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  • -スラント型内燃機関 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】スラント型内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F01M 13/00 20060101AFI20221207BHJP
   F01M 11/00 20060101ALI20221207BHJP
   F02F 1/10 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
F01M13/00 F
F01M11/00 W
F02F1/10 D
F02F1/10 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018185918
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2020056338
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】清家 潤巨
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-050012(JP,U)
【文献】特開2017-150395(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0313860(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第04240464(DE,A1)
【文献】特開2015-113771(JP,A)
【文献】特開2001-140626(JP,A)
【文献】特開2017-61893(JP,A)
【文献】実開平2-103109(JP,U)
【文献】特開平5-306612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 13/00
F01M 11/00
F02F 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボア軸線が水平の側に大きく傾斜しており、シリンダブロックとオイルパンとが、前記シリンダブロックに向いた横向き開口部と前記オイルパンに向いた下向き開口部とを有する補助クランクケースを介して接続されており、
前記シリンダブロックの上部に、前記補助クランクケースに向けて開口したPCV通路が形成されている構成であって、
前記補助クランクケースの上部内面に、下向きの段部がクランク軸線方向に長く延びるように形成されて、前記PCV通路と対向するオイルミスト侵入規制突起が前記段部から立ち上がるように形成されており、
かつ、前記オイルミスト侵入規制突起は、前記補助クランクケースをボルトで前記シリンダブロックに固定するために前記補助クランクケースに設けた内向きのボス部の箇所に形成されている、
スラント型内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ボア軸線を大きく傾斜させたスラント型内燃機関に関するもので、特に、PCV通路へのオイルミストの侵入抑制技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関において、クランク室に吹き抜けたブローバイガスを吸気系に戻すために、一般に、シリンダブロックにPCV通路を形成している。クランク室からシリンダブロックのPCV通路に流入したブローバイガスは、ヘッドカバー等に設けた気液分離部においてオイルミストを除去されてから吸気系に還流するが、オイルミストの消費抑制のためには、オイルミストがシリンダブロックのPCV通路に流入することを極力抑制すべきである。
【0003】
そこで、シリンダブロックのPCV通路にオイルミストが流入することを抑制する手段が考えられており、その例として特許文献1には、シリンダブロックの下面にオイルパンを固定している縦型の内燃機関において、オイルパンの内周部のうちPCV通路の下方部に、平面視山形のガイド部を設けることが開示されている。
【0004】
この特許文献1の構造では、クランク軸の回転によって生じたオイルミストの流れが、ガイド部の傾斜面によって方向変換されるため、別部材としての邪魔板のような別部材が不要である簡単な構造でありながら、PCV通路へのオイルミストの侵入を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-150395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、内燃機関において、ボア軸線を水平の側に傾斜させる(スラントさせる)ことは広く行われており、スラント角度が大きくなると、オイルパンをシリンダブロックに直接固定することができなくなるため、シリンダブロックとオイルパンとを繋ぐ補助クランクケースが必要になる。
【0007】
