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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】手術器具及び手術器具システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/56 20060101AFI20221207BHJP
【FI】
A61B17/56
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018240743
(22)【出願日】2018-12-25
(65)【公開番号】P2020099568
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(74)【代理人】
【識別番号】110000682
【氏名又は名称】弁理士法人ワンディ-IPパ-トナ-ズ
(72)【発明者】
【氏名】財満 寛典
【審査官】石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0192588(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0133943(US,A1)
【文献】特開2016-032543(JP,A)
【文献】特表2018-519926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工膝関節単顆置換術において、大腿骨の後顆の一方を切除する骨切除器具を案内するための手術器具であって、
所定の厚さを有するスペーサ部と、前記スペーサ部に対して垂直な方向に延びるガイド部と、を備え、
前記スペーサ部は、患者の膝関節が屈曲位の状態にあるときにおいて前記大腿骨の後顆の一方に当接する平坦状の後顆当接面を有し、
前記ガイド部は、前記後顆当接面に対して垂直に延び前記大腿骨の遠位端部に当接し、前記後顆当接面に垂直な平坦状の遠位端部当接面と、前記大腿骨に挿入されるピンが挿通されることで前記遠位端部当接面を前記大腿骨の前記遠位端部に保持するためのピン孔と、前記後顆当接面と平行な方向に沿って貫通して設けられているとともに前記骨切除器具が挿入されるガイドスリットと、を有し、
前記ガイドスリットは、前記遠位端部当接面側が、前記ガイド部の左右方向の面である両側面において外方に開口する状態で形成されていることを特徴とする、手術器具。
【請求項2】
請求項1に記載の手術器具であって、
前記ピン孔は、前記ガイド部を貫通する貫通孔として設けられ、前記ガイド部において、少なくとも2つ設けられていることを特徴とする、手術器具。
【請求項3】
請求項2に記載の手術器具であって、
前記ガイド部において少なくとも2つ設けられた前記ピン孔は、前記ガイド部をそれぞれ貫通する方向が異なっていることを特徴とする、手術器具。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の手術器具であって、
前記ガイド部における前記ガイドスリットが設けられている部分が、前記ガイド部におけるガイドスリットが設けられていない部分よりも幅方向の寸法が大きくなるように構成されていることを特徴とする、手術器具。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の手術器具であって、
前記ガイド部における前記ガイドスリットが設けられている部分が、前記ガイド部におけるガイドスリットが設けられていない部分よりも左右両方において突出していることを特徴とする、手術器具。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の手術器具であって、
前記ガイド部は前記ガイドスリットを1つのみ有することを特徴とする、手術器具。
【請求項7】
請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の手術器具であって、
対象の膝関節の屈曲位ギャップの調整のために大腿骨の後顆の一方を切除する操作のための手術器具。
【請求項8】
請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の手術器具であって、
