(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】スポット溶接ガン及びスポット溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/11 20060101AFI20221207BHJP
B23K 11/00 20060101ALI20221207BHJP
B23K 11/28 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
B23K11/11 510
B23K11/00 570
B23K11/11 540
B23K11/28
(21)【出願番号】P 2018243128
(22)【出願日】2018-12-26
【審査請求日】2021-09-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100147913
【氏名又は名称】岡田 義敬
(74)【代理人】
【識別番号】100165423
【氏名又は名称】大竹 雅久
(74)【代理人】
【識別番号】100091605
【氏名又は名称】岡田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100197284
【氏名又は名称】下茂 力
(72)【発明者】
【氏名】坂本 登
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102006005920(DE,A1)
【文献】特開2012-135775(JP,A)
【文献】特開2012-76144(JP,A)
【文献】特開昭64-62283(JP,A)
【文献】特開2004-330253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00 - 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接対象物を挿入する隙間を有した状態にて対向して配設される第1の電極部及び第2の電極部とを備えたスポット溶接ガンであって、
前記隙間を維持した状態にて前記第1の電極部と前記第2の電極部とを固定する固定部を備え、
前記固定部をある一方向に抉ることで、前記第1の電極部が、前記被溶接対象物の一主面の第1の加圧領域を加圧すると共に、前記第2の電極部が、前記被溶接対象物の前記一主面と反対側の他の主面の第2の加圧領域を加圧し、
前記第1の加圧領域と前記第2の加圧領域とを前記被溶接対象物の前記一主面に対して水平方向にずらした状態にて、前記被溶接対象物に電流を流し、2打点溶接を行うことを特徴とするスポット溶接ガン。
【請求項2】
前記固定部と連結すると共に、前記第1の電極部及び前記第2の電極部を操作する操作
部を更に備え、
前記操作部を抉ることで前記固定部を介して前記第1の電極部及び前記第2の電極部を前記被溶接対象物に対して回転させ、前記被溶接対象物に前記第1の加圧領域及び前記第2の加圧領域を発生させることを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接ガン。
【請求項3】
前記操作部は、前記操作部の軸心が前記隙間の中心と略一致するように、前記固定部に対して前記水平方向に回動自在に連結されていることを特徴とする請求項2に記載のスポット溶接ガン。
【請求項4】
前記操作部を抉る前の状態において、前記第1の電極部の軸心は、前記第2の電極部の軸心に対して偏心していることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のスポット溶接ガン。
【請求項5】
スポット溶接ガンの第1の電極部と第2の電極部との隙間に被溶接対象物を挿入し、前記第1の電極部と前記第2の電極部にて前記被溶接対象物を加圧した状態にて電流を流し、前記被溶接対象物を溶接するスポット溶接方法であって、
前記スポット溶接ガンは、
前記隙間を維持した状態にて前記第1の電極部と前記第2の電極部とを固定する固定部を備え、
前記第1の電極部と前記第2の電極部との前記隙間に前記被溶接対象物を挿入した後、前記固定部をある一方向に抉ることで前記第1の電極部及び前記第2の電極部を前記被溶接対象物に対して回転させ、
前記第1の電極部が前記被溶接対象物の一主面を加圧する第1の加圧領域と、前記第2の電極部が前記被溶接対象物の前記一主面と反対側の他の主面を加圧する第2の加圧領域とを前記被溶接対象物の前記一主面に対して水平方向にずらした状態にて、前記被溶接対象物に電流を流し、1回の溶接工程にて離間した2打点のナゲットを形成することを特徴とするスポット溶接方法。
【請求項6】
前記スポット溶接ガンは、
前記固定部と連結すると共に、前記第1の電極部及び前記第2の電極部を操作する操作
部を更に備え、
