(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】患者の脳血液量及び/又は脳血流量、及び/又は麻酔深度を推定するシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/026 20060101AFI20221207BHJP
A61B 5/0295 20060101ALI20221207BHJP
A61B 5/372 20210101ALI20221207BHJP
【FI】
A61B5/026 140
A61B5/0295
A61B5/372
(21)【出願番号】P 2019568177
(86)(22)【出願日】2018-05-29
(86)【国際出願番号】 EP2018064061
(87)【国際公開番号】W WO2018228813
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-05-26
(32)【優先日】2017-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518016937
【氏名又は名称】クァンティウム メディカル エスエレ
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】イェンセン, イエク, ヴィーバ
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス ピフアン, カルメン
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0268096(US,A1)
【文献】国際公開第2017/012622(WO,A1)
【文献】特表2002-516138(JP,A)
【文献】特表2008-529708(JP,A)
【文献】特表2010-512828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/03
A61B 5/053-5/0538
A61B 5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の脳血液量及び/又は脳血流量及び/又は麻酔深度を推定するシステム(1)であって、
患者(2)の頭部(20)に配置されて励起信号を印加する少なくとも1つの励起電極(110E)と、
前記患者(2)の前記頭部(20)に配置されて、前記励起信号によってもたらされた測定信号を検知する少なくとも1つの検知電極(110S)と、
前記少なくとも1つの検知電極(110S)によって検知された前記測定信号(VC)を処理して、前記脳血液量及び/又は前記脳血流量を示す出力を求めるプロセッサデバイス(12)と、を備え、
前記プロセッサデバイス(12)は、
EEG信号を受信及び処理する第2の処理経路(10)を備え、
非線形雑音低減アルゴリズムを適用することによって、前記測定信号(VC)内の雑音を低減するように構成され、かつ、
前記測定信号(VC)
の導関数(DVC)に基づいて、最大点(C)よりも前の
前記導関数の最小値として定義される点(B)から最大点(C)の直後の
前記導関数の最小値として定義される点(X)までの期間として
、左心室駆出時間(LVET)を推定するように構成され、かつ、
前記測定信号(VC)を前記左心室駆出時間(LVET)期間にわたって
積分して得られた面積(A)による前記脳血液量に相関する相関量を求めるように構成され、かつ、
前記脳血液量に相関する前記相関量に前記患者の心拍数を示す値を乗算することによって、前記脳血流量に相関する相関量を求めるように構成され、かつ、
前記脳血液量に相関する前記相関量及び/又は前記脳血流量に相関する相関量を第1の非線形モデル(114)内に供給して、前記脳血液量及び/又は前記脳血流量を示す出力値を得るように構成され、かつ、
前記EEG信号の記号力学系に従って、前記EEG信号の周波数ビンを求めること、前記EEG信号のエントロピー値を求めること、及び/又は前記EEG信号内のバーストサプレッションを示す値を求めることによって、前記EEG信号の特徴量を導出するように構成され、かつ、
前記出力値
、および、前記EEG信号から導出された前記特徴量を第2の非線形モデル(104)内に供給して、
EEG活動を考慮した前記脳血液量及び/又は前記脳血流量の最終出力値、及び/又は、
前記脳血流量を考慮した麻酔深度を示す出力値を得るように構成される
、システム。
【請求項2】
前記少なくとも1つの励起電極(110E)は、1つ以上の所定の周波数を有し、及び/又は、定振幅を有する電流を注入するように制御される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記少なくとも1つの検知電極(110S)によって検知された前記測定信号(VC)は、該測定信号(VC)を増幅する増幅デバイス(111)と、該測定信号(VC)をデジタル化するアナログ/デジタル変換器(112)とを備える第1の処理経路(11)において、前記プロセッサデバイス(12)内で処理される、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記プロセッサデバイス(12)は、前記心拍数を示す前記値を前記測定信号(VC)から導出するように構成される、
請求項1~3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記プロセッサデバイス(12)は、前記測定信号(VC)の最大導関数値、前記測定信号(VC)の最大正振幅、前記測定信号(VC)の最大負振幅、及び前記測定信号(VC)から導出された左心室駆出時間の値からなる群のうちの少なくとも1つを更なる入力として前記第1の非線形モデル(114)内に供給するように構成される、請求項1~
