IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

<>
  • 特許-遺伝子導入細胞の製造方法 図1
  • 特許-遺伝子導入細胞の製造方法 図2
  • 特許-遺伝子導入細胞の製造方法 図3
  • 特許-遺伝子導入細胞の製造方法 図4
  • 特許-遺伝子導入細胞の製造方法 図5
  • 特許-遺伝子導入細胞の製造方法 図6
  • 特許-遺伝子導入細胞の製造方法 図7
  • 特許-遺伝子導入細胞の製造方法 図8
  • 特許-遺伝子導入細胞の製造方法 図9
  • 特許-遺伝子導入細胞の製造方法 図10
  • 特許-遺伝子導入細胞の製造方法 図11
  • 特許-遺伝子導入細胞の製造方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】遺伝子導入細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/86 20060101AFI20221207BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20221207BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20221207BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221207BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20221207BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20221207BHJP
   C07K 14/145 20060101ALN20221207BHJP
   C07K 14/31 20060101ALN20221207BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALN20221207BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20221207BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20221207BHJP
   C12N 5/0786 20100101ALN20221207BHJP
   C12N 5/0781 20100101ALN20221207BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20221207BHJP
   C12N 7/01 20060101ALN20221207BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20221207BHJP
   A61K 35/76 20150101ALN20221207BHJP
   A61K 48/00 20060101ALN20221207BHJP
   A61K 35/17 20150101ALN20221207BHJP
【FI】
C12N15/86 Z
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/31
C12N5/10
C12N15/867 Z
C07K19/00
C07K14/145
C07K14/31
C12N5/0735
C12N5/0775
C12N5/071
C12N5/0786
C12N5/0781
C12N5/0783
C12N7/01
C07K16/28
A61K35/76
A61K48/00
A61K35/17 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018550277
(86)(22)【出願日】2017-11-10
(86)【国際出願番号】 JP2017040578
(87)【国際公開番号】W WO2018088519
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2016219575
(32)【優先日】2016-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、[医療分野研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)]「ヒトB細胞由来の完全ヒト抗体作製技術の実用性検証」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】中石 智之
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 達也
(72)【発明者】
【氏名】北 寛士
(72)【発明者】
【氏名】北野 光昭
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/133349(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/118699(WO,A1)
【文献】Journal of Virological Methods,2008年,Vol. 153,pp. 49-54
【文献】SCEJ 73rd Annual Meeting (Hamamatsu, 2008),2008年,I314
【文献】SCEJ 39th Autumn Meeting (Sapporo, 2007),2007年,30F054
【文献】International Journal of Molecular Sciences,Vol. 12,2011年,pp. 5157-5167
【文献】Antibodies,2015年,Vol. 4,pp. 259-277
【文献】Biomaterials,2014年,Vol. 35,pp. 4204-4212
【文献】BD Biosciences,Human and Mouse CD Marker Handbook,[online] <https://www.bdbiosciences.com/documents/cd_marker_handbook.pdf>,2010年,[retrieved on 2018-01-29]
【文献】日本臨床免疫学会会誌,2005年,Vol. 28, No. 5,pp. 333-342
【文献】HARTMANN G.,CpG: unraveling the key to B-cell function,BLOOD,2003年06月01日,Vol. 101, No. 11,pp. 4230-4231
【文献】Cytotherapy,2006年,Vol. 8, No. 4,pp. 315-317
【文献】Technology in Cancer Research & Treatment,2004年,Vol. 3, No. 1,pp. 77-84
【文献】HUMAN GENE THERAPY,Vol. 22,2011年10月,pp. 1281-1291
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
A61K 35/76
A61K 48/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質と、外来遺伝子とを含むウイルスと;
(ii)標的細胞と前記標的細胞の細胞表面に存在する抗原に特異的な抗体、及び/又は膜型抗体を含む標的細胞;
とをインビトロで接触させることにより標的細胞にウイルスをインビトロで感染させる工程を含み、前記標的細胞が浮遊細胞であり、抗体結合タンパク質が、プロテインAのIgG結合ドメインを6個以上含むか、および/または抗体結合タンパク質が、プロテインLのIgG結合ドメインを6個以上含む、
遺伝子導入細胞の製造方法。
【請求項2】
前記キメラタンパク質において、抗体結合タンパク質が、水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質のN末端側に存在している、請求項1に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
【請求項3】
ウイルスが、レトロウイルスである、請求項1又は2に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
【請求項4】
レトロウイルスが、レンチウイルスである、請求項に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
【請求項5】
標的細胞が、ヒト初代細胞、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)、ヒト間葉系幹細胞、及び前記細胞から分化誘導された細胞の何れか一種以上である、請求項1からの何れか一項に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
【請求項6】
標的細胞が末梢血単核球細胞である、請求項1からの何れか一項に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
【請求項7】
標的細胞が、ヒトB細胞、ヒトT細胞又はヒト間葉系幹細胞である、請求項1からの何れか一項に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
【請求項8】
標的細胞が、ヒトT細胞であり、標的細胞の細胞表面に存在する抗原に特異的な抗体が、抗ヒトCD3抗体、抗ヒトCD8a抗体及び抗ヒトCD11a抗体から選択される少なくとも一以上である、請求項1からの何れか一項に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
【請求項9】
標的細胞が、ヒトB細胞であり、IL-4、ODN 2006、CD40受容体を介した刺激、及びBAFF受容体を介した刺激から選択される少なくとも一以上の存在下において前記ウイルスと前記標的細胞とをインビトロで接触させる、請求項1からの何れか一項に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
【請求項10】
標的細胞が、ヒト間葉系幹細胞であり、標的細胞の細胞表面に存在する抗原に特異的な抗体が、抗ヒトCD90抗体である、請求項1からの何れか一項に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
【請求項11】
抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質を含むウイルスが、前記キメラタンパク質以外に、水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質を含む、請求項1からの何れか一項に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
【請求項12】
前記ウイルスにおける、前記キメラタンパク質と、前記水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質のモル比が、1:1~1:512の範囲内である、請求項11に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
【請求項13】
抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質を含むウイルスが、抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質をコードする塩基配列を含むプラスミドベクターと、抗体結合タンパク質をコードする塩基配列を含まず、水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質をコードする塩基配列を含むプラスミドベクターとを組み合わせて使用することによって製造されたものである、請求項1から12の何れか一項に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
