(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】変速制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/662 20060101AFI20221207BHJP
F16H 61/04 20060101ALI20221207BHJP
F16H 59/18 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
F16H61/662
F16H61/04
F16H59/18
(21)【出願番号】P 2018220232
(22)【出願日】2018-11-26
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小室 正樹
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-140174(JP,A)
【文献】特開2018-155331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/04-61/06
F16H 61/66-61/664
F16H 59/18-59/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに連結される無段変速機を制御する変速モードとして、前記無段変速機の変速比を無段階に制御する無段変速モードと、前記無段変速機の変速比を段階的に制御する有段変速モードと、を備える変速制御装置であって、
有段変速モード中にアクセル操作量が切替閾値を下回る場合に、前記無段変速機の変速制御を実行することにより、変速モードを有段変速モードから無段変速モードに切り替える変速制御部と、
変速モードを有段変速モードから無段変速モードに切り替える変速過程で、アクセル操作量の極小値を検出する極小値検出部と、
変速モードを有段変速モードから無段変速モードに切り替える変速過程で、
前記極小値が検出されてから所定周期毎に、アクセル操作量と前記極小値との差分に基づき、前記エンジンの回転加速度の上限値を設定する上限値設定部と、
を有し、
前記上限値設定部は、前記差分が大きくなるにつれて前記上限値を高く設定し、
前記変速制御部は、変速モードを有段変速モードから無段変速モードに切り替える変速過程で、前記無段変速機をダウンシフトする際の変速速度を制限することにより、前記エンジンの回転加速度を前記上限値以下に制限する、
変速制御装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の変速制御装置において、
前記極小値は、アクセル操作量が減少から増加に転じたときの値である、
変速制御装置。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の変速制御装置において、
前記上限値設定部は、前記極小値の検出前に、前記上限値として初期上限値を設定し、
前記極小値の検出後に、前記上限値として前記差分に基づき前記初期上限値以上の上限値を設定する、
変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機を制御する変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に搭載される変速機として、プライマリプーリやセカンダリプーリ等を備えた無段変速機がある。また、無段変速機の変速モードとして、変速比を無段階に制御する無段変速モードがあり、変速比を段階的に制御する有段変速モードがある(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-088907号公報
【文献】特開2014-137096号公報
【文献】特開2005-140174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、有段変速モード中にアクセルペダルの踏み込みが解除されると、変速モードが有段変速モードから無段変速モードに切り替えられる。ところで、無段変速モードにおいては、有段変速モードよりも目標変速比がロー側に設定されること、つまり有段変速モードよりも目標エンジン回転数が高回転側に設定されることが多い。このため、変速モードを有段変速モードから無段変速モードに切り替える際には、無段変速機のダウンシフトによってエンジン回転数が急速に上昇することがある。
【0005】
しかしながら、変速モードが無段変速モードに切り替えられる状況とは、アクセルペダルの踏み込みが緩められる状況であるため、エンジン回転数を急速に上昇させてしまうことは、乗員に違和感を与えてしまう要因であった。このため、乗員に対して違和感を与えないように、変速モードを適切に切り替えることが求められている。
【0006】