そして、補助クランクケースを必要な程にシリンダブロックが大きくスラントしていると、PCV通路はシリンダブロックの上部に形成することになるため、特許文献1のようにオイルパンにオイルミストの侵入を抑制するガイド部を設けることはできない。すなわち、特許文献1の構成は、補助クランクケースを有するスラント型内燃機関に適用することができない。
【0008】
本願発明はこのような現状を背景に成されたものであり、補助クランクケースを設けたスラント型内燃機関において、PCV通路にオイルミストが侵入することを、簡単な構造によって抑制しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、
「ボア軸線が水平の側に大きく傾斜しており、シリンダブロックとオイルパンとが、前記シリンダブロックに向いた横向き開口部と前記オイルパンに向いた下向き開口部とを有する補助クランクケースを介して接続されており、
前記シリンダブロックの上部に、前記補助クランクケースに向けて開口したPCV通路が形成されている
という構成において、
前記補助クランクケースの上部内面に、下向きの段部がクランク軸線方向に長く延びるように形成されて、前記PCV通路と対向するオイルミスト侵入規制突起が前記段部から立ち上がるように形成されており、
かつ、前記オイルミスト侵入規制突起は、前記補助クランクケースをボルトで前記シリンダブロックに固定するために前記補助クランクケースに設けた内向きのボス部の箇所に形成されている
という特徴を有している。
【0010】
オイルミスト侵入規制突起は、PCV通路の開口方向から見て、クランク軸の側に突出した山形や円弧状に形成することが可能である。このように、山形や円弧状に形成すると、クランク室を飛散してきたオイルミストをオイルミスト侵入規制突起の傾斜面によって方向変換できる。
【発明の効果】
【0011】
クランク室内では、クランク軸やクランクアームの回転に伴ってオイルミストの流れが発生し、このオイルミストの流れがPCV通路に向かうことがある。しかし、本願発明では、PCV通路の開口と対向するようにオイルミスト侵入規制突起が形成されているため、オイルミストの流れはオイルミスト侵入規制突起に衝突して、オイルミスト侵入規制突起に付着したり、オイルミスト侵入規制突起によって方向変換させられたりする。これにより、オイルミストがPCV通路に侵入することが防止又は著しく抑制される。
【0012】
そして、オイルミスト侵入規制突起は補助クランクケースの一部として形成されているため、他の部材を付加した場合のような構造の複雑化やコストアップは生じない。従って、本願発明では、補助クランクケースを有するスラント型内燃機関において、PCV通路へのオイルミストの侵入を簡単な構造によって防止又は著しく抑制できる。
【0013】
上記したように、オイルミスト侵入規制突起を山形や円弧状に形成すると、オイルミストの流れを方向変換する機能に優れていると共に、表面積の増大によってオイルミストの付着性も向上できる。その結果、PCV通路への侵入防止の効果を更に助長できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の内燃機関を後方から見た背面図である。
図2】補助クランクケースの斜視図である。
図3】補助クランクケースをボア軸線方向から見た図である。
図4】(A)は図3の IVA-IVA視断面図、(B)は(A)のB-B視方向から見た補助クランクケースの部分図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下では、方向を特定するため前後・左右・上下の文言を使用するが、前後方向はクランク軸線方向であり、左右方向はクランク軸線方向と直交した水平方向であり、上下方向は鉛直方向である。前と後ろについては、一般的な呼び方に準じて、タイミングチェーンが配置されている側を前、ミッションが配置されている側を後ろとしている。念のため、図に方向を明示している。
【0016】
また、ボア軸線の方向については、ピストンの上昇方向に向いた面を頂面、下降方向に向いた面を底面と称して、鉛直方向である上下方向と区別している。
【0017】
(1).内燃機関の概要
本実施形態は、自動車用の4気筒内燃機関に適用している。内燃機関は、図1に示すように、シリンダブロック1とその頂面に固定されたシリンダヘッド2と、シリンダヘッド2の頂面に固定されたヘッドカバー3とを備えており、ボア軸線(軸心)O1を大きく寝かせたスラント型内燃機関になっている。ボア軸線O1は、鉛直線O2に対して約60°強(水平面O3に対しては30°弱)の角度で傾斜している。
【0018】
このように、ボア軸線O1を水平に近い姿勢に大きくスラントさせていることにより、オイルパン4は、補助クランクケース5を介してシリンダブロック1の底面に取付けられている。すなわち、シリンダブロック1の底面に補助クランクケース5を固定して、補助クランクケース5の下面にオイルパン4を固定している。本実施形態の補助クランクケース5は、アルミダイキャスト品であるが、アルミ等の鋳造品も採用できる。
【0019】
