(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】温度測定装置および温度測定方法
(51)【国際特許分類】
G01J 5/00 20220101AFI20221207BHJP
G01J 5/48 20220101ALI20221207BHJP
C21B 7/24 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
G01J5/00 101D
G01J5/48 E
C21B7/24
(21)【出願番号】P 2019110852
(22)【出願日】2019-06-14
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】迫田 尚和
(72)【発明者】
【氏名】桑名 孝汰
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】光岡 那由多
(72)【発明者】
【氏名】新田 和明
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-66510(JP,A)
【文献】特開2006-119110(JP,A)
【文献】特開2015-200639(JP,A)
【文献】特開2017-195454(JP,A)
【文献】特開平01-251179(JP,A)
【文献】国際公開第2005/046478(WO,A1)
【文献】特開2001-269341(JP,A)
【文献】特開2018-200199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 3/00 - C21B 15/04
G01J 5/00 - G01J 5/90
G06T 1/00 - G06T 1/40
G06T 3/00 - G06T 7/90
G06V 10/00 - G06V 20/90
G06V 30/418
G06V 40/16
G06V 40/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出銑滓流の時系列画像を用いて、前記出銑滓流に含まれる溶銑を示す溶銑像を有する画像を生成する画像生成部と、
前記溶銑像を構成する画素が示す画素値を基にして、前記出銑滓流に含まれる前記溶銑の温度を算出する温度算出部と、を備え、
前記溶銑像を有する画像は、最小値画像であり、
前記画像生成部は、前記時系列画像に関して、同じ画素座標の画素が示す画素値の最小値を求め、前記画素座標の画素が示す画素値が前記最小値となる前記最小値画像を生成する、
温度測定装置。
【請求項2】
前記溶銑像を構成する画素が示す画素値の有効性を、しきい値を用いて判定する判定部をさらに備える、
請求項1
に記載の温度測定装置。
【請求項3】
出銑滓流の時系列画像を用いて、前記出銑滓流に含まれる溶銑を示す溶銑像を有する画像を生成する画像生成ステップと、
前記溶銑像を構成する画素が示す画素値を基にして、前記出銑滓流に含まれる前記溶銑の温度を算出する温度算出ステップと、を備え、
前記溶銑像を有する画像は、最小値画像であり、
前記画像生成ステップは、前記時系列画像に関して、同じ画素座標の画素が示す画素値の最小値を求め、前記画素座標の画素が示す画素値が前記最小値となる前記最小値画像を生成する、
温度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出銑滓流に含まれる溶銑や溶滓の温度を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉操業の管理等のために、高炉の出銑口から取り出された出銑滓流に含まれる溶銑および溶滓のそれぞれの温度が測定される。これらの温度を測定する技術として、例えば、特許文献1に開示された出銑温度測定装置がある。この装置は、出銑滓流の熱放射輝度分布を、当該熱放射輝度に対応する画素ごとの画素値を持つ各画素から構成される対象画像として撮像する撮像部と、前記撮像部で撮像された対象画像における前記出銑滓流の画像中に所定のサイズの評価領域を設定する設定部と、前記設定部で設定された評価領域における最小画素値を抽出する抽出部と、前記抽出部で抽出した最小画素値に基づいて、前記出銑滓流に含まれる溶銑の溶銑温度を求める温度演算部とを備え、前記抽出部は、さらに、前記設定部で設定された評価領域における最大画素値を抽出し、前記温度演算部は、さらに、前記抽出部で抽出した最大画素値に基づいて、前記出銑滓流に含まれる溶滓の溶滓温度を求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された出銑温度測定装置によれば、溶銑および溶滓の温度の測定精度を向上させることができる。本発明者らは、この出銑温度測定装置とは別の手法で溶銑および溶滓の温度の測定精度を向上させる技術を見出した。
