(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】二酸化炭素回収システムおよびその運転方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20221207BHJP
B01D 53/18 20060101ALI20221207BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20221207BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20221207BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20221207BHJP
【FI】
B01D53/14 220
B01D53/18 130
B01D53/62 ZAB
B01D53/78
C01B32/50
(21)【出願番号】P 2018223999
(22)【出願日】2018-11-29
【審査請求日】2021-03-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(72)【発明者】
【氏名】宇田津 満
(72)【発明者】
【氏名】藤田 己思人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 康博
(72)【発明者】
【氏名】村岡 大悟
(72)【発明者】
【氏名】半田 優介
(72)【発明者】
【氏名】北村 英夫
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/169192(WO,A1)
【文献】特開昭51-146371(JP,A)
【文献】特開平09-038452(JP,A)
【文献】特開平07-155536(JP,A)
【文献】特開昭60-175518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14-53/18、
53/34-53/85、
53/92、53/96、
46/00-46/90、
47/00-47/18、
1/00- 8/00
B01B 1/00- 1/08
C01B 32/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄部を備え、二酸化炭素を含む処理対象ガスと吸収液とを接触させ、前記二酸化炭素を吸収した前記吸収液を排出し、前記二酸化炭素が除去された前記処理対象ガスを含む吸収塔排出ガスを前記洗浄部を介して排出する吸収塔と、
前記吸収塔から排出された前記吸収液から前記二酸化炭素を放散させ、前記二酸化炭素を放散した前記吸収液と、前記二酸化炭素を含む再生塔排出ガスとを排出する再生塔と、
を備え、
前記洗浄部は、前記吸収塔排出ガスが通過する少なくとも1つの空孔を有する吸収塔排出ガス通過部材と、前記空孔内を通過中の前記吸収塔排出ガスに洗浄液を噴射し、前記吸収塔排出ガスを前記洗浄液により洗浄する噴射部と、を備え、
前記空孔の内径は、前記洗浄部内を流れる前記吸収塔排出ガスの速度が、前記空孔内において前記空孔外よりも速くなるように設定されて
おり、
前記吸収塔排出ガス通過部材は、前記洗浄部内の空間を第1領域と第2領域とに仕切る板状の形状を有し、前記吸収塔排出ガス通過部材は、前記第1領域側の第1面と前記第2領域側の第2面とを有し、前記空孔は、前記第1面と前記第2面との間で前記吸収塔排出ガス通過部材を貫通しており、
前記吸収塔排出ガスは、前記第1領域から前記空孔を介して前記第2領域へと流れ、
前記洗浄液は、前記噴射部から前記空孔を介して前記第1領域へと流れる、
二酸化炭素回収システム。
【請求項2】
前記洗浄部は、前記第1領域へと流れた前記洗浄液を、前記噴射部から前記空孔内を通過中の前記吸収塔排出ガスに再び噴射する、請求項
1に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項3】
前記噴射部は、前記空孔内を通過中の前記吸収塔排出ガスに前記洗浄液をミスト状に噴射する1つ以上のスプレーを備える、請求項
