(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】磁気浮上ステージ装置、および、それを用いた荷電粒子線装置または真空装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/68 20060101AFI20221207BHJP
H02K 33/18 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
H01L21/68 K
H02K33/18 A
(21)【出願番号】P 2019136016
(22)【出願日】2019-07-24
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宗大
(72)【発明者】
【氏名】小川 博紀
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝宜
(72)【発明者】
【氏名】高橋 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】江藤 隼
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-184600(JP,A)
【文献】特開2011-3873(JP,A)
【文献】特開平11-178311(JP,A)
【文献】国際公開第2009/128321(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/68
H02K 33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置する試料台を有する浮上部と、
該浮上部の下方に配置した非浮上部と、
前記浮上部の下部に設けた水平推力ヨークと、前記非浮上部の上部に設けた水平推力コイルを有し、該水平推力コイルにコイル電流を流したときに、前記浮上部に水平推力を与える水平推力モータと、
前記浮上部の下部に設けた垂直推力ヨークと、前記非浮上部の上部に設けた垂直推力コイルを有し、該垂直推力コイルにコイル電流を流したときに、前記浮上部に垂直推力を与える垂直推力モータと、
を具備する磁気浮上ステージ装置であって、
前記浮上部の下部には、前記水平推力ヨークから突出した前記水平推力コイルの端部と対向する位置に垂直推力アシストヨークを設けており、
前記水平推力コイルにコイル電流を流したときに、前記水平推力ヨークで前記水平推力が発生すると同時に、前記垂直推力アシストヨークで垂直方向のアシスト推力も発生することを特徴とする磁気浮上ステージ装置。
【請求項2】
前記水平推力コイルは、矩形の略ロ字形状に巻かれたコイルであり、
前記垂直推力アシストヨークは、前記水平推力コイルの長手方向の端部と対向するように前記浮上部の下部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の磁気浮上ステージ装置。
【請求項3】
前記垂直推力アシストヨークは、前記水平推力コイルの前記端部を内周側から外周側に、あるいは、外周側から内周側に横切る磁束を発生させる垂直推力アシスト磁石を有することを特徴とする請求項2に記載の磁気浮上ステージ装置。
【請求項4】
前記非浮上部には、前記水平推力コイルの前記端部の下方であって、前記垂直推力アシスト磁石と対向する位置に重力補償を行う重力補償磁石を配置したことを特徴とする請求項3に記載の磁気浮上ステージ装置。
【請求項5】
前記浮上部の投影面内の略中心で直交する二軸をX軸とY軸としたとき、
前記水平推力モータは、X方向のX推力を発生させる一対のXモータと、Y方向のY推力を発生させる一対のYモータであり、
XY平面の第一象限に一方のYモータの水平推力ヨークを配置し、第二象限に一方のXモータの水平推力ヨークを配置し、第三象限に他方のYモータの水平推力ヨークを配置し、第四象限に他方のXモータの水平推力ヨークを配置したことを特徴とする請求項3に記載の磁気浮上ステージ装置。
【請求項6】