前記第1の電極部と前記第2の電極部との前記隙間に前記被溶接対象物を挿入した後、前記操作部を抉り、前記固定部を介して前記第1の電極部及び前記第2の電極部を前記被溶接対象物に対して回転させ、前記被溶接対象物に前記第1の加圧領域及び前記第2の加圧領域を発生させることを特徴とする請求項5に記載のスポット溶接方法。
【請求項7】
前記操作部を抉る前の状態において、前記第1の電極部の軸心は、前記第2の電極部の軸心に対して偏心していることを特徴とする請求項6に記載のスポット溶接方法。
【請求項8】
前記被溶接対象物は、2枚の板材を重ね合わせて形成され、
前記2打点のナゲットは、前記第1の加圧領域下方の前記2枚の板材の当接領域及びその周辺と、前記第2の加圧領域上方の前記2枚の板材の当接領域及びその周辺と、に離間して形成されることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか1項に記載のスポット溶接方法。
【請求項9】
前記被溶接対象物は、3枚の板材を重ね合わせて形成され、
前記2打点のナゲットは、前記第1の加圧領域下方の前記第1の電極部と接触する前記板材と中間に位置する前記板材との当接領域及びその周辺と、前記第2の加圧領域上方の前記第2の電極部と接触する前記板材と前記中間に位置する前記板材との当接領域及びその周辺と、に離間して形成されることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか1項に記載のスポット溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車パネル等の被溶接対象物をスポット溶接する際に、溶接箇所を増加させ溶接強度を高めると共に、軽量化し作業性を向上させるためのスポット溶接ガン及びスポット溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の溶接装置に用いられるスポット溶接ガン100として、
図5に示す構造が知られている。
図5は、従来のスポット溶接ガン100を説明する正面図である。
【0003】
図5に示す如く、スポット溶接ガン100は、主に、ガンヘッド101と、ガンヘッド101の先端に配設された主電極棒102と、アーム取り付け基体部103に回動自在に取り付けされたガンアーム部104と、ガンアーム部104の先端に配設され、主電極棒102と対峙する副電極棒105と、作業者が握って作業するためのハンドグリップ部106,107と、を有している。
【0004】
主電極棒102は、エア供給機構(図示せず)から供給されたエア圧力により直線進退し、主電極棒102と副電極棒105との先端相互間にワークを狭着して加圧した状態にてスポット溶接を行うことができる。そして、ガンアーム部104が、アーム取り付け基体部103を支点として、水平または垂直のいずれかの方向に回動することで、奥まった位置や障害部材がある位置の溶接箇所に対しても溶接作業を行うことができる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スポット溶接ガン100では、主電極棒102と副電極棒105とが、その先端部にてワークを狭着し、主電極棒102側のエア供給機構からのエア圧力によりワークを加圧した状態にて、電流を流すことで、スポット溶接が行われる。このとき、主電極棒102と副電極棒105とが、直線上の位置関係に対峙することで、ワークには1回の溶接工程にて1打点の溶接箇所、所謂ナゲットが形成される。
【0007】
スポット溶接では、溶接強度を向上させるため、ワークに対して一方向に連続打点を行うが、連続打点間の距離が狭まると、新たな溶接箇所を形成する際に、隣接する既打点のナゲットに対して分流が発生し、スポット溶接が出来ないという課題がある。一方、上記分流による溶接出来ない課題を解決するためには、連続打点間の距離を広げる必要があり、この場合には、ワークに対する溶接箇所数が低減し、所望の溶接強度が得られないという課題が発生する。
【0008】
また、スポット溶接ガン100では、アーム取り付け基体部103、ガンアーム部104や主電極棒102にエアを供給するためガンヘッド101等を有し、その重量が重くなる。そのため、作業者は、両手にてハンドグリップ部106,107を操作する必要があり、作業性が悪化するという課題がある。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みて成されたものであり、自動車パネル等の被溶接対象物をスポット溶接する際に、溶接箇所を増加させ溶接強度を高めると共に、軽量化し作業性を向上させるためのスポット溶接ガン及びスポット溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のスポット溶接ガンでは、被溶接対象物を挿入する隙間を有した状態にて対向して配設される第1の電極部及び第2の電極部とを備えたスポット溶接ガンであって、前記隙間を維持した状態にて前記第1の電極部と前記第2の電極部とを固定する固定部を備え、前記固定部をある一方向に抉ることで、前記第1の電極部が、前記被溶接対象物の一主面の第1の加圧領域を加圧すると共に、前記第2の電極部が、前記被溶接対象物の前記一主面と反対側の他の主面の第2の加圧領域を加圧し、前記第1の加圧領域と前記第2の加圧領域とを前記被溶接対象物の前記一主面に対して水平方向にずらした状態にて、前記被溶接対象物に電流を流し、2打点溶接を行うことを特徴とする。
