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特許7190080多層接合型光電変換素子およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】多層接合型光電変換素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/44 20060101AFI20221207BHJP
【FI】
H01L31/04 122
H01L31/04 112Z
H01L31/04 130
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022527241
(86)(22)【出願日】2021-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2021036896
(87)【国際公開番号】W WO2022080196
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2022-06-07
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/039069
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】五反田 武志
(72)【発明者】
【氏名】戸張 智博
(72)【発明者】
【氏名】齊田 穣
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-011058(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0255765(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0273338(US,A1)
【文献】特表2010-527146(JP,A)
【文献】米国特許第10290432(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第110676385(CN,A)
【文献】特表2020-508570(JP,A)
【文献】特開2018-092982(JP,A)
【文献】LI, Hui and ZHANG, Wei,Perovskite Tandem Solar Cells: From Fundamentals to Commercial Deployment,CHEMICAL REVIEWS,2020年08月07日,Vol. 120, No. 18,pp. 9835-9950,DOI: 10.1021/acs.chemrev.9b00780
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/42-51/48
H01L 31/02-31/078
H01L 31/18-31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電極と、
ペロブスカイト半導体を含む第一の光活性層と、
第一のドープ層と
シリコンを含む第二の光活性層と、
第二のドープ層と、
パッシベーション層と
第二の電極と、
を、この順に具備する多層接合型光電変換素子であって、
前記第一の光活性層と、第二の光活性層側の隣接層との間に存在する界面が実質的に平滑面であり、
さらに、前記パッシベーション層の一部分を貫通して、前記第二のドープ層と前記第二の電極とを電気的に接合する、相互に離間した複数のシリコン合金層からなる光散乱層をさらに具備し、
前記第一の光活性層及び前記第二の光活性層の積層方向に平行な断面における前記シリコン合金層と前記第二のドープ層との境界線の曲率半径が一定でなく、
前記境界線の総長に対して、前記曲率半径が1~100μmの範囲内である部分の長さが40%以上であり、
前記シリコン合金層の形状が、その頂点に近い部分ほど、曲率半径が大きくなるものである、多層接合型光電変換素子。
【請求項2】
前記第一の光活性層及び前記第二の光活性層の積層方向に平行な断面における前記シリコン合金層と前記第二のドープ層との境界線が位置ごとに異なる曲率半径を有する、請求項1に記載の多層接合型光電変換素子。
【請求項3】
前記光散乱層と前記第一の光活性層との距離が100~400μmである、請求項1または2に記載の多層接合型光電変換素子。
【請求項4】
前記第一の光活性層と、前記第二のドープ層と間に中間透明電極をさらに具備する、請求項1~3のいずれか1項に記載の多層接合型光電変換素子。
【請求項5】
前記中間透明電極と前記第二のドープ層との間に中間パッシベーション層をさらに具備する、請求項に記載の多層接合型光電変換素子。
【請求項6】
前記第一の電極が、複数の金属線が実質的に平行に配置された第一の金属電極層を具備し、前記中間パッシベーション層が、実質的に平行に配置された溝状の開口部を具備しており、前記複数の金属線の平均間隔が、前記複数の開口部の平均間隔よりも短い、請求項5に記載の多層接合型光電変換素子。
【請求項7】
中間パッシベーション層がシリコン酸化物を含む、請求項5または6の多層接合型光電変換素子。
【請求項8】
前記第一の電極が、複数の金属線が実質的に平行に配置された第一の金属電極層を具備し、前記光散乱層が、複数の金属線が実質的に平行に配置されたシリコン合金層を具備し、前記複数の金属線の平均間隔が、前記複数のシリコン合金層の平均間隔よりも広い、請求項1~7のいずれか1項に記載の多層接合型光電変換素子。
【請求項9】
下記の工程を含む、請求項1~8のいずれか1項記載の多層接合型光電変換素子の製造方法:
(a)第一の光活性層を構成するシリコンウェハーの一面に、実質的に平滑面を有する第一のドープ層を形成する工程、
(b)前記第一のドープ層が形成されたシリコンウェハーの裏面に、パッシベーション層を形成する工程、
(c)形成されたパッシベーション層に開口部を形成する工程、
(d)開口部が形成されたパッシベーション層の上に、金属ペーストを塗布する工程、
(e)金属ペーストが塗布されたシリコンウェハーを加熱して、シリコン合金層、第二のドープ層、第二の電極を形成させる工程、
(f)第一のドープ層の上に、塗布法により、ペロブスカイトを含む第一の光活性層を形成する工程、および
(g)第一の光活性層の上に、第一の電極を形成する工程。
【請求項10】
工程(g)における第一の光活性層の温度が、工程(f)における第一の光活性層の温度よりも低い、請求項9に記載の多層接合型光電変換素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、高効率かつ大面積で耐久性が高い多層接合型光電変換素子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光電変換素子または発光素子などの半導体素子は、一般的に化学蒸着法(CVD法)などの比較的複雑な方法で製造されていた。しかしながらこれら半導体素子を、より簡単な方法、例えば塗布法、印刷法、物理気相成長法(PVD法)で生産できれば、低コストで簡便に作製できるため、そのような方法による半導体素子の製造方法が模索されている。
【0003】
一方で、有機材料からなる、または有機材料と無機材料との組み合わせからなる、太陽電池、センサー、または発光素子などの半導体素子が盛んに研究開発されている。これらの研究は、光電変換効率が高い素子を見出すことを目的とするものである。さらに、このような研究の対象として、ペロブスカイト半導体を用いた素子は、塗布法等により製造することが可能であり、また高効率が期待できることから、昨今注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特願2017-564372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本実施形態は、高効率で発電できるとともに耐久性の高い半導体素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態による多層接合型光電変換素子は、
第一の電極と、
ペロブスカイト半導体を含む第一の光活性層と、
第一のドープ層と
シリコンを含む第二の光活性層と、
第二のドープ層と、
パッシベーション層と
第二の電極と、
を、この順に具備するものであって、
前記第一の光活性層と、第二の光活性層側の隣接層との間に存在する界面が実質的に平滑面であり、
さらに、前記パッシベーション層の一部分を貫通して、前記第二のドープ層と前記第二の電極とを電気的に接合する、相互に離間した複数のシリコン合金層からなる光散乱層をさらに具備するものである。
