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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】水処理方法および水処理装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/01 20060101AFI20221207BHJP
   C02F 1/58 20060101ALI20221207BHJP
   C02F 1/62 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
B01D21/01 101Z
B01D21/01 107A
C02F1/58 M
C02F1/62
C02F1/58 H
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018219078
(22)【出願日】2018-11-22
(65)【公開番号】P2020081951
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島村 祐司
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-214069(JP,A)
【文献】特開2018-149520(JP,A)
【文献】特開2015-231597(JP,A)
【文献】特開2006-341139(JP,A)
【文献】特開2007-275757(JP,A)
【文献】特開2005-052798(JP,A)
【文献】特開2008-018311(JP,A)
【文献】特開2004-000962(JP,A)
【文献】特開2016-040034(JP,A)
【文献】特開2002-126756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/01
C02F 1/52-1/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
除去対象物質を含む被処理水にマグネシウム剤を添加し、前記除去対象物質の不溶化物を生成する反応工程と、
前記反応工程で生成した前記不溶化物を含む反応水に凝集剤を添加し、前記不溶化物を凝集させる凝集工程と、
前記凝集工程で生成した汚泥を固液分離する固液分離工程と、
を含み、
前記凝集剤は、コロイド当量値が+0.5meq/g以上であり、かつ、重量平均分子量が100万~1000万未満の範囲であり、かつ、ジメチルアミノエチルメタクリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドとの共重合物、ジメチルアミノエチルアクリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドとの共重合物、ジメチルアミノエチルメタクリレートの塩化メチル4級塩のホモポリマ、および、ジメチルアミノエチルアクリレートの塩化メチル4級塩のホモポリマのうちの少なくとも1つを含み、
前記反応工程におけるpHが8以上であることを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水処理方法であって、
前記マグネシウム剤は、マグネシウムと炭酸とを主成分とする化合物、水酸化マグネシウム、およびこれらの焼成物のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする水処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水処理方法であって、
前記除去対象物質は、ホウ素、フッ素、セレン、および重金属のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする記載の水処理方法。
【請求項4】
除去対象物質を含む被処理水にマグネシウム剤を添加し、前記除去対象物質の不溶化物を生成する反応手段と、
前記反応手段で生成した前記不溶化物を含む反応水に凝集剤を添加し、前記不溶化物を凝集させる凝集手段と、
前記凝集手段で生成した汚泥を固液分離する固液分離手段と、
を備え、
前記凝集剤は、コロイド当量値が+0.5meq/g以上であり、かつ、重量平均分子量が100万~1000万未満の範囲であり、かつ、ジメチルアミノエチルメタクリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドとの共重合物、ジメチルアミノエチルアクリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドとの共重合物、ジメチルアミノエチルメタクリレートの塩化メチル4級塩のホモポリマ、および、ジメチルアミノエチルアクリレートの塩化メチル4級塩のホモポリマのうちの少なくとも1つを含み、
前記反応手段におけるpHが8以上であることを特徴とする水処理装置。
【請求項5】
請求項に記載の水処理装置であって、