前記Xモータの水平推力コイルの長手方向の端部と対向するX軸上に垂直推力アシストヨークを配置し、前記Yモータの水平推力コイルの長手方向の端部と対向するY軸上に垂直推力アシストヨークを配置したことを特徴とする請求項5に記載の磁気浮上ステージ装置。
【請求項7】
前記水平推力コイルは、矩形の略ロ字形状に巻かれたコイルの端部を90度曲げて成型したものであり、
前記垂直推力アシストヨークは、前記水平推力コイルの曲げた端部の両面と対向するように前記浮上部の下方に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の磁気浮上ステージ装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れか一項に記載の磁気浮上ステージ装置と、
該磁気浮上ステージ装置の前記試料台の上方に設置した電子光学系鏡筒と、
を有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項1から請求項7の何れか一項に記載の磁気浮上ステージ装置と、
該磁気浮上ステージ装置を酋長する真空チャンバと、
該真空チャンバを減圧する真空ポンプと、
を有することを特徴とする真空装置。
【請求項10】
試料を載置する試料台を有する浮上部と、該浮上部の下方に配置した非浮上部と、前記浮上部の下部に設けた水平推力ヨークと前記非浮上部の上部に設けた水平推力コイルを有し該水平推力コイルにコイル電流を流したときに前記浮上部に水平推力を与える水平推力モータと、前記浮上部の下部に設けた垂直推力ヨークと前記非浮上部の上部に設けた垂直推力コイルを有し該垂直推力コイルにコイル電流を流したときに前記浮上部に垂直推力を与える垂直推力モータと、前記浮上部の下部かつ前記水平推力ヨークから突出した前記水平推力コイルの端部と対向する位置に設けた垂直推力アシストヨークと、を具備する磁気浮上ステージ装置のアシスト推力生成方法であって、
前記水平推力コイルにコイル電流を流すことで、前記水平推力ヨークで前記水平推力を生成すると同時に、前記垂直推力アシストヨークで垂直方向のアシスト推力を生成することを特徴とする磁気浮上ステージ装置のアシスト推力生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気浮上ステージ装置、および、それを用いた荷電粒子線装置または真空装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ等のデバイスを載置したテーブルを正確に位置決めして支持する多点支持アセンブリとして特許文献1に記載のデバイスステージアセンブリが知られている。
【0003】
この特許文献1のデバイスステージアセンブリは、同文献の請求項1に記載されるように、デバイスを保持するデバイスステージと、可動子ハウジングと、支持アセンブリと、制御システムとを含むものであり、支持アセンブリは、デバイスステージに接続された少なくとも4つの離間したZデバイスステージ移動装置を含み、デバイスステージを可動子ハウジングに対して移動させる。制御システムは、Zデバイスステージ移動装置よってデバイスステージの移動中にデバイスステージの変形を抑制するようにZデバイスステージ移動装置を制御する。
【0004】
特許文献1のZデバイスステージ移動装置は、デバイスステージにZ軸(垂直)方向の力を与えて磁気浮上させるためのものであり、磁石と導体を含み、導体を通る電流は、導体を磁石の磁場と相互作用させ、磁石と導体との間に力(ローレンツ力)を発生させる。このZデバイスステージ移動装置は、デバイスステージを、Z軸に沿って、X軸周りに、およびY軸周りに選択的に移動および支持する(同文献、第0058段落から第0061段落等を参照)。
【0005】
また、デバイスステージアセンブリは、ステージ移動アセンブリを含む(同文献、第0028段落等を参照)。ステージ移動アセンブリは、可動子ハウジング、ガイドアセンブリ、流体軸受、磁気ベアリングまたはローラーベアリングなどによって構成され、可動子ハウジングをX軸方向およびY軸方向に移動させる(同文献、第0035段落から第0040段落等を参照)。制御システムは、ステージ移動アセンブリおよび支持アセンブリを制御して、デバイスステージおよびデバイスを正確に位置決めする(同文献、第0078段落等を参照)。