【請求項14】
抗体結合タンパク質をコードする塩基配列を含まず、水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質をコードする塩基配列を含むプラスミドベクターと、抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質をコードする塩基配列を含むプラスミドベクターとの質量比が64:1~64:256の範囲内である、請求項13に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
【請求項15】
ヒト初代細胞、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)又はヒト間葉系幹細胞から選択される標的細胞と、前記標的細胞の細胞表面に存在する抗原に特異的な抗体とを含み、前記標的細胞が浮遊細胞である、請求項1から14の何れか一項に記載の遺伝子導入細胞の製造方法を行うためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キメラエンベロープタンパク質を含むウイルスを用いて外来遺伝子を標的細胞に導入することを含む、遺伝子導入細胞の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質を含むウイルスを用いて遺伝子導入を行うことを含む、遺伝子導入細胞の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真核細胞に目的遺伝子を導入して発現させることを目的として、様々なウイルス由来ベクターが使用されている。標的細胞において機能を有するプロモーターに機能し得る形で連結された目的遺伝子を、ウイルス遺伝子に挿入することによって、ウイルスベクターを作製することができる。ウイルスベクターは標的細胞に感染し、ウイルス遺伝子の代わりに目的遺伝子を発現することができる。ウイルス遺伝子の全てがそのウイルスベクターに存在するわけではないので、ウイルスベクターが標的細胞に感染しても、ウイルス粒子は産生しない。ヒト等の哺乳動物の標的細胞の感染のために使用されているウイルスとしては、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、およびレトロウイルスなどがある。
【0003】
特許文献1には、プロテインAのIgG結合ドメインの部分を含むキメラ・エンベロープタンパク質をコードする遺伝子を含む、標的細胞に形質導入を起こさせるウイルスベクターであって、該エンベロープタンパク質がマウス白血病ウイルスまたはトリ白血病ウイルスのgp70タンパク質の部分を含み、かつ該エンベロープタンパク質がウイルス粒子への断片の組立てを指令するように機能する、上記ウイルスベクターが記載されている。
【0004】
非特許文献1においては、Protein A のZ domain発現する遺伝子配列を外皮にVSV-Gを発現するプラスミドに挿入することで、Protein AのZ domain とVSV-Gの融合タンパク質を発現するプラスミドを作製し、このプラスミドをウイルスベクター生産細胞である293FT細胞に遺伝子導入することで目的の外皮タンパク質を発現しているレンチウイルスベクターを生産させている。その後、ヒトIgG 抗体でコートしたプレートに、上記のレンチウイルスベクターを添加し、洗浄した後、そのプレートに接着細胞を播種することでウイルスベクターを感染させることが記載されている。すなわち、プレート表面に抗体を固定し、その抗体とZ domainとの相互作用を利用してプレート表面にレンチウイルスベクターを濃縮し、接着細胞がプレート表面に接着することを介してウイルスベクターを感染させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2002-516570号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Y.Kameyama et al., Journal of Virological Methods 153 (2008) 49-54
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1においては、マウス白血病ウイルスまたはトリ白血病ウイルスのgp70タンパク質を含むキメラタンパク質を含むレトロウイルスを使用しているが、標的細胞の種類が制限されるという問題があった。非特許文献1においては、ウイルスを固定したプレート上に接着細胞である標的細胞を播種して、遺伝子導入を行っており、標的細胞へのウイルス感染は抗体を介したものではない。従って、非特許文献1の方法は、接着細胞以外の細胞(例えば、浮遊細胞等)には応用が困難であり、またウイルス感染において抗体の指向性を利用していないことから、遺伝子導入が困難であるとされているヒト初代細胞に対して遺伝子を導入することも困難である。
【0008】
本発明は、細胞の種類に関わらず多くに任意の細胞、特にヒト初代細胞であっても遺伝子を効率よく導入することができる、遺伝子導入細胞の製造方法を提供することを解決すべき課題とする。さらに本発明は、上記の遺伝子導入細胞の製造方法に使用することができる、抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質を含むウイルス、並びに前記ウイルスを含む遺伝子治療剤を提供することを解決すべき課題とする。さらに本発明は、上記の遺伝子導入細胞の製造方法により得られる遺伝子導入細胞を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質を含むウイルスと、標的細胞と前記標的細胞に特異的な抗体、及び/又は膜型抗体を含む標的細胞とを接触させることにより、標的細胞にウイルスを高効率で感染させることができ、これにより標的細胞に遺伝子を導入できることを見出した。
【0010】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) (i)抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質と、外来遺伝子とを含むウイルスと;
(ii)標的細胞と前記標的細胞に特異的な抗体、及び/又は膜型抗体を含む標的細胞;
とをインビトロで接触させることにより標的細胞にウイルスをインビトロで感染させる工程を含む、遺伝子導入細胞の製造方法。
(2) 抗体結合タンパク質が、プロテインAのIgG結合ドメイン及びプロテインLのIgG結合ドメインのうちの何れか又は両方を含む、(1)に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
(3) 抗体結合タンパク質が、プロテインAのIgG結合ドメインを3個以上含む、(2)に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
(4) 抗体結合タンパク質が、プロテインLのIgG結合ドメインを3個以上含む、(2)又は(3)に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
(5) 前記キメラタンパク質において、抗体結合タンパク質が、水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質のN末端側に存在している、(1)から(4)の何れか一に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
(6) ウイルスが、レトロウイルスである、(1)から(5)の何れか一に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
(7) レトロウイルスが、レンチウイルスである、(6)に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
【0011】
(8) 標的細胞が、ヒト初代細胞、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)、ヒト間葉系幹細胞、及び前記細胞から分化誘導された細胞の何れか一種以上である、(1)から(7)の何れか一に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
(9) 標的細胞が末梢血単核球細胞である、(1)から(8)の何れか一に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
(10) 標的細胞が、ヒトB細胞、ヒトT細胞又はヒト間葉系幹細胞である、(1)から(8)の何れか一に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
(11) 標的細胞が、ヒトT細胞であり、標的細胞に特異的な抗体が、抗ヒトCD3抗体、抗ヒトCD8a抗体及び抗ヒトCD11a抗体から選択される少なくとも一以上である、(1)から(10)の何れか一に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
(12) 標的細胞が、ヒトB細胞であり、IL-4、ODN 2006、CD40受容体を介した刺激、及びBAFF受容体を介した刺激から選択される少なくとも一以上の存在下において前記ウイルスと前記標的細胞とをインビトロで接触させる、(1)から(10)の何れか一に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
(13) 標的細胞が、ヒト間葉系幹細胞であり、標的細胞に特異的な抗体が、抗ヒトCD90抗体である、(1)から(10)の何れか一に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
【0012】
(14) 抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質を含むウイルスが、前記キメラタンパク質以外に、水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質を含む、(1)から(11)の何れか一に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
(15) 前記ウイルスにおける、前記キメラタンパク質と、前記水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質のモル比が、1:1~1:512の範囲内である、(14)に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
(16) 抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質を含むウイルスが、抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質をコードする塩基配列を含むプラスミドベクターと、抗体結合タンパク質をコードする塩基配列を含まず、水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質をコードする塩基配列を含むプラスミドベクターとを組み合わせて使用することによって製造されたものである、(1)から(15)の何れか一に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