前記マグネシウム剤は、マグネシウムと炭酸とを主成分とする化合物、水酸化マグネシウム、およびこれらの焼成物のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする水処理装置。
【請求項6】
請求項またはに記載の水処理装置であって、
前記除去対象物質は、ホウ素、フッ素、セレン、および重金属のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム剤を用いて、ホウ素等の除去対象物質を含有する水を処理する水処理方法および水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業で排出されるホウ素、フッ素、セレン、重金属、懸濁物質等の物質を高い濃度で含む排水は、それらの物質を排水基準以下まで処理して放流する必要がある。例えば、石炭を燃焼して発電等を行う発電設備では、排ガスを浄化するための脱硫設備が設置され、例えば、アルカリ剤を溶解させた水により、排ガス中の硫黄分や集塵機で除去されなかった煤塵等を除去している。硫黄分や煤塵等を吸収した水は適宜、脱硫設備から脱硫排水として排出され、排水基準以下にまで処理されて海洋等に放流される。
【0003】
この脱硫排水には、通常、石炭等に含まれるホウ素、フッ素、セレン、重金属(鉄、鉛、銅、クロム、カドミウム、水銀、亜鉛、ヒ素、マンガン、ニッケル等)等が含有される。中でもホウ素は、ホウ酸(HBO)等として高い濃度で含有されることがあり、200~500mg-B/L程度存在することもある。
【0004】
ホウ素およびフッ素を対象とした水処理では、マグネシウム剤として酸化マグネシウムを添加し、これらの物質を不溶化して、不溶化物を含む汚泥を固液分離することで、被処理水からこれらの物質を分離する方法が知られている(特許文献1参照)。しかし、この方法で処理された処理水中には、酸化マグネシウムの微粒子、不溶化された処理対象物質の微粒子、排水中に元から含有されている懸濁物質等、沈殿速度が遅い成分が含まれるため、上澄水に濁度成分が残存することがある。そこで、上澄水の濁度低減を目的として、処理水に凝集剤が添加される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-001949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者が鋭意研究を重ねた結果、マグネシウム剤を含む汚泥は比較的重く、特に粗大化された汚泥は沈殿性が高過ぎるため、撹拌を行っても凝集槽の下部に滞留してしまい、凝集槽からの排出が困難になる点が課題として見出された。
【0007】
本発明の目的は、マグネシウム剤を用いる水処理において、処理水の濁度を低減するとともに、凝集工程における汚泥滞留を抑制することができる水処理方法および水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、除去対象物質を含む被処理水にマグネシウム剤を添加し、前記除去対象物質の不溶化物を生成する反応工程と、前記反応工程で生成した前記不溶化物を含む反応水に凝集剤を添加し、前記不溶化物を凝集させる凝集工程と、前記凝集工程で生成した汚泥を固液分離する固液分離工程と、を含み、前記凝集剤は、コロイド当量値が+0.5meq/g以上であり、かつ、重量平均分子量が100万~1000万未満の範囲であり、かつ、ジメチルアミノエチルメタクリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドとの共重合物、ジメチルアミノエチルアクリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドとの共重合物、ジメチルアミノエチルメタクリレートの塩化メチル4級塩のホモポリマ、および、ジメチルアミノエチルアクリレートの塩化メチル4級塩のホモポリマのうちの少なくとも1つを含み、前記反応工程におけるpHが8以上である、水処理方法である。
【0009】
前記水処理方法において、前記マグネシウム剤は、マグネシウムと炭酸とを主成分とする化合物、水酸化マグネシウム、およびこれらの焼成物のうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0010】
前記水処理方法において、前記除去対象物質は、ホウ素、フッ素、セレン、および重金属のうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0012】
