(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】電動車両の駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 3/72 20060101AFI20221207BHJP
B60K 1/02 20060101ALN20221207BHJP
B60K 6/543 20071001ALN20221207BHJP
B60K 6/36 20071001ALN20221207BHJP
【FI】
F16H3/72 A
B60K1/02
B60K6/543
B60K6/36
(21)【出願番号】P 2019004018
(22)【出願日】2019-01-15
【審査請求日】2021-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西澤 博幸
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克明
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-234830(JP,A)
【文献】特開2006-311784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/72
B60K 1/02
B60K 6/543
B60K 6/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の関係をもって相対回転する第1要素、第2要素、第3要素および第4要素を有し、第4要素が出力要素である遊星歯車機構と、
第1電動機と、
第1電動機を、遊星歯車機構の第1要素と第2要素に切換可能に接続する接続切換機構と、
遊星歯車機構の第3要素に接続された第2電動機と、
遊星歯車機構の第3要素の、前進方向とは逆方向の回転を阻止する逆転阻止機構と、
を備え、
動作モードとして、第1電動機と第2電動機により車両を駆動する2機駆動モードと、第1電動機のみで車両を駆動する1機駆動モードとを含み、
第3要素が逆転阻止機構によって固定されたとき、遊星歯車機構の減速比が、第1電動機が第2要素に接続されたときよりも第1要素に接続されたときの方が高い、
電動車両の駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動車両の駆動装置であって、
遊星歯車機構の第1要素が1つのサンギアであり、第3要素がもう1つのサンギアであり、
遊星歯車機構の第2要素と第4要素の一方がキャリアであり、他方がリングギアである、
電動車両の駆動装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電動車両の駆動装置であって、
遊星歯車機構は、シングルピニオン歯車列とダブルピニオン歯車列を有するラビニオ式遊星歯車機構であり、
第1要素がシングルピニオン歯車列のサンギアであり、
第2要素がキャリアであり、
第3要素がダブルピニオン歯車列のサンギアであり、
第4要素がリングギアである、
電動車両の駆動装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電動車両の駆動装置であって、
遊星歯車機構は、シングルピニオン歯車列とダブルピニオン歯車列を有するラビニオ式遊星歯車機構であり、
第1要素がダブルピニオン歯車列のサンギアであり、
第2要素がリングギアであり、
第3要素がシングルピニオン歯車列のサンギアであり、
第4要素がキャリアである、
電動車両の駆動装置。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか1項に記載の電動車両の駆動装置であって、接続切換機構は、第1電動機を第1要素と第2要素に同時に接続可能である、電動車両の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の駆動装置、特に2機の電動機を有する駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機の動力により車両を駆動する電動車両が知られている。下記特許文献1には、2機の電動機を備えた駆動装置(10)が開示されている。一方の電動機(モータジェネレータ80)は、遊星歯車機構のリングギア(70)に接続可能であり、他方の電動機(モータジェネレータ82)は、サンギア(71)に接続されている。遊星歯車機構のプラネタリキャリア(72)に出力軸(18)が接続されている。この駆動装置(10)は、クラッチ(C2)を切断し、ブレーキ(C1)でリングギア(70)を固定することができ、これにより、サンギア(71)に接続された電動機(82)のみの駆動力で出力軸を駆動することが可能である。