【0006】
また、特許文献2では、XモータをZモータで使用するコイルをアンプ側で切り替えて、XおよびZの駆動を行うステージが開示されている。この特許文献2では、テーブルにXヨーク、Zヨークを配置し、ベースに平面状に敷き詰めたコイルアレイに電流を流してステージに推力を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2002/0137358号公報
【文献】特開平11-069762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
半導体ウエハの製造、測定、検査などの工程では、半導体ウエハの正確な位置決めを行うために、上記したデバイスステージアセンブリのようなステージ装置が用いられる。このようなステージ装置においては、半導体ウエハの位置決め時間の短縮のために、位置決めの高速化および高加速化が求められている。
【0009】
しかしながら、従来のデバイスステージアセンブリは、たとえば半導体ウエハの位置決め時間の短縮のために、デバイスステージの位置決めの高速化および高加速化を図ると、デバイスステージの慣性力と推力の高さの差によるピッチングモーメントが増大し、これに対抗するためにZデバイスステージ移動装置を大型化する必要があるが、この大型化に伴い、Zデバイスステージ移動装置からの磁場の漏れが増大する。
【0010】
ステージ装置における磁場の漏れは、たとえば電子顕微鏡などの荷電粒子線装置において電子ビームの歪みを生じさせ、電子ビームの照射精度を低下させるという問題がある。一方で、磁場の影響を低減させるために、デバイスステージのモータを試料面からより低い位置に移動させた場合、慣性力と推力の高さの差が増大時、同様にピッチングモーメントの増大を招き、デバイスステージアセンブリが大型化し応答性の低下を招く。
【0011】
そこで、本発明は、Zモータの大型化を伴うことなく、位置決めの高速化および高加速化が可能であり、かつ磁場の漏れを抑制可能な磁気浮上ステージ装置、および、それを用いた荷電粒子線装置または真空装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の磁気浮上ステージ装置は、試料を載置する試料台を有する浮上部と、該浮上部の下方に配置した非浮上部と、前記浮上部の下部に設けた水平推力ヨークと、前記非浮上部の上部に設けた水平推力コイルを有し、該水平推力コイルにコイル電流を流したときに、前記浮上部に水平推力を与える水平推力モータと、前記浮上部の下部に設けた垂直推力ヨークと、前記非浮上部の上部に設けた垂直推力コイルを有し、該垂直推力コイルにコイル電流を流したときに、前記浮上部に垂直推力を与える垂直推力モータと、を具備するものであって、前記浮上部の下部には、前記水平推力ヨークから突出した前記水平推力コイルの端部と対向する位置に垂直推力アシストヨークを設けており、前記水平推力コイルにコイル電流を流したときに、前記水平推力ヨークで前記水平推力が発生すると同時に、前記垂直推力アシストヨークで垂直方向のアシスト推力も発生する磁気浮上ステージ装置とした。
【発明の効果】
【0013】
本発明の磁気浮上ステージ装置によれば、Zモータの大型化を伴うことなく、位置決めの高速化および高加速化が可能であり、かつ磁場の漏れを抑制することができるため、例えば荷電粒子線装置に組み込んだ際に、電子ビームの照射精度に与える悪影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】従来の磁気浮上ステージ装置の概略構成を示す概念図。
【
図2】従来の磁気浮上ステージ装置での反力とモーメントの作用を示す概念図。
【
図3】実施例1の磁気浮上ステージ装置の概略構成を示す概念図。
【
図4】実施例1の磁気浮上ステージ装置での反力とモーメントの作用を示す概念図。
【
図5】実施例1の磁気浮上ステージ装置の全体構成を説明する斜視図。
【
図6】実施例1の磁気浮上ステージ装置のトップテーブルを非表示にした斜視図。
【
図7】実施例1の非浮上部の構造を説明する斜視図。
【
図9】実施例1のZアシスト推力を説明する斜視図。