また、本発明は、除去対象物質を含む被処理水にマグネシウム剤を添加し、前記除去対象物質の不溶化物を生成する反応手段と、前記反応手段で生成した前記不溶化物を含む反応水に凝集剤を添加し、前記不溶化物を凝集させる凝集手段と、前記凝集手段で生成した汚泥を固液分離する固液分離手段と、を備え、前記凝集剤は、コロイド当量値が+0.5meq/g以上であり、かつ、重量平均分子量が100万~1000万未満の範囲であり、かつ、ジメチルアミノエチルメタクリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドとの共重合物、ジメチルアミノエチルアクリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドとの共重合物、ジメチルアミノエチルメタクリレートの塩化メチル4級塩のホモポリマ、および、ジメチルアミノエチルアクリレートの塩化メチル4級塩のホモポリマのうちの少なくとも1つを含み、前記反応手段におけるpHが8以上である、水処理装置である。
【0013】
前記水処理装置において、前記マグネシウム剤は、マグネシウムと炭酸とを主成分とする化合物、水酸化マグネシウム、およびこれらの焼成物のうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0014】
前記水処理装置において、前記除去対象物質は、ホウ素、フッ素、セレン、および重金属のうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、マグネシウム剤を用いる水処理において、処理水の濁度を低減するとともに、凝集工程における汚泥滞留を抑制することができる水処理方法および水処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る連続式の水処理装置の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る回分式の水処理装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本発明の実施形態に係る水処理装置の一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る連続式の水処理装置の構成の一例を示す模式図である。図1の水処理装置1は、除去対象物質を含む被処理水にマグネシウム剤を添加し、除去対象物質の不溶化物を生成する反応手段として、反応装置10と、反応装置10で生成した不溶化物を含む反応水に凝集剤を添加し、不溶化物を凝集させる凝集手段として、凝集装置12と、凝集装置12で生成した汚泥を固液分離する固液分離手段として、沈殿槽14とを備える。
【0021】
反応装置10は、反応槽16と、マグネシウム剤添加ライン18とを備える。反応槽16には、モータ等の回転駆動手段および撹拌羽根等を有する撹拌手段である撹拌装置20が設置されている。
【0022】
凝集装置12は、凝集槽22と、凝集剤添加ライン24とを備える。凝集槽22には、モータ等の回転駆動手段および撹拌羽根等を有する撹拌手段である撹拌装置26が設置されている。
【0023】
図1の水処理装置1において、反応槽16の被処理水入口には、被処理水流入ライン28が接続されている。反応槽16の薬剤入口には、マグネシウム剤添加ライン18が接続されている。反応槽16の反応水出口には、反応水排出ライン30の一端が接続され、凝集槽22の反応水入口には、反応水排出ライン30の他端が接続されている。凝集槽22の凝集水出口には、凝集水排出ライン32の一端が接続され、沈殿槽14の凝集水入口には、凝集水排出ライン32の他端が接続されている。凝集槽22の薬剤入口には、凝集剤添加ライン24が接続されている。沈殿槽14の処理水出口には、処理水排出ライン34が接続されている。沈殿槽14の汚泥出口には、汚泥排出ライン36が接続されている。
【0024】
本実施形態に係る水処理方法および水処理装置1の動作について説明する。
【0025】
除去対象物質を含む被処理水は、被処理水流入ライン28を通して反応槽16に供給されるとともに、マグネシウム剤がマグネシウム剤添加ライン18を通して反応槽16に供給される。反応槽16において被処理水およびマグネシウム剤は、撹拌装置20により撹拌され、被処理水中の除去対象物質がマグネシウム剤によって不溶化され、不溶化物が生成される(反応工程)。
【0026】
反応槽16の不溶化物を含む反応水は、反応水排出ライン30を通して凝集槽22に供給されるとともに、凝集剤が凝集剤添加ライン24を通して凝集槽22に供給される。凝集槽22において不溶化物および凝集剤は、撹拌装置26により撹拌され、反応水中の不溶化物が凝集剤によって凝集され、汚泥が生成される(凝集工程)。
【0027】
凝集槽22の汚泥を含む凝集水は、凝集水排出ライン32を通して沈殿槽14に供給される。沈殿槽14において、処理水と汚泥とに固液分離される(固液分離工程)。固液分離された処理水は、処理水排出ライン34を通して系外へ排出される。固液分離された汚泥は、汚泥排出ライン36を通して系外へ排出される。
【0028】
図1に示す水処理装置1は、1槽の反応槽16を有するが、反応槽の数は1槽に限定されるものではなく、直列2段以上の反応槽でもよい。また、水処理装置1は、1槽の反応槽16と1槽の凝集槽22とを有するが、1槽の反応槽にマグネシウム剤とともに凝集剤も添加し、除去対象物質の不溶化とともに不溶化物の凝集の役割を反応槽に担わせてもよい。
【0029】
