(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】潤滑油組成物および潤滑油用粘度調整剤
(51)【国際特許分類】
C10M 143/06 20060101AFI20221207BHJP
C10M 143/08 20060101ALI20221207BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20221207BHJP
C10N 20/00 20060101ALN20221207BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20221207BHJP
C10N 30/02 20060101ALN20221207BHJP
【FI】
C10M143/06
C10M143/08
C10N20:02
C10N20:00 A
C10N40:25
C10N30:02
(21)【出願番号】P 2020514385
(86)(22)【出願日】2019-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2019016255
(87)【国際公開番号】W WO2019203210
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2018079175
(32)【優先日】2018-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018079176
(32)【優先日】2018-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 晃央
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 瑛弘
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 紀子
(72)【発明者】
【氏名】徳永 悠司
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第1998/033872(WO,A1)
【文献】特開2005-307099(JP,A)
【文献】国際公開第2017/082182(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/101206(WO,A1)
【文献】国際公開第2003/038017(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/147215(WO,A1)
【文献】特開平07-150181(JP,A)
【文献】特開2000-072825(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/175028(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン由来の構成単位の含有割合が70モル%を超えて90モル%以下であり、極限粘度[η]が0.3~1.0dl/gであり、エチレンと炭素数4~8のα-オレフィンとの共重合体であるエチレン・α-オレフィン共重合体(A)
(ただし、グラフト型オレフィン系重合体を除く。)を含有
し、
エンジン油である
潤滑油組成物。
【請求項2】
前記共重合体(A)が、示差走査型熱量計(DSC)で測定した融点が100℃以下であるかまたは融点が観測されない共重合体である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
潤滑油基油(B)をさらに含有する請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
エチレン由来の構成単位の含有割合が70モル%を超えて90モル%以下であり、極限粘度[η]が0.3~1.0dl/gであり、エチレンと炭素数4~8のα-オレフィンとの共重合体であるエチレン・α-オレフィン共重合体(A)(ただし、グラフト型オレフィン系重合体を除く。)を含有し、
100℃における動粘度が7.4~14.7mm
2/sであり、
エンジン用であ
る
潤滑油組成物。
【請求項5】
前記共重合体(A)が、示差走査型熱量計(DSC)で測定した融点が100℃以下であるかまたは融点が観測されない共重合体であ
る請求項
4に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記共重合体(A)において、エチレン由来の構成単位の含有割合が79~90モル%であ
る請求項
4または
5に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
潤滑油基油(B)をさらに含有
する請求項
4~6のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物および潤滑油用粘度調整剤に関する。
【背景技術】
【0002】
石油製品は、一般に温度が変わると粘度が大きく変化する、いわゆる粘度の温度依存性を有する。例えば、自動車に用いられる潤滑油では、粘度の温度依存性が小さいことが好ましい。そこで潤滑油には、粘度の温度依存性を小さくする目的で、潤滑油基油に可溶なある種のポリマーが粘度調整剤として用いられている。
【0003】
潤滑油用粘度調整剤としてはエチレン・α-オレフィン共重合体が広く用いられており、潤滑油の性能バランスをさらに改善するため種々の改良がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
近年、石油資源の低下や、地球温暖化のような環境問題から、排ガス汚染物質やCO2の排出量の低減を目的とする自動車の燃費向上が求められている。潤滑油による省燃費化は潤滑機械の物理的な改良に比べて費用対効果に優れるため、重要な省燃費化技術として期待されており、潤滑油による燃費向上の要求が高まっている。
【0005】
