(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】処理カップユニットおよび基板処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20221207BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20221207BHJP
B05C 11/08 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
H01L21/304 648Z
H01L21/304 643A
H01L21/30 564C
H01L21/30 569C
B05C11/08
(21)【出願番号】P 2018210098
(22)【出願日】2018-11-07
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100098305
【氏名又は名称】福島 祥人
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】杉山 念
【審査官】加藤 芳健
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/082065(WO,A1)
【文献】特開2014-086639(JP,A)
【文献】特開2018-056223(JP,A)
【文献】特開平09-045611(JP,A)
【文献】特開2017-103368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
H01L 21/027
B05C 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平姿勢で保持される基板に処理液を用いた処理を行う際に基板の周囲を取り囲むように設けられる処理カップユニットであって、
下カップと、
前記下カップの上方において基板の周囲を取り囲むように配置される上カップと、
基板を回転させるための回転保持装置を取り囲むように基板の下方に配置されかつ基板の下面に処理液のミストが付着することを防止するミスト付着防止部材とを備え
、
前記ミスト付着防止部材の上面は、前記回転保持装置における基板の保持部分と対向する内縁部から前記内縁部とは逆の外縁部に向かって斜め上方に傾斜することにより、上下方向における前記ミスト付着防止部材と基板の下面との間隔は、内方から外方に向かって漸次減少する、処理カップユニット。
【請求項2】
前記ミスト付着防止部材は、基板の下面に沿って延びかつ基板の下面に近接するように配置される、請求項1記載の処理カップユニット。
【請求項3】
上下方向における前記ミスト付着防止部材と基板の下面との間隔は、2mm以上5mm以下である、請求項2記載の処理カップユニット。
【請求項4】
前記ミスト付着防止部材の外縁部は、基板の外縁部よりも内方に位置する、請求項2
または3記載の処理カップユニット。
【請求項5】
基板の下面に沿って内方から外方への気体の流れを形成する気体ノズルをさらに備える、請求項1~
4のいずれか一項に記載の処理カップユニット。
【請求項6】
前記下カップの内縁部は、前記上カップの内縁部よりも内方に位置する、請求項1~
5のいずれか一項に記載の処理カップユニット。
【請求項7】
前記下カップの内縁部は、前記ミスト付着防止部材の外縁部の下方に位置する、請求項1~
6のいずれか一項に記載の処理カップユニット。
【請求項8】
基板処理に用いられる処理液の粘度は、100cP以上300cP以下である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の処理カップユニット。
【請求項9】
基板を水平姿勢で保持して回転させる回転保持装置と、
前記回転保持装置により保持された基板の被処理面に処理液を吐出する処理液吐出部と、
前記回転保持装置により保持された基板の周囲を取り囲むように設けられる請求項1~
