(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】冶金炉を運転する方法
(51)【国際特許分類】
C21B 5/00 20060101AFI20221207BHJP
C21B 5/06 20060101ALI20221207BHJP
F27D 17/00 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
C21B5/00 321
C21B5/06
F27D17/00 104G
F27D17/00 101D
(21)【出願番号】P 2021564221
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(86)【国際出願番号】 EP2020063342
(87)【国際公開番号】W WO2020229545
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-10-27
(32)【優先日】2019-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500173376
【氏名又は名称】ポール ヴルス エス.エイ.
【氏名又は名称原語表記】PAUL WURTH S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100110319
【氏名又は名称】根本 恵司
(74)【代理人】
【識別番号】100099472
【氏名又は名称】杉山 猛
(74)【代理人】
【識別番号】100150773
【氏名又は名称】加治 信貴
(72)【発明者】
【氏名】カスタニョーラ、クリスティアーノ
(72)【発明者】
【氏名】ミケレッティ、ロレンソ
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-172026(JP,A)
【文献】特開2001-240906(JP,A)
【文献】国際公開第2016/048709(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 3/00- 5/06
C21B 11/00-15/04
F27D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冶金炉(10)を運転する方法であって、
CO
2含有ガスであるオフガス(42)を生成するため、炭素含有材料(41)を空気よりも有意に高いO
2濃度を有する酸素富化ガス(40)で燃焼することで、冶金炉(10)の外部で燃焼プロセスを行うこと;
改質プロセスに必要な改質温度を超える温度の第1の混合ガス(44)を得るために、燃焼プロセスによる1000℃を超える高い燃焼誘発温度状態にあるオフガス(42)を、炭化水素含有燃料ガス(43)と混ぜ合わせること;
第1の混合ガス(44)が改質プロセスを経てCOおよびH
2を含む合成ガス(45)を生成し、改質プロセスは触媒を用いずに行われかつ乾式改質プロセス及び/又は湿式改質プロセスであること;及び
合成ガス(45)を冶金炉(10)に供給すること;
を含む方法。
【請求項2】
酸素富化ガス(40)が少なくとも60
%のO
2を含有していることを特徴とする、請求項1に記載された方法。
【請求項3】
オフガス(42)は、燃料ガス(43)と混ぜ合わせるとき、1500°Cを超
える燃焼誘発温度であることを特徴とする、請求項1又は2に記載された方法。
【請求項4】
燃料ガス(43)は、オフガス(42)と混ぜ合わせるとき、100℃未満の温度であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載された方法。
【請求項5】
オフガス(42)及び燃料ガス(43)を、第1の混合ガス(44)を得るために、CO
2含有ガスである補助ガス(48)と混ぜ合わせることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載された方法。
【請求項6】
炭素含有材料(41)は、タール、粉コークス、木炭、石炭及び/又は重油を含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載された方法。
【請求項7】
燃料ガス(43)は天然ガス、コークス炉ガス及び/又はバイオガスを含むことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載された方法。
【請求項8】
改質プロセス直後の合成ガス(45)は1000℃を超
える改質後温度であることを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載された方法。