前記ガイド部の遠位端部当接面に対向する面に位置し、その内部に少なくとも1つの前記ピン孔が位置する凹部を有することを特徴とする、手術器具。
【請求項9】
人工膝関節単顆置換術において用いられる手術器具システムであって、
大腿骨後顆の一方を切除する骨切除器具を案内するための手術器具を少なくとも2つ含み、
前記手術器具は、所定の厚さを有するスペーサ部と、前記スペーサ部に対して垂直な方向に延びるガイド部と、を備え、
前記スペーサ部は、患者の膝関節が屈曲位の状態にあるときにおいて前記大腿骨後顆の一方に当接する平坦状の後顆当接面を有し、
前記ガイド部は、前記後顆当接面に対して垂直に延び前記大腿骨の遠位端部に当接し、前記後顆当接面に垂直な平坦状の遠位端部当接面と、前記大腿骨に挿入されるピンが挿通されることで前記遠位端部当接面を前記大腿骨の前記遠位端部に保持するためのピン孔と、前記後顆当接面と平行な方向に沿って貫通して設けられているとともに前記骨切除器具が挿入されるガイドスリットと、を有し、
前記ガイドスリットは、前記遠位端部当接面側が、前記ガイド部の左右方向の面である両側面において外方に開口する状態で形成され
少なくとも2つの前記手術器具は、前記後顆当接面から前記ガイドスリットまでの距離がそれぞれ異なることを特徴とする、手術器具システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工膝関節置換術、特に人工膝関節単顆置換術において用いられる手術器具及び手術器具システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人工膝関節単顆置換術においては、人工膝関節(以下インプラントとも称する)の取り付け後において膝の曲げ伸ばしがスムーズになるように、膝関節の屈曲位における脛骨と大腿骨後顆とのギャップを基準に、伸展位の状態における大腿骨遠位端の骨切り量を調整して骨切りが行われている。大腿骨遠位端の骨切り量については、インプラントを取り付けた状態での伸展位における脛骨と大腿骨との距離である伸展位ギャップが、インプラントを取り付けた状態での屈曲位における脛骨と大腿骨との距離である屈曲位ギャップの寸法と同じになるように調整される。
【0003】
例えば、人工膝関節単顆置換術において骨切りする手順は、非特許文献1に示すような、脛骨の近位端部の切除後に大腿骨との間に挿入する略L字状のスペーサ部と、大腿骨の骨切りを行う骨切除器具を案内するためスペーサ部に取り付けられるガイド部とで構成される手術器具を用いて行われる。具体的には、以下のような手順によって行われる。
【0004】
非特許文献1に記載の人工膝関節単顆置換術においては、まず、患部側の顆(通常は内顆)に対向する脛骨近位端部を平坦状に切除する。
【0005】
次に、近位端部が切除された脛骨と、大腿骨との間に、手術器具のスペーサ部を挿入する。このとき、伸展位と屈曲位のそれぞれの状態において、脛骨の近位端部と大腿骨遠位端部との間に挿入可能である最大厚さのスペーサ部が挿入される。スペーサ部の厚みは伸展位と屈曲位のそれぞれの状態で確認され比較される。
【0006】
次に、伸展位の状態で、スペーサ部を脛骨近位端部と大腿骨遠位端部との間に挿入し、大腿骨遠位端を切除するためのスリットが形成された第1のガイド部をスペーサ部に取り付ける。そして、伸展位の状態で大腿骨遠位端を第1のガイド部のスリットに案内された骨切除器具で切除する。このときの大腿骨遠位端を切除する位置は、インプラントの取り付け後の伸展位ギャップが、骨切り前における屈曲位ギャップの寸法と同じになるように設定する。
【0007】
次に、スペーサ部から第1のガイド部を取り外し、伸展位の状態の膝関節を屈曲位の状態にする。そして、大腿骨後顆の切除と面取りをするためのスリットが形成された第2のガイド部をスペーサ部に取り付けた上で、ガイド部を骨切りされた大腿骨遠位端部にピンで固定する。
【0008】
