(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】流動接触分解装置の原料油熱交換器の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
C10G 11/18 20060101AFI20221207BHJP
F28G 9/00 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
C10G11/18
F28G9/00 N
(21)【出願番号】P 2019067456
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-01-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者 公益社団法人石油学会 刊行物名 公益社団法人石油学会 創立60周年記念東京大会 第48回石油・石油化学討論会予稿集 発行日 平成30年10月17日 集会名 公益社団法人石油学会 創立60周年記念東京大会 第48回石油・石油化学討論会 開催日 平成30年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深津 直矢
(72)【発明者】
【氏名】土屋 祐治
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 喜啓
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-165365(JP,A)
【文献】特表2012-509954(JP,A)
【文献】特開2013-249385(JP,A)
【文献】特開2017-160290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00-99/00
F28G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動接触分解装置の原料油熱交換器の洗浄方法であって、
脱硫減圧軽油および直接脱硫重油から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含み、15℃における密度が0.85~1.0kg/cm
3、アスファルテン含有量が1.0質量%以下である流動接触分解装置用原料油を90~99容量%含有するとともに、
接触分解軽油、潤滑油を製造する際のフルフラール抽出工程により得られるエキストラクトおよび混合キシレンを蒸留分離する装置より得られるトルエン留分から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含み、芳香族含有量が40~80容量%である燃料油基材を1~10容量%含有する洗浄用原料油を、
流動接触分解装置の原料油熱交換器に流通する
ことを特徴とする流動接触分解装置の原料油熱交換器の洗浄方法。
【請求項2】
前記流動接触分解装置の原料油熱交換器に対し、流動接触分解装置用被処理油のみを流通させた後、前記洗浄用原料油を流通させる処理を繰り返し行う請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄方法が以下の式(I)
{(V2×C)/V1}≧0.20 (I)
(ただし、V1は、洗浄用原料油を流通させる前に流通させた流動接触分解装置用被処理油の流通量(L)、V2は前記洗浄用原料油を流通させたときの洗浄用原料
油の流通量(L)、Cは前記洗浄用原料油中の燃料
油基材の含有割合(容量%)である。)
を満たすように前記洗浄用原料油を流通させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動接触分解装置(Fluid Catalytic Cracking(FCC))の原料油熱交換器を洗浄する方法に関する。
【0002】
流動接触分解装置(FCC)は、石油精製プロセスにおいて、分子量の大きな重質油留分を低分子のガソリン留分や中間留分に分解する装置であり、500℃以上の高温で重質油と流動接触分解触媒とを接触させることにより重質油留分を分解処理する装置である(例えば、特許文献1(特開平11-10204号公報)参照)。
流動接触分解装置によれば、環境負荷等の関係からそのままでは使用し難い重質油からガソリン留分等を製造し得るため、石油精製分野では非常に重要な装置であると同時に、限りある資源を有効に活用できる、環境にやさしい処理装置である。
【0003】