(17) 抗体結合タンパク質をコードする塩基配列を含まず、水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質をコードする塩基配列を含むプラスミドベクターと、抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質をコードする塩基配列を含むプラスミドベクターとの質量比が64:1~64:256の範囲内である、(16)に記載の遺伝子導入細胞の製造方法。
【0013】
(18) 抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質と、外来遺伝子とを含むウイルスであって、抗体結合タンパク質が、プロテインLのIgG結合ドメインを含むか、及び/又はプロテインAのIgG結合ドメインを3個以上含む、ウイルス。
(19) ウイルスが、レトロウイルスである、(18)に記載のウイルス。
(20) レトロウイルスが、レンチウイルスである、(19)に記載のウイルス。
(21) (18)から(20)の何れか一に記載のウイルスを含む遺伝子治療剤。
(22) (1)から(17)の何れか一に記載の遺伝子導入細胞の製造方法により得られる遺伝子導入細胞。
(23) (18)から(20)の何れか一に記載のウイルスが感染している遺伝子導入細胞。
(24) 抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質をコードする塩基配列を含むプラスミドベクター。
(25) ヒト初代細胞、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)又はヒト間葉系幹細胞から選択される標的細胞と、前記標的細胞に特異的な抗体とを含む、(1)から(17)の何れか一に記載の遺伝子導入細胞の製造方法を行うためのキット。
【発明の効果】
【0014】
本発明による遺伝子導入細胞の製造方法によれば、標的細胞に遺伝子を効率よく導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の実施例1におけるキメラエンベロープタンパク質発現ベクターの模式図である。
図2図2は、本発明の実施例1におけるキメラエンベロープタンパク質発現ベクターの模式図である。
図3図3は、本発明の実施例6におけるVSV-Gベクター濃度と力価の関係を示す図である。各欄において、pVSV-Gは左のグラフ、pCI-VSV-Gは真ん中のグラフ、pCI-SP-VSV-Gは右のグラフを示す。
図4図4は、本発明の実施例7におけるキメラエンベロープタンパク質発現ベクターの評価結果を示す図である。
図5図5は、本発明の実施例8における抗体結合タンパク質のドメイン数と感染効率の評価結果を示す図である。
図6図6は、本発明の実施例9におけるpVSV-GとpCI-SP-PL6d-VSV-Gとの比率の評価結果を示す図である。
図7図7は、本発明の実施例9におけるpVSV-Gとキメラエンベロープタンパク質発現ベクターとの比率の評価結果を示す図である。各欄において、pVSV-G:pCI-SP-PA6d-VSV-Gは左のグラフ、pVSV-G:pCI-SP-PL6d-VSV-Gは右のグラフを示す。
図8図8は、本発明の実施例9におけるpCI-SP-VSV-Gとキメラエンベロープタンパク質発現ベクターとの比率の評価結果を示す図である。各欄において、pCI-SP-VSV-G:pCI-SP-PA6d-VSV-Gは左のグラフ、pCI-SP-VSV-G:pCI-SP-PL6d-VSV-Gは右のグラフを示す。
図9図9は、本発明の実施例10における抗体を介したT細胞への感染評価結果を示す図である。
図10図10は、本発明の実施例11におけるキメラエンベロープタンパク質を有するレトロウイルスのB細胞への感染評価結果を示す図である。各欄において、FBSは左のグラフ、Ultra-Low IgGFBSは右のグラフを示す。
図11図11は、本発明の実施例12における濃縮レンチウイルスのB細胞への感染評価結果を示す図である。
図12図12は、本発明の実施例13における濃縮レンチウイルスのMSCへの感染評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について以下に説明する。
本発明による遺伝子導入細胞の製造方法は、
(i)抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質と、外来遺伝子とを含むウイルスと;
(ii)標的細胞と前記標的細胞に特異的な抗体、及び/又は膜型抗体を含む標的細胞;
とをインビトロで接触させることにより標的細胞にウイルスをインビトロで感染させる工程を含む、遺伝子導入細胞の製造方法である。
【0017】
(1)抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質と、外来遺伝子とを含むウイルス
本発明で用いるウイルスは、抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質を含む。
【0018】
本発明で用いるウイルスとしては、レトロウイルス、バキュロウイルス、日本脳炎ウイルス、C型肝炎ウイルスなどを使用することができるが、特に限定されない。
レトロウイルスとしては、例えばHIV(Human immunodeficiency virus)又はSIV(Simian Immuno-deficiency Virus)又はBIV(Bovine immunodeficiency virus)由来レンチウイルスベクター、あるいはマウス白血病ウイルス(MoMLV)由来レトロウイルスベクター、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)由来レトロウイスルベクター等を使用することができる。特に、複製能を欠損したレトロウイルスベクターが好適である。
【0019】
本発明において用いるウイルスは、抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質を含む。
【0020】
水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質は、エンベロープタンパク質である。VSV-Gの受容体は膜成分であるリン脂質であり、動物細胞の膜に広く存在することから、本発明の方法によれば種々の動物細胞に所望の外来遺伝子を導入することができる。
【0021】
本発明において好ましくは、抗体結合タンパク質は、プロテインAのIgG結合ドメイン及びプロテインLのIgG結合ドメインのうちの何れか又は両方を含む。
【0022】
プロテインAは、グラム陽性細菌スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)によって生産される細胞壁タンパク質の1種であり、シグナル配列S、5つの免疫グロブリン結合ドメイン(IgG結合ドメイン)(Eドメイン、Dドメイン、Aドメイン、Bドメイン、Cドメイン)、および、細胞壁結合ドメインであるXM領域から構成されている(特許第5952185号公報)。本発明におけるプロテインAのIgG結合ドメインは、IgGに結合できる限り、変異体でもよい。
【0023】
プロテインLとしては、フィネゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)の2つの株由来のものが知られている。1つは3316株由来のプロテインLであり、もう1つの312株由来のプロテインLである。3316株由来のプロテインLは4つの免疫グロブリン結合ドメイン(IgG結合ドメイン)を有し、312株由来のプロテインLは5つの免疫グロブリン結合ドメイン(IgG結合ドメイン)を有している(特開2016-79149号公報の図1)。本発明におけるプロテインLのIgG結合ドメインは、IgGに結合できる限り、変異体でもよい。
【0024】
好ましくは、抗体結合タンパク質は、プロテインAのIgG結合ドメインを3個以上含むことができ、例えば、3個~15個、3個~12個、3個~9個、又は3個~6個でもよい。
【0025】
好ましくは、抗体結合タンパク質は、プロテインLのIgG結合ドメインを3個以上含むことができ、例えば、3個~15個、3個~12個、3個~9個、又は3個~6個でもよい。
抗体結合タンパク質がプロテインAのIgG結合ドメイン及びプロテインLのIgG結合ドメインの両方を含む場合には、上記ドメインの合計数は、好ましくは3個以上であり、例えば、3個~15個、3個~12個、3個~9個、又は3個~6個でもよい。
【0026】
本発明で用いるウイルスの一例としては、抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質と、外来遺伝子とを含むウイルスであって、抗体結合タンパク質が、プロテインLのIgG結合ドメインを含むか、及び/又はプロテインAのIgG結合ドメインを3個以上含む、ウイルスを挙げることができる。
【0027】
キメラタンパク質において、抗体結合タンパク質は、水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質のN末端側に存在していてもよいし、水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質のC末端側に存在していてもよいし、水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質の内部に存在してもよいが、好ましくは、水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質のN末端側に存在している。
【0028】
抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質を含むウイルスは、前記キメラタンパク質以外に、水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質を含むものでもよい。ウイルスが、前記キメラタンパク質以外に、水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質を含む場合、ウイルスにおける、前記キメラタンパク質と、前記水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質のモル比は、好ましくは1:1~1:512の範囲内であり、より好ましくは1:1~1:256の範囲内であり、さらに好ましくは1:1~1:128の範囲内であり、さらに好ましくは1:1~1:64の範囲内であり、さらに好ましくは1:2~1:64の範囲内である。
【0029】
また、ウイルスが、前記キメラタンパク質以外に、水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質を含む場合、ウイルスは、抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質をコードする塩基配列を含むプラスミドベクターと、抗体結合タンパク質をコードする塩基配列を含まず、水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質をコードする塩基配列を含むプラスミドベクターとを組み合わせて使用することによって製造することができる。この場合、抗体結合タンパク質をコードする塩基配列を含まず、水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質をコードする塩基配列を含むプラスミドベクターと、抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質をコードする塩基配列を含むプラスミドベクターとの質量比は好ましくは64:1~64:256の範囲内であり、例えば、64:2~64:256、64:4~64:256、64:8~64:256、64:16~64:256、64:32~64:256でもよいし、64:1~64:128、64:1~64:64、64:1~64:32でもよいし、又は、64:2~64:128、64:4~64:128、64:8~64:128、64:16~64:64でもよい。
