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特許7190063水晶発振器の加速度感度を測定する方法およびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】水晶発振器の加速度感度を測定する方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20221207BHJP
   G01P 15/18 20130101ALI20221207BHJP
   G01R 23/10 20060101ALI20221207BHJP
   G01P 21/00 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
G01H17/00 D
G01P15/18
G01R23/10 H
G01P21/00
【請求項の数】 32
(21)【出願番号】P 2021558605
(86)(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-09
(86)【国際出願番号】 RU2019000202
(87)【国際公開番号】W WO2020204740
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-11-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505315742
【氏名又は名称】トプコン ポジショニング システムズ, インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 直輝
(72)【発明者】
【氏名】マーク イサコビッチ ゾジシュスキー
(72)【発明者】
【氏名】ウラジーミル ヴィクトロヴィッチ ベログラゾフ
(72)【発明者】
【氏名】ダニラ スヴィャトスラヴォヴィッチ ミリュティン
(72)【発明者】
【氏名】ロマン ヴァレリーヴィチ クリニン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァディム ボリソヴィッチ クズミッチェフ
(72)【発明者】
【氏名】セルゲイ ヴィクトロビッチ ロガチコフ
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-138413(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0261618(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0199744(US,A1)
【文献】Morley, P.E. ,Method for Measurement of the Sensitivity of Crystal Resonators to Repetitive Stimuli,2002 IEEE International Frequency Control Symposium and PDA Exhibition,2002年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 17/00
G01R 23/00- 23/20
H03H 9/19
G01P 15/00- 15/18
H03B 5/00- 5/28
H03L 1/00- 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルランクシステムを構成する複数の軸それぞれの周りに水晶発振器を連続して回転させる工程と、
前記水晶発振器を回転させる工程中に、前記水晶発振器の周波数を所定の速度で時間関数として測定する工程と、
前記水晶発振器を回転させる工程中に、データ当て嵌め推定モデルと、前記水晶発振器の周波数を測定する工程で得られた複数の周波数測定値とを用いて、積分加速度感度ベクトルを推定する工程と、を含む、
ことを特徴とする、水晶発振器の加速度感度を推定する方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記データ当て嵌め推定モデルは、最小二乗法(LSM)、カルマンフィルタ、ニューラルネットワーキング法、回帰法、ヒューリスティック推定法および非線形推定法のうちのいずれか一つである、
ことを特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記測定する工程を実施することにより、前記複数の軸それぞれの周りに前記水晶発振器を回転させる工程中に周波数推定値を導出し、前記水晶発振器の周波数の相対偏差を求め、
前記複数の軸は、X軸、Y軸およびZ軸を含む3つの直交軸である、
ことを特徴とする、方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記水晶発振器の周波数の相対偏差は、
前記X軸周りの回転に対応するyi x=109・(fi x-fq)/fq
前記Y軸周りの回転に対応するyi y=109・(fi y-fq)/fq、および
前記Z軸周りの回転に対応するyi z=109・(fi z-fq)/fqとして、10億分の1(ppb)の単位で表され、
i x、fi yおよびfi zはそれぞれ、前記X軸、Y軸およびZ軸それぞれの周りに回転する前記水晶発振器に関する周波数推定値であり、
qは、前記水晶発振器の公称周波数である、
ことを特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記所定の速度の値は、約10Hz以上である、
ことを特徴とする、方法。
【請求項6】
請求項1において、
前記積分加速度感度ベクトルを推定する工程は、前記水晶発振器における熱周波数変動を表すパラメータを含む、
ことを特徴とする、方法。
【請求項7】
請求項1において、
前記複数の軸は、X軸、Y軸およびZ軸を含む3つの直交軸であり、
前記複数の周波数測定値は、
前記X軸周りの回転に対応するyi x=Cx・cos(Φx(i・T))+Sx・sin(Φx(i・T))+Bx(i・T)+ni x
前記Y軸周りの回転に対応するyi y=Cy・cos(Φy(i・T))+Sy・sin(Φy(i・T))+By(i・T)+ni y、および
前記Z軸周りの回転に対応するyi z=Cz・cos(Φz(i・T))+Sz・sin(Φz(i・T))+Bz(i・T)+ni zとして表され、
Φx(i・T)、Φy(i・T)、Φz(i・T)は、前記X軸、Y軸およびZ軸それぞれの周りの回転のシナリオに従って算出した位相値であり、
