(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】筒形非水電解液一次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 6/16 20060101AFI20221207BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20221207BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20221207BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20221207BHJP
H01M 50/491 20210101ALI20221207BHJP
H01M 4/06 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
H01M6/16 D
H01M6/16 A
H01M50/417
H01M50/414
H01M50/449
H01M50/491
H01M4/06 X
H01M4/06 J
(21)【出願番号】P 2021205078
(22)【出願日】2021-12-17
(62)【分割の表示】P 2020546007の分割
【原出願日】2019-09-09
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2018169428
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019010010
(32)【優先日】2019-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】川邊 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】藤川 和弘
(72)【発明者】
【氏名】金子 玄洋
(72)【発明者】
【氏名】辻 協志
(72)【発明者】
【氏名】須和田 裕貴
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-056843(JP,A)
【文献】国際公開第2016/195062(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 6/16
H01M 50/40
H01M 4/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と正極活物質層を有する正極と、負極活物質層を有する負極とが、セパレータを介して渦巻状に巻回された電極体と、非水電解液とを含む筒形非水電解液一次電池であって、
前記正極の厚みが、1.4mm以上であり、
前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に、前記セパレータとして、独立膜である厚みが7~20μmの樹脂製微多孔フィルムを2枚以上有し、
それぞれの前記樹脂製微多孔フィルムは、互いに貼り合わされずに重ねられて配置されている筒形非水電解液一次電池。
【請求項2】
前記非水電解液が、LiClO
4、LiCF
3SO
3、LiC
2F
5SO
3、LiN(FSO
2)
2およびLiN(CF
3SO
2)
2よりなる群から選択される少なくとも1種のリチウム塩Aを含有する請求項1に記載の筒形非水電解液一次電池。
【請求項3】
前記非水電解液が、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6およびLiSbF
6よりなる群から選択される少なくとも1種のリチウム塩Bを更に含有する請求項2に記載の筒形非水電解液一次電池。
【請求項4】
前記非水電解液が、更にLiB(C
2O
4)
2を含有する請求項2または3に記載の筒形非水電解液一次電池。
【請求項5】
前記負極活物質層が、表面にリチウム-アルミニウム合金が形成されたリチウムシートである請求項1~4のいずれかに記載の筒形非水電解液一次電池。
【請求項6】
前記正極の厚みが、2mm以下である請求項1~5のいずれかに記載の筒形非水電解液一次電池。
【請求項7】
前記樹脂製微多孔フィルムの空孔率が、35~55%である請求項1~6のいずれかに記載の筒形非水電解液一次電池。
【請求項8】
前記樹脂製微多孔フィルムの合計厚みが、20~40μmである請求項1~7のいずれかに記載の筒形非水電解液一次電池。
【請求項9】
前記正極活物質層の密度が、2.5g/cm
3以上である請求項1~8のいずれかに記載の筒形非水電解液一次電池。
【請求項10】
前記正極活物質層の密度が、3.2g/cm
3以下である請求項1~9のいずれかに記載の筒形非水電解液一次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量で長期信頼性に優れた筒形非水電解液一次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムなどを活物質とする負極と、正極とを、セパレータを介して積層し、更にこれを巻回して形成された渦巻状電極体を、外装缶に挿入して封止することによって構成された筒形非水電解液一次電池は、例えばアルカリ電解液を有する電池に比べて高エネルギー密度であり、かつ長期間の使用に適用し得ることから、種々の用途に用いられている。
【0003】
こうした筒形非水電解液一次電池の用途としては、メモリーバックアップなどの軽負荷用途、カメラ用などの重負荷用途などが知られていたが、応用機器の多様化により、例えばデータの発信、受信などといった中負荷での用途も増加しており、中負荷で高容量化を実現する電池の開発が要望されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、厚みを大きくした電極を数回巻いた電極体を電池要素とする電池が提案されている。かかる電極体を電池要素とする電池によれば、厚い電極を用いることで、従来の重負荷特性の電池に比べて、セパレータや集電体などの使用量を減らして活物質の充填性の向上を図ることができるので、従来形態の巻回数の多い渦巻状電極体を電池要素とする電池に比べて、電池容量の高容量化を図ることができる。
【0005】
更に、ガスメーター遮断弁や無線通信などへの非水電解液一次電池の適用を考慮して、大電流を瞬間的に取り出し得る特性、すなわち、非常に短時間での放電を繰り返すことが可能な特性(パルス放電特性)も求められるようになっている。
【0006】
例えば、特許文献2および3では、前記厚い電極を用いた渦巻状電極体において、更に、負極を構成する金属リチウムの表面にリチウムアルミニウム合金を形成させることにより、重負荷のパルス放電特性を向上させている。また、セパレータとして、微孔性フィルムと不織布を積層させて用いることにより、正極活物質による短絡の発生を防止し、更に、微粉化したリチウム-アルミニウム合金の脱落に起因する電池特性の低下を防止することも提案されている。