例えば、潤滑油の100℃における動粘度の低粘度化は、燃費向上に有効である。
【0006】
また、エンジンやトランスミッションにおける動力損失は、摺動部での摩擦損失と潤滑油の粘性による攪拌損失とに分けられる。特にエンジン油による省燃費化の一つの方策として、これらの損失の低減が挙げられる。低粘度化は、エンジン油のこれらの損失の低減に有効である。
【0007】
上述した特許文献1はエンジン用潤滑油ではなく、自動車用・産業用変速機油、パワーステアリング油、油圧作動油等の動力伝達系用潤滑油である。動力伝達系用潤滑油は、頻繁に交換されるものではないので、高い耐久性が必要とされる。一方、エンジン用潤滑油は、コストの観点から潤滑油用粘度調整剤の使用量が小さいこと、燃費性能の観点から低温および高温での潤滑特性を両立することが必要とされ、ただし交換頻度が高いので動力伝達系用潤滑油ほどは高い耐久性は必要とされていない。したがって、両者は求められる性能が異なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、低粘度化された潤滑油組成物を提供することを課題の一つとする。
【0010】
また、潤滑油は動粘度の剪断安定性に優れていることが好ましいが、本発明者らの検討によれば、良好な剪断安定性を有し、かつ100℃動粘度が小さい潤滑油はまだ充分に提供されているとはいえない。そこで本発明は、剪断安定性に優れ、かつ100℃動粘度が小さい潤滑油組成物、および潤滑油用粘度調整剤を提供することを課題の一つとする。
【0011】
また、本発明は、コストが低く、低温から高温での温度領域でバランス良く潤滑特性を両立することが可能な、したがって省燃費化に優れたエンジン用潤滑油組成物、およびエンジン用潤滑油のための粘度調整剤を提供することも課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく検討した。その結果、以下に記載の潤滑油組成物により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、例えば以下の[1]~[11]に関する。
【0013】
[1]エチレン由来の構成単位の含有割合が70~90モル%であり、極限粘度[η]が0.3~1.0dl/gであるエチレン・α-オレフィン共重合体(A)を含有する潤滑油組成物。
【0014】
[2]前記共重合体(A)が、エチレン由来の構成単位の含有割合が70モル%を超えて90モル%以下であり、極限粘度[η]が0.3~1.0dl/gである、エチレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体である前記[1]に記載の潤滑油組成物。
【0015】
[3]前記共重合体(A)が、示差走査型熱量計(DSC)で測定した融点が100℃以下であるかまたは融点が観測されない共重合体である前記[1]または[2]に記載の潤滑油組成物。
【0016】
[4]潤滑油基油(B)をさらに含有する前記[1]~[3]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0017】
[5]エンジン油である前記[1]~[4]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0018】
[6]エチレン由来の構成単位の含有割合が70モル%を超えて90モル%以下であり、極限粘度[η]が0.3~1.0dl/gである、エチレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体を含有する潤滑油用粘度調整剤。
【0019】
[7]100℃における動粘度が7.4~14.7mm2/sであり、エンジン用である前記[1]に記載の潤滑油組成物。
【0020】
[8]前記共重合体(A)が、示差走査型熱量計(DSC)で測定した融点が100℃以下であるかまたは融点が観測されない共重合体であり、エンジン用である前記[1]または[7]に記載の潤滑油組成物。
【0021】
[9]前記共重合体(A)において、エチレン由来の構成単位の含有割合が79~90モル%であり、エンジン用である前記[1]、[7]または[8]に記載の潤滑油組成物。
【0022】
[10]潤滑油基油(B)をさらに含有し、エンジン用である前記[1]、[7]~[9]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0023】
[11]エチレン由来の構成単位の含有割合が79~90モル%であり、極限粘度[η]が0.3~1.0dl/gであるエチレン・α-オレフィン共重合体を含有する、エンジン用潤滑油のための粘度調整剤。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、低粘度化された潤滑油組成物を提供することができる。例えば、本発明によれば、剪断安定性に優れ、かつ100℃動粘度が小さい潤滑油組成物と、このような潤滑油組成物の製造に好適に用いられる粘度調整剤とを提供することができる。また、本発明によれば、コストが低く、低温から高温での温度領域でバランス良く潤滑特性を両立することが可能な、したがって省燃費化に優れたエンジン用潤滑油組成物、およびエンジン用潤滑油のための粘度調整剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、実施例B、実施例Cおよび比較例Bで得られた潤滑油組成物について剪断安定性(SSI)および100℃における動粘度(KV100)をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0027】
本明細書において数値範囲「n1~n2」は、n1以上n2以下を意味する。ここでn1は前記数値範囲の下限値であり、n2は前記数値範囲の上限値である。
【0028】
[潤滑油組成物]
本発明の潤滑油組成物は、特定のエチレン・α-オレフィン共重合体(A)を含有し、好ましくはさらに潤滑油基油(B)を含有する。ここで、共重合体(A)は、潤滑油用粘度調整剤として機能することができる。