ガイド部を固定する一方スペーサ部を取り外した後、大腿骨後顆を骨切除器具によってインプラントの厚み分だけ切除する。次に、大腿骨後顆を切除した大腿骨遠位端部は、更に、骨切除器具で面取りを行う。そして、これらの手順によって骨切りされた大腿骨遠位端部にインプラントを取り付ける。上記のように大腿骨遠位端の切除位置を調整して骨切りすることで伸展位ギャップと屈曲位ギャップとを同じ寸法とし、インプラントの取り付け後の膝関節の曲げ伸ばしをスムーズにすることを目的としている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】stryker、“Triathlon PKR Partial Knee Resurfacing Surgical Protocol”、[online]、8頁乃至18頁、[平成30年11月30日検索]、インターネット〈URL:http://www.strykermeded.com/media/2047/triathon-pkr-surgical-technique.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献1に記載の人工膝関節単顆置換術においては、スペーサ部とは別体の第1のガイド部、及び第2のガイド部を使用する等、手術に際して複数の部品が必要とされるものである。また、膝関節の曲げ伸ばしをスムーズに行えるようにするために、伸展位の状態で骨切り量を調整して大腿骨遠位端を切除しているが、屈曲位の状態で骨切り量を調整して大腿骨後顆を切除することは行っていない。このため、インプラントの取り付け後の伸展位ギャップと屈曲位ギャップの寸法とが同じになるように、屈曲位の状態で大腿骨後顆を切除することによって、簡単な作業で容易にギャップ調整ができる器具の実現が望まれる。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、その目的は、簡素な構造であるとともに骨切りが簡単な作業でできる手術器具及び手術器具システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記課題を解決するため、本発明のある局面に係る手術器具は、人工膝関節単顆置換術において、大腿骨の後顆の一方を切除する骨切除器具を案内するための手術器具であって、所定の厚さを有するスペーサ部と、前記スペーサ部に対して垂直な方向に延びるガイド部と、を備え、前記スペーサ部は、患者の膝関節が屈曲位の状態にあるときにおいて前記大腿骨の後顆の一方に当接する平坦状の後顆当接面を有し、前記ガイド部は、前記後顆当接面に対して垂直に延び前記大腿骨の遠位端部に当接し、前記後顆当接面に垂直な平坦状の遠位端部当接面と、前記大腿骨に挿入されるピンが挿通されることで前記遠位端部当接面を前記大腿骨の前記遠位端部に保持するためのピン孔と、前記後顆当接面と平行な方向に沿って貫通して設けられているとともに前記骨切除器具が挿入されるガイドスリットと、を有し、前記ガイドスリットは、前記遠位端部当接面側が、前記ガイド部の左右方向の面である両側面において外方に開口する状態で形成されていることを特徴とする。
【0013】
上記の構成によると、手術器具は、スペーサ部と、スペーサ部に対して垂直な方向に延びるガイド部と、を備えている。このため、術者は、手術器具を、スペーサ部が大腿骨後顆に対して沿うように配置するとともにガイド部を大腿骨遠位端部に沿うように配置することができる。また、スペーサ部は、屈曲位の状態において大腿骨後顆の一方に当接する後顆当接面を有し、ガイド部は、後顆当接面に対して垂直に延び大腿骨遠位端部に当接する遠位端部当接面と、遠位端部当接面を大腿骨遠位端部に保持するためのピン孔と、骨切除器具が挿入されるガイドスリットとを有している。このため、術者は、人工膝関節単顆置換術において、スペーサ部とガイドスリットを有するガイド部とで構成される簡素な構造の手術器具を使用することで、屈曲位における大腿骨後顆を骨切除器具によって容易に骨切りすることができる。
【0014】
また、従来、膝関節のスムーズな屈曲を実現するために、人工膝関節単顆置換術において、インプラントを取り付けた後における伸展位ギャップと屈曲位ギャップとが同じ寸法になるように伸展位の状態において大腿骨遠位端部を切除していた。このため、伸展位でギャップ調整する手間があった。しかしながら、上記構成によると、屈曲位における大腿骨後顆の骨切り量を調整して骨切りすることが可能となり、ガイド部のガイドスリットに案内された骨切除器具によって大腿骨後顆が切除される際にインプラント取り付け後の屈曲位ギャップが、骨切り前における伸展位ギャップの寸法と同じになるように調整することができる。このため、インプラントを取り付けた後における伸展位ギャップと屈曲位ギャップとが同じ寸法になるように伸展位の状態で大腿骨遠位端の骨切り量を調整する必要がなくなる。これにより、人工膝関節単顆置換術において、屈曲位における大腿骨後顆の骨切り量を調整して、伸展位における骨切り量を調整することなくインプラントの厚み分だけ切除するという簡単な作業で骨切りをすることができる。