【0030】
キメラタンパク質は、分泌シグナルペプチドを含むことができる。分泌シグナルペプチドとしては、例えば、VSV-Gのシグナルペプチド、又はBiochemicaland BiophysicalResearch Communications 294 (2002) 835-842に記載されているシグナルペプチド(hidden Markov Modelによるヒト分泌シグナルペプチド)等を使用することができる。
【0031】
キメラタンパク質は、抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とを連結するためのリンカーを含んでいてもよい。リンカーは、好ましくは柔軟な構造を有し、これにより可動性を付与することができる。後記する実施例においては、リンカーとしてグリシン4つとセリン1つの合計5アミノ酸を基本単位とした15アミノ酸残基からなるフレキシブルなグリシンセリンリンカーを用いているが、リンカーの種類は特に限定されるものではない。
【0032】
抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質を含むウイルスは、以下の方法で作製することができる。
【0033】
レトロウイルスの作製方法としては、レトロウイルスの構造タンパク質を有さない細胞に、gag-pol遺伝子を有する発現ベクター(パッケージングプラスミド)と、抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質をコードする塩基配列を有する発現ベクターと、外来遺伝子を搭載した発現ベクターとを導入することによって、レトロウイルスを産生させる方法を挙げることができる。あるいは、予めgag-pol遺伝子をコードする遺伝子が染色体上に組み込まれたレトロウイルスパッケージング細胞に、抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質をコードする塩基配列を有する発現ベクターと、外来遺伝子を搭載した発現ベクターを導入することによってレトロウイルスを産生させる方法でもよい。
【0034】
レンチウイルス (lentivirus) はレトロウイルス (retrovirus) 科に属するウイルスであり、gag、pol及びenv の 3つの必須遺伝子以外にも、多くの遺伝子をゲノム内に持っている。レンチウイルスベクターはレンチウイルスのゲノム配列を利用したベクターで、増殖中および増殖停止中の細胞に感染させることができる。外来遺伝子は細胞の染色体に挿入されるため、細胞を継体しても導入遺伝子の発現は安定している。
【0035】
レンチウイルス由来のレンチウイルスベクターとしては、HIV-1 (human immunodeficiency virus type 1)、HIV-2、simian immunodeficiency virus、feline immunodeficiency virus、bovine immunodeficiency virus、equine infectious anemia virus、caprine arthritisencephalitis virus、jembrana disease virus、visna virusなどが知られている。さらにgag、pol及びenvの 3つの構造タンパク質からウイルスを産生するためには、rev 遺伝子が必要である。Rev は転写後の RNA に作用し、スプライシングを受けていない gag、gag-pol mRNA を選択的に核外に運び出す。この働きによって構造タンパク質が翻訳される。
【0036】
発現ベクターとしては、好ましくはプラスミドベクターを使用することができる。プラスミドベクターを用いてレンチウイルスを作製する場合には、
・外来遺伝子を有するプラスミドベクター(後記する実施例では、CSIV-CMV-Venus);
・gag遺伝子及びpol遺伝子を有するパッケージングプラスミドベクター(後記する実施例では、pLenti-P3A);
・rev遺伝子を有するパッケージングプラスミドベクター(後記する実施例ではpLenti-P3B);及び
・抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質をコードする塩基配列を有するプラスミドベクター:
を使用することができる。
【0037】
本発明における外来遺伝子は、適当なプロモーター、例えば、ウイルスベクター中に存在するLTRのプロモーターや外来プロモーターの制御下に連結されていてもよい。外来プロモーターとしては、CMV(Cytomegalovirus)、RSV(Respiratory syncytial virus)、SV40(Simian Virus 40)、HSV TK promoter、EF-1 α promoter(Kimら Gene 91, p.217-223 (1990))、CAG promoter(Niwa et al. Gene 108, p.193-200 (1991))、SR α promoter(Takebe et al. Mol. Cell. Biol. 8, p.466 (1988))、βアクチンプロモーター(例えば、特許第5198747号)等の一般的に使用できるプロモーターであれば何を用いてもよい。効率のよい外来遺伝子の転写を達成するためには、プロモーターや転写開始部位と共同する他の調節要素、例えば、エンハンサー配列やターミネーター配列、イントロン配列がベクター内に存在していてもよい。
【0038】
外来遺伝子としては、任意の遺伝子を選ぶことができる。例えば、外来遺伝子は、治療の対象となる疾患に関連している酵素やタンパク質をコードする遺伝子、T細胞レセプター遺伝子、増殖因子をコードする遺伝子、アンチセンスRNAをコードする遺伝子、RNA干渉(RNAi)を起こすRNAをコードする遺伝子、リボザイムをコードする遺伝子等を挙げることができる。あるいは、外来遺伝子としては、ヒトモノクローナル抗体などの産業上有用な抗体、酵素、又はその他の生理活性物質をコードする遺伝子でもよい。遺伝子としてはcDNAを使用することができ、コドンを最適化したcDNAを使用することもできる。
【0039】
本発明で用いるウイルスは、遺伝子導入された細胞の選択を可能にするような適当なマーカー遺伝子を含有していてもよい。マーカー遺伝子としては、例えば、細胞に抗生物質に対する耐性を付与する薬剤耐性遺伝子(ネオマイシン耐性遺伝子等)や、酵素活性や蛍光によって遺伝子導入された細胞を見分けることができるレポーター遺伝子(LacZ(β-ガラクトシダーゼ遺伝子)、GFP(緑色蛍光タンパク質)又はその類縁体等の蛍光タンパク質をコードする遺伝子)、細胞表面に局在する細胞表面マーカー遺伝子等が利用できる。細胞表面マーカー遺伝子は、細胞内領域の一部及び/又は全部を欠損させたものやシグナル伝達能を無くした変異体でも良い。
【0040】
抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質をコードする塩基配列を含むプラスミドベクターは、本発明の一側面を構成する。上記プラスミドベクターには、上記キメラタンパク質を発現できるような適当なプロモーター含んでいてもよい。プロモーターとしては、CMV(Cytomegalovirus)、RSV(Respiratory syncytial virus)、SV40(Simian Virus 40)、HSV TK promoter、EF-1 α promoter(Kimら Gene 91, p.217-223 (1990))、CAG promoter(Niwa et al. Gene 108, p.193-200 (1991))、SR α promoter(Takebe et al. Mol. Cell. Biol. 8, p.466 (1988))、βアクチンプロモーター(例えば、特許第5198747号)等の一般的に使用できるプロモーターであれば何を用いてもよい。効率のよい外来遺伝子の転写を達成するためには、プロモーターや転写開始部位と共同する他の調節要素、例えば、エンハンサー配列、ターミネーター配列、ポリA配列、イントロン配列がベクター内に存在していてもよい。
【0041】
本発明においては、上記した各種発現ベクターを、動物細胞(パッケージング細胞)に導入することによって、動物細胞内においてウイルスを産生させることができる。動物細胞の培養上清を回収することによって、産生したウイルスを回収することができる。動物細胞(パッケージング細胞)としては、293T細胞、及びCOS-1細胞などを使用することができる。
ウイルスの調製や標的細胞への感染に用いる培地に添加する血清として、一般に動物細胞培養に用いられる血清を用いることができるが、免疫グロブリンを含まないものや低減した血清を用いることが好ましい。また、免疫グロブリンを含まない完全合成培地を使用してもよい。
【0042】
(2)標的細胞及び抗体
本発明による遺伝子導入細胞の製造方法においては、(i)ウイルスと、(ii)標的細胞と前記標的細胞に特異的な抗体、及び/又は膜型抗体を含む標的細胞とを接触させることにより標的細胞にウイルスを感染させる。
【0043】
本発明の方法において遺伝子導入の標的となる標的細胞の種類は特に限定されないが、例えば、幹細胞(stem cells:造血幹細胞、間葉系幹細胞、胚性幹細胞(ヒト胚性幹細胞(ES細胞)など)、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)等)、造血細胞、単核細胞(末梢血単核球細胞、臍帯血単核球細胞等)、胚細胞、プライモディアル・ジャーム・セル(primordial germ cell)、卵母細胞、卵原細胞、卵子、精母細胞、精子、赤血球系前駆細胞、リンパ球母細胞、成熟血球、リンパ球、B細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞、線維芽細胞、神経芽細胞、神経細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、肝細胞、筋芽細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、横紋筋細胞、心筋細胞、ガン細胞、骨髄腫細胞及び白血病細胞等を使用することができる。また、標的細胞は、ヒト初代細胞、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)、又は前記細胞から分化誘導された細胞の何れか一種以上でもよい。好ましい標的細胞としては、末梢血単核球細胞、ヒトB細胞、又はヒトT細胞などを挙げることができるが、特に限定されない。
【0044】
血液や骨髄より得られる造血系の細胞は入手が比較的容易であり、またその培養や維持の手法が確立されていることから、本発明の方法において使用するのに好適である。特に導入された遺伝子の生体内での長期にわたる発現が目的の場合には、多能性を有する幹細胞(造血幹細胞、間葉系幹細胞等)や種々の前駆細胞が標的細胞として適している。また、遺伝子治療法をAIDSの治療に適用する場合には、CD4陽性T細胞等の免疫系細胞やその前駆細胞が標的細胞として好適である。
【0045】
ヒト初代細胞、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)又はヒト間葉系幹細胞から選択される標的細胞と、前記標的細胞に特異的な抗体とを含むキットは、上記した本発明による遺伝子導入細胞の製造方法を行うためのキットとして有用である。
【0046】
本発明においては、(i)ウイルスと、(ii)標的細胞と前記標的細胞に特異的な抗体、及び/又は膜型抗体を含む標的細胞とをインビトロで接触させる。
標的細胞に特異的な抗体としては、細胞表面に存在する抗原に特異的な抗体を使用することができる。細胞表面に存在する抗原としては、以下のものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
