(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】船舶性能推定装置及び船舶性能推定プログラム
(51)【国際特許分類】
B63B 49/00 20060101AFI20221207BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20221207BHJP
G08G 3/00 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
B63B49/00 Z
G08G1/00 D
G08G3/00 A
(21)【出願番号】P 2018245280
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小橋 建二郎
(72)【発明者】
【氏名】大橋 成子
(72)【発明者】
【氏名】石上 恭平
(72)【発明者】
【氏名】松澤 俊介
(72)【発明者】
【氏名】河田 久之輔
【審査官】中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-286230(JP,A)
【文献】特開2016-133992(JP,A)
【文献】特開2012-086604(JP,A)
【文献】特開2010-237755(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03330171(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 49/00
G08G 1/00
G08G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の過去の運航実績データに基づいて作成され、前記船舶の航行状態量を目的変数とし、前記航行状態量に影響を与える複数の関連要素を説明変数とする1つまたは複数の回帰分析モデルを用いて、各々の前記関連要素の想定値を含む運航条件における前記船舶の航行状態量を推定するデータ推定部と、
前記船舶の1つまたは複数の物理モデルを用いて、前記運航条件における船舶の航行状態量を推定する理論推定部と、
前記データ推定部の推定結果と前記理論推定部の推定結果と
を単純平均または加重平均することにより、前記運航条件における前記船舶の航行状態量の推定値を算出する推定統合部と、
を備えた船舶性能推定装置。
【請求項2】
船舶の過去の運航実績データに基づいて作成され、前記船舶の航行状態量を目的変数とし、前記航行状態量に影響を与える複数の関連要素を説明変数とする1つまたは複数の回帰分析モデルを用いて、各々の前記関連要素の想定値を含む運航条件における前記船舶の航行状態量を推定するデータ推定部と、
前記船舶の1つまたは複数の物理モデルを用いて、前記運航条件における船舶の航行状態量を推定する理論推定部と、
前記データ推定部の推定結果と前記理論推定部の推定結果とに基づいて、前記運航条件における前記船舶の航行状態量の推定値を算出する推定統合部と、を備え、
前記船舶の航行状態量は、前記船舶の推進性能に関わる航行状態量であり、
前記データ推定部は、
経時変化出力指示を受けて、過去の複数の期間の各々の運航実績データに基づいて各々の期間の前記回帰分析モデルを1つまたは複数作成し、前記運航条件に含まれる海気象条件を平水中の条件として前記各々の期間の前記回帰分析モデルを用いて前記各々の期間の前記船舶の平水中における航行状態量を推定し、
前記理論推定部は、
前記経時変化出力指示を受けて、前記運航条件に含まれる海気象条件を平水中の条件として前記船舶の平水中における航行状態量を推定し、
前記推定統合部は、
前記経時変化出力指示を受けて、前記各々の期間の前記データ推定部の推定結果と前記理論推定部の推定結果とに基づいて、前記各々の期間の平水中における前記船舶の航行状態量の推定値を算出するよう構成され、
前記推定統合部で推定される前記各々の期間の平水中における前記船舶の航行状態量の推定値を所定形式の出力データにして出力する経時変化出力部を、さらに備えた
船舶性能推定装置。
【請求項3】
前記データ推定部と前記理論推定部と前記推定統合部とからなる船舶性能推定部は、最適航路探索指示を受けて、複数の各々の想定航路に対して各々の前記想定航路における海気象予報を含む前記運航条件における前記船舶の航行状態量の推定値を算出するよう構成され、
前記船舶性能推定部で推定される各々の前記想定航路における船舶の航行状態量の推定値に基づいて、前記複数の想定航路の中から所定条件を満足する最適航路を選定する最適航路選定部を、さらに備えた
請求項1または2に記載の船舶性能推定装置。
【請求項4】
船舶の過去の運航実績データに基づいて作成され、前記船舶の航行状態量を目的変数とし、前記航行状態量に影響を与える複数の関連要素を説明変数とする1つまたは複数の回帰分析モデルを用いて、各々の前記関連要素の想定値を含む運航条件における前記船舶の航行状態量を推定するデータ推定部と、
前記船舶の1つまたは複数の物理モデルを用いて、前記運航条件における船舶の航行状態量を推定する理論推定部と、
前記船舶の過去の運航実績データに含まれる前記船舶の航行状態量と、前記運航実績データを用いて前記理論推定部により推定された前記航行状態量との差からなる補正量を目的変数とし、前記航行状態量に影響を与える複数の関連要素を説明変数とする1つまたは複数の補正用回帰分析モデルを用いて、各々の前記関連要素の想定値を含む運航条件における前記補正量を推定する補正量推定部
と、
前記データ推定部の推定結果と前記理論推定部の推定結果と前記補正量推定部の推定結果とに基づいて、前記運航条件における前記船舶の航行状態量の推定値を算出する
推定統合部と、
を備えた船舶性能推定装置。
【請求項5】
前記船舶の航行状態量は、前記船舶の推進性能に関わる航行状態量であり、
前記データ推定部は、
経時変化出力指示を受けて、過去の複数の期間の各々の運航実績データに基づいて各々の期間の前記回帰分析モデルを1つまたは複数作成し、前記運航条件に含まれる海気象条件を平水中の条件として前記各々の期間の前記回帰分析モデルを用いて前記各々の期間の前記船舶の平水中における航行状態量を推定し、
前記理論推定部は、
前記経時変化出力指示を受けて、前記運航条件に含まれる海気象条件を平水中の条件として前記船舶の平水中における航行状態量を推定し、
前記補正量推定部は、
前記経時変化出力指示を受けて、過去の複数の期間の各々の運航実績データに基づいて各々の期間の前記補正用回帰分析モデルを1つまたは複数作成し、前記運航条件に含まれる海気象条件を平水中の条件として前記各々の期間の前記補正用回帰分析モデルを用いて前記各々の期間の前記補正量を推定し、
前記推定統合部は、
前記経時変化出力指示を受けて、前記各々の期間の前記データ推定部の推定結果と前記理論推定部の推定結果と前記補正量推定部の推定結果とに基づいて、前記各々の期間の平水中における前記船舶の航行状態量の推定値を算出するよう構成され、
前記推定統合部で推定される前記各々の期間の平水中における前記船舶の航行状態量の推定値を所定形式の出力データにして出力する経時変化出力部を、さらに備えた
請求項4に記載の船舶性能推定装置。
【請求項6】
前記データ推定部と前記理論推定部と前記補正量推定部と前記推定統合部とからなる船舶性能推定部は、最適航路探索指示を受けて、複数の各々の想定航路に対して各々の前記想定航路における海気象予報を含む前記運航条件における前記船舶の航行状態量の推定値を算出するよう構成され、
前記船舶性能推定部で推定される各々の前記想定航路における船舶の航行状態量の推定値に基づいて、前記複数の想定航路の中から所定条件を満足する最適航路を選定する最適航路選定部を、さらに備えた
請求項4または5に記載の船舶性能推定装置。
【請求項7】
コンピュータを、
船舶の過去の運航実績データに基づいて作成され、前記船舶の航行状態量を目的変数とし、前記航行状態量に影響を与える複数の関連要素を説明変数とする1つまたは複数の回帰分析モデルを用いて、各々の前記関連要素の想定値を含む運航条件における前記船舶の航行状態量を推定するデータ推定部と、
前記船舶の1つまたは複数の物理モデルを用いて、前記運航条件における船舶の航行状態量を推定する理論推定部と、
前記データ推定部の推定結果と前記理論推定部の推定結果と
を単純平均または加重平均することにより、前記運航条件における前記船舶の航行状態量の推定値を算出する推定統合部として、
機能させるための船舶性能推定プログラム。
【請求項8】
コンピュータを、
船舶の過去の運航実績データに基づいて作成され、前記船舶の航行状態量を目的変数とし、前記航行状態量に影響を与える複数の関連要素を説明変数とする1つまたは複数の回帰分析モデルを用いて、各々の前記関連要素の想定値を含む運航条件における前記船舶の航行状態量を推定するデータ推定部と、
前記船舶の1つまたは複数の物理モデルを用いて、前記運航条件における船舶の航行状態量を推定する理論推定部と、
前記データ推定部の推定結果と前記理論推定部の推定結果とに基づいて、前記運航条件における前記船舶の航行状態量の推定値を算出する推定統合部として、機能させ、
前記船舶の航行状態量は、前記船舶の推進性能に関わる航行状態量であり、
前記データ推定部は、
経時変化出力指示を受けて、過去の複数の期間の各々の運航実績データに基づいて各々の期間の前記回帰分析モデルを1つまたは複数作成し、前記運航条件に含まれる海気象条件を平水中の条件として前記各々の期間の前記回帰分析モデルを用いて前記各々の期間の前記船舶の平水中における航行状態量を推定し、
