト9を含む構成とされる。プライマリプーリ7は、プライマリ軸5に接続される。セカンダリプーリ8は、プライマリ軸5に対して平行に配置された平行軸11に接続される。ベルト9は、例えばリンクプレートをローラピン10で連結したチェーンベルトで構成される。ベルト9は、プライマリプーリ7とセカンダリプーリ8との間に張架され、プライマリプーリ7とセカンダリプーリ8との間で動力を伝達する。
【0021】
プライマリプーリ7は、一対のシーブ7a、7bで構成される。一対のシーブ7a、7bは、プライマリ軸5の軸方向に対向して設けられる。また、一対のシーブ7a、7b双方の対向面が、略円錐形状のコーン面7cとなっており、このコーン面7cによってベルト9が張架される溝が形成されている。
【0022】
同様に、セカンダリプーリ8は、一対のシーブ8a、8bで構成される。一対のシーブ8a、8bは、平行軸11の軸方向に対向して設けられる。また、一対のシーブ8a、8b双方の対向面が、略円錐形状のコーン面8cとなっており、このコーン面8cによってベルト9が張架される溝が形成される。
【0023】
そして、プライマリプーリ7のシーブ7bは、油圧により、プライマリ軸5の軸方向の位置が可変に構成されている。また、セカンダリプーリ8のシーブ8aは、油圧により、平行軸11の軸方向の位置が可変に構成される。
【0024】
このように、プライマリプーリ7、セカンダリプーリ8は、一対のシーブ7a、7b、および、一対のシーブ8a、8bそれぞれの対向間隔が可変である。そのため、コーン面7c、8cの対向間隔が変わり、ベルト9が張架される溝幅が変更されると、ベルト9の張架される位置が変わる。
【0025】
プライマリプーリ7を例に挙げると、コーン面7cの対向間隔が広くなり、ベルト9が張架される溝の幅が広くなると、コーン面7cのうち、ベルト9の張架される位置が内径側となり、ベルト9の巻き付け径が小さくなる。一方、コーン面7cの対向間隔が狭くなり、ベルト9が張架される溝の幅が狭くなると、コーン面7cのうち、ベルト9の張架される位置が外径側となり、巻き付け径が大きくなる。こうして、無段変速機6は、プライマリ軸5と平行軸11との間の伝達動力を無段変速する。
【0026】
平行軸11は、ギヤ機構12を介して出力軸13に接続される。出力軸13は、車輪14に接続され、ギヤ機構12を介して伝達された動力を車輪14に出力する。
【0027】
図2は、前後進切換機構4の断面図である。図2に示すように、前後進切換機構4の遊星歯車20(図1参照)は、サンギヤ21、複数の第1ピニオンギヤ22a、複数の第2ピニオンギヤ22b、ピニオンシャフト23、リングギヤ24およびキャリア25を備える。サンギヤ21は、タービンシャフト3dに接続され、タービンシャフト3dと一体的に回転する。第1ピニオンギヤ22aおよび第2ピニオンギヤ22bは、ピニオンシャフト23に回転可能に支持される。サンギヤ21は、第1ピニオンギヤ22aに噛合する。第1ピニオンギヤ22aは、第2ピニオンギヤ22bに噛合する。第2ピニオンギヤ22bは、リングギヤ24に噛合する。
【0028】
ピニオンシャフト23の両端は、キャリア25に支持されている。キャリア25は、プライマリ軸5に接続され、プライマリ軸5と一体的に回転する。プライマリ軸5は、タービンシャフト3dと同軸上に配置される。
【0029】
タービンシャフト3dには、クラッチドラム26が連結される。クラッチドラム26の内周面、および、キャリア25の外周面の間には、前進クラッチ40が介在される。前進クラッチ40は、摩擦プレート41、被係合プレート42、ピストン部材43、係止部材44およびバネ45を備える。摩擦プレート41は、タービンシャフト3dの軸方向(以下では、単に軸方向と呼ぶ)に沿って複数離隔して設けられる。摩擦プレート41は、軸方向に移動可能にクラッチドラム26の内周面に設けられる。
【0030】
被係合プレート42は、軸方向に沿って、複数離隔して設けられる。被係合プレート42は、キャリア25の外周面に、摩擦プレート41と対向するように設けられる。
【0031】
ピストン部材43は、軸方向に沿って移動可能に、クラッチドラム26の内周面側に配置される。係止部材44は、ピストン部材43に対向するように、クラッチドラム26の内周面側に固定される。ピストン部材43と係止部材44との間には、バネ45が介在される。
【0032】
クラッチドラム26の内周面と、ピストン部材43とに挟まれた空間は、油圧室46として形成される。油圧室46には、詳しくは後述するように、オイルが供給される。
【0033】