【0015】
従って、簡素な構造であるとともに骨切りが簡単な作業でできる手術器具を提供することができる。
【0016】
(2)好ましくは、前記ピン孔は、前記ガイド部を貫通する貫通孔として設けられ、前記ガイド部において、少なくとも2つ設けられていることを特徴とする。
【0017】
この構成によると、ガイド部には、貫通孔としてピン孔が少なくとも2つ設けられている。そして、これら少なくとも2つのピン孔に手術器具を大腿骨に固定するためのピンが挿通される。これにより、手術器具を、大腿骨に対して動かないように複数のピンによってより強固に固定して、安定した状態でより容易に骨切り作業を行うことができる。
【0018】
(3)好ましくは、前記ガイド部において少なくとも2つ設けられた前記ピン孔は、前記ガイド部をそれぞれ貫通する方向が異なっていることを特徴とする。
【0019】
この構成によると、ガイド部において少なくとも2つ設けられたピン孔が、それぞれ異なる方向に貫通している。このため、同じ方向に貫通している複数のピン孔が設けられた手術器具と比較した場合、手術器具の骨への取り付けの容易さを確保しながら、手術器具がピンの抜き刺し方向へ外れ易くなるのを抑制することができる。
【0020】
(4)好ましくは、前記ガイド部における前記ガイドスリットが設けられている部分が、前記ガイド部におけるガイドスリットが設けられていない部分よりも幅方向の寸法が大きくなるように構成されていることを特徴とする。
【0021】
この構成によると、ガイド部におけるガイドスリットが設けられている部分が、幅方向の寸法が大きく形成されている。これにより、ガイドスリットに挿入された状態で骨の切除を行う骨切除器具の可動範囲を確保しながら手術器具全体をコンパクトにすることができる。
【0022】
(5)好ましくは、人工膝関節単顆置換術において用いられる手術器具システムであって、大腿骨後顆の一方を切除する骨切除器具を案内するための手術器具を少なくとも2つ含み、前記手術器具は、所定の厚さを有するスペーサ部と、前記スペーサ部に対して垂直な方向に延びるガイド部と、を備え、前記スペーサ部は、患者の膝関節が屈曲位の状態にあるときにおいて前記大腿骨後顆の一方に当接する平坦状の後顆当接面を有し、前記ガイド部は、前記後顆当接面に対して垂直に延び前記大腿骨の遠位端部に当接し、前記後顆当接面に垂直な平坦状の遠位端部当接面と、前記大腿骨に挿入されるピンが挿通されることで前記遠位端部当接面を前記大腿骨の前記遠位端部に保持するためのピン孔と、前記後顆当接面と平行な方向に沿って貫通して設けられているとともに前記骨切除器具が挿入されるガイドスリットと、を有し、前記ガイドスリットは、前記遠位端部当接面側が、前記ガイド部の左右方向の面である両側面において外方に開口する状態で形成され、少なくとも2つの前記手術器具は、前記後顆当接面から前記ガイドスリットまでの距離がそれぞれ異なることを特徴とする。
【0023】
この構成によると、手術器具は、スペーサ部と、スペーサ部に対して垂直な方向に延びるガイド部と、を備えている。このため、術者は、手術器具を、スペーサ部が大腿骨後顆に対して沿うように配置するとともにガイド部を大腿骨遠位端部に沿うように配置することができる。また、スペーサ部は、屈曲位の状態において大腿骨後顆の一方に当接する後顆当接面を有し、ガイド部は、後顆当接面に対して垂直に延び大腿骨遠位端部に当接する遠位端部当接面と、遠位端部当接面を大腿骨遠位端部に保持するためのピン孔と、骨切除器具が挿入されるガイドスリットとを有している。このため、術者は、人工膝関節単顆置換術において、上記のような簡素な構造の手術器具を使用して、屈曲位における大腿骨後顆をガイドスリットによって案内された骨切除器具によって容易に骨切りを行うことができる。
【0024】