4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記第1の非線形モデル(114)は、ファジー論理モデル又は2次式モデルである、請求項1~
5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記プロセッサデバイス(12)は、前記患者(2)に投入される薬剤に関する情報と、前記患者(2)の体重、身長、性別、及び/又は年齢に関する情報とからなる群のうちの少なくとも1つを更なる入力として前記第2の非線形モデル(104)内に供給するように構成される、請求項1~
6のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記第2の非線形モデル(104)は、ファジー論理モデル又は2次式モデルである、請求項1~
7のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプレアンブルによる患者の脳血液量及び/又は脳血流量、及び/又は麻酔深度を推定するシステムと、患者の脳血液量及び/又は脳血流量を推定する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のシステムは、患者の頭部に配置されて励起信号(excitation signal:興奮信号)を印加する少なくとも1つの励起電極(excitation electrode:興奮電極)と、患者の頭部に配置されて、励起信号によってもたらされた測定信号を検知する少なくとも1つの検知電極とを備える。プロセッサデバイスは、少なくとも1つの検知電極によって検知されたこの測定信号を処理し、脳血液量及び/又は脳血流量を示す出力を求める機能を有する。
【0003】
一般に、患者の血行動態状態、例えば、麻酔中の血行動態状態は、急速に変化し得る。そのため、脳血液量及び脳血流量の高頻度のモニタリング、更には連続モニタリングが、必要に応じた麻酔薬の素早い調整を含む、脳灌流障害時の高速の対応を可能にする有用な情報を提供することができる。
【0004】
少なくとも1つの電極によって励起された励起信号は、例えば、所定の周波数及び定振幅で注入される電流とすることができる。例えば、複数の励起電極、例えば、2つの励起電極の配置は、一方の励起電極から他方の励起電極に電流を通流させるように患者の頭部に行うことができる。その場合、1つ又は複数の検知電極によって、注入された励起電流と患者の生体インピーダンスによってリンクされた電圧信号を検出することができる。
【0005】
身体部分の生体インピーダンスの測定は、例えば、心拍出量を求めるのに特に有用ないわゆるインピーダンスプレチスモグラフィーを開示している特許文献1に記載されている。
【0006】
特許文献2は、大動脈又は他の動脈内の血流量に相関する相関量として電気インピーダンスを用いるインピーダンスプレチスモグラフィー装置及び方法を記載している。
【0007】
特に麻酔中の患者の脳血流量及び脳血液量のかなり正確な推定値を提供可能であることが一般に望まれている。したがって、測定信号を処理するとき、雑音又はアーティファクトが処理の精度に(大きな)影響を与えないように、雑音及びアーティファクトを除去することが必要である。この状況において、一般に、例えば、ローパスフィルター又はバンドパスフィルターを用いるフィルタリング技法では、十分な精度を得られないと想定することができる。なぜならば、特に生体インピーダンス測定の場合には、測定信号は、異なる周波数成分を示す広範な変動する可能性のある周波数スペクトルを有する場合があり、そのため、従来のフィルタリング技法は、信号自体に望ましくない効果を与えるおそれがあるからである。
【0008】
本明細書の文脈における用語「脳血液量」(又は単に血液量)は、少なくとも1つの励起電極及び少なくとも1つの検知電極を用いた生体インピーダンス測定手法による影響を受ける血液の量を指すものと理解される。特に、励起信号、特に注入電流は、最小抵抗(インピーダンス)の経路に沿って、特に血液で満たされた動脈に沿って流れるものと仮定することができる。したがって、インピーダンスと相関する測定された信号は、血液が多く存在するほど低くなり、血液が少ないほど高くなる。したがって、例えば、患者の頭部の対向するこめかみに配置された2つの励起電極を備える構成を用いると、脳血液量は、2つの励起電極の間に存在し、励起信号の誘導に影響を与える血液の量を示す。
【0009】
本明細書の文脈における用語「脳血流量」(又は略してCBF)は、脳に到達する毎分の血液量として理解される。
【0010】
特許文献3は、胸郭にわたって測定された電圧、心電図及び脳波図から抽出される特徴量のファジー論理結合によって、拍出量、心拍出量及び全身性炎症を特定する装置を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許第3,340,867号
【文献】米国特許第3,835,840号
【文献】国際公開第2015/086020号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、精度の向上をもたらすことができ、したがって、より正確な推定値を与えることができる、患者の脳血液量及び/又は脳血流量を推定するシステム及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、請求項1に記載の特徴を備えるシステムによって達成される。