【
図12】実施例1のXモータのXZ平面での断面図。
【
図13】実施例1のXモータのYZ平面での断面図。
【
図14】Z推力アシスト機能が成立しないモータ配置の例。
【
図15】Z軸回りのモーメントを補償できないモータ配置の例。
【
図16】Z推力アシスト機能が成立するモータ配置の例。
【
図17】Z推力アシストモータの設計手法を説明する図。
【
図18A】実施例2の浮上部の構造を説明する斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明に係る磁気浮上ステージ装置、および、それを用いた荷電粒子線装置、真空装置の実施例を説明する。
【0016】
まず、
図1と
図2を用いて、従来の磁気浮上ステージ装置で生じる問題を説明する。
【0017】
図1は、従来の磁気浮上ステージ装置の概略構成を示す概念図である。ここに示す磁気浮上ステージ装置は、半導体ウエハ等の試料を載置したトップテーブル1(浮上部)をXテーブル7
X(非浮上部)に対して磁気浮上させたものであり、後述する各ガイドを利用した粗動と、後述する各モータを利用した微動の二種類の動きにより、半導体ウエハ等の試料を水平方向に移動させるものである。また、後述する各モータを利用することで、非浮上部に対して浮上部が、6自由度で位置決めされて相対移動するものである。
【0018】
図1に示すように、浮上部の主部であるトップテーブル1の上面には、バーミラー2と試料台3が固定されている。試料台3には、半導体ウエハ3aなどの試料サンプルを載せ、バーミラー2を後述するレーザ干渉計140などで測定することで試料の位置を把握する。また、非浮上部の主部であるXテーブル7
Xの上面には、Xコイル5
XとZコイル5
Zが設置されており、トップテーブル1の下面には、Xヨーク6
XとZヨーク6
Zが固定されている。Xコイル5
XとXヨーク6
Xによって、X方向のX推力F
Xを発生させるボイスコイルモータ4(以降、Xモータ4
X)が構成され、Zコイル5
ZとZヨーク6
Zによって、Z方向のZ推力F
Zを発生させるボイスコイルモータ4(以降、Zモータ4
Z)が構成される。また、
図1には示していないが、Xテーブル7
X上面のYコイル5
Yとトップテーブル1下面のYヨーク6
Yによって、Y方向のY推力F
Yを発生させるボイスコイルモータ4(以降、Yモータ4
Y)も構成されている。以下では、Xモータ4
XとYモータ4
Yは、構成が同等であり、設置方向だけが異なるものとする。以上の構成においては、Xモータ4
XとYモータ4
Yが水平推力モータとなり、Zモータ4
Zが垂直推力モータとなる。
【0019】
非浮上部のXテーブル7
Xは、例えば車輪とレールからなるXガイド8
Xにより案内され、X方向に数百mmの距離を移動可能である。また、浮上部のトップテーブル1は、非浮上部のXテーブル7
Xに対して、数mmの範囲を移動する。すなわち、
図1に示す磁気浮上ステージ装置の磁気浮上機構は、微動機構としての機能を担うものである。
【0020】
図2は、
図1のトップテーブル1を高速移動させる推力が作用した場合の反力とモーメントを示す図である。ここに示すように、トップテーブル1を高速移動させるために、Xモータ4
XでX推力F
Xを+X方向に発生させた場合、トップテーブル1およびそれに固定されたミラーやヨーク等の質量による慣性力F
Iが-X方向に生じる。一般的に、トップテーブル1に搭載される試料台3やバーミラー2は、寸法が大きいことや、セラミクス材料が使用されるため重量が大きいため、トップテーブル1を含む浮上部の重心は、高い位置となりやすい。また、磁場漏れを発生させるXモータ4
XやZモータ4
Zは、荷電粒子線装置での利用も想定した磁気浮上ステージ装置では、トップテーブル1の下方に配置されている。この結果、X推力F
Xと慣性力F
IのZ方向の距離は大きくなりやすく、これらの偶力によって生じるY軸回りの回転モーメントM
Yが大きくなりやすい。そこで、このモーメントM
Yを補償するために、従来の磁気浮上ステージ装置では、Zモータ4
Zに大きなZ推力F
Zが必要となる。そのため、従来は、Zモータ4
