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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】燃料電池車両及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20221207BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20221207BHJP
   H01M 8/0444 20160101ALI20221207BHJP
   H01M 8/04664 20160101ALI20221207BHJP
   H01M 8/04313 20160101ALI20221207BHJP
   H01M 8/04014 20160101ALI20221207BHJP
   H01M 8/0432 20160101ALI20221207BHJP
   B60L 50/72 20190101ALI20221207BHJP
   B60L 58/30 20190101ALI20221207BHJP
【FI】
H01M8/04 H
H01M8/04 Z
H01M8/00 Z
H01M8/0444
H01M8/04664
H01M8/04313
H01M8/04014
H01M8/0432
B60L50/72
B60L58/30
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019147510
(22)【出願日】2019-08-09
(65)【公開番号】P2021028885
(43)【公開日】2021-02-25
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100212657
【弁理士】
【氏名又は名称】塚原 一久
(72)【発明者】
【氏名】林 拓広
(72)【発明者】
【氏名】下簗 祐介
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-047671(JP,A)
【文献】特開2011-094652(JP,A)
【文献】特開2009-043427(JP,A)
【文献】特開2009-099399(JP,A)
【文献】特開平10-332098(JP,A)
【文献】特開2006-86025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
F17C 1/00-13/12
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を充填することが可能な水素タンクと、
前記水素タンクから供給される前記水素を用いて発電を行う燃料電池と、
前記水素を検知する水素検知部と、
前記水素タンクに前記水素を充填する水素充填動作を検知する充填動作検知部と、
前記燃料電池の周囲の空間において気体を拡散する拡散部と、
前記水素検知部の検知結果に基づいて、前記水素タンクの周囲及び前記燃料電池の周囲における前記水素の濃度を判定する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記充填動作検知部により前記水素充填動作が検知された場合、
前記拡散部を一定時間稼働させ、
前記水素検知部により検知された前記水素の濃度と、前記水素の濃度を判定する閾値とを比較することにより、前記水素タンクの周囲及び前記燃料電池の周囲の少なくとも一方における前記水素の濃度を判定する
燃料電池車両。
【請求項2】
前記制御部は、
前記閾値として、前記発電を行う際に使用する第1閾値と、前記第1閾値より低い濃度で前記水素の濃度を判定する第2閾値と、を有し、
前記拡散部を一定時間稼働させてから、前記第1閾値を前記第2閾値に変更して、前記水素の濃度を判定する
請求項1記載の燃料電池車両。
【請求項3】
前記燃料電池の内部を循環する冷却媒体の熱を放出するラジエータと、
前記ラジエータに対して送風するファンと、をさらに備え、
前記拡散部は、前記ファンである
請求項1または請求項2に記載の燃料電池車両。
【請求項4】
前記充填動作検知部は、第1の充填動作検知部を備え、
前記第1の充填動作検知部は、前記水素が充填される充填口を覆う蓋を開く操作を前記水素充填動作として検知する
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の燃料電池車両。
【請求項5】
前記充填動作検知部は、第2の充填動作検知部を備え、
前記第2の充填動作検知部は、前記水素が充填される充填口に水素供給部が接続されたことを前記水素充填動作として検知する
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の燃料電池車両。
【請求項6】
前記充填動作検知部は、第3の充填動作検知部を備え、
前記第3の充填動作検知部は、前記水素タンクの温度上昇を前記水素充填動作として検知する
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の燃料電池車両。
【請求項7】
水素を検知する水素検知部の検知結果に基づいて、水素タンクの周囲及び燃料電池の周囲における前記水素の濃度を判定する燃料電池車両の制御方法であって、
前記水素タンクに前記水素を充填する水素充填動作を検知する充填動作検知ステップと、
前記水素充填動作が検知された場合、拡散部を一定時間稼働させて気体を拡散する拡散ステップと、
前記水素検知部により検知された前記水素の濃度と、前記水素の濃度を判定する閾値とを比較することにより、前記水素タンクの周囲及び前記燃料電池の周囲の少なくともいずれか一方における前記水素の濃度を判定する判定ステップとを備える
燃料電池車両の制御方法。
【請求項8】
前記拡散ステップの後に、前記燃料電池が発電を行う際に使用する第1閾値から、前記第1閾値より低い濃度で前記水素の濃度を判定する第2閾値に、前記閾値を変更する閾値変更ステップをさらに備える