クランク軸6は、シリンダブロック1にクランクキャップ6a(図4(A)参照)を介して回転自在に保持されている。図1では、ミッションケースのフランジ7を表示している(なお、ミッションケースのフランジ7に付した平行斜線は端面の表示であり、断面の表示ではない。)。
【0020】
本実施形態では、吸気側面は上向きになって、排気側面は下向きになっている。このため、図1に示すように、シリンダヘッド2の下方に触媒ケース9が配置されて、シリンダブロック1等の上方に、サージタンク10を備えた吸気マニホールド11が配置されている。サージタンク10には、スロットルボデーを固定するボス部12が形成されている。
【0021】
なお、図1と反対側の部位には、タイミングチェーンを覆う1枚のフロントカバーが配置されており、フロントカバーは、シリンダヘッド2とシリンダブロック1と補助クランクケース5との前面に固定されている。
【0022】
(2).補助クランクケース
図4に示すように、シリンダブロック1には、シリンダボア24が開口している。他方、図4から容易に理解できるように、補助クランクケース5は、シリンダブロック1に向けて開口していると共に、下方にも開口しており、下面にオイルパン4が固定されている。従って、補助クランクケース5は、上下の横向き長手開口縁部14,15と、左右の下向き長手開口縁部16とを有している。
【0023】
図2に明示するように、補助クランクケース5の前端部にはフロント切欠き17が形成されて、補助クランクケース5の後端部にはリア切欠き部18が形成されている。また、補助クランクケース5の横向き長手開口縁部14,15の箇所には、補助クランクケース5をシリンダブロック1にボルト19a(図4(A)参照)で固定するための内向きのボス部19が、前後方向に断続的に形成されている。
【0024】
図2,3,4(A)に示すように、補助クランクケース5の上部には、下向きの段部20が前後方向に長い姿勢で形成されており、段部20の下端に、下方に向かう傾斜部21が形成されている。傾斜部21の下端により、一方の下向き長手開口縁部16が構成されている。
【0025】
そして、図4に示すように、シリンダブロック1のうち前寄り部位の上端部に、ブローバイガスをシリンダヘッドに向けて逃がすためのPCV通路22が、補助クランクケース5に向けて開口するように形成されている一方、補助クランクケース5の上部に、PCV通路22と対向したオイルミスト侵入規制突起23を形成している。オイルミスト侵入規制突起23は、PCV通路22の開口方向から見て、前後の傾斜面23aを有した下向き突状の山形に形成されている。図2,3,4(B)に示すように、オイルミスト侵入規制突起23は1つの内向きのボス部19の箇所に形成されている。
【0026】
また、オイルミスト侵入規制突起23は、補助クランクケース5の段部20から立ち上がっており、頂面は、上に位置した横向き長手開口縁部14の頂面よりも少し段落ちしている。そして、PCV通路22の開口端とオイルミスト侵入規制突起23との間に、若干の間隔を空けている。従って、PCV通路22の開口端は、シリンダブロック1の底面よりも少し頂面側にずれている。図4(A)において、シリンダボアを符号24で示している。本実施形態では、PCV通路は、シリンダボア24の軸心の上に形成されている。
【0027】
クランクアームやカウターウエイトの回転により、クランク室内には、クランク軸6の回転方向に向いた旋回流が発生し、この旋回流に乗ってオイルミストがPCV通路22に向かうことがある。しかし、本実施形態では、PCV通路22の開口方向の前方にオイルミスト侵入規制突起23があるため、オイルミストは、図4(A)に点線の矢印で示すように、オイルミスト侵入規制突起23に当たって方向変換したり、オイルミスト侵入規制突起23に付着したりして、PCV通路22へのオイルミストの侵入が防止又は著しく抑制される。
【0028】
しかも、オイルミスト侵入規制突起23は前後の傾斜面23aを有しているため、図4(B)に矢印で示すように、飛散してきたオイルミストがオイルミスト侵入規制突起23に当たると、オイルミスト侵入規制突起23は前後方向に方向変換する。このため、PCV通路22への侵入がより確実に阻止される。そして、オイルミスト侵入規制突起23は補助クランクケース5の一部として形成されているため、組み立て等の手間は不要であり、コストを抑制できる。
【0029】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、PCV通路22は、図ではシリンダボア24の軸心の上側に形成しているが、PCV通路22は、ボア間部に形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本願発明は、スラント型内燃機関に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 シリンダブロック
4 オイルパン
5 補助クランクケース
6 クランク軸
14,15 横向き長手開口縁部
16 下向き長手開口縁部
19 内向きのボス部
20 段部
21 傾斜部
22 PCV通路
23 オイルミスト侵入規制突起
23a 傾斜面
24 シリンダボア
図1
図2
図3
図4