【0007】
一方、高温環境下で使用される非水電解液一次電池においては、優れた電池特性を長期間維持することが求められており、高温での貯蔵性の改善を目的として、LiB(C2O4)2などの電解液添加剤の使用が検討されている(特許文献4および5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-335380号公報
【文献】特開2013-69466号公報
【文献】特開2012-138225号公報
【文献】特許第6178020号公報
【文献】特開2018-170276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
すなわち、電池の高容量化の要求は依然として存在しており、電極構成などの検討が進められている一方で、長期信頼性の確保も重要視されており、これらを両立できる電池が求められている。
【0010】
このような課題に対し、前記特許文献に記載されたように、電極の厚みを増加させることにより高容量化を図りつつ、電解液添加剤により長期信頼性を向上させることが考えられる。しかし、電極の厚みを増加させる場合、特に正極を一定以上の厚みとする場合には、活物質層の可撓性や柔軟性が低下することから、巻回時に活物質層の表面に凹凸を生じやすくなる。このため、巻回された電極体を電池容器(金属缶)に収容すると、容器内で電極体が元の形状に戻ろうとする力でセパレータが押圧された際に、凸部でセパレータが破れやすく、内部短絡を生じやすくなる。また、電池容器に挿入する際に、巻回軸方向に力を受けて電極体のずれが生じやすくなる。
【0011】
本願は、前記事情に鑑みてなされたものであり、高容量で長期信頼性に優れた筒形非水電解液一次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願で開示する筒形非水電解液一次電池は、正極活物質層を有する正極と、負極活物質層を有する負極とが、セパレータを介して渦巻状に巻回された電極体と、非水電解液とを含み、前記正極の厚みが、1.4mm以上であり、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に、前記セパレータとして、独立膜である厚みが7~20μmの樹脂製微多孔フィルムを2枚以上有し、それぞれの前記樹脂製微多孔フィルムは、互いに貼り合わされずに重ねられて配置されている。
【発明の効果】
【0013】
本願によれば、高容量で長期信頼性に優れた筒形非水電解液一次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本実施形態の筒形非水電解液一次電池の一例を模式的に表す縦断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の筒形非水電解液一次電池の横断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の筒形非水電解液一次電池を構成する巻回電極体の一例を模式的に表す一部断面図である。
【
図4】
図4は、実施例1、2および比較例1、2の筒形非水電解液一次電池で使用したセパレータの強度測定方法の説明図である。
【
図5】
図5は、実施例1の筒形非水電解液一次電池で使用したセパレータの強度測定結果を表すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例2の筒形非水電解液一次電池で使用したセパレータの強度測定結果を表すグラフである。
【
図7】
図7は、比較例1の筒形非水電解液一次電池で使用したセパレータの強度測定結果を表すグラフである。
【
図8】
図8は、比較例2の筒形非水電解液一次電池で使用したセパレータの強度測定結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願で開示する筒形非水電解液一次電池の実施形態を説明する。本実施形態の筒形非水電解液一次電池においては、正極活物質層を有する正極と、負極活物質層を有する負極とを、セパレータを介して渦巻状に巻回した電極体(巻回電極体)を使用する。そして、正極には、例えばこの正極活物質層が集電体の片面または両面に形成された構造のものが使用できるが、電池の高容量化を図る観点から、正極の厚み(例えば、片面または両面に形成された正極活物質層と集電体との合計厚み)を1.4mm以上とする。
【0016】
その一方で、前記の通り、厚い正極を有する巻回電極体を備えた電池においては、セパレータが破れて内部短絡が生じやすいといった問題もある。
【0017】
ところが、本発明者らの検討により、セパレータとして、独立膜である厚みが7~20μmの樹脂製微多孔フィルムを2枚以上、互いに貼り合わせることなく重ねて正極と負極との間に配置した場合には、このような厚みの樹脂製微多孔フィルム1枚をセパレータとした場合は勿論のこと、2枚以上の樹脂製微多孔フィルムの合計厚みと同じ厚みの樹脂製微多孔フィルムを1枚使用したり、2枚以上の樹脂製微多孔フィルムを貼り合わせて使用したりした場合に比べても、厚い正極の使用による内部短絡の発生を良好に抑制できることが判明した。本実施形態の筒形非水電解液一次電池は、前記構成を採用することで、正極を厚くすることによる高容量化を図りつつ、高い信頼性の確保も可能となる。
【0018】
また、正極の厚みを増加させると、電池容器を押圧する力が大きくなることにより、電池容器と電極体との間の摩擦が増大し、電極体を電池容器に挿入する際に巻回軸方向に力を受けやすくなる。このため、セパレータとして微孔性フィルムと不織布とを積層させて用いた場合には、微孔性フィルムと不織布の対向面の摩擦係数が小さいことにより、電極体に巻回軸方向のずれが生じやすくなる。
【0019】
一方、樹脂製微多孔フィルムを2枚以上、互いに貼り合わせることなく重ねて用いる本実施形態の電池では、微多孔フィルム同士の摩擦係数が、微孔性フィルムと不織布との摩擦係数よりも大きくなるため、電極体における前記巻回軸方向のずれを抑制することができる。
【0020】
また、本実施形態の筒形非水電解液一次電池に用いられる非水電解液は、有機溶媒に電解質塩を溶解した溶液であり、前記電解質塩として、LiClO4、LiCF3SO3、LiC2F5SO3、LiN(FSO2)2およびLiN(CF3SO2)2より選択される少なくとも1種のリチウム塩(これをリチウム塩Aとする。)を含有し、更に電解液添加剤としてLiB(C2O4)2を含有することが好ましい。
【0021】
非水電解液中でリチウムイオン伝導性を確保するための電解質塩として機能するリチウム塩Aは、耐熱性に優れるため、このリチウム塩Aを含有する非水電解液を使用することで、例えば非水電解液一次電池の高温貯蔵特性(高温環境下での電池の長期信頼性)を高めることができる。