【0011】
また、本発明のスポット溶接ガンでは、前記固定部と連結すると共に、前記第1の電極部及び前記第2の電極部を操作する操作部を更に備え、前記操作部を抉ることで前記固定部を介して前記第1の電極部及び前記第2の電極部を前記被溶接対象物に対して回転させ、前記被溶接対象物に前記第1の加圧領域及び前記第2の加圧領域を発生させることを特徴とする。
【0012】
また、本発明のスポット溶接ガンでは、前記操作部は、前記操作部の軸心が前記隙間の中心と略一致するように、前記固定部に対して前記水平方向に回動自在に連結されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のスポット溶接ガンでは、前記操作部を抉る前の状態において、前記第1の電極部の軸心は、前記第2の電極部の軸心に対して偏心していることを特徴とする。
【0014】
また、本発明のスポット溶接方法では、スポット溶接ガンの第1の電極部と第2の電極部との隙間に被溶接対象物を挿入し、前記第1の電極部と前記第2の電極部にて前記被溶接対象物を加圧した状態にて電流を流し、前記被溶接対象物を溶接するスポット溶接方法であって、前記スポット溶接ガンは、前記隙間を維持した状態にて前記第1の電極部と前記第2の電極部とを固定する固定部を備え、前記第1の電極部と前記第2の電極部との前記隙間に前記被溶接対象物を挿入した後、前記固定部をある一方向に抉ることで前記第1の電極部及び前記第2の電極部を前記被溶接対象物に対して回転させ、前記第1の電極部が前記被溶接対象物の一主面を加圧する第1の加圧領域と、前記第2の電極部が前記被溶接対象物の前記一主面と反対側の他の主面を加圧する第2の加圧領域とを前記被溶接対象物の前記一主面に対して水平方向にずらした状態にて、前記被溶接対象物に電流を流し、1回の溶接工程にて離間した2打点のナゲットを形成することを特徴とする。
【0015】
また、本発明のスポット溶接方法では、前記スポット溶接ガンは、前記固定部と連結すると共に、前記第1の電極部及び前記第2の電極部を操作する操作部を更に備え、前記第1の電極部と前記第2の電極部との前記隙間に前記被溶接対象物を挿入した後、前記操作部を抉り、前記固定部を介して前記第1の電極部及び前記第2の電極部を前記被溶接対象物に対して回転させ、前記被溶接対象物に前記第1の加圧領域及び前記第2の加圧領域を発生させることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のスポット溶接方法では、前記操作部を抉る前の状態において、前記第1の電極部の軸心は、前記第2の電極部の軸心に対して偏心していることを特徴とする。
【0017】
また、本発明のスポット溶接方法では、前記被溶接対象物は、2枚の板材を重ね合わせて形成され、前記2打点のナゲットは、前記第1の加圧領域下方の前記2枚の板材の当接領域及びその周辺と、前記第2の加圧領域上方の前記2枚の板材の当接領域及びその周辺と、に離間して形成されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のスポット溶接方法では、前記被溶接対象物は、3枚の板材を重ね合わせて形成され、前記2打点のナゲットは、前記第1の加圧領域下方の前記第1の電極部と接触する前記板材と中間に位置する前記板材との当接領域及びその周辺と、前記第2の加圧領域上方の前記第2の電極部と接触する前記板材と前記中間に位置する前記板材との当接領域及びその周辺と、に離間して形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のスポット溶接ガンは、被溶接対象物を挿入する隙間を有した状態にて対向して配設される第1の電極部及び第2の電極部と、を備え、第1の電極部による第1の加圧領域と第2の電極部による第2の加圧領域とが、被溶接対象物の一主面に対して水平方向にずらした状態となる。この構造により、1回のスポット溶接工程にて2打点のナゲットを形成することで、溶接強度を向上させることができる。
【0020】
