IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋ゴム工業株式会社の特許一覧

特許7189739熱可塑性液晶ポリマー組成物および熱可塑性液晶ポリマーの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】熱可塑性液晶ポリマー組成物および熱可塑性液晶ポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/32 20060101AFI20221207BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20221207BHJP
   C08G 18/67 20060101ALI20221207BHJP
   C08F 299/06 20060101ALN20221207BHJP
【FI】
C08G18/32 015
C08G18/08 038
C08G18/67 010
C08F299/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018214295
(22)【出願日】2018-11-15
(65)【公開番号】P2020083903
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早見 純平
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 裕希
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-146421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00-18/87
C08F 299/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、光重合性基含有化合物との反応物である熱可塑性液晶ポリマーと、さらに光反応開始剤および重合禁止剤を含有し、
前記活性水素基を有するメソゲン基含有化合物が、下記一般式(A-1):
【化1】
(nは1~10であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、-N=N-、-CO-、-CO-O-、または-CH=N-であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、または-O-であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、または炭素数1~20のアルキレン基である。ただし、Rが-O-であり、且つRが隣接する結合基の一部をなす単結合であるものを除く。)で表される化合物であることを特徴とする熱可塑性液晶ポリマー組成物。
【請求項2】
組成物中、反応前の前記イソシアネート化合物の全量を100重量%としたとき、前記重合禁止剤の配合量が0.01~10重量%である請求項1に記載の熱可塑性液晶ポリマー組成物。
【請求項3】
前記重合禁止剤が、フェノール系重合禁止剤およびチアジン系重合禁止剤からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の熱可塑性液晶ポリマー組成物。
【請求項4】
前記活性水素基を有するメソゲン基含有化合物が、下記一般式(A-2):
【化2】
(nは1~10である)で表される化合物である請求項1~3のいずれかに記載の熱可塑性液晶ポリマー組成物。
【請求項5】
前記光重合性基含有化合物は、アクリロイル基含有化合物、メタクリロイル基含有化合物、およびアリル化合物からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1~4のいずれかに記載の熱可塑性液晶ポリマー組成物。
【請求項6】
少なくとも下記一般式(A-1):
【化3】
(nは1~10であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、-N=N-、-CO-、-CO-O-、または-CH=N-であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、または-O-であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、または炭素数1~20のアルキレン基である。ただし、Rが-O-であり、且つRが隣接する結合基の一部をなす単結合であるものを除く。)で表される化合物と、イソシアネート化合物と、光重合性基含有化合物とを、重合禁止剤存在下で反応させることを特徴とする熱可塑性液晶ポリマーの製造方法。
【請求項7】
反応前の前記イソシアネート化合物の全量を100重量%としたとき、前記重合禁止剤の配合量が0.01~10重量%である請求項に記載の熱可塑性液晶ポリマーの製造方法。
【請求項8】
前記重合禁止剤が、フェノール系重合禁止剤およびチアジン系重合禁止剤からなる群より選択される少なくとも1種である請求項6または7に記載の熱可塑性液晶ポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性液晶ポリマー組成物および熱可塑性液晶ポリマーの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分子構造内にメソゲン基を有する液晶ポリマーは、液晶(メソゲン基)の配向度の変化に伴って物性が変化する。このような性質に着目し、液晶ポリマーをエラストマーとして様々な用途で利用する試みがなされている。
【0003】