【0007】
また、実施形態による多層接合型光電変換素子の製造方法は下記の工程を含むものである:
(a)第一の光活性層を構成するシリコンウェハーの一面に、実質的に平滑面を有する第一のドープ層を形成する工程、
(b)第一のドープ層が形成されたシリコンウェハーの裏面に、パッシベーション層を形成する工程、
(c)形成されたパッシベーション層に開口部を形成する工程、
(d)開口部を形成されたパッシベーション層の上に、金属ペーストを塗布する工程、
(e)金属ペーストが塗布されたシリコンウェハーを加熱して、合金層、第二のドープ層、第二の電極を形成させる工程、
(f)第一のドープ層の上に、塗布法により、ペロブスカイトを含む第一の光活性層を形成する工程、および
(g)第一の光活性層の上に、第一の電極を形成する工程。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、光吸収量が多く、キャリアの再結合が抑制された、高効率で、高い生成電流量を実現でき、耐久性の高い多層接合型光電変換素子、およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態による多層接合型光電変換素子の構造を示す概念図。
図2】比較例1による多層接合型光電変換素子の構造を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態において、光電変換素子とは、太陽電池、またはセンサーなどの光を電気に変換する素子と、電気を光に変換する素子との両方を意味するものである。そしてこれらは、活性層が発電層として機能するか、発光層として機能するかの差があるが、基本的な構造は同様である。
【0011】
以下、実施形態による多層接合型光電変換素子の構成部材について、太陽電池を例に説明するが、実施形態は共通の構造を有するその他の光電変換素子にも適用できるものである。
【0012】
図1は、実施形態による多層接合型光電変換素子の一態様である太陽電池の構成の一例を示す模式図である。
【0013】
図1において、第一の電極101と第二の電極110は、陽極または陰極となり、そこから素子によって生成した電気エネルギーが取り出される。実施形態による光電変換素子は、この第一の電極101と第二の電極110の間に、ペロブスカイト半導体を含む第一の光活性層103と、第一のドープ層107と、シリコンを含む第二の光活性層108と、第二のドープ層111と、パッシベーション層109をこの順に具備している。そして、パッシベーション層109は複数の開口を有しており、その複数の開口をそれぞれ貫通する複数のシリコン合金層112が、第二の電極110と第二のドープ層111とを電気的に接合している。
【0014】
多層接合型光電変換素子において、第一の光活性層103および第二の光活性層108は、入射した光によって励起され、第一の電極101と第二の電極110に電子または正孔を生じる材料を含む層である。実施形態による素子が発光素子である場合には、それぞれの光活性層は、第一の電極と第二の電極から電子とホールが注入されたときに光を生じる材料を含む層である。
【0015】
また、図1に示される素子は、第一の電極と第一の光活性層との間に第一のバッファー層102が配置され、第一の光活性層103と第一のドープ層107との間に第二のバッファー層104、中間透明電極105、および中間パッシベーション層106が配置されている。実施形態による素子は、これらの層を具備することが好ましい。
【0016】
図1に例示されている素子は、光活性層を2つ具備しており、ペロブスカイト半導体を含む光活性層を具備する単位をトップセル、シリコンを含む光活性層を具備する単位をボトムセルとして、中間透明電極によりに直列に接続した構造を有するタンデム太陽電池である。
【0017】
以下、実施形態による半導体素子を構成する各層について説明する。
(第一の電極)
本実施形態においては、第一の電極101は光入射面側に配置される。
図1において、第一の電極101は、第一の金属電極101aと第一の透明電極101bとの複合体である。金属電極と透明電極は、それぞれ特性が異なるので、特性に応じて、いずれか一方を用いても、組み合わせて用いてもよい。
【0018】
金属電極は、導電性を有するものであれば、従来知られている任意のものから選択することができる。具体的には、金、銀、銅、白金、アルミニウム、チタン、鉄、パラジウムなどの導電性材料を用いることができる。
【0019】
第一の金属電極は、任意の方法で形成させることができる。例えば、金属材料を含むペースト状組成物を基材や膜上に塗布した後、熱処理することで形成することができる。また、マスクパターンを利用した物理気相成長(PVD)によって金属電極を形成することもできる。さらに、真空加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、抵抗加熱蒸着法などを用いることができる。これら方法によれば、スパッタ成膜などよりも下地となる層、例えばペロブスカイト半導体層に対するダメージが少ないので、太陽電池の変換効率や耐久性を改良することができる。金属ペーストを用いたスクリーン印刷法も好ましい。金属ペーストにはガラスフリットや有機溶剤を含んでいてもよい。また、光誘導めっき(light induced plating: LIP)を用いることができる。LIPはシリコンが露出した部分に選択的に電極を形成することができる方法である。この場合にめっき金属はNi,Ag,Cu等が利用できる。
【0020】
第一の電極は、一般的には、他の層の積層体を形成した後、その上部、例えば第一のバッファー層の上に形成する。例えば、前記したように金属を含むペースト状組成物を塗布し、加熱することで形成することができる。このように加熱を伴う処理を行う場合には、後述するペロブスカイト含有活性層のアニール温度よりも低温がこのましい。具体的には、第一の光活性層の温度を50~150℃の範囲に制御することがより好ましい。第一の電極の形成に高温の炉や熱源を利用する場合であっても、素子の温度管理を行ったり、電極形成面とは異なる面を冷却機構を有するステージと接触させたり、雰囲気を真空にすることで制御することが可能となる。また、この加熱工程は、後述する第二の電極の形成における加熱工程と、同時に行うことができる。すなわち、第一の金属電極および第二の電極の製造工程における加熱を同時に行うこともできる。
【0021】
一般的に、第一の金属電極は、複数の金属線が実質的に平行に配置された形状を有している。そして、第一の金属電極の厚さは、30~300nmであることが好ましく、幅は10~1000μmであることが好ましい。金属電極の厚さが30nmより薄いと導電性が低下して抵抗が高くなる傾向にある。抵抗が高くなると光電変換効率低下の原因となることがある。金属電極の厚さが100nm以下であれば、光透過性を有するので、発電効率や発光効率を向上できるために好ましい。なお、金属電極のシート抵抗は可能な限り低いことが好ましく、10Ω/□以下であることが好ましい。金属電極は単層構造であっても、異なる材料で構成される層を積層した複層構造であってもよい。
【0022】
一方、厚さが厚い場合には、電極の成膜に長時間を要するため、生産性が低下すると同時に、他の層の温度が上昇してダメージを受け、太陽電池の性能が劣化してしまうことがある。
【0023】
また、第一の透明電極101bは、透明または半透明の導電性層である。第一の電極101bは、複数の材料が積層された構造を有していてもよい。また、透明電極は光を透過するので、積層体の全面に形成することができる。
【0024】
このような透明電極の材料としては、導電性の金属酸化物膜、半透明の金属薄膜等が挙げられる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、およびそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)、インジウム・亜鉛・オキサイド(IZO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、インジウム・亜鉛・オキサイド等からなる導電性ガラスを用いて作製された膜(NESA等)や、アルミニウム、金、白金、銀、銅等が用いられる。特に、ITOまたはIZOなどの金属酸化物が好ましい。このような金属酸化物からなる透明電極は、一般に知られている方法で形成させることができる。具体的には、スパッタリングにより形成される。
【0025】