【0022】
また、電解液添加剤であるLiB(C2O4)2は、電解質塩として作用するほか、非水電解液と負極との反応を抑制する保護被膜を負極表面に形成し、前記反応に伴うガス発生や内部抵抗の上昇を抑制することができる。
【0023】
このように、本実施形態の筒形非水電解液一次電池では、リチウム塩Aによる前記の作用と、LiB(C2O4)2による前記の作用を相乗的に機能させることで、電池の長期信頼性をより良好なものとすることができる。
【0024】
前記非水電解液には、電解質塩として、前記リチウム塩Aのみを含有させてもよいが、LiPF6、LiBF4、LiAsF6およびLiSbF6より選択される少なくとも1種のリチウム塩Bを更に含有させることが好ましく、LiB(C2O4)2と共に前記リチウム塩Bを電解液に含有させることにより、負極表面に形成される保護被膜がより優れたものとなり、電池の長期信頼性をより向上させることができる。
【0025】
前記非水電解液に使用し得る有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;1,2-ジメトキシエタン(エチレングリコールジメチルエーテル)、ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、トリグライム(トリエチレングリコールジメチルエーテル)、テトラグライム(テトラエチレングリコールジメチルエーテル)、メトキシエトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフランなどのエーテル;γ-ブチロラクトンなどの環状エステル;ニトリル;などが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に、前記の環状カーボネートとエーテルとを併用することが好ましい。
【0026】
前記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、およびプロピレンカーボネートが好ましく用いられる。また、エーテルとしては、1,2-ジメトキシエタンが好ましく用いられる。
【0027】
前記非水電解液溶媒として、環状カーボネートとエーテルとを併用する場合には、耐熱性の点から、全溶媒中での環状カーボネートとエーテルとの合計100体積%中、環状カーボネートの割合を20体積%以上とすることが好ましく、30体積%以上とすることがより好ましい。一方、放電特性の点から、全溶媒中での環状カーボネートとエーテルとの合計100体積%中、エーテルの割合を30体積%以上とすることが好ましく、40体積%以上とすることがより好ましく、50体積%以上とすることが最も好ましい。
【0028】
前記非水電解液中のリチウム塩Aの濃度は、良好なリチウムイオン伝導性を確保する観点から、0.3mol/L以上であることが好ましく、0.4mol/L以上であることがより好ましく、1.2mol/L以下であることが好ましく、1.0mol/L以下であることがより好ましい。リチウム塩Aとして複数のリチウム塩を含有する場合は、その合計量が前記範囲となるよう調整することが好ましい。
【0029】
前記非水電解液中におけるLiB(C2O4)2の含有量は、LiB(C2O4)2による前記の効果を良好に確保する観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが最も好ましい。ただし、非水電解液中のLiB(C2O4)2の量が多すぎると、却って電池の内部抵抗が増大し、放電特性が低下してしまう虞がある。よって、放電特性を良好にする観点から、非水電解液中におけるLiB(C2O4)2の含有量は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることが特に好ましく、1.5質量%以下であることが最も好ましい。
【0030】
また、前記非水電解液に前記リチウム塩Bを更に含有させる場合には、リチウム塩Bによる前記の効果を良好に確保する観点から、非水電解液中のリチウム塩Aとリチウム塩Bとの合計100mol%中、リチウム塩Bの割合を1mol%以上とすることが好ましく、5mol%以上とすることがより好ましく、10mol%以上とすることが最も好ましい。
【0031】
ただし、リチウム塩Bの割合が多すぎると、負極表面に形成される保護被膜が厚くなりすぎて、却って電池の内部抵抗が増大し、低温特性などの放電特性が低下してしまう虞がある。よって、放電特性を良好にする観点から、非水電解液中のリチウム塩Aとリチウム塩Bとの合計100mol%中、リチウム塩Bの割合をモル比で50mol%以下とすることが好ましく、40mol%以下とすることがより好ましく、30mol%以下とすることが最も好ましい。
【0032】
本実施形態の筒形非水電解液一次電池に係る正極には、前記の通り、正極活物質層を有するものであり、例えば正極活物質層が集電体の片面または両面に形成された構造のものが使用できる。正極活物質層には、正極活物質以外に、通常、導電助剤やバインダを含有させる。
【0033】
正極活物質としては、例えば、二酸化マンガン、フッ化カーボン、硫化鉄や、前記材料にあらかじめリチウムを含有させた化合物、スピネル型リチウムマンガン複合酸化物などが挙げられる。
【0034】
また、導電助剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック(ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラックなど)などが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。バインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂;ゴム系バインダ;などが使用できる。なお、PTFE、PVDFなどのフッ素樹脂の場合、ディスパージョンタイプのものでもよいし、粉末状のものでもよいが、ディスパージョンタイプのものが特に好適である。
【0035】
正極活物質層においては、例えば、正極活物質の含有量が92~97質量%であることが好ましく、導電助剤の含有量が2~4質量%であることが好ましく、バインダの含有量が1~4質量%であることが好ましい。
【0036】
正極に用いる集電体としては、例えば、SUS316、SUS430、SUS444などのステンレス鋼や、アルミニウムを素材とするものが挙げられ、その形態としては、平織り金網、エキスパンドメタル、ラス網、パンチングメタル、箔(板)などが例示できる。
【0037】