例えば、液晶ポリマーとして、ジイソシアネート成分と、高分子量ポリオール成分と、メソゲンジオールとの反応によって得られる液晶ポリウレタンエラストマーがある(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-115036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の液晶ポリウレタンエラストマーは、本出願人が開発したものであり、液晶性発現温度領域でゴム弾性を有するものである。この液晶ポリウレタンエラストマーは、従来の液晶ポリウレタンと比べて、液晶性発現温度を低下させたものである。
【0006】
液晶エラストマーを得るためには、液晶性発現温度領域で液晶エラストマーの原材料を架橋(硬化)させる必要がある。この点に関し、特許文献1の液晶エラストマーは、上述のとおり、液晶性発現温度を低下させるように設計されたものであり、そのための手段として、イソシアネート成分として3官能以上のイソシアネートを使用するとともに、高分子量ポリオール成分として水酸基数が3以上の高分子量ポリオール成分を使用している。このように、架橋可能な官能基を多く含む原材料を使用することで、熱成形加工時に液晶相が発現した状態を維持したまま原材料間で架橋反応が進行し、ゴム弾性を備えた液晶エラストマーを得ることができる。
【0007】
ところが、熱成形加工時に架橋反応を進行させる方法(すなわち、熱硬化法)では、架橋の進行に伴ってポリマーの溶融粘度が上昇するため、反応の制御が困難であった。また、成形機の内部で液晶ポリマーの原材料が早期に硬化してしまう虞もあった。このため、液晶ポリマーの工業的生産を行うにあたっては、ポリマーの溶融粘度の上昇や原材料の早期の硬化によって連続生産が妨げられないような改善策が求められている。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶融粘度の上昇が抑制された熱可塑性液晶ポリマーを含有し、成形加工性に優れた熱可塑性液晶ポリマー組成物、および溶融粘度の上昇が抑制された熱可塑性液晶ポリマーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち本発明は、少なくとも活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、光重合性基含有化合物との反応物である熱可塑性液晶ポリマーと、さらに光反応開始剤および重合禁止剤を含有する熱可塑性液晶ポリマー組成物に関する。
【0010】
本発明に係る熱可塑性液晶ポリマー組成物は、少なくとも3成分の反応物、具体的には活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、光重合性基含有化合物との反応物である熱可塑性液晶ポリマーと、さらに光反応開始剤および重合禁止剤を含有する。かかる熱可塑性液晶ポリマーは未架橋であり、この状態では溶融粘度が低く、成形加工性に優れる。また、熱可塑性液晶ポリマー中には光重合性基含有化合物が組み込まれており、例えば熱可塑性液晶ポリマーを含有する熱可塑性液晶ポリマー組成物を所望の形状に成形した後、光照射することにより、組成物の成形と架橋(硬化)反応とを別々の工程として実施することができる。
【0011】
また、本発明に係る熱可塑性液晶ポリマー組成物は、熱可塑性液晶ポリマーと併せて重合禁止剤を含有する。このため、熱可塑性液晶ポリマー中に組み込まれた光重合性基含有化合物が、光反応開始剤存在下で引き起こされる架橋反応、特には光反応開始剤存在下、加熱環境下で引き起こされる架橋反応の発生を防止することができる。その結果、加熱環境下であっても熱可塑性液晶ポリマーの溶融粘度の上昇、さらには熱可塑性液晶ポリマーを含有する熱可塑性液晶ポリマー組成物の溶融粘度の上昇を抑制し、その成形加工性を向上することができる。
【0012】
本発明に係る熱可塑性液晶ポリマー組成物は、前記のとおり、熱可塑性液晶ポリマーを成形行程とは別行程で架橋させることができる。このため、適用範囲が広い液晶ポリマーが得られ、常温を含む低温領域でも成形が容易なものとなり、ポリマー全体が均等に硬化したものとなる。しかも、成形後の温度が十分に低下した状態(すなわち、液晶相が発現した状態)で原材料を架橋(硬化)させることが可能なため、モノドメイン化が容易なものとなり、生成した液晶ポリマーの液晶相の発現温度領域は常温を含む比較的低い温度領域となる。このようにして得られた低温液晶発現性を有する液晶ポリマーは、例えば、液晶相と等方相との間での相転移を利用した熱応答性材料として好適に利用することができる。
【0013】
上記熱可塑性液晶ポリマー組成物において、組成物中、反応前の前記イソシアネート化合物の全量を100重量%としたとき、前記重合禁止剤の配合量が0.01~10重量%であることが好ましい。組成物中、重合禁止剤は熱可塑性液晶ポリマー中に組み込まれた光重合性基含有化合物の架橋反応を禁止する役割を果たす。ここで、熱可塑性液晶ポリマー中にはイソシアネート化合物も組み込まれているところ、イソシアネート化合物が備えるイソシアネート基は重合禁止剤が備える活性水素基と反応する可能性がある。しかしながら、反応前のイソシアネート化合物の全量を100重量%としたとき、重合禁止剤の配合量を0.01~10重量%に設定することにより、組成物中での重合禁止剤の量を十分に確保し、熱可塑性液晶ポリマー組成物の溶融粘度の上昇を抑制し、その成形加工性を向上することができる。
【0014】
上記熱可塑性液晶ポリマー組成物において、前記重合禁止剤が、フェノール系重合禁止剤およびチアジン系重合禁止剤からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。この場合、重合禁止剤が備える活性水素基は、イソシアネート化合物が備えるイソシアネート基との反応性が低くなり、重合禁止剤の重合禁止能の失活が好適に抑制できる。その結果、組成物中での重合禁止剤の量を十分に確保し、熱可塑性液晶ポリマー組成物の溶融粘度の上昇を抑制し、その成形加工性を向上することができる。