第一の透明電極の厚さは、電極の材料がITOの場合には、30~300nmであることが好ましい。電極の厚さが30nmより薄いと導電性が低下して抵抗が高くなる傾向にある。抵抗が高くなると光電変換効率低下の原因となることがある。一方、電極の厚さが300nmよりも厚いと、ITO膜の可撓性が低くなる傾向にある。この結果、厚さが厚い場合には応力が作用するとひび割れてしまうことがある。なお、電極のシート抵抗は可能な限り低いことが好ましく、10Ω/□以下であることが好ましい。電極は単層構造であっても、異なる仕事関数の材料で構成される層を積層した複層構造であってもよい。
【0026】
(第一の光活性層)
実施形態の方法により形成される第一の光活性層(光電変換層)103はペロブスカイト構造を少なくとも一部に有するものである。このペロブスカイト構造とは、結晶構造のひとつであり、ペロブスカイトと同じ結晶構造をいう。典型的には、ペロブスカイト構造はイオンA、B、およびXからなり、イオンBがイオンAに比べて小さい場合にペロブスカイト構造をとる場合がある。この結晶構造の化学組成は、下記一般式(1)で表すことができる。
ABX (1)
【0027】
ここで、Aは1級アンモニウムイオンを利用できる。具体的にはCHNH (以下、MAということがある)、CNH 、CNH 、CNH 、およびHC(NH (以下、FAということがある)などが挙げられ、CHNH3+が好ましいがこれに限定されるものではない。また、AはCs、1,1,1-トリフルオロ-エチルアンモニウムアイオダイド(FEAI)も好ましいが、これらに限定されるものではない。また、Bは2価の金属イオンであり、Pb2+またはSn2+、が好ましいがこれに限定されるものではない。 また、Xはハロゲンイオンが好ましい。例えばF、Cl、Br、I、およびAtから選択され、Cl、BrまたはIが好ましいがこれに限定されるものではない。イオンA、B、またはXを構成する材料は、それぞれ単一であっても混合であってもよい。構成するイオンはABXの化学量論比と必ずしも一致しなくても機能できる。
【0028】
第一の光活性層のペロブスカイトを構成するイオンAは、原子量または、イオンを構成する原子量の合計(分子量)が45以上から構成されることが好ましい。更に好ましくは133以下のイオンを含むことが好ましい。これらの条件のイオンAは単体では安定性が低いため、一般的なMA(分子量32)を混合する場合があるが、MAを混合するとシリコンのバンドギャップ1.1eVに近づいて、波長分割して効率を向上させるタンデムとしては、全体の特性は低下してしまう。また、光波長に対する屈折率にも影響を与えてしまい、光散乱層の効果が低下する。更にMAは分子量が小さいため、劣化が進むとガス化してペロブスカイト層に空隙を生じ、意図しない光散乱と光散乱層の組み合わせとなるため避けた方が好ましい。また、イオンAが複数のイオンの組み合わせであり、Csを含む場合、イオンAの全体個数に対してCsの個数の割合が0.1から0.9であることがより好ましい。
【0029】
この結晶構造は、立方晶、正方晶、直方晶等の単位格子をもち、各頂点にAが、体心にB、これを中心として立方晶の各面心にXが配置している。この結晶構造において、単位格子に包含される、一つのBと6つのXとからなる八面体は、Aとの相互作用により容易にひずみ、対称性の結晶に相転移する。この相転移が結晶の物性を劇的に変化させ、電子または正孔が結晶外に放出され、発電が起こるものと推定されている。
【0030】
第一の光活性層の厚さを厚くすると光吸収量が増えて短絡電流密度(Jsc)が増えるが、キャリア輸送距離が増える分、失活によるロスが増える傾向にある。このため最大効率を得るためには最適な厚さがある。具体的には、第一の光活性層の厚さは30nm~1000nmが好ましく、60~600nmがさらに好ましい。
【0031】
例えば第一の光活性層の厚みを個々に調整すれば、実施形態による素子と、その他の一般的な素子を太陽光照射条件では同じ変換効率になるように調整することも可能である。しかし、光活性層の種類が異なるため、200lux程度の低照度条件では、実施形態による素子は一般的な素子より高い変換効率を実現できる。
【0032】
第一の光活性層は任意の方法により形成させることができる。ただし、第一の光活性層を塗布法で形成させることはコストの観点から好ましい。すなわち、ペロブスカイト構造の前駆体化合物と前記前駆体化合物を溶解し得る有機溶媒とを含む塗布液を、下地、例えば第一のドープ層、中間パッシベーション層、中間透明電極、または第二のバッファー層の上に塗布して塗膜を形成させる。なお、この際に、第一の光活性層が接触する下地層の表面は実質的に平滑面である。すなわち、第一の光活性層と、第二の光活性層側の隣接層との間に存在する層間界面が実質的に平滑面である。下地層をそのような形状とすることで、第一の光活性層の厚さを均一にすることができ、短絡構造の形成を防ぐことができる。
【0033】
塗布液に用いられる溶媒は、例えばN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが用いられる。溶媒は材料を溶解できるものであれば制約されず、混合してもよい。第一の光活性層は、ペロブスカイト構造を形成するすべての原材料を1つの溶液に溶解させた単一の塗布液を塗布することで形成することができる。また、ペロブスカイト構造を形成する複数の原材料を個別に、複数の溶液としたもの、複数の塗布液を準備し、それを順次塗布してもよい。塗布には、スピンコーター、スリットコーター、バーコーター、ディップコーターなどを用いることができる。
【0034】
塗布液は添加剤をさらに含んでいてもよい。このような添加剤としては、1,8-ジヨードオクタン(DIO)、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン(CHP)が好ましい。
【0035】
なお、一般的に素子構造にメソポーラス構造体が含まれる場合、光活性層にピンホール、亀裂、ボイドなどが発生しても、電極間の漏れ電流が抑えられることが知られている。素子構造がメソポーラス構造を有しない場合には、そのような効果が得られにくい。しかし、実施形態において塗布液にペロブスカイト構造の複数の原料が含まれる場合、活性層形成時の体積収縮が少ないため、よりピンホール、亀裂、ボイドが少ない膜が得られやすい。さらに、ペロブスカイト構造の形成時にヨウ化メチルアンモニウム(MAI)、金属ハロゲン化合物等が共存すると、未反応の金属ハロゲン化合物との反応が進み、さらにピンホール、亀裂、ボイドが少ない膜が得られやすい。したがって、塗布液中にMAI等を添加したり、塗布後の塗布膜上に、MAI等を含む溶液を塗布することが好ましい。
【0036】
ペロブスカイト構造の前駆体を含む塗布液を2回以上塗布してもよい。このような場合には、最初の塗布で形成される活性層は格子不整合層となりやすいので比較的薄い厚さとなる様に塗布されることが好ましい。2回目以降の塗布の条件は、具体的には、スピンコーターの回転数が相対的に早い、スリットコーターやバーコーターのスリット幅が相対的に狭い、ディップコーターの引き上げ速度が相対的に速い、塗布溶液中の溶質濃度が相対的に薄い等の膜厚を薄くするような条件であることが好ましい。
【0037】
ペロブスカイト構造形成反応の完了後、溶媒を乾燥させるためにアニールを行うことが好ましい。このアニールはペロブスカイト層に含まれる溶媒を取り除くために行われるため、第一の光活性層の上に、次の層、例えばバッファー層を形成する前に行うことが好ましい。アニール温度は50℃以上、さらに好ましくは90℃以上であること、上限は200℃以下、さらに好ましくは150℃以下で実施される。アニール温度が低いと溶媒が十分に除去できないことがあり、アニール温度が高過ぎると、第一の光活性層の表面の平滑性が失われることがあるので注意が必要である。
【0038】
なお、ペロブスカイト層を塗布で成膜すると、塗布面ではない面、例えば第二の電極表面を汚染してしまうことがある。ペロブスカイトは腐食性を有するハロゲン元素を含むため、汚染を除去することが好ましい。汚染を除去する方法は特に制約されないが、パッシベーション層にイオンを衝突させる方法、レーザー処理、エッチングペースト処理、溶媒洗浄が好ましい。なお、この汚染の除去は、第一の電極を形成する前に行うことが好ましい。
【0039】
(第一のバッファー層および第二のバッファー層)
図1において、第一のバッファー層102と第二のバッファー層104は、第一の電極と第一の光活性層との間、または第一の光活性層とトンネル絶縁膜との間にそれぞれ存在する層である。電子またはホールを輸送する優先的に取り出す層である。ここで、第二のバッファー層は、存在する場合には第一の光活性層の下地層となるので、その表面は実質的に平滑面であることが好ましい。