図2は、本発明の実施形態に係る回分式の水処理装置の構成の一例を示す模式図である。図2の水処理装置2は、除去対象物質を含む被処理水にマグネシウム剤を添加し、除去対象物質の不溶化物を生成する反応手段、生成した不溶化物を含む反応水に凝集剤を添加し、不溶化物を凝集させる凝集手段、生成した汚泥を固液分離する固液分離手段として、回分式反応装置40を備える。
【0030】
回分式反応装置40は、反応槽44と、マグネシウム剤添加ライン46と、凝集剤添加ライン48とを備える。反応槽44には、モータ等の回転駆動手段および撹拌羽根等を有する撹拌手段である撹拌装置50が設置されている。
【0031】
図2の水処理装置2において、反応槽44の被処理水入口には、被処理水流入ライン52が接続されている。反応槽44の薬剤入口には、マグネシウム剤添加ライン46、凝集剤添加ライン48がそれぞれ接続されている。反応槽44の処理水出口には、処理水排出ライン54が接続され、汚泥出口には、汚泥排出ライン56が接続されている。
【0032】
本実施形態に係る水処理方法および水処理装置2の動作について説明する。
【0033】
除去対象物質を含む被処理水は、被処理水流入ライン52を通して反応槽44に供給された後、マグネシウム剤がマグネシウム剤添加ライン46を通して反応槽44に供給される。反応槽44において被処理水およびマグネシウム剤は、撹拌装置50により撹拌され、被処理水中の除去対象物質がマグネシウム剤によって不溶化され、不溶化物が生成される(反応工程)。
【0034】
次に、凝集剤が凝集剤添加ライン48を通して反応槽44に供給される。反応槽44において不溶化物および凝集剤は、撹拌装置50により撹拌され、反応水中の不溶化物が凝集剤によって凝集され、汚泥が生成される(凝集工程)。
【0035】
次に、撹拌装置50が停止され、反応槽44において、処理水と汚泥とに固液分離される(固液分離工程)。固液分離され、底部に堆積した汚泥は、汚泥排出ライン56を通して系外へ排出される。汚泥排出後、反応槽44内の固液分離された処理水は、処理水排出ライン54を通して系外へ排出される。
【0036】
以下、本実施形態に係る水処理方法および水処理装置で用いられるマグネシウム剤および凝集剤について詳述する。
【0037】
図1に示す水処理装置1、図2に示す水処理装置2で用いられるマグネシウム剤は、マグネシウムと炭酸とを主成分とする化合物、マグネシウムと炭酸とを主成分とする化合物の焼成物、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化マグネシウムの焼成物のうち少なくとも1つを含む。
【0038】
マグネシウムと炭酸とを主成分とする化合物としては、例えば、塩基性炭酸マグネシウム(mMgCO・Mg(OH)・nHO)、マグネサイト(炭酸マグネシウムを主成分とする鉱物)およびドロマイト(炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムとを主成分とする鉱物)等が挙げられる。なお、塩基性炭酸マグネシウムは、Mg(OH)に対し、mが3~5、nが3~7となるものである。また、水酸化マグネシウムとしては、例えば、ブルーサイトのような水酸化マグネシウムを主成分とする鉱物も含む。
【0039】
本実施形態で用いられるマグネシウム剤は、水中に添加されると、一部は溶解してマグネシウムイオンと水酸化物イオンとなり、被処理水のpHが高くなる。このとき、マグネシウムイオンと不溶化物を形成して共沈する物質は、上記マグネシウム剤による除去対象物質となる。また、被処理水のpHが高くなり、マグネシウムイオンと水酸化物イオンとが水酸化マグネシウムの不溶化物を形成するが、この不溶化物に吸着する物質も除去対象物質となる。すなわち、被処理水に含まれる除去対象物質としては、上記マグネシウム剤と不溶化物を形成したり、水酸化マグネシウムに吸着して不溶化されたりするものであればよく、特に制限はないが、ホウ素(例えば、ホウ酸イオン)、フッ素(例えば、フッ化物イオン)、セレン、および重金属(例えば、鉄、鉛、銅、クロム、カドミウム、水銀、亜鉛、ヒ素、マンガン、ニッケル等)のうち少なくとも1つを含むことが好ましく、ホウ素、フッ素、セレン、および重金属のうち少なくとも1つを含むことがより好ましい。
【0040】
本実施形態のマグネシウム剤を用いる水処理において、処理水の濁度を低減し、凝集工程における汚泥滞留を抑制することができる凝集剤としては、コロイド当量値が+0.5meq/g以上であり、かつ、重量平均分子量が100万~1000万未満の範囲である、正荷電を有するカチオン性高分子凝集剤である。カチオン性の高分子凝集剤の中でも、コロイド当量値は、+0.5~+5.5meq/gの範囲であることが好ましく、+1.0~+5.5meq/gの範囲であることがより好ましく、+1.8~+5.5meq/gの範囲であることがさらに好ましく、+5.0~+5.5meq/gの範囲であることが特に好ましい。重量平均分子量は、100万~1000万の範囲であることが好ましく、300万~900万の範囲であることがより好ましい。
【0041】