【0015】
上記熱可塑性液晶ポリマー組成物において、前記活性水素基を有するメソゲン基含有化合物が、下記一般式(1):
【化1】

(Xは活性水素基であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、-N=N-、-CO-、-CO-O-、または-CH=N-であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、または-O-であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、または炭素数1~20のアルキレン基である。ただし、Rが-O-であり、且つRが隣接する結合基の一部をなす単結合であるものを除く。)で表される化合物であることが好ましい。かかる組成物を原料とした場合、常温を含む低温での液晶相の発現を有する実用性の高い液晶ポリマーを製造することができる。
【0016】
上記熱可塑性液晶ポリマー組成物において、前記光重合性基含有化合物は、アクリロイル基含有化合物、メタクリロイル基含有化合物、およびアリル化合物からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。かかる組成物を原料とした場合、光の照射による架橋反応が迅速かつ確実に進行し、低温での液晶相の発現とゴム弾性とを兼ね備えた液晶ポリマーを製造することができる。
【0017】
また本発明は、少なくとも前記活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、前記イソシアネート化合物と、前記光重合性基含有化合物とを、重合禁止剤存在下で反応させることを特徴とする熱可塑性液晶ポリマーの製造方法に関する。活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、光重合性基含有化合物とを反応させることにより、熱可塑性液晶ポリマーを製造する場合、あるいは熱可塑性液晶ポリマーの成形性向上のために成形温度を上昇させることで溶融粘度の低下を試みる場合、熱可塑性液晶ポリマーに組み込まれた光重合性基含有化合物が意図せず架橋してしまい、熱可塑性液晶ポリマーの溶融粘度が上昇することに伴い、成形加工性が悪化する場合がある。特に、熱可塑性液晶ポリマーが光反応開始剤と併存する場合、意図せぬ架橋反応が進行しやすい。しかしながら、少なくとも活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、光重合性基含有化合物とを、重合禁止剤存在下で反応させた場合、熱可塑性液晶ポリマーに組み込まれた光重合性基含有化合物による架橋反応の進行を防止し、熱可塑性液晶ポリマーの溶融粘度上昇を抑制することができる。その結果、熱可塑性液晶ポリマーの溶融粘度の上昇を抑制し、その成形加工性を向上することができる。
【0018】
上記熱可塑性液晶ポリマーの製造方法において、反応前の前記イソシアネート化合物の全量を100重量%としたとき、前記重合禁止剤の配合量が0.01~10重量%であることが好ましい。この場合、熱可塑性液晶ポリマーに組み込まれた光重合性基含有化合物による架橋反応の進行を防止するための重合禁止剤の量を十分に確保し、熱可塑性液晶ポリマーの溶融粘度の上昇を抑制し、その成形加工性を向上することができる。
【0019】
上記熱可塑性液晶ポリマーの製造方法において、前記重合禁止剤が、フェノール系重合禁止剤およびチアジン系重合禁止剤からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。この場合、熱可塑性液晶ポリマーに組み込まれた光重合性基含有化合物による架橋反応の進行を防止するための重合禁止剤の量を十分に確保し、熱可塑性液晶ポリマーの溶融粘度の上昇を抑制し、その成形加工性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る熱可塑性液晶ポリマー組成物は、熱可塑性液晶ポリマー、光反応開始剤および重合禁止剤を含有する。かかる熱可塑性液晶ポリマーは、少なくとも活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、光重合性基含有化合物とを反応させることにより得られる。
【0021】
[メソゲン基含有化合物]
メソゲン基含有化合物としては、例えば、下記の一般式(1)で表される化合物が使用可能である。
【化2】
【0022】
上記一般式(1)において、Xは活性水素基であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、-N=N-、-CO-、-CO-O-、または-CH=N-であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、または-O-であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、または炭素数1~20のアルキレン基である。ただし、Rが-O-であり、且つRが隣接する結合基の一部をなす単結合であるものを除く。)なお、「隣接する結合基の一部をなす単結合」とは、当該単結合が隣接する結合基の一部と共有されている状態を意味する。例えば、上記一般式(1)において、Rが隣接する結合基の一部をなす単結合である場合、単結合であるRは両側のベンゼン環と共有された状態となり、当該両側のベンゼン環とともにビフェニル構造を形成する。Xとしては、例えば、OH、SH、NH、COOH、二級アミンなどが挙げられる。メソゲン基含有化合物の配合量は、熱可塑性液晶ポリマーの原材料全体の中で、30~80重量%、好ましくは40~70重量%となるように調整される。メソゲン基含有化合物の配合量が30重量%未満の場合、生成したポリマーに液晶性が発現し難くなる。メソゲン基含有化合物の配合量が80重量%を超える場合、液晶相-等方相間の相転移温度(Ti)が高くなり、常温を含む低温領域でポリマーを成形することが困難となる。