【0029】
本発明の潤滑油組成物は、一実施態様においてエンジン用である。この場合、共重合体(A)は、エンジン用潤滑油の粘度調整剤として機能することができる。
【0030】
<エチレン・α-オレフィン共重合体(A)>
本発明で使用されるエチレン・α-オレフィン共重合体(A)(以下「共重合体(A)」ともいう)について説明する。共重合体(A)は、エチレン由来の構成単位の含有割合が70~90モル%であり、極限粘度[η]が0.3~1.0dl/gである。
【0031】
以下、共重合体(A)に関して、好ましい態様である第1の態様の共重合体および第2の態様の共重合体を説明する。
【0032】
共重合体(A)は、第1の態様において、少なくともエチレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体である。コモノマー単位として炭素数4以上のα-オレフィン由来の構成単位を有する共重合体(A)を用いることで、剪断安定性に優れ、かつ100℃動粘度が小さい潤滑油組成物を得ることができる傾向にある。
【0033】
第1の態様における共重合体(A)を構成する炭素数4以上のα-オレフィンとしては、例えば、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、4-メチル-ペンテン-1、ヘプテン-1、オクテン-1、デセン-1、ウンデセン-1、ドデセン-1、トリデセン-1、テトラデセン-1、ペンタデセン-1、ヘキサデセン-1、ヘプタデセン-1、オクタデセン-1、ノナデセン-1、エイコセン-1等の炭素数4~20、好ましくは炭素数4~12、より好ましくは炭素数5~8のα-オレフィンが挙げられる。また、α-オレフィンは直鎖状であっても分岐を有してもよい。α-オレフィンの中では、潤滑油組成物に対して低い100℃動粘度および良好な剪断安定性を与える点で、ブテン-1、オクテン-1、4-メチル-ペンテン-1が好ましく、オクテン-1、4-メチル-ペンテン-1がより好ましい。
【0034】
共重合体(A)は、α-オレフィン由来の構成単位を1種または2種以上有することができる。
【0035】
第1の態様における共重合体(A)は、エチレン由来の構成単位(エチレン単位)の含有割合が70モル%を超えて90モル%以下であり、好ましくは72モル%以上、より好ましくは74モル%以上であり;また、好ましくは89モル%以下、より好ましくは88モル%以下である。この含有割合が前記下限値以上であると、潤滑油組成物は剪断安定性が高くなる傾向にあり、前記上限値以下であると、オイルへの溶解性および低温貯蔵安定性に優れる傾向にある。
【0036】
第1の態様における共重合体(A)は、炭素数4以上のα-オレフィン由来の構成単位(α-オレフィン単位)の含有割合が、好ましくは10モル%以上30モル%未満であり、より好ましくは11モル%以上、さらに好ましくは12モル%以上であり;また、より好ましくは28モル%以下、さらに好ましくは26モル%以下である。
【0037】
共重合体(A)は、第2の態様において、少なくともエチレンとα-オレフィンとの共重合体である。第2の態様の共重合体(A)は、エンジン用潤滑油組成物の成分として好ましい。
【0038】
第2の態様における共重合体(A)を構成するα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、4-メチル-ペンテン-1、ヘプテン-1、オクテン-1、デセン-1、ウンデセン-1、ドデセン-1、トリデセン-1、テトラデセン-1、ペンタデセン-1、ヘキサデセン-1、ヘプタデセン-1、オクタデセン-1、ノナデセン-1、エイコセン-1等の炭素数3~20、好ましくは炭素数3~12のα-オレフィンが挙げられる。また、α-オレフィンは直鎖状であっても分岐を有してもよい。α-オレフィンの中では、エンジン用潤滑油組成物に対して良好な低温粘度特性および剪断安定性を与える点で、プロピレンが好ましい。
【0039】
共重合体(A)は、α-オレフィン由来の構成単位を1種または2種以上有することができる。
【0040】
第2の態様における共重合体(A)は、エチレン由来の構成単位(エチレン単位)の含有割合が70~90モル%であり、好ましくは70モル%超、より好ましくは72モル%以上、さらに好ましくは74モル%以上、特に好ましくは79モル%以上であり;また、好ましくは89モル%以下、より好ましくは88モル%以下、さらに好ましくは86モル%以下である。この含有割合が前記下限値以上であると、潤滑油組成物はCCS粘度が低くなり、また、剪断安定性が高くなる傾向にあり、前記上限値以下であると、オイルへの溶解性および低温貯蔵安定性に優れる傾向にある。
【0041】
第2の態様における共重合体(A)は、α-オレフィン由来の構成単位(α-オレフィン単位)の含有割合が、好ましくは10~30モル%であり、より好ましくは11モル%以上、さらに好ましくは12モル%以上、特に好ましくは14モル%以上であり;また、好ましくは30モル%未満、より好ましくは28モル%以下、さらに好ましくは26モル%以下、特に好ましくは21モル%以下である。
【0042】
エチレン由来の構成単位の含有割合は、共重合体(A)を構成するモノマー(例えば、エチレン、炭素数4以上のα-オレフィンまたはα-オレフィン、その他のモノマー)に由来する構成単位の全量を100モル%としたときの値である。
【0043】
その他のモノマーとしては、例えば、環状オレフィン、芳香族ビニル化合物、共役ジエン、非共役ポリエン、官能化ビニル化合物、水酸基含有オレフィン、ハロゲン化オレフィンが挙げられる。環状オレフィン、芳香族ビニル化合物、共役ジエン、非共役ポリエン、官能化ビニル化合物、水酸基含有オレフィンおよびハロゲン化オレフィンとしては、例えば、特開2013-169685号公報の段落[0035]~[0041]に記載の化合物が挙げられる。
【0044】