【0003】
下記特許文献2には、2機の電動機を備えた電気車両駆動システムが開示されている。一方の電動機(第1のモータ2)が遊星歯車機構のリングギア(歯車リング5)に接続され、他方の電動機(速度調整モータ3)がサンギア(太陽歯車4)に接続されている。遊星歯車機構のプラネタリキャリア(遊星キャリア7)に出力軸が接続されている。このシステムは、ブレーキ(制動装置8)によりサンギア(4)を固定することができ、これにより、電動機(2)のみの駆動力で車両を駆動することができる。
【0004】
下記特許文献3には、遊星歯車機構(15)に接続された2機の電動機(第1の動力源1、第2の動力源2)を備えた車両動力伝達装置が開示されている。しかし、遊星歯車機構(15)のいずれかの要素を固定することは記載されていない。
【0005】
なお、上記の( )内の部材名および符号は、下記特許文献1-3で用いられているものであり、本願の実施形態で用いられる部材名および符号とは関連しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第7867124号明細書
【文献】特表2013-531958号公報
【文献】特開2006-311784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
遊星歯車機構に接続された2機の電動機を有する駆動装置において、低速走行時に、より大きな駆動力を得たいという要望がある。
【0008】
本発明は、遊星歯車機構に接続された2機の電動機を有する駆動装置において、低速走行時に大きな駆動力を得ることが可能な電動車両の駆動装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電動車両の駆動装置は、第1電動機および第2電動機と、これら2機の電動機を出力軸に接続するための遊星歯車機構とを備え、動作モードとして、第1電動機と第2電動機により車両を駆動する2機駆動モードと、第1電動機のみで車両を駆動する1機駆動モードと含む。遊星歯車機構は所定の関係をもって相対回転する第1要素、第2要素、第3要素および第4要素を有する。第4要素は出力軸等に接続される出力要素である。さらに、当該駆動装置は、第1電動機を、遊星歯車機構の第1要素と第2要素に切換可能に接続する接続切換機構を備える。第2電動機は遊星歯車機構の第3要素に接続されている。さらに、当該駆動装置は、遊星歯車機構の第3要素の、前進方向とは逆方向の回転を阻止する逆転阻止機構を備える。当該駆動装置において、第3要素が逆転阻止機構によって固定されたとき、遊星歯車機構の減速比は、第1電動機が第2要素に接続されたときよりも第1要素に接続されたときの方が高い。
【0010】
遊星歯車機構の第1要素を1つのサンギアとすることができ、また第3要素をもう1つのサンギアとすることができる。さらに、遊星歯車機構の第2要素と第4要素の一方をキャリアとすることができ、他方をリングギアとすることができる。
【0011】
また、遊星歯車機構は、シングルピニオン歯車列とダブルピニオン歯車列を有するラビニオ式遊星歯車機構とすることができ、第1要素をシングルピニオン歯車列のサンギア、第2要素をキャリア、第3要素をダブルピニオン歯車列のサンギア、第4要素をリングギアとすることができる。
【0012】
また、遊星歯車機構は、シングルピニオン歯車列とダブルピニオン歯車列を有するラビニオ式遊星歯車機構とすることができ、第1要素をダブルピニオン歯車列のサンギア、第2要素をリングギア、第3要素をシングルピニオン歯車列のサンギア、第4要素をキャリアとすることができる。
【0013】
さらに、接続切換機構は、第1電動機を、第1要素と第2要素に同時に接続可能である。このとき、遊星歯車機構はロック状態となり、差動機能が失われる。
【発明の効果】
【0014】
接続切換機構によって第1電動機が接続される要素を切り換えることにより、第1電動機から第4要素に至る伝達経路の減速比を変更することができ、低速走行時に、より大きな駆動力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態の駆動装置の概略構成を示す図である。
【
図2】駆動装置の各動作モードにおける電動機、クラッチ等の状態を示す図である。
【
図4】
図1に示す駆動装置の2機駆動/差動モードの共線図である。
【
図5】
図1に示す駆動装置の2機駆動/固定モードの共線図である。
【
図6】
図1に示す駆動装置の1機駆動/低減速比モードの共線図である。