前記理論推定部は、
前記経時変化出力指示を受けて、前記運航条件に含まれる海気象条件を平水中の条件として前記船舶の平水中における航行状態量を推定し、
前記推定統合部は、
前記経時変化出力指示を受けて、前記各々の期間の前記データ推定部の推定結果と前記理論推定部の推定結果とに基づいて、前記各々の期間の平水中における前記船舶の航行状態量の推定値を算出するよう構成され、
前記コンピュータを、さらに、
前記推定統合部で推定される前記各々の期間の平水中における前記船舶の航行状態量の推定値を所定形式の出力データにして出力する経時変化出力部として機能させる、
船舶性能推定プログラム。
【請求項9】
前記データ推定部と前記理論推定部と前記推定統合部とからなる船舶性能推定部は、最適航路探索指示を受けて、複数の各々の想定航路に対して各々の前記想定航路における海気象予報を含む前記運航条件における前記船舶の航行状態量の推定値を算出するよう構成され、
前記コンピュータを、さらに、
前記船舶性能推定部で推定される各々の前記想定航路における船舶の航行状態量の推定値に基づいて、前記複数の想定航路の中から所定条件を満足する最適航路を選定する最適航路選定部として機能させる、
請求項7または8に記載の船舶性能推定プログラム。
【請求項10】
コンピュータを、
船舶の過去の運航実績データに基づいて作成され、前記船舶の航行状態量を目的変数とし、前記航行状態量に影響を与える複数の関連要素を説明変数とする1つまたは複数の回帰分析モデルを用いて、各々の前記関連要素の想定値を含む運航条件における前記船舶の航行状態量を推定するデータ推定部と、
前記船舶の1つまたは複数の物理モデルを用いて、前記運航条件における船舶の航行状態量を推定する理論推定部と、
前記船舶の過去の運航実績データに含まれる前記船舶の航行状態量と、前記運航実績データを用いて前記理論推定部により推定された前記航行状態量との差からなる補正量を目的変数とし、前記航行状態量に影響を与える複数の関連要素を説明変数とする1つまたは複数の補正用回帰分析モデルを用いて、各々の前記関連要素の想定値を含む運航条件における前記補正量を推定する補正量推定部
と、
前記データ推定部の推定結果と前記理論推定部の推定結果と前記補正量推定部の推定結果とに基づいて、前記運航条件における前記船舶の航行状態量の推定値を算出する
推定統合部として、
機能させるための船舶性能推定プログラム。
【請求項11】
前記船舶の航行状態量は、前記船舶の推進性能に関わる航行状態量であり、
前記データ推定部は、
経時変化出力指示を受けて、過去の複数の期間の各々の運航実績データに基づいて各々の期間の前記回帰分析モデルを1つまたは複数作成し、前記運航条件に含まれる海気象条件を平水中の条件として前記各々の期間の前記回帰分析モデルを用いて前記各々の期間の前記船舶の平水中における航行状態量を推定し、
前記理論推定部は、
前記経時変化出力指示を受けて、前記運航条件に含まれる海気象条件を平水中の条件として前記船舶の平水中における航行状態量を推定し、
前記補正量推定部は、
前記経時変化出力指示を受けて、過去の複数の期間の各々の運航実績データに基づいて各々の期間の前記補正用回帰分析モデルを1つまたは複数作成し、前記運航条件に含まれる海気象条件を平水中の条件として前記各々の期間の前記補正用回帰分析モデルを用いて前記各々の期間の前記補正量を推定し、
前記推定統合部は、
前記経時変化出力指示を受けて、前記各々の期間の前記データ推定部の推定結果と前記理論推定部の推定結果と前記補正量推定部の推定結果とに基づいて、前記各々の期間の平水中における前記船舶の航行状態量の推定値を算出するよう構成され、
前記コンピュータを、さらに、
前記推定統合部で推定される前記各々の期間の平水中における前記船舶の航行状態量の推定値を所定形式の出力データにして出力する経時変化出力部として機能させる、
請求項10に記載の船舶性能推定プログラム。
【請求項12】
前記データ推定部と前記理論推定部と前記補正量推定部と前記推定統合部とからなる船舶性能推定部は、最適航路探索指示を受けて、複数の各々の想定航路に対して各々の前記想定航路における海気象予報を含む前記運航条件における前記船舶の航行状態量の推定値を算出するよう構成され、
前記コンピュータを、さらに、
前記船舶性能推定部で推定される各々の前記想定航路における船舶の航行状態量の推定値に基づいて、前記複数の想定航路の中から所定条件を満足する最適航路を選定する最適航路選定部として機能させる、
請求項10または11に記載の船舶性能推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の主機馬力等の航行状態量を推定する船舶性能推定装置及び船舶性能推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、船舶の運航において、燃料価格高騰に伴う運航コストの削減や温室効果ガスの排出削減、さらには運航の安全性などへのニーズの高まりから、運航管理における有効な手法として最適航路計算が重要視されている。最適航路計算の信頼性を向上させるためには、実海域における船舶の航行状態量(主機馬力、主機回転数、船速、燃料消費量、船体運動など)を精度良く推定することが重要である。
【0003】
従来、船舶の航行状態量を推定するために、例えば、船体設計情報を基にした理論計算や水槽試験、海上試運転等の結果から得られる物理モデルが用いられてきた。
【0004】
このような物理モデルの作成時の理論計算は、様々な数学的・物理的仮定の下で行われるため、船舶の航行状態量を精度良く推定できない場合がある。そのため、理論式の改良等が行われてはいるものの、物理モデルを用いて船舶の航行状態量を正確に推定することは依然として困難である。
【0005】
例えば、特許文献1には、船舶の実運航時の計測データ等を用いて補正量を計算し、物理モデルを用いて算出される理論推進性能を補正することが開示されている。具体的には、計測データから平水条件下のデータを抽出して平水時の推進性能を導出するとともに、複数の外乱条件下のデータを抽出して外乱推進成分を算出し、これら平水時の推進性能及び外乱推進成分と、平水条件下の理論推進性能及び外乱条件下の理論外乱推進成分とを用いて、理論推進性能を補正する補正量を算出するようにしている。
【0006】
一方、特許文献2では、船舶の実運航時の計測データに基づいた回帰分析モデルを作成し、このモデルを用いて実海域における船舶の推進性能の推定を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-78685号公報
【文献】特開2018-34585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の場合、平水中の状況に近い平水条件下の計測データは風や波の影響を少なからず含んでいるため、正確に平水時の推進性能を導出することができるように補正できていないと考えられる。また、平水条件下の計測データは少ないため、信頼に足る補正ができるまでに多大な時間を要する。
【0009】
また、特許文献2の場合、高精度な回帰分析モデルを作成するためには、多数の計測データを必要とするため、データ数が不十分な場合には精度が低下するという欠点がある。特に最適航路計算では荒天時の推定計算も必要であるが、通常は荒天海域を航行しないため、必要となるデータを取得するのは困難である。
【0010】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、実海域等における船舶の航行状態量の推定精度をあまねく向上させることができる船舶性能推定装置及び船舶性能推定プログラムを提供することを目的としている。
【0011】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、船舶の航行状態量には、主機馬力、主機回転数、船速、船体運動、燃料消費量等のいずれかが含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明のある態様に係る船舶性能推定装置は、船舶の過去の運航実績データに基づいて作成され、前記船舶の航行状態量を目的変数とし、前記航行状態量に影響を与える複数の関連要素を説明変数とする1つまたは複数の回帰分析モデルを用いて、各々の前記関連要素の想定値を含む運航条件における前記船舶の航行状態量を推定するデータ推定部と、前記船舶の1つまたは複数の物理モデルを用いて、前記運航条件における船舶の航行状態量を推定する理論推定部と、前記データ推定部の推定結果と前記理論推定部の推定結果とに基づいて、前記運航条件における前記船舶の航行状態量の推定値を算出する推定統合部と、を備えている。
【0013】
この構成によれば、運航実績データに基づいて作成された回帰分析モデルを用いて推定されるデータ推定部の推定結果と、物理モデルを用いて推定される理論推定部の推定結果との両方に基づいて、船舶の航行状態量の推定値を算出するようにしているので、回帰分析モデルおよび物理モデルの各々の短所を補完することが可能となり、実海域等における船舶の航行状態量の推定精度をあまねく向上させることができる。
【0014】