【請求項9】
冶金炉(10)はシャフト炉であることを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載された方法。
【請求項10】
冶金炉(10)は高炉であることを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載された方法。
【請求項11】
合成ガス(45)は羽口高さ(10.1)のところで高炉(10)に供給されることを特徴とする、請求項10に記載された方法。
【請求項12】
合成ガス(45)は羽口高さ(10.1)より上部のシャフト高さ(10.2)のところで高炉(10)に供給されることを特徴とする、請求項10に記載された方法。
【請求項13】
合成ガス(45)は、合成ガスの改質後温度よりも低い温度のCO及び/又はH
2含有ガスである添加ガス(46)と共に、冶金炉(10)に供給されることを特徴とする、請求項1から12のいずれかに記載された方法。
【請求項14】
合成ガス(45)は、第2の混合ガス(47)を形成するため、冶金炉(10)に供給される前に添加ガス(46)と混合されることを特徴とする、請求項13に記載された方法。
【請求項15】
第2の混合ガス(47)は700°Cと1200°Cの
間の温度であることを特徴とする請求項14に記載された方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冶金炉(metallurgical furnace)を運転する方法に関する
【背景技術】
【0002】
電気アーク炉(electric arc furnace)内でのスクラップ溶解(scrap melting)や直接還元のような代替方法があるにもかかわらず、高炉(blast furnace)は、今日でも依然として鉄鋼製造に最も広く使用されるプロセスを象徴している。高炉設備の懸念の一つは高炉から出る高炉ガスである。このガスは高炉の上部から出るため、一般に「トップガス」とも呼ばれている。初期の頃は、この高炉ガスを大気中に単に逃がすことが許されていたかもしれないが、このことは長い間、資源の無駄及び環境に対する過重な負担と考えられてきた。高炉ガスの一成分は、環境に有害で主として産業用の用途には使えないCO2である。実際に、高炉から出る高炉ガスは、典型的には、20%~30%にも達する濃度のCO2を含む。これとは別に、高炉ガスは、通常かなりの量のN2、CO、H2OおよびH2を含んでいる。しかし、N2含有量は、高炉用に熱風(hot air)又は(純粋な)酸素を使用するかに懸っている。
【0003】
CO2排出量を削減するため、高炉ガスを改質(reform)して、幾つかの産業的目的で使用できる合成ガス(syngasとも呼ばれる)を得ることが提案されている。最も一般的な改質プロセスでは、高炉ガスは少なくとも1つの炭化水素(例えばCH4及び可能性として高分子量の炭化水素)を含む燃料ガスと混合される。いわゆる乾式改質反応(dry reforming reaction)では、燃料ガスの炭化水素が高炉ガス中のCO2と反応してH2とCOを生成する。いわゆる湿式改質反応(wet reforming reaction)では、炭化水素は高炉ガス中のH2Oと反応してH2とCOも生成する。いずれにしても、H2およびCOの濃度が有意に増加した合成ガスが得られる。また、この合成ガスをリサイクルすることができる、即ち高炉に再導入可能な還元ガスとして使用することも提案されている。1プロセスによれば、合成ガスは酸素富化熱風(oxygen enriched hot blast)(すなわち熱風(hot air))及び微粉炭(pulverized coal)と一緒に高炉に供給される。このタイプの炉は「合成ガス高炉(syngas blast furnace)」と呼ぶこともできる。
【0004】
合成ガスの別の潜在的用途は、羽口(tuyere)高さのところで高炉に入れる補助燃料(例えば微粉炭)を増加させる目的と関わっている。これを実行するには、熱風(hot blast)の酸素含有量を増やし、これに関連して熱風比率(hot blast rate)を減らす必要がある。このことは、今度はトップガスの望ましくない温度降下を引き起こす。この影響は、ホットガス、特に熱い還元ガスをシャフト噴射(shaft injection)することで相殺することができる。上述のような合成ガスをこの目的に使用することができる。しかし、例えば高炉ガスを用いた合成ガスの生成は、例えば、WO2019/057930A1の記載に従って行うことができるが、改質プロセスは吸熱性であり、したがって、高炉ガス及び/又は燃料ガスをかなり加熱する必要がある。場合によっては、改質プロセスを支援するために触媒が必要である。加熱することは改質プロセスを複雑化させ、またバーナー等の燃料消費も必要となり、それによって、トップガスリサイクルによって得られるCO2削減を部分的に取り消すことになる。