請求項7記載の燃料電池車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池を搭載する燃料電池車両及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、酸素を含む空気と水素を供給された燃料電池スタックにおいて酸素と水素の結合により発電を行う。このような燃料電池システムには、水素タンクまたは燃料電池において水素の漏れを検知するディテクタが水素検知部として設けられ、ディテクタの検知結果が予め定められた閾値より大きい場合には水素漏れが発生していると判定される。
【0003】
このような燃料電池システムにおいて水素の漏れを検知することに関して、以下の特許文献1に提案がなされている。
【0004】
特許文献1に提案されている燃料電池システムは、2つの閾値を用いて水素漏れの判定をする。第1の閾値は、燃料電池システムが発電中に水素漏れを検出し、報知するための閾値である。第2の閾値は、微小な水素漏れを記録するため、第1の閾値のより低濃度に設定された閾値である。
【0005】
この特許文献1に提案されている燃料電池システムは、水素検知部によって検出された水素濃度が第1の閾値以上と判定された場合には、水素漏れを報知部に報知する。また、燃料電池システムは、水素検知部によって検出された水素濃度が第1の閾値よりも小さい第2の閾値以上、且つ第1の閾値未満と判定された場合には、判定結果を報知せず、記録に残すようになっている。そして、記録に残した判定結果は、点検時に読み出されて解析される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4353297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
燃料電池システムの起動中、燃料電池スタックにおいて発電する際、水素と酸素との結合により水が生成されるが、一部の水素は酸素と結合することなく排気水素として燃料電池スタックから排出される。このため、燃料電池スタックの発電中は、排気水素を水素漏れと誤判定しないように、水素漏れを判定する閾値を、排気水素分を考慮して高めに設定する必要がある。
【0008】
水素充填時には、燃料電池スタックにおける発電はない。しかしながら、燃料電池車両が水素充填ステーションまで走行した直後に水素の充填を開始すると、移動中に発電が行なわれているため、水素充填時に、上述した排気水素がユニット内に残留する。このため、残留する排気水素による誤判定を避けるべく、水素充填時であっても発電中と同様に設定された閾値を用いて水素漏れを検知する必要があった。そこで、発電を停止している水素充填中において、水素タンク、配管、燃料電池等からの水素の微小な漏れをより正確に検知することが求められる。
【0009】
この発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、水素充填時に微小な水素漏れを検知することができる燃料電池車両、及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明に係る燃料電池車両は、水素を充填することが可能な水素タンクと、水素タンクから供給される水素を用いて発電を行う燃料電池と、水素を検知する水素検知部と、水素タンクに水素を充填する水素充填動作を検知する充填動作検知部と、燃料電池の周囲の空間において気体を拡散する拡散部と、水素検知部の検知結果に基づいて、水素タンクの周囲及び燃料電池の周囲における水素の濃度を判定する制御部とを備え、制御部は、充填動作検知部により水素充填動作が検知された場合、拡散部を一定時間稼働させ、水素検知部により検知された水素の濃度と、水素の濃度を判定する閾値とを比較することにより、水素タンクの周囲及び燃料電池の周囲の少なくとも一方における水素の濃度を判定する。
上記の課題を解決するため、この発明に係る燃料電池車両の制御方法は、水素を検知する水素検知部の検知結果に基づいて、水素タンクの周囲及び燃料電池の周囲における水素の濃度を判定する燃料電池車両の制御方法であって、水素タンクに水素を充填する水素充填動作を検知する充填動作検知ステップと、水素充填動作が検知された場合、拡散部を一定時間稼働させて気体を拡散する拡散ステップと、水素検知部により検知された水素の濃度と、水素の濃度を判定する閾値とを比較することにより、水素タンクの周囲及び燃料電池の周囲の少なくともいずれか一方における水素の濃度を判定する判定ステップとを備える。
【0011】
制御部は、閾値として、発電を行う際に使用する第1閾値と、第1閾値より低い濃度で水素の濃度を判定する第2閾値と、を有し、拡散部を一定時間稼働させてから、第1閾値を第2閾値に変更して、水素の濃度を判定する。
【0012】
燃料電池の内部を循環する冷却媒体の熱を放出するラジエータと、ラジエータに対して送風するファンと、をさらに備え、拡散部は、ファンである。
【0013】
充填動作検知部は、第1の充填動作検知部を備え、第1の充填動作検知部は、水素が充填される充填口を覆う蓋を開く操作を、水素を充填する水素充填動作として検知する。
【0014】
充填動作検知部は、第2の充填動作検知部を備え、第2の充填動作検知部は、水素の充填の際に充填口に水素供給部が接続されたことを、水素を充填する水素充填動作として検知する。
【0015】
充填動作検知部は、第3の充填動作検知部を備え、第3の充填動作検知部は、タンクの温度上昇を、水素を充填する水素充填動作として検知する。
【発明の効果】
【0016】
この発明に係る燃料電池車両によれば、水素充填時に微小な水素漏れを検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態1における燃料電池車両の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施の形態1における燃料電池車両の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明による燃料電池車両の実施の形態につき、図面を用いて説明する。なお、各図において、同一部分には同一符号を付している。
【0019】
実施の形態1.