8のいずれか一項に記載の処理カップユニットとを備える、基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理カップユニットおよびそれを備えた基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ、液晶表示装置用ガラス基板、フォトマスク用ガラス基板または光ディスク用ガラス基板等の基板に現像液、洗浄液、リンス液またはフォトレジスト液等の処理液を用いた処理を行うために基板処理装置が用いられる。例えば、特許文献1に記載された基板処理装置においては、基板が回転保持部により水平に支持されつつ回転された状態で、基板の被処理面の中央部に処理液が吐出される。被処理面の中央部の処理液が基板の回転に伴う遠心力で被処理面の全体に拡げられる。これにより、基板の被処理面の全体に処理液が供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような回転式の基板処理装置においては、遠心力により被処理面の処理液の一部が飛散する。この場合、処理液が被処理面とは反対側の下面に付着し、基板の下面が汚染する。そこで、特許文献1の基板処理装置には、基板の下面に洗浄液を供給する処理液ノズルが設けられ、下面に付着した処理液が除去される。しかしながら、基板の下面に付着した処理液を十分に除去することは容易ではないことがあり、特に、処理液の粘度が高い場合には、多量の洗浄液を基板の下面に供給することが必要になる。
【0005】
本発明の目的は、処理液による基板の下面の汚染を防止することが可能な処理カップユニットおよび基板処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)第1の発明に係る処理カップユニットは、水平姿勢で保持される基板に処理液を用いた処理を行う際に基板の周囲を取り囲むように設けられる処理カップユニットであって、下カップと、下カップの上方において基板の周囲を取り囲むように配置される上カップと、基板を回転させるための回転保持装置を取り囲むように基板の下方に配置されかつ基板の下面に処理液のミストが付着することを防止するミスト付着防止部材とを備え、ミスト付着防止部材の上面は、回転保持装置における基板の保持部分と対向する内縁部から内縁部とは逆の外縁部に向かって斜め上方に傾斜することにより、上下方向におけるミスト付着防止部材と基板の下面との間隔は、内方から外方に向かって漸次減少する。
【0007】
この処理カップユニットにおいては、水平姿勢で保持される基板に処理液を用いた処理を行う際に、下カップおよび上カップが設けられる。上カップは、下カップの上方において基板の周囲を取り囲むように配置される。ミスト付着防止部材が、基板の下方に配置される。
【0008】
この構成によれば、基板処理時に、基板の被処理面から飛散した処理液が下カップおよび上カップにより捕捉されるので、処理液の飛散による処理カップユニットの外部の汚染が防止される。ここで、基板から飛散した処理液が下カップまたは上カップに衝突して処理液のミストが発生した場合でも、ミスト付着防止部材により基板の下面に処理液のミストが付着することが防止される。これにより、処理液による基板の下面の汚染を防止することができる。また、基板の下面に処理液が付着しないので、基板の下面を洗浄するための洗浄液を基板の下面に供給する必要がない。そのため、基板処理における洗浄液の使用量を削減することができる。
また、上下方向におけるミスト付着防止部材と基板の下面との間隔は、内方から外方に向かって漸次減少する。この場合、ミスト付着防止部材と基板の下面との間隔が外方側においてより狭くなるため、基板の被処理面の処理液が下面に回り込むことをさらに確実に防止することができる。
【0009】
(2)ミスト付着防止部材は、基板の下面に沿って延びかつ基板の下面に近接するように配置されてもよい。この場合、ミスト付着防止部材と基板の下面との間の空間が狭く形成される。そのため、基板の被処理面の処理液が下面に回り込むことがより容易に防止される。これにより、処理液による基板の下面の汚染をより確実に防止することができる。
【0010】
(3)上下方向におけるミスト付着防止部材と基板の下面との間隔は、2mm以上5mm以下であってもよい。この場合、ミスト付着防止部材と基板の下面との間が十分に近接することにより、ミスト付着防止部材と基板の下面との間の空間がより狭く形成される。これにより、基板の被処理面の処理液が下面に回り込むことをより確実に防止することができる。
【0012】
(4)ミスト付着防止部材の外縁部は、基板の外縁部よりも内方に位置してもよい。この場合でも、基板の被処理面の処理液が下面に回り込むことをさらに確実に防止することができる。
【0013】
(5)処理カップユニットは、基板の下面に沿って内方から外方への気体の流れを形成する気体ノズルをさらに備えてもよい。この場合、ミスト付着防止部材と基板の下面との間の空間を陽圧に維持することができる。これにより、処理液のミストが基板の下面に付着すること、および基板の被処理面の処理液が下面に回り込むことをさらに確実に防止することができる。
【0014】
(6)下カップの内縁部は、上カップの内縁部よりも内方に位置してもよい。この場合、下カップの内縁部が基板に十分に近接する。そのため、処理液の飛散距離が短い場合でも、下カップにより処理液を捕集することができる。また、基板の近傍で処理液が下カップに衝突して処理液のミストが発生した場合でも、ミスト付着防止部材により基板の下面に処理液のミストが付着することが防止される。これにより、処理液による基板の下面の汚染を防止することができる。
