(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】ジルコニアミルブランク及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61C 5/77 20170101AFI20221207BHJP
A61C 13/083 20060101ALI20221207BHJP
A61K 6/818 20200101ALI20221207BHJP
【FI】
A61C5/77
A61C13/083
A61K6/818
(21)【出願番号】P 2019053119
(22)【出願日】2019-03-20
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 市朗
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-507316(JP,A)
【文献】特表2004-516066(JP,A)
【文献】国際公開第2016/148288(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/154850(WO,A1)
【文献】特開平02-038477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/77
A61C 13/083
A61K 6/818
B23Q 3/00
C09J 163/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニアからなる被加工部と、保持部とを有するジルコニアミルブランクであって、
前記被加工部が有する面Aと、前記保持部が有する面Bとが対向しており、
面Aと面Bの間で面A及び面Bに接する第1接合部と、
面A及び保持部における面B以外の面Cに接する第2接合部とを備え、
前記第1接合部がエポキシ系接着剤から構成され、
前記第2接合部がシアノアクリレート系接着剤から構成される、
ジルコニアミルブランク。
【請求項2】
前記第1接合部が、第2接合部と離間している、請求項1に記載のジルコニアミルブランク。
【請求項3】
前記シアノアクリレート系接着剤が、面Aと面Bの間に実質的に存在しない、請求項1又は2に記載のジルコニアミルブランク。
【請求項4】
前記保持部がアルミ合金を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のジルコニアミルブランク。
【請求項5】
前記面Cが面Bに対して垂直である、請求項1~4のいずれか一項に記載のジルコニアミルブランク。
【請求項6】
歯科用である、請求項1~5のいずれか一項に記載のジルコニアミルブランク。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のジルコニアミルブランクの製造方法であって、
エポキシ系接着剤を、面Aと面Bの少なくとも一方の面上に配置し、
被加工部の面Aと保持部の面Bを貼り合わせ、
シアノアクリレート系接着剤を、面Aにおけるエポキシ系接着剤を配置していない部分と、保持部における面B以外の面Cの両方に接するように配置する、
ミルブランクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニアミルブランク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科用の補綴物(被覆冠、歯冠、クラウン、差し歯等)として、審美性及び安全性の観点から金属に代わりジルコニア等のセラミックスが用いられている。通常ジルコニアを用いる場合は、歯科材料用加工機にて仮焼体であるジルコニアミルブランクから歯冠形状を加工する必要がある。一般に、ジルコニアミルブランクは、被加工部と保持部とが接着されており、保持部が歯科材料用加工機に取り付けられて、ジルコニアミルブランクの被加工部が加工される。
【0003】
例えば、特許文献1には、歯科用ジルコニアミルブランクにおいて歯冠形状にした際の切端側から根本側に当たる部分の色調を設定することで、天然歯の様な外観を実現することができると記載されている。
【0004】
つまり、天然歯の様な外観を得るためには、ジルコニアミルブランクの被加工部と歯科材料用加工機の位置関係が、常に一定に保たれている必要がある。すなわち、ジルコニアミルブランクの被加工部と、歯科材料用加工機に取り付ける保持部の位置精度が高くなくてはならない。
【0005】
また、ジルコニアミルブランクを用いた歯科材料用加工機は湿式及び乾式にて加工され、加工中にジルコニア被加工部と保持部が脱離してはならない。
【0006】