はじめに、本発明の実施の形態1における燃料電池車両100の構成について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態1における燃料電池車両100の構成を示す機能ブロック図である。
【0020】
[燃料電池車両の構成]
図1に示される燃料電池車両100は、燃料電池システム110と、車両部120と、操作部130とを備える。燃料電池車両100は、フォークリフトまたはトーイングトラクタといった産業用の燃料電池車両であってもよいし、乗用または貨物用の燃料電池車両であってもよい。図1は、燃料電池車両が産業用の車両である場合を具体例にする。
【0021】
燃料電池システム110は、燃料電池システム制御部111と、水素タンク112と、コンプレッサ113と、水素供給弁114と、燃料電池スタック115と、DCDC変換部116と、蓄電装置117と、ラジエータ118と、充填口119と、を備える。充填口119には、蓋119dと、第1の充填動作検知部119s1と、第2の充填動作検知部119s2とが設けられている。水素タンク112には、水素検知部112s1と、第3の充填動作検知部112s2とが設けられている。燃料電池スタック115には、水素検知部115sが設けられている。ラジエータ118には、ファン118fが設けられている。
【0022】
燃料電池システム制御部111は、燃料電池システム110に関連する各種制御を行うコントローラである。燃料電池システム制御部111は、車両部120に設けられた車両制御部121と互いに通信することが可能である。なお、燃料電池システム制御部111は、水素漏れを判定する制御部を構成する。
【0023】
水素タンク112は、充填されている水素を燃料電池スタック115に供給する。水素検知部112s1は、水素タンク112及び水素配管周囲の水素濃度を検知し、検知結果を燃料電池システム制御部111に伝達する。第3の充填動作検知部112s2は、水素タンク112の温度を検知し、水素タンク112の温度上昇を、水素を充填する水素充填動作として、燃料電池システム制御部111に伝達する。
【0024】
コンプレッサ113は、燃料電池システム制御部111に制御され、酸素を含む空気を燃料電池スタック115に供給する。水素供給弁114は、燃料電池システム制御部111に制御され、水素タンク112から燃料電池スタック115に供給する水素の量を調整する。
【0025】
燃料電池スタック115は、燃料電池システム制御部111の制御に基づいて、水素供給弁114を介した水素タンク112からの水素とコンプレッサ113からの空気に含まれる酸素とを結合させることにより発電を行う。なお、燃料電池スタック115は、発電する複数の発電セルを積層したスタック構造により構成されている。燃料電池スタック115は、水素漏れの検知対象の燃料電池を構成する。水素検知部115sは、燃料電池スタック115周囲の水素濃度を検知し、検知結果を燃料電池システム制御部111に伝達する。
【0026】
DCDC変換部116は、燃料電池スタック115の発電出力を一定の電圧に変換する。たとえば、DCDC変換部116は、燃料電池スタック115からの電圧80ボルトの発電出力を、電圧48ボルトの発電電力に変換する。DCDC変換部116の電圧変換後の発電電力は、主機系電力として車両部120に供給される。
【0027】
蓄電装置117は、DCDC変換部116の出力と並列に充電可能に接続され、車両部120に瞬間的な大電流が流れる際には充電された電流を放電する。
【0028】
ラジエータ118は、燃料電池スタック115が発電時に発生する熱を、燃料電池スタック115内部の冷却媒体循環系を循環する冷却媒体が吸収し、吸収した熱を外部に放出する放熱器である。ファン118fは、ラジエータ118の放熱器に対して送風可能に設けられており、燃料電池システム制御部111の指示を受けてラジエータ118の放熱器に対して送風し、冷却媒体の熱をラジエータ118の外部に放出する。また、ファン118fは、燃料電池スタック115の周囲の空間において気体を拡散する拡散部を構成する。ここで、燃料電池スタック115の周囲の空間とは、燃料電池115と水素検知部115sとを含む空間を意味する。
【0029】