i=1,2,...,Nxは、前記X軸周りの回転に対応する測定数であり、
i=1,2,...,Nyは、前記Y軸周りの回転に対応する測定数であり、
i=1,2,...,Nzは、前記Z軸周りの回転に対応する測定数であり、
Tは測定期間であり、
i x、ni yおよびni zは、前記X軸、Y軸およびZ軸それぞれの周りの回転に対応する離散ホワイトガウスノイズであり、
i x、yi yおよびyi zはそれぞれ、前記X軸、Y軸およびZ軸それぞれの周りに回転する水晶発振器の周波数の相対偏差であり、
x(i・T)、By(i・T)およびBz(i・T)はそれぞれ、前記X軸、Y軸およびZ軸それぞれの周りに回転する前記水晶発振器の一定シフトおよび熱周波数変動を表す時間依存項であり、
xおよびSx、CyおよびSy、ならびにCzおよびSzはそれぞれ、前記水晶発振器の回転時における、前記X軸、Y軸およびZ軸それぞれに直交する平面への前記水晶発振器の周波数の直交高調波成分の射影対である、
ことを特徴とする、方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記射影Cx、Sx、Cy、Sy、CzおよびSzは、前記データ当て嵌め推定モデルによって推定されることによって、前記射影Cx、Sx、Cy、Sy、CzおよびSzが評価され、これらの対応する推定値
および
が出力として得られる、
ことを特徴とする、方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記推定値
を用いて、前記水晶発振器の回転時における、前記X軸、Y軸およびZ軸のそれぞれに直交する平面YZ、XZおよびXYへの、前記積分加速度感度ベクトルの射影の二乗Ax 2、Ay 2、Az 2を算出する、
ことを特徴とする、方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記積分加速度感度ベクトルの射影の二乗Ax 2、Ay 2、Az 2は、

および
として表され、
前記積分加速度感度ベクトルの大きさは、
として算出される、
ことを特徴とする、方法。
【請求項11】
請求項10において、
前記積分加速度感度ベクトルPは、前記X軸、Y軸およびZ軸の各軸上の射影Px、Py、Pzを含み、
前記射影Px、Py、Pzの絶対値は、
として算出され、
任意の実数aについて
となる、
ことを特徴とする、方法。
【請求項12】
請求項8において、
最小二乗法(LSM)を適用して、
前記X軸周りの前記水晶発振器の回転に対応する前記推定値
および
を求め、
前記Y軸周りの前記水晶発振器の回転に対応する前記推定値
および
を求め、
前記Z軸周りの前記水晶発振器の回転に対応する前記推定値
および
を求める工程であって、
前記水晶発振器の周波数の各相対偏差は、
によって表され、
前記項Bx(i・T)、By(i・T)およびBz(i・T)は、以下の通り多項式で近似され、
dは前記多項式の次数であり、
k xは、射影Cx、Sx、Cy、Sy、CzおよびSzとともに推定される未知の係数である工程をさらに含む、
ことを特徴とする、方法。
【請求項13】
請求項12において、
LSMを用いて、
観測ベクトル

および
、それぞれによって、
パラメータベクトル

および
を推定する工程であって、
等しい重みの測定値のLSMの解は
として表され、
および
は、観測モデルにおける係数行列の行であり、
はそれぞれ
から転置により求められる工程をさらに含む、
ことを特徴とする、方法。
【請求項14】
請求項11において、
前記X軸、Y軸およびZ軸の各軸上の前記積分加速度感度ベクトルPの射影Px、Py、Pzの符号SNx、SNy、SNzを求め、
x=SNx・|Px|、
y=SNy・|Py|および
z=SNz・|Pz|に従って前記射影Px、Py、Pzの値を導出する、
ことを特徴とする、方法。
【請求項15】
請求項14において、
前記符号SNx、SNy、SNzはそれぞれ、前記X軸、Y軸およびZ軸のそれぞれについて連続して実施する2G-TIPOVER試験によって求め、評価され、g重力加速度を表す、
ことを特徴とする、方法。
【請求項16】
請求項14において、
前記符号SNx、SNy、SNzはそれぞれ、前記X軸、Y軸およびZ軸それぞれの周りに前記水晶発振器を連続して回転させている間に、回転角度を固定することによって求め、評価される、
ことを特徴とする、方法。
【請求項17】
請求項16において、
前記回転角度の固定は、前記連続する回転のそれぞれの開始時に行われる、
ことを特徴とする、方法。
【請求項18】
請求項16において、
前記回転角度の固定は、前記連続する回転のそれぞれの終了時に行われる、
ことを特徴とする、方法。
【請求項19】
請求項12において、
前記X軸、Y軸およびZ軸周りの回転は、実質的に一定の角速度で行われ、
前記位相値は
Φx(i・T)=Φy(i・T)=Φz(i・T)=ωrot・i・Tとして表され、
ωrot=2π・frotは角速度である、
ことを特徴とする、方法。
【請求項20】
請求項19において、
前記実質的に一定の角速度の値は、毎秒約0.3から1回転の範囲である、
ことを特徴とする、方法。
【請求項21】
請求項1において、
前記水晶発振器は、前記水晶発振器の周波数を測定するための全地球航法衛星システム(GNSS)受信機基板上の所定位置に固定され、
前記GNSS受信機基板において、定置型アンテナから信号を受信し、これにロックして、クロックオフセットおよびドリフトレートに基づいてデリバティブオフセット(DO)を求める工程と、
前記GNSS受信機基板をX軸、Y軸およびZ軸それぞれの周りに回転させながら、前記水晶発振器の周波数の相対偏差を求める工程であって、各相対偏差は、
i x=109・DOi x
i y=109・DOi yおよび
i z=109・DOi zとして表される工程と、をさらに含む、
ことを特徴とする、方法。
【請求項22】
メモリに記憶されたコンピュータプログラム命令を実行するプロセッサを備え、
前記コンピュータプログラム命令は、前記プロセッサによって実行されると、
試験用に水晶発振器を収容する試験アダプタユニットと協働して、フルランクシステムを構成する複数の軸それぞれの周りに前記水晶発振器を連続して回転させる動作と、
前記水晶発振器を回転させる動作中に、前記水晶発振器の周波数を所定の速度で時間関数として測定する動作と、
前記水晶発振器を回転させる動作中に、データ当て嵌め推定モデルと、前記水晶発振器の周波数を測定する動作で得られた複数の周波数測定値とを用いて、積分加速度感度ベクトルを推定する動作と、を前記プロセッサに実行させる、