細胞表面分化抗原(CD(Cluster of Designation)分類されている抗原);
クラスIおよびクラスIIの主要組織適合性抗原;
サイトカイン及び成長ホルモン(例えば、脳由来神経栄養因子(BDNF)、毛様体神経栄養因子(CTNF)、コロニー刺激因子、内皮増殖因子、上皮増殖因子、繊維芽細胞増殖因子、グリア細胞由来神経栄養因子、グリア細胞増殖因子、gro-beta/mip 2、肝細胞増殖因子、インスリン様増殖因子、インターフェロン類(α-IFN、β-IFN、γ-IFN、コンセンサスIFN)、インターロイキン類(IL-1,IL-2,IL-3,IL-4,IL-5,IL-6,IL-7,IL-8,IL-9,IL-10,IL-11,IL-12,IL-13,IL-14)、角質細胞増殖因子、白血病阻害因子、マクロファージ/単球走化性活性化因子、神経成長因子、好中球活性化プロテイン2、血小板由来成長因子、幹細胞因子、トランスフォーミング増殖因子、腫瘍壊死因子および血管内皮増殖因子)の受容体;
細胞接着分子;
アミノ酸などの代謝物の輸送分子;
B-およびT-リンパ球の抗原受容体;及び
リポタンパク質の受容体がある。
【0048】
特定の標的細胞と、それに特異的な細胞表面マーカーの組み合わせを以下に示す。
なお、特定の標的細胞と、それに特異的な細胞表面マーカーの組み合わせは、下記以外についても、BioGPS(http://biogps.org/)、又はUniProt (http://www.uniprot.org/)から探索することができる。
【0049】
多能性幹細胞(ESCs 及び iPSCs):SSEA-4,SSEA-3,TRA-1-81,TRA-1-60
造血幹細胞(Hematopoietic Stem Cells:HSCs):CD34,CD49,CD90/Thy1
多能性前駆細胞(multipotent progenitor:MPP):CD34
リンパ系共通前駆細胞(Common lymphoid progenitor:CLP):CD34,CD38,CD10,CD45RA
骨髄球性共通前駆細胞(common myeloid progenitor:CMP):CD34,CD38,CD135
巨核球・赤芽球共通前駆細胞(megakaryocyte/erythroid progenitor:MEP):CD34,CD38
顆粒球/マクロファージ前駆細胞(granulocyte/macrophageprogenitor:GMP):CD34,CD38,CD45RA,CD123,CD135
NK細胞:CD56,CD94,NKp46
T細胞:CD3
B細胞:CD19
単球:CD14
マクロファージ:CD11b,CD68,CD163
樹状細胞:CD11c,HLA-DR
好中球:CD11b,CD16,CD18,CD32,CD44,CD55
好酸球:CD45,CD125,CD193,F4/80,Siglec-8
好塩基球:CD22,CD45low,CD123
マスト細胞:CD32,CD33,CD117,CD203c,FcεRI
巨核球:CD41b,CD42a,CD42b,CD61
間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells:MSC):CD44,CD73,CD90,CD105,CD146,CD271
神経幹細胞(Neural Stem Cell:NSC):CD15mid,CD24,CD184
ニューロン:CD15low,CD24
腫瘍:CD15,CD24,CD34,CD44,CD45,CD49f,CD166,CD326,CD338,Her-2/Neu,Lgr5
【0050】
本発明においては、細胞表面に存在する抗原として、分化抗原を使用することにより、細胞型の特異的感染が可能になる。
【0051】
本発明の一例においては、標的細胞が、ヒトT細胞であり、標的細胞に特異的な抗体が、抗ヒトCD3抗体、抗ヒトCD8a抗体及び抗ヒトCD11a抗体から選択される少なくとも一以上である。
本発明の別の例においては、標的細胞が、ヒトB細胞であり、IL-4、ODN 2006、CD40受容体を介した刺激、及びBAFF受容体を介した刺激から選択される少なくとも一以上の存在下において前記ウイルスと前記標的細胞とをインビトロで接触させることができる。これにより、細胞の増殖を誘導したり、細胞を活性化することができる。
本発明のさらに別の例においては、標的細胞が、ヒト間葉系幹細胞であり、標的細胞に特異的な抗体が、抗ヒトCD90抗体である。
【0052】
(3)標的細胞へのウイルスの感染
本発明によれば、目的遺伝子を標的細胞へ導入することができる。 即ち、本発明による遺伝子導入細胞の製造方法は、遺伝子導入方法として利用することができる。
【0053】
本発明においては、標的細胞にウイルスをインビトロで接触させて感染させることができる。ウイルスに感染した標的細胞は通常の条件下で培養することによって、導入した遺伝子を発現させることができる。即ち、標的細胞を培養液中において培養することにより、導入された外来遺伝子によってコードされるタンパク質を得ることができる。あるいは、インビトロで形質導入された標的細胞を被験者に移植することもできる。
【0054】
本発明による遺伝子導入細胞の製造方法により得られる遺伝子導入細胞、即ち、上記した本発明のウイルスが感染している遺伝子導入細胞も本発明の範囲内のものである。
【0055】
(4)遺伝子治療剤
本明細書に記載したウイルスは遺伝子治療剤の有効成分として有用である。即ち、本発明によれば、本明細書に記載したウイルスを含む遺伝子治療剤が提供される。より具体的には、抗体結合タンパク質と水疱性口内炎ウイルスG (VSV-G)タンパク質とのキメラタンパク質と、外来遺伝子とを含むウイルスであって、抗体結合タンパク質が、プロテインLのIgG結合ドメインを含むか、及び/又はプロテインAのIgG結合ドメインを3個以上含む、ウイルスを含む遺伝子治療剤が提供される。本発明の遺伝子治療剤は、有効成分であるウイルスと組み合せて、薬学上許容できる担体又は希釈剤等のその他の成分を含んでいてもよい。本明細書に記載したウイルスを含む遺伝子治療剤を被験者(患者など)に投与することを含む遺伝子治療方法も本発明の範囲内である。
【0056】
本発明においては、本発明の遺伝子治療剤と、所望により抗体とを、被験者に直接投与してもよい。被験者に対する投与経路は、ウイルスと標的細胞とが接触できる限り、特に限定されず、任意の投与経路を採用できる。例えば、肝臓、脾臓、腎臓、心臓、循環系または造血系の標的細胞については、静脈投与が適切である。ウイルスは、標的器官につながる動脈または静脈へのカテーテル注入によって投与することもでき、それによれば局所投与が可能である。標的細胞が呼吸器系である場合には、ウイルスは吸気によって投与することもできる。
【0057】
本発明の遺伝子治療剤の投与量は、ウイルスに含まれる外来遺伝子の種類、治療対象である疾患の種類及び投与部位、重篤度、並びに患者の年齢、体重、性別及び健康状態などに応じて、当業者が適宜選択することができる。ウイルスの力価としては、10の5乗cfu/mlより大きい力価を有することが好ましく、さらに好ましくは10の6乗cfu/mlより大きい力価を有することが好ましく、さらに好ましくは10の7乗cfu/mlよ り大きい力価を有することが好ましく、さらに好ましくは10の8乗cfu/mlより大きい力価を有することが好ましく、さらに好ましくは10の9乗cfu/mlより大きい力価を有することが好ましく、さらに好ましくは10の10乗cfu/mlより大きい力価を有することが好ましく、さらに好ましくは10の11乗cfu/mlより大きい力価を有することが好ましい。本発明のウイルスは、物理的に強く超遠心により容易に濃縮が可能である。
【0058】
本発明の遺伝子治療剤を患者に投与することによって、標的領域における所定の細胞に導入された遺伝子は上記細胞の染色体に組み込まれ、外来遺伝子を安定的に発現させることができる。この遺伝子導入方法を利用して、ヒト等の霊長類を含む哺乳動物の各種疾患について遺伝子治療を実施することが可能である。
【0059】
例えば、CD4陽性T細胞を標的細胞とした遺伝子治療法は、以下の手順で行うことができる。ドナーよりCD4陽性T細胞を含有する材料として、例えば、骨髄組織、末梢血液、又は臍帯血液等を採取する。採取した材料はそのまま遺伝子導入に用いてもよいが、密度勾配遠心分離等の方法により単核細胞画分を調製することができる。さらにCD4分子を指標とした細胞の精製、CD8陽性T細胞および/または単球の除去、ならびにCD4陽性T細胞数を拡大する培養操作を行うこともできる。これらの細胞集団について、必要に応じて予備刺激(例えばCD3リガンド、CD28リガンド、またはIL-2による刺激)を行った後、本発明の方法により、外来遺伝子を搭載したウイルスを感染させる。上記により得られた遺伝子導入細胞は、例えば、静脈内投与によってレシピエントに移植することができる。レシピエントは、好ましくはドナー自身であるが、同種異系移植を行うことも可能である。
【0060】
造血幹細胞を標的とした遺伝子治療法としては、患者において欠損しているか、異常が見られる遺伝子を補完するものがあり、例えば、ADA欠損症やゴーシェ病の遺伝子治療法などを挙げることができる。この他、例えば、ガンや白血病の治療に使用される化学療法剤による造血細胞の障害を緩和するために、造血幹細胞への薬剤耐性遺伝子の導入を行うことも挙げられる。
【0061】
癌の遺伝子治療法としては、腫瘍抗原を認識するT細胞レセプターをコードする遺伝子を導入することにより、リンパ球に当該抗原を発現する癌細胞に対する特異的な細胞傷害活性を付与する方法が研究されている。さらに、AIDSを遺伝子治療法によって治療しようという試みも行われている。この場合には、AIDSの原因であるHIVが感染するCD4陽性T細胞等のT細胞に、HIVの複製や遺伝子発現を妨げるような核酸分子(一本鎖特異的エンドリボヌクレアーゼ、アンチセンス核酸、リボザイム等)をコードする遺伝子を導入することが考えられている。
【実施例
【0062】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。遺伝子操作について特に記述のないものに関しては代表的な方法に従った(J. Sambrook , E.F. Fritsch , t. Maniatis; Molecular Cloning,A Laboratory Manual, 2nd Ed, Cold Spring Harbor Laboratory)。細胞培養について特に記述のないものに関しては代表的な方法に従った(小山 秀機編集「細胞培養ラボマニュアル」シュプリンガー・フェアラーク東京 第1判)。商品名を記載している場合は特に記載のない限り添付の説明書の指示に従った。
【0063】
(実施例1)抗体結合タンパク質とVSV-G(水疱性口内炎ウイルスG)タンパク質とのキメラエンベロープタンパク質発現ベクター作製
pVSV-G(クロンテック社)をXhoIで部分消化(消化箇所が2箇所以上あるが全部が消化されないように処理している)後、平滑化、電気泳動し約6500bpのバンドを回収し、MinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いて精製、DNA Ligation Kit Ver.2.1(タカラバイオ社)を用いてライゲーションし、VSV-GのORF下流のXho I部位がPvuIに変換されたプラスミド(pVSV-G(back XhoI to PvuI))を作製した。配列番号1及び配列番号2を全合成し、XhoIとSwaIで消化後、電気泳動しそれぞれ約550bpのバンド及び約560bpのバンドを回収、精製した。pVSV-G(back XhoI to PvuI)をXhoIとSwaIで消化し、脱リン酸化処理後、電気泳動し約6400bpのバンドを回収、精製した。配列番号1及び配列番号2由来の断片それぞれとpVSV-G(back XhoI to PvuI)由来の断片をライゲーションしプラスミドpPA2d-VSV-G、pPG2d-VSV-Gを作製した(図1)。ライゲーションしたプラスミドを用い大腸菌JM109(TOYOBO社)を形質転換し最終濃度100μg/mlのカルベニシリンを含む2×YT寒天培地及び2×YT培地で培養し、配列解析やプラスミド調製を行なった。プラスミドの精製は、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN社)やNucleoBond Xtra Midi(タカラバイオ社)を用いた。