1または2に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項4】
前記噴射部は、前記吸収塔排出ガス通過部材の1つの空孔用に2つ以上のスプレーを備える、請求項
3に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項5】
前記噴射部は、前記洗浄液が噴射される方向と、前記吸収塔排出ガスが流れる方向とが対向するように、前記洗浄液を噴射する、請求項1から
4のいずれか1項に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項6】
前記噴射部から前記洗浄液が噴射される方向は、第1直線と平行であり、
前記空孔内で前記吸収塔排ガスが流れる方向は、第2直線と平行であり、
前記第1直線と前記第2直線との間の角度は、10度以上である、請求項1から
5のいずれか1項に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項7】
前記第1直線と前記第2直線との間の角度は、80度以下である、請求項
6に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項8】
前記噴射部は、前記空孔内に設けられており、前記空孔の壁面から離れる方向に前記洗浄液を噴射する、請求項1から
7のいずれか1項に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項9】
前記噴射部は、前記空孔内に設けられており、前記空孔の壁面に向かう方向に前記洗浄液を噴射する、請求項1から
7のいずれか1項に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項10】
前記吸収塔排出ガスおよび洗浄液が通過する充填層を備え、前記吸収塔排出ガスを前記充填層内で前記洗浄液により洗浄する第2洗浄部をさらに備える、請求項1から
9のいずれか1項に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項11】
二酸化炭素を含む処理対象ガスと吸収液とを吸収塔内で接触させ、前記二酸化炭素を吸収した前記吸収液を前記吸収塔から排出し、前記二酸化炭素が除去された前記処理対象ガスを含む吸収塔排出ガスを前記吸収塔内の洗浄部を介して前記吸収塔から排出し、
前記吸収塔から排出された前記吸収液から前記二酸化炭素を再生塔内で放散させ、前記二酸化炭素を放散した前記吸収液と、前記二酸化炭素を含む再生塔排出ガスとを前記再生塔から排出し、
前記吸収塔排出ガスが通過する少なくとも1つの空孔を有する吸収塔排出ガス通過部材を備える前記洗浄部内で、前記空孔内を通過中の前記吸収塔排出ガスに噴射部から洗浄液を噴射し、前記吸収塔排出ガスを前記洗浄液により洗浄する、
ことを含み、
前記空孔の内径は、前記洗浄部内を流れる前記吸収塔排出ガスの速度が、前記空孔内において前記空孔外よりも速くなるように設定されて
おり、
前記吸収塔排出ガス通過部材は、前記洗浄部内の空間を第1領域と第2領域とに仕切る板状の形状を有し、前記吸収塔排出ガス通過部材は、前記第1領域側の第1面と前記第2領域側の第2面とを有し、前記空孔は、前記第1面と前記第2面との間で前記吸収塔排出ガス通過部材を貫通しており、
前記吸収塔排出ガスは、前記第1領域から前記空孔を介して前記第2領域へと流れ、
前記洗浄液は、前記噴射部から前記空孔を介して前記第1領域へと流れる、
二酸化炭素回収システムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、二酸化炭素回収システムおよびその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題に対する有効な対策として、二酸化炭素回収貯留(CCS:Carbon Dioxide Capture and Storage)技術が注目されている。例えば、火力発電所、製鉄所、ごみ焼却所、製造設備などの排ガス排出設備から発生するプロセス排ガス(処理対象ガス)中の二酸化炭素を、吸収液により回収する二酸化炭素回収システムが検討されている。