ことを特徴とする、水晶発振器の加速度感度を推定するシステム。
【請求項23】
請求項22において、
前記測定する動作を実行することにより、前記複数の軸それぞれの周りに前記水晶発振器を回転させる動作中に、周波数推定値を導出し、前記水晶発振器の周波数の相対偏差を求め、
前記複数の軸は、X軸、Y軸およびZ軸を含む3つの直交軸である、
ことを特徴とする、システム。
【請求項24】
請求項23において、
前記水晶発振器の周波数の相対偏差は、
前記X軸周りの回転に対応するyi x=109・(fi x-fq)/fq
前記Y軸周りの回転に対応するyi y=109・(fi y-fq)/fqおよび
前記Z軸周りの回転に対応するyi z=109・(fi z-fq)/fqとして、10億分の1(ppb)の単位で表され、
i x、fi yおよびfi zはそれぞれ、前記X軸、Y軸およびZ軸それぞれの周りに回転する前記水晶発振器に関する周波数推定値であり、
qは、前記水晶発振器の公称周波数である、
ことを特徴とする、システム。
【請求項25】
請求項22において、
前記複数の軸は、X軸、Y軸およびZ軸を含む3の直交軸であり、
前記複数の周波数測定値は、
前記X軸周りの回転に対応するyi x=Cx・cos(Φx(i・T))+Sx・sin(Φx(i・T))+Bx(i・T)+ni x
前記Y軸周りの回転に対応するyi y=Cy・cos(Φy(i・T))+Sy・sin(Φy(i・T))+By(i・T)+ni yおよび
前記Z軸周りの回転に対応するyi z=Cz・cos(Φz(i・T))+Sz・sin(Φz(i・T))+Bz(i・T)+ni zとして表され、
Φx(i・T)、Φy(i・T)、Φz(i・T)は、前記X軸、Y軸およびZ軸それぞれの周りの回転のシナリオに従って算出した位相値であり、
i=1,2,...,Nxは、前記X軸周りの回転に対応する測定数であり、
i=1,2,...,Nyは、前記Y軸周りの回転に対応する測定数であり、
i=1,2,...,Nzは、前記Z軸周りの回転に対応する測定数であり、
Tは測定期間であり、
i x、ni yおよびni zは、前記X軸、Y軸およびZ軸それぞれの周りの回転に対応する離散ホワイトガウスノイズであり、
i x、yi yおよびyi zはそれぞれ、前記X軸、Y軸およびZ軸それぞれの周りに回転する前記水晶発振器の周波数の相対偏差であり、
x(i・T)、By(i・T)およびBz(i・T)はそれぞれ、前記X軸、Y軸およびZ軸それぞれの周りに回転する前記水晶発振器の一定シフトおよび熱周波数変動を表す時間依存項であり、
xおよびSx、CyおよびSy、ならびにCzおよびSzはそれぞれ、前記水晶発振器の回転時における、前記X軸、Y軸およびZ軸それぞれに直交する平面への前記水晶発振器の周波数の直交高調波成分の射影対である、
ことを特徴とする、システム。
【請求項26】
請求項25において、
前記射影Cx、Sx、Cy、Sy、CzおよびSzは、前記データ当て嵌め推定モデルによって推定されることによって、前記射影Cx、Sx、Cy、Sy、CzおよびSzが評価され、これらの対応する推定値
および
が出力として得られる、
ことを特徴とする、システム。
【請求項27】
請求項26において、
前記推定値
を用いて、前記水晶発振器の回転時における、前記X軸、Y軸およびZ軸それぞれに直交する平面YZ、XZおよびXYへの、前記積分加速度感度ベクトルの射影の二乗Ax 2、Ay 2、Az 2を算出する、
ことを特徴とする、システム。
【請求項28】
請求項27において、
前記積分加速度感度ベクトルの射影の二乗Ax 2、Ay 2、Az 2は、

および
して表され、
前記積分加速度感度ベクトルの大きさは、
として算出される、
ことを特徴とする、システム。
【請求項29】
請求項28において、
前記積分加速度感度ベクトルPは、前記X軸、Y軸およびZ軸の各軸上の射影Px、Py、Pzを含み、
前記射影Px、Py、Pzの絶対値は、
、て算出され、
任意の実数aについて
となる、
ことを特徴とする、システム。
【請求項30】
請求項22において、
前記複数の軸は、X軸、Y軸およびZ軸を含む3つの直交軸を含み、
前記X軸、Y軸、Z軸周りの回転は、実質的に一定の角速度で実施され、前記実質的に一定の角速度の値は、毎秒約0.3から1回転の範囲であり、前記所定の速度の値は約10Hz以上である、
ことを特徴とする、システム。
【請求項31】
水晶発振器の加速度感度を推定するためのコンピュータプログラム命令を記憶する非一時的コンピュータ可読媒体であって、
前記コンピュータプログラム命令は、プロセッサにおいて実行されると、
試験用に前記水晶発振器を収容する試験アダプタユニットと協働して、フルランクシステムを構成する複数の軸それぞれの周りに前記水晶発振器を連続して回転させる動作と、
前記水晶発振器を回転させる動作中に、前記水晶発振器の周波数を所定の速度で時間関数として測定する動作と、
前記水晶発振器を回転させる動作中に、データ当て嵌め推定モデルと、前記水晶発振器の周波数を測定する動作で得られた複数の周波数測定値とを用いて、積分加速度感度ベクトルを推定する動作と、を前記プロセッサに実行させる、
ことを特徴とする、非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項32】
請求項31において、
前記測定する動作を実行することにより、前記複数の軸それぞれの周りに前記水晶発振器を回転させる動作中に、周波数推定値を導出し、前記水晶発振器の周波数の相対偏差を求め、前記複数の軸は、X軸、Y軸およびZ軸を含む3つの直交軸である、
ことを特徴とする、非一時的コンピュータ可読媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、水晶発振器を使用する部品およびシステムの試験に関し、特に、ナビゲーションシステムなどに利用される水晶発振器への加速度の影響に対する感度を測定することに関する。
【背景技術】
【0002】
水晶発振器は、例えば、コンピュータ、通信、無線位置特定、ナビゲーションなどの、安定した周波数基準を必要とする数多く様々な装置、システムおよび用途で使用される。一般的に、水晶発振器は必要な周波数安定性を有し、原子周波数基準やルビジウム周波数基準などに比べて、より費用対効果の高い選択肢になり得る。
【0003】
