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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】熱伝導性シート
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20221207BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20221207BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20221207BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20221207BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20221207BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
C08L83/07
C08K7/00
C08K3/38
C08K3/013
C09K5/14 E
H01L23/36 M
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019540891
(86)(22)【出願日】2018-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2018031599
(87)【国際公開番号】W WO2019049707
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-06-18
(31)【優先権主張番号】P 2017171087
(32)【優先日】2017-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山縣 利貴
(72)【発明者】
【氏名】和田 光祐
(72)【発明者】
【氏名】金子 政秀
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-082091(JP,A)
【文献】特開2017-028128(JP,A)
【文献】特開2016-027142(JP,A)
【文献】国際公開第2015/022956(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/196496(WO,A1)
【文献】特開2014-162697(JP,A)
【文献】特開2010-137662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
C08K 7/00 - 7/28
C08K 3/00 - 3/40
C09K 5/00 - 5/59
H01L 23/00 - 23/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片状窒化ホウ素の一次粒子が凝集した二次凝集粒子を付加反応型シリコーン樹脂中に分散してなる熱伝導性シートであって、前記二次凝集粒子が、50μm以上120μm以下の平均粒子径、51%以上60%以下の気孔率を有し、累積破壊率63.2%時の粒子強度が0.2MPa以上2.0MPa以下であり、前記熱伝導性シートにおける前記二次凝集粒子の充填率が50体積%以上70体積%以下であり、
前記平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定される粒子径の値に相対粒子量を掛けて、相対粒子量の合計で割って得られる値であり、
前記気孔率は、水銀圧入式のポロシメーターを用いて細孔体積を測定することにより求められる値であり、
前記累積破壊率63.2%時の粒子強度は、JIS R1639-5:2007に準拠して求められる値である
ことを特徴とする熱伝導性シート。
【請求項2】
請求項1記載の熱伝導性シートを含んだ放熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性に優れたシートとその用途に関するものであり、特に電子部品用放熱部材として使用した際に、パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、CPU(中央処理装置)等の発熱性電子部品を損傷させることなく、電子機器に組み込むことができる熱伝導性シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、CPU等の発熱性電子部品においては、使用時に発生する熱を如何に除去することが重要な問題となっている。従来、このような除熱方法としては、発熱性電子部品を電気絶縁性の熱伝導性シートを介して放熱フィンや金属板に取り付け、熱を逃がすことが一般的に行われており、その熱伝導性シートとしてはシリコーンゴムに熱伝導性フィラーを分散させたものが使用されている。
【0003】
近年、電子部品内の回路の高集積化に伴いその発熱量も大きくなっており、従来にも増して高い熱伝導性を有する材料が求められてきている。熱伝導性材料の熱伝導性を向上させるには、これまで酸化アルミニウム粉末、窒化ホウ素粉末、窒化アルミニウム粉末といった高い熱伝導性を示すフィラーを有機樹脂へ含有する手法が一般的であった。また充填性の悪い鱗片状の六方晶窒化ホウ素粉末については二次凝集粒子といった形で有機樹脂へ充填することで高熱伝導化を達成するという方法が行われていた。(特許文献1~4)。六方晶窒化ホウ素粉末の配向性に関しては、特許文献5や6などに記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-60216号公報