本発明の目的は、変速モードを適切に切り替えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の変速制御装置は、エンジンに連結される無段変速機を制御する変速モードとして、前記無段変速機の変速比を無段階に制御する無段変速モードと、前記無段変速機の変速比を段階的に制御する有段変速モードと、を備える変速制御装置であって、有段変速モード中にアクセル操作量が切替閾値を下回る場合に、前記無段変速機の変速制御を実行することにより、変速モードを有段変速モードから無段変速モードに切り替える変速制御部と、変速モードを有段変速モードから無段変速モードに切り替える変速過程で、アクセル操作量の極小値を検出する極小値検出部と、変速モードを有段変速モードから無段変速モードに切り替える変速過程で、前記極小値が検出されてから所定周期毎に、アクセル操作量と前記極小値との差分に基づき、前記エンジンの回転加速度の上限値を設定する上限値設定部と、を有し、前記上限値設定部は、前記差分が大きくなるにつれて前記上限値を高く設定し、前記変速制御部は、変速モードを有段変速モードから無段変速モードに切り替える変速過程で、前記無段変速機をダウンシフトする際の変速速度を制限することにより、前記エンジンの回転加速度を前記上限値以下に制限する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、変速モードを有段変速モードから無段変速モードに切り替える変速過程で、アクセル操作量と極小値との差分に基づき、エンジンの回転加速度の上限値を設定する。また、変速モードを有段変速モードから無段変速モードに切り替える変速過程で、無段変速機をダウンシフトする際の変速速度を制限することにより、エンジンの回転加速度を上限値以下に制限する。これにより、変速モードを適切に切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施の形態である変速制御装置を備えた車両を示す概略図である。
【
図2】ミッションコントローラの構成例を示すブロック図である。
【
図3】無段変速モードを用いた変速状況の一例を示す図である。
【
図4】有段変速モードを用いた変速状況の一例を示す図である。
【
図5】変速モードの切り替えを伴う変速状況の一例を示す図である。
【
図6】
図5に示した変速状況におけるアクセル操作の一例を示す図である。
【
図8】有段変速モードから無段変速モードに切り替える際のエンジン回転数の推移を示す図である。
【
図9】有段変速モードから無段変速モードへの切替手順の一例を示すフローチャートである。
【
図10】有段変速モードから無段変速モードへの切替手順の一例を示すフローチャートである。
【
図11】(A)および(B)は、デルタ開度に基づき設定される上限加速度の一例を示す線図である。
【
図12】有段変速モードから無段変速モードへの切替手順の一例を示すタイミングチャートである。
【
図13】有段変速モードから無段変速モードへの切替手順の一例を示すタイミングチャートである。
【
図14】有段変速モードから無段変速モードへの切替手順の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
[車両構造]
図1は本発明の一実施の形態である変速制御装置10を備えた車両11を示す概略図である。
図1に示すように、車両11には、エンジン12および無段変速機13を備えたパワートレイン14が搭載されている。無段変速機13の入力軸であるプライマリ軸15には、前後進切替機構16およびトルクコンバータ17を介してエンジン12が連結されている。また、無段変速機13の出力軸であるセカンダリ軸18には、駆動輪出力軸19やデファレンシャル機構20等を介して車輪21が連結されている。なお、プライマリ軸15の回転方向を切り替える前後進切替機構16は、図示しないクラッチや遊星歯車列等によって構成される。
【0012】
無段変速機13は、プライマリ軸15に設けられるプライマリプーリ31と、セカンダリ軸18に設けられるセカンダリプーリ32と、これらのプーリ31,32に巻き掛けられる駆動チェーン33と、を有している。プライマリプーリ31にはプライマリ室34が設けられており、セカンダリプーリ32にはセカンダリ室35が設けられている。プライマリ室34およびセカンダリ室35に供給される油圧を制御することにより、プライマリプーリ31およびセカンダリプーリ32の溝幅を調整することができる。これにより、プーリ31,32に対する駆動チェーン33の巻き掛け径を変化させることができ、無段変速機13の変速比を制御することができる。
【0013】
[制御系]
パワートレイン14の制御系について説明する。