充填口119は、水素充填ステーションの水素供給ホース先端の水素供給部としての水素充填ノズルと、着脱可能に接続することができる。充填口119は、水素配管を通して、水素タンクに接続されている。すなわち、充填口119は、水素充填ステーションの水素供給ホース先端の水素充填ノズルと接続されて、水素充填ステーションから水素の供給を受ける。
【0030】
蓋119dは、燃料電池車両100のボディの一部、または、充填口119を覆うリッドボックスに設けられ、充填口119を覆うカバーである。蓋119dは、蓋119dの端部のつまみの操作、または図示されないレバーの操作を介して、閉じた状態から開くことができる。
【0031】
第1の充填動作検知部119s1は、水素が充填される充填口119を覆う蓋119dの開く操作がなされたことを、水素を充填する水素充填動作として検知し、検知結果を燃料電池システム制御部111に伝達する。第2の充填動作検知部119s2は、充填口119に水素充填ノズルが接続されたことを、水素を充填する水素充填動作として検知し、検知結果を燃料電池システム制御部111に伝達する。
【0032】
車両部120は、車両制御部121と、インバータ122と、走行モータ123と、インバータ124と、荷役モータ125とを有する。車両制御部121は、ECU(Electronic Control Unit)等により構成され、操作部130で受け付けた操作に対応し、インバータ122を介した走行モータ123の走行動作と、インバータ124を介した荷役モータ125の荷役動作と、を制御する。
【0033】
インバータ122は、車両制御部121の制御に基づいて、燃料電池システム110から供給される直流の電力を三相交流電力に変換し、走行モータ123へ三相交流電力を供給する。走行モータ123は、燃料電池車両100の駆動輪を駆動しており、インバータ122から供給される三相交流電力の周波数調整により回転数が変化する。
【0034】
インバータ124は、車両制御部121の制御に基づいて、燃料電池システム110から供給される直流の電力を三相交流電力に変換し、荷役モータ125へ三相交流電力を供給する。荷役モータ125は、フォークの上昇、下降、及び傾きを制御する荷役ポンプを駆動しており、インバータ124から供給される三相交流電力の周波数調整により回転数が変化する。なお、燃料電池車両100が産業用でない場合、インバータ124と荷役モータ125は不要である。
【0035】
操作部130は、キースイッチ131と、アクセルペダル132と、ブレーキペダル133と、リフトレバー134と、チルトレバー135と、ディレクションレバー136とを備える。
【0036】
キースイッチ131がオンされると、燃料電池システム制御部111の制御により燃料電池システム110が起動して稼働状態になり、燃料電池車両100が使用可能状態になる。また、キースイッチ131がオフにされると、燃料電池システム制御部111の制御により燃料電池システム110が停止して非稼働状態になり、燃料電池車両100が使用停止状態になる。
【0037】
アクセルペダル132が踏まれてオン操作されると、車両制御部121の制御によりインバータ122を通じて走行モータ123に電力が供給され、燃料電池車両100が加速状態または走行状態になる。
【0038】
ブレーキペダル133が踏まれてオン操作されると、またはアクセルペダル132の踏み込みが解除されてアクセルオフ操作されると、車両制御部121の制御によりインバータ122を通じて走行モータ123に電力供給が遮断され、燃料電池車両100が減速状態または停止状態になる。
【0039】
リフトレバー134が操作されると、車両制御部121の制御によりインバータ124を通じて荷役モータ125に電力が供給され、荷役モータ125により駆動される荷役ポンプが生成する油圧により、フォークが上昇方向または下降方向に移動する。チルトレバー135が操作されると、車両制御部121の制御によりインバータ124を通じて荷役モータ125に電力が供給され、荷役モータ125により駆動される荷役ポンプが生成する油圧により、フォークの傾きが変えられる。
【0040】
ディレクションレバー136が操作されると、車両制御部121の制御によりインバータ122を通じて走行モータ123に供給される電力の位相が切り替えられ、燃料電池車両100の走行が前進から後進、あるいは後進から前進へと切り替えられる。
【0041】
[燃料電池システム制御部の特徴]
