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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】鋼管用ねじ継手
(51)【国際特許分類】
   F16L 15/00 20060101AFI20221207BHJP
   F16L 15/06 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
F16L15/00
F16L15/06
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020549975
(86)(22)【出願日】2019-07-24
(86)【国際出願番号】 JP2019028958
(87)【国際公開番号】W WO2020075365
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2020-10-13
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2018192229
(32)【優先日】2018-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(72)【発明者】
【氏名】奥 洋介
(72)【発明者】
【氏名】堂内 貞男
【合議体】
【審判長】松下 聡
【審判官】白土 博之
【審判官】間中 耕治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/194193(WO,A1)
【文献】特開2015-534614(JP,A)
【文献】再公表特許第2017/145192(JP,A1)
【文献】国際公開第2018/135267(WO,A1)
【文献】特表2016-533462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L15/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管用ねじ継手であって、
前記鋼管の一方の先端部に形成される管状のピンと、
前記ピンが挿入されて前記ピンと締結される管状のボックスとを備え、
前記ピンは、
前記ピンの外周に形成され、楔形ねじで構成される雄ねじを含み、
前記ボックスは、
前記雄ねじに対応し、前記ボックスの内周に形成され、楔形ねじで構成される雌ねじを含み、
前記雄ねじ及び前記雌ねじは、完全ねじで構成される完全ねじ部を含み、
前記完全ねじ部は、前記鋼管の軸方向において、40~60mmの長さを有し、
次の式(1)を満たす、鋼管用ねじ継手。
%≦(LP-SP)/LP≦8% (1)
式(1)中、LPは前記雄ねじの荷重面間のピッチであり、SPは前記雄ねじの挿入面間のピッチである。
【請求項2】
請求項に記載の鋼管用ねじ継手であって、
次の式(3)を満たす、鋼管用ねじ継手。
-10度≦α≦-1度、かつ、-10度≦β≦-1度 (3)
式(3)中、αは前記雄ねじの荷重面のフランク角であり、βは前記雄ねじの挿入面のフランク角である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼管用ねじ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、油井や天然ガス井等(以下、総称して「油井」ともいう)の試掘又は生産、オイルサンドやシェールガス等の非在来型資源の開発、二酸化炭素の回収や貯留(CCS(Carbon dioxide Capture and Storage))、地熱発電、あるいは温泉等では、油井管と呼ばれる鋼管が用いられる。鋼管同士の連結には、ねじ継手が用いられる。
【0003】
この種の鋼管用ねじ継手の形式は、カップリング型とインテグラル型とに大別される。カップリング型の場合、連結対象の一対の管材のうち、一方の管材が鋼管であり、他方の管材がカップリングである。この場合、鋼管の両端部の外周に雄ねじが形成され、カップリングの両端部の内周に雌ねじが形成される。そして、鋼管の雄ねじがカップリングの雌ねじにねじ込まれ、これにより両者が締結されて連結される。インテグラル型の場合、連結対象の一対の管材がともに鋼管であり、別個のカップリングを用いない。この場合、鋼管の一端部の外周に雄ねじが形成され、他端部の内周に雌ねじが形成される。そして、一方の鋼管の雄ねじが他方の鋼管の雌ねじにねじ込まれ、これにより両者が締結されて連結される。