【0023】
メソゲン基含有化合物には、アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドを併用することが好ましい。アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドは、熱可塑性液晶ポリマーにおける液晶相の発現温度を低下させるように機能するため、メソゲン基含有化合物にアルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドを併用して生成した熱可塑性液晶ポリマーは、常温での実用性に優れた製品となり得る。アルキレンオキシドは、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、またはブチレンオキシドを使用することができる。上掲のアルキレンオキシドは、単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。スチレンオキシドについては、ベンゼン環にアルキル基、アルコキシ基、ハロゲンなどの置換基を有するものでもよい。アルキレンオキシドは、上掲のアルキレンオキシドと、上掲のスチレンオキシドとを混合したものを使用することも可能である。アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドの配合量は、メソゲン基含有化合物1モルに対して、アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドが1~10モル、好ましくは2~6モル付加されるように調整される。アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドの付加モル数が1モル未満の場合、熱可塑性液晶ポリマーの液晶相が発現する温度範囲を十分に低下させることが困難となり、そのため、無溶媒で且つ液晶相が発現した状態で液晶ポリマー(液晶ポリウレタン)を連続成形することが困難となる。アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドの付加モル数が10モルを超える場合、熱可塑性液晶ポリマーの液晶相が発現し難くなる虞がある。
【0024】
[イソシアネート化合物]
イソシアネート化合物は、例えば下記に示すジイソシアネート化合物を使用することができる。ジイソシアネート化合物を例示すると、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート、およびm-キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;エチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、および1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;並びに1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、およびノルボルナンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネートなどが挙げられる。例示したジイソシアネート化合物は、単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。なお、本発明ではイソシアネート化合物として3官能以上のイソシアネート化合物を併用しても良いが、得られる液晶ポリマーの熱可塑性を確保するため、使用するイソシアネート化合物の全量を100重量%としたとき、ジイソシアネート化合物の割合は98重量%以上であることが好ましく、99重量%以上であることがより好ましく、略100重量%であることがさらに好ましい。3官能以上のイソシアネート化合物を例示すると、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート、リジンエステルトリイソシアネート、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4-イソシアネートメチルオクタン、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどのトリイソシアネート、およびテトライソシアネートシランなどのテトライソシアネートが挙げられる。
【0025】
熱可塑性液晶ポリマーを構成するメソゲン基含有化合物の全量を100重量部としたとき、イソシアネート化合物の割合は10~40重量部であることが好ましく、15~30重量部であることがより好ましい。イソシアネート化合物の配合量が10重量部未満である場合、ウレタン反応による高分子化が不十分となるため、熱可塑性液晶ポリマーを連続成形することが困難となる。一方、イソシアネート化合物の割合が40重量部を超える場合、熱可塑性液晶ポリマーの原材料全体に占めるメソゲン基含有化合物の配合量が相対的に少なくなるため、熱可塑性液晶ポリマーの液晶性が低下する。
【0026】
なお、イソシアネート化合物が有するイソシアネート基は、メソゲン基含有化合物が有する水酸基などの活性水素基、および光重合性基含有化合物が有する水酸基などの活性水素基と反応し得る。メソゲン基含有化合物および光重合性基含有化合物が有する活性水素基の理論量に対するイソシアネート化合物が有するイソシアネート基の理論量であるNCO INDEX(NCO/OH)は、0.95~1.10であることが好ましく、1.00~1.05であることがより好ましい。
【0027】
