(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20221207BHJP
H01M 10/04 20060101ALI20221207BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20221207BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20221207BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20221207BHJP
H01M 50/457 20210101ALI20221207BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20221207BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20221207BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20221207BHJP
H01M 50/42 20210101ALI20221207BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20221207BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/04 Z
H01M4/131
H01M50/46
H01M50/451
H01M50/457
H01M50/414
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/42
H01M50/426
(21)【出願番号】P 2021011115
(22)【出願日】2021-01-27
【審査請求日】2022-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深江 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】西田 晶
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/207530(WO,A1)
【文献】特開2015-069957(JP,A)
【文献】特開2019-192340(JP,A)
【文献】特開2019-169422(JP,A)
【文献】特開2019-121507(JP,A)
【文献】国際公開第2014/021289(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00-10/587
H01M 4/00-4/62
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板、負極板、ならびに前記正極板および前記負極板の間に配置されるセパレータを含む電極体を備え、
前記正極板と前記セパレータとの間に第1の接着層が設けられ、
前記負極板と前記セパレータとの間に第2の接着層が設けられ、
前記第1の接着層の目付量は、前記第2の接着層の目付量よりも小さく、
前記第1の接着層の目付量および前記第2の接着層の目付量の合計が0.03g/m
2以上0.15g/m
2以下である、電池。
【請求項2】
前記第1の接着層の目付量が0.01g/m
2以上0.05g/m
2以下である、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記セパレータは、樹脂製の基材と、無機粒子およびバインダーを含み、前記基材上に設けられた耐熱層とを含み、
前記第1の接着層を介して前記耐熱層と前記正極板とが対向し、
前記第2の接着層を介して前記基材と前記負極板とが対向する、請求項1または請求項2に記載の電池。
【請求項4】
前記正極板は、リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極合材層を有する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電池。
【請求項5】
前記第1の接着層および前記第2の接着層は、アクリル樹脂系接着材、エポキシ樹脂系接着材、スチレンブタジエンゴム系接着材、シリコーンゴム系接着材、およびPVdF系接着材からなる群のうち少なくとも1つの接着材を含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電池。
【請求項6】
正極板、負極板、ならびに前記正極板および前記負極板の間に配置され、前記正極板と対向する第1面および前記負極板と対向する第2面を有するセパレータを含む電極体を形成する工程を備え、
前記電極体を形成する工程は、
前記セパレータの前記第1面に第1の接着層を形成し、前記セパレータの前記第2面に第2の接着層を形成することと、
前記第1の接着層を介して前記セパレータと前記正極板とを接着することと、
前記第2の接着層を介して前記セパレータと前記負極板とを接着することとを含み、
前記第1の接着層の目付量は、前記第2の接着層の目付量よりも小さく、
前記第1の接着層の目付量および前記第2の接着層の目付量の合計が0.03g/m