図1に示すように、車両11には、マイコン等からなるエンジンコントローラ40およびミッションコントローラ41が設けられている。エンジンコントローラ40は、インジェクタ、イグナイタおよびスロットルバルブ等のエンジン補機42に制御信号を出力し、エンジン12の運転状態を制御する。また、ミッションコントローラ41は、複数の電磁バルブや油路から構成されるバルブユニット43に制御信号を出力し、無段変速機13、前後進切替機構16およびトルクコンバータ17等の作動状態を制御する。なお、図示しないオイルポンプから吐出される作動油は、バルブユニット43を経て調圧された後に、無段変速機13やトルクコンバータ17等が備える各油室に対して供給される。
【0014】
これらのコントローラ40,41は、CANやLIN等の車載ネットワーク44を介して互いに通信自在に接続される。また、ミッションコントローラ41には、アクセルペダルの踏み込み量であるアクセル操作量(以下、アクセル開度APと記載する。)を検出するアクセルセンサ50、ブレーキペダルの踏み込み量であるブレーキ操作量を検出するブレーキセンサ51、車両11の走行速度である車速VSPを検出する車速センサ52が接続されている。さらに、ミッションコントローラ41には、クランク軸12aの回転速度つまりエンジン回転速度(以下、エンジン回転数Neと記載する。)を検出するエンジン回転センサ53、プライマリプーリ31の回転速度であるプライマリ回転数を検出するプライマリ回転センサ54、セカンダリプーリ32の回転速度であるセカンダリ回転数を検出するセカンダリ回転センサ55等が接続されている。
【0015】
[無段変速機の変速制御]
無段変速機13の変速制御について説明する。
図2はミッションコントローラ41の構成例を示すブロック図である。
図3は無段変速モードを用いた変速状況の一例を示す図であり、
図4は有段変速モードを用いた変速状況の一例を示す図である。
【0016】
変速制御装置10は、無段変速機13の変速モードとして、変速比を無段階に制御する無段変速モードと、変速比を段階的に制御する有段変速モードと、を有している。このため、
図2に示すように、ミッションコントローラ41は、無段変速モードで用いる目標変速比Tr1を設定する無段変速比設定部60と、有段変速モードで用いる目標変速比Tr2を設定する有段変速比設定部61と、を有している。
【0017】
無段変速比設定部60は、アクセル開度APおよび車速VSPに基づき変速特性マップを参照し、無段変速モードで用いる目標変速比Tr1を設定する。ここで、
図3に示すように、変速特性マップには、ロー側の最大変速比を示す特性線Lowが設定されており、ハイ側の最小変速比を示す特性線Highが設定されている。また、変速特性マップには、破線で示すように、アクセル開度APに対応する複数の特性線が設定されている。アクセル開度APが上昇するほど、つまり車両11に対する要求駆動力が増加するほど、矢印α方向の特性線が選択される。一方、アクセル開度APが低下するほど、つまり車両11に対する要求駆動力が減少するほど、矢印β方向の特性線が選択される。例えば、矢印γで示すように、車速V1での走行中にアクセルペダルが踏み込まれた場合には、新たな特性線の選択に伴って目標プライマリ回転数がN1からN2に引き上げられ、目標変速比Tr1が「Ra」からロー側の「Rb」に連続的に制御される。このように、無段変速モードにおいては、目標変速比Tr1が連続的つまり無段階に変化しながら更新される。
【0018】
有段変速比設定部61は、アクセル開度APおよび車速VSPに基づき図示しない変速特性マップを参照し、有段変速モードで用いる目標変速比Tr2を設定する。ここで、
図4に示すように、有段変速モードの目標変速比Tr2として、例えば、7段の固定変速比R1~R7が予め設定されている。
図4に太線αで示すように、第3速の固定変速比R3を用いた加速走行中に、エンジン回転数Neが後述するアップシフト閾値X1に到達すると(符号a1)、目標変速比Tr2が第4速の固定変速比R4に切り替えられる(符号a2)。その後、第4速の固定変速比R4を用いた加速走行中に、エンジン回転数Neがアップシフト閾値X1に到達すると(符号a3)、目標変速比Tr2が第5速の固定変速比R5に切り替えられる(符号a4)。このように、有段変速モードにおいては、目標変速比Tr2が固定変速比R1~R7から選択され、目標変速比Tr2が段階的に切り替えられる。
【0019】
図2に示すように、ミッションコントローラ41は、指示変速比Tr3を設定する指示変速比設定部62と、変速モードとして無段変速モードまたは有段変速モードを選択する変速モード選択部63と、を有している。変速モード選択部63は、後述するように、アクセル開度AP等に基づいて変速モード(無段変速モードまたは有段変速モード)を選択し、選択された変速モードを指示変速比設定部62に出力する。そして、指示変速比設定部62は、変速モードの選択結果に基づいて、最終的な制御目標である指示変速比Tr3を設定する。
【0020】