【0004】
一般に、雄ねじが形成された管端部の継手部分は、雌ねじに挿入される要素を含むことから、「ピン」と称される。一方、雌ねじが形成された管端部の継手部分は、雄ねじを受け入れる要素を含むことから、「ボックス」と称される。これらのピン及びボックスは、管材の端部であるため、いずれも管状である。
【0005】
例えば大深度の油井に用いられるねじ継手に対しては、浅い部分では油井管の自重による大きな引張荷重が負荷され、深い部分では熱膨張による大きな圧縮荷重が負荷される。
【0006】
米国再発行特許第30647号明細書(特許文献1)、米国特許第6158785号明細書(特許文献2)、及び国際公開WO2015/194193号(特許文献3)は、楔形ねじを用いたねじ継手を開示する。楔形ねじのねじ山幅は螺旋方向に沿って徐々に変化する。楔形ねじは、ダブテイル形とも称され、高いトルク性能を得ることができる。しかし、特許文献1~3のいずれにも楔形ねじのねじ山幅の変化率は全く記載されていない。
【0007】
特表2012-512347号公報(特許文献4)もまた、楔形ねじを用いたねじ継手を開示する。雄ねじ領域の両端付近では、雄スタビングフランク間のリード及び雄ロードフランク間のリードはともに一定である。同様に、雌ねじ領域の両端付近でも、雌スタビングフランク間のリード及び雌ロードフランク間のリードはともに一定である。したがって、ねじ領域の両端付近では、ねじ山幅は一定である。ロードフランク間のリードとスタビングフランク間のリードとの間に差があることは認められるが、その差の具体的な数値は全く記載されていない。
【0008】
本明細書は、以下の先行技術文献を引用により援用する。
【0009】
【文献】米国再発行特許第30647号明細書
【文献】米国特許第6158785号明細書
【文献】国際公開WO2015/194193号
【文献】特表2012-512347号公報
【開示の概要】
【0010】
楔形ねじの荷重面及び挿入面は負のフランク角を有するため、楔形ねじは締結時にかしめ合うことで高いトルク性能を発揮する。また、楔形ねじは、締結を容易にするために、ねじ山幅がピン又はボックスの先端に近づくに連れて狭くされることがある。言い換えれば、荷重面ピッチと挿入面ピッチとの間に差がある。このピッチ差は「デルタリード」と呼ばれる。デルタリードは、ピン及びボックスの先端付近のねじ山幅を決定する。
【0011】
ねじピッチの絶対値による影響を考慮し、デルタリードに代えて、「ウェッジ比(Wedge Ratio)」が用いられることもある。ウェッジ比は、デルタリードを荷重面ピッチで除したもので、荷重面ピッチに対するデルタリードの比率としてパーセンテージで表示される。
【0012】
ウェッジ比が大きいということは、ねじ山幅の減少率も大きいことを意味する。ウェッジ比が大きいと、ねじ山幅がピン及びボックスの先端付近で狭くなる。ねじ山幅が狭いと、大きな引張荷重がかかったとき、楔形ねじが耐えきれず、ねじ山そのものが破壊される可能性がある。そのため、ウェッジ比の設定には注意が必要である。以下、楔形ねじが引張荷重に耐えうる性能を「引張性能」という。
【0013】
上記特許文献4(特表2012-512347号公報)は、ウェッジ比の適正化を開示する。しかし、ウェッジ比が引張性能に加えてトルク性能に及ぼす影響を評価した文献は存在しない。
【0014】
本開示の目的は、高いトルク性能と高い引張性能を両立できる鋼管用ねじ継手を提供することである。
【0015】
本発明者らは、トルク性能及び引張性能をともに向上させる適正なウェッジ比について鋭意検討を重ねた結果、ウェッジ比を変化させることにより高いトルク性能と高い引張性能を両立できることを見出した。
【0016】
本開示に係る鋼管用ねじ継手は、管状のピンと、管状のボックスとを備える。管状のピンは、鋼管の一方の先端部に形成される。管状のボックスは、ピンが挿入されてピンと締結される。ピンは、雄ねじを含む。雄ねじは、ピンの外周に形成され、楔形ねじで構成される。ボックスは、雌ねじを含む。雌ねじは、雄ねじに対応し、ボックスの内周に形成され、楔形ねじで構成される。ねじ継手は、次の式(1)を満たす。
【0017】