【0040】
なお、第一のバッファー層と第二のバッファー層は、2層以上の積層構造を有することもできる。例えば第一のバッファー層が有機物半導体を含む層と、金属酸化物を含む層であることができる。金属酸化物を含む層は第一の透明電極を成膜する際、活性層を保護する機能を奏することができる。第一の透明電極は第一の電極の劣化を抑制する効果を奏する。このような効果を十分に発揮するために、第一の透明電極は、第一のバッファー層よりも緻密な層であることが好ましい。
【0041】
第一のバッファー層および第二のバッファー層は、存在する場合には、いずれかが正孔輸送層として機能し、他方が電子輸送層として機能する。半導体素子が、より優れた変換効率を達成するためには、これらの層を具備することが好ましいが、実施形態においては必ずしも必須ではなく、これらのいずれか、または両方が具備されていなくてもよい。
【0042】
電子輸送層は、電子を効率的に輸送する機能を有するものである。バッファー層が電子輸送層として機能する場合、この層はハロゲン化合物または金属酸化物のいずれかを含むことが好ましい。ハロゲン化合物としてはLiF、LiCl、LiBr、LiI、NaF、NaCl、NaBr、NaI、KF、KCl、KBr、KI、またはCsFが好適な例として挙げられる。これらのうち、LiFが特に好ましい。
【0043】
金属酸化物を構成する元素は、チタン、モリブデン、バナジウム、亜鉛、ニッケル、リチウム、カリウム、セシウム、アルミニウム、ニオブ、スズ、バリウムが好適な例としてあげられる。複数の金属元素が含まれる複合酸化物も好ましい。例えばアルミニウムでドープされた酸化亜鉛(AZO)、ニオブでドープされた酸化チタン等が好ましい。これら金属酸化物では酸化チタンがより好ましい。酸化チタンとしては、ゾルゲル法によりチタンアルコキシドを加水分解することによって得られたアモルファス性酸化チタンが好ましい。
【0044】
電子輸送層には、その他、金属カルシウムなどの無機材料を用いることもできる。
【0045】
また、電子輸送層にはn型半導体を用いることもできる。n型有機半導体としては、フラーレンおよびその誘導体が好ましいが、特に限定されるものではない。具体的には、C60、C70、C76、C78、C84等を基本骨格として構成される誘導体が挙げられる。フラーレン誘導体は、フラーレン骨格における炭素原子が任意の官能基で修飾されていてもよく、この官能基同士が互いに結合して環を形成していてもよい。フラーレン誘導体には、フラーレン結合ポリマーが含まれる。溶媒に親和性の高い官能基を有し、溶媒への可溶性が高いフラーレン誘導体が好ましい。
【0046】
フラーレン誘導体における官能基としては、例えば、水素原子;水酸基;フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;シアノ基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基、チエニル基、ピリジル基等の芳香族複素環基等が挙げられる。具体的には、C60H36、C70H36等の水素化フラーレン、C60、C70等のオキサイドフラーレン、フラーレン金属錯体等が挙げられる。
【0047】
上述した中でも、フラーレン誘導体として、[60]PCBM([6,6]-フェニルC61酪酸メチルエステル)または[70]PCBM([6,6]-フェニルC71酪酸メチルエステル)を使用することが特に好ましい。
【0048】
また、n型有機半導体として、蒸着で成膜することが可能な低分子化合物を用いることができる。ここでいう低分子化合物とは、数平均分子量Mnと重量平均分子量Mwが一致するものである。いずれかが1万以下である。BCP(2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)、 Bphen(4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)、 TpPyPB(1,3,5-トリ(p-ピリジン-3-イル-フェニル)ベンゼン)、DPPS(ジフェニル-ビス(4-ピリジン-3-イル)フェニル)シラン)がより好ましい。
【0049】
実施態様による光電変換素子に電子輸送層を設ける場合、電子輸送層の厚さは20nm以下であることが好ましい。これは電子輸送層の膜抵抗を低くし、変換効率を高めることができるからである。一方で、電子輸送層の厚さは5nm以上とすることができる。電子輸送層を設け、一定以上の厚さとすることで、正孔ブロック効果を十分に発揮させることができ、発生した励起子が電子と正孔とを放出する前に失活することを防止することができる。この結果、効率的に電流を取り出すことができる。
【0050】
正孔輸送層は、正孔を効率的に輸送する機能を有するものである。バッファー層が正孔輸送層として機能する場合、この層はp型有機半導体材料やn型有機半導体材料を含むことができる。ここでいうp型有機半導体材料とn型有機半導体材料とは、ヘテロ接合、バルクヘテロ接合を形成したときに、電子ドナー材料、電子アクセプター材料として機能できる材料である。
【0051】
正孔輸送層の材料としてp形有機半導体を用いることができる。p形有機半導体は、例えば、ドナーユニットとアクセプタユニットからなる共重合体を含むものが好ましい。ドナーユニットとしては、フルオレンやチオフェンなどを用いることができる。アクセプタユニットとしては、ベンゾチアジアゾールなどを用いることができる。具体的には、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリピロールおよびその誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、オリゴチオフェンおよびその誘導体、ポリビニルカルバゾールおよびその誘導体、ポリシランおよびその誘導体、側鎖または主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリンおよびその誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリンおよびその誘導体、ポリフェニレンビニレンおよびその誘導体、ポリチエニレンビニレンおよびその誘導体、ベンゾジチオフェン誘導体、チエノ[3,2-b]チオフェン誘導体等を用いることができる。正孔輸送層には、これらの材料を併用してもよいし、これらの材料を構成する共単量体からなる共重合体を用いてもよい。これらのうちポリチオフェンおよびその誘導体は、優れた立体規則性を有し、また溶媒への溶解性は、比較的高いので好ましい。
【0052】
このほか、正孔輸送層の材料として、カルバゾール、ベンゾチアジアゾールおよびチオフェンを含む共重合体であるポリ[N-9’-ヘプタデカニル-2,7-カルバゾール-アルト-5,5-(4’,7’-ジ-2-チエニル-2’,1’,3’-ベンゾチアジアゾール)](以下、PCDTBTということがある)などの誘導体を用いてもよい。さらにベンゾジチオフェン(BDT)誘導体とチエノ[3,2-b]チオフェン誘導体の共重重合体も好ましい。例えばポリ[[4,8-ビス[(2-エチルヘキシル)オキシ]ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン-2,6-ジイル][3-フルオロ-2-[(2-エチルヘキシル)カルボニル]チエノ[3,4-b]チオフェンジイル]](以下PTB7ということがある)、PTB7のアルコキシ基よりも電子供与性が弱いチエニル基を導入したPTB7-Th(PCE10、またはPBDTTT-EFTと呼ばれることもある)等も好ましい。さらに、正孔輸送層の材料として、金属酸化物を用いることもできる。金属酸化物の好適な例としては、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化リチウム、酸化カルシウム、酸化セシウム、酸化アルミニウムが挙げられる。これらの材料は、安価であるという利点を有する。さらに正孔輸送層の材料として、チオシアン酸銅などのチオシアン酸塩を用いてもよい。
【0053】
また、spiro-OMeTADなどの輸送材料や前記p型有機半導体に対してドーパントを使用することができる。ドーパントとしては、酸素、4-tert-ブチルピリジン、リチウム-ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド (Li-TFSI)、アセトニトリル、トリス[2-(1H-ピラゾール-1-イル)ピリジン]コバルト(III)トリス(ヘキサフルオロリン酸)塩(商品名「FK102」で市販)、トリス[2-(1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン]コバルト(III)トリス[ビス(トリスフルオロメチルスルフォニル)イミド](MY11)などを使用できる。