【0014】
したがって、プロセッサデバイスは、特にポアンカレ写像解析を用いた非線形雑音低減(noise reduction:ノイズリダクション)アルゴリズムを適用することによって、測定信号内の雑音を低減するように構成される。
ポアンカレ写像解析では、特に、
-測定信号を表す(雑音によって破損した)時系列からアトラクターを構築することができ、
-アトラクターの点をいわゆる近傍においてクラスタリングすることができ、
-近傍を投影することができ、
-雑音が低減された測定信号を表す新たな時系列を、投影された近傍から復元することができる。
【0015】
上記ステップを含むプロセスは、反復して繰り返すことができる。したがって、このアルゴリズムは、更なる処理に十分であると考えられる雑音低減が得られるまで、復元された信号に再度適用することができる。
【0016】
非線形雑音低減アルゴリズムは、特に、
-測定信号からm次元ポアンカレ写像を求めることと、
-ポアンカレ写像における近傍に従って点をクラスタリングすることと、
-各近傍の座標系をその近傍の重心に従って定義することと、
-各近傍の座標系を用いて近傍内の点の座標を求めることと、
-測定信号の変動に対して強い寄与度を有する座標を、測定信号の変動に対して低減された寄与度を有する座標と区別することと、
-測定信号の変動に対して低減された寄与度を有する座標を除去して、各近傍の新たな座標集合を得ることと、
-新たな座標集合に従って、削減された次元数を有する各近傍の新たな座標系を定義することと、
-各近傍内の点を新たな座標系内に投影することと、
を含むことができる。
【0017】
これは、生体インピーダンス測定信号を処理するときの精度の向上を図るには、測定信号に位相シフトを導入することなく干渉を低減するためにポアンカレ写像解析に基づいている雑音低減アルゴリズムを用いることができるという発見に基づいている。
【0018】
ポアンカレ写像解析を利用した非線形雑音低減アルゴリズムは、例えば、Maria G. Signorini、Fabrizio Marchetti及びSergio Ceruttiによって「Applying Non-linear Noise Reduction in the analysis of Heart Rate Variability. A promising tool in the Early Identification of Cardiovascular Dynamics」IEEE Engineering in Medicine and Biology Magazine, March/April 2001, pages 59-68に記載されている。この文献の内容は、引用することによって本明細書の一部をなす。
【0019】
ポアンカレ写像解析を利用した雑音低減アルゴリズムは、例えば、R. Cawley及びG.-H. Hsuによって「Local-geometric-projection method for noise reduction in chaotic maps and flows」Physical Review A, Col. 46, No. 6, 1992, pages 3057-3082にも記載されている。この文献の内容は、引用することによって本明細書の一部をなす。
【0020】
プロセッサデバイスによって適用される雑音低減アルゴリズムは、例えば、ポアンカレ写像解析を利用する。ポアンカレ写像を形成するために、デジタル化された形態の測定信号が、測定信号を遅延させたものの上にプロットされる。異なる遅延の多次元ポアンカレ写像が得られる(各遅延は、ポアンカレ写像の次元に対応する)。ポアンカレ写像においては、測定信号の点が、近傍に従ってクラスタリングされ、近傍内では、近傍の重心を新たな基準とみなすことによって、各点の座標が再計算される。測定信号の変動に対して強い影響を有する座標が、測定信号の変動に対して低減された寄与度を有する座標と区別される。近傍内の点の変動に対する各特定の次元の寄与度が計算され、それらの次元のうちの幾つかは、変動に対して低減された寄与度を有する座標は雑音に起因したものであると予想することができるという仮定に基づいて除去される。したがって、ポアンカレ写像解析によって、雑音が低減された測定信号が得られ、この測定信号は、脳血液量及び脳血流量の推定値を導出するために、更なる処理に用いることができる。
【0021】
近傍における次元数を除去することによって、雑音は、近接した点の最も重要なパターンを維持しつつ、点集合ごとに局所的に低減される。このように、測定信号のいわゆるアトラクターが、測定信号を復元するのに用いられる。この復元された測定信号は、この時点で、雑音による影響をほとんど受けていないと推定される。
【0022】
1つの実施の形態では、少なくとも1つの励起電極は、1つ又は複数の所定の周波数を有し、及び/又は、定振幅を有する電流を注入するように制御される。したがって、少なくとも1つの励起電極を介して、電流が注入され、この電流は、患者の或る部位を通って流れ、電圧信号をもたらす。この電圧信号は、少なくとも1つの検知電極によって測定信号として取得することができる。電圧プレチスモグラフ曲線、電圧プレチスモグラム又は電圧曲線としても表記されるこの電圧信号は、少なくとも1つの励起電極及び少なくとも1つの検知電極が配置された患者の頭部の動脈を通って流れる血液による影響を特に受ける生体インピーダンスを介して、注入された電流とリンクされる。
【0023】
励起電流は、例えば、50μA~1000μAの定振幅を有するものとすることができ、例えば、50kHzの高周波数を有するものとすることができる。
【0024】