【
図7】
図1に示す駆動装置の2機駆動/高減速比モードの共線図である。
【
図8】電動機の出力特性、特に回転速度およびトルクと効率の関係を示す図である。
【
図9】2機駆動/差動モードにおける電動機の運転範囲を説明する図である。
【
図10】2機駆動/固定モードにおける電動機の運転範囲を説明する図である。
【
図11】1機駆動/低減速比モードおよび1機駆動/高減速比モードにおける電動機の運転範囲を説明する図である。
【
図12】他の実施形態の駆動装置の概略構成を示す図である。
【
図13】
図12に示す駆動装置の2機駆動/差動モードの共線図である。
【
図14】
図12に示す駆動装置の2機駆動/固定モードの共線図である。
【
図15】
図12に示す駆動装置の1機駆動/低減速比モードの共線図である。
【
図16】
図12に示す駆動装置の2機駆動/高減速比モードの共線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
図1は、電動車両の駆動装置10の構成を模式的に示す骨格図である。駆動装置10は、2機の電動機、つまり第1電動機12および第2電動機14と、遊星歯車機構16と、遊星歯車機構16の2つの要素に第1電動機12を切換可能に接続する接続切換機構18を備える。第1電動機12と第2電動機14は、およそ同一の性能または同一の性能を有するものとできる。遊星歯車機構16は、一部の要素を共有するシングルピニオン歯車列20とダブルピニオン歯車列22を有する、いわゆるラビニオ式遊星歯車機構である。
【0017】
シングルピニオン歯車列20は、第1サンギア24と、リングギア26と、第1サンギア24とリングギア26にかみ合うアウタプラネタリピニオン28を回転可能に支持するプラネタリキャリア30とを有する。第1サンギア24、リングギア26およびプラネタリキャリア30は、同軸配置される。以下、アウタプラネタリピニオン28をアウタピニオン28、プラネタリキャリア30をキャリア30と記す。ダブルピニオン歯車列22は、第1サンギア24と同軸配置された第2サンギア32と、シングルピニオン歯車列20と共通のリングギア26およびキャリア30とを有する。キャリア30は、シングルピニオン歯車列20と共通のアウタピニオン28と第2サンギア32とにかみ合うインナプラネタリピニオン34を回転可能に支持する。以下、インナプラネタリピニオン34をインナピニオン34と記す。
【0018】
接続切換機構18は、第1電動機12のロータ軸36をキャリア30に接続するための第1クラッチ38と、第1サンギア24に接続するための第2クラッチ40を含む。以下、第1電動機12のロータ軸36を第1ロータ軸36と記す。第1クラッチ38が結合状態のとき、第1ロータ軸36とキャリア30は一体となって回転する。第2クラッチ40が結合状態のとき、第1ロータ軸36と第1サンギア24は一体となって回転する。第1クラッチ38と第2クラッチ40を共に結合状態とすると、第1ロータ軸36、キャリア30および第1サンギア24が一体となって回転し、このとき遊星歯車機構16はロックされ、差動動作しなくなる。なお、第1クラッチ38および第2クラッチ40と、第1電動機12とが歯車対などの減速機構を介して接続されてもよい。
【0019】
第2電動機14のロータ軸42は、第2サンギア32に結合されており、これらは一体となって回転する。以下、第2電動機14のロータ軸42を第2ロータ軸42と記す。第2ロータ軸42には、ワンウェイクラッチ44が設けられている。ワンウェイクラッチ44は、駆動装置10が駆動する電動車両が前進しているときの回転方向とは逆方向の第2ロータ軸42の回転を阻止する逆転阻止機構として機能する。なお、第2サンギア32と第2電動機14が歯車対などの減速機構を介して接続されてもよい。
【0020】
リングギア26は、出力軸46に結合されており、出力軸46と一体に回転する。出力軸46には、動力伝達機構の一部である出力ギア48が設けられ、動力伝達機構を介して駆動輪に向けて動力が送出される。
【0021】
第1電動機12と第2電動機14の回転速度および出力トルクは制御部50により制御される。制御部50は、第1電動機12と第2電動機14に電力を供給する電力制御装置を含み、例えば、供給電力の電圧および周波数を制御することにより、第1電動機12および第2電動機14の回転速度および出力トルクを制御する。また、制御部50は、第1クラッチ38および第2クラッチ40の制御も行う。第1および第2クラッチ38,40が液圧により動作するクラッチであれば、制御部50は、液圧制御装置を含み、第1および第2クラッチ38,40の動作を液圧により制御する。
【0022】