【0064】
pCI-neo(プロメガ社)をClaIで消化後、電気泳動し約3500bpのバンドを回収、精製、ライゲーションし、pCIを作製した。pCIをEcoRIで十分に消化(消化箇所が複数ありが全部が完全に消化されるように処理している)し、脱リン酸化処理後、電気泳動し約3500bpのバンドを回収、精製した。pVSV-GをEcoRIで十分に消化後、電気泳動し約2800bpのバンドを回収、精製した。pCI由来の断片とpVSV-G由来の断片をライゲーションし、CMVプロモーター側に開始コドンが挿入されたプラスミドを選択し、pCI-VSV-Gを作製した(図1)。pCI-VSV-GをXhoIとSwaIで消化し、脱リン酸化処理後、電気泳動し約5000bpのバンドを回収、精製した。配列番号3及び配列番号4を全合成し、XhoIとSwaIで消化後、電気泳動しそれぞれ約180bp及び約220bpのバンドを回収、精製した。pCI-VSV-G由来の断片と配列番号3及び配列番号4由来の断片をそれぞれライゲーションし、pCI-SP-VSV-G及びpCI-SP-GS2-VSV-Gを作製した(図1)。HMM-38 signal peptideはBiochem Biophys Res Commun. 2002 Jun 21;294(4):835-42.を参照した。
【0065】
pCI-SP-GS2-VSV-GをNaeIで消化し、脱リン酸化処理後、電気泳動し約5700bpのバンドを回収、精製した。配列番号5及び配列番号6及び配列番号7を全合成しそれぞれEheI、NaeI及びScaI、SacI及びMlyI、NaeIで消化後、電気泳動しそれぞれ約500bp及び約580bp及び約620bpのバンドを回収、精製した。pCI-SP-GS2 VSV-G由来の断片と配列番号5及び配列番号6及び配列番号7由来の断片をそれぞれライゲーションし、pCI-SP-PA3d-GS2-VSV-G、pCI-SP-PG3d-GS2-VSV-G、pCI-SP-PL3d-GS2-VSV-Gを作製した(図1)。配列番号5及び/又は配列番号7由来の断片を直鎖状 DNAを生成するライゲーションし、目的のバンドを回収、精製しpCI-SP-GS2-VSV-G由来の断片とライゲーションし、プロモーターに対して正しい方向に挿入された断片を選抜することにより、pCI-SP-PA6d-VSV-G、pCI-SP-PA9d-VSV-G、pCI-SP-PA12d-VSV-G、pCI-SP-PL6d-VSV-G、pCI-SP-PL9d-VSV-G、pCI-SP-PL12d-VSV-G、pCI-SP-PA3d-PL3d-VSV-G、pCI-SP-PL3d-PA3d-VSV-Gを得た(図2)。
【0066】
(実施例2)ベクタープラスミドの作製
細胞への感染効率を測定するレンチウイルスベクタープラスミドとして、CSIV-CMV-Venusを用いた。CSIV-CMV-MCS-IRES2-Venus(Cancer Sci. 2014 Apr;1054:402-8.)をBalIで部分消化し、Aor51HIで消化後、電気泳動し約9030bpのバンドを回収、精製、ライゲーションし、CSIV-CMV-Venusを作製した。レンチウイルス作製時に用いる、パッケージングプラスミドとしては、3rd Generation pLenti-Combo Mix(アプライドバイオロジカル社)のpLenti-P3A(gag、polのパッケージングプラスミド)及びpLenti-P3B(revのパッケージングプラスミド)を用いた。envのパッケージングプラスミドとしては実施例1に記載のパッケージングプラスミドを用いた。
【0067】
細胞への感染効率を測定するレトロウイルスベクタープラスミドとして、pMSCV-bact-Venus-wpreを用いた。pMSCV-neo-bact-fEPO-wpre(特許第5198747号)をNotIで消化後、電気泳動し約6200bpのバンドを回収、精製、ライゲーションし、pMSCV-bact-fEPO-wpreを作製した。pMSCV-bact-fEPO-wpreをSalIとHindIIIで消化し、脱リン酸化処理後、電気泳動し約5050bpのバンドを回収、精製した。CSIV-CMV-MCS-IRES2-Venusを鋳型とし、配列番号8、配列番号9プライマーとしてPCRにより増幅した断片をMinElute PCR Purification Kit(QIAGEN社)により精製、回収しSalIとHindIIIで消化後、電気泳動し約790bpのバンドを回収、精製した。pMSCV-bact-fEPO-wpre由来の断片とCSIV-CMV-MCS-IRES2-Venus由来の断片をライゲーションし、pMSCV-bact-Venus-wpreを作製した。
【0068】
(実施例3)フィーダー細胞の作製
ヒトB細胞培養のためヒトCD40リガンドとヒトBAFFを発現するフィーダー細胞を作製した。ヒトCD40リガンド(例えば、Eur J Immunol. 1992 Dec;22(12):3191-4.及び、EMBO J. 11 (12), 4313-4321 (1992)、NCBI Reference Sequence: NM_000074)参照)を及びヒトBAFF(例えば、J Exp Med. 1999 Jun 7;189(11):1747-56. 、Science. 1999 Jul 9;285(5425):260-3. 、NCBI Reference Sequence: NM_006573)は文献情報等を元に全合成した。pMSCV-bact-fEPO-wpreをNotIとClaIで消化し、脱リン酸化処理後、電気泳動し約5000bpのバンドを回収、精製した。配列番号10、配列番号11の5’末端をリン酸化した1本鎖DNAを合成し、混合し熱処理後、穏やかに冷却し2本鎖DNAとし、pMSCV-bact-fEPO-wpre由来の断片とライゲーションし、pMSCV-MCS-wpreを作製した。pMSCV-MCS-wpreをNotIとXhoIで消化し、脱リン酸化処理後、電気泳動し約5100bpのバンドを回収、精製した。CSIV-CMV-MCS-IRES2-VenusをNotIとXhoIで消化後、電気泳動し約1300bpのバンドを回収、精製した。pMSCV-MCS-wpre由来の断片とCSIV-CMV-MCS-IRES2-Venus由来の断片をライゲーションし、pMSCV-IRES2-Venus-wpreを作製した。pMSCV-IRES2-Venus-wpreをNotIとEcoRIで消化し、脱リン酸化処理後、電気泳動し約5000bpのバンドを回収、精製した。CSIV-CMV-MCS-IRES2-Venusを鋳型とし、配列番号12、配列番号13をプライマーとしてPCRにより増幅後、電気泳動し約1300bpのバンドを回収、精製した。合成したヒトCD40リガンドcDNAを鋳型として、配列番号14、配列番号15をプライマーとしてPCRにより増幅後、電気泳動し約830bpのバンドを回収、精製した。約1300bpのバンドと約830bpのバンドを鋳型として、配列番号12、配列番号15をプライマーとしてPCRにより増幅後、精製した。これをNotIとEcoRIで消化し、電気泳動し約1400bpのバンドを回収、精製し、pMSCV-IRES2-Venus-wpre由来の断片とライゲーションし、pMSCV-IRES2-CD40L-wpreを作製した。pMSCV-IRES2-CD40L-wpreをNotIで消化し、脱リン酸化処理後、電気泳動し約6400bpのバンドを回収、精製した。合成したヒトBAFFcDNAを鋳型として、配列番号16、配列番号17をプライマーとしてPCRにより増幅後、精製し、NotIで消化し、電気泳動し約900bpのバンドを回収、精製しpMSCV-IRES2-CD40L-wpre由来の断片とライゲーションし、5`LTRプロモーター側にヒトBAFFの開始コドンが挿入されたプラスミドを選択し、pMSCV-BAFF-IRES2-CD40L-wpreを作製した。特許第5198747号に従って、レトロウイルスベクターを作製し、Balb/c 3T3細胞に感染させた。BAFFの発現はHuman BAFF Quantikine ELISA Kit(R&D Systems社)、CD40Lの発現はFITC anti-human CD154 Antibody(バイオレジェンド社)を用いてフローサイトメーターで評価した。BAFFとCD40Lの発現を指標にクローン化してh40LBとした。
【0069】
(実施例4)sCD40L、sBAFFの調製
E. coli HST04 Competent Cells(タカラバイオ社)をpIRES(タカラバイオ社)で形質転換し、最終濃度100μg/mlのカルベニシリンを含む2×YT培地で培養し、プラスミド調製を行なった。pIRESをClaIで消化後、電気泳動し約4100bpのバンドを回収、精製、ライゲーションし、dpIRESを作製した。dpIRESをSmaIで完全に消化し、脱リン酸化処理後、電気泳動し約4100bpのバンドを回収、精製した。pLVSIN-EF1α Pur(タカラバイオ社)を鋳型とし、配列番号18、配列番号19をプライマーとしてPCRにより増幅した断片を精製、回収し、リン酸化後、電気泳動し約600bpのバンドを回収、精製した。dpIRES由来の断片とpLVSIN-EF1α Pur由来の断片をライゲーションし、IRES側に開始コドンが挿入されたプラスミドを選択しdpIRES-Purを作製した。dpIRES-PurをXhoIとMluIで消化し、脱リン酸化処理後、電気泳動し約4700bpのバンドを回収、精製した。配列番号20、配列番号21の5’末端をリン酸化した1本鎖DNAを合成し、混合し熱処理後、穏やかに冷却し2本鎖DNAとし、dpIRES-Pur由来の断片とライゲーションし、dpCMV-MCS-IRES-Purを作製した。配列番号22を全合成し、NheIとEcoIで消化後、電気泳動しそれぞれ約900bpのバンドを回収、精製した。dpCMV-MCS-IRES-PurをNheIとEcoIで消化し、脱リン酸化処理後、電気泳動し約4700bpのバンドを回収、精製した。配列番号22由来の断片とdpCMV-MCS-IRES-Pur由来の断片をライゲーションし、dpCMV-sCD40L-IRES-Purを作製した。dpCMV-sCD40L IRES-Purを用いて293T細胞を形質転換し、ピューロマイシン存在下で安定発現細胞を選択し293T(sCD40L)をクローン化した。293T(sCD40L)を293 SFM II(Thermo Fisher Scientific社)(2×GlutaMAX(Thermo Fisher Scientific社)を含む)で培養し、上清をStrep-Tactin Sepharose Column(IBA社)で精製した。溶出した精製溶液はVivaspin Turbo 15 (MWCO:10,000)(ザルトリウス社)を用いてPBSに置換した(精製sCD40L)。配列番号23を全合成し、同様の実験を行うことによって、精製sBAFFを得ることができる。CD40LやBAFFはTNFスーパーファミリーに属するホモ三量体のII型膜タンパク質である。CD40LやBAFFの細胞外領域と配列番号24のコイルドコイル配列(Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 1995 Apr 29;348(1323):81-8.)を融合させることにより、活性型の三量体タンパク質として生産することができる。
【0070】