二酸化炭素回収システムでは、処理対象ガス中の二酸化炭素を吸収塔内で吸収液に吸収させる。しかしながら、二酸化炭素が除去された処理対象ガスが吸収塔から放出される際に、処理対象ガスが吸収液成分を同伴することが問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の実施形態は、吸収塔により二酸化炭素が除去された処理対象ガスに同伴する吸収液成分を低減することが可能な二酸化炭素回収システムおよびその運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一の実施形態によれば、二酸化炭素回収システムは、二酸化炭素を含む処理対象ガスと吸収液とを接触させ、前記二酸化炭素を吸収した前記吸収液と、前記二酸化炭素が除去された前記処理対象ガスを含む吸収塔排出ガスとを排出する吸収塔を備える。さらに、前記システムは、前記吸収塔から排出された前記吸収液から前記二酸化炭素を放散させ、前記二酸化炭素を放散した前記吸収液と、前記二酸化炭素を含む再生塔排出ガスとを排出する再生塔を備える。さらに、前記システムは、前記吸収塔排出ガスが通過する少なくとも1つの空孔を有する吸収塔排出ガス通過部材と、前記空孔内を通過中の前記吸収塔排出ガスに洗浄液を噴射し、前記吸収塔排出ガスを前記洗浄液により洗浄する噴射部と、を備える洗浄部を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1実施形態の二酸化炭素回収システムの構成を示す模式図である。
【
図2】第1実施形態の洗浄部の動作を説明するためのグラフである。
【
図3】第1実施形態の洗浄部の構成を示す断面図である。
【
図4】第1実施形態の変形例の二酸化炭素回収システムの構成を示す模式図である。
【
図5】第2実施形態の洗浄部の構成を示す断面図である。
【
図6】第3実施形態の洗浄部の構成を示す断面図である。
【
図7】第4実施形態の洗浄部の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図1~
図7において、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0008】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の二酸化炭素回収システムの構成を示す模式図である。
【0009】
図1の二酸化炭素回収システムは、排ガス排出設備1と、吸収塔2と、洗浄部3と、リッチ液ポンプ4と、再生熱交換器5と、再生塔6と、リーン液ポンプ7と、リーン液冷却器8と、制御部9とを備えている。吸収塔2は、充填層2aと、デミスタ2bとを備えている。洗浄部3は、洗浄液ポンプ3aと、洗浄液冷却器3bと、1つ以上のスプレー3cと、1つ以上の空孔Hを有する仕切り板3dとを備えている。これらのスプレー3cは噴射部の例であり、この仕切り板3dは吸収塔排出ガス通過部材の例である。再生塔6は、充填層6aを備えている。
【0010】
図1は、吸収塔2や再生塔6の設置面に平行で互いに垂直なX方向およびY方向と、吸収塔2や再生塔6の設置面に垂直なZ方向とを示している。本明細書においては、例えば吸収塔2や再生塔6の構成を説明する際に、+Z方向を上方向として取り扱い、-Z方向を下方向として取り扱う。なお、-Z方向は、重力方向と一致していても一致していなくてもよい。
【0011】
排ガス排出設備1は、燃焼排ガスなどのプロセス排ガスを排出する設備である。排ガス排出設備1から排出されたプロセス排ガスは、プロセス排ガスラインを介して吸収塔2に導入される。排ガス排出設備1は例えば、火力発電所などの発電所や、製鉄所や清掃工場などの工場や、ごみ焼却所や製造設備などの燃焼設備である。プロセス排ガスは例えば、火力発電所内のボイラーから排出される。プロセス排ガスは、二酸化炭素回収システムによって処理される処理対象ガスの例である。排ガス排出設備1は、本実施形態では二酸化炭素回収システム内に設けられているが、二酸化炭素回収システム外に設けられていてもよい。
【0012】