遊星歯車機構16は、相対回転する4つの要素を含み、第1要素および第2要素が第1電動機12に切換可能に接続される第1サンギア24およびキャリア30であり、第3要素が第2電動機14に接続される第2サンギア32であり、第4要素が出力軸46に接続されるリングギア26である。
【0023】
駆動装置10は、4つの動作モードで動作可能である。
図2に、4つの動作モードにおける第1および第2電動機12,14、第1および第2クラッチ38,40、ワンウェイクラッチ44の状態が示されている。第1の動作モードは、第1および第2電動機12,14で車両を駆動し、さらに、第1クラッチ38を結合状態、第2クラッチ40を解放状態とすることで遊星歯車機構16を各要素が相対回転可能な差動状態とした動作モードである。この動作モードを「2機駆動/差動モード」と記す。第2の動作モードは、2機の電動機で車両を駆動し、第1および第2クラッチ38,40を結合状態とすることで遊星歯車機構16を各要素が一体となって回転する固定状態とした動作モードである。この動作モードを「2機駆動/固定モード」と記す。第3の動作モードは、第1電動機12のみで車両を駆動し、第1クラッチ38を結合状態、第2クラッチ40を解放状態とした動作モードである。このとき、ワンウェイクラッチ44は、結合状態となる。この動作モードを「1機駆動/低減速比モード」と記す。第4の動作モードは、第1電動機12のみで車両を駆動し、第1クラッチ38を解放状態、第2クラッチ40を結合状態とした動作モードである。このとき、ワンウェイクラッチ44は,結合状態となる。この動作モードを「1機駆動/高減速比モード」と記す。
【0024】
図3は、各動作モードにおける駆動装置10の出力特性を示す図である。横軸が車両の速度、縦軸が車両の駆動力を示す。2機駆動/差動モードおよび2機駆動/固定モードの動作領域は、
図3においてA1で示す線と、縦軸、横軸に囲まれた範囲である。1機駆動/低減速比モードの動作領域はA2で示す線と縦軸、横軸で囲まれた範囲、1機駆動/高減速比モードの動作範囲はA3で示す線と縦軸、横軸で囲まれた範囲である。
【0025】
図4から
図7は、遊星歯車機構16の4つの要素の速度およびトルクの関係を説明する図、いわゆる共線図である。S
s,C,R,S
dで示す縦軸は、それぞれ第1サンギア24、キャリア30、リングギア26、第2サンギア32の回転速度ω
Ss,ω
C,ω
R,ω
Sdを表す。第1サンギア24、キャリア30、リングギア26、第2サンギア32のトルクがT
Ss,T
C,T
R,T
Sdで示されている。シングルピニオン歯車列20の第1サンギア24の歯数とリングギア26の歯数の比を遊星歯車比ρ
sと記し、ダブルピニオン歯車列22の第2サンギア32の歯数とリングギア26の歯数の比を遊星歯車比ρ
dと記す。
【0026】
図4は、2機駆動/差動モードの動作を説明する共線図である。2機駆動/差動モードにおいては、キャリア30のトルクT
Cは第1電動機12のトルクT
1に等しく(T
C=T
1)、第2サンギア32のトルクT
Sdは第2電動機14のトルクT
2に等しく(T
Sd=T
2)、リングギア26のトルクT
Rは出力軸46のトルクT
0に等しい(T
R=T
0)。また、リングギア26のトルクT
Rは、キャリア30のトルクT
Cと第2サンギア32のトルクT
Sdの和である(T
R=T
C+T
Sd)から、出力軸46のトルクT
0と第1および第2電動機12,14のトルクT
1,T
2は、
T
0=T
1+T
2 ・・・(1)
の関係を有する。また、第1電動機12のトルクT
1と第2電動機14のトルクT
2は、
(1-ρ
d)×T
2=ρ
d×T
1 ・・・(2)
の関係を有する。出力軸のトルクT
0を固定した場合、トルクT
1,T
2は式(1)、(2)を満たさなければならないので一意に定められる。3つの要素の回転速度ω
C,ω
R,ω
Sdは、各縦軸C,R,S
dに交差する直線の交点として表される。3つの要素の回転速度は、例えば、
図2において、実線で表された直線との交点ω
C,ω
R,ω
Sdを採ることができ、また破線で表された直線との交点ω
C’,ω
R,ω
Sd’を採ることもできる。つまり、ある出力軸46のトルクと回転速度を満たす第1電動機12と第2電動機14の回転速度の組は無数に存在する。このように、2機駆動/差動モードにおいては、出力軸のトルク、回転速度が定まっているとき、第1および第2電動機12,14の回転速度は変更可能であるが、トルクは固定される。ただし、各要素の相対速度が大きくなると、摩擦損失が増加するので、相対速度が小さくなるように第1および第2電動機12,14を運転することが好ましい。
【0027】