2以上0.15g/m
2以下である、電池の製造方法。
【請求項7】
前記第1の接着層の目付量が0.01g/m
2以上0.05g/m
2以下である、請求項6に記載の電池の製造方法。
【請求項8】
前記セパレータは、樹脂製の基材と、無機粒子およびバインダーを含み、前記基材上に設けられた耐熱層とを含み、
前記電極体を形成する工程は、
前記第1の接着層を介して前記耐熱層と前記正極板とを接着することと、
前記第2の接着層を介して前記基材と前記負極板とを接着することとを含む、請求項6または請求項7に記載の電池の製造方法。
【請求項9】
前記正極板は、リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極合材層を有する、請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の電池の製造方法。
【請求項10】
前記第1の接着層および前記第2の接着層は、アクリル樹脂系接着材、エポキシ樹脂系接着材、スチレンブタジエンゴム系接着材、シリコーンゴム系接着材、およびPVdF系接着材からなる群のうち少なくとも1つの接着材を含む、請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正極板、負極板、ならびに正極板および負極板の間に配置されるセパレータを含む電極体を備え、電極板(正極板および負極板)とセパレータとの間に接着層が設けられる電池が従来から知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電極体において、電極板(特に正極板)とセパレータとの接着力が強すぎると、セルの乾燥工程において電極板間の隙間が十分に開かず、セルからの水分抜けの経路が適切に確保できない場合があり得る。この場合、残留水分と電極活物質とが反応することにより、ガスが発生し、セルが膨張しやすくなる。したがって、乾燥工程時の適度な水分抜けの経路を確保する必要がある。従来の電池は、上記の観点から必ずしも十分な構成を備えたものではない。
【0005】
本技術の目的は、セルの膨張が抑制された電池およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本技術に係る電池は、正極板、負極板、ならびに正極板および負極板の間に配置されるセパレータを含む電極体を備える。正極板とセパレータとの間に第1の接着層が設けられ、負極板とセパレータとの間に第2の接着層が設けられる。第1の接着層の目付量は、第2の接着層の目付量よりも小さく、第1の接着層の目付量および第2の接着層の目付量の合計が0.03g/m2以上0.15g/m2以下である。
【0007】
本技術に係る電池の製造方法は、正極板、負極板、ならびに正極板および負極板の間に配置され、正極板と対向する第1面および負極板と対向する第2面を有するセパレータを含む電極体を形成する工程を備える。電極体を形成する工程は、セパレータの第1面に第1の接着層を形成し、セパレータの第2面に第2の接着層を形成することと、第1の接着層を介してセパレータと正極板とを接着することと、第2の接着層を介してセパレータと負極板とを接着することとを含む。第1の接着層の目付量は、第2の接着層の目付量よりも小さく、第1の接着層の目付量および第2の接着層の目付量の合計が0.03g/m2以上0.15g/m2以下である。
【0008】
なお、本明細書において、接着層の「目付量」とは、接着面の単位面積あたりの当該接着層に含まれる接着粒子の質量を意味する。「目付量」の理論値は、(単位面積あたりの接着層の面積)×(接着層の厚み)×(接着層の密度)により求められるが、単位面積あたりに含まれる接着粒子の個数を測定することによっても一義的に求めることが可能である。
【発明の効果】
【0009】
本技術によれば、セルの膨張が抑制された電池およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】1つの実施の形態に係る電極体の構造を示す断面図である。
【
図3】
図2に示す電極体におけるセパレータおよび接着層を示す断面図である。
【
図4】変形例に係る電極体の構造を示す断面図である。
【
図5】
図4に示す電極体におけるセパレータおよび接着層を示す断面図である。
【
図6】セパレータ上における接着層の配置の一例を示す平面図である。
【
図7】セパレータ上における接着層の配置の他の例を示す平面図である。
【
図8】セパレータ上における接着層の配置のさらに他の例を示す平面図である。
【
図9】セパレータ上における接着層の配置のさらに他の例を示す平面図である。
【
図10】セパレータ両面に形成された接着層の目付量の比とセル膨張率(対標準状態のセル厚み)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本技術の実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0012】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本技術の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本技術にとって必ずしも必須のものではない。