【0054】
正孔輸送層としてポリエチレンジオキシチオフェンなどの導電性高分子化合物を利用することができる。このような導電性高分子化合物は電極の項に挙げたものを用いることができる。正孔輸送層においても、PEDOTなどのポリチオフェン系ポリマーに別の材料を組み合わせて、正孔輸送等として適切な仕事関数を有する材料に調整することが可能である。ここで、正孔輸送層の仕事関数が前記活性層の価電子帯よりも低くなるように調整することが好ましい。
【0055】
前記第一のバッファー層は、電子輸送層であることが好ましい。さらに、亜鉛、チタン、アルミニウム、スズおよびタングステンからなる群から選択される金属の酸化物層であることが好ましい。この酸化物層は、2種類以上の金属を含む複合酸化物層であってもよい。これらはライトソーキング効果により電気伝導性が向上するため、活性層で発生する電力を効率的に取り出すことが可能となるからである。この層を活性層の第一の電極側に配置することで、特にUV光でライトソーキングが可能になる。
【0056】
なお、第一のバッファー層は、複数の層が積層された構造であることが好ましい。このような場合、前記の金属の酸化物を含んでいることが好ましい。そのような構造とすることで、新たに別種の金属酸化物をスパッタリングにより形成させる場合には、活性層や活性層に隣接する金属酸化物がスパッタによるダメージを受けにくくなる。
【0057】
また、第一のバッファー層は、空隙を含む構造を有することが好ましい。より具体的には、ナノ粒子の堆積体からなり、そのナノ粒子の間に空隙を有する構造、ナノ粒子の結合体からなり、結合されたナノ粒子の間に空隙を有する構造などを有するバッファー層が好ましい。第一のバッファー層が金属酸化物膜を含んでいる場合、その膜はバリア層として機能する。バリア層は他の層から浸透してくる物質による第二の電極の腐食を抑制するため、第二の電極と第二のバッファー層との間に設けられる。一方でペロブスカイト層を構成する材料は高温時には蒸気圧が高い傾向にある。このため、ペロブスカイト層にハロゲンガス、ハロゲン化水素ガス、メチルアンモニウムガスが発生しやすい。これらのガスがバリア層によって閉じ込められると、素子が内圧上昇により内部からダメージを受ける可能性がある。このような場合、特に層界面の剥離が起こりやすくなる。このため、第二のバッファー層が空隙を含むことによって内圧上昇が緩和され、高い耐久性を提供することが可能になる。
【0058】
金属酸化膜により、第一の電極、すなわち金属層は構造的に第一の光活性層と隔絶されると、第一の電極が、他の層から浸透してくる物質により腐食されにくくなる。本実施形態において、第一の光活性層はペロブスカイト半導体を含む。一般的にペロブスカイト半導体を含む光活性層からは、ヨウ素や臭素などのハロゲンイオンが素子内部に拡散して、金属電極に到達した成分が腐食の原因となることが知られている。金属酸化膜が存在する場合、このような物質の拡散を効率的に遮断することができると考えられる。インジウム・スズ・オキサイド(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アルミドープ酸化亜鉛(AZO)を含むことが好ましい。また、厚みは5~100nmが好ましく、10~70nmであることがより好ましい。このような構造とすると、一般的に透明電極に用いられる金属酸化物と同様のものを用いることができるが、透明電極に利用される一般的な金属酸化物層とは異なる物性を有するものを用いることが好ましい。すなわち、単純に構成する材料のみによって特徴付けられるものではなく、その結晶性または酸素含有率にも特徴を有している。定性的には、第一のバッファー層に含まれる金属酸化物膜の結晶性または酸素含有率は、一般的に電極として利用される、スパッタリングにより形成される金属酸化物層よりも低い。具体的には、酸素含有率は、62.1~62.3原子%であることが好ましい。金属酸化物膜が腐食物質の浸透防止層として機能しているかは、耐久性試験後の断面方向の元素分析で確認することができる。分析手段としては、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)等が利用できる。少なくとも、腐食物質の浸透防止を示す材料を挟むように、劣化物質のピークが2つもしくはそれ以上に分かれて検出され、且つ、第一の電極側のピーク面積が、それ以外のピークの総面積よりも小さくなる。完全に浸透防止された場合、第一の電極側のピークは確認することはできなくなる。第一の電極側のピークは確認できないほど小さいことが好ましいが、大部分が遮蔽されるだけでも、素子の耐久性は大きく改善される。つまり、第一の電極の一部分を劣化させても、第一の電極の全体的な電気抵抗等の特性を大きく変化させないため、太陽電池の変換効率には大きな変化が現れない。一方、十分に浸透が防止されず、第一の電極と腐食物質が反応した場合、第一の電極の電気抵抗等の特性が大きく変化してしまうため、太陽電池の変換効率に大きな変化が生じる(変換効率の低下)。好ましくは、第一の電極側のピーク面積は、それ以外のピークの総面積に対して0.007になると良い。このような金属酸化物膜の形成方法は特に限定されないが、特定条件下にスパッタリングによって形成させることができる。
【0059】
また、塗布法により金属酸化物膜を形成することもできる。前記第一の光活性層と、第二の光活性層側の隣接層との間に存在する界面の平滑性を向上させるために、塗布で成膜することが好ましい。
【0060】
(中間透明電極)
中間透明電極105は、トップセルとボトムセルとを隔絶しながら電気的に連結し、かつトップセルで吸収されなかった光をボトムセルへ導く機能を有するものである。したがって、その材料は透明または半透明の導電性を有する材料から選択することができる。このような材料としては、第一の透明電極と同じものから選択することができる。
中間明電極の厚さは、5nm~70nmであることが好ましい。5nmよりも薄いと膜欠損が多く、中間透明電極に隣接する層の隔絶が不十分になる。70nmよりも厚いと、光透過性は回折効果により、ボトムセル、例えばシリコンセルの発電量の低下を招くことがある。
【0061】
(中間パッシベーション層)
第二の透明電極105は、直接的に第1のドープ層107と接続する他、必要に応じて中間パッシベーション層106を介して間接的に接続していてもよい。このような中間パッシベーション膜は、シリコン酸化物を含むことが好ましい。シリコン酸化物を含むパッシベーション層は、キャリア損失を低減させる効果を奏する。
【0062】
中間パッシベーション層がパッシベーション効果を発揮するためには、層は開口部のない均一な層であっても、一部に開口部を有する不連続な層であってもよい。ただし、所望の効果を得るためには、厚さや開口部形状が特定の構造を有することが好ましい。たとえば、開口部を設けて、トップセルとボトムセルとの電気的な接続面を限定することで、接続界面でのキャリアロスを低減できるが、この場合の厚さは、10nm~1000nmであることが好ましい。また、開口部の形状は、例えば、一定またはランダムの間隔で配置された溝状の開口部であってもよいし、孔状の開口部が均一または不均一に分布していてもよい。
【0063】
なお、中間パッシベーション層が開口部を有する場合、キャリアの流れは開口部によって制限されるので、中間パッシベーション層の全体的な面積に対する開口部の占める合計面積の割合が特定の範囲にあることが好ましい。具体的には、その割合が50~95%であることが好ましい。
【0064】
また、開口部の形状が溝状(直線状)である場合には、その溝の幅が10~500000nmであることが好ましく、溝の平均間隔が10~5000000nmであることが好ましい。溝の幅や間隔は、一定でなくてもよいが、それらを実質的に一定とすることで、製造が容易になるので好ましい。
【0065】
また、開口部の形状が溝状(直線状)である場合には、その溝が実質的に平行に配置されていることが好ましい。そして、その溝の幅が10~500000nmであることが好ましく、溝の平均間隔が10~5000000nmであることが好ましい。溝の幅や間隔は、一定でなくてもよいが、それらを実質的に一定とすることで、製造が容易になるので好ましい。また、素子全体の光吸収を増大させるために、線状に形成された第一の金属電極を構成する複数の金属線の平均間隔が、中間パッシベーション層に溝状に形成された複数の開口部の平均間隔よりも短くなるようにすることが好ましい。これにより、多くの光を太陽電池内部に取り込むと共に、光散乱層を利用して光吸収を最大化できる。開口部の形状が、孔状である場合、その形状は特に限定されないが、一般的には円形とされるが不定形であってもよい。そして、その各開口部の面積が0.01~40000μmの範囲内に含まれることが好ましい。