図5は、2機駆動/固定モードの動作を説明する共線図である。2機駆動/固定モードにおいて、第1および第2クラッチ38,40は共に結合状態とされており、第1サンギア24とキャリア30が共に第1ロータ軸36に結合され、一体となって回転する。この結果、リングギア26も他の要素と共に一体となって回転する。つまり、遊星歯車機構16は、差動動作を行わない状態すなわち固定状態となる。これにより、第1電動機12と第2電動機14のトルクT
1,T
2は式(2)の条件を満たす必要がなくなるので、トルクT
1,T
2を変更することが可能になる。2機駆動/固定モードにおいては、出力軸のトルク、回転速度が定まっているとき、第1および第2電動機12,14の回転速度が固定されるが、トルクは変更可能である。
【0028】
図6は、1機駆動/低減速比モードの動作を説明する共線図である。1機駆動/低減速比モードにおいて、第2電動機14は停止されるので、第2ロータ軸42は、第1電動機12および出力軸46のトルクにより、逆方向に駆動される。しかし、第2ロータ軸42上にはワンウェイクラッチ44が設けられているため、第2ロータ軸42は逆転はせず、固定された状態となる。第1ロータ軸36から出力軸46への減速比は1/(1-ρ
d)であり、第1電動機12のトルクT
1と出力軸46のトルクT
0の関係は、
T
0=1/(1-ρ
d)×T
1 ・・・(3)
である。遊星歯車比ρ
dは、ρ
d<1であるので、第1電動機12のトルクT
1は増幅される。第1電動機12のトルクT
1が増幅されるので、車両速度が低い場合には、1機の電動機による駆動であっても、2機の電動機による駆動と同じ駆動力を発生することができる。
【0029】
図7は、1機駆動/高減速比モードの動作を説明する共線図である。1機駆動/高減速比モードにおいては、第1電動機12は、第1サンギア24を駆動する。第2電動機14は停止されるので、第2ロータ軸42は、第1電動機12および出力軸46のトルクにより、逆方向に駆動される。しかし、第2ロータ軸42上にはワンウェイクラッチ44が設けられているため、逆転はせず、固定された状態となる。第1ロータ軸36から出力軸46への減速比は(ρ
s+ρ
d)/{ρ
s×(1-ρ
d)}であり、第1電動機12のトルクT
1と出力軸46のトルクT
0の関係は、
T
0=(ρ
s+ρ
d)/{ρ
s×(1-ρ
d)}×T
1 ・・・(4)
である。(ρ
s+ρ
d)/ρ
s>1なので、このモードの減速比(ρ
s+ρ
d)/{ρ
s×(1-ρ
d)}は、1機駆動/低減速比モードの減速比1/(1-ρ
d)よりも高く、第1電動機12のトルクT
1をより大きく増幅できる。
【0030】
図8は、電動機のトルク特性を示す図である。電動機の運転可能範囲に示されている曲線は、効率が等しい動作点を結んだ等効率線である。電動機の回転速度およびトルクが中程度のときに効率が高く、ここから離れるに従い効率が低下することが示されている。回転速度が中程度のときには、回転速度を変化させても効率は大きく変化しないが、トルクを変化させた場合には効率が変化することが理解できる。
【0031】
2機駆動/差動モードにおいては、出力軸46のトルク、つまりリングギア26のトルクT
Rと回転速度ω
Rが定まると、キャリア30のトルクT
Cおよび第2サンギア32のトルクT
Sdは、一意に定まる。一方で、キャリア30と第2サンギア32の回転速度ω
C,ω
Sdは、式(1),(2)で定まる関係を満たす必要はあるが、変化させることができる。したがって、
図9の矢印で示すように、第1電動機12および第2電動機14は、出力トルク一定のまま、回転速度を変えることができる。しかし、
図9から理解されるように、低トルク域で回転速度を変化させても効率は大きく変化しない。
【0032】
2機駆動/固定モードにおいては、リングギア26のトルクT
Rと回転速度ω
Rが定まると、キャリア30と第2サンギア32の回転速度ω
C,ω
Sdも定まる。一方で、キャリア30のトルクT
Cおよび第2サンギア32のトルクT
Sdは、これらのトルクの和がリングギア26のトルクT
Rとなるという条件の下、変化させることができる。したがって、
図10に示すように、回転速度を維持したまま、第1電動機12および第2電動機14のトルクT
1,T
2を変更することができる。
図10から理解されるように、回転速度が中程度の領域では、トルクを変更すると効率が変化し、2機の電動機の総合効率が、2機駆動/差動モードに比べて高くなる可能性がある。
【0033】
1機駆動/低減速比モードにおいては、第1電動機12のみで車両を駆動する。第1電動機12に着目すれば、