【0015】
(7)下カップの内縁部は、ミスト付着防止部材の外縁部の下方に位置してもよい。この場合、下カップの内縁部が基板に十分に近接する。そのため、処理液の飛散距離が短い場合でも、下カップにより処理液を捕集することができる。また、基板の近傍で処理液が下カップに衝突して処理液のミストが発生した場合でも、ミスト付着防止部材により基板の下面に処理液のミストが付着することが防止される。これにより、処理液による基板の下面の汚染を防止することができる。
【0016】
(8)基板処理に用いられる処理液の粘度は、100cP以上300cP以下であってもよい。この構成によれば、ミスト付着防止部材により処理液のミストが基板の下面に付着することが防止されるので、基板処理に用いられる処理液の粘度が比較的高い場合でも、洗浄液を用いることなく基板の下面の汚染を防止することができる。
【0017】
(9)第2の発明に係る基板処理装置は、基板を水平姿勢で保持して回転させる回転保持装置と、回転保持装置により保持された基板の被処理面に処理液を吐出する処理液吐出部と、回転保持装置により保持された基板の周囲を取り囲むように設けられる第1の発明に係る処理カップユニットとを備える。
【0018】
この基板処理装置においては、回転保持装置により基板が水平姿勢で保持されて回転される。この状態で、処理液吐出部により基板の被処理面に処理液が吐出されることにより基板が処理される。基板の周囲を取り囲むように上記の処理カップユニットが設けられるので、処理液の飛散による基板処理装置の汚染が防止される。
【0019】
また、基板から飛散した処理液が下カップまたは上カップに衝突して処理液のミストが発生した場合でも、ミスト付着防止部材により基板の下面に処理液のミストが付着することが防止される。これにより、処理液による基板の下面の汚染を防止することができる。さらに、基板の下面に処理液が付着しないので、基板の下面を洗浄するための洗浄液を基板の下面に供給する必要がない。そのため、基板処理における洗浄液の使用量を削減することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、処理液による基板の下面の汚染を防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る基板処理装置の一方向に沿った概略断面図である。
【
図2】
図1の処理カップユニットの部分拡大断面図である。
【
図3】変形例に係る処理カップユニットの部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(1)基板処理装置の構成
以下、本発明の一実施の形態に係る処理カップユニットおよび基板処理装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る基板処理装置の一方向に沿った概略断面図である。
図2は、
図1の処理カップユニット10の部分拡大断面図である。
図1に示すように、基板処理装置100は、処理カップユニット10、回転保持装置20および処理ノズル30を備える。処理カップユニット10は、基板Wから処理液が飛散することを防止する非回転カップであり、基板Wの周囲を取り囲むように設けられる。
【0023】
回転保持装置20は、例えばスピンチャックであり、駆動装置21および回転保持部23を含む。駆動装置21は、例えば電動モータであり、回転軸22を有する。回転保持部23は、駆動装置21の回転軸22の先端に取り付けられ、基板Wを水平姿勢で保持した状態で鉛直軸の周りで回転駆動される。以下の説明では、
図1の太い矢印で示すように、水平面内において、回転保持部23に保持された基板Wの中心部に向かう方向を内方と定義し、その反対方向を外方と定義する。
【0024】
処理ノズル30は、処理液供給系Aに接続され、
図1に点線の矢印で示すように、基板Wの中心の上方における処理位置と処理カップユニット10の外方の待機位置との間で移動可能に設けられる。処理ノズル30は、基板処理時には、待機位置から処理位置に移動し、処理液供給系Aに貯留された処理液を回転する基板Wの被処理面の中心付近に吐出する。処理液供給系Aに貯留された処理液は、例えばレジスト液等の塗布液であり、比較的高い粘度を有する。本例では、処理液の粘度は100cP以上300cP以下である。
【0025】