上記流動接触分解装置の処理対象となる原料油としては、脱硫重油や熱分解脱硫重油、間接脱硫重油、直接脱硫重油などが使用され、これらの原料油は熱交換器(場合によっては熱交換器と加熱炉)で300℃付近まで予熱されてから流動接触分解装置に投入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が検討したところ、上述したとおり、流動接触分解装置の処理対象となる原料油は重質油からなるものであることから、熱交換器を用いて予熱すると熱交換部位に堆積物(汚れ)が付着して熱交換効率が低下し易くなることが判明した。熱交換効率が低下すると流動接触分解装置に投入される原料油が十分に加温されないために、流動接触分解装置で処理する際により大きなエネルギーが必要となることから、急激な温度上昇に伴って触媒や反応装置の寿命を縮めたり、生産コストの上昇を招きやすくなる。
【0006】
このような状況下、本発明は、流動接触分解装置の原料油熱交換器への汚れの付着を運転中に低減し得る、流動接触分解装置の原料油熱交換器への汚れの付着を十分にかつ簡便に抑制し得る洗浄方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術課題を解決するために本発明者等が鋭意検討したところ、予熱用熱交換器に付着する汚れ分の原因成分に対して溶解性を示す原料油基材を一定程度含む組成物であれば、熱交換器の壁面への汚れ分の付着を抑制するか、一旦付着した汚れ分を好適に溶解し得ることを着想した。
【0008】
上記知見に基づいて本発明者等がさらに検討したところ、流動接触分解装置の原料油熱交換器の洗浄方法であって、脱硫減圧軽油および直接脱硫重油から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含み、15℃における密度が0.85~1.0kg/cm3、アスファルテン含有量が1.0質量%以下である流動接触分解装置用原料油を90~99容量%含有するとともに、接触分解軽油、潤滑油を製造する際のフルフラール抽出工程により得られるエキストラクトおよび混合キシレンを蒸留分離する装置より得られるトルエン留分から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含み、芳香族含有量が40~80容量%である燃料油基材を1~10容量%含有する洗浄用原料油を、流動接触分解装置の原料油熱交換器に流通する方法により、上記目的を達成し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)流動接触分解装置の原料油熱交換器の洗浄方法であって、
脱硫減圧軽油および直接脱硫重油から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含み、15℃における密度が0.85~1.0kg/cm3、アスファルテン含有量が1.0質量%以下である流動接触分解装置用原料油を90~99容量%含有するとともに、
接触分解軽油、潤滑油を製造する際のフルフラール抽出工程により得られるエキストラクトおよび混合キシレンを蒸留分離する装置より得られるトルエン留分から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含み、芳香族含有量が40~80容量%である燃料油基材を1~10容量%含有する洗浄用原料油を、
流動接触分解装置の原料油熱交換器に流通する
ことを特徴とする流動接触分解装置の原料油熱交換器の洗浄方法、
(2)前記流動接触分解装置の原料油熱交換器に対し、流動接触分解装置用被処理油のみを流通させた後、前記洗浄用原料油を流通させる処理を繰り返し行う上記(1)に記載の洗浄方法、
(3)前記洗浄方法が以下の式(I)
{(V2×C)/V1}≧0.20 (I)
(ただし、V1は、洗浄用原料油を流通させる前に流通させた流動接触分解装置用被処理油の流通量(L)、V2は前記洗浄用原料油を流通させたときの洗浄用原料油中に含まれる燃料用基材の流通量(L)、Cは前記洗浄用原料油中の燃料用基材の含有割合(容量%)である。)
を満たすように前記洗浄用原料油を流通させることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の洗浄方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、流動接触分解装置の原料油熱交換器への汚れの付着を運転中に低減し得る、流動接触分解装置の原料油熱交換器への汚れの付着を十分にかつ簡便に抑制し得る洗浄方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例および比較例で使用した熱交換器の汚れ評価装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る流動接触分解装置の原料油熱交換器の洗浄方法は、流動接触分解装置の原料油熱交換器の洗浄方法であって、