例えば特許文献2には、同一の接着面にエポキシ系接着剤とシアノアクリレート系接着剤を用いて接着することで、瞬間接着性と剥離接着強度を両立できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-218389号公報
【文献】特開平2-64183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ジルコニアミルブランクを製造する工程において、被加工部と保持部を接着する際、接着剤が固化する前に被加工部と保持部を動かすと、被加工部と保持部の位置関係を常に一定に保つことができなくなる。
【0009】
ジルコニアミルブランクが歯科材料用加工機にて湿式及び乾式加工されるため、高い剥離接着強度と高い耐水性を有する必要がある。
【0010】
特許文献2に記載されている同一面内にシアノアクリレート系接着剤とエポキシ系接着剤を用いる方法は、エポキシ系接着剤に含まれるアミン系化合物がシアノアクリレート系接着剤のアニオン重合機構を促進するため、エポキシ系接着剤とシアノアクリレート系接着剤が接触している部分と、各々の接着剤単独で存在している部分とに硬化速度の違いが生じる。硬化速度は、エポキシ系接着剤とシアノアクリレート系接着剤が接している部分が最も早く、次いでシアノアクリレート系接着剤が単独で存在している部分、エポキシ系接着剤が単独で存在している部分の順である。また、シアノアクリレート系接着剤よりもエポキシ系接着剤の粘性の方が高く、吐出後のエポキシ系接着剤のみが存在している部分とシアノアクリレート系接着剤のみが存在している部分とで、塗布直後の膜厚は変わってしまう。つまり、エポキシ系接着剤が単独で存在している部分及びエポキシ系接着剤とシアノアクリレート系接着剤が接している部分に比べて、シアノアクリレート系接着剤が単独で存在している部分の塗布直後の膜厚は薄くなる。前記硬化速度の違いとこの膜厚の違いにより、固化後においても膜厚の違いが生じてしまい、その結果ジルコニアミルブランクの保持部と被加工部の位置精度を低くしてしまうという課題がある。
【0011】
そこで本発明では、被加工部と保持部とを接着する際の固化時間を短くしたまま、高い剥離接着強度、高い耐水性及び高い位置精度を備えて接着されたジルコニアミルブランク及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、エポキシ系接着剤とシアノアクリレート系接着剤のそれぞれの配置を特定することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
[1]ジルコニアからなる被加工部と、保持部とを有するジルコニアミルブランクであって、
前記被加工部が有する面Aと、前記保持部が有する面Bとが対向しており、
面Aと面Bの間で面A及び面Bに接する第1接合部と、
面A及び保持部における面B以外の面Cに接する第2接合部とを備え、
前記第1接合部がエポキシ系接着剤から構成され、
前記第2接合部がシアノアクリレート系接着剤から構成される、
ジルコニアミルブランク。
[2]前記第1接合部が、第2接合部と離間している、[1]のジルコニアミルブランク。
[3]前記シアノアクリレート系接着剤が、面Aと面Bの間に実質的に存在しない、[1]又は[2]のジルコニアミルブランク。
[4]前記保持部がアルミ合金を含む、[1]~[3]のいずれかのジルコニアミルブランク。
[5]前記面Cが面Bに対して垂直である、[1]~[4]のいずれかのジルコニアミルブランク。
[6]歯科用である、[1]~[5]のいずれかのジルコニアミルブランク。
[7][1]~[6]のいずれかのジルコニアミルブランクの製造方法であって、
エポキシ系接着剤を、面Aと面Bの少なくとも一方の面上に配置し、
被加工部の面Aと保持部の面Bを貼り合わせ、
シアノアクリレート系接着剤を、面Aにおけるエポキシ系接着剤を配置していない部分と、保持部における面B以外の面Cの両方に接するように配置する、
ミルブランクの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被加工部と保持部とを接着する際の固化時間を短くしたまま、高い剥離接着強度、高い耐水性及び高い位置精度を備えて接着されたジルコニアミルブランク及びその製造方法を提供でき、工業的に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1Aは本発明のジルコニアミルブランクの実施形態の一例を示す概略図を示す。
【
図1B】
図1Bは本発明のジルコニアミルブランクの保持部の実施形態の一例の側面図を示す概略図を示す。
【
図2A】
図2Aは本発明のジルコニアミルブランクの実施形態の一例を示す概略図を示す。