【0066】
また、開口部のない均一な層を設けてトンネル接続とすることで、シリコンのパッシベーションと電気的な接続を両立することもできる。この場合のパッシベーション層の厚さは、1nm~20nmであることが好ましい。
【0067】
なお、中間パッシベーション膜は、後述するパッシベーション層と同様の方法で形成させることができる。
【0068】
(第二の光活性層)
図1において、第二の光活性層108は、シリコンを含む。第二の光活性層に含まれるシリコンは、一般的に光電池に用いられるシリコンと同様の構成を採用することができる。具体的には、単結晶シリコン、多結晶シリコン、ヘテロ接合型シリコンなどの結晶シリコンを含む結晶シリコン、アモルファスシリコンを含む薄膜シリコンなどが挙げられる。また、シリコンはシリコンウェハーから切り出した薄膜であってもよい。シリコンウェハーとしては、リンなどをドープしたn型シリコン結晶、ボロンなどをドーピングしたp型シリコン結晶も使用できる。p型シリコン結晶中の電子は長い拡散長を有しているので好ましい。なお、第二の光活性層の厚さは、100~300μmであることが好ましい。
【0069】
(第一のドープ層および第二のドープ層)
図1において、第一のドープ層107と第二のドープ層111は、第一の光活性層103と第二の光活性層108との間、または第二の光活性層108と第二の電極110との間にそれぞれ配置される層である。
【0070】
これらのドープ層としては、第二の光活性層の特性に応じて、n型層、p型層、p+型層、p++型層などを、キャリア収集効率の改良など、目的に応じて組み合わせることができる。具体的には第二の光活性層としてp型シリコンを用いる場合には、第一のドープ層をリンドープシリコン膜(n層)、第二のドープ層としてp+層を組み合わせることができる。
【0071】
これらのp+層やp++層などは、例えばアモルファスシリコン(a-Si)に必要なドーパントを導入することで形成させることができる。まず、シリコンをPECVD法などで堆積してa-Si層を形成させ、アニール処理でa-Si層の一部を結晶化させて、キャリア輸送性の高い層を形成させることができる。ドープされたアモルファスシリコンは、低温で、シランおよびジボラン、またはシランおよびホスフィンを原料として成膜することで形成させることもできる。
【0072】
また、a-Si層にリンをドープすることもできる。リンのドーピング方法は特に制限されない。ドーパント供給源としてはPOCl、PHなどのリンを含む化合物を利用できる。リンの拡散源としてはリンガラス(phosphosilicate glass: PSG)が広く用いられている。より具体的には、POClと酸素との反応を利用するなどしてシリコン基板表面にPSGを堆積させ、その後、800~950℃で熱処理を行い、熱拡散によりシリコン基板中にリンをドーピングすることができる。ドーピング処理の後、PSGは酸で除去することも可能である。
【0073】
同様に、a-Si層にボロンをドープすることもできる。ポロンのドーピング方法は特に制限されない。ドーパント供給源としてはBBr、B、BNなどのボロンを含む化合物を利用できる。ボロンの拡散源としてはホウケイ酸ガラス(borosilicate glass:BSG)が広く用いられている。より具体的には、BBrと酸素の反応を利用するなどして基板表面にBSGを堆積させ、その後、例えば800~1000℃、好ましくは850~950℃で熱処理を行い、熱拡散によりシリコン基板中にボロンをドーピングすることができる。ドーピング処理の後、BSGは酸で除去することが可能である。
【0074】
また、レーザーを用いてリンやボロンなどのドーパントを追加でドーピングすることもできる。このような方法は選択的エミッタの形成にも利用できる。
【0075】
実施形態の素子において、第一のドープ層は実質的に平滑面である。第一のドープ層が平滑面であることにより、その上にペロブスカイト層を塗布で均一な厚さに成膜するのに適している。
【0076】
実施形態による素子をトップセルとボトムセルとに区別して考えると、ボトムセルはシリコン太陽電池に相当する。一般的なシリコン太陽電池では、表面にテクスチャ構造を有するが、このような電池をボトムセルとして採用すると、その上に形成するペロブスカイト層の厚さが不均一になり、厚さが薄い部分で短絡構造を形成して太陽電池の特性を低下させてしまう。しかし、表面のテクスチャ構造を排除して平滑面とすると、表面における光反射が減少してしまい、屈折率が大きいシリコン層内部への光取り込み量が減少し、結果的に、電流量を減少してしまう。しかし実施形態による素子では、第一の透明電極を設けた場合、その屈折率は大気とシリコンの屈折率に間であるので、テクスチャ構造がなくとも光取り込み量を増やすことができる。テクスチャ構造の形成には、一般的に酸やアルカリによるエッチングが利用されるが、実施形態による素子に製造方法においては、これらの工程が不要となり、安価に作製できると同時に、薬液が不要となるため、環境負荷が少ない。また、トップセルを形成するために、片側のテクスチャを研磨して平面化する作業も不要になり、素子を安価に提供可能である。
【0077】
また、第一のドープ層は、ドープの効果により禁制帯幅が狭くなるため、より長波長の光を吸収する傾向にある。この結果、第一のドープ層において寿命の短いキャリアが生成してしまう傾向にある。そこで、第一のドープ層にテクスチャ構造を採用せず、均一な厚さの実質的な均一層を採用することで、キャリアの生成領域を狭くして、キャリアの生成、言い換えればキャリアの損失を抑制することができる。この結果、生成する電流量を増加させることが可能となる。
【0078】
また、第一のドープ層の厚さを薄くすることで、キャリアの生成領域をさらに限定することができるので、さらに生成する電流の量を増加させることができる。具体的には、第一のドープ層の厚さは、1~1000nmであることが好ましく、2~4nmであることがより好ましい。
【0079】
第二のドープ層は、第二の光活性層と第二の電極との間に配置されている。この第二のドープ層は、後述するパッシベーション層との組み合わせによって、第二の光活性層と第二の電極とを物理的に隔離している。そして、第二のドープ層は後述する合金層を形成する際に同時に形成させることもできる(詳細後述)。
【0080】
(パッシベーション層、光散乱層、および第二の電極)
パッシベーション層109は、第二の光活性層108と第二の電極110との間に配置されている。パッシベーション層は、第二の光活性層と第二の電極とを電気的に絶縁するが、開口部を有しており、その開口部を通じて、第二の光活性層、第二のドープ層、および第二の電極間に電気的接続を確保している。このため、キャリア移動が可能な領域が限定されるので、効率的にキャリアを収集することができる。
【0081】
より詳細に説明すると、第二の電極と第二の光活性層(シリコン層)との界面におけるキャリア再結合速度は10cm/s程度と非常に早く、変換効率が低下する原因となるが、パッシベーション層を間に配置することで、それを抑制することができる。またシリコン表面には一般的にダングリングボンドが存在し、これも再結合中心として働くことがある。このダングリングボンドもパッシベーション層によって低減することができる。この場合のパッシベーション層の厚さは、0.1nm~20nmであることが好ましい。
【0082】
パッシベーション膜を構成するのに用いられる材料は、シリコン表面のダングリングボンドを減らすことができる材料が好ましく用いられ、特に限定されない。具体的には、シリコン材料の表面を熱酸化処理することによって形成されるシリコン酸化膜、plasma-enhanced chemical vapor deposition(PECVD)、plasma-assisted atomic layer deposition(PEALD)などにより成膜されたAlOx、SiNxなどの膜が挙げられる。熱酸化によりシリコン酸化膜を形成する場合には、酸素雰囲気中で酸化を行うドライ酸化、または水蒸気雰囲気で参加を行うウェット酸化のいずれを用いることもできる。厚さの均一な酸化膜を効率的に得るにはウェット酸化膜が適している。熱酸化処理によって良好な界面を得るには1000℃程度の高い酸化温度を採用することが好ましい。一方、低温プロセスで良好な界面を得るためには、NH/SiHガス系を用いたプラズマCVDを採用して、シリコン窒化膜(SiNx:H)を形成することが好ましい。このようにして得られた堆積膜中には1×1021atoms/cm程度の多くの水素がふくまれている。NHとSiHガスとの流量比を変えて、屈折率や膜中の水素濃度を制御することができる。
