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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】変速制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/662 20060101AFI20221207BHJP
   F16H 59/18 20060101ALI20221207BHJP
   F16H 59/20 20060101ALI20221207BHJP
   F16H 59/44 20060101ALI20221207BHJP
   F16H 59/74 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
F16H61/662
F16H59/18
F16H59/20
F16H59/44
F16H59/74
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018216469
(22)【出願日】2018-11-19
(65)【公開番号】P2020085049
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小室 正樹
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-140174(JP,A)
【文献】特開2013-204781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/04
F16H 61/66-61/664
F16H 59/18-59/20
F16H 59/44
F16H 59/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに連結される無段変速機を制御する変速モードとして、前記無段変速機の変速比を無段階に制御する無段変速モードと、前記無段変速機の変速比を段階的に制御する有段変速モードと、を備える変速制御装置であって、
無段変速モードにおいてエンジン回転数が切替閾値を上回る場合に、変速モードを無段変速モードから有段変速モードに切り替えるモード設定部と、
変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる場合に、前記エンジン回転数に基づいて補正値を設定する補正値設定部と、
変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる場合に、前記切替閾値に前記補正値を加算してシフト閾値を設定するシフト閾値設定部と、
有段変速モードにおいてエンジン回転数が前記シフト閾値に到達したときに、前記無段変速機の変速比を高速段側に切り替えるアップシフト制御部と、
を有し、
前記補正値設定部は、無段変速モードにおいてエンジン回転数が前記切替閾値を上回る場合に、前記エンジン回転数から前記切替閾値を減算して前記補正値を設定する、
変速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変速制御装置において、
前記モード設定部は、アクセル操作量が操作閾値を上回り、かつエンジン回転数が前記切替閾値を上回る場合に、変速モードを無段変速モードから有段変速モードに切り替える、
変速制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の変速制御装置において、
アクセル操作量に基づいて前記切替閾値を設定する切替閾値設定部を有し、
前記切替閾値設定部は、アクセル操作量が増加するにつれて前記切替閾値を大きく設定する、
変速制御装置。
【請求項4】
請求項に記載の変速制御装置において、
前記切替閾値設定部は、アクセル操作量および車速に基づいて前記切替閾値を設定し、
前記切替閾値設定部は、車速が上昇するにつれて前記切替閾値を大きく設定する、
変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機を制御する変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に搭載される変速機として、プライマリプーリやセカンダリプーリ等を備えた無段変速機がある。また、無段変速機の変速モードとして、変速比を無段階に制御する無段変速モードがあり、変速比を段階的に制御する有段変速モードがある(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-140174号公報
【文献】特開2010-7749号公報