正極集電体の表面には、ペースト状の導電材を塗布しておくことができる。正極集電体として立体構造を有する網状のものを用いた場合も、金属箔やパンチングメタルなどの本質的に平板からなる材料を用いた場合と同様に、導電材の塗布により集電効果の著しい改善が認められる。これは、網状の集電体の金属部分が正極合剤層と直接的に接触する経路のみならず、網目内に充填された導電材を介しての経路が有効に利用されていることによるものと推測される。
【0038】
導電材としては、例えば、銀ペーストやカーボンペーストなどを用いることができる。特にカーボンペーストは、銀ペーストに比べて材料費が安く済み、しかも銀ペーストと略同等の接触効果が得られるため、筒形非水電解液一次電池の製造コストの低減化を図る上で好適である。導電材のバインダとしては、水ガラスやイミド系のバインダなどの耐熱性の材料を用いることが好ましい。これは正極合剤層中の水分を除去する際に200℃を超える高温で乾燥処理するためである。
【0039】
正極の厚みは、1.4mm以上であり、1.5mm以上であることが好ましい。このような厚みの正極を使用することで電池の高容量化を図り得る一方で、前記の通り、電池の内部短絡が生じやすくなるが、本実施形態の電池であれば、こうした内部短絡の発生を抑制できる。ただし、正極が厚すぎると、例えば正極活物質層が厚くなることで放電反応が均一に進行しなくなり、放電に十分に関与し難くなる部分が生じる虞があり、正極を厚くすることによる高容量化の効果が小さくなることがある。よって、正極の厚みは、2mm以下であることが好ましく、1.8mm以下であることがより好ましい。
【0040】
また、正極活物質層の厚み(集電体の両面に形成されている場合は、片面当たりの厚み)は、0.5~0.95mmであることが好ましく、正極集電体の厚みは、0.1~0.4mmであることが好ましい。
【0041】
正極活物質層の密度は、電池の高容量化のため、2.5g/cm3以上とすることが好ましく、2.6g/cm3以上とすることがより好ましく、2.7g/cm3以上とすることが最も好ましい。一方、非水電解液の吸液量を調整し放電特性の低下を防ぐため、正極活物質層の密度は、3.2g/cm3以下とすることが好ましく、3.1g/cm3以下とすることがより好ましく、3.0g/cm3以下とすることが最も好ましい。
【0042】
正極は、例えば、正極活物質に導電助剤やバインダを配合し、必要に応じて水などを添加してなる正極合剤(スラリー)を、ロールなどを用いて圧延するなどして予備シート化し、これを乾燥・粉砕したものを再度ロール圧延などによってシート形状に成形して正極合剤シートとし、これを集電体の片面または両面に重ね、プレスなどにより正極合剤シートと集電体とを一体化して、集電体の片面または両面に正極合剤シートからなる層(正極活物質層)を形成する方法によって製造することができる。
【0043】
具体的には、例えば、集電体の外周が2枚の正極合剤シートの外周よりも数mm内側にくるようにして三者を重ね合わせ、巻回始端部となる長さ方向の端部から3~10mmの部分をプレスすることで、集電体の両面に正極活物質層を有する正極を製造できる。なお、作業上の観点からは、巻回電極体の作製に先立って、正極合剤シートと正極集電体とを一体化しておくことが好ましいが、独立した正極合剤シートと正極集電体とを、巻回電極体の巻回時に一体化しても構わず、このような製法によっても特性上は特に問題はない。
【0044】
なお、正極は、前記の製法により製造されたものに限定されず、他の製法により製造されたものであってもよい。例えば、正極合剤スラリーを集電体の片面または両面に塗布して乾燥し、必要に応じてプレス処理などを施して集電体上に正極活物質層を形成する製法により製造された正極でもよい。
【0045】
本実施形態の筒形非水電解液一次電池に係るセパレータには、前記の通り、独立膜である樹脂製微多孔フィルムを2枚以上、互いに貼り合わせることなく重ね合わせて使用する。
【0046】
各樹脂製微多孔フィルムには、非水電解液一次電池でセパレータとして一般に使用されている樹脂製微多孔フィルムを使用することができる。樹脂製微多孔フィルムの構成樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル;ポリフェニレンスルフィド(PPS);などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。
【0047】
樹脂製微多孔フィルムには、無機フィラーなどを混合した前記の樹脂を用いて形成したフィルム(シート)に、一軸または二軸延伸を施して微細な空孔を形成したものなどを用いることができる。また、前記の樹脂と他の樹脂とを混合してフィルム(シート)とし、その後、前記他の樹脂のみを溶解する溶媒中に、これらフィルムを浸漬して、前記他の樹脂のみを溶解させて空孔を形成したものを、樹脂製微多孔フィルムとして用いることもできる。
【0048】
樹脂製微多孔フィルムの空孔率は、電池特性をより良好とする観点から、35%以上であることが好ましく、また、樹脂製微多孔フィルムの強度をある程度高める観点から、55%以下であることが好ましい。
【0049】
樹脂製微多孔フィルムの空孔率Pは、例えば、樹脂製微多孔フィルムの厚み、面積あたりの質量、構成成分の密度から、下記式(1)を用いて各成分iについての総和を求めることにより計算できる(後記の実施例で記載のセパレータの空孔率は、この方法によって求めた値である)。
【0050】
P=100-(Σai/ρi)×(m/t) (1)
【0051】
ここで、前記式(1)中、ai:質量%で表した成分iの比率、ρi:成分iの密度(g/cm3)、m:樹脂製微多孔フィルムの単位面積あたりの質量(g/cm2)、t:樹脂製微多孔フィルムの厚み(cm)である。
【0052】
セパレータとして使用する個々の樹脂製微多孔フィルムの厚みは、正極と負極とを良好に隔離し、また、前記の内部短絡の発生を良好に抑制する観点から、7μm以上であり、10μm以上であることが好ましい。また、セパレータの厚みの増大によって電池内の正極活物質や負極活物質の量が減少することによる容量低下を抑制する観点から、セパレータとして使用する個々の樹脂製微多孔フィルムの厚みは、20μm以下であり、18μm以下であることが好ましい。
【0053】
更に、前記の内部短絡の発生抑制効果をより良好に確保する観点から、使用する樹脂製微多孔フィルムの合計厚みは、20μm以上であることが好ましく、25μm以上であることがより好ましい。また、セパレータの厚みの増大による容量低下をより良好に抑制する観点から、樹脂製微多孔フィルムの合計厚みは、40μm以下であることが好ましく、35μm以下であることがより好ましい。
【0054】
セパレータとして使用する樹脂製微多孔フィルムの枚数は、2枚以上であればよいが、樹脂製微多孔フィルムの合計厚みが前記好適値を満たす範囲とすることが好ましく、フィルム同士の積層ずれを防ぎ、また製造工程の簡素化の観点から、必要最小枚数(2枚)とすることがより好ましい。