吸収塔2は、例えば向流型気液接触装置により構成されている。吸収塔2は、プロセス排ガスを導入するためのガス導入口を充填層2aの下方に備え、吸収液(リーン液)を導入するための吸収液導入口を充填層2aの上方に備えている。吸収液導入口から導入された吸収液は、充填層2aへと落下する。一方、ガス導入口から導入されたプロセス排ガスは、充填層2aへと上昇する。
【0013】
吸収塔2は、プロセス排ガスと吸収液とを充填層2a内で気液接触させて、プロセス排ガス中の二酸化炭素を吸収液に吸収させる。その結果、二酸化炭素を吸収した吸収液(リッチ液)が、充填層2aから落下して吸収塔2の底部に溜まる。このリッチ液は、吸収塔2の底部に設けられた吸収液排出口から外部に排出される。一方、二酸化炭素が除去されたプロセス排ガスを含有する吸収塔排出ガスは、充填層2aから上昇して吸収塔2の頂部に向かう。ただし、この吸収塔排出ガスは、吸収塔2の頂部に設けられたガス排出口から外部に排出(放出)される前に、吸収塔2内に設けられた、詳細は後述する洗浄部3に流入する。
【0014】
なお、吸収塔2は、1つの充填層2aを備えているが、これに限定されず、複数の充填層を備えていてもよいし、1つ以上のその他の反応部(例えばトレイ)を備えていてもよい。また、本実施形態の二酸化炭素回収システムは、吸収塔排出ガスを冷却する冷却塔を備えていてもよい。また、洗浄部3は、本実施形態では吸収塔2内に設けられているが、吸収塔2外に設けられていてもよい。
【0015】
吸収液の例は、1種類以上のアミンを含有するアミン系水溶液である。アミンの例は、モノエタノールアミン(monoethanolamin)や、ジエタノールアミン(diethanolamin)である。吸収液は、その他のアミンを含有していてもよい。
【0016】
洗浄部3は、吸収塔排出ガスを洗浄液により洗浄して、吸収塔排出ガスに同伴する吸収液成分を除去するために設けられている。仕切り板3dは、洗浄部3内の空間を、仕切り板3dの下部の下部領域と、仕切り板3dの上部の上部領域とに仕切っている。下部領域は第1領域の例であり、上部領域は第2領域の例である。仕切り板3dは、吸収塔排出ガスや洗浄液が通過可能な1つ以上の空孔Hを有している。
【0017】
洗浄部3に流入した吸収塔排出ガスは、洗浄部3の下部領域から、これらの空孔Hを通過して、洗浄部3の上部領域へと流れる。洗浄部3は少なくとも1つのスプレー3cを備えており、例えば、各空孔Hの上部に1つのスプレー3cが設けられている。これらのスプレー3cが、空孔H内を通過中の吸収塔排出ガスに洗浄液を噴射し、この噴射される洗浄液が吸収塔排出ガスを洗浄する。これにより、吸収塔排出ガスに同伴する吸収液成分が除去される。
【0018】
空孔Hを通過した吸収塔排出ガスは、デミスタ2bを通過した後、吸収塔2の頂部に設けられたガス排出口から外部に排出(放出)される。デミスタ2bは、吸収塔排出ガスに同伴する吸収液成分を捕捉して、吸収液成分をさらに除去する。一方、各スプレー3cから噴射された洗浄液は、空孔Hを通過して下部領域へと流れ、洗浄液ポンプ3aにより移送され、洗浄液冷却器3bにより冷却される。冷却された洗浄液は、スプレー3cに供給され、スプレー3cから吸収塔排出ガスに再び噴射される。
【0019】
なお、本実施形態の洗浄部3のさらなる詳細については後述する。
【0020】
吸収塔2の吸収液排出口から排出された吸収液は、リッチ液ポンプ4により、再生熱交換器5を介して再生塔6へ移送される。この際、吸収塔2から再生塔6へ向かう吸収液は、再生熱交換器5における熱交換により加熱される。
【0021】
再生塔6は、例えば向流型気液接触装置により構成されている。再生塔6は、吸収塔2から排出された吸収液(リッチ液)を導入するための吸収液導入口を、充填層6aの上方に備えている。
【0022】
再生塔6は、導入された吸収液を加熱することにより、吸収液から大部分の二酸化炭素を蒸気と共に放散させて、吸収液から二酸化炭素を分離する。再生塔6は、図示しないリボイラを備えており、このリボイラに供給された高温蒸気と吸収液との熱交換を行うことにより吸収液を加熱する。再生塔6に導入された吸収液は、充填層6aを通過して、再生塔6の底部に落下する。
【0023】