【0083】
実施形態による素子において、パッシベーション層は第二の電極の表面全体にわたって形成されるが、第二の光活性層と第二の電極との電気的な接続を得るためには、一部が取り除かれて開口部が形成されている。開口部は、例えば湿式処理などによってパッシベーション層の一部を取り除くことによって形成できる。また、パッシベーション層がシリコン窒化膜であると、後述する合金層の形成時にシリコン窒化膜中に含まれる水素がシリコン結晶中に拡散し、結晶格子末端が水素により終端され電気特性が改善される。
【0084】
実施形態による素子は、第二の電極の上にパッシベーション層と光散乱層を有している。この構造は、一般的に知られている裏面パッシベーション型太陽電池(PERC型太陽電池)と共通する構造である。
【0085】
第二の電極110に用いられる材料は導電性を有するものであれば、従来知られている任意の材料から選択することができる。第二の電極の材料は、金、銀、銅、白金、アルミニウム、チタン、鉄、パラジウム等が用いられるが、アルミニウムまたは銀が好ましい。特にアルミニウムは光反射性とコストの面から好ましい。
【0086】
図1に示された素子においては、第二の電極は素子の裏面全体を覆っている。第二の電極が裏面全体を覆うことで、第一の光活性層と第二の光活性層で吸収できなかった光を反射して、再度、第二の光活性層と第一の光活性層で吸収させることができ、その結果、発生する電流量を増加させることができる。第二の電極の厚さは、20~300nmであることが好ましい。
【0087】
第二の電極は、パッシベーション膜に設けられた開口部を貫通する合金層を介して、第二の光活性層と電気的に接続する。
開口部と合金層は、例えば以下のように形成できる。第二の光活性層の裏面側表面にパッシベーション層を形成させた後、レーザーまたはエッチングペーストを用いてパッシベーション層の一部を除去して開口部を形成させる。その開口部に、そこへ金属ペーストを塗布し、焼成することで合金層を形成させる。焼成は600~1000℃の温度で数秒間行うことが好ましい。金属ペーストは銀またはアルミニウムを含むものが好ましいが好ましい。別の方法としては、第二の光活性層の裏面側表面にパッシベーション層を形成させた後、合金層を形成しようとする部分にFire through用ペーストを塗布し、焼成して、ペーストとパッシベーション層とを反応させて、合金層を形成させる。後者の方法では、あらかじめ開口部を形成させないが、合金層の形成時にパッシベーション層が変性するので、実施形態においては、便宜的にパッシベーション層の変性した部分を開口部という。なお、これらの方法により形成される金属層は、典型的にはドーム状の構造を有する。
【0088】
これらの方法のうち、銀またはアルミニウムを含む金属ペーストを用いたスクリーン印刷法が好ましい。金属ペーストはガラスフリットや有機溶剤をさらに含んでいてもよい。アルミニウムペーストを印刷した後に熱処理すると、アルミが高濃度に拡散したp+層(第二のドープ層)と、アルミニウムとシリコンとが合金化したシリコン合金層が形成される。このようにして複数形成されたシリコン合金層が、光散乱層を構成する。アルミニウムが高濃度で拡散した第二のドープ層は、裏面電界(BSF)を形成し、キャリア再結合を低減できる。
【0089】
なお、第二の電極と第二のドープ層または第二の光活性層との間のキャリアの流れは、開口部によって制限されるので、個々の開口部の面積や、パッシベーション層全体の総面積に対する開口部の占める合計面積の割合が特定の範囲にあることが好ましい。具体的には、その面積の割合が40~80%であることが好ましい。
【0090】
また、開口部の形状が溝状(直線状)である場合には、合金層も直線状に形成される。そして、その溝または合金層の幅が10~500000nmであることが好ましく、溝または合金層の平均間隔が20~7000000nmであることが好ましい。溝または合金の幅や間隔は、一定でなくてもよいが、それらを実質的に一定に、すなわち平行に配置することで、製造が容易になるので好ましい。また、素子全体の光吸収を増大させるために、線状に形成された第一の金属電極を構成する複数の金属線の平均間隔が、溝状に形成された複数の開口部(線状に形成された複数のシリコン合金層)の平均間隔よりも広くなるようにすることが好ましい。これにより、多くの光を太陽電池内部に取り込むと共に、光散乱層を利用して光吸収を最大化できる。また、開口部の形状が、孔状である場合、その形状は特に限定されないが、一般的には円形とされるが不定形であってもよい。そして、その各開口部の面積が0.01~40000μmの範囲に含まれることが好ましい。
【0091】
トップセルとボトムセルを電気的に直列に接続したタンデムセルでは、トップセルとボトムセルで吸収させる光量を調整することが好ましい。そこで、素子の裏面側に形成された合金層と第二のドープ層との界面の曲率半径は、一定ではないことが好ましい。すなわち、その界面が、位置ごとに異なる曲率半径を有することで、光を散乱させるのに適している。合金層から構成される光散乱層の反射率は可視光域で80~96%であることが好ましい。このような反射率を有する光散乱層は、反射率30~50%の第二の光活性層(シリコン層)に対して有効な光反射を実現できる。更にシリコン層は波長500~1500nmの領域で、4.2~3.5という高い屈折率を有するのに対して、光散乱層の屈折率は小さく、この観点からも有効な光反射を実現できる。具体的には光散乱層の屈折率は1.4~1.8であることが好ましい。
【0092】
シリコン合金層と第二のドープ層との界面は、光の反射を有効にするために、平面である部分、すなわち断面において界面に対応する境界線の曲率半径が無限大である部分が少ないことが好ましい。そして、一般的に、第一の光活性層及び第二の光活性層の積層方向に平行な断面におけるシリコン合金層と第二のドープ層との界面に対応する境界線の曲率半径は、具体的には1~100μmの範囲内であることが好ましく1~50μmの範囲内であることがより好ましい。境界線のすべてが、このような曲率半径であることが最も好ましいが、一部に直線が含まれていてもよい。具体的には、第一の光活性層、第二の光活性層の積層方向(図1の紙面上下方向)に平行な断面におけるシリコン合金層と第二のドープ層との境界線の総長に対して、曲率半径が1~100μmの範囲内である部分の長さが40%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。境界線は素子の断面サンプルを観察することで確認可能である。断面サンプルは素子から薄片サンプルを超薄切片法(ミクロトーム法)、Focused Ion Beam (FIB)等により採取し、透過電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)等で計測可能である。
また合金層(光散乱層)から第二の光活性層までの距離が100~400μmであることが好ましい。界面における曲率半径がこのような範囲を有する場合、光路が複雑に変化した光を効率的に吸収することができる。このような構成を採用することで、実施形態による素子から取り出せる電流量を最大化することが可能である。
【0093】
また、合金層の形状に関して、その頂点に近い部分ほど、曲率半径が大きくなることが好ましい。このような形状は、合金層の形成の際に、パッシベーション層の除去範囲を大きくし、合金が形成される深度を浅くすることで実現できる。合金層の形状は、焼成温度、焼成時間、昇温速度などの焼成条件における各種パラメータを調整することによって制御が可能である。したがって、各パラメーターごとに検量線を作成することなどの一般的な方法によって、所望の形状とすることが可能である。
【0094】
(反射防止層)
外部からの光取り込み量を増やすため、素子の最外層、つまり大気との界面部分に反射防止層を設けてもよい。このような反射防止膜は、一般的に知られている材料、例えばSnNx、やMgFなど材料として用いることができる。これらの材料をPECVD法、蒸着法等で成膜することができる。素子の最外層に反射防止膜を設ける場合、素子から電流を取り出すためには、第一の電極、および第二の電極は、外部と電気的接続を得る必要がある。このため反射防止膜が電気的接続を阻害しないように、その一部を除去することが好ましい。このような除去方法としては、湿式エッチング処理方法、エッチングペーストを用いた方法、レーザーを用いた方法などを用いることができる。