つまり、指示変速比設定部62は、変速モードとして無段変速モードが選択されると、無段変速比設定部60からの目標変速比Tr1を指示変速比Tr3として設定する。一方、指示変速比設定部62は、変速モードとして有段変速モードが選択されると、有段変速比設定部61からの目標変速比Tr2を指示変速比Tr3として設定する。そして、指示変速比設定部62に接続される制御信号生成部64は、指示変速比Tr3に基づいて制御信号を生成し、この制御信号をバルブユニット43に出力する。バルブユニット43は、プライマリ室34およびセカンダリ室35に供給する作動油を調圧し、無段変速機13の変速比を指示変速比Tr3に向けて制御する。なお、後述するように、有段変速モードから無段変速モードに切り替える移行過程では、移行変速比設定部68から指示変速比設定部62に目標変速比Tr4が送信される。この場合に、指示変速比設定部62は、目標変速比Tr4を指示変速比Tr3として設定する。
【0021】
[変速モードの切替制御]
続いて、ミッションコントローラ41による変速モードの切り替えについて説明する。
図5は変速モードの切り替えを伴う変速状況の一例を示す図である。なお、
図5には、破線で無段変速モードによる変速状況が示されており、実線で有段変速モードによる変速状況が示されている。また、
図6は
図5に示した変速状況におけるアクセル操作の一例を示す図である。
【0022】
前述したように、ミッションコントローラ41の変速モード選択部63は、アクセル開度AP等に基づき、実行する変速モードとして無段変速モードまたは有段変速モードを選択する。変速モードを無段変速モードから有段変速モードに切り替える条件としては、アクセル開度APが所定の開度閾値A1を上回り、かつエンジン回転数Neが所定のアップシフト閾値X1を上回る、という条件である。つまり、無段変速モードにおいてアクセルペダルが大きく踏み込まれた場合には、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる。また、変速モードを有段変速モードから無段変速モードに切り替える条件としては、アクセル開度APが開度閾値A1よりも低開度側の開度閾値(切替閾値)A2を下回る、という条件である。つまり、有段変速モードにおいてアクセルペダルの踏み込みが解除された場合には、変速モードが有段変速モードから無段変速モードに切り替えられる。
【0023】
つまり、
図6に符号t1で示すように、アクセル開度APが開度閾値A1に到達する迄は、変速モードとして無段変速モードが選択される。また、符号t2で示すように、アクセル開度APが開度閾値A1を上回ってから、アクセル開度APが開度閾値A2を下回る迄は、後述するように、エンジン回転数Neがアップシフト閾値X1に到達する場合に、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる。さらに、符号t3で示すように、アクセル開度APが開度閾値A2を下回ると、変速モードとして無段変速モードが選択される。
【0024】
ここで、
図5に矢印b1で示すように、無段変速モードにおいてアクセルペダルが大きく踏み込まれた場合には、車両11を素早く加速させるために所謂キックダウン制御が実行され、目標変速比Tr1は急速にロー側に制御されるとともに、エンジン回転数Neが急速に引き上げられる。このときのアクセルペダルの操作状況とは、乗員によってアクセルペダルが踏み込まれる状況であり、アクセル開度APが開度閾値A1を上回る状況である。続いて、エンジン回転数Neが所定のアップシフト閾値X1に到達すると(符号b2)、有段変速モードへの切替条件が成立するため、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられ、近傍の固定変速比である第3速の固定変速比R3にアップシフトされる(符号b3)。
【0025】
その後の加速走行においては、エンジン回転数Neが後述するアップシフト閾値X1に到達する度に(符号b4,b6,b8)、無段変速機13が高速段側つまりハイ側の固定変速比R4~R6にアップシフトされる(符号b5,b7,b9)。そして、アクセルペダルの踏み込みが解除されると、無段変速モードへの切替条件が成立するため、矢印b10で示すように、変速モードが有段変速モードから無段変速モードに切り替えられ、変速比はハイ側に制御されるとともに、エンジン回転数Neが徐々に引き下げられる。
【0026】
なお、
図5に示されるアップシフト閾値X1は、ミッションコントローラ41のアップシフト閾値設定部65によって、アクセル開度APおよび車速VSPに基づき設定される。ここで、
図7はアップシフト閾値X1の一例を示す図である。
