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  • 特許-油脂含有成形物およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】油脂含有成形物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 91/00 20060101AFI20221207BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20221207BHJP
   C08L 5/08 20060101ALI20221207BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20221207BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20221207BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20221207BHJP
   A61K 8/65 20060101ALI20221207BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
C08L91/00
C08L1/00
C08L5/08
C08K5/10
A61K8/92
A61Q19/00
A61K8/65
A61K8/73
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022030781
(22)【出願日】2022-03-01
【審査請求日】2022-03-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】礒野 康幸
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-162563(JP,A)
【文献】特開2016-208946(JP,A)
【文献】特開2018-174875(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167961(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/141763(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/105542(WO,A1)
【文献】特開2021-003101(JP,A)
【文献】広辞苑 ,第4版,1991年,p.1294
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
A23L 3/36-29/10
A23B 4/00-5/22
A23D 7/00-9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂(乳化性のある油脂を除く)含有し、食品以外の用途に使用される成形物であって、
水、油脂、皮膜成分、ナノファイバー成分を含む原料溶液が乾燥されてなり、
前記成形物中の前記油脂の成分含有比が54~85質量%であり、
成形後の前記成形物の水分活性値が0.6Aw以下であり、
界面活性剤を含有せず、
前記油脂と前記油脂以外の成分が分離していない
ことを特徴とする油脂含有成形物。
【請求項2】
前記油脂は、37℃において液体の状態の油脂であることを特徴とする請求項1に記載の油脂含有成形物。
【請求項3】
前記皮膜成分が、コラーゲンまたはその分解物、ヒアルロン酸、アルギン酸、プルラン、でんぷん、増粘多糖類、からなる群より選ばれる1種類以上であり、前記皮膜成分を成分含有比0.1~10質量%含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の油脂含有成形物。
【請求項4】
前記ナノファイバー成分が、セルロース、キチン、キトサンまたはタンパク質からなる群より選ばれる1種以上の物質からの由来であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の油脂含有成形物。
【請求項5】
前記ナノファイバー成分を成分含有比4~11質量%含むことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の油脂含有成形物。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の油脂含有成形物を製造する製造方法であって、
送風乾燥、加熱乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥、エレクトロスピニングからなる群の少なくとも一つ以上の工程により、前記原料溶液より水分を除去する
ことを特徴とする油脂含有成形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い割合で油脂を含有する油脂含有成形物、およびその油脂含有成形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
室温で液体である油脂は、その油脂自体の乾燥物を得ることが困難である。
一方、粉末状または顆粒状の油脂も提案されている。これは、油脂に賦形剤等を混合し、噴霧乾燥して製造するものである(例えば、特許文献1~特許文献2を参照)。