(実施例5)血液からの細胞分離
血液の使用は社内の倫理委員会によって承認され、インフォームドコンセントを条件として行なった。医師・看護師によりテルモ血液バッグCPDA(テルモ社)に採血し、Lymphoprep Tube (tube size: 50mL)(Alere Technologies AS社)を用いて単核球分離を行ないPBMCとした。常法により、ビオチン-抗ヒトCD2抗体(バイオレジェンド社)、ビオチン-抗ヒトCD235a抗体(eBioscience社)を反応させ、CD2、CD235陰性の細胞を、Streptavidin-Particle Plus-DM、BD IMagnet(BD Bioscience Pharmingen社)を用いて回収した。これに、常法によりPE/Cy7抗ヒトCD19抗体を反応させ、ARIAIII(BD バイオサイエンス社)でCD19陽性の細胞ソーティングし、ヒトB細胞を得た。これを、CELLBANKER2(タカラバイオ社)で凍結保存し、凍結B細胞とした。また、採血した血液をRosetteSep human B cell(STEMCELL Technologies社)を用いてB細胞を分離し新鮮B細胞とした。
【0071】
(実施例6)pVSV-G、pCI-VSV-G、pCI-SP-VSV-Gの評価
293T細胞をコラーゲンコートした24ウェルプレートに6×105となるように播種し、Advanced RPMI 1640培地(2×GlutaMAXと10%FBSを含む)(Thermo Fisher Scientific社)で一晩培養した。翌日、0.5 mLのAdvanced RPMI 1640培地(2×GlutaMAXと2%FBSを含む)に交換し、Lipofectamine 3000 Reagent(Thermo Fisher Scientific社)を用いてCSIV-CMV-Venusを0.5 μg及びpLenti-P3Aを0.5 μg及びpLenti-P3Bを0.5 μgと、エンベロープタンパク質発現ベクター(pVSV-G、pCI-VSV-G、pCI-SP-VSV-G)をトランスフェクションした。エンベロープタンパク質発現ベクターは、2μgから1/64μgで検討した。トランスフェクションから4時間後に2mLのAdvanced RPMI 1640培地(2×GlutaMAXと2%FBSを含む)に交換し2日間培養しレンチウイルスベクターを作製した。作製したレンチウイルスベクターは0.8μmのフィルターでろ過してウイルス上清液ストックとし、1mLずつを24ウェルプレートに2×105で播種した293T細胞に一晩感染させた。翌日培地交換し、感染から2日後にAccumax(Innovative Cell Technologies社)で剥離させた細胞をヨウ化プロピジウム溶液(SIGMA社)で染色後、フローサイトメーターで解析し、感染時細胞数(2×105)×生細胞Venus陽性/総生細胞から力価(titer (TU/ml))を算出した。VSV-Gベクター濃度と力価の関係の結果を図3に示す。どのVSV-Gベクターでもウイルスが産生するが、至適ベクター濃度が異なった。これは、ベクター毎にVSV-Gの発現量が異なるためで、各ベクターの発現量はpCI-VSV-G<pCI-SP-VSV-G<pVSV-Gと推察される。ウイルス力価はpVSV-G(1/16 μg/24 ウェルプレート)、pCI-SP-VSV-G(1/2 μg/24 ウェルプレート)、pCI-VSV-G(1 μg/24 ウェルプレート)で高くなっため、pCI-VSV-GはpVSV-Gの1/16前後、pCI-SP-VSV-GはpVSV-Gの1/8前後の発現量であると推察される。
【0072】
(実施例7)抗体結合タンパク質(プロテインA:PA、プロテインG:PG、プロテインL:PL)とVSV-G(水疱性口内炎ウイルスG)タンパク質のキメラエンベロープタンパク質発現ベクターの評価
レンチウイルスベクターの作製と力価測定は、実施例6と同様に行なった(図4)。但し、エンベロープタンパク質発現ベクターは、表1のような量比で用いた。B細胞への感染検討は、凍結B細胞を1.25×10の5乗となるように遠心分離し、ウイルス上清液(IL-4 50 ng/mL、IL-2 25 U/mL、sCD40L 400 ng/mL、sBAFF 100 ng/mLを含む)1 mLで懸濁し24ウェルプレートに播種し一晩感染させた。翌日、細胞を遠心分離し、Advanced RPMI 1640(2% FBS、IL-4 50 ng/mL、IL-2 25 U/mL、sCD40L 400 ng/mL、sBAFF 100 ng/mL、A286982 2 μM) に懸濁し培養を続けた。3日後、細胞を遠心分離し、Advanced RPMI 1640(2% FBS、IL-21 10 ng/mL、IL-2 25 U/mL、sCD40L 400 ng/mL、sBAFF 100 ng/mL、A286982 2 μM)に懸濁し培養を続けた。3日後、ヨウ化プロピジウム溶液染色後、フローサイトメーターで解析し、Venus陽性細胞の割合い(%)を算出した。結果を図4に示す。PA又はPLとVSV-Gタンパク質のキメラエンベロープタンパク質発現ベクターを用いることにより、B細胞への感染効率が顕著に増加している。PGとVSV-Gタンパク質のキメラエンベロープタンパク質発現ベクターでは、pVSV-GよりもB細胞への感染効率は低下した。また、PAでドメイン数を、2ドメインから3ドメインに増やすことにより力価あたりの感染効率が約1.8倍に増加した。
【0073】
【表1】
【0074】
(実施例8)抗体結合タンパク質のドメイン数と感染効率の評価
293T細胞をコラーゲンコートした12ウェルプレートに1.1×106となるように播種し、Advanced RPMI1640培地(2×GlutaMAXと10%FBSを含む)で一晩培養した。翌日、1mLのAdvanced RPMI1640培地(2×GlutaMAXと2%FBS(ultra-low IgG)(Thermo Fisher Scientific社)を含む)に交換し、Lipofectamine 3000 Reagentを用いてCSIV-CMV-Venusを1 μg及びpLenti-P3Aを1μg及びpLenti-P3Bを1μgとpVSV-Gを0.125μgとキメラエンベロープタンパク質発現ベクター0.25μgをトランスフェクションした。トランスフェクションから4時間後に5mLのAdvanced RPMI1640培地(2×GlutaMAXと2%FBS(ultra-low IgG)を含む)に交換し2日間培養しレンチウイルスベクターを作製した。作製したレンチウイルスベクターは0.8μmのフィルターでろ過してウイルス上清液ストックとした。24ウェルプレートに293T細胞を1.3×105で播種し、1mLのAdvancedDMEM培地(Thermo Fisher Scientific社)(2×GlutaMAXと2%FBSを含む)で培養した。これに、0.2mLずつのウイルス上清液ストックを添加し一晩感染させた。翌日培地交換し、感染から5日後にAccumaxで剥離させた細胞をヨウ化プロピジウム溶液で染色後、フローサイトメーターで解析し、感染時細胞数(1.3×105)×生細胞Venus陽性/総生細胞から力価(titer (TU/ml))を算出した。抗体結合タンパク質のドメイン数と力価の関係の結果を図5に示す。凍結B細胞をAdvanced RPMI1640(2%FBS(ultra-low IgG)、IL-4 50ng/mL、IL-2 25U/mL、sCD40L 400ng/mL、sBAFF 100ng/mL、A286982 2μMを含む)で2日間培養した。これを遠心分離し、5000個のB細胞にウイルス上清液ストック1mLを感染させた。2時間後遠心分離し、B細胞をフィーダー細胞(前日に24ウェルプレートに1×105となるように播種したh40LB)上に播種し、Advanced RPMI1640(2% FBS、IL-21 10ng/mL、IL-2 25U/mLを含む)で培養した。5日後、Accutase(Innovative Cell Technologies社)で細胞を剥離、遠心分離した。これに常法により、Alexa Fluor 647抗ヒトCD19抗体を反応させ、ヨウ化プロピジウム溶液染色後、フローサイトメーターで解析し、CD19陽性細胞をB細胞として、生存B細胞中のVenus陽性B細胞の割合い(%)を算出した。抗体結合タンパク質のドメイン数とB細胞への感染効率の結果を図5に示す。pVSV-Gでは、感染効率は1%未満であったが、キメラエンベロープタンパク質ではどのドメイン数でも6%以上の感染効率を示した。PLとPAを組み合わせたものでも、B細胞への感染効率は7%以上であった。PA、PLどちらにおいても、6~12ドメインで3ドメインより高いB細胞への感染効率を示した。
【0075】
(実施例9)VSV-Gベクターとキメラエンベロープタンパク質発現ベクターとの比率の評価
293T細胞をコラーゲンコートした24ウェルプレートに6×105となるように播種し、Advanced DMEM培地(2×GlutaMAXと10%FBSを含む)で一晩培養した。翌日、0.5mLのAdvanced DMEM培地(2×GlutaMAXと2%FBS(ultra-low IgG)と10 mM HEPES(Thermo Fisher Scientific社)を含む)に交換し、Lipofectamine 3000 Reagentを用いてCSIV-CMV-Venusを0.5μg及びpLenti-P3Aを0.5μg及びpLenti-P3Bを0.5μgと、エンベローププラスミドを表2、3、4の量比でトランスフェクションした。トランスフェクションから4時間後に2mLのAdvanced DMEM培地(2×GlutaMAXと2%FBS(ultra-low IgG)と10mM HEPESを含む)に交換し2日間培養しレンチウイルスベクターを作製した。作製したレンチウイルスベクターは0.8μmのフィルターでろ過してウイルス上清液ストックとした。10μLずつを24ウェルプレートに5×105で播種した293T細胞に一晩感染させた(2mLのAdvancedDMEM培地(2×GlutaMAXと2%FBSを含む)で培養)。翌日培地交換し、感染から2日後にAccumaxで剥離させた細胞をヨウ化プロピジウム溶液で染色後、フローサイトメーターで解析し、感染時細胞数(5×105)×生細胞Venus陽性/総生細胞から力価(titer (TU/ml))を算出した。表2、3、4の結果を図6、7、8に示す。凍結B細胞を5×104となるように遠心分離し、ウイルス上清液(IL-4 50ng/mL、IL-2 25U/mL、sCD40L 400ng/mL、sBAFF 100ng/mLを含む)1mLで懸濁し24ウェルプレートに播種し一晩感染させた。これを遠心分離し、B細胞をフィーダー細胞(前日に24ウェルプレートに1×105となるように播種したh40LB)上に播種し、Advanced RPMI1640(2% FBS(ultra-low IgG)、IL-21 10ng/mL、IL-2 25U/mLを含む)で培養した。5日後、Accutaseで細胞を剥離、遠心分離した。これに常法により、Alexa Fluor 647抗ヒトCD19抗体とBrilliant Violet 421抗マウスH-2Kd抗体を反応させ、ヨウ化プロピジウム溶液染色後、フローサイトメーターで解析し、ヒトCD19陽性、マウスH-2Kd陰性細胞をB細胞として、生存B細胞中のVenus陽性B細胞の割合い(%)を算出した。表2、3、4の結果を図6、7、8に示す。図6からキメラエンベロープベクターの比率が増えるに連れてウイルス力価が低下する傾向が見られる。一方で、B細胞への感染は、pVSV-G:pCI-SP-PL6d-VSV-Gが64:32で最大となった。実施例6(図3)の結果から、pCI-SP-VSV-GはpVSV-Gの1/8前後であったため、ウイルスベクター上でVSV-Gタンパク質:キメラエンベロープタンパク質が16:1前後でB細胞への感染効率が高いと推定される。図7でpVSV-Gとキメラエンベロープベクターの比率をより細かく調べた。pVSV-G:pCI-SP-PA6d-VSV-Gでは5:5、pVSV-G:pCI-SP-PL6d-VSV-Gでは5:4でB細胞への感染効率が最大となった。pVSV-G:pCI-SP-PA6d-VSV-Gでは、pCI-SP-PA6d-VSV-Gの比率がもっと多くてもよい可能性がある。図8でpCI-SP-VSV-Gとキメラエンベロープベクターの比率を調べた。pCI-SP-VSV-G:pCI-SP-PA6d-VSV-Gでは16:8、pCI-SP-VSV-G:pCI-SP-PL6d-VSV-Gでは16:2でB細胞への感染効率が最大となった。pCI-SP-PA6d-VSV-Gでは、pCI-SP-PL6d-VSV-Gに比べてより多くのベクター量が必要となる。