【0013】
なお、本明細書において、「備える(comprise)」および「含む(include)」、「有する(have)」の記載は、オープンエンド形式である。すなわち、ある構成を含む場合に、当該構成以外の他の構成を含んでもよいし、含まなくてもよい。また、本技術は、本実施の形態において言及する作用効果を必ずしもすべて奏するものに限定されない。
【0014】
本明細書において、「電池」は、リチウムイオン電池に限定されず、ニッケル水素電池など他の電池を含み得る。本明細書において、「電極」は正極および負極を総称し得る。また、「電極板」は正極板および負極板を総称し得る。
【0015】
図1は、角形二次電池1の斜視図である。
図1に示すように、角形二次電池1は、電池ケース100と、電極体200と、正極端子300と、負極端子400と、絶縁部材500とを含む。
【0016】
電池ケース100は、開口を有する有底角筒状の角形外装体110と、角形外装体110の開口を封口する封口板120とからなる。角形外装体110および封口板120は、それぞれ金属製であることが好ましく、アルミニウムまたはアルミニウム合金製とすることが好ましい。
【0017】
電極体200は、電解液とともに電池ケース100内に収容されている。正極端子300および負極端子400は、樹脂製の絶縁部材500を介して封口板120に各々固定されている。
【0018】
本技術の電池は角形に限定されない。電池ケース100および電極体200の形状は特に限定されない。たとえば積層型、扁平型、円筒型の電極体200とすることができる。好ましくは、電極体200は、積層型の電極体である。
【0019】
角形二次電池1を製造する際は、電極体200を角形外装体110に収容した後、封口板120により角形外装体110を封口する。その状態で、電池ケース100内を乾燥させる乾燥工程が行われる。乾燥工程により、電極体200の製作時に用いられた接着材に含まれる水分が逃がされる。その後、封口板120に設けられた注液孔を介して電解液が電池ケース100内に注液される。
【0020】
図2は、正極板210と、負極板220と、セパレータ230と、接着層240とを含む電極体200の構造を示す断面図である。
図3は、電極体200におけるセパレータ230および接着層240を示す断面図である。
【0021】
電極体200は、正極板210、セパレータ230、負極板220、セパレータ230の順で、複数の正極板210、複数の負極板220、および複数のセパレータ230が積層された構造を有する。電極体200の積層方向の両端の電極板としては、一般的に負極板220が配置される。
【0022】
電極体200は、1枚のセパレータ230をつづら折りして正極板210と負極板220との間に介在させた構造を有していてもよいが、
図2の例では、枚葉式のセパレータ230が用いられる。
【0023】
正極板210は、正極芯体と、正極芯体上に形成された正極合材層とを備える。正極芯体には、たとえばアルミニウムなど、正極板210の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルムなどを用いることができる。正極合材層は、正極活物質、導電材、およびバインダーを含み得る。正極合材層は、一般的に正極芯体の両面に形成される。正極板210は、正極合材層を正極芯体の両面に形成することにより作製可能である。正極活物質、導電材、およびバインダーなどを含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延することにより、正極合材層を正極芯体の両面に形成することができる。
【0024】
正極合材層を形成する正極活物質の例としては、リチウム含有遷移金属酸化物を挙げることができる。リチウム含有遷移金属酸化物を構成する金属元素は、たとえばマグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、錫(Sn)、アンチモン(Sb)、タングステン(W)、鉛(Pb)、およびビスマス(Bi)から選択される少なくとも1種である。このうち、コバルト、ニッケル、およびマンガンから選択される少なくとも1種を正極活物質が含むことが好ましい。
【0025】
正極合材層を形成する導電材の例としては、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、黒鉛などの炭素材料などが挙げられる。また、バインダーとしては、有機系樹脂、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、スチレンブタジエンゴム系、シリコーンゴム系、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系などの素材を用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