発振器の主要性能指標の一つとして、環境要因の影響の存在下における周波数安定性が挙げられる。環境要因の影響には振動子を内蔵した装置やシステムの性能を著しく低下させ得るものがある。例えば、精度が最重要視されるナビゲーションシステムで使用する発振器では、周波数安定性が重要な設計パラメータとなる。ナビゲーションシステムは、環境条件に起因する性能低下を起こしやすい。そのため、周波数基準として用いる発振器の品質や性能が低下すると、ナビゲーションシステムの精度に悪影響を及ぼす可能性がある。製品の性能に対する期待はますます高まっており、その結果、システムの仕様においても、発振器などの個々の部品に対する性能要求が高まっている。
【0004】
水晶発振器の周波数安定性には様々な要因が悪影響を及ぼすと考えられるが、その影響は好ましくない周波数シフトとして現れることが多い。例えば、このような周波数シフトは、温度変化(例えば周囲温度の変化および/または発振器内の素子に対する熱伝導の影響)、湿度、圧力、供給電圧や負荷の変化、外部電磁場の存在、部品の経年劣化などの条件により発生することがある。
【0005】
また、発振器は、衝撃、回転、振動、運動および傾斜に起因する加速度に対して非常に敏感であることが知られている。このような条件は、ナビゲーションシステムのような精密な発振器が求められる用途では特に問題となり得る。例えば、現在ナビゲーションシステムは、建設および農業用途の重機や機械(例えば「移動機械」)の操作において広く利用されている。例えば、操作機器として、掘削、道路補修、作物収穫などの様々な精密誘導作業を支援する機内ナビゲーション受信機が挙げられる。これらの用途における使用条件の性質から見て、衝撃要因および振動要因の影響は、水晶発振器を利用するナビゲーション受信機の精度に悪影響を及ぼす可能性がある。例えば、稼働中に、移動機械に設置されたナビゲーション受信機が、機械に搭載された作業用部品の動作による揺れ、衝撃、振動はもとより移動中の揺れなどの外乱を受けることがある。これらの影響を軽減したり補正したりするために、機器やシステムには様々な技術を用いることができるが、このような機器の実用前には、やはりより優れた試験方法や測定方法が求められる。
【0006】
水晶発振器が必要な性能基準を満たすようにするためには、周波数安定性および振動安定性、特に加速度に対する発振器の感度を測定する正確で信頼性の高い試験技術や確認技術が必要となる。加速度の影響に対する水晶発振器の安定性の推定値を加速度感度という。加速度感度は、海抜ゼロの地球表面における重力加速度(約9.81m/s)をgとした場合に、発振器に1gの加速度を加えた時の発振器の出力周波数の相対変化として定義される。
【0007】
発振器の加速度感度は、発振器の製造工程中に測定することができ、この目的のために発振器製造業者では様々な周知の技術が用いられてきた。しかし、発振器が回路基板に組み込まれ、さらにナビゲーション受信機などのシステムに組み込まれてしまった後は、試験手順や確認手順がより複雑になる。例えば、機器の筐体には挿入されていないが回路基板に実装した水晶発振器の加速度感度の測定では、加速度感度の推定値に影響を与える可能性のある熱効果が発生する。また、水晶発振器は大量生産されるため、求められる性能やこれらの装置が採用される運用条件が多岐に渡ることから、品質管理面の懸念も生じる。予想され得るように、より厳しい振動環境条件やその他の環境条件にさらされる商業および産業用途のナビゲーションシステムの製造者または使用者は、幅広い装置の用途に対応している発振器装置製造業者が実施する試験に必ずしも頼ることができない。
【0008】
水晶発振器における加速度感度を試験および測定するために様々な方法が使用されている。これらの方法は、静的または動的のいずれかに分類される。静的試験では、水晶結晶を一軸に沿った静止位置(すなわち、静的位置)に所定時間保持する。所定時間中は該結晶に影響を及ぼす重力加速度を変化させない。次に、該結晶の位置を変更し(典型的には180?回転するなど)、この変更位置で最初の位置と同じ所定時間、該結晶を保持する。静的試験は明らかに簡便ではあるが、いくつかの欠点を有する。例えば、発振器の周波数の温度ドリフトを測定および/または把握するには不十分であり、実際の用途や運用では深刻な考慮事項となり得る。動的試験では、試験中に必要な加速度を得るために複数種類の装置および試験設備(例えば、振動ベンチなど)を使用することがある。例えば、振動ベンチを使用して異なる周波数と強度の調和振動や不規則振動を生成することがある。しかしながら、振動ベンチなどの動的試験設備はかなり高価になる恐れがあり、該設備や試験実施のために特別な条件を厳密に制御することが求められる場合がある。
【発明の概要】
【0009】
振動の影響やその他の機械力を受ける環境で動作する、ナビゲーション受信機などの精密なシステムに内蔵される水晶発振器の加速度感度を測定するための改良された試験方法が必要とされている。本明細書に記載される実施形態は、従来の試験方法の問題および課題を解決する技法で水晶発振器の加速度感度を測定する方法およびシステムを含む。
【0010】
一実施形態によれば、水晶発振器の加速度感度を推定する方法は、フルランクシステムを構成する複数の軸それぞれの周りに水晶発振器を連続して回転させる工程と、水晶発振器を回転させながら、水晶発振器の周波数を所定の速度で時間関数として測定する工程と、水晶発振器を回転させながら、例えば最小二乗法(LSM)などのデータ当て嵌め推定モデルと、水晶発振器を3つの直交軸周りに回転させながら求めた複数の周波数測定値とを用いて、積分加速度感度ベクトルを推定する工程と、を含む。
【0011】
一実施形態によれば、フルランクシステムにおける複数の軸は、X軸、Y軸およびZ軸を含む3つの直交軸である。一例では、X軸、Y軸およびZ軸周りの回転は、実質的に一定の角速度で行われる。
【0012】
一実施形態によれば、水晶発振器の周波数を測定して周波数推定値を導出し、この周波数推定値を使用して、水晶発振器を3つの直交軸周りに回転させた時の公称周波数に対する水晶発振器の周波数の相対偏差を取得する。相対偏差は10億分の1(ppb)単位で表される。
【0013】
一実施形態によれば、一定の角速度は、毎秒約0.3から1回転の範囲の値にすることができ、周波数測定の所定の速度は、約10HZ以上の値にすることができる。
【0014】
一実施形態によれば、積分加速度感度ベクトルの推定を容易にするために、水晶発振器の回転による周波数測定値は、相対周波数偏差、角速度、熱周波数変動を表す時間依存項および回転の各軸にそれぞれ直交する平面への発振器の周波数の直交高調波成分の射影の関数として表される。
【0015】