【
図2B】
図2Bは本発明のジルコニアミルブランクの実施形態の一例を示す概略図を示す。
【
図3】
図3は本発明の実施例を示す概略図(側面図)を示す。
【
図4】
図4は従来技術に相当する比較例を示す概略図(側面図)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の好適な実施形態を説明する。
【0017】
本発明のジルコニアミルブランクは、ジルコニアからなる被加工部と、歯科材料用加工機に固定するための保持部とを有する。前記被加工部が有する面Aと、前記保持部が有する面Bとが対向し、前記被加工部の面Aと前記保持部の面Bが第1接合部を介して貼り合わせられている。該ジルコニアミルブランクは、面Aと面Bの間で面A及び面Bに接する第1接合部と、面A及び保持部における面B以外の面Cに接する第2接合部とを備える。前記第1接合部は、エポキシ系接着剤から構成される接着剤層である。前記第2接合部は、シアノアクリレート系接着剤から構成される。本発明のジルコニアミルブランクにおいて、第1接合部と第2接合部を介して、被加工部と保持部は固定されている。本発明のジルコニアミルブランクは、これらの構成により、高い剥離接着強度、高い耐水性及び高い位置精度を備えて接着されたジルコニアミルブランクとなる。本発明の効果を奏する限り、第1接合部と第2接合部は一部で接していてもよいが、高い剥離接着強度、高い耐水性及び高い位置精度を備える点から、第1接合部は、第2接合部と離間していることが好ましい。
【0018】
本発明のジルコニアミルブランクの実施形態の一例として、概略図を
図1に示す。被加工部の形状は、少なくとも保持部と対向する面(面A)を有する形状であれば特に限定されないが、通常、面Aは平面であるため、被加工部は少なくとも1つの平面を有する形状となる。被加工部は、好ましくは角柱状である。角柱状としては、例えば、三角柱状、四角柱状、五角柱状、六角柱状などが挙げられる。一方、保持部の形状は、少なくとも被加工部と対向する面(面B)を有し、それと異なる面(面C)を有する形状であれば特に限定されないが、通常は、被加工部と対向する面を有する台座部と、歯科材料用加工機に固定するための軸部を備える。例えば、
図1の実施形態であれば、保持部2において、八角柱状の台座部6における被加工部1側の底面4が面Bであり、側面5が面Cとなる。面Cは、例えば、面Bに対して垂直な面であってもよく、湾曲した形状を有する面であってもよい。
【0019】
本発明のジルコニアミルブランクでは、第1接合部に加えて、面A及び保持部における面B以外の面Cに接する第2接合部として、シアノアクリレート系接着剤を配置するため、被加工部における保持部と対向する面(面A)の面積は、保持部における被加工部と対向する面(面B)の面積より大きいことが好ましい。いいかえると、面Aの面積と面Bの面積との比は、(面Aの面積)/(面Bの面積)>1であることが好ましい。一方で、前記面積比の上限は、特に限定されないが、(面Aの面積)/(面Bの面積)は、2未満であってもよく、1.5未満であってもよい。本発明のある実施形態としては、
図2Bのように、被加工部における面Aの面積が、
図2Aに示されるものよりも大きく、保持部における面Bの全周において、エポキシ系接着剤を配置していない部分8を有していてもよい。
【0020】
本発明におけるジルコニアからなる被加工部は、ジルコニア仮焼体であることが好ましい。ジルコニア仮焼体としては、例えば、安定化剤としてイットリアが用いられているジルコニア仮焼体や、イットリアの含有率等の化学組成の異なる複数の層を有するジルコニア仮焼体が挙げられる。また、本発明における保持部は、通常金属製であり、比較的軽量である観点からアルミ合金を含むことが好ましい。
【0021】
本発明におけるエポキシ系接着剤とは、エポキシ基を含む化合物を指し、本発明の効果を奏する限り一般的なものを使うことができる。前記したエポキシ系接着剤の市販品としては、例えば、「EセットL」(主剤:変性エポキシ樹脂、硬化剤:変性ポリアミド樹脂)、「EセットM」(主剤:変性エポキシ樹脂、硬化剤:変性ポリアミド樹脂)、「EセットH」(主剤:変性エポキシ樹脂、硬化剤:変性ポリアミド樹脂)、「EセットR」(主剤:変性エポキシ樹脂、硬化剤:変性ポリアミド樹脂)、「クイックセット30」主剤:エポキシ樹脂、硬化剤:ポリチオール、3級アミン)、「クイック30」主剤:エポキシ樹脂、シリカ、硬化剤:ポリチオール、シリカ、3級アミン)(以上、コニシ株式会社製)、「ハイスーパー5」、「ハイクイック」(以上、セメダイン株式会社製、主剤:エポキシ樹脂、硬化剤:ポリチオール樹脂)等の2剤型のエポキシ系接着剤が挙げられる。2剤型のエポキシ系接着剤は、水分や溶剤の蒸発で接着力を発揮する1剤型の接着剤に比べて、硬化中に揮発性副生成物を生成しないため、硬化収縮やゆがみが少なく、塗布後の膜厚が変化しないため、位置精度の点から、好ましい。2剤型のエポキシ系接着剤は、主剤(エポキシ系樹脂)と、硬化剤(ポリアミド系樹脂、ポリチオール樹脂、ポリアミン類等)を含む。該エポキシ系接着剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、エポキシ系接着剤は、本発明の効果を損ねない限り、エポキシ基を含む化合物以外の成分を含んでいてもよい。