【文献】国際公開第2015/046353号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無段変速モードでの走行中にアクセルペダルが大きく踏み込まれると、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられ、有段変速モードを用いた加速走行が実行される。また、有段変速モードで車両を加速させる際には、エンジン回転数が所定のシフト閾値に達する度に、無段変速機の変速比が高速段側に切り替えられる。ところで、アクセルペダルの踏み込みに伴って所謂キックダウン制御が実行されると、変速比が急速にロー側に制御されてエンジン回転数が急上昇するため、エンジン回転数が前述したシフト閾値を大幅に上回ってしまう虞がある。このような状況のもとで、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられると、エンジン回転数がシフト閾値を下回るまで、無段変速機のアップシフトが何度も繰り返されることになる。このように、有段変速モードにおいてアップシフトが何度も繰り返されることは、乗員に違和感を与えてしまう要因であるため、有段変速モードを適切に実行することが求められている。
【0005】
本発明の目的は、有段変速モードを適切に実行することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の変速制御装置は、エンジンに連結される無段変速機を制御する変速モードとして、前記無段変速機の変速比を無段階に制御する無段変速モードと、前記無段変速機の変速比を段階的に制御する有段変速モードと、を備える変速制御装置であって、無段変速モードにおいてエンジン回転数が切替閾値を上回る場合に、変速モードを無段変速モードから有段変速モードに切り替えるモード設定部と、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる場合に、前記エンジン回転数に基づいて補正値を設定する補正値設定部と、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる場合に、前記切替閾値に前記補正値を加算してシフト閾値を設定するシフト閾値設定部と、有段変速モードにおいてエンジン回転数が前記シフト閾値に到達したときに、前記無段変速機の変速比を高速段側に切り替えるアップシフト制御部と、を有し、前記補正値設定部は、無段変速モードにおいてエンジン回転数が前記切替閾値を上回る場合に、前記エンジン回転数から前記切替閾値を減算して前記補正値を設定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる場合に、エンジン回転数に基づいて補正値設定され、切替閾値に補正値を加算してシフト閾値が設定される。これにより、有段変速モードにおける過度なアップシフトを回避することができ、有段変速モードを適切に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施の形態である変速制御装置を備えた車両を示す概略図である。
図2】ミッションコントローラの構成例を示すブロック図である。
図3】無段変速モードを用いた変速状況の一例を示す図である。
図4】有段変速モードを用いた変速状況の一例を示す図である。
図5】変速モードの切り替えを伴う変速状況の一例を示す図である。
図6図5に示した変速状況におけるアクセル操作の一例を示す図である。
図7】モード切替閾値X1の一例を示す図である。
図8】変速モードの切替手順の一例を示すフローチャートである。
図9】変速モードの切替手順の一例を示すフローチャートである。
図10】実施例1として、無段変速モードから有段変速モードに切り替える際の変速状況の一例を示す図である。
図11】実施例2として、無段変速モードから有段変速モードに切り替える際の変速状況の一例を示す図である。
図12】比較例として、無段変速モードから有段変速モードに切り替える際の変速状況の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
[車両構造]
図1は本発明の一実施の形態である変速制御装置10を備えた車両11を示す概略図である。図1に示すように、車両11には、エンジン12および無段変速機13を備えたパワートレイン14が搭載されている。無段変速機13の入力軸であるプライマリ軸15には、前後進切替機構16およびトルクコンバータ17を介してエンジン12が連結されている。また、無段変速機13の出力軸であるセカンダリ軸18には、駆動輪出力軸19やデファレンシャル機構20等を介して車輪21が連結されている。なお、プライマリ軸15の回転方向を切り替える前後進切替機構16は、図示しないクラッチや遊星歯車列等によって構成される。