図7に示すように、アクセル開度APが低下するほどに、アップシフト閾値X1は小さく設定される一方、アクセル開度APが上昇するほどに、アップシフト閾値X1は大きく設定される。また、車速VSPが低下するほどに、アップシフト閾値X1は小さく設定される一方、車速VSPが上昇するほどに、アップシフト閾値X1は大きく設定される。このように、アップシフト閾値X1を設定することにより、アクセル開度APや車速VSPが高い領域でのアップシフトを抑制することができ、有段変速モードで車両11を加速させる際の駆動力を確保することができる。
【0027】
これまで説明したように、無段変速モード中にアクセルペダルが大きく踏み込まれると、変速モードが無段変速モードから有段変速モードに切り替えられる。これにより、車両11を加速させる際に、エンジン回転数と車速との上昇具合を比例させることができるため、乗員に違和感を与えることなく車両11を加速させることができる。また、
図5に破線Cで示すように、無段変速モードを維持して車両11を加速させた場合には、エンジン回転数が高止まりする傾向があるが、無段変速モードから有段変速モードに切り替えることにより、エンジン回転数を下げて車両11を加速させることができる。このように、エンジン回転数を下げることにより、パワートレイン14の騒音や損失を低減することができる。
【0028】
[有段変速モードから無段変速モードへの切替制御]
続いて、有段変速モードから無段変速モードへの切替制御について説明する。
図8は有段変速モードから無段変速モードに切り替える際のエンジン回転数の推移を示す図である。前述したように、有段変速モード中にアクセル開度APが開度閾値A2を下回ると、変速モードが有段変速モードから無段変速モードに切り替えられる。ところで、
図5に破線Cで示したように、無段変速モードにおいては、有段変速モードよりも目標変速比がロー側に設定されている。つまり、無段変速モードにおいては、有段変速モードよりも目標エンジン回転数が高回転側に設定されている。このため、
図8に矢印b11で示すように、アクセル開度APの大きさによっては、有段変速モードから無段変速モードに切り替える変速過程において、エンジン回転数Neが急速に上昇してしまう虞がある。
【0029】
すなわち、アクセル開度APが開度閾値A2を下回る際に、アクセルペダルの踏み込みが解除されており、アクセル開度APが大きく低下していた場合には、無段変速モードの目標変速比がハイ側の「r10」に設定され、無段変速モードの目標エンジン回転数が「N10」に設定される。この場合には、矢印b10で示すように、エンジン回転数Neが急速に低下することになる。一方、アクセル開度APが開度閾値A2を下回る際に、アクセルペダルの踏み込みが維持されており、アクセル開度APが開度閾値A2の近傍に保持されていた場合には、無段変速モードの目標変速比がロー側の「r11」に設定され、無段変速モードの目標エンジン回転数が「N11」に設定される。この場合には、矢印b11で示すように、エンジン回転数Neが急速に上昇する虞がある。このように、変速モードが有段変速モードから無段変速モードに切り替えられる場合、つまりアクセルペダルの踏み込みが緩められる場合に、エンジン回転数Neを急速に上昇させてしまうことは、乗員に対して違和感を与える要因である。
【0030】
そこで、ミッションコントローラ41は、後述するように、変速モードを有段変速モードから無段変速モードに切り替える変速過程(以下、移行過程と記載する。)において、無段変速機13を目標変速比Tr4に基づき制御することにより、ダウンシフトに伴って上昇するエンジン回転数Neを上限加速度Amaxによって制限する。このため、
図2に示すように、ミッションコントローラ41は、アクセル開度APの極小値APminを検出する極小値検出部66と、エンジン回転数Neの上限加速度Amaxを設定する上限加速度設定部(上限値設定部)67と、無段変速モードへの移行過程で用いられる目標変速比Tr4を設定する移行変速比設定部(変速制御部)68と、を有している。なお、エンジン回転数Neの上限加速度Amaxとは、エンジン回転数Neの上昇速度の上限値、つまりエンジン12(クランク軸12a)の回転加速度の上限値である。
【0031】
[無段変速モードへの切替制御:フローチャート]
以下、ミッションコントローラ41による有段変速モードから無段変速モードへの切替手順について説明する。
図9および
図10は有段変速モードから無段変速モードへの切替手順の一例を示すフローチャートである。
図9および
図10に示すフローチャートは、有段変速モード中に実行されるフローチャートであり、符号Aを付した箇所で互いに接続されている。
【0032】
図9および
図10に示すように、ステップS10では、アクセル開度APが開度閾値A2を下回るか否かが判定される。ステップS10において、アクセル開度APが開度閾値A2を下回ると判定された場合、つまり有段変速モードから無段変速モードへの切替条件が成立したと判定された場合には、ステップS11に進み、無段変速モードの目標エンジン回転数TNe1が、現在のエンジン回転数Neを上回るか否かが判定される。
【0033】