また、上記船舶性能推定装置において、前記船舶の航行状態量は、前記船舶の推進性能に関わる航行状態量であり、前記データ推定部は、経時変化出力指示を受けて、過去の複数の期間の各々の運航実績データに基づいて各々の期間の前記回帰分析モデルを1つまたは複数作成し、前記運航条件に含まれる海気象条件を平水中の条件として前記各々の期間の前記回帰分析モデルを用いて前記各々の期間の前記船舶の平水中における航行状態量を推定し、前記理論推定部は、前記経時変化出力指示を受けて、前記運航条件に含まれる海気象条件を平水中の条件として前記船舶の平水中における航行状態量を推定し、前記推定統合部は、前記経時変化出力指示を受けて、前記各々の期間の前記データ推定部の推定結果と前記理論推定部の推定結果とに基づいて、前記各々の期間の平水中における前記船舶の航行状態量の推定値を算出するよう構成され、前記推定統合部で推定される前記各々の期間の平水中における前記船舶の航行状態量の推定値を所定形式の出力データにして出力する経時変化出力部を、さらに備えていてもよい。
【0015】
この構成によれば、過去の複数の各期間における平水中での主機馬力等の推進性能に関わる船舶の航行状態量の推定値を算出して表示する等の出力が可能となり、ユーザが船舶の経年劣化や汚損の進行具合を把握し、水中清掃やDockでのメンテナンス等の効果を確認することができる。
【0016】
また、上記船舶性能推定装置において、前記データ推定部と前記理論推定部と前記推定統合部とからなる船舶性能推定部は、最適航路探索指示を受けて、複数の各々の想定航路に対して各々の前記想定航路における海気象予報を含む前記運航条件における前記船舶の航行状態量の推定値を算出するよう構成され、前記船舶性能推定部で推定される各々の前記想定航路における船舶の航行状態量の推定値に基づいて、前記複数の想定航路の中から所定条件を満足する最適航路を選定する最適航路選定部を、さらに備えていてもよい。
【0017】
この構成によれば、船舶の航行状態量の推定精度をあまねく向上させることができることから、選定される最適航路の信頼性を向上させることができる。
【0018】
また、上記船舶性能推定装置において、前記船舶の過去の運航実績データに含まれる前記船舶の航行状態量と、前記運航実績データを用いて前記理論推定部により推定された前記航行状態量との差からなる補正量を目的変数とし、前記航行状態量に影響を与える複数の関連要素を説明変数とする1つまたは複数の補正用回帰分析モデルを用いて、各々の前記関連要素の想定値を含む運航条件における前記補正量を推定する補正量推定部をさらに備え、前記推定統合部は、前記データ推定部の推定結果と前記理論推定部の推定結果と前記補正量推定部の推定結果とに基づいて、前記運航条件における前記船舶の航行状態量の推定値を算出するよう構成されていてもよい。
【0019】
この構成によれば、補正量推定部で用いる補正用回帰分析モデルは、物理モデルによる推定誤差を補正するためのものであると言えるので、補正量推定部の推定結果によって理論推定部の推定結果の精度の低い部分等を改善することができ、推定統合部で算出される航行状態量の推定値の推定精度の向上を図ることが可能になる。
【0020】
また、上記船舶性能推定装置において、前記船舶の航行状態量は、前記船舶の推進性能に関わる航行状態量であり、前記データ推定部は、経時変化出力指示を受けて、過去の複数の期間の各々の運航実績データに基づいて各々の期間の前記回帰分析モデルを1つまたは複数作成し、前記運航条件に含まれる海気象条件を平水中の条件として前記各々の期間の前記回帰分析モデルを用いて前記各々の期間の前記船舶の平水中における航行状態量を推定し、前記理論推定部は、前記経時変化出力指示を受けて、前記運航条件に含まれる海気象条件を平水中の条件として前記船舶の平水中における航行状態量を推定し、前記補正量推定部は、前記経時変化出力指示を受けて、過去の複数の期間の各々の運航実績データに基づいて各々の期間の前記補正用回帰分析モデルを1つまたは複数作成し、前記運航条件に含まれる海気象条件を平水中の条件として前記各々の期間の前記補正用回帰分析モデルを用いて前記各々の期間の前記補正量を推定し、前記推定統合部は、前記経時変化出力指示を受けて、前記各々の期間の前記データ推定部の推定結果と前記理論推定部の推定結果と前記補正量推定部の推定結果とに基づいて、前記各々の期間の平水中における前記船舶の航行状態量の推定値を算出するよう構成され、前記推定統合部で推定される前記各々の期間の平水中における前記船舶の航行状態量の推定値を所定形式の出力データにして出力する経時変化出力部を、さらに備えていてもよい。
【0021】
この構成によれば、過去の複数の各期間における平水中での主機馬力等の推進性能に関わる船舶の航行状態量の推定値を算出して表示する等の出力が可能となり、ユーザが船舶の経年劣化や汚損の進行具合を把握し、水中清掃やDockでのメンテナンス等の効果を確認することができる。
【0022】
また、上記船舶性能推定装置において、前記データ推定部と前記理論推定部と前記補正量推定部と前記推定統合部とからなる船舶性能推定部は、最適航路探索指示を受けて、複数の各々の想定航路に対して各々の前記想定航路における海気象予報を含む前記運航条件における前記船舶の航行状態量の推定値を算出するよう構成され、前記船舶性能推定部で推定される各々の前記想定航路における船舶の航行状態量の推定値に基づいて、前記複数の想定航路の中から所定条件を満足する最適航路を選定する最適航路選定部を、さらに備えていてもよい。
【0023】
この構成によれば、船舶の航行状態量の推定精度の向上を図ることができることから、選定される最適航路の信頼性を向上させることができる。
【0024】
また、本発明のある態様に係る船舶性能推定プログラムは、コンピュータを、船舶の過去の運航実績データに基づいて作成され、前記船舶の航行状態量を目的変数とし、前記航行状態量に影響を与える複数の関連要素を説明変数とする1つまたは複数の回帰分析モデルを用いて、各々の前記関連要素の想定値を含む運航条件における前記船舶の航行状態量を推定するデータ推定部と、前記船舶の1つまたは複数の物理モデルを用いて、前記運航条件における船舶の航行状態量を推定する理論推定部と、前記データ推定部の推定結果と前記理論推定部の推定結果とに基づいて、前記運航条件における前記船舶の航行状態量の推定値を算出する推定統合部として、機能させるためのものである。
【0025】
この構成によれば、運航実績データに基づいて作成された回帰分析モデルを用いて推定されるデータ推定部の推定結果と、物理モデルを用いて推定される理論推定部の推定結果との両方に基づいて、船舶の航行状態量の推定値を算出するようにしているので、回帰分析モデルおよび物理モデルの各々の短所を補完することが可能となり、実海域等における船舶の航行状態量の推定精度をあまねく向上させることができる。
【0026】
また、上記船舶性能推定プログラムにおいて、前記船舶の航行状態量は、前記船舶の推進性能に関わる航行状態量であり、前記データ推定部は、経時変化出力指示を受けて、過去の複数の期間の各々の運航実績データに基づいて各々の期間の前記回帰分析モデルを1つまたは複数作成し、前記運航条件に含まれる海気象条件を平水中の条件として前記各々の期間の前記回帰分析モデルを用いて前記各々の期間の前記船舶の平水中における航行状態量を推定し、前記理論推定部は、前記経時変化出力指示を受けて、前記運航条件に含まれる海気象条件を平水中の条件として前記船舶の平水中における航行状態量を推定し、前記推定統合部は、前記経時変化出力指示を受けて、前記各々の期間の前記データ推定部の推定結果と前記理論推定部の推定結果とに基づいて、前記各々の期間の平水中における前記船舶の航行状態量の推定値を算出するよう構成され、前記コンピュータを、さらに、前記推定統合部で推定される前記各々の期間の平水中における前記船舶の航行状態量の推定値を所定形式の出力データにして出力する経時変化出力部として機能させるようにしてもよい。
【0027】
この構成によれば、過去の複数の各期間における平水中での主機馬力等の推進性能に関わる船舶の航行状態量の推定値を算出して表示する等の出力が可能となり、ユーザが船舶の経年劣化や汚損の進行具合を把握し、水中清掃やDockでのメンテナンス等の効果を確認することができる。
【0028】
また、上記船舶性能推定プログラムにおいて、前記データ推定部と前記理論推定部と前記推定統合部とからなる船舶性能推定部は、最適航路探索指示を受けて、複数の各々の想定航路に対して各々の前記想定航路における海気象予報を含む前記運航条件における前記船舶の航行状態量の推定値を算出するよう構成され、前記コンピュータを、さらに、前記船舶性能推定部で推定される各々の前記想定航路における船舶の航行状態量の推定値に基づいて、前記複数の想定航路の中から所定条件を満足する最適航路を選定する最適航路選定部として機能させるようにしてもよい。
【0029】
この構成によれば、船舶の航行状態量の推定精度をあまねく向上させることができることから、選定される最適航路の信頼性を向上させることができる。
【0030】
また、上記船舶性能推定プログラムにおいて、前記コンピュータを、さらに、前記船舶の過去の運航実績データに含まれる前記船舶の航行状態量と、前記運航実績データを用いて前記理論推定部により推定された前記航行状態量との差からなる補正量を目的変数とし、前記航行状態量に影響を与える複数の関連要素を説明変数とする1つまたは複数の補正用回帰分析モデルを用いて、各々の前記関連要素の想定値を含む運航条件における前記補正量を推定する補正量推定部として機能させ、前記推定統合部は、前記データ推定部の推定結果と前記理論推定部の推定結果と前記補正量推定部の推定結果とに基づいて、前記運航条件における前記船舶の航行状態量の推定値を算出するよう構成されていてもよい。
【0031】