脱硫減圧軽油および直接脱硫重油から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含み、15℃における密度が0.85~1.0kg/cm3、アスファルテン含有量が1.0質量%以下である流動接触分解装置用原料油を90~99容量%含有するとともに、
接触分解軽油、潤滑油を製造する際のフルフラール抽出工程により得られるエキストラクトおよび混合キシレンを蒸留分離する装置より得られるトルエン留分から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含み、芳香族含有量が40~80容量%である燃料油基材を1~10容量%含有する洗浄用原料油を、
流動接触分解装置の原料油熱交換器に流通する
ことを特徴とするものである。
【0013】
本発明において用いられる洗浄用原料油は、脱硫減圧軽油および直接脱硫重油から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含み、15℃における密度が0.85~1.0kg/cm3、アスファルテン含有量が1.0質量%以下である流動接触分解装置用原料油を90~99容量%含有する。
【0014】
本発明において、流動接触分解装置用原料油の15℃における密度は、0.85~1.0kg/cm3であり、0.85~0.95kg/cm3であることが好ましく、0.86~0.95kg/cm3であることがより好ましく、0.86~0.94kg/cm3であることがさらに好ましい。
【0015】
流動接触分解装置用原料油の15℃における密度が上記範囲内にあることにより、十分な体積あたりの発熱量を容易に発揮して、工業炉やボイラーなどで使用した際に、燃焼の不均一性や失火などを容易に抑制することができる。
なお、本出願書類において、15℃における密度は、JIS K2249-1:2011により測定される値を意味する。
【0016】
本発明において、流動接触分解装置用原料油の沸点範囲は、170~750℃であることが好ましく、175~750℃であることがより好ましく、175~745℃であることがさらに好ましい。
なお、本出願書類において、沸点範囲は、JIS K2254:1998で測定される値を意味する。
【0017】
本発明において、流動接触分解装置用原料油の芳香族含有量は、5~30質量%であることが好ましく、8~30質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることがさらに好ましい。
なお、本出願書類において、芳香族含有量は、JPI-5S-49-97で測定される値を意味する。
【0018】
本発明において、流動接触分解装置用原料油のアスファルテン含有量は、1.0質量%以下であり、0.9質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がより好ましい。
流動接触分解装置用原料油のアスファルテン含有量が上記範囲内であることにより、原料油熱交換器に付着する汚れを容易に低減または抑制することができ、また、工業炉やボイラーなどで使用した際に、スラッジ堆積量を容易に抑制することができる。
なお、本出願書類において、アスファルテン含有量は、JPI-5S-22-83に準じて測定される値を意味する。
【0019】
本発明において、流動接触分解装置用原料油の90容量%留出温度は、450~650℃であることが好ましく、450~640℃であることがより好ましく、450~630℃であることがさらに好ましい。
流動接触分解装置用原料油の90容量%留出温度が上記範囲内であることにより、熱交換器の汚れ原因と考えられる重質なワックス留分の含有量が抑制され、効果的に汚れを低減することができる。
なお、本出願書類において、90容量%留出温度は、JIS K2254:1998で測定される値を意味する。
【0020】
本発明において、脱硫減圧軽油の15℃における密度は、0.85~0.92kg/cm3であることが好ましく、0.86~0.92kg/cm3であることがより好ましく、0.86~0.91kg/cm3であることがさらに好ましい。