1つの実施の形態では、2つの励起電極を患者の頭部に配置することができ、例えば、一方の励起電極は患者の頭部の左こめかみに配置することができ、他方の励起電極は患者の頭部の右こめかみに配置することができる。したがって、電流は、これらの2つの励起電極の間を最小の抵抗(インピーダンス)の経路に沿って、すなわち、患者の頭部内の血液で満たされた動脈に沿って流れる。加えて、例えば、2つの検知電極を用いることができ、各検知電極は、患者の頭部のこめかみの1つの励起電極の近傍に配置される。
【0025】
1つの実施の形態では、少なくとも1つの検知電極によって検知された測定信号は、この測定信号を増幅する増幅デバイスと、この測定信号をデジタル化するアナログ/デジタル変換器とを備える第1の処理経路において、プロセッサデバイス内で処理される。特に、増幅デバイスは、少なくとも1つの検知電極によって取得された測定信号、特に電圧信号を増幅する低雑音増幅器(LNA)とすることができる。アナログ/デジタル変換器によって、(増幅された)測定信号は、更なる処理が測定信号をデジタル化したものに対して行われるように、更なる処理用にデジタル化される。
【0026】
別の態様では、プロセッサデバイスは、測定信号に基づいて、測定信号の積分から得られた面積による脳血液量に相関する相関量を求めるように構成することができる。特に、測定信号、特に電圧曲線は、測定信号から導出することができる大動脈弁の開放期間にわたって積分することができる。この点に関して、測定信号は変動しており、概ね心拍数と一致した周期を有することに留意されたい。したがって、測定信号は、各部分が患者の1つの心拍動にわたる電圧信号に対応する複数の部分に分割することができる。そのような部分において、大動脈弁の開放期間を導出することができる。開放期間の開始点は、例えば、5%~15%の範囲の電圧信号の増加によって規定することができる。大動脈弁の開放期間の終了点は、その場合、電圧信号がその同じ閾値に接近している時点として規定することができる。
【0027】
脳血液量に相関する相関量(積分から得られる面積)が得られると、脳血流量に相関する相関量は、上記脳血液量に相関する相関量に心拍数を乗算することによって得ることができる。心拍数は、測定信号の周期性を求めることによって測定信号自体から導出することができる。特に、心拍数は、電圧信号における連続するピークの間の間隔に等しいと仮定することができる。脳血液量に相関する相関量に心拍数を乗算することによって、脳血流量に相関する相関量、すなわち、患者の脳に毎分到達する血液量(いわゆる脳血流量)に相関する相関量が得られる。
【0028】
脳血液量に相関する相関量及び脳血流量に相関する相関量は、それぞれ実際の脳血液量及び実際の脳血流量に相関し、したがって、実際の脳血液量及び脳血流量の推定値を得ることを可能にする。脳血液量及び脳血流量の実際の値は、本発明の別の態様に従って、脳血液量及び脳血流量に相関する相関量が供給される第1の非線形モデルを用いて、実際の脳血液量及び脳血流量の推定値を示す出力値を取得することによって得ることができる。
【0029】
第1の非線形モデルは、例えば、ファジー論理モデル又は2次式モデルとすることができ、これらのモデルは、初期段階において、脳血流量が既知であるトレーニングデータに従ってトレーニングすることができる。トレーニング段階では、モデルが、脳血液量及び脳血流量に相関する相関量を供給されると、脳血液量及び脳血流量の実際の値の(正確な)推定値を提供するように、モデルのパラメーターが定義される。
【0030】
第1の非線形モデルには、更なる入力、例えば、測定信号から導出された測定信号の最大導関数値、測定信号の最大正振幅、及び測定信号の最大負振幅、及び/又は左心室駆出時間の値を供給することができる。そのような特徴量は、測定信号自体から、特に1つの心拍動に関する測定信号の部分から導出することができ、そのため、第1の非線形モデルを用いることによって、各心拍動の脳血液量及び脳血流量の実際の値が得られる。
【0031】
加えて、例えば、麻酔深度を示す出力値を求めるために、第1の非線形モデルから得られた出力値を第2の非線形モデル内に更に供給することができる。この第2の非線形モデルも、ファジー論理モデル又は2次式モデルとすることができる。第2の非線形モデルによって、EEG信号から導出された特徴量を、第1の非線形モデルから得られた脳血液量及び脳血流量の推定値と組み合わせることができる。そのような特徴量は、プロセッサデバイスの第2の処理経路を介して得ることができる。この第2の処理経路では、EEG信号が受信され、例えば、EEG信号の記号力学系に従って、EEG信号の周波数ビンを求めること、EEG信号のエントロピー値を求めること、及び/又はEEG信号内のバーストサプレッションを示す値を求めることにより特徴量を導出することによって処理される。
【0032】
EEG信号を得るために、EEG電極を患者の頭部の頭皮に配置して、患者の脳の自発的な電気活動を取得することができる。
【0033】
用語「脳波記録法(EEG)」は、一般に、頭皮に沿って電気活動を記録することを指す。EEGは、脳の神経内のイオン電流フローに起因する電圧変動を測定する。臨床の場面では、EEGは、頭皮に配置された複数の電極から記録される脳の自発的な電気活動を記録することを指す。診断の用途では、一般に、EEGのスペクトル成分、すなわち、EEG信号において観察することができる神経振動のタイプに焦点が当てられる。
【0034】
EEGの処理は、EEGのスペクトル解析を伴う。スペクトルから、例えば、1Hz~4Hz、4Hz~8Hz、8Hz~12Hz、12Hz~20Hz、20Hz~45Hz等のスペクトル部分におけるエネルギー成分に関する周波数ビンを定義することができる。