この構成によれば、補正量推定部で用いる補正用回帰分析モデルは、物理モデルによる推定誤差を補正するためのものであると言えるので、補正量推定部の推定結果によって理論推定部の推定結果の精度の低い部分等を改善することができ、推定統合部で算出される航行状態量の推定値の推定精度の向上を図ることが可能になる。
【0032】
また、上記船舶性能推定プログラムにおいて、前記船舶の航行状態量は、前記船舶の推進性能に関わる航行状態量であり、前記データ推定部は、経時変化出力指示を受けて、過去の複数の期間の各々の運航実績データに基づいて各々の期間の前記回帰分析モデルを1つまたは複数作成し、前記運航条件に含まれる海気象条件を平水中の条件として前記各々の期間の前記回帰分析モデルを用いて前記各々の期間の前記船舶の平水中における航行状態量を推定し、前記理論推定部は、前記経時変化出力指示を受けて、前記運航条件に含まれる海気象条件を平水中の条件として前記船舶の平水中における航行状態量を推定し、前記補正量推定部は、前記経時変化出力指示を受けて、過去の複数の期間の各々の運航実績データに基づいて各々の期間の前記補正用回帰分析モデルを1つまたは複数作成し、前記運航条件に含まれる海気象条件を平水中の条件として前記各々の期間の前記補正用回帰分析モデルを用いて前記各々の期間の前記補正量を推定し、前記推定統合部は、前記経時変化出力指示を受けて、前記各々の期間の前記データ推定部の推定結果と前記理論推定部の推定結果と前記補正量推定部の推定結果とに基づいて、前記各々の期間の平水中における前記船舶の航行状態量の推定値を算出するよう構成され、前記コンピュータを、さらに、前記推定統合部で推定される前記各々の期間の平水中における前記船舶の航行状態量の推定値を所定形式の出力データにして出力する経時変化出力部として機能させるようにしてもよい。
【0033】
この構成によれば、過去の複数の各期間における平水中での主機馬力等の推進性能に関わる船舶の航行状態量の推定値を算出して表示する等の出力が可能となり、ユーザが船舶の経年劣化や汚損の進行具合を把握し、水中清掃やDockでのメンテナンス等の効果を確認することができる。
【0034】
また、上記船舶性能推定プログラムにおいて、前記データ推定部と前記理論推定部と前記補正量推定部と前記推定統合部とからなる船舶性能推定部は、最適航路探索指示を受けて、複数の各々の想定航路に対して各々の前記想定航路における海気象予報を含む前記運航条件における前記船舶の航行状態量の推定値を算出するよう構成され、前記コンピュータを、さらに、前記船舶性能推定部で推定される各々の前記想定航路における船舶の航行状態量の推定値に基づいて、前記複数の想定航路の中から所定条件を満足する最適航路を選定する最適航路選定部として機能させるようにしてもよい。
【0035】
この構成によれば、船舶の航行状態量の推定精度の向上を図ることができることから、選定される最適航路の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明は、以上に説明した構成を有し、実海域等における船舶の航行状態量の推定精度をあまねく向上させることができる船舶性能推定装置及び船舶性能推定プログラムを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る船舶性能推定装置の概略構成図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態における船舶性能推定部の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3(A)~(C)は、第1物理モデルの作成方法の一例を説明するために用いる図であり、
図3(D)は、第2物理モデルの作成方法の一例を説明するために用いる図である。
【
図4】
図4(A),(B)は、それぞれ経時変化出力部が動作する際の設定期間の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態における船舶性能推定部の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。また、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0039】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る船舶性能推定装置の概略構成図である。
【0040】
この船舶性能推定装置Aは、処理装置1、通信装置2、入力装置3、表示装置4及び記憶装置5を備えている。なお、船舶性能推定装置Aの設置場所は、特に限定されない。例えば、船舶内に設けられていてもよいし、陸上に設けられていてもよい。
【0041】
処理装置1は、CPU等の演算部とROM及びRAMなどの記憶媒体等を有するコンピュータであり、CPUが記憶媒体に予め記憶されている所定のプログラム(船舶性能推定プログラム等)を実行することにより船舶性能推定装置Aの各部の動作を制御する。この処理装置1は、CPUが船舶性能推定プログラムを実行することにより、理論推定部11、データ推定部12、推定統合部13、経時変化出力部14及び最適航路選定部15等として機能する。なお、補正量推定部16は、後述の第2実施形態の場合に必要な構成要素であり、第1実施形態の場合には不要である。
【0042】
通信装置2は、インターネット等に接続されている。処理装置1は、通信装置2を制御してインターネット等を介して外部機関から海気象情報を取得し、記憶装置5に格納する。外部機関は、気象庁やNOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration)等であり、1つに限られない。
【0043】
入力装置3は、マウスやキーボード等によって構成され、ユーザの操作による入力を受け付ける手段である。入力装置3は、ユーザの操作による入力情報を処理装置1へ出力する。
【0044】
表示装置4は、液晶ディスプレイなどの表示装置で構成され、処理装置1から与えられる表示データに応じた情報を画面に表示する。
【0045】
記憶装置5には、運航実績データ、推進性能推定用の第1物理モデル、船体運動推定用の第2物理モデル、推進性能推定用の第1回帰分析モデル、船体運動推定用の第2回帰分析モデル等が記憶される。この記憶装置5には、船舶性能推定プログラムを実行する上で必要となる情報が全て記憶されており、船舶性能推定プログラムを実行した際に作成される情報も記憶される。なお、記憶装置5は、例えば、記憶する情報の種類等に応じて複数の記憶装置で構成されていてもよい。
【0046】
なお、以下の説明において、処理装置1が対象とする船舶は、特に断りのない限り、同一の船舶である。また、処理装置1が演算に用いる「喫水」については「排水量」に置き換えてもよい。
【0047】
図2は、第1実施形態において、処理装置1が船舶性能推定部として動作するときの一例を示すブロック図である。
【0048】
第1実施形態の場合の船舶性能推定部10は、理論推定部11、データ推定部12および推定統合部13によって構成される。
【0049】
船舶性能推定部10は、例えば、ユーザが入力装置3を操作して、所望の運航条件と、船舶の航行状態量推定指示(例えば、主機馬力を推定する際の主機馬力推定指示、主機回転数を推定する際の主機回転数推定指示、船速を推定する際の船速推定指示、燃料消費量を推定する際の燃料消費量推定指示、船体運動を推定する際の船体運動推定指示等)とが処理装置1へ入力されることにより、船舶の航行状態量を推定する。
【0050】
理論推定部11は、船舶の物理モデル(第1,第2物理モデル)を用いて、入力される所望の運航条件における船舶の航行状態量を推定する。推定する船舶の航行状態量には、主機馬力(主機出力)、主機回転数、船速、燃料消費量及び船体運動等がある。
【0051】
ここで、理論推定部11は、第1物理モデルを用いて船舶の推進性能に関する航行状態量(主機馬力、主機回転数、船速等)を推定する。第1物理モデルは、例えば、船舶の船体抵抗(全抵抗)を算出(推定)し、さらにこの船体抵抗を用いて船舶の航行状態量(主機馬力、主機回転数、船速、燃料消費量等)を算出(推定)するための船舶の物理モデルであり、記憶装置5に記憶されている。ここで、第1物理モデルとして、主機馬力、主機回転数、船速、燃料消費量等のそれぞれに対して、それぞれ推定用の物理モデルが記憶装置5に記憶されていてもよい。
【0052】
図3(A)~(C)は、第1物理モデルの作成方法の一例を説明するために用いる図であり、ここでは、主機馬力を推定する際の船体抵抗の算出方法を例に挙げて説明する。
【0053】
船体抵抗(全抵抗)は、平水中抵抗と、風圧抵抗と、不規則波中の抵抗増加と、斜航や操舵による抵抗増加等との合計として算出することができる。この船体抵抗の算出方法は公知であり、ここでは、簡単に説明する。
【0054】
平水中抵抗については、例えば、
図3(A)に示すような平水中抵抗特性情報に基づいて算出することができる。ここで、平水中抵抗特性情報は、水槽試験もしくは理論計算、試運転結果等によって予め求められており、第1物理モデルに含まれている。
【0055】
また、風圧抵抗(Rw)については、例えば、
図3(B)に示すような風圧抵抗係数特性情報から算出される風圧抵抗係数(Cx)を用いて次の関係式(1)によって算出することができる。
【0056】
Rw=ρCxAxVw2/2・・・・(1)