コロイド当量値とは、化合物中における電荷の強さを表す指標であり、数値の絶対値が大きくなるほど電荷の強い化合物となる。コロイド当量値は、コロイド滴定法によって求められる。具体的には、カチオン性化合物のコロイド当量値を測定する場合は、薬剤を分散させた水溶液をポリビニル硫酸カリウム溶液で滴定する。滴定時の溶液pHは4~10とする。
【0042】
高分子凝集剤の重量平均分子量は、高速液体クロマトグラフィ装置(東ソー株式会社製、HLC-8320GPC)を用いてゲル浸透クロマトグラフィにより測定することができる。
【0043】
このようなカチオン性高分子凝集剤としては、例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドとの共重合物、ジメチルアミノエチルアクリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドとの共重合物、ジメチルアミノエチルメタクリレートの塩化メチル4級塩のホモポリマ、ジメチルアミノエチルアクリレートの塩化メチル4級塩のホモポリマ、およびポリアミジン等が挙げられる。
【0044】
本実施形態のマグネシウム剤を用いる水処理において、処理水の濁度を低減し、凝集工程における汚泥滞留を抑制することができれば、上記カチオン性高分子凝集剤に加えて、無機凝集剤、有機凝結剤、アニオン性高分子凝集剤、ノニオン性高分子凝集剤および両性高分子凝集剤のうち少なくとも1つを組み合わせて使用してもよい。
【0045】
無機凝集剤としては、例えば、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄等の鉄系無機凝集剤、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等のアルミニウム系無機凝集剤等が挙げられる。
【0046】
有機凝結剤としては、ポリエチレンイミン、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン・アンモニア縮合物、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン・エチレンジアミン縮合物、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジシアンジアミン・ホルムアルデヒド縮合物等が挙げられる。
【0047】
アニオン性高分子凝集剤およびノニオン性高分子凝集剤としては、例えば、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリルアミドプロパンスルフォン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0048】
以下に、本実施形態に係る水処理方法および水処理装置における水処理条件等について説明する。
【0049】
被処理水は、上記の除去対象物質のうちの少なくとも1つを含む水であればよく、特に制限はない。被処理水としては、処理後に公共共用水域等へ放流することを前提とした水、または、利用後に逆浸透膜等の精製手段を用いて溶解性物質を除去して再利用することを前提とした水でもよい。前者の例としては、石炭火力発電の脱硫排水やめっき排水、ガラス製造排水等が挙げられる。後者の場合、各種産業工場での水回収システム内の水が対象となり、逆浸透膜工程の前段で本実施形態に係る水処理方法が実施され、逆浸透膜の閉塞の原因となる物質等を低減することが主な目的となる。なお、本実施形態に係る水処理方法で用いられるマグネシウム剤は、水中の懸濁物質を凝集することができるため、被処理水には、除去対象物質以外の懸濁物質を含んでもよい。
【0050】
被処理水中の除去対象物質の含有量は、例えば、0.01~75mmol/Lの範囲であり、懸濁物質の含有量は、例えば、50~1,000mg/Lの範囲である。
【0051】
被処理水中のホウ素の含有量は、例えば、10mg/L~800mg/Lの範囲であり、好ましくは20mg/L~500mg/Lの範囲であり、より好ましくは100mg/L~500mg/Lの範囲である。被処理水中のフッ素の含有量は、例えば、15mg/L~950mg/Lの範囲であり、好ましくは20mg/L~100mg/Lの範囲である。被処理水中のセレンの含有量は、例えば、0.1mg/L~10mg/Lの範囲であり、好ましくは0.1mg/L~5mg/Lの範囲である。被処理水中の重金属の含有量は、例えば、0.1mg/L~50mg/Lの範囲であり、好ましくは0.1mg/L~10mg/Lの範囲である。
【0052】
反応工程におけるマグネシウム剤の添加量は、被処理水中の除去対象物質の種類、濃度、および要求される処理水質(対象物質除去率)、共存物質等により異なるが、例えば、1g/L以上、好ましくは3g/L以上、より好ましくは5g/L以上である。また、マグネシウム剤の添加により被処理水のpHは上昇するが、反応工程における被処理水のpHが、例えば8以上、好ましくは9以上、より好ましくは10以上になる量を添加するのがよい。