また、本発明のスポット溶接ガンは、第1及び第2の電極部を固定する固定部と、固定部と回動自在に連結する操作部と、を備え、操作部を抉ることで第1及び第2の電極部を被溶接対象物に対して回転させ、被溶接対象物に第1の加圧領域及び第2の加圧領域を発生させることができる。この構造により、アクチュエータを用いることなく、第1及び第2の電極部にて被溶接対象物を加圧することができる。そして、スポット溶接ガンの軽量化を実現することで、作業性を向上させることができる。
【0021】
また、本発明のスポット溶接ガンでは、操作部は、操作部の軸心が第1及び第2の電極部間の隙間の中心と略一致するように、固定部に対して水平方向に回動自在に連結されている。この構造により、操作部を抉ることで、被溶接対象物を第1及び第2の電極部にて加圧することができると共に、第1及び第2の電極部による加圧力を出来る限り均一にすることができる。
【0022】
また、本発明のスポット溶接ガンでは、操作部を抉る前の状態において、第1の電極部の軸心は、第2の電極部の軸心に対して偏心している。この構造により、1回の溶接工程にて、確実に2打点のナゲットを離間して形成することができ、溶接強度を向上させることができる。
【0023】
本発明のスポット溶接方法では、スポット溶接ガンの第1の電極部と第2の電極部との隙間に被溶接対象物を挿入し、第1の電極部が被溶接対象物の一主面を加圧する第1の加圧領域と、第2の電極部が被溶接対象物の一主面と反対側の他の主面を加圧する第2の加圧領域とを被溶接対象物の一主面に対して水平方向にずらした状態にて、被溶接対象物に電流を流し、1回の溶接工程にて離間した2打点のナゲットを形成する。このスポット溶接方法により、1回のスポット溶接工程にて2打点のナゲットを形成することが出来、溶接強度を向上させることができる。
【0024】
また、本発明のスポット溶接方法では、第1の電極部と第2の電極部との隙間に被溶接対象物を挿入した後、操作部を抉り、固定部を介して第1の電極部及び第2の電極部を被溶接対象物に対して回転させ、被溶接対象物に第1の加圧領域及び第2の加圧領域を発生させることができる。このスポット溶接方法により、作業員の手作業により第1及び第2の電極部にて被溶接対象物を加圧することができる。そして、スポット溶接ガンにアクチュエータが不要となり、スポット溶接ガンの軽量化を実現することで、作業性を向上させることができる。
【0025】
また、本発明のスポット溶接方法では、操作部を抉る前の状態において、第1の電極部の軸心は、第2の電極部の軸心に対して偏心している。このスポット溶接方法により、確実に2打点のナゲットを離間して形成することができ、溶接強度を向上させることができる。
【0026】
また、本発明のスポット溶接方法では、被溶接対象物は、2枚の板材を重ね合わせて形成され、2打点のナゲットは、第1の加圧領域下方の2枚の板材の当接領域及びその周辺と、第2の加圧領域上方の2枚の板材の当接領域及びその周辺と、に離間して形成することができる。このスポット溶接方法により、1回のスポット溶接工程にて2打点のナゲットを近い距離に離間して形成することが出来、溶接強度を向上させることができる。
【0027】
また、本発明のスポット溶接方法では、被溶接対象物は、3枚の板材を重ね合わせて形成され、2打点のナゲットは、第1の加圧領域下方の第1の電極部と接触する板材と中間に位置する板材との当接領域及びその周辺と、第2の加圧領域上方の第2の電極部と接触する板材と中間に位置する板材との当接領域及びその周辺と、に離間して形成することができる。このスポット溶接方法により、1回のスポット溶接工程にて2打点のナゲットを近い距離に離間して形成することができる。また、2打点のナゲットが、中間に位置する板材に対して、それぞれ上下面に位置する板材に対して形成されることで、溶接強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態であるスポット溶接ガンを説明する側面図である。
【
図2】本発明の一実施形態であるスポット溶接方法を説明する側面図である。
【
図3】本発明の一実施形態であるスポット溶接方法を説明する(A)断面図、(B)断面図、(C)断面図、(D)断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態であるスポット溶接方法を説明する斜視図である。
【
図5】従来のスポット溶接ガンを説明する正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
最初に、本発明の一実施形態に係るスポット溶接ガン10及びスポット溶接方法について図面に基づき詳細に説明する。尚、本実施形態の説明の際には、同一の部材には原則として同一の符番を用い、繰り返しの説明は省略する。
【0030】
図1は、本実施形態のスポット溶接ガン10を説明する側面図である。
図2は、本実施形態のスポット溶接ガン10を用いたスポット溶接方法を説明する側面図である。