3%≦(LP-SP)/LP≦8% (1)
【0018】
式(1)中、LPは雄ねじの荷重面間のピッチである。SPは雄ねじの挿入面間のピッチである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施の形態に係る鋼管用ねじ継手の管軸方向に沿った縦断面図である。
図2図2は、図1中の雄ねじ及び雌ねじを拡大した縦断面図である。
図3図3は、荷重面ピッチが8.64mmの場合におけるウェッジ比と降伏トルクとの関係を示すグラフである。
図4図4は、荷重面ピッチが10.8mmの場合におけるウェッジ比と降伏トルクとの関係を示すグラフである。
図5図5は、荷重面ピッチが7.2mmの場合におけるウェッジ比と降伏トルクとの関係を示すグラフである。
図6図6は、荷重面ピッチが8.64mmの場合におけるウェッジ比と相当塑性ひずみとの関係を示すグラフである。
図7図7は、荷重面ピッチが10.8mmの場合におけるウェッジ比と相当塑性ひずみとの関係を示すグラフである。
図8図8は、荷重面ピッチが7.2mmの場合におけるウェッジ比と相当塑性ひずみとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施の形態に係る鋼管用ねじ継手は、管状のピンと、管状のボックスとを備える。管状のピンは、鋼管の一方の先端部に形成される。管状のボックスは、ピンが挿入されてピンと締結される。ピンは、雄ねじを含む。雄ねじは、ピンの外周に形成され、楔形ねじで構成される。ボックスは、雌ねじを含む。雌ねじは、雄ねじに対応し、ボックスの内周に形成され、楔形ねじで構成される。ねじ継手は、次の式(1)を満たす。
【0021】
3%≦(LP-SP)/LP≦8% (1)
【0022】
式(1)中、LPは雄ねじの荷重面間のピッチである。SPは雄ねじの挿入面間のピッチである。
【0023】
好ましくは、上記ねじ継手は、次の式(2)を満たす。
【0024】
4%≦(LP-SP)/LP≦7% (2)
【0025】
上記ねじ継手は、次の式(3)を満たしていてもよい。
【0026】
-10度≦α≦-1度 (3)
【0027】
式(3)中、αは雄ねじの荷重面及び挿入面のフランク角である。
【0028】
雄ねじ及び雌ねじは、完全ねじで構成される完全ねじ部を含んでいてもよい。完全ねじ部は、鋼管の軸方向において、40~60mmの長さを有していてもよい。
【0029】
以下、図面を参照し、本実施の形態に係る鋼管用ねじ継手を説明する。図中同一及び相当する構成には同一の符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0030】
図1を参照して、本実施形態に係る鋼管用ねじ継手1は、管状のピン10と、管状のボックス20とを備える。ピン10は、鋼管2の一方の先端部に形成される。ボックス20は、ピン10が挿入されてピン10と締結される。以下、鋼管2の先端部以外の部分を特に「鋼管本体」という場合がある。
【0031】
ピン10は、雄ねじ11を含む。雄ねじ11は、ピン10の外周に形成される。ボックス20は、雌ねじ21を含む。雌ねじ21は、雄ねじ11に対応し、ボックス20の内周に形成される。より具体的には、雄ねじ11は、ピン10の外周に螺旋状に形成される。雌ねじ21は、ボックス20の内周に螺旋状に形成される。雄ねじ11及び雌ねじ21は、テーパねじで構成される。雄ねじ11及び雌ねじ21はまた、楔形ねじで構成される。
【0032】
図2を参照して、雄ねじ11の荷重面111及び雌ねじ21の荷重面211は、フランク角αを有する。雄ねじ11の挿入面112及び雌ねじ21の挿入面212は、フランク角βを有する。フランク角αは、管軸(鋼管2の軸)TAに垂直な平面VPに対する荷重面111,211の角度である。フランク角βは、管軸TAに垂直な平面VPに対する挿入面112,212の角度である。荷重面111,211又は挿入面112,212が平面VPと平行な場合、フランク角は0度である。雄ねじ11の荷重面111が平面VPよりもピン10の先端側に傾倒している場合(言い換えれば、雌ねじ21の荷重面211が平面VPよりもボックス20の先端側に傾倒している場合)、荷重面111,211のフランク角αは正である。反対に、雄ねじ11の荷重面111が平面VPよりもピン10の鋼管本体側に傾倒している場合(言い換えれば、雌ねじ21の荷重面211が平面VPよりもボックス20の鋼管本体側に傾倒している場合)、荷重面111,211のフランク角αは負である。