【0055】
本実施形態の筒形非水電解液一次電池に係る負極は、前記の通り、負極活物質層を有するものであり、例えば負極活物質層が集電体の片面または両面に形成された構造のものが使用できる。
【0056】
負極活物質層は、例えば、リチウムシート(リチウム金属箔またはリチウム合金箔)で構成することができる。負極活物質層がリチウム合金箔で構成される場合、そのリチウム合金としては、リチウム-アルミニウム合金などが挙げられる。特に、負極活物質層には、リチウム金属箔とアルミニウムの薄箔とを貼り合わせてなる積層体を用い、アルミニウムの薄箔側を、少なくとも、正極活物質層側に配置することが好ましい。リチウム金属箔とアルミニウム薄箔との積層体は、電池内で前述の非水電解液と触れることで、その界面においてリチウム-アルミニウム合金を生成する。よって、リチウム金属箔とアルミニウム薄箔との積層体を用いると、電池内において、負極活物質層を構成するリチウムシートの表面でリチウム-アルミニウム合金が生成するが、このとき、リチウム-アルミニウム合金が微粉化するため、リチウムシートの前記合金含有面では、その比表面積が増大する。従って、この合金含有面を、正極活物質層との対向面とすることで、電池がより効率よく放電できるようになる。
【0057】
また、正極に二酸化マンガンなどのマンガン酸化物を用いた電池では、高温で貯蔵された場合に、正極から電解液中にマンガンが溶出しやすくなるため、負極がリチウムで構成されていると、溶出したマンガンが負極の表面に析出して電池の内部抵抗を上昇させる虞がある。
【0058】
一方、リチウムの表面にリチウム-アルミニウム合金を形成することにより、負極の表面へのマンガンの析出を防ぐことができるので、電池の内部抵抗の上昇をより効果的に抑制することができる。
【0059】
負極活物質層を構成するリチウムシートの厚みは、0.1~1mmであることが好ましい。また、前記のリチウム金属箔とアルミニウムの薄箔との積層体を用いる場合には、リチウム金属箔の厚みが0.1~1mmであり、アルミニウムの薄箔の厚みが0.005~0.05mmであることが好ましい。
【0060】
負極集電体には、銅、ニッケル、鉄、ステンレス鋼などの箔を用いることができる。負極集電体の厚み分だけ電池容器(外装缶)の内部体積が減少するため、負極集電体の厚みは可及的に小さいことが好ましく、具体的には、例えば、0.1mm以下であることが推奨される。すなわち、負極集電体が厚すぎると、負極活物質層を構成するリチウムシートなどの仕込み量を少なくせざるを得ず、正極を前記のように厚くすることによる電池容量の向上効果が小さくなる虞がある。また、負極集電体が薄すぎると、破れやすくなるため、負極集電体の厚みは、0.005mm以上であることが好ましい。また、負極集電体は、その幅が負極活物質層を構成するリチウムシートの幅と同じか、それよりも広いことが好ましく、また、その面積が、リチウムシートの面積の100~130%であることが好ましい。負極集電体の面積を前記のようにすることによって、負極集電体の幅がリチウムシートの幅と同じかまたは広く、長さが長くなるため、負極集電体の周囲に沿ってリチウムシートが切れて電気的接続が断たれることを防ぐことができる。
【0061】
なお、本願で開示する筒形非水電解液一次電池の巻回電極体では、正極活物質層の厚みを大きくすることにより、相対的に、正極活物質層およびこれと対向する負極の面積が小さくなり、非水電解液と負極との反応を抑制する保護被膜の形成に有効な電解液添加剤の量の低減も可能になると考えられる。
【0062】
次に、本実施形態の筒形非水電解液一次電池の構造を、図面を用いて説明する。
図1は、本実施形態の筒形非水電解液一次電池の一例を模式的に表す縦断面図であり、
図2は、
図1に示す筒形非水電解液一次電池の横断面図であり、
図3は、本実施形態の筒形非水電解液一次電池を構成する巻回電極体の一例を模式的に表す一部断面図である。
【0063】
図1において、筒形非水電解液一次電池1は、鉄やステンレス鋼などを素材とし、上方開口部を有する有底円筒状の外装缶2と、外装缶2内に装填された正極4と負極5とをセパレータ6を介して渦巻状に巻回してなる巻回電極体3と、非水電解液と、外装缶2の上方開口部を封止する封口構造とを有している。言い換えれば、
図1の筒形非水電解液一次電池1は、外装缶2と外装缶2の上方開口部を封止する封口構造とで囲まれる空間内に、正極4と負極5とをセパレータ6を介して渦巻状に巻回してなる巻回電極体3や非水電解液といった発電要素を有するものである。
【0064】
図2には、
図1の筒形非水電解液一次電池の横断面図を示している。
図2に示すように、巻回電極体3は、長尺の正極4と長尺の負極5とを、セパレータ6を介して巻回してなるものであり、全体として略円柱形状に形成されている。
図2に示す筒形非水電解液一次電池1では、正極4は、2枚の正極合剤シート41、42が、集電体43を介して積層された構造を有している。また、負極5は、負極活物質層51と集電体52とが積層された構造を有している。巻回電極体3においては、
図2に示すように1枚の長尺の負極5を巻回中心で折り返すようにして巻回しているため、
図1に示す断面では、負極5同士が互いの集電体側で接しており、それぞれの負極5の負極活物質層が、セパレータ6を介して正極4と対向している。
【0065】
なお、
図1および
図2では、図面が煩雑になることを避けるために、セパレータ6を構成する各樹脂製微多孔フィルムを区別して示していないが、本実施形態の筒形非水電解液一次電池においては、
図3に示す通り、正極4と負極5との間に、2枚以上の樹脂製微多孔フィルム(
図3では2枚の樹脂製微多孔フィルム61、62)を、互いに貼り合わせずに重ねて介在させる。また、
図3に示す巻回電極体3において、正極4は、正極集電体43の両面に正極活物質層41、42を有しており、負極5は、負極集電体52の片面に負極活物質層51を有している。
【0066】
筒形非水電解液一次電池1の封口構造は、外装缶2の上方開口部の内周縁に固定された蓋板7と、蓋板7の中央部に開設された開口に、ポリプロピレンなどを素材とする絶縁パッキング8を介して装着された端子体9と、蓋板7の下部に配置された絶縁板10とを有している。絶縁板10は、円盤状のベース部11の周縁に環状の側壁12を立設した上向きに開口する丸皿形状に形成されており、ベース部11の中央にはガス通口13が開設されている。蓋板7は、側壁12の上端部に受け止められた状態で、外装缶2の上方開口部の内周縁に、レーザー溶接で固定するか、またはパッキングを介したクリンプシールで固定されている。電池内圧が急激に上昇したときの対策として、蓋板7または外装缶2の底部2aには、薄肉部(ベント)を設けることができる。正極4と端子体9の下面とは、正極リード体15で接続されている。また、負極5に取り付けられた負極リード体16は、外装缶2の上部内面に溶接されている。また、外装缶2の底部2aには、樹脂製の絶縁板14が配置されている。