負極板220は、負極芯体と、負極芯体上に形成された負極合材層とを備える。負極芯体には、たとえば銅など、負極板220の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルムなどを用いることができる。負極合材層は、負極活物質の他に、バインダーを含む得る。負極合材層は、一般的に負極芯体の両面に形成される。負極板220は、負極合材層を負極芯体の両面に形成することにより作製可能である。負極活物質、導電材、およびバインダーなどを含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延することにより、負極合材層を負極芯体の両面に形成することができる。
【0027】
負極合材層を形成する負極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、たとえば天然黒鉛、人造黒鉛などの炭素材料、ケイ素(Si)、錫(Sn)などのリチウムと合金化する金属、またはケイ素、錫などの金属元素を含む合金、複合酸化物などを用いることができる。負極活物質は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が組み合わされて用いられてもよい。負極活物質は、炭素材料、ケイ素材料、またはリチウム金属を含むことが好ましい。負極活物質は、炭素材料が主体であることがさらに好ましい。
【0028】
負極合材層に含まれるバインダーとしては、正極合材層に含まれるものと同じ素材を用いることができる。水系溶媒を用いて負極合材スラリーを調製する場合は、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)またはその塩、ポリアクリル酸(PAA)またはその塩、ポリビニルアルコール(PVA)などが用いられてもよい。
【0029】
正極板210としては、たとえば長辺100mm以上(一例として140mm程度)、短辺50mmm以上(一例として高さ70mm程度)の大きさを有する比較的大型のものが用いられ得る。正極板210と負極板220とが、たとえば各50枚以上(一例として各60枚程度)積層され得る。
【0030】
セパレータ230は、多孔質の基材231と、基材231の一方の面上に形成された多孔質の耐熱層232とで構成される。耐熱層232を設けることにより、たとえば混入異物、釘刺しなどによるセパレータ230の破断が発生し難くなり、または温度上昇時のセパレータ230の収縮を抑制し得る。電極体200の厚みの増加を抑えつつ、コスト対効果を高めるためには、基材231の一方の表面のみに耐熱層232を形成することが好ましい。
【0031】
多孔質の基材231は、単独でもセパレータとして機能し得るものである。基材231は、樹脂層ないし不織布から構成される。基材231としては、イオン透過性および電気絶縁性を有する多孔質フィルムが用いられ得る。基材231の厚みは、たとえば1μm以上20μm以下程度である。基材231の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレンの共重合体、エチレン、プロピレン、その他のαオレフィンとの共重合体などのオレフィン樹脂が例示できる。基材231は、ポリオレフィン層から構成されることが好ましい。基材231の融点は、一般的に200℃以下程度である。
【0032】
基材231を構成する多孔質フィルムは、リチウムイオンを透過させるための多くの孔を有するが、その表面の凹凸は耐熱層232の表面凹凸よりも小さく、耐熱層232に比べると表面は平坦である。基材231の表面に存在する孔または凹部の大きさ(最大長さ)は、たとえば0.5μm未満であり、好ましくは0.3μm未満である。
【0033】
耐熱層232は、基材231を構成する樹脂よりも融点または軟化点の高い樹脂、たとえばアラミド樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミドなどで構成され得る。耐熱層232は、好ましくは無機化合物を主成分として構成される。耐熱層232は、絶縁性の無機粒子と、当該無機粒子どうし、および当該無機粒子と基材231とを結着するバインダーとで構成されることが好ましい。耐熱層232は、基材231と同様に、イオン透過性と電気絶縁性を有する。耐熱層232の厚みは、たとえば1μm以上10μm以下程度であり、好ましくは1μm以上6μm以下程度である。
【0034】
耐熱層232の主成分となる無機粒子としては、たとえばアルミナ、ベーマイト、水酸化アルミニウム、シリカ、チタニア、およびジルコニアから選択される少なくとも1種を用いることができる。好ましくは、アルミナが無機粒子として用いられる。無機粒子の含有量は、耐熱層232の質量に対して、85質量%以上99.9質量%以下程度であることが好ましく、90質量%以上99.5質量%以下程度であることがより好ましい。
【0035】
無機粒子の形状は特に制限はなく、たとえば球状、四角柱状などの粒子を用いることができる。球状粒子の平均粒径あるいは四角柱状粒子の1辺の平均長さは、0.1μm以上1.5μm以下程度であることが好ましく、0.5μm以上1.2μm以下程度であることがより好ましい。無機粒子の粒径が当該範囲内であれば、イオン透過性が良好で耐久性に優れた耐熱層232を形成できる。無機粒子の平均粒径や辺の平均長さは、耐熱層232の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することにより測定される。具体的には、耐熱層232のSEM画像中の無機粒子をランダムに100個選択し、各粒子の外接円の直径または辺の長さを測定して平均化することで算出され得る。