Zの大推力化、大型化が避けられず、可動質量の増大による応答性の低下、浮上部の共振周波数低下が障害となり、高速化が困難であるという問題があった。
【実施例1】
【0021】
次に、
図3から
図17を用いて、上記した問題を改善する、本発明の実施例1に係る磁気浮上ステージ装置100を説明する。なお、
図1、
図2との共通点は重複説明を省略する。
【0022】
図3は、本実施例の磁気浮上ステージ装置100の概略構成を示す概念図であり、
図4は、
図2と同様にトップテーブル1の加速時の推力とモーメントの作用を示す概念図である。両図に示すように、この磁気浮上ステージ装置100は、Xモータ4
XにZ軸方向のZアシスト推力F
ZAを発生させる機能を付加することで、Zモータ4
ZのZヨーク6
Zを小型化し、浮上部の軽量化、固有振動数の向上を実現するものである。そして、Xモータ4
Xで発生させたZアシスト推力F
ZAにより、加速時の回転モーメントM
Yに対抗する対抗モーメントM
Aを発生させるものである。
【0023】
図5に、本実施例の磁気浮上ステージ装置100の全体構成の斜視図を示す。ここに示すように、磁気浮上ステージ装置100は、ベース9の上にYテーブル7
Yが積載されており、このYテーブル7
YはYガイド8
YによってY方向に案内される。また、Yテーブル7
Yの上にXテーブル7
Xが積載されており、このXテーブル7
XはXガイド8
XによってX方向に案内される。更に、Xテーブル7
Xの上に、トップテーブル1などの浮上部が微動機構として位置決めされる。
【0024】
図6は、
図5のトップテーブル1、バーミラー2、試料台3を非表示にすることで、各モータの構造を明示した斜視図である。ここに示すように、本実施例では、Xテーブル7
Xの上に、一対のXコイル5
Xと一対のYコイル5
Yが互い違いに配置されており、これらによって浮上部側の一対のXヨーク6
Xと一対のYヨーク6
YにX推力F
XまたはY推力F
Yを与えている。また、Xテーブル7
Xの上には、浮上部のZ方向の変位を計測するZセンサ10
Zが3個設置されている。
【0025】
次に、
図7と
図8の斜視図を用いて、磁気浮上ステージ装置の非浮上部と浮上部の構成を更に詳細に説明する。従来の磁気浮上ステージ装置と同様に、本実施例の磁気浮上ステージ装置100も、
図7の非浮上部に対して、
図8の浮上部が6自由度を位置決めされて相対移動するものである。
【0026】
図7に示すように、Xテーブル7
X上に設けられたXコイル5
XとYコイル5
Yは、矩形の略ロ字形状をしており、Xテーブル7
X上に設けられたZコイル5
Zは略円筒形状をしている。これらのコイルは、丸線や角線の電線を数十から数百週巻いた後、樹脂でモールドし固めて製作される。
図8のXヨーク6
XとYヨーク6
Yを軽量かつ低磁場とするために、
図7のXコイル5
XとYコイル5
Yの厚みを薄くし、各ヨークの磁束密度を維持している。また、
図7のZコイル5
Zに電流I
Zを流すことで、
図8のZモータ4
ZのZヨーク6
Zに対して、Z推力F
Zを与えている。
【0027】
また、
図8に示すように、Xモータ4
XやYモータ4
Yに流れるコイル電流I
X、I
Yを利用して、Z方向の推力を発生させるモータ(以降、Zアシストモータ4
ZA)を構成するための四個のアシストヨーク(以降、Zアシストヨーク6
ZA)が、トップテーブル1の下面に設置されている。
【0028】
図9は、本実施例のXモータ4
Xにより構成されるZアシストモータ4
ZAの作用を説明する図である。この図では、対称配置された一対のZアシストヨーク6
ZAに、上向きと下向きのZアシスト推力F
ZAを発生させることで、加速時に発生する回転モーメントM
Yと対抗する対抗モーメントM
Aを発生させた状態を示している。
【0029】
図10は、
図9の一方のXモータ4
Xの近傍を拡大表示した斜視図である。ここに示すように、Xコイル5
XはXヨーク6
Xの両側に突出しており、また、このXコイル5
Xにはコイル電流I
Xが図示する方向に流れている。そして、Xコイル5
Xの突出部の上方では、Zアシストヨーク6
ZAがトップテーブル1の下面に固定されており、また、Xコイル5
Xの突出部の下方では、重力補償用の永久磁石11