前進クラッチ40は、油圧室46にオイルが供給されていない切断状態において、バネ45の弾性力により、ピストン部材43が摩擦プレート41から離隔する方向に付勢されている。このとき、前進クラッチ40では、摩擦プレート41と被係合プレート42とが離隔し、動力が伝達されない。
【0034】
一方、油圧室46にオイルが供給された接続状態では、供給されたオイルによる油圧によって、バネ45の弾性力に抗してピストン部材43が摩擦プレート41側に移動される。このとき、前進クラッチ40では、摩擦プレート41がピストン部材43によって被係合プレート42側に移動され、摩擦プレート41と被係合プレート42とが接触する。これにより、前後進切換機構4は、クラッチドラム26とキャリア25とが一体的に回転するとともに、キャリア25およびサンギヤ21が一体的に回転する。
【0035】
また、リングギヤ24およびケーシング27の間には、後進ブレーキ50が介在される。後進ブレーキ50は、摩擦プレート51、被係合プレート52、ピストン部材53、係止部材54およびバネ55を備える。摩擦プレート51は、軸方向に沿って複数離隔して設けられる。摩擦プレート51は、軸方向に移動可能にケーシング27の内周面に設けられる。
【0036】
被係合プレート52は、軸方向に沿って、複数離隔して設けられる。被係合プレート52は、リングギヤ24の外周面に、被係合プレート52と対向するように設けられる。
【0037】
ピストン部材53は、軸方向に沿って移動可能に、ケーシング27の内周面側に配置される。係止部材54は、ピストン部材53に対向するように、ケーシング27の内周面側に固定される。ピストン部材53と係止部材54との間には、バネ55が介在される。
【0038】
ケーシング27の内周面と、ピストン部材53とに挟まれた空間は、油圧室56として形成される。油圧室56には、詳しくは後述するように、オイルが供給される。
【0039】
後進ブレーキ50は、油圧室56にオイルが供給されていない切断状態において、バネ55の弾性力により、ピストン部材53が摩擦プレート51から離隔する方向に付勢されている。このとき、後進ブレーキ50では、摩擦プレート51と被係合プレート52とが離隔する。これにより、リングギヤ24は、回転自在となる。
【0040】
一方、油圧室56にオイルが供給された接続状態では、供給されたオイルによる油圧によって、バネ55の弾性力に抗してピストン部材53が摩擦プレート51側に移動される。このとき、後進ブレーキ50では、摩擦プレート51がピストン部材53によって被係合プレート52側に移動され、摩擦プレート51と被係合プレート52とが接触する。これにより、リングギヤ24は、ケーシング27に固定され、回転不能となる。
【0041】
前後進切換機構4は、後述するシフトレバー(シフト装置)200(図3参照)がDレンジに移動されると、油圧室46にオイルが供給されて前進クラッチ40が接続状態になるとともに、油圧室56にオイルが供給されずに後進ブレーキ50が切断状態になる。そうすると、プライマリ軸5は、タービンシャフト3dと同一方向に回転する(正回転する)。
【0042】
また、前後進切換機構4は、シフトレバー200がRレンジに移動されると、油圧室46にオイルが供給されずに前進クラッチ40が切断状態になるとともに、油圧室56にオイルが供給されて後進ブレーキ50が接続状態になる。そうすると、プライマリ軸5は、タービンシャフト3dと逆方向に回転する(逆回転する)。
【0043】
このように、前後進切換機構4は、前進クラッチ40および後進ブレーキ50を接続状態または切断状態に切り換えることにより、プライマリ軸5の回転方向、つまり、自動車1の進行方向を切り換えることができる。
【0044】
図3は、油圧供給装置100の構成を示す図である。なお、図3では、前後進切換機構4に対してオイルを供給する油圧系のみ示し、他の部品へのオイルを供給する油圧系については省略する。
【0045】
図3に示すように、自動車1は、油圧供給装置100を備える。油圧供給装置100は、オイルポンプ60、オイルパン61、バルブ装置102およびシフトレバー200を備える。オイルポンプ60は、油圧供給源であり、エンジン2(図1参照)の回転により駆動する機械式ポンプである。なお、オイルポンプ60は、電気によって駆動する電気式ポンプであってもよい。
【0046】
シフトレバー200は、パーキング用のPレンジ、後進用のRレンジ、ニュートラル用のNレンジ、および、前進用のDレンジが設けられる。自動車1は、シフトレバー200がPレンジに移動されると、不図示のパーキングギヤがロックされるとともに、前進および後進が不能な状態となる。自動車1は、シフトレバー200がRレンジに移動されると、後進可能な状態となる。自動車1は、シフトレバー200がNレンジに移動されると、パーキングギヤがロックされずに、前進および後進が不能な状態となる。自動車1は、シフトレバー200がDレンジに移動されると、前進可能な状態となる。