【0053】
反応工程における反応温度は、例えば、被処理水が0℃以上で凍結しなければよいが、温度が高いほど除去対象物質の除去性能は良く、好ましくは15℃以上であり、より好ましくは20~40℃の範囲である。
【0054】
反応工程における反応時間は、除去対象物質の不溶化が十分に行わればよく、特に制限はないが、例えば、1分~720分の範囲、好ましくは10~120分の範囲である。
【0055】
凝集工程における高分子凝集剤の添加量は、例えば、0.1mg/L~10mg/Lの範囲であり、0.1mg/L~5mg/Lの範囲であることが好ましい。高分子凝集剤の添加量が0.1mg/L未満であると、凝集が不十分となる場合があり、10mg/Lを超えると、凝集工程において汚泥滞留が発生する場合がある。
【0056】
凝集工程における凝集温度は、例えば、反応水が0℃以上で凍結しなければよいが、好ましくは15℃以上であり、より好ましくは20~40℃の範囲である。
【0057】
凝集工程における凝集時間は、不溶化物の凝集が十分に行わればよく、特に制限はないが、例えば、1分~10分の範囲、好ましくは3~5分の範囲である。
【0058】
凝集工程における撹拌速度は、不溶化物の凝集が十分に行わればよく、特に制限はないが、例えば、30rpm~200rpmの範囲、好ましくは40rpm~150rpmの範囲である。
【0059】
凝集工程における汚泥滞留は、槽内のSS濃度が高い方が発生しやすく、SS濃度は40,000mg/L以下であることが好ましい。
【0060】
固液分離工程における固液分離方法としては、凝集物と処理水とを分離できる方法であればよく、特に制限はない。連続式の水処理装置の場合には、沈殿槽を用いた自然沈殿処理以外に、遠心分離器等を用いた強制沈殿処理、気泡を供給する浮上分離処理、精密濾過膜等による膜ろ過処理等でもよい。回分式の水処理装置の場合には、反応槽内での自然沈降処理が望ましい。
【0061】
本実施形態に係る水処理方法および水処理装置により得られる処理水において、除去対象物質の含有量は、例えば、25mmol/L以下であり、懸濁物質の含有量は、例えば、20mg/L以下とすることができる。
【0062】
処理水中のホウ素、フッ素、セレン、重金属の含有量は、それぞれ、例えば、250mg/L以下、20mg/L以下、1mg/L以下、0.5mg/L以下とすることができる。
【実施例
【0063】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
<実施例1>
ここでは、被処理水として、石炭火力発電所の脱硫排水を用いて、以下の手順で処理を行った。上記脱硫排水は懸濁物質、ホウ素、フッ素、セレン、カルシウム、マグネシウム、マンガン、鉄、亜鉛、カドミウムおよび水銀を含有していた。被処理水中のホウ素、フッ素、セレン、および重金属の含有量は、それぞれ700mg/L、30mg/L、0.1mg/L、重金属(例えばマンガン)は10mg/Lであった。ホウ素は、アゾメチンH吸光光度法(JIS K 0102)、フッ素は、ランタン―アリザリンコンプレキソン吸光光度法(JIS K 0102)、セレンと重金属は、ICP質量分析法(JIS K 0102)によりそれぞれ含有量を測定した。
【0065】
上記脱硫排水300mLをガラスビーカーに入れ、水酸化マグネシウムの焼成物である市販されている酸化マグネシウムを5g/L(被処理水のpHが9以上となる量)添加して、150rpmの回転速度で10分間撹拌した。撹拌終了後、処理水にコロイド当量値+5.0meq/g、重量平均分子量300万のジメチルアミノエチルメタクリレートの塩化メチル4級塩のホモポリマであるカチオン性高分子凝集剤Aを1mg/L添加し、150rpmの回転速度で1分間、40rpmの回転速度で3分間撹拌した。40rpmの回転速度で撹拌中の水面高さと汚泥流動高さから汚泥分散度を以下の式から算出した。汚泥分散度が高い程、汚泥の分散性が良く、凝集工程において汚泥滞留を抑制しやすいことを示す。なお、水面高さはガラスビーカー底面から水面までの高さ、汚泥流動高さはガラスビーカー底面から汚泥が流動する界面までの高さである。撹拌終了後、処理水を5分間静置し、処理水の濁度を測定した。濁度は濁度計(日本電色株式会社製、Water Analyzer 2000N)を用いて測定した。結果を表1に示す。
汚泥分散度(%)=汚泥流動高さ÷水面高さ×100
【0066】
凝集剤のコロイド当量値は、ポリビニル硫酸カリウム溶液を用いてコロイド滴定法によって求めた。具体的には、カチオン性高分子凝集剤のコロイド当量値を測定する場合は、100mLコニカルビーカに凝集剤を1.67g採取し、純水を98.3mL加えて撹拌した。そして、塩酸を添加してpH4に調整して1分間撹拌した。撹拌後、トルイジンブルー指示薬(富士フイルム和光純薬株式会社製、コロイド滴定用)を2~3滴加えて撹拌し、N/400のポリビニル硫酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、コロイド滴定用、分子量(162.21)n)溶液で滴定した。検水が青から赤紫色に変色してから10秒以上保持する点を終点とした。