【0011】
無段変速機13は、プライマリ軸15に設けられるプライマリプーリ31と、セカンダリ軸18に設けられるセカンダリプーリ32と、これらのプーリ31,32に巻き掛けられる駆動チェーン33と、を有している。プライマリプーリ31にはプライマリ室34が設けられており、セカンダリプーリ32にはセカンダリ室35が設けられている。プライマリ室34およびセカンダリ室35に供給される油圧を制御することにより、プライマリプーリ31およびセカンダリプーリ32の溝幅を調整することができる。これにより、プーリ31,32に対する駆動チェーン33の巻き掛け径を変化させることができ、無段変速機13の変速比を制御することができる。
【0012】
[制御系]
パワートレイン14の制御系について説明する。図1に示すように、車両11には、マイコン等からなるエンジンコントローラ40およびミッションコントローラ41が設けられている。エンジンコントローラ40は、インジェクタ、イグナイタおよびスロットルバルブ等のエンジン補機42に制御信号を出力し、エンジン12の運転状態を制御する。また、ミッションコントローラ41は、複数の電磁バルブや油路から構成されるバルブユニット43に制御信号を出力し、無段変速機13、前後進切替機構16およびトルクコンバータ17等の作動状態を制御する。なお、図示しないオイルポンプから吐出される作動油は、バルブユニット43を経て調圧された後に、無段変速機13やトルクコンバータ17等が備える各油室に対して供給される。
【0013】
これらのコントローラ40,41は、CANやLIN等の車載ネットワーク44を介して互いに通信自在に接続される。また、ミッションコントローラ41には、アクセル操作量(以下、アクセル開度APと記載する。)を検出するアクセルセンサ50、ブレーキ操作量を検出するブレーキセンサ51、車両11の走行速度である車速VSPを検出する車速センサ52が接続されている。さらに、ミッションコントローラ41には、クランク軸12aの回転速度であるエンジン回転数Neを検出するエンジン回転センサ53、プライマリプーリ31の回転速度であるプライマリ回転数を検出するプライマリ回転センサ54、セカンダリプーリ32の回転速度であるセカンダリ回転数を検出するセカンダリ回転センサ55等が接続されている。
【0014】
[無段変速機の変速制御]
無段変速機13の変速制御について説明する。図2はミッションコントローラ41の構成例を示すブロック図である。図3は無段変速モードを用いた変速状況の一例を示す図であり、図4は有段変速モードを用いた変速状況の一例を示す図である。
【0015】
変速制御装置10は、無段変速機13の変速モードとして、変速比を無段階に制御する無段変速モードと、変速比を段階的に制御する有段変速モードと、を有している。このため、図2に示すように、ミッションコントローラ41は、無段変速モードで用いる目標変速比Tr1を設定する無段変速比設定部60と、有段変速モードで用いる目標変速比Tr2を設定する有段変速比設定部(アップシフト制御部)61と、を有している。
【0016】
無段変速比設定部60は、アクセル開度APおよび車速VSPに基づき変速特性マップを参照し、無段変速モードで用いる目標変速比Tr1を設定する。ここで、図3に示すように、変速特性マップには、ロー側の最大変速比を示す特性線Lowが設定されており、ハイ側の最小変速比を示す特性線Highが設定されている。また、変速特性マップには、破線で示すように、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度APに対応する複数の特性線が設定されている。アクセル開度APが上昇するほど、つまり車両11に対する要求駆動力が増加するほど、矢印α方向の特性線が選択される。一方、アクセル開度APが低下するほど、つまり車両11に対する要求駆動力が減少するほど、矢印β方向の特性線が選択される。例えば、矢印γで示すように、車速V1での走行中にアクセルペダルが踏み込まれた場合には、新たな特性線の選択に伴って目標プライマリ回転数がN1からN2に引き上げられ、目標変速比Tr1が「Ra」からロー側の「Rb」に連続的に制御される。このように、無段変速モードにおいては、目標変速比Tr1が連続的つまり無段階に変化しながら更新される。
【0017】