ステップS11において、現在のエンジン回転数Neが、無段変速モードの目標エンジン回転数TNe1を上回る場合、つまり有段変速モードから無段変速モードに切り替える際に、無段変速機13のダウンシフトによってエンジン回転数Neが上昇する場合には、ステップS12に進み、エンジン回転数Neの上限加速度Amaxとして、所定の初期上限値Am1が設定される。続いて、ステップS13に進み、無段変速モードの目標変速比Tr1および上限加速度Amaxに基づいて、無段変速モードへの移行過程で用いられる目標変速比Tr4が設定される。このステップS13では、移行過程のダウンシフトによってエンジン回転数Neが上昇する際に、エンジン12の回転加速度が上限加速度Amax以下(初期上限値Am1以下)に制限されるように、無段変速機13の目標変速比Tr4が設定される。
【0034】
続いて、ステップS14に進み、目標変速比Tr4に基づき無段変速機13のダウンシフト制御が実行される。続くステップS15では、無段変速モードの目標エンジン回転数TNe1と現在のエンジン回転数Neとの回転数差が、所定範囲Aaに収まるか否かが判定される。ステップS15において、目標エンジン回転数TNe1とエンジン回転数Neとの回転数差が所定範囲Aaに収まる場合、つまりエンジン回転数Neが目標エンジン回転数TNe1に収束している場合には、ステップS16に進み、無段変速モードへの切り替えが完了したと判定されてルーチンを抜ける。
【0035】
このように、有段変速モードから無段変速モードへの移行過程においては、目標変速比Tr4に従って無段変速機13を制御することにより、無段変速機13をダウンシフトさせる際の変速速度が制限され、エンジン12の回転加速度が上限加速度Amax以下に制限される。これにより、無段変速モードへの移行過程において、エンジン回転数Neの急な上昇を回避することができるため、乗員に違和感を与えることなく、変速モードを適切に切り替えることができる。
【0036】
なお、ステップS11において、現在のエンジン回転数Neが、無段変速モードの目標エンジン回転数TNe1を下回る場合には、ステップS17に進み、無段変速機13のアップシフト制御が実行される。続くステップS18では、無段変速モードの目標エンジン回転数TNe1と現在のエンジン回転数Neとの回転数差が、所定範囲Aaに収まるか否かが判定される。ステップS18において、目標エンジン回転数TNe1とエンジン回転数Neとの回転数差が所定範囲Aaに収まる場合、つまりエンジン回転数Neが目標エンジン回転数TNe1に収束している場合には、ステップS16に進み、無段変速モードへの切り替えが完了したと判定されてルーチンを抜ける。
【0037】
また、前述したステップS15において、目標エンジン回転数TNe1とエンジン回転数Neとの回転数差が所定範囲Aaを超えている場合、つまりエンジン回転数Neが目標エンジン回転数TNe1に収束していない場合には、ステップS19に進み、アクセル開度APが減少から増加に転じたか否かが判定される。ステップS19において、アクセル開度APが増加に転じていないと判定された場合には、再びステップS12からの各ステップにおいて、上限加速度Amaxとして初期上限値Am1を維持したまま、無段変速機13のダウンシフト制御が継続される。
【0038】
一方、ステップS19において、アクセル開度APが減少から増加に転じたと判定された場合には、ステップS20に進み、アクセル開度APの極小値APminが設定される。ここで、極小値APminとは、アクセル開度APが減少から増加に転じたときのアクセル開度APの値である。つまり、無段変速モードへの切り替えが決定されてから、乗員によって再びアクセルペダルが踏み込まれた場合に、踏み込みが開始された時点のアクセル開度APが極小値APminとして設定される。
【0039】
このように、ステップS20において極小値APminが設定されると、ステップS21に進み、現在のアクセル開度APから極小値APminを減算することでデルタ開度(差分)ΔAPが算出される。続くステップS22では、デルタ開度ΔAPに基づいてエンジン回転数Neの上限加速度Amaxが設定される。ここで、
図11(A)および(B)は、デルタ開度ΔAPに基づき設定される上限加速度Amaxの一例を示す線図である。
図11(A)および(B)に示すように、デルタ開度ΔAPが大きくなるにつれて上限加速度Amaxが高く設定される。つまり、アクセルペダルが大きく踏み込まれるほどに、上限加速度Amaxが高く設定されることになる。なお、
図11(A)に示すように、上限加速度Amaxを連続的に変化させても良く、
図11(B)に示すように、上限加速度Amaxを段階的に変化させても良い。
【0040】