図2に示すように、処理カップユニット10は、回転保持部23に保持された基板Wの周囲を取り囲むように設けられ、下カップ11、上カップ12および側壁部13を含む。下カップ11は、基板Wの下方の空間の周囲を取り囲むように配置される。本例においては、下カップ11の内縁部は、上カップ12の内縁部よりも内方に位置し、基板Wの外縁部の下方に位置する。また、下カップ11が基板Wの下方に配置される後述のミスト付着防止部材17と干渉することを防止するために、下カップ11の内縁部における上部には切欠11nが形成される。
【0026】
下カップ11の上面11aは、内方から外方に向かって斜め下方にわずかに傾斜する。下カップ11の上面11aには、下カップ11の外周部に沿って下方に凹みかつ水平面内で円環状に延びる溝部11gが形成される。溝部11g内には、振動部材14が設けられる。ここで、水平面内で円環状に延びる1つの振動部材14が設けられてもよいし、複数の振動部材14が略等角度間隔で配置されてもよい。振動部材14は、例えば超音波振動子である。
【0027】
上カップ12は、側壁部13の後述する厚肉部13aの上部から内方に突出しかつ基板Wの上方の空間の周囲を取り囲むように下カップ11の上方に配置される。上カップ12の下面12aは、部分p1,p2,p3を含む。下面12aの部分p1は、内方から外方に向かって斜め下方に急激に傾斜する。下面12aの部分p2は、部分p1の外周部から外方に向かって斜め下方に緩やかに傾斜する。下面12aの部分p3は、部分p2の外周部から外方に向かって略水平に延びる。
【0028】
これにより、下カップ11の上面11aと上カップ12の下面12aとの間隔は、内方から外方に向かって漸次減少する。以下、下カップ11の上面11aと上カップ12の下面12aの部分p2との間の空間を捕集空間V1と呼ぶ。下カップ11の上面11aと上カップ12の下面12aの部分p3との間の空間を集合空間V2と呼ぶ。捕集空間V1の上下方向の最大長さは、例えば20mm以上50mm以下である。捕集空間V1の径方向の最大長さは、例えば20mm以上40mm以下である。
【0029】
上カップ12の下面12aには、上カップ12の外周部に沿って上方に凹みかつ水平面内で円環状に延びる溝部12gが形成される。これにより、下カップ11の溝部11gと上カップ12の溝部12gとの間に、集合空間V2よりも大きい散乱空間V3が形成される。溝部12gの底部には、略上下方向に延びかつ散乱空間V3に連なる複数の貫通孔12hが略等角度間隔で形成される。
図2では、1つの貫通孔12hのみが図示されている。
【0030】
側壁部13は、厚肉部13aおよび薄肉部13bを含む。本例においては、上カップ12、厚肉部13aおよび薄肉部13bは一体的に形成される。
図2では、上カップ12と、厚肉部13aと、薄肉部13bとの境界が点線で図示されている。厚肉部13aは、下カップ11および上カップ12の外方に配置される。また、厚肉部13aの内縁部は、下カップ11の外縁部の上方に位置する。側壁部13の外周下部には、上方に凹みかつ水平面内で円環状に延びる溝部13gが形成される。
【0031】
薄肉部13bは、厚肉部13aよりも小さい厚みを有し、厚肉部13aの外縁部の下方から下カップ11の外方および下カップ11の下方に沿って延びる。これにより、薄肉部13bと下カップ11との間に排出空間V4が形成される。厚肉部13aの内縁部と下カップ11の外縁部との間には、散乱空間V3と排出空間V4とを接続する微小な隙間Sが設けられる。
【0032】
下カップ11の下方には、排出空間V4に連なる排気流路F1および廃液流路F2が設けられる。排気流路F1は、
図1の排気系Bに接続される。排気系Bは、排気流路F1から排出される気体を工場内の排気設備に導く。廃液流路F2は、排気流路F1の外方に位置し、
図1の廃液系Cに接続される。廃液系Cは、廃液流路F2から排出される液体を工場内の廃液設備に導く。
【0033】
上カップ12には、複数の貫通孔12hにそれぞれ対応する複数の洗浄ノズル15が取り付けられる。複数の洗浄ノズル15は、配管Pを通して
図1の洗浄液供給系Dに接続される。なお、配管Pは、上カップ12の上部において、水平面内で円環状に引き回されている。各洗浄ノズル15は、配管Pおよび対応する貫通孔12hを通して、洗浄液供給系Dに貯留された洗浄液を上方から散乱空間V3および溝部11gに吐出する。これにより、下カップ11、上カップ12および側壁部13が洗浄され、洗浄液が溝部11gに貯留される。
【0034】
洗浄液供給系Dに貯留された洗浄液は、処理液を溶解するリンス液等の液体である。具体的には、洗浄液は、例えばPGME(propyleneglycol monomethyl ether:プロピレングリコールモノメチルエーテル)であってもよいし、PGMEA(propyleneglycol monomethyl ether acetate:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)であってもよいし、シクロヘキサノンであってもよい。あるいは、洗浄液は、例えばPGMEとPGMEAとの混合液であってもよいし、その混合比は例えば7:3であってもよい。