【0047】
シフトレバー200は、PレンジからRレンジ、RレンジからNレンジ、NレンジからDレンジにシフト可能である。また、シフトレバー200は、RレンジからPレンジ、NレンジからRレンジ、DレンジからNレンジにシフト可能である。一方、シフトレバー200は、PレンジからNレンジおよびDレンジ、RレンジからDレンジ、NレンジからPレンジ、DレンジからPレンジおよびRレンジに直接シフトできないようになっている。
【0048】
オイルポンプ60は、オイルパン61に貯留されたオイルを吸い込み、吸い込んだオイルを元圧路62に吐出する。元圧路62は、一端がオイルポンプ60に接続され、他端がバルブ装置102に接続される。
【0049】
バルブ装置102は、ハウジング110およびバルブスプール120を備える。ハウジング110は、両端が開放された円筒形状に形成される。ハウジング110には、元圧ポート111、第1前進ポート112、第2前進ポート113、第1後進ポート114、第2後進ポート115および排出ポート116が形成される。
【0050】
元圧ポート111、第1前進ポート112、第2前進ポート113、第1後進ポート114、第2後進ポート115および排出ポート116は、ハウジング110の内壁面と外壁面とを貫通するように形成される。ハウジング110には、図3において左側から右側に向かって、第1前進ポート112、第1後進ポート114、第2前進ポート113、元圧ポート111、第2後進ポート115および排出ポート116が順に離隔して形成される。
【0051】
また、ハウジング110は、内周面における、元圧ポート111、第1前進ポート112、第2前進ポート113、第1後進ポート114、第2後進ポート115および排出ポート116が形成された位置に、周方向に亘って溝が形成される。
【0052】
元圧ポート111には、元圧路62が接続される。第1前進ポート112および第2前進ポート113には、前進供給路63が接続される。前進供給路63は、一端が前進クラッチ40の油圧室46に接続され、他端が分岐して第1前進ポート112および第2前進ポート113に接続される。したがって、第1前進ポート112および第2前進ポート113は、前進供給路63を介して接続されることになる。
【0053】
第1後進ポート114および第2後進ポート115には、後進供給路64が接続される。後進供給路64は、一端が後進ブレーキ50の油圧室56に接続され、他端が分岐して第1後進ポート114および第2後進ポート115に接続される。したがって、第1後進ポート114および第2後進ポート115は、後進供給路64を介して接続されることになる。
【0054】
バルブスプール120は、連結棒121、連結具122、第1ランド123、第2ランド124および第3ランド125を備える。連結棒121は、ハウジング110の内径よりも十分に小さい直径に形成されている。連結棒121の一端には、連結具122が接続される。連結具122は、シフトレバー200のポジションに応じて、連結棒121を、ハウジング110の軸方向に沿って移動させる。なお、連結具122は、シフトレバー200に機械的に接続されていてもよく、また、シフトレバー200の位置に応じて、不図示のアクチュエータによって電気的に移動されるようにしてもよい。
【0055】
連結棒121には、連結具122から離隔する方向に沿って、第1ランド123、第2ランド124および第3ランド125が順に設けられる。
【0056】
第1ランド123、第2ランド124および第3ランド125は、ハウジング110内に挿通されている。第1ランド123、第2ランド124および第3ランド125は、ハウジング110の内壁面との間でオイルが流れないような直径に形成される。
【0057】
ここで、図3では、シフトレバー200がPレンジに位置しているとき(中間状態)のバルブ装置102を示している。シフトレバー200がPレンジに位置しているとき、バルブ装置102は、バルブスプール120が図中最も右側に位置している。このとき、第1ランド123は、排出ポート116を一部開放する。第2ランド124は、元圧ポート111を塞ぐ。第3ランド125は、第1前進ポート112を開放する。よって、オイルポンプ60から供給されるオイルは、第2ランド124によって、ハウジング110の内部に流入することができない。そのため、バルブ装置102は、前進クラッチ40および後進ブレーキ50の双方にオイルを供給することがない。そして、前進クラッチ40および後進ブレーキ50は、双方とも切断状態となる。
【0058】