別の実施形態によれば、水晶発振器の加速度感度を推定するための動作を実行するために、メモリに記憶されたコンピュータプログラム命令を実行するプロセッサを備えるシステムが提供される。動作としては、試験用に水晶発振器を収容する試験アダプタユニットと協働して、実質的に一定の角速度で3つの直交軸の各軸周りに水晶発振器を連続して回転させる動作と、水晶発振器を回転させる動作中に、水晶発振器の周波数を所定の速度で時間関数として測定する動作と、水晶発振器を回転させる動作中に、データ当て嵌め推定モデルと、水晶発振器の周波数を測定する動作で得られた複数の周波数測定値とを用いて、積分加速度感度ベクトルを推定する動作とが含まれる。
【0016】
別の実施形態によれば、水晶発振器の周波数の相対偏差は、全地球航法衛星システム(GNSS)受信機基板上の所定位置に水晶発振器を固定し、GNSSシステム時間に対するクロックオフセットおよびドリフトレートに基づいて微分オフセット変数(DERIVATIVE OFFSET VARIABLE)を考慮して測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】加速度感度ベクトルを三次元で表した図である。
図2】従来の静的試験方法に対応するグラフプロットである。
図3】従来の動的試験方法に対応するグラフプロットである。
図4】本発明の例示的実施形態に係る方法を示すフローチャートである。
図5】本発明の例示的実施形態に係る周波数測定値を示すグラフプロットである。
図6】本発明の例示的実施形態に係る加速度感度ベクトルを三次元で表した図である。
図7】本発明の例示的実施形態に係るシステムのブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、様々な例示的実施形態を、その例示的実施形態のいくつかを示す添付図面を参照しながらより詳細に説明する。ただし、例示的実施形態を開示した特定の形態に限定する意図はなく、反対に、例示的実施形態は、特許請求の範囲内のあらゆる変形例、均等物および代替物を網羅することを意図するものであることを理解されたい。図の説明全体を通して、同様の符号は同様の要素を示す。本明細書において、第1、第2などの用語を用いて様々な要素を説明することがあるが、これらの要素はこれらの用語によって限定されるものではないことが理解されよう。これらの用語は、ある要素を別の要素と区別するためだけに使用される。例えば、例示的実施形態の範囲から逸脱することなく、第1の要素を第2の要素と称することができ、同様に、第2の要素を第1の要素と称することができる。本明細書で使用する「および/または」という用語は、関連する列挙した項目のうちの1つ以上の任意の組合せおよびすべての組み合わせを含む。
【0019】
振動の影響やその他の機械力を受ける環境で動作する、ナビゲーション受信機などの精密なシステムに内蔵される水晶発振器の加速度感度を測定するための改良された試験方法が必要とされている。本明細書に記載される実施形態は、従来の試験方法の問題および課題を解決する技法で水晶発振器の加速度感度を測定する方法およびシステムを含む。
【0020】
上述の通り、加速度の影響に対する水晶発振器の安定性の推定値を加速度感度という。加速度感度は、海抜ゼロの地球表面における重力加速度(約9.81m/s)をgとした場合に、発振器に1gの加速度を加えた時の発振器の出力周波数の相対変化として定義される。一般的に、異なる種類の発振器では、相対周波数シフトはそれらの構成によって異なり、10-8から10-10の範囲となり得る。これはppb/g(10億分の1/g)で表すことが多い。ppb/gという単位は、1gの加速度で相対周波数が10-9変化することに相当する。加速度感度は、その値(大きさ)と加速度の方向との両方によって決まるため、ベクトルとして表される。
【0021】
加速度感度の測定値は、フルランクシステムの複数の軸、例えば3つの直交軸(例えばX軸、Y軸、Z軸)に沿った加速度に対する水晶発振器の感度を示すもので、その方向は様々な方法で求めることができる。例えば、水晶発振器の製造業者は、通常、X軸、Y軸およびZ軸を水晶結晶軸に沿って方向付けることによって加速度感度を測定する。しかし、この方法は、軸が「隠れている」装置の筐体内に内蔵済みの水晶発振器の加速度感度を測定するには実用的ではない。したがって、水晶発振器が設置される集合基板の幾何学的特徴に対して各軸を配向して加速度感度を試験したり測定したりする方が実用的である。このようすれば、基板がどの軸に沿って最大量の振動感度や最小量の振動感度などを示すかをより容易に確認することができる。
【0022】
図1は、加速度感度ベクトルPのX軸、Y軸およびZ軸上の射影を示す。図示されるように、加速度感度ベクトルPの絶対値は、通常、上記軸に対して角度をもって方向付けられるため、どの軸の法線とも一致することはない。加速度感度ベクトルPの値は、直交成分Px、Py、Pzに基づいて以下の通り計算することができる。
(式1)
(式2)
(式3)
【0023】
水晶発振器を含む装置(例えばナビゲーション受信機)が振動源(例えばトラクター、ブルドーザーなど)に固定されている場合、その装置に対する水晶発振器の値と配向角度がわかれば、最も強い振動の方向によって作用する加速度の影響を予測することができる。
【0024】
ここで、水晶発振器における加速度感度の静的試験および動的試験についてさらに説明する。
【0025】
静的試験
最も一般的で概念的に簡潔な静的試験方法の一つとして、一般に「2G-TIPOVER」試験と呼ばれ、基本的に地球の重力場の変化を利用して発振器の周波数シフトを発生させるものがある。「2G-TIPOVER」という呼称は、被試験ユニットを効果的に上下反転させながら周波数変化を測定することに由来する。つまり、加速度と元の共振器の先端の法線ベクトルとのスカラー倍積が-1gから+1gに変化し、正味で2gの変化(差)となるように、被試験ユニットを水平軸の周りに回転させる(例えば180度)。したがって、周波数シフトの測定量を2で割ったものが、この軸における発振器の加速度感度を表す。その後、他の2軸についても上記手順を繰り返す。
【0026】
上述の通り、この静的試験方法には、発振器の周波数の温度ドリフトを測定または把握するにあたり重要な欠点がある。これは、水晶発振器を別の装置の筐体に入れることなく、集合基板上で試験する場合に特に顕著となる。そのため、発振器製造業者が行う試験には、集合基板上に設置済みおよび/またはナビゲーション受信機などの装置に組み込み済みの発振器を試験しなければならない場合のような複雑さはない。このような後者のシナリオでは、発振器の温度モードは、基板の配向変更によって変化し、図2に示すような温度周波数ドリフトを生じる。具体的には、図2は、発振器の配向を一軸周りに180?変更する処理中の時間関数として相対周波数ドリフトをppb/g単位で示したプロットであって、相対周波数ドリフトは、