上記式(1)において、ρは空気密度、Axは船体の水面上の正面投影面積、Vwは相対風速である。ここで、風圧抵抗係数特性情報は、風洞試験もしくは理論計算等によって予め求められており、風圧抵抗係数特性情報および(1)式の内容は、第1物理モデルに含まれている。
【0057】
また、不規則波中の抵抗増加については、
図3(C)のグラフC1に示すような規則波中の抵抗増加特性情報と、グラフC2に示すような実海域で想定される波スペクトラムの情報とから、不規則波中の抵抗増加を算出するためのモデルを作成する。
【0058】
ここで、グラフC1の抵抗増加特性情報は、ある船速で、ある喫水で、ある波向角(船体に対する波の入射角)で、ある波周期で、ある波高の場合の規則波中の抵抗増加を示す情報である。この規則波中の抵抗増加特性情報は、水槽試験もしくは理論計算等によって求められた情報である。
【0059】
また、グラフC2の波スペクトラムの情報は、ある代表波高で、かつ、ある代表波周期(周波数)である場合の波スペクトラムの一例を示す情報である。
【0060】
グラフC1のような規則波中の抵抗増加特性情報が、船速ごと、喫水ごと、波向角ごと、波周期ごと、波高ごとに複数準備され、また、グラフC2のような波スペクトラムの情報が代表波周期(波周波数)及び波高ごとに複数準備される。そして、上記の各抵抗増加特性情報と各波スペクトラムの情報とを用いて、船速、喫水、波向角(船首方位、波向)、波高及び波周期を入力して、不規則波中の抵抗増加を算出(出力)するためのモデルを作成する。このモデルが第1物理モデルに含まれている。なお、各抵抗増加特性情報は、船速、波高の相違を考慮しないで作成された情報であってもよい。
【0061】
なお、上記以外の斜航や操舵による抵抗増加等についても、理論計算、水槽試験、試運転結果などから求められ、第1物理モデルに与えておくことができる。
【0062】
また、平水中抵抗、風圧抵抗及び不規則波中の抵抗増加や斜航や操舵による抵抗増加等のいずれも、それぞれ、理論に基づく数値計算、例えばCFD(computational fluid dynamics)計算によって直接算出するようにしてもよい。この場合、それぞれのCFD計算結果が第1物理モデルに含まれる。
【0063】
そして、平水中抵抗と、風圧抵抗と、不規則波中の抵抗増加と、斜航や操舵による抵抗増加等とを加算する加算式を用いて船体抵抗(R)を算出し、この船体抵抗(R)から次の関係式(2)を用いて、主機馬力(BHP)を算出することができる。
BHP=RVs/η(N,Vs)・・・・(2)
上記式(2)において、Vsは船速である。η(N,Vs)は推進効率で、主機回転数(N)と船速(Vs)を含む関数である。
【0064】
上記の船体抵抗(R)を算出する加算式および式(2)の内容も第1物理モデルに含まれる。よって、理論推定部11は、第1物理モデルを用いて、船舶の船体抵抗(全抵抗)を推定し、その船体抵抗を用いて船舶の主機馬力を推定することができる。
【0065】
なお、主機馬力推定用の第1物理モデルは、船体抵抗を経由することなく、直接、主機馬力を推定するためのモデルであってもよい。
【0066】
また、主機回転数および船速の推定についても、各々推定用の第1物理モデルを用いることができる。すなわち、各々の第1物理モデルは、所望の運航条件に応じて、主機馬力、主機回転数、船速等を推定可能なように作成されている。
【0067】
なお、燃料消費量(FOC)は、次式(3)のように主機馬力(BHP)を用いて算出することができる。
FOC=BHP×β(N)・・・・(3)
上記式(3)において、β(N)は主機回転数Nに基づいて決定される係数である。
【0068】
また、燃料消費量(FOC)は、第1物理モデルとして燃料消費量推定用の物理モデルを設けてあれば、当該モデルを用いて直接推定することができる。
【0069】
また、理論推定部11は、第2物理モデルを用いて、入力される運航条件における船体運動を推定する。第2物理モデルは、船体運動を算出(推定)するための船舶の物理モデルであり、記憶装置5に記憶されている。
図3(D)は、第2物理モデルの作成方法の一例を説明するために用いる図である。
【0070】
まず、
図3(D)のグラフD1に示すような規則波中の船体運動特性情報と、グラフD2に示すような実海域で想定される波スペクトラムの情報(
図3(C)のグラフC2と同様)とから、不規則波中の船体運動を算出するためのモデルを作成する。
【0071】
ここで、グラフD1の船体運動特性情報は、ある船速で、ある喫水で、ある波向角(船体に対する波の入射角)で、ある波高の場合の規則波中の船体運動(規則波中のピッチングまたはローリングの揺動角)を示す情報である。この規則波中の船体運動特性情報は、水槽試験もしくは理論計算、試運転結果等によって求められた情報である。
【0072】
また、グラフD2の波スペクトラムの情報は、ある代表波高で、かつ、ある代表波周期(周波数)である場合の波スペクトラムの一例を示す情報である。
【0073】
グラフD1のような規則波中の船体運動特性情報が、船速ごと、喫水ごと、かつ、波向角ごとに複数準備され、また、グラフD2のような波スペクトラムの情報が代表波周期及び波高ごとに複数準備される。そして、各船体運動特性情報と各波スペクトラムの情報とを用いて、船速、喫水、波向角(船首方位、波向)、波高及び波周期を入力して、不規則波中の船体運動を算出(出力)するためのモデル(モデルZとする)を作成する。さらにこのモデルZの算出結果に、風速、風向を加味した所定の演算を行うことが加えられて、運航条件に応じた船体運動(ピッチングまたはローリングの揺動角等)を推定することができる第2物理モデルが作成されている。なお、この第2物理モデルでは、上記モデルZの算出結果に風速、風向を加味したモデルとしたが、風速、風向を加味していないモデルZを第2物理モデルとしてもよい。
【0074】
このような運航条件に応じた船体運動の推定値を、理論に基づく数値計算、例えばCFD計算によって直接算出するようにしてもよい。この場合、CFD計算結果が第2物理モデルに含まれる。
【0075】
なお、船体運動には、ピッチング、ローリング等があり、各々についての物理モデル(第2物理モデル)が記憶装置5に記憶されている。
【0076】
上記のように、第1、第2物理モデルを作成する際には、運航実績データ(実際の航海で計測されたデータ)を使用しなくてもよい。
【0077】
次に、データ推定部12について説明する。データ推定部12は、第1回帰分析モデル及び第2回帰分析モデルを算出し、記憶装置5に記憶する。
【0078】
第1回帰分析モデルは、船舶の推進性能に関する回帰分析モデルであり、例えば、主機馬力推定用の回帰分析モデル、主機回転数推定用の回帰分析モデル、船速推定用の回帰分析モデル、燃料消費量(FOC)推定用の回帰分析モデル等を設けることができる。第2回帰分析モデルは、船体運動に関する回帰分析モデルであり、ピッチング、ローリング等の各々の運動について推定用の回帰分析モデルを設けることができる。
【0079】
これらの回帰分析モデルは、いずれも運航実績データに基づいて作成され、例えば、yを目的変数とし、x1,x2,x3,・・・,xnを説明変数とした非線形回帰分析を行うことによって求められ、
y=f(x1,x2,x3,・・・,xn)
の関数であらわされる。回帰分析の手法としては、非線形最小二乗法、サポートベクター回帰、ニューラルネットワークなどが挙げられる。
【0080】
運航実績データは、対象とする船舶から、例えば所定時間間隔で計測及び送信されてきた時系列データであり、船舶の位置情報、主機馬力、燃料消費量、主機回転数、船速、船首方位、船体運動の値(ピッチング、ローリング等の動揺角)、喫水、排水量、舵角、針路方位、航海中に遭遇した実際の海気象データ等が含まれる。ここで、海気象データには、波高、波向、波周期、波スペクトラム、風向、風速等が含まれる。
【0081】
なお、データ推定部12において、第1回帰分析モデル及び第2回帰分析モデルを作成(算出)する際には、運航実績データの中から特殊なデータ(例えば、停泊中のデータや港周辺などの航行が安定していないときのデータ)を除去した運航実績データ、すなわち、フィルタ処理された運航実績データを用いるようにしてもよい。このようなフィルタ処理は、処理装置1内のフィルタ処理部(図示せず)で行うことができる。
【0082】
第1,第2回帰分析モデルは、船舶の航行状態量を目的変数とし、この船舶の航行状態量に影響を与える複数の関連要素を説明変数として作成される回帰式である。
【0083】
例えば、第1回帰分析モデルの一例である主機馬力推定用の回帰分析モデルは、主機馬力を目的変数とし、船速、喫水、船首方位、波高、波向、波周期、風速、風向等を説明変数として、運航実績データを用いて回帰分析することにより求められる。
【0084】
また、主機回転数推定用の回帰分析モデルは、主機回転数を目的変数とし、船速、喫水、船首方位、波高、波向、波周期、風速、風向等を説明変数として、運航実績データを用いて回帰分析することにより求められる。
【0085】
また、船速推定用の回帰分析モデルは、船速を目的変数とし、主機馬力、喫水、船首方位、波高、波向、波周期、風速、風向等を説明変数として、運航実績データを用いて回帰分析することにより求められる。
【0086】
また、燃料消費量推定用の回帰分析モデルは、燃料消費量(FOC)を目的変数とし、船速、喫水、船首方位、波高、波向、波周期、風速、風向等を説明変数として、運航実績データを用いて回帰分析することにより求められる。
【0087】