その結果、二酸化炭素を放散した吸収液(リーン液)が再生塔6の底部にに溜まり、再生塔6の底部に設けられた吸収液排出口から外部に排出される。一方、放散された二酸化炭素と蒸気とを含有する再生塔排出ガスは、再生塔6の頂部に設けられたガス排出口から外部に排出される。再生塔排出ガスはその後、図示しないガス冷却器により冷却される。これにより、再生塔排出ガス中の蒸気が凝縮し、二酸化炭素と凝縮水とに分離される。凝縮水は、吸収液成分を含有しているため、再生塔6へ戻される。一方、分離された二酸化炭素は例えば、圧縮ポンプにより超臨界状態や液体状態など目的に応じた状態に転移され、タンク、ローリー、パイプラインなどにより保管または輸送される。
【0024】
なお、再生塔6は、1つの充填層6aを備えているが、これに限定されず、複数の充填層を備えていてもよいし、1つ以上のその他の反応部(例えばトレイ)を備えていてもよい。また、再生塔6は、タンク内で吸収液を加熱して二酸化炭素を放散させるフラッシュドラム(フラッシュタンク)を備えていてもよい。また、本実施形態の二酸化炭素回収システムは、再生塔排出ガスを洗浄する洗浄塔、再生塔排出ガスを冷却する冷却塔、再生塔排出ガスから得られた二酸化炭素を圧縮する圧縮設備などを備えていてもよい。
【0025】
再生塔6から排出された吸収液は、リーン液ポンプ7により、再生熱交換器5とリーン冷却器8とを介して吸収塔2へ戻される。この際、再生塔6から吸収塔2へ向かう吸収液は、再生熱交換器5における熱交換と、リーン冷却器8における冷却作用により冷却される。再生熱交換器5は、吸収塔2から再生塔6へ向かう吸収液と、再生塔6から吸収塔2へ向かう吸収液との間で熱交換を行う。
【0026】
制御部9は、二酸化炭素回収システムの種々の動作を制御する。制御部9の例は、プロセッサ、電気回路、コンピュータなどである。制御部9は例えば、洗浄液ポンプ3aやリーン液ポンプ7の回転数や、洗浄液冷却器3bやリーン液冷却器8の冷却動作や、スプレー3cの噴射動作などを制御する。
【0027】
以下、本実施形態の洗浄部3のさらなる詳細について説明する。
【0028】
上述のように、洗浄部3は、吸収塔排出ガスを洗浄液により洗浄して、吸収塔排出ガスに同伴する吸収液成分を除去する。吸収液成分の例は、吸収液の主成分(例えばアミン)や、吸収液の添加成分や、吸収液の劣化等により生じた副次成分などである。本実施形態の洗浄部3は、これらの吸収液成分を洗浄液により除去する。
【0029】
本実施形態の洗浄部3は、スプレー3cから空孔H内を通過中の吸収塔排出ガスに洗浄液を噴霧する、すなわち、吸収塔排出ガスに洗浄液をミスト状に噴射する。これにより、吸収塔排出ガスに同伴する吸収液成分を効率的に除去することが可能となる。このようなスプレー3cによる洗浄は例えば、ミスト状で飛散する吸収液成分を含む吸収塔排出ガスから吸収液成分を除去する際に効果的である。洗浄液は例えば水や酸性水であるが、これらの例に限定されるものではない。
【0030】
図2は、第1実施形態の洗浄部3の動作を説明するためのグラフである。
【0031】
図2の横軸は、吸収塔2の洗浄部3内を流れる吸収塔排出ガスの速度(空塔速度)を表す。
図2の縦軸は、スプレー3cにより吸収塔排出ガスから除去される吸収液成分の除去率を表す。吸収液成分の除去率は、洗浄後の吸収塔排出ガス中の吸収液成分の濃度を、洗浄前の吸収塔排出ガス中の吸収液成分の濃度で割った値である。
【0032】
図2に示すように、空塔速度と除去率との間には相関関係がある。具体的には、空塔速度が所定速度Xよりも小さい場合には、空塔速度が大きくなると除去率も大きくなる。しかしながら、空塔速度が所定速度Xよりも大きい場合には、空塔速度が大きくなると除去率は小さくなる。符号Yは、空塔速度が所定速度Xの場合の除去率を示している。
【0033】
図2に示す現象が起こる理由は、次のように考えられる。空塔速度がXより小さい場合には、ミスト状の吸収液成分は進む力が弱く、スプレー3cからの洗浄液の液滴に衝突しないため、除去されにくい。一方、空塔速度がXより大きい場合には、スプレー3cからの洗浄液の液滴にミスト状の吸収液成分が衝突しても、吸収液成分は液滴を突き抜けてしまうために捕集されず、除去率が低下してしまう。さらに、吸収液成分のミストが、衝突の衝撃でより微小なミストに分裂することや、スプレー3cからの液滴が、上昇する吸収塔排出ガスにより巻き上げられることでも、除去率が低下してしまう。