以上の説明に加え、燃料電池システム制御部111は以下のような特徴を有する。
【0042】
燃料電池システム制御部111には、2つの水素検知部112s1,115sの検知結果により水素の濃度を判定する第1閾値と第2閾値とが定められている。第1閾値は、発電時に排気水素の存在を考慮して設定された値、または、法定基準に基づいて水素濃度を判定する値に設定されている。一方、第2閾値は、第1閾値より低い値、すなわち排気水素が存在しない環境で、水素の微小な漏れを正確に検知することができる値に設定されている。燃料電池システム制御部111は、発電時に第1閾値を使用し、水素充填時に第1閾値より低い値の第2閾値を使用する。すなわち、燃料電池システム制御部111は、燃料電池車両100の状況に応じて第1閾値と第2閾値とを使い分けて水素漏れを判定する。
【0043】
燃料電池システム制御部111は、通常起動時、すなわちキースイッチ131がオン状態であり、燃料電池車両100が使用可能な状態であるとき、第1値を用いて、2つの水素検知部112s1,115sの検知結果により水素タンク112の周囲及び燃料電池スタック115の周囲における水素漏れを判定する。
【0044】
燃料電池システム制御部111は、キースイッチ131がオフ状態であり、第1の充填動作検知部119s1、第2の充填動作検知部119s2、及び第3の充填動作検知部112s2のいずれかにより水素充填動作が検知された場合、拡散部であるファン118fを稼働させる。その後、燃料電池システム制御部111は、判定の閾値を第1値から第2値に変更して、2つの水素検知部112s1,115sの検知結果により水素タンク112の周囲及び燃料電池スタック115の周囲における水素漏れを判定する。
【0045】
すなわち、燃料電池システム制御部111は、拡散部であるファン118fを一定時間稼働させて、燃料電池スタック115周囲の気体を拡散し、判定の閾値を第1から第2値に変更する。燃料電池システム制御部111は、燃料電池スタック115周囲の気体を一定時間拡散し、拡散部であるファン118fを停止させる。ここで、一定時間は、ファン118fの送風能力と、燃料電池システム110の体積とを考慮し、燃料電池スタック115内の気体を入れ替えることが可能な時間を算出し、この算出された時間とする。または、ファン118fを動作させて、発電の際に生じて滞留する排気水素の濃度が低下することを事前にテストし、テストにより求めたファン118fの動作時間を、一定時間と設定してもよい。
【0046】
[燃料電池車両の動作]
次に、本発明の実施の形態1における燃料電池車両100の特徴的な動作について、図2を参照して説明する。図2は、本発明の実施の形態1における燃料電池車両100の動作を示すフローチャートである。また、以下の燃料電池車両100の動作の説明は、燃料電池車両100の充填動作検知ステップと、拡散ステップと、判定ステップとを備える制御方法の各処理手順の説明である。
【0047】
図2のフローチャートの前提として、燃料電池車両100は、キースイッチ131がオフ状態であり、動作を停止した状態になっている。キースイッチ131がオフ状態になると、燃料電池システム制御部111は図2のフローチャートを呼び出して処理を開始する。処理の開始時点で、燃料電池システム制御部111は、第1の充填動作検知部119s1、第2の充填動作検知部119s2、及び第3の充填動作検知部112s2の出力を監視しているが、他の一般的な制御機能は停止した状態である。
【0048】
ステップS101において、燃料電池システム制御部111は、第1の充填動作検知部119s1の検知結果により充填口119の蓋119dの状態、または蓋119dを開く操作を監視している。
【0049】
蓋119dが閉じたままであれば、燃料電池システム制御部111は監視を繰り返し続行する。第1の充填動作検知部119s1の検知結果から、蓋119dが開けられたことが燃料電池システム制御部111により検知されると、処理がステップS102へと進む。
【0050】
ステップS102において、燃料電池システム制御部111は、第2の充填動作検知部119s2の検知結果により充填口119に水素充填ノズルが接続されたか否かを監視している。
【0051】