図3(A)から
図3(D)は、本実施形態のスポット溶接方法を説明する断面図である。
図4は、本実施形態のスポット溶接方法を説明する斜視図である。
【0031】
最初に、
図1を用いて、スポット溶接ガン10の構造について説明する。図示の如く、スポット溶接ガン10は、自動車の組み立てライン等において使用されるスポット溶接装置(図示せず)に組み込まれて使用される。スポット溶接装置は、トランス、制御装置や冷却装置を内蔵し、スポット溶接ガン10は、溶接ケーブル15や冷却用配管16を介してスポット溶接装置と連結している。そして、作業者は、被溶接対象物である車両用パネル21(
図2参照)の所望の箇所にスポット溶接ガン10を用いて、スポット溶接作業を行うことができる。
【0032】
スポット溶接ガン10は、主に、第1の電極部11と、第1の電極部11と対峙して配設される第2の電極部12と、第1の電極部11及び第2の電極部12を固定して支持する固定部13と、固定部13に対して連結される操作部14と、を有している。
【0033】
第1及び第2の電極部11,12には、それぞれ溶接ケーブル15が連結され、溶接作業時に第1の電極部11から第2の電極部12へと大電流を流すことで、車両用パネル21の溶接箇所には、ナゲットが形成される。
【0034】
第1の電極部11は、例えば、電気伝導率や熱伝導率に優れた銅合金材から形成され、中空状態の丸棒形状に形成されている。そして、第1の電極部11内には、冷却用配管16が配設され、第1の電極部11内に冷却水を循環させることで、溶接時に第1の電極部11が高温状態になり過ぎることが防止される。
【0035】
第1の電極部11の先端11Aは、例えば、曲面形状に形成され、詳細は後述するが、車両用パネル21を加圧する際に、車両用パネル21に対して回転しながら、所望の当接領域に位置合わせすることができる。そして、第1の電極部11の先端11Aは、車両用パネル21との当接領域にて、車両用パネル21を加圧することができる。
【0036】
第2の電極部12も、第1の電極部11と同様に、銅合金材から形成され、丸棒形状に形成されている。そして、第2の電極部12内には、冷却用配管16が配設され、第2の電極部12内に冷却水を循環させることで、溶接時に第2の電極部12が高温状態になり過ぎることが防止される。
【0037】
また、第2の電極部12の先端12Aも、例えば、曲面形状に形成され、車両用パネル21を加圧する際に、車両用パネル21に対して回転しながら、所望の当接領域に位置合わせすることができる。そして、第2の電極部12の先端12Aは、車両用パネル21との当接領域にて、車両用パネル21を加圧することができる。
【0038】
図示したように、第1及び第2の電極部11,12は、例えば、略L字形状に成形され、それぞれ紙面前後方向に延在した領域にて固定部13に対して絶縁カラー17を介して固定されている。尚、第1及び第2の電極部11,12は、絶縁カラー17を介して固定部13に固定されることで、ショートすることが防止される。
【0039】
具体的には、固定部13は、例えば、ステンレス材から形成される丸棒部材である。そして、第1及び第2の電極部11,12は、それぞれ固定部13に一定間隔にて形成された一対の貫通孔(図示せず)に対して挿入され、固定部13に支持される。そして、第1の電極部11は、紙面下方側へとその先端11Aが向く様に配設され、第2の電極部12は、紙面上方側へとその先端12Aが向くように配設されている。
【0040】
この構造により、第1の電極部11の先端11Aと第2の電極部12の先端12Aとは、車両用パネル21(
図2参照)の厚み方向(紙面上下方向)に一定の離間幅W1を有する隙間18を有した状態にて、固定部13に固定されている。そして、第1及び第2の電極部11,12には、隙間18の離間幅W1を可変させるアクチュエータ等が配設されてなく、スポット溶接ガン10の軽量化を実現し、作業性を向上させることができる。
【0041】
操作部14は、例えば、デジタル式のトルクレンチであり、固定部13の延在方向(紙面上下方向)に対して垂直方向(紙面前後方向)に延在して配設されている。操作部14の前端側には、固定部13の外周面に沿って回動自在に連結するための連結部14Aが設けられている。一方、操作部14の後端側には、作業者が操作部14を操作するためのグリップ部14Bが設けられている。尚、操作部14は、不使用時には、着脱レバー19を介して第2の電極部12と溶接ケーブル15との連結箇所に固定される。
【0042】
また、一点鎖線にて示すように、操作部14の軸心14Cが、第1及び第2の電極部11,12の隙間18の中心と略一致するように、操作部14は、固定部13に連結している。この構造により、詳細は後述するが、操作部14を抉ることで、第1及び第2の電極部11,12が、それぞれ車両用パネル21の表面21A(