共重合体(A)は、極限粘度[η]が0.3~1.0dl/gであり、好ましくは0.3dl/g以上1.0dl/g未満、より好ましくは0.35~0.99dl/g、特に好ましくは0.40~0.98dl/gである。極限粘度[η]が前記下限値以上であると、少量の共重合体(A)の添加で潤滑油組成物の後述するHTHS粘度が高くなり、また、CCS粘度が低くなる傾向にあり、また、前記上限値以下であると、潤滑油組成物の剪断安定性が高くなり、また、100℃動粘度が低くなる傾向にある。
【0045】
極限粘度[η]は、135℃、デカリン中で測定される。
【0046】
エチレン由来の構成単位の含有割合が70モル%を超えて90モル%以下であり、極限粘度[η]が0.3~1.0dl/gである第1の態様の共重合体(A)は、潤滑油組成物に対するその添加量が少なくても粘度調整効果を充分に発揮することができることから、コストの点で優れている。
【0047】
エチレン由来の構成単位の含有割合が70~90モル%、特に79~90モル%であり、極限粘度[η]が0.3~1.0dl/gである第2の態様の共重合体(A)は、潤滑油組成物に対するその添加量が少なくても粘度調整効果を充分に発揮することができることから、コストの点で優れている。
【0048】
共重合体(A)は、示差走査型熱量計(DSC)で測定した融点が100℃以下であるかまたは融点が観測されない共重合体であることが好ましく、融点が95℃以下であるかまたは融点が観測されない共重合体であることがより好ましい。このような態様であると、潤滑油組成物のCCS粘度の低減に寄与できる。
【0049】
以上の物性の測定条件の詳細は、実施例欄に記載する。
【0050】
共重合体(A)は、例えば、バナジウム、ジルコニウム、チタニウム、ハフニウム等の遷移金属を含有する化合物と、有機アルミニウム化合物、有機アルミニウムオキシ化合物およびイオン化イオン性化合物から選ばれる少なくとも1種とを含む触媒を用いて、少なくともエチレンとα-オレフィンとを共重合することにより製造することができる。このとき用いられるオレフィン重合用触媒としては、例えば、国際公開第00/34420号に記載されている触媒が挙げられる。
【0051】
共重合体(A)は1種または2種以上用いることができる。
【0052】
本発明の潤滑油組成物、例えばエンジン用潤滑油組成物、における共重合体(A)の含有割合は、組成物全量の通常は0.1~5.0質量%、好ましくは0.2~4.0質量%、特に好ましくは0.3~3.0質量%である。本発明では、共重合体(A)による組成物の粘度調整効果が高いため、共重合体(A)を少量使用するのみで充分な効果が得られ、したがってコストの観点から好ましい。
【0053】
<潤滑油基油(B)>
本発明の潤滑油組成物、例えばエンジン用潤滑油組成物は、潤滑油基油(B)(以下「基油(B)」ともいう)をさらに含有することが好ましい。基油(B)は、通常、エンジン用潤滑油基油などの潤滑油基油として用いられるものを制限なく用いることができ、例えば、鉱物油、合成油が挙げられる。基油(B)としては、鉱物油と合成油とのブレンド物を用いてもよい。
【0054】
基油(B)の100℃における動粘度は、通常は1~50mm2/s、好ましくは1.5~40mm2/s、より好ましくは2~30mm2/sである。
【0055】
鉱物油は、一般に脱ワックスなどの精製工程を経て用いられ、精製の仕方により幾つかの等級があり、本等級はAPI(米国石油協会)分類で規定される。一般に0.5~10質量%のワックス分を含む鉱物油が使用される。例えば、水素分解精製法で製造された流動点の低い、粘度指数の高い、イソパラフィンを主体とした組成の高度精製油を用いることができる。40℃における動粘度が10~200mm2/sの鉱物油が一般的に使用される。
【0056】
合成油としては、例えば、ポリα-オレフィン;ポリオールエステル、ジオクチルフタレート、ジオクチルセバケート等のジエステル類;ポリアルキレングリコールが挙げられる。
【0057】
表1に各グループに分類される潤滑油基油の特性を示す。
【0058】
【表1】
*1:ASTM D2270(JIS K2283)に準じて測定
*2:ASTM D3238に準じて測定
*3:ASTM D4294(JIS K2541)に準じて測定
*4:飽和炭化水素分が90(vol%)未満でかつ硫黄分が0.03質量%未満または飽和炭化水素分が90(vol%)以上でかつ硫黄分が0.03質量%を超える鉱物油もグループ(I)に含まれる。
【0059】
表1におけるポリ-α-オレフィンは、炭素数10以上のα-オレフィンを少なくとも原料モノマーとして重合して得られる炭化水素ポリマーであって、例えば、デセン-1を重合して得られるポリデセンが挙げられる。
【0060】
基油(B)としては、グループ(II)またはグループ(III)に属する鉱物油、またはグループ(IV)に属するポリ-α-オレフィンが好ましい。グループ(I)よりもグループ(II)およびグループ(III)の方が、ワックス濃度が少ない傾向にある。グループ(II)またはグループ(III)に属する鉱物油の中でも、100℃における動粘度が1~50mm2/sのものが好ましい。
【0061】
基油(B)としては、特に低温特性の点から、下記(B0-1)~(B0-2)から選ばれる1つまたは双方の特性を有していることが好ましい。
【0062】
(B0-1)100℃における動粘度が2~10mm2/sであり、好ましくは3~8mm2/sである。動粘度がこの範囲にあれば、得られる潤滑油組成物は、流動性と潤滑性に優れる。動粘度がこの範囲にあれば、得られるエンジン用潤滑油組成物は、CCS粘度に優れる。
【0063】
(B0-2)粘度指数が90以上であり、好ましくは100以上である。粘度指数の上限に特に制限はないが、例えば160または130である。粘度指数が90以上であれば、エンジン用潤滑油基油などの潤滑油基油として特に有用である。
【0064】
上記特性は、下記方法で測定される。
【0065】
100℃における動粘度:ASTM D445(JIS K2283)に記載の方法。
【0066】
粘度指数:ASTM D2270(JIS K2283)に記載の方法。