【0035】
処理カップユニット10は、バット16、ミスト付着防止部材17および複数の気体ノズル18をさらに含む。バット16は、基板Wに吐出された処理液を回収するために用いられる部材であり、例えば円板形状を有する。バット16は、
図1の駆動装置21の回転軸22の周囲を取り囲むように基板Wの下方に配置される。
【0036】
ミスト付着防止部材17は、後述する処理液のミストが基板Wの下面に付着することを防止する部材であり、例えば略円板形状を有する。ミスト付着防止部材17は、
図1の回転保持部23の周囲を取り囲むように基板Wとバット16との間に配置され、図示しない支持部材によりバット16に支持される。
【0037】
ミスト付着防止部材17の上面は、基板Wの被処理面とは反対側の下面に近接しつつ、基板Wの下面に沿って内方から外方に延びる。これにより、ミスト付着防止部材17の上面と基板Wの下面との間の空間V5が狭く形成される。ミスト付着防止部材17の上面と基板Wの下面との間隔は、例えば2mm以上3mm以下であり、最大でも5mmである。
【0038】
本例においては、ミスト付着防止部材17の上面と基板Wの下面との間隔は、内方から外方に向かって漸次減少する。この場合、空間V5をより狭く形成することができる。また、ミスト付着防止部材17の外縁部は、基板Wの外縁部よりも内方に位置する。この場合にも、空間V5を狭く形成することができる。
【0039】
複数の気体ノズル18は、気体供給部Eに接続され、基板Wの下方においてミスト付着防止部材17を斜め上方に貫通するように略等角度間隔で設けられる。各気体ノズル18は、気体供給部Eに封入された気体を回転する基板Wの下面に供給する。基板Wの下面に供給された気体は、基板Wの下面に沿って内方から外方に導かれる。気体供給部Eに封入された気体は、例えば窒素である。気体供給部Eに封入された気体は、クリーンエア等の他の気体であってもよい。
【0040】
(2)基板処理装置の動作
図1および
図2を参照しながら、基板処理装置100の動作を説明する。基板Wは、被処理面が上方に向けられた状態で回転保持部23により水平姿勢で保持される。この状態で、基板Wが回転保持部23により回転されるとともに、処理ノズル30から基板Wの被処理面の中心付近に処理液が吐出される。これにより、基板Wの被処理面の中心付近に吐出された処理液が、基板Wの回転に伴う遠心力により基板Wの被処理面の全体に拡げられ、基板Wの被処理面に処理液の膜が形成される。
【0041】
ここで、基板Wが所定の回転速度よりも大きい回転速度で回転される場合には、基板Wの被処理面に供給された高い運動エネルギーを有する処理液が、基板Wの被処理面から振り切られ、上下方向に幅をもって、基板Wの周縁部から外方に飛散する。基板Wから飛散した処理液は、下カップ11の上面11aと上カップ12の下面12aにより捕集空間V1に捕集される。
【0042】
捕集空間V1に捕集された処理液は、下カップ11の上面11aおよび上カップ12の下面12aに沿って外方に導かれ、集合空間V2で集合しつつ集合空間V2を通過する。集合空間V2を通過した処理液が飛散空間V3に到達し、側壁部13の厚肉部13aに衝突して散乱空間V3で上下方向および径方向に散乱する。散乱後の処理液の一部は、運動エネルギーを失い、重力で落下することにより溝部11gに貯留される。一方、散乱後の処理液の他の一部はミストになることがある。
【0043】
このような場合でも、集合空間V2の間隔は、内方から外方に向かって漸次減少する。また、基板Wから飛散した処理液は、内方から外方に向かって連続的に集合空間V2を通過する。そのため、処理液のミストは、外方に向かって集合空間V2を通過する処理液の流れにより押し戻され、処理液のミストが再び集合空間V2を通過して捕集空間V1に戻ることがない。これにより、処理液のミストが逆流して基板Wの被処理面および下面に付着することが防止されるとともに、処理液のミストが処理カップユニット10外に飛散することが防止される。
【0044】
また、ミスト付着防止部材17により、ミスト付着防止部材17の上面と基板Wの下面との間の空間V5が狭く形成される。また、複数の気体ノズル18により基板Wの下面に沿って内方から外方に気体が供給される。そのため、空間V5が陽圧に維持される。さらに、散乱空間V3の雰囲気は、隙間Sを通して排出空間V4に導かれた後、排気流路F1から排出される。排気流路F1から排出された気体は、排気系Bにより工場内の排気設備に導かれる。