また、従来、膝関節のスムーズな屈曲を実現するために、人工膝関節単顆置換術において、インプラントを取り付けた後における伸展位ギャップと屈曲位ギャップとが同じ寸法になるように伸展位の状態において大腿骨遠位端部を切除していた。しかしながら、この構成によると、屈曲位における大腿骨後顆の骨切り量を調整して骨切りすることが可能となり、ガイド部のガイドスリットに案内された骨切除器具によって大腿骨後顆が切除される際にインプラント取り付け後の屈曲位ギャップが、骨切り前における伸展位ギャップの寸法と同じになるように調整することができる。このため、インプラントを取り付けた後における伸展位ギャップと屈曲位ギャップとが同じ寸法になるようにするため伸展位の状態で大腿骨遠位端の骨切り量を調整する必要がなくなる。これにより、人工膝関節単顆置換術において、屈曲位における大腿骨後顆の骨切り量を調整して、伸展位における骨切り量を調整することなくインプラントの厚み分だけ切除するという簡単な作業で骨切りをすることができる。
【0025】
また、この構成によると、手術器具は、後顆当接面と平行な方向に沿って貫通して設けられているとともに骨切除器具が挿入されるガイドスリットを有するガイド部を備えている。そして、この手術器具は、少なくとも2つ以上あり、後顆当接面からガイドスリットまでの距離がそれぞれで異なっている。このため、屈曲位において大腿骨後顆を切除する際において、手術器具を取り替えることで簡単に骨切り量を調整することができる。
【0026】
従って、簡素な構造であるとともに骨切りが簡単な作業でできる手術器具システムを提供することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、簡素な構造であるとともに簡単な作業で骨切りができる手術器具及び手術器具システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態に係る手術器具を示す図であって、手術器具を大腿骨遠位端部に取り付けた状態を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る手術器具システムを示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る手術器具を示す斜視図である。
図4図3に示す手術器具を示す側面図である。
図5図3に示す手術器具を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。尚、本発明は、人工膝関節単顆置換術において用いられる手術器具及び手術器具システムとして、広く適用することができるものである。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係る手術器具を示す図であって、手術器具1を大腿骨遠位端部111に取り付けた状態を示す図である。図1では人体の左脚膝関節の内顆側に手術器具1を取り付けた状態を例示している。図2は、本発明の一実施形態に係る手術器具システム10を示す図である。図3は、本発明の一実施形態に係る手術器具1を示す斜視図である。図4は、図3に示す手術器具1を示す側面図である。図5は、図3に示す手術器具1を示す正面図である。尚、図1及び図3では、外形を表すための細線を付している。
【0031】
各図において示す方向は、手術器具を屈曲位の状態で取り付けた場合の人体を基準に説明している。具体的には、各図面上において、前、後、上、下、左、右とそれぞれ記載された方向が人体の前、後、上、下、左、右の方向に対応している。また、上と記載された矢印が指示する方向を上側又は上方と称し、下と記載された矢印が指示する方向を下側又は下方と称し、前と記載された矢印が指示する方向を前側又は前方と称し、後と記載された矢印が指示する方向を後側又は後方と称し、左と記載された矢印が指示する方向を左側又は左方と称し、右と記載された矢印が指示する方向を右側又は右方と称する。また、左右方向については、幅方向Dとも称する。
【0032】
本実施形態に示す手術器具1は、人工膝関節単顆置換術において、大腿骨110の後顆112の一方を切除する長尺の薄板状の骨切除器具Cを案内するためのものである。本実施形態における人工膝関節単顆置換術において使用される手術器具1は、手術器具システム10として複数で使用される。即ち、手術器具システム10は、大腿骨後顆112を切除するに際して、例えば図2に示すような、少なくとも2つの手術器具1a、1bが使用される。手術器具システム10の各手術器具1a、1bは、後述するガイドスリット33が設けられる位置がそれぞれ異なる。
【0033】