【0005】
本発明の目的は、出銑滓流に含まれる溶銑や溶滓の温度の測定精度を向上させることができる温度測定装置および温度測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1局面に係る温度測定装置は、出銑滓流の時系列画像を用いて、前記出銑滓流に含まれる溶銑を示す溶銑像を有する画像を生成する画像生成部と、前記溶銑像を構成する画素が示す画素値を基にして、前記出銑滓流に含まれる前記溶銑の温度を算出する温度算出部と、を備える。
【0007】
出銑滓流は溶銑と溶滓との混合物である。画像生成部は、出銑滓流の時系列画像を用いて、溶銑像を有する画像を生成する。出銑滓流に含まれる溶銑の温度は、溶銑像を構成する画素が示す画素値(画素値は、例えば、放射輝度でもよいし、所定の校正情報を用いて放射輝度に変換可能な値でもよい。後者の場合、画素値が放射輝度に変換されて、この放射輝度を用いて、温度が算出される。)を基にして算出される。よって、溶銑の温度の算出において、溶滓の温度の影響を受けないようにすることができる。従って、本発明の第1局面に係る温度測定装置によれば、溶銑の温度の測定精度を向上させることができる。
【0008】
上記構成において、前記溶銑像を有する画像は、最小値画像であり、前記画像生成部は、前記時系列画像に関して、同じ画素座標の画素が示す画素値の最小値を求め、前記画素座標の画素が示す画素値が前記最小値となる前記最小値画像を生成する。
【0009】
最小値画像は、溶銑像を有する画像の一例である。理由は以下の通りである。溶銑の放射率は、約0.4程度であり、溶滓の放射率は、約0.9~0.95程度であると考えられている。出銑滓流は、溶銑と溶滓とが混じり合っており、溶銑上に、半透明な溶滓が乗っている。このため、出銑滓流の表面から見た溶銑の放射率は見かけの値となる。しかも、通常、出銑滓流上の箇所に応じて、溶銑上に乗る溶滓の厚みが異なるので、出銑滓流上の箇所に応じて、溶銑の放射率の見かけの値が異なる(溶滓の影響が小さければ、溶銑の放射率の見かけの値は小さくなる。溶滓の影響が大きければ、溶銑の放射率の見かけの値は大きくなる)。
【0010】
このことは、時間軸で見れば、出銑滓流上の箇所が同じでも、時間が異なれば、溶銑の放射率の見かけの値が異なる。よって、時系列画像に関して、同じ画素座標の画素が示す画素値は一定でなく、変化しており、同じ画素座標の画素の中で最も暗い画素(画素値が最小値を示す画素)が、溶滓の影響を受けていない画素、あるいは、溶滓の影響が最も少ない画素である。従って、その画素が示す画素値を基にして算出された温度が、溶銑の温度の真値、あるいは、真値に近い値を示している。最小値画像の各画素が示す画素値は、以上のような最小値なので、最小値画像は、溶銑像を有する画像として確からしい。
【0011】
上記構成において、前記溶銑像を構成する画素が示す画素値の有効性を、しきい値を用いて判定する判定部をさらに備える。
【0012】
出銑滓流が流れる現場で、煙や水蒸気のような気体が発生し、この気体を介して出銑滓流の時系列画像が撮影されることがある。この場合、溶銑像を構成する画素が示す画素値が本来の値より小さくなる。このような画素値に基づいて、溶銑の温度が算出されると、溶銑の温度の測定精度が低下する。この構成によれば、溶銑像を構成する画素が示す画素値の有効性を、しきい値を用いて判定する。よって、上記本来の値より小さい画素値で算出された溶銑の温度が、溶銑の温度として採用されることを防止できる。
【0013】
本発明の第2局面に係る温度測定方法は、出銑滓流の時系列画像を用いて、前記出銑滓流に含まれる溶銑を示す溶銑像を有する画像を生成する画像生成ステップと、前記溶銑像を構成する画素が示す画素値を基にして、前記出銑滓流に含まれる前記溶銑の温度を算出する温度算出ステップと、を備える。
【0014】