【技術的課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、冶金炉に合成ガスを提供する簡便な仕方(way)を提供することである。この目的は、請求項1による方法によって解決される。
【発明の概要】
【0006】
本発明は冶金炉を運転する方法を提供する。第1のステップ(step)において、燃焼プロセスは、冶金炉の外部で炭素含有材料を酸素富化ガス(oxygen-rich gas)で燃焼してCO2含有ガスであるオフガス(offgas)を生成することによって行われる。炭素含有材料は、固体、液体及び/又は気体でよい。また、炭素を含有する異なる化学物質の混合体でもよい。通常、炭素は元素形態(elementary form)ではなく、例えば炭化水素である化合物(chemical compound)の一部として含有されている。特に、炭素含有材料は、タール、粉コークス(coke breeze)、木炭、石炭及び/又は重油を含んでいるであろう。燃焼プロセスにおいて、炭素含有材料が燃焼する、即ち酸素富化ガスで焼かれる。酸素富化ガスは、一般に、空気よりも有意に高いO2濃度を有するガスである。通常、酸素富化ガスは主にO2から成り、即ち50%を超えるO2濃度を有する。好ましくは、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%のO2を含有する。酸素富化ガスは、僅かな濃度(例えば<5%)のN2のような他の成分が殆ど不可避であることが分かっているが、場合によっては、「酸素」と呼ばれることさえある。燃焼プロセスの生成物は、CO2を含むオフガスである。オフガスは、H2O、COおよび炭素含有材料及び/又は酸素富化ガスの未反応成分のような他の成分を含み得ることが分かっている。しかし、CO2含有量は、例えば30%を超えるように相対的に高くすることができる。燃焼プロセスは冶金炉の外部で行われる、即ち、それは冶金炉内部プロセスの一部ではない。しかし、冶金炉の直ぐ傍の反応器の内部で行ってもよい。酸素富化ガスで炭素含有材料を燃焼させると、例えば2000℃、2500℃、さらには3000℃を超える非常に高い炎温度になる可能性がある。
【0007】
別のステップにおいては、改質プロセス、好ましくは乾式改質プロセスに必要な改質温度を超える温度の第1の混合ガスを得るために、オフガスは、燃焼プロセスによる燃焼で生じる高い燃焼誘発温度(combustion-induced temperature)状態で炭化水素含有燃料ガスと混ぜ合わされる。燃料ガスは、例えばコークス炉ガス(COG)、天然ガス及び/又はバイオガスを含んでいてもよい。特に、これらのガスの任意の混合体を含んでもよい。それは、通常、高濃度の低分子炭化水素、特にCH4を有している。第1の混合ガス中では、オフガスと燃料ガスは多かれ少なかれよく混合することができる。燃料ガスとオフガスを混ぜ合わせることを、一般に「オフガスを燃料ガスに混合可能にする」という。このことは、燃料ガスとオフガスを(積極的に)混合すること、即ちガスを混合するのに機械的な力を加えることを含んでもよい。しかし、場合によっては、混合が対流及び/又は拡散によって多かれ少なかれ受動的に起こるように、例えば2つのガスを容器(vessel)に注入するだけで十分である。しかし、化学反応はより高い混合度合によって増強されることが分かっている。第1の混合ガスを得るためのオフガスと燃料ガスの混ぜ合わせには、第1の混合ガス用として少なくとも1つ以上のガスが使用される可能性と共に、オフガスと燃料ガスのみが組み合わされる可能性が含まれる。(少なくとも)2つのガスを、混合容器または混合チャンバと呼ぶ専用の容器中で混ぜ合わせることができる。オフガスは、ここでは燃焼誘発温度と呼ぶ燃焼プロセスによる高温の状態で、燃料ガスと混ぜ合わされる。この燃焼誘発温度は、勿論燃焼プロセスの高い発熱性(exothermic nature)によるものである。オフガスが燃料ガスと混ぜ合わさると、混合ガスも、改質プロセス、好ましくは乾式改質プロセス(dry reforming process)に必要な改質温度を上回る高温になる。以下で説明する乾式改質プロセスでは、第1の混合ガスが、ここでは改質温度と言う一定の最低温度である必要がある。第1の混合ガスが少なくともこの改質温度である場合には、改質プロセスは触媒又は追加加熱を必要とせずに有利に開始して進行する。
【0008】