有段変速比設定部61は、アクセル開度APおよび車速VSPに基づき図示しない変速特性マップを参照し、有段変速モードで用いる目標変速比Tr2を設定する。ここで、図4に示すように、有段変速モードの目標変速比Tr2として、例えば、7段の固定変速比R1~R7が予め設定されている。図4に太線αで示すように、第3速の固定変速比R3を用いた加速走行中に、エンジン回転数Neが後述するアップシフト閾値X2に到達すると(符号a1)、目標変速比Tr2が第4速の固定変速比R4に切り替えられる(符号a2)。その後、第4速の固定変速比R4を用いた加速走行中に、エンジン回転数Neがアップシフト閾値X2に到達すると(符号a3)、目標変速比Tr2が第5速の固定変速比R5に切り替えられる(符号a4)。このように、有段変速モードにおいては、目標変速比Tr2が固定変速比R1~R7から選択され、目標変速比Tr2が段階的に切り替えられる。
【0018】
図2に示すように、ミッションコントローラ41は、指示変速比Tr3を設定する指示変速比設定部62と、変速モードとして無段変速モードまたは有段変速モードを選択する変速モード選択部(モード設定部)63と、を有している。変速モード選択部63は、後述するように、アクセル開度AP等に基づいて変速モード(無段変速モードまたは有段変速モード)を選択し、選択された変速モードを指示変速比設定部62に出力する。そして、指示変速比設定部62は、変速モードの選択結果に基づいて、最終的な制御目標である指示変速比Tr3を設定する。
【0019】
つまり、指示変速比設定部62は、変速モードとして無段変速モードが選択されると、無段変速比設定部60からの目標変速比Tr1を指示変速比Tr3として設定する。一方、指示変速比設定部62は、変速モードとして有段変速モードが選択されると、有段変速比設定部61からの目標変速比Tr2を指示変速比Tr3として設定する。そして、指示変速比設定部62に接続される制御信号生成部64は、指示変速比Tr3に基づいて制御信号を生成し、この制御信号をバルブユニット43に出力する。バルブユニット43は、プライマリ室34およびセカンダリ室35に供給する作動油を調圧し、無段変速機13の変速比を指示変速比Tr3に向けて制御する。
【0020】
[変速モードの切替制御(概要)]
続いて、ミッションコントローラ41による無段変速モードから有段変速モードへの切り替えについて説明する。図5は変速モードの切り替えを伴う変速状況の一例を示す図である。なお、図5には、破線で無段変速モードによる変速状況が示されており、実線で有段変速モードによる変速状況が示されている。また、図6図5に示した変速状況におけるアクセル操作の一例を示す図である。
【0021】
前述したように、ミッションコントローラ41の変速モード選択部63は、アクセル開度AP等に基づき、実行する変速モードとして無段変速モードまたは有段変速モードを選択する。変速モードを無段変速モードから有段変速モードに切り替える条件としては、アクセル開度APが所定の開度閾値(操作閾値)A1を上回り、かつエンジン回転数Neが所定のモード切替閾値(切替閾値)X1を上回る、という条件である。つまり、無段変速モードにおいてアクセルペダルが大きく踏み込まれた場合には、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる。また、変速モードを有段変速モードから無段変速モードに切り替える条件としては、アクセル開度APが開度閾値A1よりも低開度側の開度閾値A2を下回る、という条件である。つまり、有段変速モードにおいてアクセルペダルの踏み込みが解除された場合には、変速モードが有段変速モードから無段変速モードに切り替えられる。
【0022】
つまり、図6に符号t1で示すように、アクセル開度APが開度閾値A1に到達する迄は、変速モードとして無段変速モードが選択される。また、符号t2で示すように、アクセル開度APが開度閾値A1を上回ってから、アクセル開度APが開度閾値A2を下回る迄は、後述するように、エンジン回転数Neがモード切替閾値X1に到達する場合に、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる。さらに、符号t3で示すように、アクセル開度APが開度閾値A2を下回ると、変速モードとして無段変速モードが選択される。
【0023】
ここで、図5に矢印b1で示すように、無段変速モードにおいてアクセルペダルが大きく踏み込まれた場合には、車両11を素早く加速させるために所謂キックダウン制御が実行され、目標変速比Tr1は急速にロー側に制御されるとともに、エンジン回転数Neが急速に引き上げられる。このときのアクセルペダルの操作状況とは、乗員によってアクセルペダルが踏み込まれる状況であり、アクセル開度APが開度閾値A1を上回る状況である。続いて、エンジン回転数Neが所定のモード切替閾値X1に到達すると(符号b2)、有段変速モードへの切替条件が成立するため、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられ、近傍の固定変速比である第3速の固定変速比R3にアップシフトされる(符号b3)。