[光重合性基含有化合物]
光重合性基含有化合物は、例えば、アクリロイル基含有化合物、メタクリロイル基含有化合物、アリル化合物を使用することができる。アクリロイル基含有化合物を例示すると、プロピレングリコールジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、エチレングリコールジグリシジルエーテルメタクリル酸付加物、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、グリセリンジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、ビスフェノールA PO2mol付加物ジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、β-カルボキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-アクリロイロキシエチル-コハク酸、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-アクリロイロキシエチル-フタル酸、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、2-アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどが挙げられる。メタクリロイル基含有化合物を例示すると、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、2-メタクリロイロキシエチルコハク酸、2-メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート、グリセリンジメタクリレート、ビスフェノールA PO2mol付加物ジグリシジルエーテルメタクリル酸付加物、ビスフェノールAジグリシジルエーテルメタクリル酸付加物、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、2-メタクリロイルオキシエチルサクシネートなどが挙げられる。アリル基含有化合物を例示すると、グリセリンモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテルなどが挙げられる。
【0028】
熱可塑性液晶ポリマーを構成するメソゲン基含有化合物の全量を100重量部としたとき、光重合性基含有化合物の割合は0.1~10重量部であることが好ましく、0.3~7重量部であることがより好ましい。光重合性基含有化合物の割合が0.1重量部未満の場合、原材料に光照射を行っても十分に硬化しないため、生成したポリマーは熱応答性を発現し難くなる。光重合性基含有化合物の割合が10重量部を超える場合、光照射後のポリマー中の架橋密度が高くなり過ぎるため、この場合も生成したポリマーは熱応答性を発現し難くなる。
【0029】
[その他の原材料]
活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、光重合性基含有化合物とに加え、熱可塑性液晶ポリマーの原材料として、活性水素基含有化合物を使用してもよい。活性水素基含有化合物としては、例えば、ポリオール化合物、アミン化合物が挙げられる。ポリオール化合物としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、meso-エリトリトール、ペンタエリスリトール、テトラメチロールシクロヘキサン、メチルグルコシド、ソルビトール、マンニトール、ズルシトール、スクロース、2,2,6,6-テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサノール、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、およびトリエタノールアミンなどが挙げられる。アミン化合物としては、エチレンジアミン、トリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、ジエチレントリアミン、モノエタノールアミン、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、およびモノプロパノールアミンなどが挙げられる。上掲の各活性水素基含有化合物は、単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。
【0030】
また、活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、光重合性基含有化合物とを反応させる場合、当業者に公知のウレタン重合触媒を使用してもよい。かかる重合触媒としては、ジブチル錫ジラウレートやオクチル酸錫などの有機錫系触媒、トリエチレンジアミンおよびその誘導体、N-メチルモルホリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7(DBU)、ビス(N,N-ジメチルアミノ-2-エチル)エーテル、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテルなどの第3級アミン系触媒、酢酸カリウム、オクチル酸カリウムなどのカルボン酸金属塩触媒、イミダゾール系触媒などが挙げられる。これらの中でも、トリエチレンジアミンおよびその誘導体の使用が好ましい。
【0031】
熱可塑性液晶ポリマー組成物は、前記熱可塑性液晶ポリマーに加え、光反応開始剤および重合禁止剤を含有する。
【0032】
[光反応開始剤]