続いて、ステップS23に進み、無段変速モードの目標変速比Tr1および上限加速度Amaxに基づいて、無段変速モードへの移行過程で用いられる目標変速比Tr4が設定される。このステップS23では、移行過程のダウンシフトによってエンジン回転数Neが上昇する際に、エンジン12の回転加速度が上限加速度Amax以下に制限されるように、無段変速機13の目標変速比Tr4が設定される。
【0041】
次いで、ステップS24に進み、目標変速比Tr4に基づき無段変速機13のダウンシフト制御が実行される。続くステップS25では、無段変速モードの目標エンジン回転数TNe1と現在のエンジン回転数Neとの回転数差が、所定範囲Aaに収まるか否かが判定される。ステップS25において、目標エンジン回転数TNe1とエンジン回転数Neとの回転数差が所定範囲Aaに収まる場合、つまりエンジン回転数Neが目標エンジン回転数TNe1に収束している場合には、ステップS26に進み、無段変速モードへの切り替えが完了したと判定されてルーチンを抜ける。
【0042】
一方、前述したステップS25において、目標エンジン回転数TNe1とエンジン回転数Neとの回転数差が所定範囲Aaを超えている場合、つまりエンジン回転数Neが目標エンジン回転数TNe1に収束していない場合には、再びステップS21からの各ステップにおいて、デルタ開度ΔAP、上限加速度Amax、目標変速比Tr4が更新され、無段変速機13のダウンシフト制御が継続される。
【0043】
このように、有段変速モードから無段変速モードへの移行過程においては、目標変速比Tr4に従って無段変速機13を制御することにより、無段変速機13をダウンシフトさせる際の変速速度が制限され、エンジン12の回転加速度が上限加速度Amax以下に制限される。これにより、無段変速モードへの移行過程において、エンジン回転数Neの急な上昇を回避することができるため、乗員に違和感を与えることなく、変速モードを適切に切り替えることができる。しかも、デルタ開度ΔAPに基づき上限加速度Amaxが設定されることから、移行過程においてアクセルペダルが踏み込まれた場合には、変速速度を高めてエンジン回転数Neを素早く上昇させることができ、乗員の加速要求に対して適切に対応することが可能である。
【0044】
[無段変速モードへの切替制御:タイミングチャート]
以下、タイミングチャートに沿って有段変速モードから無段変速モードへの切替手順について説明する。
図12~
図14は有段変速モードから無段変速モードへの切替手順の一例を示すタイミングチャートである。
図12には、タイミングチャート1として、アクセル開度APが開度閾値A2を下回った後に、アクセル開度APが開度閾値A2の近傍に保持された場合のタイミングチャートが示されている。また、
図13には、タイミングチャート2として、アクセル開度APが開度閾値A2を下回った後に、アクセル開度APが小さく増加した場合のタイミングチャートが示されている。さらに、
図14には、タイミングチャート3として、アクセル開度APが開度閾値A2を下回った後に、アクセル開度APが大きく増加した場合のタイミングチャートが示されている。
【0045】
なお、
図12~
図14において、「TNe1」は無段変速モードの目標エンジン回転数であり、「TNe2」は有段変速モードの目標エンジン回転数であり、「TNe4」は移行過程の目標エンジン回転数である。つまり、
図12~
図14に矢印αで示すように、変速モードを有段変速モードから無段変速モードに切り替える際には、エンジン回転数Neが、有段変速モードでは「TNe2」に沿って推移し、移行過程では「TNe4」に沿って推移し、無段変速モードでは「TNe1」に沿って推移する。
【0046】
(タイミングチャート1)
図12に示すように、有段変速モード中にアクセル開度APが開度閾値A2を下回ると(符号c1)、有段変速モードから無段変速モードへの切り替えが選択される(符号d1)。この無段変速モードへの切り替えが選択されると、上限加速度Amaxとして初期上限値Am1が設定される(符号e1)。そして、無段変速モードへの移行過程においては、上限加速度Amaxに基づき変速速度を制限しながらダウンシフト制御が実行され、エンジン12の回転加速度が上限加速度Amax以下に制限される。このように、エンジン12の回転加速度を上限加速度Amax以下に制限することにより、エンジン回転数Neは目標エンジン回転数TNe4に沿って緩やかに上昇する。そして、エンジン回転数Neが目標エンジン回転数TNe1に到達すると(符号f1)、有段変速モードから無段変速モードへの切り替えが完了する。
【0047】
また、有段変速モードから無段変速モードへの移行過程においては、アクセル開度APが増加に転じていないことから(符号c2)、デルタ開度ΔAPが「0」に保持されるとともに(符号g1)、上限加速度Amaxが初期上限値Am1に保持される(符号e2)。このため、ダウンシフトに伴って上昇するエンジン回転数Neは、矢印αで示すように、移行過程において緩やかな上昇カーブを維持することになる。これにより、矢印βで示すようなエンジン回転数Neの急上昇を回避することができるため、乗員に違和感を与えることなく変速モードを適切に切り替えることができる。