【0067】
なお、本実施形態の筒形非水電解液一次電池を説明するに当たり、
図1、
図2および
図3を参照したが、これらの図面は本実施形態の電池の一例を示すものに過ぎず、本実施形態の電池はこれらの図面に図示したものに限定される訳ではない。また、
図1、
図2および
図3は、本実施形態の電池の構成を説明するためのものであって、そのサイズなどは必ずしも正確ではない。
【0068】
本実施形態の筒形非水電解液一次電池は、従来公知の筒形非水電解液一次電池が適用されている各種用途に適用することができる。
【実施例】
【0069】
以下、本願で開示する筒形非水電解液一次電池を実施例に基づいて詳細に説明するが、以下の実施例は、本願で開示する筒形非水電解液一次電池を限定するものではない。
【0070】
(実施例1)
実施例1の筒形非水電解液一次電池について、[正極の作製]、[負極の作製]、[電極巻回体の作製]、[電池組み立て]、[後処理(予備放電、エージング)]の順に説明する。
【0071】
[正極の作製]
まず、以下の手順で、正極合剤を調製した。BET比表面積が800m2/gのケッチェンブラック“EC300J”(商品名)(導電助剤):2質量部と平均粒子径が35μmの二酸化マンガン(正極活物質):94.5質量部とを、プラネタリーミキサーを用いて乾式で5分間混合した後、固形分全体の20%(質量比)に相当する量の水を添加して更に5分間混合した。次に、PTFEディスパージョン(ダイキン工業社製「D-1」)をPTFEが3.5質量部となる割合で添加し、最後に、全体の固形分比率が74質量%となるまで水を添加し、更に5分間混合することによって正極合剤を得た。
【0072】
次に、直径:250mmで温度が125±5℃に調整されたロールにより、前記の正極合剤を圧延してシート状とし、105±5℃の温度環境下で残水分が2質量%以下になるまで乾燥させることにより、予備シートを形成した。更に、前記予備シートを、粉砕機により、粒子径がおよそ0.5mm以下の粉末状になるまで粉砕した後、再度、前記ロールを用いて圧延することにより、厚みが0.79mmで2.7g/cm3の密度を有する正極合剤シートとした。
【0073】
得られた正極合剤シートを裁断して、幅:37.5mm、長さ:64mmの内周用の正極合剤シート(
図2中、正極合剤シート42)と、幅:37.5mm、長さ:76mmの外周用の正極合剤シート(
図2中、正極合剤シート41)を得た。
【0074】
正極集電体には、ステンレス鋼(SUS316)製のエキスパンドメタルを用いた。このエキスパンドメタルを、幅:34mm、長さ:60mmに切断し、長さ方向の中央部に、厚み:0.1mm、幅:3mmのステンレス鋼製のリボンを正極リード体として抵抗溶接により取り付けた。更にこのエキスパンドメタルに、カーボンペースト(日本黒鉛社製)を、網の目をつぶさない程度に塗布した後、105±5℃の温度で乾燥して正極集電体とした。なお、カーボンペーストの塗布量は、乾燥後の塗布量で5mg/cm2となるようにした。
【0075】
次に、内周用の正極合剤シートと外周用の正極合剤シートの間に正極集電体を介在させた状態で、長さ方向の一方の端部のみを固定して、それぞれの正極合剤シートと正極集電体とを一体化させた。具体的には、内周用の正極合剤シートと外周用の正極合剤シートを、長さ方向の一方の端部を揃えると共に、正極集電体の端部が、2枚の正極合剤シートの前記端部からはみ出ないようにセットし、その状態で、2枚の正極合剤シートの前記端部から5mmの箇所をプレスにより圧着することで、それぞれの正極合剤シートと正極集電体とを一体化させた。その後、300±10℃で15分間熱風乾燥することにより、厚みが1.6mm、幅が37.5mmのシート状正極を得た。
【0076】
[負極の作製]
幅:39mm、長さ:170mm、厚み:15μmの銅箔(負極集電体)上に、幅:37mm、長さ:165mm、厚み:0.27mmの金属リチウム箔を配置し、更にその上に、幅:27mm、長さ:165mm、厚み:6μmのアルミニウム箔を、巻回構造の電極群として外装缶に挿入した際に電池下側となる幅方向の端部をそろえて配置し、シート状負極を構成した。前記金属リチウム箔には、幅:3mm、長さ:20mm、厚み:0.1mmのニッケル製の負極リード体を圧着した。なお、このシート状負極では、電池の組み立て後に表面にリチウム-アルミニウム合金が形成される。
【0077】
[巻回電極体の作製]
幅:45mm、長さ:180mm、厚み:16μmのPE製微多孔フィルム(空孔率:46%、透気度:200秒/100mL、突き刺し強度:380g)を2枚そろえて、互いに貼り合わせずに積層し、セパレータとして用いた。
【0078】
前記シート状負極を、銅箔を内側にして折り返し、折り曲げた箇所を長手方向の内周側にして、前記セパレータおよび前記シート状正極と共に巻回し、巻回電極体とした。なお、巻回に際し、セパレータの一方の端部(電池の上側に配置される端部)が、負極の端部(電池の上側に配置される端部)から1.5mm突出するように配置した。
【0079】
巻回電極体の電池底側の面では、セパレータの正極からはみ出した部分を巻回電極体の巻回中心側に向かって折り曲げ、巻回電極体の電池底側の面において、正極の端面をセパレータでカバーした。
【0080】
[電池の組み立て]
筒形非水電解液一次電池の組み立て工程を、
図1を参照して説明する。ニッケルメッキした鉄缶からなる有底円筒形の外装缶2の底部2aに、厚み:0.2mmのPP製の絶縁板14を挿入し、その上に巻回電極体3を、正極リード体15が上側を向く姿勢で挿入した。巻回電極体3の負極リード体16を外装缶2の内面に抵抗溶接し、正極リード体15は、絶縁板10を挿入した後に、端子体9の下面に抵抗溶接した。
【0081】
電解液には、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメトキシエタンとの混合溶媒(体積比で1:1:3)に、LiCF3SO3を0.7mol/Lの濃度で溶解させた非水系の溶液を用意し、これを外装缶2内に3.5mL注入した。注入は3回に分け、最終工程で減圧しつつ全量を注入した。電解液の注入後、蓋板7を外装缶2の上方開口部に嵌合し、レーザー溶接により外装缶2の開口端部の内周部と蓋板7の外周部とを溶接して外装缶2の開口部を封口した。
【0082】
[後処理(予備放電、エージング)]
封口した電池を、1Ωの抵抗で30秒間予備放電し、70℃で6時間保管した後、1Ωの定抵抗で1分間、2次予備放電を行い、シート状負極のセパレータ側表面にリチウム-アルミニウム合金を形成させた。予備放電後の電池を、室温で7日間エージングし、開路電圧を測定して安定電圧が得られていることを確認して、外径:17.0mm、総高:45mmの筒形非水電解液一次電池を得た。