【0036】
耐熱層232を構成するバインダーとしては、正極合材層および負極合材層に含まれるバインダーと同じものを使用できる。バインダーの含有量は、耐熱層232の質量に対して、0.1質量%以上15質量%以下程度であることが好ましく、0.5質量%以上10質量%以下程度であることがより好ましい。耐熱層232は、たとえば無機粒子およびバインダーを含有するスラリーを基材231を構成する多孔質フィルムの一方の面に塗布し、塗膜を乾燥させることで形成される。
【0037】
このようにして形成される耐熱層232は、基材231と比較して水分およびイオンの透過性が高い。
【0038】
セパレータ230は、接着粒子を含む接着層240により、正極板210の正極合材層および負極板220の負極合材層にそれぞれ接着される。本実施の形態では、
図2に示すように、セパレータ230の耐熱層232と正極板210の正極合材層とが接着層241(第1の接着層)によって接着され、セパレータ230の基材231と負極板220の負極合材層とが接着層242(第2の接着層)によって接着されている。
【0039】
接着層240の厚みは、たとえば0.1μm以上1μm以下程度、または0.2μm以上0.9μm以下程度である。接着層240の厚みは、接着粒子の量と、その粒径などにより決定される。接着層240は、たとえば接着粒子を含有するスラリーをセパレータ230の表面に塗布し、乾燥させることにより形成される。接着粒子のスラリーには、微小な接着粒子が水中に分散した、いわゆるエマルジョンを使用できる。この場合、両面に接着粒子からなる接着層240が形成された接着層240付きのセパレータ230が得られる。
【0040】
電極体200は、負極板220、接着層240付きのセパレータ230、正極板210、接着層240付きのセパレータ230の順に積層し、熱プレスすることにより得られる。温度、圧力、および圧力印加時間などの熱プレス条件を変更することにより、セパレータ230と電極板(正極板210および負極板220)との接着力を調整できる。セパレータ230と正極板210との界面と、セパレータ230と負極板220との界面とで、熱プレス条件を異ならせることはできない。
【0041】
接着層240を構成する接着粒子としては、互いに異なる複数種類の接着粒子を用いてもよいが、生産性などを考慮すると、同じ接着粒子を用いることが好ましい。つまり、セパレータ230の基材231と正極板210との間、セパレータ230の耐熱層232と負極板220との間には、同じ接着粒子が存在することが好ましい。ここで、同じ接着粒子とは、たとえば同じ製品として提供されているものを意味し、製造ロットは異なっていてもよい。
【0042】
接着粒子の平均粒径は、たとえば0.1μm以上1μm以下程度であり、好ましくは0.5μm以上0.7μm以下程度である。接着粒子の平均粒径は、耐熱層232を構成する無機粒子の平均粒径と同様に、セパレータ230の表面をSEMを用いて観察することにより測定される。
【0043】
接着層240の接着粒子は、上記熱プレス工程において溶融または軟化し得る。接着粒子が溶融または軟化することで、接着層240がセパレータ230および電極板(正極板210および負極板220)の表面に強く密着し、良好な接着性が得られる。接着層240は、たとえばガラス転移温度が80℃以下の樹脂で構成される。接着層240は、アクリル樹脂系接着材、エポキシ樹脂系接着材、スチレンブタジエンゴム系接着材、シリコーンゴム系接着材、およびPVdF系接着材を含むことが好ましい。このうち、アクリル樹脂系接着材であることがさらに好ましい。
【0044】
上述のとおり、電極体200においては、負極板220の負極合材層と耐熱層232との界面における単位面積当たりの接着粒子の質量が、正極板210の正極合材層と基材231との界面における単位面積当たりの接着粒子の質量よりも多くなっている。
【0045】
換言すると、正極板210とセパレータ230との間に設けられる接着層241(第1の接着層)の目付量が、負極板220とセパレータ230との間に設けられる接着層242(第2の接着層)の目付量よりも小さい。すなわち、
図3に示すように、耐熱層232(第1面)に形成された接着層241(第1の接着層)の目付量が、基材231(第2面)に形成された接着層242(第2の接着層)の目付量よりも小さい。
【0046】
さらに、電極体200においては、正極板210とセパレータ230との間に設けられる接着層241(第1の接着層)の目付量と、負極板220とセパレータ230との間に設けられる接着層242(第2の接着層)の目付量との合計が0.03g/m2以上0.15g/m2以下程度である。ここで、正極板210とセパレータ230との間に設けられる接着層241(第1の接着層)の目付量は、0.01g/m2以上0.05g/m2以下程度であることが好ましい。
【0047】
電極体200においては、セパレータ230の両面の接着層240の目付量の合計を0.03g/m2以上0.15g/m2以下程度とすることにより、接着層240の量を適正化することができる。より具体的には、電極板(正極板210および負極板220)とセパレータ230との接着力が過度に強力なものになることを抑制することができる。この結果、角形二次電池1の製造工程における乾燥工程において、正極板210および負極板220の間に水分抜けの経路となる隙間が確保しやすくなり、残留水分と電極活物質とが反応することによるガスの発生、およびそのガスに起因する電池ケース100の膨張を抑制することができる。