【0067】
また、アニオン性高分子凝集剤のコロイド当量値を測定する場合は、100mLコニカルビーカに純水を95mLおよびN/200のメチルグリコールキトサン(富士フイルム和光純薬株式会社製、コロイド滴定用、分子量(375.20)n)を5mL加え、0.1Nの苛性ソーダ溶液を添加して1分間撹拌した。そして、凝集剤を1.67g加えて5分間撹拌した。撹拌後、トルイジンブルー指示薬を2~3滴加えて撹拌し、N/400のポリビニル硫酸カリウム溶液で上記と同様に滴定した。
【0068】
<実施例2>
コロイド当量値+3.2meq/g、重量平均分子量500万のジメチルアミノエチルメタクリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドの共重合物であるカチオン性高分子凝集剤Bを用いたこと以外は実施例1と同様に試験した。結果を表1に示す。
【0069】
<実施例3>
コロイド当量値+1.8meq/g、重量平均分子量800万のジメチルアミノエチルメタクリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドの共重合物であるカチオン性高分子凝集剤Cを用いたこと以外は実施例1と同様に試験した。結果を表1に示す。
【0070】
<実施例4>
コロイド当量値+4.5meq/g、重量平均分子量850万のジメチルアミノエチルアクリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドの共重合物であるカチオン性高分子凝集剤Dを用いたこと以外は実施例1と同様に試験した。結果を表1に示す。
【0071】
<比較例1>
高分子凝集剤を添加しなかったこと以外は実施例1と同様に試験した。結果を表1に示す。
【0072】
<比較例2>
コロイド当量値-1.4meq/g、重量平均分子量1700万のアニオン性高分子凝集剤Eを用いたこと以外は実施例1と同様に試験した。結果を表1に示す。
【0073】
<比較例3>
コロイド当量値-5.1meq/g、重量平均分子量1800万のアニオン性高分子凝集剤Fを用いたこと以外は実施例1と同様に試験した。結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示すように、カチオン性高分子凝集剤を添加した実施例1,2,3および4の上澄水の濁度はそれぞれ21度、42度、39度および42度であり、コロイド当量値が+5.0meq/gの高分子凝集剤Aが最も良好であった。一方、高分子凝集剤を添加しなかった比較例1の上澄水濁度は95度であった。この結果から、カチオン性高分子凝集剤は処理水の濁度低減に効果的であると言える。また、汚泥分散度はいずれのカチオン性高分子凝集剤においても100%であり、汚泥滞留の発生は見られなかった。
【0076】
一方、アニオン性高分子凝集剤を添加した比較例2および3の上澄水濁度はそれぞれ12度および20度であり、カチオン性高分子凝集剤と同様に処理水の濁度低減に効果的であった。しかし、それぞれの汚泥分散度は22%および33%であり、凝集工程において汚泥滞留が発生した。
【0077】
以上の結果から、マグネシウム剤を用いる水処理において、処理水の濁度低減と凝集工程における汚泥滞留抑制を両立できるカチオン性高分子凝集剤が適していると言える。カチオン性高分子凝集剤とアニオン性高分子凝集剤の重量平均分子量を比較すると、前者は300万~850万であるのに対して、後者は1700万~1800万であった。よって、高分子量の凝集剤は、沈殿性が高い汚泥を形成しやすく、マグネシウム剤を用いる水処理には適さないと言える。
【0078】
<実施例5>
上記脱硫排水300mLに酸化マグネシウムを12g/L添加して、150rpmの回転速度で180分間撹拌した。その後の試験は実施例1と同様に行った。また、処理水中のホウ素の含有量は、前記した方法により測定した。結果を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表2に示すように、酸化マグネシウムおよび高分子凝集剤Aを添加した処理水の上澄水濁度は10度、汚泥分散度は100%、ホウ素は170mg/Lであった。この結果から、実施例の方法は、処理水濁度を良好に低減し、凝集工程における汚泥滞留を抑制し、さらにホウ素も良好に処理可能であると言える。
【0081】
このように、実施例の方法により、マグネシウム剤を用いる水処理において、処理水の濁度を低減するとともに、凝集工程における汚泥滞留を抑制することができた。
【符号の説明】
【0082】
1,2 水処理装置、10 反応装置、12 凝集装置、14 沈殿槽、16,44 反応槽、18,46 マグネシウム剤添加ライン、20,26,50 撹拌装置、22 凝集槽、24,48 凝集剤添加ライン、28,52 被処理水流入ライン、30 反応水排出ライン、32 凝集水排出ライン、34,54 処理水排出ライン、36,56 汚泥排出ライン、40 回分式反応装置。
図1
図2