図4は、Rレンジにおける油圧供給装置100を説明する図である。シフトレバー200がPレンジからRレンジに移動されると(第2状態になると)、図4に示すように、バルブスプール120が、Pレンジのときよりも、図中左側に移動する。このとき、第1ランド123は、第2後進ポート115を一部開放するとともに、排出ポート116を塞ぐ。また、第2ランド124は、元圧ポート111を開放し、第2前進ポート113を塞ぐ。第3ランド125は、第1前進ポート112を一部開放する。そうすると、オイルポンプ60から供給されたオイルは、元圧ポート111を介して、ハウジング110における第1ランド123および第2ランド124の間に流入する。また、第1ランド123および第2ランド124の間に流入したオイルは、第2後進ポート115および後進供給路64を介して後進ブレーキ50に供給される。
【0059】
このとき、後進供給路64を介して第1後進ポート114にオイルが供給されることになる。そして、第1後進ポート114を流通したオイルは、ハウジング110における第2ランド124および第3ランド125の間に流入する。ハウジング110における第2ランド124および第3ランド125の間は、密閉されているため、流入したオイルを堰き止める。
【0060】
一方、第2前進ポート113が第2ランド124によって塞がれているため、前進供給路63にはオイルが流入しない。これにより、Rレンジでは、前進クラッチ40が切断状態となり、後進ブレーキ50が接続状態となる。かくして、自動車1は、後進可能となる。
【0061】
図5は、Nレンジにおける油圧供給装置100を説明する図である。シフトレバー200がRレンジからNレンジに移動されると(中間状態になると)、図5に示すように、バルブスプール120が、Rレンジのときよりも、図中左側に移動する。このとき、第1ランド123は、第2後進ポート115を塞ぐ。また、第2ランド124は、第2前進ポート113を塞ぐとともに、第1後進ポート114を一部開放する。第3ランド125は、第1前進ポート112を一部開放する。そうすると、オイルポンプ60から供給されたオイルは、元圧ポート111を介して、ハウジング110における第1ランド123および第2ランド124の間で堰き止められる。
【0062】
また、後進供給路64および後進ブレーキ50の油圧室56に供給されていたオイルは、第1後進ポート114を介して、ハウジング110における第2ランド124および第3ランド125の間に流入する。そして、第2ランド124および第3ランド125の間に流入したオイルは、第1前進ポート112、前進供給路63を介して前進クラッチ40の油圧室46に供給される。つまり、後進ブレーキ50に供給されていたオイルの一部が、前進クラッチ40に供給されることになる。これにより、シフトレバー200がDレンジに移動された際に、すでにオイルの一部が供給されているため、早期に前進クラッチ40を接続状態とすることができる。
【0063】
このとき、前進クラッチ40および後進ブレーキ50は、(1)式および(2)式を満たすように設定されている。
Xf<(Pπrf-Nf)/kf (1)
Xr<(Pπrr-Nr)/kr (2)
なお、rfは、前進クラッチ40のピストン部材43の半径である。Xfは、摩擦プレート41が被係合プレート42に接触するまでのピストン部材43のストローク(移動距離)である。kfは、バネ45のばね定数である。Nfは、初期状態においてバネ45によりピストン部材43に付勢されているセット荷重である。Pは、Nレンジにおいてピストン部材43およびピストン部材53に付加される油圧である。rrは、後進ブレーキ50のピストン部材53の半径である。Xrは、摩擦プレート51が被係合プレート52に接触するまでのピストン部材53のストローク(移動距離)である。krは、バネ55のばね定数である。Nrは、初期状態においてバネ55によりピストン部材53に付勢されているセット荷重である。
【0064】
これにより、前進クラッチ40および後進ブレーキ50は、Nレンジにおいて油圧室46および油圧室56の油圧が一定に保持されても、前進クラッチ40および後進ブレーキ50が接続状態とならない。
【0065】
図6は、Dレンジにおける油圧供給装置100を説明する図である。シフトレバー200がNレンジからDレンジに移動されると(第1状態になると)、図6に示すように、バルブスプール120が、Nレンジのときよりも、図中左側に移動する。このとき、第1ランド123は、第2後進ポート115を一部開放する。また、第2ランド124は、第2前進ポート113を一部開放するとともに、第1後進ポート114を塞ぐ。第3ランド125は、第1前進ポート112を開放する。そうすると、オイルポンプ60から供給されたオイルは、元圧ポート111、ハウジング110における第1ランド123および第2ランド124の間、第2前進ポート113および前進供給路63を介して、前進クラッチ40に供給される。