脱硫減圧軽油の密度が上記範囲内であることにより、十分な体積あたりの発熱量を容易に発揮することができ、工業炉やボイラーなどで使用した際に、燃焼の不均一性や失火などを容易に抑制することができる。
【0021】
本発明において、脱硫減圧軽油の芳香族含有量は、5~18質量%であることが好ましく、8~18質量%であることがより好ましく、10~18質量%であることがさらに好ましい。
【0022】
本発明において、脱硫減圧軽油のアスファルテン量は、2.0質量%以下であることが好ましく、1.9質量%以下であることがより好ましく、1.8質量%以下であることがさらに好ましい。
脱硫減圧軽油のアスファルテン量が上記範囲内であることにより、原料油熱交換器に付着する汚れを低減または抑制することができる。また、工業炉やボイラーなどで使用した際に、スラッジ堆積量を抑制することができる。
【0023】
本発明において、脱硫減圧軽油の90容量%留出温度は、450~650℃であることが好ましく、450~640℃であることがより好ましく、450~630℃であることがさらに好ましい。
脱硫減圧軽油の90容量%留出温度が上記範囲内にあることにより、熱交換器の汚れ原因と考えられる重質なワックス留分の含有量が抑制され、効果的に汚れを低減することができる。
【0024】
本発明において、直接脱硫軽油の15℃における密度は、0.85~0.92kg/cm3であることが好ましく、0.86~0.92kg/cm3であることがより好ましく、0.86~0.91kg/cm3であることがさらに好ましい。
脱硫減圧軽油の密度が上記範囲内にあることにより、十分な体積あたりの発熱量を容易に発揮することができ、工業炉やボイラーなどで使用した際に、燃焼の不均一性や失火などを抑制することができる。
【0025】
本発明において、直接脱硫軽油の芳香族含有量は、10~30質量%であることが好ましく、15~30質量%であることがより好ましく、18~30質量%であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明において、直接脱硫軽油のアスファルテン量は、2.0質量%以下であることが好ましく、1.9質量%であることがより好ましく、1.8質量%以下であることがさらに好ましい。
直接脱硫軽油のアスファルテン量が上記範囲内にあることにより、原料油熱交換器に付着する汚れを低減または抑制することができる。また、工業炉やボイラーなどで使用した際に、スラッジ堆積量を容易に抑制することができる。
【0027】
本発明において、直接脱硫軽油の90容量%留出温度は、450~650℃であることが好ましく、450~640℃であることがより好ましく、450~630℃であることがさらに好ましい。
直接脱硫軽油の90容量%留出温度が上記範囲内であることにより、熱交換器の汚れ原因と考えられる重質なワックス留分の含有量が抑制され、効果的に汚れを低減することができる。
【0028】
本発明において用いられる洗浄用原料油は、接触分解軽油、潤滑油を製造する 際のフルフラール抽出工程により得られるエキストラクトおよび混合キシレンを蒸留分離する装置より得られるトルエン留分から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含み、芳香族含有量が40~80容量%である燃料油基材を1~10容量%含有する。
【0029】
本発明において、燃料油基材の芳香族含有量は、40~80質量%であり、42~80質量%であることが好ましく、45~80質量%であることがより好ましい。
燃料油基材の芳香族含有量が上記範囲内にあることにより、洗浄用原料油がが優れた溶解力を発揮して、より効果的に熱交換器の汚れを低減することができる。
【0030】
本発明において、燃料油基材の90容量%留出温度は、70~600℃であることが好ましく、72~600℃であることがより好ましく、75~600℃であることがさらに好ましい。
燃料油基材の90容量%留出温度が上記範囲内にあることにより、熱交換器の汚れ原因と考えられる重質なワックス留分の含有量が抑制され、効果的に汚れを低減することができる。
【0031】
本発明において、燃料油基材のアスファルテン含有量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
燃料油基材のアスファルテン含有量が上記範囲内であることにより、原料油熱交換器に付着する汚れを容易に低減または抑制することができる。また、工業炉やボイラーなどで使用した際に、スラッジ堆積量を容易に抑制することができる。