【0045】
上記の構成によれば、基板Wの外方から基板Wの下面に向かう気流が形成されることがミスト付着防止部材17により防止される。したがって、処理カップユニット10で跳ね返った処理液のミストが基板Wの下面に付着することはなく、基板Wの被処理面の処理液が下面に回り込むこともない。これにより、基板Wの下面を洗浄液で洗浄しない場合でも、処理液による基板の下面の汚染を防止することができる。また、処理カップユニット10で跳ね返った処理液が基板Wの被処理面に付着することもないので、被処理面に形成される膜が汚染されることを防止することができる。
【0046】
散乱空間V3に到達した処理液の一部は、散乱空間V3に接する処理カップユニット10内の壁面に付着する。ここで、複数の洗浄ノズル15から複数の貫通孔12hをそれぞれ通して散乱空間V3および溝部11gに洗浄液が吐出される。散乱空間V3に吐出された洗浄液は、散乱空間V3に接する処理カップユニット10内の壁面を伝って下方に導かれる。これにより、壁面に付着した洗浄液が溶解され、
図2に矢印Xで示すように洗浄液とともに下カップ11の溝部11g内に貯留される。
【0047】
ここで、溶解されかつ溝部11g内に貯留された処理液は、溝部11g内に設けられた振動部材14により振動されることにより低粘度化される。低粘度化された処理液は、気流により隙間Sを通して排出空間V4に導かれる。ここで、溝部11gは、下カップ11の外周部に沿って形成されるので、溝部11gと基板Wとの距離は十分に離間する。そのため、低粘度化された処理液が逆流して基板Wに再度付着することが容易に防止される。
【0048】
また、溝部11gから排出空間V4に導かれた処理液が側壁部13の薄肉部13bに衝突し、上方向に拡がるかまたは浮上した場合でも、その処理液は溝部13gに捕捉され、重力により下方の排出空間V4に戻される。その後、排出空間V4の処理液は、廃液流路F2から排出され、廃液系Cにより工場内の廃液設備に導かれる。
【0049】
上記の構成によれば、処理液の粘度が高い場合でも、処理カップユニット10の壁面に処理液が付着したまま残存することがない。そのため、処理カップユニット10内における排気および廃液のための経路が処理液で詰まることが防止される。また、処理液が低粘度化されるので、処理カップユニット10外に容易に排出される。これらにより、処理カップユニット10の汚染が防止され、処理カップユニット10内で処理液がパーティクルとして発生することも防止される。したがって、処理カップユニット10を取り外して洗浄する頻度または処理カップユニット10を交換する頻度が減少する。その結果、処理カップユニット10のメンテナンスの頻度を低減することができる。
【0050】
(3)変形例
本実施の形態において、下カップ11の上面11aは内方から外方に向かって斜め下方にわずかに傾斜するが、下カップ11の形状はこれに限定されない。
図3は、変形例に係る処理カップユニット10の部分拡大断面図である。
図3に示すように、下カップ11の上面11aは、内方から外方に向かって斜め上方に傾斜してもよい。この構成において、下カップ11がミスト付着防止部材17と干渉しない場合には、下カップ11に切欠11nが形成されなくてもよい。あるいは、下カップ11の上面11aは、ほとんど傾斜せずに、略水平であってもよい。
【0051】
(4)効果
本実施の形態に係る基板処理装置100においては、回転保持装置20により基板Wが水平姿勢で保持されて回転される。この状態で、処理ノズル30により基板Wの被処理面に処理液が吐出されることにより基板Wが処理される。基板Wの周囲を取り囲むように処理カップユニット10が設けられるので、処理液の飛散による基板処理装置100の汚染が防止される。
【0052】
処理カップユニット10においては、ミスト付着防止部材17が、基板Wの下方に配置される。この構成によれば、基板Wから飛散した処理液が下カップ11または上カップ12に衝突して処理液のミストが発生した場合でも、ミスト付着防止部材17により基板Wの下面に処理液のミストが付着することが防止される。これにより、処理液による基板Wの下面の汚染を防止することができる。また、基板Wの下面に処理液が付着しないので、基板Wの下面を洗浄するための洗浄液を基板Wの下面に供給する必要がない。そのため、基板処理における洗浄液の使用量を削減することができる。
【0053】
また、処理カップユニット10においては、基板Wから飛散した処理液が、下カップ11に形成された溝部11gに溶解されつつ貯留され、振動部材14により振動された後、排出空間V4から排出される。この構成によれば、溝部11gにおいて処理液が振動部材14により振動されることにより低粘度化される。そのため、処理液が処理カップユニット10外に容易に排出される。この場合、下カップ11、上カップ12または側壁部13の壁面に付着して残存する処理液の量が低減される。これにより、処理カップユニット10のメンテナンスの頻度を低減することができる。