光反応開始剤は、例えば、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフォンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン/ベンゾフェノン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、オキシ-フェニル-アセチックアシッド2-[2-オキソ-2-フェニル-アセトキシ-エトキシ]-エチルエステル/オキシ-フェニル-アセチックアシッド2-[2-ヒドロキシ-エトキシ]-エチルエステル、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モリフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)フェニル-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、ヨードニウム,(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]-ヘキサフルオロフォスフェート(1-)/プロピレンカーボネート、トリアリールスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート、トリアリールスルフォニウムテトラキス-(ペンタフルオロフェニル)ボレート、オキシムスルホネート系光酸発生剤を使用することができる。光反応開始剤の割合は、熱可塑性液晶ポリマーを構成するメソゲン基含有化合物の全量を100重量部としたとき、0.1~10重量部であることが好ましく、0.1~8重量部であることがより好ましい。光反応開始剤の配合量が0.1重量部未満の場合、光照射時に均一に重合反応が進行しないため、あるいは硬化が不十分となるため、生成したエラストマーは熱応答性を発現し難くなる。光反応開始剤の配合量が10重量部を超える場合、生成したエラストマー中のメソゲン基の含有量が減少するため、液晶相が発現し難くなる。光反応開始剤は、200~600nmに吸収波長を有するものが好ましい。光反応開始剤が上記範囲の吸収波長を有していれば、熱可塑性液晶ポリマーまたはその原材料の透明度(可視光の透過率)が低いものであっても、光反応開始剤が光を吸収し、確実に光架橋反応を進行させることができる。
【0033】
[重合禁止剤]
重合禁止剤としては、当業者に公知のものを使用可能であるが、イソシアネート化合物が備えるイソシアネート基との反応性が低く、重合禁止能の失活が好適に抑制できるため、フェノール系重合禁止剤およびチアジン系重合禁止剤からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。フェノール系重合禁止剤としては、フェノール環のヒドロキシ基に隣接する部位にメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などのアルキル基を有するものが好ましく、特にフェノール環のヒドロキシ基に隣接する部位にt-ブチル基を有するものが好ましい。この場合、フェノール系重合禁止剤が備えるヒドロキシ基(活性水素基)が、傘高い構造であるt-ブチル基に保護され、イソシアネート化合物が備えるイソシアネート基との反応性が低くなり、重合禁止剤の重合禁止能の失活が好適に抑制できる。フェノール環のヒドロキシ基に隣接する部位にt-ブチル基を有するフェノール系重合禁止剤としては、例えば2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)、1,3,5-トリス(3,5-ジ―t-ブチル―4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン―2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、4,4’,4’’-(1-メチルプロパニル―3-イリデン)トリス(6-t-ブチル―m-クレゾール)、6,6’-ジ―t-ブチル―4,4’-ブチリデンジ―m-クレゾール、オクタデシル3-(3,5-ジ―t-ブチル―4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ―t-ブチル―4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル―4-ヒドロキシ―5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5-トリス(3,5-ジ―t-ブチル―4-ヒドロキシフェニルメチル)-2,4,6-トリメチルベンゼンなどが挙げられる。なお、ヒドロキシ基に隣接する部位にt-ブチル基を有するフェノール系重合禁止剤としては市販品の使用も可能であり、特にBHT(東京化成工業社製)、アデカスタブAO-60/アデカスタブAO-60G(オクタデシル3-(3,5-ジ―t-ブチル―4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ADEKA社製)、およびアデカスタブAO-80(3,9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル―4-ヒドロキシ―5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、ADEKA社製)の使用が好ましい。チアジン系重合禁止剤としては、例えばフェノチアジンが挙げられる。フェノチアジンについても、イソシアネート化合物が備えるイソシアネート基との反応性が低く、重合禁止能の失活が好適に抑制できるため好ましい。
【0034】