また、第2回帰分析モデルである船体運動(ピッチング、ローリング)推定用の回帰分析モデルは、動揺角を目的変数とし、船速、喫水、船首方位、波高、波向、波周期、風速、風向等を説明変数として、運航実績データを用いて回帰分析することにより求められる。
【0088】
なお、以上の各回帰分析モデルにおいて述べた説明変数は、一例であって上記の例に限らない。
【0089】
そして、データ推定部12では、所望の運航条件が入力されると、航行状態量推定指示に応じた航行状態量推定用の回帰分析モデルを用いて、上記運航条件における船舶の航行状態量を推定する。この運航条件には、ここで用いる回帰分析モデルの全ての説明変数の想定値が含まれる。
【0090】
また、理論推定部11では、上記運航条件が入力されると、航行状態量推定指示に応じた航行状態量推定用の物理モデルを用いて、上記運航条件における船舶の航行状態量を推定する。
【0091】
そして、推定統合部13では、データ推定部12の推定結果(Pd)と理論推定部11の推定結果(Pt)とに基づいて、船舶の航行状態量(主機馬力、主機回転数、船速、燃料消費量、船体運動等)の推定値(Pa)を決定(算出)する。
【0092】
この航行状態量の推定値Paは、例えば、次式で示すように、データ推定部12の推定結果Pdと理論推定部11の推定結果Ptとの単純平均値として算出されるようにしてもよい。
Pa=Pt/2+Pd/2
また、航行状態量の推定値Paは、例えば、次式で示すように、データ推定部12の推定結果Pdと理論推定部11の推定結果Ptとの加重平均値として算出されるようにしてもよい。
Pa=mPt+(1-m)Pd
ここで、重みパラメータmは、0以上、1以下の値であり、例えば、運航条件に含まれる海気象の条件、船速、喫水等によって変更されるようにしてもよい。
【0093】
また、この重みパラメータmは、次のようにして決めてもよい。例えば、運航実績データから一部の期間のデータを重み調整用データとして抽出し、この重み調整用データに対する推定精度が最大となるように重みパラメータmを決めるようにしてもよい。
【0094】
以上のように、船舶性能推定部10では、運航実績データに基づいて作成された回帰分析モデルを用いて推定されるデータ推定部12の推定結果と、物理モデルを用いて推定される理論推定部11の推定結果との両方に基づいて、船舶の航行状態量の推定値(Pa)を算出するようにしているので、例えば、ある海気象条件等の運航条件に対する運航実績データが少ない場合の回帰分析モデルを用いたときの船舶の航行状態量の推定精度の低下を抑えることができるとともに、物理モデルを用いて船舶の航行状態量を精度良く推定できない場合の推定精度の低下を抑えることができる。このように、回帰分析モデルおよび物理モデルの各々の短所を補完することが可能となり、実海域等における船舶の航行状態量の推定精度をあまねく向上させることができる。
【0095】
上記のようにして船舶性能推定部10によって算出される船舶の航行状態量の推定値(Pa)は、例えば、以下で述べる平水中特性の評価や最適航路の探索等を行う際に用いることができる。
【0096】
〔平水中特性の評価〕
ここでは、ユーザが入力装置3を操作して、例えば主機馬力推定指示と、海気象条件を0(波及び風が無い条件)とした平水中における運航条件とを処理装置1へ入力する。運航条件の他の条件については任意に設定することができる。これによって、船舶性能推定部10によって平水中における船舶の主機馬力の推定値(Pa)が算出される。これを、処理装置1が表示装置4に表示させることで、ユーザは、船舶の平水中特性を評価することができる。
【0097】
また、複数の任意の設定期間を指定して平水中特性の経時変化を評価することができる。この場合、ユーザが入力装置3を操作して、経時変化出力指示(例えば主機馬力推定指示と、海気象条件を0とする運航条件と、設定期間の指示とを含む)を処理装置1へ入力する。
【0098】
ここで、例えば、設定期間として
図4(A)に示す2つの過去の期間S1、S2が指示(入力)されたとする。この場合、データ推定部12は、期間S1における運航実績データを用いて主機馬力推定用の回帰分析モデルを作成する。そして、この回帰分析モデルを用いて海気象条件を0とする運航条件における主機馬力の推定値(Pd1)を算出する。
【0099】
さらに、データ推定部12は、期間S2における運航実績データを用いて主機馬力推定用の回帰分析モデルを作成する。そして、この回帰分析モデルを用いて海気象条件を0とする運航条件における主機馬力の推定値(Pd2)を算出する。
【0100】
一方、理論推定部11は、主機馬力推定用の物理モデルを用いて海気象条件を0とする運航条件における主機馬力の推定値(Pt)を算出する。
【0101】
そして、推定統合部13では、データ推定部12の推定結果(Pd1)と理論推定部11の推定結果(Pt)とに基づいて、期間S1における主機馬力の推定値(Pa1)を算出し、経時変化出力部14へ与える。さらに、データ推定部12の推定結果(Pd2)と理論推定部11の推定結果(Pt)とに基づいて、期間S2における主機馬力の推定値(Pa2)を算出し、経時変化出力部14へ与える。
【0102】
経時変化出力部14では、主機馬力の推定値(Pa1)を期間S1における平水中での主機馬力の推定値とし、主機馬力の推定値(Pa2)を期間S2における平水中での主機馬力の推定値として表示するための表示データを生成し、表示装置4へ出力する。表示データは、例えば、表示装置4の画面に、複数の推定値(Pa1、Pa2)が時系列的に並んでグラフ形式または表形式として表示するためのデータであってもよい。また、表示データが印刷装置(図示せず)へ出力されて印刷されるようにしてもよい。
【0103】
なお、複数の設定期間は、例えば、
図4(B)に示す期間S11、S12、S13のように連続するように設定されてもよいし、ある期間の前後の一部が他の期間の一部と重なるように設定されてもよい。
【0104】
なお、上記では、平水中での主機馬力を推定するようにしたが、主機馬力以外の主機回転数、船速等の推進性能を推定することもできる。
【0105】
以上のように過去の複数の各期間における平水中での主機馬力等の推進性能の推定値を算出して表示することにより、ユーザが船舶の経年劣化や汚損の進行具合を把握し、水中清掃やDockでのメンテナンス等の効果を確認することができる。
【0106】
〔最適航路の探索〕
最適航路を探索する際には、例えば、複数の想定航路の各々の航路について、最適航路選定条件に応じて燃料消費量および/または船体運動を推定する。この各想定航路の推定結果と最適航路選定条件とに基づいて、1つの想定航路を選択して最適航路に決定する。
【0107】
この場合、ユーザが入力装置3を操作して最適航路探索指示を処理装置1へ入力する。最適航路探索指示には、出発地及び目的地と、最適航路選定条件(所定条件)とを含む。以下では、最適航路選定条件に、燃料消費量および船体運動の両方に関する条件が含まれている場合を例に説明する。また、以下では、船舶性能推定部10において、主機馬力を推定する場合を例に説明する。
【0108】
データ推定部12は、最適航路探索指示が入力されると、記憶装置5に記憶されている主機馬力推定用の回帰分析モデルおよび海気象予報等に基づいて、複数の各々の想定航路を船舶が航行するときに生じる主機馬力を推定する。なお、海気象予報は、外部機関から取得されて記憶装置5に記憶されている。また、複数の各想定航路は、出発地から目的地までの航路であり、予め記憶装置5に記憶されている。
【0109】
ここで、データ推定部12は、例えば、各々の想定航路について、想定航路を複数の区間に分割し、各区間(その区間の始点、終点または中間点)において、各区間における海気象予報(波向、波周期、波高、風速、風向)と、予定船速と、予定喫水または排水量と、予定船首方位とを運航条件として入力し、主機馬力推定用の回帰分析モデルを用いて、各区間における主機馬力を推定する。ここで、予定船速は、入力装置3から予め入力された船速でもよいし、航海予定時間から算出される船速でもよい。また、予定喫水または排水量は、入力装置3から予め入力された値でもよいし、積荷データ等から算出される値でもよい。また、予定船首方位は、入力装置3から予め入力された値でもよいし、想定航路等から算出される値でもよい。
【0110】
また、理論推定部11は、最適航路探索指示が入力されると、記憶装置5に記憶されている推進性能推定用の第1物理モデルおよび上記運航条件に基づいて、上述の各々の想定航路の各区間における主機馬力を推定する。
【0111】
そして、推定統合部13では、データ推定部12の主機馬力の推定結果と理論推定部11の主機馬力の推定結果とに基づいて、各々の想定航路の各区間の主機馬力の推定値を算出し、最適航路選定部15へ与える。
【0112】
そして、最適航路選定部15では、各区間の主機馬力の推定値から各区間における燃料消費量を推定し、さらに、各区間における燃料消費量を合計することにより各想定航路における燃料消費量(総量)を推定する。
【0113】
また、データ推定部12は、最適航路探索指示が入力されると、各々の想定航路において、各区間における海気象予報と、予定船速と、予定喫水または排水量と、予定船首方位とを運航条件として入力し、船体運動推定用の回帰分析モデルを用いて、各区間における船体運動(動揺角)を推定する。
【0114】
また、理論推定部11は、最適航路探索指示が入力されると、記憶装置5に記憶されている船体運動推定用の第2物理モデルおよび上記運航条件に基づいて、上述の各々の想定航路の各区間における船体運動(動揺角)を推定する。