【0022】
本発明におけるシアノアクリレート系接着剤とは、シアノアクリレート基を含む化合物を指し、2-シアノアクリレートを主成分とし、本発明の効果を奏する限り一般的なものを使用できる。前記したシアノアクリレート系接着剤の市販品としては、「アロンアルファエクストラ4000」、「アロンアルファ403X」(以上、東亜合成株式会社製)、「ロックタイト4203」(ヘンケルジャパン株式会社製)が挙げられる。該シアノアクリレート系接着剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明の効果を損ねない限り、シアノアクリレート基を含む化合物以外の成分を含んでいてもよい。
【0023】
エポキシ系接着剤は、高い剥離接着強度と高い耐水性を有する。しかし、固化時間が長いため、製造に要する時間が長くなってしまう。一方、シアノアクリレート系接着剤は、固化時間が短い。しかし、耐水性は低く、歯科材料用加工機を湿式にて行う場合、加工中にジルコニアミルブランクの被加工部と保持部が脱離するおそれがある。
【0024】
また、本発明の他の実施形態としては、エポキシ系接着剤を、面Aと面Bの少なくとも一方の面上に配置し、被加工部の面Aと保持部の面Bを貼り合わせ、シアノアクリレート系接着剤を、面Aにおけるエポキシ系接着剤を配置していない部分と、保持部における面B以外の面Cの両方に接するように配置する、ミルブランクの製造方法が挙げられる。
【0025】
従来技術として、エポキシ系接着剤とシアノアクリレート系接着剤を併用して同一面内に各接着剤を塗布した後に、被加工部の面Aと保持部の面Bを貼り合わせた場合、エポキシ系接着剤に含まれるアミン系化合物がシアノアクリレート系接着剤のアニオン重合機構を促進するため、エポキシ系接着剤とシアノアクリレート系接着剤が接触している部分と、各々の接着剤単独で存在している部分とに硬化速度の違いが生じる。硬化速度は、エポキシ系接着剤とシアノアクリレート系接着剤が接している部分が最も早く、次いでシアノアクリレート系接着剤が単独で存在している部分、エポキシ系接着剤が単独で存在している部分の順である。また、シアノアクリレート系接着剤よりもエポキシ系接着剤の粘性の方が高いことから、塗布後のエポキシ系接着剤のみが存在している部分とシアノアクリレート系接着剤のみが存在している部分とで、塗布直後の接着剤層の膜厚に違いが生じる。すなわち、エポキシ系接着剤が単独で存在している部分、及びエポキシ系接着剤とシアノアクリレート系接着剤が接している部分に比べて、シアノアクリレート系接着剤が単独で存在している部分の接着剤層の膜厚は薄くなる。硬化速度の違いと塗布直後の接着剤層の膜厚の違いにより、固化後においても接着剤層の膜厚の違いが生じてしまい、その結果ジルコニアミルブランクの保持部と被加工部の位置精度が低くなると推測される。
【0026】
これに対して、本発明の製造方法では、エポキシ系接着剤を、被加工部の面Aと保持部の面Bの少なくとも一方に配置した後に、被加工部の面Aと保持部の面Bとを貼り合わせ、シアノアクリレート系接着剤を、面Aにおけるエポキシ系接着剤を配置していない部分(例えば、面Bと接する領域の周囲に存在する部分;
図2A及び
図2Bにおける8)と、保持部における面B以外の面C(例えば、円柱状の台座部の側面;
図1における側面5)、の両方に接するように配置する。これにより、エポキシ系接着剤の持つ高い剥離接着強度と高い耐水性を有し、かつシアノアクリレート接着剤の持つ固化時間が短いという特性を兼ね備えた製造方法となり、ジルコニアミルブランクの製造時間を短くすることができる。
【0027】
本発明のジルコニアミルブランクにおいて、エポキシ系接着剤の使用量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されず、面Aと面Bの間で複数の領域に分けて配置してもよいが、被加工部の面Aと面Bを貼り合わせた際に、面Aと面Bの間で一つの接着剤層を形成する程度の量を用いることが好ましく、該接着剤層の面積が面Bの面積と同じとなる程度の量を用いることがより好ましい。一方、シアノアクリレート系接着剤の使用量は、本発明の効果を奏する限り、面Aにおけるエポキシ系接着剤を配置していない部分の少なくとも一部と、保持部における面Cの少なくとも一部の両方に接する程度の量を用いればよく、各部分の接する領域が大きくなる程度の量を用いることがより好ましい。例えば、