組成物中での重合禁止剤の量を十分に確保し、熱可塑性液晶ポリマー組成物の溶融粘度の上昇を抑制し、その成形加工性を向上するためには、組成物中、反応前のイソシアネート化合物の全量を100重量%としたとき、前記重合禁止剤の割合が0.01~10重量%であることが好ましく、0.05~5重量%であることがより好ましい。また、重合禁止剤の割合は、熱可塑性液晶ポリマーを構成するメソゲン基含有化合物の全量を100重量部としたとき、0.0026~2.6重量部であることが好ましく、0.013~1.3重量部であることがより好ましい。さらに、熱可塑性液晶ポリマー組成物中の重合禁止剤濃度は20~20000ppmであることが好ましく、100~10000ppmであることがより好ましい。
【0035】
熱可塑性液晶ポリマーは、光反応開始剤および重合禁止剤存在下、少なくとも活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、光重合性基含有化合物とを反応させることにより製造することができる。本発明では、光反応開始剤および重合禁止剤存在下で熱可塑性液晶ポリマーを製造することにより得た製造物を、そのまま熱可塑性液晶ポリマー組成物として使用することができる。
【0036】
熱可塑性液晶ポリマーを製造する際の製造条件としては、例えば光反応開始剤および重合禁止剤と共に、少なくとも活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、光重合性基含有化合物との3者を押出成形機に投入し、例えば60~150℃に加熱した状態で加熱溶融しつつ、前記3者を反応させる方法が挙げられる。なお、反応させる際、反応前のイソシアネート化合物の全量を100重量%としたとき、反応開始前の重合禁止剤の配合量が0.01~10重量%であることが好ましく、0.05~5重量%であることがより好ましい。
【0037】
反応物である熱可塑性液晶ポリマー、光反応開始剤および重合禁止剤を含む、加熱溶融された製造物(熱可塑性液晶ポリマー組成物)は、冷却後、粉砕してペレット状に成形しておき、ペレット化した原材料を押出成形機を用いて所定の形状に成形した後、液晶相を発現する温度領域(すなわち、ガラス転移温度(Tg)以上かつ相転移温度(Ti)以下)で延伸しながら押出成形してもよい。あるいは、光反応開始剤および重合禁止剤存在下、少なくとも活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、光重合性基含有化合物とを加熱下で反応させることにより得られた熱可塑性液晶ポリマー組成物をそのまま、液晶相を発現する温度領域(すなわち、ガラス転移温度(Tg)以上かつ相転移温度(Ti)以下の温度領域)で延伸しながら押出成形してもよい。この場合、メソゲン基含有化合物に含まれるメソゲン基が延伸方向に沿うように動くため、高度な配向性を有する熱可塑性液晶ポリマー組成物の成形体を製造することができる。
【0038】
前記で得られた、高度な配向性を有する熱可塑性液晶ポリマー組成物の成形体を適切な形状に成形して冷却し、延伸状態を保ったまま波長200~600nm光を照射すると、配向性を維持したまま原材料間で架橋反応が進行し、低温での液晶相の発現性と弾性とを兼ね備えた熱応答性液晶ポリマーが完成する。このようにして製造された熱応答性液晶ポリマーは、低温領域ではメソゲン基が延伸方向に配向しているが、加熱して相転移温度(Ti)を上回るとメソゲン基の配向が崩れて(不規則となって)延伸方向に収縮し、冷却して相転移温度(Ti)を下回るとメソゲン基の配向が復活して延伸方向に伸張するという特異的な熱応答性挙動を示す。
【0039】
ちなみに、熱応答性液晶ポリマーの配向性は、メソゲン基の配向度によって評価することができる。配向度の値が大きいものは、メソゲン基が一軸方向に高度に配向している。配向度は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いた1回全反射測定法(ATR)により、芳香族エーテルの逆対称伸縮振動の吸光度(0°、90°)、およびメチル基の対称変角振動の吸光度(0°、90°)を測定し、これらの吸光度をパラメータとする以下の計算式に基づいて算出される。
配向度=(A-B)/(A+2B)
A:0°で測定したときの芳香族エーテルの逆対称伸縮振動の吸光度/0°で測定したときのメチル基の対称変角振動の吸光度
B:90°で測定したときの芳香族エーテルの逆対称伸縮振動の吸光度/90°で測定したときのメチル基の対称変角振動の吸光度
【0040】
熱応答性液晶ポリマーが有意な伸縮性を発現するためには、メソゲン基の配向度が0.05以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましい。
【0041】
前記熱応答性液晶ポリマーは、衣料製品(繊維)、アクチュエータ、フィルターなどの分野において利用できる可能性がある。
【実施例
【0042】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例などについて説明する。なお、実施例などにおける評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0043】
<溶融粘度>
熱可塑性液晶ポリマー組成物について、キャピラリーレオメータ(品番:No.140-SAS-2002、安田精機社製)を使用し、せん断速度500s-1における120℃の溶融粘度を測定した。溶融粘度が低いほど、熱可塑性液晶ポリマー組成物の成形加工性に優れることを意味する。
【0044】
<押出成形性>
熱可塑性液晶ポリマー組成物の押出成形性の評価を目視により行い、押出成形機から熱可塑性液晶ポリマー組成物がスムーズに押し出されたものを「良好(○)」と判断した。
【0045】
<相転移温度(Ti)>
熱可塑性液晶ポリマー組成物を光架橋することにより得られる熱応答性液晶ポリマーについて、示唆走査熱量分析計[DSC](品名:X-DSC 7000、日立ハイテクサイエンス社製)を使用し、相転移温度(Ti)を測定した。
【0046】
<熱応答性>