【0115】
そして、推定統合部13では、データ推定部12の船体運動の推定結果と理論推定部11の船体運動の推定結果とに基づいて、各々の想定航路の各区間の船体運動の推定値を算出し、最適航路選定部15へ与える。
【0116】
そして、最適航路選定部15では、複数の想定航路の中から、最適航路選定条件に基づいて、1つの航路を選択し、その航路を最適航路に決める。この最適航路は、表示装置4に表示される。最適航路選定条件としては、例えば、航路全体において船体運動の値が所定のしきい値以下となる想定航路のうち、燃料消費量が最も少ないことを条件としてもよい。また、最適航路選定条件として、燃料消費量が所定量以下となる想定航路のうち、航路全体において各区間で推定された船体運動の値の総和が最小であることを条件としてもよい。
【0117】
なお、最適航路選定条件として、例えば、航路全体において燃料消費量が最小となる想定航路であることを条件としてもよい。この場合、船舶性能推定部10において、船体運動を推定しなくてもよい。また、最適航路選定条件として、航路全体において船体運動の値が最小となる想定航路であることを条件としてもよい。この場合、船舶性能推定部10において、主機馬力を推定しなくてもよい。また、最適航路選定条件に航海時間等を含めるようにしてもよい。
【0118】
以上のように最適航路を探索する際においても、船舶の航行状態量の推定精度をあまねく向上させることができることから、選定される最適航路の信頼性を向上させることができる。
【0119】
上記では、主機馬力、主機回転数、船速、燃料消費量、船体運動等のそれぞれの航行状態量の推定用の物理モデル、回帰分析モデルをそれぞれ1つとして説明したが、それぞれ複数設けてもよい。ここで、各航行状態量推定用の複数の物理モデルとしては、航行状態量の算出方法が異なる複数のモデルを用いることができる。また、各航行状態量推定用の複数の回帰分析モデルとしては、回帰分析の手法が異なる複数のモデルを用いることができる。
【0120】
この場合において、船舶性能推定部10において、航行状態量として、例えば、主機馬力を推定する場合、理論推定部11は、主機馬力推定用の複数の各々の物理モデルを用いて、入力される運航条件における主機馬力の推定値を算出し、これら複数の推定値に基づいて推定結果である出力推定値を算出して推定統合部13へ出力する。この出力推定値は、複数の推定値の平均値として算出することができる。
【0121】
また、データ推定部12は、主機馬力推定用の複数の各々の回帰分析モデルを用いて、入力される運航条件における主機馬力の推定値を算出し、これら複数の推定値に基づいて推定結果である出力推定値を算出して推定統合部13へ出力する。この出力推定値は、複数の推定値の平均値として算出することができる。
【0122】
このように、理論推定部11及びデータ推定部12の各々において、複数のモデルを用いた推定値を平均化することにより、各モデルにおける不確実性の高い部分を打ち消しあって推定精度の向上を図ることができる。その結果、推定統合部13で算出される航行状態量の推定精度の向上を図ることができる。また、前述した平水中特性の評価を行う場合においても、データ推定部12において、複数の各々の設定期間に対して航行状態量推定用の回帰分析モデルを複数作成し、それらを用いて平水中における航行状態量を推定するようにしてもよい。
【0123】
なお、上記において、対象とする船舶(本船舶)以外で、例えば本船舶と同種類の他の船舶について作成された航行状態量推定用の回帰分析モデルを、本船舶について運航初期の回帰分析モデルとして用いてもよい。この場合、他の船舶について作成された航行状態量推定用の回帰分析モデルを、本船舶の主要目や特性に合わせて修正して用いてもよい。そして本船舶について十分な運航実績データが得られれば、その運航実績データから航行状態量推定用の回帰分析モデルを作成するようにすればよい。また、この場合、上記の他の船舶の運航実績データに本船舶の運航実績データを付け加えたデータを用いて回帰分析モデルを作成するようにしてもよい。
【0124】
(第2実施形態)
第2実施形態における船舶性能推定装置の概略構成は、第1実施形態で用いた
図1に示されている。以下では、第1実施形態との相違点を主に説明する。
【0125】
図5は、第2実施形態において、処理装置1が船舶性能推定部として動作するときの一例を示すブロック図である。
【0126】
第2実施形態の場合の船舶性能推定部10aは、データ推定部12、理論推定部11、補正量推定部16および推定統合部13によって構成される。このように、第2実施形態では、第1実施形態における船舶性能推定部10に補正量推定部16が追加されて船舶性能推定部10aが構成されている。これ以外は、第1実施形態と同様の構成である。
【0127】
この船舶性能推定部10aは、第1実施形態の場合の船舶性能推定部10と同様、例えば、ユーザが入力装置3を操作して、所望の運航条件と、船舶の航行状態量推定指示とが処理装置1へ入力されることにより、船舶の航行状態量を推定する。
【0128】
補正量推定部16は、運航実績データ(例えばフィルタ処理された運航実績データ)に含まれる船舶の航行状態量と、上記運航実績データを用いて理論推定部11により推定された航行状態量との差からなる補正量を目的変数とし、航行状態量に影響を与える複数の関連要素を説明変数とする補正用回帰分析モデルを用いて、各々の関連要素の想定値を含む運航条件における補正量(Pe)を推定するよう構成されている。
【0129】
ここで、補正量推定部16は、補正用回帰分析モデルを予め作成して記憶装置5に記憶させている。この補正用回帰分析モデルが作成される際には、船舶の過去の運航実績データが理論推定部11と補正量推定部16とへ入力される。そして、理論推定部11では、船舶のある航行状態量(例えば主機馬力)推定用の物理モデルと運航実績データとを用いて航行状態量(例えば主機馬力)を推定し、その推定結果を補正量推定部16へ出力する。そして、補正量推定部16では、運航実績データに含まれる船舶の航行状態量(例えば主機馬力)と、理論推定部11の航行状態量の推定結果との差を補正量として算出する。このようにして運航実績データを構成する多数の時系列データの各々から算出される補正量を目的変数とし、航行状態量に影響を与える複数の関連要素を説明変数とした非線形回帰分析を行うことによって補正用回帰分析モデル(例えば主機馬力補正用の回帰分析モデル)が作成される。ここでも、回帰分析の手法としては、非線形最小二乗法、サポートベクター回帰、ニューラルネットワークなどが挙げられる。また、説明変数としては、データ推定部12で用いる航行状態量推定用の回帰分析モデルの場合と同様のものを例示できる。
【0130】
補正用回帰分析モデルとして、船舶性能推定部10aにおいて主機馬力を推定する際に用いる主機馬力補正用、主機回転数を推定する際に用いる主機回転数補正用、船速を推定する際に用いる船速補正用、燃料消費量(FOC)を推定する際に用いる燃料消費量補正用、船体運動を推定する際に用いる船体運動補正用などの回帰分析モデルを作成し、記憶装置5に記憶しておくことができる。
【0131】
そして、補正量推定部16では、前述のように、所望の運航条件が入力されると、航行状態量推定指示に応じた航行状態量補正用の回帰分析モデルを用いて、上記運航条件における補正量を推定する。この運航条件には、ここで用いる回帰分析モデルの全ての説明変数の想定値が含まれる。
【0132】
また、理論推定部11では、第1実施形態の場合と同様、上記運航条件が入力されると、航行状態量推定指示に応じた航行状態量推定用の物理モデル(第1,第2物理モデル)を用いて、上記運航条件における船舶の航行状態量を推定する。
【0133】
また、データ推定部12では、第1実施形態の場合と同様、上記運航条件が入力されると、航行状態量推定指示に応じた航行状態量推定用の回帰分析モデル(第1,第2回帰分析モデル)を用いて、上記運航条件における船舶の航行状態量を推定する。
【0134】
そして、推定統合部13では、データ推定部12の推定結果(Pd)と補正量推定部16の推定結果(Pe)と理論推定部11の推定結果(Pt)とに基づいて、航行状態量の推定値(Pa)を算出する。この航行状態量の推定値Paは、例えば、次式によって算出されるようにしてもよい。
Pa=αPt+βPe+γPd (α,β,γは任意の実数)
上式において、例えば、α=β=mとし、γ=1-mとしてもよい。
【0135】
この場合、
Pa=m(Pt+Pe)+(1-m)Pd
となる。
【0136】
このように、航行状態量の推定値Paは、理論推定部11の推定結果Ptと補正量推定部16の推定結果Peとの加算値(合計)と、データ推定部12の推定結果Pdとの、単純平均値または加重平均値として算出されるようにしてもよい。ここで、単純平均値として算出する場合は、m=1/2である。
【0137】
また、mを重みパラメータとし、加重平均値として算出する場合、重みパラメータmは、0以上、1以下の値であり、例えば、運航条件に含まれる海気象の条件、船速、喫水等によって変更されるようにしてもよい。また、重みパラメータmは、例えば、運航実績データから一部の期間のデータを重み調整用データとして抽出し、この重み調整用データに対する推定精度が最大となるように重みパラメータmを決めるようにしてもよい。
【0138】