【0035】
記号力学系は、EEGの複雑度を評価するのに用いることができる。記号は、1及び0とすることができ、例えば、EEGが正であるときは1,EEGが負であるときは0とすることができる。或いは、連続するサンプルの間の差が、所与の時間ウィンドウにわたるEEGサンプルの標準偏差に乗算される係数よりも大きいのか又は小さいのかに応じて、記号を設計することもできる。一般に、EEGの平均又はスペクトルエッジ周波数の減少は、血流量が減少したときに発生している。
【0036】
EEGのバーストサプレッションは、通常、麻酔薬、低酸素又は低い脳血流量によって引き起こされる低い脳活動中に発生する平坦なEEGがその後に続くバーストの期間によって特徴付けられる。
【0037】
EEG信号の解析には、例えば、高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを用いることができる。高速フーリエ変換アルゴリズムを用いると、離散フーリエ変換(DFT)及びその逆変換を計算することができる。フーリエ変換は、時間(又は空間)から周波数への変換又はその逆の変換を行う。
【0038】
加えて、別の態様によれば、更なるパラメーター、例えば、患者に投入される薬剤に関する情報、及び/又は、患者の体重、身長、性別、及び/又は年齢に関する情報、又は患者に関する他の人口統計データを第2の非線形モデル内に供給することができる。
【0039】
第2の非線形モデルでは、種々の入力データが組み合わされて、脳血液量、脳血流量及び特に麻酔深度の指数の推定値の最終値が得られる。第2の非線形モデルは、初期トレーニング段階において、例えば、脳血流量が既知であるトレーニングデータを用いて、場合によっては、麻酔深度に関する情報が利用可能であるトレーニングデータも用いて、トレーニングすることができる。
【0040】
目的は、患者の脳血液量及び/又は脳血流量及び/又は麻酔深度を推定する方法であって、
-患者の頭部に配置された少なくとも1つの励起電極を用いて励起信号を印加することと、
-患者の頭部に配置された少なくとも1つの検知電極を用いて、励起信号によってもたらされた測定信号を検知することと、
-プロセッサデバイスを用いて、少なくとも1つの検知電極によって検知された上記測定信号を処理して、脳血液量及び/又は脳血流量を示す出力を求めることと、
を含み、
上記プロセッサデバイスを用いて、測定信号内の雑音が、特にポアンカレ写像解析を用いて、非線形雑音低減アルゴリズムを適用することによって低減される、方法によっても達成される。
【0041】
システムについて上述した利点及び有利な実施の形態は、方法にも等しく当てはまる。
【0042】
本発明の根底にあるアイデアは、図に示す実施形態を参照することによって以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】患者の脳血液量、脳血流量、及び/又は麻酔深度指数を推定するシステムの概略チャートである。
【
図2】患者の頭皮におけるEEG電極の配置を示す図である。
【
図3】
図3A及び
図3Bは、患者のこめかみにおける生体インピーダンス測定用の励起電極及び検知電極の配置を示す図である。
【
図4A】測定信号を電圧信号の形状(電圧曲線)で示す図である。
【
図4B】測定信号に関するポアンカレ写像を示す図である。
【
図4C】ポアンカレ写像における近傍を示すポアンカレ写像を示す図である。
【
図4D】測定信号の変動に対して低減された寄与度を有する座標を無視することによって得られた新たな座標系に点を投影した後のポアンカレ写像を示す図である。
【
図4E】測定信号の雑音が低減された復元信号を示す図である。
【
図5A】1つの心拍動にわたる電圧信号に関する測定信号の部分を示す図である。
【
図5B】1つの心拍動にわたる電圧信号に関する測定信号の部分の導関数を示す図である。
【
図7】脳血液量、脳血流量及び麻酔深度指数を導出する第1の非線形モデル及び第2の非線形モデルの概略図である。
【
図8】
図8A及び
図8Bは、ANFIS非線形モデルを数学的に定式化したものを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1は、患者2の脳血液量及び脳血流量の推定値を求めるとともに、患者2の麻酔深度指数の推定値も求めるシステム1を概略図で示している。
【0045】
システム1では、入力値から脳血液量、脳血流量及び麻酔深度指数に関する出力値を導出するために、異なるタイプの信号が、異なる非線形モデル104、114を利用してプロセッサデバイス12において組み合わされる。
【0046】
システム1は、コンピューティングデバイス、例えば、ワークステーションとして構成することができる。システム1におけるプロセッサデバイス12の種々のユニットは、1つ又は複数のハードウェアユニット又はソフトウェアによって実施することができる。
【0047】
システム1では、特に、生体インピーダンス測定から取得された測定信号から導出される情報と、EEG信号から取得された情報とが組み合わされる。これを行うために、プロセッサデバイス12は、EEG信号(処理経路10)及び生体インピーダンス測定信号(処理経路11)が処理され、非線形モデル104、114において互いに組み合わされる異なる処理経路10、11を備える。
【0048】
EEG測定の場合、電極100は、例えば、
図2に示すように、患者2の頭部20の頭皮200上に配置される。電極100によって、患者2の自発的な脳活動に関する信号が取得され、処理経路10の増幅ユニット101(特に低雑音増幅器)において増幅される。その後、増幅されたEEG信号は、EEG信号をデジタル化するアナログ/デジタル変換器102内に供給される。