【0032】
本発明において、燃料油基材は、接触分解軽油、潤滑油を製造する際のフルフラール抽出工程により得られるエキストラクトまたは混合キシレンを蒸留分離する装置より得られるトルエンから選ばれる少なくとも1種以上の留分を含む。
燃料油基材が上記留分を含むことにより、流動接触分解反応への影響を抑制しつつ、原料油の処理量をさほど落とすことなく、流動接触分解装置の連続運転を止めずに原料油熱交換器に付着した汚れを低減させることができる。
【0033】
本発明において、接触分解軽油とは、重質油を接触分解処理したときに中間留分として得られる接触分解軽油、すなわちライトサイクルオイルを意味する。
【0034】
本発明において、接触分解軽油の芳香族含有量は、40~80容量%であることが好ましく、42~80容量%であることがより好ましく、45~80容量%であることがさらに好ましい。
接触分解軽油の芳香族含有量が上記範囲内であることにより、混合された流動接触分解装置用原料油の溶解力が向上し、効果的に原料油熱交換器に付着した汚れを低減することができる。
【0035】
本発明において、接触分解軽油の90容量%留出温度は、280~390℃であることが好ましく、290~390℃であることがより好ましく、300~390℃であることがさらに好ましい。
接触分解軽油の90容量%留出温度が上記範囲内にあることにより、(原料油に混合する際、重質なワックスの含有量が容易に抑制され、効果的に汚れを低減できる。
【0036】
本発明において、接触分解軽油のアスファルテン含有量は、0.1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましい。
接触分解軽油のアスファルテン含有量が上記範囲内にあることにより、原料油熱交換器に付着する汚れを容易に低減または抑制することができる。また、工業炉やボイラーなどで使用した際に、スラッジ堆積量を容易に抑制することができる。
【0037】
本発明において、エキストラクトとは、原油の常圧蒸留残渣油を減圧蒸留して得られる中質・重質の減圧蒸留留出油あるいは減圧蒸留残渣油の脱歴油(ブライトストック油)をフルフラール等で抽出分離した油を意味する。
上記フルフラール等で抽出した残分は、ラフィネートと称される潤滑油基油として使用されることから、エキストラクトは工業的には潤滑油製造工程で得られるものである。
【0038】
本発明において、エキストラクトの芳香族含有量は、40~70質量%であることが好ましく、45~70質量%であることがより好ましく、50~70質量%であることがさらに好ましい。
エキストラクトの芳香族含有量が上記範囲内にあることにより、混合された流動接触分解装置用原料油の溶解力が向上し、効果的に原料油熱交換器に付着した汚れを低減することができる。
【0039】
本発明において、エキストラクトの90容量%留出温度は、500~600℃であることが好ましく、510~600℃であることがより好ましく、520~600℃であることがさらに好ましい。
エキストラクトの90容量%留出温度が上記範囲内にあることにより、原料油に混合する際、重質なワックスの含有量が容易に抑制され、効果的に汚れを低減できる。
【0040】
本発明において、エキストラクトのアスファルテン含有量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
エキストラクトのアスファルテン含有量が上記範囲内であることにより、原料油熱交換器に付着する汚れを低減または抑制することができる。また、工業炉やボイラーなどで使用した際に、スラッジ堆積量を抑制することができる。
【0041】
本発明において、トルエン留分は、混合キシレンを蒸留分離する装置より得られるトルエンを主成分とした留分を意味し、沸点範囲が、70~130℃であるものが好ましく、72~130℃であるものがより好ましく、75~130℃であるものがさらに好ましい。
混合キシレンを蒸留分離する装置とは、重質改質ナフサを蒸留して、o-キシレン及びp-キシレンを主成分とした混合キシレンを得るための装置であり、副生物としてトルエンを蒸留分離することができる。
【0042】
本発明において、トルエン留分の芳香族含有量は、60~80質量%であることが好ましく、62~80質量%であることがより好ましく、65~80質量%であることがさらに好ましい。
トルエン留分の芳香族含有量が上記範囲内にあることにより、混合された流動接触分解装置用原料油の溶解力が容易に向上し、効果的に原料油熱交換器に付着した汚れを低減することができる。