【0054】
さらに、本実施の形態においては、下カップ11の内縁部が基板Wに十分に近接する。具体的には、下カップ11の内縁部は、上カップ12の内縁部よりも内方に位置する。あるいは、下カップ11の内縁部は、基板Wの外縁部またはミスト付着防止部材17の外縁部の下方に位置する。そのため、基板Wの回転速度が小さいか、または処理液の粘度が大きいことにより処理液の飛散距離が短い場合でも、下カップ11により処理液を捕集することができる。
【0055】
下カップ11により捕集された処理液は、下カップ11に形成された溝部11gに導かれる。これにより、処理液を処理カップユニット10外に排出することができる。また、基板Wの近傍で処理液が下カップ11に衝突して処理液の一部がミストになった場合でも、ミスト付着防止部材17により基板Wの下面に処理液のミストが付着することが防止される。したがって、処理液による基板Wの下面の汚染を防止することができる。
【0056】
(5)他の実施の形態
(a)上記実施の形態において、処理カップユニット10は気体ノズル18を含むが、本発明はこれに限定されない。ミスト付着防止部材17の上面と基板Wの下面との間の空間V5が十分に狭く形成される場合には、処理カップユニット10は気体ノズル18を含まなくてもよい。
【0057】
(b)上記実施の形態において、処理カップユニット10は洗浄ノズル15を含むが、本発明はこれに限定されない。処理液の粘度が高くなることを緩和することが可能な場合には、処理カップユニット10は洗浄ノズル15を含まなくてもよい。また、基板処理において、処理液を溶解する有機溶剤等の溶解液が用いられることがある(例えばプリウエット処理)。この場合、処理液に加えて溶解液が溝部11gにさらに貯留され、処理液が溶解する。そのため、このような場合にも、処理カップユニット10は洗浄ノズル15を含まなくてもよい。
【0058】
(c)上記実施の形態において、処理カップユニット10は振動部材14を含むが、本発明はこれに限定されない。処理液を効率よく処理カップユニット10外に排出することが可能である場合には、処理カップユニット10は振動部材14を含まなくてもよい。
【0059】
(6)請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応関係
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることもできる。
(7)参考形態
(7-1)第1の参考形態に係る処理カップユニットは、水平姿勢で保持される基板に処理液を用いた処理を行う際に基板の周囲を取り囲むように設けられる処理カップユニットであって、下カップと、下カップの上方において基板の周囲を取り囲むように配置される上カップと、基板の下方に配置されかつ基板の下面に処理液のミストが付着することを防止するミスト付着防止部材とを備える。
この処理カップユニットにおいては、水平姿勢で保持される基板に処理液を用いた処理を行う際に、下カップおよび上カップが設けられる。上カップは、下カップの上方において基板の周囲を取り囲むように配置される。ミスト付着防止部材が、基板の下方に配置される。
この構成によれば、基板処理時に、基板の被処理面から飛散した処理液が下カップおよび上カップにより捕捉されるので、処理液の飛散による処理カップユニットの外部の汚染が防止される。ここで、基板から飛散した処理液が下カップまたは上カップに衝突して処理液のミストが発生した場合でも、ミスト付着防止部材により基板の下面に処理液のミストが付着することが防止される。これにより、処理液による基板の下面の汚染を防止することができる。また、基板の下面に処理液が付着しないので、基板の下面を洗浄するための洗浄液を基板の下面に供給する必要がない。そのため、基板処理における洗浄液の使用量を削減することができる。
(7-2)ミスト付着防止部材は、基板の下面に沿って延びかつ基板の下面に近接するように配置されてもよい。この場合、ミスト付着防止部材と基板の下面との間の空間が狭く形成される。そのため、基板の被処理面の処理液が下面に回り込むことがより容易に防止される。これにより、処理液による基板の下面の汚染をより確実に防止することができる。
(7-3)上下方向におけるミスト付着防止部材と基板の下面との間隔は、2mm以上5mm以下であってもよい。この場合、ミスト付着防止部材と基板の下面との間が十分に近接することにより、ミスト付着防止部材と基板の下面との間の空間がより狭く形成される。これにより、基板の被処理面の処理液が下面に回り込むことをより確実に防止することができる。