【文献】特開2003-60134号公報
【文献】特開2008-293911号公報
【文献】特開2009-24126号公報
【文献】特開平09-202663号公報
【文献】特開平11-26661号公報
【文献】特許第6125273号
【文献】特許第5036696号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来技術ではシート形状である熱伝導性に優れた部材を得ることは困難であった。特許文献7のようにBN成型体を用いた高熱伝導部材が知られているが、これらは部材としての柔軟性が乏しいため曲面形状の放熱用途や、強い締め付けトルクでの用途に不向きであった。また、部材の厚みを300μm以下に薄くすることは現実的でなかった。また、例えば特許文献8は高熱伝導性のシートを謳ってはいるが、これに用いるBN凝集粒子の気孔率は50%以下であって、熱伝導率は6W/(m・K)程度を達成できるに過ぎない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、熱伝導性に優れたシートを提供することである。特に電子部品用放熱部材として好適な熱伝導性シートを提供することである。
【0007】
本発明の実施形態では、上記の課題を解決するために、以下を提供できる。
【0008】
(1)鱗片状窒化ホウ素の一次粒子が凝集した二次凝集粒子を熱硬化性樹脂中に分散してなる熱伝導性シートであって、前記二次凝集粒子が、50μm以上120μm以下の平均粒子径、51%以上60%以下の気孔率、累積破壊率63.2%時の粒子強度が0.2MPa以上2.0MPa以下であり、前記熱伝導性シートにおける前記二次凝集粒子の充填率が50体積%以上70体積%以下であることを特徴とする熱伝導性シート。
【0009】
(2)前記(1)記載の熱伝導性シートを含んだ放熱部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、高熱伝導率を示すシートを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の実施形態で用いる鱗片状窒化ホウ素の一次粒子が凝集した二次凝集粒子は、平均粒子径が50~120μmである必要があり、さらに平均粒子径は70~90μmの範囲のものが好ましい。平均粒子径が120μmより大きくなると、粒子と粒子が接触した際のすき間が大きくなり、熱伝導性が減少する問題が発生する上、薄いシートを得ることが困難になってしまう。反対に平均粒子径が50μmより小さくなると二次凝集粒子の熱硬化性樹脂への充填性が悪くなり、熱伝導性が減少する問題が発生する。
【0013】
更に、本発明の実施形態に係る熱伝導性シートは、放熱性を損なわせない範囲で、アルミニウム、銅、銀、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ等の導電性粉末を併せて含んでいてもよい。
【0014】
本発明の実施形態で用いる鱗片状窒化ホウ素の一次粒子が凝集した二次凝集粒子は、気孔率が51~60%である必要があり、さらに気孔率は53~57%の範囲のものが好ましい。気孔率が60%より大きくなると、粒子の強度が小さくなり、シート化が困難となる問題が生じる。反対に気孔率が51%より小さくなると二次凝集粒子への熱硬化性樹脂の充填性が悪くなり、熱伝導性が減少する問題が発生する。BN凝集粒子の気孔率を51~60%とすることで、従来技術では得られない程度にまで樹脂への充填効果が向上し、高熱伝導を達成できる。
【0015】
本発明の実施形態で用いる鱗片状窒化ホウ素の一次粒子が凝集した二次凝集粒子は、累積破壊率63.2%時の粒子強度が0.2~2.0MPaである必要があり、さらには0.3~1.8MPaの範囲のものが好ましく、0.3~1.5MPaの範囲のものがより好ましい。累積破壊率63.2%時の粒子強度が2.0MPaより大きくなると、二次凝集の変形が生じずに面接触とはならず点接触となり熱伝導性シートの熱伝導性が減少する。反対に累積破壊率63.2%時の粒子強度が0.2MPaより小さくなると、二次凝集粒子が破壊しやすく異方性が大きくなり、熱伝導性シートの熱伝導性が減少する。
【0016】
本発明の実施形態に係る熱伝導性シート中の二次凝集粒子の充填率は、全体積の50~70体積%であり、特に55~65体積%であることが好ましい。二次凝集粒子の充填率が50体積%未満では熱伝導性シートの熱伝導性が不十分となり、また70体積%を越えると、熱伝導性フィラーの充填が困難となる。
【0017】
以上に述べたように特定の平均粒子径、気孔率、および粒子強度を組み合わせて有する二次凝集粒子は、熱伝導性、およびシートを調製する上での物理的性状という観点から優れた特徴を有する。そしてこの特定の二次凝集粒子を、50体積%以上70体積%以下の範囲の充填率を以って用いて熱伝導性シートを調製することで、従来技術では達成できないきわめて高い熱伝導率効果が実現可能になるのである。
【0018】
本明細書における平均粒子径は、島津製作所製「レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-200」を用いて測定を行う。評価サンプルは、ガラスビーカーに50ccの純水と測定する熱伝導性粉末を5g添加して、スパチュラを用いて撹拌し、その後超音波洗浄機で10分間、分散処理を行う。分散処理を行った熱伝導性材料の粉末の溶液を、スポイトを用いて装置のサンプラ部に一滴ずつ添加して、吸光度が測定可能になるまで安定するのを待つ。このようにして吸光度が安定になった時点で測定を行う。レーザー回折式粒度分布測定装置では、センサで検出した粒子による回折/散乱光の光強度分布のデータから粒度分布を計算する。平均粒子径は測定される粒子径の値に相対粒子量(差分%)を掛けて、相対粒子量の合計(100%)で割って求められる。なお、平均粒子径は粒子の平均直径である。