水素充填ノズルが充填口119に接続されていなければ、燃料電池システム制御部111は、ステップS102から、第1の充填動作検知部119s1の検知結果により充填口119の蓋119dの状態を監視するステップS101へと処理を戻す。このステップS102からステップS101への戻りは、蓋119dを開けただけで、実際には水素充填を行わない場合への対処である。
【0052】
第2の充填動作検知部119s2の検知結果から、水素充填ノズルが充填口119に接続されたことが燃料電池システム制御部111により検知されると、処理がステップS103へと進む。
【0053】
ステップS103において、燃料電池システム制御部111は、第3の充填動作検知部112s2の検知結果により、水素タンク112に温度上昇が生じるか否かを監視している。
【0054】
水素タンク112に温度上昇が生じていなければ、燃料電池システム制御部111は、充填口119に水素充填ノズルが接続されるかを監視するステップS102へと処理を戻す。このステップS103からステップS102への戻りは、充填口119に水素充填ノズルを接続しただけで、実際には水素充填を行わずに水素充填ノズルを引き抜いてしまう場合への対処である。
【0055】
第3の充填動作検知部112s2の検知結果から、水素タンク112に水素が充填されて温度上昇が生じていることが燃料電池システム制御部111により検知されると、処理がステップS104へと進む。ここまでが、水素充填動作を検知する充填動作検知ステップである。
【0056】
ステップS104において、燃料電池システム制御部111は、自らを起動し、燃料電池システム制御部111を各部の制御と判定が可能な通常状態にする。この通常状態は、気体の拡散、水素濃度の検知、水素漏れの判定、及び報知が少なくとも可能であればよい。この後、処理がステップS105へと進む。
【0057】
ステップS105において、燃料電池システム制御部111は、ラジエータ118のファン118fを一定時間動作させる。ファン118fを一定時間作動させれば、仮に発電直後等で排気水素が残留していても、この排気水素を拡散させることができ、水素タンク112及び水素配管等からの微小な水素漏れを正確に検知することができる。このステップS105が気体を拡散する拡散ステップである。この後、処理がステップS106へと進む。
【0058】
ステップS106において、燃料電池システム制御部111は、水素漏れの判定に使用する第1閾値と第2閾値とを変更する。すなわち、ファン118fを作動させて一定時間が経過したら、発電時に使用する第1閾値から水素充填時に使用する第2閾値に変更する。なお、閾値のデータが設定されていない場合、燃料電池システム制御部111は、第2閾値を読み込む。ファン118fにより排気水素が拡散されるため、水素の微小な漏れを正確に判定できる第2閾値を使用することができる。このステップS106が閾値変更ステップである。この後、処理がステップS107へと進む。
【0059】
ステップS107において、水素検知部112s1は、水素タンク112及び水素配管周囲の水素濃度を検知し、検知した水素濃度を燃料電池システム制御部111に伝達する。同様に、水素検知部115sは、燃料電池スタック115の周囲の水素濃度を検知し、検知した水素濃度を燃料電池システム制御部111に伝達する。この後、処理がステップS108へと進む。
【0060】
ステップS108において、燃料電池システム制御部111は、水素検知部112s1及び水素検知部115sの検知結果と第2閾値とを比較し、水素タンク112周囲及び水素配管周囲と燃料電池スタック115周囲の水素濃度が第2閾値より大きいかを判定する。
【0061】
ステップS108において、水素検知部112s1及び水素検知部115sの検知結果が第2閾値以下である場合、水素充填中であるか否かを確認するため、処理がステップS109へと進む。
【0062】
ステップS109において、燃料電池システム制御部111は、第2の充填動作検知部119s2の検知結果により充填口119に水素充填ノズルが接続されているかを確認している。第2の充填動作検知部119s2の検知結果により、充填口119に水素充填ノズルが接続されていれば、水素充填中であるため、処理がステップS107へと戻る。ステップS109において、燃料電池システム制御部111は、第2の充填動作検知部119s2の検知結果により、充填口119に水素充填ノズルが接続されていなければ、水素検知部112s1及び水素検知部115sの検知結果が第2閾値以下の状態で水素充填が完了したとして、図2のフローチャートに示す処理を終了する。すなわち、水素タンク112、水素配管、及び燃料電池スタック115等から水素の漏れが全くないか、あっても第2閾値以下の僅かな量であると判定される。