GがXテーブル7
Xの上面に固定される。ここに示す構成により、Xヨーク6
Xとそれと対向するXコイル5
XによりX推力F
Xを発生させるXモータ4
Xが形成され、Zアシストヨーク6
ZAとそれと対向するXコイル5
XによりZアシスト推力F
ZAを発生させるZアシストモータ4
ZAが形成される。
【0030】
図11Aは、
図10のXモータ4
XとZアシストモータ4
ZAを、ZY平面に投射した側面図である。また、
図11Bは、
図10のXモータ4
XとZアシストモータ4
ZAを、XY平面に投射した平面図である。
【0031】
次に、
図12を用いて、本実施例のXモータ4
Xの動作原理を説明する。
図12は、
図11Bの平面PでのXモータ4
Xの断面図である。ここに示すように、Xモータ4
Xは、Xヨーク6
Xの内側に固定された永久磁石11
Xにより、図中で反時計回りに示す磁束MFのような磁気回路が形成される。そして、Xコイル5
Xにコイル電流I
Xが流すと、Xモータ4
XではX推力F
Xが発生する。
【0032】
続けて、
図13を用いて、Zアシストモータ4
ZAの動作原理を説明する。
図13は、
図11Bの平面QでのZアシストモータ4
ZAの断面図である。ここに示すように、Zアシストヨーク6
ZAの下面に設置した一対の永久磁石11
ZAにより、Xコイル5
X内をY方向に内周側から外周側に横切る磁束MFを発生させる。そして、Xコイル5
Xにコイル電流I
Xを流すと、Zアシストモータ4
ZAではZアシスト推力F
ZAが発生する。また、非浮上部側の永久磁石11
Gと浮上部側のZアシストヨーク6
ZAの永久磁石11
ZAの間には、反発力F
Rが生じるため、これを浮上部の重力補償に利用する。これにより、浮上部の重力補償のためには、コイル電流が不要であり、コイルの過剰な発熱を回避することが可能である。また、非浮上部の永久磁石11
Gには、
図13に示す磁束MFを強める効果もあり、重力補償と共にZアシストモータ4
ZAの推力定数向上の効果がある。また、Xモータ4
Xのコイル電流を利用してZアシストモータ4
ZAを動作させるため、Zアシストモータ4
ZA用に新たな電流アンプを追加する必要がなく、装置のコンパクト性および低コスト性が損なわれることなく、ステージの高速化が可能である。
【0033】
また、Zアシストモータ4
ZAの構造は、
図13の形状に限定されるものではなく、コイルの内側から外側に向けて、あるいは逆の方向に、コイルを横切るように磁束を形成するヨーク形状であれば成立するものである。
【0034】
次に、
図14から
図16を利用して、Zアシストモータ4
ZAの機能が成立するモータ配置について説明する。なお、各図では、浮上部であるトップテーブル1の投影面内の略中心で直交する二軸をX軸とY軸と定義し、また、Zアシストモータ4
ZAの位置を点線で示している。そして、
図14と
図15がZアシストモータ4
ZAの不適切な配置であり、
図16がZアシストモータ4
ZAの適切な配置である。
【0035】
図14に示すように、Xコイル5
Xの長手方向がY軸と重なるように一対のXモータ4
Xを配置した場合、X移動時にZアシストモータ4
ZAが領域R1の位置で作用するため、Zアシスト推力F
ZAはY軸上に並ぶことになる。この場合、Y軸回りの対抗モーメントM
Aを発生させることができないため、
図14のようなXモータ4
Xの配置は不適切である。Yコイル5
Yの長手方向がX軸と重なる
図14のYモータ4
Yの配置も同様の理由により不適切である。
【0036】
一方、
図15に示すように、Xコイル5
Xの短手方向がX軸と重なるように一対のXモータ4
Xを配置した場合、X移動時にZアシストモータ4
ZAが領域R2の位置で作用し、Y軸回りの回転モーメントM
Yを補償する対抗モーメントM
Aを生成することができる。しかしながら、X推力F
Xを発生させるXモータ4
XがX軸上に並び、Y方向に離れていないため、Z軸回りのモーメントを発生不可能であり、磁気浮上が不可能である。6自由度方向の推力制御が行えないと安定した磁気浮上が困難であることは、アーン・ショーの定理により示されている。すなわち、
図15のような配置は不適切である。Yコイル5