【0043】
本発明において、洗浄用原料油を構成する流動接触分解用原料油の含有割合は、90~99容量%であり、90~98.5容量%であることが好ましく、90~98容量%であることがより好ましい。
また、本発明において、洗浄用原料油を構成する燃料油基材の含有割合は、1~10容量%であり、1.5~10容量%であることが好ましく、2~10容量%であることがより好ましい。
洗浄用原料油を構成する燃料油基材の含油割合が上記範囲内にあることにより、流動接触分解装置の連続運転を止めずに原料油熱交換器に付着した汚れを低減させることができ、流動接触分解装置の連続運転を停止して熱交換器を解放洗浄するまでの期間を延長することができる。また、原料油の処理量をさほど落とすことなく、さらに洗浄のために使用する付加価値の高い燃料油基材の使用量を抑えつつ、経済的に処理することができる。
【0044】
本発明に係る洗浄方法においては、上記流動接触分解装置の原料油熱交換器に対し、流動接触分解装置用被処理油のみを流通させた後、前記洗浄用原料油を流通させる処理を繰り返し行うことが好ましい。
流動接触分解装置用被処理油としては、上述した流動接触分解装置用原料油と同様のものを挙げることができる。
流動接触分解装置用被処理油の流通後の洗浄用原料油の流通は定期的に行ってもよいし、非定期的に行ってもよいが、定期的に行うことが好ましい。
このように、流動接触分解装置用被処理油の流通と、洗浄用原料油の流通を交互に行うことにより、流動接触分解装置の連続運転を止めずに原料油熱交換器に付着した十分にかつ簡便に低減することができる。
【0045】
本発明に係る洗浄方法においては、以下の式(I)
{(V2×C)/V1}≧0.20 (I)
(ただし、V1は、洗浄用原料油を流通させる前に流通させた流動接触分解装置用被処理油の流通量(L)、V2は前記洗浄用原料油を流通させたときの洗浄用原料油中に含まれる燃料用基材の流通量(L)、Cは前記洗浄用原料油中の燃料用基材の含有割合(容量%)である。)
を満たすように洗浄用原料油を流通させることが好ましい。
【0046】
式(I)において、流動接触分解装置用被処理油の流通と、洗浄用原料油の流通を各々1回づつ行ったときは、V1およびV2は、各々の流通量(L)である。
式(I)において、流動接触分解装置用被処理油のみを流通させた後、洗浄用原料油を流通させる処理を繰り返し行ったときは、流動接触分解装置用被処理油のみの流通とその直後の洗浄用原料油の流通を1つの処理として、各処理時における、流動接触分解装置用被処理油の流通量をV1(L)、洗浄用原料油の流通量をV2(L)として、上記比を算出する。
【0047】
上記式{(V2×C)/V1}で表される値は、0.20以上であり、0.22以上が好ましく、0.25以上がより好ましい。
【0048】
本発明に係る洗浄方法において式(I)を満たすように定期的ないし非定期的に洗浄用原料油を流通させることにより、流動接触分解装置の連続運転を止めずに原料油熱交換器に付着した汚れを低減させることができ、流動接触分解装置の連続運転を停止して熱交換器を解放洗浄するまでの期間を延長することができる。また、原料油の処理量をさほど落とすことなく、さらに洗浄のために使用する付加価値の高い燃料油基材の使用量を抑えることができ、経済的な処理が可能となる。
【0049】
本発明によれば、流動接触分解装置の原料油熱交換器への汚れの付着を運転中に低減し得る、流動接触分解装置の原料油熱交換器への汚れの付着を十分にかつ簡便に抑制し得るの洗浄方法を提供することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれ等の例により何ら限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
(1)基材の調整
流動接触分解装置用原料油を構成する基材として、各々表1に示す物性を有する基材A(脱硫減圧軽油(VGO))および基材B(直接脱硫重油(DDSP))を用意するとともに、燃料油基材Cとして、表1に示す物性を有する接触分解軽油(LCO)を用意した。
また、基材Aを70容量%、基材Bを30容量%の割合で混合した原料油と、基材Aを63容量%、基材Bを27容量%および基材Cを10容量%の割合で混合した洗浄用原料油とを用意した。
各基材および原料油の物性を以下に示す。
【0052】
【0053】
(2)洗浄方法