【0019】
本明細書における鱗片状窒化ホウ素の一次粒子が凝集した二次凝集粒子の気孔率は、水銀圧入式のポロシメーターで測定することによって得られた値を意味する。気孔率は、水銀ポロシメーターを用いて細孔体積を測定することにより求めた値である。水銀ポロシメーターを用いた細孔体積としては、例えば「PASCAL 140-440」(FISONS INSTRUMENTS社製)を用いて測定することができる。この測定の原理は、式、εg=Vg/(Vg+1/ρt)×100、に基づいている。式中、εgは窒化ホウ素粒子の気孔率(%)、Vgは細孔体積から粒子間空隙を差し引いた値(cm3/g)、ρtは一次粒子の六方晶窒化ホウ素粒子の密度2.34(g/cm3)である。
【0020】
本明細書における鱗片状窒化ホウ素の一次粒子が凝集した二次凝集粒子の累積破壊率63.2%時の粒子強度(単一顆粒圧壊強さ)は、JIS R1639-5:2007に準拠して求められる。なおここで言う「63.2%」とは、上記JIS R1639-5:2007が引用するJIS R1625:2010にて教示されている、ワイブル(Weibull)分布関数における lnln{1/(1-F(t))} = 0 を満たす値として知られているものであり、粒子の個数基準の値である。
【0021】
本発明の実施形態にて使用できる熱硬化性樹脂は、ミラブル型シリコーンが代表的なものであるが、総じて所要の柔軟性を発現させることが難しい場合が多いので、高い柔軟性を発現させるためには付加反応型シリコーンが好適である。付加反応型液状シリコーンの具体例としては、一分子中にビニル基とH-Si基の両方を有する一液反応型のオルガノポリシロキサン、または末端あるいは側鎖にビニル基を有するオルガノポリシロキサンと末端あるいは側鎖に2個以上のH-Si基を有するオルガノポリシロキサンとの二液性のシリコーンなどである。例えば旭化成ワッカーシリコーン社製、商品名「ERASTOSIL LR3303-20/A/B」がある。
【0022】
本発明の実施形態にて使用できる付加反応型液状シリコーンにはさらに、アセチルアルコール類、マレイン酸エステル類などの反応遅延剤、十~数百μmのアエロジルやシリコーンパウダーなどの増粘剤、難燃剤、顔料などを併用することもできる。
【0023】
本発明の実施形態に係る熱伝導性シートは所望であれば厚みを200μmまで薄くすることができ、柔軟性をもたせることができるため取り付け方法における自由度を高めることができる。
【0024】
本発明の実施形態に係る熱伝導性シートには、補強材としてガラスクロスも併用できる。ガラスクロスとしては、ガラスを織り上げたままの状態の生機クロスやヒートクリーニング、カップリング剤処理を行った処理クロスなどがあり、例えばユニチカ社製、商品名「H25 F104」がある。
【0025】
本発明の熱伝導性シートの製造方法は、付加反応型液状シリコーンに窒化ホウ素粉末の凝集粉末を添加し、自転・公転ミキサーであるシンキー社製「あわとり練太郎」を用いて混合することで、窒化ホウ素粉末の凝集粉末が解砕することなく、混合物を製造することが可能である。
【実施例
【0026】
後述する熱伝導性シートの熱伝導性を評価するため、シート成形体を作製した。シート成形体の作製にあたっては、プランジャー式の押出機を用いることで、窒化ホウ素粉末の凝集粉末を解砕することなく、シート化した。熱伝導性評価用のシート成形体サンプルは後述する表に記載した各々の厚みを有し、かつ10mm×10mmの大きさとした。
【0027】
熱伝導率は、ASTM E-1461に準拠した樹脂組成物の熱拡散率、密度、比熱を全て乗じて算出した(熱伝導率=熱拡散率×密度×比熱)。熱拡散率は、試料を幅10mm×10mm×厚み0.5mmに加工し、レーザーフラッシュ法により求めた。測定装置はキセノンフラッシュアナライザー(NETSCH社製 LFA447 NanoFlash)を用い、25℃で測定を行った。密度はアルキメデス法を用いて求めた。比熱は、DSC(リガク社製 ThermoPlus Evo DSC8230)を用いて求めた。
【0028】
(実施例1~7、比較例1~6)
熱伝導性粉末として表1に示される凝集六方晶窒化ホウ素粉末7種類、付加反応型液状シリコーンとして表2、3に示されるERASTOSIL LR3303-20/A液1種類(白金触媒を含有したビニル基を有するオルガノポリシロキサン)、および同B液1種類(H-Si基を有するオルガノポリシロキサン及びビニル基を有するオルガノポリシロキサン)、を室温下で表2~3に示す配合(体積%)で、自転・公転ミキサーであるシンキー社製「あわとり練太郎」を用いて、回転速度2000rpmで10分混合して混合物を製造した。
【0029】
この混合物をスリット(0.2mm×10mm、0.5mm×10mm、及び1mm×10mmのいずれか)付きダイスの固定されたシリンダー構造金型内に100g充填し、ピストンで5MPaの圧力をかけながらスリットから押し出して所定の厚さのシートを得た。このシートを110℃で3時間加熱し、熱伝導性を評価するシートを製造し、上述した手法により熱伝導率を測定した。結果を表2~3に示した。
【0030】
表2の実施例と表3の比較例から、本発明の実施形態に係る熱伝導性シートは、優れた熱伝導性を示していることがわかる。一方比較例では、そもそもシート化困難であったり、または熱伝導率が低かったりという問題が発生した。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の熱伝導性シートを電子部品用放熱部材として使用した場合、例えば、パワーデバイス等の半導体素子の放熱部材として使用した場合、長期間使用可能となる。