本発明の第2局面に係る温度測定方法は、本発明の第1局面に係る温度測定装置を方法の観点から規定しており、本発明の第1局面に係る温度測定装置と同様の作用効果を有する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、出銑滓流に含まれる溶銑や溶滓の温度の測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1実施形態における温度測定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】高炉の出銑口から出銑滓流が流出する様子を説明する説明図である。
【
図3】出銑滓流の時系列画像と最小値画像との関係を説明する説明図である。
【
図4】時系列画像を構成する画像の一例を示す模式図である。
【
図6】出銑滓流の時系列画像と最大値画像との関係を説明する説明図である。
【
図7】
図5に示す最小値画像に評価領域が設定された状態を示す模式図である。
【
図8】第1実施形態における温度測定装置の動作を示すフローチャートである。
【
図9】第2実施形態における温度測定装置の構成を示すブロック図である。
【
図10】撮像部と出銑滓流との間に煙が発生している状態で撮影された時系列画像を用いて生成された最小値画像の一例を示す模式図である。
【
図11】
図5および
図10に示す最小値画像において、出銑滓流の流出方向に沿って引かれた一直線上の輝度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。各図において、同一符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その構成について、既に説明している内容については、その説明を省略する。
【0027】
図1は、第1実施形態における温度測定装置T1の構成を示すブロック図である。
図2は、高炉SFの出銑口PHから出銑滓流PSが流出する様子を説明する説明図である。
図1および
図2を参照して、温度測定装置T1は、高炉SFの出銑口PHから流出する出銑滓流PSを撮像することによって得られた出銑滓流PSの時系列画像に基づいて出銑滓流PSに含まれる溶銑および溶滓の温度を測定する放射測温装置である。出銑滓流(銑滓混合物)は、溶銑と溶滓(溶融スラグ)との混合物であり、出銑口PHから高温の流体状で流出される。温度測定装置T1は、例えば、
図1に示すように、撮像部1と、制御処理部2と、記憶部3と、入力部4と、出力部5と、インターフェース部(IF部)6と、を備える。
【0028】
撮像部1は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、出銑滓流PSの時系列画像を撮像する。時系列画像は、所定期間に複数の時刻で撮影された複数の画像(例えば、1分間に5秒間隔で撮影された12枚の画像)により構成される。時系列画像を構成する各画像は、可視光画像でもよいし、赤外線画像でもよい。時系列画像を構成する各画像は、後で説明するように、校正情報を用いて熱画像にされる。
【0029】
撮像部1は、出銑滓流PSの時系列画像を制御処理部2へ出力する。撮像部1は、例えば、被写体における光学像を所定の結像面上に結像する結像光学系、結像面に受光面を一致させて配置され、被写体における光学像を電気的な信号に変換するエリアイメージセンサ、および、エリアイメージセンサの出力を画像処理することで被写体における画像を表すデータである画像データを生成する画像処理回路等を備えるデジタルカメラ等である。撮像部1は、例えば、動画像を生成するカメラによって実現される。
【0030】
撮像部1は、例えば、
図2に示すように、出銑口PHから、出銑樋カバーCVを備える出銑樋SGへ、流出する出銑滓流PSを撮像できるように適宜に配設される。出銑滓流PSは、比較的高速に出銑口PHから流出するので、撮像部1は、出銑滓流PSの流出速度に応じた速度で撮像可能に構成される。撮像部1は、温度測定装置T1における他の各部2~6とともに図略の筐体に収容され、他の各部2~6と一体に構成されて良いが、第1実施形態では、撮像部1は、他の各部2~6とは、別体に構成され、撮像部1は、出銑滓流PSを撮像できるように、他の各部2~6から遠隔に配置され、有線または無線によって制御処理部2と通信可能に接続される。
【0031】
図1を参照して、入力部4は、制御処理部2に接続され、例えば、温度の測定開始を指示するコマンド等の各種コマンド、および、例えば評価領域の設定入力等の温度を測定する上で必要な各種データを温度測定装置T1に入力する装置であり、例えば、所定の機能を割り付けられた複数の入力スイッチ、キーボードおよびマウス等である。
【0032】