の単位、すなわち、発振器の公称周波数に対する周波数偏差の比に10を乗じたもので表している。図2には、ナビゲーション受信機で使用される典型的な水晶発振器を測定した測定値が示される。具体的には、この測定値は、筐体を使用せずにナビゲーション受信機の集合基板上に配置した水晶発振器について測定したものである。図2に示されるように、垂直平面で基板の配向を180度変更したことに起因する重力加速度(g)の符号反転による発振器の周波数の蛇行振動が見られる。さらに、集合基板が固定されている場合、発振器の周波数変化(例えば、いわゆる「フリッカー効果」)によって生じた重畳ノイズ成分に起因する温度ドリフト(例えば、熱傾向)が見られる。これは、発振器の加速度感度を推定する際の精度を低下させるものである。
【0027】
動的試験
一般的に、動的試験方法では、試験対象軸に沿って水晶発振器に連続的に変化する加速度の影響を与えることによって加速度感度の測定値を求める。上述したように、一般的に、正弦波振動および広帯域不規則振動の両方を発振器に印加するために振動ベンチが使用される。重力加速度に基づいて加速度感度を求める、振動ベンチを利用しない動的方法もある。例えば、静的方法(図2参照)で用いた軸周りの蛇行配向変更を同じ軸周りの回転に置き換えた場合(かつ、発振器の軸位置を記録した場合)、この軸における加速度感度を推定することができる。この方法では、特定の速度で2つの軸周りに発振器を回転させると同時に、各瞬間における発振器の軸位置を示す(例えば、記録)ことが求められる。図3は、発振器をその一軸周りに回転させる処理中の時間関数として相対周波数ドリフトをppb/g単位で示したプロットである。いくつかの欠点のなかでも、動作中の(例えば、各瞬間における)軸位置を示す必要があるため、試験構成において回転を実現する装置がより複雑になってしまう。振動台を要さない動的方法もある。この場合、水晶結晶の三次元加速度感度ベクトルを推定するための観察可能な三次元モデルを提供することができる既知の回転シナリオ/技術に従って、動作状態に維持される被試験発振器に重力加速度を加えることができる。しかしながら、これらのシナリオ/技術では、高価な機器やより複雑な実装が求められることが多い。
【0028】
上述した従来の試験方法の短所に鑑みて、本明細書に記載される発明の実施形態は、各瞬間における軸位置を示すことを要することなく水晶発振器の振動特性を推定することができる試験方法を提供する。
【0029】
具体的には、図4は、例示的実施形態に係る、水晶発振器の加速度感度を推定する方法400を示す簡略化されたフローチャートを示す。ステップ401に示すとおり、フルランクシステムの複数の軸の各軸周りに水晶発振器を連続して回転させる。一例示的実施形態において、フルランクシステムは、3に等しいランクを有し、3つの直交軸(例えば、X軸、Y軸およびZ軸)を含むことができる。ステップ402において、水晶発振器を回転させながら、水晶発振器の周波数を時間関数として所定の速度で測定する。ただし、各瞬間における軸位置を示すことはない。ステップ403において、例えば、3つの直交軸周りの回転において求めた周波数測定値に従って最小二乗法(LSM)を用いて積分加速度感度ベクトルを推定する。水晶発振器を各軸周りに回転させながら、同時に、各回転軸にそれぞれ直交する平面への周波数積分ベクトルPの射影を推定することが重要である(図6参照)。ベクトルPは、水晶発振器の加速度感度を特徴付ける。
【0030】
当業者には理解されるように、典型的には、従来の構成で水晶発振器を回転させるための重要な回転シナリオは、より複雑で高価な機器を要する。本明細書に記載の実施形態によれば、様々な回転シナリオが採用可能であり、本教示によって様々な回転シナリオが企図される。例えば、水晶発振器を既知の回転シナリオに従って回転させる際、フルランクシステムを集合的に形成するか、別の方法で構成する複数の軸(例えば、線形独立軸)の各軸周りに連続して回転させることができる。別の例示的実施形態では、水晶発振器を実質的に一定の角速度で回転させる。一例では、一定の角速度は、毎秒0.3から1回転の範囲の値に設定することができ、周波数測定の所定の速度は、10Hz以上の値に設定する。別の実施形態では、周波数測定の所定の速度を、20Hz以上に設定してもよい。しかし、上記値および範囲は、例示に過ぎず、決してこれらに限定することを意図するものではない。一定の角速度および/または周波数測定速度については、上記以外の値および複数の値の組み合わせが、本明細書の教示によって企図される。例えば、より高い角速度(例えば毎秒1回転超)で軸周りに回転させることができるが、当業者には明らかであるように、その他の要因(例えば、求心加速度など)も考慮しなければならない場合がある。また、より高い角速度での回転を支持するように試験機器を改良および/または増強しなければならない場合がある。逆に、より低い角速度(例えば、毎秒0.3回転未満)が可能なシナリオもあるが、次に説明するように(例えば、一例では熱ノイズの文脈で)、その他の要因も考慮しなければならない場合がある。本発明の一態様によれば、積分周波数シフトパラメータ(例えば、ppb/gパラメータ)の推定が、熱周波数変動に起因する外乱効果を考慮して行われる。例えば、一定の角速度の値は、以下を考慮して選択する。熱ノイズのスペクトルは、ある有限帯域内にある。一定の角速度は、熱ノイズのスペクトルと区別可能でなければならず、例えば、熱ノイズに比べてはるかに高くするとよい。一方、周波数測定の速度は、回転項を区別しなければならず、したがって、ナイキストシャノンサンプリング定理により、例えば、一定の角速度よりも少なくとも2倍高くするとよい。
【0031】
図5は、本発明の例示的実施形態に従って測定された、X軸、Y軸およびZ軸周りに発振器を連続して回転させた際の相対周波数のドリフトを示すプロットである。具体的には、図5は、X軸、Y軸およびZ軸周りに連続して回転させた際の発振器の周波数の相対偏差(例えば、公称周波数に対する周波数偏差の比に10を乗じたもの)を示す。図5では、約2255秒までの測定値がX軸周りの回転に対応し、約2255秒から約2290秒までの測定値がY軸周りの回転に対応し、約2290秒から約2320秒までの測定値がZ軸周りの回転に対応する。
【0032】