また、雄ねじ11の挿入面112が平面VPよりもピン10の鋼管本体側に傾倒している場合(言い換えれば、雌ねじ21の挿入面212が平面VPよりもボックス20の管本体側に傾倒している場合)、挿入面112,212のフランク角は正である。反対に、雄ねじ11の挿入面112が平面VPよりもピン10の先端側に傾倒している場合(言い換えれば、雌ねじ21の挿入面212が平面VPよりもボックス20の先端側に傾倒している場合)、挿入面112,212のフランク角は負である。楔形ねじのフランク角α及びβはいずれも負である。
【0033】
特に限定されないが、雄ねじ11及び雌ねじ21は全て完全ねじで構成され、不完全ねじは存在しないのが好ましい。全てのねじ11,21を完全ねじで構成すれば、雄ねじ11と雌ねじ21の接触面積が増加し、トルク性能が向上する。完全ねじ部(完全ねじで構成される雄ねじ11及び雌ねじ21)の長さは、例えば40~60mmである。
【0034】
鋼管用ねじ継手1は、次の式(1)を満たす。
【0035】
3%≦(LP-SP)/LP≦8% (1)
【0036】
好ましくは、鋼管用ねじ継手1は、次の式(2)を満たす。
【0037】
4%≦(LP-SP)/LP≦7% (2)
【0038】
式(1)及び(2)中、LPは雄ねじ11の荷重面111間のピッチ(以下、「荷重面ピッチ」という。)である。SPは雄ねじ11の挿入面112間のピッチ(以下、「挿入面ピッチ」という。)である。(LP-SP)/LPはウェッジ比を表す。荷重面ピッチLPは、雌ねじ21の荷重面211間のピッチと等しい。挿入面ピッチSPは、雌ねじ21の挿入面212間のピッチと等しい。
【0039】
すなわち、ウェッジ比の上限は8%、好ましくは7%である。ウェッジ比の下限は3%、好ましくは4%である。
【0040】
鋼管用ねじ継手1は、次の式(3)を満たす。
【0041】
-10度≦α≦-1度、かつ、-10度≦β≦-1度 (3)
【0042】
式(3)中、αは雄ねじ11の荷重面111のフランク角である。βは雄ねじ11の挿入面112のフランク角である。雄ねじ11の荷重面111のフランク角αは、雄ねじ11の挿入面112のフランク角βと同じであってもよく、又は異なっていてもよい。雄ねじ11の荷重面111のフランク角αは、雌ねじ21の荷重面211のフランク角αと実質的に同じである。雄ねじ11の挿入面112のフランク角βは、雌ねじ21の挿入面212のフランク角βと実質的に同じである。
【0043】
厳密には、荷重面ピッチLP、挿入面ピッチSP、及びフランク角α,βは、締結前の値が用いられる。
【0044】
本実施の形態は、雄ねじ11及び雌ねじ21を楔形ねじで構成し、かつ、そのウェッジ比を3~8%に設定しているため、高いトルク性能と高い引張性能を両立することができる。
【0045】
ねじ継手1は、カップリング型でもインテグラル型でもよい。カップリング型ねじ継手は、2つのピンと、カップリングとを備える。一方のピンは、一方の鋼管の先端部に形成される。他方のピンは、他方の鋼管の先端部に形成される。カップリングは、2つのボックスを含む。一方のボックスは、カップリングの一方端部に形成される。他方のボックスは、カップリングの他方端部に形成される。一方のボックスは、一方のピンが挿入されて一方のピンと締結される。他方のボックスは、一方のボックスの反対側に形成され、他方のピンが挿入されて他方のピンと締結される。一方、インテグラル型ねじ継手は、2本の鋼管を互いに接続するためのものであり、ピンと、ボックスとを備える。インテグラル型ねじ継手では、一方の鋼管がピンを備え、他方の鋼管2がボックスを備える。
【0046】
以上、実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限り種々の変更が可能である。
【実施例
【0047】
本実施の形態の効果を検証するため、有限要素法(FEM)によってトルク性能及び引張性能を評価した。評価対象を楔型ねじ継手とし、以下の鋼管を用いた。
【0048】
サイズ:9-5/8インチ(管本体外径:244.48mm、管本体内径:216.8mm)
材料:API規格の油井管材料L80(公称耐力YS=552MPa(80ksi))
ねじテーパ:1/12