この方法の別のステップでは、混合ガス(gas mixture)は、(好ましくは乾式)改質プロセスを経て、CO及びH2を含む合成ガスを生成する。乾式改質プロセスの化学機構は本発明の範囲で限定されておらず、通常、少なくとも例えば次の反応式:CO2+CH4→2H2+2COによりオフガスのCO2含有量が燃料ガス中の炭化水素と反応することを含む。これは一般に乾式改質(dry reforming)と呼ばれる。これとは別に、オフガスのH2O含有量が、もし有れば、例えば次の反応式:H2O+CH4→3H2+COによって、燃料ガス中の炭化水素と反応することとなろう。これは、湿式改質(wet reforming)とも呼ばれる。乾式改質プロセスは、触媒の有無のような幾つかの要因により高い改質温度が必要である。触媒無しでは、改質温度は例えば800℃を超えなければならず、好ましくは900℃から1600℃の間になるであろう。一度、オフガスを燃料ガスと混ぜ合わせると、オフガスの燃焼誘発温度は乾式改質プロセスを開始しかつ維持するのに十分な高温となるので、乾式改質プロセスをガスの混ぜ合わせ(または混合)を行うのと同じ容器内で行うことができる。なお、乾式改質プロセスは高圧下で実行することができる。これは、特に、燃焼プロセス後のオフガスの膨張が許されないことに依ると思われる。有利にも、(好ましくは乾式)改質プロセスは触媒を必要とせずに進行する。つまり、改質プロセスは触媒を用いることなく進行する。本発明の別の利点は、改質ガス浄化の必要性及びそのためのコストを低減することである。実際、触媒を使用しないので、この改質ガスを他のプロセスで使用する前に、触媒被毒剤(catalysts poisoning agent)を除去して浄化する必要はない。
【0009】
なお、改質プロセスを開始するために、少なくとも一部のオフガスを燃料ガスと混合する必要があるが、混合と改質は少なくとも部分的には同時に起こり得る。実際、改質プロセスはオフガスの上昇した燃焼誘発温度によって始まるので、このことは普通のことである。
【0010】
この方法の別のステップでは、合成ガスが冶金炉に供給される。以下で説明するように、このことは、合成ガスが冶金炉に供給される前に別のガスと混合される可能性、即ち混合ガスの一部として冶金炉に供給されることを含む。殆どの場合、合成ガスは冶金炉内で還元ガスとして働く。
【0011】
本発明の方法の大きな利点は、発熱燃焼プロセスによって発生する熱を使用して(好ましくは乾式)改質プロセスを開始しかつ維持することである。また、(好ましくは乾式)改質プロセスは、燃焼プロセスの高い炎温度によって効果的に推し進められると言える。これによりプロセスが簡素化され、混合ガスの追加加熱及び/又は触媒の存在が不要になる。
【0012】
オフガスは炭化水素含有ガスと混ぜ合わせると、むしろ高温、ここでは燃焼誘発温度と呼ぶ高温になり得る、何故ならば、それは発熱燃焼(exothermic combustion)の結果としてその燃焼後に生じるためである。特に、燃焼誘発温度は1000℃を超え、好ましくは1500℃を超え、より好ましくは2000℃を超える。これらの温度は、通常、改質プロセスを開始し、維持するのに十分である。このことがオフガスと炭化水素含有ガスとの比、及び後者の温度に依存することも分かる。
【0013】
燃料ガスをオフガスと混ぜ合わせる前に、例えば500℃を超える温度に加熱することで改質プロセスを支援することができる。しかし、高い燃焼誘発温度が原因で、相対的に「冷たい」燃料ガスが使用される場合があり得る。より具体的には、燃料ガスは、オフガスと混ぜ合わされる場合、100℃未満の温度であることがあり得る。特に、燃料ガスは、例えば15℃~40℃の間の周囲温度である場合があり得る。
【0014】
オフガスと燃料ガスは、必要に応じてCO2含有ガスである補助ガス(supplemental gas)と混ぜ合わさった第1の混合ガスを形成することができる。補助ガスは、また、混合ガス(gas mixture)にCO2を加える点でオフガスへの補助と見なすことができる。様々な供給源(sources)を補助ガス用に使用することができる。例えば、補助ガスは、高炉トップガス及び/又は転炉ガス(basic oxygen furnace gas)及び/又は炭素捕集装置(carbon capture device)によって生成された炭素捕集ガスであってもよい。当技術分野で知られているように、炭素捕集装置はCO2含有ガスを、CO2含有量が少ない第1の部分とCO2含有量が多い第2の部分に分離する。ここでは炭素捕集ガスと呼ぶ後者の部分を補助ガスとして使用することができる。例えば、コークス炉ガスの処理に用いられる炭素捕集装置を、炭素捕集ガスの供給源として用いることができる。しかし、補助ガスを第1の混合ガスの成分として使用する場合、例えば炭素捕集ガスの温度はオフガスの燃焼誘発温度よりも著しく低いため、これにより通常第1の混合ガスの温度が下がる。したがって、第1の混合ガスの温度を改質温度超の温度に保つために、補助ガスの比率を調整しなければならない。補助ガスは、周囲温度で供給することも、代替的には500℃まで事前に加熱することもできる。事前加熱により、このプロセスで使用可能となる補助ガスの容量をさらに増加することができる。