図11に示すように、第1および第2電動機12,14の2機で駆動している場合に比べ、第1電動機12のトルクT
1は高くなり、回転速度も高くなる。これにより、高効率の領域で運転することができる。
【0034】
1機駆動/高減速比モードにおいては、
図3に示すように、車両速度が低速のとき、より大きなトルクを発生することができる。
【0035】
以上から、車両速度が低いとき、要求される車両の駆動力が小さいときには、1機の電動機のみより駆動した方が効率が高くなる。また、車両速度が中程度から高速であり、かつ駆動トルクが小さい場合には、2機駆動/固定モードにより効率を高くできる可能性がある。これらのことから、2機駆動/差動モードは、車両速度が比較的高く、駆動トルクが大きいときに用いられる。このとき、2機の電動機が同一性能の電動機であれば、2機のトルクをほぼ等しくし、2機共が高効率の領域で運転できるようにすることが好ましい。一方で、2機のトルクは、上述の式(2)の条件を満たす必要がある。この結果、遊星歯車比ρdの設定範囲が制限される。遊星歯車比ρdが限定されると、1機駆動/低減速比モードにおける減速比も制限される。1機駆動/高減速比モードは、制限を受ける1機駆動/低減速比モードよりも高い減速比を得られるモードである。
【0036】
図12は、本発明に係る他の実施形態の駆動装置110の概略構成を模式的に示す骨格図である。駆動装置110は、2機の電動機、つまり第1電動機112および第2電動機114と、遊星歯車機構116と、遊星歯車機構116の2つの要素に第1電動機112を切換可能に接続する接続切換機構118を備える。第1電動機112と第2電動機114は、およそ同一の性能または同一の性能を有するものとできる。遊星歯車機構116は、一部の要素を共有するシングルピニオン歯車列120とダブルピニオン歯車列122を有する、いわゆるラビニオ式遊星歯車機構である。
【0037】
シングルピニオン歯車列120は、第2サンギア132、リングギア126と、第2サンギア132とリングギア126にかみ合うアウタプラネタリピニオン128を回転可能に支持するプラネタリキャリア130とを有する。第2サンギア132、リングギア126およびプラネタリキャリア130は同軸配置される。以下、アウタプラネタリピニオン128をアウタピニオン128、プラネタリキャリア130をキャリア130と記す。ダブルピニオン歯車列122は、第2サンギア132と同軸配置された第1サンギア124と、シングルピニオン歯車列120と共通のリングギア126およびキャリア130とを有する。キャリア130は、シングルピニオン歯車列120と共通のアウタピニオン128と第1サンギア124とにかみ合うインナプラネタリピニオン134を回転可能に支持する。以下、インナプラネタリピニオン134をインナピニオン134と記す。
【0038】
接続切換機構118は、第1電動機112のロータ軸136をリングギア126に接続するための第1クラッチ138と、第1サンギア124に接続するための第2クラッチ140を含む。以下、第1電動機112のロータ軸136を第1ロータ軸136と記す。第1クラッチ138が結合状態のとき、第1ロータ軸136とリングギア126は一体となって回転する。第2クラッチ140が結合状態のとき、第1ロータ軸136と第1サンギア124は一体となって回転する。第1クラッチ138と第2クラッチ140を共に結合状態とすると、第1ロータ軸136、リングギア126および第1サンギア124が一体となって回転し、このとき遊星歯車機構116はロックされ、差動動作しなくなる。なお、第1クラッチ138および第2クラッチ140と、第1電動機112とが歯車対などの減速機構を介して接続されてもよい。
【0039】
第2電動機114のロータ軸142は、第2サンギア132に結合されており、これらは一体となって回転する。以下、第2電動機114のロータ軸142を第2ロータ軸142と記す。第2ロータ軸142には、ワンウェイクラッチ144が設けられている。ワンウェイクラッチ144は、駆動装置110が駆動する電動車両が前進しているときの回転方向とは逆方向の第2ロータ軸142の回転を阻止する逆転阻止機構として機能する。なお、第2サンギア132と第2電動機114が歯車対などの減速機構を介して接続されてもよい。
【0040】
キャリア130は、出力軸146に結合されており、出力軸146と一体に回転する。出力軸146には、動力伝達機構の一部である出力ギア148が設けられ、動力伝達機構を介して駆動輪に向けて動力が送出される。
【0041】