【0034】
一般に、吸収塔2の内径は、吸収液による二酸化炭素の吸収性能が最大となるように設定されており、洗浄部3の内径も、吸収塔2の内径と同じ値に設定される。この場合、洗浄部3における空塔速度は、Xよりも小さくなり、除去率が低くなってしまう。
【0035】
そこで、本実施形態では、洗浄部3内に仕切り板3dを設け、吸収塔排出ガスを、当該仕切り板3dに設けられている空孔H内を通過させる。その結果、吸収塔排出ガスの空塔速度は、空孔H内を通過する際に速くなることから、空孔H内を通過中の吸収塔排出ガスの空塔速度をXに近づけ、空孔H内を通過中の吸収塔排出ガスにおける除去率を高くすることができる。これにより、洗浄に最適な空塔速度(ガス流量)で吸収塔排出ガスを洗浄することが可能となる。
【0036】
図3は、第1実施形態の洗浄部3の構成を示す断面図である。
【0037】
図3(a)は、スプレー3cや仕切り板3dの縦断面を示す断面図である。
図3(b)は、仕切り板3dの形状を示す上面図である。
図3(a)は、
図3(b)に示すA-A’線に沿った断面図である。本実施形態の洗浄部3は、複数のスプレー3cを備えており、各空孔Hの上部に1つのスプレー3cが設けられている(
図3(a))。これらのスプレー3cは、これらの空孔H内を通過中の吸収塔排出ガスに洗浄液を噴霧することで、吸収塔排出ガスを洗浄液により洗浄する。
【0038】
本実施形態の空孔Hの内径は、空孔H内の吸収塔排出ガスの空塔速度がXに近い値となるように設定されている。これにより、洗浄に最適な空塔速度を実現して、洗浄効果を最大化することができる。また、空孔Hの内径は、吸収塔2の構造を変更せずに調整することができるため、既設の洗浄部3も新設の洗浄部3も容易に性能を向上させることができる。また、洗浄部3の構造は、スプレー3cや仕切り板3d以外の部分については従来と同様に構成できるため、吸収塔2や洗浄部3の製造コストの低減や製造工期の短縮が可能となる。
【0039】
図4は、第1実施形態の変形例の二酸化炭素回収システムの構成を示す模式図である。
【0040】
図4の二酸化炭素回収システムは、
図1に示す構成要素に加え、吸収塔2内に第2洗浄部10と第2デミスタ2cとを備えている。第2洗浄部10はデミスタ2bの上部に位置し、第2デミスタ2cは第2洗浄部10の上部に位置している。第2洗浄部10は、洗浄液ポンプ10aと、洗浄液冷却器10bと、充填層10cとを備えている。
【0041】
デミスタ2bを通過した吸収塔排出ガスは、第2洗浄部10に流入する。第2洗浄部10は、充填層10c内を上昇する吸収塔排出ガスと、充填層10c内を落下する洗浄液とを気液接触させ、吸収塔排出ガスを洗浄液により洗浄する。これにより、吸収塔排出ガスに同伴する吸収液成分が除去される。この洗浄液は例えば水や酸性水であるが、これらの例に限定されるものではない。
【0042】
充填層10cを通過した吸収塔排出ガスは、第2デミスタ2cを通過した後、吸収塔2の頂部に設けられたガス排出口から外部に排出(放出)される。第2デミスタ2cは、吸収塔排出ガスに同伴する吸収液成分を捕捉して、吸収液成分をさらに除去する。一方、充填層10cを通過した洗浄液は、洗浄液ポンプ10aにより移送され、洗浄液冷却器10bにより冷却される。冷却された洗浄液は、充填層10cに再び供給される。
【0043】
このように、本実施形態の吸収塔2は、スプレー3cによる洗浄部(第1洗浄部)3に加えて、充填層10cによる第2洗浄部10を備えていてもよい。この場合、ミスト状の吸収液成分を主に第1洗浄部3で除去し、ガス状の吸収液成分を主に第2洗浄部10で除去するという構成を実現することが可能となる。なお、第2洗浄部10は、本実施形態では吸収塔2内に設けられているが、吸収塔2外に設けられていてもよい。
【0044】
以上のように、本実施形態の洗浄部3は、吸収塔排出ガスが通過する空孔Hを有する仕切り板3dと、空孔H内を通過中の吸収塔排出ガスに洗浄液を噴射することで、吸収塔排出ガスを洗浄液により洗浄するスプレー3cとを備えている。よって、本実施形態によれば、空孔H内を通過中の吸収塔排出ガスの速度を適切な値に設定することで、吸収塔排出ガスが吸収塔2から放出される際に吸収塔排出ガスに同伴する吸収液成分を低減することが可能となる。