ねじ長さ:50mm(ピン)、60mm(ボックス)
ねじ高さ:1.8mm
フランク角:-5度(荷重面及び挿入面の両方とも)
荷重面ピッチ:7.2mm、8.64mm、又は10.8mm
ウェッジ比:2~10%
挿入面ピッチ:ウェッジ比に応じて逆算
【0049】
評価対象のねじ継手は、図1に示されるように、雄ねじ11及び雌ねじ21のみで構成される。雄ねじ11及び雌ねじ21は全て楔形ねじかつ完全ねじで構成される。
【0050】
表1は、解析に供試した27種類のねじ継手(サンプル)の寸法等を示す。
【表1】
【0051】
解析の際には、図1に示されるねじ継手1をベースにして、雄ねじ11及び雌ねじ21の寸法を変更し、トルク性能及び引張性能を評価した。
【0052】
[トルク性能の評価]
トルク性能については、締結トルク線図において締結トルクが降伏し始める値MTV(Maximum Torque Value)を降伏トルクと定義し、その値で評価した。
【0053】
[引張性能の評価]
引張性能については、ねじ継手1が降伏する引張荷重と同等の荷重を締結されたねじ継手に負荷し、雄ねじ11及び雌ねじ21の中で最も先端側に位置するねじの荷重面111,211及び挿入面112,212の付け根部分に生じる相当塑性ひずみの最大値で評価した。本発明者らの実管試験からの経験上、相当塑性ひずみが0.08程度になると、ねじ山が破壊するリスクが高くなる。そのため、相当塑性ひずみの閾値を0.08として、これよりも低い値であれば引張性能に優れると評価した。ただし、さらに安全側に余裕を見て、相当塑性ひずみの閾値を0.070としてもよい。
【0054】
[解析結果]
図3図5は、有限要素解析で得た降伏トルクの値を示す。横軸にウェッジ比、縦軸にそれに対応するMTVの値をプロットした。ねじピッチに関係なく、MTVはウェッジ比に応じて増加し、特に2~3%の領域で最も上昇した。図3及び図5で確認できる通り、ウェッジ比が9%付近でMTVが最大になり、その後、下降に転じた。
【0055】
トルク性能が増加した要因として以下の点が考えられる。ウェッジ比が高いと、ピン10の先端付近でねじ山幅が狭くなり、ねじ山幅が狭いピン10をねじ山幅が広いボックス20で締付けることにより、高い接触圧が発生したためと考えられる。
【0056】
図6図8は、前述した通り、引張荷重を締結されたねじ継手1にかけたときに生じる相当塑性ひずみの最大値とウェッジ比との関係を示すグラフである。この相当塑性ひずみは、雄ねじ11及び雌ねじ21の中で最も先端側に位置するねじの荷重面111,211及び挿入面112,212の付け根部分に生じるものである。
【0057】
図6に示されるように、荷重面ピッチLP=8.64mmの場合、ウェッジ比が9%以上になると、雄ねじに生じる相当塑性ひずみの最大値が0.070を超え、ウェッジ比が10%になると、相当塑性ひずみの最大値が0.080を超えることが判明した。
【0058】
図7に示されるように、荷重面ピッチLP=10.8mmの場合、ウェッジ比が10%になっても、相当塑性ひずみが0.070に達しなかった。ただし、ウェッジ比が高くなるに連れて雄ねじに生じる相当塑性ひずみが急激に上昇する傾向が認められた。
【0059】
図8に示されるように、荷重面ピッチLP=7.2mmの場合、ウェッジ比が9%以上になると、雄ねじに生じる相当塑性ひずみの最大値が0.080を超え、ウェッジ比が10%になると、雄ねじ及び雌ねじともに、0.080を超え、ねじが破壊される可能性が高くなることが判明した。
【0060】
上記結果より、トルク性能を向上するには、ウェッジ比は高いほど良い。しかし、前述の通り、ウェッジ比が高すぎると、ピン(雄ねじ)及び/又はボックス(雌ねじ)の先端付近のねじ山が破壊されるリスクが高くなるため、ウェッジ比は8%以下としておいたほうが良い。また、ねじ山幅の減少はねじ底幅の増加に等しく、ねじ切り時のパス数の増加、インサートの寿命の低下につながることから、製造の観点からも極端に高いウェッジ比も望ましくない。以上より、適切なウェッジ比は3~8%であった。
【符号の説明】
【0061】
1:鋼管用ねじ継手
10:ピン
11:雄ねじ
20:ボックス
21:雌ねじ
111,211:荷重面
112,212:挿入面
LP:荷重面ピッチ
SP:挿入面ピッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8