【0024】
その後の加速走行においては、エンジン回転数Neが後述するアップシフト閾値X2に到達する度に(符号b4,b6,b8)、無段変速機13が高速段側つまりハイ側の固定変速比R4~R6にアップシフトされる(符号b5,b7,b9)。そして、アクセルペダルの踏み込みが解除されると、無段変速モードへの切替条件が成立するため、矢印b10で示すように、変速モードが有段変速モードから無段変速モードに切り替えられ、無段変速比はハイ側に制御されるとともに、エンジン回転数Neが徐々に引き下げられる。なお、図5に示した例では、モード切替閾値X1およびアップシフト閾値X2が互いに同一であるが、これに限られることはない。モード切替閾値X1およびアップシフト閾値X2の設定手順については後述する。
【0025】
これまで説明したように、無段変速モードでの走行中にアクセルペダルが大きく踏み込まれると、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる。これにより、車両11を加速させる際に、エンジン回転数と車速との上昇具合を比例させることができるため、乗員に違和感を与えることなく車両11を加速させることができる。また、図5に破線Cで示すように、無段変速モードを維持して車両11を加速させた場合には、エンジン回転数が高止まりする傾向であるが、無段変速モードから有段変速モードに切り替えることにより、エンジン回転数を下げて車両11を加速させることができる。このように、エンジン回転数を下げることにより、パワートレイン14の騒音や損失を低減することができる。
【0026】
[閾値X1,X2の設定手順]
続いて、モード切替閾値X1およびアップシフト閾値X2の設定手順について説明する。図2に示すように、ミッションコントローラ41は、モード切替閾値X1およびアップシフト閾値X2を設定するため、モード切替閾値(切替閾値)X1を設定するモード切替閾値設定部(切替閾値設定部)65、補正値αを設定する補正値設定部66、アップシフト閾値(シフト閾値)X2を設定するアップシフト閾値設定部(シフト閾値設定部)67、を有している。
【0027】
モード切替閾値設定部65は、アクセル開度APおよび車速VSPに基づき、所定の算出期間毎にモード切替閾値X1を設定する。ここで、図7はモード切替閾値X1の一例を示す図である。図7に示すように、アクセル開度APが低下するにつれて、モード切替閾値X1は小さく設定される一方、アクセル開度APが上昇するにつれて、モード切替閾値X1は大きく設定される。また、車速VSPが低下するにつれて、モード切替閾値X1は小さく設定される一方、車速VSPが上昇するにつれて、モード切替閾値X1は大きく設定される。
【0028】
図2に示すように、補正値設定部66は、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられると、モード切替閾値X1およびエンジン回転数Neに基づき補正値αを設定する。すなわち、補正値設定部66は、無段変速モードから有段変速モードへの切替情報が変速モード選択部63より送信されると、エンジン回転数Neからモード切替閾値X1を減算して補正値αを算出する。換言すれば、上昇するエンジン回転数Neがモード切替閾値X1に達することにより、無段変速モードから有段変速モードへの切替条件が成立すると、補正値設定部66は、アップシフト直前のエンジン回転数Neからモード切替閾値X1を減算して補正値αを算出する。
【0029】
このように、補正値設定部66によって補正値αが設定されると、アップシフト閾値設定部67は、モード切替閾値X1に補正値αを加算することにより、所定の算出期間毎にアップシフト閾値X2を設定する。つまり、アップシフト閾値設定部67は、所定の算出期間毎に更新されるモード切替閾値X1に対し、有段変速モード切替時に設定された補正値αを加算することにより、所定の算出期間毎にアップシフト閾値X2を更新する。なお、有段変速モード切替時に設定された補正値αは、有段変速モードが終了して無段変速モードに切り替えられるまで同じ値に保持される。
【0030】
なお、図7に示されるように、アクセル開度APが低下するほどに、モード切替閾値X1は小さく設定される一方、アクセル開度APが上昇するほどに、モード切替閾値X1は大きく設定される。また、車速VSPが低下するほどに、モード切替閾値X1は小さく設定される一方、車速VSPが上昇するほどに、モード切替閾値X1は大きく設定される。このように、アクセル開度APや車速VSPが高い領域においては、モード切替閾値X1が大きく設定されるため、アップシフト閾値X2についても大きく設定されている。これにより、アクセル開度APや車速VSPが高い領域でのアップシフトを抑制することができ、有段変速モードで車両11を加速させる際の駆動力を確保することができる。