第1電動機112と第2電動機114の回転速度および出力トルクは制御部150により制御される。制御部150は、第1電動機112と第2電動機114に電力を供給する電力制御装置を含み、例えば、供給電力の電圧および周波数を制御することにより、第1電動機112および第2電動機114の回転速度および出力トルクを制御する。また、制御部150は、第1クラッチ138および第2クラッチ140の制御も行う。第1および第2クラッチ138,140が液圧により動作するクラッチであれば、制御部150は、液圧制御装置を含み、第1および第2クラッチ138,140の動作を液圧により制御する。
【0042】
遊星歯車機構116は、相対回転する4つの要素を含み、第1要素および第2要素が第1電動機112に切換可能に接続される第1サンギア124およびリングギア126であり、第3要素が第2電動機114に接続される第2サンギア132であり、第4要素が出力軸146に接続されるキャリア30である。
【0043】
駆動装置110は、4つの動作モードで動作可能である。4つの動作モードにおける第1および第2電動機112,114、第1および第2クラッチ138,140、ワンウェイクラッチ144の状態は、前述の
図2に示すとおりである。各動作モードの名称について、駆動装置10のものを流用する。また、駆動装置110の各動作モードにおける出力特性は、前述の
図3に示すとおりである。
【0044】
図13から
図16は、遊星歯車機構116の4つの要素の速度およびトルクの関係を説明する図、いわゆる共線図である。S
s,C,R,S
dで示す縦軸は、それぞれ第2サンギア132、キャリア130、リングギア126、第1サンギア124の回転速度ω
Ss,ω
C,ω
R,ω
Sdを表す。第2サンギア132、キャリア130、リングギア126、第1サンギア124のトルクがT
Ss,T
C,T
R,T
Sdで示されている。シングルピニオン歯車列120の第2サンギア132の歯数とリングギア126の歯数の比を遊星歯車比ρ
sと記し、ダブルピニオン歯車列122の第1サンギア124の歯数とリングギア126の歯数の比を遊星歯車比ρ
dと記す。
【0045】
図13は、2機駆動/差動モードの動作を説明する共線図である。2機駆動/差動モードにおいては、リングギア126のトルクT
Rは第1電動機112のトルクT
1に等しく(T
R=T
1)、第2サンギア132のトルクT
Ss,は第2電動機114のトルクT
2に等しく(T
Ss=T
2)、キャリア130のトルクT
Cは出力軸46のトルクT
0に等しい(T
C=T
0)。また、キャリア130のトルクT
Cは、リングギア126のトルクT
Rと第2サンギア132のトルクT
Ssの和である(T
C=T
R+T
Ss)から、出力軸146のトルクT
0と第1および第2電動機112,114のトルクT
1,T
2は、
T
0=T
1+T
2 ・・・(5)
の関係を有する。また、第1電動機112のトルクT
1と第2電動機114のトルクT
2は、
T
2=ρ
s×T
1 ・・・(6)
の関係を有する。出力軸のトルクT
0を固定した場合、トルクT
1,T
2は式(5)、(6)を満たさなければならないので一意に定められる。3つの要素の回転速度ω
C,ω
R,ω
Ssは、各縦軸C,R,S
sに交差する直線の交点として表され、この直線の傾きは変更することができるので、3つの要素の回転速度ω
C,ω
R,ω
Ssは変更することができる。このように、2機駆動/差動モードにおいては、出力軸のトルク、回転速度が定まっているとき、第1および第2電動機112,114の回転速度は変更可能であるが、トルクは固定される。
【0046】
図14は、2機駆動/固定モードの動作を説明する共線図である。2機駆動/固定モードにおいて、第1および第2クラッチ138,140は共に結合状態とされており、第1サンギア124とリングギア126が共に第1ロータ軸136に結合され、一体となって回転する。この結果、キャリア130も他の要素と共に一体となって回転する。つまり、遊星歯車機構116は、差動動作を行わない状態、すなわち固定状態となる。これにより、第1電動機112と第2電動機114のトルクT
1,T
2は式(6)の条件を満たす必要がなくなるので、トルクT
1,T
2を変更することが可能になる。2機駆動/固定モードにおいては、出力軸のトルク、回転速度が定まっているとき、第1および第2電動機112,114の回転速度が固定されるが、トルクは変更可能である。トルクが変更可能となることによって、駆動装置10と同様に、2機駆動/差動モードに比して効率が改善される可能性がある。
【0047】
図15は、1機駆動/低減速比モードの動作を説明する共線図である。1機駆動/低減速比モードにおいて、第2電動機114は停止されるので、第2ロータ軸142は、第1電動機112および出力軸146のトルクにより、逆方向に駆動される。しかし、第2ロータ軸142上にはワンウェイクラッチ144が設けられているため、第2ロータ軸142は、逆転はせず、固定された状態となる。第1ロータ軸136から出力軸146の減速比は1+ρ