【0015】
前述のように、燃焼誘発温度のオフガスは2000℃を超えるであろう。通常、オフガスと混ぜ合わせる前に燃料ガスが加熱されるとしても、得られる混合ガスの温度は燃焼誘発温度未満の(平均)温度である。さらに、(好ましくは乾式)改質プロセスは、温度低下の原因となる吸熱反応である。しかし、得られる合成ガスの温度は、改質後温度(post-reforming temperature)と呼んでもよいが、依然として非常に高いであろう。合成ガスは、改質プロセスの直後に1000℃を超え、好ましくは1200℃を超え、より好ましくは1500℃を超える改質後温度で有り得る。このことは、冶金炉に直ちに導入するには改質後温度が高すぎる可能性があることを意味する。このことは、当然のことながら冶金炉のタイプと合成ガスが冶金炉に供給される位置次第である。一般的には、冶金炉内部の温度プロファイルのいかなる障害になることも回避すべきである。
【0016】
1実施形態によれば、冶金炉はシャフト炉である。このシャフト炉は、例えばMidrex又はHYLプロセス、又はホットブリケット化された鉄(hot briquetted iron)を用いて直接還元鉄(direct reduced iron)を製造するために使用される。特に、冶金炉は高炉であってもよい。高炉の一般的な設定と運転原理はこの技術分野で知られているため、詳細についてはここでは説明しない。合成ガスを高炉のどこに導入できるかについては、幾つかの選択肢がある。
【0017】
1選択肢によれば、合成ガスは羽口高さのところで高炉に供給される。羽口高さは、1400℃と1800℃間の温度が特徴である高炉の溶解区域(melting zone)に対応する。羽口高さでは、合成ガスの改質後温度が1500℃を超えても有害ではなく、合成ガスを直接高炉に供給することができる。
【0018】
別の選択肢に依れば、合成ガスは、羽口高さより上部のシャフト高さのところで高炉に供給される。シャフト高さは、大部分が通常溶解区域よりも有意に低い温度を有する高炉の還元区域(reduction zone)に対応している。例えば、シャフト高さのところの温度は800℃と1100℃の間であろう。これは、合成ガスの改質後温度を殆ど下回っている。シャフト高さのところで高温合成ガスを直接導入すると、高炉内の温度分布に悪影響を及ぼす可能性がある。合成ガスを十分に低温に冷却することが考えられる。しかし、冷却は望ましくないエネルギー損失に当たる。しかし、冷却プロセスで失われる熱を熱交換器で使用する、例えばオフガスと混ぜ合わせる前に燃料ガスを加熱することが考えられる。
【0019】
仮に合成ガスがシャフト高さのところで高炉に供給される場合には、他のガス及び/又は固体が羽口高さのところで高炉に供給されることに留意されたい。この点に関して、本発明の範囲に限定はない。特に、補助燃料を羽口高さのところで導入することができる。1つの選択肢は、微粉炭を酸素富化ガスと一緒に羽口高さのところで高炉に供給することである。この種のプロセスは、微粉炭注入(PCI)とも呼ばれ、主に当技術分野で知られている。別の選択肢は、CH4、例えば天然ガス、のような炭化水素、CO及び/又はH2を含むガスを注入することである。一般に、羽口高さのところで注入される補助燃料量を増やすことは望ましいが、このことは熱風中の酸素含有量を増やしかつ熱風割合(hot blast rate)を低下させることを必要とする。このことは、今度は、トップガス温度を望ましくない程度にまで低下させる可能性がある。しかし、(本発明の方法によって提供される合成ガスなどの)熱い還元ガスを羽口高さより上部で導入すると、トップガス温度の低下が防止されるか少なくとも制限できる。
【0020】
このような状況から、高炉を通るガス流を減らすことで、フラッディング(flooding)やハンギング(hanging)及びスリッピング(slipping)の様な所要の異常のリスクが著しく減少することに留意されたい。シャフト高さのところで合成ガスを注入することで、トップガスを十分に高い温度に維持しつつガス流を低減できるので、高炉の生産性において有益な効果となる。
【0021】