以下の動作では、yi xはX軸回りの回転における発振周波数の結果を指定し、yi yはY軸回りの回転における結果を指定し、yi zはZ軸回りの回転における結果を指定する。以下に、yi xを求める式を示す。yi yおよびyi zを求める式は、例えば、Y軸およびZ軸周りの回転それぞれについて対応する変数を適切に置き換えた上で(例えば、Cxの代わりにCyまたはCzなど)、同様の方法で導き、表すことができる。X軸、Y軸およびZ軸周りの回転について、図5に示した上述の周波数測定値から、一般的に以下のような演算を表すことができる。
i x=Cx・cos(Φx(i・T))+Sx・sin(Φx(i・T))
+Bx(i・T)+ni x (式4)
ここで、
i xは、X軸周りの回転における発振器周波数の相対偏差(例えば公称周波数fqに対する偏差の比率)をppbで表したもの、すなわちyi x=109・(fi x-fq)/fqであり、fi xは、発振器周波数推定値(X軸周りに回転する水晶発振器に関する)、fqは、発振器の公称周波数、
Φx(i・T)は、X軸、Y軸およびZ軸周りの回転それぞれのシナリオに従って算出した位相値、
i=1,2,...,Nxは、X軸周りの回転に対応する測定数、
Tは、測定期間、
i xは、離散ホワイトガウスノイズ、
x(i・T)は、X軸周りに回転する発振器の一定シフトおよび熱周波数変動を表す時間依存項、
x、Sxは、回転軸Xに直交する平面への発振器の周波数の直交高調波成分の射影である。
【0033】
積分加速度感度ベクトルPを推定するためには、係数Cx、Sx(式セット4の直交高調波成分の射影)を推定する必要がある。上記問題の解決には、広範囲の推定手段(例えば、データ当て嵌め推定モデル/法)を適用することができる。例えば、最小二乗法(LSM)、カルマンフィルタ法、ニューラルネットワーキング法、回帰法や、その他の非線形推定手段またはヒューリスティック推定手段が挙げられる。したがって、係数Cx、Sxが評価され、これらに対応する推定値
が出力として得られる。
【0034】
項Bx(i・T)も様々な方法でモデル化することができることを当業者であれば理解するであろう。したがって、式Bx(i・T)は、特定の推定方法の可変性にも影響を及ぼす。
【0035】
(式セット4の)係数Cx、Sxを推定するには、項Bx(i・T)を多項式の形で近似する。
(式5)
ここで、
dは多項式の次数であり、
k xは、係数Cx、Sxとともに推定される未知の係数である。
したがって、式4は次の形をとる。
(式6)
【0036】
式6における未知の係数を推定するために、以下の形でパラメータベクトルを構成し、
(式7)
下記の観測ベクトルを参照し、(例えばLSMを用いて)推定する。
(式8)
【0037】
例えばLSMを用いることによって、等しい重みの測定値の解は、
(式9)
のように表すことができる。ここで、
(式10)
(式11)
(式12)
は観測モデル/行列における係数行列の行であり、

から転置により求められる。
【0038】
その後、
および
などの直交高調波成分の推定値のみが使用される。同様に、Y軸周りの回転では直交成分
および
の推定値を、Z軸周りの回転では直交成分
および
の推定値を、例えば、Y軸およびZ軸周りの回転それぞれについて対応する変数を適切に置き換えた上で、上記と同様の方法で求める。
【0039】
次に、積分加速度感度ベクトルPの大きさを、算出した推定値に基づいて求める。
(式13)
【0040】
次に、得られた結果に従って、x、y、z軸の加速度感度ベクトルPの絶対値の射影推定値を、以下に示すこれらの計算の変数を使用して計算することができる。
(式14)
(式15)
(式16)
【0041】
したがって、(式13)の積分加速度感度ベクトルPの大きさは、以下のように記すことができる。
(式17)
【0042】
図6に示す通り、値Ax、AyおよびAzは、水晶発振器760(被試験ユニット)の回転時における、水晶発振器の積分加速度感度ベクトルPの平面YZ、XZおよびXYそれぞれへの射影である。
【0043】
加速度感度ベクトルPの式は次のように記すことができる。
および
【0044】
x、AyおよびAzがわかれば、X軸、Y軸およびZ軸の加速度感度ベクトルPの射影推定値は以下のように表すことができる。
(式18)
ここで、任意の実数aについて
となる。
【0045】
本発明の別の態様によれば、積分加速度感度ベクトルPのX軸、Y軸およびZ軸上の射影Px、Py、Pzの符号それぞれを求め、射影Px、Py、Pzの実際の値を導出する。上記符号を求め、評価する方法は複数ある。一例として、上記符号はそれぞれ、X軸、Y軸およびZ軸のそれぞれついて2G-TIPOVER試験を連続して実施することによって求め、評価することができる。また、上記符号はそれぞれ、X軸、Y軸およびZ軸の各軸周りに水晶発振器を連続して回転させている間に、回転角度を固定することによっても求め、評価することができる。一例では、回転角度の固定は、連続する回転のそれぞれの開始時に行うことができる。別の代替例では、回転角度の固定は、連続する回転のそれぞれの終了時に行うことができる。
【0046】
このようにして、射影Px、Py、Pzの値は以下の通り導出することができる。
x=SNx・|Px
y=SNy・|Py
z=SNz・|Pz
ここで、
SNx、SNy、SNzは、3つの直交軸それぞれの符号に対応する。
【0047】
上述した一例示的実施形態によれば、X軸、Y軸およびZ軸周りの回転は、実質的に一定の角速度で実施され、回転位相は以下のように表される。
Φx(i・T)=Φy(i・T)=Φz(i・T)=ωrot・i・T
ここで、
ωrot=2π・frotは角速度である。
【0048】
別の実施形態によれば、水晶発振器は、上記ナビゲーション用途で用いられる全地球航法衛星システム(GNSS)受信機基板上の所定位置に取り付けられる。本発明のある態様によれば、受信機基板に搭載した状態で水晶発振器の加速度感度を測定することができる。本例では、GNSS受信機の全ヘテロダイン周波数および時間スケールが、水晶発振器の周波数を用いて生成される。定置型アンテナからの信号が受信機に供給され、衛星がロックされると、アンテナ座標が決定される。さらに、システム時間に対するクロックオフセットとそのドリフトレート(一般的にはデリバティブオフセット(DO)と呼ばれる)も決定される。(GNSS受信機基板に搭載した)発振器をX軸、Y軸およびZ軸それぞれの周りに回転させる際の相対周波数シフト(相対偏差)は、次のように定義できる。
i x=109・DOi x
i y=109・DOi y
i z=109・DOi z
【0049】