sであり、第1電動機112のトルクT
1と出力軸146のトルクT
0の関係は、
T
0=(1+ρ
s)×T
1 ・・・(7)
である。遊星歯車比ρ
sは、ρ
s>0であるので、第1電動機112のトルクT
1は増幅される。1機駆動/低減速比モードにおいては、2機駆動の場合よりも第1電動機112を高い回転速度、高いトルクの高効率の領域で運転できる可能性があり、効率が改善される可能性がある。
【0048】
図16は、1機駆動/高減速比モードの動作を説明する共線図である。1機駆動/高減速比モードにおいては、第1電動機112は、第1サンギア124を駆動する。第2電動機114は停止されるので、第2ロータ軸142は、第1電動機112および出力軸146のトルクにより、逆方向に駆動される。しかし、第2ロータ軸142上にはワンウェイクラッチ144が設けられているため、逆転はせず、固定された状態となる。第1ロータ軸136から出力軸146の減速比は(ρ
s+ρ
d)/ρ
dであり、第1電動機112のトルクT
1と出力軸146のトルクT
0の関係は、
T
0={(ρ
s+ρ
d)/ρ
d}×T
1 ・・・(8)
である。このモードの減速比(ρ
s+ρ
d)/ρ
dは、1機駆動/低減速比モードの減速比1+ρ
dより高く、第1電動機112のトルクT
1をより大きく増幅できる。
【0049】
駆動装置110においても、駆動装置10と同様、1機の電動機で車両を駆動する場合に、高い減速比を達成することができ、大きな車両駆動力を発生することができる。
【0050】
駆動装置10,110のワンウェイクラッチ44,144は、第2電動機14,114を停止する際に作動するブレーキに置き換えることができる。また、第1クラッチ38,138および第2クラッチ40,140は、摩擦クラッチまたはかみ合いクラッチとすることができる。
【0051】
以下、本発明の他の態様を記す。
(1)所定の関係をもって相対回転する第1要素、第2要素、第3要素および第4要素を有し、第4要素が出力要素である遊星歯車機構と、
第1電動機と、
第1電動機を、遊星歯車機構の第1要素と第2要素に切換可能に接続する接続切換機構と、
遊星歯車機構の第3要素に接続された第2電動機と、
遊星歯車機構の第3要素の、前進方向とは逆方向の回転を阻止する逆転阻止機構と、
を備え、
遊星歯車機構の第1要素が第1サンギアであり、第3要素が第2サンギアであり、第2要素と第4要素の一方がキャリアであり、他方がリングギアである、
電動車両の駆動装置。
(2)
上記(1)に記載の電動車両の駆動装置であって、
遊星歯車機構は、シングルピニオン歯車列とダブルピニオン歯車列を有するラビニオ式遊星歯車機構であり、
第1要素がシングルピニオン歯車列のサンギアであり、
第2要素がキャリアであり、
第3要素がダブルピニオン歯車列のサンギアであり、
第4要素がリングギアである、
電動車両の駆動装置。
(3)
上記(1)に記載の電動車両の駆動装置であって、
遊星歯車機構は、シングルピニオン歯車列とダブルピニオン歯車列を有するラビニオ式遊星歯車機構であり、
第1要素がダブルピニオン歯車列のサンギアであり、
第2要素がリングギアであり、
第3要素がシングルピニオン歯車列のサンギアであり、
第4要素がキャリアである、
電動車両の駆動装置。
【符号の説明】
【0052】
10 駆動装置、12 第1電動機、14 第2電動機、16 遊星歯車機構、18 接続切換機構、20 シングルピニオン歯車列、22 ダブルピニオン歯車列、24 第1サンギア(第1要素)、26 リングギア(第4要素)、28 アウタピニオン、30 キャリア(第2要素)、32 第2サンギア(第3要素)、34 インナピニオン、36 第1ロータ軸、38 第1クラッチ、40 第2クラッチ、42 第2ロータ軸、44 ワンウェイクラッチ(逆転阻止機構)、46 出力軸、48 出力ギア、50 制御部、110 駆動装置、112 第1電動機、114 第2電動機、116 遊星歯車機構、118 接続切換機構、120 シングルピニオン歯車列、122 ダブルピニオン歯車列、124 第1サンギア(第1要素)、126 リングギア(第2要素)、128 アウタピニオン、130 キャリア(第4要素)、132 第2サンギア(第3要素)、134 インナピニオン、136 第1ロータ軸、138 第1クラッチ、140 第2クラッチ、142 第2ロータ軸、144 ワンウェイクラッチ(逆転阻止機構)、146 出力軸、148 出力ギア、150 制御部。