図1A及び
図2Aのような実施形態の場合、面Bと接する領域の周囲に存在する部分すべてと、円柱状の台座部の側面4か所の両方に接する程度の量を用いることが特に好ましい。
【0028】
本発明のジルコニアミルブランクにおいて、シアノアクリレート系接着剤が、面Aと面Bとの間に実質的に存在しないことが好ましい。前述したように、シアノアクリレート系接着剤とエポキシ系接着剤は硬化速度と粘度に違いがあり、これに起因して、接着剤を配置した直後から固化後まで接着剤層の違いが生じてしまう。従って、面Aと面Bの間にエポキシ系接着剤のみを配置することで、均一な膜厚の接着剤層を形成することができ、その結果、被加工部と保持部の剥離接着強度を高めることができる。なお、シアノアクリレート系接着剤が「実質的に存在しない」とは、シアノアクリレート系接着剤の存在により本発明の効果を損ねる態様を除外する意味であり、例えば、シアノアクリレート系接着剤を配置した後に、面Aと面Bの間のエポキシ系接着剤から構成される接着剤層に対して、その周囲よりシアノアクリレート系接着剤が微量に浸入したり、ごく一部のみに浸入する態様までを除外するものではないことを意味する。
【0029】
エポキシ系接着剤やシアノアクリレート系接着剤を配置する方法は特に限定されず、筆やヘラにより塗布したり、容器から吐出したりする等、被加工部及び保持部の形状や大きさ等に応じて公知の方法を採用することができる。
【0030】
本発明のジルコニアミルブランクの製造方法において、本発明の効果を奏する限り、接着剤を使用する前に、プライマー処理を行ってもよい。前記プライマー処理に用いるプライマーとしては、シラン化合物系プライマー、金属キレート系プライマー等が挙げられる。シラン化合物系プライマーとしては、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基などの官能基を有するトリアルコキシシラン化合物等のシランカップリング剤が挙げられる。プライマーとしては、市販品を使用することができる。市販品としては、「ボンド プライマー80」(エポキシ系接着剤用プライマー、コニシ株式会社製)等が挙げられる。
【0031】
本発明のジルコニアミルブランクの製造方法において、本発明の効果を奏する限り、被加工体又は保持部の表面処理の有無は限定されない。例えば、洗浄や研磨、薬品処理を行ってもよい。前記洗浄は、水やエチルアルコール、イソプロピルアルコールなどを用いてもよく、前記薬品処理は、リン酸やクロム酸などを用いてもよい。
【0032】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的思想の範囲内に置いて、上記構成を種々組み合わせた実施形態を含み、適宜組み合わせ可能である。
【実施例】
【0033】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想の範囲内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0034】
後述する実施例において、使用した接着剤の種類は以下の通りである。
エポキシ系接着剤A:コニシ株式会社製、「EセットL」(主剤:変性エポキシ樹脂、硬化剤:変性ポリアミド樹脂)
エポキシ系接着剤B:セメダイン株式会社製、「ハイスーパー5」(主剤:エポキシ樹脂、硬化剤:ポリチオール樹脂)
シアノアクリレート系接着剤A:東亜合成株式会社製、「アロンアルファエクストラ4000」
シアノアクリレート系接着剤B:東亜合成株式会社製、「アロンアルファ403X」
なお、上記エポキシ系接着剤は、製品に添付された使用説明書に従って、主剤と硬化剤を混合して数分経った後、後記する保持部の所定位置に吐出して使用した。
【0035】
[セットタイムの測定方法]
被加工部と保持部を接着した直後に、被加工部を固定し、保持部の持ち手部に50gの重りを取り付けて、保持部が動かないことを目視にて観察した。保持部が動かなくなるまでの最小の時間をセットタイムと記載する。
【0036】
[剥離接着強度の測定方法]
保持部を固定し、被加工部において接着面から18mmの箇所に支持ローラーにて加重をかけて、保持部から被加工部が剥がれた時の加重を、卓上形精密万能試験機(オートグラフ AGS-5kNX、株式会社島津製作所製)を用いて測定した。支持ローラーの降下速度は1.0mm/秒にて行った。剥離接着強度は、接着してから1日後及び、接着してから1日後から30℃の蒸留水に3日間浸漬した後に測定した。