図3(A)参照)と裏面21B(
図3(A)参照)を加圧する際に、第1及び第2の電極部11,12の加圧力を出来る限り均一な状態とすることができる。
【0043】
尚、操作部14を抉ることで、第1及び第2の電極部11,12が、それぞれ車両用パネル21の表面21Aや裏面21Bを加圧する。そして、操作部14では上記加圧時のトルク値を測定し、スポット溶接装置内の制御装置(図示せず)では、その測定値から加圧状態を判定し、設定値以上の加圧状態であると判定した場合には、第1及び第2の電極部11,12間に所定の電流を流し、スポット溶接を行うことが可能となる。例えば、上記電流を流す一例としては、
図1に示すように、操作部14の下方にはリミットスイッチ14Dが設けられ、操作部14を抉る動作を行った際に、操作部14がリミットスイッチ14Dに当接することで、電流が流れる。
【0044】
次に、
図2を用いて、上述したスポット溶接ガン10を用いたスポット溶接方法について説明する。図示の如く、第1及び第2の電極部11,12は、固定部13にて固定されることで、第1の電極部11の先端11Aと第2の電極部12の先端12Aとの隙間18(
図1参照)の離間幅W1(
図1参照)は、可変しない構造となっている。尚、この離間幅W1は、被溶接対象物である車両用パネル21等を確実にその隙間18内へと挿入できるように、予め、設計された幅である。そのため、第1及び第2の電極部11,12を固定部13に対して固定する際に、被溶接対象物の厚みに応じて任意の設計変更が可能である。
【0045】
図示したように、第1及び第2の電極部11,12は、アクチュエータ等により車両用パネル21の厚み方向(紙面上下方向)に可動しない。そのため、作業者は、先ず、着脱レバー19(
図1参照)を外し、操作部14が固定部13の外周面に沿って回動自在な状態とする。その後、作業者は、操作部14のグリップ部14Bを持ち、スポット溶接ガン10を操作し、車両用パネル21の端部から隙間18内に車両用パネル21を挿入し、第1及び第2の電極部11,12を車両用パネル21の所望の溶接箇所へと配置する。
【0046】
上述したように、第1及び第2の電極部11,12間の隙間18に車両用パネル21を挿入した状態では、離間幅W1(
図1参照)と車両用パネル21の厚み次第であるが、例えば、少なくとも第1及び第2の電極部11,12のどちらか一方が、車両用パネル21と接触し、もう片方が、車両用パネル21と非接触の状態である。
【0047】
次に、作業者は、第1及び第2の電極部11,12により車両用パネル21を加圧するため、例えば、矢印22にて示すように、操作部14のグリップ部14Bを下方へと移動させながら、時計回り方向に抉る。上記抉る操作により、紙面前後方向に水平な車両用パネル21に対して、固定部13は、角度θ1傾くと共に、第1の電極部11は、車両用パネル21の表面21A(
図3(A)参照)と当接し、その当接箇所を回転中心として、第2の電極部12は、車両用パネル21の裏面21Bと当接するまで時計回りに回転する。
【0048】
その後、第1及び第2の電極部11,12が、それぞれ車両用パネル21の表面21A及び裏面21Bと当接した状態にて、作業者が、更に、矢印22にて示す方向に操作部14を抉る。その結果、第1の電極部11は、車両用パネル21の表面21Aを下方側へと加圧し、一方、第2の電極部12は、車両用パネル21の裏面21Bを上方側へと加圧する。
【0049】
尚、作業者が、操作部14のグリップ部14Bを下方へと移動させながら、反時計回りに抉る場合、操作部14のグリップ部14Bを上方へ移動させながら、時計回りや反時計回りに抉る場合でも、同様に、第1及び第2の電極部11,12により車両用パネル21を加圧した状態を実現できる。
【0050】
作業者の上記操作に伴い、スポット溶接装置内の制御装置(図示せず)では、第1及び第2の電極部11,12による加圧力の測定値が設定条件値に達した時点にて、溶接可能な状態であることを作業者に報知する。そして、作業者は、溶接条件に基づき所望の時間電流を流すことで、車両用パネル21に1回の溶接工程にて離間した2打点のナゲットを形成することができる。
【0051】
次に、
図3(A)から
図3(D)を用いて、1回の溶接工程にて離間した2打点のナゲットを形成するスポット溶接方法について説明する。また、
図3(A)及び
図3(B)では、被溶接対象物としての車両用パネル21が、2枚のパネル21C,21Dから構成されている場合を示す。一方、
図3(C)及び
図3(D)では、被溶接対象物としての車両用パネル21が、3枚のパネル21E,21F,21Gから構成されている場合を示す。尚、以下の説明では、適宜、
図1及び
図2を参照して説明する。
【0052】
先ず、
図3(A)では、一点鎖線23にて示すように、第1の電極部11の軸心と第2の電極部12の軸心とが略一致した状態にて、第1の電極部11と第2の電極部12とが対峙して、固定部13(