図1に概略断面図で示すように、原料油タンクT1に貯蔵されホットプレートHPにより70℃に加温された1.2Lの上記原料油を、同じく(図示しない)リボンヒーターにより流路全体が70℃に維持された流通配管c(直6.5mm)内に毎分10mLで送液しつつ、上記原料油の流通配管内に各々ヒーターロッドR(ステンレス鋼製、長さ200mm、直径6mm)を配置した加熱ヒーターHT1および加熱ヒーターHT2でそれぞれ設定温度T1(170℃)、T2(300℃)で順次加熱して上記原料油タンクT1に返送する操作を370分間継続した後、バルブV1を切り替え、洗浄タンクT2に貯蔵された洗浄用原料油を毎分10mLで10分間通油した。この際バルブV2を開くことで洗浄用原料油が原料タンクに混入しないようにした。10分後バルブV1を原料タンク側に戻し、流路内の洗浄油が完全に排出されたのちバルブV2を閉じ、原料油の通油を再開し、260分間継続した。上記加熱ヒーターHT2の原料油出口に配置された原料油温度計測手段Tm2outで原料油のヒーター出口温度T3を測定したときの結果を表2に示す。
【0054】
(実施例2)
原料油を運転開始から500分間継続した後に、洗浄用原料油を毎分10mLで10分間通油した以外は実施例1と同じ条件でヒーター出口温度T3を測定した。結果を表2に示す。
【0055】
(実施例3)
原料油を運転開始から300分間継続した後に、洗浄用原料油を毎分10mLで10分間通油し、その後原料油を60分間通油した。その後、洗浄油原料油を毎分10mLで10分間通油し、原料油を60分間通油した。さらにその後、洗浄用原料油を毎分10mLで10分間通油し、原料油を60分間通油した。さらにその後、洗浄用原料油を毎分10mLで10分間通油し、原料油を120分間通油した以外は実施例1と同じ条件でヒーター出口温度T3を測定した。結果を表2に示す。
【0056】
(比較例1)
洗浄用原料油を通油しない以外は実施例1と同じ条件でヒーター出口温度T3を測定した。結果を表2に示す。
【0057】
また、各実施例および比較例における式{(V2×C)/V1}の算出結果を表3に示す。
【0058】
【0059】
【0060】
表2より、実施例1は測定開始後370~380分の間に、実施例2は測定開始後500~510分の間に、実施例3は測定開始後300~310分、370~380分、440~450分、510~520分の間に洗浄用原料油が通油されたことにより、ヒーター出口温度T3がその前後で下降傾向から上昇傾向に転じていることがわかる。
【0061】
一方、表2より、比較例1は洗浄用原料油を混合しないために、ヒーター出口温度が測定期間中にほぼ減少傾向にあり、測定開始時点から約50℃も低下していることが分かる。洗浄用原料油を混合した実施例1~実施例3では、測定終了時において比較例1と比べ、ヒーター出口温度が高いことから、原料油の通油によりヒーターロッドRに付着した汚れが洗浄により低減されたことを示している。また実施例3のように洗浄用原料油を繰り返し通油することで、熱交換器による汚れ付着が軽減され、流動接触分解装置および原料油熱交換器の連続運転の期間を延長することができることが分かる。
【0062】
また表2および3より、式{(V2×C)/V1}≧2.0を満たすように洗浄用原料油を流通した実施例1~実施例3は、ヒーター出口温度が洗浄用原料油の流通後すぐに上昇していることから、洗浄用原料油の流通前に付着した汚れを効果的に低減できていることがわかる。また最も汚れが付着している実施例2の式{(V2×C)/V1}により算出される値が0.20であり所望の効果が得られていること、汚れの原因となる原料油の流通量がより少なく式{(V2×C)/V1}により算出される値が実施例2より大きい実施例1や実施例3でも所望の効果が得られていることから、洗浄用原料油の流通量と原料油の比である式{(V2×C)/V1}により算出される値が0.2以上であれば所望の効果が得られることがわかる。
一方、比較例1では、洗浄油原料油を投入していないことにより、原料油の流通量が増えるとともに付着した汚れが低減されることなく、その結果、ヒーター出口温度が下降していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、流動接触分解装置の原料油熱交換器への汚れの付着を運転中に低減し得る、流動接触分解装置の原料油熱交換器への汚れの付着を十分にかつ簡便に抑制し得る洗浄方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0064】
T1、T2 :タンク
V1、V2 :切り替えバルブ
HP :ホットプレート
c :流通配管
HT1、HT2 :加熱ヒーター
R :ヒーターロッド
P :ポンプ