【0031】
[変速モードの切替制御(詳細)]
(フローチャート)
続いて、ミッションコントローラ41による無段変速モードから有段変速モードへの切り替えについて説明する。前述したように、無段変速モード中にアクセル開度APが開度閾値A1を上回り、かつエンジン回転数Neがモード切替閾値X1を上回る場合に、変速モードは無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる。また、有段変速モード中にアクセル開度APが開度閾値A2を下回る場合には、変速モードが有段変速モードから無段変速モードに切り替えられる。ここで、図8および図9は変速モードの切替手順の一例を示すフローチャートである。図8および図9に示すフローチャートは符号Aの箇所で互いに接続されている。以下、フローチャートに沿って変速モードの切替手順について説明する。
【0032】
図8および図9に示すように、ステップS10では、現在の変速モードが無段変速モードであるか否かが判定される。ステップS10において、無段変速モードであると判定された場合には、ステップS11に進み、アクセル開度APが開度閾値A1を上回るか否かが判定される。ステップS11において、アクセル開度APが開度閾値A1を上回ると判定された場合には、ステップS12に進み、アクセル開度APおよび車速VSPに基づきモード切替閾値X1が設定される。続くステップS13では、エンジン回転数Neがモード切替閾値X1以上であるか否かが判定される。
【0033】
ステップS13において、エンジン回転数Neがモード切替閾値X1以上であると判定された場合、つまりエンジン回転数Neがモード切替閾値X1に到達しており、有段変速モードへの切替条件が成立していると判定された場合には、ステップS14に進み、エンジン回転数Neからモード切替閾値X1を減算して補正値αが設定される。このように、補正値αが設定されると、ステップS15に進み、無段変速機13の変速比がハイ側にアップシフトされ、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる。
【0034】
次いで、ステップS16では、アクセル開度APが開度閾値A2以上であるか否かが判定される。ステップS16において、アクセル開度APが開度閾値A2以上である場合、つまり有段変速モードの実行条件が維持されている場合には、ステップS17に進み、アクセル開度APおよび車速VSPに基づきモード切替閾値X1が更新される。続いて、ステップS18では、モード切替閾値X1に補正値αを加算してアップシフト閾値X2が設定され、続くステップS19では、エンジン回転数Neがアップシフト閾値X2以上であるか否かが判定される。
【0035】
ステップS19において、エンジン回転数Neがアップシフト閾値X2以上であると判定された場合、つまりエンジン回転数Neがアップシフト閾値X2に到達した場合には、ステップS20に進み、変速比がハイ側にアップシフトされる。このように、有段変速モードにおいては、所定の算出期間毎にアップシフト閾値X2を更新し、エンジン回転数Neがアップシフト閾値X2に到達する度に、変速比がハイ側の固定変速比R3~R7に切り替えられる。なお、ステップS16において、アクセル開度APが開度閾値A2を下回ると判定された場合、つまり有段変速モードから無段変速モードへの切替条件が成立した場合には、ステップS21に進み、変速モードが無段変速モードに切り替えられる。
【0036】
(変速状況:実施例1)
図10は、実施例1として、無段変速モードから有段変速モードに切り替える際の変速状況の一例を示す図である。図10には、破線で無段変速モードによる変速状況が示されており、実線で有段変速モードによる変速状況が示されている。
【0037】
図10に矢印c1で示すように、無段変速モードにおいてアクセルペダルが大きく踏み込まれた場合には、車両11を素早く加速させるために所謂キックダウン制御が実行され、変速比を急速にロー側に制御しながらエンジン回転数Neが急速に引き上げられる。このキックダウン制御は、変速比を急速にロー側に制御する第1制御kd1と、変速比を維持しながら車速を上げる第2制御kd2と、によって構成されている。また、ミッションコントローラは、変速機制御の安定性を高める観点から、実線で囲んで示したキックダウン制御の初期段階z1において、無段変速モードから有段変速モードへの切り替えを禁止している。つまり、ミッションコントローラは、第2制御kd2に移行してから所定時間が経過するまで、有段変速モードへの切り替えを禁止している。なお、キックダウン制御が実行される状況とは、乗員によってアクセルペダルが踏み込まれる状況であり、アクセル開度APが開度閾値A1を上回る状況である。