【0049】
生体インピーダンス測定の場合、
図3A及び
図3Bにおいて例として示すように、励起電極110E及び検知電極110Sが、患者2の頭部20のこめかみに配置される。
図3A及び
図3Bにおける1つの励起電極110Eは、患者の頭部20の各こめかみに配置され、高められた周波数の定電流の形の励起信号が励起電極110Eの間に注入され、患者の頭部を通って流れる。励起電流は、例えば、50μA~1000μAの範囲の(定)振幅を有することができる。特に、患者の頭部20内の血液で満たされた動脈に沿った患者の頭部20を通るその経路を捜す励起電流によって、生体インピーダンスを介して注入電流にリンクされた電圧信号がもたらされる。この電圧信号は、2つの検知電極110Sによって取得される。各検知電極110Sは、
図3A及び
図3Bに示すように励起電極110Eに近接して配置されている。
【0050】
検知電極110Sを介して取得された測定信号は、処理経路11の増幅ユニット111、特に低雑音増幅器内に供給され、この増幅器において増幅される。測定信号は、当該測定信号をデジタル化するアナログ/デジタル変換器112に更に供給される。
【0051】
電圧曲線VCの形の測定信号を
図4Aにおける一例に示す。電圧曲線VCは、心拍動ごとに得られる。連続した心拍動の電圧曲線VCは、通常、同様の形態構造を有する。
【0052】
電圧曲線VCを処理するために、基本となるパターンが雑音を有する信号から現れるポアンカレ写像に基づく雑音除去アルゴリズムが、デジタル化された信号に適用される。1つの実施形態では、雑音は、
図4Bに示すようなポアンカレ写像Mが、電圧曲線VCを、当該電圧曲線VCを遅延させたものの上にプロットすることによって形成されるポアンカレ写像解析を適用することによって低減される。測定信号のデジタル化に起因して、いわゆるアトラクターに向かう傾向があると仮定することができる離散した点が生じる。
【0053】
一般に、カオス信号は、不規則パターンが埋め込まれた決定論的信号である。生理学的電気信号のほとんどは、幾つかの基本となる生物学的プロセスによって制御され、したがって、この種の挙動を呈する。アトラクターは、初期条件が僅かに変更されたとしても、カオス信号が向かう傾向がある幾何学的な点集合である。アトラクターを研究する最も一般に用いられる方法の1つは遅延座標の方法である。この遅延座標では、アトラクターの各次元は、或る特定の遅延だけ遅らされる元の時系列に対応する。
【0054】
以下の時系列が与えられるものとする。
【数1】
ここで、
【数2】
である。この場合、タイムラグτ及び埋め込み次元mを有するアトラクターは、以下のように定義される。
【数3】
この定義において、各列は、前時系列に対してτだけ遅延されたものに対応する。
【0055】
例えば、タイムラグτ=1及び埋め込み次元m=2を有するアトラクターを考えると、このアトラクターは、以下の式によって定義される。
【数4】
その状態空間表現、いわゆるポアンカレ写像は、Aの一方の座標を他方の座標の関数としてプロットすることによって得られる。
【0056】
ポアンカレ写像では、点をクラスタリングすることによって近傍Nを特定することができる。すなわち、点がランダムに選択され、選択された各点について、その近傍Nが、v個の最接近点からなる群として定義される。この手順は、写像内の全ての点が近傍Nに属するまで繰り返される。各近傍Nについて、その重心を中心とする新たな座標系が定義され、近傍Nにおける各点の新たな座標が計算される。計算された座標の集合から、全体近傍Nの少ない変動量を提供する座標が除去され、削減された次元を有する新たな空間の各点の座標が再計算される。測定信号の変動に対して低減された寄与度を有し、したがって、雑音に起因すると仮定することができる次元を無視することによって、変動への実質的な寄与度を有する座標のみが残る。その後、近傍Nにおける全ての点が、Mよりも小さな次元を有する新たな座標系に投影され、その結果、
図4Dに示すようなポアンカレプロットが得られる。
【0057】
電圧曲線VCの形で測定信号を復元することによって、
図4Eに示すように、測定信号の雑音が低減された電圧曲線VCの形のものが得られる。
【0058】
各次元が異なるタイムラグに対応するm個の次元を有する単一のポアンカレ写像が存在することに留意されたい。したがって、解析は、単一のm次元写像に対して行われる。m次元写像は視覚的に提示することができないので、簡単にするために、2D写像の図を
図4B及び
図4Cに示す。ただし、雑音除去は単一のm次元写像に適用される。
【0059】
さらに、上記ステップを含むプロセスは、反復して繰り返すことができる。したがって、このアルゴリズムは、更なる処理に十分であると考えられる雑音低減が得られるまで、雑音を更に低減するために、復元された信号に再度適用することができる。
【0060】
ポアンカレ写像解析は、例えば、R. Cawley及びG.-H. Hsuによって「Local-geometric-projection method for noise reduction in chaotic maps and flows」Physical Review A, Col. 46, No. 6, 1992, pages 3057 to 3082に記載されている。この文献の内容は、引用することによって本明細書の一部をなす。
【0061】
次に、更なる処理は、
図4Eに示すように、測定信号の雑音が低減された電圧曲線VCの形のものに対して行うことができる。
【0062】
特に、