冷却によるエネルギー損失を回避する好ましい選択肢は、合成ガスの改質後温度よりも低い温度のCO及び/又はH2含有ガスである添加ガス(additive gas)と共に、合成ガスを冶金炉に供給することである。つまり、添加ガスと合成ガスの組成は、少なくとも部分的には、CO及び/又はH2を含む点で互いに対応している。したがって、添加ガスは冶金炉内部で還元ガスとしても使用できる。例として、すべての製鉄ガス(steelmaking gases)は、例えば、高炉ガス、転炉ガス(basic oxygen furnace gas)などの添加ガスとして使用できる。添加ガスのCO及び/又はH2含有量が極めて低い場合でも、合成ガスとの混合体におけるこの「冷却ガス」の割合は通常制限されており、希釈の影響は許容範囲内である。この実施形態は、冶金炉が高炉であり、合成ガスがシャフト高さのところで冶金炉に供給される場合に特に使用可能である。合成ガスと添加ガスの平均温度は、勿論合成ガスの改質後温度より低く、そのため高炉内部の温度分布に及ぼす有害な影響を回避できる。なお、添加ガスは、別の改質プロセスによって生成される合成ガスでもよい。このプロセスは、例えば高炉ガスを使用した改質プロセスであり得る。
【0022】
合成ガスと添加ガスを冶金炉に別々に、しかし冶金炉の同じ領域に導入することを検討することができる。それらは、反応する前に冶金炉内である程度混合する可能性がある。しかし、2つのガスを別々に導入することが、冶金炉のプロセスを局部的に変え得る温度差の原因になる可能性がある。そのような場合、添加ガスが冶金炉の一部を冷却している状態で合成ガスは冶金炉の一部を局部的に加熱する可能性があり、このことは殆どの場合有害である。従って、冶金炉に供給される前に、合成ガスを添加ガスと混合することが好ましい。これにより、混合する前に改質後温度と添加ガスの温度との間の温度を持つ2つのガスの第2の混合ガスが得られる。特に、結果として得られる第2の混合ガスは、700℃と1200℃の間、好ましくは800℃と1100℃の間の温度となるであろう。この温度範囲はシャフト高さのところで高炉に供給するのに有益である。より均一な温度分布に導くのとは別に、ガスを混合し、冶金炉に混合体を導入することで、注入システムの設計を簡素化することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
例として添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。
【
図1】本発明の方法を実施するための高炉設備の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は高炉10を含む高炉設備1を模式的に示す。高炉10は、一般にその上端部で備蓄庫15からコークス12と鉱石13を受け取る。銑鉄とスラグが高炉10の底端部で抽出される(簡略化のため示していない)。高炉10自体の運転はよく知られており、ここでは本明細書ではこれ以上説明しない。高炉ガス14は高炉10上端部から回収される。回収された高炉ガス14は、例えば、40%未満の濃度のN
2、それぞれ約25~40%濃度のCo及びCO
2及び約5~15%のH
2を有しており、大抵は高炉ガス14から粒子状物質を除去しかつおそらくは高炉ガス14に含まれる一部の水蒸気を凝縮するために、ガス浄化プラント20中で処理される。
回収され、浄化された高炉ガス14は、ここで詳細に説明されていない種々の目的のために使用できる。高炉ガス14を浄化した後、炭素捕集装置21においてそのCO
2含有量を減少させる。ここで、高炉ガスは、例えば50%を超える又は70%を超える高濃度のCO
2を有するガスであり、その一部は炭素捕集ガス22として分離される。この炭素捕集ガス22又はその一部は、補助ガス48として用いてもよい。
【0025】
高炉10は、微粉炭26及び複数のカウパー(cowpers)を含む熱風プラント(hot stove plant)25から提供される熱風27を、高炉10の下部、即ち羽口高さ10.1のところで受け取る。熱風27は、空気または酸素富化ガスを含んでいるであろう。代替的には、高炉は、羽口高さのところで、典型的には95%の濃度を有する冷酸素含有ガス(cold oxygen containing gas)を受け取り、それによって熱風を大部分または完全に置き換えることができる。別の選択肢は、CO及び/又はH2を含む合成ガス45を、ガスおよび微粉炭を含む熱風及び/又は冷酸素含有ガスと共に注入することである。
【0026】
高炉10は、羽口高さ10.1より上部に位置するシャフト高さ10.2のところで、合成ガス45と添加ガス46の混合体47を受け取る。合成ガス45は、
図2に模式的に示された合成ガス反応器(syngas reactor)30で用意される。合成ガス反応器30は、酸素富化ガス40と炭素含有材料41とが供給されるバーナー31を備える。酸素富化ガス40は少なくとも90%のO