【0048】
(タイミングチャート2,3)
図13および
図14に示すように、有段変速モード中にアクセル開度APが開度閾値A2を下回ると(符号c1)、有段変速モードから無段変速モードへの切り替えが選択される(符号d1)。この無段変速モードへの切り替えが選択されると、上限加速度Amaxとして初期上限値Am1が設定される(符号e1)。つまり、移行過程における極小値APminの検出前には、上限加速度Amaxとして初期上限値Am1が設定される。そして、無段変速モードへの移行過程においては、上限加速度Amaxに基づき変速速度を制限しながら無段変速機13のダウンシフト制御が実行され、エンジン12の回転加速度が上限加速度Amax以下に制限される。このように、エンジン12の回転加速度を上限加速度Amax以下に制限することにより、エンジン回転数Neは目標エンジン回転数TNe4に沿って上昇する。
【0049】
また、無段変速モードへの移行過程においては、乗員によってアクセルペダルが踏み込まれており、アクセル開度APが増加に転じることから、アクセル開度APの極小値APminが検出される(符号c2)。このように、移行過程において極小値APminが検出されると、アクセル開度APから極小値APminを減算することでデルタ開度ΔAPが算出され(符号g1)、デルタ開度ΔAPに基づき上限加速度Amaxが設定される(符号e2)。つまり、移行過程における極小値APminの検出後には、上限加速度Amaxとして、デルタ開度ΔAPに基づき初期上限値Am1以上の上限加速度が設定されることになる。このため、ダウンシフトに伴って上昇するエンジン回転数Neは、矢印αで示すように、デルタ開度ΔAPつまり上限加速度Amaxに応じて上昇速度を変化させている。そして、エンジン回転数Neが目標エンジン回転数TNe1に到達すると(符号f1)、有段変速モードから無段変速モードへの切り替えが完了する。
【0050】
このように、デルタ開度ΔAPに基づき上限加速度Amaxを設定したので、移行過程でアクセルペダルが踏み込まれた場合には、変速速度を高めてエンジン回転数Neを急速に上昇させることができ、乗員の加速要求に対して適切に対応することが可能である。また、
図14に示すタイミングチャート3においては、
図13に示すタイミングチャート2に比べて、アクセル開度APが大きく増加することから、上限加速度Amaxが高く設定される。これにより、
図14に示すタイミングチャート3においては、
図13に示すタイミングチャート2に比べて、移行過程におけるエンジン回転数Neの上昇速度を高めることができ(符号α2,α3)、乗員の加速要求に対してより適切に対応することができる。
【0051】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
図9および
図10に示したフローチャートにおいては、エンジン回転数Neが目標エンジン回転数TNe1に収束するまで、エンジン回転数Neの上昇速度つまりエンジン12の回転加速度を上限加速度Amax以下に制限しているが、これに限られることはない。例えば、アクセル開度APが開度閾値A2を下回ってから所定時間が経過した場合には、エンジン回転数Neが目標エンジン回転数TNe1に収束していない状況であっても、上限加速度Amaxによる制限を解除しても良い。
【0052】
前述の説明では、ミッションコントローラ41に、無段変速比設定部60、有段変速比設定部61、指示変速比設定部62、変速モード選択部63、制御信号生成部64、アップシフト閾値設定部65、極小値検出部66、上限加速度設定部67、移行変速比設定部68を設けているが、これに限られることはない。例えば、他のコントローラに各設定部、検出部、選択部および生成部を設けても良く、複数のコントローラに分けて各設定部、検出部、選択部および生成部を設けても良い。
【0053】
図4に示した例では、有段変速モードで使用する目標変速比として、7段の固定変速比R1~R7を挙げているが、これに限られることはなく、6段以下の固定変速比を使用しても良く、8段以上の固定変速を使用しても良い。また、前述の説明では、アクセル開度APおよび車速VSPに基づきアップシフト閾値X1を設定しているが、これに限られることはない。例えば、アクセル開度APだけに基づきアップシフト閾値X1を設定しても良く、車速VSPだけに基づきアップシフト閾値X1を設定しても良い。
【符号の説明】
【0054】
10 変速制御装置
12 エンジン
13 無段変速機
66 極小値検出部
67 上限加速度設定部(上限値設定部)
68 移行変速比設定部(変速制御部)
A2 開度閾値(切替閾値)
AP アクセル開度(アクセル操作量)
APmin 極小値
ΔAP デルタ開度(差分)
Amax 上限加速度(上限値)
Am1 初期上限値