以上のように、船舶性能推定部10aでは、航行状態量の推定用の回帰分析モデルを用いて推定されるデータ推定部12の推定結果Pdと、航行状態量の推定用の物理モデルを用いて推定される理論推定部11の推定結果Ptと、補正用回帰分析モデルを用いて推定される補正量推定部16の推定結果Peとを用いて、船舶の航行状態量の推定値Paを算出するようにしている。ここで、補正量推定部16で用いる補正用回帰分析モデルは、物理モデルによる推定誤差を補正するためのものであると言えるので、補正量推定部16の推定結果によって理論推定部11の推定結果の精度の低い部分等を改善することができ、さらに、データ推定部12の推定結果を用いて航行状態量の推定値(Pa)を算出することにより、同航行状態量の推定値の推定精度をあまねく向上させることができる。
【0139】
〔平水中特性の評価〕
第2実施形態においても、第1実施形態の場合と同様、ユーザが入力装置3を操作して、例えば主機馬力推定指示と、海気象条件を0(波及び風が無い条件)とした平水中における運航条件とを処理装置1へ入力する。運航条件の他の条件については任意に設定することができる。これによって、船舶性能推定部10aによって平水中における船舶の主機馬力の推定値(Pa)が算出される。これを、処理装置1が表示装置4に表示させることで、ユーザは、船舶の平水中特性を評価することができる。
【0140】
また、第1実施形態の場合と同様、複数の任意の設定期間を指定して平水中特性の経時変化を評価することができる。この場合、ユーザが入力装置3を操作して、経時変化出力指示(例えば主機馬力推定指示と、海気象条件を0とする運航条件と、設定期間の指示とを含む)を処理装置1へ入力する。
【0141】
ここで、例えば、設定期間として
図4(A)に示す2つの過去の期間S1、S2が指示(入力)されたとする。この場合、補正量推定部16は、期間S1における運航実績データと、理論推定部11から入力される期間S1の主機馬力の推定結果とを用いて主機馬力補正用の回帰分析モデルを作成し、この回帰分析モデルを用いて海気象条件を0とする運航条件における主機馬力の補正量(Pe1)を算出し、推定統合部13へ出力する。
【0142】
さらに、補正量推定部16は、期間S2における運航実績データと、理論推定部11から入力される期間S2の主機馬力の推定結果とを用いて主機馬力補正用の回帰分析モデルを作成し、この回帰分析モデルを用いて海気象条件を0とする運航条件における主機馬力の補正量(Pe2)を算出し、推定統合部13へ出力する。
【0143】
なお、上記の期間S1,S2における主機馬力補正用の回帰分析モデルを作成する際には、前述した回帰分析モデルを作成する場合と同様、理論推定部11は、主機馬力推定用の物理モデルと期間S1,S2における運航実績データとを用いて期間S1,S2における主機馬力を推定し、これらの推定結果が補正量推定部16に入力される。
【0144】
一方、理論推定部11は、第1実施形態の場合と同様、主機馬力推定用の物理モデルを用いて海気象条件を0とする運航条件における主機馬力の推定値(Pt)を算出し、推定統合部13へ出力する。
【0145】
また、データ推定部12は、第1実施形態の場合と同様、期間S1における運航実績データを用いて主機馬力推定用の回帰分析モデルを作成し、この回帰分析モデルを用いて海気象条件を0とする運航条件における主機馬力の推定値(Pd1)を算出し、推定統合部13へ出力する。さらに、データ推定部12は、期間S2における運航実績データを用いて主機馬力推定用の回帰分析モデルを作成し、この回帰分析モデルを用いて海気象条件を0とする運航条件における主機馬力の推定値(Pd2)を算出し、推定統合部13へ出力する。
【0146】
そして、推定統合部13では、期間S1のデータ推定部12の推定結果(Pd1)と補正量推定部16の推定結果(Pe1)と理論推定部11の推定結果(Pt)とに基づいて、期間S1における主機馬力の推定値(Pa1)を算出し、経時変化出力部14へ与える。さらに、期間S2のデータ推定部12の推定結果(Pd2)と補正量推定部16の推定結果(Pe2)と理論推定部11の推定結果(Pt)とに基づいて、期間S2における主機馬力の推定値(Pa2)を算出し、経時変化出力部14へ与える。
【0147】
経時変化出力部14では、第1実施形態の場合と同様にして、期間S1,S2における平水中での主機馬力の推定値Pa1,Pa2をグラフや表などの所定形式で表示するための表示データを生成し、表示装置4へ出力する。この場合も、表示データが印刷装置(図示せず)へ出力されて印刷されるようにしてもよい。
【0148】
なお、複数の設定期間は、第1実施形態の場合と同様、任意に設定することができる。また、主機馬力以外の主機回転数、船速等の平水中での推進性能を推定する場合も同様である。
【0149】
以上のように過去の複数の各期間における平水中での主機馬力等の推進性能の推定値を算出して表示することにより、ユーザが船舶の経年劣化や汚損の進行具合を把握し、水中清掃やDockでのメンテナンス等の効果を確認することができる。
【0150】
〔最適航路の探索〕
最適航路を探索する際には、第1実施形態の場合と同様、ユーザが入力装置3を操作して最適航路探索指示を処理装置1へ入力する。最適航路探索指示には、出発地及び目的地と、最適航路選定条件(所定条件)とを含む。
【0151】
この場合、データ推定部12は、第1実施形態の場合と同様、最適航路探索指示が入力されると、各々の想定航路が複数に分割された各区間における運航条件(海気象予報、予定喫水または排水量、予定船首方位など)と、例えば最適航路選定条件に関連する船舶の航行状態量の推定用回帰分析モデルとを用いて、各区間における航行状態量を推定する。
【0152】
また、理論推定部11は、第1実施形態の場合と同様、最適航路探索指示が入力されると、各々の想定航路の各区間における上記運航条件と、例えば最適航路選定条件に関連する船舶の航行状態量の推定用の物理モデルとを用いて、各区間における航行状態量を推定する。
【0153】
また、補正量推定部16は、最適航路探索指示が入力されると、各々の想定航路の各区間における上記運航条件と、例えば最適航路選定条件に関連する船舶の航行状態量の補正用回帰分析モデルとを用いて、各区間における航行状態量の補正量を推定する。
【0154】
そして、推定統合部13では、各区間におけるデータ推定部12の推定結果と補正量推定部16の推定結果と理論推定部11の推定結果とに基づいて、各区間における航行状態量の推定値を算出し、最適航路選定部15へ与える。他の構成は、第1実施形態の場合と同様であり、説明を省略する。
【0155】
以上のように最適航路を探索する際においても、推定統合部13で算出される航行状態量の推定精度の向上を図ることができることから、選定される最適航路の信頼性を向上させることができる。
【0156】
なお、この第2実施形態の場合も、第1実施形態の場合においてそれぞれの航行状態量の推定用の物理モデル及び回帰分析モデルを複数設ける場合と同様、主機馬力、主機回転数、船速、燃料消費量、船体運動等のそれぞれの航行状態量の推定用の物理モデル及び回帰分析モデルと、同航行状態量の補正用回帰分析モデルとをそれぞれ複数設けてもよい。そして、データ推定部12、理論推定部11及び補正量推定部16の各々において、複数のモデルを用いた推定値を平均化することにより、各モデルにおける不確実性の高い部分を打ち消しあって推定精度の向上を図ることができる。その結果、推定統合部13で算出される航行状態量の推定精度の向上を図ることができる。また、前述した平水中特性の評価を行う場合においても、補正量推定部16において、複数の各々の設定期間に対して航行状態量の補正用回帰分析モデルを複数作成し、それらを用いて平水中における航行状態量の補正量を推定するようにしてもよい。
【0157】
なお、本実施形態において、対象とする船舶(本船舶)以外で、例えば本船舶と同種類の他の船舶について得られた運航実績データを用いて補正用回帰分析モデルを作成し、この補正用回帰分析モデルを、本船舶について運航初期の補正用回帰分析モデルとして用いてもよい。この場合、補正用回帰分析モデルを、本船舶の主要目や特性に合わせて修正して作成するようにしてもよい。そして本船舶について十分な運航実績データが得られれば、その運航実績データを用いて補正用回帰分析モデルを作成するようにすればよい。また、この場合、上記の他の船舶の運航実績データに本船舶の運航実績データを付け加えたデータを用いて補正用回帰分析モデルを作成するようにしてもよい。
【0158】
また、以上に述べた第1、第2実施形態では、複数の航行状態量のそれぞれに対して、船舶性能推定部10,10aで用いる航行状態量推定用の物理モデル、航行状態量推定用の回帰分析モデル及び航行状態量の補正用回帰分析モデルが作成されるものとして説明したが、推定しようとする航行状態量に対してモデルが作成されていればよい。例えば、推定しようとする航行状態量が1つの場合には、その航行状態量に対してのみ、航行状態量推定用の物理モデル、航行状態量推定用の回帰分析モデル及び航行状態量の補正用回帰分析モデルが作成されていればよい。なお、第1実施形態の場合には、航行状態量の補正用回帰分析モデルは作成されない。
【0159】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明は、実海域等における船舶の航行状態量の推定精度をあまねく向上させることができる船舶性能推定装置及び船舶性能推定プログラム等として有用である。
【符号の説明】
【0161】
A 船舶性能推定装置
10,10a 船舶性能推定部
11 理論推定部
12 データ推定部
13 推定統合部
14 経時変化出力部
15 最適航路選定部
16 補正量推定部