【0095】
(タンデム構造の設計)
図1に例示されている素子は、光活性層を2つ具備しており、ペロブスカイト半導体を含む光活性層を具備する単位をトップセル、シリコンを含む光活性層を具備する単位をボトムセルとして、中間透明電極によりに直列に接続した構造を有するタンデム太陽電池である。一般的に、シリコン太陽電池のバンドギャップは1.1eV程度であるが、これに対して相対的にバンドギャップが広いペロブスカイト半導体を含む光電池を組み合わせることで、より広い波長域の光を効率的に吸収することが可能となる。
【0096】
一般に、シリコン太陽電池の開放電圧は0.6~0.75Vであり、ペロブスカイト太陽電池の開放電圧は0.9~1.3Vである。これらを組み合わせたタンデム太陽電池においては、ペロブスカイト太陽電池による発電量を多くすることで、シリコン太陽電池単独よりも高い電圧の電力が得られる。すなわちタンデム太陽電池で得られる出力は、シリコン太陽電池単独を上回ることができる。タンデム太陽電池はトップセルとボトムセルの直列回路であるため、電圧はトップセルとボトムセルの合計に近い値が得られる。一方、電流は、トップセルとボトムセルのいずれか低い方の電流に律速される。したがって、タンデム太陽電池の出力を最大化するためには、トップセルとボトムセルの電流を近づけることが好ましい。一般的には電流を近づけるために、活性層の材料を選択して、吸収する光の波長域を変更したり、光活性層の厚さを調整して、吸収する光量を変更したりすることが行われる。シリコン太陽電池は、一般に単独で短絡電流密度が40mA/cm程度であるため、タンデム太陽電池では、トップセルとボトムセルで20mA/cm程度になるように調整することが好ましい。
【0097】
(素子の製造方法)
実施形態による多層接合型光電変換素子は、上記した各層を、適切な順序で積層することで製造することができる。積層順序は、所望の構造を得ることができれば特に制限されないが、例えば以下の順序で製造することができる。
(a)第一の光活性層を構成するシリコンウェハーの一面に、実質的に平滑面を有する第一のドープ層を形成する工程、
(b)第一のドープ層が形成されたシリコンウェハーの裏面に、パッシベーション層を形成する工程、
(c)形成されたパッシベーション層に開口部を形成する工程、
(d)開口部を形成されたパッシベーション層の上に、金属ペーストを塗布する工程、
(e)金属ペーストが塗布されたシリコンウェハーを加熱して、合金層、第二のドープ層、第二の電極を形成させる工程、
(f)第一のドープ層の上に、塗布法により、ペロブスカイトを含む第一の光活性層を形成する工程、および
(g)第一の光活性層の上に、第一の電極を形成する工程。
【0098】
さらに、必要に応じて、工程(e)と(f)との間に、以下の工程のいずれかを組み合わせることもできる。
(e1)必要に応じて、第一のドープ層の表面に、開口部を有する中間パッシベーション層を形成する工程、
(e2)必要に応じて、第一のドープ層または中間パッシベーション層の上に、中間透明電極を形成する工程、
(e3)必要に応じて、第一のドープ層、中間パッシベーション層、または中間透明電極の上に第二のバッファー層を形成する工程。
【0099】
さらに必要に応じて、工程(f)と工程(g)の間に、
(f1)第一の光活性層の上に、第一のバッファー層を形成する工程、
を組み合わせることもできる。
【0100】
ここに例示した方法は、第二の光活性層を含むボトムセルを先に形成し、第一の光活性層を含むトップセルを後に形成している。この方法によれば、工程(f)の前に、高温での加熱をする工程(e)が行われるので、第一の光活性層が熱によるダメージを受けにくい。また、工程(g)によって、第一の電極を形成する場合にも、第一の光活性層に熱がかかるが、工程(g)において加熱する場合には、工程(f)において加熱される温度よりも低い温度を採用することが好ましい。
【0101】
実施例1
図1に示される構造を有する多層接合型光電変換素子を作製する。第二の光活性層を構成するp型シリコンウェハーの表面に、第一のドープ層として、リンをドープしてn層を形成できる。POClと酸素の反応を利用してシリコンウェハー表面にPSGを堆積させ、その後、900℃で熱処理を行うことで、シリコン中にリンをドープすることができる。PSGは酸処理で取り除くことができる。このようにして実質的に平滑な第一のドープ層を形成できる。
【0102】
シリコンウェハーのn層とは反対側の面に、パッシベーション層として、AlOx:H層とSnNx:H層をPECVD法で成膜できる。パッシベーション層の一部は、532nmのレーザーで取り除いて開口部を形成することができる。スクリーンプリントにより、アルミニウムペーストを裏面全体を覆うように塗布して、950℃のオーブンで焼成することで、開口部に侵入したアルミニウムがシリコンウェハーと反応して、合金層を形成し、さらに合金層とシリコンウェハーとの界面に第二のドープ層を形成できる。合金層を複数形成することで、合金層からなる光散乱層を形成することができる。
【0103】
更に第一のドープ層上には、中間パッシベーション膜としてシリコン酸化膜を形成できる。シリコン酸化膜の一部をレーザーにより除去して開口部を形成することができる。その後、中間透明電極としてITOをスパッタ法で成膜できる。このとき中間電極の厚さは20nmに調整できる。
【0104】
中間透明電極の上に、NiOx粒子のアルコール分散液をスピンコートすることで第二のバッファー層を成膜できる。成膜後は150℃でアニールを行うことができる。第一の光活性層はCs0.17FA0.83Pb(Br0.170.83の前駆体をDMFとDMSOの混合溶媒(DMSOが10Vol%)に溶解した前駆体溶液を塗布することにより形成できる。成膜後は150℃で5分間アニールを行う。第一の光活性層の上に、C60を蒸着機で50nm成膜することで第一のバッファー層を形成することができる。更にSnOxをALDで10nm成膜して、第一のバッファー層を複合膜とすることができる。次に第一の透明電極としてIZOをスパッタで成膜できる。最後に第一の金属電極として蒸着機で銀を成膜できる。このようにして、実施形態による多層接合型光電変換素子(タンデム太陽電池)を形成できる。
【0105】
一般的なシリコン太陽電池において、その表面が平滑面のままでは、シリコン層の屈折率が高いために光吸収を多くすることが難しく、光電流量が減少する。しかし、実施形態による素子において、ペロブスカイトを含む光活性層を含むトップセルを、シリコン層を有するボトムセルの上に形成することにより、光吸収量を増加させることができて、その結果、光電流量が増加する。更に、散乱層を形成したことで、第一および第二の光活性層やシリコンで吸収できなかった光を散乱反射して光電流に再利用することができる。また、第二の電極と第二の光活性層との間にパッシベーション層が配置されているので、電極界面でのキャリア再結合する防止効果も得られる。光散乱効果とキャリア再結合防止効果により、電流量を増やすことができる。
【0106】
比較例1
図2に示した構造を有する素子を形成する。パッシベーション層に開口部を設けないこと以外は、実施例1と同様の方法により、図2に示された素子を形成できる。開口部を設けないので、合金層(光散乱層)は形成されない。
【0107】
比較例1による素子は、第一のドープ層が平滑であるが、ペロブスカイト半導体を含むトップセルを具備するため、第二の光活性層への光吸収は、比較的多い。しかし、光散乱層がないために、それぞれの光活性層で吸収できなかった光は第二電極で鏡面反射されるが、散乱されない。この結果、第一および第二の光活性層に入射する光量の分布に不均一が生じる。この結果、発生するキャリア濃度も不均一になり、光量が高いところでは、キャリア濃度が高くなり、キャリア再結合ロスも多くなって、電流量が少なくなる。また、パッシベーション層が存在しないため、第二のドープ層近傍でキャリア再結合が起こり、電流量が少なくなる。
【符号の説明】
【0108】
100・・・多層接合型光電変換素子
101・・・第一の電極
101a・・・第一の金属電極
101b・・・第一の透明電極
102・・・第一のバッファー層
103・・・第一の光活性層
104・・第二のバッファー層・
105・・・中間透明電極
106・・・中間パッシベーション層
107・・・第一のドープ層
108・・・第二の光活性層
109・・・パッシベーション層
110・・・第二の電極
111・・・第二のドープ層
112・・・シリコン合金層(光散乱層)
101・・・多層接合型光電変換素子(比較例)
111a・・・第二のドープ層
図1
図2