【0067】
基油(B)は1種または2種以上用いることができる。
【0068】
本発明の潤滑油組成物、例えばエンジン用潤滑油組成物、における基油(B)の含有割合は、組成物全量の通常は50質量%以上、好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上であり、基油(B)の含有割合の上限は共重合体(A)および添加剤の量により画定される。
【0069】
本発明の潤滑油組成物を、潤滑油添加剤組成物(いわゆるコンセントレイト)として用いる場合は、前記潤滑油組成物は、共重合体(A)1~50質量部と、基油(B)50~99質量部(ただし、共重合体(A)と基油(B)との合計を100質量部とする)との比率でこれらを含有することができる。前記比率は、好ましくは共重合体(A)を2~40質量部、基油(B)を60~98質量部の範囲で、より好ましくは共重合体(A)を3~30質量部、基油(B)を70~97質量部の範囲である。
【0070】
なお、本発明の潤滑油組成物を、潤滑油添加剤組成物(いわゆるコンセントレイト)として用いる場合は、通常、後述する添加剤は含まないかあるいは必要に応じて後述する酸化防止剤を0.01~1質量%、好ましくは0.05~0.5質量%の範囲で含有することが一般的である。前記潤滑油添加剤組成物に、必要に応じて基油(B)と後述する添加剤とを配合することにより、エンジン用潤滑油組成物などの潤滑油組成物として用いてもよい。
【0071】
<その他の成分(添加剤)>
本発明の潤滑油組成物、例えばエンジン用潤滑油組成物は、共重合体(A)および基油(B)以外の他の成分(添加剤)を含有することができる。他の成分としては、例えば、共重合体(A)以外の他の粘度調整剤、流動点降下剤、清浄分散剤、摩耗防止剤、消泡剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、色安定剤、錆止め剤、腐食防止剤および金属不活性化剤が挙げられる。
【0072】
他の粘度調整剤としては、例えば、ポリイソブテン類、ポリメタクリル酸エステル類、ジエンポリマー類、ポリアルキルスチレン類、エステル化されたスチレン-無水マレイン酸共重合体類、アルケニルアレーン共役ジエン共重合体類およびポリオレフィン類、水添SBR(スチレンブタジエンラバー)、SEBS(スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体)等のポリマーが挙げられる。分散性および/または酸化防止性も有する多機能性の粘度調整剤は公知であり、任意に用いてもよい。
【0073】
流動点降下剤としては、例えば、アルキル化ナフタレン、(メタ)アクリル酸アルキルの(共)重合体、フマル酸アルキルと酢酸ビニルとの共重合体、α-オレフィンポリマー、α-オレフィンとスチレンとの共重合体が挙げられる。特に、(メタ)アクリル酸アルキルの(共)重合体が好ましい。
【0074】
清浄分散剤としては、例えば、カルシウムスルフォネート、マグネシウムスルフォネート等のスルフォネート系;フィネート;サリチレート;コハク酸イミド;ベンジルアミンが挙げられる。潤滑油組成物中の典型的な清浄分散剤の量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、通常は1~10質量%、好ましくは1.5~9.0質量%、より好ましくは2.0~8.0質量%である。なお、該量はすべて、清浄分散剤において油がない(すなわち、それらに従来供給される希釈油がない)状態をベースにする。
【0075】
磨耗防止剤としては、チオリン酸金属塩類、リン酸エステル類およびそれらの塩類、リン含有のカルボン酸類・エステル類・エーテル類・アミド類;ならびに亜リン酸塩などのようなリン含有磨耗防止剤/極圧剤が挙げられる。多くの場合、上記磨耗防止剤はジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDP)である。典型的なZDPは、11質量%のP(オイルがない状態をベースに算出)を含んでもよく、好適な量として0.09~0.82質量%を挙げてもよい。リンを含まない磨耗防止剤としては、ホウ酸エステル類(ホウ酸エポキシド類を含む)、ジチオカルバメート化合物類、モリブデン含有化合物類、および硫化オレフィン類が挙げられる。また、リン含有磨耗防止剤は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、通常は0.01~0.2質量%、好ましくは0.015~0.15質量%、より好ましくは0.02~0.1質量%、さらに好ましくは0.025~0.08質量%のリンを与える量で存在してもよい。
【0076】
消泡剤としては、例えば、ジメチルシロキサン、シリカゲル分散体等のシリコン系消泡剤;アルコール、エステル系消泡剤が挙げられる。
【0077】
酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール等のフェノール系酸化防止剤;ジオクチルジフェニルアミン等のアミン系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤の典型的な量は、具体的な酸化防止剤およびその個々の有効性にもちろん依存するだろうが、例示的な合計量は、0.01~5質量%、好ましくは0.15~4.5質量%、より好ましくは0.2~4質量%となり得る。さらに、1つ以上の酸化防止剤が存在していてもよく、これらの特定の組合せは、これらを組み合わせた全体の効果に対して、相乗的でなり得る。
【0078】
錆止め剤としては、例えば、カルボン酸、カルボン酸塩、エステル、リン酸が挙げられる。腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系の化合物が挙げられる。
【0079】