出力部5は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、入力部4から入力されたコマンドやデータ、および、温度測定装置T1によって測定された温度等を出力する装置であり、例えばCRTディスプレイ、LCD(液晶表示装置)および有機ELディスプレイ等の表示部(表示装置)や、プリンタ等の印刷装置等である。
【0033】
IF部6は、例えば、外部の機器との間でデータを入出力する回路であり、例えば、シリアル通信方式であるRS-232Cのインターフェース回路、Bluetooth(登録商標)規格を用いたインターフェース回路、および、USB(Universal Serial Bus)規格を用いたインターフェース回路等である。また、IF部6は、例えば、データ通信カードや、IEEE802.11規格等に従った通信インターフェース回路等の、外部の機器と通信信号を送受信する通信インターフェース回路であっても良い。
【0034】
記憶部3は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、各種の所定のプログラムおよび各種の所定のデータを記憶する回路である。各種の所定のプログラムには、例えば、温度測定装置T1の各部1、3~6を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御する制御プログラムや、撮像部1で撮像された時系列画像を用いて、最小値画像(溶銑像を有する画像)および最大値画像(溶滓像を有する画像)を生成する画像生成プログラムや、最小値画像中および最大値画像中にそれぞれ所定のサイズの評価領域を設定する設定プログラムや、設定プログラムで設定された評価領域を構成する画素が示す画素値を代表する値(代表値)を抽出する代表値抽出プログラムや、代表値抽出プログラムで抽出した代表値を用いて、出銑滓流PSに含まれる溶銑および溶滓の温度を算出する温度算出プログラム等の制御処理プログラムが含まれる。前記各種の所定のデータには、これらのプログラムを実行する上で必要なデータ等が含まれる。記憶部3は、例えば不揮発性の記憶装置であるROM(Read Only Memory)や書き換え可能な不揮発性の記憶装置であるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等を備える。記憶部3は、制御処理部2のワーキングメモリ(前記各種の所定のプログラムの実行中に生じるデータ等を記憶するメモリ)となるRAM(Random Access Memory)等を含む。
【0035】
そして、記憶部3は、校正情報を記憶する校正情報記憶部31を機能的に備える。校正情報は、いわゆる黒体炉を撮像部1で撮像することによって得られた画像の画素値と黒体炉の黒体放射輝度の輝度値との対応関係であり、例えば、互いに異なる複数の温度それぞれで、黒体炉を撮像部1で撮影することによって予め作成される。黒体放射輝度の輝度値は、温度の関数であるので、校正情報は、黒体炉を撮像部1で撮像することによって得られた画像の画素値と黒体炉の温度との対応関係となる。例えば、時系列画像を構成する各画像について、画像における各画素の各画素値を、校正情報によって、各輝度値へ変換することによって、放射輝度の輝度画像、すなわち、熱画像が生成できる。校正情報は、前記対応関係を表す関係式の形式で校正情報記憶部31に記憶されて良く、あるいは、前記対応関係を表すテーブルの形式で校正情報記憶部31に記憶されて良い。
【0036】
制御処理部2は、温度測定装置T1の各部1、3~6を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、温度を求めるための回路である。制御処理部2は、例えば、CPU(Central Processing Unit)およびその周辺回路を備えて構成される。制御処理部2は、前記制御処理プログラムが実行されることによって、制御部21、画像生成部22、設定部23、抽出部24、および、温度算出部25を機能的に備える。
【0037】
制御部21は、温度測定装置T1の各部1、3~6を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、温度測定装置T1の全体の制御を司るものである。
【0038】
画像生成部22は、出銑滓流PSの時系列画像IMを用いて、出銑滓流PSに含まれる溶銑を示す溶銑像111(
図5)を有する画像、および、出銑滓流PSに含まれる溶滓を示す溶滓像(不図示)を有する画像を生成する。溶銑像111を有する画像から説明する。