【0038】
続いて、キックダウン制御からの加速走行が継続され、エンジン回転数Neがモード切替閾値X1に到達すると(符号c2)、変速比が第3速の固定変速比R3に切り替えられ(符号c3)、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる。ここで、図10に示す例においては、キックダウン制御の初期段階z1が完了した後に、エンジン回転数Neがモード切替閾値X1に到達し(符号c2)、変速モードが有段変速モードに切り替えられている(符号c3)。すなわち、有段変速モードへの切替条件が成立したタイミングでは、エンジン回転数Neがモード切替閾値X1に一致しており、エンジン回転数Neからモード切替閾値X1を減算した補正値αは「0」に設定される。このように、補正値αが「0」に設定されることから、この補正値αを用いて算出されるアップシフト閾値X2は、モード切替閾値X1と同じ値に設定されることになる。その後の有段変速モードにおいては、エンジン回転数Neがアップシフト閾値X2に到達する度に(符号c4,c6)、ハイ側の固定変速比R4,R5にアップシフトされる(符号c5,c7)。
【0039】
(変速状況:実施例2)
図11は、実施例2として、無段変速モードから有段変速モードに切り替える際の変速状況の一例を示す図である。図11には、破線で無段変速モードによる変速状況が示されており、実線で有段変速モードによる変速状況が示されている。
【0040】
図11に矢印d1で示すように、無段変速モードにおいてアクセルペダルが大きく踏み込まれた場合には、車両11を素早く加速させるためにキックダウン制御が実行され、変速比を急速にロー側に制御しながらエンジン回転数Neが急速に引き上げられる。なお、図11に示す例においては、短時間のうちに複数回に渡ってアクセルペダルが踏み増しされており、キックダウン制御の初期段階z1が複数回に渡って継続されている。このため、エンジン回転数Neがモード切替閾値X1を上回る状況であっても、変速モードが切り替えられずに無段変速モードのまま維持されている。なお、キックダウン制御が実行される状況とは、乗員によってアクセルペダルが踏み込まれる状況であり、アクセル開度APが開度閾値A1を上回る状況である。
【0041】
その後、アクセルペダルの踏み込みが一定に保持され、キックダウン制御の初期段階z1が終了すると(符号d2)、エンジン回転数Neがモード切替閾値X1を上回る状況である。つまり、有段変速モードへの切替条件が成立した状況であることから、変速比が第2速の固定変速比R2に切り替えられ(符号d3)、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる。このように、有段変速モードへの切替条件が成立するタイミングにおいては(符号d2)、エンジン回転数Neからモード切替閾値X1を減算することで補正値αが設定され、モード切替閾値X1に補正値αを加算することでアップシフト閾値X2が設定される。その後の有段変速モードにおいては、エンジン回転数Neがアップシフト閾値X2に到達する度に(符号d4,d6)、ハイ側の固定変速比R3,R4にアップシフトされる(符号d5,d7)。
【0042】
(変速状況:比較例)
図12は、比較例として、無段変速モードから有段変速モードに切り替える際の変速状況の一例を示す図である。図12には、破線で無段変速モードによる変速状況が示されており、実線で有段変速モードによる変速状況が示されている。
【0043】
図12に矢印e1で示すように、無段変速モードにおいてアクセルペダルが大きく踏み込まれた場合には、車両11を素早く加速させるためにキックダウン制御が実行され、変速比を急速にロー側に制御しながらエンジン回転数Neが急速に引き上げられる。なお、図12に示す例においては、短時間のうちに複数回に渡ってアクセルペダルが踏み増しされており、キックダウン制御の初期段階z1が複数回に渡って継続されている。このため、エンジン回転数Neがモード切替閾値X1を上回る状況であっても、変速モードが切り替えられずに無段変速モードのまま維持されている。なお、キックダウン制御が実行される状況とは、乗員によってアクセルペダルが踏み込まれる状況であり、アクセル開度APが開度閾値A1を上回る状況である。
【0044】