2を含み、炭素含有材料41は、例えばタール、粉コークス(coke breeze)、木炭、石炭及び/又は重油を含んでいる。炭素含有材料41はバーナー31内の燃焼プロセスで酸素富化ガス40により燃焼し、例示すると、例えば80%のCO
2、15%のH
2Oおよび5%のN
2の組成を有するオフガス42が生成される。強力な発熱燃焼プロセスにより、炎温度は3000℃を超えるであろう。オフガス42と燃料ガス43は、それらが混合される混合部32に注入される。燃料ガス43は炭化水素含有ガス、例えばコークス炉ガス、天然ガス及び/又はバイオガスである。燃料ガス43の温度が100℃未満、例えば周囲温度の状態で、オフガス42を燃料ガス43と混ぜ合わせるとき、オフガスは少なくとも2000℃の燃焼誘発温度である。燃料ガス43とオフガス42は改質プロセス、好ましくは乾式改質プロセスに必要な改質温度を超える温度の第1の混合ガス44を形成する。改質温度は800℃を超える必要があり、好ましくは900℃~1600℃の範囲であり得る。主にオフガス42の燃焼誘発温度による第1の混合ガス44の高温によって、追加加熱または触媒を要すること無く改質プロセスが始まる。選択肢として、第1の混合ガス44を形成するために、補助ガス48をオフガス42及び燃料ガス43に追加できるが、そのような補助ガス48は、
図1及び2において破線矢印で示すように、例えば高炉ガス及び/又は転炉ガス及び/又は炭素捕集ガス22(または少なくともその一部)であり得る。オフガス42同様、炭素捕集ガス22は高いCO
2含有量を有するので、補助ガス48として用いてもよい。しかし、炭素捕集ガス22の温度はオフガス42の温度よりも著しく低いため、炭素捕集ガス22の比率は、第1の混合ガスの温度を改質温度を超える温度に保つように調整される。
図2では、反応部33は混合部32に隣接して示されているが、燃料ガスとオフガスを混合する際に改質プロセスが始まるので、これらは2つの異なる区別可能な部分である必要はない。
【0027】
乾式改質プロセスは、次の反応式:CO2+CH4→2H2+2COによって行われる。それは混合部32及び/又は反応部33内の圧力の上昇によって支援される。湿式改質は、ある程度次の反応式:H2O+CH4→3H2+COによっても行われる。乾式改質プロセス(及び/又は湿式改質プロセス)を経た後、オフガス42及び燃料ガス43及び、適用可能であれば補助ガス48は、主に、CO及びH2を含む合成ガス45に変換される。改質プロセスは、混合ガスに対して合成ガス45の温度を下げる吸熱反応ではあるが、合成ガス45の改質後温度は依然として1200℃を超えているであろう。合成ガス45の意図はシャフト高さ10.2のところで高炉10へ注入することであるため、改質後温度は高炉10内部の温度分布と相容れない。したがって、CO及びH2を含む添加ガス46が合成ガス45とともに高炉10に導入される。添加ガス46は、改質後温度よりも著しく低い温度、例えば周囲温度であり得る温度である。合成ガス45と添加ガス46は、好ましくは得られる第2の混合ガス47が改質後温度よりも低い温度となるように、高炉10に導入される前に混合される。特に、2つのガスの比は、混合体47がシャフト高さ10.2のところで高炉内部の温度に対応する温度となるように調整できる。
【0028】
合成ガス45及び添加ガス46をシャフト高さ10.2のところで導入することで、たとえ高炉10を流れるガス流が減少したとしても高炉10のトップガスの温度が一定高さ未満に下がるのを防止できる。ガス流を減らすことは、フラッディングやハンギング及びスリッピングの様な異常の可能性を減らすという点で有益である。
【0029】
合成ガス45をシャフト高さ10.2のところで高炉10に導入するのに代えて或いはそれに加えて、合成ガスを
図1の破線矢印で示すように羽口高さ10.1のところで導入することができる。この場合は、改質後温度は羽口高さ10.1での高炉10内の温度と両立性がある。そのため、合成ガス45を任意の添加ガス46と混合する必要がなく、即ち合成ガス45をそのまま高炉10に供給することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 高炉設備
10 高炉
10.1 羽口高さ
10.2 シャフト高さ
12 コークス
13 鉱石
14 高炉ガス
15 備蓄庫
20 ガス浄化プラント
21 炭素捕集装置
22 炭素捕集ガス
25 熱風プラント
26 微粉炭
27 熱風
30 合成ガス反応器
31 バーナー
32 混合部
33 反応部
40 酸素富化ガス
41 炭素含有材料
42 オフガス
43 燃料ガス
44 第1の混合ガス
45 合成ガス
46 添加ガス
47 第2の混合ガス
48 補助ガス