【0039】
溶銑像111を有する画像は、例えば、最小値画像Im2(
図3)である。画像生成部22は、時系列画像IMに関して、同じ画素座標の画素が示す画素値の最小値を求め、この画素座標の画素が示す画素値が最小値となる最小値画像Im2を生成する。
図3は、出銑滓流PSの時系列画像IMと最小値画像Im2との関係を説明する説明図である。時系列画像IMを構成する画像Im1の数が、N(Nは2以上の整数)とする。各画像Im1を構成する画素数がMとする(Mは整数)。同じ画素座標の画素とは、1番目の画像Im1-1~N番目の画像Im1-Nにおいて、同じ順番に位置する画素である(例えば、1番目画素)。
【0040】
1番目の画像Im1-1~N番目の画像Im1-Nにおいて、1番目画素(同じ順番に位置する画素)が示す画素値の最小値が、最小値画像Im2を構成する1番目画素が示す画素値となり、2番目画素(同じ順番に位置する画素)が示す画素値の最小値が、最小値画像Im2を構成する2番目画素が示す画素値となり、・・・、M番目画素(同じ順番に位置する画素)が示す画素値の最小値が、最小値画像Im2を構成するM番目画素が示す画素値となる。
【0041】
図4は、時系列画像IMを構成する画像Im1の一例を示す模式図である。画像Im1は、出銑滓流PSを示す出銑滓流像101と背景102とを含む。
図4において、出銑滓流像101は、白と一種類の濃度のグレーとで示されている。しかし、実際の出銑滓流像101は、溶銑の放射率と溶滓の放射率との差、および、これらの混合状態により、いわゆるマーブル模様になっている。
図5は、最小値画像Im2の一例を示す模式図である。最小値画像Im2は、溶銑を示す溶銑像111と背景112とを含む。溶銑像111の形状は、出銑滓流像101の形状とおおよそ同じである。溶銑像111は、輝度が相対的に高い箇所(溶滓を示す箇所)を有しておらず、全体として輝度が相対的に低くなっている。
図5において、溶銑像111は、一種類の濃度のグレーで示されている。しかし、実際の溶銑像111は、濃度差が小さい複数の濃度のグレーで示される。
【0042】
最小値画像Im2は、溶銑像111を有する画像の一例である。理由は以下の通りである。溶銑の放射率は、約0.4程度であり、溶滓の放射率は、約0.9~0.95程度であると考えられている。出銑滓流PSは、溶銑と溶滓とが混じり合っており、溶銑上に、半透明な溶滓が乗っている。このため、出銑滓流PSの表面から見た溶銑の放射率は見かけの値となる。しかも、通常、出銑滓流PS上の箇所に応じて、溶銑上に乗る溶滓の厚みが異なるので、出銑滓流PS上の箇所に応じて、溶銑の放射率の見かけの値が異なる(溶滓の影響が小さければ、溶銑の放射率の見かけの値は小さくなる。溶滓の影響が大きければ、溶銑の放射率の見かけの値は大きくなる)。
【0043】
このことは、時間軸で見れば、出銑滓流PS上の箇所が同じでも、時間が異なれば、溶銑の放射率の見かけの値が異なる。よって、時系列画像IMに関して、同じ画素座標の画素が示す画素値は一定でなく、変化しており、同じ画素座標の画素の中で最も暗い画素(画素値が最小値を示す画素)が、溶滓の影響を受けていない画素、あるいは、溶滓の影響が最も少ない画素である。従って、その画素が示す画素値を基にして算出された温度が、溶銑の温度の真値、あるいは、真値に近い値を示している。最小値画像Im2の各画素が示す画素値は、以上のような最小値なので、最小値画像Im2は、溶銑像111を有する画像として確からしい。
【0044】
溶銑像111を有する画像は、最小値画像Im2に限定されない。詳しく説明する。時系列画像IMに関して、同じ画素座標の画素の中で、例えば、2番目や3番目に小さい値でも溶銑像111を有する画像を生成できるのであれば、この画像でもよい。また、時系列画像IMに関して、同じ画素座標の画素の中で、下位一定割合以内の画素値を示す画素が抽出され、抽出された画素が示す画素値の平均値や中央値でも溶銑像111を有する画像を生成できるのであれば、この画像でもよい。
【0045】
溶滓像を有する画像について説明する。この画像は、例えば、最大値画像Im3(
図6)である。画像生成部22は、時系列画像IMに関して、同じ画素座標の画素が示す画素値の最大値を求め、この画素座標の画素が示す画素値が最大値となる最大値画像Im3を生成する。
図6は、出銑滓流PSの時系列画像IMと最大値画像Im3との関係を説明する説明図である。
図6が