本発明の方法およびシステムは、振動の影響やその他の機械力を受ける環境で動作する、ナビゲーション受信機などの精密なシステムに内蔵された水晶発振器の加速度感度を測定するための、より堅固で正確かつ実用的な方法を提供する。
【0050】
以上詳述したように、本明細書に記載の様々な実施形態は、方法およびこれら方法を実施するためのシステムの形で具現化することができる。開示した方法は、ユーザデバイスにインストールおよび/または通信可能に接続されたハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、ミドルウェアおよびコンピュータ可読媒体(「コンピュータ」と総称)の組合せによって実施してもよい。
【0051】
図7は、本明細書に記載の様々な実施形態による方法を実施するための例示的なシステム700のハイレベルブロック図である。特に、システム700は、被試験ユニット760にさらに接続または連結する試験アダプタユニット751に接続または別の方法で連結するコンピュータ701(試験サーバとして機能し得る)を備えていてもよい。例えば、被試験ユニット760は、ナビゲーション受信機の受信機基板であってもよく、この受信機基板が水晶発振器を備える。コンピュータ701は、データ記憶装置710とメモリ715とに動作可能に連結するプロセッサ705によって構成されることが示される。プロセッサ705は、コンピュータ701の動作全般を定義するコンピュータプログラム命令を実行することにより、コンピュータ701の動作全般を制御する。通信バス730は、コンピュータ701の様々な構成要素間の連結および通信を支援する。コンピュータプログラム命令は、データ記憶装置710または非一次的コンピュータ可読媒体に格納され、コンピュータプログラム命令の実行が望まれるときにメモリ715にロードされてもよい。したがって、開示される方法の各工程(図4および上記の本明細書の関連する記載を参照)は、メモリ715および/またはデータ記憶装置710に格納されるコンピュータプログラム命令によって定義し、プロセッサ705がコンピュータ可読媒体を介してコンピュータプログラム命令を実行することによって制御することができる。例えば、コンピュータプログラム命令は、開示される方法によって定義される例示的な動作を実行するよう当業者がプログラムしたコンピュータ実行可能コードとして実現可能である。したがって、コンピュータプログラム命令を実行することにより、プロセッサ705は、開示される方法によって定義されたアルゴリズムを実行する。
【0052】
プロセッサ705は、汎用マイクロプロセッサと専用マイクロプロセッサとの両方を含んでいてもよく、コンピュータ701の唯一のプロセッサであっても、複数のプロセッサの1つであってもよい。プロセッサ705は、例えば、1つ以上の中央処理装置(CPU)で構成されてもよい。プロセッサ705、データ記憶装置710および/またはメモリ715は、1つ以上の特定用途向け集積回路(ASIC)および/または1つ以上のフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)を含むか、これらによって補完されるか、またはこれらに内蔵されてもよい。
【0053】
データ記憶装置710およびメモリ715はそれぞれ、有形の非一時的コンピュータ可読記憶媒体で構成される。データ記憶装置710およびメモリ715はそれぞれ、ダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)、スタティックランダムアクセスメモリ(SRAM)、ダブルデータレート同期型ダイナミックランダムアクセスメモリ(DDR RAM)、または他のランダムアクセスの固体メモリ装置などの高速ランダムアクセスメモリを含んでいてもよく、内蔵ハードディスク、リムーバブルディスクなどの1つ以上の磁気ディスク記憶装置、光磁気ディスク記憶装置、光ディスク記憶装置、フラッシュメモリ装置などの不揮発性メモリ、消却・プログラム可能型読取専用メモリ(EPROM)、電気的消却・プログラム可能型読取専用メモリ(EEPROM)などの半導体メモリ装置、コンパクトディスク読取専用メモリ(CD-ROM)、デジタル多用途ディスク読取専用メモリ(DVD-ROM)ディスクなどの不揮発性メモリ、またはその他の不揮発性固体記憶装置を含んでいてもよい。
【0054】
なお、説明を分かりやすくするために、本明細書に記載される例示的実施形態は、個々の機能ブロックまたは機能ブロックの組み合わせで構成されているものとして示す場合がある。これらのブロックが表す機能は、専用または共有ハードウェアの使用を通して得ることができる。専用または共有ハードウェアとしては、ソフトウェアを実行可能なハードウェアが挙げられるが、これに限定されるものではない。例示的実施形態は、本明細書に記載される動作を実行するデジタル信号プロセッサ(「DSP」)ハードウェアおよび/またはソフトウェアを含んでいてもよい。したがって、例えば、本明細書におけるブロック図は、本明細書における様々な実施形態に記載した原理の例示的な機能、動作および/または回路の概念図であることを当業者であれば理解するであろう。同様に、フローチャート、流れ図、状態遷移図、擬似コード、プログラムコードなどはいずれも、コンピュータ可読媒体で実質的に表すことができ、そのため、コンピュータ、マシンまたはプロセッサが明示的に示されるか否かにかかわらず、コンピュータ、マシンまたはプロセッサによって実行される種々の処理を表すことを理解するであろう。実際のコンピュータまたはコンピュータシステムの実装は、別の構造を有してもよく、別の構成要素を備えてもよいことや、そのようなコンピュータの構成要素の一部をハイレベルで図示する場合は例示を目的とすることを当業者であれば認識するであろう。
【0055】
上記の詳細な説明は、あらゆる点で非限定的であり、例証的かつ例示的なものであることを理解されたい。本明細書に開示される本発明の範囲は、詳細な説明からではなく、特許法によって許容される最も広い範囲に従って解釈される請求項から判断されるべきである。本明細書に記載かつ示された実施形態は、本発明の原理を例示するものにすぎず、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく当業者が種々の変更を実施し得ることを理解されたい。当業者であれば、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、様々な他の特徴の組み合わせを実施することが可能であろう。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7