【0045】
なお、スプレー3cは、洗浄液を噴射するその他の機器に置き換えてもよい。また、仕切り板3dは、空孔Hを有するその他の部材に置き換えてもよく、例えば、板形状以外の形状を有する部材に置き換えてもよい。
【0046】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態の洗浄部3の構成を示す断面図である。
図5(a)は、第2実施形態の洗浄部3の第1の例を示している。
図5(b)は、第2実施形態の洗浄部3の第2の例を示している。
【0047】
図5(a)の洗浄部3は、各空孔Hの上部に2つのスプレー3cを備えている。これらのスプレー3cは、真下を向くように配置されているため、洗浄液が噴射される方向と、吸収塔排出ガスが流れる方向とが対向するように、洗浄液を噴射する。本例によれば、1つの空孔Hに2つのスプレー3cから洗浄液を噴霧することで、1つの空孔Hに1つのスプレー3cから洗浄液を噴霧する場合に比べて、洗浄効果を向上させることができる。
【0048】
図5(c)は、
図5(a)の例の詳細を説明するための模式図である。矢印Lは、1つのスプレー3cから洗浄液が噴射される方向を示し、矢印Gは、吸収塔排出ガスが流れる方向を示し、符号Kは、矢印Lや矢印Gに平行な直線を示している。
図5(a)に示すように、各スプレー3cは、洗浄液を円錐形になるように噴射するが、
図5(c)の「洗浄液が噴射される方向」は、洗浄液の平均噴射方向を示している。洗浄液の平均噴射方向は例えば、上記の円錐形の中心軸に沿った方向となる。本例では、矢印Lは-Z方向を向き、矢印Gは+Z方向を向いており、洗浄液が噴射される方向と、吸収塔排出ガスが流れる方向とが対向している。直線Kは、Z方向に平行に延びている。なお、矢印Lの方向と矢印Gの方向は、洗浄液が噴射される方向と吸収塔排出ガスが流れる方向とが対向する限度で、平行からずれていてもよい。
【0049】
図5(b)の洗浄部3も、各空孔Hの上部に2つのスプレー3cを備えているが、これらのスプレー3cは、斜め下を向くように配置されている。そのため、洗浄液は、これらのスプレー3cから斜め下に噴射され、空孔Hの壁面に衝突しやすくなる。洗浄液の液滴が空孔Hの壁面に衝突することで、液滴が吸収塔排出ガスにより巻き上げられることを抑制することが可能となる。これにより、空孔Hの壁面付近の吸収液成分を、洗浄液により除去しやすくなる。洗浄液の噴射方向の傾きは、
図5(a)の状態を0度とする場合に、10度以上かつ80度以下に設定することが望ましく、より詳細には45度程度に設定することが望ましい。
【0050】
図5(d)は、
図5(b)の例の詳細を説明するための模式図である。矢印Lは、1つのスプレー3cから洗浄液が噴射される方向を示し、矢印Gは、吸収塔排出ガスが流れる方向を示している。さらに、符号Kは、矢印Gに平行な直線を示し、符号K’は、矢印Lに平行な直線を示し、符号θは、直線Kと直線K’との間の角度を示している(0度≦θ≦90度)。この角度θは、上述の「洗浄液の噴射方向の傾き」に対応している。直線K’は第1直線の例であり、直線Kは第2直線の例である。各スプレー3cから洗浄液が噴射される方向(洗浄液の平均噴射方向)の定め方は、
図5(c)の場合と同様である。本例では、矢印Lは-Z方向から角度θだけ傾いた方向を向き、矢印Gは+Z方向を向いており、直線Kと直線K’との間の角度はθとなっている。上述のように、この角度θは、10度以上かつ80度以下に設定することが望ましく、より詳細には45度程度に設定することが望ましい。
【0051】
本実施形態によれば、各空孔Hに複数のスプレー3cから洗浄液を噴霧することで、1つの空孔Hに1つのスプレー3cから洗浄液を噴霧する場合に比べて、洗浄効果を向上させることができる。なお、各空孔H用のスプレー3cの個数は、上記の第1および第2の例では2個であるが、3個以上でもよい。
【0052】
(第3実施形態)
図6は、第3実施形態の洗浄部3の構成を示す断面図である。
図6(a)は、第3実施形態の洗浄部3の第1の例を示している。