図3と異なる点は、最小値画像Im2が最大値画像Im3と示されている点である。上述した最小値画像Im2の説明において、「最小値」が「最大値」に置き換えられることにより、最大値画像Im3の説明となるので、
図6の詳しい説明は省略する。
【0046】
最大値画像Im3は、溶滓像を有する画像の一例である。理由は以下の通りである。上述したように、出銑滓流PSは、溶銑と溶滓とが混じり合っており、溶銑上に、半透明な溶滓が乗っている。溶銑上に乗っている溶滓の厚みが薄い箇所では、溶銑の影響が大きいので、その箇所の画素値に基づいて算出された溶滓の温度は、真値よりかなり小さくなる。一方、溶銑上に乗っている溶滓の厚みが厚い箇所では、溶銑の影響がなく、または、影響が小さいので、その箇所の画素値に基づいて算出される溶滓の温度は、真値または、真値に近い。
【0047】
このことは、時間軸で見れば、出銑滓流PS上の箇所が同じでも、溶銑の影響が大きいときと溶銑の影響が小さいときがある。よって、時系列画像IMに関して、同じ画素座標の画素の中で最も明るい画素(画素値が最大値を示す画素)が、溶銑の影響を受けていない画素、あるいは、溶銑の影響が最も少ない画素である。従って、その画素が示す画素値を基にして算出される温度が、溶滓の温度の真値、あるいは、真値に近い値を示している。最大値画像Im3の各画素が示す画素値は、以上のような最大値なので、最大値画像Im3は、溶滓像を有する画像として確からしい。
【0048】
溶滓像を有する画像は、最大値画像Im3に限定されない。詳しく説明する。時系列画像IMに関して、同じ画素座標の画素の中で、例えば、2番目や3番目に大きい値でも溶滓像を有する画像を生成できるのであれば、この画像でもよい。また、時系列画像IMに関して、同じ画素座標の画素の中で、上位一定割合以内の画素値を示す画素が抽出され、抽出された画素が示す画素値の平均値や中央値でも溶滓像を有する画像を生成できるのであれば、この画像でもよい。
【0049】
図1を参照して、設定部23は、最小値画像Im2中および最大値画像Im3中に所定のサイズの評価領域ROI(
図7)を設定する。評価領域ROIの設定の仕方は、最小値画像Im2と最大値画像Im3とで同じなので、最小値画像Im2を例にして説明する。
図7は、
図5に示す最小値画像Im2に評価領域ROIが設定された状態を示す模式図である。設定部23は、例えば、最小値画像Im2を出力部5に出力し、ユーザによる設定操作を入力部4で受け付けて、最小値画像Im2中に評価領域ROIを設定して良い。あるいは、設定部23は、例えば、最小値画像Im2中に評価領域ROIを自動的に設定して良い。より具体的には、例えば、設定部23は、まず、エッジフィルタを用いることによって最小値画像Im2における溶銑像111のエッジを検出し、これによって溶銑像111を抽出する。そして、設定部23は、この抽出した溶銑像111内に評価領域ROIを設定する。例えば、高炉SFの操業管理等を目的に出銑滓流PSの温度を測定している観点や、出銑口PHから離れるに従って生じる煙等によって出銑滓流PSの撮像が妨害される観点等から、設定部23は、溶銑像111において、出銑口PH付近のスラグ堆積や煙等の影響のなるべく少ない位置に、評価領域ROIを設定する。評価領域ROIのサイズは、複数のサンプルを用いて適宜に設定されるが、例えば、溶銑像111の幅(出銑滓流PSの流出方向に略直交する幅方向の長さ)の約2/3や約1/2の長さを持つ正方形や矩形等で設定される。
【0050】
図1を参照して、抽出部24は、設定部23で設定された評価領域ROIを構成する画素が示す画素値の代表値を抽出する。最小値画像Im2の場合、代表値は、例えば、評価領域ROIを構成する全画素において、画素値の最小値、画素値の平均値、画素値の中央値、または、下位一定割合の画素値の平均値である。下位一定割合の画素値の平均値とは、評価領域ROIを構成する全画素の画素値の中で、下位一定割合(例えば、下位5%)の画素値の平均値である。最大値画像Im3の場合、代表値は、例えば、評価領域ROIを構成する全画素において、画素値の最大値、画素値の平均値、画素値の中央値、または、上位一定割合の画素値の平均値である。上位一定割合の画素値の平均値とは、評価領域ROIを構成する全画素の画素値の中で、上位一定割合(例えば、上位5%)の画素値の平均値である。
【0051】