【0048】
特に、正極板210側に設けられる接着層241の目付量を相対的に小さくすることにより、正極板210側において水分抜けの経路となる隙間を確保しやすい。これにより、電池ケース100の膨張をより効果的に抑制できる。さらに、水分の透過性が基材231よりも高い耐熱層232を正極板210側に配置することにより、正極板210側における水分抜けの経路をより確保しやすくなる。
【0049】
なお、正極合材層と耐熱層232との界面における単位面積当たりの接着粒子の質量は、正極合材層の表面、および耐熱層232の表面に付着する接着粒子の数を計測し、粒子の総体積に粒子の比重を乗じて算出可能である。負極合材層と基材231との界面における単位面積当たりの接着粒子の質量についても、同様の方法で算出可能である。
【0050】
図4は、変形例に係る電極体200Aの構造を示す断面図である。電極体200Aは、正極板210Aと、負極板220Aと、セパレータ230Aと、接着層240Aとを含む。
図5は、電極体200Aにおけるセパレータ230Aおよび接着層240Aを示す断面図である。
【0051】
図4に示すように、電極体200Aにおいては、正極板210Aとセパレータ230Aとの間に設けられる接着層241Aの目付量が、負極板220Aとセパレータ230Aとの間に設けられる接着層242Aの目付量よりも小さい。すなわち、
図5に示すように、基材231Aに形成された接着層241Aの目付量が、耐熱層232Aに形成された接着層242Aの目付量よりも小さい。
【0052】
図4,
図5に示す変形例においても、セパレータ230Aの両面の接着層240Aの目付量の合計は0.03g/m
2以上0.15g/m
2以下程度とされている。これにより、接着層240Aの量が適正化され、乾燥工程における水分抜けの経路となる隙間が確保されやすい。
【0053】
図6~
図9は、セパレータ230上における接着層240の配置の例を示す平面図である。接着層240は、
図6に示すように、ドット状に配置されてもよいし、
図7に示すように、ストライプ状に配置されてもよいし、
図8に示すように、全面に配置されてもよいし、
図9に示すように、島状に配置されてもよい。セパレータ230の両面において、互いに同じ平面配置としてもよいし、互いに異なる平面配置としてもよい。セパレータ230の両面において、接着層240の厚みが互いに同じであってもよいし、互いに異なってもよい。水分の抜けの経路を確保する観点からは、接着層240は、セパレータ230上において部分的に配置される(
図6,
図7,
図9の例)ことが好ましい。
【0054】
図10は、電極体200におけるセパレータ230の両面に形成された接着層240の目付量の比(正極側/両面)とセル膨張率(対標準状態のセル厚み)との関係を示す図である。また、表1は、
図10に示される各サンプルの数値を示すものである。
【0055】
【0056】
図10および表1に示すように、正極側の目付量の比率を0.5よりも小さくする、すなわち正極側の目付量を負極側の目付量よりも小さくすることにより、電池ケース100の膨張率(
図10および表1中の「セル厚み」)を抑制することができる。
【0057】
なお、本願発明者らは、表2に示される比較例Aないし比較例Eにおいて、表1に示す結果と比較して、電池ケース100の膨張率が著しく増大することを確認している。なお、比較例Aないし比較例Eにおいては、
図4,
図5に示すように、セパレータ230Aの基材231Aを正極側に配置し、耐熱層232Aを負極側に配置している。
【0058】
【0059】
表2に示す比較例Aないし比較例Eにおいて電池ケース100の膨張率が著しく増大した主な原因は、接着層240Aの目付量がセパレータ230Aの両面の合計で0.5g/m2以上と大きいこと、および、耐熱層232Aと比較すると水分抜け通路の確保がし難い基材231Aが正極側に配置されていることであると考えられる。
【0060】
これに対し、表1に示す実施例1ないし実施例11においては、接着層240の目付量がセパレータ230の両面の合計で0.15g/m2以下と小さいこと、特に正極側の目付量が小さいこと、および、基材231と比較すると水分抜け通路の確保がしやすい耐熱層232が正極側に配置されていることにより、電池ケース100の膨張率を効果的に抑制できていることが理解できる。
【0061】
以上、本技術の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本技術の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0062】
1 角形二次電池、100 電池ケース、110 角形外装体、120 封口板、200,200A 電極体、210,210A 正極板、220,220A 負極板、230,230A セパレータ、231,231A 基材、232,232A 耐熱層、240,240A,241,241A,242,242A 接着層、300 正極端子、400 負極端子、500 絶縁部材。