図6(b)は、第3実施形態の洗浄部3の第2の例を示している。
【0053】
図6(a)の洗浄部3は、各空孔H内に複数のスプレー3cを備えている。
図6(a)に示す複数のスプレー3cは、空孔Hの中心軸の方向を向くように配置されているため、空孔Hの壁面Sから離れる方向に洗浄液を噴射する。これらのスプレー3cは、空孔Hの壁面Sに固定されており、真横を向いている。
【0054】
これらのスプレー3cが洗浄液を噴霧すると、洗浄液の液滴が各スプレー3cの反対側の壁面Sに衝突する。これにより、
図5(b)の場合と同様に、液滴が吸収塔排出ガスにより巻き上げられることを抑制することが可能となる。これは、
図6(b)の洗浄部3でも同様である。
【0055】
図6(b)の洗浄部3も、各空孔H内に複数のスプレー3cを備えている。ただし、これらのスプレー3cは、斜め下を向いている。洗浄液の噴射方向の傾きは、
図5(a)の状態を0度とし、
図6(a)の状態を90度とする場合に、10度以上かつ80度以下に設定することが望ましい。
【0056】
なお、
図6(a)の洗浄部3は、各空孔H内に2列のスプレー3cを備えているが、各空孔H内に3列以上のスプレー3cを備えていてもよい。これは、
図6(b)の洗浄部3でも同様である。
【0057】
以上のように、本実施形態の洗浄部3は、空孔H内にスプレー3cを備えている。これにより、第1および第2実施形態と同様に、吸収塔排出ガスに同伴する吸収液成分を低減することが可能となる。
【0058】
(第4実施形態)
図7は、第4実施形態の洗浄部3の構成を示す断面図である。
図7(a)は、第4実施形態の洗浄部3の第1の例を示している。
図7(b)は、第4実施形態の洗浄部3の第2の例を示している。
【0059】
図7(a)の洗浄部3は、各空孔H内に複数のスプレー3cを備えている。
図7(a)に示す複数のスプレー3cは、空孔Hの壁面Sの方向を向くように配置されているため、空孔Hの壁面Sに向かう方向に洗浄液を噴射する。これらのスプレー3cは、空孔Hの中心軸付近に固定されており、真横を向いている。
【0060】
これらのスプレー3cが洗浄液を噴霧すると、洗浄液の液滴が各スプレー3cの向かいの壁面Sに衝突する。これにより、
図5(b)の場合と同様に、液滴が吸収塔排出ガスにより巻き上げられることを抑制することが可能となる。これは、
図7(b)の洗浄部3でも同様である。
【0061】
図7(b)の洗浄部3も、各空孔H内に複数のスプレー3cを備えている。ただし、これらのスプレー3cは、斜め下を向いている。洗浄液の噴射方向の傾きは、
図5(a)の状態を0度とし、
図7(a)の状態を90度とする場合に、10度以上かつ80度以下に設定することが望ましい。
【0062】
なお、
図7(a)の洗浄部3は、各空孔H内に2列のスプレー3cを備えているが、各空孔H内に3列以上のスプレー3cを備えていてもよい。望ましくは、壁面S全体に洗浄液を噴霧できように、各空孔H内に4列以上のスプレー3cが設けられていてもよい。これは、
図7(b)の洗浄部3でも同様である。
【0063】
以上のように、本実施形態の洗浄部3は、空孔H内にスプレー3cを備えている。これにより、第1から第3実施形態と同様に、吸収塔排出ガスに同伴する吸収液成分を低減することが可能となる。
【0064】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規なシステムおよび方法は、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明したシステムおよび方法の形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。
【符号の説明】
【0065】
1:排ガス排出設備、2:吸収塔、2a:充填層、
2b:デミスタ、2c:第2デミスタ、3:洗浄部、
3a:洗浄液ポンプ、3b:洗浄液冷却器、3c:スプレー、3d:仕切り板、
4:リッチ液ポンプ、5:再生熱交換器、6:再生塔、6a:充填層、
7:リーン液ポンプ、8:リーン液冷却器、9:制御部、10:第2洗浄部、
10a:洗浄液ポンプ、10b:洗浄液冷却器、10c:充填層