なお、抽出部24は、評価領域ROIを用いないで、代表値を抽出してもよい。例えば、抽出部24は、最小値画像Im2から溶銑像111を抽出し、溶銑像111を構成する全画素の画素値を用いて、代表値を抽出してもよいし、溶銑像111を構成する全画素の中からランダムに複数の画素を選択し、これらの画素が示す画素値を用いて、代表値を抽出してもよい。例えば、抽出部24は、最大値画像Im3から溶滓像を抽出し、溶滓像を構成する全画素の画素値を用いて、代表値を抽出してもよいし、溶滓像を構成する全画素の中からランダムに複数の画素を選択し、これらの画素が示す画素値を用いて、代表値を抽出してもよい。
【0052】
温度算出部25は、抽出部24で抽出した代表値を用いて、出銑滓流PSに含まれる溶銑および溶滓の温度を求める。より具体的には、温度算出部25は、溶銑像111に設定された評価領域ROIの代表値(代表値は放射輝度を示す)を温度に変換し、この温度を溶銑の温度として算出する。同様に、温度算出部25は、溶滓像(不図示)に設定された評価領域ROIの代表値(代表値は放射輝度を示す)を温度に変換し、この温度を溶滓の温度として算出する。このように、温度算出部25は、溶銑像111を構成する画素が示す画素値を基にして、出銑滓流PSに含まれる溶銑の温度を算出し、また、溶滓像を構成する画素が示す画素値を基にして、出銑滓流PSに含まれる溶滓の温度を算出する。
【0053】
以上説明したように、溶銑の温度は、溶銑像111を構成する画素が示す画素値を基にして算出される。よって、溶銑の温度の算出において、溶滓の温度の影響を受けないようにすることができるので、溶銑の温度の測定精度を向上させることができる。また、溶滓の温度は、溶滓像を構成する画素が示す画素値を基にして算出される。よって、溶滓の温度の算出において、溶銑の温度の影響を受けないようにすることができるので、溶滓の温度の測定精度を向上させることができる。
【0054】
これら制御処理部2、記憶部3、入力部4、出力部5およびIF部6は、例えば、デスクトップ型やノード型等のコンピュータによって構成可能である。
【0055】
次に、第1実施形態における温度測定装置T1の動作について説明する。
図8は、この動作を示すフローチャートである。
図1、
図2および
図8を参照して、温度測定装置T1は、その電源が投入されると、必要な各部の初期化を実行し、その稼働を始める。その制御処理プログラムの実行によって、制御処理部2には、制御部21、画像生成部22、設定部23、抽出部24および温度算出部25が機能的に構成される。
【0056】
制御処理部2は、撮像部1を制御して、出銑口PHから流出する出銑滓流PSの時系列画像IMを撮像させ、時系列画像IMを取得する(S11)。
【0057】
画像生成部22は、処理S11で取得された時系列画像IMを用いて、最小値画像Im2および最大値画像Im3を生成する(S12)。
【0058】
設定部23は、処理S12で生成された最小値画像Im2、最大値画像Im3のそれぞれに対して、評価領域ROIを設定する(S13)。
【0059】
抽出部24は、処理S13で設定された評価領域ROIの代表値を抽出する(S14)。代表値は2つである。一つは、最小値画像Im2に設定された評価領域ROIの代表値であり、もう一つは、最大値画像Im3に設定された評価領域ROIの代表値である。
【0060】
温度算出部25は、処理S14で抽出された代表値を用いて、出銑滓流PSに含まれる溶銑および溶滓のそれぞれの温度を算出する(S15)。
【0061】
制御部21は、出力部5を制御し、処理S15で算出された溶銑および溶滓の温度を出力部5から外部へ出力させ(S16)、処理を終了する。なお、必要に応じて、制御部21は、これら算出された溶銑および溶滓の温度をIF部6から外部の機器へ出力しても良い。
【0062】
このような溶銑および溶滓の温度を算出するための上述した各処理が、高炉SFの操業中、所定の時間間隔で、繰り返し実行され、出銑滓流PSに含まれる溶銑および溶滓の温度がモニタ(監視)される。
【0063】
第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心にして説明する。
図9は、第2実施形態における温度測定装置T2の構成を示すブロック図である。制御処理部2は、判定部26をさらに備える。判定部26は、最小値画像Im2に含まれる溶銑像111を構成する画素が示す画素値の有効性を、しきい値を用いて判定する。また、判定部26は、最大値画像Im3に含まれる溶滓像を構成する画素が示す画素値の有効性を、しきい値を用いて判定する。
【0064】