(7-4)上下方向におけるミスト付着防止部材と基板の下面との間隔は、内方から外方に向かって漸次減少してもよい。この場合、ミスト付着防止部材と基板の下面との間隔が外方側においてより狭くなるため、基板の被処理面の処理液が下面に回り込むことをさらに確実に防止することができる。
(7-5)ミスト付着防止部材の外縁部は、基板の外縁部よりも内方に位置してもよい。この場合でも、基板の被処理面の処理液が下面に回り込むことをさらに確実に防止することができる。
(7-6)処理カップユニットは、基板の下面に沿って内方から外方への気体の流れを形成する気体ノズルをさらに備えてもよい。この場合、ミスト付着防止部材と基板の下面との間の空間を陽圧に維持することができる。これにより、処理液のミストが基板の下面に付着すること、および基板の被処理面の処理液が下面に回り込むことをさらに確実に防止することができる。
(7-7)下カップの内縁部は、上カップの内縁部よりも内方に位置してもよい。この場合、下カップの内縁部が基板に十分に近接する。そのため、処理液の飛散距離が短い場合でも、下カップにより処理液を捕集することができる。また、基板の近傍で処理液が下カップに衝突して処理液のミストが発生した場合でも、ミスト付着防止部材により基板の下面に処理液のミストが付着することが防止される。これにより、処理液による基板の下面の汚染を防止することができる。
(7-8)下カップの内縁部は、ミスト付着防止部材の外縁部の下方に位置してもよい。この場合、下カップの内縁部が基板に十分に近接する。そのため、処理液の飛散距離が短い場合でも、下カップにより処理液を捕集することができる。また、基板の近傍で処理液が下カップに衝突して処理液のミストが発生した場合でも、ミスト付着防止部材により基板の下面に処理液のミストが付着することが防止される。これにより、処理液による基板の下面の汚染を防止することができる。
(7-9)基板処理に用いられる処理液の粘度は、100cP以上300cP以下であってもよい。この構成によれば、ミスト付着防止部材により処理液のミストが基板の下面に付着することが防止されるので、基板処理に用いられる処理液の粘度が比較的高い場合でも、洗浄液を用いることなく基板の下面の汚染を防止することができる。
(7-10)第2の参考形態に係る基板処理装置は、基板を水平姿勢で保持して回転させる回転保持装置と、回転保持装置により保持された基板の被処理面に処理液を吐出する処理液吐出部と、回転保持装置により保持された基板の周囲を取り囲むように設けられる第1の参考形態に係る処理カップユニットとを備える。
この基板処理装置においては、回転保持装置により基板が水平姿勢で保持されて回転される。この状態で、処理液吐出部により基板の被処理面に処理液が吐出されることにより基板が処理される。基板の周囲を取り囲むように上記の処理カップユニットが設けられるので、処理液の飛散による基板処理装置の汚染が防止される。
また、基板から飛散した処理液が下カップまたは上カップに衝突して処理液のミストが発生した場合でも、ミスト付着防止部材により基板の下面に処理液のミストが付着することが防止される。これにより、処理液による基板の下面の汚染を防止することができる。さらに、基板の下面に処理液が付着しないので、基板の下面を洗浄するための洗浄液を基板の下面に供給する必要がない。そのため、基板処理における洗浄液の使用量を削減することができる。
【0060】
上記実施の形態においては、基板Wが基板の例であり、処理カップユニット10が処理カップユニットの例であり、下カップ11が下カップの例であり、上カップ12が上カップの例である。ミスト付着防止部材17がミスト付着防止部材の例であり、気体ノズル18が気体ノズルの例であり、回転保持装置20が回転保持装置の例であり、処理ノズル30が処理液吐出部の例であり、基板処理装置100が基板処理装置の例である。
【符号の説明】
【0061】
10…処理カップユニット,11…下カップ,11a…上面,11g,12g…溝部,11n…切欠,12…上カップ,12a…下面,12h…貫通孔,13…側壁部,13a…厚肉部,13b…薄肉部,14…振動部材,15…洗浄ノズル,16…バット,17…ミスト付着防止部材,18…気体ノズル,20…回転保持装置,21…駆動装置,22…回転軸,23…回転保持部,30…処理ノズル,100…基板処理装置,A…処理液供給系,B…排気系,C…廃液系,D…洗浄液供給系,E…気体供給部,F1…排気流路,F2…廃液流路,P…配管,p1~p3…部分,S…隙間,V1…捕集空間,V2…集合空間,V3…散乱空間,V4…排出空間,V5…空間,W…基板