図5Aに示すような1つの心拍動に関する電圧曲線VCの部分から、最大傾きdV/dt、最大正振幅maxHpos及び最大負振幅maxHneg等の特徴量を導出することができる(
図1におけるブロック113)。
【0063】
さらに、
図5Bに示すような電圧曲線VCの導関数DVCから、左心室駆出時間LVETは、最大点よりも前のDVCの最小値として定義される点Bから、最大点の直後のDVCの最小値として定義される点Xまでの期間として推定することができる。
【0064】
加えて、電圧曲線VCをLVET期間にわたって積分することによって、脳血液量に相関する相関量である面積Aが得られる。
【0065】
この脳血液量に相関する相関量から、脳血流量に相関する相関量も導出することができる。電圧曲線VCの周期性から、心拍数HRを検出することができ、これを、例えば
図6Aに示す。心拍数に脳血液量(BV)を乗算することによって、脳血流量に相関する相関量(BF)が、以下のように得られる。
BF=HR×BV
【0066】
電圧曲線VCから抽出されるパラメーターと、脳血液量及び脳血流量に相関する相関量とは、
図7に示すように、第1の非線形モデル114に入力として供給される。第1の非線形モデル114は、例えば、特徴量を組み合わせ、実際の脳血液量及び実際の脳血流量の推定値を出力するファジー論理モデル又は2次式モデルとすることができる。
【0067】
図1及び
図7に示すように、第1の非線形モデル114の出力は、他のパラメーターとともに第2の非線形モデル104に供給される。第2の非線形モデル104は、EEG信号から導出された特徴量と、患者の身長、体重、性別及び年齢等の患者2についての更なる人口統計情報と、患者2に投入された薬剤に関する更なる情報とを更なる入力として取り込む。
【0068】
処理経路10内では、特徴量が、ブロック103(
図1参照)においてEEG信号から抽出される。特に、例えば、1Hz~4Hz、4Hz~8Hz、8Hz~12Hz、12Hz~20Hz及び20Hz~45Hz等の間のスペクトル部分におけるエネルギーに関する周波数ビンを定義することができる。例えば、EEG信号の正の部分及びEEG信号の負の部分にそれぞれ記号1及び0を用いる記号力学系を用いて、EEG信号の複雑度を評価することができる。EEG信号内の平坦部分がその後に続くバースト部分によって特徴付けられるバーストサプレッションに関する情報を導出することができる。
【0069】
第2の非線形モデル104は、第1の非線形モデル114と同様に、例えば、ファジー論理モデル又は2次式モデルとすることができる。このモデル内では、異なるパラメーターが互いに組み合わされて、脳血液量及び脳血流量の最終推定値が出力されるとともに、麻酔深度指数の推定値も出力される。
【0070】
第2のモデル104は、脳血流量とEEG活動との間の因果関係を調べることを目的とし、そのアルゴリズムにおいて、現在のEEG活動を考慮した脳血液量及び脳血流量の最終的な指数と、血流量を考慮した麻酔深度指数とを出力するために、双方からの情報を統合する。
【0071】
モデル104、114はともに、上記に記載したものよりも多くの入力又は少ない入力を取り込むこともできる。
【0072】
これらの非線形モデルのトレーニングは、有利には、患者の脳血流量が既知である大量のデータを用いて実行される。トレーニングは、入力がモデルに与えられると、脳血流量を予測することができるモデルのパラメーターを定義する。
【0073】
上述したように、処理には、ファジー論理モデル又は2次式モデルの形の非線形モデルを用いることができる。ただし、他の非線形モデルも用いることができる。
【0074】
以下では、例として、ANFISモデル及び2次式モデルについての詳細を提供する。
【0075】
ANFISモデル:
ファジー論理モデルは、例えば、いわゆるANFISモデルとすることができる。その場合、システム1は、血液量、脳血流量及び麻酔深度指数の定義を得るために、ANFISモデルを用いてパラメーターを組み合わせる。患者の脳インピーダンス及びEEG信号並びに人口統計データから抽出されたパラメーターは、適応ニューロファジー推論システム(ANFIS)への入力として用いられる。
【0076】
ANFISは、ファジー論理システムとニューラルネットワークとの間のハイブリッドである。ANFISは、入力と出力との間の関係を統制する数学関数を前提としない。ANFISは、トレーニングデータがシステムの挙動を決定するデータ駆動型手法を適用する。
【0077】
図8A及び
図8Bに示すANFISの5つのレイヤは、以下の機能を有する。
-レイヤ1における各ユニットは、ベル形メンバーシップ関数を定義する3つのパラメーターを記憶する。各ユニットは、正確に1つの入力ユニットに接続され、得られた入力値のメンバーシップ度を計算する。
-各ルールは、レイヤ2における1つのユニットによって表される。各ユニットは、そのルールの前件部(antecedent)に由来する先行レイヤにおけるユニットに接続されている。ユニット内への入力は、表されたルールの実現度を求めるために乗算されるメンバーシップ度である。
-レイヤ3では、ルールごとに、正規化式によってその相対実現度(relative degree of fulfilment)を計算するユニットが存在する。各ユニットは、レイヤ2における全てのルールユニットに接続されている。
-レイヤ4のユニットは、全ての入力ユニットと、レイヤ3における正確に1つのユニットとに接続されている。各ユニットは、ルールの出力を計算する。
-レイヤ5における出力ユニットは、レイヤ4からの全ての出力を合算することによって最終出力を計算する。
【0078】