図1参照)にて固定されている。
【0053】
図1及び
図2を用いて上述したように、作業者は、操作部14のグリップ部14Bを持ち、スポット溶接ガン10を操作し、第1及び第2の電極部11,12の隙間18に、被溶接対象物である車両用パネル21を挿入する。そして、作業者が、操作部14のグリップ部14Bを下方に移動させながら、矢印24にて示すように、時計回りに抉ることで、第1及び第2の電極部11,12が、それぞれ車両用パネル21の表面21A及び裏面21Bを加圧する。
【0054】
図3(B)に示す如く、作業者が操作部14を抉ることで、第1の電極部11は、一点鎖線23(
図3(A)参照)にて示す軸心にて車両用パネル21の表面21Aと当接した後、曲面形状の先端11Aが紙面右側へと転がり、丸印25にて示す加圧領域にて、車両用パネル21の表面21Aを下方側へと加圧する。一方、第2の電極部12は、丸印25にて示す加圧領域を回転中心として時計回りに回転し、第2の電極部12は、丸印26にて示す加圧領域にて、車両用パネル21の裏面21Bを上方側へと加圧する。
【0055】
図示したように、第1及び第2の電極部11,12は、車両用パネル21の表裏面21A,21Bに対して水平方向(例えば、紙面左右方向)にずれた位置にて車両用パネル21を上下方向から加圧する。そして、第1及び第2の電極部11,12による加圧力の測定値が設定条件値に達した時点にて、溶接条件に基づき所望の時間電流を流すことで、車両用パネル21に1回の溶接工程にて離間した2打点のナゲット28,29が形成される。
【0056】
このとき、点線27は電流の経路を示すが、電流は、第1の電極部11から丸印25にて示す加圧領域の直下に流れ、その後、丸印26にて示す加圧領域の直上から第2の電極部12へと流れる。その結果、車両用パネル21には、丸印25にて示す加圧領域の直下に1つ目のナゲット28が形成されると共に、丸印26にて示す加圧領域の直上に2つ目のナゲット29が形成される。
【0057】
上述したように、車両用パネル21は、2枚のパネル21C,21Dから構成されているため、2つのナゲット28,29は、パネル21C,21Dの境界領域及びその周辺に形成される。そして、2つのナゲット28,29は、離間幅W2を有するように離間して形成される。
【0058】
尚、
図3(A)に示すように、一点鎖線23にて示すように、第1の電極部11の軸心と第2の電極部12の軸心とが略一致した状態にて、第1の電極部11と第2の電極部12とが対峙する場合に限定するものではない。例えば、第1の電極部11の軸心と第2の電極部12の軸心とが最初から偏心した状態にて、第1の電極部11と第2の電極部12とが対峙する場合でも良い。この場合には、1回の溶接工程にて形成される2打点のナゲット間の離間幅が、上記離間幅W2よりも広くなるが、同等の効果が得られる。
【0059】
次に、
図3(C)では、一点鎖線31にて示すように、第1の電極部11の軸心と第2の電極部12の軸心とが略一致した状態にて、第1の電極部11と第2の電極部12とが対峙して、固定部13(
図1参照)にて固定されている。尚、上述したように、車両用パネル21は、3枚のパネル21E,21F,21Gから構成されている。
【0060】
図3(C)及び
図3(D)に示す如く、作業者が操作部14(
図2参照)を抉ることで、矢印32にて示すように、第1の電極部11は、丸印33にて示す加圧領域にて、車両用パネル21の表面21Aを下方側へと加圧する。一方、第2の電極部12は、丸印34にて示す加圧領域にて、車両用パネル21の裏面21Bを上方側へと加圧する。
【0061】
そして、第1及び第2の電極部11,12による加圧力の測定値が設定条件値に達した時点にて、溶接条件に基づき所望の時間電流を流すことで、車両用パネル21に1回の溶接工程にて離間した2打点のナゲット35,36が形成される。
【0062】
図示したように、点線37は電流の経路を示すが、電流は、第1の電極部11から丸印33にて示す加圧領域の直下に流れ、その後、丸印34にて示す加圧領域の直上から第2の電極部12へと流れる。その結果、1つ目のナゲット35が、パネル21E,21Fの境界領域及びその周辺に形成されると共に、2つ目のナゲット36が、パネル21F,21Gの境界領域及びその周辺に形成される。尚、2つのナゲット35,36は、離間幅W3を有するように離間して形成される。
【0063】
尚、
図3(A)及び
図3(B)の場合と同様に、第1の電極部11の軸心と第2の電極部12の軸心とが最初から偏心した状態にて、第1の電極部11と第2の電極部12とが対峙する場合でも良い。
【0064】
次に、
図4を用いて、連続打点にて一定間隔に離間した複数のナゲット35,36(
図3(D)参照)を形成するスポット溶接方法について説明する。尚、