手術器具1は、図1を参照して、人工膝関節単顆置換術においては、脛骨100と大腿骨110との間に配置されて使用される。より具体的には、手術器具1は、大腿骨遠位端部111と、ボーンソー等の骨切除器具Cで切除された大腿骨後顆112の片側に対向した状態で取り付けられる。手術器具1は、スペーサ部2と、ガイド部3と、を備える。手術器具システム10は、大腿骨後顆112を所定位置で切除するために使用されるものであり、手術器具1を複数備えている。本実施形態における人工膝関節単顆置換術において使用される手術器具システム10は、手術器具1aと、手術器具1bの2つの手術器具1で構成されている。手術器具1aと手術器具1bは、ほぼ同様に構成されているが、後述する後顆当接面20からガイドスリット33までの距離がそれぞれ異なる。
【0034】
スペーサ部2は、大腿骨110の後顆112に対向する位置に配置される。スペーサ部2は、所定の厚さを有して平坦な板状に延びる部材として設けられている。スペーサ部2は、膝関節が屈曲位の状態にあるとき脛骨近位端部101と大腿骨後顆112との間において一定の幅を有して前後方向に延びている。スペーサ部2は、大腿骨110の後顆112に沿うように設けられる。スペーサ部2は、図2を参照して、後顆当接面20と、脛骨対向面21と、を有している。
【0035】
後顆当接面20は、図1乃至図4を参照して、スペーサ部2において大腿骨110の後顆112に対向する側の面として平坦状に形成されている。後顆当接面20は、患者の膝関節が屈曲位の状態にあるときにおいて、大腿骨110の後顆112の一方に当接する。より具体的には、スペーサ部2の後顆当接面20は、大腿骨110の後顆112の最も突出した部分と当接する。脛骨対向面21は、スペーサ部2の脛骨100に対向する側の面として平坦状に形成されている。
【0036】
ガイド部3は、大腿骨110の遠位端111に対向する位置に配置される。ガイド部3は、所定の厚さを有して、大腿骨110の遠位端111に沿って配置される部分として設けられる。ガイド部3は、スペーサ部2の下側の端部から前方に延びている。即ち、スペーサ部2に対して垂直な方向である前後方向に延びている。ガイド部3は、遠位端部当接面30と、外面31と、ピン孔32と、ガイドスリット33と、凹部34と、を有している。
【0037】
遠位端部当接面30は、ガイド部3において大腿骨110の遠位端111に対向する側の面として平坦状に形成されている。遠位端部当接面30は、スペーサ部2の後顆当接面20に対して垂直に延びる。また、遠位端部当接面30は、大腿骨110の遠位端111に当接する。より具体的には、ガイド部3の遠位端部当接面30は、切除した大腿骨遠位端111の面に当接する。尚、大腿骨遠位端111を切除しないで手術器具1を取り付ける場合には、遠位端部当接面30は、大腿骨110の遠位端111の最も突出した部分に当接する。外面31は、図示しないピンが差し込まれる側の面として構成されている。
【0038】
ピン孔32は、ガイド部3を貫通する貫通孔として設けられている。ピン孔32には、手術器具1を大腿骨110に固定するためのピンが挿通される。ピン孔32は、大腿骨110に挿入されるピンが挿通されることで遠位端部当接面30を大腿骨110の遠位端111に保持する。ピン孔32は、ガイド部3において少なくとも2つ設けられている。また、ガイド部3において少なくとも2つ設けられたピン孔32は、ガイド部3をそれぞれ貫通する方向が異なっている。
【0039】
本実施形態に係るピン孔32は、図2乃至図5に示すように、ガイド部3において2つ設けられており、一方のピン孔32aは、ガイド部3において、上下方向、即ち、図1に示す大腿骨110の軸線L110と平行な方向に貫通して設けられている。また、他方のピン孔32bは、図4に示すように、ガイド部3において外面31から遠位端部当接面30に向かうに従ってピン孔32aに近接するように貫通して設けられている。
【0040】
ガイドスリット33は、骨切除器具Cを挿入して大腿骨後顆112を所定位置で骨切りするために設けられている。ガイドスリット33は、スペーサ部2の後顆当接面20から所定距離離れた位置において後顆当接面20と平行な方向に沿って貫通して設けられている。ガイドスリット33には、図3に示すように、外面31側から骨切除器具Cが挿入される。ガイドスリット33に挿入された骨切除器具Cは、スペーサ部2の後顆当接面20から所定距離離れた位置において、後顆当接面20と平行な切除面を形成するように大腿骨後顆112を切除することができる。