ANFISでは、ニューラルネットワーク理論からの標準的な学習手順が適用される。前件部パラメーター、すなわちメンバーシップ関数を学習するのに、バックプロパゲーションが用いられ、ルールの後件部(consequents)における線形結合の係数を求めるのに、最小二乗推定が用いられる。学習手順におけるステップは2つのパスを有する。第1のパスである前方パスでは、入力パターンが伝播され、最適な後件部パラメーターが、反復最小二乗平均手順によって推定される一方、前件部パラメーターは、トレーニングセットを通して現在のサイクルの間固定される。第2のパス(後方パス)では、上記パターンが再度伝播され、このパスでは、バックプロパゲーションを用いて前件部パラメーターが変更される一方、後件部パラメーターは固定されたままとなる。この手順は、その後、所望のエポックの数だけ反復される。前件部パラメーターが、専門知識に基づいて最初に適切に選ばれている場合には、1つのエポックで十分であることが多い。なぜならば、LMSアルゴリズムは、1つのパスにおいて最適な後件部パラメーターを求め、前件部が、勾配降下法を用いることによって大幅に変化しない場合、後件部のLMS計算も別の結果をもたらさないからである。例えば、2入力2ルールシステムでは、ルール1は以下によって定義される。
xがAであり、かつ、yがBである場合、f1=p1x+q1y+r1
ここで、p、q及びrは線形であり、後件部パラメーター又は単に後件部と呼ばれる。高次のSugeno(菅野)ファジーモデルが、ほとんど明白なメリットがない大きな複雑度を導入したときにも、最も一般的には、fは1次である。
【0079】
ANFISシステムへの入力は、複数の所定のクラスにファジー化される。クラスの数は2つ以上であるものとする。クラスの数は、種々の方法によって求めることができる。これまでのファジー論理では、クラスは、専門家によって定義される。この方法は、2つのクラスの間のランドマークを配置することができる箇所が専門家に明らかである場合にのみ適用することができる。ANFISはランドマークの位置を最適化するが、勾配降下方法は、クラスを定義するパラメーターの初期値が最適値に近い場合に、より高速にその最小値に到達する。デフォルト設定では、ANFIS初期ランドマークは、全てのデータの最小値から最大値までの間隔をn個の等距離間隔に分割することによって選ばれる。ここで、nはクラスの数である。クラスの数は、データをヒストグラムにプロットし、様々なクラスタリング方法又はマルコフモデルを通じてFIRによって行われるようなランク付けによって、十分な数のクラスであると視覚的に判断することによっても選ぶことができる。ANFISデフォルトは、本発明用に選ばれたものであり、4つ以上のクラスが、有効性確認段階中に不安定性をもたらすことを示していた。したがって、2つ又は3つのクラスが用いられた。
【0080】
クラス数及び入力数はともに、モデルの複雑度、すなわち、パラメーター数を増加させる。例えば、4つの入力を有するシステムでは、各入力は、以下の2つの式によって計算される36個の前件部(非線形)パラメーター及び405個の後件部(線形)パラメーターからなる3つのクラスにファジー化することができる。
前件部=クラス数×入力数×3
後件部=クラス数×入力数×(入力数+1)
【0081】
パラメーターの意味のある解を得るには、入力及び出力の対の数は、一般に、パラメーターの数よりもはるかに(少なくとも10倍)多くすべきである。
【0082】
安定性を確保する有用なツールは、特定のデータセットに関してANFIS等の或る特定のニューロファジーシステムを用いて作業を行うこと、及び、例えばシミュレーションによって得られた極端なデータを用いて試験を行うことによって得られた経験である。
【0083】
ANFISは、各トレーニングエポック後に、二乗平均平方根誤差(RMSE)を用いてトレーニング結果の有効性を検査し、有効性検査データセットから、RMSE有効性検査誤差を計算することができる。1つのエポックは、前件部パラメーター及び後件部パラメーターの双方の1つの更新として定義される。エポックの数が増加すると、一般に、トレーニング誤差は減少する。
【0084】
2次モデル
代替的に、モデル104、114に2次式モデルを用いることができる。その場合、システム1は、2次モデルを用いて、血液量、脳血流量及び麻酔深度指数を定義するパラメーターを組み合わせる。患者の脳インピーダンス及びEEG信号並びに人口統計データから抽出されたパラメーターは、2次モデルへの入力として用いられる。
【0085】
出力指数は、EEG、脳インピーダンス及び人口統計患者データから抽出されたデータを入力として用いる2次一般化モデルから導出される。そのようなモデルは、Intercept(切片)と呼ばれる独立係数と、入力ごとに1つの線形項と、入力ごとの二乗項と、各エントリー対の間の相互作用項とを含む。モデルは、以下のように表すことができる。
【数5】
ここで、
Intercept:交点項又は定数項。
Input:入力モデル。
Output:モデル出力。
n:モデル入力の数
a:線形項。
b:二乗項
c:入力間の相互作用項。
【符号の説明】
【0086】
1 システム
10 EEG処理経路
100 電極
101 増幅デバイス
102 アナログ/デジタル変換器
103 特徴量抽出ユニット
104 モデルユニット
11 生体インピーダンス測定信号
110E 励起電極
110S 検知電極
111 増幅デバイス
112 アナログ/デジタル変換器
113 特徴量抽出ユニット
114 モデルユニット
12 プロセッサデバイス
2 患者
20 頭部
200 頭皮
A 面積
DVC 電圧曲線の導関数
M ポアンカレ写像
N 近傍
VC 測定信号(電圧曲線)