その後、アクセルペダルの踏み込みが一定に保持され、キックダウン制御の初期段階z1が終了すると(符号e2)、エンジン回転数Neがモード切替閾値X1を上回る状況である。つまり、有段変速モードへの切替条件が成立した状況であることから、変速比が第2速の固定変速比R2に切り替えられ(符号e3)、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる。このとき、補正値αを用いてアップシフト閾値X2を上方にオフセットさせることなく、アップシフト閾値X2がモード切替閾値X1と同じ値に設定されていた場合には、エンジン回転数Neがアップシフト閾値X2を大幅に上回ることになる。このため、有段変速モードにおいては、エンジン回転数Neがアップシフト閾値X2を下回るまで、ハイ側の固定変速比R3,R4へのアップシフトが繰り返されることになる(符号e4,e5)。その後の有段変速モードにおいては、エンジン回転数Neがアップシフト閾値X2に到達すると(符号e6)、ハイ側の固定変速比R5にアップシフトされる(符号e7)。
【0045】
(まとめ)
これまで説明したように、変速制御装置10は、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる場合に、エンジン回転数Neからモード切替閾値X1を減算して補正値αを設定し、この補正値αをモード切替閾値X1に加算してアップシフト閾値X2を設定する。そして、有段変速モードにおいては、エンジン回転数Neがアップシフト閾値X2に到達する度に、無段変速機13の変速比がハイ側に切り替えられる。このように、モード切替閾値X1の上方にアップシフト閾値X2をオフセットすることにより、エンジン回転数Neがモード切替閾値X1を大幅に上回る状況下で、変速モードが有段変速モードに切り替えられた場合であっても、過度なアップシフトを回避することができる。これにより、乗員に違和感を与えることなく、有段変速モードを適切に実行することができる。
【0046】
また、前述の説明では、エンジン回転数Neからモード切替閾値X1を減算した値を補正値αとして設定しているが、これに限られることはない。エンジン回転数Neからモード切替閾値X1を減算した値に所定値を加算し、この値を補正値αとして設定しても良い。これにより、アップシフト閾値X2を上げることができ、車両11の加速力を高めることができる。また、エンジン回転数Neからモード切替閾値X1を減算した値から所定値を減算し、この値を補正値αとして設定しても良い。これにより、アップシフト閾値X2を下げることができ、加速走行時の静粛性を高めることができる。なお、前述の説明では、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる場合に、エンジン回転数Neがモード切替閾値X1を大きく上回る状況として、車速を積極的に加速させるためのキックダウン制御を例示しているが、これに限られることはなく、他の制御に伴って有段変速モードへの切り替えが禁止される場合であっても、本発明を有効に適用することが可能である。
【0047】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、図4に示した例では、有段変速モードで使用する目標変速比として、7段の固定変速比R1~R7を挙げているが、これに限られることはなく、6段以下の固定変速比を使用しても良く、8段以上の固定変速を使用しても良い。また、前述の説明では、アクセル開度APおよび車速VSPに基づきモード切替閾値X1を設定しているが、これに限られることはない。例えば、アクセル開度APだけに基づきモード切替閾値X1を設定しても良く、車速VSPだけに基づきモード切替閾値X1を設定しても良い。
【0048】
前述の説明では、ミッションコントローラ41に、無段変速比設定部60、有段変速比設定部61、指示変速比設定部62、変速モード選択部63、制御信号生成部64、モード切替閾値設定部65、補正値設定部66およびアップシフト閾値設定部67を設けているが、これに限られることはない。例えば、他のコントローラに各設定部、選択部および生成部を設けても良く、複数のコントローラに分けて各設定部、選択部および生成部を設けても良い。
【符号の説明】
【0049】
10 変速制御装置
12 エンジン
13 無段変速機
61 有段変速比設定部(アップシフト制御部)
63 変速モード選択部(モード設定部)
65 モード切替閾値設定部(切替閾値設定部)
66 補正値設定部
67 アップシフト閾値設定部(シフト閾値設定部)
X1 モード切替閾値(切替閾値)
X2 アップシフト閾値(シフト閾値)
Ne エンジン回転数
α 補正値
A1 開度閾値(操作閾値)
AP アクセル開度(アクセル操作量)
VSP 車速
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12