【0066】
このとき、前進供給路63を介して第1前進ポート112にオイルが供給されることになる。そして、第1前進ポート112を流通したオイルは、ハウジング110における第2ランド124および第3ランド125の間に流入する。ハウジング110における第2ランド124および第3ランド125の間は、密閉されているため、流入したオイルを堰き止めることができる。
【0067】
一方、第2後進ポート115が第1ランド123によって一部開放されるため、後進供給路64に残ったオイルは、第2後進ポート115、排出ポート116および排出路65を介して排出される。なお、排出ポート116から排出されたオイルは、排出路65を流通してオイルパン61に戻される。
【0068】
また、シフトレバー200がDレンジからNレンジに移動されると、バルブ装置102は、図5に示した状態となる。そうすると、前進供給路63および前進クラッチ40の油圧室46に供給されていたオイルは、第1前進ポート112を介して、ハウジング110における第2ランド124および第3ランド125の間に流入する。そして、第2ランド124および第3ランド125の間に流入したオイルは、第1後進ポート114、後進供給路64を介して後進ブレーキ50に供給される。これにより、シフトレバー200がRレンジに移動された際に、すでにオイルの一部が供給されているため、早期に後進ブレーキ50を接続状態とすることができる。
【0069】
また、シフトレバー200がNレンジからRレンジに移動されると、バルブ装置102は、図4に示した状態となる。そうすると、オイルポンプ60から供給されたオイルは、元圧ポート111、ハウジング110における第1ランド123および第2ランド124の間、第2後進ポート115および後進供給路64を介して、後進ブレーキ50に供給される。
【0070】
また、第1前進ポート112が第3ランド125によって一部開放されるため、前進供給路63に残ったオイルは、第1前進ポート112、ハウジング110における開放端、および、排出路65を介して排出される。なお、排出されたオイルは、排出路65を流通してオイルパン61に戻される。
【0071】
また、シフトレバー200がRレンジからPレンジに移動されると、バルブ装置102は、図3に示した状態となる。そうすると、オイルポンプ60から供給されたオイルは、第2ランド124に堰き止められる。また、後進供給路64および後進ブレーキ50の油圧室56に供給されていたオイルは、第2後進ポート115、ハウジング110における第1ランド123および第2ランド124の間、排出ポート116および排出路65を介して排出される。
【0072】
以上のように、シフトレバー200は、RレンジおよびDレンジの間にNレンジが設けられている。このようなシフトレバー200を用いる場合に、バルブ装置102は、シフトレバー200がNレンジに移動された際に、前進クラッチ40または後進ブレーキ50の一方に供給されていたオイルの一部を他方に供給する。これにより、油圧供給装置100は、シフトレバー200がRレンジからNレンジを介してDレンジにシフトされる場合に、前進クラッチ40を早期に接続状態とすることができる。また、油圧供給装置100は、シフトレバー200がDレンジからNレンジを介してRレンジにシフトされる場合に、後進ブレーキ50を早期に接続状態とすることができる。
【0073】
かくして、油圧供給装置100は、シフト切換時の応答性を向上することができる。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0075】
例えば、上記実施形態におけるバルブ装置102の構成は一例に過ぎない。第1状態(Dレンジ)において元圧路62と前進供給路63とを連通させるとともに後進供給路64を排出路65に接続させ、第2状態(Rレンジ)において元圧路62と後進供給路64とを連通させるとともに前進供給路63を排出路65に接続させ、中間状態(Nレンジ)において、前進供給路63と後進供給路64とを連通させるようにすれば、どのような構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、油圧供給装置に利用できる。
【符号の説明】
【0077】
62 元圧路
63 前進供給路
64 後進供給路
100 油圧供給装置
102 バルブ装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6