図4にて説明する連続打点による溶接方法は、
図3(A)から
図3(D)を用いて説明した1回の溶接工程を繰り返し行うことで実現されるため、以下の説明では、適宜、
図1から
図3を参照して説明する。
【0065】
図4では、例えば、車両(図示せず)のフレームの一部を構成するフレーム部材41を示し、フレーム部材41は、3枚のパネル42,43,44から構成されている。図示したように、フレーム42,44は、その断面形状が略コの字形状にプレス加工され、その両端部には溶接領域45,46が形成されている。一方、フレーム43は、板状体であり、フレーム42,44間に配設され、フレーム部材41の強度を高めることができる。
【0066】
フレーム部材41の溶接領域45,46では、3枚のフレーム42,43,44が重畳して配設されている。
図3(C)及び
図3(D)を用いて上述したように、作業者が、スポット溶接ガン10(
図1参照)の操作部14(
図1参照)を操作することで、実線の丸印47にて示すように、スポット溶接ガン10の第1の電極部11(
図1参照)が、フレーム部材41の表面41A側を加圧する。一方、フレーム部材41の裏面41B側においても同様に、点線の丸印48にて示すように、スポット溶接ガン10の第2の電極部12(
図1参照)が、フレーム部材41の裏面41B側を加圧する。尚、丸印47,48にて示す加圧領域は、連続打点時における第1及び第2の電極部11,12による加圧箇所であるが、フレーム部材41の延在方向に一定間隔の離間幅W4にて配列される。
【0067】
そして、第1及び第2の電極部11,12による上記加圧状態にて電流を流すことで、1つ目のナゲット35(
図3(D)参照)が、丸印47直下のパネル44,43の境界領域及びその周辺に形成されると共に、2つ目のナゲット36(
図3(D)参照)が、丸印48直上のパネル43,42の境界領域及びその周辺に形成される。このとき、隣接するナゲット35,36間の離間幅W5として、例えば、20mm程度設けることで、新規のナゲット35を形成する際に、既打点のナゲット36に溶接時の電流が分流し、新規のナゲット35が形成出来ない事態を防止することができる。
【0068】
その結果、作業者は、スポット溶接ガン10の第1及び第2の電極部11,12の隙間18(
図1参照)にフレーム部材41の溶接領域45,46を1度挿入した後、上記離間幅W4,W5を守りながら、スポット溶接ガン10をフレーム部材41の延在方向にスライドさせながら、連続打点によるスポット溶接を行うことができる。作業者は、上記繰り返しによる溶接作業により、作業効率を向上させることができる。更には、従来の1打点のスポット溶接の場合と比較しても、溶接領域45,46に形成されるナゲット35,36の数を増大させることができ、溶接強度を高めることができる。
【0069】
尚、本実施形態では、第1及び第2の電極部11,12が、固定部13を介して固定され、作業員が、固定部13に連結された操作部14を抉る操作を行うことで、1回の溶接工程にて2打点のナゲットを形成する場合について説明したが、この場合に限定するものではない。例えば、スポット溶接ガン10が、溶接ロボットのアームの先端に配設され、上記アームが抉る動作を行うことで、1回の溶接工程にて2打点のナゲットを形成する場合でも良い。
【0070】
また、第1及び第2の電極部11,12が、固定部13に対して一定の離間幅W1を有した状態に固定され、少なくとも第1または第2の電極部11,12の一方が、アクチュエータにより可動しない場合について説明したが、この場合に限定するものではない。溶接装置のスポット溶接ガン10が、例えば、第1または第2の電極部11,12の少なくとも一方が、アクチュエータにより車両用パネル21の表面21Aまたは裏面21Bに対して垂直方向に可動すると共に、第1の電極部11の軸心と第2の電極部12の軸心が、車両用パネル21の表面21Aまたは裏面21Bに対して水平方向に偏心している。そして、アクチュエータの上記垂直方向の駆動により、第1及び第2の電極部11,12にて車両用パネル21の表面21A及び裏面21Bを加圧した状態にて電流を流すことで、1回のスポット溶接工程にて、上記離間した2打点のナゲットを形成する場合でも良い。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲にて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0071】
10 スポット溶接ガン
11 第1の電極部
12 第2の電極部
13 固定部
14 操作部
14B グリップ部
15 溶接ケーブル
16 冷却用配管
18 隙間
19 着脱レバー
21 車両用パネル
21C,21D,21E,21F,21G パネル
28,29,35,36 ナゲット