Yの短手方向がY軸と重なる
図15のYモータ4
Yの配置も同様の理由により不適切である。
【0037】
これに対し、
図16に示すように、一対のXモータ4
XをX方向にもY方向にも互いに距離を保って互い違いに配置し、かつ、一対のYモータ4
YをX方向にもY方向にも互いに距離を保って互い違いに配置した場合、換言すれば、XY平面の第一象限に一方のYモータ4
YのYヨーク6
Yを配置し、第二象限に一方のXモータ4
XのXヨーク6
Xを配置し、第三象限に他方のYモータ4
YのYヨーク6
Yを配置し、第四象限に他方のXモータ4
XのXヨーク6
Xを配置した場合のみ、Z軸回りのモーメントを発生させる機能と、Zアシストモータ4
ZAの機能を両立することが可能である。すなわち、Xヨーク6
X同士をY軸方向に距離を取り配置し、Yヨーク6
Y同士をX軸方向に距離を取って配置することが望ましい。また、Xモータ4
Xと一体のZアシストモータ4
ZAの位置をX軸上の領域R3に一致させると、X方向の加速時にX軸回りの余分なモーメントを発生させずにY軸回りのモーメントのみを発生させることができ、余分な振動が発生しない。同様に、Yモータ4
Zと一体のZアシストモータ4
ZAの位置をY軸上の領域R4に一致させることで、Y方向の加速時にY軸回りの余分なモーメントを発生させずにX軸回りのモーメントのみを発生させることができ、余分な振動が発生しない。
【0038】
次に、
図17を参照して、Zアシストモータ4
ZAの設計手法について説明する。
図17に示すように、浮上部の重心Gを通る線L1とXモータ4
Xの推力作用点の中心を通る線L2のZ方向の距離をD
Zとし、Zアシストモータ4
ZAの推力作用点のX方向の間隔をD
Xとする。また、Xモータ4
Xの推力定数をK
Xとし、Zアシストモータ4
ZAの推力定数をK
ZAとする。ここで、Xコイル5
Xに流れるコイル電流をI
Xとすると、Xモータ4
XのX推力F
Xによる、重心Gを中心としたY軸回りのモーメントMは、
M = 2 × D
Z × K
X × I
X ・・・ (式1)
となる。また、Zアシストモータ4
ZAによる重心Gを中心としたY軸回りのモーメントM’は、
M’ = 2 ×(1/2×D
X) × K
ZA × I
X ・・・ (式2)
と表され、これがMと釣り合う時、Zアシストモータ4
ZAによってY軸回りのモーメントが100%補償される。よって、(式1)および(式2)より、Zアシストモータ4
ZAは、推力定数K
Zが、
K
Z = (2×D
Z/D
X)×K
X ・・・ (式3)
を満たすように設計すると、加減速時のY軸回りの回転モーメントを完全に相殺可能である。例えば、D
Xが200mmで、D
Zが20mmだとすれば、Zアシストモータ4
ZAの推力定数K
ZAは、Xモータ4
Xの推力定数K
Xの1/5が最適である。
【0039】
特に、Xモータ4XとZアシストモータ4ZAは、コイルが共通であるため、推力定数は、単純にヨークの作る磁束密度に比例する。すなわち、Zアシストヨーク6ZAの磁束密度が、Xヨーク6Xの磁束密度のN倍であればよい。ただし、
N = 2×DZ/DX ・・・ (式4)
である。この関係に基づいて、Zアシストモータ4ZAのZアシストヨーク6ZAを設計した後に、浮上部の質量が確定し、重力補償用の永久磁石11Gの距離の決定および磁石の選定を行う。
【0040】
以上で説明した、本実施例の磁気浮上ステージ装置によれば、Zモータの大型化を伴うことなく、位置決めの高速化および高加速化が可能であり、かつ磁場の漏れを抑制することができる。
【実施例2】
【0041】
次に、
図18Aから
図18Cを用いて、本発明の実施例2に係る磁気浮上ステージ装置100を説明する。なお、実施例1との共通点は重複説明を省略する。
【0042】
図18Aに、コイル端部を曲げてZアシストモータ4
ZAを構成する本実施例の磁気浮上ステージ装置100の浮上部を下方から見た斜視図であり、実施例1の
図8に相当するものである。ここに示すように、本実施例ではXコイル5
XとYコイル5
Yの一端部を90度-Z方向に曲げて整形し、それらと対向するようにZアシストヨーク6