熱可塑性液晶ポリマー組成物を光架橋することにより得られる熱応答性液晶ポリマーについて、液晶相(Ti-20℃)および等方相(Ti+20℃)における配向方向のサイズをスケールで測定し、伸縮率を下記式により算出した。液晶相から等方相への相転移に伴って長さに減少(収縮)が認められたものを「熱応答性あり(〇)」と判断した。
「伸縮率(%)」=(L-L)/L×100
(L:液晶相におけるサンプルの配向方向長さ(mm)、L:等方相におけるサンプルの配向方向の長さ(mm))
【0047】
(熱可塑性液晶ポリマーの製造例、ならびに熱可塑性液晶ポリマー、光反応開始剤および重合禁止剤を含有する熱可塑性液晶ポリマー組成物の製造例)
実施例1
反応容器に、活性水素基を有するメソゲン基含有化合物として式(1)のRが単結合であるBH6(500g)、水酸化カリウム(19g)、および溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミド(3000ml)を入れて混合し、さらに、アルキレンオキシドとしてプロピレンオキシドを2モルのBH6に対して5当量添加し、これらの混合物を、加圧条件下、120℃で2時間反応させた(付加反応)。次いで、反応容器にシュウ酸(15g)を添加して付加反応を停止させ、反応液中の不溶な塩を吸引ろ過によって除去し、さらに、反応液中のN,N-ジメチルホルムアミドを減圧蒸留法により除去することにより、メソゲンジオールAを得た。メソゲンジオールAの合成スキームを式(3)に示す。なお、式(3)中に示したメソゲンジオールAは代表的なものであり、種々の構造異性体を含み得る。
【0048】
【化3】
【0049】
次に、メソゲンジオールA100重量部に対し、イソシアネート化合物として1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(三井化学社製)を27重量部、光重合性基含有化合物として2-ヒドロキシエチルアクリレート(共栄社化学社製)を2.0重量部、光反応開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(TPO)(IGM resins社製)を3.75重量部、重合禁止剤として2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)(東京化成工業社製)を0.13重量部(熱可塑性液晶ポリマー組成物中の濃度は100ppm)混合し、熱可塑性液晶ポリマー組成物の原材料を調製した。この原材料を撹拌しながら80℃で加熱溶融し、活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、光重合性基含有化合物とを反応させることにより、熱可塑性液晶ポリマー、光反応開始剤および重合禁止剤を含有する熱可塑性液晶ポリマー組成物を製造した。得られた製造物を冷却後、プラスチック粉砕機(品名:ZI-420、株式会社ホーライ製)で粉砕して、実施例1に係る熱可塑性液晶ポリマー組成物の樹脂ペレットを製造した。
【0050】
実施例2~8
光重合性基含有化合物の配合量、重合禁止剤の配合量および種類を種々変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~8に係る熱可塑性液晶ポリマー組成物の樹脂ペレットを製造した。なお、重合禁止剤として、実施例6ではアデカスタブAO-60/アデカスタブAO-60G(オクタデシル3-(3,5-ジ―t-ブチル―4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ADEKA社製)を使用し、実施例7ではアデカスタブAO-80(3,9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル―4-ヒドロキシ―5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、ADEKA社製)を使用し、実施例8ではフェノチアジン(東京化成工業社製)を使用した。
【0051】
比較例1
重合禁止剤を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る熱可塑性液晶ポリマー組成物の樹脂ペレットを製造した。
【0052】
(熱応答性液晶ポリマーの製造例)
実施例1~8に係る熱可塑性液晶ポリマー組成物の樹脂ペレットを、80~120℃に設定した単軸押出機(品名:SZW25GT-24MG-STD、株式会社テクノベル製)に投入し、厚み1.0mmの樹脂シートに成形した。この樹脂シートを15℃に設定した冷却ロールに通してガラス転移温度(Tg)以上且つ相転移温度(Ti)以下に冷却し、引取りロールで巻き取った。このとき、冷却ロールと引取りロールとの間に回転差を付けることにより、樹脂シートを1.5~10倍に延伸した。さらに、冷却ロールと引取りロールとの間に卓上型UV硬化装置(品名:アイminiグランテージ(ESC-1511U)、アイグラフィックス株式会社製)を設置し、延伸された樹脂シートに高圧水銀ランプまたはメタルハライドランプを光源とした光を照射し、光架橋(硬化)された実施例1~8の熱応答性液晶ポリマーを得た。
【0053】
【表1】
【0054】
比較例1に係る熱可塑性液晶ポリマー組成物は、加熱溶融時にゲル化することに起因して、押出成形性が悪かった。これに伴い、120℃での溶融粘度測定ができなかった。また、比較例1に係る熱可塑性液晶ポリマー組成物はゲル分を多く含むため、熱応答性液晶ポリマーを製造することができなかった。一方、実施例1~8に係る熱可塑性液晶ポリマー組成物は、120℃に昇温して溶融粘度を測定してもゲル化することなく溶融粘度が測定可能であり、その溶融粘度が低く保たれていた。また、実施例1~8に係る熱可塑性液晶ポリマー組成物を延伸、光架橋することにより得られた熱応答性液晶ポリマーは、いずれも熱応答性を示した。