また、乳化性を有する粉末油脂を用い、真空凍結乾燥により油脂含有乾燥物を得る方法も提案されている(例えば、特許文献3を参照)。
【0003】
しかしながら、粉末および顆粒状油脂は、形状が限定されるため、幅広い用途に対応することが難しい。
また、乳化性を有する粉末油脂は、界面活性剤と油脂を用いて、あらかじめ調製しておく必要があり、製造工程が煩雑となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-3101号公報
【文献】国際特許公開第2015/141763号明細書
【文献】特開2020-162563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高濃度の油脂を含有し、粉末や顆粒等の限定された形状ではなく、大型の成形体を容易に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者は、鋭意検討の結果、離油が発生しない、安定した成形物を見いだし、本発明を完成するに至った。
本発明の油脂含有成形物は、油脂(乳化性のある油脂を除く)含有し、食品以外の用途に使用される成形物であって、水、油脂、皮膜成分、ナノファイバー成分を含む原料溶液が乾燥されてなり、成形物中の油脂の成分含有比が54%~85%であり、成形後の成形物の水分活性値が0.6Aw以下であり、界面活性剤を含有せず、油脂と油脂以外の成分が分離していない構成である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の油脂含有成形物によれば、界面活性剤を含有せず、成形物中の油脂の成分含有比が54%~85%であり、油脂と油脂以外の成分が分離していない。これにより、粉末ではなく、フィルム状、ブロック状の大型の形態の成形物を容易に提供できる。
そして、本発明の油脂含有成形物は、水、油脂、皮膜成分、ナノファイバー成分を含む原料溶液が乾燥されてなるので、加水により容易に溶解するため、化粧品、食品、医療機器等の用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1の離油の発生のない状態の成形体の写真である。
図2】比較例1の離油した状態の成形体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施できる。
【0010】
本発明に係る油脂含有成形物は、油脂を含有する成形物であって、水、油脂、皮膜成分、ナノファイバー成分を含む溶液が乾燥されてなり、成形物中の油脂の成分含有比が10%~85%であり、成形後の成形物の水分活性値が0.6Aw以下であり、界面活性剤を含有せず、さらに油脂と油脂以外の成分が分離していないことを特徴とする。
【0011】
成形物の水分活性値が0.6Aw以上になると、微生物の繁殖が活発になるため、防腐剤、殺菌剤等を配合する必要が生じ、安全性、コストの面で不都合が生じる。
【0012】
本発明の油脂含有成形物において、油脂は室温で液体であることが好ましい。
室温で固体である油脂は、乾燥後に結晶化し、析出してしまうため、成形物中での粒子の発生やひび割れの発生により、物性が悪化してしまう。
【0013】
本発明の油脂含有成形物において、油脂は、上記の条件に適合していれば、特に限定されず、コーン油 、オリーブ油、パーム油、ピーナッツオイル、紅花油、ごま油、大豆油、ヒマワリ油、アーモンド油、松の実油、ヘーゼルナッツ油、ピスタチオ油、カボチャ実油、アサイーオイル、月見草オイル、アマランサスオイル、あんず油、アルガンオイル、アボカド油、ひまし油、オレンジラッフィー油、モリンガ油、コリアンダー種油、アマニ油、グレープシードオイル、ヘンプオイル、オクラ油、シソ油、松の実油、キヌア油、ツバキ油、等が例示できる。
【0014】
本発明の油脂含有成形物において、皮膜成分は、乾燥時に皮膜を形成する成分であり、目的に応じたものを使用することができる。
特に、成形物を化粧品や食品に使用する際は、安全性の観点から、天然由来の皮膜成分を用いることが好ましく、コラーゲンまたはその分解物、シルク、ケラチンなどのポリアミノ酸類、ヒアルロン酸、アルギン酸、プルラン、でんぷん、キチン、キトサン、グァーガム、キサンタンガム、カラギナン、マンナン、ローカストビーンガム、ジェランガム、タマリンドガム、ペクチン、カードラン、アラビアガム、タラガム、カルボキシメチルセルロースなどの増粘多糖類などが例示できる。
【0015】
本発明の油脂含有成形物の用途は、特に限定されるものではないが、水等の液体を含ませることで、溶解して用いることができる。または、加熱することで、成形物を溶解して用いることもできる。
【0016】
本発明の油脂含有成形物において、ナノファイバーは、天然物由来のものが好ましく、セルロース、キチン、キトサン、などの多糖類、コラーゲン、シルクなどのたんぱく質類が例示できる。
ナノファイバーの調製法は、特に限定されず、常法にて製造すればよい。
また、ナノファイバーの原料は、特に限定されず、広葉樹、針葉樹、草本、パルプ、食品製造残渣などが例示できる。
【0017】
成形体は、水、油脂、皮膜成分、ナノファイバー成分を含む、所定の溶液を調製して、その後、溶液を乾燥することにより、製造することができる。
乾燥の方法は、常法を用いれば良く、送風乾燥、加熱乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥、エレクトロスピニングなどが例示できる。