本発明の潤滑油組成物(例えばエンジン用潤滑油組成物)が添加剤を含有する場合の含有割合は特に限定されないが、基油(B)と全添加剤との合計を100質量%とした場合に、添加剤の全含有割合としては、通常は0質量%を超え、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり;通常は40質量%以下であり、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下である。
【0080】
<潤滑油組成物、エンジン用潤滑油組成物の製造方法>
本発明の潤滑油組成物、例えばエンジン用潤滑油組成物は、従来公知の方法で、例えば共重合体(A)、必要に応じて基油(B)および添加剤を混合することにより調製することができる。共重合体(A)は、取扱いが容易なため、基油(B)中の濃縮物として任意に供給してもよい。
【0081】
<潤滑油組成物の物性>
本発明の潤滑油組成物は、例えば高温でのエンジン作動中の燃費性を改善するため、高温低剪断速度下での粘度が低いことが好ましい。すなわち、本発明の潤滑油組成物は、100℃における動粘度が、通常は50mm2/s以下であり、好ましくは1~40mm2/s、より好ましくは2~30mm2/sである。
【0082】
また、本発明の潤滑油組成物は、例えばエンジン始動時および作動中における剪断力に対する安定性を有する(例えば後述するShear Stability Index(SSI)で評価される)。
【0083】
また、本発明の潤滑油組成物は、例えばエンジン油として使用する場合に、摺動部での摩擦損失と潤滑油の粘性による攪拌損失とが小さいことが好ましい。エンジン用潤滑油は、高温でのエンジン作動中の摺動部保護のため、高温高剪断速度下において潤滑性を維持(油膜保持)できる粘度を有すること(例えば後述するHigh Temperature High Shear(HTHS)粘度で評価される)が好ましい。
【0084】
本発明の潤滑油組成物、特に第1の態様の共重合体(A)を含有する潤滑油組成物は、以上の各物性のバランスに優れており、具体的には低い100℃動粘度と良好な剪断安定性とを有する。
【0085】
したがって、本発明の潤滑油組成物は、例えば、自動車用エンジンオイル、大型車両用ディーゼルエンジン用の潤滑油、船舶用ディーゼルエンジン用の潤滑油、二行程機関用の潤滑油、自動変速装置用およびマニュアル変速機用の潤滑油、ギア潤滑油ならびにグリース等として、多様な公知の機械装置のいずれにも注油することができる。
【0086】
以下、第2の態様の共重合体(A)を含有するエンジン用潤滑油組成物(以下「本発明のエンジン用潤滑油組成物」ともいう)について説明する。
【0087】
エンジン用潤滑油は、摺動部での摩擦損失と潤滑油の粘性による攪拌損失とが小さいことが好ましい。エンジン用潤滑油は、高温でのエンジン作動中の摺動部保護のため、高温高剪断速度下において潤滑性を維持(油膜保持)できる粘度を有し(例えば後述するHigh Temperature High Shear(HTHS)粘度で評価される)、かつ、低温でのエンジン始動時の燃費性を改善するため、低温高剪断速度下での粘度が小さいこと(例えば後述するCold Cranking Simulator(CCS)粘度で評価される)が好ましい。
【0088】
また、高温でのエンジン作動中の燃費性を改善するため、高温低剪断速度下での粘度が特定の範囲にあることが好ましい。例えば動粘度が低いほど、粘性抵抗が低減するため、省燃費化に有効である。一方で、動粘度が低すぎると、油膜が薄くなり、潤滑性に劣ることがある。これらのバランスを満足させるためには100℃における動粘度が特定の範囲にあることが望ましい。すなわち、本発明のエンジン用潤滑油組成物は、100℃における動粘度が、通常は7.4~14.7mm2/sであり、好ましくは7.5~14.5mm2/s、より好ましくは7.6~14.0mm2/sである。
【0089】
また、エンジン用潤滑油は、エンジン始動時および作動中における剪断力に対する安定性を有すること(例えば後述するShear Stability Index(SSI)で評価される)が好ましい。
【0090】
本発明のエンジン用潤滑油組成物は、以上の各物性のバランスに優れており、特に低いCCS粘度と特定の動粘度と良好な剪断安定性とを有する。したがって、本発明のエンジン用潤滑油組成物は、例えば、ガソリンエンジンオイルおよびディーゼルエンジンオイル等のエンジン油として有用であり、具体的には、自動車用ガソリンエンジン、自動二輪用ガソリンエンジン、大型車両用ディーゼルエンジン、船舶用ディーゼルエンジン等のエンジン用のエンジン油として有用である。
【0091】
[潤滑油用粘度調整剤]
本発明の潤滑油用粘度調整剤は、前述した第1の態様の、エチレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体(A)を含有する。第1の態様の共重合体(A)の好ましい要件は、前述したとおりである。
【0092】
本発明の潤滑油用粘度調整剤における第1の態様の共重合体(A)の含有割合は、通常は5質量%以上、好ましくは25質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。
【0093】
本発明の潤滑油用粘度調整剤は、共重合体(A)の含有割合が上記範囲にある限り、前述した基油(B)および添加剤から選ばれる少なくとも1種をさらに含有することができる。
【0094】
[エンジン用潤滑油のための粘度調整剤]
本発明のエンジン用潤滑油のための粘度調整剤は、前述した第2の態様のエチレン・α-オレフィン共重合体(A)を含有する。ここで、前記共重合体(A)におけるエチレン由来の構成単位の含有割合は、79~90mol%である。共重合体(A)のその他の好ましい要件は、前述したとおりである。
【0095】
本発明の粘度調整剤における第2の態様の共重合体(A)の含有割合は、通常は5質量%以上、好ましくは25質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。
【0096】