図2を参照して、出銑滓流PSが流れる現場で、煙や水蒸気のような気体が発生し、撮像部1が、この気体を介して出銑滓流PSの時系列画像IMを撮影することがある。気体は、出銑滓流PSから放出された放射エネルギーを減衰させる要因となる。従って、撮像部1と出銑滓流PSとの間に、この気体が存在していれば、時系列画像IMを構成する各画像の出銑滓流像101において、気体と重なる領域は、画素値が小さくなる。この結果、最小値画像Im2の溶銑像111において、気体と重なる領域は、画素値が小さくなる。これを
図10で説明する。
【0065】
図10は、撮像部1と出銑滓流PSとの間に煙が発生している状態で撮影された時系列画像IMを用いて生成された最小値画像Im2の一例を示す模式図である。溶銑像111は、出銑口側の部分111aと出銑樋側の部分111bとで全体的な明るさが異なる。出銑樋側の部分111bは、出銑口側の部分111aより暗い。これは、出銑樋側の部分111bが気体と重なる領域だからである。従って、出銑樋側の部分111bを構成する画素が示す画素値に基づいて算出された溶銑の温度は、実際の溶銑の温度より低くなる。このような画素値に基づいて、溶銑の温度が算出されると、溶銑の温度の測定精度が低下する。
【0066】
最大値画像Im3の溶滓像(不図示)を用いて算出される溶滓の温度についても同様のことが言える。
【0067】
図11は、
図5および
図10に示す最小値画像Im2において、出銑滓流PSの流出方向に沿って引かれた一直線上の輝度変化を示すグラフである。横軸は、画素数で表した距離である。縦軸は、画素値で表した明るさである。
図5に示す出銑像は、明るさの変動幅が小さい。これに対して、
図10に示す出銑像は、距離が約140を境にして、明るさが大きく低下している。これは、距離が約140より前は、出銑口側の部分111aであることを示し、距離が約140より後は、出銑樋側の部分111bであることを示している。
【0068】
図5に示す溶銑像111と
図10に示す出銑口側の部分111aとは、画素値がほぼ同じである。
図10に示す出銑樋側の部分111bは、
図5に示す溶銑像111および
図10に示す出銑口側の部分111aと比べて、画素値が小さい。すなわち、煙が発生し、この影響を受けている場合の溶銑像111(例えば、出銑樋側の部分111b)は、煙が発生していない場合の溶銑像111(例えば、
図5に示す溶銑像111)や、煙が発生しているがこの影響を受けていない場合の溶銑像111(例えば、出銑口側の部分111a)と比べて、溶銑像111を構成する画素が示す画素値が小さい。従って、しきい値を用いることより、溶銑像111を構成する画素の有効性を判定することができる。詳しく説明する。
【0069】
例えば、オペレータが、
図5および
図10を基にして、煙が原因で溶銑像111を構成する画素が示す画素値が本来の値より小さいか否かを判定するためのしきい値を決める。判定部26は、
図8に示す処理S14と処理S15との間において、溶銑像111を構成する画素が示す画素値の有効性を判定する。すなわち、判定部26は、最小値画像Im2の溶銑像111に設定された評価領域ROIを構成する画素が示す画素値の代表値がしきい値以上のとき、溶銑像111を構成する画素が示す画素値の有効性を認める。温度算出部25は、その代表値を用いて溶銑の温度を算出する。
【0070】
これに対して、判定部26は、代表値がしきい値より小さいとき、溶銑像111を構成する画素が示す画素値の有効性を否定する。この場合、例えば、以下の(1)、(2)、(3)のいずれかの対応が考えられる。
【0071】
(1)この溶銑像111を有する最小値画像Im2は、溶銑の温度の測定対象から除外する。
【0072】
(2)設定部23は、評価領域ROIの位置を移動させ、判定部26は、移動後の評価領域ROIを構成する画素が示す画素値の代表値について、しきい値を用いた判定処理をする。
【0073】
(3)温度算出部25は、しきい値より小さい代表値を用いて 溶銑の温度を算出するが、この温度にエラーフラグを付加する。
【0074】
同様に、判定部26は、溶滓像を構成する画素が示す画素値の有効性を、しきい値を用いて判定する。
【符号の説明】
【0075】
101 出銑滓流像
102 背景
111 溶銑像
111a 出銑口側の部分
111b 出銑樋側の部分
112 背景
IM 時系列画像
Im1 時系列画像を構成する画像
Im2 最小値画像(溶銑像を有する画像)
Im3 最大値画像(溶滓像を有する画像)
ROI 評価領域
T1,T2 温度測定装置
SF 高炉
PH 出銑口
CV 出銑樋カバー
SG 出銑樋
PS 出銑滓流