【0063】
一方、ステップS108において、燃料電池システム制御部111は、水素検知部112s1によって検知された水素濃度が第2閾値より大きければ、水素タンク112の周囲及び水素配管の周囲のいずれか一方に水素漏れが存在すると判定する。同様に、燃料電池システム制御部111は、水素検知部115sによって検知された水素濃度が第2閾値より大きければ、燃料電池スタック115周囲に水素漏れが存在すると判定する。以上のステップS107~S109が、水素漏れを判定する判定ステップである。この後、処理がステップS110へと進む。
【0064】
ステップS110において、燃料電池システム制御部111は、水素タンク112周囲及び水素配管周囲のいずれか一方に第2閾値より高い濃度の水素が存在すると判定した場合、水素漏れの判定結果を、充填操作者に報知する。同様に、燃料電池スタック115周囲に水素が存在すると判定した場合、水素漏れの判定結果を、充填操作者に報知する。この報知は、画面表示、警報音、音声メッセージのいずれであってもよい。この後、燃料電池システム制御部111は、図2のフローチャートに示す処理を終了する。
【0065】
燃料電池システム制御部111は、水素漏れの報知とともに、水素の充填を続行してもよいし、水素の充填を中止してもよいし、充填操作者への問い合わせの後に中止か続行かを決定してもよい。また、第2閾値として法定基準より厳しく判定を行っている場合は、ステップS110の報知に代えて、燃料電池システム制御部111は、判定の結果をログに記録しておくだけでもよい。
【0066】
燃料電池システム制御部111は、図2のフローチャートに示す処理を終了した後、判定の閾値を第2閾値から第1閾値に戻す。
【0067】
以上説明したように、この発明の実施の形態1に係る燃料電池車両100では、水素充填動作が検知された場合、拡散部としてのファン118fを稼働させて、燃料電池スタック115周囲の排気水素を含む気体を拡散し、発電時の第1閾値より低濃度で水素の濃度を判定する第2閾値を用いて水素漏れの判定をする。この結果、排気水素の影響を受けずに、水素充填時の微小な水素漏れを高精度に正確に検知することができる。
【0068】
この発明の実施の形態1に係る燃料電池車両100は、拡散部として、ラジエータ118のファン118fを使用するため、新規な部品を設置する必要がなく、既存の燃料電池車両100をそのまま使用することができる。
【0069】
[その他の動作]
本発明の実施の形態1における燃料電池システム110の他の動作について、以下に説明する。
【0070】
図2のフローチャートでは、ステップS101~S103のように水素充填動作を3段階で検出しているが、これに限定されるものではない。ステップS101~S103のいずれか1段階のみ、あるいは、任意のいずれか2段階により水素充填動作を検出してもよい。また、稼働させたファン118fの停止タイミングと、水素検知部112s1と水素検知部115sの検知タイミングとは、どちらが先であってもよい。
【0071】
また、以上の説明では、燃料電池システム制御部111と車両制御部121との2つの制御部を有しているが、燃料電池車両100の全体を統括的に制御する単一の制御部としてもよい。
【符号の説明】
【0072】
100 燃料電池車両、110 燃料電池システム、111 燃料電池システム制御部(制御部)、112 水素タンク、112s1 水素検知部、112s2 第3の充填動作検知部、113 コンプレッサ、114 水素供給弁、115 燃料電池スタック(燃料電池)、115s 水素検知部、116 DCDC変換部、117 蓄電装置、118 ラジエータ、118f ファン、119 充填口、119d 蓋、119s1 第1の充填動作検知部、119s2 第2の充填動作検知部、120 車両部、121 車両制御部、122 インバータ、123 走行モータ、124 インバータ、125 荷役モータ、130 操作部、131 キースイッチ、132 アクセルペダル、133 ブレーキペダル、134 リフトレバー、135 チルトレバー、136 ディレクションレバー。
図1
図2