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
(実施例10)抗体を介したT細胞への感染評価
293T細胞をコラーゲンコートした6ウェルプレートに3×106となるように播種し、Advanced DMEM培地(2×GlutaMAXと10%FBSを含む)で一晩培養した。翌日、2mLのAdvanced DMEM培地(2×GlutaMAXと2%FBS(ultra-low IgG)とを含むと10mM HEPESを含む)に交換し、Lipofectamine 3000 Reagentを用いてCSIV-CMV-Venusを2.5μg及びpLenti-P3Aを2.5μg及びpLenti-P3Bを2.5μgと、pVSV-Gを0.625μg、又はpVSV-Gを0.625μgとpCI-SP-PA6d-GS2-VSV-G、又はpVSV-Gを0.625μgとpCI-SP-PL6d-GS2-VSV-Gを0.625μgをトランスフェクションした。トランスフェクションから4時間後に12mLのAdvanced DMEM培地(2×GlutaMAXと2%FBS(ultra-low IgG)と10mM HEPESを含む)に交換し2日間培養しレンチウイルスベクターを作製した。作製したレンチウイルスベクターは0.8μmのフィルターでろ過してウイルス上清液ストックとした。10μLずつを24ウェルプレートに5×105で播種した293T細胞に一晩感染させた(2mLのAdvanced DMEM培地(2×GlutaMAXと2%FBSを含む)で培養)。翌日培地交換し、感染から5日後にAccumaxで剥離させた細胞をDRAQ7(BioStatus Limited社)で染色後、フローサイトメーターで解析し、感染時細胞数(5×105)×生細胞Venus陽性/総生細胞から力価(titer (TU/ml))を算出した。結果を図9に示す。1×106のPBMCを常法により、抗ヒトCD3抗体、又は、抗ヒトCD8a抗体、又は、抗ヒトCD11a抗体、又は、抗ヒトCD19抗体(バイオレジェンド社)と1.0 μg/mlの濃度で反応させ、PBSによる洗浄で余剰の抗体をよく取り除いた後、1 mLのウイルス上清液ストックを用い、37℃で30分間感染させた。遠心分離でウイルス液を除いた後、Advanced RPMI1640(2% FBS(ultra-low IgG)、IL-2 600U/mL、抗ヒトCD3抗体 30ng/mLを含む)で4日間培養した。これに常法により、APC抗ヒトCD3抗体とBrilliant Violet 421抗ヒトCD19抗体を反応させ、ヨウ化プロピジウム溶液染色後、フローサイトメーターで解析し、CD3陽性、CD19陰性細胞をT細胞として、生存T細胞中のVenus陽性T細胞の割合い(%)を算出した。結果を図9に示す。pCI-SP-PA6d-GS2-VSV-Gを用いた際、T細胞表面に発現していると考えられるCD3、又はCD8a、又はCD11aと、抗ヒトCD3抗体、又は、抗ヒトCD8a抗体、又は、抗ヒトCD11a抗体とを介してT細胞への感染効率が向上した。pCI-SP-PL6d-GS2-VSV-Gでは、pVSV-Gよりは感染効率が高いが、pCI-SP-PA6d-GS2-VSV-Gほどの感染効率の向上は見られない。PAとPLでは、抗体への結合領域が違うため抗体を介した感染効率に影響している可能性がある。
【0080】
(実施例11)キメラエンベロープタンパク質を有するレトロウイルス(レンチウイルス以外のレトロウイルス)のB細胞への感染評価
GP293細胞をコラーゲンコートした12ウェルプレートに1.5×106となるように播種し、Advanced DMEM培地(2×GlutaMAXと10mM HEPESと10%FBSを含む)で一晩培養した。翌日、1mLのAdvanced DMEM培地(2×GlutaMAXと10mM HEPESと10%FBS(ultra-low IgG)を含む)に交換し、Lipofectamine 3000 Reagentを用いてpMSCV-bact-Venus-wpreを2μgと、pVSV-Gを0.5μg又はpVSV-Gを0.5μgとpCI-SP-PA6d-GS2-VSV-Gを0.5μg又はpVSV-Gを0.5μgとpCI-SP-PL6d-GS2-VSV-Gを0.5 μgをトランスフェクションした。トランスフェクションから4時間後に5mLのAdvanced DMEM培地(2×GlutaMAXと10%FBS又は10%FBS(ultra-low IgG)を含む)に交換し2日間培養しレトロウイルスベクターを作製した。作製したレトロウイルスベクターは0.8μmのフィルターでろ過してウイルス上清液ストックとした。20μLずつを24ウェルプレートに5.0×105で播種した293T細胞に一晩感染させた(2mLのAdvanced DMEM培地(2×GlutaMAXと2%FBSを含む)で培養)。翌日培地交換し、感染から5日後にAccumaxで剥離させた細胞をヨウ化プロピジウム溶液染色後、フローサイトメーターで解析し、感染時細胞数(5.0×105)×生細胞Venus陽性/総生細胞から力価(titer (TU/ml))を算出した。結果を図10に示す。凍結B細胞を解凍、遠心分離し、8000個のB細胞にウイルス上清液ストック1mLを感染させた。2時間後遠心分離し、B細胞をフィーダー細胞(前日に24ウェルプレートに1×105となるように播種したh40LB)上に播種し、Advanced RPMI1640(2% FBS(ultra-low IgG)、IL-21 10ng/mL、IL-2 25U/mLを含む)で培養した。5日後、Accutaseで細胞を剥離、遠心分離した。これに常法により、Alexa Fluor 647抗ヒトCD19抗体とBrilliant Violet 421抗マウスH-2Kd抗体を反応させ、ヨウ化プロピジウム溶液染色後、フローサイトメーターで解析し、ヒトCD19陽性、マウスH-2Kd陰性細胞をB細胞として、生存B細胞中のVenus陽性B細胞の割合い(%)を算出した。結果を図10に示す。レンチウイルス以外のレトロウイルスでは、レンチウイルスの場合よりB細胞への感染効率は低いが、pVSV-Gに比べてキメラエンベロープタンパク質発現ベクター用いた際に感染効率が向上している。また、キメラエンベロープタンパク質発現ベクター用いた際にFBS(ultra-low IgG)の利用で力価、B細胞への感染効率ともに向上している。
【0081】
(実施例12)濃縮レンチウイルスのB細胞への感染評価
レンチウイルス上清液ストックを実施例6と同様に調製した。20mLを、42,200 ×g、4℃で2時間遠心分離した。それぞれの沈殿を1mLのAdvanced RPMI1640(IL-4 50ng/mL、IL-2 25U/mL、sCD40L 400ng/mL、sBAFF 100ng/mL、ODN 2006(ミルテニーバイオテク社) 2.5μg/mLを含む)に懸濁し、濃縮レンチウイルス液を作製した。濃縮レンチウイルス液1μLずつを24ウェルプレートに2×105で播種した293T細胞に一晩感染させた。翌日培地交換し、感染から2日後にAccumax(Innovative Cell Technologies社)で剥離させた細胞をヨウ化プロピジウム溶液(SIGMA社)で染色後、フローサイトメーターで解析し、感染時細胞数(2×105)×生細胞Venus陽性/総生細胞から力価(titer (TU/ml))を算出した。VSV-Gベクター濃度と力価の関係の結果を図11に示す。新鮮B細胞を遠心分離し、1×105個とし、これに濃縮レンチウイルス液1mLを感染させた。6時間後遠心分離し、B細胞をフィーダー細胞(前日に6ウェルプレートに5×105となるように播種したh40LB)上に播種し、Advanced RPMI 1640(2% FBS(ultra-low IgG)、IL-4 50ng/mL、IL-2 25U/mLを含む)で培養した。2日後、培地をAdvanced RPMI 1640(2% FBS(ultra-low IgG)、IL-21 10ng/mL、IL-2 25U/mLを含む)に交換し培養を続けた。2日後、Accutaseで細胞を剥離、遠心分離した。これに常法により、Alexa Fluor 647抗ヒトCD19抗体を反応させ、ヨウ化プロピジウム溶液染色後、フローサイトメーターで解析し、ヒトCD19陽性細胞をB細胞として、生存B細胞中のVenus陽性B細胞の割合い(図11)を算出した。結果を図11に示す。新鮮B細胞や濃縮レンチウイルスやTOLL様受容体からの刺激を組み合わせることによってB細胞への感染効率を向上させることができる。また、新鮮B細胞はB細胞に対する抗体は添加せずに調製している。抗体を別途添加しなくてもB細胞上のBCRを介してキメラエンベロープタンパク質発現ベクターを利用することにより、効率よくB細胞にウイルスベクターを感染させることが出来た。
【0082】
(実施例13)抗体を介した間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells:MSC)への感染評価
293T細胞をコラーゲンコートした6ウェルプレートに3×106となるように播種し、Advanced DMEM培地(2×GlutaMAXと10%FBSを含む)で一晩培養した。翌日、2mLのAdvanced DMEM培地(2×GlutaMAXと2%FBS(ultra-low IgG)とを含むと10mM HEPESを含む)に交換し、Lipofectamine 3000 Reagentを用いてCSIV-CMV-Venusを2.5μg及びpLenti-P3Aを2.5μg及びpLenti-P3Bを2.5μgとpVSV-Gを0.625μgとpCI-SP-PA6d-GS2-VSV-Gを0.625μgをトランスフェクションした。トランスフェクションから4時間後に12mLのAdvanced DMEM培地(2×GlutaMAXと2%FBS(ultra-low IgG)と10mM HEPESを含む)に交換し2日間培養しレンチウイルスベクターを作製した。作製したレンチウイルスベクターは0.8μmのフィルターでろ過してウイルス上清液ストックとした。Advanced DMEM培地(2×GlutaMAXと2%FBSを含む)で培養した5×105のヒト骨髄MSC(プロモセル社)を常法により、抗ヒトCD90抗体(バイオレジェンド社)と1.0 μg/mlの濃度で反応させ、PBSによる洗浄で余剰の抗体をよく取り除いた後、2 mLのウイルス上清液ストックを用い、37℃で1時間感染させた。遠心分離でウイルス液を除いた後、Advanced DMEM(2×GlutaMAXと2% FBS(ultra-low IgG)を含む)で24ウェルプレートに播種した。翌日培地交換し、感染から3日後にAccumaxで剥離させた細胞をDRAQ7で染色後、フローサイトメーターで解析し、生存MSC中のVenus陽性細胞の割合い(%)を算出した。結果を図12に示す。MSC上に発現しているCD90に対する抗CD90抗体を添加して感染させたときは、抗体を添加せずに感染させたときに比べて感染効率の向上が見られた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
0007189770000001.app