本発明の粘度調整剤は、共重合体(A)の含有割合が上記範囲にある限り、前述した基油(B)および添加剤から選ばれる少なくとも1種をさらに含有することができる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0098】
[共重合体の物性]
共重合体の各種物性は、以下のようにして測定した。
【0099】
<極限粘度[η](dl/g)>
共重合体の極限粘度[η]は、デカリン溶媒を用いて、135℃で測定した。具体的には、共重合体のパウダー、ペレットまたは樹脂塊約20mgをデカリン15mlに溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5ml追加して希釈後、同様にして比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度(C)を0に外挿した時のηsp/Cの値を極限粘度として求めた(下式参照)。
【0100】
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
<エチレン単位の含有割合(C2含量)>
エチレン・α-オレフィン共重合体におけるエチレン由来の構成単位の含有割合およびα-オレフィン由来の構成単位の含有割合(モル%)については、13C-NMRスペクトルの解析により求めた。
【0101】
(測定装置)
ブルカーバイオスピン社製AVANCEIII500CryoProbe Prodigy型核磁気共鳴装置
(測定条件)
測定核:13C(125MHz)、測定モード:シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング、パルス幅:45°(5.00μ秒)、ポイント数:64k、測定範囲:250ppm(-55~195ppm)、繰り返し時間:5.5秒、積算回数:512回、測定溶媒:オルトジクロロベンゼン/ベンゼン-d6(4/1 v/v)、試料濃度:ca.60mg/0.6mL、測定温度:120℃、ウインドウ関数:exponential(BF:1.0Hz)、ケミカルシフト基準:ベンゼン-d6(128.0ppm)。
【0102】
<DSC測定>
エチレン・α-オレフィン共重合体の融点は、インジウム標準にて較正したSII社製示差走査型熱量計(X-DSC7000)を用いて、以下のようにして測定した。
【0103】
アルミニウム製DSCパン上に測定サンプル(エチレン・α-オレフィン共重合体)を約10mgになるように秤量した。蓋をパンにクリンプして密閉雰囲気下とし、サンプルパンを得た。サンプルパンをDSCセルに配置し、リファレンスとして空のアルミニウムパンを配置した。DSCセルを窒素雰囲気下にて30℃(室温)から、150℃まで10℃/分で昇温した(第一昇温過程)。次いで、150℃で5分間保持した後、10℃/分で降温し、DSCセルを-100℃まで冷却した(降温過程)。-100℃で5分間保持した後、DSCセルを150℃まで10℃/分で昇温した(第二昇温過程)。
【0104】
第二昇温過程で得られるエンタルピー曲線の融解ピークトップ温度を融点(Tm)とした。融解ピークが2個以上存在する場合には、最大のピーク温度をTmとして定義した。なお、融点が観測されないとは、非晶性であることを意味する。
【0105】
[潤滑油組成物の物性]
<High Temperature High Shear(HTHS)粘度>
潤滑油組成物のHTHS粘度(150℃)は、ASTM D4683に基づき、150℃、106s-1で測定した。なお、HTHS粘度は、SAE粘度分類によって、エンジン保護のための下限粘度が規定されている。したがって、潤滑油組成物の省燃費性の優劣を確認するため、HTHS粘度が同程度となるよう配合を行い、潤滑油組成物の各種粘度特性を比較した。
【0106】
<100℃における動粘度(KV)>
潤滑油組成物の100℃における動粘度(KV)を、ASTM D445に基づいて測定した。なお、HTHS粘度が同程度の潤滑油組成物を比較した場合、潤滑油組成物の前記動粘度が小さいほど、潤滑油組成物は、高温時の省燃費性に優れる。一方で、動粘度が低すぎると、潤滑性に劣ることがある。これらのバランスを満足させるためには動粘度が特定の範囲にあることが望ましい場合がある。
【0107】
<Cold Cranking Simulator(CCS)粘度>
潤滑油組成物のCCS粘度(-35℃)を、ASTM D5393に基づいて測定した。CCS粘度は、クランク軸における低温での摺動性(始動性)の評価に用いられる。CCS粘度が小さいほど、潤滑油の低温粘度(低温特性)が優れることを示す。なお、HTTSが同程度の潤滑油組成物を比較した場合、潤滑油組成物のCCS粘度が小さいほど、潤滑油組成物は、低温時の省燃費性(低温始動性)に優れる。
【0108】
<Shear Stability Index(SSI)>
潤滑油組成物のSSIを、JPI-5S-29-88規定を参考にした超音波法で測定した。潤滑油組成物に超音波を照射し、照射前後の動粘度低下率からSSIを測定した。SSIは潤滑油中の共重合体成分が摺動下で剪断力を受け分子鎖が切断することによる動粘度の低下の尺度である。SSIが大きい値であるほど、動粘度の低下が大きいことを示す。
【0109】
(測定装置)
US-300TCVP型超音波剪断安定度試験装置(プリムテック製)
(測定条件)
発振周波数:10KHz
試験温度:40℃
照射ホーン位置:液面下2mm
(測定方法)
試料容器に試料を30ml採取し、4.2Vの出力電圧により超音波を30分間照射する。超音波照射前後の試料油の100℃における動粘度を測定し、以下に示す式により、SSIを求める。
【0110】
SSI(%)=100×(Vo-Vs)/(Vo-Vb)
Vo:超音波照射前の100℃動粘度(mm2/s)
Vs:超音波照射後の100℃動粘度(mm2/s)
Vb:潤滑油用粘度調整剤の成分量(下記重合例で得たエチレン・α-オレフィン共重合体)を0質量%として調整した潤滑油組成物またはエンジン油(潤滑油組成物)の100℃動粘度(mm2/s)
[重合例1A、1B]