ZAを配置することで、実施例1と同様に、X推力F
XまたはY推力F
Yを発生させると同時に、Zアシスト推力F
ZAを発生させることが可能である。
【0043】
図18Bに、
図18Aのモータ1個を取り出した図を示す。また、
図18CにモータのYZ平面での断面図を示す。これらに示すように、Zアシストヨーク6
ZAに固定した永久磁石11
ZAにより、磁束MFを発生させ、Xモータ4
Xに流れるコイル電流I
Xにより、Zアシスト推力F
ZAを発生させる。
【0044】
この実施例の磁気浮上ステージ装置では、コイルの導線巻き工程や樹脂モールド工程のコストが増大するが、実施例1の構成よりも大きなZアシスト推力FZAを発生させることができる。
【実施例3】
【0045】
最後に、
図19を参照して、実施例1または実施例2の磁気浮上ステージ装置100を備える、本実施例の荷電粒子線装置または真空装置を説明する。なお、上記の実施例との共通点は重複説明を省略する。
【0046】
本実施例に係る荷電粒子線装置は、対象物の位置決めを行う磁気浮上ステージ装置100と、その磁気浮上ステージ装置100を収容する真空チャンバ110を備えた半導体計測装置200であり、たとえば、走査型電子顕微鏡(SEM)の応用装置としての測長SEMである。また、本実施例に係る真空装置は、磁気浮上ステージ装置100を収容する真空チャンバ110である。
【0047】
図19に示すように、本実施例の半導体計測装置200は、磁気浮上ステージ装置100と、それを収容する真空チャンバ110と、真空チャンバ110の上部に取り付けられた電子光学系鏡筒120と、真空チャンバ110を支持する制振マウント130と、真空チャンバ110の側面にバーミラー2と対向するように取り付けられたレーザ干渉計140と、レーザ干渉計140の出力に応じて磁気浮上ステージ装置100を制御するコントローラ150を備えている。なお、真空チャンバ110は、図示を省略する真空ポンプによって内部が減圧されて大気圧よりも低圧の真空状態になる。
【0048】
このような構成の半導体計測装置200は、磁気浮上ステージ装置100によって載置された半導体ウエハ3aなどの対象物の位置決めを行い、電子光学系鏡筒120から電子ビームを対象物上に照射し、対象物上のパターンを撮像し、パターンの線幅の計測や形状精度の評価を行う。磁気浮上ステージ装置100は、レーザ干渉計140により、バーミラー2の位置が計測され、コントローラ150により、磁気浮上ステージ装置100の試料台3に保持された半導体ウエハ3aなどの対象物が位置決め制御される。
【0049】
この半導体計測装置200は、実施例1または実施例2の磁気浮上ステージ装置100を備えているため、半導体ウエハ3aなどの対象物の位置決めの高速化および高加速化が可能であり、かつ磁場の漏れを抑制することができる。したがって、漏れた磁場によって電子ビームが歪むことがなく、照射精度の劣化が無いため、半導体計測装置200の測定精度を向上させることができる。また、磁気浮上ステージ装置100は、浮上機構が磁気浮上式であるので、真空装置である半導体計測装置200への適用が容易であり、発熱の抑制等、優れた効果を発揮することができる。なお、本開示の荷電粒子線装置および真空装置は、半導体計測装置に限定されない。
【0050】
以上、図面を用いて本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0051】
1 トップテーブル
2 バーミラー
3 試料台
3a 半導体ウエハ
4 ボイスコイルモータ
4X Xモータ
4Y Yモータ
4Z Zモータ
4ZA Zアシストモータ
5 コイル
5X Xコイル
5Y Yコイル
5Z Zコイル
6 ヨーク
6X Xヨーク
6Y Yヨーク
6Z Zヨーク
6ZA Zアシストヨーク
7X Xテーブル
7Y Yテーブル
8、8X、8Y ガイド
9 ベース
10、10Z センサ
11G 重力補償用の永久磁石
11X Xヨークの永久磁石
11ZA Zアシストヨークの永久磁石
100 磁気浮上ステージ装置
110 真空チャンバ
120 電子光学系鏡筒
130 制振マウント
140 レーザ干渉計
150 コントローラ
200 半導体計測装置