【0018】
また、成形物の効果、物性を改良するために、食品、化粧品、医療機器などで許可されている範囲の添加剤を用いてもよい。例えば、紅花色素などの着色剤、カモミールエキスなどの香料、グリセリンなどの柔軟剤、フェルラ酸などの日焼け防止剤、などを適宜配合することができる。
【実施例
【0019】
本発明の油脂含有成形物を実際に作製して、特性を調べた。
また、油脂含有成形物の特性の測定方法は、以下の通りとした、
【0020】
(厚さ)
原料溶液をステンレストレイ(12cm×8cm)に流し込み、乾燥させた後に、成形物の厚さを測定した。
【0021】
(水分活性値の測定)
乾燥させた後の成形物の水分活性値を、水分活性測定装置 SP-W(アズワン製)を使用して測定した。
【0022】
(離油の状態)
乾燥させた後の成形物の離油の状態を、目視により観察した。
離油の評価は、離油なし:〇、わずかに離油:△、顕著に離油:×、とした。
【0023】
(実施例1)
オリーブ油(関東化学製)1質量部、セルロースナノファイバー(固形分5%、スギノマシン製)5質量部、グリセリン(関東化学製)0.5質量部に1%に調整したヒアルロン酸(FCH-SU、キッコーマンバイオケミファ製)水溶液を加え、全量を100質量部とした。
上記水溶液30gを、ホモジナイザー(T 18 digital ULTRA-TURRAX、IKA製)を用いて均一に混合し、原料溶液とした。これをステンレストレイ(12cm×8cm)に流し込み、次に、送風型低温恒温機(IN801、ヤマト科学製)中で20℃、24時間送風乾燥した。
成形物の厚さは34μmであり、水分活性値は、0.34Awであった。
得られたフィルム状成形物を、24時間室温に放置したが、離油は見られなかった。
実施例1の離油の発生のない状態の成形体の写真を、図1に示す。
【0024】
(比較例1)
実施例1における、オリーブ油(関東化学製)1質量部を、10質量部に変更する以外は、実施例1と同様の操作を行った。
成形物の厚さは70μmであり、水分活性値は、0.58Awであった。
得られたフィルム状成形物は、乾燥終了後に離油が見られた。
比較例1の離油した状態の成形体の写真を、図2に示す。
【0025】
(実施例2~実施例5、比較例2)
各成分(油脂、ナノファイバー、その他、皮膜成分)の材料または配合量を変更して、製造方法は実施例1と同様に行って、実施例2~実施例5および比較例2の試料を作製した。
実施例2~実施例5では、離油は観察されなかったが、比較例2では、離油が生じていた。
【0026】
実施例1~実施例5および比較例1~比較例2の各例について、組成(各成分の成形時配合量、成形物中含量)と特性の測定結果を、表1に示す。
なお、表1の成形時配合量の欄において、各成分の配合量は、水溶液の質量部を記載し、合計は、水分を除いた固形分の合計の質量部を記載している。例えば、実施例1では、1.0+5.0×0.05+0.5+93.5×0.01=2.685である。
【0027】
【表1】
【0028】
(実施例6~実施例8、比較例3)
実施例1および比較例1で調製した原料溶液を、凍結乾燥した。
原料溶液は、縦1cm、横1cm、深さ1.5cmの孔が縦10個、横20個並んだ、ポリエチレン製トレイに、1ml/孔で充てんした。
原料溶液を充てんしたトレイを-30℃~-40℃に冷却し、約24時間で液全体を凍結させた。続いて、真空度50~200mmTorr、棚加熱温度100℃で、1晩凍結乾燥させることにより、スポンジ状成形物を得た。
このような製造方法により、各成分の材料または配合量を変えて、実施例6~実施例8および比較例3の試料を作製した。
実施例6~実施例7では、離油は観察されなかったが、実施例8では、わずかに離油が観察された。比較例3では離油が生じた。
【0029】
実施例6~実施例8および比較例3の各例について、組成(各成分の成形時配合量、成形物中含量)と特性の測定結果を、表2に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
表1および表2に示すように、各比較例では離油が生じていたのに対して、各実施例では、離油が観察されず、油脂と油脂以外の成分が分離していないことがわかる。
比較例1~比較例3は、成形物中の油脂の成分含有比が85%を超えており、成形物の水分活性値も比較的高く、特に比較例2および比較例3は、成形物の水分活性値が0.6Awを超えている。
各実施例は、成形物中の油脂の成分含有比が10~85質量%の範囲内であり、かつ、成形物の水分活性値が0.6Aw以下である。
【0032】
水、油脂、皮膜成分、ナノファイバー成分を含む原料溶液が乾燥されてなり、成形物中の油脂の成分含有比が10~85質量%であり、成形後の成形物の水分活性値が0.6Aw以下である、本発明の油脂含有成形物は、離油を生じることなく、フィルム状、ブロック状の大型の形態の成形物を容易に提供できることがわかる。
【要約】
【課題】高濃度の油脂を含有し、粉末や顆粒等の限定された形状ではなく、大型の成形体を容易に提供する。
【解決手段】油脂を含有する成形物であって、水、油脂、皮膜成分、ナノファイバー成分を含む原料溶液が乾燥されてなり、成形物中の油脂の成分含有比が10~85質量%であり、成形後の成形物の水分活性値が0.6Aw以下であり、界面活性剤を含有せず、油脂と油脂以外の成分が分離していない、油脂含有成形物を構成する。
【選択図】図1
図1
図2