【0041】
図5を参照して、ガイド部3におけるガイドスリット33が設けられている部分は、ガイド部3におけるガイドスリット33が設けられていない部分よりも幅方向Dの寸法が大きくなるように構成されている。そして、ガイドスリット33は、ガイド部3の幅よりも大きな幅を有して構成されている。また、ガイドスリット33は、ガイド部3における遠位端部当接面30側が、ガイド部3の左右方向の面である両側面において外方に開口する状態で形成されている。このため、ガイドスリット33に挿入された骨切除器具Cは、刃の先端側を手術器具1の幅方向、即ち、左右方向に大きく振る操作が可能となっている。
【0042】
凹部34は、図1図2、及び図4に示すように、ガイド部3の外面31側に形成されている。凹部34内には、ピン孔32bに挿入されるピンがスリットガイド33に挿入されるボーンソーと干渉しないようにピン孔32bが配置されている。
【0043】
尚、本実施形態における人工膝関節単顆置換術において使用される少なくとも2つの手術器具1a、1bは、スペーサ部2の後顆当接面20からガイドスリット33までの距離が、それぞれ異なるように構成されている。具体的には、手術に際して、図2に示すように、大腿骨後顆112の切除する位置が異なるガイドスリット33が設けられた手術器具1が2つ用意され、大腿骨後顆112の骨切りを行う厚みに応じて取り替えられる。
【0044】
本実施形態の骨切りの手順は、上述した手術器具1を使用することによって行われる。以下、手術器具1を使用して行われる骨切りの手順について説明する。
【0045】
本実施形態の骨切りでは、まず、屈曲位の状態において、大腿骨遠位端部111の骨棘を取り除く。次に、脛骨近位端部101における大腿骨後顆112の片側に対向する部分を図示しない専用の器具を用いて平坦状に切除する。
【0046】
次に、近位端部が切除された脛骨100と大腿骨110との間にスペーサ部2が挿入されるように、スペーサ部2とガイド部3が一体に構成された手術器具1を大腿骨110に設置する。このとき、伸展位ギャップと屈曲位ギャップを確認した上で、後顆当接面20の骨切り量を調整するために、後顆当接面20からガイドスリット33までの距離が適切な手術器具1を膝関節に設置する。尚、手術器具1を膝関節に設置するに際し、前もって大腿骨遠位端部111を平坦状に切除してから行ってもよい。
【0047】
膝関節に設置した手術器具1は、スペーサ部2の後顆当接面20が大腿骨後顆112に当接し、ガイド部3の遠位端部当接面30が大腿骨遠位端113に当接した状態で大腿骨遠位端部111にピンで固定される。
【0048】
手術器具1を大腿骨遠位端部111に固定した後、大腿骨後顆112を、スリットガイド33によって案内された骨切除器具Cで切除する。
【0049】
次に、手術器具1を大腿骨遠位端部111から取り外し、大腿骨遠位端部111をインプラントの厚み分切除する。更に、大腿骨遠位端部111を面取りした上でインプラントを取り付ける。上記の手順によって行われた人工膝関節単顆置換術により、インプラント取り付け後の屈曲位ギャップと伸展位ギャップとは同一寸法になるため、患者は、膝関節の曲げ伸ばしをスムーズに行うことができる。
【0050】
[本実施形態の作用及び効果]
本実施形態における、手術器具1、及び手術器具システム10の手術器具1は、スペーサ部2と、スペーサ部2に対して垂直な方向に延びるガイド部3と、を備えている。このため、術者は、手術器具1を、スペーサ部2が大腿骨後顆112に対して沿うように配置するとともにガイド部3を大腿骨遠位端部111に沿うように配置することができる。また、スペーサ部2は、屈曲位の状態において大腿骨後顆112の一方に当接する後顆当接面20を有し、ガイド部3は、後顆当接面20に対して垂直に延び大腿骨遠位端部111に当接する遠位端部当接面30と、遠位端部当接面30を大腿骨遠位端部111に保持するためのピン孔32と、骨切除器具Cが挿入されるガイドスリット33とを有している。このため、術者は、人工膝関節単顆置換術において、上記のような簡素な構造の手術器具1を使用して、屈曲位における大腿骨後顆112をガイドスリット33によって案内された骨切除器具Cによって骨切りすることができる。
【0051】