【0083】
(実施例2)
幅:45mm、長さ:180mm、厚み:16μmのPE製微多孔フィルム(空孔率:46%、透気度:200秒/100mL、突き刺し強度:380g)と、同じサイズの厚み:9μmのPE製微多孔フィルム(空孔率:40%、透気度:150秒/100mL、突き刺し強度:290g)とをそろえて、互いに貼り合わせずに積層し、これをセパレータとして用いた以外は、実施例1と同様にして筒形非水電解液一次電池を作製した。
【0084】
(実施例3)
シート状負極の作製において、金属リチウム箔上にアルミニウム箔を積層せず、負極の表面にリチウム-アルミニウム合金を形成しないようにした以外は、実施例1と同様にして筒形非水電解液一次電池を作製した。
【0085】
(比較例1)
幅:45mm、長さ:180mm、厚み:16μmのPE製微多孔フィルム(空孔率:46%、透気度:200秒/100mL、突き刺し強度:380g)と、同じサイズの厚み:20μmのPP製不織布(空孔率:61%、透気度:10秒/100mL)とをそろえて、互いに貼り合わせずに積層し、これをセパレータとして用いた以外は、実施例1と同様にして筒形非水電解液一次電池を作製した。
【0086】
なお、比較例1では、巻回構造の電極群を外装缶に挿入する際に、一部の電池で巻回軸方向に巻回ずれが生じたため、巻回ずれを生じなかった組み立て体のみ封口を行い、電池を作製した。
【0087】
(比較例2)
幅:45mm、長さ:180mm、厚み:25μmのPP製微多孔フィルム(空孔率:38%、透気度:620秒/100mL、突き刺し強度:466g)1枚をセパレータとして用いた以外は、実施例1と同様にして筒形非水電解液一次電池を作製した。
【0088】
(比較例3)
正極合剤シートの厚みを調整することにより、正極の厚みを1.3mmとし、また、厚み:20μmのPP製不織布を、厚み:40μmのPP製不織布に変更した以外は、比較例1と同様にして筒形非水電解液一次電池を作製した。
【0089】
実施例1~3および比較例1~3の筒形非水電解液一次電池に用いた正極およびセパレータの構成を表1に示す。
【0090】
【0091】
まず、実施例1~2および比較例1~2の筒形非水電解液一次電池に用いたセパレータについて、
図4に示す装置を用いて以下の試験によりセパレータの強度の測定を行った。
【0092】
30mm×30mmの大きさに切断したセパレータ6の両端部を保持具20で固定し、
図4に示す先端形状を有する加圧用治具21により、セパレータ6の中心を5mm/秒の速度で垂直方向に押し下げながら、前記治具21にかかる荷重(N)および治具21の移動距離をそれぞれ押しつけ強度および押しつけ距離として測定し、セパレータ6の強度を評価した。各セパレータの押しつけ距離に対する押しつけ強度の変化の様子を
図5~
図8に示す。
図5が実施例1で用いたセパレータの結果であり、
図6が実施例2で用いたセパレータの結果であり、
図7が比較例1で用いたセパレータの結果であり、
図8が比較例2で用いたセパレータの結果である。
【0093】
図5および
図6と
図7との比較より明らかなように、厚みが7~20μmの樹脂製微多孔フィルムを2枚重ねてセパレータとした実施例1および実施例2では、厚みが7~20μmの樹脂製微多孔フィルムと不織布とを重ねてセパレータとした比較例1に比べ、セパレータの厚みを薄くしても押しつけ強度の最大値を大きくすることができると共に、押しつけ強度が急激に低下する(セパレータの破断)までの押しつけ距離を長くすることができる。従って、正極の厚みが増大して押圧力が大きくなった場合でも、セパレータの破れによる内部短絡の発生を抑制することができる。
【0094】
また、
図6と
図8との比較より明らかなように、樹脂製微多孔フィルムを2枚重ねてセパレータとすることにより、同じ厚みの1枚の樹脂製微多孔フィルムをセパレータとするよりも、セパレータの強度を高めて内部短絡の発生を抑制することができる。
【0095】
更に、樹脂製微多孔フィルム同士を重ねてセパレータとすることにより、樹脂製微多孔フィルムと不織布とを重ねてセパレータとするよりも、両者の対向面の摩擦係数を大きくすることができるので、巻回電極体を外装缶に挿入する際の不良の発生を防ぐことができる。
【0096】
次に、実施例1~3および比較例1~3の筒形非水電解液一次電池について、下記の放電容量測定、およびパルス放電特性評価を行った。その結果を表2に示す。
【0097】
[放電容量]
各筒形非水電解液一次電池について、20℃で、40mAの電流値で連続放電し、電池電圧が2.0Vになるまでの放電容量を測定した。なお、各電池の試料数は5個とし、その平均値を各実施例、比較例の電池の放電容量とした。
【0098】
[パルス放電特性]
各筒形非水電解液一次電池(前記放電容量測定を行ったものとは別の電池)について、-20℃で、500mAの電流値で0.25sパルス放電した時の最低電圧を測定した。
【0099】
【0100】
実施例1~3の筒形非水電解液一次電池では、正極の厚みを増加させた場合でも、組み立て時の不良発生を防ぐことができ、実施例1~3より正極の厚みを薄くした比較例3に比べて高容量の電池を構成することができた。
【0101】
一方、樹脂製微多孔フィルムと不織布とを重ねてセパレータとした比較例1の電池では、組み立て時の不良発生が認められた。また、1枚の樹脂製微多孔フィルムのみをセパレータとした比較例2の電池では、セパレータの強度が実施例の電池よりも劣るため、正極表面の凹凸が大きくなった場合などに、微短絡を生じやすくなる。
【0102】
また、実施例1と実施例3の筒形非水電解液一次電池について、20℃の環境下で1kHzにおけるインピーダンスを測定した後、80℃で相対湿度90%の環境下で40日間貯蔵を行い、放冷後、再度前記条件でのインピーダンスを測定し、貯蔵前後でのインピーダンスの増加量を求めた。その結果を表3に示す。
【0103】
【0104】
負極の表面にリチウム-アルミニウム合金を形成した実施例1の電池のインピーダンスの増加は、14mΩとわずかであり、一方、リチウム-アルミニウム合金を形成しなかった実施例3の電池のインピーダンスの増加は、134mΩと大きな値となった。実施例1の電池では、負極の表面にリチウム-アルミニウム合金を形成することにより、負極の表面へのマンガンの析出を防ぐことができたため、電池の内部抵抗の上昇を抑制することができた。
【0105】
(実施例4)
エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメトキシエタンとの混合溶媒(体積比で1:1:3)に、LiCF3SO3を0.7mol/Lの濃度で溶解させ、更にLiB(C2O4)2を0.5質量%となる割合で含有させた非水系の溶液を電解液として用いた以外は、実施例1と同様にして筒形非水電解液一次電池を作製した。
【0106】
(実施例5)
エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメトキシエタンとの混合溶媒(体積比で1:1:3)に、LiCF3SO3を0.7mol/Lの濃度で溶解させ、更にLiB(C2O4)2を0.5質量%となる割合で含有させた非水系の溶液を電解液として用いた以外は、実施例2と同様にして筒形非水電解液一次電池を作製した。
【0107】
(実施例6)
エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメトキシエタンとの混合溶媒(体積比で1:1:3)に、LiCF3SO3およびLiBF4を、それぞれ0.7mol/Lおよび0.08mol/Lの濃度で溶解させ、更にLiB(C2O4)2を0.5質量%となる割合で含有させた非水系の溶液を電解液として用いた以外は、実施例1と同様にして筒形非水電解液一次電池を作製した。
【0108】
(実施例7)
シート状負極の作製において、金属リチウム箔上にアルミニウム箔を積層せず、負極の表面にリチウム-アルミニウム合金を形成しないようにした以外は、実施例4と同様にして筒形非水電解液一次電池を作製した。
【0109】
次に、実施例4~7の筒形非水電解液一次電池について、前述の実施例1~3と同様にして放電容量測定、およびパルス放電特性評価を行った。その結果を、前述の比較例1~3の結果と共に表4に示す。
【0110】
【0111】
実施例4~7の筒形非水電解液一次電池では、正極の厚みを増加させた場合でも、前述の実施例1~3と同様に、組み立て時の不良発生を防ぐことができ、実施例4~7より正極の厚みを薄くした比較例3に比べて高容量の電池を構成することができた。
【0112】
また、実施例4、実施例6および実施例7の筒形非水電解液一次電池について、20℃の環境下で1kHzにおけるインピーダンスを測定した後、80℃で相対湿度90%の環境下で40日間貯蔵を行い、放冷後、再度前記条件でのインピーダンスを測定し、貯蔵前後でのインピーダンスの増加量を求めた。その結果を、前述の実施例1および3の結果と共に表5に示す。
【0113】
【0114】
LiCF3SO3(リチウム塩A)と、LiB(C2O4)2とを含有する非水電解液を用いた実施例4および実施例6の電池のインピーダンスの増加は、LiB(C2O4)2を含有しない非水電解液を用いた実施例1の電池のインピーダンスの増加に比べて小さく、非水電解液と負極との反応が効果的に抑制されており、電池の長期信頼性をより向上させることができた。
【0115】
また、負極の表面にリチウム-アルミニウム合金を形成した実施例4および実施例6の電池では、負極へのマンガンの析出をより効果的に防ぐことができたため、負極の表面にリチウム-アルミニウム合金を形成しなかった実施例7に比べて、電池のインピーダンスの上昇を大幅に抑制することができた。特に、LiB(C2O4)2と共にLiBF4(リチウム塩B)を電解液に含有させた実施例6の電池では、電池のインピーダンスの上昇をより一層抑制することができ、電池の長期信頼性を大幅に向上させることができた。
【0116】
更に、負極の表面にリチウム-アルミニウム合金を形成しなかった実施例7および実施例3との比較でも、LiCF3SO3(リチウム塩A)と、LiB(C2O4)2とを含有する非水電解液を用いた実施例7の電池のインピーダンスの増加は、LiB(C2O4)2を含有しない非水電解液を用いた実施例3の電池のインピーダンスの増加に比べて小さく、非水電解液と負極との反応が効果的に抑制されており、電池の長期信頼性を向上させることができた。
【0117】
(実施例8)
[正極の作製]
正極合剤の調製において、導電助剤として、ケッチェンブラック“EC300J”(商品名):1質量部とアセチレンブラック:1質量とを用いた以外は、実施例1と同様にして、厚みが0.79mmで2.87g/cm3の密度を有する正極合剤シートを作製した。
【0118】
得られた正極合剤シートを裁断して、幅:42.5mm、長さ:64mmの内周用の正極合剤シートと、幅:42.5mm、長さ:76mmの外周用の正極合剤シートを得た。
【0119】
更に、正極集電体として、幅:39mm、長さ:60mmのステンレス鋼(SUS316)製のエキスパンドメタルを用いた以外は、実施例1と同様にして、厚みが1.6mm、幅が42.5mmのシート状正極を得た。
【0120】
[負極の作製]
幅:43mm、長さ:170mm、厚み:15μmの銅箔(負極集電体)上に、幅:42mm、長さ:165mm、厚み:0.27mmの金属リチウム箔を配置し、更にその上に、幅:32mm、長さ:165mm、厚み:6μmのアルミニウム箔を、巻回構造の電極群として外装缶に挿入した際に電池下側となる幅方向の端部をそろえて配置し、シート状負極を構成した。前記金属リチウム箔には、幅:3mm、長さ:25mm、厚み:0.1mmのニッケル製の負極リード体を圧着した。なお、このシート状負極では、電池の組み立て後に表面にリチウム-アルミニウム合金が形成される。
【0121】
[巻回電極体の作製]
幅:49mm、長さ:180mm、厚み:16μmのPE製微多孔フィルム(空孔率:46%、透気度:200秒/100mL、突き刺し強度:380g)を2枚そろえて、互いに貼り合わせずに積層し、セパレータとして用いた以外は、実施例1と同様にして巻回電極体を作製した。
【0122】
[電池の組み立て]
前記巻回電極体を用い、電解液の注入量を4.1mLとし、以下、実施例1と同様にして、外径:17.0mm、総高:50mmの筒形非水電解液一次電池を作製した。
【0123】
実施例8の電池について、20℃で、40mAの電流値で電池電圧が2.0Vになるまで連続放電させたところ、3230mAhの放電容量が得られた。実施例8においても、実施例1と同様に高容量の電池を構成することができた。
【0124】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、上記以外の形態としても実施が可能である。本願に開示された実施形態は一例であって、これらに限定はされない。本発明の範囲は、上述の明細書の記載よりも、添付されている請求の範囲の記載を優先して解釈され、請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更は、請求の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0125】
1 筒形非水電解液一次電池
2 外装缶
2a 底部
3 巻回電極体
4 正極
41、42 正極活物質層
43 正極集電体
5 負極
51 負極活物質層
52 負極集電体
6 セパレータ
61、62 樹脂製微多孔フィルム
7 蓋板
8 絶縁パッキング
9 端子体
10 絶縁板
11 ベース部
12 側壁
13 ガス通口
14 絶縁板
20 保持具
21 加圧用治具