以下、エチレン・α-オレフィン共重合体の重合例について記載する。なお、分析および潤滑油調整剤評価に必要な量を確保するため、複数回の重合を実施していることがある。
【0111】
触媒として使用した下記式で示される化合物(1)は公知の方法によって合成した。
【0112】
【化1】
充分に窒素置換された容積0.95Lの攪拌翼付加圧連続重合反応器の一つの供給口に、上記化合物(1)のヘキサン溶液(0.020mmol/L)、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(Ph
3CB(C
6F
5)
4とも記す)のヘキサン溶液(0.2mmol/L)、トリイソブチルアルミニウム(iBu
3Alとも記す)のヘキサン溶液(5.0mmol/L)をそれぞれ55mL/時、22mL/時、100mL/時の流量で連続的に供給した。同時に連続重合反応器の別の供給口に、エチレンを251g/時の流量で、プロピレンを122g/時の流量で、水素を6.2NL/時の流量で連続的に供給した。前記重合反応器の供給口二つと最上部の口から脱水精製したn-ヘキサンを2,760mL/時の合計流量で連続的に供給し、重合温度111℃、全圧3.6MPa-G(G=ゲージ圧力)、攪拌回転数700rpmの条件下で連続溶液重合を行った。重合反応器外周に設けられたジャケットに冷媒を流通させることにより、重合反応熱の除去を行った。
【0113】
上記条件で重合を行うことによって生成したエチレン・プロピレン共重合体を含むヘキサン溶液は、圧力を3.6MPa-Gに維持するように、重合反応器最上部に設けられた排出口を介してエチレン・プロピレン共重合体として189kg/時の速度で連続的に排出させた。得られる重合溶液を、大量のメタノールに投入してエチレン・プロピレン共重合体を析出させた。そして、該エチレン・プロピレン共重合体を、180℃で1時間減圧乾燥を行った。得られたポリマーの性状を表2Aおよび表2-1Bに示す。
【0114】
[重合例2A~10A]
表2Aに記載したとおりに重合条件を変更したこと以外は重合例1Aと同様に行った。ただし、重合例7Aおよび8Aでは、上記化合物(1)のヘキサン溶液(0.038mmol/L)、Ph3CB(C6F5)4のヘキサン溶液(0.30mmol/L)、iBu3Alのヘキサン溶液(5.0mmol/L)を用いた。
【0115】
【表2A】
[重合例2B~22B]
表2-1Bおよび2-2Bに記載したとおりに重合条件を変更したこと以外は重合例1Bと同様に行った。ただし、重合例6Bでは、上記化合物(1)のヘキサン溶液(0.038mmol/L)、Ph
3CB(C
6F
5)
4のヘキサン溶液(0.30mmol/L)、iBu
3Alのヘキサン溶液(5.0mmol/L)を用いた。また、重合例21Bおよび22Bでは、上記化合物(1)のヘキサン溶液(0.015mmol/L)、Ph
3CB(C
6F
5)
4のヘキサン溶液(1.2mmol/L)、iBu
3Alのヘキサン溶液(5.0mmol/L)を用いた。また、プロピレンの代わりに、重合例7B~13Bではブテン-1を、重合例14B~20Bではオクテン-1を、重合例21Bおよび22Bでは4-メチル-ペンテン-1をコモノマーとして使用した。
【0116】
【0117】
【表2-2B】
[実施例Aおよび比較例A]
上記の重合例で得られたエチレン・プロピレン共重合体を潤滑油用粘度調整剤として用いて、潤滑油組成物を調製した。潤滑油組成物の150℃におけるHTHSが2.6mPa・s程度になるように、エチレン・プロピレン共重合体の添加量を調整した。
【0118】
配合組成は以下のとおりである。
【0119】
APIグループ(III)基油(「Yubase-4」、SK Lubricants社製、100℃における動粘度:4.212mm2/s、粘度指数:123)
添加剤*:8.64質量%
流動点降下剤:0.3質量%
(ポリメタクリレート「ルブラン165」、東邦化学工業社製)
エチレン・プロピレン共重合体:0.53~2.92質量%(表3Aに示すとおり)
合計 100.0(質量%)
注(*) 添加剤=CaおよびNaの過塩基性清浄剤、N含有分散剤、アミン性[aminic]およびフェノール性の酸化防止剤、ジアルキルジチオリン酸亜鉛類、摩擦調整剤、および消泡剤を含む従来のGF-5用エンジン油用添加剤パッケージ。
【0120】
評価結果を表3Aに示す。
【0121】
【表3A】
[実施例B、実施例Cおよび比較例B]
上記の重合例で得られたエチレン・α-オレフィン共重合体を潤滑油用粘度調整剤として用いて、潤滑油組成物を調製した。潤滑油組成物の150℃におけるHTHSが2.6mPa・s程度になるように、エチレン・α-オレフィン共重合体の添加量を調整した。
【0122】
配合組成は以下のとおりである。
【0123】
APIグループ(III)基油(「Yubase-4」、SK Lubricants社製、100℃における動粘度:4.212mm2/s、粘度指数:123)
添加剤*:8.64質量%
流動点降下剤:0.3質量%
(ポリメタクリレート「ルブラン165」、東邦化学工業社製)
エチレン・α-オレフィン共重合体:0.63~1.44質量%(表3Bに示すとおり)
合計 100.0(質量%)
注(*) 添加剤=CaおよびNaの過塩基性清浄剤、N含有分散剤、アミン性[aminic]およびフェノール性の酸化防止剤、ジアルキルジチオリン酸亜鉛類、摩擦調整剤、および消泡剤を含む従来のGF-5用エンジン油用添加剤パッケージ。
【0124】
評価結果を表3Bに示す。
【0125】
【表3B】
図1に、実施例B、実施例Cおよび比較例Bで得られた潤滑油組成物について剪断安定性(SSI)および100℃における動粘度(KV100)をプロットしたグラフを示す。同程度の剪断安定性(SSI)を有する実施例B(エチレン・ブテン-1共重合体,エチレン・オクテン-1共重合体、エチレン・4-メチル-ペンテン-1共重合体)と、実施例Cおよび比較例B(エチレン・プロピレン共重合体)とを比較した場合、実施例BはKV100が低く、より優れている。