また、従来、膝関節のスムーズな屈曲を実現するために、人工膝関節単顆置換術において、インプラントを取り付けた後における屈曲位ギャップと伸展位ギャップとの寸法が同じになるように伸展位の状態において大腿骨遠位端部111を切除していた。このため、伸展位でギャップ調整する手間があった。しかしながら、この手術器具1、及び手術器具システム10の手術器具1によると、屈曲位における大腿骨後顆112の骨切り量を調整して骨切りすることが可能となり、ガイド部3のガイドスリット33に案内された骨切除器具Cによって大腿骨後顆112が切除される際にインプラント取り付け後の屈曲位ギャップが、骨切り前における伸展位ギャップの寸法と同じになるように調整することができる。このため、インプラントを取り付けた後における伸展位ギャップと屈曲位ギャップとが同じ寸法になるように伸展位の状態で大腿骨遠位端113の骨切り量を調整する必要がなくなる。これにより、人工膝関節単顆置換術において、屈曲位における大腿骨後顆112の骨切り量を調整して、伸展位における骨切り量を調整することなくインプラントの厚み分だけ切除するという簡単な作業で骨切りをすることができる。
【0052】
従って、簡素な構造であるとともに骨切りが簡単な作業でできる手術器具1、及び手術器具システム10の手術器具1を提供することができる。
【0053】
また、この構成によると、手術器具システム10の手術器具1は、後顆当接面20と平行な方向に沿って貫通して設けられているとともに骨切除器具Cが挿入されるガイドスリット33を有するガイド部3を備えている。そして、この手術器具システム10の手術器具1は、少なくとも2つ以上であり、後顆当接面20からガイドスリット33までの距離がそれぞれで異なっている。このため、屈曲位において大腿骨後顆112を切除する際において手術器具1を取り替えることで簡単に骨切り量を調整することができる。
【0054】
また、手術器具1によると、ガイド部3には、貫通孔としてピン孔32が少なくとも2つ設けられている。そして、これら少なくとも2つのピン孔32に手術器具1を大腿骨110に固定するためのピンが挿通される。これにより、手術器具1は、大腿骨に対して動かないように複数のピンによってより強固に固定される。
【0055】
また、手術器具1によると、ガイド部3において少なくとも2つ設けられたピン孔32が、それぞれ異なる方向に貫通している。このため、同じ方向に貫通している複数のピン孔32が設けられたガイド部3と比較した場合、取り付けの容易さを確保しながら、手術器具1がピンの抜き刺し方向へ外れ易くなるのを抑制することができる。
【0056】
また、手術器具1によると、図5に示すように、ガイド部3におけるガイドスリット33が設けられている部分の幅方向Dの寸法が、ガイドスリット33の設けられていない部分よりも大きく形成されている。これにより、ガイドスリットに挿入された状態で骨の切除を行う骨切除器具の可動範囲を確保しながら手術器具全体をコンパクトにすることができる。
【0057】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。例えば、次のような変形例が実施されてもよい。
【0058】
(1)前述の実施形態では、人工膝関節単顆置換術において使用される手術器具システム10として2つの手術器具1a、1bを用意して使用する場合を例に説明したが、この通りでなくてもよい。例えば、1つの手術器具1を用意して使用してもよく、また、3つ以上の手術器具1を用意して手術において使用してもよい。
【0059】
(2)また、前述の実施形態では、スペーサ部2とガイド部3が一体に構成された手術器具1を例に説明したが、この通りでなくてもよい。例えば、スペーサ部2とガイド部3が別体で構成されており、手術に際して、組み合わせて使用するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、人工膝関節単顆置換術において用いられる手術器具及び手術器具システムとして、広く適用することができるものである。
【符号の説明】
【0061】
1 手術器具
10 手術器具システム
2 スペーサ部
20 後顆当接面
3 ガイド部
30 遠位端部当接面
32 ピン孔
33 ガイドスリット
100 脛骨
110 大腿骨
111 大腿骨遠位端部
112 大腿骨後顆
C 骨切除器具
D 幅方向
図1
図2
図3
図4
図5