【0037】
[密着性の測定方法]
集光ランプ(MegaLight100、100Wダイクロイックミラー付ハロゲンランプ、SCHOTT社製)を用いてジルコニアミルブランクの接着面(
図3、4の第1接合部)の位置を照らし、ジルコニアミルブランクを介して接着面から光が透過しているかを、ジルコニアミルブランクから見て、ランプがある面と逆の面から目視にて観察した。光が透過していなければ、密着性は高く被加工部と保持部の位置精度も高い。
【0038】
[ジルコニアミルブランクの作製方法]
後述する実施例において、ジルコニアミルブランクの被加工部として、「カタナ(登録商標)ジルコニア ブロック」(組成:酸化ジルコニウム、イットリア等)、クラレノリタケデンタル株式会社)を切断した18×19×19mmのジルコニア仮焼体を用い、保持部としてアルミ合金を用いた。被加工部と保持部の形状の概略図は、
図1に示す通りである。後述する実施例の条件に基づき接着を行い、ジルコニアミルブランクを作製した。
【0039】
<実施例1>
エポキシ系接着剤A10mgを保持部の接着面(面B)中央に吐出し、被加工部を貼り合わせた。被加工部の接着面(面A)の中で、エポキシ系接着剤を配置していない部分(
図2Aの破線で囲まれた部分8)に保持部における面B以外の面(
図1の側面5)と接するようにシアノアクリレート系接着剤A2mgを吐出し、保持部と被加工部を接着した。接着後のジルコニアミルブランクの概略図(側面図)を
図3に示す。各評価結果を表1に示す。
【0040】
<実施例2>
使用するエポキシ系接着剤をエポキシ系接着剤Bに変更した以外は、実施例1と同じ方法で接着した。各評価結果を表1に示す。
【0041】
<実施例3>
使用するシアノアクリレート系接着剤をシアノアクリレート系接着剤Bに変更した以外は、実施例1と同じ方法で接着した。各評価結果を表1に示す。
【0042】
<比較例1>
シアノアクリレート系接着剤A10mgを保持部の接着面(面B)中央に吐出し、被加工部を貼り合わせ、接着した。各評価結果を表2に示す。
【0043】
<比較例2>
エポキシ系接着剤A10mgを保持部の接着面(面B)中央に吐出し、被加工部を貼り合わせ、接着した。各評価結果を表2に示す。
【0044】
<比較例3>
エポキシ系接着剤A10mgを保持部の接着面(面B)中央に吐出し、シアノアクリレート系接着剤A2mgを、吐出したエポキシ系接着剤に接しないように保持部の接着面(面B)に吐出した。次いで、被加工部を貼り合わせて、接着した。接着後のジルコニアミルブランクの概略図(側面図)を
図4に示す。各評価結果を表2に示す。
【0045】
<比較例4>
エポキシ系接着剤A10mgを保持部の接着面(面B)中央に吐出し、シアノアクリレート系接着剤A2mgを被加工部の接着面(面A)中央に吐出した。次いで、被加工部と保持部を貼り合わせて、接着した。各評価結果を表2に示す。
【0046】
【0047】
【0048】
表1及び表2に示すように、本発明の製造方法により得られた実施例1から3に比べて、シアノアクリレート系接着剤のみを使用した比較例1は、剥離接着強度が低く、エポキシ系接着剤のみを使用した比較例2はセットタイムが長い。このことより、本発明のジルコニアミルブランクはエポキシ系接着剤とシアノアクリレート系接着剤を併用することで、短いセットタイムでも高い剥離接着強度が得られたと推察される。
【0049】
また、表1及び表2に示すように、本発明の製造方法により得られた実施例1~3に比べて、比較例3又は4は、密着性が悪い。比較例3又は4では、保持部と被加工部を貼り合わせた際にエポキシ系接着剤とシアノアクリレート系接着剤が接触したことにより、面Aと面Bの間において、エポキシ系接着剤とシアノアクリレート系接着剤が接している部分とエポキシ系接着剤又はシアノアクリレート系接着剤が単独で存在している部分の接着後の膜厚に違いが生じたため、密着性が悪くなったと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、ジルコニアミルブランクを製造する工程において、被加工部と保持部とを接着する際の固化時間を短くしたまま、高い位置精度と高い剥離接着強度を両立する製造方法を提供できる。そのため、例えば、歯科用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 被加工部
2 保持部
3 被加工部の面A
4 保持部の面B
5 保持部の面C
6 台座部
7 軸部
8 面Aにおけるエポキシ系接着剤を配置していない部分
9 第1接合部
10 第2接合部